サイト内検索|page:27

検索結果 合計:606件 表示位置:521 - 540

521.

黄斑変性へのES細胞移植、安全性確認/Lancet

 ヒト胚性幹細胞(hESC、ヒトES細胞)由来の網膜色素上皮細胞で網膜下移植を行った患者について、約2年間追跡した結果が発表された。過剰増殖や拒絶反応などの有害事象は認められず、治療の安全性が確認されたという。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSteven D Schwartz氏らが、同移植を行った18例について行った2件の第I・II相前向き臨床試験の結果で、Lancet誌オンライン版2014年10月15日号で発表された。 中央値22ヵ月追跡し、安全性を評価 Schwartz氏らは、スタルガルト病黄斑ジストロフィー(18歳超)と萎縮性加齢黄斑変性症(55歳超)の患者、それぞれ9例に対して、ヒトES細胞由来の網膜色素上皮細胞で網膜下移植を行い追跡、治療の安全性について評価を行った。被験者への移植細胞数は、5万、10万、15万のいずれかだった。 被験者について中央値22ヵ月追跡し、全身・眼科検査、画像検査を行った。視力関連QOL、術後3~12ヵ月で改善 結果、過剰増殖や拒絶反応、移植細胞に関連する目や全身性の重篤事象は認められなかった。 有害事象については、網膜硝子体手術と免疫抑制に関連するものが認められた。また被験者18例のうち13例(72%)で、網膜色素上皮細胞移植によると考えられる網膜色素の増大が確認された。 最高矯正視力については、10眼で改善、7眼で改善または維持が認められ、10文字超に相当する低下が報告されたのは1眼にとどまった。 視力関連QOLについて調べたところ、視力一般・周辺視覚、近点・遠点活動については、萎縮性加齢黄斑変性症の患者群で、移植後3~12ヵ月時点で16~25ポイント、スタルガルト病黄斑ジストロフィーの患者群では同8~20ポイントの改善が認められた。 研究グループはこれらの結果を受けて、「ヒトES細胞由来細胞を用いた治療が、いまだ細胞修復や交換を要する治療法がない疾患について、新たな安全な治療法となる可能性が示唆された」とまとめている。

522.

境界性パーソナリティ障害、精神症状の特徴は

 DSM-IV分類の境界性パーソナリティ障害(BPD)では精神病性症状の頻度が高いことが、従来の研究で示されているが、その発症率と特徴(タイプ、頻度、期間、部位など)に関しては現在のところコンセンサスは得られていない。同様に、精神的反応性について取り組んだ論文もほとんどなかった。イタリア・トリノ大学のFrancesco Oliva氏らは、BPDと統合失調症(SC)における思考および知覚障害の相違を検討し、それらと社会的機能との関連を評価した。その結果、BPD患者はSC患者と比べ、偽精神病性思考の頻度が高く、真性精神病性思考の頻度が低く、非妄想性パラノイアがより重症であること、人格・社会機能の程度が非妄想性パラノイアを有意に予測することを報告した。BMC Psychiatry誌オンライン版2014年10月3日号の掲載報告。 精神的反応性はBPDを構成する重要な要素である。同時に、これはDSM-IV BPDで提示されている9項目の1つであり、DSM-IV-TRとDSM-5でも変わらず含まれている。本研究の目的は、DSM-IV分類のBPDとSCにおける思考および知覚障害の相違を検討するとともに、それらと社会的機能との関連を評価することであった。DSM-IV分類でBPD(28例)またはSC(28例)と診断された外来患者を対象とし、過去2年にわたる思考と知覚障害をDiagnostic Interview for Borderline Revised (DIB-R)を用いて、また社会機能をPersonal and Social Performance scale(PSP)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・BPD患者では、偽精神病性思考(すなわち一過性、制限的および非定型的精神行動) の頻度がより高かった(BPD=82.1%、SC=50%、p=0.024)。・一方、SC患者では、真性精神病性思考(すなわちシュナイダーの1級症状、遷延化、拡大、および奇異な精神病性症状)の頻度がより高かった(SC=100%、BPD=46.4%、p<0.001)。・ただし、BPD群、SC群のいずれにおいても、両方の精神病性特徴が広く認められた。・非妄想性パラノイア(すなわち過度の疑い深さおよび関係念慮)は散見されたが、SC患者に比べBPD患者でより重症であった(U(54)=203.5、p=0.001)。・BPD群では人格・社会機能と非妄想パラノイアの間に強い負の関連がみられ(τ(28)=0.544、p=0.002)、BPD群においてのみ人格・社会機能の程度が非妄想性パラノイアを有意に予測した(β=-0.16、t(23)=2.90、p=0.008)。・以上より、BPD患者はSC患者と比べ、偽精神病性思考の頻度が高く、真性精神病性思考の頻度が低く、非妄想性パラノイアがより重症であり、重度の精神病性経験がより少ないことがわかった。・BPD患者では、対人関係の機能が非妄想性パラノイアの予測につながると思われ、DSM-IV診断分類の9項目およびDSM-5分類のBPDに含まれるストレス関連パラノイドの妥当性が確認された。・BPD患者では精神病性経験サブスケールが高スコアであり、DSM-5のSection IIIで紹介されているthe Clinician-Rated Dimensions of Psychosis Symptom Severity など、思考と知覚障害の重症度を評価するツールの使用が支持される。関連医療ニュース 境界性パーソナリティ障害でみられる幻覚の正体は 境界性パーソナリティ障害患者の自殺行為を減少させるには 境界性パーソナリティ障害患者の症状把握に期待!「BPDSI-IV」は有用か  担当者へのご意見箱はこちら

523.

心房細動患者PCI後の抗凝固療法と 抗血栓療法併用の現状と問題点

※タイトルを選ぶとお好きなチャプターからご覧いただけます。PCI後のステントでは血小板を主体とする動脈血栓、心房細動による血栓塞栓症では静脈血栓をケアする。では心房細動合併患者のPCI後はどうすべきか?永年にわたり議論を呼ぶこの話題について、本年9月の欧州心臓病学会(ESC2014)での発表内容を含め最新の情報を北里大学 循環器内科学 教授 阿古 潤哉氏がレビューする。 チャプター(順次公開)1.Af患者PCI後の血栓症2.Triple therapyは必要か?3.ワルファリンはどこまで効かせる?4.NOACは?5.BMS vs DES?6.1年後はOACのみか、OAC+APTか?

524.

アリスミアのツボ 第3回

Q7症状のない上室・心室期外収縮は、どの程度まで経過観察すべきでしょうか。心機能が正常ならば経過観察しない、という考え方ではどうでしょうか。私は基本的に心機能が正常である限り、期外収縮の経過観察をしていません。これには異論や反論があるかもしれません。心房期外収縮の場合「心房期外収縮の頻発は、放置するとやがて無症状の心房細動に発展してしまうのではないか?」という不安。これはそのとおりだと思います。しかし、問題はその発生確率だと思うのです。一見健康者で、心房期外収縮頻発が見られた例での心房細動の発生確率は、年間約1.5%とされています。これをどう見るか……人によって異なるかもしれません。心房期外収縮例をすべて経過観察しようとするのは、間違いではないのですが効率性に劣る気がします。これを行うための外来診療の時間があれば、もっと有意義な(もっと重篤な疾患をもつ患者のケアに)使えばよいのではないでしょうか。もちろん例外があります。心原性脳梗塞のようだけれども心房細動が見つかっていない患者、心房細動がひとたびもし生じてしまえば脳梗塞のリスクがきわめて高いという患者では、心房期外収縮の頻発を経過観察する価値が高まるでしょう。ただし、これらの患者の経過観察としての適切な方法はまだ誰も知りません。心室期外収縮の場合「心室期外収縮の頻発は、やがて心機能低下を引き起こしてしまうのではないか?」という不安。これもその可能性はあると思います。ただし、どのような発生確率が見込めるのかという確かな数字がない以上、そして基本的に予後はよいという情報がある以上、効率性という意味で経過観察の価値が低いと感じてしまうのです。脳梗塞とは異なり、心機能低下はirreversibleではありません。健康診断をきちんと受けることを指導する、というような経過観察でもよいのではないでしょうか。Q8発作性心房細動に対する抗不整脈薬の用い方について教えてください。安全性重視という考え方で、患者の意向次第で減量や中止も随時可能専門家の現場での用い方「抗不整脈薬の使い方がわからない。ガイドラインや教科書と、循環器内科医の実臨床での使い方がかなり違う気がする」というご意見もありました。抗不整脈薬は諸刃の剣と言われることから、どうしても経験則が幅を利かせているのが実情です。ESCの心房細動ガイドラインで書かれていることESCの心房細動ガイドラインにはこの抗不整脈薬の使い方の原則が書かれているので、それを引用しておきましょう。1)抗不整脈薬治療は症状を軽減する目的で行うものである2)抗不整脈薬で洞調律を維持する効果は“modest”である3)抗不整脈薬治療は心房細動の再発をなくすものでなく、減らすことで臨床的には成功と考えるべきだろう4)1つの抗不整脈薬が効果のない場合、他の抗不整脈薬が効果を示すことがあるかもしれない5)抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、心外性副作用はしばしば生じる6)抗不整脈薬の選別は効果よりもまず安全性を指針とすべきである私の使い方私の臨床現場での用い方はこれを基本にしています。たとえば、抗不整脈薬をいつ始めて、いつ中止するのかについての一定の見解はないのですが、患者が心房細動の症状で困っている時に開始し(1参照)、その際あらかじめ発作が完全に消失するものではないことを伝え(2、3参照)、症状が軽くなればいつでも薬物の減量をトライし、症状に困らなくなればいつでも中止をトライする(6参照)、ということを基本にしています。もちろん、減量や中止によって患者が困るようになれば、また再開することはたびたびです(むしろ、そのほうが多いかもしれません)。ただ、これを行うことで患者が薬物の効果を実感してくれることもアドヒアランスを高めると思っています。Q9NOACをどのように開始すべきでしょうか?ワルファリン時代とまったく異なる抗凝固療法のやり方を会得する必要がありますワルファリン時代に染みついた慣習心房細動の脳卒中予防には抗凝固療法が必要です。抗凝固療法の仕方…これについては、あまりにもワルファリンを使用してきた歴史が長く、ワルファリン時代のやり方が身に染みついてしまっていることを私自身が痛感しました。そこで、ワルファリン時代とは異なるNOACによる抗凝固療法の私のやり方をまとめておきます。1)心房細動初診患者では(脳卒中の一次予防ならば)その日のうちに抗凝固療法を始めない。ワルファリン時代は初診患者で脳卒中予防の説明をして、ワルファリン1.5~2mg/dayをその日から開始していました。しかし、NOACでは危なっかしくてできないですね。初診日は、脳卒中に関する啓蒙、年齢、体重の把握、血清Cr、Hbの採血をするだけにしています。クリアチニンクリアランスを把握してから抗凝固療法はするものと考え、次の外来から(つまりクレアチニンクリアランスが手に入ってから)NOACを処方します。次回の外来までに脳卒中になってしまうのでは……と不安に思う方がおられるかもしれませんが、所詮ワルファリン時代も初診時に処方する少量のワルファリン量ではそもそも効いていませんでした。NOACを初診日に処方すると禁忌症例に処方してしまう可能性があり、こちらのほうが危険でしょう。また、貧血のある患者にNOACを処方するのも危険です。今まさに、じわじわとどこからか出血しているのかもしれないからです。2)2週間以内の出血に関する問診とHbのチェックを忘れないワルファリン時代はゆっくりと抗凝固がなされ、しかもPT-INRによる処方量決定のためたびたび外来受診が行われるので、出血のケアは自然になされやすい環境にありました。しかし、長期処方が可能なNOACは大出血直前の気付きの機会を減らしています。そこで、私は、NOAC処方時には必ず2週間以内に受診してもらい、皮下出血、タール便の有無を聞き、必ずHbをチェックすることにしています。2週間でHbが明らかに減少していれば、どこからか出血していることになるからです。逆にHb値に変化がなければ安心できます。3)バイオマーカーはどうする?ワルファリン時代のPT-INRというモニタリングはなくなりました。では何もチェックしていないかというと、私は、ダビガトランではaPTT、リバーロキサバンとアピキサバンではPTをチェックしています。固定用量の薬物では必ず効きすぎの患者が、わずかといえども存在しているからです。ただし、これはモニタリングではありません。処方後2週間以内の外来で、Hbと一緒にバイオマーカーを一度採血するのです。バイオマーカーについては「あまり見かけないほど高い値である」ことがなければ、それで良しとしています。その後の採血ですが、クレアチニンクリアランスを高齢者では年に4回程度、若年者では年に1、2回チェックしますが、それと同時にこれらのバイオマーカーもチェックしています。NOACのバイオマーカーはモニタリングではなく、あくまでもチェックにすぎないのです。

525.

スマホで挿管するのは難しい【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第25回

スマホで挿管するのは難しい最近、スマートフォン(スマホ)関連の論文が増えてきました。医療分野でデジタルデバイスがどんどん発達すれば、もっと論文が増えてくるのではないかと予想しています。Langley A, et al.Comparison of the glidescope®, flexible fibreoptic intubating bronchoscope, iPhone modified bronchoscope, and the Macintosh laryngoscope in normal and difficult airways: a manikin study.BMC Anesthesiol. 2014;14:10.

526.

双極性障害へのDBT追加療法、自殺念慮の改善も

 米国・ピッツバーグ大学医療センターのTina R Goldstein氏らは、思春期双極性障害(BP)に対する弁証法的行動療法(DBT)の有用性を明らかにするため、通常の心理社会的治療(TAU)との無作為化パイロット試験を行った。その結果、薬物治療にDBTを追加することで、うつ症状および自殺念慮の改善傾向がみられることを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2014年7月10日号の掲載報告。 試験は、小児専門クリニックの12~18歳の新規BP患者(I、II、または他に分類されない[NOS])を対象とし、適格例をDBT群または心理社会的TAU群に2対1で無作為化した。全例で、試験に関与する精神科医により薬物療法が行われ、DBT群には年間36セッション(個人トレーニング18、家族のスキルトレーニング18)の介入が、TAU群には、精神教育、サポーティブケア、認知行動テクニックといった広範な精神療法アプローチが行われた。任意の評価者が盲検下にて、感情的な症状、自殺念慮および行動、自殺を目的としない自傷行為(NSSI)、感情調節障害などのアウトカムを年4回評価した。  主な結果は以下のとおり。・DBTを受けた思春期患者(14例)は、TAUを受けた患者(6例)に比べ、1年を通して治療への参加が有意に多かった。・両治療とも、患者ならびに両親の受容度は高かった。・追跡期間中DBT群はTAU群に比較して、うつ症状は有意に軽度であり、自殺念慮の改善傾向は3倍近く高かった。・モデルにおけるエフェクトサイズは大きく、DBT群の追跡期間中の躁うつ寛解期(週)はより長期にわたった。・躁症状または感情調節障害に群間差は認められなかったが、DBT群では躁症状および感情調節障害の両方において、治療前と比べて治療後は改善がみられた。・以上より、思春期BPのうつ症状および自殺念慮の治療において、薬物療法にDBTを追加する方法は有望と思われた。・著者は、「DBTを治療の1つとして着目することは、早期発症BPの治療において重要な意味を持つと思われる。さらなる大規模な比較試験で、有効性の確立、自殺行動への影響の検討、ならびに費用対効果を明らかにする必要がある」とまとめている。関連医療ニュース 双極性障害とうつ病で自殺リスクにどの程度の差があるか うつ病患者の自殺企図、遺伝的な関連性は 入院から地域へ、精神疾患患者の自殺は増加するのか  担当者へのご意見箱はこちら

527.

ADHDの世代間伝達に関連する独立リスク因子は

 米国・カリフォルニア大学のIrene Tung氏らは、注意欠如・多動症(ADHD)を有する親の子育て行動が、子供のADHD症状とどう関連するかを検討した。その結果、ADHDが子供に受け継がれる有意かつ独立した因子として“体罰”が挙げられることを報告した。子供のADHDの主要なリスク因子は、親のADHD症状を基礎とする複合的な関与の可能性が考えられているが、説明可能な因子は明らかになっていなかった。Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology誌オンライン版2014年6月13日号の掲載報告。 研究グループは、子育て行動における正ならびに負の側面(体罰、一貫性に欠けるしつけ、ポジティブな子育て行動、ネガティブな発言、ほめるなど)における相違が、親と子のADHDを関連づけるかどうかを検討した。アウトカム(子供のADHD症状)の予測因子(親のADHD症状など)ならびにメディエーター(子育て行動など)に着目したプロスペクティブ研究として実施した。ADHDの有無を問わず背景が明らかな小児120例(Wave 1:5~10歳、Wave 2:7~12歳)とその実の親を対象とし、複数の方法(観察、自己報告など) でポジティブおよびネガティブな子育て行動を評価し、Wave 1の親とWave 2の子供のADHD症状が連動して関連するかどうかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・厳格なブートストラップ法からなる多様な媒介フレームワークを用いて検討した。・親のうつ症状、子供のベースライン時のADHDおよび反抗挑発症、子供の年齢を補正後、Wave 1の親のADHD症状とWave 2の子供のADHDを関連づけたのは、体罰が有意かつ唯一の因子であった。・子育て行動はADHDの世代間伝達に関連しており、これらの結果は小児ADHDへの介入と予防に応用可能と思われた。関連医療ニュース 小児ADHD、食事パターンで予防可能か 抗てんかん薬によりADHD児の行動が改善:山梨大学 ADHDリスクファクターは「男児」「母親の就労」  担当者へのご意見箱はこちら

528.

PCSK9阻害薬は新たなコレステロール治療薬となりうるのか?(解説:平山 篤志 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(216)より-

LDLコレステロール(LDL-C)が心血管イベントの重要なリスクファクターであること、そしてスタチンによるLDL-C値の低下に伴いイベントの発生率が減少したことで、ASCVD(Atherosclerotic Cardiovascular Disease)においてLDL-C値をより低くコントロールすることが目標とされた。 しかし、スタチンを使用しても管理目標値に到達できない患者群があり、これまでは治療薬としてエゼチミブが併用されていたが、それでも不十分であった。 エボロクマブはLDL-C受容体の分解を促進する蛋白であるPCSK9を阻害することで、スタチンの効果を増強しLDL-Cをさらに著明に低下させることを実現した抗体薬である。本薬の使用で、通常の治療に加えて平均57%、LDL-Cを低下させることがDESCARTES試験として発表された。この試験は、スタチンでは明らかにできなかった新たな世界を広げるエボロクマブの可能性を示している。 LDL-Cの低下のエビデンスはすべてスタチンを用いた試験に基づいていることから、AHA/ACCの今回改訂されたガイドラインでは、LDL-Cの管理目標値を設定せず、高用量のスタチンを使用するだけでよいとされた。エボロクマブは、スタチン以外にLDL-Cを低下させることを可能にした薬剤である。スタチンを用いないLDL-Cの低下によりイベントが減少するかを検証できるようになった。 また、スタチン単独ではLDL-C値を70mg/dL以下にすることが困難であったために、さらなる低下がイベントを減少させるのかが明らかでなかった。エボロクマブは、このようなLDL-Cと心血管イベントとの関連についての科学的な疑問を解決できる可能性のある薬剤である。 今後、イベントを検証するFOURIER試験が計画されている。LDL-Cに関する残された謎が解明され、多くのASCVD患者にとってこの薬剤が福音をもたらすのかどうか、2019年の結果に注目したい。

529.

PCSK9阻害薬追加でLDLコレステロール値が改善/NEJM

 エボロクマブは前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9(PCSK9)を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体である。脂質異常症の治療において、食事療法やスタチン、エゼチミブによる薬物療法に本薬を加えると、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値が有意に低下することが、南アフリカ・ケープタウン大学のDirk J Blom氏らが行ったDESCARTES試験で示された。PCSK9は、主に肝臓で産生されるセリンプロテアーゼで、血中に分泌されて肝臓のLDL受容体に結合し、LDL受容体の分解を促進する。本薬の第II相試験でLDL-Cの改善効果が確認されている。NEJM誌2014年5月8日号(オンライン版2014年3月29日号)掲載の報告。基本治療無効例をプラセボ対照無作為化試験で評価 DESCARTES試験は、エボロクマブを用いた52週間の治療の安全性および有効性を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験。対象は、年齢18~75歳で、LDL-C≧75mg/dL、空腹時トリグリセライド≦400mg/dLの患者とし、全米コレステロール教育プログラム成人治療第3委員会(ATP III)の規定によるリスク分類で層別化した。 この分類に基づいて、4~12週の導入期間に、基本的な脂質低下療法として以下の4つの治療法のいずれかを開始した。1)食事療法、2)食事療法+アトルバスタチン10mg/日、3)食事療法+アトルバスタチン80mg/日、4)食事療法+アトルバスタチン80mg/日+エゼチミブ10mg/日。 導入期間の4週目の評価で、基本治療を行ってもLDL-C値が75mg/dL以上の患者を無作為割り付けの対象とした。4週ごとにエボロクマブ(420mg)を追加投与する群とプラセボを投与する群に2:1の割合で無作為に割り付け、引き続き48週の治療が行われた。 主要評価項目は、52週時における超遠心法で測定したLDL-C値のベースラインからの変化率とした。月1回のエボロクマブ追加投与でLDL-C値が57%低下 2012年1月〜2013年11までに9ヵ国88施設から2,120例が登録された。901例が解析の対象となり、このうち52週の治療を完遂したのは800例(88.4%)だった。 901例の内訳は、食事療法単独群が111例(プラセボ群37例、エボロクマブ群74例)、アトルバスタチン10mg群が383例(129例、254例)、アトルバスタチン80mg群が218例(73例、145例)、アトルバスタチン80mg+エゼチミブ10mg群は189例(63例、126例)であった。 プラセボ群の変化を考慮に入れたエボロクマブ群全体におけるLDL-C値のベースラインからの低下率の最小二乗平均値(±SE)は57.0±2.1%であった(p<0.001)。 基本治療別のエボロクマブ群におけるLDL-C値の低下率の最小二乗平均値は、食事療法単独群が55.7±4.2%,アトルバスタチン10mg群が61.6±2.6%、アトルバスタチン80mg群が56.8±5.3%、アトルバスタチン80mg+とエゼチミブ10mg群は48.5±5.2%であった(すべての比較に関してp<0.001)。 エボロクマブの投与により、アポリポ蛋白B、非高比重リポ蛋白(non-HDL)コレステロール、リポ蛋白(a)、トリグリセライドの値も有意に低下した。また、エボロクマブ群では鼻咽頭炎、上気道感染、インフルエンザ、背部痛が高頻度に認められた。 著者は、「エボロクマブは、さまざまな心血管リスクを有する脂質異常症患者において、食事療法単独、食事療法+低用量アトルバスタチン、食事療法+高用量アトルバスタチン±エゼチミブというガイドラインで推奨されているいずれの脂質低下療法に追加した場合でも、プラセボに比べLDL-C値を57%有意に低下させた」とまとめ、「この結果は、同一レジメンの12週投与に関する第II相試験で認められた効果と一致しており、12~52週まで効果の減弱はないとことが確認された」としている。

530.

非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状

 過去20年間における非定型抗精神病薬使用の増大は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を含む未承認適応での頻度が顕著に認められているという。米国・メリーランド大学のMehmet Burcu氏らは、非定型抗精神病薬の使用について、年齢群、メディケイド適格カテゴリー群、またADHDを有さない若者において特徴づける検討を行った。その結果、とくにフォスターケア(里親制度)の小児およびADHDと診断された小児において、長期的な効果、安全性、適切な心臓代謝モニタリングの監督に関するアウトカムについて、探求すべき根拠が認められたことを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2014年4月1日号の掲載報告。 2006年に米国中西部州のメディケイドプログラムに、連続的に登録された2~17歳26万6,590例の診療データを用いて、非定型抗精神病薬使用日数の中央値を二変量分析および多変量分位点回帰にて評価した。また、精神疾患合併の既往はなかったがADHDと診断された若者(非併存例のADHD)のサブ分析を行い、年齢特異的補正後オッズ比やメディケア適格カテゴリー別にみた非定型抗精神病薬の使用期間中央値を評価した。さらに非定型抗精神病薬療法の単剤投与の使用パターン、2剤併用のパターンを明らかにする評価も行った。 主な結果は以下のとおり。・全体的に、非定型抗精神病薬の年間使用期間中央値は、180日(四分位範囲:69~298日)だった。・小児(2~12歳)における使用期間は中央値192日で、年長者(13~17歳)の同179日よりも長期間であった。・精神疾患合併はないがADHDと診断されたフォスターケアの若者の非定型抗精神病薬の使用に関する補正後オッズ比は、所得適格のメディケイドカテゴリー群に登録された若者における使用と比べて、3倍以上であった。・精神疾患合併はないがADHDと診断されたフォスターケアの若者のおよそ3分の1が、年齢に関係なく非定型抗精神病薬を使用していた。そのうち2~12歳における年間使用日数は、中央値250日超であった。・非定型抗精神病薬の併用療法では、リスペリドン、アリピプラゾール、クエチアピンの頻度が最も高くみられた。関連医療ニュース 抗精神病薬治療中の若者、3割がADHD 小児・思春期の双極性障害に対する非定型抗精神病薬vs気分安定薬 若年発症統合失調症への第二世代抗精神病薬治療で留意すべき点

531.

スタチン投与対象者はガイドラインごとに大きく異なる/JAMA

 臨床ガイドラインによって、スタチン投与の対象となる人は大きく異なることが判明した。2013年に発表された新たな米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインを順守した場合には、55歳以上男性コホートの約96%に相当する一方で、従来の米国高脂血症治療ガイドライン(Adult Treatment Panel III:ATP III)に則した場合は、スタチン投与の対象者は男性の52%に留まるという。オランダ・エラスムス大学医療センターのMaryam Kavousi氏らが、約5,000例のコホート試験を基に分析して明らかにした。JAMA誌2014年4月9日号掲載の報告より。「Rotterdam Study」の被験者4,854例を対象に各臨床ガイドラインを適用 研究グループは、オランダのロッテルダム在住の55歳以上に行った住民ベースの前向きコホート試験「Rotterdam Study」の被験者4,854例を対象に、各臨床ガイドラインを適用した場合のスタチン投与対象者を割り出すなどの検討を行った。被験者の平均年齢は、65.5歳(SD 5.2)だった。 結果、同集団に対してACC/AHAガイドラインを順守した場合、スタチン投与の対象となったのは男性の96.4%(1,825例)と女性の65.8%(1,523例)だった。 一方、ATP IIIガイドラインを適用した場合、男性52.0%(985例)、女性35.5%(821例)に、欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインでは、66.1%(1,253例)、39.1%(906例)と、いずれもACC/AHAガイドラインとの間に大きな格差があった。3種ガイドラインのリスクモデル、イベント発生を過剰予測 また、ACC/AHAリスクモデルでは、男性の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベント発生率の予測値は21.5%だったのに対し、実際の累積ASCVDイベント発生率は12.7%、女性ではそれぞれ11.6%と7.9%と、予測値が実測値を上回っていた。ATP IIIモデル、ESCモデルでも、冠動脈性心疾患(CHD)やアテローム動脈硬化性心血管疾患(CVD)死亡イベントについて、同様の過大予測が認められた。 ACC/AHAリスクモデルのASCVDに関するC統計量は、男性が0.67、女性が0.68だった。ATP IIIモデルのCHDに関するC統計量は、それぞれ0.67と0.69、ESCモデルのCVD死亡に関するC統計量は、それぞれ0.76と0.77と、いずれも改善の余地があったという。

532.

Vol. 2 No. 2 transcatheter aortic valve implantation(TAVI)現状と将来への展望

林田 健太郎 氏慶應義塾大学医学部循環器内科はじめに経カテーテル的大動脈弁留置術 (transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、周術期リスクが高く外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)の適応とならない患者群、もしくは高リスクな患者群に対して、より低侵襲な治療として開発されてきた。2002年にフランスのRouen大学循環器内科のCribier教授によって第1例が施行されて以後1)、2007年にヨーロッパでCEマーク取得、2011年にはEdwards社のSapien valveがアメリカでFDA認可を受けている。現在までにヨーロッパ、アメリカを中心に世界中で7万例以上が治療されており、世界的に急速に進歩、普及しつつある治療法である。現在ヨーロッパでは2種類のTAVIデバイスが商業的に使用可能である(本誌p.16図を参照)。フランスでは2010年にすでにTAVIの保険償還がされており、現在では33施設がTAVI施行施設として認可を受けている。またTAVI症例はnational registryに全例登録が義務づけられている2)。TAVIにおける周術期死亡率の低下TAVIの歴史は合併症の歴史であるといっても過言ではない。2006、2007年のTAVIプログラム開始当初は多くの重篤な合併症を認め、低侵襲な経大腿動脈TAV(I TF -TAVI)においても20%を超える30日死亡率を認めていた。しかし、年月とともに術者・施設としての経験の増加、知見の蓄積、さらにデバイスの改良により徐々に合併症発生率は低下し、それに伴って死亡率は低下していった(図1)。特に最近では、transfemoral approachにおいては30日死亡率が5%以下まで低下しており、この数字が今後日本におけるTAVI導入においてわれわれが目指していく基準になっていくであろう。それではどのように合併症を減らしていくのか?図1 30日死亡率の推移(Institut Cardiovasculaire Paris Sudにおけるデータ)画像を拡大する2006年のTAVI開始当初は非常に高い周術期死亡率であったが、その後経験の蓄積やデバイスの改良により、現在では5%程度まで低下している。欧米のデータをいかに日本の患者さんに応用するか?私がヨーロッパにいる間は、日本の患者さんに対していかに安全にTAVIを導入するかということを常に考えて研究を行っていた。フランスにいながらにして体の小さな日本人におけるTAV Iの結果をいかにsimulateするかというのが課題であったが、われわれは体表面積(BSA)をフランスにおけるTAVIコホートの中央値である1.75をcutpointとし、small body size群とlarge body size群に分けて比較を行った(表1)。するとsmall body size群では有意に大動脈弁輪径が小さく(21.3±1.58 vs. 22.8±1.86mm, p< 0.01)、大腿動脈径も小さかった(7.59±1.06 vs. 8.29±1.34mm, p<0.01)。それに伴って弁輪破裂も増加する傾向があり(2.3 vs. 0.5%, p=0.11)、重大な血管合併症(major vascular complication)も増加した(13.0% vs. 4.3%, p<0.01)3)。われわれはsmall body size群で十分日本人のデータを代表できるのではと考えていたが、2012年の日本循環器学会で発表された日本人初のEdwards Sapien XTを用いたTAVIのtrialであるPREVAIL Japanのデータを見ると、われわれの想像をはるかに超え、日本人の平均BSAは1.4±0.14m2であり、われわれのコホートにおけるsmall body size群(1.59±0.11m2)よりさらに小さく、それに伴って大動脈弁輪径も小さかった(表1)。幸いPREVAIL Japanでは弁輪破裂は1例のみに認められ、また重大な血管合併症は6.3%であった。今後日本においてTAVIが普及していく過程において、体格の小さい日本人特有の合併症を予防することがたいへん重要であると考えられる。ではどのようにこのような合併症を低減していくことができるのか?表1 small body size群とlarge body size群の比較画像を拡大する大動脈弁輪径の計測の重要性まず弁輪破裂(もしくはdevice landing zone rupture)は心タンポナーデにより瞬時に血行動態の破綻をきたすため、致死率の高いたいへん重篤な合併症である(図2)4, 5)。Sapien valveでより頻度が高いが、CoreValveでも理論上は前拡張や後拡張時に起きうるため注意が必要である。TAVIにおいては外科手術と異なり直接sizerをあてて計測することができないため、事前に画像診断による詳細な弁輪径やバルサルバ洞径の計測、石灰化の評価とそれに最適なデバイス選択が必要である。この合併症を恐れるがあまり小さめのサイズの弁を選択すると、逆にparavalvular leakが生じやすくなり、30日死亡率6)、1年死亡率7)を増加させることが報告されている。さらには近年、中等度のみならず軽度(mild)のparavalvular leakも予後を悪化させる可能性が示唆されており8)、われわれも同様の結果を得ている(本誌p.19図を参照)9)。弁輪の正確な計測には、その構造の理解が重要である。弁輪ははっきりとした構造物ではなく、3枚の弁尖の最下部からなる平面における“virtual ring”で構成される部分であり(本誌p.19図を参照)、正円ではなく楕円であることが知られている(図3左)。この3次元構造の把握には2Dエコーに比べCTが適しているという報告があり10-12)、エコーに比べTAVIにおける後拡張の頻度を低下させたり13)、弁周囲逆流を減少させたりする14, 15)ことが報告されている。われわれもCT画像における弁輪面積より算出される幾何平均を平均弁輪径として使用し(図3右)、弁逆流量の低下を達成している16)。3Dエコーは3次元構造の把握には優れているものの、低い解像度、石灰化などによるアーティファクトの影響が除外しきれないため、現在のところ弁輪計測のモダリティとしてはガイドライン上勧められていないが17)、造影剤を必要としないなどのメリットもあり、今後の発展が期待される。図2 Sapien XT valve 留置後弁輪破裂を認めた1例画像を拡大する急速に進行する心タンポナーデに対し心嚢穿刺を行い、救命しえた1例。大動脈造影上左冠動脈主幹部の直下にcontrast protrusionを認め、弁輪破裂と考えられた。図3 CTにおける弁輪径の計測画像を拡大する大動脈弁輪は、ほとんどの症例において正円ではなく楕円である。この症例の場合、短径24.2mm、長径31.7mm、長径弁輪面積より幾何平均(geometric mean)は26.7mmと算出される。血管アクセスの評価TAVIにおいてmajor vascular complicationは周術期死亡リスクを増加させることが示唆されており18, 19)、特に骨動脈破裂は急速に出血性ショックをきたし致命的であるため、血管アクセスの評価もたいへん重要である。ほとんどの施設ではより低侵襲な大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)が第一選択とされるが、腸骨大腿動脈アクセスの血管径や性状が適さない、もしくは大動脈にmobile plaqueが認められるなどの要因があると、その他のalternative approach、例えば心尖部アプローチ(transapical approach)、鎖骨下アプローチ(transsubclavian approach)などが適応となる。われわれはmajor vascular complicationの予測因子として、経験、大腿動脈の石灰化とともにシース外径と大腿動脈内径の比(sheath to femoral artery ratio:SFAR)を同定しており(本誌p.20表を参照)19)、そのSFARのcut pointは1.05であった(本誌p.20図を参照)。大腿動脈が石灰化していない場合は1.1であり、石灰化があると1.0まで低下していた。つまり、大腿動脈の石灰化がなければシース外径は大腿動脈内径より少し大きくなっても問題ないが、石灰化がある場合は、シース外径は大腿動脈内径を超えないほうがよいと考えられる。後にバンクーバーからも同様の報告がされており、われわれの知見を裏づけている20)。heart team approachの重要性以上、弁輪径の評価と血管アクセスなどの患者スクリーニングについて述べてきたが、いずれも画像診断が主であり、imaging specialistと働くことはたいへん重要である。またTAVIにおいては、デバイス自体がいまだ発展途上でサイズも大きく(18Frほど)、また治療対象となる患者群が非常に高齢・高リスクであることから、一度合併症が生じるとたいへん重篤になりやすく致命的であるため、PCI以上に外科医のバックアップが重要かつ必須である。特にearly experienceでは重篤な合併症が起きやすいため、経験の豊富な術者の指導のもと、チームとしての経験を重ねていくべきである。またエコー、CTなどイメージング専門医、外科医、麻酔科医との緊密な連携に基づいた集学的な“heart team approach”がたいへん重要である。TAVIのSAVR件数に与える影響2004年から2012年までの、MassyにおけるSAVRとTAVI件数の推移を図4に示す。TAVI導入以前は年間SAVRが180例ほどであったが、2006年に導入後急速に増加し、2011年には350例以上と倍増している。このように、TAVIは従来の外科によるSAVRを脅かすものではなく、今まで治療できなかった患者群が治療対象となる、まさに内科・外科両者にとって“win-win”の手技である。またSAVRに対するTAVI件数の割合も増加しており、2011年にはSAVRの半分ほどに達している。現時点では弁の耐用年数などまだ明らかになっていない点があるものの、TAVIの重要性は急激に増加している。TAVIは内科・外科が“heart team”として共同してあたる手技であり、冠動脈疾患の歴史を繰り返すことなく、われわれの手で両者にとっての共存の場にしていくことが重要であろう。図4 Institut Cardiovasculaire Paris SudにおけるTAVI導入後の外科的大動脈弁置換術とTAVI症例数の推移画像を拡大するTAVI導入後、外科的大動脈弁置換術の症例数は倍増している。将来への展望筆者が2009年から3年間留学していたフランスのMassyという町にあるInstitut Cardiovasculaire Paris Sud(ICPS)という心臓血管センターでは2006年よりTAVIを開始している。当初は22-24Frの大口径シースを用いた大腿動脈アクセスに対し外科的なcutdownを用いていたが、2008年からは穿刺と止血デバイス(Prostar XL)を用いた“true percutaneous approach”に完全移行している(図5)。 また2009年からは挿管せず全例局所麻酔と軽いセデーションのみでTF -TAVIを行っており、現在は“true percutaneous approach”と局所麻酔の両方を併せた“Minimally invasive TF -TAVI”として、良好な成績を収めている21)。このように局所麻酔とセデーションを用い、穿刺と止血デバイスを用いた“true percutaneous approach”は、経験を積めば安全で、高齢でリスクの高い大動脈弁狭窄症患者に対し、非常に低侵襲に大動脈弁を留置することができるたいへん有用な方法である。離床も早く、合併症がない場合の平均入院期間は1週間以下であるため、従来のSAVRに比べ大幅に入院期間を短縮でき、ADLを損なう可能性も低い。手技自体も、穿刺、止血デバイスを用いることから合併症がなければ1時間以内で終了し、通常の冠動脈インターベンション(PCI)のイメージと近くなっている。しかし、経験の初期は全TAVIチームメンバーのlearning curveを早く上げることが先決であり、無理をして最初から導入する必要はないが、次世代TAVIデバイスであるEdwards Sapien 3は14Frシースであるため、この方法が将来主流となってくる可能性が高い。筆者が2010年に参加したスイスで行われているCoreValveのtraining courseでは止血デバイスの使用法が講習に含まれており、特に超高齢者におけるメリットは大きく、今後日本でもわれわれが目指していくべき方向である。今年2013年でfirst in man1)からいまだ11年というたいへん新しい手技であり、弁の耐久性など長期成績が未確定であるものの、今後急速に普及しうる手技である。日本においてはEdwards Lifesciences社のSapien XTを用いたPREVAIL Japan trialが終了し、早ければ2013年度中にも同社のTAVIデバイスの保険償還が見込まれている。また現在、Medtronic社のCoreValveも治験が終了しようとしており、高リスクな高齢者に対するより低侵襲な大動脈弁治療のために、早期に使用可能となることが望まれる。現在ヨーロッパを中心とした海外では、Sapien、CoreValveなどの第1世代デバイスの弱点を改良した、もしくはまったく新しいコンセプトの第2世代デバイスが続々と誕生し、使用されつつある。いくつかのデバイスはすでにCEマークを取得しているか、もしくはCEマーク取得のためのトライアル中であり、今後急速に発展しうるたいへん楽しみな分野である。図5 18Fr大口径シースに対する止血デバイス(Prostar XL)を用いたtrue percutaneous approach画像を拡大するA:造影ガイド下に総大腿動脈を穿刺する。B:シース挿入前に止血デバイス(Prostar XL)を用い、糸をかける(preclosure technique)。C:弁留置後シース抜去と同時にknotを締めていく。D:非常に小さな傷しか残らず終了。おわりに本稿ではTAVIの現状と将来への展望について概説した。TAVI適応となるような高リスクの患者群ではminor mistakeがmajor problemとなりうるため、綿密なスクリーニングと経験のあるインターベンション専門医による丁寧な手技による合併症の予防がたいへん重要である。また、ヨーロッパではすでに2007年にCEマークが取得され、多くの症例が治療されているが、いまだこの分野の知識の発展は激しく日進月歩であり、解明すべき点が多く残っている。日本におけるTAVI導入はデバイスラグの問題もあり遅れているが、すでに世界で得られている知見を生かし、また日本人特有の繊細なスクリーニング、手技により必ず世界に誇る成績を発信し、リードすることができると確信している。そのためには“Team Japan”として一丸となってデータを発信していくための準備が必要であろう。文献1)Cribier A et al. Percutaneous transcatheter implantation of an aortic valve prosthesis for calcific aortic stenosis: first human case description. Circulation 2002; 106: 3006-3008. 2)Gilard M et al. Registry of transcatheter aorticvalve implantation in high-risk patients. N Engl J Med 2012; 366: 1705-1715. 3)Watanabe Y et al. Transcatheter aortic valve implantation in patients with small body size. Cathether Cardiovasc Interv (in press). 4)Pasic M et al. Rupture of the device landing zone during transcatheter aortic valve implantation: a life-threatening but treatable complication. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 424-432. 5)Hayashida K et al. Successful management of annulus rupture in transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2013; 6: 90-91. 6)Abdel-Wahab M et al. Aortic regurgitation after transcatheter aortic valve implantation: incidence and early outcome. Results from the German transcatheter aortic valve interventions registry. Heart 2011; 97: 899-906. 7)Tamburino C et al. Incidence and predictors of early and late mortality after transcatheter aortic valve implantation in 663 patients with severe aortic stenosis. Circulation 2011; 123: 299-308. 8)Kodali SK et al. Two-year outcomes after transcatheter or surgical aortic-valve replacement. N En gl J Me d 2 012; 36 6: 1686-1695. 9)Hayashida K et al. Impact of post-procedural aortic regurgitation on mortality after transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2012 (in press). 10)Schultz CJ et al. Cardiac CT: necessary for precise sizing for transcatheter aortic implantation. EuroIntervention 2010; 6 Suppl G: G6-G13. 11)Messika-Zeitoun D et al. Multimodal assessment of the aortic annulus diameter: implications for transcatheter aortic valve implantation. J Am Coll Cardiol 2010; 55: 186-194. 12)Piazza N et al. Anatomy of the aortic valvar complex and its implications for transcatheter implantation of the aortic valve. Circ Cardiovasc Interv 2008; 1: 74-81. 13)Schultz C et al. Aortic annulus dimensions and leaflet calcification from contrast MSCT predict the need for balloon post-dilatation after TAVI with the Medtronic CoreValve prosthesis. EuroIntervention 2011; 7: 564-572. 14)Willson AB et al. 3-Dimensional aortic annular assessment by multidetector computed tomography predicts moderate or severe paravalvular regurgitation after transcatheter aortic valve replacement a multicenter retrospective analysis. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1287-1294. 15)Jilaihawi H et al. Cross-sectional computed tomographic assessment improves accuracy of aortic annular sizing for transcatheter aortic valve replacement and reduces the incidence of paravalvular aortic regurgitation. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1275-1286. 16)Hayashida K et al. Impact of CT-guided valve sizing on post-procedural aortic regurgitation in transcatheter aortic valve implantation. EuroIntervention 2012; 8: 546-555. 17)Zamorano JL et al. EAE/ASE recommendations for the use of echocardiography in new transcatheter interventions for valvular heart disease. Eur Heart J 2011; 32: 2189-2214. 18)Genereux P et al. Vascular complications after transcatheter aortic valve replacement: insights from the PARTNER (Placement of AoRTic TraNscathetER Valve) trial. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1043-1052. 19)Hayashida K et al. Transfemoral aortic valve implantation: new criteria to predict vascular complications. J Am Coll Cardiol Intv 2011; 4: 851-858. 20)Toggweiler S et al. Percutaneous aortic valve replacement: vascular outcomes with a fully percutaneous procedure. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 113-118. 21)Hayashida K et al. True percutaneous approach for transfemoral aortic valve implantation using the Prostar XL device: impact of learning curve on vascular complications. JACC Cardiovasc Interv 2012; 5: 207-214.

533.

大気汚染微粒子状物質の長期暴露による冠動脈疾患発生リスク増大への警鐘(コメンテーター:島田 俊夫 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(179)より-

これまで大気汚染微粒子状物質(PM)の暴露による冠動脈疾患への影響に関しては、米国、英国などからすでに報告があり、大気中のPM2.5, coarse PM(2.5-10.0), PM10の一定増量分/m3が冠動脈疾患イベントを増大させる、させないと一見矛盾したものも散見される。世界中で大気汚染の問題は年々深刻さの度合いを増し、とくにアジアにおいては、経済発展に伴いPMの健康被害の問題は避けて通れない大きな社会問題となっている。本論文はBMJ2014年1月21日号に掲載された時流を反映した論文であり、私見を加えコメントする。 本研究は、汚染された大気に含まれる微粒子状物質による人体健康被害に関する有害事象の中で、冠動脈疾患について焦点を当てた大規模疫学研究をヨーロッパの5ヵ国(フインランド、スエーデン、デンマーク、ドイツ、イタリア)から集め、11コホートデータを前向きに集計したものである。従来とは異なり、米国のPM2.5に対する環境制限基準値(12μg/m3)よりもはるかに高い独自の環境制限基準値(25μg/m3)を使い、ESCAPE計画として、冠疾患の既往歴の無いEU共同体の広範な地域に住む約10万人を平均11.5年間追跡している。 微粒子状物質と急性冠動脈疾患イベント発生に関して特異的ハザード比を算出して、社会人口統計学的および生活習慣リスク因子を補正した上で、第二ステップとして大気汚染物質の一定増量分当たりについて、プールランダムエフェクトメタ解析を行った結果、PM2.5に関しては年間5μg/m3の上昇で冠動脈イベントリスクは13%増大(ハザード比:1.13、95%信頼区間:0.98-1.30)し、5,157例/115万4,386人年に冠動脈疾患イベントが発生した。PM10に関しても年間10μg/m3の上昇で同リスクは12%増大(ハザード比:1.12 、95%信頼区間:1.01-1.25)した。 本研究からPMが冠動脈疾患イベントのリスクを増大させることが明らかになり、それ以外の大気汚染物質(窒素酸化物、煤煙等)も同様にイベントを増大させる可能性が高く、これまでの報告が冠動脈疾患イベントを過小評価していたことを明らかにした。 この論文はPMの冠動脈疾患のリスク増大を単に取り上げた報告というよりも、むしろ全身臓器のリスク増大を反映した健康被害報告の氷山の一角を示している。PMの環境制限基準値に関しても、より低値でさえ健康被害が発生する可能性をこの論文から読み取ることができる。さらに、使用されたコホートが本来大気汚染疫学のために計画されたものではないため、多少の制限はあるとしても、既存コホートを有効かつ計画的に利用し、メタ解析を完遂できたことは賞賛に値する。

534.

PM2.5/PM10の長期曝露、冠動脈リスク増大と相関/BMJ

 イタリア・ラツィオ州保健局のGiulia Cesaroni氏らは、ヨーロッパの大気汚染曝露コホート研究(ESCAPEプロジェクト)に参加する11コホート・約10万人を平均11.5年追跡したデータを解析した結果、大気中の粒子状物質いわゆるPM2.5やPM10などへの長期曝露と冠動脈イベント発生とが相関していることを明らかにした。その関連は、現在ヨーロッパで定められている制限基準値(PM2.5は年間25μg/m3未満、PM10は40μg/m3未満)以下でも認められたという。結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、現状の基準値が死亡率だけを考慮したもので過小評価されていることを示し、基準値を引き下げることを支持するものである」と報告している。BMJ誌オンライン版2014年1月21日号掲載の報告。ヨーロッパ5ヵ国10万166例を平均11.5年間追跡 研究グループは、大気中汚染物質による長期曝露の急性冠動脈イベント発生への影響を調べるため、ESCAPEプロジェクトに参加する11コホート(フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、イタリアから参加)の前向きに集めたデータをメタ解析にて評価した。解析には、1997~2007年に登録された冠動脈イベント非既往10万166例が組み込まれた。平均追跡期間は11.5年だった。 2008~2012年に自宅を起点に測定した大気中の粒子状物質<2.5μm(PM2.5)、2.5~10μm(粗いPM)、

535.

「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!」と私は教えられました(コメンテーター:中川 義久 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(133)より-

私が急性心筋梗塞(AMI)の治療について、これまで教えられ、自分自身も若手医師に教えていることは、「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!他の病変は落ちついてから日を改めて治療しろ!」でした。自分にとっては疑いもない正論と信じていた内容に疑問符を投げかける研究結果が発表されました。それが、PRAMI研究です。オランダのアムステルダムで開催されたESC 2013で発表され、同時にNEJM誌に掲載されました。 AMIの代表的な病態である、ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者において、梗塞の責任血管のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行に比べて、引き続いて責任血管以外の狭窄への予防的PCIを施行することによって、心血管イベントを65%低下させると報告しています。責任血管以外にPCIの適応病変があると術者が判断する患者を、梗塞責任病変の治療に成功した時点で、カテ室の中においてランダマイズしたものです。 日本でPCIに携わる者の感覚では、急性期に責任血管のみへのPCIを施行した患者は、その入院中に他枝にPCIを施行してから退院させることが通常です。したがって、この研究のデザインを次のように誤解してしまうのです。つまり、緊急PCI時に一期的に予防的PCIまで行う群と、緊急手技と待機的手技に分けて入院中に治療した群を比較した研究と、先入観をもって考えがちです。 しかし、この研究においては、staged PCIは極力避けるようにデザインされ、厳しく制限されています。つまり、責任病変のみの治療を行った群と、責任病変を含む完全血行再建を行った群を比較した試験ともいえます。この面では、「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!他の病変は落ちついてから日を改めて治療しろ!」という教えの、完全血行再建を図るように、という部分は正しさが再確認されたといえます。 一方で、本研究には先進性もあります。それは、PCIの技術や器具の進歩によって、責任血管の再開通に成功した患者において、引き続いて他枝に同時にPCIを施行しても、十分に耐えられる患者群がいるという事実です。その観点からは、私が疑ったことがなかった教えは打ち破られたといえます。 先人から教えられたことにも、常に修正や改善の余地がないかを考え続けることの大切さを教えられた、価値ある論文です。

536.

PCI前の血栓吸引、STEMI患者の予後を改善しない/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の血栓吸引はPCI単独に比べ、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の予後を改善しないことが、スウェーデン・エーレブルー大学病院のOle Frobert氏らが実施したTASTE試験で示された。STEMI患者に対する初回PCI前の冠動脈内血栓吸引は、血流やST上昇を改善する可能性があり、簡便で迅速に施行可能で、相対的に安価との指摘があるが、これは一般的な見解ではないという。1,071例を対象に単施設で行われたTAPAS試験では、STEMI患者における生存ベネフィットが示唆されているが、むしろ高額であるとの指摘や、脳卒中リスクを増大させるとのメタ解析の結果が報告されていた。本研究は、2013年9月1日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で発表され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。血栓吸引追加の効果をレジストリに基づく無作為化試験で評価 TASTE試験は、STEMI患者に対するPCI前の血栓吸引の有用性を評価する非盲検の前向き無作為化試験で、患者登録やデータ収集にSwedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry(SCAAR)と呼ばれるオンラインシステムに基づく地域住民ベースのレジストリを利用している。 対象は、冠動脈造影所見によりPCIの施行が予定されているSTEMI患者で、入院前に30分以上持続する心筋梗塞を疑わせる胸痛がみられ、症状発現から24時間以内、心電図検査で新たなST上昇または左脚ブロックを認めた場合とした。 被験者は、血栓吸引後にPCIを施行する群またはPCIのみを行う群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は30日全死因死亡とした。全死因死亡率:2.8 vs 3.0%、心筋梗塞再発による再入院率:0.5 vs 0.9% SCAARに参加する30のPCI施設(スウェーデン29施設、アイスランド1施設)およびデンマークの1施設から合計7,244例が登録され、血栓吸引群に3,621例(平均年齢66.5歳、男性75.1%、症状発現からPCI施行までの時間中央値185分、心電図による診断からPCI施行までの時間中央値67分)が、PCI単独群には3,623例(65.9歳、74.6%、182分、66分)が割り付けられた。 30日全死因死亡率は、血栓吸引群が2.8%(103例)、PCI単独群は3.0%(110例)で、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.63)。事前および事後に規定されたサブグループ解析でも、有意差のあるサブグループは認めなかった。 30日後までの心筋梗塞の再発による再入院率は、血栓吸引群が0.5%、PCI単独群は0.9%(HR:0.61、95%CI:0.34~1.07、p=0.09)で、ステント血栓症の発症率はそれぞれ0.2%、0.5%(同:0.47、0.20~1.02、p=0.06)であり、いずれも両群間に有意な差はみられなかった。 標的病変の血行再建術の施行率(1.1 vs 1.2%、p=0.57)や、脳卒中または神経学的合併症の発症率(0.5 vs 0.5%、p=0.87)も、両群間で同程度であった。 著者は、「PCI前の血栓吸引はSTEMI患者の30日死亡率を改善しなかった」とし、「レジストリベースの無作為化試験には、患者選択基準の幅が広いため臨床的適用性が拡大する、フォローアップ率が高く脱落例が少ないなどの利点があるが、本試験の場合は固有の限界点があるため、参加者がすべての患者を完全に代表しているとはいえない」と指摘している。

537.

DPP-4阻害薬、糖尿病の虚血性イベント増減せず/NEJM

 DPP-4阻害薬サキサグリプチン(商品名:オングリザ)は、心血管イベント既往またはリスクを有する2型糖尿病患者の治療において、心不全入院率は上昇するが虚血性イベントは増大も減少もしなかったことが、米国・ハーバードメディカルスクールのBenjamin M. Scirica氏らによるSAVOR-TIMI 53試験の結果、示された。著者は「サキサグリプチンは糖尿病患者において、血糖コントロールを改善するが、心血管リスクを低下させるにはその他のアプローチが必要である」と結論している。本研究は、2013年9月2日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。1万6,492例を対象にサキサグリプチンの有効性と安全性を評価 SAVOR-TIMI 53試験は、心血管イベントリスクを有する患者の心血管アウトカムについてサキサグリプチンの有効性と安全性を評価する第4相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験。対象は、HbA1c 6.5~12.0%で心血管イベントの既往またはリスクを有する2型糖尿病患者であった。 26ヵ国788施設において1万6,492例の被験者が1対1の割合で、サキサグリプチン(5mg/日、eGFR≦50mL/分の患者は2.5g/日)を投与される群(8,280例、平均年齢65.1歳、女性33.4%、2型糖尿病罹病期間中央値10.3年、HbA1c 8.0%、BMI平均値31.1)またはプラセボを投与される群(8,212例、65.0歳、32.7%、10.3年、8.0%、31.2)に割り付けられ、中央値2.1年間(最長2.9年間)追跡を受けた。なお担当医は、血糖降下薬を含むその他の薬物を調整することが許されていた。 主要エンドポイントは、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の複合であった。心不全による入院は増大するが、その他の虚血性イベントは増減せず 主要エンドポイントの発生は、サキサグリプチン群613例、プラセボ群609例であった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で7.3%対7.2%、サキサグリプチンのハザード比は1.00(95%信頼区間[CI]:0.89~1.12)だった(優越性p=0.99、非劣性p<0.001)。この結果は、治療継続(投与を中止しなかった)患者における解析でも同様であった(ハザード比:1.03、95%CI:0.91~1.17、p=0.60)。 主要副次複合エンドポイント(心血管死・心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症入院・冠動脈再建術・心不全)の発生は、サキサグリプチン群1,059例、プラセボ群1,034例だった。発生率は2年時Kaplan-Meier推定値で12.8%、12.4%で、サキサグリプチンのハザード比は1.02(95%CI:0.94~1.11)だった(p=0.66)。 個別にみた副次エンドポイントでは、心不全による入院について有意差がみられ、プラセボ群よりもサキサグリプチン群のほうがより発生が多かった(3.5%対2.8%、ハザード比:1.27、95%CI:1.07~1.51、p=0.007)。 急性膵炎(サキサグリプチン群0.3%、プラセボ群0.2%)および慢性膵炎(両群とも0.1%)と診断された割合は、両群で同程度であった。 以上の結果から著者は、「DDP-4阻害薬サキサグリプチンは、心不全による入院を増大したが、虚血性イベントは増大も減少もしなかった。サキサグリプチンは血糖コントロールを改善するが、2型糖尿病の患者において心血管リスクを低下させるには、その他のアプローチが必要である」と結論している。

538.

自閉症スペクトラム障害への薬物治療、国による違いが明らかに

 香港大学のYingfen Hsia氏らは、自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する処方薬の状況を多国間レベルで明らかにするため、IMS Prescribing Insightsのデータベースを用いた分析を行った。その結果、成人に比べ小児患者に対する処方率が高いこと、国により処方薬に違いがみられることなどを報告した。Psychopharmacology誌オンライン版2013年9月5日号の掲載報告。 これまでに、米国あるいは英国からASDに対する向精神薬処方に関する研究が報告されているが、それらの研究内容は必ずしも他国に当てはまらない可能性がある。研究グループは、エビデンスが欠如している地域を明らかにするため、ASD治療における精神薬理学的処方の範囲を多国間レベルで理解しておく必要があるとして本研究を行った。IMS Prescribing Insightsのデータベースを用いて、2010~2012年の成人および小児ASDにおける 向精神薬処方パターンを検討した。データは、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)、南米(メキシコ、ブラジル)、北米(カナダ、米国)、アジア(日本)から収集した。 主な結果は以下のとおり。・北米諸国での処方率が最も高く、次いでヨーロッパ諸国、南米の順であった。また、各国とも、処方率は成人に比べ小児のほうが高かった。・若年ASDに対して最も多く処方されていた薬剤は、英国と日本を除き、リスペリドンであった。英国で最も多く処方されていたのはメチルフェニデート、日本ではハロペリドールであった。・成人に対して最も多く処方されていたのは、リスペリドンをはじめとする抗精神病薬であった。なお、ブラジルではチオリダジン(国内販売中止)、米国ではジプラシドン(国内未承認)が抗精神病薬として最も多く処方されていた。・国により処方薬に違いがみられる点について著者は「診断基準、臨床ガイドラインあるいは保険制度によるものだと思われる」と指摘したうえで、「ASD患者に対する多くの向精神薬について、有効性と安全性のエビデンスが欠如している。処方のギャップを縮小するための研究が求められる」とまとめている。関連医療ニュース 自閉症スペクトラム障害に対するSSRIの治療レビュー 新たな選択肢か?!「抗精神病薬+COX-2阻害薬」自閉症の治療  自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か?

539.

DPP-4阻害薬、糖尿病の心血管リスク増大せず/NEJM

 新規DPP-4阻害薬アログリプチン(商品名:ネシーナ)は、直近の急性冠症候群(ACS)既往歴のある2型糖尿病患者の治療において、心血管リスクを増加させずに糖化ヘモグロビン(HbA1c)を改善することが、米国・コネチカット大学のWilliam B. White氏らが行ったEXAMINE試験で示された。糖尿病患者では、血糖値の改善により細小血管合併症リスクが低下する可能性があるが、大血管イベントへの良好な効果は示されておらず、米国FDAをはじめ多くの国の監督機関は、新規の抗糖尿病薬の承認前後で、心血管系の安全性プロフィールの包括的な評価を求めている。本研究は、2013年9月2日、オランダ・アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌に掲載された。心血管アウトカムをプラセボとの非劣性試験で評価 EXAMINE試験は、ACSの既往歴を有する2型糖尿病患者における、アログリプチンのプラセボに対する心血管アウトカムの非劣性を評価する二重盲検無作為化試験。対象は、HbA1c 6.5~11.0%(インスリン投与例は7.0~11.0%)で、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬以外の抗糖尿病薬の投与を受け、割り付け前15~90日にACS(急性心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症)を発症した2型糖尿病患者であった。 被験者は、2型糖尿病および心血管疾患の標準治療に加えて、アログリプチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントであり、ハザード比(HR)の非劣性マージンは1.3に設定された。 アログリプチンの投与量は、ベースラインの推定糸球体濾過量に基づき71.4%には25mg/日が投与され、25.7%は12.5mg/日、2.9%は6.25mg/日の投与を受けた。最長40ヵ月、中央値18ヵ月のフォローアップが行われ、投与期間中央値は533日だった。約50ヵ国900施設、5,000例以上で、安全性を確認 2009年10月~2013年3月までに日本を含む49ヵ国898施設から5,380例が登録され、アログリプチン群に2,701例(年齢中央値61.0歳、男性67.7%、2型糖尿病罹病期間中央値7.1年、HbA1c 8.0%、BMI中央値28.7)、プラセボ群には2,679例(61.0歳、68.0%、7.3年、8.0%、28.7)が割り付けられた。 主要評価項目の発生率はアログリプチン群が11.3%(305例)、プラセボ群は11.8%(316例)であり、HRは0.96、信頼区間(CI)上限値は1.16であり、アログリプチンはプラセボに対し非劣性であった(非劣性:p<0.001、優越性:p=0.32)。 主要評価項目に入院後24時間以内の不安定狭心症による緊急血行再建術を加えた副次的評価項目の発生率は、アログリプチン群が12.7%(344例)、プラセボ群(359例)は13.4%であり、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.95、CI上限値:1.14、優越性:p=0.26)。 ベースラインから試験終了までのHbA1cの変化率は、アログリプチン群が-0.33%、プラセボ群は0.03%であり、最小二乗平均差は-0.36(95%CI:-0.43~-0.28)と有意な差が認められた(p<0.001)。 重篤な有害事象の発生率は、アログリプチン群が33.6%、プラセボ群は35.5%(p=0.14)であり、低血糖、がん、膵炎、透析導入の頻度にも両群間に差はなかった。 著者は、「アログリプチン投与により、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中がプラセボよりも増加することはなかった」とまとめ、「これらのデータは、心血管リスクが著しく高い2型糖尿病患者の治療において、抗糖尿病薬を選ぶ際の指標として有用と考えられる」と指摘している。

540.

新規抗凝固薬、ワルファリンに非劣性-静脈血栓塞栓症の再発-/NEJM

 経口第Xa因子阻害薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)は、症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、有効性がワルファリンに非劣性で、安全性は優れていることが、オランダ・アムステルダム大学のHarry R Buller氏らが行ったHokusai-VTE試験で示された。VTEは、心筋梗塞や脳卒中後にみられる心血管疾患として3番目に頻度が高く、北米では年間70万人以上が罹患しているという。従来の標準治療は低分子量ヘパリン+ビタミンK拮抗薬だが、ヘパリンの前投与の有無にかかわらず、新規経口抗凝固薬の有効性が確立されている。本研究は、2013年9月1日、アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。最大1年投与の有用性を非劣性試験で評価 Hokusai-VTE試験は、ヘパリンを投与された急性VTE患者の治療において、エドキサバンのワルファリンに対する非劣性を評価する二重盲検無作為化試験。対象は、年齢18歳以上で、膝窩静脈、大腿静脈、腸骨静脈の急性症候性深部静脈血栓症(DVT)または急性症候性肺塞栓症(PE)の患者とした。 被験者は、非盲検下にエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを5日以上投与された後、二重盲検、ダブルダミー下にエドキサバンまたはワルファリンを投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンの投与量は60mg/日とし、腎機能障害(Ccr:30~50mL/分)、低体重(≦60kg)、P糖蛋白阻害薬を併用している患者には30mg/日が投与された。投与期間は3~12ヵ月で、治験担当医が患者の臨床的特徴や意向に応じて決定した。 有効性の主要評価項目は症候性VTEの発症率、安全性の主要評価項目は大出血または臨床的に重大な出血の発症率であり、ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定することとした。重症PE患者ではVTE発症が48%低減 2010年1月~2012年10月までに日本を含む37ヵ国439施設から8,292例が登録され、エドキサバン群に4,143例、ワルファリン群には4,149例が割り付けられた。治療を受けなかった患者を除く、それぞれ4,118例(DVT 2,468例、PE 1,650例、平均年齢55.7歳、男性57.3%、体重≦60kg 12.7%、Ccr 30~50mL/分 6.5%)、4,122例(2,453例、1,669例、55.9歳、57.2%、12.6%、6.6%)がmodified intention-to-treat集団として解析の対象となった。 12ヵ月間の治療が施行されたのは40%であった。エドキサバン群の服薬遵守率は80%であり、ワルファリン群の治療域(INR:2.0~3.0)達成時間の割合は63.5%だった。 有効性の主要評価項目は、エドキサバン群が3.2%(130例)、ワルファリン群は3.5%(146例)で、HRは0.89、95%CIは0.70~1.13であり、非劣性マージンが満たされた(非劣性のp<0.001)。安全性の主要評価項目は、エドキサバン群が8.5%(349例)、ワルファリン群は10.3%(423例)で、HRは0.81、95%CIは0.71~0.94と、有意な差が認められた(優越性のp=0.004)。他の有害事象の発症率は両群で同等であった。 PE患者のうち938例が右室機能不全(NT-proBNP≧500pg/mL)と判定された。この重症PEのサブグループにおける主要評価項目の発症率はエドキサバン群が3.3%と、ワルファリン群の6.2%に比べ有意に低値であった(HR:0.52、95%CI:0.28~0.98)。 著者は、「重症PEを含むVTE患者に対し、ヘパリン投与後のエドキサバン1日1回経口投与は、有効性が標準治療に劣らず、出血が有意に少なかった」とまとめ、「本試験では、有効性の評価は治療期間の長さにかかわらず12ヵ月時に行われており、実臨床で予測されるアウトカムをよりよく理解できるデザインとなっている」と指摘している。

検索結果 合計:606件 表示位置:521 - 540