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警視庁捜査二課が家宅捜索、文部科学省は調査を徹底するよう指導こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、話題の映画「オッペンハイマー」を観てきました。クリストファー・ノーラン監督がわざわざIMAXで撮ったということなので、日本で最も大きなIMAXスクリーンを有する東京・池袋のグランドシネマサンシャイン池袋で鑑賞しました。広島、長崎の原爆についてほとんど触れられていないことなどが話題となっていますが、十分に監督の核に対する考えも伝わる映画だと感じました。個人的には、科学者と国(政府)の関係性の描き方が興味深かったです。コロナ禍での政府と有識者会議の力関係、関係性を思い出しました。科学者、医学者の方は必見の映画だと思います。もっとも、3時間の映画なので頻尿の方は膀胱を空っぽにしから観るようにしてください。さて、今回は警視庁捜査二課の家宅捜索が入った東京女子医大(東京都新宿区)について書いてみたいと思います。家宅捜索を受けたことに関連して、文部科学省は同大に対して調査を徹底するよう指導を行いました。同大学のガバナンス不全の程度は、昨年アメリカンフットボール部部員の大麻所持で話題となった日本大学並みと言えそうで、私学助成金にも響きそうです。これまで度々、その行状が報道されてきた岩本 絹子理事長(77)のワンマン体制は、いよいよ崩壊に向かうのでしょうか。同窓会組織・至誠会の元職員が勤務実態ないのに会から給与約2,000万円を受けた疑い警視庁捜査二課は3月29日、東京女子医大の同窓会組織である一般社団法人・至誠会の元職員が在職中、勤務実態がないのに会から給与約2,000万円を受けた疑いが強まったとして、一般社団法人法の特別背任容疑で、関係先の大学本部や、大学の岩本理事長が経営する江戸川区の葛西産婦人科など10数カ所を家宅捜索しました。3月29日付の東京読売新聞等の報道によれば、特別背任の疑いが持たれているのは一般社団法人・至誠会が運営する至誠会第二病院(世田谷区)の元職員の50歳代女性と元事務長の50歳代男性の2人です。元職員は葛西産婦人科の元従業員で、2015年4月に至誠会第二病院に就職。その後、同大に出向して岩本理事長直轄の経営統括部の次長に就任し、大学から給与を得ていました。その後同大は、岩本理事長の指示の下、2020年4月より経営統括部の業務を世田谷区のコンサルティング会社に委託。元職員は同社の社員として経営統括部や理事長秘書の業務にあたり、コンサル会社から2020年5月~22年6月に約3,300万円の給与が支払われていました。またその一方で、至誠会からも2020年5月~22年3月に約2,000万円の給与を受け取っていたとのことです。元職員に至誠会第二病院での勤務実態はなく、警視庁は職員の給与を管理していた元事務長と共謀して、至誠会から不正に支出させた疑いがあるとみているとのことです。岩本理事長を卒業生らは背任容疑で刑事告発、同窓会組織・至誠会は1億4000万円の返還や損害賠償を求めて提訴3月29日付の朝日新聞の報道によれば、同大を巡っては、2023年3月、岩本理事長が大学の理事会の承認を得ずに、大学の資金を実態の乏しい業務委託契約で取引先に流出させ損害を与えた、として卒業生らが背任容疑で刑事告発。警視庁捜査二課はこれを受理して捜査を行っていたとのことです。また、2023年10月には至誠会が、同会の代表理事会長を同年4月まで務めていた岩本理事長らを相手取り、計約1億4,000万円の返還や損害賠償を求めて提訴しています。岩本理事長は2023年4月、至誠会の改革を求める卒業生らと対立、会長の座を追われました。後任会長がさまざまな資料を調べると、元職員の給与の不正受給などが明らかになったとのことです。訴状によれば、元職員の給与の不正受給に加え、岩本理事長は理事会での承認を受けずに同会から「顧問料」などの名目で不当な支払いを受けていたとのことです(この民事訴訟は現在も係争中)。なお、同会は今年3月27日に警視庁に被害届を提出しています。重大な医療事故頻発で、特定機能病院の承認2度取り消し岩本氏は1973年に東京女子医大を卒業した産婦人科医で、同大の創業者の一族でもあります。同大勤務や葛西中央病院産婦人科部長を経て、1981年に葛西産婦人科院長に就任。2013年6月~23年4月には至誠会の会長を務め、この間、2014年に同大の副理事長、2019年に理事長に就任、現在に至っています。岩本理事長体制下の東京女子医大については、本連載でも何度か取り上げて来ました。2020年7月には「第15回 凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?」で同大が「コロナ禍による経営悪化を理由に夏季一時金を支給しない」と労組に回答し、看護師の退職希望が法人全体の2割にあたる400人を超えたニュースを、同年10月には「第28回 コロナで変わる私大医学部の学費事情、2022年以降に激変の予感」で、同大が2021度から前年度より学費を6年間で計1,200万円値上げし、私立医大で2番目に高くなったニュースを取り上げました。さらに、同じく2020年10月には「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」で、東京女子医大病院で2014年2月、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた男児(当時2歳)が死亡した事故について、警視庁が当時の集中治療室(ICU)の実質的な責任者だった同大元准教授ら男性麻酔科医6人を業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検したニュースを取り上げ、「書類送検や起訴等が特定機能病院の再承認にも影響を及ぼす可能性もあります。東京女子医大の経営的な苦境はまだしばらく続きそうです」と書きました。ちなみに、男児死亡事件については2021年6月。民事裁判で麻酔科医らの過失と賠償責任を認める判決が出ています(刑事事件については公判継続中)。同病院はこの事故で2015年に特定機能病院の承認を取り消され、現在も承認されていません。ちなみに、同病院の特定機能病院の承認取り消しはこの時が2回目。1回目は2002年で、この時は2001年に起こった日本心臓血圧研究所(心研、現在の心臓病センター)の医療事故がきっかけでした(2007年に再承認)。私学助成金の減額やコロナ禍による患者減も大きな打撃にこうした一連のニュースを見てみても、東京女子医大の経営状況が極めて悪いことがうかがい知れます。特定機能病院承認取り消しに加え、私学助成金の減額やコロナ禍による患者減も病院経営上、相当大きな打撃となっているに違いありません。その一方で、岩本理事長は、その権力を利用して自らは甘い汁を吸っていたかもしれないわけで、今回の警視庁の家宅捜索は当然の帰結とも言えるかもしれません。なお、東京女子医大の岩本理事長の様々な所業については、文春オンラインが2022年から「東京女子医大の闇」と題して継続的に報道してきています1)。それらの報道によれば、経営統括部の業務委託したコンサルティング会社というのは、岩本理事長が“推し”だった元タカラジェンヌの親族企業で、それまで医療経営とは無縁の企業だったそうです。もはや呆れるしかありません。最悪、廃校・学生募集停止、大学病院だけどこかの医療法人が買収するというシナリオも東京女子医大は1970〜90年代には、日本の大学病院としては最先端の経営を行っていました。心研をはじめ、消化器病・脳神経・腎臓病の各センターなど、臓器別のセンター方式をどこよりも早く導入、それぞれにスター教授を配し、臨床だけではなく、研究でも最先端を走っていました。それがこの凋落ぶり。かつて本連載で、早稲田大学が吸収合併する噂があると書きましたが、またぞろその話題がマスコミを賑わせはじめています。3月30日付のBusiness Journalは「東京女子医大、経営破綻の可能性も…医療事故・医師の一斉退職・資金不正が続出」というタイトルのニュースを配信、その中で大学ジャーナリストの石渡 嶺司氏の次のような発言を紹介しています。「どこが買収しそうかという点について、候補となるのが早稲田大学と京都先端科学大学です。(略)。現在の田中愛治総長は18年の総長選に立候補した際、公約の一つに医学部新設を入れています。(略)ただし、東京女子医大の経営状況は相当悪く、それを早大が引き受けるには赤字額が大きすぎるとの指摘もあります。もう1校が京都先端科学大学です。ニデック(旧日本電産)創業者の永守 重信氏が京都学園大学を買収して開設したのが京都先端科学大学です。同氏は20年、医学部新設構想を公表しています」。とはいうものの、東京女子医大の経営状況は相当悪く、本来、大学経営をバックアップする役割が求められる附属病院も特定機能病院を取り消されたままの状態でこちらの経営も悪化の一途、買収に乗り出すところは現れないのでは、という見方が大勢のようです。ただでさえ少子化で大学経営自体が難しいと言われる時代に、創業家というだけで不適格な人物を理事長に置いてしまった大学理事会の責任は大きいと言えるでしょう。最悪、経営破綻し、廃校・学生募集停止も考えられます。その場合、大学病院だけをどこかの医療法人が買収するという善後策も考えられるでしょう。ひょっとしたら文科省、厚労省は女子医大の破綻を想定し、すでにシナリオを描き始めているかもしれません。参考1)東京女子医大の闇/文春オンライン