非専門医による診療機会を考慮、成人先天性心疾患診療ガイドライン改訂/日本循環器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2025/04/18

 

 成人先天性心疾患診療ガイドラインが7年ぶりに改訂され、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会で山岸 敬幸氏(東京都立小児総合医療センター 院長/日本循環器学会 理事/日本小児循環器学会 理事長)が改訂点などを解説した。

成人先天性心疾患の発生頻度

 先天性心疾患は出生数に占める割合として1.3~1.5%で推移し、近年の少子化に伴い、その発症数は減少している。その一方で、診断技術の進歩や手術成績の向上により、患者の約90%が成人に達するようになり、生存期間中央値は、軽症84.1歳、中等症75.4歳、重症53.3歳と報告され、成人先天性心疾患の患者数は年間約1万例のペースで増加している1)。小児期には保護者に連れられて定期的に通院していた患者が、就学や就職などを契機に通院を中断し、成人期に不整脈や心不全などを発症して一般の循環器内科に受診するケースが増加しているため、成人先天性心疾患専門医以外の循環器医にも理解が必要な領域になっている。

自然歴、後期合併症

 本来、先天性心疾患は軽症でも、手術による修復後でも、生涯にわたって医療・管理を受けることが推奨される。というのは、先天性心疾患に対する手術は、一部の単純先天性心疾患を除いて根治術ではなく、あくまで正常な血行動態に近づける修復術であり、術後の異常として遺残症(residual disease:術前から認められ術後も持続する異常)、続発症(sequela:手術に伴って新たに生じる異常)、そして合併症(complication:修復手術に伴って予期せず生じる異常)があり、生涯にわたって管理を要する。また、小児期に手術適応にならない症例や、早期診断されずに未修復で成人になる症例もある。このような現状から、山岸氏は「今回の改訂に際し、専門医でなくとも標準的な診療を提供できるための指針となるよう、基本的な内容をわかりやすく記述するスタイルを維持した。診療に必要な情報を簡潔かつ明確に伝えることを優先し、小児科から成人診療科へのシームレスな移行と生涯的な管理に役立つことを目的とした」とガイドラインの構成について説明した。

 現在、日本において成人先天性心疾患学会に認定されている専門医は全都道府県で登録されているものの、多くの成人先天性心疾患患者にフォローが必要な状況を考慮すると、その数は患者数に比して圧倒的に少ない。同氏は、「循環器診療に携わるすべての医療者に成人先天性心疾患患者の対応をしていただきたい」と説明した。

 また、今回、同時に改訂された心不全診療ガイドライン2)に準じた心不全のステージ分類(図2、p.20)や症状(表4、p.21)が第2章の「心不全」の項に記載されているが、成人先天性心疾患にこの分類を当てはめることは容易ではなく、元々の形態や機能の異常を有するため、術前・術後にかかわらず、多くがステージBに相当する。また、特有の心不全症状があり、「たとえば、修正大血管転位症にみられる体心室右室や、単心室手術後のFontan循環が挙げられる。体心室右室は左室と構造が異なり、長期間にわたり体循環を支えることができないため、小児期には無症状であったとしても加齢に伴い心不全のリスクが高まる。Fontan循環も小児期には元気でも、潜在的な体うっ血と低心拍出が持続し、成人期に心不全として顕在化する。成人先天性心疾患では、このような心不全があることを非専門医にもおさえてもらいたい」と解説した。「なお、現状で推奨とエビデンスレベルを示せる病態は少ないが、感染性心内膜炎のように推奨表が掲載されているものもあるので、エビデンスレベルは高くはないが、併せて参照されたい」とコメントした。

診断、内科的治療

 続いて、成人先天性心疾患の診断と病態評価(第3章参照)については、「体心室右室の診断などでも心エコー検査が重要。心房・心室・大血管の心エコー法診断(表10、p.31)を用いることが有用」と説明した。心臓MRIは近年では有用なツールとして汎用されており、推奨表はないものの、適応が示された(表13、p.37)。心臓カテーテル検査については推奨表が記載され(推奨表2、p.38)、電気生理学的検査についても推奨とエビデンスレベルが示された(推奨表3、p.39)。

 成人先天性心疾患の心不全は、数多くみられる成人の後天性心不全と異なり、右心不全が多いことが特徴で、これまでに蓄積されている薬物治療のエビデンスをそのまま当てはめることができない。そのため、心不全診療ガイドラインなどを参考にしながら、体心室右室やFontan循環といった先天性心疾患特有の病態を踏まえた内容が内科的治療(第4章、p.40)に盛り込まれた。肺高血圧症の最重症型であるEisenmenger症候群は、従来、治療法がなく対症療法により経過観察されてきたが、昨今、治療についてのエビデンスが集積しつつあり、推奨とエビデンスレベルが示されている(推奨表10、p.50)。

非チアノーゼ型先天性心疾患・チアノーゼ型先天性心疾患

 各論では、心室中隔欠損症心房中隔欠損症Fallot四徴症など、個々の疾患について、可能な限り解剖図が挿入され、推奨とエビデンスレベルが示された。最近、多くのFontan術後患者が成人になり、高齢化して明らかになってきた疾患として、FALD(Fontan-associated liver disease、Fontan関連肝疾患)が注目されているため、その診断およびフォローアップについて解説されている。

 最後に山岸氏は「体系的にガイドラインとしてまとめることは難しい領域であるが、推奨が付けられる範囲でまとめ、専門医でなくとも標準的な診療を提供するための指針となるように作成した」と成人先天性心疾患の専門医以外の協力も仰ぎたい点を強調した。今回、Heart View誌2025年3月号3)にもガイドラインを踏まえたベストプラクティスとして特集が組まれており、「ぜひ一緒に読んでほしい」と締めくくった。

(ケアネット 土井 舞子)

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