国立環境研究所の谷口 優氏らは、犬の飼育者の身体的、社会的、心理的特性に基づいた傾向スコア重み付け法を用い、犬の飼育と要介護認知症の発症および死亡との関連を調査した。さらに、操作変数モデルを用いて、この関係における因果関係の可能性を検討した。加えて、費用対効果分析を用いて、犬の飼育に伴う費用と効果についても検討を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2026年7月22日号の報告。
犬の飼育状況は、「現在飼育中」、「過去に飼育経験あり」、「飼育経験なし」の3つに分類した。要介護認知症は、日本の介護保険制度における医師の判定に基づき定義し、死亡については約7.5年間のフォローアップ期間中に日本の人口動態統計を用いて確認した。
主な内容は以下のとおり。
・分析対象は、2016年に層別化ランダム抽出法によって選定された1万1,224人の高齢者。
・飼育経験なし群と比較し、現在飼育中群および過去に飼育経験あり群における要介護認知症発症のオッズ比(OR)は、それぞれ0.53(95%信頼区間[CI]:0.43〜0.66)および0.97(95%CI:0.86〜1.09)であった。
・死亡に関するORは、現在飼育中群で0.63(95%CI:0.51〜0.79)、過去に飼育経験あり群で0.88(95%CI:0.78〜0.99)であった。
・因果関係の分析では、飼育経験なし群と比較し、現在飼育中群(OR:0.52、95%CI:0.27〜0.98)および過去に飼育経験あり群(OR:0.75、95%CI:0.55〜1.03)において、認知症発症のORが低いことが明らかとなった。
・死亡に関する同様の分析でも、ORは低かったが、飼育経験なし群と比較し、現在飼育中群(OR:0.59、95%CI:0.35〜1.01)および過去に飼育経験あり群(OR:0.77、95%CI:0.60〜1.00)において、統計的に有意な差は認められなかった。
・費用対効果分析の結果、犬の飼育は、質調整生存年(QALY)において小さいながらもプラスの利益をもたらすことが示された。
・公的支払者の視点からは、公費負担の医療費および介護費を削減しつつQALYを増加させる結果が得られた。
・また、犬の飼育にかかる個人的な費用をシナリオ分析に含めた場合、犬を飼育しない場合と比較した増分費用効果比(ICER)は、1QALY当たり674万4,174円であった。
著者らは「本研究結果は、犬の飼育が、高齢者における生活機能障害を伴う認知症の発症に対して予防的な効果を持つ可能性を示唆している。さらに本研究は、犬の飼育が介護費や医療費といった公的支出を削減できる可能性も明らかにした」としている。
(鷹野 敦夫)