日本語でわかる最新の海外医学論文|page:179

新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet

 過剰なアルドステロンは慢性腎臓病(CKD)の進行を加速するとされる。米国・ワシントン大学のKatherine R. Tuttle氏らASi in CKD groupは、基礎治療としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与を受けているCKD患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンとの併用でアルドステロン合成酵素阻害薬BI 690517を使用すると、用量依存性にアルブミン尿を減少させ、予期せぬ安全性シグナルを発現せずにCKD治療に相加的な効果をもたらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年12月15日号で報告された。

クリスマスに『ドクター・フー』放送で、翌年の死亡率が低下/BMJ

 英国では、クリスマスから新年にかけての祝祭日(12月24日~翌年1月1日)にテレビ番組『ドクター・フー(Doctor Who)』の新作が放映されると、翌年の死亡率が低下し、とくに放送日がクリスマスの場合は死亡率の減少幅が大きいことが、英国・バーミンガム大学のRichard D. Riley氏が実施した「TARDIS研究」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2023年12月18日号クリスマス特集号「WORKFORCE CRISIS」として掲載された。  英国では、クリスマスから新年にかけての祝祭日に多くの医師が働いているが、その影響は知られていないという。Riley氏は、12月24日~翌年1月1日に働く(架空の)医師が人々の健康に及ぼす影響を調査する目的で自然実験を行った(特定の研究助成は受けていない)。

65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸博氏)

65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性を鶏卵由来の従来ワクチンと比較したクラスターランダム化比較試験の結果が、NEJM誌2023年12月14日号に報告された。研究対象集団には18歳から64歳までのワクチン接種者163万328例が含まれた(組み換えワクチン群63万2,962例、従来ワクチン群99万7,366例)。研究期間中に組み換えワクチン群で1,386例、従来ワクチン群で2,435例のインフルエンザがPCR検査で診断された。50~64歳の参加者では、従来ワクチン群では925例(1,000例当たり2.34例)がインフルエンザと診断されたのに対し、組み換えワクチン群では559例(1,000例当たり2.00例)がインフルエンザと診断された(相対的なワクチン有効性15.3%、95%信頼区間:5.9~23.8、p=0.002)。組み換えワクチンは従来ワクチンと比べて、インフルエンザ関連の入院に対する予防効果は有意に高くはなかった。

アルツハイマー病に対する薬物療法~FDA承認薬の手引き

 近年、認知症の有病率は高まっており、患者および介護者のQOLを向上させるためには、認知症の病態生理学および治療法をより深く理解することが、ますます重要となる。神経変性疾患であるアルツハイマー病は、高齢者における健忘性認知症の最も一般的な病態である。アルツハイマー病の病態生理学は、アミロイドベータ(Aβ)プラークの凝集とタウ蛋白の過剰なリン酸化に起因すると考えられる。以前の治療法は、非特異的な方法で脳灌流を増加させることを目的としていた。その後、脳内の神経伝達物質の不均衡を是正することに焦点が当てられてきた。そして、新規治療では、凝集したAβプラークに作用し疾患進行を抑制するように変わってきている。しかし、アルツハイマー病に使用されるすべての薬剤が、米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得しているわけではない。インド理科大学院Ashvin Varadharajan氏らは、研究者および現役の臨床医のために、アルツハイマー病の治療においてFDAが承認している薬剤を分類し、要約を行った。Journal of Neurosciences in Rural Practice誌2023年10~12月号の報告。

サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症、最初の数ヵ月間の発症リスクが高い

 デンマーク国立血清研究所のNiklas Worm Andersson氏らが、サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症(以下、低Na血症)の累積発生率について、その他薬効クラスの降圧薬と比較・推定を行った。その結果、治療開始から最初の数ヵ月間において、サイアザイド系利尿薬では添付文書等で示されているよりも低Na血症のリスクが高かったことが明らかになった。Annals of Internal Medicine誌オンライン版2023年12月19日号掲載の報告。

臓器によって老化速度に差

 特定の臓器だけ他の臓器よりも老化速度が速い場合があり、そのような臓器があると病気や死亡のリスクが高まる可能性のあることが、米スタンフォード大学神経学教授のTony Wyss-Coray氏らの研究で示された。同氏らによると、50歳以上の健康な人の約5人に1人で、少なくとも一つの臓器の老化速度が速まっていることが明らかになったという。研究の詳細は、「Nature」に12月6日掲載された。  Wyss-Coray氏らは、「これは悪いことのように聞こえるが、健康増進のチャンスでもある」と主張する。なぜなら、簡単な血液検査で急速に老化している臓器を特定することで、医師は、症状が現れる前にその臓器に関連する潜在的な病気の治療を開始できる可能性があるからだ。

前糖尿病と喫煙の組み合わせは若者にとって致命的

 年齢中央値が30歳代という比較的若い集団においても、前糖尿病と喫煙習慣が組み合わさると、深刻な疾患のリスクが上昇し、特に脳卒中のリスク上昇が顕著であることを示唆するデータが報告された。米ネブラスカ大学医療センターのAdvait Vasavada氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)学術集会(AHA Scientific Sessions 2023、11月11~13日、フィラデルフィア)で発表された。Vasavada氏は、「若い喫煙者の脳卒中リスクを抑制するために、前糖尿病の早期スクリーニング体制と予防戦略を確立する必要があるのではないか」と述べている。

潜在的食物アレルギーが心血管死リスクと関連

 急性のアレルギー症状は現れないが、検査で反応が見つかる程度の潜在的な食物アレルギーが、心血管死のリスクと関連のあることが明らかになった。米バージニア大学保健システム(UVA)のJeffrey Wilson氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に11月9日掲載された。Wilson氏らは、「将来的には、既知のリスク因子を持たない人の中から心血管疾患リスクの高い人を探し出すために、食物アレルギー検査が役立つようになるかもしれない」と話している。

初発統合失調症患者の社会的機能~10年間の軌跡

 統合失調症患者では、さまざまな機能的アウトカムを呈する可能性がある。しかし、初発統合失調症患者の長期的な機能的アウトカムの軌跡を調査した研究は、ほとんどない。中国・北京大学のZhang Cheng氏らは、抗精神病薬による治療を行っていない初発統合失調症患者を対象に、10年間のフォローアップ調査を行った。Asian Journal of Psychiatry誌オンライン版2023年11月17日号の報告。  抗精神病薬治療を行っていない初発統合失調症患者を対象とした、10年間のプロスペクティブ研究である中国の初発統合失調症トライアルよりデータを抽出した。初発統合失調症患者の社会的機能に関する縦断的データにK平均クラスタリングモデルを適用し、経験的に導き出された軌跡と10年間のフォローアップ調査のベースラインにおける臨床特性との関連を調査した。

プロテインサプリの生殖機能への影響、ほとんどの男性は認識せず

 体づくりのためにプロテインサプリメント(以下、プロテインサプリ)を摂取している男性の多くは、このサプリが生殖機能に悪影響を及ぼす可能性について認識していないことが、英バーミンガム大学のMeurig Gallagher氏らの調査から明らかになった。こうしたサプリには、生殖機能に影響を及ぼす可能性がある女性ホルモンのエストロゲンが高用量含まれている。しかし調査からは、ジムに通う男性の約5人に4人(79%)がフィットネス計画の一つとしてホエイプロテインや大豆プロテインなどのサプリを摂取しており、また、プロテインサプリの摂取が生殖機能に与える影響について考えたことがある男性はわずか14%にとどまることが示された。詳細は、「Reproductive BioMedicine」に10月18日掲載された。

わさびは高齢者の記憶力を向上させる

 わさびには記憶力を高める効果がある可能性が、健康な少人数のボランティアを対象とした日本の研究で示唆された。論文の筆頭著者である、人間環境大学総合心理学部教授の野内類氏は、「わさびが健康に良いことは、先行の動物実験で明らかになっていた。それでも、今回の研究で示されたわさびの記憶力向上効果の大きさには、本当に驚かされた」と述べている。野内氏と東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏を中心とする研究グループによるこの研究結果は、「Nutrients」に10月30日掲載された。

子宮頸部異形成、摘出と監視のどちらを選ぶべき?

 子宮頸がんの細胞診で異常が見つかった場合、すぐに病変部を摘出した方が良いかもしれない。子宮頸部異形成(cervical intraepithelial neoplasia;CIN、子宮頸部上皮内腫瘍ともいう)の中等度異形成(CIN2)の診断を受けたデンマークの女性2万7,500人以上を対象とした研究で、すぐに治療を開始するのではなく経過を見守る積極的監視療法(以下、監視療法)を受けた女性では、疑わしい病変部をすぐに切除した女性に比べて子宮頸がん発症の長期リスクが高いことが明らかになった。オーフス大学(デンマーク)臨床医学部のAnne Hammer氏らによるこの研究の詳細は、「The BMJ」に11月29日掲載された。研究グループは、「この研究結果は、CIN2の管理に関する将来のガイドラインや、CIN2と診断された女性の臨床カウンセリングにとって重要だ」と述べている。

高速道路の大気汚染は血圧を上昇させる?

 毎日の通勤で血圧を上昇させる要因は、高速道路の渋滞だけではないようだ。新たな研究で、自動車の排気ガスが乗車中の人の血圧を著しく上昇させ得ることが明らかにされた。排気ガスがもたらす血圧上昇は高塩分食摂取がもたらす影響に匹敵し、その影響は24時間続くことも示されたという。米ワシントン大学の医師で環境・職業健康科学分野教授のJoel Kaufman氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に11月28日掲載された。  この研究では、22〜45歳の正常血圧の成人16人(平均年齢29.7歳)を対象にランダム化クロスオーバー試験を行い、路上での交通関連大気汚染(traffic-related air pollution;TRAP)曝露が血圧と網膜血管系に及ぼす影響を調べた。試験参加者は、シアトル市のラッシュアワーの時間帯に、外気が車内に取り込まれる車で2日間運転を行う群と、外気の微粒子などを取り除く高性能フィルターが装備された車で1日だけ運転を行う群にランダムに割り付けられた。その後、最初に運転した車とは反対の条件の車で運転を行った。血圧は、車の運転前と運転中、および運転後最長で24時間後に、3分間隔で14回測定された。また、運転の前後に画像検査で推定網膜中心動脈径(CRAE)も測定された。

糖尿病、肥満、膵臓がんの関連性が明らかに

 2型糖尿病の患者や肥満者では膵臓がんのリスクが高いことが知られているが、その原因の一端を明らかにした研究結果が報告された。インスリン値が高くなる「高インスリン血症」が、消化液を産生している膵外分泌細胞の炎症を引き起こし、そのことが前がん状態につながると考えられるという。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJames Johnson氏らの研究によるもので、詳細が「Cell Metabolism」に10月31日掲載された。  糖尿病はインスリンの作用が低下するために高血糖になる病気。インスリンの作用が低下する原因として、膵臓の内分泌細胞の機能低下のためにインスリンの量が不足することと、インスリンに対する組織の感受性が低下すること(インスリン抵抗性)が挙げられる。2型糖尿病、特に肥満2型糖尿病では後者の影響が強い。インスリン抵抗性は血糖コントロールの悪化要因であるが、今回発表された研究によると、2型糖尿病や肥満者での膵臓がん発症リスク上昇にもかかわっているようだ。

出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。  新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。

統合失調症、ムスカリン受容体作動薬KarXTは有効か?/Lancet

 xanomeline-trospium(KarXT)は統合失調症の陽性症状および陰性症状の改善に有効であり、概して忍容性は良好であった。米国・Karuna TherapeuticsのInder Kaul氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「EMERGENT-2試験」の結果を報告した。著者は、「今回の結果は、KarXTがD2ドパミン受容体遮断のメカニズムを有する現在のすべての抗精神病薬とは異なる、ムスカリン受容体の活性化に基づく有効かつ忍容性の高い、新たなクラスの抗精神病薬となる可能性を裏付けるものであった」とまとめている。KarXTは、現在承認されているすべての抗精神病薬とは異なり、D2ドパミン受容体を遮断しないムスカリンM1およびM4受容体選択的アゴニストであり、末梢性ムスカリン受容体に関連する有害事象を改善する目的で、xanomelineと末梢性ムスカリン性受容体拮抗薬であるtrospium chlorideを組み合わせたものである。統合失調症患者には新しいメカニズムを有する新たな治療法が緊急に必要とされていた。Lancet誌オンライン版2023年12月14日号掲載の報告。

米国の包括的プライマリケア+、手挙げ診療所は増収/JAMA

 包括的プライマリケアプラス(Comprehensive Primary Care Plus:CPC+)は、サービス利用率の低下および急性期入院医療費の減少と関連していたが、5年間の総支出額の減少とは関連していなかったことが、米国・MathematicaのPragya Singh氏らによる検討で示された。CPC+は米国の18地域で導入された最大の検証済みプライマリケア提供モデル。その健康アウトカムとの関連を明らかにすることは、将来の転換モデルを設計するうえで重要とされていた。JAMA誌オンライン版2023年12月15日号掲載の報告。

大腸がんスクリーニングのための多標的便RNA検査―便潜血反応と比較して(解説:上村直実氏)

大腸がんは肺がんの次にがん死亡者数が多い疾患であり、世界的に早期発見のための検診が盛んに行われている。通常、1次検診では免疫学的便潜血検査(FIT)を用いた判定法が頻用されているが、さらに精度の高い検査法が探求されている今回、大腸内視鏡検査を行った症例8,000人以上を対象として、便中の多標的RNA検査(ColoSense)とFIT両群の感度と特異度を比較した無作為比較試験の結果が、2023年11月のJAMA誌に掲載された。大腸がんおよび進行腺腫に対するColoSenseの感度がFITに比べて有意に高い結果であり、著者らは、今後、通常のFITに代わりうる検査法として期待されると結論付けている(*欧米と日本における大腸がんの定義は少し異なっており、日本における病理診断では粘膜内がんと診断される病変は、欧米ではがんではなく進行腺腫とされることに注意が必要である)。

心房細動アブレーション後に抗凝固薬を中止できる患者は?

 心房細動に対するカテーテルアブレーション後に抗凝固薬を継続することの有効性および安全性を評価する臨床試験は実施されておらず、抗凝固薬の継続の意義は明らかになっていない。そこで、金岡 幸嗣朗氏(奈良県立医科大学/国立循環器病研究センター)らの研究グループは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、抗凝固薬の継続の有無別に血栓塞栓症と大出血のリスクを検討した。その結果、抗凝固薬の継続はCHADS2スコア2点未満の患者では大出血のリスクを上昇させ、CHADS2スコア3点以上の患者では血栓塞栓症リスクを低下させることが示された。本研究結果は、European Heart Journal誌オンライン版2023年12月20日号で報告された。

抗精神病薬治療が統合失調症患者のQOLに及ぼす影響

 統合失調症およびその他の精神病性スペクトラム障害の患者に対し、薬理学的な抗精神病薬による介入は基盤となる治療である。また、「最善」とされる治療法の選択は、いくつかの臨床領域に基づき行われるべきである。しかし、利用可能な治療法があるにもかかわらず、抗精神病薬を服用中の統合失調症患者から報告されるQOLは依然として非常に低く、抗精神病薬治療の有効性を評価した試験でこの結果が考慮されることはほとんどない。イタリア・カンパニア大学のGaia Sampogna氏らは、抗精神病薬治療が患者のQOLに及ぼす影響を評価するため、システマティックレビューを実施した。その結果、統合失調症患者にとって適切な治療法を選択するうえで、QOLが中心的な要素であることが確認された。Brain Sciences誌2023年11月10日号の報告。