コロナ死亡例、脳を含む広範囲に長期ウイルスが存在/Nature

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者の体内には、呼吸器をはじめ非呼吸器、脳に至るまで広く長期に渡ってSARS-CoV-2が存在していることが、新たな研究で判明した。米国国立衛生研究所(NIH)のSydney R. Stein氏らによる本研究結果は、Nature誌オンライン版2022年12月14日号に掲載された。
COVID-19は、重症の感染時に多臓器不全を引き起こすことが知られており、一部の患者には罹患後症状と呼ばれる症状が長く続く。しかし、呼吸器以外の感染負荷やウイルスが消失するまでの時間、とくに脳においては十分に解明されていない。
研究者らは、COVID-19の感染後に死亡した44例の患者の完全剖検を行い、うち11例の患者の中枢神経系を広範囲に採取し、感染から症状発現後7ヵ月以上までの、脳を含む人体全体のSARS-CoV-2の分布、複製、細胞型特異性のマッピングと定量分析を行った。組織および症例間のSARS-CoV-2 RNAレベルを定量的、統計的に比較するために、呼吸器系および非呼吸器系組織の観点から結果を分析した。
死亡時の病日により剖検例を早期(14日以内:n=17)、中期(15~30日:n=13)、後期(31日以上:n=14)に分類し、後期の症例においてSARS-CoV-2 RNAが存在する場合を持続と定義した。
主な結果は以下のとおり。
・2020年4月26日~2021年3月2日に44例の剖検を行った。検体はすべてCOVID-19に感染して死亡したワクチン未接種者のものだった。女性が30%、年齢中央値は62.5歳(四分位範囲[IQR]:47.3~71.0)、61.4%が3つ以上の併存疾患を有していた。PCR陽性は42例で死前、2例で死後に確認された。11例で脳のサンプリングが行われた。
・発症から最終的な入院、その後の死亡までの中央値はそれぞれ6日(IQR:3~10)、18.5日(IQR:11.25~37.5)であった。死亡から剖検までの中央値は22.2時間(IQR:18.2~33.9)であった。
・SARS-CoV-2 RNAは84の異なる解剖学的部位と体液で検出され、早期~後期のいずれも非呼吸器組織と比較して呼吸器組織で有意(p<0.0001)に高い値が検出された。
・脳のサンプリングを受けた全症例において、中枢神経系組織からSARS-CoV-2 RNAが検出された(10/11例、検出不能を除く)。ここには、230日目の死亡例を含んだ後期症例のすべてが含まれ(5/6例、検出不能を除く)、脳におけるウイルスの持続性が確認された。高いウイルス負荷にもかかわらず、脳における病理組織学的変化はほとんど認められなかった。
・SARS-CoV-2 RNAの持続性は、血漿では検出されなかったものの、すべての後期症例で複数の組織にわたって確認された。
研究者らは以下のように結果の要点をまとめている。
・SARS-CoV-2は、重症のCOVID-19で死亡した患者を中心に体内に広く分布しており、感染初期には脳を含む複数の呼吸器・非呼吸器組織でウイルス複製が存在することが明らかになった。
・SARS-CoV-2 RNAが全身に広く分布しているにもかかわらず、気道以外では炎症や直接的なウイルスの細胞病理はほとんど観察されなかった。
・SARS-CoV-2は、一部の患者では感染初期に播種し、非呼吸器組織よりも呼吸器組織で有意に高いウイルス量を示した。他の研究により、心臓、リンパ節、小腸および副腎内のSARS-CoV-2 RNAの存在が報告されており、SARS-CoV-2がこれらの組織や脳を含む他の多くの組織に感染し複製する能力があることを決定的に証明するものである。
・SARS-CoV-2 RNAが残存する場所としては呼吸器が最も一般的であったが、後期症例の50%以上は、心筋、頭頸部および胸部のリンパ節、坐骨神経、眼組織、そして硬膜を除く中枢神経系組織のすべての採取部位にもRNAが残存していた。注目すべきは、早期症例では呼吸器系組織と非呼吸器系組織でSARS-CoV-2 RNA量が100倍以上高かったにもかかわらず、後期症例ではこの差が非常に小さくなっていることである。非呼吸器組織におけるウイルス排除の効率悪化は、SARS-CoV-2によるウイルス性mRNAの細胞検出を変化させる能力、インターフェロンシグナルの妨害、ウイルスの抗原提示の妨害における組織特異的な差異に関係していると思われる。SARS-CoV-2が免疫を回避するメカニズムを理解することは、ウイルス排除を促進する将来の治療アプローチの指針に不可欠である。
さらに、本研究の限界として、対象が重度のCOVID-19で死亡した既往症を持つ中高年のワクチン未接種者であること、実施時期から現在および将来の変異株に一般化できない可能性があること、研究デザインが臨床所見をウイルスの持続性に帰するためのものではないことを挙げている。
(ケアネット 杉崎 真名)
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