体内で溶解する植込み型心臓デバイスの開発が前進

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/08/14

 

 心疾患患者の体内に留置され、一時的な心臓のモニタリングデバイスやペースメーカーとして機能した後、体内で溶けてなくなる植込み型デバイスの開発に関する研究結果を、米ノースウェスタン大学のIgor Efimov氏らが、「Science Advances」に7月5日発表した。研究グループは、このデバイスを留置された患者は、その除去や調整のために追加の手術を受ける必要はないことから、このデバイスを、時間の経過とともに分解され体内に吸収される縫合糸に例えている。

 生体吸収性のポリマーと金属でできているこのデバイスは、郵便切手ほどの大きさで、軟らかくて軽量で、透明である。初期段階の実験で、ラットの心臓の上にこの植込み型デバイスを留置したところ、デバイスは正確な測定値を提示し、その後、安全に溶解して体内に吸収されることが示された。

 このデバイスは、心筋梗塞や心臓手術後に合併症として不整脈が発生した患者にとって有益な可能性がある。現在こうした患者は、医師が回復期の心臓をモニタリングするために、体の表面にセンサーを貼り、大きなモニター機器を常に携えていなくてはならない。「これらの機器の使い心地は、快適とは程遠い。シャワーを浴びるのも容易ではなくなるなど、日常生活の妨げになる」とEfimov氏は言う。

 新たな生体吸収性デバイスは、心臓の手術や処置中に留置することができる。電極と光学センサーを介してデータを収集できるだけでなく、不整脈が生じた際に心臓のリズムを正常化するための電気刺激を与えることも可能だ。「心臓手術の場合、患者の約30%で術後に心房細動が発生する。そこで、われわれは必要な期間だけ留置し、その後溶けてなくなるデバイスの開発に取り組んでいる」とEfimov氏は話す。同氏によると、心房細動などの術後合併症で心臓デバイスが必要な期間は通常約10日で、その後は不要になるという。

 米国では、毎年約70万人が心疾患により死亡しており、そのうちの約3分の1が、心筋梗塞や心臓手術後の数週間から数カ月の間に合併症で亡くなっている。論文の上席著者で米ジョージ・ワシントン大学のLuyao Lu氏は、「細心の注意を要するこの期間に、患者のモニタリングと治療のためのより優れたツールを医師が利用できれば、死亡例の多くを回避できる可能性がある」と話している。

 新たな生体吸収性デバイスは、米食品医薬品局(FDA)が、人間に使用しても安全で生体適合性があると見なした材料のみで作られている。例えば、デバイスの電極の主な材質は、モリブデンと呼ばれる人体にも存在する元素だ。また、デバイスの骨組みの部分は、無害な化学物質に自然に分解される乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)と呼ばれるポリマーで作られている。また、研究グループは、不快感をもたらすことなく簡単に留置できるよう、このデバイスに柔軟性を持たせるよう設計した。主な材料として透過性のあるものを使用したのは、デバイスの光学センサーによって酸素レベルや代謝などの重要な測定値を得られるようにするためだった。

 今回の研究には関与していない米マウント・サイナイ・ハートのDeepak Bhatt氏は、実際には不要かもしれないにもかかわらず、多くの心疾患患者に恒久的ペースメーカーが植え込まれている一方で、一時的にペースメーカーが植え込まれ、その後、それを除去する手術を受けるために入院が長引かざるを得ない患者もいることを指摘。この実験段階のデバイスが、「極めて有用な解決策になる可能性がある」との見方を示している。その上で、「この研究がまだ早期段階にあることは明らかだが、彼らの実験は慎重にデザインされており、実に洗練されたものだと私は感じた。そして、それによってこれらの微小電極アレイが特定の臨床状況において有用である可能性が示されたと考えている」と評価している。

[2023年7月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら