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1.

診療科別2024年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91)Adler AI, et al. Lancet. 2024;404:145-155.<UKPDS 91>:早期からの血糖強化管理による糖尿病合併症低減効果は24年間持続する血糖の早期強化管理により合併症リスクが有意に低減し、その効果が長期にわたり持続する(メタボリックメモリー)ことを実証したUKPDSのさらなる延長報告です。まさに「鉄は熱いうちに打て」です。その効果はメトホルミンでもインスリン・SU薬でも認められました。Dapagliflozin in Myocardial Infarction without Diabetes or Heart FailureJames S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286.<DAPA-MI>:急性心筋梗塞で入院した心不全・糖尿病のない患者において、ダパグリフロジンはプラセボと比較して総死亡・心不全入院のリスク低減効果に有意差なしSGLT2阻害薬は冠動脈疾患2次予防や心不全入院リスク低減の効果を有することが実証されていますが、それぞれのハイリスク者に限定した効果であることが示唆されました。同時期に、エンパグリフロジンでも同様の結果が報告されています(Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466)。Semaglutide in Patients with Obesity-Related Heart Failure and Type 2 Diabetes.Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407.<STEP-HFpEF DM>:2型糖尿病を有する肥満関連心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意に症状スコア(KCCQ-CSS)を改善体重減少が心不全症状改善の主因だと思われますが、 GLP-1受容体作動薬による血行動態改善作用も関与したことが想定されています。本研究では心不全入院や心不全急性増悪といった臨床的アウトカムを評価できるほどの検出力はありませんでした。非糖尿病患者においても同様の結果が報告されています(Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084)。Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2024;391:109-121.<FLOW>:2型糖尿病を有するCKD患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意にCKD進展を抑制GLP-1受容体作動薬には腎保護作用があることが期待されており、その機序として体重減少の他に、抗炎症・抗酸化ストレス・抗線維化作用が想定されています。本研究はCKD進展抑制を実証した点で臨床的意義が大きいでしょう。ただし、低リスク者での効果やSGLT2阻害薬等との併用効果を実証した質の高いエビデンスはまだありません。Effect of Fenofibrate on Progression of Diabetic RetinopathyPreiss D, et al. NEJM Evid. 2024:EVIDoa2400179.<LENS>:フェノフィブラートはプラセボと比較して早期糖尿病網膜症の進展を有意に抑制フェノフィブラートが中性脂肪低下作用とは独立して網膜保護効果を有することが示されました(本研究での中性脂肪中央値は138mg/dL)。本剤は腎機能低下者では投与禁忌である点や日本では網膜症への保険適用がない点に気をつけましょう。

2.

糖尿病患者の認知症リスク低減、GLP-1RA vs.DPP-4i vs.SU薬

 65歳以上の2型糖尿病患者9万例弱を最長10年間追跡した結果、GLP-1受容体作動薬を服用する患者では、スルホニル尿素(SU)薬やDPP-4阻害薬を服用する患者よりも認知症の発症リスクが低かったことが、スウェーデン・Karolinska InstitutetのBowen Tang氏らによって明らかになった。eClinicalMedicine誌オンライン版2024年6月20日号掲載の報告。 これまでの研究により、2型糖尿病患者は認知症の発症リスクが高いことが報告されている1)。一部の血糖降下薬は、プラセボまたはほかの血糖降下薬との比較において、2型糖尿病患者の認知障害および認知症のリスクを低減させる可能性が示唆されているが、相反する報告もあり、さらなる研究が求められていた。そこで研究グループは、糖尿病を有する高齢者の認知症リスクに対する3つの薬剤クラス(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SU薬)の影響を比較するため、スウェーデンの全国登録から取得したリアルワールドデータを用いて、2010年1月1日~2020年6月30日に臨床試験を模した逐次試験エミュレーション(sequential trial emulation)を実施した。 対象は、65歳以上で2型糖尿病を有し、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬またはSU薬の投与を開始したスウェーデン居住者であった。認知症の既往や過去1年間に研究対象の薬剤クラスを服用したことがある参加者は除外した。基準を満たした参加者を、最初の月をベースラインとして試験に毎月組み入れた。 主な結果は以下のとおり。●ベースラインでGLP-1受容体作動薬(1万2,351例)、DPP-4阻害薬(4万3,850例)、SU薬(3万2,216例)が処方された8万8,381例が含まれた。平均年齢はそれぞれ71.62歳、74.78歳、74.21歳であった。●平均追跡期間は4.3年で、追跡期間中に4,607例が認知症を発症した。GLP-1受容体作動薬開始群では278例(発症率は1,000人年当たり6.7)、DPP-4阻害薬開始群では1,849例(11.8)、SU薬開始群では2,480例(13.7)であった。●ITT解析において、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の開始群では、SU薬開始群と比較して認知症リスクが有意に低かった。 ・GLP-1受容体作動薬vs.SU薬のハザード比(HR):0.69(95%信頼区間[CI]:0.60~0.79、p<0.000) ・DPP-4阻害薬vs.SU薬のHR:0.89(95%CI:0.82~0.97、p=0.0069)●GLP-1受容体作動薬開始群は、DPP-4阻害薬開始群と比較しても認知症リスクが有意に低かった。 ・GLP-1受容体作動薬vs.DPP-4阻害薬のHR:0.77(95%CI:0.68~0.88、p<0.0001)●パー・プロトコル解析において、GLP-1受容体作動薬開始群は、SU薬およびDPP-4阻害薬の開始群と比較して認知症リスクが有意に低かったが、DPP-4阻害薬開始群とSU薬開始群との間には有意な差は認められなかった。 ・GLP-1受容体作動薬vs.SU薬のHR:0.41(95%CI:0.32〜0.53、p<0.0001) ・GLP-1受容体作動薬vs.DPP-4阻害薬のHR:0.38(95%CI:0.30〜0.49、p<0.0001) ・DPP-4阻害薬vs.SU薬のHR:1.07(95%CI:0.98〜1.17、p=0.13)

3.

2型糖尿病薬で高K血症リスクが低いのは?/BMJ

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症のリスクが低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のEdouard L. Fu氏らによる同国内の3つの医療保険請求データベースを用いた解析結果で示された。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬は、2型糖尿病の治療においてますます用いられるようになっているが、日常臨床における高カリウム血症の予防に関して、これらの薬剤の相対的な有効性は不明であった。著者は、「SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の各クラスにおける個々の薬剤で結果は一貫していることから、クラス効果が示唆される。このことは2型糖尿病患者、とくに高カリウム血症のリスクがある患者へのこれらの薬剤の使用を支持するものである」とまとめている。BMJ誌2024年6月26日号掲載の報告。傾向スコアマッチングでSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬の高K血症の発症を比較 研究グループは、2013年4月~2022年4月の3つの米国医療保険請求データベース(メディケア、Optum’s deidentified Clinformatics Data Mart、MarketScan)を用い、1対1の傾向スコアマッチングにより、新たに治療を開始したSGLT2阻害薬vs.DPP-4阻害薬(コホート1:77万8,908例)、GLP-1受容体作動薬vs.DPP-4阻害薬(コホート2:72万9,820例)、SGLT2阻害薬vs.GLP-1受容体作動薬(コホート3:87万3,460例)の3つのコホートを同定し解析した。 解析対象は、2型糖尿病と診断され、過去365日間に比較対象である2種類の薬剤のいずれかを使用しておらず、年齢18歳以上(メディケアの場合は65歳以上)、コホート登録前に12ヵ月以上継続して保険に加入していた患者であった。 主要アウトカムは、入院または外来における高カリウム血症の診断、副次アウトカムは、外来での追跡中における高カリウム血症(血清カリウム値5.5mmol/L以上)の発症、および入院または救急外来における高カリウム血症の診断とした。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬よりリスクが低い SGLT2阻害薬による治療開始は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低く(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.73~0.78)、GLP-1受容体作動薬との比較でも発症率がわずかに低下した(HR:0.92、95%CI:0.89~0.95)。GLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低かった(HR:0.79、95%CI:0.77~0.82)。 3年間の絶対リスクは、SGLT2阻害薬(4.6%)がDPP-4阻害薬(7.0%)より2.4%(95%CI:2.1~2.7)低く、GLP-1受容体作動薬(5.7%)がDPP-4阻害薬(7.5%)より1.8%(95%CI:1.4~2.1)低く、SGLT2阻害薬(4.7%)がGLP-1受容体作動薬(6.0%)より1.2%(95%CI:0.9~1.5)低かった。 これらの結果は、副次アウトカム、および年齢、性別、人種、併存疾患、他の薬剤の使用、HbA1c値によって定義されたサブグループ間で一貫していた。SGLT2阻害薬ならびにGLP-1受容体作動薬のDPP-4阻害薬に対する絶対スケールでの有益性(率差)は、心不全、慢性腎臓病、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を使用している患者で最も大きかった。 DPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症の発症率が低いことは、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)およびGLP-1受容体作動薬(デュラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)の個々の薬剤で一貫して観察された。

4.

メトホルミンに追加すべき薬剤はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬それともSU薬?(解説:住谷哲氏)

 GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)研究1)は、メトホルミン単剤で血糖管理目標を達成できない患者に追加する血糖降下薬としてインスリン(グラルギン)、SU薬(グリメピリド)、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)またはDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の有用性を比較検討したランダム化比較試験である。その結果は、HbA1c低下作用はグラルギンとリラグルチドが他の2剤に比べて優れており、体重減少効果はリラグルチドが最も優れていた。 米国が国家予算を投入したGRADE研究であるが、メトホルミンに追加する2剤目として経口血糖降下薬ではなく注射薬(グラルギンまたはリラグルチド)を選択することは実臨床においてそれほど多くない。さらに2剤目の追加薬剤の選択肢にSGLT2阻害薬が含まれていないのが、この研究の結果を実臨床に反映しにくい理由の1つである。 本研究は新しい解析手法であるtarget trial emulation(標的試験模倣と訳すべきか。概要については過去の本連載を参考されたい2])を用いて、メトホルミンに追加する薬剤としてSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬およびSU薬のいずれが優れているかを英国CPRD(Clinical Practice Research Datalink)のデータを対象にして検討したものである。結果は、HbA1c低下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬が他の2剤に比較して優れていた。さらにSGLT2阻害薬は、心不全による入院抑制はDPP-4阻害薬に比較して優れており、腎疾患の進行抑制はSU薬に比較して優れていた。 臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬の有用性は、高リスク患者を対象としたランダム化比較試験で明らかにされてきた。したがって多くのガイドラインでは、心不全または慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者への積極的投与が推奨されている。しかし、われわれが通常外来で診察している低リスク患者に対する有用性はこれまで不明であった。本研究の結果は、低リスク患者においても血糖降下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬がDPP-4阻害薬、SU薬と比較して優れていることを示した点でインパクトが大きい。ただし本研究はメトホルミン投与患者への追加薬剤としての検討であり、この点には留意する必要がある。

5.

SGLT2iはステージ5のDKDの予後も改善し得る

 腎機能が高度に低下した糖尿病患者であっても、SGLT2阻害薬(SGLT2i)によって予後が改善することを示すデータが報告された。Dr. Yen'sクリニック(台湾)のFu-Shun Yen氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に4月30日掲載された。SGLT2iの処方が、透析導入や心不全、急性心筋梗塞(AMI)、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、急性腎障害(AKI)による入院リスクの有意な低下と関連しているという。 SGLT2iは血糖降下作用とともに腎保護作用や心保護作用を有することが明らかになっており、ガイドラインでも使用が推奨されている。しかし、そのエビデンスは腎機能が一定程度以上に保たれている患者を対象に行われた研究から得られたものであり、高度腎機能低下例でのエビデンスは数少ない。これを背景としてYen氏らは、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)を用いて、ステージ5(eGFR20mL/分/1.73m2未満で定義)の慢性腎臓病(CKD)を有する糖尿病患者でのSGLT2iの有用性を検討した。なお、同国は1995年に皆保険制度が施行され、国民の99%が国民健康保険に加入しており、NHIRDにはその医療行為が記録されている。 解析には、SGLT2iが同国で使用され始めた2016年5月以降、2021年10月までのデータを用いた。この間に2型糖尿病かつステージ5のCKDを有する糖尿病関連腎臓病(DKD)患者のうち、2万3,854人にSGLT2iが処方されていた。SGLT2iが処方されていないDKD患者2万3,892人を無作為に抽出し、透析導入、心血管イベント、全死亡などのアウトカムを、SGLT2i処方の有無で比較した。解析対象者全体の平均年齢は61.0歳で女性が49.8%、HbA1c8.2%、eGFR10.3mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)82mg/gCrだった。追跡期間は平均3.1±1.5年、最長5.4年。 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、HbA1c、糖尿病罹病期間、LDL-C、併存疾患、処方薬など)を調整後、SGLT2iが処方されていた患者群ではITT解析による1,000人年当たりの透析導入のハザード比(HR)が0.34(95%信頼区間0.27~0.43)で、66%低リスクだった。年齢層、性別、UACRによるサブグループ解析においても、それらによる有意な差異は認められず、結果は一貫していた。 また、以下のイベントによる入院についても、SGLT2iが処方されていた群で有意なリスク低下が観察された。心不全はHR0.80(同0.73~0.86)、AMIはHR0.61(0.52~0.73)、DKAはHR0.78(0.71~0.85)、AKIはHR0.80(0.70~0.90)。一方、全死亡に関してはHR1.11(0.99~1.24)で、SGLT2i使用の有無による有意差がなかった。 以上の結果を基に著者らは、「ステージ5のDKD患者において、SGLT2iの使用は透析導入や心腎イベントおよびDKAリスクの低さと関連していた。SGLT2iはCKDステージにかかわらず、疾患管理において基礎的な薬剤となり得るのではないか」と述べている。ただし今回の研究は2型糖尿病患者のみを対象としたため、「この知見は2型糖尿病のないCKD患者には当てはまらない可能性がある」としている。

6.

慢性腎臓病を伴う2型糖尿病に対するセマグルチドの腎保護作用 -FLOW研究から何を学ぶ-(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? GLP-1受容体作動薬は、LEADER/SUSTAIN-6/REWINDなど2型糖尿病の大規模研究において心血管主要アウトカムのリスク軽減が報告されている。一方、これらの研究で腎イベントは副次項目として設定されており、肯定論はあるものの正確な評価はされていない。今回のFLOW研究は、セマグルチドの効果を、腎疾患イベントを主要評価項目として評価した初の腎アウトカム研究である。FLOW試験のデザインと経緯 慢性腎疾患(CKD)を有する2型糖尿病の成人を対象として、腎臓を主要評価項目とした。標準治療の補助療法として追加したセマグルチド1.0mg週1回皮下注とプラセボを比較した、無作為割り付け、二重盲検、並行群間、プラセボ対照試験のデザイン。両群のベースラインeGFRは、47mL/min/1.73m2である。複合主要評価項目は、eGFRのベースラインから持続的50%以上の低下、持続的なeGFR 15mL/min/1.73m2未満の発現、腎代替療法(透析または腎移植)の開始、腎死、心血管死、の5項目。本計画書では、事前に規定した数の主要評価項目イベントが発生した時点で中間解析を行うこととした。試験は2019年に開始、28ヵ国、387の治験実施施設で3,533人が組み入れられた。そして、経過中セマグルチドの腎アウトカムの改善効果が明確になったため、2023年10月独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験の早期終了が決定された。FLOW試験の主たる結果 早期終了勧告の際の中間観察期間は3.4年。主要評価項目において、セマグルチド群でのリスク低下は24%(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)であった。この結果は、主要評価項目の中で腎に特異的な複合項目(HR:0.79、95%CI:0.66~0.94)と心血管死(HR:0.71、95%CI:0.56~0.89)においても同様であった。サブグループ解析において、セマグルチド群のHRが低い要因として、欧州地域、UACRが多い、BMIが大、糖尿病歴が長い、などが挙げられた。以上、本試験から「CKDを有する2型糖尿病患者においてセマグルチドは腎アウトカムを改善し、心血管死を抑制する」、と結論された。GLP-1受容体作動薬による腎保護の想定機序 FLOW試験は、GLP-1受容体作動薬の腎保護の作用機序を議論する研究ではない。しかし、この点は万人にとって興味の的である。GLP-1受容体作動薬には食欲抑制作用がある。その機序には、胃排出遅延作用と中枢における食欲抑制が知られている。食欲抑制は、糖負荷とNa負荷を軽減し、糖代謝や高血圧などを改善し、腎保護に寄与する。さらに腎保護作用のメカニズムには、Na利尿作用、抗酸化作用、抗炎症作用、血管拡張作用など複合的に想定される。腎臓におけるGLP-1受容体は、糸球体、近位尿細管、輸入細動脈、緻密斑(MD)などに分布する。GLP-1受容体作動薬は、近位尿細管でNHE3やNHE3-DPP4複合体の活性化を抑制しNa利尿を亢進させる。GLP-1受容体作動薬が、MDへのNa流入増加から、尿細管・糸球体フィードバック(TGF)を介して糸球体内圧低下を惹起するか否かに関しては、一定の見解は得られていない。本論文の日本での意義付けと注意点 FLOW研究の成果は、糖尿病や腎臓病専門医の日常診療にとってもインパクトは高い。日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」において、ステップ1でGLP-1受容体作動薬が、ステップ3でCKD合併2型糖尿病ではSGLT2阻害薬と共に選択薬剤として推奨されている。また、ADA/KDIGOにおける糖尿病性腎臓病(DKD)に対する腎保護管理2022の推奨においても、GLP-1受容体作動薬はリスクに応じた追加治療としてARB/ACE阻害薬、SGLT2阻害薬、MRAと共に推奨されている(Kidney Int. 2022;102:S1-S54.)。一方、本論文を直接日本人に外挿できるか、には注意が必要である。FLOW研究は、アジア人が20%と少なく、さらにHRが低下した患者層は、BMI>30でUACR≧300であった。このことは、同剤は肥満度が高い顕性蛋白尿を有するDKDで効果が高い可能性を示唆する。さらに、本試験で使用されたセマグルチドは、注射製剤(オゼンピック)であることも注意すべきである。現在、本邦では経口セマグルチド(リベルサス)も使用可能であるが、両者は薬物動態学/薬力学の面で同一ではない。したがって、注射製剤セマグルチドで得られたFLOW試験の腎保護効果を、経口セマグルチドには直接外挿はできない。心血管イベント抑制や腎アウトカム改善を目標とするなら、経口薬ではなく注射薬を選択すべきであろう。慢性腎臓病を伴う2型糖尿病における腎保護療法の未来展望 近年、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRA)なる4剤の組み合わせが注目され、臨床現場で実践されている。これに追随しDiabetic Kidney Disease(DKD)治療において推奨される4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型・MRA[フィネレノン]、GLP-1受容体作動薬)の組み合わせを、新たに腎臓病ファンタスティックフォー(The DKD fantastic four)とする治療アルゴリズムが一部に提唱されている(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、腎臓の酸素化や炎症を評価する試験(TREASURE-CKD[NCT05536804]、REMODEL[NCT04865770])が進行中であり、GLP-1受容体作動薬の作用機序の一部が解明される期待がある。今後、「GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」、との治療上の作業仮説も注目されつつある。この観点に立ち、将来的にはGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、糖尿病性腎臓病の早期から開始する「Foundational drug:基礎薬」となり得るのではとの意見もある(Mark PB, et al. Lancet. 2022.400;1745-1747.)。

7.

イメグリミンのRWD、体重減少や肝機能改善も/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17日~19日の日程で、東京国際フォーラムをメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「『糖尿病』のない世界を目指して〜糖尿病学の挑戦〜」をテーマに、46のシンポジウム、169の口演、ポスターセッションなどが開催され、特筆すべきは糖尿病患者の参加プログラムやこれからの医療を担う高校生向けの参加プログラムなども開催された。 本稿では「口演118 薬物療法」から「当院におけるイメグリミンの有効性・安全性の検討」(演者:吉田 薫氏[名鉄病院内分泌・代謝内科])をお届けする。イメグリミンはHbA1cを低下させ、脂質、肝機能を改善する可能性 イメグリミン(商品名:ツイミーグ)は、ミトコンドリアへの作用を介し、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制および糖取込み能改善)により血糖降下作用を示すことで、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用を有する可能性が示唆されている治療薬で、β細胞の生存と機能を保護する効果も期待されている。わが国では、2021年6月23日に製造販売承認、同年8月12日に薬価収載、同年9月16日に発売されている。 吉田氏らの研究グループは、リアルワールドでのイメグリミンの有効性と安全性の検討を行うとともに、患者の体組成分析の検討も行った。 対象・方法として、2022年9月より2型糖尿病患者のイメグリミンへの切り替え、追加投与を行い、6ヵ月以上観察可能の75例(男性55例/女性20例)について投与前後の各種臨床指標および体組成推移を比較検討した。患者背景としては、平均年齢62.6歳、平均HbA1c8.8%、平均病歴12年、平均BMIは26で、併用薬ではメトホルミン、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の順で多く、インスリンは28%の患者で使用していた。 主な結果は以下のとおり。・HbA1cは8.9±1.5%から8.0±1.1%へ低下、グリコアルブミン(GA)は21.1±6.2%から19.5±4.5%に有意に改善した。・GA/HbA1cには変化がなかった。・脂質、肝機能(AST、ALTともに)は改善傾向がみられたが、血圧、腎機能には変化がなかった。・FIB-4 indexに変化はなかった。・体重は71.5±15.2kgから67.3±14.4kgへと減少した。・体組成分析において、体水分量は減少したが体蛋白量は変化がなかった。・脂肪量、筋肉量に有意な変化はなかった。・安全性では6例に消化器症状があり中止となったが、特筆すべき事象はなかった。 以上から吉田氏らのグループは「イメグリミンは体重を増加させることなく、血糖コントロールを改善し、脂肪肝を改善する可能性がある。また、体重を減らすことなくHbA1cを改善する可能性が示唆される」と考察している。

8.

うっ血やLVEFの低下がある急性心筋梗塞では、SGLT2阻害薬の追加により心不全入院を予防できる可能性(解説:原田和昌氏)

 心不全ステージBである急性心筋梗塞(MI)患者では心不全(HF)発症リスクが高く、とくにうっ血やLVEFの低下がある場合は予後不良とされる。SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、2型糖尿病、CKD、HF患者における心血管イベント抑制効果が示されており、MI後の心不全発症の予防も期待される。Butler氏らは、MI後のHF発症に対するエンパグリフロジン上乗せの有効性と安全性を検証する国際共同第III相多施設ランダム化並行群間プラセボ対照優越性試験EMPACT-MI試験を行った。 急性心筋梗塞(STEMIまたはNSTEMI)発症後14日以内でLVEFが45%未満、またはうっ血が認められる18歳以上のHF高リスク患者6,522例が対象で、慢性HFの既往、1型糖尿病、eGFR 20mL/分/1.73m2未満などは除外した。2型糖尿病31.9%、心筋梗塞の既往13.0%、STEMI 74.3%、三枝病変31.0%、心房細動10.6%などであった。RAS阻害薬、β遮断薬、MRA、スタチン、抗血小板療法などの標準治療がなされ、血行再建術は89.3%に行われた。主要評価項目は複合イベント(HFによる初回入院または全死亡)の発生であった。 17.9ヵ月の追跡期間中にHFによる初回入院または全死亡の発生について、エンパグリフロジン群の優越性は認められなかった。副次評価項目のうち全入院または全死亡の発生は、プラセボ群に比べてエンパグリフロジン群で有意に少なかったが(HR:0.87)、その他の副次評価項目に有意差は認められなかった。評価項目の構成要素別の解析では、エンパグリフロジン群でプラセボ群に比べHFによる初回入院までの期間(HR:0.77)、HFによる入院は有意に良好だった(RR:0.67)。安全性プロファイルは既報のデータと一貫していた。 主要評価項目において、エンパグリフロジン群はプラセボ群に対する優越性が認められなかった。その理由としてはイベントの数が少なかったこと、PCIを施行されたMI後のLVEFの低下は一部気絶心筋によるためSGLT2阻害薬の効果が出にくかった可能性が考えられる。なお、Butler氏はACC.24でHFに対するSGLT2阻害薬の有効性に関するシステマティックレビューとメタ解析を行い、HFによる初回入院までの期間を検討したRCT 12件、HFによる入院の発生を検討したRCT 8件において、EMPACT-MI試験と同様の「29%、30%のリスク低減が確認された」と述べた。 同様な患者を対象とした2021年のPARADISE-MI試験で、サクビトリル・バルサルタン400mgはラミプリル10mgと比較して、心血管死亡とHF入院を減らさなかった。一方、2023年のDAPA-MI試験では、MI後でLVEFの低下した糖尿病のない患者を、ダパグリフロジン10mgまたはプラセボに無作為に割り付けた。主要アウトカムは、死亡、HFによる入院、非致死的MI、心房細動/粗動、2型糖尿病、最終来院時のNYHA機能分類、最終来院時の5%以上の体重減少の階層的複合で、ダパグリフロジンのwin ratioはプラセボよりも有意に高かった。ダパグリフロジンは階層的複合の改善に関して有意なメリットがあったが、心血管死またはHFによる入院はプラセボと比較して有意な差はなかった。DAPA-MI試験はレジストリーベースの無作為化試験であり、イベント発生が少なかったため、途中で試験デザインがwin ratioに変更されたうえ、有意な結果は追加された心代謝系アウトカムによっていた。MI後のHF高リスク患者に対するSGLT2阻害薬のエビデンスとしては合わせ技一本ということかもしれない。さらに、EMPACT-MI試験がNEJMで、DAPA-MI試験がNEJM evidence(臨床試験の結果、方法論、分析に焦点)である点も興味深いところである。

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2型DM、メトホルミンに追加するなら?/BMJ

 日常診療における2型糖尿病患者の2次治療として、メトホルミンに追加する3種の一般的な経口血糖降下薬(SU薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)の有効性を比較する検討が、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のPatrick Bidulka氏らにより行われた。SGLT2阻害薬は、SU薬およびDPP-4阻害薬と比較してHbA1c、BMI、収縮期血圧を低下させ、心不全による入院(対DPP-4阻害薬)および腎臓病の進行による入院(対SU薬)のリスクを抑制した。なお、その他の臨床エンドポイントでは差があるとのエビデンスは示されなかった。BMJ誌2024年5月8日号掲載の報告。SGLT2阻害薬vs.SU薬vs.DPP-4阻害薬、1年時点のHbA1c変化の絶対値を評価 研究グループは、有効性比較試験を模倣したコホート研究(target trial emulation)で、メトホルミンに追加する3種の一般的な経口血糖降下薬(SU薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)の有効性を比較した。 2015~21年のイングランドにおけるプライマリケア、病院、死亡のデータを結び付け、メトホルミンにSU薬、DPP-4阻害薬またはSGLT2阻害薬を追加して経口血糖降下薬による2次治療を開始した、2型糖尿病の成人患者7万5,739例を対象とした。 主要アウトカムは、ベースラインからフォローアップ1年時点までのHbA1c変化の絶対値であった。副次アウトカムは、1年時点および2年時点のBMI、収縮期血圧、eGFRの変化、2年時点のHbA1cの変化、eGFRが40%以上低下するまでの期間、主要有害腎イベント、心不全による入院、主要有害心血管イベント(MACE)、全死因死亡などであった。操作変数法を用いて、ベースラインの欠測による交絡リスクを軽減して評価した。SGLT2阻害薬併用が、他の2種併用よりも優れる 7万5,739例が経口血糖降下薬による2次治療を開始した。SU薬追加は2万5,693例(33.9%、SU薬群)、DPP-4阻害薬追加は3万4,464例(45.5%、DPP-4阻害薬群)、SGLT2阻害薬追加は1万5,582例(20.6%、SGLT2阻害薬群)であった。 ベースラインからフォローアップ1年時点までのHbA1c低下の平均値は、SGLT2阻害薬群がDPP-4阻害薬群やSU薬群よりも大きく、SGLT2阻害薬がより有効であることが示された。操作変数解析後、HbA1c変化の平均群間差は、SGLT2阻害薬群vs.SU薬群が-2.5mmol/mol(95%信頼区間[CI]:-3.7~-1.3)、SGLT2阻害薬群vs.DPP-4阻害薬群は-3.2mmol/mol(-4.6~-1.8)であった。 BMIおよび収縮期血圧の低下においても、SGLT2阻害薬がSU薬またはDPP-4阻害薬よりも有効であることが示された。ただし、いくつかの副次エンドポイントで、SGLT2阻害薬がより有効であるとのエビデンスは示されなかった。たとえば、MACEに関するハザード比(HR)は、対SU薬で0.99(95%CI:0.61~1.62)、対DPP-4阻害薬で0.91(0.51~1.63)であった。 SGLT2阻害薬は、DPP-4阻害薬(HR:0.32、95%CI:0.12~0.90)やSU薬(0.46、0.20~1.05)と比較して、心不全による入院のリスクを低下させた。 eGFR 40%以上低下について、SGLT2阻害薬がSU薬よりも保護効果があることが示された(HR:0.42、95%CI:0.22~0.82)。DPP-4阻害薬との比較では、推定HR(0.64、0.29~1.43)に高い不確実性が認められた。

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2型DMへのGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬、併用vs.単剤/BMJ

 2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用は、これらの薬剤クラスの単剤投与と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)および重篤な腎イベントのリスクを低減することが、英国・バーミンガム大学のNikita Simms-Williams氏らが実施したコホート研究で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年4月25日号に掲載された。英国のコホート研究 本研究では、2013年1月~2020年12月に集積した英国の2型糖尿病患者の2つのコホートのデータを使用した(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 1つは、GLP-1受容体作動薬で治療を開始し、SGLT2阻害薬を追加した6,696例(平均年齢56.7歳、男性54.5%)、もう1つはSGLT2阻害薬で治療を開始し、GLP-1受容体作動薬を追加した8,942例(57.6歳、52.3%)のコホートであった。併用群は、個々の基礎治療薬(GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬の単剤投与)とその投与期間が同じ患者と、傾向スコアでマッチングを行った。 主要アウトカムは、MACE(心筋梗塞、脳梗塞、心血管死)および重篤な腎イベントとし、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用と2つの基礎治療薬単剤をそれぞれ比較した。併用により、単剤に比べMACEリスクが約3割低下 GLP-1受容体作動薬単剤と比較して、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用では、MACEのリスクが30%低下(1,000人年当たりのイベント数:併用群7.0件vs.単剤群10.3件、ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.49~0.99)し、重篤な腎イベントのリスクは57%減少(2.0件vs.4.6件、0.43、0.23~0.80)した。 また、SGLT2阻害薬単剤に比べ、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用では、MACEのリスクが29%低下(1,000人年当たりのイベント数:併用群7.6件vs.単剤群10.7件、HR:0.71、95%CI:0.52~0.98)したのに対し、重篤な腎イベントのリスクのCIは範囲が広かった(1.4件vs.2.0件、0.67、0.32~1.41)。MACEの各項目には大きな差はない MACEの各項目については、GLP-1受容体作動薬単剤との比較では、心筋梗塞(HR:0.73、95%CI:0.45~1.17)、脳梗塞(0.90、0.48~1.67)に併用群との差はなく、心血管死(0.35、0.15~0.80)は併用群で良好であったもののCIの範囲が広かった。心不全(0.57、0.35~0.91)も併用群で良好だったが、CIの範囲は広く、全死因死亡(0.71、0.49~1.02)には差を認めなかった。 また、SGLT2阻害薬単剤との比較では、併用群で心筋梗塞(HR:0.73、95%CI:0.48~1.12)、脳梗塞(0.86、0.46~1.59)、心血管死(0.54、0.29~1.01)に差はなく、心不全(0.70、0.40~1.23)、全死因死亡(0.73、0.52~1.01)にも差を認めなかった。 著者は、「これらの知見は、2型糖尿病の治療における、心血管イベントおよび腎イベントの予防において、これら2つの有効な薬剤クラスの併用の潜在的な有益性を強調するものである」としている。

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STEMI合併心原性ショックの治療に一筋の光!? DanGer Shock Trial【臨床留学通信 from NY】第60回

第60回:STEMI合併心原性ショックの治療に一筋の光!? DanGer Shock Trial毎年恒例の米国心臓病学会の学術集会ACC(American College of Cardiology)が開催されたため、4月上旬にアトランタに行ってまいりました。私が筆頭著者となった研究2つを含む、7つのAbstractの発表となりました。また、留学している循環器医の方々に現地で会うことができました。昨今の物価高騰などから、ニューヨークからの参加とはいえ、参加費、飛行機、宿泊代等々を含めると1,500ドル(22.5万円相当)の出費となり、なかなか大変です。幸い今回はプログラムがサポートしてくれそうなので、払い戻しの最終許可が下りるのを待っているところです。今回のACCの目玉はDanGer Shock Trialです1)。Impella補助循環用ポンプカテーテル(Impella CP)というデバイスを用いてST上昇型心筋梗塞(STEMI)に合併した心原性ショックを治療すると、標準治療群に比べて、半年の時点で有意に死亡率を低下させるというものでした(45.8% vs. 58.5%、HR:0.74[95%信頼区間[CI]:0.55~0.99])。360人の患者を対象とし、Trialを試行するまで登録に10年ほど要したようです。患者さんは収縮期血圧100mmHg以下または昇圧薬使用、乳酸値2.5mmol/L以上、左室駆出率45%以下となっており、来院時昏睡状態や右室収縮不全は除外されたようです。標準治療群は、デバイスを使いたければECMOが推奨されていたようです。標準治療群で58%という高い死亡率のSTEMIによる心原性ショックですが、このトライアルのどおりに死亡率が下げられるならすごいことです。われわれInterventionalistは、この条件にマッチした患者にImpella CPを施行しないといけないということにもなりますが、Imeplla CPは管理をしっかりしないと、下肢虚血、出血、溶血などのトラブルも多く、気を付けないといけません。実際にこのトライアルでも合併症は多く出ていました。トライアルをするようなところですら多いので、実際のリアルワールドはどうなのか気になるところで、そこが次のステップだと思います。Column日米の研修医の先生たちと。今回発表となった先生方との共同研究を紹介します。1つはSGLT2阻害薬の人種による効果の違いを述べたもの。こちらは近々論文として提出予定です。Kani R, Kuno T, et al. Racial and Regional Differences in Efficacy of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors on Cardiorenal Outcomes: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Am Coll Cardiol. 2024 Apr, 83 (13_Supplement) 2456.もう1つはImpellaとIABPの比較をNon AMI心原性ショックについて述べたもの。本結果はImepllaのほうが悪いというものでしたが、DanGer Shock TrialはSTEMIを対象としているので対象患者が異なるのと、もちろん観察研究の限界もあるかと思います。こちらはJAHAにもオンライン掲載予定です。Watanabe A, Kuno T, et al. Percutaneous Microaxial Ventricular Assist Device vs. Intra-Aortic Balloon Pump for Non-Acute Myocardial Infarction Cardiogenic Shock. J Am Coll Cardiol. 2024 Apr, 83 (13_Supplement) 454.参考1)Moller JE, et al. Microaxial Flow Pump or Standard Care in Infarct-Related Cardiogenic Shock. 2024 Apr 18;390(15):1382-1393.

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GLP-1受容体作動薬の使用で甲状腺がんリスクは増加する?

 ウゴービやオゼンピックなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1アナログ製剤)は、糖尿病治療薬や肥満症治療薬として多くの人に使用されるようになった一方で、長期間の使用が甲状腺がんのリスク増加と関連する可能性が危惧されている。しかし、43万5,000人以上を対象としたスウェーデンの研究で、そのような考えの裏付けとなるエビデンスは見つからなかったことが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のBjorn Pasternak氏らによるこの研究結果は、「The BMJ」に4月10日掲載された。 Pasternak氏らは、デンマーク、ノルウェー、およびスウェーデンの2007年から2021年のヘルスケアおよび行政の登録データを用いて、GLP-1受容体作動薬の使用と甲状腺がんリスクとの関連を検討した。対象者は、リラグルチド(商品名ビクトーザ)やセマグルチド(商品名オゼンピック)などのGLP-1受容体作動薬を使用している14万5,410人と、別の糖尿病治療薬であるDPP4阻害薬を使用している29万1,667人であった。 GLP-1受容体作動薬使用群で平均3.9年、DPP4阻害薬使用群で平均5.4年の追跡期間中に、前者では76人(1万人年当たり1.33件の発症)、後者では184人(1万人年当たり1.46件の発症)が甲状腺がんを発症していた。DPP4阻害薬群と比べたGLP-1受容体作動薬群の甲状腺がん発症のハザード比は0.93(95%信頼区間0.66〜1.31)だった。この結果は、GLP-1受容体作動薬使用群とSGLT2阻害薬と呼ばれる第3の糖尿病治療薬を使用していた群とを比較した場合でも同様だった。一方で、GLP-1受容体作動薬使用群では、甲状腺がんのサブタイプである甲状腺髄様がんの発症リスクがDPP4阻害薬使用群よりも19%高いことが示された。ただし、この結果は統計学的に有意ではなかった。 Pasternak氏は、「多くの人がこれらの医薬品を使用しているので、使用に伴う潜在的なリスクを研究することは重要だ」と強調する。そして、「われわれの研究結果は、広範な患者群を対象としており、GLP-1受容体作動薬が甲状腺がんのリスク増大とは無関係であることを強く裏付けるものだ」とカロリンスカ研究所のニュースリリースの中で述べている。 一方、論文の上席著者である同研究所のPeter Ueda氏は、「GLP-1受容体作動薬が甲状腺に及ぼす影響についての最終的な結論はまだ出ていない」と強調する。その理由について同氏は、「例えば、生まれつき甲状腺髄様がんのリスクが高く、GLP-1受容体作動薬の使用を控えるように勧められているような、一部の集団における甲状腺がんの特定のサブタイプのリスク増加について、明確に否定することができなかったからだ」と説明している。

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インスリン以外の血糖降下薬も先天奇形のリスクでない

 インスリン以外の血糖降下薬を妊娠中に使用しても、先天奇形リスクの有意な上昇は生じない可能性を示唆するデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のCarolyn E. Cesta氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Internal Medicine」に12月11日掲載された。 世界的に晩婚化が進み、妊娠時に2型糖尿病を発症している女性が増加している。2型糖尿病の血糖管理には一般的にまず非インスリン製剤が選択されるが、妊娠中は胎児の奇形リスクの懸念などのため、通常、催奇形性のないインスリン製剤が用いられる。しかし、計画妊娠によらずに妊娠が成立した場合には、妊娠に気付くまでの妊娠初期に、非インスリン製剤に曝露されることになる。このような場合に胎児の先天奇形リスクがどのように変化するのかは、これまで明らかにされていない。以上を背景としてCesta氏らは、妊娠成立時から妊娠初期の非インスリン製剤の使用が、先天性の大奇形(major congenital malformations;MCM)のリスク上昇と関連しているかどうかを検討した。 研究には、2009~2020年の北欧4カ国の医療データ、2012~2021年の米国の医療データ、2009~2020年のイスラエルの医療データが用いられた。それらのデータベースから2型糖尿病妊婦を抽出し、児の生後1年までの医療記録を追跡調査した。リスクを評価した薬剤は、スルホニル尿素(SU)薬、DPP-4阻害薬(DPP-4i)、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、SGLT2阻害薬(SGLT2i)の4種。それらの薬剤が、妊娠の90日前から妊娠第1三半期に1回以上処方されていたケースを、曝露された症例とした。比較対照はインスリンのみによって治療されていたケースとした(アクティブコンパレータ)。主要評価項目は、MCMの相対リスクであり、年齢、併存疾患(肥満、高血圧、心血管疾患、糖尿病合併症、多嚢胞性卵巣症候群)、他の処方薬(降圧薬、脂質低下薬)などの交絡因子の影響は調整した。 MCMの標準化有病率は全体で3.7%であった。それに対して2型糖尿病妊婦の児では5.3%であり、SU薬に曝露された児では9.7%、DPP-4i曝露では6.1%、GLP-1RA曝露で8.3%、SGLT2i曝露で7.0%であって、インスリンのみで治療されていた群は7.8%だった。インスリンのみで治療されていた群を基準とした交絡因子調整後のMCM相対リスクは、SU薬曝露で1.18(95%信頼区間0.94~1.48)、DPP-4i曝露0.83(同0.64~1.06)、GLP-1RA曝露0.95(0.72~1.26)、SGLT2i曝露0.98(0.65~1.46)であり、いずれも非有意だった。 著者らは、「インスリン製剤によらない糖尿病治療の普及とともに、妊娠初期の非インスリン製剤への曝露が急速に増加している。われわれの研究結果は、そのような非インスリン製剤への曝露によるMCMリスクの有意な上昇を示しておらず、安心につながるデータが得られた。ただし、より正確なデータが必要であり、他の研究での検証が求められる」と述べている。 なお、数人の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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エンパグリフロジン、急性心筋梗塞後には?/NEJM

 心不全リスクが高い急性心筋梗塞後の患者に対し、エンパグリフロジンによる治療はプラセボ治療との比較において、入院を要する初回心不全または全死因死亡リスクの有意な低下にはつながらなかった。米国・Baylor Scott and White Research InstituteのJaved Butler氏らが、無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。先行研究でエンパグリフロジンは、心不全を有する患者、心血管リスクの高い2型糖尿病患者、慢性腎臓病(CKD)患者において心血管アウトカムを改善することが示されていたが、急性心筋梗塞後の患者における安全性および有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2024年4月6日号掲載の報告。心不全による入院または全死因死亡の複合イベントを対プラセボで評価 本試験はevent-driven二重盲検法にて実施された。急性心筋梗塞を呈し入院中で心不全リスクの高い患者を、入院後14日以内に標準治療に加えてエンパグリフロジン10mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。なお、両群とも治験責任医師の判断により、非盲検下でエンパグリフロジンまたはほかのSGLT-2阻害薬への切り替えを可とした。 主要エンドポイントは心不全による入院または全死因死亡の複合で、time-to-first-event解析にて評価した。 2020年12月~2023年3月に、22ヵ国451施設で6,610例がスクリーニングを受け、6,522例(エンパグリフロジン群3,260例、プラセボ群3,262例)が無作為化された。 入院から無作為化までの期間中央値は5日(四分位範囲:3~8)。ベースラインにおける両群の患者特性は類似しており、65歳以上(患者の50.0%)、2型糖尿病(31.9%)、三枝冠動脈疾患(31.0%)の患者が多くみられた。約75%が無作為化時にST上昇型心筋梗塞(STEMI)を呈し、89.3%の患者に血行再建術が実施された。 エンパグリフロジン群で684例(21.2%)、プラセボ群で716例(22.2%)が死亡以外の理由で試験薬が中断された。試験期間中に436例(6.7%)が非盲検でSGLT2阻害薬の投与を開始した(エンパグリフロジン群201例[6.2%]、プラセボ群235例[7.2%])。 主要エンドポイントの発生について、6,328例(97.0%)を試験の最後まで追跡し、6,467例(99.2%)のバイタルデータを試験終了時に入手した。追跡期間中央値17.9ヵ月、ハザード比は0.90 追跡期間中央値17.9ヵ月において、心不全による初回入院または全死因死亡は、エンパグリフロジン群267例(8.2%)、プラセボ群298例(9.1%)で報告された。100患者年当たりのイベント数は、それぞれ5.9件と6.6件であった(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.76~1.06、p=0.21)。 主要エンドポイントの項目別にみると、心不全による初回入院は、エンパグリフロジン群118例(3.6%)、プラセボ群153例(4.7%)(HR:0.77、95%CI:0.60~0.98)、全死因死亡は、それぞれ169例(5.2%)、178例(5.5%)(0.96、0.78~1.19)であった。 有害事象は両群間で同程度に認められ、エンパグリフロジンの安全性プロファイルは既知のものと同様であった。

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事例045 糖尿病治療でカナグル錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説糖尿病患者にSGLT2阻害薬カナグリフロジン(商品名:カナグル錠、以下「同錠」)を投与したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。査定理由を調べるために、添付文書を参照しました。適応症は、「2型糖尿病」です。レセプトには「糖尿病」のみが表示されています。効能または効果に関する注意には、「1型糖尿病には投与しないこと」と記載がありました。病型記載漏れが原因ではないかと考えましたが、事由「D」の適用に対して疑問を持ち、さらに読み進めました。2型糖尿病であっても「eGFR30mL/分/1.73m2未満の中等度以上の腎機能障害患者または透析中の末期腎不全患者には、同錠の血糖低下作用が期待できない」との記載もありました。同錠の投与にあたり、妥当性のある検査値の表示がレセプトに必要であると解釈ができます。さらに、同錠には「投与開始にあたっては、診療報酬明細書の摘要欄に、投与開始時のeGFRの値及び検査の実施年月日を記載すること」との2022年6月20日発の厚生労働省通知がありました。これらの点から事由「D」が適用されたものと推測しました。医師には、同錠を投与する場合を含めて「糖尿病には必ず病型」を表示いただくとともに、同錠投与の場合には、レセプトへ検査値の記載をお願いして査定対策としました。なお、同錠にも関連することとして、自由診療で「GLP-1ダイエット」に対して2023年9月20日に留意事項が発信されていることにもご留意願います。

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CKDへの適応が追加されたエンパグリフロジンへの期待/ベーリンガーインゲルハイム・リリー

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)に、2024年2月、慢性腎臓病(CKD)の適応が追加された。この適応追加に関連して日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは、3月29日に都内でプレスセミナーを共同開催した。セミナーでは、CKDの概要、エンパグリフロジンのCKDに対するEMPA-KIDNEY試験の結果などについて講演が行われた。CKDの早期発見、早期介入で透析を回避 はじめに「慢性腎臓病のアンメットニーズと最新治療」をテーマに岡田 浩一氏(埼玉医科大学医学部腎臓内科 教授)が講演を行った。 腎炎、糖尿病、高血圧、加齢など腎疾患の原因はさまざまあるが、終末期では末期腎不全となり透析へと進展する。この腎臓疾患の原因となる病気の発症から終末期までを含めてCKDとするが、CKDの診療には次の定義がある。(1)尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか(とくに蛋白尿)(2)GFR<60mL/分/1.73m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続した場合にCKDと診断 また、重症度分類として18区分でヒートマップ化したものがあり、個々の患者の病態に応じ早期に治療介入することが必要だという。 最近の研究では、心血管死へのCKDの影響も解明されつつあり、厚生労働省の調査班の研究では、喫煙、糖尿病、高血圧、CKDが心血管死の主要因子とされ、とくにCKDの頻度は高血圧44.3%に次いで高く20.4%、人口寄与危険割合も高血圧26.5%に次いで10.4%と2番目に高いリスクであると説明した。また、わが国のCKD患者は、2005年時に推定1,328万人から2015年には推定1,480万人に増加しており、そのうち2022年時点で透析患者は約35万人、年間で約1.63兆円の医療費が推計されている。この対策に厚生労働省は、腎疾患対策検討会などを設置し、「2028年までに新規透析導入患者数を3万5千人以下に減少させる(10年で10%以上減少)」などの目標を示し、さまざまな調査と対策を打ち出している。 CKDの治療では、減塩や蛋白質制限などの食事療法、禁煙などの生活習慣改善のほか、RA系阻害薬を中心とした降圧療法、スタチンを用いた脂質異常症の治療など個々の患者の病態に合わせた多彩な治療が行われている。先述の対策委員会の中間報告では、診療ガイドラインの推奨6項目以上を達成すると予後が良好となりCKDの進展抑制が可能との報告もあり、「個別治療を1つでも多く達成することが重要」と岡田氏は指摘する。また、CKD患者への集学的治療は、患者のeGFRの低下を有意に遅らせる可能性があり、初期段階を含めて原疾患に関係なく有効である可能性があると示唆され、とくにステージ3〜5の患者には集学的治療が推奨されるという研究結果も説明した1)。 今後の課題として、わが国の新規透析導入患者は、2020年をピークに減少傾向にあるが、高齢男性では依然として増加傾向にあること、主な透析導入の原因として、第1位に糖尿病、第2位に高血圧・加齢、第3位に慢性腎炎が報告されている(日本透析医学会「わが国の慢性透療法の現況」[2022年12月31日現在])ことに触れ、第3位の慢性腎炎の疾患の1つである腎硬化症に焦点を当て解説を行った。腎硬化症は、蛋白尿を伴わず、進行も遅いためになかなか治療対象として認知されておらず、また、現在は根治療法がなく、診療エビデンスも少ないと今後解決すべきアンメットニーズであると説明した。 岡田氏は最後に「CKDは早期発見と介入が何よりも重要であり、eGFR>30である間に、かかりつけ医から専門医への紹介を推進することが大切」と語り講演を終えた。糖尿病の有無にかかわらずCKD患者の心血管死リスクを低下させる 次に「慢性腎臓病に対する新しい治療選択肢としてジャディアンスが登場した意義」をテーマに門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が、エンパグリフロジンのCKDへの適応追加の意義や臨床試験の内容について説明を行った。 糖尿病などの代謝性疾患、心血管疾患、CKDは相互に関連し、どこか1つのサイクルが壊れただけでも負のスパイラルとなり、身体にさまざまな障害を引き起こすことが知られている。 2014年に糖尿病治療薬として承認されたSGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、当初から心臓、腎臓への保護作用の可能性が期待され、2021年には慢性腎不全に追加承認が、本年にはCKDへ追加承認がされた。その追加承認のベースとなった臨床試験がEMPA-KIDNEY試験である。 EMPA-KIDNEY試験は、8ヵ国で行われた第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、目的は「CKD患者にエンパグリフロジンが腎疾患の進行または心血管死のリスクを減少させるかを検討すること」、対象範囲は糖尿病ではない患者、低蛋白尿を呈する患者を含む、腎疾患進行リスクを有する幅広いCKD患者である。 EMPA-KIDNEY試験の概要は以下の通り。〔試験デザインとアウトカムなど〕・腎疾患進行リスクのあるCKD患者6,609例(うち9%が日本人)を、エンパグリフロジン10mg/日+標準治療(3,304例)とプラセボ+標準治療(3,305例)に割り付けた。・主要評価項目:心血管死または腎疾患の進行・副次評価項目:心不全による初回入院または心血管死までの期間など・患者背景は糖尿病患者と非糖尿病患者が半々だった。・eGFR<30mL/分/1.73m2の低下例も組み入れたほか、微量アルブミン尿患者も組み入れた。〔主な結果〕・主要評価項目では2.5年の追跡期間で腎臓病進行または心血管死の初回発現について、エンパグリフロジン群で432例(13.1%)、プラセボ群で558例(16.9%)だった(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.64~0.82、p<0.001)ことから初回発現までの期間が有意に抑制された2)。・ベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープ(年間変化率)は、プラセボ群の-2.92に対してエンパグリフロジン群が-2.16で、その差は0.75だった。・2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープは、プラセボ群の-2.75に対してエンパグリフロジン群が-1.37で、その差は1.37だった。・安全性については、有害事象発現率はエンパグリフロジン群で43.9%、プラセボ群で46.1%であり、エンパグリフロジン群では骨折、急性腎障害、高カリウム血症などが報告されたが重篤なものはなかった。 門脇氏は、本試験の特徴について、「蛋白尿が正常な患者を初めて組み入れたCKDを対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験であること」、「幅広いeGFR値のCKD患者に対し、糖尿病罹患の有無にかかわらず、腎疾患の進行または心血管死の発現リスクの有意な低下を示したこと」、「有害事象発現率がプラセボよりも低かった」とまとめ、レクチャーを終えた。 今後、微量アルブミン尿患者などを含め、幅広く使用される可能性があり、CKDへの有効な治療手段となることが期待されている。

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添付文書改訂:ジャディアンスに慢性腎臓病の適応が追加【最新!DI情報】第10回

添付文書改訂:ジャディアンスに慢性腎臓病の適応が追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<改訂年月>2024年2月<改定項目>[追加]効能・効果慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)[追加]効能・効果に関連する注意eGFRが20mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化する恐れがあることから、投与の必要性を慎重に判断すること。<ここがポイント!>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠)は、2014年に「2型糖尿病」の効能・効果で承認され、2021年には「慢性心不全」の適応が追加されていましたが、2024年2月、「慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」に対する適応も新たに追加承認されました。慢性腎臓病は、腎機能低下や蛋白尿などの尿異常が慢性的に持続する疾患です。慢性腎臓病が進行すると、腎移植や透析療法が必要となるため、腎機能の低下を抑えて末期腎不全への進行を遅らせることが重要です。SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発されましたが、腎イベントを抑制することが明らかとなり、慢性腎臓病に対しても適応が拡大されました。国内では2021年8月にダパグリフロジン(同:フォシーガ錠)が慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の効能・効果の追加承認を取得し、2022年6月にカナグリフロジン(同:カナグル錠)が2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の追加承認を取得しました。エンパグリフロジンは2型糖尿病の合併有無にかかわらずに使用できるダパグリフロジンと同様の適応です。腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第III相試験(EMPA-KIDNEY試験)において、腎疾患進行または心血管死が発現した患者の割合は、本剤群(430/3,292例、13.1%)でプラセボ群(553/3,289例、16.8%)より低く、エンパグリフロジンにより腎疾患進行または心血管死の発現リスクはプラセボに比べて有意に低下しました(ハザード比:0.73、99.83%信頼区間:0.59~0.89)。また、ベースラインの糖尿病合併の有無別では、糖尿病合併の有無にかかわらず本剤群とプラセボ群の間で有意な差が認められました(糖尿病合併のハザード比:0.64、p<0.0001、糖尿病非合併のハザード比:0.83、p=0.0443、Cox回帰モデル)。

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CRT-DはNYHA分類II/III度心不全の全死亡を14年後まで減少させる(解説:原田和昌氏)

 心臓再同期療法(CRT)は、QRS幅が広いHFrEF患者にベネフィットがある。それら患者の大半が植込み型除細動器(ICD)適応患者でもあることから、ICD+CRTにより死亡、心不全入院が低下するかを、2010年に多施設共同二重盲検無作為化試験のRAFT試験は調べた。ICDにCRTを追加すると平均追跡期間40±20ヵ月時点で、ICD単独よりも死亡または心不全によるあらゆる入院の割合が減少した。試験に参加した施設のうち、被験者数が多かった8施設の1,050例を長期追跡し、ICD+CRTの有効性が持続するかを評価した結果が、カナダ・アルバータ大学のSapp氏らによりRAFT長期アウトカム試験として報告された。 主要アウトカムは全死因死亡で、副次アウトカムは全死因死亡、心移植、補助人工心臓の植え込みの複合であった。LVEF≦30%、内因性QRS幅120msec以上(またはペーシングQRS幅200msec以上)のNYHA II/III度の心不全患者は追跡期間中央値約14年時点においても、ICD+CRTにより死亡までの期間が延長することが示された。NYHA III度心不全患者では至適薬物療法と比較したCRTの有効性が示されており、RAFT試験は途中でNYHA III度の組み入れが中止されたため、長期アウトカム試験におけるNYHA II/III度の割合は76%対24%であった。死亡はCRT-D群71.2%、ICD群76.4%に発生したが、死亡までの期間はCRT-D群がICD群より長かった(加速係数:0.80、95%CI:0.69~0.92、p=0.002)。 本試験の対象には心房細動が16%、左脚ブロック以外が約30%、内因性QRS幅120msec以上が含まれていた。サブ解析では心房細動以外、左脚ブロックと右脚ブロック、QRS幅150msec以上の症例にCRT-Dが有効である傾向が見られた。CRTの心機能への利益がより広い適応患者の生命予後改善につながったと考察しているが、各種ガイドラインでもNYHA III度のLVEF≦35%、NYHA II度のLVEF≦30%、QRS幅120~149msの非左脚ブロックに対するCRTの推奨はIIbとなっており、本試験がその推奨を変えるものではない。それにしても現在のARNIやSGLT2阻害薬を含む至適薬物治療に上乗せして、CRT-Dが死亡率をどのくらい低下できるかは興味深い問題である。

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ダパグリフロジンは低アルブミン尿のCKD進行にも有効か

 わが国では、2021年に慢性腎臓病(CKD)にSGLT2阻害薬ダパグリフロジンが保険適用となり、糖尿病治療と同様に広く使用されている。ダパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬は、主に高アルブミン尿患者を対象とした大規模臨床試験で、CKDの進行を遅らせる効果が確認されている。しかし、低アルブミン尿のCKD患者へのダパグリフロジンの実際の使用状況や有効性についてはデータが不足していた。この課題に対し、カナダ・マニトバ大学内科のNavdeep Tangri氏らの研究グループは、ダパグリフロジンがCKDに対して承認された後に投与対象となった患者について検討した結果、アルブミン/クレアチニン比(UACR)<200mg/gのCKD患者にダパグリフロジンが有効であることが示唆された。Advances in Therapy誌オンライン版2024年1月19日号の報告。ダパグリフロジンの使用でeGFR勾配は減弱 本研究では、日本と米国のレセプトデータを用い、CKDに対する承認後にダパグリフロジン10mgの投与対象となった、UACR<200mg/gのCKD患者(投与開始患者と非投与患者)について検討した。推定糸球体濾過量(eGFR)勾配へのダパグリフロジン10mg投与開始と非投与の影響を評価するため、傾向スコアをマッチさせたコホートでprevalent new user designを用いて分位点回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ダパグリフロジンの投与開始者2万407例のほとんどがステージ3~4のCKDだった(データベース全体の69~81%)。・最も一般的な併存疾患は2型糖尿病、高血圧、心血管疾患だった。・ベースライン時には53〜81%の患者でレニン・アンジオテンシン系阻害薬が処方されていた。・適格であったが非投与だった患者は、投与開始患者より年齢が高く、eGFRが高値、併存疾患の負担が低かった。・ダパグリフロジンの投与開始後、投与開始患者と非投与患者のeGFR勾配の中央値の差は、UACR<200mg/gのすべての患者で1.07mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.40~1.74)、2型糖尿病のないUACR<200mg/gの患者で1.28mL/分/1.73m2/年(95%CI:-1.56~4.12)だった。 以上から研究グループは「UACR<200mg/gの患者では、ダパグリフロジンの投与開始は非投与と比較し、臨床的に意義のあるeGFR勾配の減弱と関連していた。これらの所見は、ダパグリフロジンの利用可能な臨床的有効性エビデンスを補足するものであり、その有効性がUACR<200mg/gのCKD患者にも及ぶ可能性を示唆する」と結論付けている。

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ジャディアンス、慢性腎臓病で国内製造販売承認(一部変更)取得/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムおよび日本イーライリリーは2024年2月9日付のプレスリリースで、SGLT2阻害薬ジャディアンス錠10mg(一般名:エンパグリフロジン)について、日本ベーリンガーインゲルハイムが、慢性腎臓病に対する効能・効果*および用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を、厚生労働省より取得したことを発表した。 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎障害を示す所見や腎機能の低下が慢性的に持続する疾患である。死亡や心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管疾患のリスクファクターであり、進行すると末期腎不全に至り、透析療法や腎移植術が必要となることもある。慢性腎臓病の治療目的は、腎機能の低下を抑え末期腎不全への進行を遅らせること、および心血管疾患の発症を予防することである。 今回の製造販売承認(一部変更)は、慢性腎臓病患者におけるSGLT2阻害薬の臨床試験としては大規模・広範囲の臨床試験であり、糖尿病の有無やアルブミン尿の有無を問わず、日常診療でよくみられる6,609例(うち日本人612例)の慢性腎臓病患者を対象としたEMPA-KIDNEY第III相臨床試験のデータから得られた結果に基づく。同試験では、エンパグリフロジンの投与により、主要評価項目である慢性腎臓病の進行または心血管死のリスクがプラセボ投与群に比べて28%低下し、統計学的有意差が認められた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.64~0.82、p<0.000001)。また、慢性腎臓病患者を対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験としては初めて、試験計画書で事前規定された主な検証的副次評価項目の1つであるすべての入院を有意に減少(14%)した試験となった (HR:0.86、95%CI:0.78~0.95、p=0.0025)。同試験における重篤な有害事象の発現割合は、プラセボ投与群で35.3%、エンパグリフロジン群で32.9%であった。 今回の承認により、ジャディアンス錠10mgは、2型糖尿病、慢性心不全*、慢性腎臓病*の3つの適応症を有することになった。両社は、慢性腎臓病患者の新たな治療選択肢を提供し、より幅広い治療に貢献できるものと考えている、としている。*慢性腎臓病もしくは慢性心不全に対する効能・効果は、それぞれ「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」および「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」。

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