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糖尿病でのパクリタキセルDES vs.エベロリムスDES/NEJM

 糖尿病患者への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で、パクリタキセル溶出ステント(PDES)はエベロリムス溶出ステント(EDES)に対し、非劣性を示すことができなかったことを、インド・Fortis Escorts Heart InstituteのUpendra Kaul氏らが、1,830例の糖尿病患者を対象に行った試験の結果、報告した。1年後の標的血管不全発症率は、パクリタキセル群が5.6%に対し、エベロリムス群が2.9%と低率だったという。NEJM誌オンライン版2015年10月14日号掲載の報告より。心臓死、標的血管起因の心筋梗塞などで定義した標的血管不全発症率を比較 研究グループは、糖尿病で冠動脈疾患がありPCIを実施予定の1,830例を無作為に2群に分け、一方にはPDESを、もう一方にはEDESを留置した。 主要エンドポイントは、心臓死・標的血管起因の心筋梗塞・虚血による標的血管血行再建術のいずれかの発症で定義した標的血管不全だった。PDES群のEDES群に対する標的血管不全の相対リスク1.89 結果、1年時点の主要エンドポイント発生率は、PDES群が5.6%に対しEDES群が2.9%と、リスク差は2.7ポイント(95%信頼区間:0.8~4.5)、相対リスクは1.89(同:1.20~2.99)、非劣性p=0.38と、PDESのEDESに対する非劣性は示されなかった。 1年後の標的血管不全は、PDES群で有意に高率で(p=0.005)、自然発症心筋梗塞発症率もPDES群3.2%に対しEDES群1.2%(p=0.004)、ステント血栓症発症率はそれぞれ2.1%と0.4%(p=0.002)、標的血管血行再建術率は3.4%と1.2%(p=0.002)と、いずれもPDES群で高率だった。

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SERVE-HF試験:心不全治療にASVは有害か?(解説:絹川 弘一郎 氏)-433

 先ごろ、ESC(欧州心臓病学会)で発表されると同時にNEJM誌に掲載されたASV(Adaptive servo-ventilation)に関するSERVE-HF試験1)について、私見を述べる。 陽圧呼吸補助は、もともと閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療として開発されてきたものであるが、中枢性睡眠時無呼吸症候群にも有効ではないかとの考えから、CPAPを中枢性睡眠時無呼吸症候群の心不全患者に施行したCANPAP試験2)が以前行われた。  CANPAP試験では、CPAPの明らかな有効性を示すことはできなかったが、その際AHI指数を15未満に低下させた群には有効である可能性がサブ解析3)で認められたため、より調整力の高いASVを用いて、中枢性睡眠時無呼吸症候群を有するEF45%以下の心不全患者において、AHI指数を10未満とする目標値において有効性の検証を試みたのがこの試験である。 しかし、今回もASVによる有効性が認められなかったばかりか、むしろ死亡を増加させるという意外な結果となった。中枢性睡眠時無呼吸症候群に対して、AHI指数をマーカーにASV治療を行うと陽圧をかけすぎる傾向にあり、予後は良くないということがわかった。一方、わが国においてASVは無呼吸症候群をターゲットとした使用ではなく、心不全患者一般に対する適応となっている。 先ごろ、わが国においてEF40%以下の心不全患者を前向き無作為割り付けしたSAVIOR-C試験4)の結果が報告され、2次エンドポイントであるが、ASVにより自他覚症状の改善が有意に得られていた。SAVIOR-C試験では、陽圧は初期設定を超えているものはほとんどいなかった。 多くの日本の循環器内科医は、ASVの心不全患者に対する有効性を経験的に感じていると思うが、大規模に前向き無作為割り付けをして得たエビデンスには乏しいものがあった。SAVIOR-C試験でもASVが有効という証明にはならず、SERVE-HFではむしろ悪いということになり、少なくともASVの使用については対象や方法を再検討していく必要がある。

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循環器内科 米国臨床留学記 第2回

第2回:日米における循環器専門医トレーニング 臨床と研究の両方において、日本の循環器医師のレベルは非常に高いと米国でも認識されていますので、お前はわざわざ米国でなんのためにトレーニングを繰り返しているんだといつも聞かれます。答えにはいつも困っています。日本の循環器の先生はどこの病院に行っても、遅くまで残業し、臨床や研究に励んでいました。そういった姿を見て、自分の中でも循環器医の心構えが育ったと思います。このように、日本の循環器は現状のトレーニングでも優れた医師が輩出されているわけですが、問題点がないわけではないと思います。今回は、日米の長所、短所を比較しながら、これからの専門医教育の課題を考えてみました。日本の循環器専門医教育の長所誰でも循環器医になれる! 日本の医者には、職業選択の自由があります。つまり、循環器を含め、どの医者もなりたい専門医になれる。他の国と比べても、これは非常に恵まれている点だと思います。米国に来て、循環器医になりたくても諦めている人などを見ると、本当に幸せなことだと痛感します。専門医の意義 米国>日本 日本では循環器専門医を取得した瞬間、一人前と見なされるというわけではありませんから、専門医を取ったからといって、医局を辞めて独立をする人は少ないでしょう。また、開業医においても、循環器専門医がなくても、循環器と標榜できるのが現状で、専門医を持つことの意義が低いような気がします。徒弟制度 徒弟制度には、修業年限はありません。師匠が少しずつフェードアウトし、気がつけば1人で手技をさせてもらっている。逆に言えば、何年経とうが、師匠が認めない限り、一人前とは認められない。人によって成長のスピードが違うことを考えると、何年間で一人前になると決められ、フェローシップ終了後に独立を義務付けられる米国の制度のほうがおかしいようにも思います。市中病院:インターベンションなどの臨床トレーニングのスピードが早い 一概に、日本の循環器専門医トレーニングと言っても、市中病院と大学病院で大きく異なると思います。研修医の頃、私の中で、循環器=インターベンションのイメージがありました。 実際、日本の市中病院では冠動脈造影、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)に重きが置かれる傾向があると思います。多くの市中病院では若手に積極的にカテをさせて、5年目ぐらいには基本的なPCIを行えるようになることが多いと思います。また、緊急カテーテルのオンコールを5~6人の循環器医でうまく回すためには、早く一人前になってもらわないと困るという実情もあると思います。若い医師もPCIなどの経験が積める病院に集まる傾向があるようです。慶応大学の香坂先生らの報告(Am J Cardiol.2014;114:629-634.)によると、卒後10年以内の若い循環器医のトレーニングに対する満足度は、冠動脈造影、PCI、エコーなどの症例数と大きく関係することが示されています。大学病院系列:豊富で幅広い症例・専門家による指導 逆に、大学病院や国立循環器病研究センター病院(国循)などでPCIを5年目がメインで行うというのは少し難しいと思いますが、大学病院や国循のような大きな施設には市中病院にない大きなメリットがあります。 医師6-7年目を過ごした国立循環器病センター研究病院(NCVC)東京都済生会中央病院、NCVCというタイプの異なる二つの病院で、素晴らしい指導医や仲間に出会え、有意義な研修を送ることができました。 第一に、肺高血圧、重症心不全、遺伝性疾患などのまれな症例を診る機会もあり、幅広いトレーニングが期待できます。また、各サブスペシャルティの専門家から直接指導を受けられます。実際、私も不整脈に関する知識や手技をもっと重点的に修練したいと感じ、国循に移動しました。その国循で、レジデント達∗が心エコーやリハビリなどに関して、手厚い指導をトップクラスの先生から受けているのを見て、うらやましく感じたのを覚えています。 ∗国循では循環器の基礎的な訓練を3年間で受けます。初期研修を終えた、3年目以降で応募でき、レジデントといいます。立場的には米国で言うフェローに当たると思います。研究の機会 大学や国循では、基礎研究、臨床研究のチャンスもあります。各専門分野の指導者もおり、循環器学会やAHA、ACC、ESCなどの国際学会での発表や一流雑誌への掲載といった可能性もあり、研究者として大きく羽ばたけるチャンスがあります。日本の循環器専門医教育の問題点曖昧な施設基準・膨大な研修施設 日本には循環器フェローシッププログラムというものは存在しませんが、専門医となるには3年間以上認定施設でトレーニングを受ける必要があります。表1)に日本の専門医施設の基準を示しました。2名以上で指導が十分な体制とあります。何をもって十分とするのかそもそも曖昧です。日本循環器学会のホームページによると日本全国で1,000近くの循環器研修施設がありますが、人口が倍以上の米国で180しかないことを考えると、いかに日本の認定施設が米国に比して多いかがわかります。これだけあると、すべての施設で十分な教育ができているかは疑問の余地があります。研修施設に名乗りを上げないと、若い医師が獲得できないという事情もあると思います。Common diseaseへの偏り 一部の有名な市中病院を除くと、市中病院では、冠動脈疾患、不整脈、心不全、末梢血管、心エコー、リハビリテーションなどの循環器のサブスペシャルティの専門医を揃えることは難しく、結果として、循環器のcommon diseaseである冠動脈疾患や心不全に偏ったトレーニングにならざるを得ない側面もあると思います。さまざまな症例を経験することも大切です。市中病院から国循などに来ると、3年間のトレーニングで見たことがないような症例に出くわします。たとえ、将来的にその疾患を自ら治療する機会がないとしても、一度の経験がその後の臨床の助けになることがあります。ほぼ義務化された研究・大学院 大学にも問題点はあります。先ほど挙げましたが、手技などのトレーニングは大学自体で数多くこなすのは難しそうです。恵まれた医局に所属していれば、関連病院でその点は十分に挽回できるでしょう。また、医局では研究や博士号の取得はほぼ義務化されています。これはメリットでもありますが、臨床で研鑽を積みたい人にとっては、4年間の大学院生活はデメリットにもなりえます。米国のフェローシップの長所指導者の数の保障 米国ではプログラムディレクターに加えて、3人以上のKey Clinical Facultyが必要、つまり最低でも4人の指導教官が必要ということになります2)。また、フェロー3人に対して2人のKey Clinical Facultyが義務付けられているので、実際、University hospitalなどの施設では10人以上の指導教官がいることがほとんどです。手厚い教育・確保された症例数 先ほど述べましたように、米国には、180しか循環器フェローシッププログラムがなく、毎年850人しか循環器フェローになれません。そうすることで全米のCardiologistの数をコントロールしています。狭き門ですが、一度入ると手厚い教育が保障されます。どちらかというと、米国のフェローシップは日本の大学や国循のような特徴を有していると思いますが、それに加えて、経験症例数が確保されており、雑用が少なく、トレーニングに集中できる環境が整っています。米国のフェローシップの問題点狭き門=Cardiologistになれない? 第1回でお話ししましたが、循環器フェローシップは狭き門であり、Cardiologistになれない可能性があります。外国人は半分以下、米国人でも85%ほどしかCardiologistになれません。10年以上かけて苦労して内科医になったうえで、やりたいことができないのは、ある意味悲惨です。段階を超えて、次のトレーニングへ進めない サブスペシャルティがあることから、いくら優秀でも循環器フェローシップ中は基本的には高度なPCIやアブレーションのトレーニングを開始することはできません。トレーニングが終わったら一人前 フェローシップを卒業した瞬間、どんなに手技が下手でも、一人前と見なされます。同じ病院の先輩も含めて、もはや、誰も助けてくれません。インターベンションやEP(不整脈)のフェローを卒業したものの、就職先で使い物にならず、クビになるという話はよくあります。日本が取り入れたほうが良いと思われる点 現状でも、日本の循環器医は世界のトップクラスであり、結果としては問題ないのかもしれませんが、私の経験を基に、以下の点を今後の日本の循環器専門医トレーニングが検討すべき課題として挙げました。経験症例数の保障 冠動脈造影や心エコーの能力は症例数で決まるものではありませんが、専門医教育を評価するうえで、トレーニング中にどのくらいの症例が経験できるかは最低限保証されるべきだと思います。また、選ぶ側は症例数を基にどこのプログラムで研修を行うかを決める指標ともなります。学年当たりのフェローの数の明確化 症例数を保証するなら、おのずとフェローの数も明確にしなければならないと思います。同じ学年のフェローが増え過ぎると当然、症例数も減ります。ただ、無制限に人を受け入れなければいけない日本の医局制度と相いれるかは微妙なところです。フェローによるプラグラムの評価 フェローによるプログラムの評価は必須です。ただ、医局に所属している医局員が自分の医局のプログラムを批評するようなことは、日本では難しいのかもしれません。公的な機関による積極的なプログラムへの評価・指導 公的な機関がフェローの意見を聞き、教育体制が不十分なプログラムの指導や廃止をすることも必要です。終わりに 医局制度との絡みなど難しい問題はありますが、米国の良いところのみを参考にして、日本の良さを残した、日本独自の優れた専門医教育が発展してほしいと思います。 次回も、もう少し具体的にアメリカのトレーニングについて触れたいと思います。 参考文献 1) 日本循環器学会.日本循環器学会認定循環器専門医制度規則.日本循環器学会ホームページ.(参照 2015-09-21). 2) ACGME. ACGME Program Requirements for Graduate Medical Education in Cardiovascular Disease (Internal Medicine). Accreditation Council for Graduate Medical Education. (accessed 2008-08-25).

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FFRの賞味期限と消費期限を知っていますか?(解説:中川 義久 氏)-420

 小生は、天理よろづ相談所病院で循環器内科の部長を務めさせていただいておりますが、実は、栄養部部長も兼任しております。食事を通じて患者さんの健康を増進するために、管理栄養士や調理師の方々と共に頑張っております。栄養部で学んだ言葉に「賞味期限」と「消費期限」があります。それぞれの言葉は耳にしたことがあっても、その言葉の定義や違いを明確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。 賞味期限とは、未開封の状態で表示されている保存方法に従って保存したときに、おいしく食べられる期限を示します。賞味期限内においしく食べましょう。ポイントは、賞味期限を過ぎても食べられなくなる訳ではないことです。スナック菓子、缶詰など、冷蔵や常温で保存がきく食品に表示されます。 消費期限とは、未開封の状態で表示されている保存方法に従って保存したときに、食べても安全な期限を示します。消費期限を過ぎた食品は食べないほうが良いとされます。生クリームを使用したケーキや弁当など、長く保存がきかない食品に表示されます。閑話休題 FAME試験の5年追跡の結果が、ロンドンで開催されたESC Congress 2015で発表されました。この結果はLancet誌に同時掲載されています。 FAME試験は、PCIが予定されている多枝冠動脈疾患患者において、FFR(冠血流予備比:狭窄血管の最大血流量/正常血管の最大血流量比)を指標として冠動脈病変の生理的意義を評価して、機能的に虚血が証明された病変に対してのみPCIを施行することで、予後が改善すると同時に医療費が削減できるという結果を報告したものです。 従来は、造影所見に基づく解剖学的狭窄度に応じて病変を同定していましたが、FFRに基づく機能的完全血行再建の有用性を示した点で、画期的な報告でした。死亡・心筋梗塞・血行再建術再施行の複合エンドポイントで定義される主要有害心イベントは、1年の時点で造影ガイド群の18%に比べて、FFRガイド群において13%と有意に低いことが主論文として報告されています(p=0.02)1)。今回の5年の追跡結果では、主要有害心イベントには有意差はなく、それぞれ31%と28%でした(p=0.31)。両群の差は、主に初期の3ヵ月間に生じ2年まで拡大し、それ以降は並行線をたどっていました。多枝疾患患者において、FFRガイドPCIの長期の有効性と安全性が確認されたと結論付けています。 この結果の小生の解釈は、FFRによる評価の「賞味期限」は2年間、「消費期限」は5年以上であるというものです。FFRガイドPCIが造影ガイドPCIに比べて有意に優ることが担保される期間、つまり、おいしく食べることができる期間は2年間であるといえます。今回の報告で新たに確認されたことは、2年を過ぎて少なくとも5年まではFFRガイドPCIの有効性と安全性が示されたことです。つまり、食べても大丈夫な期間は5年以上あるということです。この賞味期限と消費期限の例えが良い例えかどうかわかりませんが、栄養部部長として妙に気に入っている私です。皆さんの評価はいかがでしょうか?

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Vol. 4 No. 1 HFpEF駆出率の保たれた心不全に対する診断と治療を考える

山本 一博 氏鳥取大学医学部病態情報内科HFpEFとは左室駆出率が保持された心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)という概念が定着してきたのはこの10年程度と日が浅く、いまだ全容は明らかとなっていない。疫学調査の結果から明らかにされている特徴は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction)と比較して高齢者と女性の占める割合が高いことである。地域住民を対象とした調査のなかで心不全患者のEFの分布をみると二峰性を示し、2つの峰の間にある“谷”に当たる位置のEFの値は、HFrEFとHFpEFを臨床的に分けているEFのカットオフポイントにあたる1)。このような結果をみるとHFrEFとHFpEFは異なる病態として扱うべきと考えられる。HFpEFの診断HFpEF診断の基本は心不全であることの臨床診断左室駆出率が保持されているが、左室拡張機能障害が認められるである。1. 心不全の臨床診断心不全に伴う自覚症状や他覚所見には、心不全に特異的なものがない。現在のところ血中Bタイプナトリウム利尿ペプチド(BNPないしNT-proBNP)の濃度が上昇している場合は、心不全に基づく症状や所見の可能性が高いと判断することになる。この基準値であるが、BNPでは100pg/mL、NT-proBNPであれば400pg/mLが目安になると思われる。2. 左室流入血流速波形を用いた拡張機能評価に関する誤解以前より左室流入血流速波形が拡張機能の指標として用いられてきたが、ここに大きな認識の誤りがある。左室駆出率が低下している症例においてE/Aは左室充満圧と正比例しE波の減衰時間(DT)は左室充満圧と負の相関を示すことから2)、拡張機能障害のために二次的に生じている左室充満圧上昇の検出を通じて間接的に左室拡張機能障害の評価に左室流入血流速波形は用いうる。一方、HFpEFのように左室駆出率が保持されている症例では、E/AやDTは左室充満圧と相関しない2)。つまり、左室流入血流速波形をワンポイントで計測しても、拡張機能障害のために二次的に起きてくる左室充満圧上昇の有無を判断することは不可能である。では、左室流入血流速波形のみを用いて直接的に拡張機能を評価できるか? 答えは「NO」である。E/Aの低下は拡張機能障害を表すかのようにいわれているが、これを裏づけるデータはほとんどない。1980年代にKitabatakeらが心疾患患者においてE/Aの低下やDTの延長が認められることを報告し3)、その後、左室拡張機能障害、特に弛緩障害が起きるとE/Aが低下しDTが短縮するという研究結果が報告されたこともあり、E/Aの低下とDTの延長を認めれば左室弛緩障害を有していると判断できると信じ込まれてきた。確かに左室弛緩障害が起きるとE/Aは低下しDTは延長するとはいえるが、E/Aが低下しDTが延長していれば弛緩障害が存在するとはいえない。これまでに行われてきた多くの臨床研究の結果をみると、E/Aと左室弛緩評価のゴールドスタンダードである時定数Tauとの間には相関を認めないとする報告がほとんどである。最近わが国で集められた臨床データをみても、E/Aが低下している症例であってもTauは異常値ではない症例が少なくないことが示されている4)。3. 左室駆出率が保持された患者における拡張機能評価これについては、確立した指標がない。現段階で受け入れられている、左室充満圧上昇の検出に用いうる指標としてパルスドプラ法で記録する左室流入血流速波形のE波と、組織ドプラ法で記録する急速流入期の僧帽弁輪部運動のピーク速度e’の比(E/e’)の上昇肺静脈血流速波形および左室流入血流速波形の心房収縮期波の幅の差の増加左房径/容積の増加E波とe’波の開始時間の差であるTE-e’、連続波ドプラにおいて左室流入血流速波形と左室流出路波形を同時記録して求める等容性弛緩時間IVRTの比(IVRT/TE-e’)の低下Valsalva法により急速前負荷軽減を行った際のE/Aの過大な低下などが挙げられるが、いずれの指標も単独で用いうるほどの信頼性はない。また、心エコー図検査は安静時にデータ収集を行っているので、これらを用いて診断できるのは病期がある程度進行し安静時から左房圧が上昇している患者のみである。安静時に左房圧は上昇しておらず、労作時に拡張機能障害により急激な左房圧上昇を来すために運動耐容能が低下している患者も少なくなく(図1)、このような患者を診断するには左室拡張機能(主に左室弛緩とスティフネス)を直接的に評価する必要がある。図1 労作時の左室拡張末期容積および拡張末期圧の変化のシェーマ画像を拡大する左室弛緩を直接的に評価しうる指標としてe’が挙げられる。e’は左室弛緩障害により減高し、簡便に記録できるので臨床的にも有用性が高い。また、弛緩障害はe’波の開始を遅らせるため、E波の開始とe’波の開始の時間差であるTE-e’もTauと相関すると報告されている。左房容積は左房圧と相関をするので、純粋に拡張機能だけを反映しているとはいえないが、左室拡張機能障害による慢性的な左房負荷を反映して左房が拡大することから、拡張機能評価における左房容積は糖尿病評価におけるHbA1cのような位置づけにあるとも考えられている5)。American Society of Echocardiographyから出されているガイドラインにおいて、拡張機能障害の有無を検出するfirst lineの指標として用いられているのはe’と左房容積である6)。一方、HFpEF発症には左室弛緩障害以上に左室スティフネス亢進が寄与しており、その評価が重要であると考えているが、確立した非侵襲的評価法がない。われわれは拡張期の左室壁心外膜面の動きに着目した7)。線形弾性理論に基づくと、“やわらかい”物質と“硬い”物質に圧を加えた場合、圧を加えた面の反対面の動きが前者に比べ後者では大となる。この法則を左室自由壁の拡張期の動きに当てはめ(図2)、かつ簡便化した定量的指標がであり、心筋スティフネス係数と有意な負の相関関係にある。DWS低値は糖尿病患者においてHFpEF発症の独立した危険因子であること8)、HFpEF患者においてDWSは、年齢、性、E/e’、左室駆出率、左室重量係数、肺動脈圧、血中BNP濃度とは独立した予後規定因子であることも明らかにした9)。ただし、まだ広く受け入れられている指標ではないので、今後の検討が必要である。間接的に左室拡張機能障害の存在を示唆する形態的な異常所見が左室肥大である。ただし、HFpEF症例の60%では左室肥大は存在しないので、左室肥大が存在しないからといって拡張機能障害を否定することはできない。図2 「やわらかい」左室自由壁と「硬い」左室自由壁のM-モード画像を拡大するHFpEFの治療基礎疾患として高血圧を有する患者では血圧コントロールが必須である。虚血性心疾患患者では、虚血が自覚症状の原因と判断されれば血行再建を行う。心房細動で心室レートが過剰に亢進している場合には、これを抑える薬剤を用いる。このような基礎疾患に対する治療ないし対症療法を除き、HFpEFに特異的な治療として有効性が確立しているものは現段階ではない。1. 利尿薬HFpEFの自覚症状に体液貯留が関与している場合は、自覚症状軽減を目的として、つまり代表的な対症療法として利尿薬を用いる。利尿薬の選択については、わが国で実施したJ-MELODIC試験の結果を考慮すると、短時間作用型のフロセミドよりも長時間作用型のアゾセミドを選択するほうが好ましい10)。利尿薬は、現在認識されているように単に自覚症状を軽減することだけを目的として使用する薬剤なのか否かを検討する余地がある。心不全入院歴がなく、かつ心不全症状を認めない患者において利尿薬を中断すると、1年以内に再開せざるをえなくなる患者が少なくない11)。われわれの検討において、HFpEF患者を多く含むクリニカルシナリオ1の病態を呈する急性心不全は冬季発症が多く(本誌p.17図を参照)、冬季に発症が増える危険因子はループ利尿薬を服用していないことであるという結果が導かれた12)。心不全増悪のほとんどは心拍出量の低下ではなくうっ血によるものであり、その原因となる左室充満圧上昇はある程度進行しなければ臨床所見として捉えることができない13)。したがって、現在のように症状を基準として利尿薬の投与を中止した場合、まだ左室充満圧が上昇している状況、つまり心不全発症リスクが十分に低下していない状況での利尿薬中止に至る。心不全の増悪を繰り返すことが、結果的に病態の悪化を招くことは広く知られているところであり、このような病態の“揺れ”を招かない心不全コントロールを行うには、安易な利尿薬の中止は避けるべきかもしれない。2. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害これまでの介入試験の結果に基づき、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害はHFpEFには有効性が期待できないと結論づけられているが、果たしてその結論を安易に受け入れてよいものであろうか?アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はHFpEFに対して無効であるという結果を提示したI-PRESERVE試験のサブ解析は、投与開始前のNT-proBNP値が低い患者ではARBは有用であることを示唆している14)。I-PRESERVE試験より軽症の患者を多く含むCHARM-Preserved試験では、ARBは心不全悪化による入院リスクを有意に低下させている15)。PEP-CHF試験では追跡1年経過後に多くの症例が割付治療から逸脱していたため90%の症例が割付治療を行っていた割付後1年目の時点での解析を行うと、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与群で1次エンドポイント発生率は低下傾向を認め、心不全入院は有意に減少し、NYHA心不全機能分類および6分間歩行も有意に改善した16)。さらに最近発表された大規模観察研究では、ACEIないしARBの服用はHFpEFの予後改善に結びつくとの結果が示されている17)。アルドステロンの作用を抑制するミネラロコルチコイド受容体拮抗薬のHFpEFにおける有用性を検討したTOPCAT試験は2014年に結果が発表された18)。スピロノラクトンは設定された1次エンドポイント(心血管死、突然死、心不全入院)の低下をもたらさなかったが、心不全入院は有意に減少させている。TOPCAT試験の対象患者もNYHAⅡ度の比較的軽症の患者が多い。以上の介入試験の主論文の結論からは、ARB、ACEI、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬はHFpEFに無効という意見が導かれるが、日常診療においてHFpEF患者の抱える大きな問題の1つが高い再入院率であることなども念頭においたうえでこのようなサブ解析の結果を眺めると、これらの薬剤に効果を期待できる患者群が存在すると推察すべきではないかと考える。3. β遮断薬HFrEF治療で有用性が確立しているβ遮断薬のHFpEFにおける効果を検討した介入試験はほとんど行われていなかったが、わが国で実施したJ-DHF試験の結果を2013年に発表した。カルベジロール投与群と非投与群の比較ではイベント発生率に差異を認めなかったが、カルベジロール群をカルベジロール投与量中間値の7.5mg/日で分けて検討したところ、7.5mg/日より大の投与群では心血管死ないし心血管系の原因による入院という複合エンドポイント発生率を有意に低下させていた(本誌p.18図を参照)19)。この結論はDobreらの観察研究から導かれた結論とも一致しており20)、現在進行中のβ-PRESERVE試験の結果が待たれる。4. 非心臓因子に着目した薬物治療HFpEFの重症化には非心臓因子も関与しており、その点に焦点をあてる治療法の有用性にも期待がかかる。しかしこれまでのところ、肺血管抵抗低下作用のあるphosphodiesterase-5阻害薬のシルデナフィル、貧血改善目的で使用されるエリスロポエチンには有用性が確認されなかった。おわりに以上、HFpEFの診断と治療について概説した。治療法については、ARBとneprilysin阻害薬の作用を有するLCZ696、イバブラジンなどの効果を検討する臨床試験が進行中であり、それらの結果に期待したい。文献1)Dunlay SM et al. Longitudinal changes in ejection fraction in heart failure patients with preserved and reduced ejection fraction. Circ Heart Fail 2012; 5: 720-726.2)Yamamoto K et al. Determination of left ventricular filling pressure by Doppler echocardiography in patients with coronary artery disease: critical role of left ventricular systolic function. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1819-1826.3)Kitabatake A et al. Transmitral blood flow reflecting diastolic behavior of the left ventricle in health and disease--a study by pulsed Doppler technique. Jpn Circ J 1982; 46: 92-102.4)Yamada S et al. Limitation of echocardiographic indexes for the accurate estimation of left ventricular relaxation and filling pressure: interim results of SMAP, a multicenter study in Japan (in Japanese). Jpn J Med Ultrasonics 2012; 39: 449-456.5)Douglas PS. The left atrium: a biomarker of chronic diastolic dysfunction and cardiovascular disease risk. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1206-1207.6)Nagueh SF et al. Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 2009; 22: 107-133.7)Takeda Y et al. Noninvasive assessment of wall distensibility with the evaluation of diastolic epicardial movement. J Card Fail 2009; 15: 68-77.8)Takeda Y et al. Competing risks of heart failure with preserved ejection fraction in diabetic patients. Eur J Heart Fail 2011; 13: 664-669.9)Ohtani T et al. Diastolic stiffness as assessed by diastolic wall strain is associated with adverse remodelling and poor outcomes in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J 2012; 33: 1742-1749.10)Masuyama T et al. Superiority of long-acting to short-acting loop diuretics in the treatment of congestive heart failure. Circ J 2012; 76: 833-842.11)Walma EP et al. Withdrawal of long-term diuretic medication in elderly patients: a double blind randomised trial. BMJ 1997; 315: 464-468.12)Hirai M et al. Clinical scenario 1 is associated with winter onset of acute heart failure. Circ J 2015; 79: 129-135.13)Gheorghiade M et al. Assessing and grading congestion in acute heart failure: a scientific statement from the acute heart failure committee of the heart failure association of the European Society of Cardiology and endorsed by the European Society of Intensive Care Medicine. Eur J Heart Fail 2010; 12: 423-433.14)Anand IS et al. Prognostic value of baseline plasma amino-terminal pro-brain natriuretic peptide and its interactions with irbesartan treatment effects in patients with heart failure and preserved ejection fraction: findings from the I-PRESERVE trial. Circ Heart Fail 2011; 4:569-577.15)Yusuf S et al. Effects of candesartan in patients with chronic heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction: the CHARMPreserved Trial. Lancet 2003; 362: 777-781.16)Cleland JGF et al. The perindopril in elderly people with chronic heart failure (PEP-CHF) study. 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PADIS-PE試験:ワルファリンをいつ中止するのが良いのか?~特発性肺血栓塞栓症の初発患者の場合(解説:西垣 和彦 氏)-398

 ワルファリンは、いわば“両刃の剣”である。深部静脈血栓症(DVT)を含めた静脈血栓塞栓症(VTE)による肺血栓塞栓症(PE)予防の有効性は顕著であるが、抗血栓薬自体の宿命でもある出血も、しばしば致命的となる症例も少なくない。したがって、メリットとデメリットを十分に勘案し、最大限の効果が得られる抗凝固療法継続期間を求めることには必然性がある。 PEの抗凝固療法継続期間に関して、昨年出された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次のように記載されている。1)PEの患者には少なくとも3ヵ月は抗凝固療法を行うこと。2)抗凝固療法中止後のPE再発の危険性は、抗凝固薬を6ヵ月ないし12ヵ月で中止しても、3ヵ月で中止した場合と同程度である。3)無制限の抗凝固療法は、再発性VTEのリスクを約90%減少させるが、大出血の発症リスクを年1%以上上昇させ、メリットを部分的に相殺する。 一方、リスクのない特発性PEに関しては、抗凝固療法中止後の再発率が高いため、出血のリスクを勘案したうえでより長期間の継続が望ましいと記載されているだけで、具体的にいつまで継続するかに関して記載がなく、担当医の判断とされている。 今回PADIS-PE試験は、この特発性PEに関して、建設的な見解を出した。それは、(1)抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、手術などの一時的なリスクにより起因するVTEよりも再発リスクが高くなる、(2)さらに3~6ヵ月延長すると、治療継続中は再発リスクが抑制される結果から、より長期の抗凝固療法が求められたことである。 そもそも、未知の凝固線溶系異常患者を含み、人種差も大きい凝固線溶系であるからこそ、PADIS-PE試験で組み入れた特発性PEの観察対象者自体がすでに異質であり、この結果をそのまま受諾するのは、いささか早計ではある。しかし、PEの再発防止目的でより長期の抗凝固療法を行うことは、賛同できる結果ではないだろうか。 重要なことは、(1)PT-INRをより適切な治療域に保つ努力を怠らないこと、(2)ワルファリンの特質を、医師と患者の双方が十分に理解し、密な相互の関係を築くことである。そのうえで、再発率が高い下肢静脈近位側にDVTが残存している症例や、抗凝固療法中止1ヵ月後のDダイマーが高値である症例などに関しては、無期限の抗凝固療法も視野に入れた、より長期間の抗凝固療法継続を行うべきと考えられる。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 高血圧とのかかわり

川添 晋 氏鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に、心血管疾患のリスクになることが次々と報告され、メタボリックシンドロームの一翼としての尿酸の重要性が認識されるようになってきた。最近では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることや、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制される可能性を示唆する報告もなされている。本稿では、血圧上昇や高血圧性臓器合併症と尿酸との関連を疫学と機序の両面から概説するとともに、高血圧症を合併した高尿酸血症に対する薬物治療を行う際の注意すべき点について解説する。高尿酸血症と高血圧血圧上昇と血清尿酸値との疫学の歴史は意外に古い。1800年代後半には、痛風の家族歴を持つ高血圧患者が多いことや、低プリン食が高血圧と心血管病を予防することが報告されている。最近の報告では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることが国内外の疫学調査から明らかとなっている。米国における国民健康栄養調査にて、血清尿酸値が上昇するにつれて高血圧の有病率は上昇し、血清尿酸値6.0mg/dL以下では24.5%であるのに対して10.0mg/dLでは84.7%に高血圧が合併していた1)。わが国における調査でも、高血圧患者は男性で34.1%、女性で16.0%に高尿酸血症が合併していたと報告されている2)。高尿酸血症と高血圧発症に関する国内外11研究の成績をまとめたメタアナリシスでは、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1mg/dL の尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%上昇するとの結果であった3)(本誌p.29図を参照)。尿酸値上昇自体が高血圧のリスクとなることが明確に示されたことになる。また小規模の研究ではあるが、アロプリノールによる尿酸降下療法にて24時間血圧が有意に下がるとの介入試験の結果も報告されている4)。尿酸が血圧を上昇させるメカニズムについてもさまざまな知見が得られている(本誌p.30図を参照)5)。尿酸によるNO(一酸化窒素)産生低下とレニン・アンジオテンシン系の産生亢進を伴った血管内皮機能低下に起因した腎血管収縮により血圧が上昇すると報告されている6, 7)。このタイプの高血圧は、食塩抵抗性で尿酸値を下げることにより降圧を認めることが特徴であるが6)、別のタイプもあることが推察されている。高尿酸血症は動脈硬化性変化による腎微小循環障害をきたし、塩分感受性で腎依存性、血清尿酸値非依存性の高血圧が形成される8)。微小循環の損傷に起因する病態においては、直接尿酸が血管平滑筋細胞に対して増殖反応を促し、レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、CRPや単球走化性蛋白-1(MCP-1)といった炎症関連物質の産生を刺激することが報告されている9)。高血圧性臓器合併症と尿酸日本高血圧学会やヨーロッパ高血圧学会のガイドラインでは、高血圧性臓器合併症の有無でリスクの層別化を行うことを推奨している。Viazziらは、このような臓器合併症の重症度と血清尿酸値との関連性を横断研究にて検討している。これによると、ヨーロッパ高血圧学会のガイドラインに準拠した高血圧性臓器合併症が重症になるにしたがって、血清尿酸値が高値となっていくことが示されている。さらに古典的心血管危険因子で補正後も、心肥大や頸動脈不整の危険因子となることが示唆されている。またSystolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP)10)やThe Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension(LIFE)11) といった大規模臨床試験のサブ解析において、血清尿酸値と心血管イベントの発症との間に関連があることが示されている。われわれは669名の本態性高血圧症を対象に前向きに検討を行い、尿酸値が心血管疾患と脳卒中の発症の予測因子となるかどうかの検討を行った12)。平均7.1年のフォローアップ期間に脳卒中71例、心血管疾患58例が発生し、64例が死亡した。生存曲線では、尿酸値が最も高かった群(8.0mg/dL以上)では有意に脳卒中と心血管疾患の発症が多く(p=0.0120)、死亡率も高かった(p=0.0021)。古典的な心血管疾患のリスク因子で補正した後も、血清尿酸値は心血管疾患(相対リスク1.30, p=0.0073)、脳卒中および心血管疾患(相対リスク1.19, p=0.0083)、死亡(相対リスク1.23, p=0.0353)、脳卒中および心血管疾患による死亡(相対リスク1.19, p=0.0083)の有意な予測因子であった(本誌p.31図を参照)。また、血清尿酸値が心血管疾患リスクに与える影響は、女性においてより強かった。しかしながら、大規模疫学調査のなかには、Framingham Heart研究13)やNIPPON DATA 8014)のように、他の心血管危険因子で補正を行うと血清尿酸値の心血管死に対する影響が減弱するか喪失すると結論づけている報告もいくつか認められる。また血清尿酸値と心血管疾患の間のJカーブ現象の報告もあり15)、この分野に関しては今後のさらなる検討が必要と考えられる。高血圧治療の最終的な目標は臓器合併症、すなわち心血管イベント発症や腎機能悪化に伴う透析などの回避であることはいうまでもない。臓器合併症予防のためには、蓄積されつつある知見を踏まえて、血圧のみならず血清尿酸値も含めた管理を行う必要がある。高血圧症例における高尿酸血症の管理高血圧患者における血清尿酸値上昇が腎障害や心血管事故発症と関連することから、日本痛風・核酸代謝学会による『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』16)に準じて、総合的なリスク回避をめざした6・7・8ルールに基づく尿酸管理が推奨されている(本誌p.32図を参照)。高尿酸血症を合併する高血圧では、血清尿酸値7mg/dL以上でエネルギー摂取制限、運動習慣、節酒等の生活指導を開始する。8mg/dL以上では、生活習慣の修正を行いながら尿酸降下薬の開始を考慮する。降圧療法中の血清尿酸値の目標は6mg/dL以下をめざす。この際、降圧剤が尿酸代謝に及ぼす影響も考慮することが望まれる(本誌p.32図を参照)。サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は高尿酸血症を増長し、痛風を誘発することがあるため注意が必要である。Ca拮抗薬とロサルタンは高血圧患者の痛風発症リスクを減少させることが知られている17)。大量のβ遮断薬およびαβ遮断薬の投与は血中尿酸値を上昇させる。ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬は血清尿酸値を低下させるという報告と、影響を与えないとする報告がある。ARBの1つであるロサルタンは、腎尿細管に存在するURAT1の作用を阻害することによって血中尿酸値を平均0.7mg/dL低下させる18, 19)。重症高血圧患者におけるβ遮断薬のアテノロールに対するロサルタンの標的臓器保護作用の有意性を示したLIFEでは、ロサルタンの降圧を超えた臓器保護作用のうち29%は尿酸値の改善によることが示唆されている11)。最近使用頻度が増えているARB/利尿薬合剤には、ヒドロクロロチアジド6.25mgまたは12.5mgが使用されているが、尿酸管理の観点からはより低用量の製剤を使用するか、尿酸排泄増加作用を有するARBであるロサルタンを含む合剤の使用が望ましい。高血圧合併高尿酸血症患者の病型は排泄低下型が多いことから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬が有用であることが多い。キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、これまで唯一の尿酸生成抑制薬として40年間にわたり全世界で用いられてきた。しかしアロプリノールの活性代謝産物であるオキシプリノールは腎排泄性であり、血中半減期が長く体内に蓄積しやすいため、腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇し20)、汎血球減少症などの重篤な副作用の出現に関係するとされる。高血圧患者には腎機能低下を合併する症例が多いためアロプリノール使用に関してはこの点に注意が必要である。本邦において2011年から臨床使用可能となったフェブキソスタットは、肝腎排泄型であるため腎機能障害者においても用量調節が不要であるとされている。おわりに高尿酸血症が高血圧発症や心血管疾患のリスク因子であるというエビデンスが蓄積されてきている。高血圧診療の場では、糖尿病や脂質異常症などの既知のリスクに加えて、尿酸値も意識して総合的な管理を行うことが求められている。文献1)Choi HK et al. Prevalence of the metabolic syndrome in individuals with hyperuricemia. Am J Med 2007; 120: 442-447.2)宮田恵里ほか. 高血圧患者における高尿酸血症の実態と尿酸動態についての検討. 血圧 2008; 15: 890-891.3)Grayson PC et al. Hyperuricemia and incident hypertension: a systematic review and meta-analysis. Arthritis Care Res 2011; 63: 102-110.4)Feig DI et al. Effect of allopurinol on blood pressure of adolescents with newly diagnosed essential hypertension: a randomized trial. JAMA 2008; 300: 924-932.5)大野岩男. 高血圧のリスクファクターとしての尿酸. 高尿酸血症と痛風 2010; 18: 31-37.6)Mazzali M et al. Elevated uric acid increases blood pressure in the rat by a novel crystal-independent mechanism. Hypertension 2001; 38:1101-1106.7)Sanches-Lozada LG et al. Mild hyperuricemia induces vasoconstriction and maintains glomerular hypertension in normal and remnant kidney rats. Kidney Int 2005; 67: 237-247.8)Watanabe S et al. Uric acid, hominoid evolution,and the pathogenesis of salt-sensitivity. Hypertension 2002; 40: 355-360.9)Johnson RJ et al. 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専門情報をいち早く!「Medscape」を日本語で読める

先月、株式会社ケアネットはMedscapeを運営するWebMDと業務提携をいたしました。これに伴い、世界最大級の医療情報サイトMedscapeの最新記事の一部をCareNet.comにおいて日本語で読むことができるようになりました。最新の医療情報をいち早くキャッチアップするとともに、世界のオピニオンリーダーの意見も把握できます。CareNet.comのMedscapeコーナーをぜひご活用ください。循環器領域の記事はこちらがん領域の記事はこちらMedscapeとはMedscape(http://www.medscape.com/)は、245ヵ国、400万人以上の医師が利用する世界最大級の医療情報サイト。30を超える専門領域で月350本以上の医療ニュースなどの記事が配信されています。Medscapeから厳選した最新記事を日本語で配信・論文レビュー・専門医による論文解説・主要学会の取材レポートやオピニオンリーダーによる総括・オピニオンリーダーへのインタビュー動画などを日本語に翻訳してお届けします。CareNet.comに掲載されているMedscape記事の一部をご紹介Medscape Cardiology ESC:経皮的弁輪形成術は僧房弁逆流を伴う心不全の安全かつ有効な治療となりうる IMPROVE-IT:ACS患者でのezetimibeによるLDL低下の有益性が示される※毎週火・木曜日更新Medscape Oncology ASCO:全脳放射線治療のリスクとベネフィット   ASCO:palbociclibは内分泌療法耐性に対する新たな手段となるか ※毎週月・水曜日更新

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抗精神病薬とアディポネクチン低下の関連明らかに

 統合失調症患者における第2世代抗精神病薬(SGA)服用と代謝異常との関連が、イタリア、ミラノ・ビコッカ大学のFrancesco Bartoli氏らによるメタ解析の結果、明らかにされた。所見を踏まえて著者らは、「SGAがアディポネクチンに影響するメカニズムは不明のままだが、心血管疾患ではアディポネクチン低下が関与しており、今回の所見は臨床的に重要な意味を持つ」と述べ、SGAのアディポネクチンへの長期的な影響を評価する経時的検討を行うべきと指摘している。Psychoneuroendocrinology誌2015年6月号の掲載報告。 統合失調症患者は一般集団と比べて、代謝異常の悪影響を受けやすく、そのリスクはSGAによって増大すると考えられている。血中アディポネクチン値の低下は、代謝異常に結び付く可能性があるが、統合失調症患者におけるエビデンス、とくにSGAの影響については結論が出ていない。研究グループは、システマティックレビューとメタ解析にて、統合失調症患者と健康対照の血中アディポネクチン値を比較し、統合失調症とSGAのアディポネクチンへの相対的影響を推算した。主要電子データベースで、2014年6月13日までに公表された観察研究を検索し、指数および対照群とのプール標準化平均差(SMD)を算出。サブ解析および付加的サブグループ分析を行い評価した。 主な結果は以下のとおり。・2,735例のデータ(統合失調症患者群1,013例、非患者群1,722例)を解析に組み込んだ。・統合失調症と、アディポネクチン低値との関連は認められなかった(SMD:-0.28、95%信頼区間[CI]:-0.59~0.04、p=0.09)。・しかし、SGAを服用している統合失調症患者は、対照群と比べて血中アディポネクチン値が有意に低かった(p=0.002)。薬物未使用/未治療の患者とでは有意差はなかった(p=0.52)。・単剤の抗精神病薬でみると、クロザピン(p<0.001)とオランザピン(p=0.04)の服用者は、対照群と比べてアディポネクチン低値との関連が有意であった。しかしリスペリドン服用者においては、関連が有意ではなかった(p=0.88)。関連医療ニュース 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 オランザピンの代謝異常、アリピプラゾール切替で改善されるのか 日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学  担当者へのご意見箱はこちら

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REVASCAT試験:脳梗塞の急性期治療に対する血栓回収療法の有効性と安全性が確立(解説:中川原 譲二 氏)-359

 2015年2月に、米国・ナッシュビルで開催された国際脳卒中学会議(ISC)では、急性期脳梗塞に対する、血栓回収療法の有効性を示す4件(MR-CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT-PRIME)のランダム化比較試験(RCT)の結果が一挙に報告され、脳梗塞の急性期治療は、t-PA静注療法の確立から20年目にして歴史的な転換点を迎えようとしている。 4月17日には、このうちのSWIFT-PRIME試験(メーカー主導試験)の詳細と、英国・グラスゴーで開催された欧州脳卒中機構(ESO)年次集会に合わせて報告された、スペイン・カタロニア地方で行われた新たなRCTであるREVASCAT試験(地域を単位とする医師主導試験)の詳細が、NEJM誌(オンライン版)に掲載された。 急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性は、(1)高い再開通率の得られるステント型リトリーバーデバイスの登場、(2)画像による迅速・的確な患者選択、(3)迅速な搬入と治療の開始、によって達成されたが、t-PA静注療法の確立以来、欧米先進国で取り組まれてきた1次脳卒中センター(PSC:Primary Stroke Center)や、包括的脳卒中センター(CSC:Comprehensive Stroke Center)の整備による診療インフラの集約化と高度化が、その背景にあることを忘れてはならない。 以下に、SWIFT-PRIME試験とREVASCAT試験の概要を示す。REVASCATの概要 背景:地域脳卒中再灌流療法登録の中に組み込まれたRCTにおいて、脳血栓回収療法の安全性と有効性を評価することが目的。方法:対象は、スペイン・カタロニア地方の4施設で2年間(2012年11月~2014年12月)に、発症後8時間以内にt-PA静注療法を含む内科治療+ステント型リトリーバー(Solitaire)を用いた血栓回収療法か、t-PA静注療法を含む内科治療単独が可能な206例を登録。すべての患者において前方循環の近位部に閉塞が確認され、画像検査で広範な脳梗塞は認められなかった。主要アウトカムは、mRS:modified Rankin Scale(スコア0:症状なし~スコア6:死亡)による90日後の全般的機能障害の重症度とした。同試験では、当初690例の登録を計画したが、血栓回収療法の有効性を示すほかの同様のRCTの報告を受け、早期に中止となった。 結果:血栓回収療法は、mRSの全般的スコア分布に対して、機能障害の重症度を有意に減少させた。1ポイントの改善のために調整オッズ比は1.7(95%信頼区間[CI]:1.05~2.8)であった。90日後にmRSスコア0~2点となった機能的自立患者の割合も内科治療群28.2%に対して、血栓回収療法群は43.7%と高かった。調整オッズ比は2.1(95%CI:1.1~4.0)であった。90日後の症候性頭蓋内出血は両群で1.9%(p=1.00)で、死亡率は内科治療群15.5%に対して、血栓回収療法群は18.4%(p=0.60)で、有意差はなかった。登録データによれば、適格条件に合致した8症例のみが、参加施設において試験外で治療された。 結論:発症後8時間以内に治療ができる前方循環近位部閉塞の患者では、ステント型リトリーバーを用いた血栓回収療法は、脳卒中後の機能障害の重症度を減少させ、機能的自立率を増加させる。SWIFT-PRIMEの概要 背景:前方循環の近位部閉塞による急性脳卒中患者では、t-PA静注療法単独で治療された場合の機能的自立が得られるのは40%以下である。t-PA静注療法に加えてステント型リトリーバーを用いた血栓回収療法は、再灌流率が上昇し、長期の機能的アウトカムを改善させる。方法:t-PA静注療法で治療された適格被験者を無作為に2群に分け、一方の群には、t-PA静注療法の継続のみを行い(対照群)、もう一方の群にはt-PA静注療法に加え、発症6時間以内にステント型リトリーバーを用いた血栓回収法を行った(介入群)。患者には、前方循環の近位部に閉塞が確認され、広範な脳梗塞コアは認められなかった。主要アウトカムは、90日後の全般的機能障害の重症度とし、mRS(スコア0:症状なし~スコア6:死亡)により評価した。 結果:試験は早期に有効性が確認されたため、予定よりも早く終了した。39ヵ所の医療機関で、196例が無作為化された(各群98例)。介入群では、画像診断評価から施術開始(鼠径部穿刺)までの時間(中央値)は57分、治療終了時点の再灌流率は88%であった。介入群では対照群に比べ、90日後のmRSのすべてのスコアで機能障害の重症度が低下した(p<0.001)。機能的自立率(mRS:0~2)も、対照群35%に対し介入群60%と、有意に高率だった(p<0.001)。90日時点の死亡率については、介入群9%に対し対照群12%(p=0.50)、症候性頭蓋内出血はそれぞれ0%と3%(p=0.12)と、いずれも両群で有意差はなかった。 結論:前方循環の近位部閉塞による急性期脳梗塞に対してt-PA静注療法を受けた患者では、発症6時間以内のステント型リトリーバーを用いた血栓回収療法は90日後の機能的アウトカムを改善させる。1次脳卒中センターや包括的脳卒中センターの整備が課題 t-PA 静注療法ですら、急性期脳梗塞の5~6%(欧州の一部では30%に到達)に留まるわが国では、地域を単位としてt-PA静注療法を24時間提供できる1次脳卒中センター(PSC)や血管内治療を24時間提供できる、包括的脳卒中センター(CSC)の整備を早急に進めることが課題である。脳卒中診療のインフラ改革に取り組まなければ、急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性を、一般診療に等しく汎化することは不可能ともいえる。脳梗塞の急性期治療には、地域や診療施設の総合力が求められるからである。

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葉酸補充で、脳卒中が減る-臨床試験デザインの重要さを、あらためて教えてくれたCSPPT試験(解説:石上 友章 氏)-352

 疫学や遺伝学研究から、MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)遺伝子多型や高ホモシステイン血症が、心血管疾患の発症リスクになることが知られていたが、葉酸やビタミンB12を使った介入試験によって、予後の改善やnutrientの有効性が証明されることはなかった1)。 探索的(exploratory)・記述的(descriptive)な研究から、あるリスクが、ある疾病に因果関係があるとされたとしても、それは仮説提示にとどまる。検証的(confirmatory)な試験によって、リスクに対する介入による、リスクの修正や是正が予後を改善することで、初めて因果関係が証明される。したがって、これまで高ホモシステイン血症やMTHFR遺伝子多型が、心血管疾患の真のリスクであることには懐疑的な考えが支配的であった。 本研究に先行する、2011年のHolmes氏らの研究2)ならびに、2013年の著者らのメタ解析3)から、高ホモシステイン血症やMTHFR遺伝子多型による脳卒中リスクは、血中葉酸濃度に影響を受けることが明らかになっていた。 本研究は、こうした先行研究を基に、従来の試験になかったデザインでランダム化二重盲検試験を計画し、葉酸摂取による脳卒中抑制効果を証明し、葉酸、高ホモシステイン血症、MTHFR遺伝子多型の関係を明らかにすることに成功した4)。本研究は、研究途中でデータ安全性モニタリング委員会が、介入群と非介入群との間に、統計学上看過することのできない有意差を認めたことから、予定された試験期間の終了を待たずに中止されるほどであった。画像を拡大する このグラフからは、低リスクとされるCC/CT遺伝子型で、血中葉酸濃度に依存した脳卒中リスクがあること、高リスクとされるTT遺伝子型では葉酸濃度の閾値が上昇することが示されている。本試験の結果から、心血管リスクとされたMTHFR遺伝子多型、高ホモシステイン血症は、葉酸欠乏が本態であり、部分的には葉酸補充により解消できるといえる。先天性ホモシステイン尿症と、MTHFR遺伝子多型による高ホモシステイン血症は、必ずしも同一の病態ではなかった。nutrientである葉酸の効果は、葉酸欠乏と遺伝子多型の影響を受けており、ベースラインでの葉酸の血中濃度測定と遺伝子型判定が重要になる。 本研究の限界としては、プロトコル遵守率がやや低いこと(両群とも69%)、脱落例が14%であることが挙げられるが、ITT解析、per-protocol解析でも、有意差の傾向は変わらなかった。平均年齢60歳という、比較的若年集団でありながら、エナラプリル群で年間約1%の脳卒中発生率をどう考えるか、著者らの主張では、脂質異常改善薬、抗血小板薬の併用が少ないことで、この差が出やすくなったとしている点は興味深い。

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【GET!ザ・トレンド】ステントで脳血栓を回収 脳血管内治療はここまで来た

脳血管内治療がさらに進歩している。今回は、同治療の第一人者である神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科部長 坂井 信幸氏に、その最新情報を聞いた。坂井氏によれば、脳動脈瘤や頸動脈などを含め脳血管内治療は、いまや年間2万件以上実施されているという。また、脳血管内治療専門医として認定された医師はおよそ950人だが、毎年100人程度増加しており、多くの医師が取り組み始めていることがわかる。脳血管内治療の進化脳の血管は細く屈曲蛇行し、なおかつデリケートで破れやすい。当然、挿入機器は細く柔らかく長いものになる。柔らかいものは押し込みにくいため、技術導入初期ではカテーテルの誘導そのものに苦労していたそうだ。その後の機器の開発は著しく、マイクロカテーテルは細く、滑りやすく、安全に脳血管に届くよう改良され、同時にガイドワイヤーなどの機器も大きく進化した。さらに、心臓などで用いられるステントも脳内に適用できるようになった。注目される局所線溶(再開通)療法この脳内ステントの登場により、さらに注目を浴びているのが局所線溶(再開通)療法だ。急性虚血性脳血管障害では、従来tPAで詰まった血栓を溶かすしか手段がなく、tPAの適応外症例や無効例には対応できなかった。tPAで対応できないこうした血栓を、血管内から挿入したワイヤー型やステント型のデバイスで回収し、再開通させるのが局所線溶(再開通)療法である。本邦では、中心循環系塞栓除去用カテーテル(Merciリトリーバー)が2010年に、ステント型血栓除去用カテーテル(Solitaire FR)が昨年(2014年)保険適用となっている。坂井氏の経験では、どちらも非常に速く血栓を確保し再開通できるという。この血管内カテーテル追加治療の有用性を確認すべく、いくつかの比較試験が最近行われている。まず昨年(2014年)12月にMR CLEAN1)試験が発表された。次いで本年(2015年)2月、ESCAPE2)、EXTEND-IA3)というSolitaire FRを用いた2つの無作為化比較試験の結果が発表された。ESCAPE試験においては、Solitaire FR追加群の機能的自立率はtPA単独群に比べ統計学的にも有意に改善(53%vs. 29%)。脳卒中による死亡率もtPA単独群に比べ2分の1近くとなり(10%vs. 19%)、統計学的にも有意に低減していた。(血管内治療の追加で脳梗塞の予後改善)。EXTEND-IA試験においては、tPA単独群に比べ機能的自立回復率が有意に改善(71% vs 40%)した。この両試験の結果は3月の日本脳卒中学会(STROKE2015)でも非常に大きな話題となったという。すべての適応患者に行われるべき局所線溶(再開通)療法これらの試験から局所線溶(再開通)療法の有用性が明らかとなった。可能な限り多くの適応患者にこの治療を受けてもらうため、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会は3学会の合同で所定の適正使用指針を定め、脳血管内治療専門医および、それに準じる経験を有する医師に対しても広く情報提供している。とはいえ、tPA自体もすべての適応患者に用いられているわけではなく、おのずと次段階で用いられる局所線溶(再開通)療法を受けられる患者はさらに少なくなってしまうのが現状である。急性期の脳梗塞患者を診療する医師は、まずtPA適応患者を見極めて、必要であれば速やかに専門施設に送っていただきたいと坂井氏は述べる。機器の開発により、脳血管内治療の適応は今後ますます拡大していくと予想される。これらの疾患に関わるすべての医療者は、脳血管内治療の最新情報を収集し診療に実践していく必要があるだろう。脳血管障害の医療を担う若手医師へのメッセージ1)Berkhemer OA, et al. N Engl J Med. 2015;372:11-20.2)Goyal M, et al. N Engl J Med. 2015;372:1019-1030.3) Campbell BC, et al. N Engl J Med. 2015;372:1009-1018.

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水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第41回

水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善 >足成より使用 水泳は気管支喘息のリスクでもあり、一方で気管支喘息の呼吸リハビリテーションにもなりうるという二面性を持っています。といっても運動誘発性気管支攣縮は別に水泳に限ったことではないため、後者の利益を重視する研究者のほうが多いように感じます。 Beggs S, et al. Swimming training for asthma in children and adolescents aged 18 years and under. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 4: CD009607. この報告は、18歳以下の気管支喘息患者さんに対する、水泳の訓練の効果と安全性を調べたシステマティックレビューです。水泳の訓練と他のケアを比較した試験を集め、メタアナリシスを行いました。その結果、8試験・262人が組み込まれました。安定した患者さんから重症の患者さんまで気管支喘息の重症度はさまざまでした。水泳の訓練はおおむね30~90分で、週2~3回、期間としては6~12週継続されました。水泳の比較対象としては、通常ケアが7試験、ゴルフが1試験でした。結果として、水泳は通常のケアやゴルフと比較してQOL、喘息発作、副腎皮質ステロイドの使用というアウトカムに対して統計学的に有意な効果をもたらしませんでした。ただし、水泳は通常のケアと比べて最大酸素消費量、すなわち運動耐容能に効果がみられました。また、呼吸機能検査のパラメータにもわずかながら効果があったと報告されています。プールに使用されている塩素の有無によって、これらのアウトカムに変化がみられるのかどうかはわかりませんでしたが、少なくとも水泳が気管支喘息の患者さんにとって悪さをするものではないだろうと結論付けられました。ただし、他の運動療法と比較して水泳がベストかどうかという点は、不明といわざるを得ません。この研究では塩素について触れられていましたが、とくに室内プールにおける塩素は小児の気管支喘息を悪化させるのではないかとする意見もあります(Immunol Allergy Clin North Am. 2013; 33: 395-408.)。水泳に運動耐容能を増加させる可能性があるにもかかわらず、塩素が気管支喘息を悪化させるのであれば本末転倒ですね。インデックスページへ戻る

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Vol. 3 No. 3 経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI) 手技と治療成績

髙木 健督 氏新東京病院心臓内科治療手技Edwards SAPIEN(Edwards Lifesciences Inc, Irvine, CA)は、経大腿動脈、経心尖部アプローチが可能である(本誌p.27図1を参照)。(1) 経大腿動脈アプローチ(transfemoral:TF)(図1)現在、Edwards SAPIENの留置は16、18FrのE-Sheathを用いて行っている。E-Sheath挿入は、外科的cutdown、またはpunctureで行う2つの方法があり、どちらの場合も術前の大動脈造影、造影CTを用いて石灰化の程度、浅大腿動脈と深大腿動脈の分岐位置を確認することが大切である。TAVIに習熟している施設では、止血デバイス(パークローズProGlideTM)を2~3本使用し、経皮的に止血するケースも増えてきている。しかしながら、血管の狭小化、高度石灰化を認める場合、またTAVIを始めたばかりの施設ではcutdownのほうが安全に行うことができる。E-Sheathは未拡張時でも5.3~5.9mmあり、通常ExtrastiffTMのような固いワイヤーを用いて、大動脈壁を傷つけないよう慎重に進める。ガイドワイヤーの大動脈弁通過は、Judkins Right、Amplatz Left-1、Amplatz Left-2カテーテルを上行大動脈の角度に応じて使い分ける。また、ストレートな形状(TERUMO Radifocus、COOK Fixed Core wire)を用いると通過させやすい。ガイドワイヤーを慎重に心尖部に進めたあと、カテーテルも注意深く左室内に進める。その後、通常のコイルワイヤーを用いてPigtailカテーテルに入れ替える。さらに、Pigtailの形を用いながら、心尖部にStiffワイヤーを進める。StiffワイヤーはAmplatz Extra Stiff Jカーブを用いることが多い。左室の奥行きを十分に観察するため、RAO viewで可能な限りガイドワイヤーの先端を心尖部まで進めるが、経食道エコーを用いるとより正確に心尖部へ進めることが可能である。Edwards SAPIEN23mmには20/40mm、26mmには23/40mmのバルーンが付随しており、通常はこれを使用する。バルーン内の造影剤は15%程度に希釈すると粘度が下がり、バルーン自体の拡張、収縮をスムーズにする。バルーンを大動脈弁まで進め、一時的ペースメーカーにて180~200ppmのrapid pacingを行い、血圧を50mmHg以下にし、バルーンをinflation、そしてdeflationする。Rapid pacingは、血圧が50mmHg以下になるように心拍を調整する。一時pacingが1:2になるときは、160〜180ppmの低めからスタートし徐々に回数を上げるとよい。Pigtailカテーテルからの造影は、バルーンinflationの際に、冠動脈閉塞の予測、valveサイズの決定に有用である(図2a)。大動脈内にデリバリーシステムを進め、E-Sheathから出たところで、バルーンを引き込み、ステントバルブをバルーン上に移動させる。デバイスのalignment wheelを回転させバルーンのマーカー内にステントバルブの位置を調整する(図2b)。大動脈弓でデバイスのハンドルを回し、デバイスを大動脈に添わせるように進めていく(LAO view)。デバイスを左室内に進めたあと、システムの外筒をステントバルブから引き離し、Pigtailからの造影剤で位置を確認し、rapid pacing下で留置する(図2c, d)。留置後、経食道エコー、大動脈造影でparavalvular leakがないことを確認し、問題なければE-Sheathを抜去、止血を行う。図1 経大腿動脈アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図2 経大腿動脈アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大するc 画像を拡大するd 画像を拡大する(2) 経心尖部アプローチ(transapical:TA)(図3)左胸部に5~7cmの皮膚切開をおき、第5、6肋間にて開胸を行う。ドレーピング後に清潔なカバーをした経胸壁エコーを用いてアクセスする肋間を決定する。心膜越しに心尖部をふれ、心尖部であることを経食道エコーで確認する。心尖部の心膜を切開し、心膜を皮膚に吊り上げる。穿刺部位を決定したら、その周囲にマットレス縫合またはタバコ縫合をかける。縫合の中央より穿刺し、透視下にガイドワイヤーを先行させる。その後、Judkins Rightを用いて下行大動脈まで進め、Stiffワイヤーに変更する。さらに、24Frデリバリーシースに変更し、20mmバルーンで拡張したあとにスタントバルブを留置する(図4a, b)。図3 経心尖部アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図4 経心尖部アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大する治療成績症候性重症大動脈弁狭窄症(symptomatic severe AS:s AS)に対して、効果的な薬物療法がないため、保存的治療を選択した患者の予後が悪く、手術可能である患者には、外科手術(sAVR)が標準治療となっている1-3)。しかしながら、30%以上のs ASは、さまざまな理由で、sAVRは見送られているのが現状である4,5)。TAVIは、ハイリスクs ASに対して、sAVRの代替治療として2002年にDr. Alain CribierによってFirst In Man(FIM)が施行され6)、現在はヨーロッパを中心に10万例以上の治療が施行されている。TAVIは、balloon expandableタイプのEdwards SAPIEN、self expandableのCoreValve system(Medtronic, Minneapolis, MN)といった2つのシステムが、欧州を中心に用いられている。(1) Edwards' Registries現在までにEdwards SAPIENを用いたregistryでは、さまざまな報告がなされているが、有害事象が施設ごとに異なり統一された基準を用いていなかった。そうした状況を踏まえ、2011年には統一評価基準を定めたValve Academic Research Consortium (VARC)guidelines7)が発表され、その後はVARCを用いた治療成績が発表されるようになった。2012年に報告されたFrance 2 registryでは、3,195例の初期成績と1年成績が報告された(平均82.7歳、logistic EuroSCORE 21.9±14.3%、STS score 14.4±12.0%)。Edwards SAPIENが66.9%で用いられ、CoreValveは33.1%であった。アプローチはTF 74.6%、TS 5.8%、TA 17.8%であり、手技成功は96.9%で得られた。また、30日全死因死亡率9.7%、1年死亡率24.0%、30日心血管死亡率7.0%、1年心血管死亡率13.6%であり、手術ハイリスクであるs ASに対してTAVIは妥当な治療法であることが示された8)。また、長期予後に関しては、Webbら9)が、84人のTAVI施行後5年成績を発表しており、5年間で3.4%の中等度valve dysfunctionを認めたものの重篤なvalve dysfunctionを引き起こした症例は認めず、SAPIEN valveの長期耐久性が優れていることを証明した。またそのなかで、生存率は1年83%、2年74%、3年53%、4年42%、5年35%であり、COPD、中等度以上のmoderate paravalvular aortic regurgitation(PR)が全死因死亡に与える影響が大きいことを示した。(2) 無作為化比較試験PARTNER試験(Placement of AoRtic Tra-NscathetER Valves)はs ASにおけるハイリスク手術、手術不適応症例において、TAVIと標準治療(バルーン拡張術+薬物療法)、外科手術を比較した初めての多施設無作為試験である。Cohort Aは、手術ハイリスクのs AS患者をTAVIとsAVRに割りつけ、cohort Bにおいては手術適応がないと判断されたs AS患者をTAVIと標準治療(バルーン拡張術)に割りつけた。手術ハイリスクとは、(1) STSスコアが10%以上、(2)予想30日死亡率が15%以上、(3)予測30日死亡率が高く、また50%以上の死亡率の併存疾患がある状態、と考えられた。除外基準は、2尖弁、非石灰化大動脈弁、クレアチニン3.0mg/dLまたは透析の重症腎不全、血行再建が必要な冠動脈疾患、左室機能低下(EF 20%以下)、大動脈弁径18mm以下または25mm以上、重症僧帽弁逆流症(>3+)、大動脈弁逆流症(>3+)、そして6か月以内に起きた一過性脳虚血発作または脳梗塞であった。2つのコホートの主要エンドポイントは研究期間中の全死亡であり、全死亡、再入院を合わせた複合イベントも検討された。PARTNER trial -cohort A-PARTNER trial cohort Aでは、手術ハイリスク(STS平均スコア11.8%)と判断されたs AS患者(25施設、699例)をTAVIとsAVRに割りつけ、術後1年時(中央値1.4年)の全死因死亡、心血管死亡、NYHA分類のクラス、脳卒中、血管合併症、出血を比較した。TA 104人に対しsAVRから103人、TF 244人に対しsAVRから248人が割りつけられた。30日全死因死亡率はTAVI群全体で3.4%、sAVR群で6.5%(p=0.07)であった。またTF群3.3%に対しsAVR群は6.2%(p=0.13)、TA群3.8%に対しsAVR群は7.0%(p=0.32)で有意差は認めなかった。主要エンドポイントに設定された1年時死亡率は、TAVI群24.2%とsAVR群26.8%(p=0.44)であり、TAVIの非劣性が確認された(非劣性のp=0.001)。TF、TAに分けて分析しても、sAVRと比較し非劣性が確認された。脳卒中または一過性脳虚血発作の発生率はTAVI群で高かった(30日TAVI 5.5% vs. sAVR 2.4% p=0.04、1年時8.3% vs. 4.3% p=0.04)。しかしながら、重症の脳卒中(修正Rankinスケールが2以上)では、有意差はみられなかった(30日TAVI 3.8% vs. sAVR 2.1% p=0.20、1年5.1% vs. 2.4% p=0.07)。全死因死亡または重症脳卒中を合わせた複合イベントの発生率に差はなかった(30日TAVI 6.9% vs. sAVR 8.2% p=0.52、1年26.5% vs. 28.0% p=0.68)。主要血管合併症は、TAVI群に有意に多かったが(11.0% vs. 3.2% p<0.001)、大出血と新規発症した心房細動はsAVR群で多かった(出血9.3% vs. 19.5% p<0.001、心房細動8.6% vs. 16.0% p=0.006)。TAVI群では、sAVR群より多くの患者が30日時点で症状の改善(NYHA分類でクラスII以下)を経験していたが、1年経つと有意差がなくなった。TAVI群のICU入院期間、全入院期間はsAVR群より有意に短かった(3日 vs. 5日 p<0.001、8日間 vs. 12日間 p<0.001)。以上のように、PARTNER trial -cohort A-より、1年全死因死亡率においてTAVIはsAVRに劣らないことが証明された10)。PARTNER trial -cohort B-PARTNER trial cohort Bでは、手術不適応と判断されたs AS患者(21施設、358例)を、バルーン大動脈弁形成術を行う標準治療群(control群)と、TAVI群に無作為に割りつけ比較検討を行った。1年全死因死亡率はTAVI群30.7%、control群50.7%であり(p<0.001)、全死因死亡または再入院の複合割合は、TAVI群42.5%、control群71.6%であった(p<0.001)。1年生存は、NYHA分類でⅢ/Ⅳ度を示した症例はTAVI群のほうが有意に少なかった(25.2% vs. 58.0% p<0.001)。しかし、TAVI群はcontrol群と比較して30日での脳卒中(5.0% vs. 1.1% p=0.06)と血管合併症(16.2% vs. 1.1% p<0.001)を多く発症した。血管、神経合併症が多いものの、全死因死亡率、全死因死亡または再入院の複合割合は有意に低下し、心不全症状は有意に改善した10)。その後、2年成績も報告され、2年全死因死亡(TAVI群43.3% vs. control群68.0% p<0.001)、心臓関連死(31.0% vs. 68.4% p<0.001)はTAVI群で著明に少なく、TAVIで得られたadvantageは2年後も継続していることが示された11)。上記2つの試験により、現時点では手術不適応、手術がハイリスクであるs AS患者に対するTAVIはsAVRの代替療法になることが示されたが、中等度リスク患者においては、未だエビデンスが不十分である。そのため、中等度手術リスクのs AS患者に対する、TAVIの有効性、安全性を証明するには、TAVIとsAVRを比較したPARTNER2 trialの結果が待たれるところである。TAVIに関連する特記事項血管合併症(vascular complication)血管合併症はTFアプローチのTAVIの大きな問題であり、大口径カテーテルを用いること、治療対象がハイリスク症例であることから高率に発生する。小血管径、重篤な動脈硬化、石灰化、蛇行した血管はTAVIにおける血管合併症の主な原因である。最新の報告であるFrance 2 registryでは、デバイスは18Fr Edwards SAPIEN XTを含んではいるものの、全体で4.7%、TF群で5.5%と主要血管合併症の発生頻度は減少している8)。主要血管合併症、または主要出血と生存の関係は、何人かの著者によって証明されており、この合併症を予防するために、十分なスクリーニングが最も重要である。脳卒中(stroke)TAVIにおける有症状の脳梗塞は、致命的合併症である(1.7~8.3%)10-17)。脳梗塞発症の機序ははっきりしていないが、大口径のカテーテルが大動脈弓を通過するとき、高度狭窄した大動脈弁を通過させるとき、大動脈弁拡張時、rapid pacing中の血行動態に伴うもの、デバイス留置など、手技中のさまざまな因子によって引き起こされている可能性が示唆されている。現在のTAVI症例は、高齢であり心房細動、そして動脈硬化病変の割合が高く、脳梗塞イベントを増加させている。Diffusion-weighted magnetic resonance imaging(DW-MRI)を用いた2つの研究において、TFアプローチTAVI後に、新規に発症した脳梗塞が70%以上の患者に発生していたことが報告された18,19)。また、Rodés-CabauらはDW-MRIによってTAで71%、TFでも66%と同じように、脳梗塞を発症していることを報告した20)。しかしながら、ほとんどの症例が症状を伴わないため、臨床的なインパクトを決定するにはさらなる研究が必要である。脳梗塞予防デバイスが開発中であり、TAVI後の無症候性、症候性脳梗塞を減少させると期待されていたが、満足できる結果は報告されていない。また、術後の抗血小板療法については、抗血小板薬2剤併用療法を3か月以上行うのが主流だが、はっきりとした薬物療法の効果については報告されておらず、議論の余地がある。調律異常(rhythm disturbance)文献により新規ペースメーカー植え込み率は異なっているものの(CoreValve 9.3~42.5% vs. Edwards SAPIEN 3.4~22%)、CoreValveは、左室流出路深くに留置し、長期間つづく強いradial forcesを生じることから、Edwards SAPIENよりも新規ペースメーカー留置を必要とする頻度が高いと報告されている。持続する新しい左脚ブロックの新規発現は、TAVI後の最も明らかな心電図上の所見であると報告されており、CoreValve留置後1か月の55%の症例で、そしてSAPIEN留置後1か月の20%の症例において認められ21)、その出現は全死因死亡の独立した因子であることが報告されている22)。一方で、TAVI後の完全房室ブロックの予測因子は、右脚ブロック、低い位置での弁の留置、植え込まれた弁と比較して小さな大動脈弁径、手技中の完全房室ブロック、そしてCoreValveと報告されており23,24)、一般的に心電図モニター管理は最低72時間、TAVI後の患者すべてに行われるが、この合併症の高リスク患者は退院するまでのモニター管理が必要である。弁周囲逆流(paravalvular regurgitation)Paravalvular regurgitation(PR)は、TAVI後に一般的にみられる。多くの症例では、mild PRを認め、7~24%の患者でmoderate以上のPRが観察される12,25-28)。SAPIEN Valveにおいて、moderate以上のPRの割合に経年的変化は認められない12,28)。一方、CoreValveは強いradial forcesによりPRが改善したと報告があるが25)、はっきりとしたコンセンサスは得られていない。TAVI後のmoderate PRは(PARTNER試験ではmild PRであっても)長期成績に影響を与えることがわかっており29-31)、PRを減らすことが非常に重要な問題となっている。PRを減らすためには、より大きなvalve sizeを選択する必要があるが32,33)、致命的な合併症である大動脈弁破裂を引き起こす可能性が増える。そのため、慎重なCT、エコーでの大動脈弁径、石灰化分布の評価が必要である。冠動脈閉塞(coronary obstruction)左冠動脈主幹部閉塞は稀であるが、BAV、TAVIの最中に起こりうる重篤な合併症である。急性冠動脈閉塞に対して迅速なPCI、またはバイパス手術で救命されたという報告がされている34-36)。大動脈弁輪と冠動脈主幹部の距離は、分厚い石灰化弁と同様に重要な予測因子となり、3Dエコー、CTでの正確な評価がこの致命的な合併症を避けるために必要である37)。ラーニングカーブTAVIにはラーニングカーブがあり、正確な大動脈弁径、腸骨大腿動脈径の測定、リスク評価、適切な症例選択、手技の習熟により、治療成績は劇的に改善することが報告されている。Webbらは168例の成績を報告し、初期の30日死亡率がTF 11.3%、TA 25%から、後半でTF 3.6%、TA 11.1%と改善したことを示し、TAVIにおけるラーニングカーブの重要性を明らかにした38)。おわりに本邦でも、Edwards SAPIEN XTを用いたPREVAIL JAPAN試験の良好な成績が発表され、2013年から保険償還され、本格的なTAVIの普及が期待されている。しかしながら、現在の適応となる患者群のTAVI治療後の1年全死因死亡率は20%以上であり、TAVIの適応については、議論の余地がある。特にADLの落ちている高齢者、frailtyの高い患者は、ブリッジ治療としてBAVを行い、心機能だけでなくADLが改善することを確認したうえで、TAVI治療を選択するといったstrategyも考慮する必要があるのではないだろうか。文献1)Bonow RO et al. ACC/AHA 2006 Guidelines for the Management of Patients With Valvular Heart Disease: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 1998 Guidelines for the Management of Patients With Valvular Heart Disease): Developed in Collaboration With the Society of Cardiovascular Anesthesiologists: Endorsed by the Society for Cardiovascular Angiography and Interventions and the Society of Thoracic Surgeons. Circulation 2006; 114: e84-e231.2)Vahanian A et al. Guidelines on the management of valvular heart disease (version 2012): The Joint Task Force on the Management of Valvular Heart Disease of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS). 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475.

エボロクマブ追加でLDL-Cが長期に減少/NEJM

 脂質異常症の標準治療に新規のLDLコレステロール(LDL-C)低下薬であるエボロクマブ(承認申請中)を追加し約1年の治療を行うと、標準治療単独に比べLDL-C値が有意に減少し、心血管イベントが抑制されることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S Sabatine氏らOSLER試験の研究グループの検討で明らかとなった。エボロクマブは、前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、短期的な臨床試験でLDL-C値を約60%減少させることが確認されていた。NEJM誌オンライン版2015年3月15日号掲載の報告より。12件の親試験の第II、III相別の延長試験を統合解析 OSLER試験は、エボロクマブに関する12の親試験(parent study、第II相:5件[日本のYUKAWA-1試験を含む]、第III相:7件)を完遂した患者を対象とする延長試験であり、本薬の長期的な有用性の評価を目的に、OSLER-1試験(第II相試験)とOSLER-2試験(第III相試験)に分けて検討が行われた(Amgen社の助成による)。親試験には、脂質異常症治療薬未使用例、スタチン±エゼチミブ投与例、スタチン不耐容例、ヘテロ型家族性高コレステロール血症例などが含まれた。 被験者は、親試験での割り付けとは別に、標準治療+エボロクマブまたは標準治療のみを施行する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。エボロクマブは、OSLER-1試験では2週ごとに140mgが皮下投与され、OSLER-2試験では2週ごと140mgと月1回420mgのいずれかを患者が選択した。 脂質値、安全性および事前に規定された探索的解析として心血管イベント(死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再建術、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全)の評価を行い、2つの試験の統合解析を実施した。 2011年10月~2014年6月までに4,465例(OSLER-1試験:1,324例、OSLER-2試験:3,141例)が登録され、エボロクマブ群に2,976例(平均年齢57.8歳、男性50.1%、LDL-C中央値120mg/dL)、標準治療単独群には1,489例(58.2歳、51.4%、121mg/dL)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は11.1ヵ月であった。LDL-C値が61%減少、心血管イベントは53%減少 12週時のLDL-C値は、エボロクマブ群が48mg/dLであり、標準治療単独群の120mg/dLと比較した減少率は61%であった(p<0.001)。OSLER-1とOSLER-2試験の間に減少率の差はなかった。また、このエボロクマブ群のLDL-C値の減少は48週まで持続した(24週の減少率:59%、36週:54%、48週:58%、いずれもp<0.001)。 12週時に、エボロクマブ群の90.2%がLDL-C値≦100mg/dLとなり、73.6%が≦70mg/dLを達成した。標準治療単独群はそれぞれ26.0%、3.8%だった。 12週時の非HDL-C、アポリポ蛋白B、総コレステロール、トリグリセライド、リポ蛋白(a)は、LDL-Cと同様にエボロクマブ群で有意に減少した(いずれもp<0.001)。また、HDL-Cとアポリポ蛋白A1は有意に増加した(いずれもp<0.001)。 有害事象はエボロクマブ群の69.2%、標準治療単独群の64.8%に認められ、重篤な有害事象はそれぞれ7.5%、7.5%に発現した。神経認知障害(せん妄、認知/注意障害、認知症、健忘症など)はエボロクマブ群で多くみられた(0.9 vs. 0.3%)が、治療期間中のLDL-C値とは関連がなかった。 エボロクマブによる治療中止は2.4%、注射部位反応は4.3%に認められ、そのほか関節痛や頭痛、四肢痛、疲労感が標準治療単独群よりも多くみられた。 1年時の心血管イベントの発症率は、エボロクマブ群が0.95%であり、標準治療単独群の2.18%に比し有意に低かった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.28~0.78、p=0.003)。 著者は、「61%というLDL-C値の減少率は、既報の短期的な試験と一致しており、48週にわたる効果の持続はより小規模な試験(DESCARTES試験)の結果と一致した。他の脂質に対する効果にも既報との一貫性が認められた」としている。

476.

親の年齢とADHDリスク

 親の年齢と精神障害との関連性を示す研究が増加しているが、注意欠如/多動症(ADHD)との関連については矛盾した結果が出ている。今回、フィンランド・トゥルク大学Roshan Chudal氏らは、出生時の親の年齢がADHDと関連しているかどうかをコホート内症例対照研究で検討した。その結果、ADHDは出生時の父親または母親の年齢が若いことと関連していた。著者らは「医療者は若い親と協力し、子供のADHDのリスク増加に注意すべき」としている。Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry誌オンライン版2015年3月26日号に掲載。出生時の母親の年齢が高いほどADHDは少なかった 本研究では、全国の集団ベースの登録から、1991~2005年にフィンランドで生まれ、1995~2011年にADHDと診断された1万409人と、性別・誕生日・出生地でマッチさせた対照3万9,125人を同定した。出生時の親の年齢と子供のADHDとの関連性について、条件付きロジスティック回帰を用いて調べた(親の精神疾患の既往、母親の社会経済的地位、婚姻状況、妊娠中の母親の喫煙状況、過去の出産回数、妊娠週数に対する出生時体重を潜在的な交絡因子として調整)。 出生時の親の年齢とADHDとの関連について調べた主な結果は以下のとおり。・子供の出生時に父親の年齢が20歳未満だった場合、25~29歳の場合と比較して、子供のADHDリスクは1.5倍増加した(OR 1.55、95%CI:1.11~2.18、p=0.01)。同様に母親の年齢が20歳未満だった場合ではリスクが1.4倍増加した(OR 1.41、95%CI:1.15~1.72、p=0.0009)。・出生時の母親の年齢が高いほどADHDは少なかった(OR 0.79、95%CI:0.64~0.97、p=0.02)。

477.

経カテーテル大動脈弁置換術の5年転帰/Lancet

 高リスク大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、標準治療である外科的大動脈弁置換術(SAVR)とほぼ同等の臨床転帰をもたらすことが、米国・Baylor Scott & White HealthのMichael J Mack氏らが実施したPARTNER 1試験で示された。本試験では、TAVRの1年死亡率は、非手術例では標準的非手術療法よりも優れ、手術を行った高リスク例ではSAVRに対し非劣性であり、これらの知見は2年、3年時も維持されていた。研究グループは今回、高リスク例における5年時の臨床転帰の解析を行い、Lancet誌オンライン版2015年3月15日号で発表した。5年転帰を外科的置換術と比較 PARTNER 1試験は、欧米の25の病院(カナダ2施設、ドイツ1施設、米国23施設)が参加した無作為化対照比較試験(Edwards Lifesciences社の助成による)。対象は、重度の症状を呈する大動脈弁狭窄症で、専門医チームにより、SAVRでは施術後30日以内の死亡のリスクが15%以上と判定された患者であった。 被験者は、TAVRまたはSAVRを施行する群に無作為に割り付けられた。TAVR群の患者には、バルーン拡張型ウシ心嚢膜弁が経大腿動脈または経心尖アプローチで留置された。主要評価項目は施術後1年時の死亡であり、5年時の転帰の解析を行った。5年全死因死亡率:67.8 vs. 62.4%、弁周囲逆流が問題 699例が登録され、TAVR群に348例、SAVR群には351例が割り付けられた。TAVR群のうち244例に経大腿動脈アプローチ、104例には経心尖アプローチが行われた。TAVR群の4例が実際にはTAVRを受けず、5例がフォローアップ不能となり、4例は施術後に試験から脱落した。 全例の平均年齢は84.1歳、94%がNYHA心機能分類3/4であり、平均Society of Thoracic Surgeons Predicted Risk of Mortality(STS PROM)スコアは11.7%であった。フォローアップ期間中央値は3.14年だった。 5年時の全死因死亡率は、TAVR群が67.8%、SAVR群は62.4%であり、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.86~1.24、p=0.76)。 脳卒中/一過性脳虚血発作、脳卒中/一過性脳虚血発作/死亡、心筋梗塞、心内膜炎、腎不全、新規ペースメーカー留置の頻度に差はなかったが、TAVR群では重篤な血管合併症(11.9 vs. 4.7%、p=0.0002)が多く、大出血(26.6 vs. 34.4%、p=0.003)が少なかった。 外科的弁置換を要する構造的弁劣化は両群ともにみられなかった。中等度~重度の大動脈弁逆流が、TAVR群の14%(40/280例)、SAVR群の1%(2/228例)にみられ(p<0.0001)、TAVR群の5年死亡率の上昇に関連していた(軽度以下の逆流による死亡率56.6%に対し中等度~重度の逆流の死亡率は72.4%、p=0.003)。大動脈弁逆流のほとんどの原因が弁周囲逆流であった。 著者は、「5年後の両法の死亡および脳卒中の発症率はほぼ同等であったが、TAVRでは弁周囲逆流の頻度が高く、それが軽度の場合でも死亡率の上昇と関連した」とまとめ、「本研究は第1世代のデバイスに関する最初の試験である。第2、3世代は小型化が進み、弁周囲逆流の予防策も講じられているため、転帰が改善されている可能性がある。また、臨床経験の積み重ねにより、患者選択もより適切に行われている」と考察している。中等度リスクの2,000例を対象とする第2世代デバイスの臨床試験(PARTNER II試験)が進行中だという。

478.

PROMISE試験:冠動脈疾患に対する解剖的評価と機能評価検査の予後比較(解説:近森 大志郎 氏)-328

 安定した胸部症状を主訴とする患者に対する診断アプローチとして、まず非侵襲的検査によって冠動脈疾患を鑑別することが重要である。従来は運動負荷心電図が日常診療で用いられてきたが、その後、負荷心筋シンチグラフィ(SPECT)検査、負荷心エコー図検査が臨床に応用され、近年では冠動脈CT(CTCA)も広く実施されるようになっている。しかしながら、これらの検査の中でいずれを用いればよいか、という検査アプローチを実証する大規模臨床試験は実施されてはいなかった。 今回、San Diegoで開催された米国心臓病学会(ACC.15)のLate-Breaking Clinical Trialsの先頭を切って、上記に関するPROMISE試験が報告され、同時にNew England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された。なお、ACCで発表される大規模臨床試験の質の高さには定評があり、NEJM誌に掲載される比率では同じ循環器分野のAHA、ESCを凌いでいる。 Duke大学のPamela Douglas氏らは、従来の生理機能を評価する運動負荷心電図・負荷心筋SPECT・負荷心エコー図に対して、冠動脈の解剖学的評価法であるCTCAの有効性を比較するために、有症状で冠動脈疾患が疑われる10,003例を無作為に2群(CTCA群対機能評価群)に割り付けた。試験のエンドポイントは従来のほとんどの研究で用いられた冠動脈疾患の診断精度ではなく、全死亡・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・検査による重大合併症からなる、複合エンドポイントとしての心血管事故が設定されている。対象症例の平均年齢は61歳で、女性が52~53%と多く、高血圧65%、糖尿病21%、脂質異常症67%という冠危険因子の頻度であった。なお、症状として胸痛を訴えてはいるが、狭心症としては非典型的胸痛が78%と高率であることは銘記すべきであろう。 実際に機能評価群で実施された非侵襲的検査については、負荷心筋SPECT検査67.5%、負荷心エコー図22.4%、運動負荷心電図10.2%、と核医学検査の比率が高かった。また、負荷心電図以外での負荷方法については、薬剤負荷が29.4%と低率であった。そして、これらの検査法に基づいて冠動脈疾患が陽性と診断されたのは、CTCA群で10.7%、生理機能評価群では11.7%であった。3ヵ月以内に侵襲的心臓カテーテル検査が実施されたのはCTCA群で12.2%、生理機能検査群では8.1%であった。この中で、有意狭窄病変を認めなかったのはCTCA群で27.9%、生理機能検査群で52.5%であったため、全体からの比率では3.4%対4.3%となりCTCA群で偽陽性率が低いといえる(p=0.02)。なお、3ヵ月以内に冠血行再建術が実施されたのはCTCA群で6.2%と、生理機能検査群の3.2%よりも有意に高率であった(p<0.001)。 1次エンドポイントである予後に影響する内科的治療ついては、β遮断薬が25%の症例で使用されており、RAS系阻害薬・スタチン・アスピリンについても各々約45%の症例で投与されていた。そして、中央値25ヵ月の経過観察中の心血管事故発生率についてはCTCA群で3.3%、生理機能評価群では3.0%と有意差を認めなかった。 本研究は循環器疾患の治療法ではなく、冠動脈疾患に対する検査アプローチが予後に及ぼす影響から検査法の妥当性を評価するという、従来の臨床試験ではあまり用いられていない斬新な研究デザインを用いている。そして、1万例に及ぶ大規模な臨床試験データを収集することによって、日常臨床に直結する重要な結果を示したという意味で特筆に値する。 しかしながら、基本的にはnegative dataである研究結果の受け止め方については、同じDuke大学の研究チームでも異なっていた。ACCの発表に際してDouglas氏は、PROMISE試験の結果に基づき、狭心症が疑われる患者に対して、CTCAはクラスIの適応となるようにガイドラインが修正されるエビデンスであることを主張していた。これに対して、PROMISE試験の経済的評価を発表したDaniel Mark氏は、イギリスの伝説である「アーサー王物語」を引き合いに出して、CTCAは長年探し求めていたHoly Grail(聖杯)ではなかった、と落胆を隠さなかった。 循環器の臨床において、対象とする患者の冠動脈病変の情報があれば、最適な医療が実施できるという考え方は根強い。しかし、PROMISE試験が準備された時期には、狭心症の生理機能として重要な心筋虚血が、予後改善の指標として重要であることを実証したFAME試験が報告されている。その後、FAME 2試験においても同様の結果が報告されている。さらに、重症心筋虚血患者に対する介入治療の有無により予後の改善が実証されるか否かについて、ISCHEMIA試験という大規模試験が進行中である。今後はこれらの大規模試験の結果を評価することによって、冠動脈疾患の治療目標は「解剖か、虚血か」という議論に決着がつくかもしれない。それまでは、日常臨床において狭心症が疑われる患者に対しては、まず本試験の対象群の特徴を十分に把握したうえで、CTCAあるいは生理機能検査を実施する必要があると思われる。

479.

ナトリウム利尿ペプチド、急性心不全診断に有効/BMJ

 2012年に欧州心臓病学会(ESC)が示した、血中B型(脳性)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、NTproBNP、MRproANPの心不全除外診断の推奨閾値は、急性心不全について優良な診断能を有することが明らかにされた。英国・モーズレイ病院のEmmert Roberts氏ら研究グループGuideline Development Group for Acute Heart Failureが、急性期治療設定の試験データについてシステマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。ただし特異度はばらつきがみられ画像診断による確定が必要だと考察している。また、BNPとNTproBNPの診断精度には統計的な差はみられなかった。これらを踏まえて著者は「急性心不全が疑われる患者を対象とした、ナトリウム利尿ペプチド測定による試験を行うことで、より迅速で正確な除外診断が可能となるだろう」と述べている。BMJ誌オンライン版2015年3月4日号掲載の報告より。メタ解析でBNPとNTproBNP、MRproANPの診断精度を評価 研究グループは、心不全に関する2012ESCの推奨閾値を用いて、急性期治療設定での急性心不全患者について、BNP、NTproBNP、MRproANPそれぞれの診断精度を調べて比較するため、システマティックレビューとメタ解析を行った。 2014年1月28日時点で、Medline、Embase、Cochrane central register of controlled trials、Cochrane database of systematic reviews、database of abstracts of reviews of effects、NHS economic evaluation database、Health Technology Assessmentをデータソースに、心不全とナトリウム利尿ペプチドに関連する表題、項目を組み合わせて論文を検索した。適格としたのは、急性期治療設定で、連続的にまたは無作為に選択した成人患者を対象に、急性心不全の診断で標準資料と比較して1種以上のナトリウム利尿ペプチドを評価している試験とした。陽性率、偽陽性率、偽陰性率、陰性率、あるいは年齢非依存のナトリウム利尿ペプチドを抽出または算出するデータが不十分な試験は除外した。また英語以外で書かれた試験も除外した。BNPとNTproBNPの診断精度は有意差なし 試験報告42件が検索され37の特徴的な試験コホートが解析に組み込まれた。評価は総計48件、評価結果は1万5,263件であった。 急性心不全の診断精度について、最低推奨閾値であるBNP 100ng/LとNTproBNP 300ng/Lの感度はそれぞれ0.95(95%信頼区間[CI]:0.93~0.96)と0.99(同0.97~1.00)、陰性適中率は0.94(0.90~0.96)と0.98(0.89~1.0)であった。MRproANPの最低推奨閾値120pmol/Lについては、感度は0.95(0.90~0.98)から0.97(0.95~0.98)にわたり、陰性適中率は0.90(0.80~0.96)から0.97(0.96~0.98)にわたった。 感度は閾値が高くなるほど低下したが、特異度はばらついたままであった。 BNPとNTproBNPの診断精度について、統計的に有意な差はなかった。

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フォンダパリヌクス、NSTEMIの日常診療に有効/JAMA

 フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ)は、非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI)の日常診療において、低分子量ヘパリン(LMWH)に比べ院内および180日後の大出血イベントや死亡の抑制効果が優れることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のKarolina Szummer氏らの検討で示された。フォンダパリヌクスは第Xa因子を選択的に阻害する抗凝固薬。同国では、欧州心臓病学会(ESC)と保健福祉庁が第1選択薬として本薬を推奨して以降、NSTEMIの日常診療においてLMWHからの転換が急速に進んだが、臨床試験以外の非選択的な患者集団における評価は行われていなかった。JAMA誌2015年2月17日号掲載の報告。日常診療での治療転帰を前向きコホート研究で比較 研究グループは、スウェーデンのNSTEMI患者においてフォンダパリヌクスとLMWHの治療転帰を比較するプロスペクティブな多施設共同コホート試験を実施した。 対象は、“Swedish Web-System for Enhancement and Development of Evidence- Based Care in Heart Disease Evaluated According to Recommended Therapies(SWEDEHEART)”と呼ばれる同国のレジストリから選出した。 2006年9月1日~2010年6月30日までに、入院中にフォンダパリヌクスまたはLMWHの投与を受けたNSTEMI患者4万616例のデータが収集された。最終フォローアップは2010年12月31日であった。 主要評価項目は、院内における重度出血イベントと死亡、30日および180日時の死亡、MIの再発、脳卒中、大出血イベントの発生とした。院内出血イベントが46%減少、腎機能低下例、PCI施行例でも同様 フォンダパリヌクス群が1万4,791例(36.4%)、LMWH群は2万5,825例(63.6%)であった。ベースラインの年齢中央値はフォンダパリヌクス群が2歳若かった(72 vs. 74歳)。女性がそれぞれ36.5%、37.6%で、糖尿病が25.4%、26.9%、高血圧が56.5%、55.3%、喫煙者が21.0%、20.0%含まれた。 また、フォンダパリヌクス群でMIの既往歴のある患者(28.2 vs. 32.2%)およびうっ血性心不全の診断歴のある患者(14.5 vs. 18.7%)が少なかったが、出血イベントや出血性脳卒中の既往歴は両群間に差はなかった。入院中のPCI施行率は、フォンダパリヌクス群のほうが高率であった(46.4 vs. 38.9%)。 治療開始後の院内出血イベント発生率は、フォンダパリヌクス群が1.1%(165例)と、LMWH群の1.8%(461例)に比べ有意に低かった(補正オッズ比[OR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.42~0.70)。また、院内死亡率は、それぞれ2.7%(394例)、4.0%(1,022例)であり、フォンダパリヌクス群で有意に良好であった(0.75、0.63~0.89)。 大出血イベントのORは、30日時(1.4 vs. 2.1%、OR:0.56、95%CI:0.44~0.70)と180日時(1.9 vs. 2.8%、0.60、0.50~0.74)で類似し、死亡率のORも30日(4.2 vs. 5.8%、0.82、0.71~0.95)と180日(8.3 vs. 11.8%、0.76、0.68~0.85)でほぼ同等であり、いずれもフォンダパリヌクス群で有意に良好であった。 再発MIのORは、30日時(9.0 vs. 9.5%、OR:0.94、95%CI:0.84~1.06)と180日時(14.2 vs. 15.8%、0.97、0.89~1.06)のいずれにおいても両群間に差はなく、脳卒中のORも30日(0.5 vs. 0.6%、1.11、0.74~1.65)と180日(1.7 vs. 2.0%、0.98、0.79~1.22)の双方で両群間に差を認めなかった。 著者は、「腎機能が低下した患者でも、フォンダパリヌクス群のLMWH群に対する出血のオッズが低く、試験全体の結果と一致していた。PCI施行例でも同様の傾向がみられ、フォンダパリヌクス群の出血のオッズが低かったが有意差はなかった」としている。

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