欧州心臓病学会(ESC)による新たな心不全診療ガイドライン「2026 ESC Guidelines for the management of heart failure」がEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年8月28日号でオンライン公開され1)、8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において改訂の要点が解説された2)。今回の改訂では、疾患の予防と早期治療の徹底、左室駆出率(LVEF)に基づく分類の簡素化、「急性心不全」から「非代償性心不全」へ名称変更、新たな治療分類(FMT・AMT・GDIT)の導入など、時代に即した大幅な再定義が行われている。
本ガイドラインにおける主な改訂のポイントは以下のとおり。
【心不全の分類・定義の刷新】
LVEFに基づく分類の簡素化(HFmrEFの廃止)
従来、LVEF 41~49%の病態は「軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されていたが、今回の改訂でこの分類が廃止された。HFmrEF患者は、LVEF低下例(HFrEF)と同様の病態生理を共有し、同様の治療から恩恵を受けることが明らかになったためである。これにより、心不全のフェノタイプは以下の2つにシンプル化された。
新LVEF分類
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LVEFが低下した心不全(HFrEF):LVEF 50%未満で、心不全の症状・徴候を有する病態。
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LVEFが保たれた心不全(HFpEF):LVEF 50%以上で、心不全の症状・徴候に加え、構造的・機能的異常やナトリウム利尿ペプチドの上昇を認める病態。
予防・早期介入のためのステージ分類導入
発症予防と早期治療の徹底を目的として、心不全リスク段階(ステージA)から、前心不全(ステージB)、症候性心不全(ステージC)、重症/進行性心不全(ステージD)に至る段階的なステージ分類が採用された。また、高血圧またはステージBの心不全患者において、心不全発症リスクを低減するため、収縮期血圧130mmHg未満を目指す厳格な血圧管理がクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。
「急性心不全」から「非代償性心不全」への名称変更
従来「急性心不全(Acute HF)」と呼ばれていた病態は、心機能の徐々の低下に伴い代償機構が破綻した状態を正確に表現するため、「非代償性心不全(Decompensated HF:DHF)」へ名称が変更された。DHFの初期管理においては、尿中ナトリウムモニタリングに基づく利尿薬調整(クラスIIb)や、初期安定化後のSGLT2阻害薬の院内早期導入(クラスI)が盛り込まれている。
【治療分類の刷新と薬物治療のアップデート】
「GDMT」から動的な3分類(FMT・AMT・GDIT)への移行
長年使用されてきた「ガイドラインに基づく薬物治療(GDMT)」という用語が見直された。新規薬剤や医療デバイスの承認に合わせて動的(dynamic)に対応し、常に最新の管理を行えるよう、治療法が以下の3クラスに再定義された。
治療クラスの新たな3分類
・基礎的薬物治療(FMT:Foundational medical therapy):対象を限定しない心不全患者全体に対して、罹患率や死亡率の低減に関する最も強いエビデンスを持つクラスI推奨の薬物治療。
―HFrEFのFMT:β遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4薬剤。
―HFpEFのFMT:MRA、SGLT2阻害薬の2薬剤。
・追加的薬物治療(AMT:Additional medical therapy):特定サブ集団における転帰改善、または症状・QOL改善に特化したエビデンスを持つ薬物治療(クラスIIa/IIb推奨、または特定の症状改善目的のクラスI推奨)。
・ガイドラインに基づく介入治療(GDIT:Guideline-directed interventional therapy):推奨されるすべての心臓植え込み型電子デバイス(CIED)や経カテーテル治療などのインターベンション治療。
FMTの主な推奨事項
・全LVEF領域におけるSGLT2阻害薬とMRAの推奨
SGLT2阻害薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、LVEFを問わずすべての有症候性心不全患者に対し、心不全入院または心血管死のリスク低減を目的としてクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。具体的な対象薬剤は以下のとおり。
・SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン
・MRA
―HFrEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン、エプレレノン)
―HFpEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン)、非ステロイド性MRA(フィネレノン)
なお、慢性心不全の管理において、FMTは症状やバイタルサイン、血液検査を参考に少なくとも1~2週間ごとに漸増し、目標用量に達することがクラスIで推奨された。また、無症状化やLVEF改善が得られた場合であっても、原則として最高耐容用量でのFMT継続がクラスIで推奨されている。
AMTの主な推奨事項
・肥満を伴うLVEF 45%以上の心不全に対するGLP-1受容体作動薬
BMI 30kg/m
2以上かつLVEF 45%以上の肥満を伴う有症候性心不全患者(糖尿病の有無を問わない)に対し、体重減少、運動耐容能・QOLの改善を目的としてセマグルチドまたはチルゼパチドの投与がクラスIIa(エビデンスレベルB1)で推奨された。
・慢性心不全へのAMT
最適なFMTを実施しても有症候性のHFrEF(LVEF 40%以下)患者に対し、心不全入院リスク低減目的で強心配糖体(ジゴキシンまたはジギトキシン)の追加がクラスIIaで推奨された。また同様に、FMT 治療後のHFrEF(LVEF 45%未満)患者に対してはベリシグアトの追加もクラスIIbで考慮される。
GDITの主な推奨事項
・経カテーテル的Edge-to-Edge修復術(TEER)
最適なFMTや適応のある心臓再同期療法(CRT)を実施しても持続する、血行動態が安定した重症二次性僧帽弁閉鎖不全症を伴う有症候性HFrEF患者に対し、心不全入院リスク低減およびQOL改善を目的としたTEERがクラスI(エビデンスレベルB1)で推奨された。
【早期介入の重要性と患者参加型医療への展望】
ガイドライン作成タスクフォースの共同委員長を務めたLars Kober氏(デンマーク・コペンハーゲン大学病院)は、「高齢化や肥満などのリスク因子の増加に伴い、心不全の全体的な疾病負担は高まると予想される。今回のガイドラインで特に強調したかったのは、予防と可能な限り早期からの治療開始の重要性である」とプレスリリースで述べている。さらに新たな治療用語の導入について、「10年以上前に導入された『GDMT』という用語は治療の進歩に伴い、今日において何を指すのか曖昧になっていた。新用語(FMT・AMT・GDIT)は、今後新たな薬剤やデバイスが承認された際にも柔軟に対応し、常に時代に即した概念であり続けられるよう設計されている」と解説している。
同じく共同委員長を務めたMarianna Adamo氏(イタリア・ブレシア大学)は、LVEF分類の簡素化について「軽度低下(HFmrEF)という分類は、従来臨床試験に含まれにくかった患者に光を当てるため導入されたが、これらの患者がHFrEFと同様の病態生理を共有し、同様の治療恩恵を受けることが判明したためシンプル化した」と説明している。また、「急性」から「非代償性」への変更点については「突然悪化するのではなく、心臓が欠陥を補いきれなくなるまで徐々に機能低下していく病態を明確にするための改訂である」と付言した。
本ガイドラインには患者教育とセルフケアに関するセクションが含まれている。Adamo氏は「患者教育とライフスタイルのアドバイスは、患者自身が心不全を管理し、医療者と意思決定を共有する力を与える。患者が自身のケアのパートナーとなることを目指し、患者向けバージョンのガイドラインも公開されている
3)」と結んでおり、医療者と患者が一体となった包括的な心不全管理の重要性がさらに高まると期待される。
(ケアネット 古賀 公子)