日本語でわかる最新の海外医学論文|page:203

LGBTQ+はもはや日常風景か:米国における医学研究の職場ハラスメント調査を読んで(解説:岡村毅氏)

この研究は米国の医学研究の職場ハラスメントを包括的に調査したものだ。斬新なところは「これまでの調査はシスジェンダーに偏っていた」として、LGBTQ+を基礎的データとしてとっているところだ。また国立衛生研究所(NIH)のキャリアデヴェロップメントアワードを受けた若手研究者を対象にしており、適切なサンプリングであろう。生物学的性(男性と女性)と性的志向(シスジェンダー[生物学的性と性自認が一致]兼ヘテロセクシュアル[異性愛]である多数派か、LGBTQか)を聞いている。おそらくこれからの調査はこのような方向になっていくと思われる。

日本人統合失調症患者の再入院予防に対する長時間作用型注射剤のベネフィット

 統合失調症患者に対する長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬のベネフィットに関するリアルワールドでのエビデンスは、とくに日本の就労人口において限られている。ヤンセンファーマのMami Kasahara-Kiritani氏らは、雇用されている患者を含む統合失調症患者の再入院予防に対するLAI抗精神病薬の影響を評価した。その結果、日本人統合失調症患者の入院予防に対するLAI抗精神病薬のベネフィットが示唆された。LAI抗精神病薬による治療を受けた患者は、フォローアップ期間中の入院期間および再入院リスクが有意に低下することが明らかとなった。Asian Journal of Psychiatry誌オンライン版2023年6月7日号の報告。  日本医療データセンター(JMDS)の健康保険レセプトデータベースを用いて、レトロスペクティブ観察的集団ベース研究を実施した。対象は、2012年4月~2019年12月にLAI抗精神病薬を処方された就労者または被扶養者の統合失調症患者。LAI処方日をインデックス日とし、ベースライン時の(インデックス日の365日前)1年間のフォローアップ期間中におけるすべての原因による入院、精神医学的入院、統合失調症関連の入院を評価した。

ウイルス感染時の発熱による重症化抑制、腸内細菌叢が関係か/東大ほか

 これまで、ウイルスに感染した場合に外気温や体温が重症度に及ぼす影響は明らかになっていない。そこで、東京大学医科学研究所の一戸 猛志准教授らの研究グループは、さまざまな温度条件で飼育したマウスに対し、ウイルスを感染させた場合の重症度を解析した。その結果、体温の上昇によりウイルスに対する抵抗性が高まり、血中胆汁酸レベルが上昇した。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の血液についても解析した結果、軽症患者は中等症患者と比較して血中胆汁酸レベルが高かった。これらのことから、発熱により腸内細菌叢が活性化し、2次胆汁酸産生を介してウイルス感染症の重症化が予防されることが示唆された。本研究結果は、Nature Communications誌2023年6月30日号に掲載された。

保険加入状況によって、治療や退院計画は変わるか?/BMJ

 米国・イエール大学のDeepon Bhaumik氏らは、米国の65歳以上の高齢者において、治療や退院の決定が保険の適用範囲に基づいて画一化されているかどうかを調べる検討を行った。米国外科学会の全米外傷登録データバンク(NTDB)の約159万例の外傷患者を対象に調べた結果、そのようなエビデンスは認められなかったこと、類似の外傷患者であっても治療の差はみられ、その差は退院計画のプロセスの間に生じていたことが示唆されたという。BMJ誌2023年7月11日号掲載の報告。  研究グループは、2007~17年の米国外科学会NTDBを基に、全米900ヵ所以上のレベル1または2の外傷センターを訪れた50~79歳について調査を行った。65歳でのメディケアへの加入が、医療サービスの内容とアウトカムに与える影響について、回帰不連続アプローチ法を用いて検証した。

StageIII NSCLC、周術期ニボルマブ上乗せで生存改善(NADIM II)/NEJM

 切除可能なStageIIIA/IIIBの非小細胞肺がん(NSCLC)における術前補助療法について、ニボルマブ+化学療法は化学療法のみの場合と比べ、病理学的完全奏効(CR)の割合は有意に高率(相対リスク5.34)で、生存延長にも結び付くことが示された。スペイン・Puerta de Hierro-Majadahonda大学病院のMariano Provencio氏らが、非盲検第II相無作為化比較試験の結果を報告した。NSCLC患者の約20%がStageIIIを占める。これら患者の最も至適な治療についてコンセンサスが得られていなかった。NEJM誌オンライン版2023年6月28日号掲載の報告。

出産から5年未満の乳がん、術前化療の効果乏しく再発リスク増/日本乳癌学会

 閉経前乳がん患者を対象に、最終出産からの経過年数と術前化学療法の感受性を検討した結果、出産から5年未満に診断された患者では術前化学療法の感受性が乏しく、再発率が高かったことを、岡山大学の突沖 貴宏氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。  妊娠・出産から数年以内に乳がんと診断された妊娠関連乳がんの特徴として、腫瘍径が大きい、リンパ節転移やリンパ管侵襲が多い、HR-の割合が高い、病勢が進行した症例が多い、早期例でも遠隔再発リスクが高い、などが報告されている。しかし、妊娠関連乳がんにおける薬物療法の感受性を検討したデータは乏しい。そこで研究グループは、それらの再発率が高い理由として、最終出産からの経過年数が少ない症例は化学療法の効果が乏しいという仮説を立て、最終出産からの経過年数と術前化学療法の感受性の検討を行った。

認知症に対するゲーム療法の有効性~メタ解析

 アルツハイマー病は、重度の神経変性疾患であり、直接的および間接的に大きな経済的負担をもたらす。しかし、効果的な薬物療法の選択肢はいまだ限られている。近年、認知症患者に対するゲーム療法が注目を集め、さまざまな研究が行われている。中国・北京大学のJiashuai Li氏らは、既存の研究データを統合し、認知症患者に対するゲーム療法の効果を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、ゲーム療法は、認知症患者の認知機能および抑うつ症状の改善が期待できる介入であることが示唆された。Worldviews on Evidence-Based Nursing誌オンライン版2023年6月12日号の報告。  認知機能、QOL、抑うつ症状をアウトカム指標とし、認知症患者に対するゲーム療法の影響を評価したランダム化臨床試験および準実験的研究を分析対象に含めた。トレーニングを受けた2人の独立した研究者により、研究のスクリーニング、品質評価、データ抽出を実施した。統計分析には、Review Manager(Revman)5.3およびSTATA16.0ソフトウエアを用いた。

週1回の持効型insulin icodecの第IIIa相試験結果(ONWARDS 3)/JAMA

 インスリン製剤による治療歴のない2型糖尿病患者において、insulin icodecの週1回投与はインスリン デグルデクの1日1回投与と比較して、HbA1cの低下が有意に優れ、その一方で体重の変化には差がないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのIldiko Lingvay氏らが実施した「ONWARDS 3試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月24日号で報告された。  ONWARDS 3試験は、目標達成に向けた治療(treat-to-target)を行う無作為化ダブルマスク・ダブルダミー・実薬対照第IIIa相非劣性試験であり、2021年3月~2022年6月の期間に11ヵ国92の施設で実施された(Novo Nordisk A/Sの助成を受けた)。  対象は、インスリン製剤による治療歴がなく、インスリン製剤以外の血糖降下薬による治療を受けており、HbA1cが7~11%(53~97mmol/mol)の2型糖尿病の成人患者であった。

ブタからヒトへ、心臓異種移植アウトカムに影響した因子/Lancet

 2022年1月7日、米国・メリーランド大学のMuhammad M. Mohiuddin氏らは、世界初となる10個の遺伝子改変ブタ心臓のヒトへの異種移植手術を行った。既往症や複数の外科的および非外科的な合併症にもかかわらず、レシピエントは術後60日目に移植片不全で死亡するまで生命が維持された。今回、同氏らは異種移植手術のアウトカムに影響を及ぼす因子の重要性について報告を行った。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月29日号に掲載された。  異種移植手術の成功後、移植片は心エコー上で良好に機能し、拡張期心不全が発現する術後47日目まで、心血管系および他の臓器系の機能は維持されていた。  術後50日目に、心内膜心筋生検で、間質浮腫や赤血球の血管外漏出、血栓性微小血管症、補体沈着を伴う損傷した毛細血管が見つかった。  低ガンマグロブリン血症に対する静脈内免疫グロブリン(IVIG)療法後と、初回の血漿交換中に、IgGを主とする抗ブタ異種抗体の増加が検出された。

わが国のオンラインHDFの現況(解説:浦信行氏)

 つい先日のNEJM誌オンライン版(2023年6月16日号)に、欧州における多施設共同研究であるCONVINCE研究の結果が報告された。その結果は、従来のハイフラックス膜の血液透析(HFHD)に比較して、大量置換液使用のオンライン血液透析濾過(HDF)は全死亡を有意に23%減少させたと報告された。それまでの両者の比較はローフラックスHDとの比較が多く、またHFHDとの比較では一部の報告では有意性を示すが、有意性がサブクラスにとどまるものも見られていた。また、置換液量(濾過量+除水量:CV)の事前設定がなされておらず、階層分析で大きなCVが確保できた症例の予後が良好であった可能性も報告され、患者の病状によるバイアスが否定できなかった。本研究においては目標CVが23±1Lと定められ、患者背景にも群間に差はなかった。そのうえでの予後の改善の報告は大変意義の大きいものである。

中等症~重症の乾癬、女性の出生率低い

 英国で行われた住民ベースのコホート研究で、中等症~重症の乾癬女性患者は背景因子をマッチングさせた非乾癬女性と比べて、出生率が低く、流産のリスクが高いことが示された。英国・マンチェスター大学のTeng-Chou Chen氏らが報告した。乾癬女性患者の出生率および出生アウトカムに関する研究は、サンプルサイズが小規模、比較対象が設定されていない、正確な妊娠記録が欠如しているなどの限界が存在していた。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究により、流産リスクの上昇との因果関係を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年6月7日号掲載の報告。

話題のマイナ保険証、機器の設置率やトラブル報告は?/1,000人アンケート

 皆さんの施設ではマイナ保険証の利用で困った事例はないだろうか? ある報道によると、オンライン資格確認の導入施設の65%以上で何らかのトラブルが発生しているという。そこで今回、ケアネット会員のうち、20床未満の施設を経営/勤務する医師1,000人の実情を伺うべく「マイナ保険証で困っていること」についてアンケートを実施した。  昨年10月、マイナ保険証が本格導入した際にもケアネットでは『マイナ保険証への対応』についてアンケートを実施しており、前回に続き今回も「マイナンバーカードの取得と保険証への連携手続き」「カードリーダーの設置状況」に関する調査を行った。昨年10月と今回の調査を比較した各変化率は以下のとおり。

日本の双極性障害外来患者に対する向精神薬コスト~MUSUBI研究

 双極性障害の治療コストは、地域的要因および普遍的要因と関連しているが、西欧諸国以外からのデータは、限られている。また、臨床的特徴と外来薬物療法のコストとの関連性は、十分にわかっていない。札幌・足立医院の足立 直人氏らは、日本人の統合失調症外来患者における治療コストとその後の臨床症状との関連性の推定を試みた。とくに、医療費の大部分を占め、近年増加傾向にある医薬品コストに焦点を当てて調査を行った。その結果、日本における双極性障害患者の1日当たりの平均治療コストは約350円であり、患者特性および精神病理学的状態と関連していることを報告した。Annals of Medicine誌2023年12月号の報告。

『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。 第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学) ・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。 ・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。 ・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。

コロナ罹患後症状における精神症状の国内レジストリ構築、主なリスク因子は?/日本精神神経学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行はすでに3年以上経過しているが、流行が長期化するほど既感染者が増加し、コロナ後遺症(コロナ罹患後症状、Long COVID)のリスクも上がる。コロナ後遺症は、倦怠感や認知機能障害といった精神神経障害が年単位で持続する場合もある。  国立精神・神経医療研究センターの高松 直岐氏らの研究チームは、こうしたコロナ後遺症の病態解明と新規治療法開発につなげるため、COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築を実施している。中間解析の結果、コロナ後遺症による有意な心理社会的機能障害の予測因子は、退職経験、主婦層、COVID-19罹患への心配や抑うつが中等度以上、ワクチン接種2回以下であることが示された。6月22~24日に横浜にて開催された第119回日本精神神経学会学術総会にて、高松氏が発表した。

GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの有効性・安全性/Lancet

 2型糖尿病患者の治療において、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴンの3つの受容体の作動活性を有する新規単一ペプチドretatrutideは、プラセボと比較して、血糖コントロールについて有意かつ臨床的に意義のある改善を示すとともに、頑健な体重減少をもたらし、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬とほぼ同様であることが、米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月26日号で報告された。

肝線維化やNASH消失にpegozaferminが有効か/NEJM

 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療において、線維芽細胞増殖因子(FGF21)アナログpegozaferminはプラセボと比較して、NASHの悪化を伴わない肝線維化の改善効果が優れ、肝線維化の悪化を伴わないNASH消失の達成割合も良好であることが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRohit Loomba氏らが実施した「ENLIVEN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年6月24日号に掲載された。  ENLIVEN試験は、米国の61施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2021年9月~2022年8月の期間に患者の登録が行われた(米国・89bioの助成を受けた)。

コーヒー摂取とうつ病や不安症リスクとの関連

 これまで、コーヒー摂取と身体状態や死亡リスクとの関連性に関するエビデンスは蓄積されているが、精神疾患との関連性を評価した報告は限られていた。中国・杭州師範大学のJiahao Min氏らは、コーヒー摂取とうつ病や不安症リスクとの関連を調査し、さらにコーヒーの種類や添加物による影響を検討した。その結果、コーヒーを1日当たり2~3杯摂取することは、メンタルヘルス改善のための健康的なライフスタイルの一環として、重要である可能性が示唆された。Psychiatry Research誌8月号の報告。  英国バイオバンクのデータを用いて、2006~10年のベースラインタッチスクリーンアンケートに回答した参加者14万6,566人のデータを分析した。フォローアップ期間中、2016年にこころとからだの質問票(PHQ-9)、7項目一般化不安障害質問票(GAD-7)を用いて、うつ病および不安症の発症を確認した。コーヒーのサブタイプは、インスタントコーヒー、ひいたコーヒー、カフェインレスコーヒーとし、添加物にはミルク、砂糖、人工甘味料を含めた。関連性の評価には、多変数調整ロジスティック回帰モデルおよび制限付き3次スプラインを用いた。

イノツズマブ+ブリナツモマブ併用mini-Hyper-CVD療法で再発ALLの生存率改善

 mini-Hyper-CVD療法とイノツズマブの併用は、再発難治性急性リンパ性白血病(ALL)患者において有効性を示し、ブリナツモマブ追加後はさらに生存率が向上したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのHagop Kantarjian氏らによる研究で明らかになった。Journal of Hematology & Oncology誌2023年5月2日号の報告。  成人ALL治療は近年、大きくその様相が変化している。CD19表現抗体を標的としたブリナツモマブやCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンや各種CAR-T細胞療法など、新しい治療法選択肢が登場したためである。  再発難治性ALLに対するブリナツモマブとイノツズマブ単剤の有効性は、すでに確認されているとおりである。今回は、イノツズマブを用いた低用量のmini-Hyper-CVD療法に、ブリナツモマブを追加することで、化学療法による負担を減らすことができないかを検討した。

男性機能の維持にも、テストステロン増加に最適な運動/日本抗加齢医学会

 いくつになっても男性機能を維持させたい、死亡リスクを減らしたい、というのは多くの男性の願いではないだろうか―。「老若男女の抗加齢 from womb to tomb」をテーマに掲げ、第23回日本抗加齢医学会総会が6月9~11日に開催された。そのシンポジウムにて前田 清司氏(早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授)が『有酸素運動とテストステロン』と題し、肥満者のテストステロン増加につながる方法、男性機能を維持するのに適した運動について紹介した。  近年、国内の死因別死亡数では心血管疾患や脳血管疾患が上位に上っているが、肥満者(BMI≧25)が増加することでこの死因が押し上げられることが示唆されている1)。そのため、肥満者を減らせば心・脳血管疾患も減少傾向に転じる可能性がある。