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急性冠症候群に対する冠動脈造影、橈骨動脈経由のほうが血管合併症少ない:RIVAL試験

急性冠症候群(ACS)患者への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行時の冠動脈造影では、橈骨動脈と大腿動脈を経由するアプローチはいずれも安全で有効だが、局所血管合併症の頻度は橈骨動脈経由のほうが低いことが、カナダMcMaster大学のSanjit S Jolly氏らが進めているRIVAL試験で示された。PCIでは、アクセスする血管部位の大出血によって死亡や虚血性イベントの再発リスクが増加するため、出血の防止と管理は重要な課題とされる。橈骨動脈経由のPCIは、大腿動脈経由でアクセスするPCIよりも血管合併症や出血のリスクが低いことが小規模な臨床試験で示唆されているが、メタ解析では大出血や死亡、心筋梗塞、脳卒中を減らす一方でPCIの失敗が増加する可能性も示されているという。Lancet誌2011年4月23日号(オンライン版2011年4月4日号)掲載の報告。橈骨動脈経由と大腿動脈経由の冠動脈造影の臨床転帰を比較RIVAL試験の研究グループは、ACS患者に冠動脈造影を施行する際の、橈骨動脈経由と大腿動脈経由のアプローチの臨床転帰を比較する多施設共同並行群間無作為化試験を実施した。2006年6月6日~2010年11月3日までに、32ヵ国158施設から冠動脈造影検査が予定されているACS患者が登録され、橈骨動脈経由の検査を行う群あるいは大腿動脈経由でアクセスする群に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは4つの評価項目[30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中/冠動脈バイパス術(CABG)に関連しない大出血]の複合イベントの発生とし、副次的アウトカムは30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合イベント、あるいは30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中、CABGに関連しない大出血の個々のイベント発生とした。主要アウトカム:3.7 vs. 4.0%(p=0.50)、大血腫:1.2 vs. 3.0(p<0.0001)、仮性動脈瘤:0.2 vs. 0.6%(p=0.006)7,021例のACS患者が登録され、橈骨動脈経由群に3,507例が、大腿動脈経由群には3,514例が割り付けられた。主要アウトカムのイベント発生率は、橈骨動脈経由群が3.7%(128/3507例)、大腿動脈経由群は4.0%(139/3,514例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.72~1.17、p=0.50)。30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合イベント発生率は橈骨動脈経由群が3.2%(112/3,507例)、大腿動脈経由群も3.2%(114/3,514例)であり(ハザード比:0.98、95%信頼区間:0.76~1.28、p=0.90)、30日以内のCABGに関連しない大出血のイベント発生率はそれぞれ0.7%(24/3,507例)、0.9%(33/3,514例)と、いずれも有意差はみられなかった。事前に規定されたサブグループ(年齢:<75 vs. ≧75歳、性別:女性 vs. 男性、BMI:<25 vs. 25~35 vs. >35kg/m2、PCI:非施行 vs. 施行、施術医の橈骨動脈経由PCIの年間実施件数の三分位群:≦70 vs. 71~142 vs. >142件/年、各施設の施術医当たりの橈骨動脈経由PCI年間実施件数中央値の三分位群:≦60 vs. 61~146 vs. >146件/年、臨床診断:非ST上昇心筋梗塞 vs. ST上昇心筋梗塞)のうち、2つで主要アウトカムのイベント発生率に有意な差が認められた。すなわち、施術医当たりの橈骨動脈経由PCI年間施行件数中央値が>146件の施設では、主要アウトカムの発生率は橈骨動脈経由群が1.6%と大腿動脈経由群の3.2%に比べ有意に低く(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.28~0.87、p=0.015、交互作用検定:p=0.021)、ST上昇心筋梗塞患者では橈骨動脈経由群が3.1%と大腿動脈経由群の5.2%に比べ有意に低かった(同:0.60、0.38~0.94、p=0.026、交互作用検定:p=0.025)。30日以内の大血腫の発生率は、橈骨動脈経由群が1.2%(42/3,507例)と、大腿動脈経由群の3.0%(106/3,514例)に比べ有意に低かった(ハザード比:0.40、95%信頼区間:0.28~0.57、p<0.0001)。閉鎖を要する仮性動脈瘤の発生率は、橈骨動脈経由群が0.2%(7/3,507例)であり、大腿動脈経由群の0.6%(23/3,514例)に比し有意に低値を示した(同:0.30、0.13~0.71、p=0.006)。著者は、「PCI施行時の冠動脈造影では、橈骨動脈と大腿動脈を経由するアプローチはいずれも安全で有効だが、局所血管合併症の頻度は橈骨動脈経由のほうが低いと考えられる」と結論し、「橈骨動脈経由PCIの有効性は施術医の技量や施術件数と関連する可能性がある」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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CKDの死亡・末期腎不全リスク、クレアチニンにシスタチンCとACRの追加で予測能向上

慢性腎臓病(CKD)患者の死亡・末期腎不全リスクの予測について、クレアチニン値にシスタチンCと尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の測定値を加えることで、より精度が向上することが明らかになった。米国・サンフランシスコ退役軍人医療センターのCarmen A. Peralta氏らが、2万6,000人超を対象に行った前向きコホート試験「REGARDS」から明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月20日号(オンライン版2011年4月11日号)で発表した。3種バイオマーカーで、被験者を8群に分類「REGARDS」試験(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke)は、2003年1月~2010年6月にかけて、45歳以上の2万6,643人が参加し行われた。研究グループは被験者を、クレアチニン値による推定糸球体濾過量(eGFR、カットオフ値:60mL/分/1.73m2)、シスタチンC値によるeGFR(カットオフ値:60mL/分/1.73m2)、ACR値(カットオフ値:30mg/g)によって、8群のCKD診断群(いずれのマーカーでもCKDと認められない、クレアチニン値のみでCKDと診断、クレアチニン値とACR値でCKDと診断など)に分類し検討した。主要アウトカムは、総死亡率と末期腎不全発症率。被験者の平均年齢は65歳、うち黒人が40%、54%が女性で、追跡期間の中央値は4.6年だった。追跡期間中の死亡は1,940人、末期腎不全と診断された人は177人だった。3種の値で診断された群はクレアチニン値単独での診断に比べ、死亡リスク5.6倍死亡リスクについて各群の比較を行った結果、クレアチニン値のみによってCKDと診断された群との比較で、クレアチニン値とACR値によって同診断を受けた人のハザード比は3.3(95%信頼区間:2.0~5.6)、クレアチニン値とシスタチンC値により同診断を受けた群のハザード比は3.2(同:2.2~4.7)、クレアチニン値、シスタチンC値、ACR値のすべてにより診断された群は5.6(同:3.9~8.2)だった。クレアチニン値単独ではCKDと診断されなかった人のうち、3,863人(16%)は、シスタチンC値またはACR値によりCKDであることが認められた。いずれのバイオマーカーでもCKDにあてはまらなかった人との比較で、ACR値単独でCKDと認められた人のハザード比は1.7(同:1.4~1.9)、シスタチンC値単独では2.2(同:1.9~2.7)、シスタチンC値とACR値の両方では3.0(同:2.4~3.7)だった。末期腎不全の発症リスクは、クレアチニン値のみでCKDと診断された群では0.33/1000人・年だったのに対し、すべてのバイオマーカーで診断された群では34.1/1000人・年だった。リスクが2番目に高かったのは、クレアチニン値では見逃されたがシスタチンC値とACR値の両方で診断された人だった(6.4/1000人・年、95%信頼区間:3.6~11.3)。クレアチニンとACR値補正後モデルにシスタチンC値を加えた後のネット再分類改善率(NRI)は、死亡13.3%(p<0.001)、末期腎不全6.4%(p<0.001)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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CKDの進行予測モデル、eGFR、アルブミン尿に血清Caや血清リン値などの追加で精度向上

ステージ3~5の慢性腎臓病(CKD)の進行予測モデルとして、従来の推定糸球体濾過量(eGFR)やアルブミン尿に加え、血清カルシウム(Ca)、血清リン、血清重炭酸塩、血清アルブミン値を追加することで、精度が向上することが示された。米国・ボストンにあるタフツ医療センターのNavdeep Tangri氏らが、CKD患者8,000人超について行った試験で明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月20日号(オンライン版2011年4月11日号)で発表した。CKDステージ3~5の、開発コホート約3,500人、検証コホート約5,000人について検討研究グループは、2001年4月1日~2008年12月31日にかけて、腎臓病専門医に紹介されたステージ3~5のカナダ人のCKD患者(eGFR値:10~59mL/分/1.73m2)の2コホートについて試験を行った。開発コホートの被験者数は3,449人で、うち386人(11%)が腎不全、検証コホートの被験者数は4,942人で、うち1,177人(24%)が腎不全だった。Cox比例ハザードモデルを用いて予測モデルを作成し、C統計量、統合判別改善(IDI)、キャリブレーション・プロット、赤池情報量基準(AIC)などを用いてモデルを評価した。試験開始後1、3、5年の時点で、ネット再分類改善率(NRI)を調べた。最高精度モデルで、C統計量は0.84~0.92結果、最も精度が高かった予測モデルは、年齢、性別、eGFR、アルブミン尿、血清Ca、血清リン、血清重炭酸塩、血清アルブミン値を追加したものだった(開発コホートのC統計量:0.917、95%信頼区間:0.901~0.933、検証コホートのC統計量:0.841、同:0.825~0.857)。検証コホートにおいて、同予測モデルの予測精度は、年齢、性別、eGFR、アルブミン尿から成る簡素化モデルよりも高かった。IDIは3.2%(95%信頼区間:2.4~4.2%)、キャリブレーション(NamとD’Agostinoのχ2統計量)は簡素化モデル32に対し19、CKDステージ3へのNRIは8.0%(95%信頼区間:2.1~13.9%)、同ステージ4へのNRIは4.1%(同:-0.5~8.8)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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末期がん患者に対する化学療法、医療従事者の考え方の違いとは? オランダの調査

末期がん患者に対する化学療法では、医師はこれを継続することで良好な健康状態を維持しようとするのに対し、看護師は継続に疑念を示し、余命の有効活用を優先する傾向があることが、オランダ・アムステルダム大学のHilde M Buiting氏らの調査で示された。がん治療の進歩により有効な治療法が増え、末期がん患者に対する化学療法薬投与の決定は繊細で複雑なプロセスとなっているが、最近の調査では末期がん患者への化学療法施行は増加し、「がん治療の積極傾向(a trend towards the aggressiveness in cancer care)」と呼ばれる状況にある。医療従事者は患者の利益となる治療を提供する義務があるが、患者の自律性に重きが置かれる社会では患者利益は先験的に明らかなわけではなく、化学療法の利益と負担に関する医療従事者の考え方もほとんど知られていないという。BMJ誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月4日号)掲載の報告。転移性がん治療に当たる医師と看護師への面接調査研究グループは、末期がん患者に対する化学療法施行時の医療従事者の経験およびその姿勢について、主に治療者としての考え方を引き出すことを目的に、面接に基づく質的調査を行った。2010年6~10月に、オランダの大学病院および一般病院の腫瘍科に所属し、転移性がんの治療に当たる医師14人(平均年齢41歳、女性8人)および看護師13人(同:40歳、11人)に対し半構造的面接を行った。生命予後とQOLのバランスの回復には、看護師の意見の導入が必要か医師と看護師は、不良な予後や治療選択肢について患者に十分な説明を試みたと述べた。また、化学療法の効果と有害事象を十分に考慮し、場合によっては治療を続けることが患者のQOLに寄与するか疑わしいこともあったと答えた。医師、看護師ともに、患者の健康状態を良好に保つことが重要と考えていた。医師は化学療法を継続することで患者の健康を維持しようとし、患者がそれに従うことが多い傾向がみられた。これに対し、看護師は化学療法の継続に疑念を表明する傾向が強く、患者が残された時間を最大限に活用できるように配慮するほうがよいと考えていた。治療上のジレンマや治療に対する患者の意向に直面した場合、医師は「では、もう1回だけ試してみませんか」などの妥協案を提示することを好んだ。化学療法施行中に、患者と死や臨終について語り合うことは、患者の希望を失わせる可能性があるとして、治療とは矛盾する行為と考えられていた。著者は、「末期がん患者に対し化学療法を継続する傾向は、患者と医師の『あきらめない』という態度の相互補強、および患者QOLに関する医師の広範な解釈の仕方で説明可能と考えられ、これは『治療を控えることで患者の希望を奪うのは危険』との考え方が元になっていると推察された」と結論し、「生命予後(quantity of life)とQOLのバランスを取り戻すには、医師以外の医療従事者、とりわけ看護師の意見の導入が必要と考えられる」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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高所得国の死産予防で優先すべきリスク因子が明らかに

高所得国の死産予防では、効果的な介入を優先すべき修正可能なリスク因子として妊婦の過体重/肥満、高齢出産、妊娠時の喫煙などが重要なことが、オーストラリアMater Medical Research InstituteのVicki Flenady氏らの調査で明らかにされた。高所得国では、1940年代以降、死産数が著明に減少したが、最近20年間はほとんど改善されていないことが示されている。死産のリスク因子の研究は増加しているものの、予防において優先すべき因子の同定には困難な問題も残るという。Lancet誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月14日号)掲載の報告。5つの高所得国のデータを解析研究グループは、高所得国の死産の予防において、有効な介入を優先的に進めるべき項目を同定するために系統的なレビューを行い、メタ解析を実施した。データベースを検索して、死産のリスク因子を検討した地域住民ベースの試験を選出した。ライフスタイルへの介入や医学的介入による改善の可能性を基準に、報告頻度の高い因子を同定した。高所得国の中でも死産数が多く、解析に要するデータをすべて備えた5ヵ国のデータを用いて、修正可能なリスク因子に起因する死産の数を算定し、人口寄与リスク(PAR)を算出した。効果的な介入法を認識してその実践を促進することが重要6,963試験中、13の高所得国から報告された96の地域住民ベースの試験(アメリカ29件、スウェーデン16件、カナダ9件、オーストラリア12件、イギリス9件、デンマーク6件、ベルギー5件、ノルウェー3件、イタリア2件、ドイツ2件、スコットランド1件、ニュージーランド1件、スペイン1件)が選出された。そのうち76試験がコホート試験(前向き試験6件、後ろ向き試験70件)、20試験が症例対照試験であった。文献のレビューにより、死産の修正可能なリスク因子として、妊婦の体重、喫煙、年齢、初産、胎内発育遅延、胎盤早期剥離、糖尿病、高血圧が示された。死産の修正可能リスク因子の最上位は妊婦の過体重/肥満(BMI>25kg/m2)であり、5ヵ国(オーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリス、オランダ)のPARは7.7~17.6%、高所得国全体の妊娠期間≧22週の予防可能な年間死産数は8,064件であった。次いで、出産年齢≧35歳の高齢出産(5ヵ国のPAR:7.5~11.1%、全体の年間死産数:4,226件)、妊娠時の喫煙(同:3.9~7.1、2,852件)の順であった。5ヵ国の高所得国の中でも、先住民など恵まれない状況に置かれた集団では、死産した妊婦における喫煙のPARは約20%と高い値であった。また、5ヵ国の死産のPARの約15%を初産婦が占めた。胎内発育遅延のPARは23%、胎盤早期剥離のPARも15%と高値を示し、死産において胎盤の病理が重要な役割を担っていることが浮き彫りとなった。糖尿病と高血圧も死産の重要な原因であった。著者は、「高所得国における死産の予防では、過体重、肥満、出産年齢、喫煙などの修正可能なリスク因子に対する効果的な介入法を認識し、その実践を促進することが優先事項である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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スタチンによる血管疾患の1次予防の費用対効果:オランダの調査

プライマリ・ケアにおける血管疾患の1次予防としてのスタチン治療は、低リスク集団では費用対効果がよくないことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJP Greving氏らの検討で示された。スタチンは、心血管疾患のない集団における心血管/脳血管イベントのリスクを低減することが示されているが、スタチン治療の絶対的なベネフィットを規定するのは、個々のリスク因子よりもむしろ全体としての血管疾患イベントのリスクと考えられている。また、日常診療におけるスタチン服用のアドヒアランスは十分とは言えず、これが費用対効果を損なっている可能性もあるという。BMJ誌2011年4月9日号(オンライン版2011年3月30日号)掲載の報告。低用量スタチンの費用対効果をMarkovモデルで検討研究グループは、血管疾患の1次予防における低用量スタチンの費用対効果を、直近の薬価、服薬アドヒアランス不良(臨床効果は低いがコストは維持)、JUPITER試験(スタチンの1次予防効果に関する最新の大規模臨床試験)の結果を踏まえて検討した。オランダのプライマリ・ケアのデータを用い、血管疾患の既往歴のない45~75歳の健常者の仮説母集団において、10年以内に血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)を発症するリスク(10年血管リスク)を、低用量スタチン(連日)群と無治療群で比較した。費用対効果の解析にはMarkovモデルを用いた。パラメータの不確実性については、Monte Carloシミュレーション(1,000回反復)を用いた確率的感度分析を行った。主要評価項目は、10年間の致死的および非致死的な血管疾患の発生、質調整生存年(QALY)、コスト、増分費用対効果比であった。10年血管リスクが低くなるにしたがって費用対効果が低下する傾向無治療に比べ10年間のスタチン治療のコスト/QALYは、10年血管リスクが10%の55歳男性では約3万5,000ユーロ(ほぼ3万ポンド、4万9,000ドルに相当)であった。全般に、増分費用対効果比は血管疾患リスクの増大とともに改善し、55歳男性では、10年血管リスクが25%の場合の約5,000ユーロから、リスク5%の場合の約12万5,000ユーロまでの幅が認められた。また、増分費用対効果比は加齢とともにわずかに低下する傾向がみられた。感度分析では、得られた結果はスタチン治療のコスト、スタチンの有効性、アドヒアランス不良、連日服用の不効用性、モデルの計画対象期間(time horizon)に対し高い感度を示した。著者は、「日常診療では、血管疾患のリスクが低い集団(10年血管リスク<5%)に対する1次予防としてのスタチン治療は、ジェネリック薬のコストが低いにもかかわらず費用対効果がよくないと考えられた」と結論し、「1次予防におけるスタチン使用の費用対効果のいっそうの改善には、スタチン服用のアドヒアランスの向上が求められる」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい」

1969年9月14日生まれ。博士(医学)、博士(工学)。1994年3月慶應義塾大学医学部医学科卒業後、同大学病院にて研修94年4月同大学大学院医学研究科博士課程。96年11月ハーバード大学医学部放射線科心臓血管造影およびIVR部門留学(~99年)。98年4月同大学医学部助手。04年4月同大学理工学部機械工学科・鈴木哲也研究室共同研究員および医療班チームリーダー。05年4月国家公務員共済組合連合会立川病院放射線科医長。08年4月東邦大学医療センター佐倉病院放射線科講師。09年8月同病院放射線科准教授。日本血管内治療学会評議員。日本IVR学会代議員、他。10年日本学術振興会 榊奨励賞受賞、第96回北米放射線学会Certificate of Merit受賞、他多数。低侵襲治療としてIVRカテーテル治療に大きな魅力を感じた放射線科領域を大別すると、X線検査、CT、MRI、核医学検査などに代表される放射線診断学とがん治療に代表される放射線治療学があります。CT、MRIなどが登場する前から存在した「血管造影法」は、私が専門とする放射線診断学の根幹です。血管のない臓器は存在しないため、古くから重要な診断法として発展してきました。しかしながら、CT、MRIなどの医療機器の技術革新によって血管造影の役割も変わってきました。皮膚に局所麻酔をしてほんの2㎜だけの傷をつけるだけで血管内に「カテーテル」と呼ばれる管を挿入し、臓器に直接アプローチできるので、たとえば循環器領域であれば心臓にアプローチして狭心症や心筋梗塞を治す。消化器領域では、肝臓がんであれば肝動脈塞栓術のように大腿動脈から患部のすぐそばまで細いカテーテルを挿入して抗がん剤を流して腫瘍を兵糧攻めにする。脳神経領域では、急性期の脳梗塞の血栓溶解療法や動脈瘤を詰めることもできます。また、下肢の動脈硬化の場合、風船付きカテーテルを挿入し直接狭くなった血管を広げ、歩けなかった患者さんが歩いて帰えれるようになる。CTやエコー、MRIなどの画像支援の下に血管内だけでなく臓器を直接穿刺して治療する。画像を使った血管内治療および血管以外の臓器などに対する、画像支援下の低侵襲治療、これが私の専門領域です。医学の世界に入った当初から、IVR(インターベンショナルラジオロジー)に興味があり魅力を感じていました。これからの治療は、身体に大きくメスを入れて手術するだけではなく、患者さんに優しい治療でありながら効果的な治療が求められています。カテーテルの技術にせよ、医療器具にせよ、どんどん進歩してくるであろうと考えました。その進歩と共に、カテーテル治療が今後の医療現場において主流になってくるのではないかとも考えていました。それは現実になってきていると確信しています。IVR治療で劇的に変わる患者さんのQOLIVRでできることは血管を開く、詰める、溶かす、生検のための組織を切除して取り出す、直接腫瘍を穿刺して治療する、簡単にいうとこれらが主な分野です。具体的には、動脈硬化で詰まった血管を開き、血栓で詰まった血管を溶かすことができる。体を大きく切開することなく組織を取り出し診断を確定する、ドレナージといって体内の深い部分の膿をCT・エコー・MRIで見ながら吸い取る。詰めるは塞栓術といって、肝臓がん治療の他、体の中で緊急出血した場合、血圧が低下し、身体を大きく開くことはできないので、救急治療として金属のコイルを詰めて止血し、一命を救うこともできます。今までは大きく開腹、開胸しなくてはならなかった手術が、IVR治療によって足の付け根や腕の部分を局所麻酔で2から3mm切開し、動脈や静脈にカテーテルを挿入して治すことができるようになっています。これにより患者さんの入院日数は劇的に短縮されました。局所麻酔のため危険性も減りますし、入院期間も短くなり、痛みが少ないなど多くのメリットがあります。心臓疾患の場合、以前ならば最低でも1から3ヵ月の入院を余儀なくされましたが、IVR治療では、長くて10日、われわれは3日から1週間入院を目安にしています。ただし、入院期間が短縮されたからといって、簡単な病気だったと勘違いはしないでほしい。血管内で手術は行われていますから、それなりのリスクがあることも十分知っておいてほしいと思います。患者さんにとって簡単そうに思えるIVR治療ですが、医師としては熟練した手技と全身疾患に対して知識や経験がないとできない分野です。実際に治療を行えるようになるまでには、綿密なトレーニングが必要です。東邦大学では後期研修医あるいは大学院生の1年目から血管内治療のトレーニングを本格的に重ねてもらいます。われわれの科では、画像診断もやりながら低侵襲の治療をする、研究にも取り組み積極的に国内外の学会で発表するという3本の柱を忘れることなく、必死で若手の医師が毎日を過ごしています。臨床医としての経験を活かした研究開発私がこの世界に入った時にはすでに、血管内治療のデバイスであるステントやバルーンの8割が輸入品でした。許認可の問題もあって、欧米の製品を平均2年遅れで買わなければいけない現状があります。その上、必ずしも日本人に適しているデバイスではありません。日本人にとって使いにくくて直してもらうにしても、製品ができあがってくるまでに1年、2年、3年かかる場合もあります。目の前の患者さんを治せるツールがあるのに、サイズが合わないだけで使えないという現実にジレンマを感じていました。私が慶應の研修医だった当時、恩師で、放射線医の第一人者であり、日本のIVRの父ともいえる平松京一教授(当時)の計らいで、医師になってから2年半後にハーバード大学で研鑚(けんさん)を積むようにと言われました。そこで約3年半、留学することになってしまいました。研修医が終わったばかりで、何の実力もないし、研究歴もなかった。渡米前には、多くの上司にも心配されました。ハーバード大学で最初の数ヵ月はお客さん扱いでしたし、もう帰国しようかとどまろうかと考えながら細々と実験を始めました。その実験データを基に数ヵ月後に書きあげたプロトコールが運良く認められて潤沢な公的研究費が与えられて、それをきっかけに状況が変わりました。そこのチームのチーフに任命され、血管の中の遺伝子治療研究が始まりました。詰まった心臓血管の中にステント(金属のメッシュ状の筒)を入れると、再狭窄が起こります。ステントは血流を劇的に改善しますが、血管を無理に開くため血管の内皮細胞や血管平滑筋細胞に傷がつきます。血管には破れると修復する作用があって、傷を修復する過程で、金属の周囲に血栓が付き、その刺激が過剰平滑筋細胞の増殖を促し、血管がまた詰まってしまうのです。それを治すために特殊なバルーンカテーテルというのを用いてそこから薬剤を出す。当時は、ステント留置後、20%から40%は半年後には詰まるといわれていました。確かに、血管内の遺伝子治療は実験的に成功し、米国IVR学会やNIHなどで受賞しました。けれども、やはり金属ステントそのものの留置が「諸刃の剣」だということに気づき、帰国後、材料工学の研究を独学で始めました。体になじみにくい金属が、長期的によい成績をだせるわけがないと考えたからです。しかしながら、金属の特性としてしなやかさや耐腐食性などを上回る素材はなかなかありません。それならば、既存のものにコーティングを施したらどうか、と考えました。ただし、コーティングするにしても体に害を及ぼすものでは当然使えません。行き着いたのがダイヤモンド系のコーティングでした。ダイヤモンドは、「物質の王様」といわれるだけあって、非常につるつるしているばかりではなく、耐摩耗性という特性があり、さらに炭素は身体を構成する成分の一つなので、人体に悪影響を及ぼしません。現在、主流となっている薬剤溶出性ステントから出てくる薬剤は薬効が強く正常の血管内皮細胞にダメージを与えるものが主流ですが、ダイヤモンドというのは化学的に安定しているばかりでなく、細胞に毒性を与えない特性を持っています。われわれは、さらにダイヤモンド系コーティングにフッ素を混在させることによって、血液の付着も防げることを初めて発見しました。つまり、フッ素を添加したDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)というコーティングは、血液をはじき付着を防ぐので、血栓ができにくい。さらに、血管内に残るのは炭素を主流とするダイヤモンド系素材なので、身体に悪いものではありません。これらの研究開発には、医学の知識だけではなく工学知識の力が不可欠でした。そこで、臨床医の立場で工学との通訳をしなければいけないと痛感しました。なぜならば、工学の思考と医学の研究者の思考回路はまったく違うからです。ですが、工学者も研究の応用の幅を広げたいと考えているし、医学者もテクノロジーを利用する考えが必要です。互いの歩み寄りを円滑にするために、私は医学部の栗林幸夫教授のご指導の下、医学博士を取得し、その後、工学部の鈴木哲也教授の下で工学博士を取得しました。これからも研究開発において、医工連携のための通訳になれたらと思いますし、私に続く若い医師や研究者を育成することに力を注いでいます。ゼロからのスタートに惹かれ挑戦慶應からこちらへ来たのは、ここはほぼゼロからということに興味を持ちました。現在の教室の寺田一志教授の誘いもあり、今までやってきたことをここで一度リセットして挑戦してみるのもいいだろうと考えました。慶應もいい環境ではありましたが、東邦大学の伝統と自由な気風、研究に対しても「自由にやれ」というムードがありました。特に、東邦佐倉病院では、他の臨床医の方々も、慶應から来た新参者にすごく親切にしてくれて、雰囲気もよかったし、全体的にやる気の気運が高まっている瞬間でした。今では県内でもトップクラスのIVR症例数を誇る施設になりつつありますが、こちらに来た当時はIVR治療もあまり積極的に行われていませんでした。それでも、循環器センターや消化器センターなど各診療科の多くの先生のご協力があって、現在にいたっています。これは、東邦大学の気風とセンター単位で行われるチーム医療にうまく融合した結果だと思います。前病院長の白井教授が臨床・研究に対する基礎を構築し、現在の田上病院長を中心にした執行部の積極的な支援の賜物だと思います。当院循環器センターの専門外来である「血管内治療・IVR外来」は、循環器内科医、心臓血管外科医、臨床検査医、放射線科医、心臓リハビリ医、形成外科医、糖尿病代謝内科医など本当の意味でのチーム医療ができるように構築してきました。カンファレンスの意思が医師同士の間で一貫しているというのは、患者さんにとっても安心できることだと思います。臨床としては主に肝臓がんや救急出血や動脈瘤などの塞栓術と下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)に伴い、詰まってしまった血管の血管形成術がメインです。糖尿病や動脈硬化で足が壊死してしまうのを治療するのがメインです。私にとって医療器具の研究はライフワークですが、実は臨床が9割。この臨床の経験があるからこそ研究のテーマが明確に打ち出せるのだと思います。これからは教育にも力を注ぐ私がこれから望むものは、若い人の教育です。まだ私も若いですけど……(笑)。若い人を教育するということは、自分が教育されることでもあります。教えるというのは、教えられることでもあります。先入観のない眼で若い人と日本から何かを発信したい。座右の銘は「感謝して今日もニコニコ働きましょう」。決して一人で仕事をしているのではなく、周りのスタッフ、上司、親、自分の周りの人すべてが笑顔でいられる医療をやりたい。そのために臨床はもちろん、研究や医療器具の開発もしたい。若い医師には、どんどん広い世界を見て、自分のアイデンティティ、日本人であるとか医師になるという明確な自覚を持ってほしい。勇気を持って新しいことにもチャレンジしてほしい。それらを一緒にやっていきたい。だからうちの科では工学部との交流や留学なども積極的にプログラミングしています。若いうちから何でも経験させ、国際学会発表も全員が入局2年以内に経験するように指導しています。敵は病気なので、最高の技術、最高の人間性、患者さんを治したいという気持ちを強く身につけてほしいと考えています。是非、そんなピュアな高い志を持った若い先生と学閥や分野を越えて一緒に働きたいという希望を持っています。質問と回答を公開中!

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患者さんのため、被災地の精神科医療施設の診療状況の情報入力を

3月11日(金)に発生した東日本大震災。被災地において、精神障害を持つ方は持たない方に比べ、より過酷な状況におかれている可能性があるという。その中で、NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ(COmmunity Mental Health & Welfare Bonding Organization)は、他団体とともに、いち早く被災地域の精神科病院および地域精神保健活動の状況を把握し共有するためのWebサイトを立ち上げ、情報を提供し始めた。Webサイトを運営する団体の一つであるNPO法人コンボ 丹羽大輔氏に、サイト立ち上げ当時と現在の状況について聞いた。-どのようにして、このWebサイト立ち上げに至ったのでしょうか?震災発生当初は、現地の情報が入りにくく、また被害が広域で何から手をつけてよいのかわからない状態でした。そこで地震の翌日3月12日に関係者が集まり、被災地の精神障害を持った方々に対し、迅速に支援できることは何か検討しました。その結果、彼らが一番必要としているのは、やはり精神科病院の状況についての最新情報だろうという結論にいたりました。ただし現地に入って調べることはできないので、現地にいる精神科病院関係者が書き込めるようなWebサイトを立ち上げ、そのサイトにアクセスすれば被災地域の精神科病院の状況が把握でき、また精神科医療機関同士で情報を共有できる仕組みを作ろうということになりました。Webサイト作成は、ACT全国ネットワーク(http://assertivecommunitytreatment.jp/)、国立精神保健研究所社会復帰研究部(http://www.ncnp.go.jp/nimh/fukki/index.html)と私たちNPO法人コンボで行い、打ち合わせの翌日3月13日には完成させました。そして、その日から現地の関係者に書き込んでもらうため、私たちのメーリングリストやTwitterを使って情報を流しました。そうしたところ、翌14日からすぐに書き込みが始まりました。現地の病院院関係者に情報が届き書き込みが始まる、という一連の流れが非常に短期間に行われたことに驚きました。 全文はこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/original/comhbo/ 《関連リンク》 NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボhttp://www.comhbo.net/ 被災地の精神科病院状況リストhttp://assertivecommunitytreatment.jp/ph/編集ページhttp://j.mp/egqdru 被災地における地域精神保健福祉活動の情報http://www.comhbo.net/cr/編集ページhttp://bit.ly/dKZVMB (ケアネット 細田 雅之)

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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教授 福島統 先生の答え

診療所医師による医学教育のためのシステム人口8万都市で小児科医を開業している者です。診療所で研修医の「地域保健研修」を、また、出身医大で「外来小児科学」の講義を行っています。先生のご意見、医学生をプライマリ・ケアの場に出す動きには全面的に賛同します。診療の質を上げるためには、診療を人に見せて教える必要があると考えますが、この波が拡がるためにはどうすればよいでしょうか?優秀な開業医が医学教育に関わることができずにいる環境があります。初期研修が始まった時に医師会が率先してシステムを作ればよかったのでしょうが…全国レベルでの医学部でのプライマリ・ケア実習の動きはありますでしょうか。あるいは今後の、それぞれの学会に依存しない医学部としてのシステム作りは可能でしょうか。ことば足らずで回答しにくいかと思いますが、医学部の変化がないことには診療所医師の関与は難しいと思いましたので。すでに医学部という大学と特定機能病院という大学附属病院のみでは、国民が求める医療を教えることはできないことは自明です。大学は医学教育をコーディネートする「教育機関」です。医学部が様々な医療ニーズを学生に見せ、学生一人ひとりが自分の仕事を知る機会を作ることがcommunity-based medical education です。このcommunity-based medical education は世界的な流れです。日本が遅れているだけです。医学部の中には専門医療だけでなく、地域が求める医療を学生に見せようとカリキュラムを工夫するところが増えてきています。医療の世界では、どの医療機関に所属する人も「教育」をしていかなければなりません。教育の場は大学と附属病院だけではありません。診療所も、地域病院も、在宅で頑張っている医師も、医師とは本質的に医師を育てる人たちだと思います。大学で医学教育を考える人たちが、自分の専門だけでなく、「医療」を学ぶ学生のことを考える日は近いと思います。その時に、地域の医師が「医師の役割の一つ」としての教育に夢を持って欲しいと思います。政治と現場で意見反対なのは何故ですか?福島先生の解説を読んで、医師不足問題について大変理解が深まりました。まだ私は医学生なので考察が甘いかもしれませんが、福島先生の意見が正論だと思いました。ただ、福島先生の意見が正論だと思う一方で、では何故、日本は医学部新設に向かっているのか?というところが分かりません。政治と現場で意見が対立しているのでしょうか?何故、日本は医学部新設の流れにあるのでしょうか?昭和45年に秋田大学医学部と北里大学医学部、杏林大学医学部、川崎医科大学が出来ました。昭和46年は私立医大がさらにできた後に、昭和47年からの1県1医大が始まります。この時、私立医大ができたのは、戦後の医専の卒業の大量の医師(開業医)たちの後継者問題があったからです(昭和20年の医学部入学定員は1万人を超えていました)。この時、裏口入学の問題が世間を騒がせました。1県1医大政策は田中角栄首相が押し進めました。その時の理由は東北・北海道の医師不足、医師の地域偏在、診療科偏在、基礎医学者と公衆衛生に関わる医師の不足が問題となりました。まさに今、政治が論じている問題と全く同じです。医師数をただ増やせばこの問題が解決するというのは幻想です。問題があるから、「何かを」しなければいけないという風潮になり、医学部を新設すれば「きっとよくなる」という積極策の幻想(ペーター・センゲ)になっていると思います。何かをすればそれが解決へつながるという言い訳でもあります。これは危険な考え方です。今こそ、なぜ日本の医療がうまくいかないのかをみんなで考えるべきです。学外実習に必要な開業医の数は?私も、現場で学ぶ機会は多い方がよいと考えます。学外実習に協力している開業医の先生が65名いらっしゃるとのことですが、慈恵さんレベルの大学ではその人数で十分なのでしょうか?理想としてはどのくらいの先生方を確保するべきなのでしょうか?数年前、韓国の医学教育学会で慈恵医大の「家庭医実習」の話をしました。その時、どうやって指導医を集めているのか、との質問を受けました。私は次のように答えました「医者には二通りの医者がいる、good doctors とnot good doctors だ」。会場に大きな笑いを誘いました。でも、私はこれが真実だと思います。そして、いい医者は良い医者が誰かを知っています。慈恵医大では、素敵な指導医と学生が評価した開業医に、「良い開業医を紹介してください」とお願いし、指導医を集めました。素敵な指導医が最低30人いれば、1年間で100名の学生の臨床実習を行うことができます。でも、無理をしないで1年間で100名の臨床実習をするには、60名必要と経験的に考えています。 トータルの実習成果は?学生の中には学外実習が苦手というか社交的ではない者も多いかと。皆がみな学外実習で何かを掴んで帰ってくるとは思えないのですが、実際はいかがでしょうか?個別には成果をあげる学生もいるでしょうが、トータルでみたときの実習成果について、差し支えなければご教示ください。昔、私が学生時代は先生が「あの学生は口下手だが、まじめでいい子だよ」と言っていました。私は、それは間違いだと思います。臨床医になるなら、どうにかして口下手を克服すべきだと思いますし、口下手を拡幅するために大学はその学生に手をかけるべきだともいます。人と話ができない医者を作るのではなく、たとえ上手ではなくても患者さんの話を聞く態度を持つ医師に育て上げるべきと思います。今までの初等、中等教育では、「職場の中で学ぶ」力を生徒に養ってきませんでした。しかし、医師になる者には「職場の中で学ぶ」力が必要です。医学部がただ知識と技能を教えていればいいのではありません。その学生が病棟で、患者さんから医療チームのメンバーから「人から学ぶ」ことのできる力を持てるようにしなければなりません。学外実習に行って、多くの学生は「自分に足りないもの」を見つけてくるように思います。自分に足りないもの、これこそが学習課題です。学習課題に気づいた人は自ら学習するでしょう。でも気づくチャンスがなければ学習は進行しません。そして気づきは異文化の中で起こることが多いのです。学生を学外に出し、「無理やりさせられ体験」をさせることで医学部の中にいるだけでは気づけない自分自身の学習課題を知って欲しいと思います。しかしながら、気づきはその学生のレディネスに負うところが多いことも事実です。スキャモンの成長曲線を思い出してください。大器晩成型も、早熟型もあります。学生に気づきの機会を与えますが、その学生が気づくまで待つことも大事です。学生の成長を待つだけでなく、成長を促すためにも「無理やりさせられ体験」は必要だと考えます。学生の反応は?医学生であれば目の前の国試対策に意識が集中して、学外実習は二の次ではないかと思います。実際、学外実習に対する医学生の反応はどうでしょうか?学生を説得して実習に出す感じでしょうか?※医師として患者を診ている今となれば、慈恵さんの学外実習が如何に素晴らしいかよく分かります!本当人間って勝手ですよね(笑)学生は医者になりたがっています。決して国家試験のプロになろうとはしていません。これは真実だと信じます。そして学生は実り多い自分の人生を求めています。人間とは自分自身の成長に気づいたとき、それを嬉しいと思う存在です。しかし、学生には今どのような体験をすべきか自分では分からないと思います。カリキュラムで必修とするのは、「無理やりさせられ体験」として学生が理解できなくても「行かせる」ためです。もちろん、オリエンテーションはたくさんしますが、実体験のない学生には理解は困難だと思います。学外実習は3年か4年しないと安定しません。教員がいくら大事だと言っても学生が理解しませんが、先輩の学生は「行ってみろよ、経験になるぜ」と言ってくれるようになったら実習が安定します。彼らは身近な先輩の言うことは素直に信じるのでしょう。実習を経験し、臨床実習に出たときにこの実習の意味を理解してくれれば学生は「無理やりさせられ体験」から「意味のある経験学習」へと認識を変えてくれます。国試対策について場違いな質問であれば無視していただきたいのですが、現在息子の入学先を検討している者です。私は地方の国立大卒です。私大医学部出身の友人もおらず、私大医学部のことがよく分かりません。慈恵医大ならではの特別な国試対策カリキュラムなどあるのでしょうか?学外実習は完璧だと思いました。親として心配なのは国試対策だけです。宜しくお願いします。慈恵医大は特別な国試対策はしません。むしろ6年生の後半には学生に自由な時間を与えるようにしています。学習で重要なのは、自分自身の能力を自分で評価し、自分の不足しているところを自分が認識して、自分の方法で学ぶことです。医学部6年生に「教え込み」は通じません。彼らは立派な「成人学習者」ですから。自分の不足を振り返り、自律的に学習する機会と時間を与えれば、医師になれるものは「国家試験」に合格します。何時までも教え込まれなければ勉強できない人はむしろ医者になるべきではありません。医者に必要な能力は生涯学習力ですから。私が医学教育の仕事をするようになった時、留年者や国試浪人の人にインタビュー調査をしたことがありました。彼らの欠点は明らかでした、解剖と生理学、すなわち基礎医学を知らないのです。国家試験のための勉強は基礎医学にあります。基礎医学をまなんだ人は病態を暗記ではなく、論理として理解します。そして今の国家試験は昔と違い、病態を理解してそのうえで薬理学の知識を応用した治療の選択を聞いてきます。国家試験は既に暗記の世界から、理解の世界へと変わってきているのです。国家試験は心配なら、基礎医学教育をしっかりしている医学部を受験させるべきと思います。医学を学ぶ者の自由とは、それを否定する理由はなんですか義務のみで自由はないのでしょうか、腑に落ちません。一人の学生が医師になるためには6年間に約1億円の経費がかかります。国公立であろうが私立であろうが多量の税金を使って医者になります。私は納税者です。自分が払った税金が「金儲けしか考えない医師」の養成に使われたとした、損害賠償請求をします。私は献体者です。死んだら、この体は解剖学実習に使われます(それまでには痩せようと思っています)。阿部正和慈恵医大元学長が講義のたびに学生に言っていました「患者こそ最高の師」と。医者になるためにたくさんの期待がかけられています。だから医学生はエリートだと思います。もし、自由に学びたいのなら、その経費は自分で払うべきです。税金とご遺体の行為と患者さんの協力を頂いて医師になるなら、国民から期待される医師になる責任があると思います。自分の自由のために他者の心もお金も使う必要はないと思います。この道に進まれたきっかけを教えて下さい。先生が、臨床でもなく研究でもなく教育を専門にされた「きっかけ」に興味があります。産婦人科開業の長男として生まれ、私立医大に入学してっきり産婦人科開業医になると思っていました。しかし、卒業時には少子高齢化が始まっており、産婦人科開業医の道はなくなり、面白そうと思った解剖学に進みました。解剖で業績を上げている最中に、急に大学から医学教育の仕事をしろ!と命令されました。いざ、医学教育の世界に入ってみたら、したいことがたくさんあったのです。だからそれをしただけです。多分、どの分野に行っても良かったのでしょう。今したいことを、今の立場で出来れば何でもよかったのかもしれません。いまは、この分野の仕事ができることを嬉しいと思っています、そしてもっとしたいと思っています。実習を阻む障害に関して1年生から地域実習へ出すとなると結構大変だと思います。受け入れ先を探す他にも障害が多かったと推察しますが、どのような障害がありましたでしょうか?1年生の福祉体験実習を作るとき、最も困ったことは「医学部と地域福福祉」があまりにも遠かったことです。特定機能病院には、知的障害や精神障害者の就労支援のことを知っている人がいませんでした。2年生の重症心身障害児の実習を作るときも地域で子どもがどのように生活しているかを考えている小児科以外の医師はほとんどいませんでした。3年生の訪問看護ステーションの実習に至っては、一部の神経内科医は理解を示したものの、多くの専門医たちは在宅医療の存在すら想像してくれませんでした。でも低学年の学外実習は臨床医たちの利害とは離れていたので実習を作りことができました。実習を作るためには何足もの靴が必要でした。医学部とは遠い福祉や在宅には、足を運び理想を話し、夢を共有してもらい一緒に医師を作ろうと説得しまわりました。多くの実習施設は共感を示してくださり、快く学生実習を受けてくださいました。特に福祉施設では、「良い医者を私たちもメンバーさんのために作ってください」と励ましていただきました。臨床実習での「家庭医実習」を必修化できたのはひとえに、阿部正和元学長のおかげです。慈恵医大は全国に先駆けて昭和61年に選択科目として開業医実習を導入していました。阿部正和先生という方が、素晴らしい指導医がたくさんいる実地医家の会との連携を作ってくれていたので、解剖上がりの臨床を知らない私が「家庭医実習」を必修化できたのだと思います。実習先になりうる開業医とは?実習を引き受ける開業医に必要な素質はありますが?また高い理想とは?もう少し具体的にご教示ください。該当する先生がいたら是非紹介したいと考えます。良い医者は誰が見ても「良い医者」です。それは誰もそう思うと思います。教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

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震災時の抗がん剤治療に指標を

今回の震災にあたり、時間の経過とともに、急性期から亜急性期・慢性期に対する医療の問題がクローズアップされてきている。がん治療も生存期間の延長により慢性期医療の側面が濃くなっており、例外ではない。なかでも、抗がん剤治療については術後補助療法、再発転移治療ともに医薬品の流通が良好ではない被災地では大きな問題を抱えている。このような状況のなか解決策はあるのか、がん薬物療法のスペシャリストがん研有明病院化学療法科の畠清彦氏に聞いた。 Q. 被災地での抗がん剤治療に関する懸念がでてきているようですが? A. 現在は、当院でも抗がん剤の流通が良好な状態であるとはいえません。被災地ではなおさら条件が厳しいと思います。がん患者さんへの抗がん剤の投薬については、私たちが想像する以上に多くの問題を被災地では抱えていると思います。治療がままならないとはいえ、患者さんを放っておくわけにはいかず、お悩みの先生も大勢いらっしゃると思います。また、治療途中の病院がなくなってしまい途方にくれている患者さんも数多くいらっしゃることと思います。… 全文はこちらhttp://www.carenet.com/oncology/keyword/12/ ※畠清彦氏作「震災時の抗がん剤治療」も上記からダウンロード可能

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肥満高齢者には減量と運動のワンセットの介入のほうが各単独介入よりも身体機能を改善

肥満高齢者に対しては減量と運動の介入をワンセットで行うことが、どちらか単独の介入をするよりも身体機能の改善が大きいことが、米国・ワシントン大学医学部老年医学・栄養学部門のDennis T. Villareal氏らによる無作為化対照試験の結果、示された。肥満は加齢に伴う身体機能低下の増大や高齢者の虚弱を引き起こすとされるが、肥満高齢者に対する適切な治療については議論の的となっているという。NEJM誌2011年3月31日号掲載報告より。対照群、ダイエット群、運動群、ダイエット+運動群に肥満高齢者107例を無作為化試験は、1年間にわたり減量、運動介入の単独もしくは併用の効果を評価することを目的に行われた。試験参加の適格条件は、65歳以上の肥満者(BMI≧30)、座りきり生活、体重が安定(前年の変化2kg未満)、薬物療法が安定(試験前6ヵ月間)、軽度~中程度の虚弱[一部修正を施した身体機能検査(Physical Performance Test)のスコア(0~36、数値が高いほど身体機能は良好)18~32、最大酸素消費量11~18mL/kg体重/分、二つの手段的日常生活活動(IADL)困難、一つの日常生活動作(ADL)困難]だった。107例が、対照群、体重管理(ダイエット)群、運動群、体重管理+運動(ダイエット+運動)群に無作為に割り付けられ追跡された。主要評価項目は、一部修正を施した身体機能検査のスコアの変化とした。副次評価項目には、虚弱、身体組成、骨密度、特異的な身体機能、生活の質などの測定を含んだ。ダイエット+運動群の身体機能改善、最大酸素消費量改善などが最も大きく試験を完了したのは93例(87%)だった。intention-to-treat解析の結果、身体機能検査スコアは基線から、ダイエット+運動群が21%増で、ダイエット群12%増、運動群15%増よりも変化が大きかった。なおこれら3群は、対照群(1%増)よりはいずれも変化が大きかった(P<0.001)。また、最大酸素消費量の基線からの変化は、ダイエット+運動群が17%増で、ダイエット群10%増、運動群8%増と比べ改善が認められた(P<0.001)。機能状態質問票(Functional Status Questionnaire)のスコア(0~36、数値が高いほど機能状態は良好)については、ダイエット+運動群が10%増で、ダイエット群4%よりも変化が大きかった(P<0.001)。体重の減量は、ダイエット群10%、ダイエット+運動群9%で認められた。しかし運動群や対照群では減量が認められなかった(P<0.001)。除脂肪体重の減量、股関節部骨密度の低下はいずれも、ダイエット+運動群がダイエット群よりも小さかった(それぞれ3%対5%、1%対3%、両比較のP<0.05)。ダイエット+運動群では筋力、平衡感覚、歩行機能について一貫した改善が認められた(すべての比較のP<0.05)。なお有害事象として、少数の運動関連の筋骨格損傷などが認められた。(武藤まき:医療ライター)

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新たな胸痛評価法により、低リスク患者の早期退院が可能に

ニュージーランド・クライストチャーチ病院のMartin Than氏らが新たに開発したADPと呼ばれる胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクが低く、早期退院が相応と考えられる患者を同定可能なことが、同氏らが行ったASPECT試験で示された。胸痛を呈する患者は救急医療部の受診数の増加を招き、在院時間の延長や入院に至る可能性が高い。早期退院を促すには、胸痛患者のうち主要有害心イベントのリスクが短期的には低いと考えられる者を同定する必要があり、そのためには信頼性が高く、再現性のある迅速な評価法の確立が求められている。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月23日号)掲載の報告。ADPの有用性を検証する前向き観察試験ASPECT試験の研究グループは、急性冠症候群(ACS)が疑われる胸痛症状を呈し、救急医療部を受診した患者の評価法として「2時間迅速診断プロトコール(accelerated diagnostic protocol:ADP)」を開発し、その有用性を検証するプロスペクティブな観察試験を実施した。アジア太平洋地域の9ヵ国(オーストラリア、中国、インド、インドネシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、台湾、タイ)から14の救急医療施設が参加し、胸痛が5分以上持続する18歳以上の患者が登録された。ADPは、TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)リスクスコア、心電図、およびポイント・オブ・ケア検査としてのトロポニン、クレアチンキナーゼ MB(CK-MB)、ミオグロビンのバイオマーカーパネルで構成された。主要評価項目は、初回胸痛発作(初回受診日を含む)から30日以内の主要有害心イベントの発現とした。主要な有害心イベントは、死亡、心停止、緊急血行再建術、心原性ショック、介入を要する心室性不整脈、介入を要する重度の心房ブロック、心筋梗塞(初回胸痛発作の原因となったもの、および30日のフォローアップ期間中に発現したもの)と定義した。感度99.3%、特異度11.0%、陰性予測値99.1%3,582例が登録され30日間のフォローアップが行われた。この間に、421例(11.8%)で主要有害心イベントが発現した。ADPにより352例(9.8%)が低リスクで早期退院が適切と判定された。そのうち3例(0.9%)で主要有害心イベントが発現し、ADPの感度は99.3%(95%信頼区間:97.9~99.8)、陰性予測値は99.1%(同:97.3~99.8)、特異度は11.0%(同:10.0~12.2)であった。著者は、「この新たな胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクがきわめて低く早期退院が相応と考えられる患者を同定した」と結論し、「ADPを用いれば、全体の観察期間および胸痛による入院期間が短縮すると考えられる。ADPの実行に要する個々のコンポーネントは各地で入手可能であるため、健康サービスの提供に世界規模で貢献する可能性がある。より特異度の高い評価法のほうが退院数を増加させ得るが、安全性重視の観点から感度に重きを置くべきであろう」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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肥満を加味しても、心血管疾患リスク予測能は向上しない:約22万人の解析

欧米、日本などの先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値の情報がある場合に、さらに体格指数(BMI)や腹部肥満(ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比)のデータを加えても、リスクの予測能はさほど改善されないことが、イギリス・ケンブリッジ大学公衆衛生/プライマリ・ケア科に運営センターを置くEmerging Risk Factors Collaboration(ERFC)の検討で明らかとなった。現行の各種ガイドラインは、心血管疾患リスクの評価における肥満の測定は不要とするものから、付加的な検査項目とするものや正規のリスク因子として測定を勧告するものまでさまざまだ。これら肥満の指標について長期的な再現性を評価した信頼性の高い調査がないことが、その一因となっているという。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月11日号)掲載の報告。58のコホート試験の個々の患者データを解析研究グループは、BMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比と心血管疾患の初発リスクの関連性の評価を目的にプロスペクティブな解析を行った。58のコホート試験の個々の患者データを用いて、ベースラインの各因子が1 SD増加した場合(BMI:4.56kg/m2、ウエスト周囲長:12.6cm、ウエスト/ヒップ比:0.083)のハザード比(HR)を算出し、特異的な予測能の指標としてリスク識別能と再分類能の評価を行った。再現性の評価には、肥満の指標の測定値を用いて回帰希釈比(regression dilution ratio)を算出した。むしろ肥満コントロールの重要性を強調する知見17ヵ国22万1,934人[ヨーロッパ:12万9,326人(58%)、北米:7万3,707人(33%)、オーストラリア:9,204人(4%)、日本:9,697人(4%)]のデータが収集された。ベースラインの平均年齢は58歳(SD 9)、12万4,189人(56%)が女性であった。187万人・年当たり1万4,297人が心血管疾患を発症した。内訳は、冠動脈心疾患8,290人(非致死性心筋梗塞4,982人、冠動脈心疾患死3,308人)、虚血性脳卒中2,906人(非致死性2,763人、致死性143人)、出血性脳卒中596人、分類不能な脳卒中2,070人、その他の脳血管疾患435人であった。肥満の測定は6万3,821人で行われた。BMI 20kg/m2以上の人では、年齢、性別、喫煙状況で調整後の、心血管疾患のBMI 1 SD増加に対するHRは1.23(95%信頼区間:1.17~1.29)であり、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.27(同:1.20~1.33)、ウエスト・ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.25(同:1.19~1.31)であった。さらにベースラインの収縮期血圧、糖尿病の既往歴、総コレステロール、HDLコレステロールで調整後の、心血管疾患のBMI 1SD増加に対するHRは1.07(95%信頼区間:1.03~1.11)、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.10(同:1.05~1.14)、ウエスト/ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.12(同:1.08~1.15)であり、いずれも年齢、性別、喫煙状況のみで調整した場合よりも低下した。従来のリスク因子から成る心血管疾患リスクの予測モデルにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスク識別能は大幅には改善されず[C-indexの変化:BMI -0.0001(p=0.430)、ウエスト周囲長 -0.0001(p=0.816)、ウエスト/ヒップ比 0.0008(p=0.027)]、予測される10年リスクのカテゴリーへの再分類能もさほどの改善は得られなかった[net reclassification improvement:BMI -0.19%(p=0.461)、ウエスト周囲長 -0.05%(p=0.867)、ウエスト/ヒップ比 -0.05%(p=0.880)]。再現性は、ウエスト周囲長(回帰希釈比:0.86、95%信頼区間:0.83~0.89)やウエスト/ヒップ比(同:0.63、0.57~0.70)よりもBMI(同:0.95、0.93~0.97)で良好であった。ERFCの研究グループは、「先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値に、新たにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスクの予測能はさほど改善されない」と結論したうえで、「これらの知見は心血管疾患における肥満の重要性を減弱させるものではない。過度の肥満は中等度のリスク因子の主要な決定因子であるため、むしろ心血管疾患の予防における肥満のコントロールの重要性を強調するものだ」と注意を促している。(菅野守:医学ライター)

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薬剤溶出性ステントを用いたPCIとCABG、術後QOLはどちらが良好か

多枝血行再建術予定患者に対する、薬剤溶出性ステントを用いたPCIと冠動脈バイパス術(CABG)の、術後QOLを比較検討が、米国・ミズーリ大学カンザスシティー校Saint Luke's Mid America Heart InstituteのDavid J. Cohen氏らにより行われた。これまでの研究ではCABGが、バルーン血管形成術やベアメタルステントを用いたPCIと比較して、狭心症発作を大幅に軽減しQOLを改善することが示されているが、薬剤溶出性ステントを用いたPCIのQOLへの影響は明らかになっていなかった。NEJM誌2011年3月17日号より。1,800例をパクリタキセル溶出ステントを用いたPCIとCABGに無作為化検討は、パクリタキセル溶出ステントを用いたPCIとCABGのアウトカムを比較検討した大規模無作為化試験SYNTAX(Synergy between PCI with Taxus and Cardiac Surgery)のサブスタディとして行われた。SYNTAXでは、再血行再建を含む複合主要エンドポイント発生率ではCABG群の有意な低下が認められたが、不可逆的な転帰のみから成る複合エンドポイント発生率では両群に有意差は認められなかった。このことからCohen氏らは、血行再建術の選択には、狭心症発作の軽減を含むQOLが重要な指標になるとして、被験者の前向きQOLサブスタディを行った。被験者は、3枝病変または左冠動脈主幹部病変患者1,800例。パクリタキセル溶出ステントを用いたPCI群(903例)、もしくはCABG群(897例)に無作為化され、ベースライン時、1ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後に、SAQ(シアトル狭心症質問票)と包括的QOL評価尺度であるSF-36を用いて健康関連QOLが評価された。主要エンドポイントは、SAQの狭心症発作頻度サブスケールスコア(0~100:スコアが高いほど健康状態は良好とされる)とした。狭心症発作頻度の軽減はCABGが大きいが、ベネフィットは小さいSAQとSF-36それぞれのサブスケールスコアは、両群ともベースライン時より6ヵ月後と12ヵ月後で有意に高かった。SAQの狭心症発作頻度サブスケールスコアは、CABGがPCI群より6ヵ月後と12ヵ月後により大きく増加した(それぞれP=0.04、P=0.03)。しかし群間差は小さく、両時点での治療効果の平均差はいずれも1.7ポイントだった。狭心症発作が起きなった患者の割合は、1ヵ月後と6ヵ月後では両群とも同程度だったが、12ヵ月後ではPCI群よりCABG群の方が高かった(76.3%対71.6%、P=0.05)。SAQとSF-36サブスケールのその他のスコアについては、主に1ヵ月後にPCI群が有意に高いスコアを示すものもみられたが、追跡期間全体を通しては有意差を示すものはなく両群で同程度であった。これらから研究グループは、「3枝病変または左冠動脈主幹部病変患者においては、CABGの方が6ヵ月後と12ヵ月後の狭心症発作の頻度はPCIと比べ大きく軽減したが、ベネフィットは小さかった」と結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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慢性疲労症候群、認知行動療法や段階的運動療法の併用が有効:PACE試験

慢性疲労症候群の治療では、専門医による治療(SMC)に加え認知行動療法(CBT)あるいは段階的運動療法(GET)を併用すると、SMC単独に比べ中等度の予後改善効果が得られるが、適応ペーシング療法(APT)を併用しても相加効果は認めないことが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のP D White氏らが行ったPACE試験で示された。慢性疲労症候群は「生活が著しく損なわれるような強い疲労」で特徴付けられ、筋痛性脳脊髄炎と同一疾患とする見解のほかに、別の診断基準に基づく異なる疾患と捉える考え方もある。CBTやGETの有効性を示す知見がある一方で、患者団体による調査ではAPTやSMCのほうが有効な可能性があると報告されている。Lancet誌2011年3月5日号(オンライン版2011年2月18日号)掲載の報告。4つの治療法を患者自身が評価PACE試験の研究グループは、慢性疲労症候群におけるCBT、GET、APT、SMCの4つの治療法の有用性を評価する無作為化試験を行った。イギリスの6施設から登録されたオックスフォード基準を満たす慢性疲労症候群患者が、SMC単独、SMC+APT、SMC+CBT、SMC+GETのいずれかの治療を受ける群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、52週における疲労(Chalder疲労質問票スコア)および身体機能(SF-36 subscaleスコア)であり、治療に対する重度有害反応に基づく安全性の評価も行った。主要評価項目の評価は患者自身によるが、試験デザインの性格上、割り付け情報はマスクされなかった。統計解析担当者にはマスクされた。縦断的回帰モデルを用いてSMC単独と他の3つの併用治療の比較を行った。疲労スコア、身体機能スコアとも、CBT併用群、GET併用群で改善患者選択基準を満たした641例のうち、SMC+APT群に160例が、SMC+CBT群に161例が、SMC+GET群に160例が、SMC単独群には160例が割り付けられた。52週における平均疲労スコアは、SMC単独群に比べCBT併用群は3.4ポイント(95%信頼区間:1.8~5.0)有意に低く(p=0.0001)、GET併用群は3.2ポイント(同:1.7~4.8)有意に低かった(p=0.0003)が、APT併用群では0.7ポイント(同:-0.9~2.3)の低下にとどまり、有意差を認めなかった(p=0.38)。平均身体機能スコアは、SMC単独群と比較してCBT併用群は7.1ポイント(95%信頼区間:2.0~12.1)有意に高く(p=0.0068)、GET併用群は9.4ポイント(同:4.4~14.4)有意に高かった(p=0.0005)が、APT併用群では3.4ポイント(同:-1.6~8.4)の上昇にとどまり、有意な差はみられなかった(p=0.18)。APT併用群に比べCBT併用群およびGET併用群は、平均疲労スコアが有意に低く(それぞれ、p=0.0027、p=0.0059)、平均身体機能スコアは有意に高かった(p=0.0002、p<0.0001)。慢性疲労症候群の国際基準を満たす427例および筋痛性脳脊髄炎のロンドン基準を満たす329例についてサブグループ解析を行ったところ、両群とも同等の結果が得られた。重度の有害反応は、APT併用群が1%(2/159例)、CBT併用群が2%(3/161例)、GET併用群が1%(2/160例)、SMC単独群は1%(2/160例)に認められた。著者は、「慢性疲労症候群の治療では、CBTおよびGETはSMCと安全に併用可能であり、中等度の予後改善効果が得られたが、APTにはSMCとの相加効果を認めなかった。別の診断基準を用いた場合にも同等の結果が得られた」と結論し、「患者には、SMCとともにCBTあるいはGETを受療するよう提言すべき」としている。(菅野守:医学ライター)

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2008年のサルモネラ症集団発生、原因はトマトや青唐辛子の生食:米国

米国疾病予防管理センター(CDC)サルモネラ症発生調査チームが、2008年に全国規模で発生したサルモネラ症の集団感染について疫学的調査等の結果、トマトや青唐辛子の生食が原因であったことが報告された。サルモネラ症の発生要因として近年、食品の生食が徐々に認識されるようになっている。そうした背景で行われた本調査の結果について調査チームは「生食による汚染防止の重要性を強調するものだ」と結論している。NEJM誌2011年3月10日号(オンライン版2011年2月23日号)掲載より。2008年に発生したサルモネラ症1,500例を調査研究チームは、下痢症状を呈し、集団発生株であるSalmonella enterica血清型Saintpaulへの感染が確認された症例を特定し、疫学的調査、摂取食品の生産地等のトレース調査および環境調査を行った。評価対象となったのは1,500症例で、2008年4月16日~8月26日の間に発生、ピークは5月中旬から6月中旬だった。症例発生は、米国内43州とワシントンD.C.、カナダで、発生率が最も高率だったのはニューメキシコ州(58.4例/人口100万)、テキサス州(24.5例/人口100万)だった。入院を要したのは1,500症例の21%、死亡は2例だった。トマトの生食、メキシコ料理、サルサなどに有意な関連レストランにおける集団発生ではなかった症例を評価した3つの症例対照研究の結果、症例発生との有意な関連が認められたのは、トマトの生食(マッチさせたオッズ比:5.6、95%信頼区間:1.6~30.3)、メキシコ料理レストランでの食事(同:4.6、2.1~∞)、ピコ・デ・ガロ・サルサ*1(同:4.0、1.5~17.8)、コーン・トルティーヤ*2(同:2.3、1.2~5.0)、サルサ*3(同:2.1、1.1~3.9)だった。また、家庭でのハラペーニョ(青唐辛子の一種)の生食も有意であった(同:2.9、1.2~7.6)。レストランやイベント等における集団発生例9つの解析の結果では、食材との関連が示された3つの集団発生例すべてでハラペーニョが含まれていた。また、食材との関連が示されなかったその他3つの集団発生例でも、食材としてハラペーニョあるいはセラノペッパー(青唐辛子の一種)が含まれていた。トマトの生食については、3つの集団発生事例で食材として含まれていた。発生株が同定されたのは、テキサス州産のハラペーニョと、メキシコの農場における農業用水およびセラノペッパーだった。トマトについては、トレース調査で感染源を同定することはできなかった。調査チームは、「この調査の早期の段階ではトマトの生食との疫学的関連が認められたが、その後の疫学的・微生物学的エビデンスはハラペーニョやセラノペッパーとの関連を示した。いずれにせよ生食による感染予防の重大性を強調するものである」と結論している。 *1:生のトマト、タマネギ、青唐辛子などを刻んでレモン汁などで和えた新鮮な調味料(サルサ)*2:とうもろこし粉でつくるタコス(薄いパン)*3:新鮮および瓶詰のサルサすべてを指す(武藤まき:医療ライター)

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「Pramlintade/Metreleptin」の肥満症を対象とした臨床第2相試験を自主的中断

武田薬品工業株式会社は17日、Amylin Pharmaceuticals, Inc.(本社:米国カリフォルニア州サンディエゴ)と同社は、肥満症を対象に追加で実施中のPramlintade/Metreleptin(開発コード:AC137-164594)による有効性と安全性を検証する臨床第2相試験を、自主的に中断することを決定したと発表した。今回の中断は、既に終了している肥満症を対象とした別の臨床試験において、Metreleptinによる治療を受けた患者2名に発現が確認された抗体について精査するためのもの。Amylin社は、「我々にとって臨床試験に参加される患者さんの安全性確保が最優先です。そのため、今回新たに認められた所見を精査するために中断することにしました。Amylin社と武田薬品は、治験医師、規制当局、外部の専門家とも緊密に連携し、今後の最適な方針を決定してまいります」と述べている。なお、本決定は、Amylin社が別途実施している脂肪異栄養症の患者を対象とした糖尿病または高脂血症、あるいは両方の治療を目的としたMetreleptinの開発プログラムに影響はないとのこと。詳細はプレスリリースへhttp://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/press/0317%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_41561_1.pdf

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ARBカンデサルタン、急性脳卒中への有用性:SCAST試験

血圧の上昇を伴う脳卒中患者における、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)カンデサルタン(商品名:ブロプレス)の有用性について、ノルウェー・オスロ大学のElse Charlotte Sandset氏らが実施したSCAST試験の結果が報告された。血圧の上昇は、急性脳卒中の一般的な原因であり、不良な予後のリスクを増大させる要因である。ARBは梗塞サイズや神経学的機能に良好な効果を及ぼすことが基礎研究で示され、高血圧を伴う急性脳卒中患者を対象としたACCESS試験では、カンデサルタンの発症後1週間投与により予後の改善が得られることが示唆されていた。Lancet誌2011年2月26日号(オンライン版2011年2月11日号)掲載の報告。1週間漸増投与の有用性を評価SCAST試験の研究グループは、血圧上昇を伴う急性脳卒中患者に対するカンデサルタンを用いた慎重な降圧治療の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。北ヨーロッパ9ヵ国146施設から、18歳以上、症状発現後30時間以内、収縮期血圧≧140mmHgの急性脳卒中(虚血性あるいは出血性)患者が登録された。これらの患者が、カンデサルタン群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられ、7日間の治療を受けた。第1日に4mgを、第2日に8mgを投与し、第3~7日には16mgが投与された。患者と担当医には治療割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は、血管に関する複合エンドポイント(6ヵ月以内の血管死、心筋梗塞、脳卒中)および機能アウトカム(6ヵ月の時点において修正Rankinスケールで評価)とし、intention-to-treat解析を行った。主要評価項目に大きな差は認められず2,029例が登録され、カンデサルタン群に1,017例、プラセボ群には1,012例が割り付けられた。そのうち6ヵ月後に評価が可能であったのは2,004例(99%、カンデサルタン群:1,000例、プラセボ群:1,004例)であった。7日間の治療期間中の平均血圧は、カンデサルタン群[147/82mmHg(SD 23/14)]がプラセボ群[152/84mmHg(SD 22/14)]よりも有意に低下した(p<0.0001)。6ヵ月後のフォローアップの時点における複合エンドポイントの発生率は、カンデサルタン群が12%(120/1,000例)、プラセボ群は11%(111/1,004例)であり、両群間に差を認めなかった(調整ハザード比:1.09、95%信頼区間:0.84~1.41、p=0.52)。機能アウトカムの解析では、不良な予後のリスクはカンデサルタン群のほうが高い可能性が示唆された(調整オッズ比:1.17、95%信頼区間:1.00~1.38、p=0.048)。事前に規定された有用性に関する副次的評価項目(全死亡、血管死、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心筋梗塞、脳卒中の進行、症候性低血圧、腎不全など)や、治療7日目のScandinavian Stroke Scaleスコアおよび6ヵ月後のBarthel indexで評価した予後はいずれも両群で同等であり、事前に規定されたサブグループのうちカンデサルタンの有用性に関するエビデンスが得られた特定の群は一つもなかった。6ヵ月のフォローアップ期間中に、症候性低血圧がカンデサルタン群の9例(1%)、プラセボ群の5例(<1%)に認められ、腎不全がそれぞれ18例(2%)、13例(1%)にみられた。この結果から、血圧の上昇を伴う急性脳卒中患者においては、ARBであるカンデサルタンを用いて慎重に行った降圧治療は有用であることを示すことはできなかった。

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地域ベースの健康増進・予防プログラム、高齢者の心血管疾患罹患率改善の可能性

ボランティア運営の高齢者を対象とした地域ベースの健康増進・予防プログラムによる介入が、心血管疾患罹患率を改善する可能性があることが、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学家庭医療科のJanusz Kaczorowski氏らの検討で明らかとなった。文献的には、地域の心血管系の健康状態にはリスク因子分布のわずかな変動が重要な影響を及ぼすことが繰り返し強調されてきたが、そのような転換を促進する地域ベースの介入を支持する確固たるエビデンスはわずかしかないという。当該地域の状況によりよく適合した心血管疾患の地域予防プログラムを策定するには、実際に遂行した上で厳格な評価を行う必要がある。BMJ誌2011年2月19日号(オンライン版2011年2月7日号)掲載の報告。介入の前後で入院率を比べるクラスター無作為化試験研究グループは、地域ベースの健康増進プログラムであるCardiovascular Health Awareness Program (CHAP)が心血管疾患の罹患率に及ぼす影響を評価するクラスター無作為化試験を実施した。対象は、カナダ・オンタリオ州の39の中規模地域に居住する65歳以上の住民であり、CHAPを受ける群(20地域)あるいは非介入群(19地域)に無作為に割り付けられた。各地域のかかりつけ医、薬剤師、看護師、ボランティア、主要な地域活動機関が参加した。CHAP群の地域では、65歳以上の住民が、地域の薬局を会場としたボランティア運営の10週にわたる心血管リスク評価と教育セッションから成るプログラムに参加するよう促された。参加者の自動血圧測定値と自己申告によるリスク因子のデータが収集され、本人、かかりつけ医、薬剤師に知らされた。主要評価項目は、急性心筋梗塞、脳卒中、うっ血性心不全による入院の複合エンドポイントとし、CHAP施行の前後で比較した。介入前に比べ入院率が9%低下介入群の20地域でCHAPは滞りなく実施された。10週のプログラム期間中に、地域の145の薬局のうち129ヵ所(89%)において、合計1,265の3時間にわたる長時間セッションが開催された。577人のボランティアの支援の下で、1万5,889人の参加者に対し合計2万7,358の心血管リスク評価が行われた。介入の前年の入院率で調整したところ、CHAPによる介入によって、非介入群に比べ複合エンドポイントの発生率が相対的に9%低下した(発生率比:0.91、95%信頼区間:0.86~0.97、p=0.002)。これは、65歳以上の住民の心血管疾患による年間入院率が、人口1,000人当たり3.02人低下したことを示す。急性心筋梗塞による入院は、非介入群に比べCHAP介入群で13%低下し(発生率比:0.87、95%信頼区間:0.79~0.97、p=0.008)、うっ血性心不全による入院は10%低下しており(同:0.90、0.81~0.99、p=0.029)、いずれも有意差がみられたが、脳卒中による入院には差を認めなかった(同:0.99、0.88~1.12、p=0.89)。著者は、「高齢者を対象とした多彩な計画から成る地域ベースの健康増進・予防の共同プログラムは、住民の心血管疾患罹患率を改善する可能性がある」と結論している。また、「ボランティアによる介入は住民の参加率を向上させ、医療従事者や地域の活動機関の動員、組織化に有効であった」という。(菅野守:医学ライター)

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