医師にも経営能力とリーダーシップが不可欠な時代のソリューション

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/22

 

 医療機関の経営環境が厳しさを増すなか、医師にも経営能力が求められている。順天堂大学の猪俣 武範氏は、眼科の臨床・研究の傍ら病院管理学研究室の准教授も務める。米国でMBAを取得し順天堂医院の経営にも携わる猪俣氏が提案する、多忙な医師が効率的に経営能力を身に付けるための解決策とは?
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 今、わが国の病院経営は危機的な状況にあります。診療報酬は抑制される一方、慢性的な人手不足で医療現場は疲弊し、病院の6割は赤字だと報じられています。医師も経営をしっかり学ばなければならない時代になったといえるでしょう。

 より良い医療提供には収益を上げる必要があり、「経営」が不可欠です。しかし、病院経営者は医師法により医師が務めることが多いですが、残念ながら医師は経営のプロではありません。医学部では経営知識を学ぶ機会が少なく、現在の病院経営は、経営層の個人的資質や努力、事務職員の頑張りに依存しているのが現状です。

医療チームを引っ張るリーダーシップは学んで身に付けられる

 経営能力やリーダーシップが求められるのは病院経営者に限りません。実は、医師であれば、キャリアの各ステージであらゆる場面で経営能力やリーダーシップが必要とされています。

 まずチーム医療では、管理職としてチームメンバーを管理する狭義のマネジメント能力が要求されます。外来や手術室を効率的に回すには患者数や所要時間などのデータを解析し、改善策を講じる必要があるでしょう。患者の管理はビジネスでいえば顧客管理ですし、患者の満足度を高めリピーターを増やすマーケティング手法も当然知っておくべきです。

 クリニックを開業したら、否応なくクリニックの経営の舵取りをせねばなりません。大学で研究するにしても、研究プロジェクトを立案し収支を管理し成果を上げなくてはいけないという意味ではマネジメント能力が不可欠です。

 医師にリーダーシップが求められるのは、わかりやすい例では、チーム医療を進める場面です。「あの人はリーダーシップがありますね」などと言うことも多く、リーダーシップはその人の生まれついた資質のように捉えている人もいると思いますが、リーダーシップ理論は学問としても確立されており、学習で身に付けることができます。

米国でMD/MBAプログラムが急増した理由

 実際、米国ではMD/MBAプログラムが増加傾向にあります。1990年に6校だったのが、20年間で約10倍に増加しました。米国で医師になるためには、4年制の通常の大学を卒業した後、4年制のメディカルスクール(医学部)に行くわけですが、デューク大学のように後半のメディカルスクールを5年に延長してMD(Medical Doctor)とMBAを同時に取得するコースもあります。

 MBAは、Master of Business Administrationの略で、ビジネススクール(経営大学院)を修了すると得られる学位です。MBAのプログラムでは、人・モノ・金・情報という経営資源に関する体系的な学習、具体的には人事管理、財務会計、オペレーション、マーケティングなどのビジネススキルを学びます。さらに、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークなどのソフトスキルも習得していきます。ソフトスキルとは、いわば「解のない問題を解く能力」であり、ビジネスの現場で必須となるスキルです。そして、先述したように、それは医療現場でも同じなのです。

 私自身は眼科医ですが、眼免疫の研究のためにハーバード大学に3年半留学した際に、ボストン大学にも通い、MBAを取得しました。研修医の頃から、医師もビジネスをきちんと学ぶべきだと考えており、眼科医としての研究留学の際にビジネススクールに並行して進学しようと密かに準備していました。

 2015年の帰国後も、順天堂大学で眼科医として臨床を続けていますが、順天堂医院の第三者機能認証のリーダーを務めるなど病院経営にも携わるようになり、研究面でもデジタルヘルス、ビッグデータ解析などのスタートアップを創業するなど、MBAで学んだビジネススキルを存分に活かしています。

「順天堂大学 医療MBAエグゼクティブコース」が提供する最大の価値とは?

 冒頭で述べたような問題意識と私自身の経験から、3年前に立ち上げたのが「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」です。病院経営層や医療経営を学びたい医師などを対象に、医療経営に特化してMBAスキルを効率的に学べるプログラムになっています。経営を本格的に学ぼうと思えばビジネススクールにしっかり通ってMBAを取得するのが一番いいのでしょうが、時間も費用もかなりかかり現役臨床医にはハードルが高いと思います。そこでこのコースでは、MBAスキルを医療経営に活かすために最も重要な、コアとなる部分を凝縮して極力手軽に学べるように工夫しました。

 経営戦略、アカウンティング、ファイナンス、マーケティングなど主要なビジネススキルは当然押さえていますが、リーダーシップ、コミュニケーション、ネットワーキングなどのソフトスキルを重視しているのも特徴です。それは、私自身がMBA取得の課程で得た最大の価値であり、実際に日々の業務に最も役立っていると感じているからでもあります。

 「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」は今年3年目を迎えますが、受講生同士のつながりも活発で、1期生、2期生を交えたアルムナイのコミュニティもできています。医療界で同じような境遇にあり、似たような課題を持つ人々とのコミュニケーション、ネットワーキングはそれ自体が得難い価値だといえます。微力ですが、今後もこのコースを通じて、日本の医療の課題解決に貢献していきたいと考えています。(談)
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「順天堂大学病院管理学研究室 医療MBAエグゼクティブコース」
 参加申し込みはこちら

猪俣 武範氏
順天堂大学 病院管理学・眼科准教授/医学博士/MBA
2006年順天堂大学医学部医学科卒業。2012年順天堂大学大学院眼科学にて医学博士号ならびに日本眼科学会認定眼科専門医取得。2012年からハーバード大学医学部スケペンス眼研究所へ留学。留学中にはボストン大学経営学部Questrom School of BusinessでMBA取得。2019年12月より順天堂大学医学部眼科学講座准教授として、臨床、研究、教育、経営に携わる。同大学AIインキュベーションファーム副センター長、病院管理学研究室准教授併任。2020年に順天堂大学発ベンチャーInnoJin株式会社を創業し代表取締役社長。

(ケアネット)