日本語でわかる最新の海外医学論文|page:211

心房細動アブレーション後の認知機能障害は一過性

 心房細動カテーテルアブレーション後に認知機能障害が報告されているが、長期的に持続するかどうかは不明である。今回、オーストラリア・Royal Melbourne HospitalのAhmed M. Al-Kaisey氏らがアブレーション後12ヵ月間の追跡調査を実施したところ、アブレーション後にみられる認知機能障害は一過性であり、12ヵ月後には完全に回復していたことが示された。JACC Clinical Electrophysiology誌2023年7月号に掲載。  本研究は、1種類以上の抗不整脈薬が無効であった症候性心房細動患者100例を対象にした前向き研究で、継続的な内科的治療または心房細動カテーテルアブレーションに無作為に割り付け、12ヵ月間追跡した。認知機能の変化は、ベースライン時および追跡期間中(3、6、12ヵ月)に6種類の認知機能検査で評価した。

睡眠の質が食道がんリスクと関連?

 米国における食道腺がん(EAC)の罹患率は1960年代から増加しており、2007年には10万人年当たり0.41人から5.31人となったが、この要因は明らかになっていない。睡眠の質と食道がんの発症リスクとの関連について調べた、ワシントン大学セントルイス校のXiaoyan Wang氏らによる研究の結果がCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌オンライン版2023年8月1日号に掲載された。

オメガ3脂肪酸、肺機能にも好影響

 肺機能の低下や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症には炎症が関与する。そこで、抗炎症作用を有するオメガ3脂肪酸が肺機能の低下やCOPDの予防に役立つ可能性が考えられており、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高いと肺機能が高いことも報告されている。しかし、オメガ3脂肪酸の血中濃度と肺機能の経時変化を調べた報告はなく、因果関係は不明である。そこで、米国・コーネル大学のBonnie K. Patchen氏らは、前向きコホート研究およびメンデルランダム化研究により、オメガ3脂肪酸の血中濃度と肺機能、気流閉塞との関連を検討した。その結果、オメガ3脂肪酸(とくにドコサヘキサエン酸[DHA])の血中濃度が高いと肺機能の維持に良い影響があることが示された。本研究結果は、American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌オンライン版2023年7月20日号で報告された。

小児の16%にコロナ後遺症、多くみられる症状は?~メタ解析

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経験した小児でも、コロナ後遺症(コロナ罹患後症状、long COVID)の報告が増加している。19歳以下の小児におけるSARS-CoV-2感染の長期的な臨床的特徴を明らかにするために、カナダ・トロントのThe Hospital for Sick ChildrenのLi Jiang氏らによって系統的レビューとメタ解析が実施された。その結果、COVID-19小児患者の16.2%がコロナ後遺症を経験し、男児よりも女児に特定の症状が発生するリスクが高いことなどが判明した。

コロナ肺炎からの回復、アバタセプトやインフリキシマブ追加で短縮せず/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に起因する肺炎による入院患者において、アバタセプト、cenicrivirocまたはインフリキシマブはCOVID-19肺炎からの回復までの期間を短縮しなかった。米国・セントルイス・ワシントン大学のJane A. O'Halloran氏らが、米国および中南米の95病院で実施したマスタープロトコルデザインによる無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines (ACTIV)-1 Immune Modulator:ACTIV-1 IM試験」の結果を報告した。本検討は、COVID-19の予後不良の一因として免疫調節異常が示唆されていたことから実施された。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。

小児の急性副鼻腔炎、鼻汁の色で判断せず細菌検査を/JAMA

 急性副鼻腔炎の小児において、鼻咽頭から細菌が検出されなかった患児は検出された患児に比べ抗菌薬による治療効果が有意に低く、その有意差を鼻汁の色では認められなかったことが、米国・ピッツバーグ大学のNader Shaikh氏らによる多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で示された。急性副鼻腔炎とウイルス性上気道感染症の症状の大半は見分けることができない。そのため小児の中には、急性副鼻腔炎と診断されて抗菌薬による治療を受けても有益性がない集団が存在することが示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「診察時に特異的な細菌検査をすることが、急性副鼻腔炎の小児における抗菌薬の不適切使用を減らす戦略となりうる」とまとめている。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。

etripamilは上室頻拍に対する特効薬となるか(解説:高月誠司氏)

etripamilは即効性の鼻腔噴霧型のLタイプカルシウム拮抗薬で、鼻腔粘膜で吸収され投与7分後に最高血中濃度に到達し、素早く代謝される。本剤は上室頻拍の急性期停止効果が期待されている。RAPID試験は上室頻拍の急性期停止をエンドポイントとしたプラセボとetripamilのランダム化比較試験で、結果としてetripamilはプラセボよりも多くの患者で上室頻拍の停止に成功した。上室頻拍の発作時には迷走神経刺激手技あるいはカルシウム拮抗薬の内服が試されるが、今後本薬は特効薬として期待される。

モデルナとファイザーのコロナワクチン、対象年齢や初回免疫の一変承認取得

 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを提供するモデルナおよびファイザーは、8月2日に各社のプレスリリースにて、ワクチンの接種対象年齢や初回免疫について一部変更承認を取得したことを発表した。  モデルナ・ジャパンのプレスリリースによると、同社の新型コロナワクチン「スパイクバックス筋注」についついて、これまで接種対象年齢が12歳以上だったものを、6歳以上に引き下げ、6~11歳の用法用量を変更する承認事項の一変承認を取得した。今回の一変承認は、「スパイクバックス筋注(1価:起源株)」の6~11歳における初回免疫、および「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」と「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」の6~11歳における追加免疫を対象としている。

新たながんゲノムプロファイリングシステム「GenMineTOP」発売/コニカミノルタ

 コニカミノルタおよびグループ会社であるコニカミノルタREALMは8月1日のプレスリリースにて、GenMineTOPがんゲノムプロファイリングシステム(以下、本システム)の発売を発表した。同日より保険適用され、LSIメディエンスを通じ検査受託を開始している。  本システムは、2019年6月から開始した東京大学、国立がん研究センター研究所およびコニカミノルタの次世代がん遺伝子パネルに関する共同研究開発の成果であり、固形がん患者の腫瘍組織検体から抽出したDNAおよびRNA、ならびに同一患者由来の非腫瘍細胞(がん細胞ではない正常な細胞。本検査では血液を用いる)から抽出したDNAを用いて遺伝子変異情報(データ)を解析するプログラムとして、2022年7月13日に厚生労働省より製造販売承認を取得した。

日本人アルツハイマー病患者の日常生活に影響を及ぼすリスク因子

 日常生活動作(ADL)を維持することは、アルツハイマー病(AD)患者およびその介護者にとって非常に重要な問題である。エーザイの赤田 圭史氏らは、日本人AD患者の診断時のADLレベルおよび長期(3年以内)治療中のADL低下と関連するリスク因子を明らかにするため、本検討を行った。その結果、低い体格指数(BMI)、脳卒中、骨折を伴う日本人AD患者では、ADL低下リスクが高いことから、これらリスク因子を有する患者では、ADLを維持するためのリハビリテーションなどの適切な介入が求められることを報告した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2023年6月30日号の報告。

ナルコレプシータイプ1、経口OX2受容体作動薬の第II相試験データ/NEJM

 ナルコレプシータイプ1の患者において、経口オレキシン(OX)2受容体選択的作動薬のTAK-994はプラセボと比較して8週間にわたり眠気およびカタプレキシー(情動脱力発作)を大きく改善したが、肝毒性との関連が認められた。フランス・モンペリエ大学のYves Dauvilliers氏らが、北米、欧州およびアジアで実施された第II相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。ナルコレプシーは、日中の過度の眠気を特徴とするまれで慢性的な中枢神経系の過眠障害で、カタプレキシー、入眠時または出眠時幻覚、睡眠麻痺などを伴うことがある。ナルコレプシーはタイプ1とタイプ2に大別され、タイプ1は視床下部外側野に局在するオレキシン産生ニューロンの著しい欠乏によって引き起こされることが明らかになっていた。NEJM誌2023年7月27日号掲載の報告。

新型コロナ、2価ワクチンブースターの有効性は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種について、オミクロンBA.4/5またはBA.1変異株対応2価ワクチンによるブースター接種(4回目接種)は、1価(起源株)ワクチン3回接種と比較して、50歳以上の成人におけるCOVID-19関連入院/死亡の低下と関連していたことを、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らが報告した。また、BA.4/5対応2価ワクチンとBA.1対応2価ワクチンの直接比較では、ワクチンの有効性に有意差はなく、潜在的な違いは絶対数では非常に小さいことが示唆されたという。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。

アルツハイマー型認知症の予防薬第二の扉(解説:岡村毅氏)

前回のコラムでは扉がこじ開けられつつあると書いた。すなわち「認知症の初期の人」の症状進展を止める薬剤が出てきたと述べた。そうなると次は、第二の扉だ。アミロイドが溜まっているが、発症していない段階(プレクリニカル期)で止められないかが次の課題だと書いた。イーライリリーは「第一の扉」で大変苦戦しており、期待されたsolanezumabは初期認知症に対するEXPEDITION試験が失敗した。そしてエーザイに先を越された。しかし次に控えていたdonanemabが、初期認知症に対するTRAILBLAZER-ALZ試験で挽回した。

国産初の新型コロナmRNAワクチンを追加免疫として承認、供給なし/第一三共

 第一三共は8月2日のプレスリリースにて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する起源株1価mRNAワクチン「ダイチロナ筋注」(DS-5670)について、「SARS-CoV-2による感染症の予防」を適応とした追加免疫における国内製造販売承認を取得したことを発表した。本剤については、2023年1月に国内製造販売承認申請を行い、COVID-19に対する国産初のmRNAワクチンとして今回承認に至った。本剤は、冷蔵(2~8度)での流通・保管が可能となるため、医療現場での利便性の向上が期待される。

認知機能維持に重要なのは?運動vs.睡眠

 身体活動と睡眠はともに認知機能と認知症リスクに関連する重要な因子であるが、それらがどのように相互に作用しているかは十分に検討されていない。そこで、英国・University College LondonのMikaela Bloomberg氏らが、身体活動と睡眠時間の組み合わせと10年間の認知機能の推移の関連について研究を行った結果、高頻度・高強度の運動を行っていても、睡眠時間が短い場合では認知機能低下が速かったことを明らかにした。The Lancet Healthy Longevity誌2023年7月号の報告。  研究グループは、2008年1月1日~2019年7月31日に2年ごとに追跡調査が実施された英国の老化に関する縦断的研究のデータ(English Longitudinal Study of Ageing)を分析した。対象は、ベースライン時に認知機能が正常な50歳以上の人で、追跡調査期間中に認知症の診断を報告した場合は除外された。身体活動量と夜間の睡眠時間は自己申告で聴取され、エピソード記憶評価や言語流暢性検査によって複合認知機能スコアが算出された。線形混合モデルを用いて、身体活動量(身体活動の頻度と強度から算出)、および睡眠時間(6時間未満、6~8時間、8時間超)と、認知機能低下率の関連を検討した。

アフターコロナの今、「MR不要論」を考える

 COVID‐19の拡大後、MR数は減少傾向にあり、製薬企業の営業拠点の見直し等も急速に進んだ。アフターコロナにおいて、製薬企業担当者は本当に必要なのだろうか? この疑問について、医師・製薬企業・メディカルスタッフ、それぞれの立場から率直に語り合う機会が設けられた。2023年7月22日(土)、第10回日本糖尿病協会年次学術集会のEXPERT社員シンポジウムで語られた内容を抜粋して紹介する。  医療用医薬品の情報提供には、厳格な法規制があることはよく知られる。具体的に、競合品との比較データや症例紹介が不可となる場合が存在する。反面、臨床現場からは、同効薬の使い分けや効果を発揮しやすい症例像への情報ニーズは高い。そのため、医薬情報担当者であるMRは、自分たちの提供する情報と医療者が求める情報に「乖離がある」と認識しているようだ。2023年6月実施のMR1,407名を対象としたアンケート調査の結果では、「求めたい情報提供に乖離はありますか?」の回答結果は「乖離がある」(17%)、「やや乖離がある」(67%)と乖離を感じるMRが大半であり、「乖離はない」と回答したMRは17%だった。また「情報提供の障壁となっているものは何ですか?(複数回答)」という質問では「面会できない」(74%)が最多で、次いで「販売情報提供ガイドライン」(54%)が挙げられた。

日本人NSCLCへのICI、PPI使用者は化学療法の併用が必要か/京都府立医大ほか

 現在、PD-L1高発現の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する初回治療の選択肢として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、複合免疫療法が用いられている。しかし、その使い分けの方法は明らかになっていない。また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗菌薬の使用歴があるNSCLC患者は、ICI単剤療法の効果が減弱する可能性が指摘されている。そこで、京都府立医科大学大学院の河内 勇人氏らは、ペムブロリズマブ単剤療法、複合免疫療法の効果と各薬剤の使用歴の関係について検討した。その結果、PPIの使用歴がある患者は、複合免疫療法の効果がペムブロリズマブ単剤療法と比較して良好であった。一方、PPIの使用歴がない場合は、治療効果に有意差は認められなかった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月11日号で報告された。  国内13施設において、初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)またはペムブロリズマブと化学療法の併用療法(併用療法群)を受けたPD-L1高発現(TPS≧50%)のNSCLC患者425例を後ろ向きに追跡し、治療開始時の薬剤使用歴(PPI、抗菌薬、ステロイド)を含む患者背景と治療効果の関連を検討した。単剤療法群と併用療法群の比較は、傾向スコアマッチングにより背景因子を揃えて行った。

急性期統合失調症に対する長時間作用型注射剤抗精神病薬~メタ解析

 長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬は、統合失調症の再発予防効果が期待できるが、急性期患者においてもベネフィットをもたらす可能性がある。ドイツ・ミュンヘン工科大学のDongfang Wang氏らは、急性期統合失調症患者に対する第2世代抗精神病薬(SGA)のLAIに関するエビデンスのシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、急性期統合失調症に対し、SGA-LAIは効果的な治療選択肢であることを報告した。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2023年6月23日号の報告。

未治療の早期NSCLC、定位放射線+ニボルマブが有効/Lancet

 未治療の早期非小細胞肺がん(NSCLC)およびリンパ節転移陰性の孤立性肺実質再発NSCLC患者の治療において、定位放射線治療(SABR)+ニボルマブの併用(I-SABR)はSABR単独と比較して、4年無イベント生存率が有意に優れ、毒性は忍容可能であることが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJoe Y. Chang氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月18日号に掲載された。  本研究は、米国テキサス州の3つの病院で実施された非盲検無作為化第II相試験であり、2017年6月~2022年3月の期間に参加者の無作為化が行われた(Bristol-Myers SquibbとMDアンダーソンがんセンターの提携機関などの助成を受けた)。

認知症予防の扉がこじ開けられつつある(解説:岡村毅氏)

歴史的に眺めてみよう。20世紀にはアルツハイマー型認知症は臨床的にのみ診断され、死後に解剖されて初めて確定診断されていた。人類には何もできなかった。しかし21世紀に入り、生きているうちから診断するための技術が徐々に開発・実装された。2004年に米国で大規模画像プロジェクトADNIが始まり、脳内で何が起きているのかがわかってきた。死後脳に溜まっているアミロイドが、だんだんと溜まっていくさまが確認され、アミロイドカスケード仮説は、生体でも確認された。そして2011年の新しい診断基準で、PETや髄液検査による診断が可能になった。これにより、プレクリニカル期(症状がないが病理がある)、MCI期のアルツハイマー型認知症、そしてアルツハイマー型認知症という病期が確立した。