急性冠症候群に対する冠動脈造影、橈骨動脈経由のほうが血管合併症少ない:RIVAL試験

提供元:ケアネット

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公開日:2011/05/12

 



急性冠症候群(ACS)患者への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行時の冠動脈造影では、橈骨動脈と大腿動脈を経由するアプローチはいずれも安全で有効だが、局所血管合併症の頻度は橈骨動脈経由のほうが低いことが、カナダMcMaster大学のSanjit S Jolly氏らが進めているRIVAL試験で示された。PCIでは、アクセスする血管部位の大出血によって死亡や虚血性イベントの再発リスクが増加するため、出血の防止と管理は重要な課題とされる。橈骨動脈経由のPCIは、大腿動脈経由でアクセスするPCIよりも血管合併症や出血のリスクが低いことが小規模な臨床試験で示唆されているが、メタ解析では大出血や死亡、心筋梗塞、脳卒中を減らす一方でPCIの失敗が増加する可能性も示されているという。Lancet誌2011年4月23日号(オンライン版2011年4月4日号)掲載の報告。

橈骨動脈経由と大腿動脈経由の冠動脈造影の臨床転帰を比較




RIVAL試験の研究グループは、ACS患者に冠動脈造影を施行する際の、橈骨動脈経由と大腿動脈経由のアプローチの臨床転帰を比較する多施設共同並行群間無作為化試験を実施した。

2006年6月6日~2010年11月3日までに、32ヵ国158施設から冠動脈造影検査が予定されているACS患者が登録され、橈骨動脈経由の検査を行う群あるいは大腿動脈経由でアクセスする群に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。

主要アウトカムは4つの評価項目[30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中/冠動脈バイパス術(CABG)に関連しない大出血]の複合イベントの発生とし、副次的アウトカムは30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合イベント、あるいは30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中、CABGに関連しない大出血の個々のイベント発生とした。

主要アウトカム:3.7 vs. 4.0%(p=0.50)、大血腫:1.2 vs. 3.0(p<0.0001)、仮性動脈瘤:0.2 vs. 0.6%(p=0.006)




7,021例のACS患者が登録され、橈骨動脈経由群に3,507例が、大腿動脈経由群には3,514例が割り付けられた。主要アウトカムのイベント発生率は、橈骨動脈経由群が3.7%(128/3507例)、大腿動脈経由群は4.0%(139/3,514例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.72~1.17、p=0.50)。

30日以内の死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合イベント発生率は橈骨動脈経由群が3.2%(112/3,507例)、大腿動脈経由群も3.2%(114/3,514例)であり(ハザード比:0.98、95%信頼区間:0.76~1.28、p=0.90)、30日以内のCABGに関連しない大出血のイベント発生率はそれぞれ0.7%(24/3,507例)、0.9%(33/3,514例)と、いずれも有意差はみられなかった。

事前に規定されたサブグループ(年齢:<75 vs. ≧75歳、性別:女性 vs. 男性、BMI:<25 vs. 25~35 vs. >35kg/m2、PCI:非施行 vs. 施行、施術医の橈骨動脈経由PCIの年間実施件数の三分位群:≦70 vs. 71~142 vs. >142件/年、各施設の施術医当たりの橈骨動脈経由PCI年間実施件数中央値の三分位群:≦60 vs. 61~146 vs. >146件/年、臨床診断:非ST上昇心筋梗塞 vs. ST上昇心筋梗塞)のうち、2つで主要アウトカムのイベント発生率に有意な差が認められた。

すなわち、施術医当たりの橈骨動脈経由PCI年間施行件数中央値が>146件の施設では、主要アウトカムの発生率は橈骨動脈経由群が1.6%と大腿動脈経由群の3.2%に比べ有意に低く(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.28~0.87、p=0.015、交互作用検定:p=0.021)、ST上昇心筋梗塞患者では橈骨動脈経由群が3.1%と大腿動脈経由群の5.2%に比べ有意に低かった(同:0.60、0.38~0.94、p=0.026、交互作用検定:p=0.025)。

30日以内の大血腫の発生率は、橈骨動脈経由群が1.2%(42/3,507例)と、大腿動脈経由群の3.0%(106/3,514例)に比べ有意に低かった(ハザード比:0.40、95%信頼区間:0.28~0.57、p<0.0001)。閉鎖を要する仮性動脈瘤の発生率は、橈骨動脈経由群が0.2%(7/3,507例)であり、大腿動脈経由群の0.6%(23/3,514例)に比し有意に低値を示した(同:0.30、0.13~0.71、p=0.006)。

著者は、「PCI施行時の冠動脈造影では、橈骨動脈と大腿動脈を経由するアプローチはいずれも安全で有効だが、局所血管合併症の頻度は橈骨動脈経由のほうが低いと考えられる」と結論し、「橈骨動脈経由PCIの有効性は施術医の技量や施術件数と関連する可能性がある」と指摘する。

(菅野守:医学ライター)