サルコペニア・フレイルに対し有効性が示された薬物療法はいまだなく、さまざまな栄養療法の有効性についての報告があるが、十分なエビデンスがあるかどうかは明確になっていない。現時点でのエビデンスを整理することを目的に包括的なシステマティックレビューを実施し、栄養管理に特化したガイドラインとしては初の「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」が2025年4月に刊行された。ガイドライン作成組織代表を務めた葛谷 雅文氏(名鉄病院)に、ガイドラインで推奨された栄養療法と、実臨床での活用について話を聞いた。
「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A」とされた栄養素は
本ガイドラインでは、4つのエネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、アミノ酸)、2つの微量栄養素(ビタミン、ミネラル)、およびプロ・プレバイオティクスについて、サルコペニア・フレイルの治療に対する介入の有効性が検討された。その中で、エビデンスが十分にあり強い推奨(推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A)とされたのは、以下の2つのステートメントである:
サルコペニアならびにフレイルへのたんぱく質の栄養介入は、特に運動療法との併用において筋肉量と筋力を改善することが示されており、行うことを推奨する(CQ4a)
葛谷氏は、「今までの観察研究で十分なたんぱく質の摂取がサルコペニアやフレイルの予防に重要であるという報告は蓄積されている。一方、すでにサルコぺニアやフレイルに陥っている対象者へのたんぱく質の栄養介入のみによる確実性の高いエビデンスは十分ではなく、運動との併用による明確な効果が、システマティックレビューの結果示された」と説明。実臨床でのたんぱく質摂取の指導に関しては、1食当たり25g(=75g/日)または1.2 g/kg体重/日を目安として「肉や魚100g当たりたんぱく質は1~2割程度」と説明することが多いとし、1日トータルで必要量をとることも大切だが、朝昼晩の各食事でまんべんなく摂取することが重要とした。また、とにかく肉を食べなければいけないというイメージが根強いが、魚や大豆製品・チーズなどの乳製品からも摂取は可能であり、日本人の食生活として取り入れることが難しいものではないと話した。
サルコペニアへのロイシンおよびその代謝産物であるHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)を主としたアミノ酸を含む栄養介入は、筋肉量、筋力、身体機能を改善するため、行うことを推奨する(CQ5a)
ロイシンはたんぱく質を構成する必須アミノ酸の1つで、とくにサプリメントからの摂取について多くのエビデンスが蓄積されている。ただし実臨床では、サプリメントの活用も1つの選択肢ではあるものの、まずは食品からの摂取が推奨されると葛谷氏は話し、その際の目安として「アミノ酸スコア」が参考になるとした。「アミノ酸スコア」は各食品に含まれる必須アミノ酸の含有バランスを評価した指標。スコアの最大値は100で、100に近いほど質の高いたんぱく質源とされる。スコア100の食品の例としては、牛肉・豚肉・鶏肉、魚類、牛乳、卵、豆腐などがある。
その他の栄養素については、「
サルコペニアへのビタミンDの単独介入の効果は明らかでないが、ビタミンD不足状態にあるときの運動やたんぱく質との複合介入は筋力や身体機能の改善への効果が期待できるため、行うことを推奨する(CQ6a)」が、「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B」とした。葛谷氏は、疫学的にはビタミンD欠乏がサルコペニアと関連するという報告はあるが、ビタミンDを強化することによる筋力に対する効果についてのエビデンスはまだ十分ではないとし、ステートメントにあるように、不足状態にあるときに運動やたんぱく質と組み合わせた複合介入をすることが望ましいと話した。
CKD、肝硬変、心不全など併存疾患がある場合の栄養療法
本ガイドラインでは、慢性腎臓病(CKD)、肝硬変、慢性心不全、慢性呼吸不全(COPDなど)、糖尿病の5つの疾患を取り上げ、これらを伴うサルコペニアとフレイルの予防・治療に対する栄養療法についてもCQを設定してシステマティックレビューを実施している。この中で「推奨の強さ:強」とされたのは、肝硬変患者および糖尿病患者に対する以下の4つのステートメントであった。
[肝硬変]
・合併するサルコペニア・フレイルに対する就寝前補食や分岐鎖アミノ酸の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A]
・合併するサルコペニア・フレイルに対するHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]
・サルコペニア・フレイルを合併した肝硬変患者の転帰(入院期間や感染症、およびADL)改善を目的としたHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14c、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]
[糖尿病]
・サルコペニア・フレイルを合併した2型糖尿病患者に対し、身体機能の改善を目的とした栄養指導とレジスタンス運動の併用[CQ17b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]
葛谷氏は、「領域によってエビデンスが十分ではない部分があることが明らかになった」と話し、今後のエビデンス蓄積に期待を寄せた。
サルコペニア・フレイルの診断時点ではまだ引き返せる、早めの介入を
高齢患者の中にはまだメタボを過度に気にする人がいると葛谷氏は話し、「メタボの概念は非常に重要なものではあるが、75歳以上の高齢者では頭を切り替える必要がある」とした。高齢になって体重が減少し始めた時点およびフレイル・サルコペニアの診断がついた時点ではまだ可逆的な状況である可能性が高いので、食事・運動療法および社会性を保つための介入が重要となると指摘した。
また同領域の研究の進捗に関して、今回のシステマティックレビューの結果、各栄養素単体の摂取の有効性についてのエビデンスはまだまだ不足していることが明らかになったと話し、前向き研究・介入研究が不足しているとした。さらに栄養療法の実施による、身体機能障害や入院・死亡といった転帰不良に対する効果を検証する介入研究が、今後必要となるだろうと展望を述べた。
(ケアネット 遊佐 なつみ)