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統合失調症患者の自傷リスクに対する抗精神病薬の効果比較

 統合失調症患者の自傷行為による入院について、治療に用いられる抗精神病薬により違いがあるかについて、台湾・国立台湾大学のC-H. Ma氏らが、調査を行った。Acta psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2018年2月11日号の報告。 台湾健康保険データベースに基づいて、レトロスペクティブコホート研究を行った。対象は、2001~12年に新規に統合失調症と診断された15~45歳の患者。アウトカムは、統合失調症診断後の自傷行為または原因不明の傷害による最初の入院とした。抗精神病薬の服薬状況は、時間依存性変数としてモデル化された。規定された1日投与量(defined daily dose:DDD)に基づく抗精神病薬の投与量により層別化し、分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・50万355患者年の追跡調査の結果、7万380例から2,272件の自傷行為による入院エピソードが抽出された。・DDDまたはそれ以上の用量での第2世代抗精神病薬(amisulpride、アリピプラゾール、クロザピン、リスペリドン、スルピリド)の使用は、未使用患者と比較し、自傷行為による入院リスクの低下と関連が認められ、中でもクロザピンが最も強い効果を示した(調整率比:0.26、95%CI:0.15~0.47)。 著者らは「自傷行為に対する保護効果は、抗精神病薬の種類により異なる可能性がある。本知見を再現するためには、さらなる研究が必要である」としている。■関連記事統合失調症患者の「自傷行為」に関連する予測因子統合失調症の再入院に対する抗精神病薬の比較統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大

6042.

歯の残存数と認知症リスクに関するメタ解析

 高齢期の歯の損失は、認知症の発症率を高める可能性があることが示唆されている。韓国・SMG-SNU Boramae Medical CenterのBumjo Oh氏らは、高齢期の歯の残存数と認知症発症との関連について、現在のエビデンスからシステマティックレビューを行った。BMC geriatrics誌2018年2月17日号の報告。 2017年3月25日までに公表された文献を、複数の科学的論文データベースより、関連パラメータを用いて検索を行った。高齢期における認知症発症と歯の残存数に関して報告された複数のコホート研究における観察期間の範囲は、2.4~32年であった。高齢期における歯の残存数の多さと認知症リスク低下が関連しているかについて、ランダム効果のプールされたオッズ比[OR]と95%信頼区間[CI]を推定した。異質性は、I2を用いて測定した。GRADEシステムを用いて、全体的なエビデンスの質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・文献検索では、最初に419報の論文が抽出され、最終的には11件の研究(試験開始時年齢:52~75歳、2万8,894例)が分析に含まれた。・歯の残存数が多い群では、少ない群と比較し、認知症リスクの約50%低下と関連が認められた(OR:0.483、95%CI:0.315~0.740、p<0.001、I2:92.421%)。・しかし、全体的なエビデンスの質は非常に低いと評価された。 著者らは「限られた科学的エビデンスではあるものの、現在のメタ解析では、高齢期において歯の残存数が多いほど、認知症発症リスクが低いこととの関連が示唆された」としている。■関連記事「歯は大切に」認知症発症にも影響:久山町研究高齢者に不向きな抗うつ薬の使用とその後の認知症リスクとの関連統合失調症患者の口腔ケア、その重要性は:東医大

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きわめて高いHDL-Cは心血管死リスク? EPOCH-JAPAN

 心血管疾患(CVD)に対するvery highやextremely highレベルの HDLコレステロール(HDL-C)の影響は十分にわかっていない。最近のいくつかの研究では、extremely highレベルのHDL-CのCVDイベントへの悪影響が報告されているが、原因別CVD死亡率との間に有意な関連はみられておらず、またアジア人集団では研究されていない。今回、日本の主要な循環器疫学コホート研究の統合データベース共同研究であるEPOCH-JAPANにおける大規模なプール解析により、extremely highレベルの HDL-Cがアテローム性CVDによる死亡率に悪影響を及ぼすことを示した。Journal of clinical lipidology誌オンライン版2018年2月8日号に掲載。 本研究では、9つの日本人コホート(40~89歳、4万3,407人)において大規模なプール解析を行った。参加者をHDL-C値により5群に分け、2.33mmol/L以上(90mg/dL以上)をextremely highとした。コホート層別Cox比例ハザードモデルを用いて、全死因死亡および原因別死亡について、1.04~1.55mmol/L(40~59mg/dL)の群と比較した各群の調整ハザード比を推定した。 主な結果は以下のとおり。・12.1年の追跡期間中に、全死因死亡が4,995人、CVDによる死亡が1,280人確認された。・extremely highレベルのHDL-Cは、アテローム性CVDによる死亡リスクの増加(ハザード比:2.37、95%信頼区間:1.37~4.09)、冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と有意に関連していた。・extremely highレベルのHDL-Cのリスクは、現飲酒者でより顕著であった。

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院外心肺停止の予後、バッグマスクvs.気管内挿管/JAMA

 院外心肺停止(OHCA)患者において、バッグマスク換気(BMV)は気管内挿管(ETI)と比較し、28日目における神経学的予後良好な生存に関して非劣性または劣性を確認することはできなかった。フランス・パリ第5大学のPatricia Jabre氏らが、フランスとベルギーで行った多施設共同無作為化比較試験の結果を報告した。OHCA患者の心肺蘇生法(CPR)において、二次救命処置の気道管理は、BMVがETIより簡便であり、これまでの研究ではBMVの生存に関する優越性が報告されていた。JAMA誌2018年2月27日号掲載の報告。院外心停止患者約2千例をBMVとETIに無作為化、28日転帰を比較 研究グループはOHCA患者2,043例(平均年齢64.7歳、女性665例[32%])を、BMV群(1,020例)またはETI群(1,023例)に無作為に割り付けて検討を行った。登録期間は2015年3月9日~2017年1月2日、追跡終了は2017年1月26日であった。 主要評価項目は、28日目の神経学的予後良好な生存(脳機能カテゴリー[cerebral performance category:CPC]1~2と定義)で、非劣性マージンは1%とした。副次評価項目は、入院までの生存率、28日全生存率(CPCとは無関係)、自己心拍再開率、ETI/BMVが困難または失敗した割合などであった。 2,043例中2,040例[99.8%]が試験を完遂した。28日目の神経学的予後良好な生存、BMVのETIに対する非劣性/劣性は認められず Intention-to-treat集団において、28日目の神経学的予後良好な生存率はBMV群4.3%(44/1,018例)、ETI群4.2%(43/1,022例)であった(群間差:0.11%、97.5%片側信頼区間[CI]:-1.64%~∞、非劣性のp=0.11)。入院までの生存率(BMV群28.9% vs.ETI群32.6%、群間差:-3.7%、95%CI:-7.7~0.3%)、および28日全生存率(5.4% vs.5.3%、0.1%、-1.8~2.1%)も有意差は認められなかった。 一方、合併症はETI群と比較しBMV群で有意に多く、気道管理困難率はBMV群18.1%(186/1,027例) vs.ETI群13.4%(134/996例)(群間差:4.7%、95%CI:1.5~7.9%、p=0.004)、失敗率はそれぞれ6.7%(69/1,028例) vs.2.1%(21/996例)(4.6%、2.8~6.4%、p<0.001)、胃内容物逆流は15.2%(156/1,027例) vs.7.5%(75/999例)(7.7%、4.9~10.4%、p<0.001)であった。 著者は、研究の限界として、米国の救急医療システムでの戦略とあまり関連性がないこと、BMV群において自己心拍再開後または気道管理困難時にETIを使用した症例があること、心停止後の入院管理を比較していないことなどを挙げたうえで、「BMVとETIの同等性または優越性を判定するためにはさらなる研究が必要である」とまとめている。

6045.

FDA、CDK4/6阻害薬abemaciclibの乳がん初期内分泌療法を承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2018年2月26日、転移を有するホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の閉経後乳がんに対する、CDK4/6阻害薬abemaciclibの初期内分泌療法を、アロマターゼ阻害薬との併用で承認した。 この承認は、上記患者における、多施設プラセボ対照二重盲検比較試験MONARCH-3の結果に基づいている。この試験では、493例の患者が、レトロゾールまたはアナストロゾールとabemaciclibの併用またはプラセボとの併用に無作為に割り付けられた。abemaciclib群の無増悪生存期間は28.2ヵ月(95%CI:23.5~未到達)、プラセボ群で14.8ヵ月(95%CI:11.2~19.2)と、abemaciclib群で有意に延長した(0.54、95%CI:0.418~0.698、p <0.0001)。 MONARCH-3試験でみられたabemaciclibの一般的(20%以上)な副作用は、下痢、好中球減少、疲労、感染、悪心、腹痛、貧血、嘔吐、脱毛症、白血球減少症であった。■参考FDAメディアリリースMONARCH-3試験(Clinical Trials.gov)

6046.

低用量スタチンでの糖尿病リスク~日本のコホート研究

 低用量スタチンを服用している日本人の糖尿病新規発症リスクはこれまで検討されていない。今回、秋田大学医学部附属病院薬剤部の加藤 正太郎氏らは、低用量スタチン服用患者を、高力価スタチン群と低力価スタチン群に分けて糖尿病新規発症リスクを評価した。その結果、高力価スタチン群では低力価スタチン群と比べ有意に発症リスクが高かった。さらに、ステロイドや免疫抑制薬との併用で発症リスクが上昇するため、注意が必要と指摘している。Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics誌オンライン版2018年2月26日号に掲載。 本研究は、スタチン治療を開始した日本人患者2,554例の後ろ向きコホート研究である。同じスタチンの同じ用量を服用している患者のみ登録し、高力価スタチン群と低力価スタチン群に分けた。アウトカムはスタチン治療中の糖尿病新規発症率とした。 主な結果は以下のとおり。・本コホートにおける糖尿病新規発症率は7.4%(n=190)であった。・カプランマイヤー生存曲線により、低力価スタチン服用患者に比べ高力価スタチン服用患者において糖尿病新規発症率が有意に高いことが示された(p<0.001、log-rank検定)。・Cox比例ハザード回帰分析により、糖尿病新規発症リスクを有意に増加させる因子として、ベースライン時の空腹時血糖、高力価スタチン使用、男性、Ca拮抗薬・免疫抑制薬・ステロイドとの併用が特定された。

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敗血症性ショック、ステロイド2剤併用で死亡率低下/NEJM

 敗血症性ショック患者に対する検討で、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与はプラセボ投与と比較して、90日全死因死亡率が低いことが示された。フランス・Raymond Poincare病院のDjillali Annane氏らが、1,241例を対象に行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を、NEJM誌2018年3月1日号で発表した。敗血症性ショックは、感染に対する宿主反応の調節不全が特徴で、循環異常、細胞異常、代謝異常を呈する。研究グループは、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンによる治療、または活性型drotrecogin αによる治療は、宿主反応を調節可能であり、敗血症性ショック患者の臨床的アウトカムを改善する可能性があるとの仮説を立てて、検証試験を行った。昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数なども比較 試験は2×2要因デザインにて、集中治療室(ICU)の入院患者で、24時間未満に敗血症性ショックと診断された患者(疑い例含む)を対象に行われた。 対象患者を無作為に分け、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法、活性型drotrecogin α単独療法、これら3剤の併用療法、各療法に適合させたプラセボを投与した。 主要評価項目は、90日全死因死亡率。副次的評価項目は、ICU退室時および退院時、28日時点、180日時点の各時点における死亡率と、生存日数、昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数、臓器不全の非発生日数とした。 同試験は、中途で活性型drotrecogin αが市場から撤退したため、その後は2群並行デザインで継続した。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法を行った群と、両薬を投与しなかったプラセボ群について比較分析した。ICU退室時死亡率・退院時死亡率は約6ポイント減少 試験に組み入れた被験者1,241例(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群614例、プラセボ群627例)において、90日死亡率は、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が43.0%に対し、プラセボ群は49.1%と高率だった(p=0.03)。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群の死亡に関する相対リスクは、0.88(95%信頼区間[CI]:0.78~0.99)だった。 また、ICU退室時死亡率も、プラセボ群41.0%に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は35.4%(p=0.04)、退院時死亡率はそれぞれ45.3%と39.0%(p=0.02)、180日死亡率は52.5%と46.6%(p=0.04)で、いずれもヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が有意に低率だった。一方で28日死亡率については、38.9%、33.7%と、両群で有意差はなかった(p=0.06)。 28日目までの昇圧薬非使用日数は、プラセボ群が15日に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は17日(p<0.001)、臓器不全非発生日数もそれぞれ12日、14日で(p=0.003)、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で有意に長かった。一方で人工呼吸器非装着日数は、それぞれ10日、11日と両群間で差はなかった(p=0.07)。 重篤有害事象の発生頻度は両群で同程度だったが、高血糖症の発生頻度がヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で高かった。

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多枝・左主幹部冠動脈疾患の死亡率、CABG vs.PCI/Lancet

 多枝冠動脈疾患患者では、冠動脈バイパス術(CABG)が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも、死亡に関してベネフィットがあることが示された。とくに、糖尿病の併存や冠動脈の病変が複雑な患者ほど、その傾向は強かった。一方、左主幹部冠動脈疾患患者では、CABGがPCIよりもベネフィットがあることは示されなかった。オランダ・エラスムス大学医療センターのStuart J. Head氏らが、11の無作為化比較試験、被験者総数約1万1,500例を対象に行ったプール解析の結果で、Lancet誌オンライン版2018年2月22日号で発表した。これまで多くの無作為化試験で、冠動脈疾患患者についてCABGとPCIの比較が行われているが、血行再建術の戦略間で死亡の差を評価した試験はなかったという。2017年7月19日時点でレビュー、1年超の死亡転帰を含むRCTを特定 研究グループは、2017年7月19日時点でシステマティック・レビューを行い、CABGおよびステントを用いたPCIに関する無作為化比較試験を特定した。その中で、対象が多枝または左主幹部の冠動脈疾患を有する急性心筋梗塞歴のない患者、ステント(ベアメタルまたは薬剤溶出型)を用いたPCIを実施、全死因死亡について1年超のフォローアップを行っていた試験を適格として解析に含んだ。 対象試験のプール解析では、Kaplan-Meier法を用いて5年全死因死亡率を推算、ランダム効果Cox比例ハザードモデルで各試験を階層化し、CABGとPCIのアウトカムを比較した。また、治療効果の整合性について、ベースライン時の臨床・解剖学的特徴で定義したサブグループで、探索的解析を行った。多枝患者ではPCIとCABGで有意な差、左主幹部疾患では介入の違いで差はみられず 解析には11の無作為化試験、被験者総数1万1,518例(PCI群5,753例、CABG群5,765例)を包含した。平均追跡期間3.8年(SD 1.4)において、976例の死亡が報告された。 平均SYNTAXスコアは26.0(SD 9.5)であり、8,138例中1,798例(22.1%)が同スコア33以上だった。 5年全死因死亡率は、PCI群11.2%に対しCABG群9.2%だった(ハザード比[HR]:1.20、95%信頼区間[CI]:1.06~1.37、p=0.0038)。 多枝患者では、治療介入の違いによる5年全死因死亡率の有意差が認められた(PCI群11.5% vs.CABG群8.9%、HR:1.28[95%CI:1.09~1.49]、p=0.0019)。さらに多枝患者では、糖尿病の併存の有無による違いも認められた。多枝糖尿病群では、PCI群15.5% vs.CABG群10.0%(HR:1.48、95%CI:1.19~1.84、p=0.0004)であったが、多枝非糖尿病患者群では、8.7% vs.8.0%で有意な差は認められなかった(HR:1.08、95%CI:0.86~1.36、p=0.49)。多枝患者ではSYNTAXスコアによる違いもみられ、低スコア群では有意差はみられなかったが(スコア0~22の患者群、p=0.57)、高スコアになると有意差が認められた。スコア23~32の多枝患者群はp=0.0129、スコア33以上の多枝患者群では、PCI群17.7% vs.CABG群10.9%(HR:1.70、95%CI:1.13~2.55、p=0.0094)だった。 一方、左主幹部患者の5年全死因死亡率は、PCI群10.7% vs.CABG群10.5%で、有意差はなかった(HR:1.07、95%CI:0.87~1.33、p=0.52)。糖尿病の有無やSYNTAXスコアの違いによる差も認められなかった。

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分子標的治療薬の新たな薬剤耐性メカニズム発見/LC-SCRUM-Japan

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)の研究所(所長: 間野博行)ゲノム生物学研究分野、中奥敬史研究員、河野隆志分野長、東病院(院長:大津 敦)呼吸器内科、後藤功一科長らは2018年2月14日、京都大学、東京大学、理化学研究所、英国クリック研究所と共同で、分子標的治療薬バンデタニブによって治療されたRET融合遺伝子陽性の肺がん患者のがん試料の機能ゲノム解析を行い、新しい薬剤耐性メカニズムを発見したと発表。研究結果は米国学術雑誌Nature Communicationsに2月12日付けで発表された。 今回の研究では、バンデタニブ治療に耐性となる前と後の患者の肺がんのゲノムDNAについて、次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査(NCCオンコパネル検査)を行うことで、RET融合タンパク質の薬剤の結合部位から離れた位置に存在する活性化ループ上に耐性化をもたらす二次変異を発見した。 X線構造解析、スーパーコンピュータ「京」等を用いた分子動力学シミュレーションなど、複合的な解析を行ったところ、この変異は、遠隔的にRETタンパク質の薬剤や基質であるアデノシン3リン酸の結合部位となる領域の3次元構造を変化させる効果を持つことが示された。このアロステリック効果により、変異タンパク質では、酵素活性の上昇と薬剤結合の低下が生じ、薬剤に耐性となると考えられる。 今回の発見により、薬剤の結合部位から離れた位置に存在するアロステリック効果を持つ遺伝子変異が、分子標的薬剤に対する耐性の原因となることが明らかになった。がん細胞の遺伝子変異の多くは、がん化や治療に関する意義がわからないVUS(variants of unknown significance)である。今回の研究に用いた手法は、これら意義不明変異を解明し、治療の方針決定の手助けになると期待される。■参考国立がん研究センタープレスリリースNakaoku T, et al. Nat Commun. 2018 Feb 12.[Epub ahead of print]

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冠動脈疾患疑い患者に有益な画像診断戦略は?/BMJ

 低リスクの急性冠症候群(ACS)患者において、初期画像診断戦略としての機能的検査(ストレスエコー検査、心血管MR[CMR])の実施は、非侵襲的な解剖学的検査(冠動脈CT造影法[CCTA])と比べて、付加的検査における侵襲的な冠動脈造影検査や再血行の処置を受けることが少ないと明らかにされた。将来的な心筋梗塞リスクについて、明らかな影響はみられなかったという。一方、安定冠動脈疾患(CAD)が疑われる患者については、付加的検査における侵襲的な冠動脈造影の必要性に関して、明確な違いが初期診断戦略の間でみられず、心筋梗塞のリスクの違いでルールアウトすることもできなかった。スイス・ベルン大学病院のGeorge CM Siontis氏らによるネットワークメタ解析の検討結果で、BMJ誌2018年2月21日号で発表された。研究グループは、「診断精度に関する情報は、診断検査の有用性を結論付けるのに重要であるが、その情報が患者の利益に結びついていない可能性がある」として、今回の検討を行った。冠動脈疾患疑い患者への非侵襲的画像検査の有用性を検証 先行研究では、低リスクACSが疑われる患者や安定CAD患者に対して、非侵襲的画像診断法による検査が用いられているが、ダウンストリーム検査への影響や臨床的アウトカムについては不明であり、一貫した所見が示されていなかった。 研究グループは、システマティックレビューとネットワークメタ解析により、冠動脈疾患検出のために行われた非侵襲的画像診断後の、ダウンストリーム検査、冠動脈再建術、臨床的アウトカムに関する差異を評価する検討を行った。 MEDLINE、MEDLINE In-Process、Embase、Cochrane Library for clinical trials、PubMed、Web of Science、Scopus、WHO International Clinical Trials Registry Platform、ClinicalTrials.govをデータソースに、症候性の低リスクACSもしくは安定CAD患者を対象とした、非侵襲的画像診断を比較検討した診断法についての無作為化試験を選出。ランダム効果ネットワークメタ解析により、冠動脈疾患が疑われる患者について、ダウンストリーム検査と患者志向のアウトカムへの、非侵襲的画像検査の効果を評価していた試験のエビデンスを統合し評価した。 解析対象に組み込んだ画像診断法は、負荷心電図、ストレスエコー、SPECT-MPI、RT-MCE、CCTA、CMRである。また、11試験から未公表のアウトカムデータも入手した。低リスクACS患者には、ストレスエコー、CMR、負荷心電図が有益 検索により、低リスクACS患者が参加した18試験(被験者数1万1,329例)と、安定CAD疑い患者が参加した12試験(2万2,062例)を特定し、解析に包含した。 低リスクACS患者において、ストレスエコー、CMR、負荷心電図を実施した患者は、CCTAよりも侵襲的な冠動脈造影検査を紹介されるケースが少なかった。各受診群のオッズ比(OR)は、ストレスエコー群0.28(95%信頼区間[CI]:0.14~0.57)、CMR群0.32(0.15~0.71)、負荷心電図群0.53(0.28~1.00)であった。推定値は不明確であったが、その後の心筋梗塞リスクへの影響はみられなかった。結果に関する不均一性、エビデンスの不一致に関する程度は低かった。 安定CAD疑い患者においては、ストレスエコーもしくはSPECT-MPIの初期診断戦略が、CCTAよりも、ダウンストリーム検査を受けるケースが少なかった。オッズ比はストレスエコー群0.24(95%CI:0.08~0.74)、SPECT-MPI群0.57(0.37~0.87)であった。一方で、負荷心電図群はダウンストリーム検査を受ける割合が最も高かった(OR:3.87、95%CI:2.33~6.41)。死亡および心筋梗塞に関する推定値は不明確で、戦略間の違いを明確に判別することもできなかった。

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トリプルセラピーは重症COPD患者の中等度以上の増悪を減らすことができるのか?(解説:山本寛 氏)-821

 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)、とくに重症のCOPDに対する治療は長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(long-acting muscarinic antagonist:LAMA)の吸入、長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist:LABA)の吸入を軸に、吸入ステロイド(inhaled corticosteroid:ICS)が上乗せされることが多かった。確かに重症COPDには気管支喘息の合併、いわゆるACO(Asthma and COPD Overlap)が多く、また、喘息を合併していない場合でも、好酸球性気道炎症は重症COPDで多く認められ、ICSが本質的に有用な患者は存在する。しかし、十分な証拠もなくICSを追加してしまう場合も多いだろう。ICS/LABAが第1選択であると誤解されていることもあるようだ。一方、COPDに対してICSを上乗せすると肺炎の合併が多くなることは従来から指摘されていて、最新2017年のGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、一旦追加したICSを中止することも選択肢の1つとして提示されている。 一方、吸入療法の選択を考える場合、吸入薬の薬理作用だけでなく、吸入デバイスが何であるか、という点も重要なポイントである。低肺機能の患者にとって、ドライパウダー製剤(Dry Powder Inhaler:DPI)の吸入は実効を得にくいこともある。また、複数のデバイスの仕様を覚えることは患者にとっては大変な苦痛であり、実際にデバイスの使用方法を間違えてしまうことで吸入の実効が得られないこともある。したがって、複数の薬剤を1つのデバイスで吸入でき、しかもそのデバイスの操作が簡便で理解しやすいものであれば、それは治療の効果をより確実なものにする可能性があり、患者利益に直結するものとなる。 本研究はベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムの3剤を1つのデバイスで吸入できるMDI(Metered Dose Inhaler)製剤とインダカテロール、グリコピロニウムの2剤を1つのデバイスで吸入できるDPI製剤を比較して、中等度~重度のCOPD増悪のイベント発生頻度を52週間の観察期間にわたり追跡した二重盲検併行群間ランダム化比較試験=TRIBUTE試験である。結果の判断に注意が必要な点としては、Chiesi Farmaceuticiという企業の経済的支援の下で行われている試験であり、この企業がベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムのトリプル製剤をすでに上市している企業であるという点は挙げなければならない。また、本試験で用いられたインダカテロール、グリコピロニウムの合剤は本邦と同じBreezhaler製剤ではあるが、薬効成分の含有量が異なる(本研究:インダカテロール85μg/グリコピロニウム43μg、本邦流通品:110μg/50μg)点にも注意が必要である。 さて、本研究には17ヵ国、187の医療機関が参加し、(1)%FEV1(%1秒量)が50%未満という高度ないしきわめて高度の気流閉塞を伴う、(2)直近1年間に中等度から重度の急性増悪が1回以上、(3)吸入薬の維持療法をすでに行っている症候性、というCOPDの患者1,532例を対象に行われている。試験参加に当たっては、吸入薬の前治療が、ICS+LABA、ICS+LAMA、LABA+LAMA、LAMA単剤の4通りいずれかである場合のみ参加可能であり、その後導入期間として2週間、インダカテロール、グリコピロニウム2剤をDPI製剤で吸入したうえで、ベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムの合剤をMDI製剤で1日2回吸入する群(BDP/FF/G群)764例とインダカテロール、グリコピロニウムの合剤をDPI製剤で1日1回吸入する群(IND/GLY群)768例にランダム化された。主要評価項目は、治療52週間における中等度~重度COPD増悪のイベント発生頻度である。 主要評価項目である中等度~重度COPD増悪の頻度は、IND/GLY群の0.59/患者年(95%信頼区間[CI]:0.53~0.67)に対し、BDP/FF/G群が0.50(CI:0.45~0.57)で、その率比は0.848(CI:0.723~0.995、p=0.043)と有意なイベント減少が示された。有害事象の発現率は、BDP/FF/G群64%、IND/GLY群67%と両群で同等で、注目の肺炎の発症率は、両群ともに4%で有意差を認めなかった。治療関連の重篤な有害事象は、両群ともに1例ずつ(BDP/FF/G群:排尿障害、IND/GLY群:心房細動)が報告された。 今回の結果から、BDP/FF/GのトリプルセラピーはIND/GLYのデュアルセラピーと比べて、中等度~重度のCOPD増悪を15%減らす効果があるとみることができるが、果たしてこの結果から、「重症COPDにはトリプルセラピーを!」と単純に推奨できるだろうか? それは否である。本試験の患者背景に注目してみよう。患者の年齢はBDP/FF/G群が64.4±7.7歳、IND/GLY群が64.5±7.7歳(mean±SD)であり、本邦のCOPD患者が70歳以上の高齢者に多いことと比較すれば、明らかに若年者を対象とした研究であるといえる。また、Body Mass Index(BMI)についてもBDP/FF/G群が25.7±5.1kg/m2、IND/GLY群が26.6±5.4kg/m2であり、本邦のCOPD患者に多い痩せ型COPDはむしろ少数派であろう。また、COPDの臨床的phenotypeに関しても、chronic bronchitis(慢性気管支炎)型がBDP/FF/G群で57%、IND/GLY群で55%含まれており、対するemphysema(肺気腫)型はBDP/FF/G群で30%、IND/GLY群で31%しか含まれていない。すなわち、本邦のCOPDのほとんどを占める肺気腫型があまり含まれていなかったことになる。今回の試験のサブ解析では、慢性気管支炎型のCOPD患者において中等度~高度のCOPD増悪の発生頻度がBDP/FF/G群で有意に低い(率比0.752、CI:0.605~0.935、p=0.010)ことが示された一方で、肺気腫型の場合はまったく差がみられないようである(appendixに示されたフォレストプロットによれば、率比0.995で、CI値、p値は非公表であるが、CIは明らかに全体集団の率比0.848より大きく、また1をまたいでいる)。一方、好酸球分画が2%以上のサブセットでみると、BDP/FF/G群で率比0.806(CI:0.664~0.978、p=0.029)と有意なイベント減少が示されている。 以上から、本試験の結果を本邦のCOPD患者に外挿し適用することは難しいと考えられる。ただし、本邦においても存在する、「青ぶくれ=blue bloater」型の肥満COPD患者や好酸球性気道炎症の関与が推定されるCOPD患者においては、ICSを追加した治療が有効である可能性がある。また、1つのデバイスで吸入を完了できることのメリットはとくに高齢であるほど大きいと思われ、上記のようなphenotypeを示す高齢患者においては有用な選択肢となるかもしれない。今回の試験でBDP/FF/G群はMDI製剤での吸入を行っている。先述のとおり、重症COPDではDPI製剤の有効な吸入ができない可能性があり、MDI製剤で吸入できたBDP/FF/G群にはより有利だった可能性がある。臨床試験に参加する患者群は、日常臨床の患者群と比較して吸入アドヒアランスが高い集団である可能性が高く、今回の試験結果を実臨床に落とし込む場合は、アドヒアランスが低下しやすいデバイスを使用する患者層で、効果が大きく落ちてしまう可能性があることにも注意が必要である。トリプル製剤が本邦で上市される日がいずれ訪れると思われるが、その際はICSを上乗せするメリットのある患者層を見極め、デバイスの特性や吸入アドヒアランスに配慮した治療選択を行うことがより一層重要となるだろう。

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肥満と肺がんの関連~プール解析

 肥満は肺がんにおける潜在的な防御因子とされている。今回、パリ第11大学のHarinakshi Sanikini氏らによる、4件のコホート研究におけるコホート内ケースコントロール研究のプール解析により、過体重・肥満が肺がんリスク低下に関連するというエビデンスが追加された。BMC cancer誌2018年2月23日号に掲載。 著者らは、ケースコントロール研究を米国、欧州、中国、シンガポールの4コホート(ケース4,172例、コントロール8,471例)の中に組み込んだ。ベースライン時のBMIにより、低体重(18.5未満)、正常体重(18.5以上25未満)、過体重(25以上30未満)、肥満(30以上)の4カテゴリーに分類した。BMIと肺がんの関連については、潜在的な交絡因子を調整し、無条件ロジスティック回帰を用いてオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・参加者全体において、標準体重群を基準とすると、過体重群(OR:0.77、95%CI:0.68~0.86)と肥満群(OR:0.69、95%CI:0.59~0.82)で肺がんリスクの低下が認められた。・喫煙状況による層別解析において、現喫煙者・元喫煙者・非喫煙者の各群で、過体重群と肥満群での肺がんリスクの低下が認められた(相互作用のp=0.002)。・過体重群と肥満群の調整ORはそれぞれ、現喫煙者では0.79(95%CI:0.68~0.92)、0.75(95%CI:0.60~0.93)、元喫煙者では0.70(95%CI:0.53~0.93)、0.55(95%CI:0.37~0.80)、非喫煙者では0.77(95%CI:0.59~0.99)、0.71(95%CI:0.44~1.14)であった。・低体重群では、統計学的に有意な関連は認められなかった(現喫煙者におけるOR:1.24、95%CI:0.98~1.58、元喫煙者におけるOR:0.27、95%CI:0.12~0.61、非喫煙者におけるOR:0.83、95%CI:0.53~1.28)。

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スタチンによる糖尿病発症の危険因子~日本のPMSデータ

 スタチン使用と糖尿病や高血糖症リスクの増加との関連について、慶應義塾大学薬学部の橋口 正行氏らが、日本の市販後調査(PMS)データベースを使用したコホート内ケースコントロール研究で検討した。その結果、脂肪肝および高尿酸血症を併存している患者で、スタチン使用により糖尿病や高血糖症の発症が増加する可能性が示唆された。Clinical Pharmacology in Drug Development誌オンライン版2018年2月20日号に掲載。 データベースには、スタチンを使用している2万6,849例と他の脂質降下薬を使用している5,308例の高脂血症患者が含まれていた。本研究には、1種類以上のスタチンを使用し、スタチンの明確な投薬歴があり、糖尿病ではない患者が参加した。ケースは、スタチン使用中に糖尿病もしくは高血糖症が発症した患者で、各ケースに対して20例のコントロールを無作為に選択しマッチさせた。スタチン使用中の糖尿病および高血糖症のリスク上昇に関連する因子として、性別、年齢、BMI、スタチン使用期間、併存疾患、併用薬、臨床検査値などを検討した。スタチンに関連する糖尿病もしくは高血糖症は、基準範囲を超える異常な血糖値上昇により同定した。 主な結果は以下のとおり。・1万9,868例が試験対象基準を満たし、そのうち24例がケース(スタチン使用中に糖尿病もしくは高血糖症を発症)群の患者であった。・糖尿病もしくは高血糖症の発症について、脂肪肝(調整オッズ比:16.10)および高尿酸血症(調整オッズ比:28.96)の2つの併存疾患因子が抽出された。・非アルコール性脂肪肝は、糖尿病、肥満、インスリン抵抗性と関連し、高尿酸血症は生活習慣と関連していた。

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人工関節全置換術後のVTE予防、アスピリンへの切り替えは有効か/NEJM

 股関節および膝関節の人工関節全置換術(THA/TKA)後にリバーロキサバンの短期投与を受けた患者では、その後アスピリンに切り替えても、リバーロキサバンを継続した場合と比較して、症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の予防効果に差はないことが、カナダ・ダルハウジー大学のDavid R. Anderson氏らが行ったEPCAT II試験で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2018年2月22日号に掲載された。アスピリンは、安価で、副作用プロファイルが十分に確立されており、THA/TKA後のVTE(近位深部静脈血栓症、肺塞栓症)の予防効果を有する可能性が臨床試験やメタ解析で示されているが、退院後の延長投与の予防効果を直接経口抗凝固薬と比較した試験は、これまで行われていなかった。アスピリンへの切り替えの有用性を無作為化試験で評価 EPCAT II試験は、THA/TKA施行後のVTEの予防として、リバーロキサバンの短期投与を受けた患者において、アスピリンの延長投与の有効性と安全性を評価する二重盲検無作為化対照比較試験である(カナダ保健研究機構の助成による)。 待機的に、片側の初回または再置換(revision)THA/TKAを受ける患者が、術後5日までリバーロキサバン(10mg、1日1回)の投与を受けた後、アスピリン(81mg/日)へ切り替える群またはリバーロキサバンを継続する群にランダムに割り付けられた。TKA例は9日間、THA例は30日間の投与が行われ、追跡期間は90日であった。 有効性の主要アウトカムは症候性VTEであり、安全性の主要アウトカムは出血性合併症(大出血、大出血ではないが臨床的に問題となる出血)であった。VTE発生率:0.64% vs.0.70%、非劣性を確認 2013年1月~2016年4月の期間に、カナダにある15の大学関連医療センターに3,424例(THA:1,804例、TKA:1,620例)が登録され、アスピリン切り替え群に1,707例(THA:902例、TKA:805例)、リバーロキサバン継続群には1,717例(THA:902例、TKA:815例)が割り付けられた。 全体の平均年齢は62.8歳、47.8%が男性であった。初回手術例が90%以上を占め、術後の平均入院期間は3.5日だった。 VTEの発生率は、切り替え群が0.64%(11/1,707例)と、継続群の0.70%(12/1,717例)に比べ優越性は認めなかったが、非劣性が確認された(群間差:0.06ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.55~0.66、優越性:p=0.84、非劣性:p<0.001)。 大出血の発生率は、切り替え群が0.47%(8例)、継続群は0.29%(5例)であり(群間差:0.18ポイント、95%CI:-0.65~0.29、p=0.42)、大出血ではないが臨床的に問題となる出血の発生率は、それぞれ1.29%(22例)、0.99%(17例)であった(群間差:0.30ポイント、95%CI:-1.07~0.47、p=0.43)。 著者は、「症候性VTEの発生率は両群とも低く、ほぼ同じであった」とまとめ、「いくつかの限界はあるが、これらの知見は臨床的に重要である。本試験は規模が大きく、アスピリンのリバーロキサバンに対する非劣性を示すに十分な検出力を持っている」としている。

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Real World Evidenceからみたカナグリフロジンの有用性(解説:吉岡成人 氏)-819

カナグリフロジンの新たなエビデンス ADA(American Diabetes Association)のガイドラインでは心血管リスクを持つ2型糖尿病患者に、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンやカナグリフロジンの積極的な使用を推奨している。その根拠となる臨床試験は、EMPA-REG OUTCOME試験およびCANVASプログラムである。これらの臨床試験における主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合イベントの発生率であり、対象となった患者も心血管疾患のハイリスクグループであった。今回紹介するのは、米国における民間の医療データベースを基に、2型糖尿病患者における投与薬剤と心血管イベントについて検討したReal World Evidenceとしてのデータである。医療データベースを基に検証 今回の研究は、米国の民間の医療データベースOptum Clinformatics Datamartを基に、18歳以上の2型糖尿病の患者で、2013年4月から2015年9月までにSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンまたはDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SU薬の使用を開始したものを対象として、心血管イベントの発症を比較したものである。処方データを抽出し、患者の背景をマッチさせ、イベントの発症を検討する後ろ向きコホート試験である。 主要評価項目は心不全による入院と複合心血管イベント(急性心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中による入院)となっている。カナグリフロジンは心不全の入院を減らすが、心筋梗塞や脳卒中は抑制しない Real world dataを基にした30ヵ月間の観察において、カナグリフロジンが他の薬剤に比較して心不全による入院のリスクを有意に低下させることが確認された。カナグリフロジンンとDPP-4阻害薬を比較した場合、イベントの発生頻度はそれぞれ8.9/1,000人年、12.8/1,000人年であり、ハザード比は0.70(95%信頼区間[CI]:0.54~0.92)。GLP-1アナログ、SU薬と比較したハザード比も0.61(95%CI:0.47~0.78)、0.51(95%CI:0.38~0.67)であった。しかし、複合心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中による入院)については、抑制効果は認められず、ハザード比はDPP-4阻害薬と比較して0.89(95%CI:0.68~1.17)、GLP-1アナログでは1.03(95%CI:0.79~1.35)、SU薬でも0.86(95%CI:0.65~1.13)であった。この傾向は、ベースラインにおけるHbA1c値や心疾患や心不全の既往の有無によってサブグループ解析を行っても同様であったと報告されている。 心疾患の既往の有無などを問わず、カナグリフロジンは心不全による入院を他の薬剤に比較して有意に30~49%抑制するものの、心筋梗塞や脳卒中による入院は抑制し得ないことになる。とはいえ、解析の対象となった患者の平均年齢はおよそ57±10歳前後と若く、観察期間も各群でマッチさせることができたのは0.6±0.5年ほどでしかない。これらの点を勘案すると、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンは、患者の年齢を問わず、投与開始後早い時期から、心不全による入院を抑制する効果を持っているといえる。 SGLT2阻害薬が新たなカテゴリーの利尿薬として心不全を抑制しているのか、それとも、利尿効果を超えた心血管イベント抑制の効果があるのか、今後の展開に期待したい。

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第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会 会長インタビュー 総会を振り返って

第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会が本年(2018年)1月20日~21日に開催された。医療者や患者も含め全国から集まったさまざまな参加者がディスカッションを行い。盛会のうちに終了した。今総会を振り返るとともに、会長である聖路加国際病院 副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内 英子氏に伺った。 第6回HBOCコンソーシアム学術総会の初日、聖路加国際病院に通院中の方々が登壇し、市民公開講座が開催されました。登壇した患者さんたちはそれぞれの決断を信じて、しっかりと一歩一歩を進んでいらっしゃると改めて感じました。もし医療チームとしっかり議論をしていなければ、これまでの決心も揺らぐと思います。予防的切除や遺伝性腫瘍以外でも、いろいろな治療方針を決めていくうえで「あなたの場合はどうしたいですか?」「このような選択をしたい」「じゃあ、こうしましょう」といういわゆるShared Decision Makingを、それぞれの不安を拾い上げながら当院の医療チームが実践してきました。患者さんたちは過去の治療歴も将来についても、ご自身の言葉で説明されていましたね。自分と違う選択をした方の経験談も冷静に受け止めて咀嚼し、次のステップに進んでいるのですね。違う立場の人たちがガールズトークをすることによって、お互いの成長をも促すのではないでしょうか。HBOCでは、患者さんが大変な不安に直面します。「怖い、お母さんも乳がんだし、私もいつなるのかしら…」と不安で暗い部屋に閉じこもっている人たちを、「大丈夫だから。こういう道だけど、一つひとつ選択しながら一緒に歩いて行きましょうね」と細い道を歩いて行くようなものでありながら、暗い部屋から手を引いて出して差し上げるようなものなのです。患者さんと家族のやり取りを、主治医や医療チームとしてどこまで把握すべきでしょうか?遺伝性腫瘍の場合、がんの人だけを家族歴からピックアップするだけではなく、どういうご家族がいらっしゃるかも重要です。その中で「この人には言わなくていいの?」とか「お姉さんは知っているの?」などを検査前から質問します。「うちの姉は病気のことを話すと、もうそれだけで絶対駄目なのです」という場合、「うまく私たちが説明するから、連れてきなさい」と医療チームが協力しながら対応することもあります。2日目の学術総会において、シンポジウム1の医療チームの各発表では、遺伝カウンセリングに主治医が加わるべきか否かが議論になりました。第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会のテーマは「実戦!THE NEXT STEP HBOC診療」主治医が遺伝カウンセリングに入ると、患者さんも必ず受けなければいけないと受け止めてしまうのではないか、という意見もあるでしょう。地域の家庭医やプライマリケア医である開業医の先生たちが、「遺伝子検査を受ける?」「遺伝カウンセリングは?」などと関わり、遺伝性腫瘍の専門医に紹介していく。欧米はすでにそのような状況です。どこまで二段階的なことができるか、たとえば主治医がある程度の説明はしても、もう一度、治療方針と関係なく第三者が、遺伝カウンセラーとして「本当に良いですか?」と聞く、二段階式の取り組みが必要かもしれません。そういった仕組みがあれば、医療機関ごとで独自に決めなければいけない現状も改善されると。主治医が遺伝カウンセリングに参加すべきではないとの理由が「主治医は忙しいから、やるべきではない」というのも、日本の医療現場ではあるかもしれない。「患者さんの自費負担になってはいけない」という経済的な理由も考えられます。遺伝子検査結果をカルテに記載するか、意図的に書き残さないかという議論もありました。遺伝子検査を行っている医療機関が増えています。10年前の「遺伝子検査なんてしないでしょう?」「遺伝子検査が陽性なのか」と珍しく見る社会から、今は「予防的切除をしました」「そうなんですね」と一般の反応もだいぶ変わってきています。これからBRCA遺伝子検査が陽性の人にしか使えない新薬が登場する場合、診療報酬請求で検査結果を明記しなければいけませんので、カルテ記載は避けられないでしょう。ただし検査陽性の人たちが不当な差別を受けないために、日本でも米国のような法整備を進めていく必要があります。シンポジウム2では、リスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)をしても原発性腹膜がんは完全には防ぎきれず、生涯の発症リスクは3~4%残るという発表がありました。RRSOは、かなりの確率で発症リスクを減らすことができます。ほとんどの方にRRSOの話をすると、「リスク低減手術後にも、いつか腹膜がんが見つかることがあります」と伝えても、それは恐怖と言うよりも「防ぎきれない限界がある」と認識していただくことが大事です。乳がんの発症リスクも減少するというデータもありますので、きちんとした知識をもって理解していただくようにしています。リスク低減乳房切除術(RRM)の標準術式についても、詳しい議論がありました。乳房の予防的切除の場合、どの程度の皮膚の厚さを残すべきか、どの範囲までを切除するか、乳腺外科医のさじ加減が大変重要です。RRMによる切除部位をどこまで薄い切片で病理検査すべきか、各施設の実例紹介がありました。これまでよりもいろいろな施設でリスク低減手術が実施されるようになったことで、標準となる術式についてもディスカッションができるようになってきたと思います。シンポジウム3で、乳房MRIは月経周期に合わせていつ撮影するか、その画像をどのように読影するかというサーベイランスの議論がありました。米国で保険適用になっているHBOCの乳房MRIサーベイランスも、わが国では自費となっています。そのため、超音波検査よりもはるかに高額の支出となります。しかも未発症ですから、若い人で「なぜこんな検査をしなければならないの? 休みもつぶして、子供も預けてきて、お金もかかって」と、結局ドロップアウトしていく人もいます。社会で行われていたりする30~40代の全員に超音波検査を行うのではなく、本当にリスクが高い人にはMRIまでの検診費用をカバーするなどの、新たなサポートが必要ではないかと思います。シンポジウム4では、HBOCの前立腺がんについて議論がありました。HBOCの比率は1~2%と推定されるとの意見もあり、泌尿器がんの中で、初めて遺伝子治療が実用化されるかもしれないとの意見も出ました。乳腺外科はこれまでも産婦人科との連携は良好です。シンポジウム1で産婦人科の先生方が登壇してくださり、こうした連携が各地に広がってきました。これからは、泌尿器科の先生たちとの連携も重要ですので、今回の学術総会がその第一歩になればと考えます。会場で聴講された方々も、泌尿器科の先生たちへHBOCについて声を掛けてくださればと思います。意識的に探すことで、前立腺がんの中でHBOCが見つかるとなれば、今後も泌尿器科で前立腺がんの患者さんがいれば、乳がんや卵巣がんの家族歴を聞くことが重要になります。HBOCは多診療科にわたる疾患につき、皆で取り組み、取り上げ、拾い上げていかなければいけない問題です。CareNet会員の皆様へメッセージをお願いします。日本でのHBOC診療は、実戦となるネクスト・ステップに入ったと考えています。すべての医師の前に、BRCA遺伝子検査が陽性と判明した患者さんやご家族が、今日にも現れるかもしれません。遺伝性腫瘍に直面した方々が抱える大きな不安がこぼれ落ちないように、すべての医師にはぜひ、ご一緒に手を差し伸べていただきたいと思います。引き続き、全国の医療機関には診療体制を整えていただき、HBOCコンソーシアムでも情報を更新しながらホームページを整備していきます。また、私自身も積極的に情報提供を続けていきたいと思います。

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オシメルチニブ耐性後のMET増幅、NSCLCの予後を悪化?/Lung Cancer

 MET増幅はEGFR C797Sと並び、第3世代EGFR-TKIオシメルチニブの代表的な体制機構である。過去の研究では、オシメルチニブ耐性の30%前後にMET増幅がみられるとの報告もある。しかし、オシメルチニブ耐性後のMET増幅に関するコホート研究はほとんど行われていない。本研究では、進行肺腺がん患者におけるオシメルチニブ耐性後のMET増幅の獲得について、またMET増幅と臨床予後との関係について調査した。 中国・重慶の第3軍医大学Daping病院に登録された、T790M発現肺腺がん患者の中からオシメルチニブの耐性を獲得した13例のNCSLCコホートを後ろ向きに解析した。オシメルチニブ治療前と耐性獲得後の血漿および組織サンプルで縦断的にターゲット・キャプチャー・シーケンスを行った。また、潜在的な耐性機構を検討するため、オシメルチニブ耐性後のMET増幅と予後との関係をKaplan-Meier解析で調べた。 主な結果は以下のとおり。・MET増幅は、オシメルチニブ耐性患者の30.8%(13例中4例)に確認された。・MET増幅患者の無増悪生存期間(PFS)は3.5ヵ月、MET増幅陰性患者のPFSは9.9ヵ月であり、MET増幅患者で短かった(p=0.117)。・MET増幅患者の全生存期間(OS)は15.6ヵ月、MET増幅陰性患者のOSは30.7ヵ月であり、MET増幅患者で短かった(p=0.885)。・MET増幅患者2例において、MET阻害薬クリゾチニブと、第1世代EGFR-TKI icotinib、第3世代EGFR-TKIオシメルチニブとの併用治療をそれぞれ行った結果、両患者共に臨床的・放射線学的PRが得られた。■参考Wang Y, et al. Lung Cancer.2018;118:105-110.

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尿路感染へのトリメトプリムで突然死リスクは増えるのか/BMJ

 尿路感染症(UTI)に対するトリメトプリムの使用は、他の抗菌薬使用と比べて、急性腎障害(AKI)および高カリウム血症のリスクは大きいが、死亡リスクは高くないことが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のElizabeth Crellin氏らによるコホート研究の結果で示された。また、相対リスクの上昇は試験対象集団全体においては類似していたが、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬およびカリウム保持性利尿薬を服用していた群ではベースラインのリスクが高いほど、AKIや高カリウム血症の絶対リスク上昇がみられたという。BMJ誌2018年2月9日号掲載の報告。一般集団を対象に、AKI、高K血症、死亡の発生を他の抗菌薬と比較 合成抗菌薬のコトリモキサゾール(ST合剤:スルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤)は、突然死のリスク増大と関連しており、そのリスク増大は血清カリウム値の上昇による可能性が報告されている。しかし先行研究は、対象が特定集団(RAS阻害薬服用患者など)であり、交絡因子(感染症のタイプや重症度)の可能性が排除できず、結果は限定的であった。また、トリメトプリムとST合剤のリスクが同程度のものなのかについても、明らかになっていなかった。 研究グループは、一般集団においてUTIに対するトリメトプリム使用が、AKI、高カリウム血症、あるいは突然死のリスクを増大するかを検証した。 英国のClinical Practice Research Datalinkに集積されているプライマリ受診者の電子カルテ記録を用い、Hospital Episode Statisticsデータベースからの入院記録データと関連付けて解析を行った。 対象は、1997年4月~2015年9月に、プライマリケアでUTIの診断後に最長で3日間、トリメトプリム、アモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシン、またはnitrofurantoinのいずれかを処方されていた65歳以上の患者。UTIの抗菌薬治療14日間でのAKI、高カリウム血症、死亡の発生について評価した。RAS阻害薬とスピロノラクトンの使用群ではリスクが上昇 コホートには、65歳以上の患者119万1,905例が組み込まれた。このうち、17万8,238例がUTIの抗菌薬治療を1回以上受けており、UTIの抗菌薬治療エピソード総計42万2,514件が確認された。 抗菌薬投与開始後14日間のAKI発生のオッズ比(OR)は、アモキシシリン群との比較において、トリメトプリム群(補正後OR:1.72、95%信頼区間[CI]:1.31~2.24)およびシプロフロキサシン群(同:1.48、1.03~2.13)で高かった。 抗菌薬投与開始後14日間の高カリウム血症発生のORは、アモキシシリン群との比較において、トリメトプリム群(同:2.27、1.49~3.45)のみで高かった。 しかしながら、抗菌薬投与開始後14日間の死亡発生のORは、アモキシシリン群と比べてトリメトプリム群では高くなく、全集団における補正後ORは0.90(95%CI:0.76~1.07)であった。一方で、RAS阻害薬使用群における補正後ORは1.12(同:0.80~1.57)であった。 解析の結果、65歳以上で抗菌薬治療を受けた1,000UTIについて、RAS阻害薬使用の有無にかかわらず、アモキシシリンの代わりにトリメトプリムを用いた場合の高カリウム血症の追加症例は1~2例であり、AKIによる入院は2例であることが示唆された。一方で、RAS阻害薬およびスピロノラクトンの使用群では、アモキシシリンの代わりにトリメトプリムを用いた場合、高カリウム血症の追加症例は18例、AKIによる入院は11例であった。

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第54回

第54回:ペムブロ・化学療法併用の第III相試験KEYNOTE-189キーワード肺がんメラノーマペムブロリズマブ動画書き起こしはこちら<このビデオレターは侍オンコロジスト#52の続編です>FDAの認可というと面白いところはですね。カルボプラチン、ペメトレキセド、ペムブロリズマブ(という)、従来の抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用がアメリカで認可になったという話をしたと思うんですけど、これ実はFull Approvalではなくて、Conditional Approvalという形になっています。それはなぜかというと、臨床試験の結果はポジティブに出たけど、これはRandomized PhaseIIの結果であったからですね。(そのよう中)今回、メルクからのプレスリリースで、PhaseIIIでも同じようにポジティブなったという報告がありました。実際の数字はまだ見ていないので、PhaseIIと同じくらいポジティブな…StageIVの肺がん患者さんに対してカルボプラチン、ペメトレキセド、ペムブロリズマブを使った群のProgression Freee Survivalは13ヵ月を超えるという結果が出たんですけれども…これに準ずるぐらい凄い結果が出るのか、ちょっと覗いてみたいですね。Merck社プレスリリースMerck’s KEYTRUDA(pembrolizumab) Significantly Improved Overall Survival and Progression-Free Survival as First-Line Treatment in Combination with Pemetrexed and Platinum Chemotherapy for Patients with Metastatic Nonsquamous Non-Small Cell Lung Cancer (KEYNOTE-189)ペムブロリズマブ、化学療法併用でNSCLC1次治療のOS延長(第III相KEYNOTE-189)Langer CJ, et al. Carboplatin and pemetrexed with or without pembrolizumab for advanced, non-squamous non-small-cell lung cancer: a randomised, phase 2 cohort of the open-label KEYNOTE-021 study. Lancet Oncol. 2016;17:1497-1508.

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アイザックス症候群〔Isaacs syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイザックス症候群は、1961年にIsaacsが、後天性に全身の筋硬直と筋電図で持続する運動単位電位の自発放電を特徴とする2例を報告したのが最初である1)。その病態機序は末梢神経の過剰興奮であり、その病態は自己抗体による自己免疫性疾患である。症状が筋疾患であるミオトニア症候群に似ているが、病変部位が末梢神経であるため、後天性ニューロミオトニア(acquired neuromyotonia)とも呼ばれている2)。■ 疫学詳細な疫学の報告はない。海外では発症年齢の多くが40歳半ば、男女比は2:1で男性に多く、診断までに3~4年を要している2)。わが国での1次調査では、全国に100例前後の患者がいると思われる。■ 病因病態である末梢神経の過剰興奮を引き起こす病因は、末梢神経の電位依存性Kチャネル(VGKC)および、VGKCに関連する蛋白に対する自己抗体であることが明らかになっている1,3)。VGKCは、末梢神経の脱分極後に再分極を起こし、膜の興奮性を安定させるイオンチャネルであり、その障害で興奮性が増加して症状を引き起こす。末梢神経には血液神経関門があり、通常血中の自己抗体は軸索のVGKCにはアクセスできないが、末梢神経の神経根および最末梢の神経終末では血液神経関門が脆弱であり、このような部位が標的となっていると考えられる4,5)。以上のように、概念的にはランバート・イートン症候群などのように免疫介在性チャネロパチーの1つといえる。■ 症状臨床的には全身の末梢運動神経の過剰興奮により、広汎に有痛性筋けいれん・筋硬直と筋のぴくつき(fasciculation)や筋の波打つような不随意運動(myokymia)などを主徴とし、全例で認められる。また、ニューロミオトニア(繰り返す把握運動後の弛緩障害[grip myotonia]はあるが、叩打ミオトニア[percussion myotonia]がない)は、本症に比較的特異な症状で約1/3に認められる2,4)。筋けいれん、筋硬直は睡眠時も起こり、運動負荷、寒冷、虚血で増強する。持続性の筋けいれんは筋肥大を来すことがある。そのほか、発汗過多、下痢、皮膚色調の変化、原因不明の高体温などの自律神経症状を30~50%の症例で伴う4)。約半数の症例で異常感覚や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)に類似の疼痛などの感覚障害を伴うことがまれではなく、当初は筋けいれんに伴うものと考えられていたが、筋けいれんの発症前に感覚異常で発症する症例の報告もあり、現在は感覚異常とくに疼痛も重要な症状の1つと考えられている6)。そのほか、Hartら2)によると約1/4の症例で何らかの中枢神経症状を有している。末梢運動神経の症状である筋けいれん・筋硬直やニューロミオトニアと記銘力障害、不眠、睡眠障害、幻覚などの大脳辺縁系症状や多彩な自律神経症状を伴うMorvan症候群が知られていたが、この疾患でアイザックス症候群と共通の抗VGKC抗体がその原因であることが明らかになっている3)。■ 分類臨床的にニューロミオトニアを呈する疾患には、先天性と後天性があり、さらに後天性の原因にもさまざまなものがある7)。この中で自己抗体が関与する後天性かつ免疫介在性のニューロミオトニアには、全身性にみられるアイザックス症候群のほかに、主に下肢に限局するcramp-fasciculation syndrome、中枢神経症状を伴うMorvan症候群などがある。■ 予後自然寛解はまれであり、多くは症状が緩徐に進行し、全身の筋硬直、歩行困難などでADLが障害される。注意すべきは、本症は傍腫瘍性症候群の一面も持っており、胸腺腫や肺がんの合併が報告されている8)。しかし、これらの腫瘍の外科的切除による症状の改善は一定ではない。通常は後療法として、免疫療法や対症療法が必要な場合がある。一方、このような悪性腫瘍の合併が明らかではない場合も、4年後にがん病変が発見された症例の報告もあり、十分な経過観察が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は上記の特徴的な症状と、以下の検査所見でなされる。末梢神経の過剰興奮性の有無を診断するには、神経生理学的検査が必要である。針筋電図でmyokymic dischargesが特徴的であり、安静時や弱収縮時に同じ運動単位電位の反復発火(doublet、multiplet)としてみられる。発火頻度が高くなるとneuromyotonic dischargesがみられることもある1,4,7)。体幹などの深部筋では筋電図によるこれらの異常放電を捉えることは困難であるが、そのような場合には超音波検査で筋の不随意運動を観察して診断する。特異度の高い検査は血清中の抗VGKC関連抗体であり、臨床症状と本抗体が陽性であれば診断はほぼ確定する。当初VGKC自体に対する抗体そのものがアイザックス症候群の病因と考えられていたが、その陽性率は50%以下であった。その後の研究でVGKCはいくつかの分子と複合体を形成し、抗体が認識しているのはVGKC以外の分子が主であることが明らかとなった2)。これらの分子の中で最も頻度の高いものは、contactin-associated protein2(Caspr2)とleucine-rich glioma-inactivated protein1(Lgi1)である2,9)。Lgi1の発現は末梢では少ないので、アイザックス症候群ではCaspr2に対する抗体が主となる。しかし、これらの自己抗体の陽性率も必ずしも高くない。なお、抗VGKC抗体は低力価の場合は臨床症状との関連でその意味を考える必要がある。また、抗VGKC抗体は鹿児島大学神経病講座で測定しているが、Caspr2に対する抗体は、わが国ではルーチンに測定しているところはなく、診断には臨床症状と筋電図を用いることが多い。そのほかに自己免疫疾患としての側面から、重症筋無力症、胸腺腫、橋本病などさまざまな自己免疫疾患を合併する。とくに重症筋無力症との合併が多い。抗VGKC抗体以外の自己抗体として抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)、抗核抗体、抗GAD抗体の陽性率が高い。また、自己免疫疾患であるからには免疫療法で症状の改善をみることも重要であり、これらの点を考慮して次表のような診断基準が出されている。表 アイザックス症候群の診断基準A.主要症状・所見1.ニューロミオトニア(末梢神経由来のミオトニア現象で、臨床的には把握ミオトニアはあるが、叩打ミオトニアを認めないもの)、睡眠時も持続する四肢・躯幹の持続性筋けいれんまたは筋硬直(必須)2.myokymic discharges、neuromyotonic dischargesなど筋電図で末梢神経の過剰興奮を示す所見3.抗VGKC複合体抗体が陽性(72pM以上)4.ステロイド療法やそのほかの免疫療法、血漿交換などで症状の軽減が認められるB.支持症状・所見1.発汗過多2.四肢の痛み・異常感覚3.胸腺腫の存在4.皮膚色調の変化5.そのほかの自己抗体の存在(抗アセチルコリン受容体抗体、抗核抗体、抗甲状腺抗体)C.鑑別診断以下の疾患を鑑別するスティッフパーソン症候群や筋原性のミオトニア症候群、糖原病V型(McArdle病)などを筋電図で除外する<診断のカテゴリー>Definite:Aのうちすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものProbable:Aのうち1に加えて、そのほか2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものPossible:Aのうち1を満たし、Bのうち1項目以上<診断のポイント>自己免疫的機序で、末梢神経の過剰興奮による運動単位電位(MUP)の自動反復発火が起こり、持続性筋収縮に起因する筋けいれんや筋硬直が起こる。末梢神経起源なので叩打ミオトニアは生じないが、把握ミオトニア様にみえる手指の開排制限は起こりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)アイザックス症候群の治療の主体は、日常生活にさほど影響がないほどの軽症であれば、末梢神経の過剰興奮性を抑制する薬剤(カルバマゼピン[商品名:テグレトール]、フェニトイン[同:アレビアチン、ヒダントール]、ラモトリギン[同:ラミクタール]、バルプロ酸ナトリウム[同:デパケン]、ガバペンチン[同:ガバペン]など)による対症療法が原則である。この中でAhmedら7)はカルバマゼピンを第1選択としている。症状が強くなるに従い、1種類の薬剤でのコントロールが困難なことが多く、血中濃度や副作用に注意しつつ、数種類の抗てんかん薬を用いることが多い。さらに症状が重篤であり、これらの対症療法が無効な症例、激しい有痛性筋けいれんなどにより日常生活に重大な支障が起こる症例では、血漿浄化療法、免疫グロブリン療法、プレドニゾロン(同:プレドニゾロン、プレドニン)などの免疫療法が試みられる。とくに抗体強陽性例では、免疫吸着療法を含む血漿浄化療法が有効であるとの報告が多く、治療で臨床症状の改善とともに筋電図上の異常放電の減少や抗VGKC抗体の抗体価の低下がみられる7)。経験的には血漿浄化療法の効果は重症筋無力症ほど急速にはみられず、1~2週間程経って徐々に効果がみられることが多く、十分な経過観察が必要である。免疫グロブリン大量療法には有効・無効の両者の報告がある。また、プレドニゾロン単独での効果は明らかではないが、メチルプレドニゾロン(同:メドロール)によるパルス療法が有効な場合もある。しかし、いずれの免疫療法を行った場合も、抗てんかん薬などの併用が必要である。4 今後の展望まずは、簡便で高感度な抗VGKC抗体およびその関連分子(Caspr2)に対する抗体の測定法の確立である。また、VGKC、Caspr2以外のVGKC関連蛋白などの抗原検索も必要である。治療としては、より簡便で副作用の少ない免疫療法の開発が必要であるが、症例数が少ないために有効な治療法の評価ができにくいことが問題である。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が2015年1月1日に施行された。これにより指定難病が一気に拡大され、アイザックス症候群も同年7月に指定された。現在では、重症例は医療費補助の対象となっている。診療、研究に関する情報難病情報センター アイザックス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)鹿児島大学神経病講座 抗VGKC複合体抗体の測定(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報りんごの会(アイザックス症候群患者とその家族の会)1)Arimura K, et al. Muscle Nerve.2002;11:S55-58.2)Hart IK, et al. Brain.2002;125:1887-1895.3)Irani SR, et al. Brain.2010;133:2734-2748.4)Arimura K, et al. Brain Nerve.2010;62:401-410.5)Arimura K, et al. Clin Neurophysiol.2005;116:1835-1839.6)Klein CJ, et al. JAMA Neurol.2013;70:229-234.7)Ahmed A, et al. Muscle Nerve.2015;52:5-12.8)Tan KM, et al. Neurology.2008;70:1883-1890.9)Watanabe O. Brain Nerve.2013;65:401-411.公開履歴初回2018年02月27日

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