日本語でわかる最新の海外医学論文|page:208

アミリンアナログとGLP-1受容体作動薬の配合剤は肥満を伴う2型糖尿病に有効である(解説:小川大輔氏)

肥満を伴う2型糖尿病の治療として、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドが有効であることは周知のとおりである。一方、新規のアミリンアナログであるcagrilintideは肥満症の治療薬として期待が高まっている。今回、BMI 27以上の2型糖尿病患者を対象に、週1回投与のセマグルチド2.4mgとcagrilintide 2.4mgの配合剤(CagriSema)の第II相臨床試験の結果がLancet誌に発表された。アミリンは高血糖時にインスリンと共に膵β細胞から分泌されるホルモンであり、視床下部の食欲中枢に作用して胃の内容物排出速度を低下させ、満腹感を促進する。アミリンアナログであるpramlintideは1型および2型糖尿病の治療薬として2005年にFDAによって承認された。しかし作用時間が短く、1日2~3回注射しなければいけないため実際にはほとんど使用されていない。その後、長時間作用型のアミリンアナログであるcagrilintideが開発され、GLP-1受容体作動薬と共に肥満症の治療薬として期待されている。

うつ病に対する運動療法が有効な日本人の性格特性

 産業医科大学の池ノ内 篤子氏らは、健康な日本人労働者における抑うつ症状や社会適応への性格特性の影響、運動療法前後の抑うつ症状や社会適応の変化、うつ病予防を目的とした運動療法の完遂率に対する介入前の性格特性の影響を調査した。その結果、抑うつ症状と社会適応は、運動療法前後の性格特性や同療法の完遂率と関連していることが明らかとなった。また、男性において運動療法前の誠実性は、運動療法の完遂率の高さを予測する因子であることが報告された。Frontiers in Psychology誌2023年6月21日号の報告。

HER2陰性の切除不能/転移乳がん、3分の2がHER2低発現/ESMO Open

 現在、乳がん患者の約8割はHER2陰性(IHC 0、1+、もしくはIHC 2+かつISH-)に分類される。これまでの研究ではその約6割がHER2低発現(IHC 1+、もしくはIHC 2+かつISH-)と報告されている。最近、HER2低発現の切除不能/転移乳がんの治療にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が承認され、HER2低発現とIHC 0の識別が重要になっている。今回、イタリア・European Institute of OncologyのGiuseppe Viale氏らの国際多施設共同後ろ向き研究で、過去にHER2陰性の切除不能/転移乳がんを診断された患者のサンプルを、HER2検査のトレーニングを受けた病理医が再検査したところ、約3分の2がHER2低発現と判定された。ESMO Open誌2023年8月9日号に掲載。

ハイパーサーミア診療ガイドラインで各がん種の治療推奨度を明確に

 『ハイパーサーミア診療ガイドライン』の初版が発刊された。今回、ガイドライン作成委員会委員長の高橋 健夫氏(埼玉医科大学総合医療センター放射線腫瘍科)に実臨床におけるハイパーサーミアの使用経験や推奨されるがん種などについて話を聞いた。  ハイパーサーミアとは39~45℃の熱を用いた温熱療法のことで、主に放射線治療や化学療法の治療効果を高める目的で用いられている。その歴史は意外にも古く、1980年代に放射線治療の補助療法として導入、1990年代には電磁波温熱療法として保険収載され、その臨床実績は30年以上に及ぶ。本治療は、生体では腫瘍のほうが正常組織よりも温度上昇しやすい点を応用した“43℃以上での直接的な殺細胞効果”が報告されているほか、抗がん剤の細胞膜の透過性亢進、熱ショックタンパク質を介した免疫賦活などの生物学的なメリットなどが示されている。しかし、どのような患者に優先的に勧めるべきか明確に示した指針は認められない、実施可能施設の少なさ、専門的な知識や経験を有するハイパーサーミア治療医が限れているなどの点から認知度がまだまだ低い治療法である。そこで日本ハイパーサーミア学会では2017年にガイドライン作成委員会が発足し、約7年の時を経てガイドラインの発刊に至った。

HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。

子宮頸管20mm以下の妊婦、ペッサリーで胎児死亡増/JAMA

 単胎妊娠で子宮頸管長が20mm以下の妊婦に対する子宮頸管ペッサリーは、早産リスクを低下せず、胎児または新生児/乳児の死亡率が増加したことが、米国・コロンビア大学のMatthew K. Hoffman氏らによる多施設共同無作為化非盲検試験「The randomized Trial of Pessary in Singleton Pregnancies With a Short Cervix:TOPS試験」で示された。経腟超音波検査で評価した子宮頸管短縮は早産のリスク因子として確立されているが、その単胎妊娠における早産予防のための子宮頸管ペッサリーに関する研究では、これまで相反する結果が示されていた。JAMA誌2023年7月25日号掲載報告。

経口GLP-1受容体作動薬の肥満症に対する効果(解説:小川大輔氏)

2023年8月現在、欧米で肥満症の治療薬として使用されているGLP-1受容体作動薬は、リラグルチドとセマグルチドの2製剤であり、いずれも注射薬である。一方、GLP-1受容体作動薬の経口薬(経口セマグルチドの最大用量は14mg)は、2型糖尿病の治療薬として承認されており、その減量効果は注射薬と比べて低い。今回、2型糖尿病を伴わない肥満症の成人を対象とした、経口GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド50mgの1日1回投与の試験結果が、第83回米国糖尿病学会年次学術総会で発表され、Lancet誌に掲載された。この第III相試験は北米や欧州など9ヵ国、50医療機関において実施された。

2型糖尿病の肝硬変、GLP-1受容体作動薬により死亡リスク減

 肝硬変は2型糖尿病と関連していることが多いものの、肝硬変患者を対象とした2型糖尿病治療に関する研究はほとんどない。今回、台湾・Dr. Yen's ClinicのFu-Shun Yen氏らは2型糖尿病の肝硬変患者を対象にGLP-1受容体作動薬による長期アウトカムを調査した。その結果、2型糖尿病の肝硬変(代償性)患者がGLP-1受容体作動薬を使用した場合、死亡、心血管イベント、非代償性肝硬変、肝性脳症、肝不全のリスクが有意に低くなることが示された。Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2023年6月16日号掲載の報告。  研究者らは台湾の国民健康保険研究データベースを用い、傾向スコアマッチング法により2008年1月1日~2019年12月31日のGLP-1受容体作動薬の使用者と未使用者467組を選定した。

学校でのコロナ感染対策、マスクとワクチン完全接種が有用

 学校の生徒と職員を対象に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の学校内での感染リスクについて、2年間の接触追跡データに基づいた調査が、米国・マサチューセッツ総合病院のSandra B. Nelson氏らの研究チームによって行われた。その結果、学校生活において、マスクの使用状況やワクチン接種状況、校内の活動や地域の社会的状況など、感染リスクが高くなる要因が明らかになった。JAMA Health Forum誌2023年8月4日号に掲載の報告。  本調査は、マサチューセッツ州の幼稚園から中等教育までの学校を対象に、2020年秋~21年春学期(F20/S21、従来株の優勢期)および2021年秋学期(F21、デルタ株の優勢期)の2つの期間にわたって行われた。F20/S21は70校3万3,000人以上、F21は34校1万8,000人以上が参加した。学校内でSARS-CoV-2に2次感染した割合をSAR(Secondary Attack Rate)と定義した。SARは検査によって確認された値で算出した。感染と関連する可能性のある要因(学年、マスクの着用、曝露した場所、ワクチン接種歴、および社会的脆弱性指数[SVI]など)について、ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。

双極性障害に対する薬物療法のパターン~メタ解析

 米国・メイヨークリニックのBalwinder Singh氏らは、双極性障害の治療実態を明らかにするため、Global Bipolar Cohortの共同ネットワークを活用して、北米、欧州、オーストラリアの双極性障害患者を対象とした複数のコホート研究における薬物療法のパターンを調査した。その結果、双極性障害患者に対しては、気分安定薬である抗けいれん薬、第2世代抗精神病薬、抗うつ薬の使用頻度が高く、必ずしもガイドラインと一致する治療パターンではなかった。また、地域ごとに治療パターンの大きな違いがあり、北米ではリチウムの使用頻度が低く、欧州では第1世代抗精神病薬の使用頻度が高かった。著者らは、これらの違いと治療アウトカムとの関係を調査し、双極性障害治療の改善に役立つエビデンスベースのガイドラインを提供し実践するには、今後、縦断的研究を実施する必要があるとしている。Bipolar Disorders誌オンライン版2023年7月18日号の報告。

コロナ2価ワクチンのブースター接種、安全性が示される/BMJ

 50歳以上の成人において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する4回目ブースター接種ワクチンとしてのオミクロン株対応2価mRNAワクチンは、事前規定の27種の有害事象に関するリスク増大との関連は認められなかったことが、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らによる同国の50歳以上の接種者を対象に行った試験で示された。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。  研究グループは2021年1月1日~2022年12月10日に、COVID-19ワクチンを3回接種した50歳以上の成人222万5,567人を対象とするコホート試験を行った。

加糖飲料を毎日摂取、肝がんリスク・肝疾患による死亡を増大/JAMA

 閉経後女性において、砂糖入り飲料の1日1杯以上摂取者は1ヵ月3杯以下の摂取者と比べ、肝がん罹患率および慢性肝疾患死亡率が高率であることが示された。一方で人工甘味料入り飲料の摂取量については、両リスク共に増大はみられなかったという。米国・サウスカロライナ大学のLonggang Zhao氏らが、約10万人規模の50~79歳の閉経後女性からなる前向きコホートを追跡し明らかにした。米国では成人の約65%が砂糖入り飲料を毎日摂取しているという。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究で今回示された所見を確認し、その関連性について生物学的経路を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA誌2023年8月8日号掲載の報告。

鼻をほじる医療者は、コロナ感染リスク増

 医療従事者はCOVID-19の感染リスクが高く、マスク、ガウン、ゴーグル/フェイスシールド、手袋などの個人防護具(PPE)装着をはじめとした感染対策を取るケースが多い。にもかかわらず医療従事者の感染者が多い理由を探るため、PPE装着や飛沫を受けることに関連する可能性のある特定の行動・身体的特徴を調査する研究が行われた。オランダ・アムステルダム大学のA H Ayesha Lavell氏らによる本研究の結果は、PLOS ONE誌オンライン版2023年8月2日号に掲載された。  研究者らは、オランダの2つの大学医療センターに勤務する医療従事者404例を対象としたコホート研究において、特定の行動・身体的特徴が感染リスクと関連しているかどうかを調査した。感染との関連を調査した具体的な行動は以下のものだった。

2型DM患者は超加工食品摂取で食事の質と無関係に死亡リスク増

 2型糖尿病患者では、食事の質とは無関係に、カップ麺やスナック菓子、加工肉などの超加工食品の摂取量の増加は全死因死亡率と心血管疾患(CVD)死亡率の上昇と関連していることが、イタリア・IRCCS NEUROMEDのMarialaura Bonaccio氏らの前向き観察コホート研究の結果、明らかになった。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年7月26日号掲載の報告。  研究グループは、ベースライン時に2型糖尿病を発症している1,065例を対象として、11.6年間(中央値)を前向きに追跡した。食物摂取量は、188項目の食事アンケートによって評価された。超加工食品はNova分類に従って定義され、超加工食品と総摂取食物の比として計算された。食事の質は、地中海食スコアによって評価された。Cox比例ハザードモデルを用いて、死亡率の多変量調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。

NSCLCに対するICI+化学療法、日本人の血栓リスクは?

 がん患者は血栓塞栓症のリスクが高く、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)やプラチナ製剤などの抗がん剤が、血栓塞栓症のリスクを高めるとされている。そこで、祝 千佳子氏(東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻)らの研究グループは、日本の非小細胞肺がん(NSCLC)患者におけるプラチナ製剤を含む化学療法とICIの併用療法の血栓塞栓症リスクについて、プラチナ製剤を含む化学療法と比較した。その結果、プラチナ製剤を含む化学療法とICIの併用療法は、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクを上昇させたが、動脈血栓塞栓症(ATE)のリスクは上昇させなかった。本研究結果は、Cancer Immunology, Immunotherapy誌オンライン版2023年8月4日号で報告された。

統合失調症薬物治療ガイドラインの順守と治療成績との関係~EGUIDEプロジェクト

 臨床医が統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守することは、患者の良好なアウトカムにとって重要である。しかし、ガイドラインの順守が患者の治療アウトカムと関連しているかどうかは明らかではない。東京慈恵会医科大学の小高 文聰氏らは、統合失調症薬物療法ガイドラインへの適合度を可視化するツールindividual fitness score(IFS)計算式を開発し、統合失調症患者におけるIFS値と精神症状との関連を調査した。その結果、IFS計算式で評価した統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守する取り組みは、統合失調症患者の臨床アウトカム改善につながる可能性が示唆された。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2023年6月29日号の報告。

双極I型障害のうつ再発予防の抗うつ薬、52週vs.8週/NEJM

 うつ病エピソードの寛解から間もない双極I型障害患者に、エスシタロプラムまたはbupropionの徐放性製剤(bupropion XL)による抗うつ薬の補助的投与を52週間継続しても、8週間の投与と比べて、あらゆる気分エピソードの再発予防について有意な有益性は得られなかった。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLakshmi N. Yatham氏らが、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。双極I型障害患者の急性うつ病の治療には抗うつ薬が用いられるが、寛解後の維持療法としての抗うつ薬の効果については十分に検討されていなかった。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。

成人の胸腺摘出、全死亡・がんリスクが増加/NEJM

 胸腺摘出を受けた患者は摘出を受けなかった対照群よりも、全死因死亡およびがんリスクが高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKameron A. Kooshesh氏らによる検討で示された。また、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を除外した解析では、胸腺摘出は自己免疫疾患のリスクを増大すると思われる関連性もみられたという。成人における胸腺の機能は明らかになっていないが、さまざまな外科手術でルーチンに摘出が行われている。研究グループは、成人の胸腺は、免疫機能と全般的な健康の維持に必要であるとの仮説を立て、疫学的・臨床的・免疫学的解析評価で検証した。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。

臨床試験の結果が非有意のときは尤度比を活用してみましょう(解説:折笠秀樹氏)

結果の信ぴょう性はよく統計学的有意性で判定します。つまり、結果のP値が0.05(5%)より小さければ統計学的有意と判定します。これはネイマン・ピアソン流の方法です。もう1つの流派にベイズ流というのがあります。ベイズ流ではP値の代わりに、尤度比(ベイズ流ではベイズ因子と呼ぶ)を用います。本論文は、この尤度比を使えば、とりわけ非有意の結果の程度がつかめることを示しました。差がないという仮説(帰無仮説HN)と、差があるという仮説(対立仮説HA)があるとします。

機能性ディスペプシア、食物を見るだけで脳の負担に/川崎医大

 全人口の約10%が、機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩まされているとされ、不登校や休職など日常生活に支障を来すケースも多い。また、血液検査や内視鏡検査、CT検査などで異常が見つからず、病気であることが客観的に示されないために、周囲の人に苦しみが理解されにくいといった問題がある。精神的ストレスや脂肪分の多い食事が原因とされるものの、メカニズムの解明は進んでおらず、客観的診断法は確立されていない。そこで、川崎医科大学健康管理学教室の勝又 諒氏らは、FD患者、IBS患者に40枚の食物の画像を見せ、食物の嗜好性や脳血流の変化を調べた。その結果、FD患者は健康成人やIBS患者と比較して、脂肪分の多い食物を好まなかった。また、FD患者は、食物を見たときに左背側前頭前野の活動が亢進していた。本研究結果は、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2023年8月12日号で報告された。