断水時の熱中症や災害関連死を防ぐポイント/3学会合同記者会見

提供元:ケアネット

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公開日:2026/08/06

 

 2026年8月3日、日本救急医学会、日本災害医学会、日本生気象学会の3学会合同による緊急オンライン記者会見『避難生活における熱中症予防の留意点』が開催された。本会見は、令和8年熊本地震の被災地において、猛暑とライフライン障害(断水・停電)が重なる中、避難所や復旧作業現場での「熱中症」および「災害関連疾病」の予防・対策・処置について、各専門家が最新の知見と緊急提言を発信するために実施された。

 被災地での災害関連死を防ぐためには、避難所環境の改善から二次災害(エコノミークラス症候群[深部静脈血栓症]、感染症、誤嚥性肺炎などの発生)予防、そして熱中症対策が今回の災害では重要になる。また、災害発生から1週間は日常診療をストップし災害対応として救急外来のみを行ってきた医療機関であっても日常診療が徐々に再開され、それに伴う新たな課題も出てくることが予測される。加えて、今回の災害は熱中症対策が必要にもかかわらず、熱中症対策に不可欠な“水”の供給基盤が著しく阻害されている点が大きな課題となっている。今回の記者会見で示された現場の実状と、実臨床医が患者の命を守るために実践できることとは。

避難環境の格差解消が急務

 現場で生じている実状と医療提供体制について報告した阿南 英明氏(日本災害医学会 理事/神奈川県立病院機構 理事長)は、自衛隊などの支援により避難所の体育館などへのポータブル空調機やスポットクーラー設置が進む一方で、「避難所間の環境格差が著しい」状況を説明した。環境整備が不十分な避難所では暑熱環境が解消されず、結果として車中泊を余儀なくされている被災エリアが存在するという。令和6年能登半島地震などと比較して2次避難が任意であることも手伝い、避難環境の改善が車中泊解消の喫緊の課題となっている。

 今回の地震による熱中症傷病者発生状況について、7月28日~8月2日までの6日間での県南圏域病院(災害拠点病院)の受入患者は計60例に上る。熱中症患者の特性としては60歳以上の高齢者が多数を占めており(65歳以上32例[55.2%])、復電した7月31日以降は減少傾向にあるが、「特別養護老人ホームなどの施設では熱中症が多数発生し、そのほとんどが入院しているため、スクリーニングや支援などの重点的な介入を進めている」と述べた。さらに、発災から1週間が経過し、多くの医療機関が救急外来のみの運用から一般外来の再開へシフトし始めるため、同氏は、現場の医療者への「災害対応と日常診療の二重の負荷」について懸念を示した。

 同氏は「避難所の環境整備を進めて車中泊を解消させるとともに、共通の評価指針を用いて災害関連死を確実に予防することが重要である。また、診療再開にあたっては熱中症のみならず、食中毒や感染症などの季節性疾患、さらに活動量低下によるロコモティブシンドロームや嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎、ストレスや脱水による循環器イベントの発生にも十分な警戒が必要」と語り、被災者が日常に近い生活を取り戻せるよう、医療者が生活機能を含めた包括的支援を行う重要性を訴えた。

断水下の熱中症予防対策、ライフライン制限下でのアプローチ法

 被災地における熱中症予防の緊急提言を行った神田 潤氏(日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会委員長/日本医科大学武蔵小杉病院)は、断水とエアコンの不稼働が重なる過酷な環境下では、脱水に伴うエコノミークラス症候群のリスクが跳ね上がると指摘する。また、水道水が自由に使えない状況であっても、衛生面に留意しながら実行可能な代替冷却法を被災者へ指導・周知することが求められる。

 具体的には、衣類を脱がせた上で微量の水やスプレーで皮膚を湿らせ、うちわや扇風機で送風して気化熱を奪う「蒸散冷却法」や、手のひら(動静脈吻合が豊富な部位)や足の裏、首筋や腋窩などを溜めた水や濡れタオルで部分的に冷やす「局所冷却法」が有効である。使用する水は飲用水でなくとも対応可能であるため、同氏は「水の衛生問題が生じにくい部位から積極的に冷やす手法が実用的」とコメント。また、自治体や民間施設が提供する稼働中の空調エリアの利用を促すほか、大量発汗時にはイオン飲料や経口補水液での塩分・水分補給を徹底させる必要がある点を強調し、「断水状態であっても諦めず、溜め水を利用した蒸散冷却や手のひらなどの局所冷却を工夫して実践してほしい」と訴えた。

軽症からの早期介入と厳格な深部体温管理

 続けて神田氏は、重症度別の処置および緊急冷却法について解説。熱中症が疑われる初期段階・軽症の時点では、先手を打ってActive Coolingを開始し、「冷暗所への移動」「衣服を弛緩させる」「局所冷却などを迅速に行う」ことが、中症・重症化を防ぐ第一歩となることを説明した。高度の意識障害や多臓器不全を伴う最重症(IV度)の熱中症患者においては、医療機関で Active Cooling を適切に実施した場合であっても死亡率が約20%に達するというきわめて厳しい現状がある。この救命率を少しでも引き上げるためには、医療者による客観的かつ正確な深部体温の測定(直腸温など)が臨床上の鍵を握るという。

 同氏は「重症熱中症の救命において最も恐ろしいのは、正確な深部体温を測定していないことで Active Cooling の実施率が低下し、結果として死亡率が上昇してしまうことだ。IV度の重症例であっても、早期に直腸温などで深部体温を把握し、冷水浸漬や体外循環冷却などを用いて目標体温まで迅速に Active Cooling を完遂することが、患者の命を救うために不可欠である」と力強く説明し、臨床現場における迅速かつ確実な冷却プロトコルの徹底についても強く呼びかけた。

 永島 計氏(日本生気象学会 理事)は救助・復旧作業者向けに作成した『被災地における熱中症防止に関する提言(作業者向け,Ver.1)』を示し、1)暑さを確認(WBGTや気象情報で危険を見える化)、2)行動を変える(暑さに応じて作業・活動を減らす)、3)計画的に補水(水分・塩分を早めに、繰り返し)、4)無理をしない(頑張らせない、声をかけ、見守る)を強調。「状況の変化に合わせた発信を行っていく」と述べた。

 最後に司会を務めた横堀 將司氏(日本救急医学会 理事/日本医科大学救急医学)は初期症状の早期発見に有効な『熱中症判定アプリ』を紹介し、「熱中症の重症度やそれに対する応急処置方法、救急車を呼ぶべきかを判定・指示してくれるので、ぜひアプリを活用してほしい」と締めくくった。

(ケアネット 土井 舞子)