2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月10日、清井 仁氏(名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)を座長に行われた会長シンポジウムでは、「FLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病(AML)に対する治療戦略」と題して、FLT3変異陽性AMLの管理についてMark James Levis氏(米国・Johns Hopkins University)、AMLにおけるFLT3阻害薬耐性に関する理解の進展についてはCatherine Smith氏(米国・University of California, San Francisco)から講演が行われた。
FLT3変異陽性AMLの高齢患者に対する最適なアプローチ
FLT3変異陽性AMLの管理について、Levis氏が発表した。
FLT3はAMLで最も一般的な遺伝子変異であり、
FLT3変異はAMLのほぼすべてのサブタイプで発生する可能性があるため、臨床医にとっての課題となっていた。近年、
FLT3変異陽性AMLのマネジメントに有用な薬剤がいくつか登場した。現在、3つの異なるFLT3阻害薬が、疾患の異なるステージに対して承認されており、
FLT3変異とさまざまな共変異との相互作用に関する理解および測定可能残存病変(MRD)の検出能力の向上は、
FLT3変異陽性AML患者のアウトカム改善に大きく貢献している。しかし、依然として多くの疑問が残っている。では、
FLT3変異陽性AML患者をどのように治療すべきか、MRDをどのように活用して治療を最適に導くべきなのであろうか。
本講演では、推奨パラダイムが提示された。
FLT3変異陽性AMLのマネジメントにおいて、強力な導入化学療法および地固め療法にFLT3阻害薬を併用することで全生存期間を改善し、より深い寛解によりMRD陰性化が可能であるが、現時点でどのFLT3阻害薬が最良の選択肢であるかは明らかになっていない。また、MRDは将来の造血幹細胞移植の必要性を判断するうえで、重要な指標と位置付けられると述べている。
FLT3変異陽性AMLの高齢患者に対する最適なアプローチは、まだ十分に定義されていないとしながらも、Johns Hopkins Universityでは、ベネトクラクス(VEN)+アザシチジン(AZA)による導入療法を実施し、奏効の早期評価、遺伝子検査、MRD測定、回復後の脆弱性評価の結果に基づき、VEN+AZA療法、ギルテリチニブ(GIL)単剤療法、同種造血幹細胞移植、中等量シタラビン+GILのいずれかによる治療アプローチを行っていると述べた。
AMLにおけるFLT3阻害薬耐性メカニズム
続いてSmith氏が、AMLにおけるFLT3阻害薬耐性に関する理解の進展について発表した。FLT3阻害薬は、新規患者および再発・難治性の
FLT3変異陽性AML患者のいずれにおいても標準治療となっているが、すべてのFLT3阻害薬において耐性は依然として問題となっている。
キザルチニブ(QUIZ)やソラフェニブなどのタイプIIのFLT3阻害薬では、これらの阻害薬が不活性なキナーゼ構造にのみ結合するため、FLT3のオンターゲット二次キナーゼドメイン変異が獲得耐性の最も一般的なメカニズムであると考えられる。最も一般的な耐性誘発変異は、FLT3ゲートキーパーF691および活性化ループD835残基に発生するが、FLT3キナーゼドメインの他の残基とも関与している。これらのキナーゼドメイン変異は、薬物結合を直接阻害するか、FLT3阻害薬との相互作用に対し活性キナーゼ構造をもたらす。
活性キナーゼ構造に結合可能なGILやcrenolanibなどのタイプIのFLT3阻害薬を用いたその後の研究では、タイプIのFLT3阻害薬はオンターゲットキナーゼドメイン変異の影響を受けにくいものの、ゲートキーパーF691残基またはその近傍の変異には依然として一定程度の相対的耐性をもたらすことが示されている。
最近では、RAS/MAPK経路の活性化変異がGILに対する耐性の共通因子であり、他のFLT3阻害薬に対する耐性にも影響を及ぼすことが明らかになっている。患者内での腫瘍固有の異質性は、FLT3阻害薬による治療選択により、
FLT3変異クローンに対するクローン選択と代替ドライバー変異の出現を促進する可能性がある。この現象は、FLT3阻害薬を他の薬剤と併用した場合においても観察されることがわかっている。
たとえば、GILとBCL2阻害薬であるVENとの併用は
FLT3変異クローンを迅速に抑制するが、変異やその他の手段によるRASシグナル伝達の活性化には依然として耐性を示す可能性がある。また、トランスレーショナル研究では、FGF2やFLT3リガンドなどの微小環境因子が耐性クローンの生存や増殖を促進することが示唆されている。
耐性を最小限にするための今後の戦略としてSmith氏は「耐性クローンの発生を予防し、耐性の最も一般的な新規メカニズムであるRAS/MAPKシグナル伝達の活性化を抑制するための適切な併用戦略の確立に重点を置くべきである」とし、講演を締めくくった。
(ケアネット)