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蟻の一穴が全身の代謝と機能不全を改善するとは(SGLT2阻害薬とHFrEFの話)(解説:絹川弘一郎氏)-1322

 EMPEROR-Reducedは心血管死亡を抑制できず、DAPA-HFほどのインパクトは正直なかったが、メタ解析しても本質的違いは認められず、SGLT2阻害薬は完全にクラスエフェクトかどうかは微妙だが、この2剤(とカナグリフロジンも?)を考えている限り、HFrEFのNYHA IIには必ず使用すべきものとなった。あらためて言うまでもないが、糖尿病の有無にはまったく関係ない。まず、EMPEROR-ReducedとDAPA-HFの違いを説明する。EMPEROR-ReducedでEF30~40%の患者で全然イベントが減っていない。これが差をもたらしている。DAPA-HFでのEF別解析を見ると微妙にEF40%近くでHRが1の方向に向かっており、DECLARE-TIMI58のサブ解析(ちなみにこの京大加藤先生のCirculationは素晴らしいの一言、読んでいない人は一読を!)でも示されているようにSGLT2阻害薬はどうやらHFrEF(あとはMI後―これはHFrEFと考え方は同じ―これもDECLARE-TIMI58のサブ解析でCirculationになってる)の薬剤であるようだが、さすがにEF35%で効きませんと言われたらびっくりである。これはEMPEROR-Reducedのエントリー基準が悪い。EFが30%以上の患者ではイベント発生率を均てん化するという目的でNT-proBNP高値(EF31~35%で1,000以上、36~40%で2,500以上)の患者しかエントリーしないとしてしまった。おそらくその場合NYHA的には重症であろうし、腎機能低下例も多いはずで、DAPA-HFはこのような訳のわからないことはしていない。EFもBNPも予後のサロゲートマーカーであり、イベント発生率を調整するために全体でEF<40%プラスNT-proBNP>600などとするのは最近一般化しているが、今回あまりにいじり過ぎで失敗したといえよう。そもそも1,000とか2,500になんの根拠があるのか全然わからない。なお、DAPA-HFとのメタ解析を見てもNYHA III-IVにはSGLT2阻害薬は予後改善効果がほとんどないので、あまりBNPが高い症例は不向きである。そのための薬剤はvericiguatとomecamtiv mecarbilが待っている。 上記でも触れたようにSGLT2阻害薬はそんなに重症でないNYHA IIのHFrEF患者がスイートスポットである。ある意味ARNIと同じくらい(もちろん、併用すべき)。EF別のDAPA-HFの解析を見てもEF<15%ではあまり効いていない。心筋梗塞後の少しEFが低下した症例などはミッドレンジEF40~50%でも効くかもしれない(これは今後検証される予定)。私はSGLT2阻害薬をHFrEF治療のファーストラインドラッグ(ARNI/β遮断薬/MRAに加えて)と考える理由は、この薬剤の有効性のメカニズムが交感神経系やRAAS系とほとんどオーバーラップしていないながら、HFrEFの予後改善の作法どおり、リバースリモデリングを起こしているからである。まずカプランマイヤー曲線を見ても投与直後から心不全入院を抑制するメカニズムはいろいろ考えてもやはり利尿しかない。交感神経系については利尿後に心拍数が上がらないところからある程度の抑制的作用があると思われるが、さほど強い交感神経抑制作用は今まで報告はないようである(仮にあってもβ遮断薬が要りませんということはありえない、ちなみにCANVASではβ遮断薬不使用でイベント抑制効果が消える)。RAAS系についてはこの利尿期にむしろわずかながら活性化されることは私たちも示しているが、他のグループも同様の結果を得ている(だからARNIとMRAは入れておく必要あり)。つまり、今までの神経体液性因子のストーリーとは別の作用点があるはずである。また遠隔期の予後改善効果を利尿一本やりではやはり無理がある。さらに急性期の利尿効果は(自明ともいえるが)血糖依存性であることはわれわれも示しており、non-DMの患者でのEMPEROR-Reducedの解析を見ると最初の3ヵ月心不全入院のカプランマイヤー曲線が分離していないことは非糖尿病心不全患者での急性期利尿作用の貢献度が相対的に低いことは感じられる。 ケトン体増加による心筋代謝改善については一定の役割はあると思われる。しかし、問題もある。糖尿病を有しないHFrEFで糖代謝依存になっているときにケトン体が代替燃料というのはわかりやすいが、そうたくさんはケトン体は増えていない。一方糖尿病患者ではSGLT2阻害薬でケトン体は増えるものの、インスリン抵抗性で糖代謝が減少しているときにそれで糖代謝が改善するというVerma論文のロジックがよくわからない。さらに糖尿病とHFrEFが共存するとき、代謝がどうなっているのか、ほとんど知られていない。心筋代謝は百人いれば百の説があるくらい混乱を極めており、まだまだこれからの分野である。 近位尿細管細胞のATP消費抑制とhypoxia改善によるHIF-1α減少と腎保護効果に合わせてエリスロポエチンとヘモグロビンの増加についてはHIF-2α増加を介するといわれてきているが、ヘモグロビンの増加自体は0.5程度であり、以前のRED-HF試験の結果(ダルベポエチンで1.5増加させた)を見てもその程度で心不全の予後は改善しない。補助的には効いているかもしれないが、ヘモグロビン値はHIF-2αシグナリングのマーカーと考えるのが良いと思われる。HIF-2αの活性化はSGLT2阻害薬による擬似飢餓状態のシグナリングSIRT1から来るようである(SIRT1シグナリングからオートファジーの活性化とか酸化ストレス障害の抑制とかなってくるとホント?感が強くなってくるが)。ここが臨床的に検証されるのはとても困難であろうし、この擬似飢餓状態シグナリングが心筋細胞でも生じるというのが必要であるが、少なくともエリスロポエチンとヘモグロビンとヘマトクリットが増えているという部分は間違いない事実であり、mediation解析でも心血管死を説明するのにヘモグロビンが最強の因子であるわけで、擬似飢餓状態のシグナリングが一番魅力的な仮説のように思われる。SGLT2阻害薬は近位尿細管にのみ直接作用点があるにしてはその蟻の一穴を通して全身への波及効果が力強く、糖尿病治療薬から脱皮して、今までに遭遇したことのないCKD治療薬(DAPA-CKD)と心不全治療薬となったようである。

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基礎インスリン週1回投与の時代は目前に来ている(解説:住谷哲氏)-1317

 1921年にカナダ・トロント大学のバンティングとベストがインスリンを発見してから来年で100年になる。1922年にはインスリンを含むウシの膵臓抽出液がLeonard Thompsonに投与されて劇的な効果をもたらした。同年に米国のイーライリリーが世界で初めてインスリンの製剤化に成功し、1923年にインスリン製剤「アイレチン」が発売された。また北欧での製造許可を得たデンマークのノルディスク(ノボ ノルディスクの前身、以下ノボ社)から「インスリンレオ」が発売された。膵臓抽出物から精製されたこれらのインスリンは正規インスリン(regular insulin)と呼ばれ、われわれが現在R(regularの頭文字)と称しているインスリンである。 レギュラーインスリンは作用時間が約6時間程度であり、血中有効濃度を維持するためには頻回の注射が必要となる。そこで作用時間を延長するための技術開発が開始され、最初に世に出たのがNPH(neutral protamine Hagedorn)で、これはレギュラーインスリンにプロタミンを添加することで作用時間の延長を可能とした。その後は遺伝子工学が導入されてインスリンのアミノ酸配列の変更や側鎖の追加が可能となり、われわれが現在持効型インスリンと称しているグラルギン、デグルデクが登場した。ノボ社のデグルデクはインスリン分子に脂肪酸側鎖を追加することでアルブミンとの結合を増強し、それにより血中有効濃度の維持を可能とした。この技術は同社のGLP-1受容体作動薬のリラグルチド、セマグルチドの開発にも応用された。とくにセマグルチドは週1回投与を可能としたものであり、この技術がインスリンに応用されるのも時間の問題であったが、本論文で週1回投与のinsulin icodecが報告された。 結果は、26週の観察期間において、毎日投与のグラルギンと比較して血糖降下作用、安全性の点で同等であることが明らかとなった。試験デザインとしてdouble-dummy法(被験者はグラルギン実薬毎日投与+icodecプラセボ週1回投与またはグラルギンプラセボ投与+icodec実薬投与のいずれかに振り分けられた)を用いることでmaskingは確保されているので、結果の内的妥当性に問題はない。 おそらくわが国では数年後にinsulin icodecが発売されると思われる。現在ある週1回投与のセマグルチドとの配合剤も遠からず登場してくるだろう。ひょっとすると月1回投与の基礎インスリンが登場するのも夢物語ではないかもしれない。一方で持続時間のより短い改良型超速効型インスリンもすでに2剤が発売されている。われわれ医療者はこれら多くの選択肢から目の前の患者に最も適したインスリン製剤を選択する腕が問われる時代になってきたといえるだろう。

103.

添付文書改訂:フォシーガ適応に慢性心不全/フルティフォームに小児用量/メマリー副作用に徐脈性不整脈/ネオーラル内用液適応に川崎病【下平博士のDIノート】第62回

フォシーガ:SGLT2阻害薬で初の心不全適応<対象薬剤>ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<改訂年月>2020年11月(予定)<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全。ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬は、近年、心血管予後や腎予後の改善に関する報告が次々となされています。本剤は、20ヵ国410施設で左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象に実施した無作為化二重盲検第III相試験「DAPA-HF試験」の探索的解析結果において、推奨治療への追加が、糖尿病の有無にかかわらず心血管死または心不全増悪のリスクをプラセボと比較して有意に低下させたことが示されました。今回の改訂により、わが国で初めての心不全適応を持つSGLT2阻害薬となります。作用機序は不明ですが、製造販売元のアストラゼネカは、体液量調節を介した血行動態に対する作用などが心不全の改善に寄与する可能性に言及しています。本剤は、HFrEF患者であれば、糖尿病合併の有無によらず、標準治療に併用して使用することができます。なお、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していません。参考アストラゼネカのSGLT2阻害剤フォシーガ、DAPA-HF試験サブ解析で心不全悪化または心血管死の発現率の低下を示すフルティフォーム:新たに小児適応が追加<対象薬剤>フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物吸入薬(商品名:フルティフォーム50エアゾール56吸入用/120吸入用、製造販売元:杏林製薬)<改訂年月>2020年6月<改訂項目>[追加]用法および用量小児:通常、小児には、フルティフォーム50エアゾール(フルチカゾンプロピオン酸エステルとして50μgおよびホルモテロールフマル酸塩水和物として5μg)を1回2吸入、1日2回投与する。<Shimo's eyes>本剤は、ステロイド吸入薬(ICS)フルチカゾンプロピオン酸エステル(商品名:フルタイド)と、長時間作用型β2刺激薬(LABA)ホルモテロールフマル酸塩(同:オーキシス)の配合吸入薬です。小児適応のある吸入薬は成人と比べるとまだ少ないですが、今回の改訂により小児気管支喘息の新たな治療選択肢が増えました。なお、高用量製剤(フルティフォーム125)には小児への適応がないので注意しましょう。小児は1回2吸入、1日2回の投与となっており、それ以上の増量はできません。また、5歳未満の小児では臨床試験が未実施のため注意喚起がされています。ボンベをうまく押せない場合は吸入補助器具(フルプッシュ)、吸気の同調が難しい場合にはスペーサーを用いるなど、適正に使用できるようにしっかりサポートしましょう。参考杏林製薬 添付文書改訂のお知らせメマリー:重大な副作用に徐脈性不整脈が追加<対象薬剤>メマンチン塩酸塩製剤(製品名:メマリー錠・OD錠 5mg/10mg/20mg、製造販売元:第一三共)メマンチン塩酸塩ドライシロップ(同:メマリードライシロップ2%、製造販売元:第一三共)<改訂年月>2020年6月<改訂項目>[新設]重大な副作用不整脈(頻度不明):完全房室ブロック、高度な洞徐脈などの徐脈性不整脈が現れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。<Shimo's eyes>国内で本剤との関連性が否定できない重篤な徐脈性不整脈関連の報告が集積したことから、「重大な副作用」の項に「完全房室ブロック、高度な洞徐脈などの徐脈性不整脈」が追記されました。めまい、気を失う、立ちくらみ、脈が遅くなる、息切れ、脈が飛ぶというような症状が現れていないかどうかの聞き取りが重要です。速やかな投与中止が求められる副作用ですので、異常が見られた場合はすぐに処方医に報告・相談しましょう。参考PMDA メマンチン塩酸塩の「使用上の注意」の改訂について第一三共 使用上の注意改訂のお知らせネオーラル内用液:効能・効果に川崎病の急性期が追加<対象薬剤>シクロスポリン製剤(製品名:ネオーラル内用液10%、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<改訂年月>2020年2月<改訂項目>[追加]効能または効果川崎病の急性期(重症であり、冠動脈障害の発生の危険がある場合)[追加]用法および用量〈川崎病の急性期〉通常、シクロスポリンとして1日量5mg/kgを1日2回に分けて原則5日間経口投与する。<Shimo's eyes>川崎病は、主に乳幼児が罹患する原因不明の血管炎症候群です。冠動脈が侵襲されることによる冠動脈病変(CAL)の合併が知られており、CALは突然死や心筋梗塞を引き起こすことがあります。急性期の標準治療として、静注用免疫グロブリン(IVIG)の単回静脈内投与とアスピリンの経口投与の併用療法が行われます。しかし、約20%の患児は十分な効果を得られず、CAL合併のリスクが高くなることが指摘されています。そこで、川崎病の過剰な炎症反応を免疫抑制薬で制御することで、CALの進行を抑制できるのではないかという考えから、本剤の国内第III相医師主導治験が行われました。その結果、CALの合併割合が、標準治療群の31.0%(27例/87例)に対し、本剤併用群では14.0%(12例/86例)と有意に低下したため、川崎病のIVIG不応例またはIVIG不応予測例には、従来の標準治療に本剤を併用できることになりました。なお、発病後7日以内に投与を開始することが望ましいとされています。参考ノバルティス ファーマ 添付文書改訂のお知らせ

104.

リアルワールドにおけるSGLT2阻害薬の有用性(解説:住谷哲氏)-1315

 SGLT2阻害薬のCVOTとしては腎関連エンドポイントを主要評価項目としたCREDENCEを除けば、エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME、カナグリフロジンのCANVAS Program、ダパグリフロジンのDECLARE-TIMI 58、ertugliflozinのVERTIS-CVの4試験がこれまでに報告されている。またそれらのメタ解析もすでに報告され、2型糖尿病患者の心不全による入院の抑制および腎保護作用はほぼ確立した感がある。しかしランダム化比較試験であるCVOTの結果を解釈するときに常に問題となるのは、試験結果の一般化可能性(generalizability)である。 一般化可能性は有用性(effectiveness)と言い換えてもよいが、この点を補完する目的で最近ではリアルワールドデータが注目されている。ダパグリフロジンのCVD-REAL、エンパグリフロジンのEMPRISE(中間解析のみ報告あり)がこれまでに報告されているが、それぞれ製薬企業主導の解析であり、すべてのSGLT2阻害薬を対象としたものではない。その点でエンパグリフロジン、カナグリフロジンおよびダパグリフロジンのリアルワールドにおける有用性を検討した本論文は興味深い。 本論文はカナダの研究機関のネットワークであるCNODES(Canadian Network for Observational Drug Effect Studies)からの報告である。DPP-4阻害薬を対照としてSGLT2阻害薬のリアルワールドにおけるeffectivenessを検討したものであるが、リアルワールドデータから因果関係を推測するためにはbiasをいかに処理するかが問題となる。とくに「驚くほどの有効性」(surprisingly beneficial drug effects)を示すことにつながるとされるimmortal time biasの処理が重要であるが、本論文ではprevalent new user design(これを開発したのが共著者のSamy Suissaである)を用いてこの点をクリアしている。結果は、MACE、心不全による入院、全死亡のすべてがSGLT2阻害薬投与群においてDPP-4阻害薬投与群に比較して有意に減少していた。MACE、心不全による入院の減少は、年齢(70歳以上かそれ未満か)、ASCVDの既往の有無、心不全の既往の有無、投与されたSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン)にかかわらず一貫して認められた。一方で全死亡の抑制についてはASCVDの既往を有する患者において、有意ではないがより顕著である傾向が認められた。 心血管イベント抑制の観点からは、DPP-4阻害薬に対するSGLT2阻害薬の優越性はリアルワールドにおいてもほぼ確実であろう。最近発表されたertugliflozinのVERTIS-CVの結果が他のSGLT2阻害薬のCVOTの結果と異なっていたことから、各SGLT2阻害薬の薬剤特異的効果の存在が議論されている。しかしリアルワールドにおいてはエンパグリフロジン、カナグリフロジンおよびダパグリフロジンの薬剤特異的効果は認められなかった。各薬剤間でのhead to headの試験が実施されるまではSGLT2阻害薬のクラスエフェクトと考えるのが妥当と思われる。

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糖尿病患者の残薬1位は?-COVID-19対策で医師が心得ておきたいこと

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態が解明されるなか、重症化しやすい疾患の1つとして糖尿病が挙げられる。糖尿病患者は感染対策を行うのはもちろん、日頃の血糖コントロール管理がやはり重要となる。しかし、薬物治療を行っている2型糖尿病患者の血糖コントロール不良はコロナ流行以前から問題となっていた。今回、その原因の1つである残薬問題について、亀井 美和子氏(帝京平成大学薬学部薬学科 教授)らが調査し、その結果、医療者による患者への寄り添いが重要であることが明らかになった。 このアンケート結果は、9月30日に開催されたメディア勉強会『処方実態調査の結果にみる、糖尿病患者さんの課題~新たな日常で求められるシンプルな治療、服薬アドヒアランスの向上~』の「服薬アドヒアランスと患者支援 2型糖尿病患者の処方実態調査結果より」で報告され、同氏が血糖コントロールに不可欠な残薬問題解決の糸口について語った。このほか、糖尿病患者のCOVID-19への影響を踏まえ、門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が「服薬アドヒアランス向上のために医師ができること」について解説した(主催:日本イーライリリー)。糖尿病患者の残薬1位、α-グルコシダーゼ阻害薬 残薬が生じる原因には、薬物の服用回数の多さ、服用タイミングなどの問題が挙げられる。2013年2月、残薬による日数調整の対象となりやすい薬剤について薬局薬剤師3,001人に調査した結果によると、第1位に挙げられた薬剤はα-グルコシダーゼ阻害薬、消化性潰瘍治療薬、下剤などであった。これは、「薬の効果を感じにくい」「症状があるときだけ使用する薬(自己調節が可能)」「用法が食前」などの理由が原因とされる。また、糖尿病患者の残薬理由を尋ねた調査では、「飲み忘れ」「持参し忘れ」などが特徴付けられた。 このような結論をより具体的にするために亀井氏らは2型糖尿病患者の服薬アドヒアランスと治療の負担感について調査を行った。  本調査は、日本在住で20歳以上の電子お薬手帳サービス「harmo」利用者のうち、2020年4月30日時点でID登録がされており、過去3ヵ月間(2020年1月1日~4月10日)に2型糖尿病の経口薬を処方されていた患者5,504 例の人口統計的変数、治療状況、経口薬の服薬状況、ライフサイクル(起床/就寝時間)に関する情報を収集した横断的観察研究。調査期間は2020年4月30日~5月10日、調査方法はスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどを用いたインターネット・アンケートだった。 主な結果は以下のとおり。・実際に回答を得られたのは675例で、男性は499例、女性は176例だった。・平均2.1剤の経口糖尿病薬を服用し、1日あたりの服薬回数は平均2.0回であった。・糖尿病薬を服薬するタイミングで最も多かったのは朝食後74.4%であった。・32.4%の患者さんで服薬アドヒアランスが不良であった。・服薬アドヒアランス良好の患者さんに比べ、不良の患者さんのほうが1日あたりの服薬回数が多かった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんはHbA1cの値が高い傾向であった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんの38.4%が服薬に負担を感じていた。患者が服薬しないのは、情報不足・認識の低さ・副作用経験から この結果を踏まえ、亀井氏は「服薬アドヒアランス不良の患者では直近のHbA1cが高い傾向にあることから、合併症予防の観点からも治療の負担感を軽減し、服薬アドヒアランスを高めていく必要がある」と述べ、「残薬が発生するに原因には、薬自体や処方の特徴、そして患者の特徴が影響している。これを解決できていないのは患者と医療者とのコミュニケーション不足が原因」と話した。 そこで、質的研究として同氏らは個々に向かい合い、“服薬しない”行動原理を探索した。そこには“理解不足”はもちろんのこと、「複数の情報による混乱」「情報を都合よく解釈」「副作用への不安」「受け身の治療」などの個々の考えが大きく影響していることが示唆された。このような患者の考えには、「さまざまな情報や適切な情報の不足、病気の認識が低い、自他の副作用経験が影響し、意図的に(時には意図的ではなく)服用しない、という行動に結びつく」と同氏はコメント。実際に個別に応じた対応を行った結果、改善したと回答した薬局が97.6%にものぼっていた。医師による服薬アドヒアランス向上が糖尿病のCOVID-19重症化を防ぐ 続いて、門脇氏は糖尿病患者のCOVID-19対策時における注意点を説明。「外出自粛に伴う運動量の減少、食習慣の変化による体重増加や高血糖を防止するため、積極的な活動を心がけ、食事の取り方に十分注意する必要がある。また、外出自粛を理由に糖尿病患者が医療機関への受診を極端に控えることは、血糖コントロールや病状の悪化につながる可能性があるため、個々の糖尿病患者の状態に応じて適切な間隔での受診・検査・投薬が必要である」と強調した。 この注意点を解決していくためにはやはり患者とのコミュニケーションが重要となる。同氏は血糖コントロール管理の上で欠かせない医師と医療者のコミュニケーションが日本では世界と比べ不足していることを指摘し、「この原因は診療時間が十分に取れない環境にあるが、医療者は患者のQOLアウトカム(日常生活・社会生活の制限、自由の剥奪感、精神的負担など)を留意する必要がある。そのためには、医師自身がベストと考える治療法を説明し患者さんの同意を得るInformed Consentと、患者へ結果に大きな差のない複数の治療法について説明して患者が選択するInformed Choiceを取り入れていくことが必要である。これが“糖尿病患者の治療意欲とアドヒアランスを高める”ことにつながる」と述べ「糖尿病患者が治療に向き合っていること、糖尿病患者がスティグマ(社会的偏見)に苦しんでいることも医療者は理解しなければならない」と締めくくった。

106.

SGLT2阻害薬でも糖尿病患者の心血管イベントは抑制されない?(解説:吉岡成人氏)-1304

 糖尿病患者における心血管疾患のリスクを低減するためにSGLT2阻害薬が有用であると喧伝されている。米国糖尿病学会(ADA)では心血管疾患、慢性腎臓病(CKD)、心不全の既往のある患者やハイリスク患者では、血糖の管理状況にかかわらずGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬を第一選択薬であるメトホルミンと併用することが推奨されている。欧州心臓病学会(ESC)と欧州糖尿病学会(EASD)による心血管疾患の診療ガイドラインでは、心血管リスクが高い患者での第一選択薬としてSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬を用いることも選択肢の一つであるとしている。 日本においても、循環器学会と糖尿病学会が「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」が公表され、糖尿病患者は心血管疾患のハイリスク群であり、心不全の合併が多いことが記されている。日本人においても欧米同様にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を推奨すべきかの結論は得られていないというコメントはあるが、心不全ないしは心不全の高リスク患者ではSGLT2阻害薬の使用が推奨されている。 そのような背景の中、2020年6月にWebで開催されたADAにおいてSGLT2阻害薬であっても心血管イベントの抑制効果が認められない薬剤があることが報告された。日本では未発売のSGLT2阻害薬であるertugliflozinの心血管イベント抑制効果に関する臨床試験(Evaluation of Ertugliflozin Efficacy and Safety Cardiovascular Outcomes Trial:VERTIS-CV)であり、その詳細が、2020年9月23日のNEJM誌に掲載されている。 VERTIS試験の対象は冠動脈、脳血管、末梢動脈の少なくともいずれかにアテローム動脈硬化性疾患を持つ8,246例であり、平均年齢は64歳、88%が白人で糖尿病の罹病期間は平均で13年、ベースラインにおけるHbA1cは8.2%であった。平均で3.5年の追跡期間における1次評価項目(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発生率は実薬群、プラセボ群ともに11.9%、100人年当たりの発生率は実薬群3.9、プラセボ群4.0であり差がなかった。EMPA-REG試験においても1次評価項目はVERTIS試験とまったく同じであり、100人年当たりの発生率は、実薬群3.74、プラセボ群4.39であった。2次評価項目である心血管死、心不全での入院についても差はなかったものの、心不全での入院のみで比較をするとプラセボ群3.6%(1.1/100人年)、実薬群2.5%(0.7/100人年)であり統計学的に有意な差(ハザード比0.70、信頼区間:0.54~0.90)があった。腎関連の評価項目(腎死、腎代替療法、クレアチニンの倍加)にも有意差は認められなかった。プラセボ群との非劣性を確認するための臨床試験とはいえ、SGLT2阻害薬として従来報告されていた心血管イベントに対する抑制効果が疑問視される結果であった。なぜ、ertugliflozinでほかのSGLT2阻害薬で確認された臨床効果が認められなかったのか、単なる薬剤による違いなのかは判然としない。 ともあれ、欧米の糖尿病患者と日本の糖尿病患者では臨床的な背景も、病態も異なっている。日本人における高齢率は28%であり2型糖尿病の平均年齢は65歳を超え、死因の38%は悪性腫瘍、11%が心疾患である(中村二郎ほか. 糖尿病. 2016;59:667-684.)。一方、米国での高齢化率は14.5%にすぎず、糖尿病患者の死因の第1位は心血管疾患で34%、悪性腫瘍は20%である(Gregg EW, et al. Lancet. 2018;391:2430-2440.)。欧米のガイドラインや臨床試験の結果を日本の臨床の現場に応用する場合には、一定の距離感を保ちつつ十分に吟味する必要があると思われる。

107.

カナグリフロジンと下肢切断リスク(解説:住谷哲氏)-1303

 最新のADA/EASD高血糖管理ガイドラインにおいて、SGLT2阻害薬は心不全またはCKDが問題となる2型糖尿病患者に対して、HbA1cの個別目標値とは切り離してメトホルミンに追加すべき薬剤と位置付けられている。糖尿病ケトアシドーシス、性器感染症の増加はすべてのSGLT2阻害薬に共通の有害事象であるが、下肢切断リスクの増加はカナグリフロジンに特異的と考えられている。これは、これまで報告されたエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、ertugliflozinのCVOTのなかで、唯一下肢切断リスクの増加がカナグリフロジンのCANVAS programで報告されたことによる。しかしその後に報告されたカナグリフロジンのCREDENCEでは下肢切断リスクの増加は認められなかった。つまり本当にカナグリフロジン特異的に下肢切断リスクが増加するか否かについては、はっきりしていない。 カナグリフロジンの使用が多い米国で、カナグリフロジンまたはGLP-1受容体作動薬のいずれかが新たに投与された患者における下肢切断リスクを比較検討したのが本論文である。対照としてGLP-1受容体作動薬が選択されたのは、ほぼ同程度のASCVDリスクを有する患者に両薬剤のいずれかが選択されることが多いことによる。さらに、下肢切断リスクは高齢患者、ASCVD既往のある患者のリスクが高いことが知られているので、この両因子で層別した解析を実施した。結果として、カナグリフロジン投与により下肢切断リスクが増加するのは、ASCVD既往のある65歳以上の高齢者に限定されており、そのNNTは556人/0.5年であった。 実臨床では今回明らかにされた「ASCVD既往を有する65歳以上の高リスク患者」に対してSGLT2阻害薬を選択することが多い。その際はカナグリフロジンではなくほかのSGLT2阻害薬を投与すればよいのだろうか? カナグリフロジンの使用がほとんどない北欧からの報告(対象患者における投与薬剤の比率はダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)では、本論文と同様にGLP-1受容体作動薬を対照として、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンともに下肢切断リスクの増加を認めている1)。さらに複数あるSGLT2阻害薬のなかで、カナグリフロジンのみが下肢切断リスクを増加させるメカニズムとしていくつかの仮説が提唱されているが、はたしてそれが正しいのか否かは明らかでない。筆者はSGLT2阻害薬による下肢切断リスクの増加は、存在するとしてもおそらくclass effectだろうと考えている。CREDENCEの結果に基づくと、ESKDへの移行阻止のNNTは43人/2.5年である。したがって、ここでも個別の患者のrisk-benefitを慎重に考慮したうえで、EBMのStep4「情報の患者への適用」を悩みながら実践することが求められる。

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ダパグリフロジン、CKDの転帰を改善/NEJM

 慢性腎臓病(CKD)患者では、糖尿病の有無にかかわらず、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンはプラセボと比較して、推算糸球体濾過量(GFR)の持続的な50%以上の低下や末期腎不全、腎臓または心血管系の原因による死亡の複合の発生リスクを有意に低下させることが、オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J L Heerspink氏らが行った「DAPA-CKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年9月24日号に掲載された。CKD患者は、腎臓や心血管系の有害な転帰のリスクが高いとされる。SGLT2阻害薬は、2型糖尿病患者の大規模臨床試験において、糖化ヘモグロビンを低下させるとともに、腎臓や心血管系の転帰に良好な効果をもたらすと報告されている。一方、CKD患者における糖尿病の有無別のダパグリフロジンの有効性は知られていないという。DAPA-CKD試験には21ヵ国386施設が参加 DAPA-CKD試験は、CKD患者における2型糖尿病の有無別のダパグリフロジンの有効性と安全性を評価する目的の二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験(AstraZenecaの助成による)。21ヵ国386施設が参加し、2017年2月~2018年10月の期間(中国の一部の参加者は2020年3月まで)に無作為割り付けが行われた。 対象は、推算GFRが25~75mL/分/1.73m2体表面積で、尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはミリグラム[mg]、クレアチニンはグラム[g]で測定)が200~5,000のCKD患者であった。被験者は、ダパグリフロジン(10mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、推算GFRの持続的な50%以上の低下、末期腎不全、腎臓または心血管系の原因による死亡の複合とした。 本DAPA-CKD試験は、2020年4月3日、独立データ監視委員会の提言に基づき、有効中止となった。DAPA-CKD試験の主要評価項目はダパグリフロジン群で良好 DAPA-CKD試験には4,304例が登録され、ダパグリフロジンとプラセボの両群に2,152例ずつが割り付けられた。全体の平均年齢(±SD)は61.8±12.1歳、1,425例(33.1%)が女性であった。ベースラインの平均推算GFRは43.1±12.4mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比中央値は949であり、2,906例(67.5%)が2型糖尿病の診断を受けていた。 フォローアップ期間中央値2.4年(IQR:2.0~2.7)の時点で、主要評価項目のイベントは、ダパグリフロジン群が2,152例中197例(9.2%)で、プラセボ群は2,152例中312例(14.5%)で発生した(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.51~0.72、p<0.001、主要評価項目の1件のイベントの予防に要する治療数:19件、95%CI:15~27)。また、主要評価項目の個々の構成要素はいずれも、ダパグリフロジン群で良好だった。 DAPA-CKD試験の副次評価項目である推算GFRの持続的な50%以上の低下、末期腎不全、腎臓が原因の死亡の複合のHRは0.56(95%CI:0.45~0.68、p<0.001)、心血管系の原因による死亡または心不全による入院のHRは0.71(0.55~0.92、p=0.009)であった。また、ダパグリフロジン群で101例(4.7%)、プラセボ群で146例(6.8%)が死亡した(HR:0.69、95%CI:0.53~0.88、p=0.004)。 ダパグリフロジン群では、主要評価項目のイベント発現のHRは、2型糖尿病患者が0.64(95%CI:0.52~0.79)、非2型糖尿病患者は0.50(0.35~0.72)であり、いずれもプラセボ群と比較して良好で、2型糖尿病の有無で効果に差はなかった。 有害事象および重篤な有害事象の発生率は、全般に両群でほぼ同等であった。糖尿病性ケトアシドーシスは、ダパグリフロジン群では報告がなく、プラセボ群は2例に認められた。2型糖尿病のない患者では、糖尿病性ケトアシドーシスや重度低血糖はみられなかった。 著者は、「SGLT2阻害薬の腎保護作用は、2型糖尿病を伴わないCKD(ACE阻害薬が、腎不全の予防効果が示されている唯一の薬物療法である患者)という幅広い患者集団にまで拡大されることが確認され、ダパグリフロジンの有益な安全性プロファイルが確かめられた」としている。

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2型DMのCVリスク、SGLT2阻害薬 vs. DPP-4阻害薬/BMJ

 大規模なリアルワールド観察試験において、2型糖尿病患者への短期のSGLT2阻害薬投与はDPP-4阻害薬投与と比べて、重篤な心血管イベントリスクを低減することが示された。カナダ・Jewish General HospitalのKristian B. Filion氏らが複数のデータベースを基に行った後ろ向きコホート研究の結果で、著者は「多種のSGLT2阻害薬にわたる結果であり、SGLT2阻害薬のクラス効果としての心血管効果を示すものであった」と述べている。2型糖尿病へのSGLT2阻害薬投与は増えており、無作為化試験でプラセボ投与と比べて主要有害心血管イベント(MACE)や心不全のリスクを抑制することが示されていた。BMJ誌2020年9月23日号掲載の報告。MACE発生を主要アウトカムに、DPP-4阻害薬と比較 研究グループは2013~18年の、カナダ7州の医療管理データベースと英国の臨床診療研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink:CPRD)を基に、リアルワールドの臨床設定での2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の心血管イベントリスクを比較するCanadian Network for Observational Drug Effect Studies(CNODES)を実施した。 対象となった被験者は、SGLT2阻害薬の新規服用者20万9,867例と、期間条件付き傾向スコアでマッチングした同数のDPP-4阻害薬服用者で、平均追跡期間は0.9年だった。 主要アウトカムは、MACE(心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管死の複合)だった。副次アウトカムは、MACEの個々のイベント発生と、心不全、全死因死亡だった。 Cox比例ハザードモデルを用いて、アプローチどおりのSGLT2阻害薬服用者とDPP-4阻害薬服用者を比較した、試験地域特異的な補正後ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算して評価した。試験地域特異的結果は、ランダム効果メタ解析にて統合した。MACE発生リスク24%低下、SGLT2阻害薬のクラス効果を確認 MACE発生率比は、DPP-4群16.5/1,000患者年に対し、SGLT2群11.4/1,000患者年で、SGLT2阻害薬はMACE発生リスクを抑制したことが認められた(HR:0.76、95%CI:0.69~0.84)。 個別に見ても、心筋梗塞(SGLT2群5.1 vs.DPP-4群6.4/1,000患者年、HR:0.82[95%CI:0.70~0.96])、心血管死(3.9 vs.7.7、0.60[0.54~0.67])、心不全(3.1 vs.7.7、0.43[0.37~0.51])、全死因死亡(8.7 vs.17.3、0.60[0.54~0.67])で、同様にリスクの抑制がみられた。虚血性脳卒中についても抑制効果はみられたが、やや控えめだった(2.6 vs.3.5、0.85[0.72~1.01])。 個々のSGLT2阻害薬についてみるとMACEへの効果は類似しており、DPP-4阻害薬とのHRは、カナグリフロジン0.79(95%CI:0.66~0.94)、ダパグリフロジン0.73(0.63~0.85)、エンパグリフロジン0.77(0.68~0.87)だった。

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SGLT2阻害薬ertugliflozinの心血管効果は?/NEJM

 2型糖尿病でアテローム動脈硬化性心血管疾患を有する患者において、標準治療に加えてのSGLT2阻害薬ertugliflozinの投与はプラセボ投与に対して、主要有害心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)の発生は非劣性であった。また、副次評価項目の心血管死または心不全による入院の複合アウトカムについて、プラセボに対する優越性は示されなかった。米国・ハーバード大学医学大学院のChristopher P. Cannon氏らが、8,246例超を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検試験で明らかにした。ertugliflozinは、2型糖尿病の血糖コントロールを改善するとして米国その他の国で承認されている。同薬の心血管効果については、明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2020年9月23日号掲載の報告。ertugliflozinの主要有害心血管イベントについて対プラセボの非劣性を検証 研究グループは、2型糖尿病でアテローム動脈硬化性心血管疾患を有する患者を無作為に3群に割り付け、標準的治療に加えて、ertugliflozin 5mg/日、同15mg/日、またはプラセボをそれぞれ投与した。 ertugliflozinの2投与群についてはデータをプールし解析。試験の主要目的は、主要評価項目とした主要有害心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)について、ertugliflozin群がプラセボ群に対し非劣性を示すことができるかであった。非劣性マージンは1.3(ertugliflozinのプラセボに対するハザード比[HR]の信頼区間[CI]上限値95.6%)とした。 第1副次評価項目は、心血管死または心不全による入院の複合アウトカムとした。ertugliflozin群の主要有害心血管イベントの非劣性は示されたが 合計8,246例が無作為化を受け、平均追跡期間は3.5年だった。 ertugliflozinまたはプラセボを1回以上投与された8,238例において、主要有害心血管イベントの発生は、ertugliflozin群653/5,493例(11.9%)、プラセボ群327/2,745例(11.9%)だった(HR:0.97、95.6%CI:0.85~1.11、非劣性のp<0.001)。 心血管死または心不全による入院の発生は、ertugliflozin群444/5,499例(8.1%)、プラセボ群250/2,747(9.1%)だった(HR:0.88、95.8%CI:0.75~1.03、優越性のp=0.11)。 また、心血管死に関するHRは0.92(95.8%CI:0.77~1.11)、腎疾患死、腎代替療法、またはベースラインからの血清クレアチニン値の2倍化のいずれかの発生に関するHRは0.81(95.8%CI:0.63~1.04)だった。 肢切断実施は、ertugliflozin 5mg群54例(2.0%)、同15mg群57例(2.1%)、プラセボ群45例(1.6%)だった。

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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HFrEFへのエンパグリフロジン、心血管・腎への効果は/NEJM

 2型糖尿病の有無を問わず慢性心不全の推奨治療を受けている患者において、エンパグリフロジンの投与はプラセボと比較して、心血管死または心不全増悪による入院のリスクを低下することが、米国・ベイラー大学医療センターのMilton Packer氏らによる3,730例を対象とした二重盲検無作為化試験の結果、示された。SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の有無を問わず、心不全患者の入院リスクを抑制することが示されている。同薬について、駆出率が著しく低下した例を含む幅広い心不全患者への効果に関するエビデンスが希求されていたことから、本検討が行われた。NEJM誌オンライン版2020年8月29日号掲載の報告。左室駆出率が40%以下に低下した3,730例を対象にプラセボ対照無作為化試験 試験は、慢性心不全(NYHA機能分類II、III、IV)で左室駆出率が40%以下に低下した18歳以上の成人患者3,730例を対象に行われた。 被験者を無作為に2群に割り付け、推奨治療に加えてエンパグリフロジン(10mg 1日1回、1,863例)またはプラセボ(1,867例)を投与し追跡した。 主要アウトカムは、心血管死・心不全増悪による入院の複合であった。DM有無を問わず、心血管死・心不全増悪による入院のリスクを有意に低下 中央値16ヵ月の追跡期間中に、主要アウトカムのイベントは、エンパグリフロジン群では361/1,863例(19.4%)に、プラセボ群では462/1,867例(24.7%)に発生した(心血管死・心不全増悪による入院のハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.65~0.86、p<0.001)。主要アウトカムへのエンパグリフロジンの効果は、2型糖尿病の有無を問わず認められた。 また、階層的検定手順で規定した副次アウトカムである、心不全による入院の総発生件数について、プラセボ群と比べてエンパグリフロジン群で有意に低下したことが(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001)、同様に推定糸球体濾過率(eGFR)の年率低下についても有意に遅延させたことが(-0.55 vs.-2.28mL/分/体表面積1.73m2/年、p<0.001)示された。 そのほか、事前に規定されていた解析において、エンパグリフロジン治療を受けた患者は、重篤な腎アウトカムのリスクが低いことも示された(HR:0.50、95%CI:0.32~0.77)。なお、合併症のない性器感染症発生の報告頻度が、エンパグリフロジン群で高かった。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【糖尿病・内分泌疾患編】

第1回 【糖尿病】初療時のコツ第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患 糖尿病、内分泌疾患に関する内科臨床医の疑問をスペシャリストとの対話で解決します!糖尿病については、心血管リスクを考慮した薬剤選択、非専門医が使うべきファーストチョイスなど10テーマをピックアップ。内分泌疾患については、甲状腺機能の異常などの頻繁に見る疾患だけでなく、コモンな症状に隠れている内分泌疾患をジェネラリストが見つけ治療するためのTIPSを解説します。ここでしか聞けない簡潔明解な対談で、スペシャリストの思考回路とテクニックを盗んでください!第1回 【糖尿病】初療時のコツ初回のテーマは、糖尿病の初療時に必ず確認すべき項目。初療のキモは2型糖尿病以外の疾患の除外、そして治療方針を決定するためのアセスメントです。HbA1cだけでなく、いくつかの項目を確認することでその後の治療がグッと効果的なものになります。ポイントを短時間で押さえていきましょう。第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?食事や運動の指導では血糖コントロールがつかず、薬物療法に移行するのは医者の敗北というのは過去の話。薬剤が進歩した現在は、早めに薬物療法を開始するほうがよいケースも多いのです。HbA1cと治療期間の目安を提示し、薬物療法に切り替えるタイミングを言い切ります。第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール今回は、血圧と脂質の目標値をズバリ言い切ります。血圧、脂質をはじめとした5項目をしっかりとコントロールすれば、糖尿病であっても健常人とさほど変わらない生命予後が期待できることがわかっています。2つの目標値を確実に押えて、診療をブラッシュアップしてください。第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス糖尿病治療薬は数多く、ガイドラインには”患者背景に合わせて選択する”と記述されていますが、実際に何を選べばいいか困惑しませんか? 今回は、プライマリケアで必要十分なファーストチョイスの1剤、セカンドチョイスの2剤をスペシャリストが伝授します。第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患等の合併がある糖尿病患者において、重要な位置付けの薬剤になっています。それぞれの薬剤の使用が推奨される患者像や、使用に際する注意点をコンパクトに解説。この2つの薬剤を押さえて糖尿病治療の常識をアップデートしてください。第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標高齢者の治療では、低血糖を防ぐことが何より重要。患者の予後とQOLを考慮した目標値を、ガイドラインから、そしてスペシャリストが使う超シンプルな方法の2点から伝授します。SU薬などの低血糖を生じやすい薬剤を使わざるを得ない場合の注意点や、認知症がある場合の治療のポイント、在宅で有用な薬剤など、高齢者の糖尿病治療の悩みを一気に解決します。第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害と、大血管障害に分けると、進展予防のためにコントロールすべき項目がわかりやすくなります。必要な検査の間隔と測定項目をパパっと解説します。とくに糖尿病性腎症の病期ごとの検査間隔は必ず押さえたいポイント。プライマリケアでできるタンパク制限やサルコペニア傾向の高齢者に対する指導も必見です。第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入いま、インスリンは早期に開始し、やめることもできる治療選択肢の1つです。ですが、これまでのイメージから、医師も患者も抵抗を感じることがあるかもしれません。今回は、外来で最も使いやすいBOTの取り入れ方、インスリン適応の判断と投与量、そして患者がインスリン治療に抵抗を示す場合の説明、専門医に紹介すべきタイミングといった、プライマリケアで導入する際に必要な知識をコンパクトに解説します。第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導外来での食事指導では、食品交換表を使った難しい指導が上手くいかないことは先生方も実感するところではないでしょうか。今回は短い時間でできる、一歩踏み込んだ食事指導のトピックを紹介します。「3つの”あ”に注意」、「20ダイエットの勧め」、「会席料理に倣った食べる順番」など、簡単で続けられる見込みのある指導方法を身に付けましょう。第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ40歳以上の約20%には甲状腺疾患があると知っていますか?内分泌疾患は実はコモンディジーズ。とはいえ、すべての患者で内分泌疾患を疑うのは効率的ではありません。今回は発熱や倦怠感といったありふれた症候から内分泌疾患を鑑別に挙げるためのポイントと、必要な検査項目を解説します。費用の観点からスクリーニング・精査と段階を分けて優先すべき検査項目を整理した情報は必見です。第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症甲状腺機能亢進症といえばまずバセドウ病が想起されますが、診断には亜急性や無痛性の甲状腺炎との鑑別が必要。内科でパッと実施できる信頼性の高い検査をズバリ伝授します。専門医も行っている方法かつプライマリケアでできる、無顆粒球症のフォローアップは必見です。第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧初診で高血圧患者を診るときは全例でPAC/PRAを測定してください!これは高血圧患者の5~10%といわれる原発性アルドステロン症を発見するための鍵になる検査。診断の目安となる値、そして外来で測定する際に頭を悩ませる体位についても専門医がクリアカットに解答します。そのほかに知っておくべきクッシング症候群と褐色細胞腫についてもコンパクトに解説します。第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症今回は生命に関わる内分泌緊急症4つ-甲状腺クリーゼ、副腎不全、高カルシウム血症クリーゼ、粘液水腫性昏睡を取り上げます。それぞれの疾患を疑うべき患者の特徴・対応・フォローをコンパクトに10分で解説。中でも、臨床的に副腎不全を疑うポイントは該当する患者も多いので必ず押さえたいところ。甲状腺クリーゼの初期対応も必ずチェックしてください!第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患繰り返す尿管結石やピロリ菌陰性の潰瘍は、内分泌疾患を疑う所見だと知っていましたか? 見落としやすい内分泌疾患TOP5、高カルシウム血症・低カルシウム血症・中枢性尿崩症・SIADH・先端巨大症を確実に発見するために、それぞれを疑うサインと検査項目を解説します。

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カナグリフロジンの下肢切断リスク、65歳以上CVD患者で増大/BMJ

 SGLT2阻害薬カナグリフロジンの下肢切断リスクについて、心血管疾患のある65歳以上において最も明白な増大が認められること、追加有害アウトカムの発生に関する必要治療数(NNT)は6ヵ月で556例(切断例はカナグリフロジン投与1万例当たり18例超)であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学医学大学院のMichael Fralick氏らによる検討で明らかにされた。GLP-1受容体作動薬投与群と比較した下肢切断リスクは1.73倍で、発生率の差は1,000人年当たり3.66であったという。先行研究のカナグリフロジンの心血管アウトカムを検討した試験「CANVAS試験」では、カナグリフロジン群がプラセボ群よりも下肢切断リスクが2倍近く高いことが確認されており、同試験対象者が従前試験よりも10歳以上高齢であったこと、またベースラインの心血管リスクが高かったことから、切断リスクの上昇は限定される可能性が示唆されていた。著者は、「今回の結果は、日常的ケアにおけるカナグリフロジン投与の、切断リスクを明らかにするものである」と述べている。BMJ誌2020年8月25日号掲載の報告。カナグリフロジンによる下肢切断リスクをCVDの有無と65歳以上・未満で検証 研究グループは、新たにカナグリフロジンを投与された成人における、年齢および心血管疾患別にみた下肢切断率を推算する住民ベースのコホート試験を行った。 2013~17年の、米国の2つの民間の保険請求データベース(MarketScan、Optum)とメディケア保険請求データベースを基に、新たにカナグリフロジンを処方された患者を抽出し、1対1の割合の傾向スコアマッチングで抽出したGLP-1受容体作動薬を新たに処方された患者と、下肢切断術の発生について比較した。 被験者を以下の4グループに分類し、下肢切断率についてハザード比(HR)と1,000人年当たりの率差を算出。(1)ベースラインで心血管疾患のない65歳未満、(2)ベースラインで心血管疾患のあった65歳未満、(3)ベースラインで心血管疾患のない65歳以上、(4)ベースラインで心血管疾患のあった65歳以上。 メタ解析にて、各グループの統合HRと1,000人年当たりの率差を求め評価した。カナグリフロジン群の下肢切断に関するHRは65歳以上CVD患者で有意差 3つのデータベースから傾向スコアマッチングで、新規のカナグリフロジン処方群または新規のGLP-1受容体作動薬処方群31万840例を抽出し、解析を行った。 カナグリフロジン群のGLP-1受容体作動薬群に対する、下肢切断に関するHRおよび1,000人年当たり率差は、グループ(4)「ベースラインで心血管疾患のあった65歳以上」で、HRが1.73(95%信頼区間[CI]:1.30~2.29)、率差3.66(同:1.74~5.59)と、いずれも有意差が認められた。 一方、その他のグループでは有意差は認められなかった。グループ(1)のHRは1.09(95%CI:0.83~1.43)、率差0.12(同:-0.31~0.55)、グループ(2)はそれぞれ1.18(0.86~1.62)と1.06(-1.77~3.89)、グループ(3)はそれぞれ1.30(0.52~3.26)と0.47(-0.73~1.67)であった。

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エンパグリフロジン、2型DM合併問わずHFrEFに有効/ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニー

 ドイツ・ベーリンガーインゲルハイムと米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)を2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に使用した“EMPEROR-Reduced試験”で、主要評価項目が達成されたと発表した。 心不全は、欧米の入院の主たる原因であり、アジアの患者数も増加している。世界中に6,000万人の患者がいると推定され、人口の高齢化が進むにつれ患者数が増加すると予測されている。今回の試験対象となったHFrEFは、心筋が効果的に収縮せず、正常に機能している心臓と比較し、身体に送り出される血液が少なくなる状態。呼吸困難や疲労感などの心不全に関連した症状は、生活の質(QOL)に影響する。3,730例を対象に心血管死、心不全による入院を評価 EMPEROR試験は、慢性心不全の患者を対象にしたエンパグリフロジンのアウトカム試験で、現在心不全の標準治療を受けている2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者またはHFrEF患者を対象に行われている。 試験では、エンパグリフロジンの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する“EMPEROR-Reduced試験”と“EMPEROR-Preserved試験”が行われている。 今回報告されたEMPEROR-Reduced試験では、HFrEF患者の判定心血管死または判定HHF(心不全による入院)の最初の事象までの時間を主要評価項目に、3,730例を対象に行われた(EMPEROR-Preserved試験は、HFpEF患者での判定心血管死または判定HHFの最初の事象までの時間を主要評価に、約5,900例を対象に実施中)。 報告された内容では、標準治療にエンパグリフロジン10mgを上乗せすることで、心血管死または心不全による入院のリスクがプラセボに比べ有意に低下し、主要評価項目を達成した。また、本試験における安全性プロファイルは、エンパグリフロジンのこれまでの安全性プロファイルと同様だった。本試験の詳細は、2020年8月29日の欧州心臓病学会(ESC)で発表される予定。 同社では、EMPEROR-Reduced試験の結果を受けて「エンパグリフロジンが心不全のアウトカムを改善することが示された。今後も心不全患者の生命予後を改善するか引き続き研究する」と抱負を寄せている。エンパグリフロジンの概要 エンパグリフロジンは、1日1回経口投与のSGLT2阻害薬であり、心血管死のリスク減少に関するデータが複数の国の添付文書に記載された初めての2型糖尿病治療薬。血糖値が高い2型糖尿病患者にエンパグリフロジンを投与し、SGLT2を阻害することで、過剰な糖を尿中に排出させ、さらに塩分(ナトリウム)を体外に排出、循環血漿量を低下させる。エンパグリフロジンによる体内の糖・塩分・水の代謝変化が、心血管死の減少に寄与する可能性が示唆されている(EMPA-REGOUTCOME試験)。なお、本剤はわが国では、効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果、慢性心不全の適応は取得していない。

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ダイエット目的の不適切な糖尿病薬使用は「医の倫理に反する」/日本医師会

 6月17日、日本医師会の記者会見で、今村 聡副会長は自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用について言及した。「GLP-1ダイエット」などと称した自由診療が横行 近年、糖尿病治療薬の一部が、個人輸入や美容クリニックにおいて、“痩せ薬”として不適切使用されている実態がある。今村氏は、具体的な事例として、近年承認されたGLP-1受容体作動薬を用いた自由診療が、「GLP-1ダイエット」などと称されている例を挙げた。これに対し、「健康な方が医薬品を使用することのリスクおよび医薬品適正使用の観点からも、このような行為を禁止すべきである」と強い懸念を示した。 同薬には重大な副作用リスクや禁忌があることについても説明し、医薬品を投与する前提として、「リスクがあるとしてもなお、治療が必要で効果が期待される方に対して投与されるべきであり、国民の健康を守るべき医師が、治療の目的を外れた使い方をすることは“医の倫理”にも反する」と厳しく指摘した。医薬品流通業界や医療広告の取り締まり強化を GLP-1受容体作動薬のほかにも、経口服用できるメトホルミンやSGLT-2阻害薬が、ダイエット目的に不適切使用される事例もある。今村氏は、医薬品の卸売業者や製薬企業など、流通業界における対応にも課題があるとの見方を示し、厚生労働省による医薬品の適正な流通確保を要望する姿勢を示した。医療広告のあり方に関しても、とくにインターネット上でガイドラインの規定を外れた表記が散見されることから、日医として取り締まりの強化を関係部局へ申し入れていく方針だという。

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第11回 GLP-1製剤の自由診療問題と教科書的な生活習慣改善指導との共通点

痩せてスリムな体になりたいというのは比較的万人に共通した願望ではないだろうか。とりわけ年齢を経れば代謝が低下し、太りやすくなるため、中年太りを解消したいという人は私の周りでも少なくない。ところが食事療法、運動療法は大変だから、なるべく楽に痩せたい。そんな「夢」を逆手に取る行為に日本医師会がご立腹のようである。6月17日の定例会見で、日本医師会(以下、日医)副会長の今村 聡氏が、一部の医療機関においてダイエット向けに糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方していることを問題視し、そのことが報じられた。確かに好ましい話ではない。だが、こうした適応外処方の自由診療、あるいは薬の個人輸入代行業はかなり前から跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。実際、私も知人から個人輸入代行で痩せる薬を入手したと見せられたことがある。この時、見せられたのは抗てんかん薬のトピラマート(商品名:トピナ)である。てんかん専門医から肥満傾向のてんかん患者には使いやすいと聞いたことがあるが、こんな難しい薬が医師の管理もなく、ダイエット目的で入手できるのだと改めて驚いたものだ。これ以外にも同じく糖尿病で使われるSGLT2阻害薬も痩せ薬としてアンダーグラウンドで取引されていると聞いたことがある。GLP-1受容体作動薬の場合、既に海外で肥満症治療薬として承認されているのは事実であり、日本国内でも臨床試験中。ちなみにGLP-1受容体作動薬をダイエット目的で処方している自由診療クリニックのホームページを見ると、海外で承認済みであることを強調しながら、「日本では製薬メーカーで治験が行われず、日本では未承認です(原文ママ)」と事実とは異なる記載をしている。記事中ではGLP-1受容体作動薬の副作用として下痢が記述されているが、むしろ私が危惧するのは低血糖発作のほうだ。そもそもダイエットをしている人は、言っちゃ悪いが極端な糖質制限など偏った食事をしている人が通常集団よりも多いと推察される。そんなところにGLP-1受容体作動薬を投与しようものならば、低血糖発作リスクは高いはずである。その辺を会見で今村氏が言及したかどうかは個人的に気になる。というのも、痩せたい願望が強い人にとっては、下痢レベルの副作用を無視することは十分に考えられる。結果として、逆にこの記事が「寝た子を起こす」がごとく、痩せたい願望を持つ人への誘因になってしまう可能性すらある。(ちなみに日本医師会の定例記者会見は決まった企業メディアにしか参加が認められていない。企業メディアの場合は新たに参加が認められるケースもあるが、フリーランスは実績にかかわらず参加不可。私も過去に広報部門に参加を希望したが一蹴されている)問題のある自由診療はGLP-1だけじゃないしかし、このニュースに私は割り切れないものを感じてしまう。確かに今回のGLP-1受容体作動薬の自由診療による処方は問題ありだし、警告すべきものとは思う。しかし、従来から自由診療では、問題がある治療が行われていることをまさか日医執行部が知らぬわけはないだろう。代表例ががん患者に対する細胞免疫療法。要は患者から採取したT細胞などを増やし、活性化させて体内に戻してがんと戦わせるという「治療」だ。だが、これらは科学的エビデンスが確立されていないのは周知のこと。近年、血液がんを対象に承認されたキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)のキムリアなどの成り立ちを見ても分かるように、ヒトのT細胞を抽出してちょっとやそっと増やしたりして体内に戻しても生存期間延長や治癒など得られないことは医師ならばわかるはずだ。しかし、がん終末期の患者が藁をもすがる思いで1回数十万円から百万円超ものこの「治療」に貴重なお金を注ぎ、期待したであろう効果を得られず患者が亡くなっている現実はもう30年以上横行している。むしろ例え事実上「糠に釘」でも日医が警鐘を鳴らし続けることが望ましいのではないだろうか。生活習慣改善指導は教科書的でいいのか?それ以上に割り切れないと思う点もある。それは痩せたい人への事実上の医療不在である。ちなみにここでいう痩せたい人とは、単に美容のために痩せたい人を意味するのではなく、疾患あるいはその予備群、代表例を挙げると生活習慣病で肥満傾向を持つ人などだ。患者の立場ならば、医師からなるべく体重を減らすため、過食を止め、運動するよう「指導」された経験のある人はいるだろう。だが、誤解を恐れずに言えば「そう言われただけ」の人がほとんどのはずだ。具体的にどんな運動をどれだけやればいいか、過食を止めるためにどうすれば良いか、何をどのように食べるべきか、単に教科書的文章の読み上げではなく、自分の生活に合わせてどのようにすればよいかを具体的に指導を受けた経験がある人は稀ではないだろうか?そのことをうかがわせる実例として、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」を挙げよう。同ガイドラインは書籍として総ページ数は約380ページだが、食事療法、運動療法に関する記述ページはその1割弱。内容はほぼ国内外のエビデンスをさらりと紹介している程度である。多くの経口糖尿病治療薬の添付文書には判で押したように「本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮すること」という記載がありながら、医師による食事療法、運動療法の指導も判で押したような教科書的なものばかりだ。もちろん個々の患者に合った運動療法、食事療法を指導することも、それを患者が継続することも容易でないことは分かるが、現状はあまりに受け皿がなさすぎるなかで、自由診療だけをとがめるのは穴の開いたバケツで水をくむようなものである。実際、私も経験がある。血液検査の結果、中性脂肪が若干正常上限値を上回っていた時のことだ。医師から次のように言われ、ポカン口状態になった。「肉、魚、卵はできるだけ控えるように」は? 何食べればいいんですか? 大豆? 豆腐? 納豆? 肉、魚、卵はできるだけ控えたら外食では食べるものがない。私たちが聞きたいのは、たとえば「お肉は脂身を残して量は少なめにして、その代わりに豆腐などを副菜に取り入れて」などより具体的なことである。幸いこの中性脂肪高値は一時的なものだったが、後に尿酸値の8.1mg/dLという検査結果に飛び上がらんばかりに驚いたことがある。この時の医師も某ジェネリック医薬品メーカーが作った高尿酸血症・痛風患者向けの冊子の内容を棒読みするだけだった。体重を減らす飲酒を控えるプリン体摂取を控える毎日2Lの飲水唯一棒読みではなかったのは、「体重を減らす」と言った後に「フフッ」と笑ったことぐらい。要はみんなできないんだよねという意味だろう。しかし、私はこれにややカチンときた。さらに飲酒は好きだし、控えるのは限界がある。プリン体をとりわけ多く含む食品はそもそも日常的にそれほど摂取機会がない。ということで体重減少と2L飲水に取り組んだ。いわば「おいしく楽しく酒を飲み続けるため」にそうしたのだ。詳細は省くが1年7ヵ月で14kg減。尿酸値も正常化している。だが、この間、運動をどう習慣化すればいいのか、その内容をどう変化させるかなど試行錯誤の連続。ちなみに一見簡単そうな飲水2Lのほうが楽しくもなく、習慣化までに苦労した。今この原稿を執筆中の傍らに1.5Lと600mLのペットボトルがある。こうしたことで医師などから工夫の伝授や励ましがあれば、どれだけ助けになっただろうと今も時々思う。こうした医療不在の隙を自由診療の囁きが埋めてしまっているのが現実ではないだろうか。このように書くと、「医師に何でも求めないで欲しい」と言われるかもしれないが、ならば医師から対応可能な職種へ繋ぐシステムが欲しいと思う。もちろんそうした職種への報酬の財源は医科診療報酬のプラス幅をやや抑えて捻出する。まあ、日医執行部が最も反発しそうではあるが。

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HFrEF患者の死亡率はこの20年で半分になった!(解説:絹川弘一郎氏)-1242

 HFrEFの治療薬は2000年くらいにはACE阻害薬とβ遮断薬が基礎治療薬で、数年のうちにARBとMRAが出そろった。エナラプリルとカルベジロールが第1世代のHFrEF治療薬であろうか。ARBはやや遅れてスタートしたので1.5世代薬くらいの印象である。ただACE阻害薬に優るエビデンスはなく多くは咳が出たときの代替薬なので、大きなインパクトではない。MRAについては古くからスピロノラクトンがあるもののunderuseが続き、2011年により忍容性の高いエプレレノンが登場したが、現在の実臨床でもファーストラインで投与される率はまだ低い。しかし、ARNIが2014年にPARADIGM-HF試験1)でHFrEFに対しACE阻害薬を上回る効果を示し、2019年にはSGLT2阻害薬が非糖尿病HFrEFでも有効と証明してみせた。対象は限定的であるが2010年にイバブラジンも予後改善効果を示した。このように2010年代はHFrEF治療の第2世代薬(ARNI、SGLT2阻害薬、イバブラジン)が登場したまさにパラダイムシフトのdecadeであった。それを総括する論文がこのLancet誌である。 この論文はEMPHASIS-HF2)のプラセボ群をコントロールにおいて、そこからEMPHASIS-HFとPARADIGM-HFとDAPA-HF3)の実薬群におけるイベント抑制の効果を、ある数学モデルを使用して計算推定したというものである。EMPHASIS-HFのプラセボ群は90%近くACE阻害薬とβ遮断薬で基礎治療されており、第1世代治療の代表例としてふさわしい。また3つの試験はそれぞれエプレレノンを追加、エナラプリルをsacubitril-バルサルタンに切り替え、ダパグリフロジンを追加、であるため、3つを統合解析するとβ遮断薬にMRAとSGLT2阻害薬を加え、かつACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えた、4剤併用の効果が見られるというものである。その解析の詳細はまったく理解していないが、実は次の表を見てもらいたい。3つの試験の各エンドポイントに対する実薬ハザード比である。心血管死心血管死+心不全入院心不全入院全死亡EMPHASIS-HF0.760.630.580.76PARADIGM-HF0.820.740.700.83DAPA-HF0.800.800.790.843つを掛けたもの0.500.370.320.53 表に示したように、3つの試験のハザード比を掛けた数字はこの解析で出てきたものと寸分違わない。この20年で得られた予後改善効果がこの数値である。だいたい心不全入院が3分の1になって、死亡率が半分になっているのは大変喜ばしいことで、これにイバブラジンとvericiguatも加わるし、CRTやMitraClipもカウントされていない。全部合わせたら死亡率は1990年代の3分の1くらいになっているかもしれない。ただ、非常に難しい計算をした結果が、ただ掛け算したのと一緒とはこれいかに?

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ダパグリフロジンはHFrEF治療薬で決定だが、いまだメカニズムはわからない(解説:絹川弘一郎氏)-1241

 DAPA-HF1)の衝撃はすでに10ヵ月も前の話で、ただ昨年8月の時点ではまだデータ不足と仰っていた先生方も11月のAHAのころにはBraunwald先生の総説2)が出て、あっさりSGLT2阻害薬をHFrEFのファーストラインドラッグとして容認しはじめた。そして、2020年にはどんどんSGLT2阻害薬のデータが心不全領域で出てくるかと期待に満ちあふれていた矢先、新型コロナの蔓延で本家本元の感染パンデミックのさなかには、心不全パンデミックという用語も軽々とは使用し難い雰囲気である。また、学会やイベントが中止になるだけで研究がここまで減速するのかと感慨深い。このJAMA誌の論文は本年3月に発表されたものでそもそも旧聞に属する時期外れの感想文であるが、なにぶん4〜5月は私の地方でもそこそこコロナで騒然としていて、毎日対策会議なるものを開いていたため、今になってご紹介することをお許しいただきたい。 この論文はDAPA-HFのサブ解析をしただけで、その本旨はすでに元論文で示されている、糖尿病非合併HFrEF患者でも糖尿病合併HFrEFとほぼ同等の予後改善効果をダパグリフロジンが有する、ということに尽きる。背景は糖尿病患者でやや肥満であることと少しだけ腎機能が低下していることくらいで、BNPやLVEF的に言えば糖尿病患者も非糖尿病患者も同等の心不全である。しかし、古くから知られていることはここでも厳然として残っており、糖尿病患者のイベント発生率は非糖尿病患者よりざっくり言って1.5倍くらいである。ダパグリフロジンはそれをいずれも低下させているが、カプランマイヤーの曲線はDM-placebo→DM-dapa→nonDM-placebo→nonDM-dapaの順であり、ダパグリフロジンで低減させてもなお非投与の非糖尿病患者よりイベントが多いわけで、糖尿病の業の深さが知れる。これ以上どうすればいいのか、そもそも糖尿病にならないことしか長生きの方法はないようにも感じられる。 ところで、SGLT2阻害薬の有効性のメカニズムについて多くの仮説が出現したが、たとえばケトン体仮説についてはややトーンダウンなのかと思われる。非糖尿病患者でのケトン体産生はおそらくきわめて低く、実際ケトアシドーシスは発症ゼロである。尿糖増加にしても非糖尿病患者では10分の1くらいであり、浸透圧利尿として尿量増加は少ない。血液濃縮ではないと思われるヘマトクリットの増加が現在一番注目されている心不全予防メカニズムであり、この試験結果でも糖尿病の有無で差はなく増加している。ヘマトクリットの増加を近位尿細管細胞の保護効果によるエリスロポエチン産生亢進と結び付けるのが一般的であるが、そこで若干解釈に困ることが出てきている。これまでのSGLT2阻害薬の大規模臨床試験では一貫して腎保護効果が認められていたが、それはこの薬剤が糖尿病性腎症の進展を抑制する、そしてそのメカニズムとして近位尿細管におけるATP消費抑制や緻密斑におけるtubuloglomerular feedbackが想定されているゆえんであった。とくにtubuloglomerular feedbackによるhyperfiltrationの抑制がSGLT2阻害薬の腎保護効果の成因だという説明が一番しっくりする気がしていたが、この試験では糖尿病患者ですら腎保護効果が認められていない。観察期間が短いことをその理由としているようであるが、通常SGLT2阻害薬投与直後に低下したeGFRが1年後に非投与群と交差するというのが今までの結果であり、なぜDAPA-HFではそれが違うのか、そして非糖尿病心不全患者でもやはり腎保護効果が認められないのはどうしてなのか、今後心不全治療薬として考えていくうえでとても重要なことであろう。これまでの糖尿病患者に対する心血管イベントを見た大規模臨床試験では心不全患者はせいぜい10%程度しか含まれていなかったので、もしかすると心不全であるということが腎保護効果を幾分打ち消してしまうのかもしれない。また、ベースラインのeGFRが60程度であり、元々hyperfiltrationではない患者では目に見えて腎保護効果はないのかもしれないとも思ったが、CREDENCE試験3)はそうではなく、やはり心不全患者のCKDは別物か? DAPA-HFの結果自体は明白であり、今後ほかのSGLT2阻害薬でHFrEFに対する効果が示されれば完全にファーストラインドラッグになるであろうが、いまいちメカニズムがはっきりしないままエビデンスが出てしまうところは、いつもの心不全業界の慣らしということであろうか。

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ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬併用で、HFrEF患者の生存延長/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、疾患修飾薬による早期からの包括的な薬物療法で得られるであろう総合的な治療効果は非常に大きく、新たな標準治療として、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)および選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の併用が支持されることが示された。米国・ハーバード大学のMuthiah Vaduganathan氏らが、慢性HFrEF患者を対象とした各クラスの薬剤の無作為化比較試験3件を比較した解析結果を報告した。3クラス(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の薬剤は、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬を併用する従来療法よりも、HFrEF患者の死亡リスクを低下させることが知られている。これまでの研究では、それぞれのクラスは異なる基礎療法と併用して検証されており、組み合わせにより予測される治療効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2020年5月21日号掲載の報告。MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する3つの臨床試験をクロス解析 研究グループは、包括的疾患修飾薬物療法と従来療法の無イベント生存期間と全生存期間の増分を推定する目的で、従来療法へのMRA追加を検討したEMPHASIS-HF試験(2,737例)、ARNIと従来療法を比較したPARADIGM-HF試験(8,399例)および従来療法へのSGLT2阻害薬追加を検討したDAPA-HF試験(4,744例)の3つの臨床試験のクロス解析を行った。 慢性HFrEF患者における包括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)および従来療法(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)の有効性を推算し、間接的に比較した。 主要評価項目は、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントとし、それぞれのエンドポイントと全死因死亡率も同様に評価した。これらの相対的な治療の影響は長期にわたり一貫していると仮定し、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)に対する、包括的疾患修飾薬物療法による無イベント生存期間および全生存期間の長期的な増分を推算した。ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は全生存期間も延長 包括的疾患修飾薬物療法vs.従来療法の主要評価項目に関するハザード比(HR)は、0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.47)であった。心血管死(HR:0.50、95%CI:0.37~0.67)、心不全による初回入院(0.32、0.24~0.43)および全死因死亡(0.53、0.40~0.70)も包括的疾患修飾薬物療法が好ましい結果であった。 ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は従来療法と比較し、心血管死または心不全による初回入院までの無イベント期間を推定2.7年(80歳時)~8.3年(55歳時)延長し、全生存期間は推定1.4年(80歳時)~6.3年(55歳時)延長した。

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