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関節リウマチ治療におけるT2Tの実践と課題関節リウマチ治療は、長期的なQOL改善につながる「臨床的寛解」を目標(Target)として設定し、これに向けて治療(Treat)を最適化する戦略、Treat to Target(T2T)が推奨されている1)。具体的には、疾患活動性を評価しながら薬物治療を見直し、適切な治療方針を検討することが勧められる。近年、臨床的寛解の達成率は上昇しているが、いまだ達成に至らない患者も多い2)。こういった患者に対し、新たに選択肢となる治療薬が求められている。JAK阻害薬「リンヴォック」関節リウマチ治療薬には、従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)、生物学的製剤(bDMARD)、分子標的型合成抗リウマチ薬(tsDMARD)などがある。リンヴォック(一般名:ウパダシチニブ)は、炎症性サイトカインに関わるヤヌスキナーゼ(JAK)、とくにJAK1を強く阻害する経口のtsDMARDであり、新しい治療選択肢の1つとなっている。6つの大規模臨床試験で効果を検証リンヴォックは、中等症~重症の活動性関節リウマチ患者計4,500例以上を対象とした6つのSELECT試験により、有効性、安全性が検討された。有効性は、主に米国リウマチ学会基準の20%、50%の改善率(ACR20、ACR50)と、28関節の疾患活動性スコア(DAS28)に基づいて評価された。SELECT-COMPARE試験:MTX(メトトレキサート)で効果不十分な患者に対し、リンヴォック15mgとMTXを併用し(リンヴォック群)、プラセボ群およびアダリムマブ群と比較した。「ACR20改善率(12週時)」は70.5%(プラセボ群36.4%)、「DAS28(CRP)<2.6に基づく臨床的寛解達成率(12週時)」は28.7%(プラセボ群6.1%)であり、いずれもリンヴォック群の優越性が検証された(p<0.001)。また、「ACR50改善率(12週時)」は45.2%(アダリムマブ群29.1%)であり、リンヴォック群の優越性が示された(p<0.001)。主な有害事象は、上気道感染(5.7%)、鼻咽頭炎(5.5%)、気管支炎(4.6%)などであった(26週時)。SELECT-MONOTHERAPY試験※:MTXで効果不十分な患者に対し、リンヴォック15mgを単独投与し(リンヴォック群)、MTX群と比較した。「ACR20改善率(14週時)」は67.7%(MTX群41.2%)、「DAS28(CRP)≦3.2に基づく低疾患活動性達成率(14週時)」は44.7%(MTX群19.4%)であり、いずれもリンヴォック群の優越性が検証された(p<0.001)。主な有害事象は、尿路感染および上気道感染(各4.1%)などであった(14週時)。SELECT-SUNRISE試験※:csDMARDで効果不十分な患者に対し、リンヴォック7.5mg、15mgとcsDMARDを併用し(リンヴォック群)、プラセボ群と比較した。「ACR20改善率(12週時)」は、7.5mg群、15mg群でそれぞれ75.5%、83.7%(プラセボ群42.9%)であり、リンヴォック群の優越性が検証された(p<0.001)。7.5mg群の主な有害事象は、鼻咽頭炎(10.2%)、口内炎および高血圧(各6.1%)、15mg群は、鼻咽頭炎(12.2%)、肝機能検査値上昇(6.1%)などであった(12週時)。このほかにも、SELECT-NEXT試験(csDMARDで効果不十分な患者に対し、csDMARD併用下での効果をプラセボと比較)、SELECT-BEYOND試験(bDMARDで効果不十分・不耐容の患者に対し、csDMARD併用下での効果をプラセボと比較)、SELECT-EARLY試験※(MTX未治療の患者に対し、単独投与での効果をMTXと比較)が実施され、効果が検証されている。※日本人患者を含む試験(SELECT-SUNRISEは国内試験)リンヴォックへの期待SELECT試験は、臨床におけるさまざまな患者像を想定したデザインで実施された。いずれの試験でも有効性、安全性が示されたことで、リンヴォックが多くの患者に使用できる有用な選択肢になると考えられる。また、『関節リウマチ診療ガイドライン3)』の改訂により、今後JAK阻害薬の使用機会増加が予想される。各JAK阻害薬の特徴による違いも含め、実臨床での使用データが蓄積することで、リンヴォックが適する患者像はより明確になっていくだろう。新たな選択肢の登場により、1人でも多くの患者が臨床的寛解を達成することを期待したい。1)Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis. 2016;75:3-15.2)Yamanaka H, et al. Mod Rheumatol. 2020;30:1-6.3)日本リウマチ学会. 関節リウマチ診療ガイドライン2020