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慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの有用性(解説:小川大輔氏)

 SGLT2阻害薬による糖尿病患者の腎保護効果については数多くの報告があるが、糖尿病以外の慢性腎臓病に対する効果はまだ報告が少ない。2021年にSGLT2阻害薬ダパグリフロジンが慢性腎臓病の進行を抑制するという試験結果が発表され1)、ダパグリフロジンは日本において慢性腎臓病の保険適用を取得した。今回、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの慢性腎臓病に対する試験の結果が報告された2)。 この試験では、推算糸球体濾過量(eGFR)が20~45mL/分/1.73m2未満、またはeGFR 45~90mL/分/1.73m2未満で尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が200(mg/g・CRE)以上の慢性腎臓病患者、合計6,609例をエンパグリフロジン(10mg・1日1回)投与群、またはプラセボ投与群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、腎臓病の進行(末期腎不全、eGFRが持続的に10mL/分/1.73m2未満、eGFRがベースラインから40%以上持続的に低下、腎臓病による死亡)または心血管系による死亡の複合アウトカムであった。結果は追跡期間中央値2.0年の間に、主要アウトカムの発生がエンパグリフロジン群3,304例中432例(13.1%)、プラセボ群3,305例中558例(16.9%)であった(p<0.001)。また糖尿病の有無にかかわらず、またeGFR値によるサブグループ別でも結果は一貫していた。重篤な有害事象の発生率は両群間で有意差はみられなかった。 今回の報告で、腎不全の進行するリスクが高い慢性腎臓病の患者において、エンパグリフロジンはプラセボと比較し、腎不全の増悪や心血管疾患による死亡のリスクを抑制することが示された。ただ、慢性腎臓病患者を対象としたSGLT2阻害薬の有効性を検証した試験としては、2021年に腎アウトカムや心血管アウトカムに対するダパグリフロジンの有効性がすでに報告されている。今回の試験は、慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬のクラスエフェクトとしての有効性を示した内容であるとも言えよう。 SGLT2阻害薬は糖尿病や慢性心不全だけでなく、慢性腎臓病に対しても有効であることが示され、今後臨床において使用される機会がますます増えるだろう。ただ安易な処方は有害となることもあり、厳に慎まなければならない。2022年11月29日に日本腎臓学会から、「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」が発表された3)。SGLT2阻害薬投与開始前や投与開始後の注意点について詳しく解説されている。慢性腎臓病に対してSGLT2阻害薬の処方を検討される先生はぜひ全文を一読してほしい。

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第55回

第55回 ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験冠動脈疾患の危険因子の代表である脂質への介入で、最も目覚ましい成果を挙げている薬剤がスタチンです。多くの疫学研究から、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は独立した心血管イベントのリスク因子とされます。しかしながら、スタチン治療下でも高TG血症を呈する症例にしばしば遭遇します。このような例での冠動脈疾患の残余リスク低減に、TG低下作用を持つフィブラート系薬であるペマフィブラートの効果を検証するための臨床研究が実施されました。PROMINENT試験と呼ばれ、十分量のスタチン治療下で、中性脂肪が高く、かつHDLコレステロールが低い2型糖尿病患者を対象に、この薬剤の心血管イベントの抑制作用を確認するデザインでした。2022年11月に米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で結果が発表され、その詳細は臨床系の医学雑誌の最高峰であるNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med. 2022;387:1923-1934)。この研究には日本人医師の多くが関心をもっていました。その理由は、本研究は日本人の患者を含む24ヵ国876施設から10,497例が登録されたグローバル試験であるだけでなく、本研究の鍵となるペマフィブラートが日本企業で創製され、その企業の研究開発組織からの資金提供により実施されたからです。つまり日本発の薬剤が世界に勝負を挑んだ大一番であったのです。残念!結果は期待どおりではありませんでした。ペマフィブラート群とプラセボ群のイベント発生率曲線は、観察期間中ほぼ一貫して重なっていました。事前設定されたサブグループ解析も、両群に有意差はありませんでした。つまり、心血管イベントの発生率の抑制作用は証明されなかったのです。PROMINENT試験の結果は、「negative results(否定的な結果)」でした。科学や学問の世界、とくに医療界では否定的な結果が公表されない傾向にあることが問題になっています。膨大なコストを要する臨床試験の実施には、利益を追求する企業として期待する結果があったと推察します。否定的な結果となったPROMINENT試験の結果を、公開することに同意した当該企業の高い倫理観と見識に敬意を表します。また、その否定的な結果を掲載するからこそNEJM誌は一流誌と言われるのだと納得します。否定的な結果が公表されにくい理由を考えてみましょう。単純にいえば、派手で注目を浴びるストーリーが欲しいという人間の根幹的な欲望があります。論文を掲載する側にも有効性を示すポジティブな論文を好むというバイアスがあります。ポジティブな論文のほうが被引用回数を稼ぐことも期待され、インパクトファクター上昇にも寄与します。否定的な研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、公表された論文を集めるとポジティブな結果に偏りやすいことを出版バイアスと言います。否定的な結果が公表されにくく、ポジティブな研究結果が多くなることによって、メタ解析による分析の結果が肯定的なほうへ偏るといった影響が出ます。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされ、診療ガイドラインの策定にも大きな影響を与えます。そのメタ解析の結果に誤認があれば、大勢の健康に影響を与えることに繋がります。PROMINENT試験の否定的な結果についても十分な考察が必要です。研究のベースライン時で95.7%がスタチンを投与されています。さらに、ACE阻害薬やARBの高率な使用や、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬なども影響を与えていることでしょう。心血管イベント抑制作用がすでに確認された複数の薬剤が使用可能な現状で、中性脂肪への介入の上乗せ効果を獲得する余地があるのかどうかも議論すべきでしょう。観察研究と介入研究の違いもあります。観察研究では、中性脂肪の高い人にイベントが多く、中性脂肪の低い人にイベントが少ないことは事実かもしれません。しかし、高い中性脂肪を薬剤介入で低下させることにより、イベントを抑制することが可能かどうかは別の問題なのかもしれません。人は、人生においても辛くネガティブな経験に遭遇しながらも、それに対処しながら生きているものです。企業の運営や経営も人生になぞらえることができます。これが法人という言葉の由縁です。人も企業も、ネガティブな経験に苦しむだけでなく、それを乗り越え肯定的な意味に昇華させていくことが必要です。科学や医学の発展を望むならば、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが活かされるシステムが必要です。否定的な試験には、より良い新たな臨床試験を立案するためなど重要な存在意義があるからです。今回、PROMINENT試験の結果は残念ながら否定的な結果でした。しかし、その臨床研究に取り組む姿勢や志には共感するものがあります。エールを送りたい気持ちです。製薬企業の利益の実現のためだけではなく、人類がより健康になることを目指して活動していることが伝わってきます。今後も解決すべき健康上の課題は多く残されています。今も心筋梗塞で命を落とす患者さんが存在する残念な事実が、その証左です。さあ、ポジティブに前に進みましょう!

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SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか SGLT2阻害薬に関するこれまでのシステマティックレビューやメタ解析は、2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)患者を中心に検討されてきた。本論文では、非DM患者の登録割合が多い最近の大規模研究EMPA-KIDNEY、DELIVER、DAPA-CKD加えて、2022年9月の時点における13の大規模研究、総計9万409例(DM 7万4,804例[82.7%]、非DM 1万5,605例[17.3%]、平均eGFR:37~85mL/min/1.73m2)を解析した。本研究は、DMの有無によりSGLT2阻害薬の心・腎保護作用に差異があるか否かを膨大な症例数で解析した点が新しい。本論文の主要結果 腎アウトカムは、CKD進展(eGFR 50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全)、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で評価、心血管リスクは心血管死または心不全による入院の複合項目で評価した。 結果は、SGLT2阻害薬は、CKD進展リスクを37%低下(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、DM患者(RR:0.62)と非DM患者(RR:0.69)で同等。腎疾患別では、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)(RR:0.60、95%CI:0.53~0.69)と慢性腎炎(chronic glomerulonephritis:CGN)(RR:0.60、95%CI:0.46~0.78)でのリスク低下は40%だが、腎硬化症(nephrosclerosis:NS)のリスク低下は30%であった(RR:0.70、95%CI:0.50~1.00、群間のheterogeneity p=0.67)。また、AKIのリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.74~0.81)で、これらもDMの有無にかかわらず同等であった。さらに、SGLT2阻害薬は心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクは低下させなかった(RR:0.94、95%CI:0.88~1.02)。上記のリスク軽減にベースラインのeGFRは関連していなかった。糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬はなぜ非DMでも効くのか? DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKD患者では、2型DMの有無を問わず心・腎イベントを減少させることが示唆されていた。本研究ではSGLT2阻害薬の関連する13研究の多数の症例についてメタ解析を実施し、腎アウトカムはDMの有無にかかわらず同等であることを確認した。作用機序の面から考えると、SGLT2阻害薬はDM治療薬であることから、非DM性CGNでのリスク低下は糖代謝改善では説明がつかない。では、糖代謝とは独立したいかなる機序が想定されるのであろうか。 2型DMでは、近位尿細管のSGLT2発現が増加している。そのため、輸入細動脈が拡張し糸球体過剰ろ過がみられる。CGNやNSにおいても腎機能が中等度低下すると、輸出細動脈の収縮により過剰ろ過がみられる(注:NSは病態初期は糸球体虚血があり内圧は通常上昇していない)。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でNa再吸収を抑制して遠位尿細管のmacula densa(MD:緻密斑)に流入するNaを増大させ、尿細管-緻密斑フィードバック(tubuloglomerular feedback:TGF-MD)を適正化し、糸球体内圧を低下させる。この糸球体内圧低下は、eGFRのinitial dip(初期に起こる10~20%の一過性の低下)として観察される。Initial dipはDM、非DMにかかわらず観察されることから、非DM性CKD患者においても腎保護作用の主要機序はTGF-MD機能改善による糸球体血行動態改善が考えられる(Kraus BJ, et al. Kidney Int. 2021;99:750-762.)。 一方、CKDの病態進展には、尿細管間質病変も重要である。この点、SGLT2阻害薬には、尿細管間質の線維化抑制や抗炎症効果が示唆されている(Nespoux J, et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29:190-198.)。臨床的にはエンパグリフロジンの尿中L-FABP(尿細管間質障害のマーカー)低下作用やエリスロポエチン増加に伴うHb値増加などを示唆する成績もある。SGLT2阻害薬には、上記以外にも、降圧効果、食塩感受性改善、インスリン感受性改善、尿酸値低下、交感神経機能改善、などあり、これらも重要な心・腎保護機序と考えられる。また、同剤は、近位尿細管に作用するユニークな利尿薬との仮説もある。SGLT2阻害による浸透圧利尿(グルコース尿・Na尿)は、利尿作用による水・Na負荷軽減のみならず腎うっ血を改善することで尿細管間質障害を改善させていると考えられる(Kuriyama S. Kidney Blood Press Res. 2019;44:449-456.)。本論文から何を学び、どう実地診療に生かす? SGLT2阻害薬は、単にDMのみならず動脈硬化性心血管病、心不全、CKDやDKD、NAFLDなどへ適応症が拡大していく可能性がある。最近、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRB)なる4剤の組み合わせがトレンドで脚光を浴びている。DKD治療においてもKDIGO 2022では4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド骨格MRB[フィネレノン]、GLP-1アナログ)が推奨されており(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.)、これに呼応し新たに腎臓病ファンタスティックフォー(the DKD fantastic four)なる治療戦略が提唱されつつある(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、本論文が掲載されたLancet誌上には、SGLT2阻害薬がCKD治療の早期からの「foundational drug:基礎薬」になり得るのではとのコメントもある(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。今後、DKDあるいは非DM性CKDに対しては、従来からのRAS抑制薬にSGLT2阻害薬の併用、さらに治療抵抗例にはMRBやGLP-1アナログを追加・併用する治療法が普及する可能性がある。 さて、本題の「SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?」の答えは、多因子にわたる複合的効果となろう。現在、本邦ではダパグリフロジンがCKDに適応症が取れている。腎臓病診療の現場では、ダパグリフロジンをDKD治療目的だけではなく、非DM性CGNの腎保護目的に対しても使われはじめている。例えばIgA腎炎に対する扁摘パルス療法は一定の寛解率は期待されるが、必ずしも腎予後が改善しない例もある。これらの患者のunmet needsに対してSGLT2阻害薬を含め腎臓病ファンタスティックフォーによる治療介入(とくに早期からが良い?)が新たな腎保護戦略として注目されている。

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メトホルミンに追加する血糖降下薬としてはGLP-1受容体作動薬が他剤を一歩リードしている(解説:住谷哲氏)

 多くの心血管アウトカム試験CVOTの結果を踏まえて、臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の位置付けはほぼ確立したといってよいだろう。しかし罹病期間の短い、合併症のない低リスク2型糖尿病患者はCVOTの対象患者には含まれていない。したがって、CVOTの結果がこれらの低リスク患者にそのまま適用できるかどうかは不明である。 基礎治療薬としてのメトホルミンの有効性はUKPDS 34で明らかにされたが、メトホルミン単剤で血糖コントロールが維持できないときに追加すべき血糖降下薬としては何が適切かは実は明らかになっていない。そこでメトホルミンに追加する血糖降下薬としての持効型インスリンのグラルギン、SU薬のグリメピリド、GLP-1受容体作動薬のリラグルチドそしてDPP-4阻害薬のシタグリプチンの有効性を比較した比較有効性試験comparative-effectiveness studyが本試験GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Type 2 Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)である。製薬企業が自社製品でない薬剤の有効性を証明する試験を実施することはないので、本試験は米国国家予算で実施され、薬剤を含めたすべての介入は無償で提供された。したがって、本試験における有効性effectivenessは医療費を考慮しない状況下でのeffectivenessであることに注意が必要である。結果は、glycemic durabilityにおいてはリラグルチドとグラルギンが、体重減少においてはリラグルチドとシタグリプチンが他剤に比較してより有効性が高かった。 先日発表されたADA/EASDのコンセンサスステートメントでは、2型糖尿病管理の4本柱は血糖管理glycemic management、体重管理weight management、心血管リスク管理cardiovascular risk management、心腎保護薬の選択cardiorenal protection-choice of glucose-lowering medicationとされている1)。ハイリスク患者におけるGLP-1受容体作動薬の有効性はCVOTにおいてすでに報告されているが、本試験の別の報告においても心血管アウトカムに関してリラグルチドの有効性が示唆されている2)。したがって、血糖管理、体重管理、心腎保護薬の選択からメトホルミンに追加する薬剤としては、GLP-1受容体作動薬が他剤を一歩リードしているといってよいだろう。 本試験が企画された2012年ごろには、まだSGLT2阻害薬が市場に登場していなかった。また、ピオグリタゾンについては安全性に対する懸念が少なからずあったことと予算の関係から、選択肢として試験に組み込まれなかった。メトホルミンに追加した場合の両薬剤のglycemic durabilityについてもぜひ知りたいところである。

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SGLT2阻害薬【心不全診療Up to Date】第3回

第3回 SGLT2阻害薬Key PointsSGLT2阻害薬 栄光の軌跡1)リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係?2)SGLT2阻害薬のエビデンス、作用機序は?3)最も注意すべき副作用は?はじめにSGLTとは、sodium glucose co-transporter(ナトリウム・グルコース共役輸送体)の略であり、ナトリウムイオン(Na+)の細胞内外の濃度差を利用してNa+と糖(グルコース)を同時に細胞内に取り込む役割を担っているトランスポーターである1)。このSGLTにはSGLT1-6のアイソフォームがあり2)、その1つであるSGLT2の活性を阻害するのがSGLT2阻害薬である。SGLT2は、ほぼすべてが腎臓の近位尿細管起始部の管腔側に選択的に発現しており、Na+とグルコースを1:1の割合で共輸送することで、尿糖再吸収のおよそ90%を担っている(残りの10%はSGLT1を介して再吸収)1)。このように、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、尿糖の排泄を増やすことから、血糖を下げ、糖毒性を軽減し、糖尿病の病態を改善させる薬剤として当初開発された。しかし現在、この薬は心不全治療薬として脚光を浴びている。本稿ではその栄光の軌跡、エビデンス、作用機序について考えていきたい。1. リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係SGLT2阻害薬はどのようにしてこの世に生まれたのか。そこには日本人研究者が重要な役割を担っていた。SGLT2阻害薬のリード化合物であるフロリジン(ポリフェノールの一種)は、1835年にピーターセン氏(フランス)によって『リンゴの樹皮』から抽出された。その約50年後にフォンメリング氏(ドイツ)によってフロリジンの尿糖排泄促進作用が報告された(Von Mering, J. "Über künstlichen diabetes." Centralbl Med Wiss 22 (1886):531.)。そこから約100年の時を経て、糖尿病モデル動物でのフロリジンの抗糖尿病効果(インスリン作用を介さない血糖降下作用、インスリン抵抗性改善、インスリン分泌能回復)が証明された。また時を同じくして1987年に小腸からSGLT1が発見され、フロリジンがその阻害薬であることが報告された3)。その7年後(1994年)に腎臓からSGLT1と類似した構造を持つSGLT2が同定され4)、創薬に向けた研究が進んでいった。そして1999年ついに田辺製薬(当時)より世界初の経口フロリジン誘導体(T-1095)の糖尿病モデル動物に対する糖尿病治療効果が報告された5)。ただ、フロリジンは小腸にも存在するSGLT1をも阻害するため、下痢等の消化器症状を引き起こす恐れがある6)。こうして誕生したのが現在の“選択的”SGLT2阻害薬であり、『糖を尿に出して糖尿病を治す(turning symptoms into therapy)』という逆転の発想から生まれた実にユニークな薬剤なのである7)。2. SGLT2阻害薬のエビデンスと作用機序1)SGLT2阻害薬のエビデンス 現在・過去・未来上記のとおり、SGLT2阻害薬は当初糖尿病治療薬として開発されたため、有効性を検証するためにまず行われた大規模臨床試験は2型糖尿病患者を対象としたものであった(図1)。最初に実施された心血管アウトカム試験が2015年に発表されたエンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME[対象:心血管疾患既往の2型糖尿病患者7,020名(二次予防)]であり、その結果は誰も予想しえなかった衝撃的なものであった。まず、主要エンドポイントである3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中の心血管複合エンドポイント)の相対リスクを、エンパグリフロジンがプラセボとの比較で14%有意に減少させ、これは3P-MACEを主要エンドポイントとする2型糖尿病を対象にした試験の中で、初めての快挙であった。その中でもとくに心血管死のリスクを38%減少させ、また心不全入院のリスクも35%減少させることも分かり、さらなるインパクトを与えた。その後同様に、CANVAS試験(2017年)ではカナグリフロジンが、DECLARE-TIMI 58試験(2019年)ではダパグリフロジンが、心血管イベントハイリスクの2型糖尿病患者(一次予防含む)の心血管イベントを減少させるという結果が報告された。つまり、『どうやらSGLT2阻害薬には心保護作用がありそうだ。ただこれらの試験の対象患者の多くは心不全を合併していない糖尿病患者であり、心不全患者を対象とした試験でしっかり検証すべきだ』という流れになったわけである(図1、図2)。画像を拡大する画像を拡大するこのような背景から、まずHFrEF(LVEF≦40%)に対するSGLT2阻害薬の心血管イベント抑制効果を検証するために、ダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験とエンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Reduced試験が実施された(図1)。結果は、両試験ともに、標準治療へのSGLT2阻害薬の追加が、糖尿病の有無にかかわらず、心血管死または心不全入院のリスクを26%有意に低下させることが示され8)、さらなる衝撃が走った。そうなると、次に気になるのが、もちろんLVEF>40%の慢性心不全ではどうか、ということであろう。その疑問について検証した試験が、エンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Preserved試験とダパグリフロジンを用いたDELIVER試験である(図1)。まず初めに結果が発表されたのが、EMPEROR-Preserved試験で、エンパグリフロジンを心不全に対する推奨療法を受けている患者(LVEF>40%)に追加した結果、心血管死または心不全入院の初回発現がプラセボ群と比較して21%有意に低下していた9)。この効果はLVEF≧50%の症例でも同様であった。この結果をもって、最新の米国心不全診療ガイドラインではHFpEFへのSGLT2阻害薬の投与がClass 2aの推奨となった10)。そして、最近DELIVER試験の結果も発表され、ダパグリフロジンは、LVEF>40%の慢性心不全患者の心血管死または心不全悪化(心不全入院+緊急受診)のリスクを18%有意に抑制させた11)。よって、2つのRCTでHFpEFに対するポジティブな結果が出たため、今後のガイドラインでは、EFに関わらず慢性心不全へのSGLT2阻害薬の投与がClass 1へ格上げされる可能性が高い12)。ただし、これらの試験は、NT-proBNPが上昇しているHFpEF(洞調律では300pg/mL、心房細動では600pg/mL以上)が対象であり、運動負荷検査をして初めてHFpEFと診断されるNT-proBNPがまだ上昇していない症例は含まれておらず、すべてのHFpEFでこの薬剤が有効かどうかは不明である。そして、今後も虚血領域、腎不全領域などで数多くのエビデンスが出てくる予定であり、この薬剤の効果がどこまで広がるのか、引き続き目が離せない(図3)。画像を拡大する2)SGLT2阻害薬はなぜ心不全に有効なのか?SGLT2阻害薬がなぜ心不全に有効なのか。そして今回の本題ではないが、SGLT2阻害薬には腎保護作用もあり、そのような心腎保護作用のメカニズムは何なのか。図4で示したとおり、さまざまなメカニズムが提唱されているが、どれがメインなのかは分かっておらず、それが真実なのかもしれない。つまり、これらのさまざまな心腎保護へ働くメカニズムが複合的に絡み合っての結果であると考えられる。個人的にはこの薬剤の心不全への効果は、腎臓への良い効果が主な理由と考えており、熱く語りたいところではあるが、字数足りずまたの機会とさせていただく。ただ、これは今も議論のつきないテーマであり、今後より詳細なメカニズムの解明が進んでいくものと期待される。画像を拡大する3. 最も注意すべき副作用、それは…注意すべき副作用は、正常血糖ケトアシドーシス(Euglycemic DKA)、尿路感染症、脱水である。とくにケトアシドーシスはかなり稀な副作用(DAPA-HF試験における発現率は、糖尿病患者で0.3%、非糖尿病患者では0%)ではあるが、見逃されると予後に関わることもあり、どのような患者でとくに注意すべきか把握しておかれると良い。まず、日常診療で最も起こりうる状況は、非心臓手術の前にSGLT2阻害薬が継続投与されていた時であろう(そのメカニズムは図5を参照)。術後のケトアシドーシスや尿路感染症のリスクを最小限に抑えるために、手術の少なくとも3日前からのSGLT2阻害薬の中止が推奨されていることはぜひ覚えておいていただきたい13)。また、著明なインスリン分泌低下を認める症例(インスリン長期治療を受けているなど)にも注意が必要であり、体重減少の有無や過度な糖質制限をしていないかなどしっかり確認しておこう。血糖値正常に騙されず、ケトアシドーシスを疑った場合は、速やかに血液ガス分析にてpH低下やアニオンギャップ増加がないかを確認するとともに、血清ケトン濃度を測定し,鑑別を行う必要がある。なお、日本糖尿病学会からその他の副作用も含め『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」14)が公表されており、ぜひ一読をお勧めしたい。このような副作用もしっかり理解した上で、心不全患者さんを診られた際は、これほどのエビデンスがあるSGLT2阻害薬が投与されているか、されていなければなぜ投与されていないか、を必ず確認いただきたい。画像を拡大する1)Ferrannini E, et al. Nat Rev Endocrinol. 2012;8:495-502.2)Wright EM, et al. Physiol Rev. 2011;91:733-94.3)Hediger MA, et al. Nature. 1987;330:379-81.4)Kanai Y, et al. J Clin Invest. 1994;93:397-404.5)Oku A, et al. Diabetes. 1999;48:1794-800.6)Gerich JE. Diabet Med. 2010;27:136-42.7)Diamant M, Morsink LM. Lancet. 2013;38:917-8.8)Zannad F, et al. Lancet. 2020;396:819-829.9)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.10)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Vaduganathan M, et al. Lancet. 2022;400:757-767.13)FDA Drug Safety Communication. FDA revises labels of SGLT2 inhibitors for diabetes to include warnings about too much acid in the blood and serious urinary tract infections.14)日本糖尿病学会. 糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

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SGLT2阻害で腎結石の形成抑制~日本人疫学データ、動物・細胞培養実験より

 阿南 剛氏(東北医科薬科大学医学部泌尿器科学/現:四谷メディカルキューブ 泌尿器科科長)と廣瀬 卓男氏(東北大学医学部内分泌応用医科学/東北医科薬科大学医学部)、菊池 大輔氏(東北医科薬科大学病院薬剤部)らの研究グループは、疫学研究よりナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は日本の男性糖尿病患者での尿路結石の罹患割合の減少と関連していたことを確認し、動物実験などからSGLT2阻害が腎結石の形成抑制につながることを明らかにした。このことから、SGLT2阻害薬が腎結石に対する有望な治療アプローチになる可能性を示した。本研究はPharmacological Research誌オンライン版10月28日号に掲載された。 糖尿病治療薬として上市されたSGLT2阻害薬には利尿作用と抗炎症作用があり、腎結石を予防する可能性も有している。そこで、研究者らは「大規模な疫学的データ」「動物モデル」「細胞培養実験」の3つを使用して、SGLT2阻害の腎結石に対する可能性を調査した。 研究に用いられた疫学データはメディカル・データ・ビジョン株式会社の保有する医療ビックデータが活用され、2020年1月1日~12月31日までの期間に収集された糖尿病患者データ(約153万例)をSGLT2阻害薬の処方状況などで区分した。また、動物実験ではSDラットの腎臓にシュウ酸カルシウム結石をエチレングリコールで誘発させ、in vitroの細胞培養ではヒト近位尿細管上皮細胞のHK-2(CRL-2190)を用い、腎結石形成に対するSGLT2阻害効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・153万8,198例のうち、男性は90万9,628例、女性は62万8,570例だった。そのうちSGLT2阻害薬を服用していたのは、男性が10万5,433例、女性が5万2,637例だった。・糖尿病患者のうち、男性の尿路結石の有病率はSGLT2阻害薬処方群のほうがSGLT2阻害薬非処方群よりも有意に低く、オッズ比(OR)は0.89(95%信頼区間[CI]:0.86~0.94、p

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2型DM患者の高TG血症へのペマフィブラート、心血管イベント抑制効果は?/NEJM

 軽度~中等度の高トリグリセライド血症を伴い、HDLコレステロールとLDLコレステロールの値が低い2型糖尿病患者において、ペマフィブラート(選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター)はプラセボと比較して、トリグリセライド、VLDLコレステロール、レムナントコレステロール、アポリポ蛋白C-IIIの値を低下させたが、心血管イベントの発生は抑制しなかったことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院のAruna Das Pradhan氏らが実施した「PROMINENT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2022年11月24日号に掲載された。24ヵ国のイベント主導型試験 PROMINENT試験は、日本を含む24ヵ国876施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2017年3月~2020年9月の期間に患者の登録が行われた(Kowa Research Instituteの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病と診断され、軽度~中等度の高トリグリセライド血症(空腹時トリグリセライド値200~499mg/dL)を伴い、HDLコレステロール値が40mg/dL以下の患者であった。また、患者は、ガイドラインに基づく脂質低下療法を受けているか、有害事象なしでスタチン療法を受けることができず、LDLコレステロール値が100mg/dL以下の場合に適格とされた。 被験者は、ペマフィブラート(0.2mg錠、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死の複合とされた。非アルコール性脂肪性肝疾患の頻度は低い 1万497例(年齢中央値64歳、女性27.5%)が登録され、ペマフィブラート群に5,240例、プラセボ群に5,257例が割り付けられた。1次予防の集団(年齢が男性50歳以上、女性55歳以上でアテローム動脈硬化性心血管疾患がない)が33.1%、2次予防の集団(年齢18歳以上で、アテローム動脈硬化性心血管疾患が確立されている)は66.9%であった。 ベースラインで95.7%がスタチンの投与を、80.1%がACE阻害薬またはARBの投与を、9.3%がGLP-1受容体作動薬を、16.8%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。空腹時トリグリセライド中央値は271mg/dL、HDLコレステロール中央値は33mg/dL、LDLコレステロール中央値は78mg/dLだった。追跡期間中央値は3.4年。 4ヵ月の時点におけるプラセボ群と比較した脂質値のベースラインからの変化率の差は、トリグリセライドが-26.2%(95%信頼区間[CI]:-28.4~-24.10)、VLDLコレステロールが-25.8%(-27.8~-23.9)、レムナントコレステロールが-25.6%(-27.3~-24.0)、アポリポ蛋白C-IIIが-27.6%(-29.1~-26.1)と、いずれもペマフィブラート群で低かった。一方、HDLコレステロールは5.1%(4.2~6.1)、LDLコレステロールは12.3%(10.7~14.0)、アポリポ蛋白Bは4.8%(3.8~5.8)であり、ペマフィブラート群で高かった。 有効性の主要エンドポイントは、ペマフィブラート群が572例(3.60/100人年)、プラセボ群は560例(3.51/100人年)で発生し(ハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.91~1.15、p=0.67)、両群間に差はなく、事前に規定されたすべてのサブグループで明確な効果修飾(effect modification)は認められなかった。 重篤な有害事象の発生には両群間に有意な差はみられなかった(ペマフィブラート群 14.74/100人年vs.プラセボ群14.18/100人年、HR:1.04、95%CI:0.98~1.11、p=0.23)。一方、ペマフィブラート群では、腎臓の有害事象(10.67/100人年vs.9.55/100人年、HR:1.12、95%CI:1.04~1.20、p=0.004)、静脈血栓塞栓症(0.43/100人年vs.0.21/100人年、HR:2.05、95%CI:1.35~3.17、p<0.001)の発生率が高く、非アルコール性脂肪性肝疾患(0.95/100人年vs.1.22/100人年、HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.02)の発生率が低かった。 著者は、「ペマフィブラート群で観察されたアポリポ蛋白BとLDLコレステロール値の上昇が、トリグリセライド値やレムナントコレステロール値の低下による有益性を打ち消した可能性は否定できない」としている。

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SGLT2阻害薬、DM有無問わずCKD進行と心血管死を抑制/Lancet

 SGLT2阻害薬は、心血管リスクの高い2型糖尿病患者のみならず慢性腎臓病または心不全を有する患者においても、糖尿病の状態、原発性腎疾患または腎機能にかかわらず、腎臓病進行および急性腎障害のリスクを低下させることが、英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らSGLT2 inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C)による解析の結果、報告された。Lancet誌2022年11月19日号掲載の報告。大規模二重盲検プラセボ対照試験15試験の約9万例についてメタ解析 研究グループは、MEDLINEおよびEmbaseを用い、2022年9月5日までに発表されたSGLT2阻害薬の臨床試験(SGLT1/2阻害薬の併用を含む、年齢18歳以上の成人を対象とした二重盲検プラセボ対照試験[クロスオーバー試験は除く]、各群500例以上、試験期間6ヵ月以上)を検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 2人の研究者が独立して、各試験の要約データを査読付き論文から抽出するか、または結果が公表されていない試験については治験責任医師よりデータの提供を受け、コクランバイアスリスクツール(バージョン2)を用いてバイアスリスクを評価した。また、逆分散重み付けによるメタ解析を行い、治療効果を推定した。 主な有効性の評価項目は、腎臓病進行(無作為化時からの推定糸球体濾過量[eGFR]50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全、または腎不全による死亡)、急性腎障害、ならびに心血管死または心不全による入院の複合であった。その他の評価項目は、心血管死および非心血管死、主な安全性評価項目はケトアシドーシスおよび下肢切断とした。 文献検索の結果、15試験が特定され、このうち追跡期間が6ヵ月未満の2試験(inTandem3、DARE-19)を除外した13試験(DECLARE-TIMI 58、CANVAS Program、VERTIS CV、EMPA-REG OUTCOME、DAPA-HF、EMPEROR- REDUCED、EMPEROR- PRESERVED、DELIVER、SOLOIST-WHF、CREDENCE、SCORED、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)が解析対象となった。無作為化を受けた患者は計9万413例で、このうち糖尿病の状態が不明であった4例を除く9万409例(糖尿病患者7万4,804例[82.7%]、非糖尿病患者1万5,605例[17.3%]、各試験のベースラインの平均eGFRの範囲37~85mL/min/1.73m2)が解析に組み込まれた。対プラセボで腎臓病進行リスクを37%低下、心血管死リスクを14%低下 SGLT2阻害薬はプラセボと比較して、腎臓病進行リスクを37%低下させた(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、糖尿病患者(RR:0.62)と非糖尿病患者(0.69)でほぼ同じであった。慢性腎臓病を有する患者を対象とした4件の試験(CREDENCE、SCORED、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)では、原発性腎疾患の診断にかかわらず腎臓病進行リスクのRRは類似していた。 また、SGLT2阻害薬はプラセボと比較して、急性腎障害のリスクを23%(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクを23%(0.77、0.74~0.81)低下させ、いずれも糖尿病の有無にかかわらず同様の効果がみられた。 SGLT2阻害薬は、心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクの有意な低下は認められなかった(0.94、0.88~1.02)。これら死亡の評価項目に関するRRは、糖尿病患者と非糖尿病患者で類似していた。 すべての評価項目において、各試験のベースラインの平均eGFRに関係なく、結果はほぼ同様であった。絶対効果の推定に基づくと、SGLT2阻害薬の絶対利益は、ケトアシドーシスや切断の重篤な危険性を上回った。

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Pharmacoequity―SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬は公正に処方されているか?-(解説:住谷哲氏)

 筆者は本論文で初めてpharmacoequityという用語を知った。「処方の公正性」とでも訳せばよいのだろうか。平等equalityと公正equityとの違いもなかなか難しいが、この用語の生みの親であるDr. Utibe R. Essienは、Ensuring that all individuals, regardless of race, ethnicity, socioeconomic status, or availability of resources, have access to the highest quality medications required to manage their health is “pharmacoequity”. と述べている1)。その意味するところを簡単に言えば、エビデンスに基づいた治療薬を必要とするすべての患者に公正に処方することを担保するのがpharmacoequityである、となる。 Essienが最初に報告したのは、心房細動患者に対するDOACをはじめとする抗凝固薬の処方率が人種race/民族ethnicityで異なり、白人に比較してアジア人と黒人で有意に低かった、とするものである2)。この研究も本論文と同じく対象患者は退役軍人保健局(Veterans Health Administration)の加入者であり、これが両論文のポイントであるが、すべての加入者に薬剤が無料または低価格で提供されるため、薬価によるバイアスがほとんどない。本論文は同様のアプローチで、心房細動患者に対する抗凝固薬の代わりに、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率を検討した研究である。その結果は、抗凝固薬の場合と同様に、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率は白人に比較して黒人で有意に低率であった。 人種/民族が、なぜ抗凝固薬またはSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率と関連していたのかは、両研究では明らかになっていない。しかし心房細動患者に対する抗凝固薬の処方だけではなく、本論文によって2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方にも人種/民族が影響していることが明らかとなった。したがって、他のエビデンスに基づいた治療薬の処方においても同様の状況にある可能性は十分にある。EBMの実践が人種/民族によって影響される状況は公正とは言えないだろう。多民族国家ではないわが国ではこのあたりの状況に敏感ではないが、医療における公正性equity in medicine をいま一度よく考える契機となる報告である。

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非専門医が使える「糖尿病治療のエッセンス」2022年版/日本糖尿病対策推進会議

 わが国の糖尿病患者数は、糖尿病が強く疑われる予備群を含め約2,000万人いるとされているが、糖尿病の未治療者や治療中断者が少なくない。 そこで、糖尿病診療のさらなる普及を目指し、日本糖尿病学会をはじめとする日本糖尿病対策推進会議は、糖尿病治療のポイントをとりまとめて作成した『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』を制作し、日本医師会のホ-ムページより公開した。糖尿病治療のエッセンスの改訂は今回で5回目となる。 糖尿病治療のエッセンスの今改訂では、(1)かかりつけ医から糖尿病・腎臓の専門医・専門医療機関への照会基準を明確に解説、(2)最新の薬剤情報へアップデートなど、よりわかりやすい内容に見直しを行った。『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』主な内容と使用図表の一覧(主な内容)1)糖尿病患者初診のポイント2)治療目標・コントロール指標3)治療方針の立て方4)食事療法・運動療法 薬物療法のタイミングと処方の実際5)糖尿病合併症 医療連携 (使用図表)図1 糖尿病の臨床診断のフローチャート図2 血糖コントロール目標図3 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)図4 糖尿病患者の治療方針の立て方図5 有酸素運動とレジスタンス運動図6 かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準図7 かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準表1 その他のコントロール指標表2 主な経口血糖降下薬の特徴(赤字は重要な副作用)表3 GLP-1受容体作動薬 (リベルサス以外は注射薬)表4 インスリン注射のタイミング、持続時間と主な製剤の比較表5 基礎インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合注射薬表6 代表的なインスリンを用いた治療のパターン表7 糖尿病性腎症病期分類図 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ 同会議では「糖尿病診療は新しい取り組みや薬物療法など、そのとりまく環境は大きく変化している。本書を活用し、最新の知見について理解を深め、日常診療において、糖尿病患者の早期発見、治療に役立てて、糖尿病診療に携わる医療関係者にとって医療連携のツールとして、その発展につながることを願っている」と『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』に期待を寄せている。

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「糖尿病」の名称変更、医師の6割が反対/医師1,000人アンケート

 これまで、病名とその患者の関係性を考えたことはあるだろうか? 近年、糖尿病患者が社会的にスティグマ(偏見)を持たれていることを受け、日本糖尿病協会のアドボカシー活動の1つとして、医療現場の言葉の見直しが検討されている。そのなかに、『糖尿病』という疾患名も含まれており、将来、疾患名が変更されるかもしれない。そこで、ケアネットは会員医師1,028人に対し、緊急のアンケート調査を実施した。糖尿病の名称変更は年齢問わず、半数以上が“反対” Q1「『糖尿病』の名称変更について、賛成ですか?反対ですか?」対し、賛成は37%、反対は63%であった。年齢による差はとくに見られず、理由は以下のとおり。<賛成>・糖尿病自体が病態を的確に示した言葉ではないから(20代、臨床研修医)・若年発症の1型糖尿病患者、とくに女性患者で自身の疾患名についてコンプレックスを抱いている例が多いため(30代、糖尿病・内分泌内科)・心血管イベントを想起させるような名前にしたほうがいいと思うから(40代、リハビリテーション科)・SGLT2阻害薬の普及で、ますますオシッコの甘い感が強調されているので(50代、放射線科)<反対>・尿という言葉が持つ負のイメージへの懸念が、名称変更のデメリットを上回ると思えない(30代、小児科)・理由の1つに挙げられた「住宅ローンや生命保険に入れない」というのは名称変更で解決できる問題ではない。一般に浸透しているし、名称そのものが悪印象なわけではないと思う(40代、循環器内科/心臓血管外科)・患者に振り回されるのもどうかと思う。そんなこと言いだしたらキリがないんじゃないでしょうか。新しい病名にもよるけれど(50代、眼科)・すでに広く認知されている。名前を変えることで、有病者の受診行動が変わるとは思えない(60代、腎臓内科) などが挙げられた。賛成意見では「患者が望むなら」という患者視点でのコメントが多く、一方で反対意見には「名称変更が偏見払拭にならないのでは」という指摘が多かった。病気の名称変更問題、“尿”がダメなら“臭”もダメでは… Q3で糖尿病以外に名称変更が望まれる疾患を尋ねたところ、『重症筋無力症』『悪性貧血』などが挙げられた。これらの病名に共通するのが、重症、悪性というマイナスイメージの表現が付いている点で、これにより患者の不安が強まったという経験をしたと複数名が答えていた。同様に「『〇〇奇形』も負のレッテルを貼られている印象がある」との回答が寄せられた。このほか、「病名の文字が不快と感じるのであれば、腋臭症も変更に値するのではないか。“尿”が負のイメージであるとするのであれば“臭”がより負のイメージが強い」という意見もあった。 糖尿病の名称変更問題は“患者だけ”“医療者だけ”の問題ではないことは周知の事実である。今回のアンケートでは反対意見が多かったものの、患者の病名によるスティグマを軽視しているのではなく、病名を変えるさまざまなリスクに基づき意見していることが明らかになった。 また、患者1,087人を対象とした日本糖尿病協会のアンケート調査「糖尿病の病名に関するアンケート」の結果も、単純に名称変更を訴えるものではなく、病名変更を願ったり、偏見や誤解に悩んだりしている患者がいることを医療者に理解して欲しいという思いが込められている。 医師と患者のアンケート調査1)2)から双方の意見が出揃った今、お互いの意見を尊重し議論が進んでいくことを願う。1)回答者:全医師の0.3%(令和2年12月31日現在の全国の届出「医師」は33万9,623人)2)回答者:糖尿病有病者の0.01%(糖尿病が強く疑われる者[糖尿病有病者]は約1,000万人:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果より)糖尿病の名称変更についてのアンケート詳細を公開中『「糖尿病」の名称変更、医師は賛成?反対?』<アンケート概要>目的:日本糖尿病協会が「糖尿病」の名称変更を検討する方針を示したことを受け、医師の意見を調査した。対象:ケアネット会員医師1,028人調査日:2022年11月10日方法:インターネット

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GRADE試験―比較効果研究(comparative effectiveness research)により示されたGLP-1受容体作動薬の優位性(解説:景山茂氏)

 GRADE試験は著者らが述べているように比較効果研究(comparative effectiveness research)である。糖尿病治療薬については2008年の米国FDAのrecommendation以来、新規に開発される薬物については治験段階から心血管イベントに対する影響が検討されている。これらの成果として、近年はGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の臓器保護効果が検証された。しかし、これらはプラセボを対照とした試験が多く、必ずしも数多くある治療薬の中でどれがよいかを示すものではなく、また、それを目的として行われたわけでもない。 比較効果研究で観察するのは、efficacyではなく、実臨床における効果effectivenessである。そして、対照はプラセボではなく実薬である。GRADE試験はランダム化比較試験 (randomized controlled trial:RCT)であるが、盲検化はされておらず、日常診療に近い形で行われている。また、比較効果研究のスタディ・デザインはRCTに限らず、観察研究やデータベース研究によっても行われる。 さて、GRADE試験は、これまでのプラセボ対照試験で示された成績からある程度推測される結果を示した。本試験は心血管イベントの群間差を把握するようデザインされていないが、GLP-1受容体作動薬の心血管系保護の優位性を示唆している。本試験にSGLT2阻害薬が含まれていないのは残念であるが、これはGRADE試験の計画開始時期によるのかもしれない。 糖尿病治療薬のように数多くの選択肢のある領域においては、何が最善の選択であるかを明確にすることを目的とした比較効果研究が必要であり、この分野の充実が望まれる。

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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の処方率、人種・民族間で格差/JAMA

 2019~20年の米国における2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方率は低く、白人や非ヒスパニック/ラテン系と比較して、とくに他の人種やヒスパニック/ラテン系の患者で処方のオッズ比が有意に低いことを、米国・カリフォルニア大学のJulio A. Lamprea-Montealegre氏らが、米国退役軍人保健局(VHA)の大規模コホートデータ「Corporate Data Warehouse:CDW」を用いた横断研究の結果、報告した。2型糖尿病に対する新しい治療薬は、心血管疾患や慢性腎臓病の進行リスクを低減することができるが、これらの薬剤が人種・民族にかかわらず公平に処方されているかどうかは、十分な評価がなされていなかった。著者は、「これらの処方率の差の背景にある要因や、臨床転帰の差との関連性を明らかにするために、さらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2022年9月6日号掲載の報告。2型DM患者約120万例について2019~20年の処方率を人種・民族別に検討 研究グループは、成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方における人種・民族による差異を調査する目的で、CDWのデータを用い、2019年1月1日~2020年12月31日の期間にプライマリケア診療所を2回以上受診した2型糖尿病成人患者を対象に解析した。 医療給付申請時またはVHA施設の受診時に質問票で確認した、自己申請に基づく人種・民族別に、研究期間中のSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方(あらゆる有効処方箋)率を評価した。なお、SGLT2阻害薬はertugliflozin、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、GLP-1受容体作動薬はセマグルチド、リラグルチド、albiglutide、デュラグルチドを評価対象とした。 解析対象は、119万7,914例(平均年齢68歳、男性96%、アメリカ先住民/アラスカ先住民1%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民2%、黒人/アフリカ系アメリカ人20%、白人71%、ヒスパニック/ラテン系7%)であった。処方率は全体で8~10%、白人以外の人種、とりわけヒスパニック/ラテン系で低い 全対象における処方率は、SGLT2阻害薬10.7%、GLP-1受容体作動薬7.7%。人種・民族別ではそれぞれ、アメリカ先住民/アラスカ先住民で11%、8.4%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民11.8%、8.0%、黒人/アフリカ系アメリカ人8.8%、6.1%、白人11.3%、8.2%であった。また、ヒスパニック/ラテン系では11%、7.1%、非ヒスパニック/ラテン系では10.7%、7.8%であった。 患者およびシステムレベルの因子を調整後のSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方率は、白人と比較して、他のすべての人種で有意に低かった。白人との比較で処方オッズが最も低かったのは黒人であった(SGLT2阻害薬の補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.71~0.74]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.64[95%CI:0.63~0.66])。 また、ヒスパニック/ラテン系の患者は、非ヒスパニック/ラテン系の患者と比較して、処方オッズが有意に低かった(SGLT2阻害薬の補正後OR:0.90[95%CI:0.88~0.93]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.88[95%CI:0.85~0.91])。

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収縮機能の良しあしにかかわらず心不全へのSGLT2阻害薬の有効性を確認、しかし副作用に対する注意は不可欠(解説:桑島巌氏)

 糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬がいまや心不全治療薬として大ブレークしている。心不全でも収縮機能が低下しているHFrEF(heart failure with reduced EF)に対する有効性は多くの大規模臨床試験で証明されていたが、収縮機能が良好な心不全(HFpEF)に対する有用性は明らかではなかった。 しかしDELIVER試験(2021年)とEMPEROR-Preserved試験(2022年)という2つの大規模臨床試験によってHFpEFに対する有効性も確認され、心不全治療薬としての適応範囲は大きく広がる可能性が示された。 本論文は、この2つのtrialに加えて、DAPA-HFとEMPEROR-ReducedというHFrEFに関するtrial、さらに全ての心不全に対する有用性を検証したSOLOIST-WHFの合計5試験、2万1,947例の被験者を対象としてメタ解析したものである。主要エンドポイントは、ランダム化時点から、心血管死または心不全による入院までの期間である。 その結果、HFpEFに対する有用性が2トライアルのメタ解析で明らかになったのみならず、収縮機能が低下した心不全を加えた5つの臨床試験でも、心不全死、および入院に対する予後改善効果が明らかになった。 これにより、SGLT2阻害薬は、糖尿病の有無や収縮機能のいかんにかかわらず心不全全般に有効であるという根拠が示されたことになり、心不全ガイドラインにも大きく影響するであろう。 しかしいずれの試験でも高度の腎障害例が対象例から除外されていることや対象例のeGFR平均値がSOLOIST-WHFの49.7mL/min/1.73m2以外の試験ではいずれも60以上であることは留意しておく必要がある。 本試験はあくまでも心不全の予後に関するメタ解析であり、臨床現場では、尿路感染症、脱水などの個々の有害事象には十分注意すべきである。

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左室駆出率の軽度低下または保持心不全、ダパグリフロジンが有効/NEJM

 左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保持された心不全(HFpEF)患者の治療において、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるダパグリフロジンはプラセボと比較して、心不全の悪化または死亡のリスクを有意に低減させるとともに、症状の負担を軽減し、有害事象の発現状況は同程度であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のScott D. Solomon氏らが実施した「DELIVER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年8月27日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 DELIVER試験は、左室駆出率が軽度低下または保持された心不全患者の治療における、ダパグリフロジンの有効性と安全性の評価を目的とするイベント主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年12月の期間に、日本を含む20ヵ国353施設で参加者のスクリーニングが行われた(AstraZenecaの助成による)。 対象は、年齢40歳以上、安定期の心不全で、左室駆出率が過去に40%以下に低下したが試験登録時には40%以上に上昇しており、2型糖尿病の有無は問わず、構造的心疾患を有し、ナトリウム利尿ペプチド値の上昇が認められる患者とされた。 被験者は、通常治療に加え、ダパグリフロジン(10mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心不全の悪化(心不全による予定外の入院または心不全による緊急受診と定義)または心血管死の複合とされ、time-to-event解析で評価された。また、左室駆出率が正常範囲の患者で薬剤の効果が減弱する可能性が指摘されていたため、60%未満の患者の解析も行った。糖尿病の有無や左室駆出率を問わずに使用の可能性 6,263例が登録され、ダパグリフロジン群に3,131例(平均年齢71.8±9.6歳、女性43.6%、平均左室駆出率54.0±8.6%、2型糖尿病44.7%)、プラセボ群に3,132例(71.5±9.5歳、44.2%、54.3±8.9%、44.9%)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.3年だった。 主要アウトカムの発現率は、ダパグリフロジン群が16.4%(512/3,131例、7.8件/100人年)と、プラセボ群の19.5%(610/3,132例、9.6件/100人年)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.92、p<0.001)。これは、左室駆出率60%未満の患者でも同程度だった(0.83、0.73~0.95、p=0.009)。 主要アウトカムの個々の項目の発現率は、心不全の悪化はダパグリフロジン群が11.8%(368例)、プラセボ群は14.5%(455例)であり(HR:0.79、95%CI:0.69~0.91)、心血管死はそれぞれ7.4%(231例)および8.3%(261例)であった(0.88、0.74~1.05)。また、全死因死亡にも、心血管死と類似の傾向がみられた(0.94、0.83~1.07)。これらの結果は、左室駆出率60%未満の患者でも同程度であった。 主要アウトカムに関するダパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無を含め事前に規定されたほとんどのサブグループで認められた。 また、副次アウトカムである心不全の悪化(初発、再発)と心血管死の総件数は、ダパグリフロジン群で少なく(HR:0.77、95%CI:0.67~0.89、p<0.001)、ベースラインから8ヵ月時までのカンザスシティ心筋症質問票スコア(KCCQスコア、0~100点、点数が高いほど症状や身体制限が少ない)の変化量でみた心不全症状に関しても、ダパグリフロジン群で優れることが示された(win ratio:1.11、95%CI:1.03~1.21、p=0.009)。 有害事象の発生率には2つの群で差はなかった。重篤な有害事象は、ダパグリフロジン群が43.5%、プラセボ群は45.5%で報告され、試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、両群とも5.8%で認められた。 著者は、「本試験では、左室駆出率に関して不均一性は認められず、60%未満と60%以上で全体として同様の治療効果が認められた」とし、「今回の結果から、左室駆出率40%以下の心不全を対象とした先行試験(DAPA-HF試験)と同様に、左室駆出率40%以上の患者においてもダパグリフロジンは心不全の悪化または心血管死のリスクを改善することが明らかとなった。これらのデータは、2型糖尿病の有無や左室駆出率の値にかかわらず、心不全患者における必須の治療法として、SGLT2阻害薬の使用を支持する新たなエビデンスを提供するものである」としている。

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4つのステップで糖尿病治療薬を判断/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、9月5日に同学会のホームページで「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を発表した。 このアルゴリズムは2型糖尿病治療の適正化を目的に、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して作成されている。 具体的には、「Step 1」として病態に応じた薬剤選択、「Step 2」として安全性への配慮、「Step 3」としてAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患をあげ、「Step 4」では考慮すべき患者背景をあげ、薬剤を選択するアルゴリズムになっている。 同アルゴリズムを作成した日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会では序文で「わが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、新しいエビデンスを加えながら、より良いものに進化し続けていくことを願っている」と今後の活用に期待をにじませている。体形、安全性、併存疾患、そして患者背景で判断 わが国の2型糖尿病の初回処方の実態は欧米とは大きく異なっている。高齢者へのビグアナイド薬(メトホルミン)やSGLT2阻害薬投与に関する注意喚起が広く浸透していること、それに伴い高齢者にはDPP4阻害薬が選択される傾向が認められている。 その一方で、初回処方にビグアナイド薬が一切使われない日本糖尿病学会非認定教育施設が38.2%も存在していたことも明らかになり、2型糖尿病治療の適正化の一助となる薬物療法のアルゴリズムが必要とされた。 そこで、作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して制作された。 最初にインスリンの適応(絶対的/相対的)を判断したうえで、目標HbA1cを決定(目標値は熊本宣言2013などを参照)し、下記のステップへ進むことになる。【Step 1 病態に応じた薬剤選択】・非肥満(インスリン分泌不全を想定)DPP-4阻害薬、ビグアナイト薬、α-グルコシダーゼ阻害薬など・肥満(インスリン抵抗性を想定)ビグアナイト薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など【Step 2 安全性への配慮】別表*に考慮すべき項目で赤に該当するものは避ける(例:低血糖リスクの高い高齢者にはSU薬、グリニド薬を避ける)【Step 3 Additional benefitsを考慮するべき併存疾患】・慢性腎臓病:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬・腎不全:SGLT2阻害薬・心血管疾患:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬【Step 4 考慮すべき患者背景】別表*の服薬継続率およびコストを参照に薬剤を選択(フォロー)・薬物療法開始後、およそ3ヵ月ごとに治療法の再評価と修正を検討する。・目標HbA1cを達成できなかった場合は、病態や合併症に沿った食事療法、運動療法、生活習慣改善を促すと同時に、Step1に立ち返り、薬剤の追加などを検討する。*別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ―本邦における初回処方の頻度順の並びで比較―(本稿では省略)

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SGLT-2阻害薬、全心不全患者の心血管死・入院を抑制/Lancet

 心不全患者に対するSGLT-2阻害薬は、駆出率や治療施設の違いにかかわらず、心血管死または心不全による入院リスクを有意に低減することが示された。米国・ハーバード・メディカル・スクールのMuthiah Vaduganathan氏らが、駆出率が軽度低下または駆出率が保持された心不全をそれぞれ対象にした大規模試験「DELIVER試験」「EMPEROR-Preserved試験」を含む計5試験、被験者総数2万1,947例を対象にメタ解析を行い明らかにした。SGLT-2阻害薬は、駆出率が低下した心不全患者の治療についてはガイドラインで強く推奨されている。しかし、駆出率が高い場合の臨床ベネフィットは確認されていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「SGLT-2阻害薬は、駆出率や治療施設の違いにかかわらず、すべて心不全患者の基礎的治療とみなすべきである」と述べている。Lancet誌2022年9月3日号掲載の報告。幅広い心不全患者を対象に調査 研究グループは、駆出率が低下または保持されている心不全患者を対象とした2つの大規模試験「DELIVER試験」「EMPEROR-Preserved試験」と、駆出率が低下した心不全患者を対象とした「DAPA-HF試験」「EMPEROR-Reduced試験」、駆出率を問わず心不全の悪化で入院した患者を対象とした「SOLOIST-WHF試験」について、事前規定のメタ解析を行い、心血管死および患者サブグループにおけるSGLT-2阻害薬の治療効果を調べた。 各試験データと共通エンドポイントを用い、固定効果メタ解析を行い、心不全の種々のエンドポイントに対するSGLT-2阻害薬の有効性を検証した。 今回のメタ解析の主要エンドポイントは、無作為化から心血管死または心不全による入院までの時間だった。また、注目されるサブグループで、主要エンドポイントの治療効果の不均一性を評価した。心血管死/心不全入院を20%低減 「DELIVER試験」と「EMPEROR-Preserved試験」の被験者総数1万2,251例において、SGLT-2阻害薬は心血管死または心不全による入院を低減し(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.73~0.87)、各イベントについても一貫して低減が認められた(心血管死のHR:0.88、95%CI:0.77~1.00、心不全による初回入院のHR:0.74、95%CI:0.67~0.83)。 より幅広い被験者を対象とした全5試験の被験者総数2万1,947例における解析でも、SGLT-2阻害薬は心血管死または心不全による入院リスクを低減し(HR:0.77、95%CI:0.72~0.82)、心血管死(0.87、0.79~0.95)、心不全による初回入院(0.72、0.67~0.78)、全死因死亡(0.92、0.86~0.99)のリスクも低減することが認められた。 これらの治療効果は、駆出率が軽度低下した心不全または保持された心不全を対象とした2試験において、また5試験すべてにおいても一貫して観察された。さらに、主要エンドポイントに関するSGLT-2阻害薬の治療効果は、評価した14のサブグループ(駆出率の違いなどを含む)でも概して一貫していた。

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