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毎日の運動でも週末だけの運動でも心臓への影響は同じ

 毎日運動するのも週末にまとめて運動するのも、心臓への影響は変わらないようだ。米マサチューセッツ総合病院(MGH)のShaan Khurshid氏らが実施した研究で、「中強度〜高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)を週150分以上」というガイドラインの推奨を満たしていれば、どのようなスケジュールで運動を行っても、心臓に同様のベネフィットがもたらされることが明らかになった。この研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月18日号に掲載された。 この研究では、UKバイオバンクのデータを用いて、ガイドラインで推奨されている運動量を短期間で集中的に行う場合と、より均等に(定期的に)行う場合とで、心血管イベント(心房細動、心筋梗塞、心不全、脳卒中)の発生リスクに違いがあるのかどうかが調査された。対象は、2013年6月8日から2015年12月30日までの間に加速度計で測定した1週間の運動量のデータがそろっていた8万9,573人(平均年齢62歳、女性56%)。このうちの42.2%(3万7,872人)は週150分以上のMVPAの50%以上を1〜2日で消化する「週末戦士(weekend warrior;WW)」(WW群)、24.0%(2万1,473人)はWWよりも定期的な運動習慣で推奨運動量を満たしていた(定期的な運動群)。残りの33.7%(3万228人)はガイドラインでの推奨運動量を満たしていなかった(推奨量未達成群)。追跡期間中央値は6.3年だった。 解析の結果、WW群と定期的な運動群の双方で心血管イベントの発生リスクは同程度に低下することが明らかになった。推奨量未達成群に比べてWW群と定期的な運動群では、心房細動リスクがそれぞれ22%と19%、心筋梗塞リスクが27%と35%、心不全リスクが38%と36%、脳卒中リスクが21%と17%低下していた。 Khurshid氏は、「これらの結果は、心血管系の健康にとって最も重要なのは、運動パターンよりもむしろ運動量であることを示唆している。運動量を増やす努力が週の中で均等に行われていても1〜2日に集中していても、いくつかの心血管疾患リスクや全体的な心血管系の健康に及ぼす影響は同等だ」と話す。その上で同氏は、「週に1、2回しか運動できないのであればしない方がいい、あるいは、運動による効果は期待できないと考えている人にとって、この知見は励みになるのではないか」と述べている。 米ペニントン生物医学研究センターの人口・公衆衛生科学部門アソシエイト・エグゼクティブ・ディレクターのPeter Katzmarzyk氏は、「この研究結果は、運動を自分の都合に合わせて柔軟に取り入れることで、健康への効果が得られることを強調するものだ」と述べる。そして、「一般的に、どんな運動でも、何もしないよりは良い」と強調している。 Katzmarzyk氏は、週150分以上の運動という目標を達成できない場合でも、医師は患者と協力して、患者の年齢や健康状態に適した運動目標を立てるべきだと話す。同氏は、「目標値以下でも、運動量の増加は心血管疾患や早期死亡のリスクの減少を含め、健康に多くのベネフィットをもたらす」と述べている。

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コレステロール値を安定させることが認知症予防に寄与か

 血中の脂質値の変動は、アルツハイマー病(AD)やアルツハイマー病に関連する認知症(ADRD)のリスクを上昇させる可能性のあることが、米メイヨー・クリニックのSuzette Bielinski氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Neurology」に7月5日掲載された。 Bielinski氏らは、追跡開始時点(2006年1月1日)にはADまたはADRDのなかった60歳以上の男女1万1,571人(平均年齢71歳、女性54%)のデータを収集して分析した。対象者には、試験開始前5年間の総コレステロール(TC)値、トリグリセライド(中性脂肪、TG)値、LDLコレステロール(LDL-C)値、HDLコレステロール(HDL-C)値のうち、3種類以上の測定値がそろう人が選ばれた。 中央値12.9年に及ぶ追跡期間中に、2,473人がADまたはADRDを発症していた。それぞれの脂質値の変動の大きさに応じて、変動が最も小さいQ1から最も大きいQ5までの5群に対象者を分け、性別や人種、教育歴、脂質低下薬の使用の有無などの因子を調整して分析した。その結果、TC値のQ5群ではQ1群と比べてADまたはADRDの発症リスクが19%(ハザード比1.19、P=0.011)、TG値のQ5群ではQ1群と比べて同リスクが23%(同1.23、P=0.002)高いことが明らかになった。一方、LDL-C値とHDL-C値の変動とADまたはADRDの発症リスクとの間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が得られたものの、Bielinski氏は、「TC値やTG値の変動がADリスクに関連している原因や、その機序に関しては不明なままだ」としている。それでも同氏は、今回の結果の有用な点として、「血液検査で測定されたTC値やTG値の経時的な変動は、認知症リスクが高い人の特定や、認知症発症のメカニズムの解明にも役立つ可能性がある。最終的には、脂質値の変動の抑制が認知症リスクの低下に寄与するかどうかを明らかにできるかもしれない」と述べている。 今回の研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのザッカー・ヒルサイド病院のMarc Lawrence Gordon氏は、「この研究によってこれらの脂質値の変動がADやADRDの原因であることが証明されたわけではない」と強調する。同氏は、「認知症発症の原因が脂質値の変動なのか、あるいは認知症を発症しやすい状態が脂質値の変動をもたらしているのかは不明だ」と指摘。「このデータから具体的な対策についてアドバイスすることは難しい」と話している。 一方、専門家の一人で米アルツハイマー病協会グローバルサイエンス・イニシアチブのディレクターであるChristopher Weber氏は、心臓の健康と脳の健康が強く結び付いていることを指摘し、TC値やTG値を抑えることが認知症予防に役立つ可能性はあるとの見方を示している。 Weber氏は、コレステロールの変動は脳の血管の状態に影響を与え、認知機能の低下やADを含む認知症の発症リスク上昇の一因となる可能性があると言う。また、同氏は脳の血管機能不全がコレステロールの変動とADとの関連に関与している可能性も指摘している。その上で同氏は、「TC値やTG値を低く、安定した値に維持することはADリスクを低下させる上で有益かもしれない」と付け加えている。 Weber氏は、「もし自分の心血管の健康状態やコレステロール値、あるいは認知機能の低下が心配なら、かかりつけ医や医療従事者に必ず相談すべきだ。心臓の健康状態の指標となる検査値を把握し、必要であれば治療を受け、全般的に心臓と脳の健康に良い生活習慣を心掛けることが望ましい」と助言している。

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選択的Nav1.8阻害薬VX-548、術後急性疼痛を軽減/NEJM

 電位依存性ナトリウム(Na)チャネルNav1.8の選択的阻害薬であるVX-548は、高用量においてプラセボと比較し、腹壁形成術ならびに腱膜瘤切除術後48時間にわたって急性疼痛を軽減し、有害事象は軽度~中等度であった。米国・Vertex PharmaceuticalsのJim Jones氏らが、2件の第II相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。電位依存性NaチャネルNav1.8は、末梢侵害受容ニューロンに発現し、侵害受容シグナルの伝達に寄与していることから、選択的Nav1.8阻害薬VX-548の急性疼痛抑制効果が研究されていた。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。腹壁形成術および腱膜瘤切除術後の急性疼痛患者で、VX-548vs.プラセボを評価 研究グループは、(1)腹壁形成術(軟部組織の痛みのモデル)、または(2)腱膜瘤切除術(外反母趾手術)(骨の痛みのモデル)術後の急性疼痛を有する患者を対象とした2件の第II相無作為化二重盲検比較試験を実施した。 (1)の腹壁形成術試験は2021年8月~2021年11月に米国内の7施設において、腹壁形成術終了後4時間以内で、数値的疼痛評価尺度(Numeric Pain Rating Scale[NPRS]、スコア範囲:0~10、数値が高いほど痛みが強いことを示す)のスコアが4以上、および口頭式疼痛評価尺度(Verbal Categorical Rating Scale[VRS]、痛みが「ない」から「重度」まで4段階で評価)で中等度または重度の痛みを有する18~75歳の患者を、高用量群(VX-548を100mg経口負荷投与後12時間ごとに50mgを維持投与)、中用量群(VX-548を60mg経口負荷投与後12時間ごとに30mgを維持投与)、実薬対照群(酒石酸水素ヒドロコドン5mg/アセトアミノフェン325mgを6時間ごとに経口投与)、プラセボ群(プラセボを6時間ごとに経口投与)に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、48時間投与した。 (2)の腱膜瘤切除術試験は2021年7月~2022年1月に9施設において、術後1日目の膝窩坐骨神経ブロック除去後9時間以内に(1)と同様の痛みを有する18~75歳の患者を、高用量群、中用量群、低用量群(VX-548を20mg経口負荷投与後12時間ごとに10mgを維持投与)、実薬対照群、プラセボ群に2対2対1対2対2の割合で無作為に割り付け、48時間投与した。 主要エンドポイントは、NPRSスコアに基づく疼痛強度差(SPID)の48時間にわたる時間加重合計(SPID48)とした。NPRSスコアは、初回投与後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12時間後、以降は4時間ごとに合計19回測定した。主解析では、VX-548各投与群とプラセボ群を比較した。VX-548高用量群で術後急性疼痛が軽減 (1)腹壁形成術試験には計303例、(2)腱膜瘤切除術試験には計274例が登録された。 時間加重SPID48のVX-548高用量群とプラセボ群の最小二乗平均群間差は、腹壁形成術後で37.8(95%信頼区間[CI]:9.2~66.4)、腱膜瘤切除術後で36.8(95%CI:4.6~69.0)であった。両試験とも、中用量群または低用量群はプラセボ群と同様の結果であった。 有害事象はほとんどが軽度~中等度であり、主な有害事象は(1)腹壁形成術試験では悪心、頭痛、便秘、(2)腱膜瘤切除術試験では悪心および頭痛であった。

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体内で溶解する植込み型心臓デバイスの開発が前進

 心疾患患者の体内に留置され、一時的な心臓のモニタリングデバイスやペースメーカーとして機能した後、体内で溶けてなくなる植込み型デバイスの開発に関する研究結果を、米ノースウェスタン大学のIgor Efimov氏らが、「Science Advances」に7月5日発表した。研究グループは、このデバイスを留置された患者は、その除去や調整のために追加の手術を受ける必要はないことから、このデバイスを、時間の経過とともに分解され体内に吸収される縫合糸に例えている。 生体吸収性のポリマーと金属でできているこのデバイスは、郵便切手ほどの大きさで、軟らかくて軽量で、透明である。初期段階の実験で、ラットの心臓の上にこの植込み型デバイスを留置したところ、デバイスは正確な測定値を提示し、その後、安全に溶解して体内に吸収されることが示された。 このデバイスは、心筋梗塞や心臓手術後に合併症として不整脈が発生した患者にとって有益な可能性がある。現在こうした患者は、医師が回復期の心臓をモニタリングするために、体の表面にセンサーを貼り、大きなモニター機器を常に携えていなくてはならない。「これらの機器の使い心地は、快適とは程遠い。シャワーを浴びるのも容易ではなくなるなど、日常生活の妨げになる」とEfimov氏は言う。 新たな生体吸収性デバイスは、心臓の手術や処置中に留置することができる。電極と光学センサーを介してデータを収集できるだけでなく、不整脈が生じた際に心臓のリズムを正常化するための電気刺激を与えることも可能だ。「心臓手術の場合、患者の約30%で術後に心房細動が発生する。そこで、われわれは必要な期間だけ留置し、その後溶けてなくなるデバイスの開発に取り組んでいる」とEfimov氏は話す。同氏によると、心房細動などの術後合併症で心臓デバイスが必要な期間は通常約10日で、その後は不要になるという。 米国では、毎年約70万人が心疾患により死亡しており、そのうちの約3分の1が、心筋梗塞や心臓手術後の数週間から数カ月の間に合併症で亡くなっている。論文の上席著者で米ジョージ・ワシントン大学のLuyao Lu氏は、「細心の注意を要するこの期間に、患者のモニタリングと治療のためのより優れたツールを医師が利用できれば、死亡例の多くを回避できる可能性がある」と話している。 新たな生体吸収性デバイスは、米食品医薬品局(FDA)が、人間に使用しても安全で生体適合性があると見なした材料のみで作られている。例えば、デバイスの電極の主な材質は、モリブデンと呼ばれる人体にも存在する元素だ。また、デバイスの骨組みの部分は、無害な化学物質に自然に分解される乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)と呼ばれるポリマーで作られている。また、研究グループは、不快感をもたらすことなく簡単に留置できるよう、このデバイスに柔軟性を持たせるよう設計した。主な材料として透過性のあるものを使用したのは、デバイスの光学センサーによって酸素レベルや代謝などの重要な測定値を得られるようにするためだった。 今回の研究には関与していない米マウント・サイナイ・ハートのDeepak Bhatt氏は、実際には不要かもしれないにもかかわらず、多くの心疾患患者に恒久的ペースメーカーが植え込まれている一方で、一時的にペースメーカーが植え込まれ、その後、それを除去する手術を受けるために入院が長引かざるを得ない患者もいることを指摘。この実験段階のデバイスが、「極めて有用な解決策になる可能性がある」との見方を示している。その上で、「この研究がまだ早期段階にあることは明らかだが、彼らの実験は慎重にデザインされており、実に洗練されたものだと私は感じた。そして、それによってこれらの微小電極アレイが特定の臨床状況において有用である可能性が示されたと考えている」と評価している。

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1日3.4分の高強度の身体活動で、がんリスク17%減

 高強度の身体活動(Vigorous Physical Activity:VPA)は、がん予防のために推奨される身体活動(Physical Activity:PA)を達成するための効率のよい方法であるが、多くの人にとって継続のハードルが高い。「日常生活中の高強度の断続的な身体活動(Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity:VILPA)」を継続することで、がん発症のリスクを大幅に低下させる可能性があることが、新たな研究で明らかになった。オーストラリア・シドニー大学のEmmanuel Stamatakis氏らによる本研究の結果は、JAMA Oncology誌オンライン版2023年7月27日号に掲載された。 オーストラリア、シドニー大学の研究者らは、英国バイオバンクで「普段運動をしていない」と申告した人を対象にウェアラブルデバイスのデータを収集し、その後6~7年間の健康記録を調べた。参加者は2021年10月30日(死亡および入院)、2021年6月30日(がん登録)まで追跡された。 主要アウトカムは、全がんおよびPA関連がん(低いPAと関連する13のがん部位の複合アウトカム)の発生率だった。ハザード比および95%信頼区間(CI)は、年齢、性別、教育レベル、喫煙、アルコール摂取、睡眠時間、果物および野菜の摂取、両親のがん既往等で調整して推定した。 VILPAの例としては、負荷が高い家事、スーパーでの買い物袋の持ち運び、早足のウォーキング、身体を動かすゲームなどがある。このような活動は一度に行うのではなく、数分ごとに行うことが特徴だ。 主な結果は以下のとおり。・登録された2万2,398例は、平均年齢62.0(SD:7.6)歳、男性1万122例(45.2%)だった。平均追跡期間6.7(SD:1.2)年に2,356例のがんイベントが発生し、うち1,084例がPA関連がんであった。・1日のVILPA持続時間中央値が1分まで(1日当たり4.5分)の場合、VILPAを行わない場合と比較して、全がんのHRは0.80(95%CI:0.69~0.92)、PA関連がんのHRは0.69(95%CI:0.55~0.86)であった。・全がん発生率との関連が認められたVILPAの最小量は1日当たり3.4分(HR:0.83、95%CI:0.73~0.93)、PA関連がんは1日当たり3.7分(HR:0.72、95%CI:0.59~0.88)であった。 最低3.4分のVILPAを毎日行うことで、行わない場合と比較して、全がん発生率の17%減少、1日4.5分で肺がん、腎臓がん、膀胱がん、胃がんなど、PAがんの発生率の31%減少につながることが示された。著者らは「運動ができない集団や意欲のない集団にとって、断続的な短い身体活動の継続が、がん予防の有望な介入になる可能性がある」としている。

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心不全患者と漢方薬の意外な親和性【心不全診療Up to Date】第11回

第11回 心不全患者と漢方薬の意外な親和性Key Points西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦い意外とある! 今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンスその1 西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦いわが国における心不全患者数は増加の一途を辿っており、とくに高齢心不全患者の増加が著しいことは言わずもがなであろう。そして、その多くが、高血圧や心房細動、貧血、鉄欠乏といった併存症を複数有することも明らかとなっている。つまり、高齢心不全診療はMultimorbidity(多疾患併存)時代に突入しており、単に心臓だけを診ていてもうまくいかないことが少なくない1)。日本心不全学会ガイドライン委員会による『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では、「生命予後延長を目的とした薬物治療より生活の質(QOL)の改善を優先するべき場合が少なくない」とされており、高齢心不全ではとくに「QOLをいかに改善できるか」も重要なテーマとなっている。では、その高齢心不全患者において、QOLを低下させている原因は何であろうか。もちろん心不全による息切れなどの症状もあるが、それ以外にも、筋力低下、食思不振、倦怠感、不安、便秘など実に多くの心不全周辺症状もQOLを低下させる大きな原因となっている。しかしながら、これらの症状に対して、いわゆる“西洋薬”のみでは対処に困ることも少なくない。そこで、覚えておいて損がないのが、漢方薬である。漢方薬と聞くと、『the職人技』というようなイメージをお持ちの方もおられると思うが、実は先人の知恵が集結した未来に残すべき気軽に処方できる漢方薬も意外と多く、ここではわかりやすく簡略化した概念を少しだけ説明する。漢方の概念は単純な三大法則から成り立っており、人間の身体活動を行うものを気、血、水(津液)、精とし、これらが体内のさまざまな部分にあり、そしてそれが体内を巡ることで、生理活動を行うと考えられている。それぞれが何を意味するかについては図1をご覧いただきたい。(図1)画像を拡大するでは、どのように病気が起こり、どのようにそれを治療すると先人が考えたか、それを単純にまとめたものが図2である。(図2)画像を拡大するこのように、気・血・水のバランスが崩れると病気になると考えられ、心不全患者に多いとされているのが、気虚、血虚、瘀血、水毒(水滞)であり、その定義を簡単な現代用語で図3にまとめた。(図3)画像を拡大するそう、この図を見ると、心不全患者には、浮腫を起こす水毒だけでなく、倦怠感を引き起こす気虚、便秘を引き起こす瘀血など、心不全周辺症状にいかに対処するかについて、漢方の世界では昔からおのずと考えられていたのではないかと個人的には思うわけである。では、具体的に今日から役立つ漢方処方には何があるか、説明していきたい。その2 意外とある!今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンス今日からの心不全診療に活かせる漢方薬、それをまとめたものが、図4である2)。(図4)画像を拡大するまずは即効性のある処方から説明していこう。漢方といえばすぐには効かないという印象があるかもしれないが、実は即効性のある処方も多くある。たとえば、高齢者の便秘に対してよく用いられる麻子仁丸がそれに当たる。また効果のある患者(レスポンダー)の割合も多く、高齢のATTR心アミロイドーシス患者の難治性便秘に対して有効で即効性があったという報告もある3)。なお、心不全患者でもよく経験するこむら返りに対して芍薬甘草湯が有名であるが、この処方には甘草が多く含まれており、定期内服には向かず、繰り返す場合は、効果の面からも疎経活血湯がお薦めである(眠前1~2包)4)。また、心不全患者のサルコペニア、身体的フレイルに対しては、牛車腎気丸、人参養栄湯が有効な場面があり、たとえば人参養栄湯については、高齢者に対する握力や骨格筋への良い影響があったという報告もある5)。心不全患者の食思不振、倦怠感に対しては、グレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌抑制阻害作用が報告されている六君子湯6)、補中益気湯、人参養栄湯が、そして不安、抑うつ、不眠などの精神的フレイルに対しては、帰脾湯、加味帰脾湯がまず選択されることが多い。これらの処方における基礎研究なども実は数多くあり、詳細は参考文献2を参照にされたい。そして、心不全患者で最も多い症状がうっ血であり、それに対しても漢方薬が意外と役立つことがある。うっ血改善のためにはループ利尿薬をまず用いるが、慢性的に使用することで、RAAS系や交感神経系の亢進を来し、腎機能障害、電解質異常、脱水などの副作用もよく経験する。そんな利尿薬のデメリットを補完するものとして漢方薬の可能性が最近注目されている。うっ血改善目的によく使用する漢方は図4の通りであるが、今回は研究面でもデータの多い五苓散を取り上げる。五苓散の歴史は古く、約1,800年前に成立した漢方の古典にも記載されている薬剤で、水の偏りを正す水分バランス調整薬として経験的に使用されてきた。五苓散のユニークな特徴としては、全身が浮腫傾向にあるときは尿量を増加させるが、脱水状態では尿量に影響を与えないとされているため7)、心不全入院だけでなく、高齢心不全患者でときどき経験する脱水による入院、腎機能障害などが軽減できる可能性が示唆され、その結果として医療費の軽減効果も期待される。五苓散は、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術による血腫除去後の血腫再発予防を目的として、経験的に使用されることも多い。そのDPCデータベースを用いた研究において入院医療費を比較した結果、五苓散投与群のほうが非投与群と比較して有意に低かったという報告がある8)。五苓散の心不全患者への実臨床での有用性についても、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究などによる報告がいくつかある2)。これらの結果から、心不全患者において五苓散が有用な症例が存在することは経験的にわかっているが、西洋薬のように大規模RCTで検証されたことはなく、そもそも漢方エキス製剤の有用性を検証した大規模RCTは過去に一度も実施されていない。そこへ一石を投じる試験、GOREISAN-HF trialが現在わが国で進行中であり、最後に紹介したい。この試験は、うっ血性心不全患者を対象とし、従来治療に五苓散を追加する新たなうっ血戦略の効果を検証する大規模RCTである9)。目標症例数は2,000例以上で、現在全国71施設にて進行中であり、この研究から多くの知見が得られるものと期待される。循環器領域は、あらゆる領域の中でとくにエビデンスが豊富で、根拠に基づいた診療を実践している領域である。今後は、最新の人工知能技術なども駆使しながら、さらに研究が進み、西洋医学、東洋医学のいいとこ取りをして、患者さんのQOLがより向上することを切に願う。1)Forman DE, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2149-2161.2)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.3)Imamura T, et al. J Cardiol Cases. 2022;25:34-36.4)土倉 潤一郎ほか. 再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日本東洋医学雑誌. 2017;68:40-46.5)Sakisaka N, et al. Front Nutr. 2018;5:73.6)Takeda H, et al. Gastroenterology. 2008;134:2004-2013.7)Ohnishi N, et al. Journal of Traditional Medicines. 2000;17:131-136.8)Yasunaga H, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:817616.9)Yaku H, et al. Am Heart J. 2023;260:18-25.参考1)Kracie:漢方セラピー2)TSUMURA MEDICAL SITE 「心不全と栄養~体に優しく、バランスを整える~」

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米国で糖尿病のある妊婦の割合が5年で27%増

 米国では糖尿病のある妊婦が増加していることを示すデータが、米疾病対策センター(CDC)発行の「National Vital Statistics Reports」5月31日号に掲載された。過去5年の間に、糖尿病のある妊婦の割合は27%上昇したという。理由として、肥満者と高齢出産の増加が考えられるとのことだ。CDC傘下の国立健康統計センター(NCHS)のElizabeth Gregory氏らの研究によるもの。 Gregory氏らは、出生証明書を用いて2016~2021年に米国内で出生した全ての新生児を把握し、その母親の医療データを収集。妊娠前から存在していた糖尿病(prepregnancy diabetes mellitus;PDM)の有病率の推移を検討した。その結果、PDM症例数は2016年の3万3,829人から2021年には3万9,736人へと17%増加していた。これを出生1,000人当たりで比較すると、2016年が8.6人、2021年は10.9人であり、27%増となる。 PDM有病率はBMIが高い妊婦ほど高いという傾向も認められた。具体的には、BMI18.5未満の妊婦では出生1,000人当たり2.4人、18.5~25未満では同4.5人、25~30未満では8.8人であり、30以上では21.5人だった。また年齢との正の関連もあり、20歳未満では同4.3人、20~24歳は7.0人、25~29歳は9.2人、30~34歳は11.1人、35~39歳は16.3人であり、40歳以上では23.2人だった。 このほかに人種/民族による顕著な差も認められた。PDM有病率が最も低いのは非ヒスパニック系白人であり、出生1,000人当たり8.7人だった。それに対してアメリカ・インディアンやアラスカ先住民は同28.6人と最も高かった。非ヒスパニック系アジア人は12.5人だった。 この報告について、米レノックス・ヒル病院のEran Bornstein氏は、「糖尿病患者数の増加は大きな社会的関心事だ。以前にも今回の研究結果と同様のデータが報告されたことがあるが、糖尿病を有する妊婦の増加傾向が現在もなお進行中であることが分かった。糖尿病予防に関する豊富な知見があるにもかかわらず、これまで行われてきている公衆衛生対策が、この懸念される傾向の歯止めとして十分に機能していないようだ」と述べている。 また、米ロングアイランド・ジューイッシュ・フォレストヒルズ医療センターのSarah Pachtman氏は、「妊娠する前に糖尿病を有していることは、母児双方に合併症を引き起こす可能性があるため、報告された結果は憂慮すべきことだ」と話す。同氏によると、糖尿病があって、その管理が不十分な状態で妊娠が成立・進行した場合、妊娠高血圧腎症や羊水過多、胎児発育不全、死産、先天性欠損症、特に心臓や脳、脊髄の先天性欠損症などのリスクが増大するという。同氏は、これらの周産期合併症のリスクを抑えるために、「妊娠前に糖尿病の有無を確認し、糖尿病と診断された場合には、可能な限り血糖値を良好にコントロールしてから妊娠を計画すべきだ」と解説している。

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カフェイン入りコーヒー、期外収縮への影響は?/NEJM

 カフェイン入りコーヒーの摂取はカフェインを摂取しない場合と比較し、毎日の心房期外収縮が有意に増加することはないことが、米国・カリフォルニア大学のGregory M. Marcus氏らが実施した単施設での前向き無作為化ケースクロスオーバー試験「Coffee and Real-time Atrial and Ventricular Ectopy trial:CRAVE試験」で確認された。コーヒーは、世界で最もよく消費されている飲料の1つであるが、コーヒーの摂取による健康への急性の影響は依然として不明であった。NEJM誌2023年3月23日号掲載の報告。カフェイン入りコーヒー摂取vs.カフェイン非摂取で、心房期外収縮を評価 研究グループは、カフェイン入りコーヒーが期外収縮と不整脈、毎日の歩数、睡眠時間、および血清グルコース値に及ぼす影響を調べるため、チラシ、口コミ、ソーシャルメディアにより年1回以上カフェイン入りコーヒーを摂取する18歳以上の成人を募集し、計100人を対象に検討を行った。 14日間にわたって毎日テキストメッセージを送信することにより、「2日間カフェイン入りコーヒーを摂取」群または「2日間カフェインを摂取しない」群に無作為に割り付けた。蓄積効果を回避しつつ試験への参加と継続を高めるため、参加者が3日以上連続してコーヒーを摂取するまたは摂取しないことがないよう、摂取-非摂取または非摂取-摂取の対で無作為化を構築した。 参加者には、パッチ型持続心電図レコーダ、手首装着型加速度計、持続血糖測定システムを装着してもらうとともに、コーヒーショップへの訪問を追跡するためスマートフォンアプリケーションをダウンロードしてもらい地理的位置情報データを収集した。 主要アウトカムは、毎日の心房期外収縮の平均回数で、intention-to-treat解析で評価した。無作為割り付けの順守は、参加者が記録したリアルタイム指標、毎日の質問票、コーヒー購入の日付入り領収書の払い戻し、コーヒーショップ訪問のバーチャルモニタリング(ジオフェンシング)を用いて評価した。心房期外収縮の1日平均回数に有意差なし 参加者の平均(±SD)年齢は39±13歳、女性が51%、非ヒスパニック系白人が51%であった。無作為割り付けの順守度は高かった。 心房期外収縮は、カフェイン入りコーヒー摂取群で1日平均58回に対し、カフェイン非摂取群で1日平均53回であった(率比:1.09、95%信頼区間[CI]:0.98~1.20、p=0.10)。 また、心室期外収縮はそれぞれ1日平均154回、102回(率比:1.51、95%CI:1.18~1.94)、歩数は1日平均1万646歩、9,665歩(平均群間差:1,058、95%CI:441~1,675)、睡眠時間は397分、432分(平均群間差:36、95%CI:25~47)、血清グルコース値は95mg/dL、96mg/dL(平均群間差:-0.41、95%CI:-5.42~4.60)であった。

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EVARデバイス監視モデルがリスク評価に有望/BMJ

 腹部大動脈瘤の血管内修復術(EVAR)後の長期にわたるデバイス(グラフト)監視に、リンク登録した医療費支払請求データを活用したところ、個々のデバイスの再手術リスクを特定したことが示された。米国・ダートマス-ヒッチコック・メディカルセンターのPhilip Goodney氏らによる検討の結果で、著者は「デバイスメーカーおよび規制当局は、リンク登録データソースを活用すれば、心血管手術後の実臨床における長期アウトカムの積極的なモニタリングが可能である」と述べ、今回の検討結果が、将来的なデバイス監視モデルになりうることを示唆した。BMJ誌2022年10月25日号掲載の報告。EVAR治療使用の4種のデバイスを長期監視、再手術・破裂を評価 研究グループは、実臨床での大動脈エンドグラフトの長期アウトカム(腹部大動脈瘤の再手術およびlate破裂)の評価に、リンク登録医療費支払いデータを用いることを検討する観察サーベイランス試験を行った。米国メディケア医療費とリンクするVascular Quality Initiative Registryを設定(2003~18年、282施設が参加)し検討した。 被験者は2万489例で、EVAR治療では4種のデバイスが使用されており、8,310例(40.6%)がExcluder(Gore製)、6,606例(32.2%)がEndurant(Medtronic製)、3,281例(16.0%)がZenith(Cook Medical製)、2,292例(11.2%)がAFX(Endologix製)を使用した。このうち、AFXは2014年後期に改良が行われたため、同群は2群に分類し(初期AFX群942例、後期AFX群1,350例)、他のデバイス群と比較した。検討には傾向マッチングCoxモデルが用いられた。 主要評価項目は、EVAR後の腹部大動脈瘤の再手術および破裂の発生。全患者(100%)が、登録または医療費支払ベースもしくは両者を介したアウトカム評価を完遂した。当局の警告発出は2017年、対して開発モデルのリスク特定時期は2013年半ば 被験者の年齢中央値は76歳(四分位範囲[IQR]:70~82)、男性が80.0%(1万6,386/2万489例)、追跡期間中央値は2.3年(IQR:0.9~4.1)であった。 5年粗再手術率は、初期AFX群がその他デバイス群と比べて有意に高率であった。初期AFX群27.0%(95%信頼区間[CI]:23.7~30.6)に対し、Excluder群14.9%(13.7~16.2)、Endurant群19.5%(18.1~21.1)、Zenith群16.7%(15.0~18.6)であった。 初期AFXでEVARを受けた患者の再手術リスクは、傾向マッチングCoxモデルでのその他デバイスとの比較において有意に高率であり(ハザード比[HR]:1.61、95%CI:1.29~2.02)、外科医レベル変数(臨床でのAFXグラフト使用が33%超)を用いた解析でも同様であった(1.75、1.19~2.59)。 リンク登録された医療費支払請求データが、早期AFXデバイスの再手術リスク増大を特定したのは2013年半ばであり、2017年に米国で最初の規制当局の警告が発出されるよりかなり前であった。

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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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ROSCした患者の血圧管理目標値はどのくらいがよいか?(解説:江口和男氏)

 本研究は、院外心停止で蘇生され生存した昏睡状態の患者さんについて、平均血圧目標を63mmHgで保つ群と、77mmHgで保つ群にランダム化し予後を比較するという研究であった。主要アウトカムはあらゆる原因による死亡または神経学的予後不良状態での90日以内の退院の複合、2次アウトカムは血清神経特異エノラーゼ(NSE)レベル(高いと予後不良)、あらゆる原因による死亡、Montreal Cognitive Assessmentの点数(0~30の範囲で高いと認知機能良好)、そして、3ヵ月におけるmodified Rankin scaleおよびCerebral Performance Category(CPC)であった。 本研究の対象者の平均年齢は62~3歳であるが、18歳から90歳と広い年齢層にわたっている。対象者の8割が男性、約9割にバイスタンダーCPRが施行され、心停止の原因はほとんどが心原性で、約85%が電気ショックで蘇生可能な不整脈(VfやPulseless VT)であった。本研究のクリニカルクエスチョンは、脳保護を行うのに平均血圧を高め(77mmHg)に保つのがよいか、低め(63mmHg)がよいかというものであった。ちなみに、これらの平均血圧目標値を収縮期、拡張期血圧に直してみると、たとえば、平均血圧77mmHg→110/60mmHg、平均血圧63mmHg→84/52mmHg程度となる。 ガイドライン(Soar J, et al. Resuscitation. 2020;156:A80-A119.)では、ショック患者の血圧目標値として平均血圧65mmHg以上に保つと記載されており、2021年版ではAvoid hypotension (< 65 mmHg). Target mean arterial pressure (MAP) to achieve adequate urine output and normal or decreasing lactate(Nolan JP, et al. Intensive Care Med. 2021;47:369-421.)と記載されている。これまでは、観察研究や小規模のRCTしかなく、高血圧や動脈硬化の進んだ患者では高めにキープすべきという報告や、高めに保つために増量したカテコラミンにより催不整脈作用があった等、実際にどのくらいのレベルに血圧を保つのがよいかcontroversialであった。 本研究は各群400例弱と十分な症例数があり、この議論に決着をつけるのに十分なエビデンスが得られたと言えよう。結果として、急性冠症候群など心原性の心肺停止患者において、高血圧既往者においても高い血圧目標値のほうがよいという結果は得られなかった。一方で高い目標値の群ではカテコラミンの使用量は多かったものの不整脈などの有害事象の頻度を増やすこともなかった。この結果はseptic shock、vasodilatory shockを対象としたメタ解析の結果(Lamontagne F, et al. Intensive Care Med. 2018;44:12-21. )と同様であった。 したがって、ショックで心肺蘇生した昏睡状態の患者においては、ガイドラインどおりの平均血圧<65mmHgさえ避ければ、65mmHgぎりぎりでも77mmHgと高めの血圧値でも生命予後や神経学的予後に差がないということが明らかになった。ICUやCCUに入室中の患者であっても、血圧は刻々と変動するものであり、上記の2つの平均血圧目標に厳密に管理できるものでもなく、ある程度の血圧変動の幅は許容範囲ということになる。高血圧患者のように高くなりすぎて臓器障害が進行するというセッティングでもない。尿量が保てて、乳酸値が低下していく程度の臓器潅流を維持できる程度の血圧が重要であるという2021年版ガイドラインの結果を支持するものであった。もちろん、蘇生後とはいえ個別の治療が重要であるが、蘇生後の血行動態モニタリングと管理目標において、ガイドラインに加えられるであろう重要なエビデンスである。

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心筋ミオシン活性化薬、慢性HFrEF患者の運動耐容能を改善せず/JAMA

 左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)患者の治療において、選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilはプラセボと比較して、20週時の運動耐容能(最大酸素摂取量[peak V(・)O2])を改善しないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のGregory D. Lewis氏らが実施したMETEORIC-HF試験で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年7月19日号に掲載された。北米と欧州の無作為化プラセボ対照第III相試験 METEORIC-HF試験は、慢性HFrEF患者におけるomecamtiv mecarbilによる運動耐容能の改善効果の検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年3月~2021年5月の期間に、北米37施設と欧州26施設の合計63施設で参加者の登録が行われた(AmgenとCytokineticsの助成を受けた)。 対象は、LVEF≦35%、NYHA心機能分類IIまたはIII、NT-proBNP値≧200pg/mL、V(・)O2は予測値の≦75%で、最大耐用量の標準的な薬物療法を受けており、病態が安定している患者であった。 被験者は、標準治療に加え、omecamtiv mecarbil(薬剤の血漿濃度の目標値に基づき、25mg、37.5mg、50mgのいずれかを、1日2回、経口投与)またはプラセボを20週投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、ベースラインから20週までの運動耐容能(peak V(・)O2)の変化とされた。副次エンドポイントは、運動負荷試験中の総運動量、換気効率(V(・)E/V(・)CO2 slope)、平均1日身体活動量(アクチグラフィ)のベースラインから20週までの変化であった。主な有害事象は、めまい、疲労 276例(年齢中央値64歳[IQR:56~72]、女性42例[15%])が登録され、omecamtiv mecarbil群に185例、プラセボ群に91例が割り付けられた。 全体のLVEF中央値は28%(IQR:21~33)で、NYHA心機能分類IIが78.6%を占め、カンザスシティ心筋症質問票総合症状スコア(KCCQ-TSS)中央値は85.4点(IQR:67.2~95.8)であった。また、ベースラインのpeak V(・)O2中央値は、omecamtiv mecarbil群が14.2mL/kg/分(IQR 11.6~17.4)、プラセボ群は15.0mL/kg/分(IQR 12.0~17.2)だった。 ベースラインから20週までのpeak V(・)O2の平均変化量の最小二乗平均(LSM)は、omecamtiv mecarbil群が-0.24mL/kg/分、プラセボ群は0.21mL/kg/分と、むしろプラセボ群で良好な傾向で、両群間に有意な差は認められなかった(最小二乗平均の群間差:-0.45mL/kg/分、95%信頼区間[CI]:-1.02~0.13、p=0.13)。 副次エンドポイントのベースラインから20週までの平均変化量のLSMの群間差は、総運動量が-5.4W(95%CI:-10.1~-0.7)、換気効率が0.41(95%CI:-0.8~1.6)、平均1日身体活動量は0.3(95%CI:-0.6~1.1)であった。なお、主要エンドポイントの検定で帰無仮説が棄却されなかったため、階層的検定の規定により、これらの副次エンドポイントの正式な統計検定は示されなかった。 重篤な有害事象は、omecamtiv mecarbil群16.2%、プラセボ群14.3%で発現し、死亡は各群で1.6%および1.1%認められた。主な有害事象として、めまい(omecamtiv mecarbil群4.9%、プラセボ群5.5%)、疲労(4.9%、4.4%)、心不全イベント(4.9%、4.4%)、脳卒中(0.5%、1.1%)、心筋梗塞(0%、1.1%)がみられた。 著者は、omecamtiv mecarbilが運動耐容能を改善しなかった理由として、「病態が安定し、薬物療法と機器を用いたHFrEF治療の双方で質の高い治療を受けているHFrEF患者では、運動耐容能を制限する原因が、心機能だけとは限らないこと」などの諸点を挙げている。

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第1回 新型コロナのイベルメクチン「もう使わないで」

いったん下火になっていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、国内の新規感染者数は6月下旬から増え始め、昨日7月6日は4万5千人を超え、現場は警戒心を持っています。―――とはいえ、BA.2以降、滅多に肺炎を起こすCOVID-19例に遭遇しません。おそらく次の波がやってきたとしても、大きな医療逼迫を招くことはないのでは、と期待しています。「イベルメクチンを処方しない医師は地獄へ落ちろ」さて、私はCOVID-19の診療でいくつかメディア記事を書いたことがあるのですが、当初からイベルメクチンに関してはやや批判的です。疥癬に対してはよい薬だと思っていますが、COVID-19に対しては少なくとも現在上市されている抗ウイルス薬には到底及びません。しかしSNSなどではいまだにイベルメクチン信奉が強く、そういった「派閥」から手紙が届くこともあります。中には、「COVID-19にイベルメクチンを処方しない倉原医師よ、地獄へ落ちろ」といった過激な文面を送ってくる開業医の先生もいました。確かに当初、in vitroでイベルメクチンの有効性が確認されたのは確かです。しかし、かなり初期の段階で、寄生虫で使用するイベルメクチン量の約100倍内服しないと抗ウイルス作用は発揮されないことがわかっており1,2)、副作用のデメリットの方が上回りそうだな…という印象を持っていました。その後の臨床試験の結果が重要だろうと思っていたので、出てくるデータを冷静に見る必要がありました。トップジャーナルでことごとく否定50歳以上で重症化リスクを有するCOVID-19患者への発症7日以内のイベルメクチンの投与を、プラセボと比較したランダム化比較試験があります(I-TECH試験)3)。これによると、重症化リスクのある発症1週間以内のCOVID-19患者に対するイベルメクチンの重症化予防への有効性は示されませんでした。また、1つ以上の重症化リスクを持つCOVID-19患者に対して、イベルメクチンとプラセボの入院率の低下をみたランダム化比較試験があります(TOGETHER試験)4)。この試験でも、入院・臨床的悪化のリスクを減少させませんでした(相対リスク0.90、95%ベイズ確信区間:0.70~1.16)。ITT集団、per protocolのいずれを見ても結果は同じでした。EBMの基本に立ち返って、使用を控えるべき万が一、イベルメクチンの投与量や投与するタイミングを工夫して、何かしら有効性が示せたとして、ではその効果は現在のほかの抗ウイルス薬(表)よりも有効と言えるのでしょうか。塩野義製薬が承認申請中のエンシトレルビルですら、現時点ではウイルス量を減少させる程度の効果しか観察されないということで、緊急承認は見送りとなっています。イベルメクチンについて、まず今後奇跡的なアウトカム達成など、起こらないでしょう。表. 軽症者向け抗ウイルス薬(筆者作成)何より、目の前にしっかりと効果が証明された抗ウイルス薬が複数あるのです。有効な薬剤を敢えて使わずにイベルメクチンを処方するというのは、EBMに背を向けているにすぎません。この行為、場合によっては法的に問われる可能性もあります。現時点では使用を差し控えるべき、と私は考えます。参考文献・参考サイト1)Chaccour C, et al. Ivermectin and COVID-19: Keeping Rigor in Times of Urgency. Am J Trop Med Hyg. 2020;102(6):1156-1157.2)Guzzo CA, et al. Safety, tolerability, and pharmacokinetics of escalating high doses of ivermectin in healthy adult subjects. J Clin Pharmacol. 2002;42(10):1122-1133.3)Lim SCL, et al. Efficacy of Ivermectin Treatment on Disease Progression Among Adults With Mild to Moderate COVID-19 and Comorbidities: The I-TECH Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2022 Apr 1;182(4):426-435.4)Reis G, et al. Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1721-1731.

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非都市部の脳卒中治療、ヘリでのドクター派遣が有益/JAMA

 ドイツ非都市部の脳卒中医療センターネットワークにおいて、急性虚血性脳卒中患者への脳血管内血栓除去術(EVT)実施の決定から施行までの経過時間を検討したところ、ヘリコプターで医師らを現地に派遣するほうが、患者を別の医療機関に移送するよりも約1時間半、短縮できることが示され、3ヵ月後の機能性アウトカムに有意差はなかったという。ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのGordian J. Hubert氏らが、約160例の患者を対象に行った非盲検非無作為化比較試験の結果を報告した。急性虚血性脳卒中へのEVTの有益性は時間に依存しており、遠隔地患者への治療推進は困難とされている。今回の結果を踏まえて著者は、「長期的な転帰を確認し、地理的条件への適用を明らかにするさらなる検討は必要だが、脳卒中治療システムにフライング治療チームを取り入れる検討をすべきことが示された」と述べている。JAMA誌2022年5月5日号掲載の報告。3ヵ月後の修正Rankinスケールも比較 検討は2018年2月1日~2019年10月24日に、隔週で2つの治療システムを比較する非盲検非無作為化対照介入試験にて行われた。遠隔脳卒中ネットワーク内で遠隔医療サポートを受けるドイツ非都市部の脳卒中センター13ヵ所で、急性虚血性脳卒中に対しEVTを実施する際、ヘリコプターで医師らを現地に派遣する方法(フライング群)と、患者を別の医療機関に移送する方法(移送群)で、アウトカムを比較。最終フォローアップは2020年1月31日だった。 主要アウトカムは、EVT実施の決定から施行までの経過時間(分)。副次アウトカムは、3ヵ月後の修正Rankinスケールスコア(機能性スコア範囲:0[障害なし]~6[死亡])で評価した機能性アウトカムなどだった。EVT決定から施行の所要時間、フライング群58分vs.移送群148分 被験者は157例(年齢中央値75歳[IQR:66~80]、女性80例[51%])で、フライング群は72例、移送群は85例だった。このうちEVTを実施したのは、フライング群60例(83%)、移送群57例(67%)だった。 EVT決定から施行までの経過時間中央値は、フライング群が58分(IQR:51~71)に対し、移送群は148分(同:124~177)と、フライング群で有意に短かった(群間差:90分、95%信頼区間[CI]:75~103、p<0.001)。 一方で3ヵ月後の修正Rankinスケールスコア中央値は、フライング群が3(IQR:2~6)に対し移送群も3(2~5)と、両群で同等だった(障害の程度が低い状態に関する補正後共通オッズ比:1.91、95%CI:0.96~3.88、p=0.07)。

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第100回 COVID-19ワクチン接種後の90分間の運動で抗体反応が増す

アイオワ州立大学の研究チームが実施した無作為化試験の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)ワクチンやインフルエンザワクチン接種後すぐから心拍数およそ120~140/分の運動を1時間半(90分間)したところその後数週間の検査でのそれらワクチンへの抗体反応が一貫して非運動群を上回りました1,2)。ワクチン接種前の運動が抗体反応を改善することは先立つ研究ですでに知られており、去年スペインの研究者Pedro Valenzuela氏等は運動がCOVID-19ワクチンのアジュバント(増強役)を担いうる可能性を示唆し、接種前の運動習慣や接種直前の単発の運動のCOVID-19ワクチン免疫反応への効果を調べることを提案しました3)。アイオワ州立大学のJustus Hallam氏等はその提案を受けて上述の試験を実施したわけですが、一捻り加えています。ワクチンの接種後に身体に負荷をかけると抗体反応が増すことが示されていることを頼りに、接種前の運動の効果ではなく接種後の有酸素運動が抗体反応にどう影響するかを検討しました。試験は週に2回以上の程々にきついかきつめ(moderate or vigorous)の運動習慣がある人を募って実施され、Pfizer/BioNTechのSARS-CoV-2ワクチン接種後に90分間の軽め~程々にきつめ(light- to moderate-intensity)の運動をした群のその後の検査での抗体反応は接種後に運動しなかった群を上述の通り上回りました。重要なことにCOVID-19ワクチン接種後に運動しても副反応は増えませんでした。ワクチン接種後の運動が抗体反応を上向かせる効果はどうやらCOVID-19ワクチンに限ったことではないらしく、インフルエンザワクチン2種類を接種した42人の検討でも同様の抗体反応増強効果が認められています。抗体生成を増やす役割を担う1型インターフェロン(1型IFN)を誘発するアジュバントはワクチンへの抗体反応を促すことが知られており、試験の運動時間を90分としたことはその長さの運動が1型IFNの一種・インターフェロンα(IFNα)を有意に増やすことが未発表ながら確認されていることを根拠の一つとしています。Hallam氏等はマウスの実験でその根拠がどうやら正しいことを確認しています。運動がワクチン接種の抗体反応を高める効果がIFNα阻害抗体をワクチン接種時に投与したマウスでは弱く、運動のワクチン抗体反応増強にはIFNαがどうやら貢献しているようです。インフルエンザワクチンの試験では接種後90分間の運動に加えてその半分の45分間の運動の効果も検討されました。というのも齢を重ねた成人には90分間の運動より45分間の運動のほうがより容易いであろうからです。結果はというと残念ながら45分間の運動のワクチン効果増強は認められず、運動しなかった群の抗体反応を上回りませんでした。研究者は1時間の運動ならどうかを調べるつもりです2)。試験では運動習慣がある人を募ったように、日頃運動していない人がCOVID-19ワクチン接種後に運動するという選択肢を選ぶことはおそらく土台無理な話で、その選択肢を選べるようにするにはまずは日頃の運動習慣を身に付けてもらう必要がありそうです。COVID-19患者およそ5万人を調べた試験4)では運動習慣がCOVID-19重症化を防ぐ効果があることが示されています。常に運動不足な人は必要とされる運動を日頃こなしている人に比べてCOVID-19入院、集中治療、死亡をより多く被っており、運動を促す保健の取り組みを優先し、いつもの診療で運動を後押しすることが必要と著者は結論しています。体力をつけることは若いころから始めるに越したことはありません。スウェーデンでの試験の結果、若かりし18歳ごろの心肺機能が高かった男性は低かった男性に比べてSARS-CoV-2感染しても大事に至ることは少なく、入院、集中治療、死亡をより免れていました5,6)。心肺機能が良好だった男性のCOVID-19死亡率は最も悪かった男性のおよそ半分であり、若いころの筋力が高いこともCOVID-19重症化し難いことと関連しました。COVID-19重症化を防ぎ、ワクチンの効果も高めうる運動で世間みんなの体力を底上げすることは感染流行の阻止に大いに貢献するでしょう5)。参考1)Exercise post-vaccine bumps up antibodies, new study finds / Iowa State University2)Hallam J,et al. Brain Behav Immun. 2022 Feb 5;102:1-10. [Epub ahead of print]3)Valenzuela PL, et al. Brain Behav Immun. 2021 May;94:1-3. 4)Sallis R, et al.Br J Sports Med. 2021 Oct;55:1099-1105. 5)Af Geijerstam A, et al. BMJ Open. 2021 Jul 5;11:e051316. 6)Highly fit teenagers coped better with COVID-19 later in life / Eurekalert

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特発性拡張型心筋症、家族の有病率30%・罹患リスク19%/JAMA

 特発性拡張型心筋症(DCM)は家族内での発症がみられるため、リスクのある家族構成員を早期に発見することで、末期の病態に至る前に治療開始の機会をもたらす可能性があるが、米国ではDCMの家族内の有病率などの詳細なデータは知られていないという。米国・タフツ大学のGordon S. Huggins氏らは、今回、米国のDCMコンソーシアム参加施設で調査(DCM Precision Medicine Study)を行い、DCM患者の家族の約30%がDCMに罹患しており、家族が80歳までにDCMに罹患するリスクは19%と推定した。研究の詳細は、JAMA誌2022年2月1日号で報告された。米国の25施設の横断研究 本研究は、DCM発端者の家族のDCM有病率および第1度近親者における人種/民族別、年齢別のDCM累積リスクの評価を目的とする家族ベースの横断研究であり、米国の心不全プログラムに参加する25施設のコンソーシアムによって実施された(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 対象は、DCM患者(発端者)とその第1度近親者であった。DCM発端者は、通常の臨床的原因を除外したうえで、左室収縮機能障害(LVSD)と左室拡大(LVE)が認められる患者と定義された。2016年6月7日に参加者の登録が開始され、DCM発端者の登録は2020年3月15日に、家族の登録は2021年4月1日に終了した。 主要アウトカムは、家族性DCMおよび広義の家族性DCMの発現とされた。家族性DCMは、少なくとも1人の第1度近親者にDCMが認められる場合、広義の家族性DCMは、少なくとも1人の第1度近親者にDCM、あるいは原因不明のLVSDまたはLVEが認められる場合と定義された。黒人発端者は白人よりも有病率が高い 試験には発端者1,220例(年齢中央値52.8歳[IQR:42.4~61.8]、女性43.8%、黒人43.1%、ヒスパニック系8.3%、第1度近親者数中央値4人[IQR:3~6])が登録され、1,693例の第1度近親者でDCMのスクリーニングが行われた。1家族当たり、生存している第1度近親者のうち中央値で28%(IQR:0~60)が、スクリーニングを受けた。 発端者における家族性DCMの粗有病率は全体で11.6%、広義の家族性DCMの粗有病率は全体で24.1%であった。米国の典型的な高度心不全プログラムで、生存する第1度近親者のすべてがスクリーニングを受けた場合の、発端者における家族性DCM有病率のモデルに基づく推定値は全体で29.7%(95%信頼区間[CI]:23.5~36.0)で、広義の家族性DCM有病率のモデルに基づく推定値は全体で56.9%(50.8~63.0)だった。 家族性DCM有病率の推定値は、黒人の発端者が白人の発端者よりも高かった(39.4% vs.28.0%、群間差:11.3%、95%CI:1.9~20.8)が、ヒスパニック系と非ヒスパニック系の発端者の間に有意な差は認められなかった(28.6% vs.30.0%、-1.4%、-15.9~13.1)。 登録時の年齢別の疾患の状態に基づく、米国の典型的な高度心不全プログラムにおける第1度近親者のDCM推定累積リスクは、80歳までに19%(95%CI:13~24)に達し、部分的な表現型を含む広義の家族性DCMの有病率は80歳の時点で33%(95%CI:27~40)であった。 また、DCMのハザードは、非ヒスパニック系黒人発端者の第1度近親者が、非ヒスパニック系白人発端者の第1度近親者よりも高かった(ハザード比:1.89、95%CI:1.26~2.83)。 著者は、「これらの知見は、DCM患者では家族性DCMの有病率が実質的に高くなっており、第1度近親者ではDCMの生涯リスクが増大していることを示唆する」としている。

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がん患者、直近の化学免疫療法で新型コロナの転帰が悪化

 がん患者は、新型コロナ感染時の重症化リスクが高いとされるが、その要因は化学療法や免疫療法によるもので、こうした治療を受けていない患者では、死亡・重症化リスクは非がん患者と同等だったという。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMariana Chavez-MacGregor氏らによる研究結果が、JAMA Oncology誌オンライン版2021年10月28日号に掲載された。 研究者らは、非識別化された電子カルテデータを使い、2020年1月1日~12月31日までにCOVID-19と診断された50万人以上の成人を分析した。最終的に507例のCOVID-19患者を(1)非がん患者群、(2)最近治療を受けていないがん患者(非治療群)、(3)COVID-19診断前3ヵ月以内に放射線療法または全身療法のがん治療を受けたがん患者(治療群)に割り付けた。 主要評価項目はCOVID-19診断後の死亡、人工呼吸装着、ICU入室、診断後30日以内の入院とした。有害事象の未調整の発生率と調整後のオッズ比(OR)を群別に示した。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19患者50万7,307例(平均[SD]年齢48.4[18.4]歳、女性28万1,165例[55.4%])が確認され、うち49万3,020例(97.2%)は非がん患者だった。・がん患者1万4,287例(2.8%)のうち、9,991例(69.9%)は非治療群、4,296例(30.1%)は治療群だった。・調整前の解析では、治療の有無にかかわらず、がん患者は非がん患者に比べ有害な転帰をとる可能性が高かった(死亡率:非がん患者群:1.6%、非治療群:5.0%、治療群:7.8%)が、調整後、非治療群は非がん患者群と同等以上の転帰となった(死亡率OR:0.93[95%CI:0.84~1.02]、人工呼吸器装着:0.61[95%CI:0.54~0.68])。・一方、治療群は、死亡(1.74、95%CI:1.54~1.96)、ICU入室(1.69、95%CI:1.54~1.87)、入院(1.19、95%CI:1.11~1.27)のリスクが有意に高かった。・転移のない固形がん患者と比較して、転移のある固形がんと造血器腫瘍患者は転帰が悪かった(死亡率:2.36[95%CI:1.96~2.84]、人工呼吸器装着:0.87[95%CI:0.70~1.08])。・直近の化学療法および免疫療法も転帰の悪化と関連していた(化学療法を受けた患者の死亡率:1.84[95%CI:1.51~2.26])。 著者らは、直近のがん治療が有害な転帰のリスクと関連していることが明らかになり、この知見はリスクの層別化と効率的な医療資源の利用に役立つとしてる。

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10種の待機的整形外科手術、臨床的効果は?/BMJ

 多くの一般的な待機的整形外科手術は保存治療と比較して、全体/サブグループにおいて有効と思われるが、より効果的であることを示す強力で質の高いエビデンスはないという。英国・National Institute for Health Research Bristol Biomedical Research CentreのAshley W. Blom氏らが、レベル1のエビデンスのアンブレラレビューの結果を報告した。著者は、「強力なエビデンスが不足しているにもかかわらず、これらの手技のいくつかは、特定の状況下において国のガイドラインで推奨されている」として、「一般的な待機的整形外科手術と無治療、プラセボ、非手術的治療と比較する研究を優先することが急務である」とまとめている。BMJ誌2021年7月7日号掲載の報告。10種の手術について、無作為化比較試験のメタ解析のアンブレラレビューを実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Libraryおよび参考文献を、2020年9月まで検索し、最も一般的な10種類の待機的整形外科手術のいずれかの臨床効果を無治療、プラセボまたは非手術的治療と比較した無作為化試験のメタ解析(メタ解析がない場合は他の研究デザイン)を特定し、アンブレラレビューを行った。 10種類の整形外科手術とは、関節鏡視下前十字靭帯再建術、関節鏡視下膝半月板修復術、関節鏡視下膝半月板部分切除術、関節鏡視下腱板修復術、関節鏡視下肩峰下除圧術、手根管減圧術、腰椎除圧術、腰椎固定術、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術である。 2人の研究者が独立して要約データを抽出し、3人目の研究者が加わりコンセンサスを得た。各メタ解析の方法論的な質はAssessment of Multiple Systematic Reviews instrumentを用いて評価し、Jadad decision algorithmを用いてどのエビデンスが最も優れているかを確認した。また、英国国立医療技術評価機構のエビデンス検索を用いて、各手技の推奨がエビデンスを反映しているかについて確認した。 主要評価項目は、一般的な待機的整形外科手術のエビデンスの質と量、および関連する国の臨床ガイドラインにおける推奨度との比較であった。手根管減圧術および人工膝関節全置換術のみ、非手術的治療より優れる 無作為化比較試験では、手根管減圧術および人工膝関節全置換術については、非手術的治療に対する優越性が支持された。人工股関節全置換術または半月板修復術については、非手術的治療と比較した無作為化比較試験はなかった。他の6つの手技に関する臨床試験のエビデンスは、非手術的治療と比較して有益性はないことを示した。 ほとんどの一般的な待機的整形外科手術は、決定的な無作為化比較試験が行われていないため、質の高いエビデンスに裏付けられていないことが明らかとなった。

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第61回 新たなコロナウイルス2つがヒトに侵入

マレーシアで2017~18年に肺炎で入院した患者8人からイヌのコロナウイルス、ハイチで2014~15年に急な発熱を呈した小児3人からブタのコロナウイルスが検出されました。マレーシアでの研究1-3)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めの頃にデューク大学の感染症疫学者Gregory Gray氏が抱いた疑問に端を発しています4)。Gray氏は別の流行を引き起こしかねない他のコロナウイルスがすでにヒトを害しているかもしれないと考え、未知のものも含むあらゆるコロナウイルスの検出法の開発を大学院生に頼みました。大学院生のLeshan Xiu氏は期待以上に良い手法を生み出し、マレーシアのボルネオ島の病院に2017~18年に入院した肺炎患者301人の鼻拭い液検体がその手法で調べられました。その結果、1人を除いてあとはすべて小児の8人(2.7%)からそれまでにない新たなコロナウイルスが検出されました。見つかったウイルスのゲノムを調べたところイヌコロナウイルスとブタコロナウイルスの混成(キメラ)の様相を呈していましたが、大部分はイヌから過去に同定された2つのコロナウイルスに最も近く、培養イヌ細胞で増えることができました。オハイオ州立大学の動物コロナウイルス研究専門家で著者の一人Anastasia Vlasova氏によるとイヌのコロナウイルスがヒトに感染するとはこれまで考えられておらず、その報告もありませんでした4)。CCoV-HuPn-2018と名付けられたそのウイルスが患者の肺炎を引き起こしたのかどうかは不明ですが、もしそうであるならヒトを害する病原性コロナウイルスは8つに増えます。病原性が不明なのと同様にCCoV-HuPn-2018がヒトからヒトに感染するかどうかも分かっていません。他のイヌコロナウイルスにはなくてヒトに感染するコロナウイルスには存在する欠損変異がCCoV-HuPn-2018にはあります。その変異のおかげで種の垣根を越えうるようになったのかどうかを今後調べる必要がありますが、CCoV-HuPn-2018がヒトに広まる病原体となる可能性は否定できないとVlasova氏は言っています5)。今後の課題として、肺炎患者にCCoV-HuPn-2018がどれぐらい頻繁に認められるかどうかをさらに多くの検体を使って調べ、動物実験で病原性を確かめる必要があります。ハイチでの研究は同国の就学児の病気の把握を2012~20年に担当したチームの手によります6)。チームは急な発熱を呈した小児から2014~15年に採取した369の血液検体を調べ、その結果3人からブタのデルタ(δ)コロナウイルスが見つかりました。コロナウイルスはα、β、γ、δの4種類あり、ヒトに最も危険なコロナウイルス・SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERS-CoVはどれもβコロナウイルスに属します7)。ハイチの小児からの同定株が属するδコロナウイルスはかつて鳥にのみ感染すると考えられていました。しかしおそらく鳴禽類(songbird)から感染したらしいδコロナウイルスが2012年に香港のブタに認められています。2014年には同じδコロナウイルスが米国でブタに深刻な下痢疾患流行を引き起こしています。δコロナウイルスがヒトに流行した例はないもののヒト細胞に感染しうることは分かっています。マレーシアで新たに見つかったイヌ起源コロナウイルスが含まれるαコロナウイルスもδコロナウイルスと同様にヒトに流行したためしはありません。しかしいまやどちらもヒトで検出されており、今後も流行の心配はないと安心してはいられません5)。コロナウイルスはこれまで考えられていた以上に動物界を駆け巡っているようであり、調べれば調べるほどコロナウイルスが至るところで種の垣根を越えていることが判明するだろうとアイオワ大学のウイルス学者Stanley Perlman氏はScienceに話しています7)。われわれの与り知らないところですでにヒトに適応し始めている動物ウイルスが存在するかもしれず、ウイルスがヒトに病気を引き起こすようになる前にそれらを探し出さねばなりません。動物からヒトへのコロナウイルスの感染の頻度やヒトからヒトへの感染の可能性をもっと調べる必要があります7)。参考1)Vlasova AN, et al. Clin Infect Dis. 2021 May 20. [Epub ahead of print]2)New human coronavirus that originated in dogs identified/Ohio State University 3)Surveillance turns up new coronavirus threat to humans/Eurekalert4)New Coronavirus Detected In Patients At Malaysian Hospital; The Source May Be Dogs/NPR5)Two New Coronaviruses Make the Leap into Humans / TheScientist6)Emergence of porcine delta-coronavirus pathogenic infections among children in Haiti through independent zoonoses and convergent evolution. medRxiv. March 25, 2021.7)Two more coronaviruses can infect people, studies suggest/Science

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乳房温存術が切除術より生存率が高いのは独立した効果か

 術後放射線療法を伴う乳房温存術が、放射線療法を伴わない乳房切除術より生存率が高いことがコホート研究で示されているが、独立した効果なのか、選択バイアスの結果なのかは不明である。今回、スウェーデン・Capio St Goran's HospitalのJana de Boniface氏らは、重要な交絡因子である併存疾患および社会経済的状態の補正後も、乳房温存術の生存ベネフィットがみられるかどうか検討した。JAMA Surgery誌オンライン版2021年5月5日号に掲載。 本研究は、前向きに収集されたスウェーデンの全国的なデータ(National Breast Cancer Quality Registerからの全国的な臨床データ、National Board of Health and WelfareのPatient Registersからの併存疾患データ、Statistics Swedenからの個人レベルの教育と収入のデータ)を使用したコホート研究。スウェーデンで2008~17年にT1-2 N0-2の浸潤性乳がんと診断され手術を受けたすべての女性を対象に、放射線療法ありの乳房温存術、放射線療法なしの乳房切除術、放射線療法ありの乳房切除術の3群に分け、全生存率(OS)と乳がん特異的生存率(BCSS)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・計4万8,986例のうち、放射線療法ありの乳房温存術が2万9,367例(59.9%)、放射線療法なしの乳房切除術が1万2,413例(25.3%)、放射線療法ありの乳房切除術が7,206例(14.7%)で、観察期間中央値は6.28年(範囲:0.01~11.70)だった。・全死亡は6,573例、乳がんによる死亡は2,313例で、5年OSが91.1%(95%CI:90.8~91.3)、5年BCSSが96.3%(95%CI:96.1~96.4)だった。・放射線療法なしの乳房切除術を受けた女性は、年齢が高く、教育レベルと収入は低かった。・乳房切除術を実施した2つの群では、放射線療法の有無に関係なく併存疾患の負荷が大きかった。・すべての共変量の補正後、OSおよびBCSSは、放射線療法ありの乳房温存術に比べ、放射線療法なしの乳房切除術(OSのハザード比[HR]:1.79、95%CI:1.66~1.92、BCSSのHR:1.66、95%CI:1.45~1.90)および放射線療法なしの乳房切除術(OSのHR:1.24、95%CI:1.13~1.37、BCSSのHR:1.26、95%CI:1.08~1.46)で有意に悪かった。 本研究では、これまで測定されていなかった併存疾患および社会経済的状態の補正後も、放射線療法を伴う乳房温存術が、乳房切除術(放射線療法の有無に関係なく)より生存率が高いことが示された。著者らは「どちらの治療も妥当な選択肢であれば、乳房切除術が乳房温存術と同等と見なされるべきではない」と結論している。

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