コロナ病床は簡単には増やせない、医療壊滅を防ぐために/日医

提供元:ケアネット

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公開日:2021/01/19

 

 感染者数の増加が続き、各地で医療体制のひっ迫が叫ばれる中、日本の医療体制の在り方についても様々な意見が報道・発信されている。1月13日の日本医師会定例記者会見において、中川 俊男会長は改めて国民に対し協力を要請するとともに、日本の医療提供体制の現状を説明し、日医として引き続き行っていく働きかけ、施策について説明した。

民間病院の新型コロナ患者受け入れが約20%である背景

 公立・公的等病院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)受け入れ割合が約70~80%である一方、民間病院が約20%というデータに対し、より多くの民間病院が新型コロナ患者を受け入れるべきという意見がある。中川氏は、「医療を必要とするのは新型コロナ患者だけではない。民間病院の多くは、新型コロナ以外の救急・入院が必要な患者への医療を、それぞれの地域で担っている」と民間病院が新型コロナ診療を含む地域医療を面で支えていることを強調した。

 加えて、新型コロナ患者向けの病床を大幅に増やせない要因として、民間病院は、三次救急を担う公立・公的等に比べてICU等の設置数が少なく、専門の医療従事者がおらず、病床数が数床規模の場合がほとんどで動線の分離が難しいことなどを挙げた。

 このまま感染者数の増加が続けば、必要な時に適切な医療を提供できない「医療崩壊」から必要な時に医療自体を提供できない「医療壊滅」に至るとし、「地域の医療提供体制は、新型コロナウイルス感染症の医療とそれ以外の通常の医療が両立してこそ機能していると言える」と強調。首都圏などにおいて、心筋梗塞や脳卒中患者の受け入れ先が見つからず、がんの手術が延期されるなどが現実化しており、一部ではすでに医療崩壊の状態であるとした。

宿泊療養・自宅療養者のフォローアップに注力が必要

 日本医師会としては、「必要な地域で1床でも多くの新型コロナ病床の確保が可能となるよう努力していくことには変わりない」と話し、加えて、宿泊療養・自宅療養者の健康フォローアップがより重要となってきているとした。

 昨年4月以降、日本医師会では各地の医師会が組織する新型コロナウイルス感染症版の災害医療チーム「COVID19-JMAT」(1月12日現在、医師10,191名をはじめ延べ27,291名)を、宿泊療養施設や地域外来・検査センター等へ派遣しているほか、行政などからの求めに応じ電話やオンラインを利用した、宿泊療養・自宅療養者の健康フォローアップへの協力を行っている。中川氏はこれを改めて働きかけていくと話した。

医師がコーディネーターとして機能、保健所の負担軽減が実現した好事例も

 続いて登壇した釜萢 敏常任理事は、「年末年始の医療提供体制等に関する調査」の結果について報告。同調査は、年末年始における各地の医療提供体制の構築状況や問題点を把握するために都道府県/群市区医師会に対し昨年末時点で実施したもの。年末年始の医療提供体制の構築状況について聞いたところ、都道府県医師会では約80%、郡市区医師会では約60%、構築されているとの回答であった。

 具体的な対応としては、各医療機関が「診療・検査医療機関」として機能するよう準備・調整、休日診療所や急患センターの人員増強や発熱外来の設置、休日当番医の拡充、PCR検査センターの設置、年末年始に従事する人員の増強、初期救急の実施、検査機器の導入、公立病院への応援医師の派遣などが挙げられた。

 年末年始に限らない今後の課題として、釜萢氏は人材不足が主要因となり、「医療機関および保健所において、相談・受診をした患者への適切なトリアージが滞っている」「保健所・行政と医師会との連携がうまくいっていない」ケースがあることを挙げた。また、患者の宿泊療養施設が確保されていない地域が少なくないことに触れ、「厚生労働省と課題を共有し、きめ細かい対応に努めていく」と話した。

 一方で同調査には、呼吸器感染症の専門医(民間大学教授)にコーディネーター(キーマン)役を依頼し、全患者の各医療機関と宿泊療養施設間の振り分けを依頼することで患者の状態に応じた転院がスムーズに行われているといった好事例の報告もあった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)