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精神疾患の疫学研究~大規模コホート

 中国は、ここ30年の間、過去にない経済的発展と社会的変化が起きており、政策立案者や医療専門家は、モニタリングすべき重要なポイントとして、メンタルヘルスへの注目が集まっている。中国・Guangdong Academy of Medical ScienceのWenyan Tan氏らは、過去10年間で2,000万件の実臨床フォローアップ記録を用いて、広東省における精神疾患の疫学研究を実施した。BMC Medical Informatics and Decision Making誌2020年7月9日号の報告。 2010~19年の広東省精神保健情報プラットフォームより、データを収集した。このプラットフォームは、6カテゴリの精神疾患患者約60万人と統合失調症患者40万人を対象とした疾患登録およびフォローアップが標準化されている。患者の疾患経過による臨床病期分類を行い、さまざまな因子でデータを分類した。疾患に関連性の高い指標を調査するため、定量分析を行った。地域分布分析のため、結果を地図に投影した。主な結果は以下のとおり。・精神疾患発症の多くは、15~29歳で認められた。ピーク年齢は、20~24歳であった。・罹病期間が5~10年の患者が最も多かった。・疾患経過に伴い、治療効果は徐々に減少し、リスクが上昇した。・影響因子分析では、経済状況の悪化はリスクスコアを上昇させ、適切な服薬アドヒアランスが治療効果の改善に効果的であることが示唆された。・より良い教育は、統合失調症リスクを低下させ、早期治療効果を高めた。・統合失調症の地域分布分析によると、経済状況の発展や医療資源の豊富な地域では、疾患リスクが低下し、経済状況が思わしくない地域では、疾患リスクが上昇した。 著者らは「経済状況や服薬アドヒアランスは、統合失調症の治療効果やリスクに影響を及ぼしていた。経済状況の発展とより良い医療資源は、精神疾患治療に有益である」としている。

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第18回 待望のプラセボ対照無作為化試験でCOVID-19にインターフェロンが有効

中国武漢での非無作為化試験1)や香港での無作為化試験2)等で示唆されていたインターフェロン1型(1型IFN)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果が小規模ながら待望のプラセボ対照無作為化試験で裏付けられました3,4)。先週月曜日(20日)の速報によると、英国のバイオテクノロジー企業Synairgen社の1型IFN(インターフェロンβ)吸入薬SNG001を使用したCOVID-19入院患者が重体になる割合はプラセボに比べて79%低く、回復した患者の割合はプラセボを2倍以上上回りました。わずか100人ほどの試験は小規模過ぎて決定的な結果とはいい難いと用心する向きもありますが、SNG001は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)食い止めに大いに貢献する吸入薬となりうると試験を率いた英国・サウサンプトン大学の呼吸器科医Tom Wilkinson教授は言っています5)。Synairgen社を率いるCEO・Richard Marsden氏にとっても試験結果は朗報であり、COVID-19入院患者が酸素投与から人工呼吸へと悪化するのをSNG001が大幅に減らしたことを喜びました。投資家も試験結果を歓迎し、Synairgen社の株価は試験発表前には36ポンドだったのが一時は236ポンドへと実に6倍以上上昇しました。この記事を書いている時点でも200ポンド近くを保っています。Synairgen社は入院以外でのSNG001使用も視野に入れており、COVID-19発症から3日までの患者に自宅でSNG001を吸入してもらう初期治療の試験をサウサンプトン大学と協力してすでに英国で始めています6)。米国では1型IFNではなく3型IFN(Peginterferon Lambda-1a)を感染初期の患者に皮下注射する試験がスタンフォード大学によって実施されています7)。インターフェロンは感染の初期治療のみならず予防効果もあるかもしれません。中国・湖北省の病院での試験の結果、インターフェロンを毎日4回点鼻投与した医療従事者2,415人全員がその投与の間(28日間)COVID-19を発症せずに済みました8)。インターフェロンはウイルスの細胞侵入に対してすぐさま強烈な攻撃を仕掛ける引き金の役割を担います。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はどうやらインターフェロンを抑制して複製し、組織を傷める炎症をはびこらせます4,9)。ただしSARS-CoV-2がインターフェロン活性を促すという報告10)や1型IFN反応が重度COVID-19の炎症悪化の首謀因子らしいとする報告11)もあり、インターフェロンは場合によっては逆にCOVID-19に加担する恐れがあります。米国立衛生研究所(NIH)のガイドライン12)では、重度や瀕死のCOVID-19患者へのインターフェロンは臨床試験以外では使うべきでないとされています。2003年に流行したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVや中東で依然として蔓延するMERS-CoVに感染したマウスへのインターフェロン早期投与の効果も確認されており13,14)、どの抗ウイルス薬も感染初期か場合によっては感染前に投与すべきと考えるのが普通だとNIHの研究者Ludmila Prokunina-Olsson氏は言っています15)。参考1)Zhou Q, et al. Front Immunol. 2020 May 15;11:1061.2)Hung IF, et al. Lancet. 2020 May 30;395:1695-1704.3)Synairgen announces positive results from trial of SNG001 in hospitalised COVID-19 patients / GlobeNewswire 4)Can boosting interferons, the body’s frontline virus fighters, beat COVID-19? / Science 5)Inhaled drug prevents COVID-19 patients getting worse in Southampton trial 6)People with early COVID-19 symptoms sought for at home treatment trial 7)OVID-Lambda試験(Clinical Trials.gov)8)An experimental trial of recombinant human interferon alpha nasal drops to prevent coronavirus disease 2019 in medical staff in an epidemic area. medRxiv. May 07, 2020 9)Hadjadj J, et al. Science. 2020 Jul 13:eabc6027.10)Zhuo Zhou, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2020 Jun 10;27(6):883-890.11)Lee JS, et al. Sci Immunol. 2020 Jul 10;5:eabd1554.12)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines,NIH 13)Channappanavar R, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2016 Feb 10;19:181-93. 14)Channappanavar R, et al. J Clin Invest. 2019 Jul 29;129:3625-3639.15)Seeking an Early COVID-19 Drug, Researchers Look to Interferons / TheScientist

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多発性骨髄腫、3剤併用療法の長期アウトカムは?/JCO

 多発性骨髄腫に対する3剤併用(レナリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン:RVD)療法の有効性について、最大規模のコホートで長期追跡したアウトカムの結果が報告された。米国・エモリー大学のNisha S. Joseph氏らによる検討で、移植後患者の奏効率は90%近くに上り、リスクに留意した維持療法により、先例のない長期アウトカムがもたらされる可能性があることが示されたという。RVD療法は、移植治療の適格・不適格を問わず、導入療法としての有効性は高く、重宝するレジメンであることが示されていた。Journal of Clinical Oncology誌2020年6月10日号掲載の報告。 研究グループは、2007年1月~2016年8月にRVD導入療法を受けた、新規に診断された多発性骨髄腫の連続患者1,000例について検討した。 施設内倫理委員会が承認した多発性骨髄腫のデータベースから、被験者の人口統計学的および臨床的特性とアウトカムデータを入手。International Myeloma Working Group Uniform Response Criteriaに準じて奏効率と病勢進行を評価した。 主な結果は以下のとおり。・全奏効率(ORR)は、導入療法後97.1%、移植後98.5%であった。・移植後患者において、追跡期間中央値67ヵ月時点で、最良部分奏効(VGPR)または良好(better)の達成割合は89.9%であり、厳格完全奏効(sCR)の達成割合は33.3%であった。・無増悪生存(PFS)期間の推定中央値は、全集団で65ヵ月(95%信頼区間[CI]:58.7~71.3)、高リスク集団で40.3ヵ月(同:33.5~47)、標準リスク集団で76.5ヵ月(同:66.9~86.2)であった。・全生存(OS)期間の推定中央値は、全集団で126.6ヵ月(95%CI:113.3~139.8)、高リスク集団で78.2ヵ月(同:62.2~94.2)、標準リスク集団では未達成であった。・5年OS率は、高リスク集団57%、標準リスク集団81%であり、10年OS率はそれぞれ29%、58%であった。

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ASCO2020レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2020 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で初のバーチャル開催となったASCO2020。オープニングセッションでは2019~20年のプレジデントであるDr. Howard A. “Skip” Burris IIIは冒頭のあいさつで、本会の約1年前に“Unite & Conquer: Accelerating Progress Together”というテーマを掲げた際には現在の世の中の在り方を想像だにしていなかったが、われわれの働き方、社交の仕方にとどまらず、ものの見方まで変えてしまったパンデミック状況下で、このテーマが新たな意味を持つことになったと述べています。確かに地域・人種・民族・性別・職種の多様性を超えて団結し進歩を加速することの必要性は、COVID-19という喫緊の課題を前により明確になりました。「われわれは今年の年次総会では同じ部屋にいませんが、これまで以上に団結しています」という言葉が印象的でした。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では新規ホルモン治療薬の臨床試験結果とPSMA-PET関連の報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでは免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。経口LHRHアンタゴニストは進行前立腺がんに対する抗アンドロゲン療法を変えるか経口LHRHアンタゴニストの安全性・有効性を検証したHERO試験(NCT03085095)の結果が口演発表で報告されました(Abstract#5602)。従来の進行性前立腺がんにおけるアンドロゲン除去療法(ADT)では、LHRHアゴニストあるいはアンタゴニストの注射が中心でしたが、1ヵ月から6ヵ月ごとの注射が必要になる点や、アゴニスト製剤の場合にはLHサージが起こる点などの問題点がありました。国際第III相HERO試験では初の経口GnRH受容体アンタゴニスト製剤であるレルゴリクスの安全性・有効性を、従来臨床で用いられている酢酸リュープロライド注射製剤と比較しました。本試験では去勢感受性進行性前立腺がん患者934例を2:1の比率で経口レルゴリクス(120mg/日)あるいは酢酸リュープロライド皮下注射(3ヵ月ごとに11.25あるいは22.5mg)に無作為割付を行いました。主要評価項目である血清テストステロン(T)値の去勢レベル(<50ng/dL)への抑制(29日目時点)とその維持(48週間)は、レルゴリクス群では96.7%(95%CI:94.9~97.9%)で、酢酸リュープロライド群の88.8%(84.6~91.8%)と比較して、非劣性・優位性ともに統計学的に証明されました。副次的評価項目として、4日目の去勢達成率も56対0%でレルゴリクス群が優れており、治療中断後のT回復を検討した184例の検討では、治療中止90日後のTレベルの中央値は、270.76対12.26ng/dLとレルゴリクス群が有意に優れていました。さらに、心血管イベントの発生率もレルゴリクス群において低いという結果が示されました(2.9対6.2%)。そのほかの点では、安全性と忍容性のプロファイルはほぼ同等でした。著者らは、酢酸リュープロライド皮下注射と比較してレルゴリクスは、素早く(4日目までに去勢達成率)より確実に(48週間にわたる去勢域維持)血清Tを抑制し、中止後はより早期にT回復をもたらし、心血管イベントを50%減少するなどの優位性を示し、今後進行性前立腺がん患者に対するADTにおいて新しい標準治療になる可能性があると結論付けています。なおレルゴリクスは本邦でも「子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善」を適応としてすでに承認を受けています(用量は40mg/日)。本試験の結果はASCO2020における発表に合わせてNEJM誌(Shore ND, et al. N Engl J Med. 2020;382:2187-2196.)に発表されました。PSMA関連診断/治療モダリティは前立腺がんマネージメントのGame Changerとして期待PSMA関連では、3演題が口演発表に採択され、その注目度の高さがあらためて浮き彫りになったかたちです。診断関連では、根治治療後の生化学的再発(BCR)を来した前立腺がん患者の病巣部位確定における18F-DCFPyL(PyL)を用いたPSMA-PET/CT検査の有用性を検証した前向き第III相CONDOR試験(NCT03739684)の結果が紹介されました(Abstract#5501)。根治的治療後にPSAが上昇(PSA中央値0.8ng/mL[範囲:0.2~98.4])し、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの標準的な画像検査では病巣がはっきりしなかった208例の前立腺がん患者がエントリーされ、PyL-PET/CTの所見を3人の評価者によって検討した結果、病巣が認められた患者の割合は69.3%(142/208例)でした。主要評価項目である病巣部位特定率は84.8%~87.0%で、63.9%の患者でPyL-PET/CTの所見を基に治療方針が変更されました。重篤な有害事象が認められたのは1例(過敏症)のみで、最も頻度が高かった有害事象は頭痛(4例)でした。PyL-PET/CTは、BCR患者において従来の画像検査では描出できない病巣の特定と、それに基づく治療方針決定に有用であると結論付けられています。また、診断関連ではもう1演題、前立腺全摘除術+骨盤内リンパ節郭清を受ける中〜高リスクの限局性前立腺がんの患者を前向きにエントリーし、術前の68Ga-PSMA-11 PETのリンパ節転移の診断精度を郭清リンパ節の病理所見(pN診断)を参照標準として評価した研究の結果が公表されました(Abstract#5502)。その結果、68Ga-PSMA-11 PETの感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率(95%CI)はそれぞれ、0.40(0.34~0.46)、0.95(0.92~0.97)、0.75(0.70~0.80)、0.81(0.76~0.85)だったとのことです。治療関連では、PSMAを発現する腫瘍に治療用β線を照射する放射性標識された小分子LuPSMAの安全性と治療効果を検証したランダム化第II相TheraP試験(NCT03392428)の結果も報告されました(Abstract#5500)。本試験ではドセタキセル不応性転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)を対象とし、まず68Ga-PSMA-11および18F-FDG PET/CTを施行しました。両検査の結果、(1)PSMA強陽性の病変があること、(2)FDG陽性かつPSMA陰性の病変がないこと、という2つの条件を満たした患者をLuPSMA(6週ごと×最大6サイクル)あるいはカバジタキセル(20mg/m2/3週×10サイクル)による治療に無作為に割り付けました。主要評価項目は、PSAの50%以上の低下(PSA50-RR)で、副次的有効性エンドポイントには、PSA無増悪生存期間(PSA-PFS)および全生存期間(OS)が含まれていました。1次スクリーニングを受けた291例のうち200例がエントリー基準を満たし、LuPSMA群(n=99)あるいはカバジタキセル群(n=101)に割り付けられました。追跡期間の中央値は11.3ヵ月でした。PSA50-RRは、LuPSMA群のほうがカバジタキセル群よりも良好でした(65/99[66%、95%CI:56~75]vs.37/101[37%、95%CI:27~46]、p<0.001)。PSA-PFSにおいてもLuPSMAは有意に良好な結果を示しました(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007)。OSデータは規定のイベント数に達していないため今回は示されていません。安全性に関して、Grade3〜4の有害事象(AE)発生率は、LuPSMA群で32%(31/98)に対し、カバジタキセル群では49%(42/85)でした。毒性による治療中止は、LuPSMA群で1%(1/98)、カバジタキセル群で4%(3/85)に認められました。治療に関連した死亡はありませんでした。著者らは上記要件を満たすmCRPC患者において、LuPSMAはカバジタキセルに比べてより治療活性が高く、AEが少ない治療法であると結論付けています。nmCRPC 3試験はだんご3兄弟かそれとも…前立腺がん領域ではこれ以外に、非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)を対象とした新規アンドロゲン受容体(AR)シグナル阻害薬治療のOSアウトカムに関する報告がありました。ARAMIS試験(NCT02200614, Abstract#5514)、PROSPER試験(NCT02003924, Abstract#5515)、SPARTAN試験(NCT01946204, Abstract#5516)はそれぞれPSA倍化時間(PSA-DT)<10ヵ月のnmCRPC患者を対象に、それぞれダロルタミド、エンザルタミド、アパルタミドを投与する実薬群とプラセボ(PBO)群に2:1の比で割り付け、無転移生存(MFS)を主要評価項目としてその効果を検証するデザインで、すでにいずれの試験もMFSの延長を報告しています(ARAMIS試験 HR:0.41、95%CI:0.34~0.50、p<0.001 Fizazi K, et al. N Engl J Med. 2019;380:1235-1246.)(PROSPER試験 HR:0.29、95%CI:0.24~0.35、p<0.001 Hussain M, et al. N Engl J Med. 2018;378:2465-2674.)(SPARTAN試験 HR:0.28、95%CI:0.23~0.35、p<0.001 Smith MR, et al. N Engl J Med. 2018;378:1408-1418.)。今回発表されたOSに関する成績もMFSと同様、3試験ともほぼ同等と言ってよい結果でした(ARAMIS試験 未到達 対 未到達、HR:0.69、p=0.003)(PROSPER試験 67.0対56.3ヵ月、HR:0.73、p=0.0011)(SPARTAN試験 73.9対59.9ヵ月、HR:0.784、p=0.0161)。SPARTAN試験は2次治療後のデータ(2nd PFS)を報告しているという点で後続治療も考慮した、実臨床における治療選択に有用な情報を提供しているといえますが、ARAMIS試験はダロルタミドの有害事象(AE)プロファイルとしてPBO群とまったく遜色ない成績を報告しており、腫瘍学的転帰に関する成績がほぼ同等な3薬剤の選択に当たってはダロルタミドに有利なデータであると考えられます。切除不能/転移性尿路上皮がん:免疫チェックポイント阻害薬はこう使え!?尿路上皮がん(UC)では免疫チェックポイント阻害薬を従来の全身治療のさまざまなセッティングで用いる試みが報告され、今後の標準治療を考えるうえで大きな影響を与える可能性を感じさせる内容でした。なかでもLate-breaking abstractとしてプレナリーでJAVELIN Bladder 100試験(NCT02603432)の中間解析結果が報告され、大きな注目を集めました(Abstract#LBA1)。この無作為化第III相試験ではプラチナベースの1次化学療法(4~6コースのG-CDDPあるいはG-CBDCA)によって奏効(CR/PR)または安定(SD)を示した進行UC患者を、抗PD-L1抗体製剤であるアベルマブによる維持療法(10mg/kg IV 2週間ごと)+支持療法(BSC)とBSCのみのいずれかに割り付けました(n=350 vs.350)。その結果、主要評価項目であるOSはアベルマブ+BSC群で有意に良好でした(21.4 対 14.3ヵ月、HR:0.69、95%CI:0.56~0.86、片側p=0.0005)。サブグループ解析ではアベルマブ+BSC群の優位性に関して一様な傾向が示されました。副次的評価項目であるPFSも有意に良好でした(HR:0.62、95%CI:0.52~0.75、p<0.001)。Grade3以上のAEはアベルマブ+BSC群の47.4%、BSC群の25.2%で認められたと報告されています。現在のプラチナ適格・進行UCに対する標準治療は、1次治療がプラチナベースの化学療法、2次治療でペムブロリズマブという流れですが、本治験の結果に伴ってアベルマブが承認されると、1次治療がCR/PR/SDだった場合に維持療法としてアベルマブを投与するのか、いったんoff-treatmentとして再燃時にペムブロリズマブを投与する方針とするのか、選択を迫られることになります。今回公表されたデータによれば、JAVELIN Bladder 100試験のBSC群では進行時に2次治療を受けた患者は75.3%(PD-L1/PD-1阻害薬治療は52.9%)だったとのことです。一部患者において進行時に状態の悪化によって2次治療が受けられなかった結果なのか、あるいは本来実施可能であった適切な2次治療が施されなかった結果なのかによって、大きく解釈が変わる可能性があります。いずれにしても、ほかの切除不能/転移性尿路上皮がんに対する1次治療に関する治験で、免疫チェックポイント阻害薬単独あるいは免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の併用レジメンが軒並み苦戦している現状で、本試験の結果は大きなインパクトがあり、1次治療からの治療シークエンスが大きく影響を受けることは間違いないと考えられます。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬と効果予測バイオマーカーUCに関する口演発表では膀胱全摘除術後の術後補助療法としてのアテゾリズマブの効果を検証したIMvigor010試験(NCT02450331)の結果が公表されました(Abstract#5000)。本試験では膀胱全摘標本を用いた病理学的病期が、(1)ypT2-4aまたはypN+(ネオアジュバント化学療法を受けた患者の場合)もしくは(2)pT3-4aまたはpN+(ネオアジュバント化学療法を受けなかった患者の場合)と診断された患者を対象に、アテゾリズマブ(1,200mg IV 3週間ごと)あるいは経過観察の2群に1:1の無作為割付を行い、無再発生存(DFS)を主要評価項目としました。今回はDFSの最終解析とOSの中間解析の結果が示されましたが、いずれもアテゾリズマブ群の優位性を示すことができませんでした(DFS 19.4対16.6ヵ月、95%CI:15.9~24.8対11.2~24.8ヵ月、HR:0.89、95%CI:0.74~1.08、p=0.2466、OS 未到達 対 未到達、HR:0.85、95%CI:0.66~1.09、p=0.1951)。転移性UCを対象としたIMvigor130試験(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)と比較して、AEによる治療中断率が高かったことが原因として示唆されています。今後このセッティングでの免疫チェックポイント阻害薬の位置付けがどうなるかについては不透明なままとなっています。周術期補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の話題としては、無作為第II相DUTRENEO試験(NCT03472274)の結果がClinical Science Symposiumで報告されています(Abstract#5012)。本試験では、シスプラチン適格の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC,、cT2-T4a、N≦1、M0)と診断された患者を、まず腫瘍の炎症誘発性IFN-γシグネチャー(腫瘍免疫スコア、TIS)を基準に「ホット」あるいは「コールド」に分類しました。このTISは以前にPD-1経路阻害薬の効果を予測すると報告されています(Ayers M, et al. J Clin Invest. 2017;127:2930-2940.)。「ホット」と診断された患者は術前補助療法としてPD-L1阻害薬デュルバルマブ1,500mg+CTLA-4阻害薬tremelimumab 75mg×3サイクル(DU+TRE群)あるいはシスプラチンベースの化学療法(G-CDDPまたはdd-MVAC、標準CT群)に無作為割り付けされ、「コールド」と診断された患者は全例が化学療法に割り付けられました。合計61例がエントリーされ、「ホット」と診断された患者のうち22例が標準CTを、23例がDU+TREを受け、それぞれ36.4%(n=8)、34.8%(n=8)が主要評価項目であるpCRを達成しました(オッズ比:0.923、95%CI:0.26~3.24)。一方「コールド」と診断され標準CTを受けた16例の患者のうち68.8%(n=11)がpCRを達成しました。DU+TREの組み合わせは、MIBCに対する術前補助療法における効果的および安全なオプションであることが示されましたが、炎症誘発性IFN-γシグネチャーによる層別化では免疫チェックポイント阻害薬治療と標準化学療法のどちらから利益を得る可能性が高いかを予測することはできませんでした。免疫チェックポイント阻害薬治療の効果予測バイオマーカー研究としては、無作為第III相IMvigor130試験(NCT02807636)の患者における腫瘍の変異頻度(TMB)、PD-L1発現、Tエフェクター遺伝子発現(GE)および線維芽細胞TGF-β応答シグネチャー(F-TBRS)のバイオマーカーとしての有用性が報告されています(Abstract#5011)。これらのバイオマーカーは既報(Mariathasan S, et al. Nature. 2018;554:544-548.)によりアテゾリズマブ単独治療の効果予測因子として見いだされたものです。IMvigor130試験では転移性UC患者の1次治療としてアテゾリズマブ+プラチナベースの化学療法(PBC)、アテゾリズマブ単独、またはPBC単独に1:1:1で無作為割り付けされ、主要評価項目としてPFSとOSを検証しました(Doctors' Picks 2020年5月20日もご参照ください)。上記項目は本試験における探索的バイオマーカー分析の対象とされていました。全1,200例の組み入れ患者のうち851例でバイオマーカー解析が可能でした。PD-L1高発現(IC2/3)はアテゾリズマブ単独 対 PBCにおけるアテゾリズマブ群の良好なOSを予測し、さらにPD-L1高発現(IC2/3)と高TMB(>10変異/Mb)を組み合わせることによって、予測能が上昇しました。APOBEC関連変異は、アテゾリズマブ含有レジメンによるOSの改善と関連していました。このように、免疫チェックポイント阻害薬が進行性UCに対する1次治療あるいはMIBCに対する術前補助療法における治療オプションに入ってくるにつれて、治療効果予測に有用なバイオマーカーの重要性も高まってくることが予想されます。検体採取から検査を経て治療開始に至るまでの時間をいかに短縮できるかという点も、今後重要な課題となってくると思われます。腎細胞がん:免疫チェックポイント阻害薬+TKIの中長期予後腎細胞がん(RCC)領域は前立腺がん・尿路上皮がんに比べると今年はややおとなしい印象でしたが、その中で、KEYNOTE-426試験(NCT02853331)の追加フォローアップのデータが口演セッションで発表されたので取り上げたいと思います(Abstract#5001)。この試験では861例の進行性淡明細胞型RCC(cc-RCC)に対する1次治療としてのペムブロリズマブ+アキシチニブとスニチニブを、OSとPFSを主要評価項目として比較しました。今回、中央値27.0ヵ月(範囲:0.1~38.4ヵ月)のフォローアップで、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群のOS(HR:0.68、95%CI:0.55~0.85、p<0.001、24ヵ月OS 74% vs.66%)およびPFS(HR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001、24ヵ月PFS 38% vs.27%)の延長効果が示されました。これらのベネフィットはIMDCリスク分類やPD-L1発現にかかわらず認められたということです。追加解析の結果、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群においては腫瘍縮小率がOSと相関していたことも示されました。また、RCC領域でも免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子に関する探索的研究の結果が散見されました(Abstracts#5009, 5010)。おわりに総じて、前立腺がんでは新規ARシグナル阻害薬のより早期ステップでの使用とPSMA関連核医学検査/治療(いわゆるTheranostics)の話題が、UCとRCCでは免疫チェックポイント阻害薬のさまざまなセッティングにおける有効性・安全性と治療効果予測のためのバイオマーカー探索が中心となった年であったと考えられます。来年になるとAntibody-conjugated drug(ACD)も登場し、各腫瘍いよいよ「役者」が出そろってくることになり、治療効果予測のバイオマーカー探索、さらにはバイオマーカーベースの治療方針を決める前向き試験等が登場することを期待しています。

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ASCO2020レポート 消化器がん(下部消化管)

レポーター紹介2020 ASCO Annual Meetingは、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年5月29日から短縮された日程でWeb開催により実施された。実地臨床が大きく変わる瞬間を現地で経験できないのは少し残念であったが、本年も重要な研究結果が多く報告された。本稿では、その中から大腸がん関連の演題をいくつか紹介したい。進行再発大腸がん患者全体に対する画期的な新薬はここ数年登場していないものの、バイオマーカーに基づくprecision medicineの実現は確実に進歩してきている。今年のASCOでも、BRAF、HER2、MSIに関する発表に加えて新たにKRAS異常に対する新薬のpreliminaryな結果発表があった。一方で、周術期化学療法は、本邦からのJCOG0603を含め注目演題が複数発表された。#4005: JCOG0603A randomized phase II/III trial comparing hepatectomy followed by mFOLFOX6 with hepatectomy alone for liver metastasis from colorectal cancer: JCOG0603 study.肝転移切除例に対する周術期化学療法切除可能大腸がん肝転移例に対する治療は、根治的外科切除である。欧米では、EORTC40983試験などの結果から、周術期にオキサリプラチン併用療法を6ヵ月間実施することが標準治療と認識されている。ただ、EORTC40983試験は主解析では無再発生存期間(DFS)の有意な延長を認めなかったこと、全生存期間(OS)延長は認めなかったことなどから、賛否が分かれる試験であった。今回、本邦から大腸がん肝転移切除例に対し経過観察と術後FOLFOX療法6ヵ月間とを比較する第II/III相試験(JCOG0603)の結果が発表された。2007年3月から2019年1月までに300例の患者が登録された。同時性肝転移56%、肝転移個数1~3個約90%、最大径5cm未満約86%で両群に差はなかった。2019年12月に実施された3回目の中間解析において、効果安全性評価委員会から早期中止が勧告され、今回公表された。主要評価項目のDFS中央値は経過観察群1.5年、FOLFOX群5.1年で有意にFOLFOX群が良好であった(HR:0.63、96.7%CI:0.45~0.89、p=0.002)。一方、3年全生存割合は91.8% vs.87.2%と有意差を認めないものの、FOLFOX群で生存曲線が下回る傾向であった(HR:1.25、95%CI:0.78~2.00)。FOLFOX群では、Grade3以上の感覚性末梢神経障害を14%、好中球減少を50%に認めた。DFSとOSが乖離した要因として発表者らは、(1)化学療法による肝障害により再発の見落とし、(2)試験初期(1st phase II)での化学療法のコンプライアンス不良、(3)再発後の治療のインバランス、(4)化学療法群における再発後のOSが不良、が考えられると考察した。大腸がん肝転移例ではDFSとOSと相関せず、FOLFOXによる術後補助化学療法は再発後のOSを短くする可能性があることから、FOLFOX療法に利益はない(not beneficial)と結論付けた。ディスカッサントのコロラド大学Dr. Lieuは、本試験について主要評価項目のDFSはpositiveであるから、現在の標準治療である周術期オキサリプラチン併用療法6ヵ月間は変える必要はないと結論付けていた。EORTC40983試験を含めて考えても、術後補助化学療法の実施によるDFS延長効果は揺るぎないものであるが、OS延長効果には結び付いていない。おそらく2nd operationによりcureできているのだと考えられる。DFS延長(=2回目の手術をしなくてもよい)と化学療法によるQOL低下などのデメリットを考慮したshared decision makingにより実地臨床では治療選択されるだろう。一方で、補助療法によりメリットを得られる集団の同定や、non-resectable recurrenceを減らすためのさらなる強化レジメンの開発も必要だろう。#4006: RAPIDOShort-course radiotherapy followed by chemotherapy before TME in locally advanced rectal cancer: The randomized RAPIDO trial.局所進行直腸がんに対するTNT(Total neoadjuvant therapy)局所進行直腸がんに対する標準治療は、欧米では術前化学放射線療法(NeoCRT)+根治的外科切除(+術後補助化学療法)である。本邦では、根治的外科切除+側方郭清+術後補助化学療法を標準としている施設が多いものの、近年、欧米に準じてNeoCRTを実施する施設も増えてきた。NeoCRTを実施した場合の術後補助療法のコンプライアンスが不良であることから、術前化学療法も併せて実施するTotal neoadjuvant therapy(TNT)が期待されているが、従来の標準治療との比較試験での長期成績は明らかではなかった。今回、TNTの有用性を検証する第III相試験の1つであるRAPIDO試験の結果が、欧州から報告された。RAPIDO試験はT4 or N2などの高リスク局所進行直腸がん患者に対して、標準CRT群(カペシタビン併用 RT 50~50.4Gy/25~28回+手術+術後CAPOX 8サイクルもしくはFOLFOX 12サイクル)と、TNT群(short course RT 25Gy/5回+CAPOX 6サイクルもしくはFOLFOX 9サイクル+手術)とが比較された。920例が登録され、年齢中央値62歳、T4約30%、N2約65%で両群に差はなかった。pCR率はCRT群14.3%、TNT群28.4%で、有意にTNT群で良好であった。主要評価項目のDisease-related Treatment Failureは3年時点でCRT群30.4%、TNT群23.7%で、TNT群で良好であった(HR:0.75、95%CI:0.60~0.96、p=0.019)。3年時点での遠隔転移再発率は26.8% vs.20.0%(HR:0.69、p=0.005)、局所再発率 は6.0% vs.8.7%(HR:1.45、p=0.09)であった。長期生存の結果は不明であるものの、主要評価項目を達成し、TNTは新たな標準治療といえるだろう。遠隔転移再発の抑制には周術期の化学療法の重要性は容易に想像できるが、とくにTNTとして術前に実施することで術後の実施よりも有効性が高いことは大変興味深い。今回ASCOではPRODIGE 23試験の結果も発表され、こちらもTNTの有用性を示唆する結果であった。同様の試験が欧米で複数実施中であり、これらの試験の結果も楽しみであるが、どんどんTNTが主流になっていく印象を受けた。また、short course RTについては、本試験ではやや局所制御率に差が求められ、その局所制御には不安が残るが、Polish試験では従来のCRTと同程度の局所制御割合が報告されている。COVID-19感染拡大の影響もあり、long courseのRTよりshort courseが急速に広がっていく可能性もある。#LBA4: KEYNOTE-177Pembrolizumab versus chemotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair deficient metastatic colorectal cancer: The phase 3 KEYNOTE-177 study.切除不能のMSI-H大腸がんに対する初回治療としてのペムブロリズマブ療法マイクロサテライト不安定性陽性(MSI-H)などのミスマッチ修復機能欠損のある切除不能大腸がん(dMMR/広義のMSI-H)は本邦では約3%に認められ、KEYNOTE-164試験やCheckmate-158試験の結果から、ペムブロリズマブおよびニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確立されている。いずれも第II相試験だけの結果で薬事承認・保険償還されていることから、標準治療との有効性の比較データはなかった。今回、切除不能MSI-H大腸がんに対する初回治療として従来の化学療法(FOLFOX/FOLFIRI+分子標的治療薬)とペムブロリズマブ療法とを比較する第III相試験(KEYNOTE-177試験)の結果がプレナリーセッションで発表された。MSI-H大腸がん307例が登録され、右側結腸約70%、BRAF V600E変異型約25%、RAS変異型約25%(未評価約30%)であった。本邦からを含めアジア人も約15%登録されている。主要評価項目の無増悪生存期間中央値は化学療法群8.2ヵ月、ペムブロリズマブ群16.5ヵ月であった(HR:0.60、95%CI:0.45~0.80、p=0.0002)。客観的奏効割合は、化学療法群33.1%、ペムブロリズマブ群43.8%(p=0.0275)であったが、最良効果がPDである割合は化学療法群12.3%、ペムブロリズマブ群29.4%とむしろペムブロリズマブ群で高い傾向であった。Grade3以上の有害事象発生割合は化学療法66%、ペムブロリズマブ22%(免疫関連9%を含める)であった。化学療法群における免疫チェックポイント阻害薬へのクロスオーバー率は59%であり、その有効性は報告されなかった。以上、ペムブロリズマブの初回治療としての有効性が証明されたことから、初回治療にも適応拡大が行われるだろう。現在、ニボルマブ+イピリムマブ療法の第III相試験も登録中であり、MSI-H大腸がんは免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療にシフトしていくだろう。BRAF V600E変異型かつMSI-Hの場合にどちらの治療薬を最初に使うのがよいのか、免疫チェックポイント阻害薬の至適投与期間やリチャレンジなど新しい疑問が出てきている。最後に今年のASCO大腸がん領域の演題からいくつかを紹介したが、上記演題のほかにも切除不能大腸がんに対するHER2阻害薬DS-8201aの有効性やBRAF阻害薬のBEACON試験の続報など、さまざまな興味深い演題の発表があった。ASCO2020のテーマは“Unite and Conquer: Accelerating Progress Together”、力を合わせてがんを克服する、というものであったが、Virtual meetingでも世界中から最新のエビデンスが発信され、意見交換ができた。新型コロナウイルス感染の中でも、がんの克服に向けて絶え間なく努力を続けていく必要がある。

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オリゴ転移乳がんの生存延長に最善の治療を検討

 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College のBo Lan氏らの研究から、頭蓋外オリゴ転移乳がんの予後は比較的良好であり、転移病変の外科的切除が無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を大きく改善する可能性が示された。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年6月14日号に掲載。 本研究では、頭蓋外オリゴ転移の臨床的特徴と予後因子および最善の治療方法を特定することを目的に、2009~14年、中国・National Cancer Centerで頭蓋外オリゴ転移乳がんと診断された術後入院患者50例を対象に調査した。オリゴ転移乳がんは、転移病変が3個以下で1つの臓器に限局している転移乳がんと定義し、de novo StageIVと局所再発は除外した。 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は15.2ヵ月、OS中央値は78.9ヵ月、2年PFS率は40%、5年OS率は58%であった。・標準全身治療+転移病変すべての外科的切除による1次治療が、PFS延長(ハザード比[HR]:0.32、95%信頼区間[CI]:0.14~0.73、p=0.006)およびOS延長(HR:0.35、95%CI:0.14~0.86、p=0.022)の独立した予後因子であった。・サブグループ解析により、無病期間が24ヵ月以上、転移病変が1つのみ、ホルモン受容体陽性の症例で切除が有用な可能性が高いことが示された。

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HER2+転移乳がんへのpyrotinib+カペシタビン、ラパチニブ併用よりPFS延長(PHOEBE)/ASCO2020

 トラスツズマブと化学療法の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対して、pan-ErbB阻害薬pyrotinibとカペシタビンの併用が、ラパチニブとカペシタビンの併用より無増悪生存期間(PFS)を延長したことが、第III相PHOEBE試験で示された。中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのBinghe Xu氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。 pyrotinibは、EGFR、HER2、HER4を標的とする不可逆的pan-ErbB受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。第I/II相試験で、カペシタビンとの併用で転移を有するHER2陽性乳がん患者における臨床的ベネフィットと許容可能な忍容性が確認されている。今回、ラパチニブとカペシタビンとの併用と比較した多施設無作為化非盲検第III相試験であるPHOEBE試験の結果が報告された。・対象:トラスツズマブとタキサンおよび/またはアントラサイクリンの治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がん患者(転移後の化学療法は2ラインまで)・試験群:pyrotinib(400mg、1日1回経口)+カペシタビン(1,000mg/m2、1日2回経口、Day 1~14、21日ごと)134例(pyrotinib併用群)・対照群:ラパチニブ(1,250mg、1日1回経口)+カペシタビン(試験群と同じ)132例(ラパチニブ併用群)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、無増悪期間(TTP)、安全性 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は、ラパチニブ併用群の6.8ヵ月に比べて、pyrotinib併用群が12.5ヵ月と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.39、95%CI:0.27~0.56、片側p<0.0001)。・トラスツズマブ抵抗性症例におけるPFS中央値も、ラパチニブ併用群6.9ヵ月に比べてpyrotinib併用群12.5ヵ月と延長する傾向がみられた(HR:0.60、95%CI:0.29~1.21)。・ORRはpyrotinib併用群67.2% vs.ラパチニブ併用群51.5%、CBRは73.1% vs.59.1%、DOR中央値は11.1ヵ月 vs.7.0ヵ月であった。・OS中央値は両群とも未達だが、1年OSはpyrotinib併用群91.3%、ラパチニブ併用群77.4%で、pyrotinib併用群で大きく改善する傾向がみられた。・Grade 3以上の治療関連有害事象は、pyrotinib併用群が57.5%に、ラパチニブ併用群が34.1%に発現し、下痢(30.6% vs.8.3%)および手足症候群(16.4% vs.15.2%)が多かった。

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ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

 ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。 このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。 今後は、安定狭心症に対する冠血行再建法としてのPCIの適応はいっそうの厳格化が行われ、施行する場合には理由を明確に説明できることが必要となろう。患者の症状の改善という具体的な目標の達成のために、そのためだけにPCIをするというのは理解を得やすい説明であろう。一方で、ISCHEMIA試験の結果は、PCIやCABGはまったく役に立たないということを意味するものではない。さらに、血行再建群と保存的治療群の差異は非常に小さい(ない)ともいえ、その分だけ患者自身の考えを尊重する必要も高くなる。つまり、「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)」の比重も増してくる。 生命予後改善効果が血行再建群で認められないことにも言及したい。冠血行再建で改善が見込まれる虚血という因子以外のファクター、つまり、年齢・血圧・糖代謝・脂質・腎機能・喫煙・心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードのほうが生命予後においてはより重要な規定因子なのである。冠動脈という全身からみれば一部の血流を治すくらいで、人は長生きするようにはならないのであろう。心臓という臓器に介入したのだから生命予後が改善するはずだ、というのは医療サイドの思い込みなのかもしれない。 循環器内科医だけでなく医師として、ISCHEMIA試験の登録基準に該当する患者が目の前にいた場合に何をどうすれば良いのか? まず何よりも生活習慣の修正を含めた至適薬物療法をすぐに開始することである。循環器内科医として患者に関与するうえで、「PCIのことしか知りません」は容認されない。心不全、不整脈、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、脂質低下療法、抗血栓療法などについての知識を習得し活用できることは、これまで以上に必須となる。 それにしても、ISCHEMIA試験の解釈は難しい。

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第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

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シェアード・ディシジョン・メイキングをシェアしたい!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第21回

第21回 シェアード・ディシジョン・メイキングをシェアしたい!今回は、シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared decision making)を紹介したいと思います。皆さんご存じのように、EBMは根拠(evidence)に基づく(based)医療(medicine)の頭文字です。最良の治療方針を決定するには、エビデンスに基づいて判断しなければなりません。そのエビデンスを構築する土台が臨床研究です。臨床研究は、介入研究と観察研究に大別されます。ランダマイズ研究は介入研究の代表です。患者を2つのグループにランダム化し、一方には新規の治療や薬物の介入を行い、他方には従来から行われている治療を行います。一定期間後に病気の罹患率・生存率などを比較し、介入の効果や安全性を検証します。ランダマイズ研究では、どのような患者を研究に組み入れるか、逆に除外するかという参加基準を設定して研究を遂行します。そこから得られるエビデンスのレベルは高く、EBMの中核を構成します。レジストリ研究は、観察研究の1つで、研究対象となる疾患の患者の情報を順次データベースに登録し、使用した薬物や治療法による経過の優劣について、統計学的に比較するものです。ランダマイズ研究とレジストリ研究の意味を考えさせられる面白いデータを紹介しましょう。EAST試験のサブ解析の論文です(Am J Cardiol 1997; 79: 1453-59)。20年以上昔の古い臨床研究ですが、循環器領域の医師だけでなく、すべての医療関係者に知っていてほしい興味深い内容です。お付き合いください。EAST試験は冠動脈多枝疾患に対する血行再建法を比較するランダマイズ試験です(N Engl J Med 1994; 331: 1044-50)。参加基準を満たし組み入れ可能と判断された842例中、実際にCABGかPCIいずれかにランダム化されたのは392例でした。残り450例は、担当医と患者が相談し、個々の事例にあわせて最善と思われる血行再建法が選択されました。このランダム化されなかった患者は、レジストリ群として登録され解析されました。その結果、レジストリ群の3年生存率は96.4%で、ランダム化群の 93.4%と比較して有意に優れていたのです。EAST研究の本来の目的は、CABGとPCIの比較ですが、ランダム化したどちらの群の治療成績よりも、レジストリ群の治療成績が優れていたのです。この解釈は難しいですが、ランダム化してCABGとPCIの優劣に決着をつける以前に、医師は個々の患者の状態に合わせて、CABGとPCIの適切な選択ができていたことを意味します。医師の存在価値が証明された素晴らしい内容です。このレジストリ群では、「Shared decision making」が実践されていた可能性が高いと、自分は推察しています。EBMに基づいて確実性の高い治療法が選択できる場合には、「Informed consent」で問題はありません。治療法間の差が明確ではなく、絶対的に優れている治療法がない場合には、「Shared decision making」の出番です。これは決してEBMを否定するものではなく、治療法の優劣に不確実性のある場合に用いられる手法です。医療者と患者がエビデンスを共有(シェア)して一緒に治療方針を見つけ出していく手法で、「共有意思決定」とも称されます。数字としての治癒率や生存率の数値の優劣だけでなく、各治療法への患者の希望(選好: preference)や価値観も総合して、適切な治療法を一緒に考えていくものです。循環器領域だけでなく、治療法の選択肢が増えているがん治療の現場で、必要とされていくことが予測されます。ぜひとも、この「Shared decision making」を皆様とシェアしたいと思い紹介しました。今回は少し重い内容になってしまい、本コラムのテーマでもある猫の出番がないことが残念です。お許しください。

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電子タバコ関連の肺障害、酢酸ビタミンEが関与か/NEJM

 米国では現在、電子タバコまたはベイピング製品の使用に関連する肺障害(electronic-cigarette, or vaping, product use-associated lung injury:EVALI)が、全国規模で流行している。同国疾病予防管理センター(CDC)のBenjamin C. Blount氏らLung Injury Response Laboratory Working Groupは、EVALIの原因物質について調査し、酢酸ビタミンEが関連している可能性が高いと報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年12月20日号に掲載された。2019年12月12日現在、米国の50州とワシントンD.C.、バージン諸島、プエルトリコで、2,400人以上のEVALI罹患者が確認されている。すでに25州とワシントンD.C.で52人が死亡し、罹患者の78%が35歳未満だという。症状は、呼吸器(95%)、全身(85%)、消化器(77%)が多く、数日から数週間をかけて緩徐に進行すると報告されているが、その原因物質は同定されていない。電子タバコ関連の肺障害患者51人と健常者99人で高優先度の毒性物質を評価 研究グループは、電子タバコ関連の肺障害に関連する毒性物質を同定する目的で、EVALI患者と健常者の気管支肺胞洗浄(BAL)液を調べた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、米国16州のEVALI患者51人と、2015年に開始され、現在も進行中の喫煙関連研究の参加者のうち、電子タバコまたはベイピング製品のみの使用者や、タバコを専用する喫煙者、これらの非使用者を含む健常者99人であった。 参加者から採取したBAL液を用い、同位体希釈質量分析法で優先度の高い毒性物質(酢酸ビタミンE、植物油、中鎖脂肪酸トリグリセライド油、ココナッツ油、石油蒸留物、希釈テルペン)の測定を行った。電子タバコ関連の肺障害患者の酢酸ビタミンE検出率:患者94% vs.健常者0% 2019年8月~12月の期間に、米国16州の電子タバコ関連の肺障害患者51人からBAL液が採取された。年齢中央値は23歳で、男性が69%を占めた。77%がテトラヒドロカンナビノール(THC)含有製品を、67%がニコチン含有製品を、51%はこれら双方を使用していた。51人のうち、25人はEVALI確定例、26人は疑い例であった。 健常者集団(99人)のBAL液は2016~19年に採取された。電子タバコ使用者は18人(年齢中央値27歳、男性67%)、喫煙者は29人(26歳、76%)、非使用者は52人(25歳、37%)であった。この集団のBAL液からは、6種の優先度の高い毒性物質は検出されなかった。 一方、電子タバコ関連の肺障害患者のBAL液からは、51人中48人(94%)で酢酸ビタミンEが検出された。1人からは、酢酸ビタミンEに加えココナッツ油が検出され、酢酸ビタミンEもTHCも検出されなかった1人からはリモネン(希釈テルペン)が検出された。これ以外の患者からは、酢酸ビタミンE以外の優先度の高い毒性物質は検出されなかった。 検査データがあり、製品の使用が報告されているEVALI患者50人中47人(94%)では、BAL液からTHCまたはその代謝産物が検出され、EVALI発症前90日以内でのベイピング用THC製品の使用が報告されていた。また、ニコチンまたはその代謝産物は、47人中30人(64%)のBAL液から検出された。 著者は、「酢酸ビタミンEが単独で、EVALI患者にみられる肺障害の直接的な原因となりうるかは、動物実験によって明らかとなる可能性がある」としている。

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25年前の悲劇【Dr. 中島の 新・徒然草】(301)

三百一の段 25年前の悲劇先週末、女房が大会長を務めた第14回医療の質・安全学会学術集会に出席してきました。そこで久しぶりに会ったのが、招請講演者として来日していた台湾ジョイント・コミッションCEOの王抜群先生とその奥さんです。王先生は愛称をトニーといい、25年前にボストンの学生寮で、ちょうど私たちの真上に住んでいました。中島「トニー、覚えているかな。君の部屋から水漏れがして、僕のところのバスルームが水浸しになったのを」トニー「何それ。知らんぞ」中島「そうか。水が上から漏れてきて、天井やら壁やら床やら、そこら中が濡れちまって」トニー「そんなことがあったのか!」中島「それがちょっと茶色い水でさ」トニー「おいおい」中島「管理人のダンと一緒に君の部屋に行ったわけよ」トニー「ほんとか!」中島「そうしたら、君のところのバスルームが洪水みたいになって、赤ん坊を抱いた奥さんが茫然と立っていて。君はいなかったけどな」トニー「後で家内にきいてみよう」そもそも、トニーは覚えていないどころか知らなかったみたいです。翌日、学会場で奥さんのソフィーに出くわしたので尋ねてみました。ソフィーに会うのは25年ぶりです。中島「あのさ、25年前のことなんやけど」ソフィー「覚えているわよ! トイレが詰まって途方に暮れていたら、ドアが『ドンドンドン』と物凄い勢いで叩かれて」中島「覚えていてくれたか。確かダンと一緒にお邪魔したんだけど」ソフィー「床は水浸しだし、ダンには怒られるし、大変だったわ」中島「こっちも大変やったで。天井も壁も床も拭いて拭いて拭きまくって」ソフィー「ゴメン、ゴメン。それにしても、25年前の事をよく覚えているわね」中島「あんな悪夢、忘れられるかいな」小説に書いたのでアマゾンで売っているぞ、というのは言いませんでした。中島「そういや、あの時は赤ん坊を抱っこしていたけど」ソフィー「生まれたばかりの娘だったのよ」中島「娘さんはどうしているの?」ソフィー「クリーブランドのメディカル・スクールに行ってるわ」中島「へえ。専門は何を目指しているわけ?」ソフィー「眼科よ。アメリカでは眼科と皮膚科が大人気なので狭き門みたい」とにかく、ソフィーがあの洪水事件を覚えてくれたので、苦労が報われた気がしました。留守にしていた亭主が帰ってくるまでに、ソフィーも一生懸命掃除したのでしょう。中島「ソフィーは洪水事件を覚えていたよ。ところで下の子は息子さん?」トニー「そうそう、兵役が終わって今は公認会計士をやっているよ」中島「兵役? どのくらいの期間?」トニー「たったの4ヵ月さ。俺の時は2年間も軍隊に行ってたんだ。今はどんどん短くなっているよ」台湾に兵役があるとは知りませんでした。あと知らなかった事としては、90歳になろうかというトニーのお父上は、日本語が普通にしゃべれるということです。考えてみれば歴史上の必然ですね。何かと思い出話の尽きない再会でした。そうそう、学会の講演でトニーが力説していたのは、「台湾ジョイント・コミッションはShared Decision Making(患者参加の治療方針決定)を推進している!」ということです。そのための色々なツールをネットで公開しているということなので、興味ある方は覗いてみてください(https://www.jct.org.tw/mp-2.html)。ということで最後に1句悲劇でも 歳月経てば 喜劇なり※25年前の洪水事件を含めて、トイレ関係のエピソードを集めてアマゾン・キンドルで電子出版したのが『トイレを求めて三千里」です。脱力したいときにどうぞ。

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成人ADHDにおける金銭的意思決定

 成人期の注意欠如多動症(ADHD)は、金銭的意思決定(financial decision-making:FDM)を含む日常生活において、さまざまな問題と関連している。しかし、成人ADHDのFDMに関する研究は限られており、標準化された客観的手法で検討されたことは、これまでなかった。オランダ・フローニンゲン大学のDorien F. Bangma氏らは、主観的および標準化された客観的尺度の両方を用いて、成人ADHDのFDM能力について調査を行った。Neuropsychology誌2019年11月号の報告。 対象は、成人ADHD群45例および健康成人対照群51例。個々の金銭的状況、神経心理学的評価、FDMのさまざまな側面を測定するための標準化されたテストおよびアンケートを含む包括的なテストバッテリーを実施した。 主な結果は以下のとおり。・成人ADHDは、対照群と比較し、収入が少ない、借金が多い、預金が少ないなど金銭的状況が有意に悪かった。・成人ADHDは、金銭的能力を測定する標準化されたテストにおいても、対照群と比較し、スコアが有意に低かった。また、意思決定と将来への影響を測定するテストにおいても同様の結果が得られた。・成人ADHDは、対照群と比較し、衝動買いが多く、回避的または自発的な意思決定スタイルを用いることがより多く報告された。・媒介効果は、FDMの2つの測定値で認められたが、これらの測定値の群間差は、統計学的に有意なままであった。 著者らは「成人ADHDは、FDMに関するいくつかの問題を抱えている。このことは、成人ADHDの金銭的状況の悪さを部分的に説明できる」としている。

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sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

 sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。さらに言うと、CHARM-preservedでもTOPCATでも心不全再入院だけでいうと有意に抑制しているというデータもあり、心血管死亡に対して一定の(有意でないにしても)抑制がないと、これまでカンデサルタンもスピロノラクトンもダメと烙印を押してきた経緯に反する。 PARAGON-HFでは心血管死亡はそれこそ1本の線に見えるほど2群に差がなく、やはり有効でないと結論付けるのが妥当であろう。Solomon氏は対照群にバルサルタンを選ばなきゃよかったみたいなことを言い訳がましく言っていたが、まさにそれはそのとおりかと思う。HFpEFの中にRAS阻害薬がよく効くサブグループがいるようで、それがCHARM-preservedやTOPCATの一定の結果に関係しているかもしれない。一方で対プラセボでもまったく有効性のかけらもなかったI-preserveがどうしてなのかも考える必要がある。そのヒントは平均のLVEFと虚血性心疾患の割合である。平均のLVEFはCHARM-preserved 54%、I-preserve 60%、TOPCAT 56%、PARAGON-HF 57%、虚血性心疾患の割合はCHARM-preserved 56%、I-preserve 24%、TOPCAT 58%、PARAGON-HF 35%。つまり虚血性心疾患の割合が多く、またLVEFが低めの患者が多く含まれているほど実薬の有効性が高くなっている。CHARM-preservedでHFmrEF(昔はmid-rangeを分けてなかった)はHFrEF同様カンデサルタンが有効であったと報じられているし、このPARAGON-HFでもEF<57%では有意にsacubitril-バルサルタンが有効であった。 私は、虚血性心疾患からHFrEFに至る途中のmid-rangeに近いHFpEFはRAS阻害薬が有効であろうし、そしてその場合はPARADIGM-HFと同じくACE阻害薬よりsacubitril-バルサルタンがもっと有効であると思う。真のHFpEFとは何なのか、という議論が本当は必要であるが、虚血でないLVEF>60%のHFpEFに対して、もうHFrEFに対するGDMTの外挿では歯が立たないことが決まったような気がしている。

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ニンテダニブ、進行性線維化を伴う間質性肺疾患に有効/NEJM

 進行性線維化を伴う間質性肺疾患の治療において、ニンテダニブはプラセボと比較して、努力性肺活量(FVC)の年間低下率が小さく、この効果は高分解能CT画像上の線維化のパターンとは独立に認められることが、米国・ミシガン大学のKevin R. Flaherty氏らが行ったINBUILD試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年9月29日号に掲載された。ニンテダニブは、細胞内チロシンキナーゼ阻害薬であり、前臨床データでは肺線維症の進行に関与するプロセスを阻害することが示唆されている。特発性肺線維症(IPF)および全身性強皮症を伴う間質性肺疾患患者では、ニンテダニブ150mgの1日2回投与により、FVCの低下が抑制されたと報告されている。年間FVC低下率を評価するプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む15ヵ国153施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年2月~2018年4月の期間に患者登録が行われた(Boehringer Ingelheimの助成による)。 対象は、年齢18歳以上の線維化を伴う間質性肺疾患の患者であった。IPFはすでに検討が行われているため、IPF以外の進行性線維化の表現型を登録することとし、高分解能CT画像上で、線維化肺疾患が肺容量の10%超に及ぶと中央判定で確定された患者を登録した。また、患者は、治療にもかかわらず過去24ヵ月間、間質性肺疾患の進行の基準を満たし、FVCが予測値の45%以上、一酸化炭素肺拡散能(ヘモグロビン量で補正)が予測値の30~<80%であることとした。 被験者は、ニンテダニブ(150mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、52週の期間における年間FVC低下率とし、全体および通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)様の線維化パターンの集団で解析を行った。平均年間FVC低下率を107.0mL抑制 663例が1回以上の薬剤の投与を受けた。ニンテダニブ群が332例、プラセボ群は331例であった。412例(62.1%、両群206例ずつ)がUIP様線維化パターンだった。 全体の平均年齢は65.8±9.8歳、予測FVC値は69.0±15.6%、予測肺拡散能は46.1±13.6%であった。間質性肺疾患の最も多い診断名は、慢性過敏性肺炎(26.1%)と自己免疫性間質性肺疾患(25.6%)だった。ニンテダニブ群は252例(75.9%)、プラセボ群は282例(85.2%)が52週の治療を完了した。 52週時の補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-80.8±15.1mL/年、プラセボ群は-187.8±14.8mL/年であり、両群間の差は107.0mL/年(95%信頼区間[CI]:65.4~148.5)と、低下の程度がニンテダニブ群で有意に抑制されていた(p<0.001)。 また、UIP様線維化パターンの集団における補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-82.9±20.8mL/年と、プラセボ群の-211.1±20.5mL/年に比べ128.2mL/年(95%CI:70.8~185.6)低く、有意差が認められた(p<0.001)。 52週時のKing’s Brief Interstitial Lung Disease(K-BILD)質問票(3つのドメイン[息切れと活動性、心理学的因子、胸部症状]に関する15の質問項目から成る。0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)の総スコアのベースラインからの平均変化は、全体ではニンテダニブ群が0.55±0.60点、プラセボ群は-0.79±0.59点(群間差:1.34、95%CI:-0.31~2.98)であり、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ0.75±0.80点、-0.78±0.79点(1.53、-0.68~3.74)であった。 52週時の間質性肺疾患の増悪または死亡は、全体ではニンテダニブ群が7.8%、プラセボ群は9.7%(群間差:0.80、95%CI:0.48~1.34)、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ8.3%および12.1%(0.67、0.36~1.24)であった。また、52週時の死亡は、全体ではそれぞれ4.8%および5.1%(0.94、0.47~1.86)、UIP様線維化パターンの患者では5.3%および7.8%(0.68、0.32~1.47)だった。 最も頻度の高い有害事象は両群とも下痢であり、ニンテダニブ群が66.9%、プラセボ群は23.9%で発現した。また、ニンテダニブ群で多い有害事象として、悪心(28.9% vs.9.4%)、嘔吐(18.4% vs.5.1%)、食欲減退(14.5% vs.5.1%)、肝機能異常(ALT上昇:13.0% vs.3.6%、AST上昇:11.4% vs.3.6%)が認められた。重篤な有害事象はそれぞれ32.2%、33.2%にみられた。 著者は「これらのニンテダニブの治療効果は、IPF患者を対象としたINPULSIS 1とINPULSIS 2試験の統合データで観察されたもの(平均年間FVC低下率の差 109.9mL/年)と類似していた」としている。

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【荻野☓池野対談】第1回 世界から見た日本の“惨状”

日本の国際競争力が失われてきている――誰しも漠然とそう感じているのではないだろうか。とくにアカデミズムの分野では、その傾向が顕著だ。国別の論文発表数のランキングは年々下落し、国内大学の研究費も減少。それに伴い、若手研究者の待遇悪化や海外流出なども目立っている。こうした現状にあって、再び日本が技術開発力を持ち、イノベーションを生み出して国際社会で存在感を放つためには、どんな施策がありえるのか。日本の医学部を卒業した医師であり今は米国を拠点に活躍する、ハーバード大学の医学大学院および公衆衛生学大学院教授の荻野 周史氏とスタンフォード大学主任研究員の池野 文昭氏。ともに日米の大学・起業現場を熟知する教育者・研究者である2人が対談で語り合った。データでも肌感でも明らかに「凋落した国」池野私は日本で省庁の委員会委員や地方自治体のアドバイザリー業務をしており、月に3回程度は帰国しているので、日本の状況は空気感を含めて理解しているつもりです。データを見れば、名目GDPランキングではかろうじて世界3位(2018年)の座を保っていますが、中国との差は開くばかり。スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が発表する「世界競争力ランキング」では、昨年から5つ順位が下がって30位(2019年1))。1位はシンガポールで、その後に香港、米国と続き、中国は14位で韓国は28位。日本はマレーシアやタイよりも下なのです。とくに政治やビジネスの効率に対する評価がきわめて低い。「世界時価総額ランキング2)」(2019年9月)のトップ50を見ても、トヨタが38位に入っているだけで、そのほかは圧倒的に米国の会社、続いて中国系の会社が目立ちます。平成元年の時点3)では、トップ5をNTTと大手銀行といった日本企業が独占し、そのほかに27社もの日本企業が50位内にランクインしていました。当時のバブル経済の影響が大きかったとはいえるものの、この状況からはその後30年間、日本がまったく新たな産業を生み出せていないことがわかります。世界から見た日本は「急速に凋落した国」です。荻野帰国はたまに里帰りをする程度ですが、米国にいても日本の競争力が落ちていることを感じます。たとえば、ハーバードへの留学生やポスドク。日本からの応募は今でも一定数ありますが、かつてに比べ受からなくなっています。その代わり、中国人が大幅に増加しました。採用側としては、同等の学力ならコミュニケーション力が高く、国としての勢いもある中国人を採ろう、となるのです。また、日本国内における研究者や教育者のポストを見ると、待遇や裁量などの条件が米国と比べてあまりにも悪い。これでは世界で活躍している人をリクルートできません。日本から出るほうも日本に来るほうも人材が減り続け、日本がさらに世界から取り残されることを危惧しています。池野今、シリコンバレーに進出している日本の会社は約950社あるのですが、現地の人を雇おうとしても来てくれない、という話をよく聞きます。会社側は「米国企業のように簡単に首にはしない。福利厚生が手厚い」という点を売りにしているのですが、シリコンバレーで職を求める優秀な人のニーズとまったくマッチしない。GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.)に代表されるように、高い給与は当然として、新しい挑戦ができる、自分の夢をかなえられる、大きな裁量を持って働ける、といった環境を提供しないと優秀な人は雇えません。生き残ることの苦しさ・楽しさ荻野私は学生のころから病理学を研究したいと思っていました。当時、その希望をかなえるには大学院に行くというのが普通に考えて唯一の道でした。しかし、大学院に半年通って絶望しました。硬直した組織、旧態依然としたテーマ…。ここで長くはやっていられない、と危機感を持ち、考えたのが米国留学でした。渡米には研修資格取得や語学の準備などが必要で、最低1年ほどはかかる。そこで在沖縄米国海軍病院でインターンシップをしながら準備を進め、研修先の病院を見つけたのです。その後、苦労しながらもハーバードに職を得て、今に至ります。池野海外への興味は学生時代からありました。私は自治医科大学の出身で、当時の日本ではまだ僻地医療が確立していなかったので、卒業後の勤務に役立つと考え、2ヵ月間シアトルのワシントン大学で僻地医療を見学したのです。そこで、米国の自由と力強さに魅せられました。しかし、卒後は地域医療に従事する義務がありましたので米国への思いは封印し、出身地である静岡県の公務員として地域医療に従事しました。荻野それが、どうして渡米されることになったのですか?池野9年間の研修・勤務を終え、地域医療にやりがいも感じていたので、「このまま静岡の県立病院で定年まで働けばいいかな」と考えていました。それが、知り合いの医師から「米国の大学で動物実験を手掛ける医師を探している。学費も出すので行かないか」という誘いが来たのです。当時の私はスタンフォードについて詳しくは知らなかったのですが、学生の時の憧れを思い出し、何もわからないまま海を渡りました。来てみれば、周囲にノーベル賞受賞者などの有名研究者がぞろぞろいて、環境の違いに圧倒されました。「3年くらい米国を満喫したら帰ろう」と思っていたのですが、さまざまなご縁があり、米国に拠点を置いたまま今に至ります。荻野留学中は学費を払っているので、ある意味で「お客さん」ですが、仕事に就く時はご苦労があったのではないですか? 私は大変でした。6年間の研修期間中に3つの大学病院に勤務したのですが、終わり近くになると、優秀な同僚には研修先から就職のオファーが来るのです。私にも来るだろう、と待っていたのですが、まったく来ません(笑)。今から思えば実力不足だったので、当然のことなのですが、当時はショックでしたね。必死になって全米の大学に空ポジションを探したところ、私の専門に合うポジションは3つしかなくて。なんとかハーバードに職を得られたことは、本当にラッキーでした。池野私も職探しには苦労しました。渡米初年度に永住権の抽選に申し込んだら、偶然にも当たったのです。早くから就労できたのは非常に幸運だったのですが、それを知った周囲の同僚の視線がガラリと変わりました。「いつかは帰るお客さん」だったのが、職を争うライバルになったわけです。しかも、私は子供が4人おり、彼らを養いながら世界一生活費が高いといわれるシリコンバレーで生活するだけのサラリーを稼がねばならない。すべてが保障された公務員の身分を捨ててきた、という焦りもあり、そのプレッシャーはすさまじいものがありました。荻野本当にタフでないと生きていけない世界です。運よく仕事を得ても、成果を出さないと、あっという間にそこにいられなくなる。その半面、自分にしかできない成果を出していると、誰かが見て評価してくれる世界でもあります。その簡明さと働きやすさに惹かれ、今まで働き続けてきました。7人の主君を渡り歩いた藤堂 高虎4)のように、よりよい評価をしてくれるところで存分に仕事ができる点が大きいですね。こちらでは、学生時代から同じところに居続けることはマイナスになります。多くの日本人のように学生時代からずっと同じところにいると「変化を嫌い、現状維持を好む」と受け取られますし、実際にそのとおりだと思います。池野非常にドライで「アウトプットなき者は去れ」という文化ですよね。最初はそれがきつかったのですが、次第に慣れ、今ではこちらのほうが心地よくなりました。第2回に続く 参考1)https://www.imd.org/contentassets/6b85960f0d1b42a0a07ba59c49e828fb/one-year-change-vertical.pdf2)https://stocks.finance.yahoo.co.jp/us/ranking/?kd=43)https://diamond.jp/articles/-/177641?page=24)戦国・江戸時代の武将・大名。浅井 長政、豊臣 秀吉、徳川 家康をはじめ多くの主君に仕え、功を立てた

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H. pylori除菌と栄養補助、胃がん抑制に効果/BMJ

 2週間のHelicobacter pylori除菌治療と7年間のビタミンまたはニンニクの補助食品による3つの介入は、それぞれ22年以上にわたり胃がんによる死亡のリスクを有意に改善し、除菌とビタミン補助は胃がんの発生も抑制することが、中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのWen-Qing Li氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年9月11日号に掲載された。H. pylori感染は胃がんの確立されたリスク因子であり、その除菌は胃がんの予防戦略となりうる。一方、胃がんの予防におけるH. pylori除菌治療の効果の持続期間や、関連のあるすべての有益な作用および有害な作用を知るには、長期の追跡調査を要する。胃がんに及ぼす栄養補助食品の効果の評価にも長期の調査が必要とされている。中国の地域住民を対象とする要因デザインの無作為化試験 研究グループは、H. pylori除菌および栄養補助による胃がんの予防効果を評価する目的で、プラセボ対照無作為化試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、中国山東省臨ク県の胃がんリスクが高い地域の住民3,365例であった。このうち、H. pylori抗体が血清学的陽性の2,258例は、2×2×2要因デザインにより、H. pylori除菌、ビタミン補助、ニンニク補助、それぞれのプラセボに無作為に割り付けられた。また、H. pylori抗体が血清学的陰性の1,107例は、2×2要因デザインにより、ビタミン補助、ニンニク補助、それぞれのプラセボに無作為に割り付けられた。 H. pylori除菌治療では、アモキシシリン+オメプラゾールが2週間投与された。ビタミン補助はビタミンC、Eとセレニウムが、ニンニク補助はニンニク抽出物とニンニク油が、7.3年間投与された(1995~2003年)。 主要アウトカムは、2017年まで定期的に行われた胃内視鏡検査で同定された胃がんの累積発生率と、死亡証明書と病院記録で確定された胃がんによる死亡とした。副次アウトカムは、胃がん以外のがんや心血管疾患などの他の原因による死亡であった。H. pylori除菌の効果は、比較的早期に発現 1995~2017年の期間(フォローアップ期間22.3年)に、151例の胃がんが発生し、94例が胃がんで死亡した。このうちベースラインでH. pylori陽性であったのは、それぞれ119例(79%)および76例(81%)だった。 H. pylori除菌治療による胃がん発生の保護効果は介入後22年間持続した(オッズ比[OR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.32~0.71、p<0.001)。また、ビタミン補助により、胃がん発生は有意に減少したが(0.64、0.46~0.91、p=0.01)、ニンニク補助に有意な保護効果は認められなかった(0.81、0.57~1.13、p=0.22)。 3つの介入はいずれも、胃がんによる死亡を有意に抑制した(H. pylori除菌治療の完全補正後ハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.39~0.99、p=0.05、ビタミン補助の完全補正後HR:0.48、0.31~0.75、p=0.001、ニンニク補助の完全補正後HR:0.66、0.43~1.00、p=0.05)。 胃がんの発生と死亡の双方に及ぼすH. pylori除菌治療の効果と、胃がんによる死亡に及ぼすビタミン補助の効果は比較的早期に認められたが、胃がんの発生に及ぼすビタミン補助とニンニク補助の効果の発現には時間を要した。 全死因死亡に関しては、H. pylori除菌とニンニク補助は影響を及ぼさず、ビタミン補助は改善の傾向が認められたものの有意な差はなかった(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01、p=0.07)。また、3つの介入と、他のがん種および心血管疾患の間には、統計学的に有意な関連はみられなかった。 著者は、「これらの知見は胃がん予防の潜在的な機会をもたらすが、ビタミン補助とニンニク補助の良好な効果を確定し、H. pylori除菌治療とビタミン、ニンニク補助に関する可能性のあるリスクを特定するには、さらに規模の大きな介入試験を要する」としている。

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後期早産・妊娠高血圧腎症妊婦、計画出産は有益か/Lancet

 後期早産・妊娠高血圧腎症の女性における計画出産は、待機的管理と比較して、母体の障害発生や重症高血圧の頻度は低い一方で、新生児治療室への入室が多いことが、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのLucy C. Chappell氏らが行ったPHOENIX試験で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年8月28日号に掲載された。後期早産・妊娠高血圧腎症の女性では、母体の疾患進行に関連する制約と、新生児の合併症とのバランスをとる必要があり、至適な分娩開始時期は不明だという。英国の46施設が参加した無作為化試験 研究グループは、後期早産・妊娠高血圧腎症女性では、計画された早期の出産開始が、待機的管理(通常治療)と比較して、新生児/乳幼児の転帰を悪化させずに、母体の有害な転帰を抑制するかどうかを検証する目的で、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]健康技術評価プログラムの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、妊娠期間が34~<37週で、単胎または2絨毛膜2羊膜双胎の妊娠高血圧腎症または加重型妊娠高血圧腎症の女性であった。被験者は、48時間以内に計画的に出産を開始する群または待機的管理を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 母体の主要評価項目は、障害発生(fullPIERSモデルの転帰:母体死亡、中枢神経系・心肺・血液・肝臓・腎臓の障害、胎盤早期剥離)と、割り付け後の収縮期血圧≧160mmHgの複合とし、優越性の評価を行った。周産期の主要評価項目は、出産から7日以内の新生児の死亡と、新生児の退院前の新生児治療室への入室の複合とし、非劣性の評価を行った(非劣性マージンは10%)。 2014年9月29日~2018年12月10日の期間に、イングランドとウェールズの46の産科施設で参加者の登録が行われた。分娩時期の共同意思決定のために、転帰のトレードオフを説明すべき 901例の女性が登録され、計画出産群に450例、待機的管理群には451例が割り付けられた。intention-to-treat(ITT)解析の対象は、計画出産群が448例の女性(平均年齢30.6[SD 6.4]歳)と471例の乳幼児、待機的管理群は451例の女性(30.8[6.3]歳)と475例の乳幼児であった。 母体の複合アウトカムの発生率は、計画出産群が65%(289例)と、待機的管理群の75%(338例)に比べ有意に低く、優越性が確認された(補正後相対リスク[RR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.79~0.94、p=0.0005)。 一方、周産期の新生児の複合アウトカムの発生率は、計画出産群は42%(196例)であり、待機的管理群の34%(159例)と比較して有意に高かった(補正後RR:1.26、95%CI:1.08~1.47、p=0.0034)。per-protocol(PP)解析でも、同様の結果が示され(1.40、1.18~1.66、p<0.0001)、周産期の複合アウトカムに関して、計画出産群は待機的管理群に劣ると判定された。 副次評価項目である母体の障害発生(計画出産群15% vs.待機的管理群20%、補正後RR:0.76、95%CI:0.59~0.98)および収縮期血圧≧160mmHg(60% vs.69%、0.85、0.77~0.94)はいずれも計画出産群が優れ、重症妊娠高血圧腎症への進行(64% vs.74%、0.86、0.79~0.94)も計画出産群のほうが良好だった。 死産、出産後7日以内の新生児の死亡、退院前の新生児の死亡は、両群とも認められなかった。新生児治療室への入室は、計画出産群で頻度が高かった(42% vs.34%、補正後RR:1.26、95%CI:1.08~1.47)。また、母親と新生児を合わせた医療費は計画出産群のほうが安価だった(p=0.00094)。 重篤な有害事象は、計画出産群の9例、待機的管理群の12例で認められた。このうち両群2例ずつが介入に関連する可能性があり、待機的管理群の1例は介入に関連する可能性が高いと判定された。 著者は、「この母体と新生児の転帰のトレードオフについては、分娩時期に関する共同意思決定(shared decision making)のために、後期早産・妊娠高血圧腎症女性と話し合う必要がある」と指摘している。

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2型糖尿病リスク、遺伝的負荷と食事脂肪の交互作用なし/BMJ

 遺伝的負荷と食事脂肪の質は、それぞれ2型糖尿病の新規発生と関連しており、2型糖尿病の発生に関して遺伝的負荷と食事脂肪の質に交互作用はないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のJordi Merino氏らCHARGE Consortium Nutrition Working Groupの検討で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年7月25日号に掲載された。2型糖尿病は、遺伝因子や生活習慣因子の影響を強く受ける複雑な疾患であり、食事の質の改善を目指す推奨は、2型糖尿病の予防と治療における重要な要因とされる。遺伝的負荷、食事脂肪と2型糖尿病の関連を評価するメタ解析 研究グループは、2型糖尿病の遺伝的負荷が、食事に含まれる脂肪と2型糖尿病の発生の関連を修飾するかを検討する目的で、個々の試験参加者のデータのメタ解析を行った。 主要な医学データベースを検索し、1970年1月~2017年2月の期間に発表された前向きコホート研究を系統的に収集した。参加者が欧州人家系で、食事脂肪の質および2型糖尿病の発生に関するゲノムワイドの遺伝的データや情報を含むコホート研究またはマルチコホート・コンソーシアムのデータを探した。対象は、追跡期間が5年以上の前向きコホート研究とした。 2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイルは、効果量で重み付けされた68種の遺伝子バリアントの多遺伝子性リスクスコアで表された。食事は、妥当性が検証されたコホート特異的な食事評価ツールを用いて記録された。 主要アウトカムは、2型糖尿病の新規発生と、(1)多遺伝子性リスクスコア、(2)炭水化物(精製デンプン、砂糖)の、等価カロリーの各種脂肪への置き換え、(3)脂肪のタイプと多遺伝子性リスクスコアの交互作用、との関連とし、要約補正後ハザード比(HR)を算出した。炭水化物を一価不飽和脂肪で代替すると糖尿病リスクが増加 15件の前向き研究に参加した10万2,305例が解析に含まれた。追跡期間中央値12年(IQR:9.4~14.2)の時点で、2万15例(19.6%)が2型糖尿病を発症した。 人口統計学的因子、生活様式関連因子、臨床的な背景因子で補正すると、多遺伝子性リスクスコアにおけるリスクアレル(risk alleles)数の10増加ごとの2型糖尿病のHRは1.64(95%信頼区間[CI]:1.54~1.75、p<0.001、I2=7.1%、τ2=0.003)であり、有意な関連が認められた。 食事脂肪の質と2型糖尿病リスクの関連のメタ解析では、炭水化物の代替として多価不飽和脂肪(ω3、ω6)および総ω6多価不飽和脂肪の摂取量を増やすと、2型糖尿病のリスクが低下し、補正後HRはそれぞれ0.90(95%CI:0.82~0.98、p=0.02、I2=18.0%、τ2=0.006、摂取エネルギーの5%増加ごと)および0.99(0.97~1.00、p=0.05、I2=58.8%、τ2=0.001、1g/日増加ごと)であった。 一方、炭水化物の代替として一価不飽和脂肪(オレイン酸、パルミトレイン酸、ゴンドイン酸、エルカ酸、ネルボン酸)を増やすと、2型糖尿病リスクが増加した(補正後HR:1.10、95%CI:1.01~1.19、p=0.04、I2=25.9%、τ2=0.006、摂取エネルギーの5%増加ごと)。 炭水化物を等価カロリーの総脂肪、飽和脂肪、総ω3多価不飽和脂肪、トランス脂肪でそれぞれ置き換えても、2型糖尿病リスクとは関連しなかった。 多価不飽和脂肪と2型糖尿病リスクの全体的な関連には、小規模研究効果(small study effects:小規模研究によって、より大きな効果が示されること。出版バイアス、より小さな研究における方法論の質の低さ、真の異質性、アーチファクト、偶然などによる)のエビデンス(Debray検定:p=0.05)が得られたが、ω6多価不飽和脂肪(p=0.70)および一価不飽和脂肪(p=0.64)と2型糖尿病リスクの関連には、このエビデンスは認めなかった。 事後解析として、飽和脂肪を等価カロリーの不飽和脂肪で置換したところ、2型糖尿病リスクが低下した(補正後HR:0.91、95%CI:0.85~0.98、p=0.02、I2=47.2%、τ2=0.02、摂取エネルギーの5%増加ごと)。 2型糖尿病リスクに関して、食事脂肪と多遺伝子性リスクスコアの間に有意な交互作用は認めなかった(交互作用:p>0.05)。 著者は、「これらの知見は、2型糖尿病の1次予防において、2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイル別に、食事脂肪の種類を個別に推奨する方法を支持せず、食事脂肪は2型糖尿病の遺伝的リスクのスペクトラム全般において2型糖尿病リスクと関連することが示唆される」とし、「食事や生活習慣への介入は、遺伝的リスクにかかわらずに行うべきと考えられる」としている。

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新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第144回

新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人いらすとやより使用急性好酸球性肺炎(AEP)といえば、初めて喫煙をした若い男性が起こす強いアレルギー性肺炎で、末梢血や気管支肺胞洗浄液中の好酸球比率は数十%に及びます。全身性ステロイド投与によって著明に改善するので、予後は極めて良いです。呼吸器内科医としては、「初めての喫煙」というキーワードで必ず鑑別に挙げなければならない疾患です。基本的には燃焼式の紙巻きたばこによって起こるのですが、電子タバコや加熱式タバコでも起こりうるという症例が報告されています。Thota D, et al.Case report of electronic cigarettes possibly associated with eosinophilic pneumonitis in a previously healthy active-duty sailor.J Emerg Med. 2014;47:15-17.1例目はこれまで既往歴のない水兵さんです。電子タバコを吸った直後にAEPになり、ステロイドと抗菌薬で治療されました。海外の電子タバコは、日本では基本的に輸入以外では用いられず、加熱式タバコとは別物です。海外では、リキッドタイプのものが主流です。Arter ZL, et al.Acute eosinophilic pneumonia following electronic cigarette use.Respir Med Case Rep. 2019;27:100825.2例目は、電子たばこを吸い始めて2ヵ月目に呼吸不全で救急搬送された18歳女性です。ICUに入室するほどひどい状態でしたが、ステロイド投与してわずか6日目に退院したそうです。Kamada T, et al.Acute eosinophilic pneumonia following heat-not-burn cigarette smoking.Respirol Case Rep. 2016;4:e00190.3例目は、加熱式タバコによって起こった急性好酸球性肺炎の日本の症例報告です。加熱式タバコ開始から6ヵ月後に急性好酸球性肺炎を起こし、入院しました。加熱式タバコによる急性好酸球性肺炎は、実はこの症例が世界初の報告とされています。内因性に急性好酸球性肺炎を起こしやすい患者さんが、たまたま偶発的に新型タバコを始めた後に同疾患を発症したのかどうかは、疫学的研究を立案しないことにはわかりません。ですが呼吸器内科医としては、紙巻きタバコを止められないときの代替案として新型タバコを提示したくはないですね。

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