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呼吸器疾患死亡率、英国vs.EU15+諸国/BMJ

 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国(英国を除く欧州連合[EU]加盟15ヵ国に、オーストラリア、カナダ、米国を加えた国々)では、いずれも呼吸器疾患による死亡率が全体として低下したが、閉塞性・感染性・間質性呼吸器疾患死亡率については英国がEU15+諸国に比べて高いことが、米国・ハーバード大学のJustin D. Salciccioli氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年11月28日に掲載された。世界疾病負担(Global Burden of Disease)などの報告によれば、英国は、医療制度が同程度の他国に比べて呼吸器疾患死の割合が高い可能性が示唆されていた。全呼吸器疾患死とサブカテゴリー別の死亡を検討 研究グループは、英国における呼吸器疾患による年齢標準化死亡率を、医療制度が同程度のEU15+諸国と比較する観察研究を行った(研究助成元は申告されていない)。 1985~2015年の世界保健機関(WHO)の死亡データベースを用いて、英国、EU15+諸国の全19ヵ国のデータを収集した。EU15ヵ国はオーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、ノルウェー。 全呼吸器疾患死、および感染性(インフルエンザ、肺炎、結核を含む)、腫瘍性(気管支、肺、胸膜の悪性腫瘍を含む)、間質性(特発性肺線維症を含む)、閉塞性(慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支拡張症を含む)、その他(肺水腫、気胸を含む)の呼吸器疾患による死亡について解析を行った。 混合効果回帰モデルを用いて国別の差を経時的に解析し、局所的に重み付けされた散布図平滑化(locally weighted scatter plot smoother)で評価した呼吸器疾患のサブカテゴリーの傾向を検討した。英国の女性は全サブカテゴリーで死亡率が高い 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国の全呼吸器疾患死は、男性では低下したが女性では変化せずに維持されていた。呼吸器疾患による年齢標準化死亡率(10万人当たりの死亡件数)は、英国では男性は151件から89件に低下したのに対し、女性は67件から68件と、ほとんど変化しなかった。EU15+諸国についても、男性は108件から69件へ低下したが、女性は35件から37件と、大きな変化はなかった。 英国はEU15+諸国に比べ、女性ではすべてのサブカテゴリー(感染性、腫瘍性、間質性、閉塞性、その他)の呼吸器疾患による死亡率が高く、男性では感染性、間質性、閉塞性、その他の呼吸器疾患による死亡率が高かった。 著者は、「これらの国々の呼吸器疾患患者の医療費、医療制度、健康行動の違いを明らかにするために、さらなる検討を要する」と指摘している。

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皮膚筋炎、抗核抗体陰性は悪性腫瘍のリスク大

 成人の皮膚筋炎(DM)患者における抗核抗体(ANA)の臨床的な意義は、まだ詳細に定義されていない。米国・メイヨー・クリニックのPaul M. Hoesly氏らは、成人発症DM患者において、ANA陰性が診断後3年以内の悪性腫瘍の発症に関連することを明らかにした。著者は、「ANA陰性DM患者では、とくに綿密な観察と頻繁な悪性腫瘍のスクリーニングが必要と考えられる」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年11月17日号掲載の報告。 研究グループは、成人発症DM患者でのANA陽性および陰性を、無筋炎型(amyopathic DM)の発症率、悪性腫瘍のリスクおよび臨床所見について比較した。そして、ELISA法でANA陽性または陰性が検出された成人発症DM患者を後ろ向きに解析した。ただし、この研究の遡及的な性質には限界があった。 主な結果は以下のとおり。・解析した213例中、ANA陽性は140例(61%)、陰性は91例(39%)であった。・ANA陽性患者は陰性患者と比較し、嚥下障害(15% vs.26%、p=0.033)およびヘリオトロープ疹(38% vs.53%、p=0.026)の頻度が低かった。・213例のうち54例(23%)は、DMの診断から3年以内に悪性腫瘍を発症した。・悪性腫瘍の発症率は、ANA陽性患者で11%、陰性患者で43%であった(p<0.001)。・多変量解析の結果、ANA陽性と悪性腫瘍発症リスクの低さとの間に強い関連を認めた(オッズ比[OR]:0.16、p<0.001)。一方で、ANA陽性とamyopathic DMとの関連はなかった(OR:0.94、p=0.87)。

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日本人高齢者における幼少期の社会経済的状況と認知症の主観的症状との関係

 西洋諸国において、小児期の社会経済的な困難と認知症や認知機能低下との関連を示唆するエビデンスが増加している。しかし、非西洋諸国において、この関連性に関する研究は行われていない。東京大学の村山 洋史氏らは、地域社会に暮らす日本人高齢者における小児期の社会経済的な状態(SES)と認知症の主観的な症状との関連を調査し、この関連性が年齢や性別により変動するかを検討した。Journal of Epidemiology誌オンライン版2018年10月20日号の報告。 東京都足立区の65歳以上のすべての住民13万2,005人を対象とした断面調査よりデータを抽出した。自己評価による認知症チェックシートを用いて主観的な症状を評価し、臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)と比較し、検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・7万5,358件のアンケートデータを分析した。・潜在的な共変量で調整した後、小児期の低SESは、認知症の主観的な症状と関連している可能性が高かった。・小児期のSESと認知症の主観的な症状との関連は、年齢で有意な相互関係が認められたが、性別では認められなかった。・年齢層別分析では、小児期の低SESと認知症の主観的な症状との関連性は、65~74歳群よりも75歳以上群でより強く、この関連に対する年齢変化の影響を示唆している。 著者らは「小児期の低SESは、高齢期の認知症状に長期的な影響を及ぼし、この影響は、年齢により異なることが示唆された。この差異は、日本における社会的および歴史的(第2次世界大戦、戦後の混乱、その後の高い経済成長)な影響であると考えられる」としている。■関連記事小児期のストレスと将来の認知症発症との関連どのくらい前から認知症発症は予測可能かうつ病の治療転帰を予測するには、臨床的要因 < 社会経済的要因

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がん治療に大変革をもたらした2つの研究~がん免疫療法のいま・未来~

 2018年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した、本庶 佑氏(京都大学高等研究院 特別教授)とJames P. Allison氏(テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター 教授)が、現地時間の12月10日(日本時間 12月11日未明)、授賞式に出席した。 両氏の研究成果は、がん免疫療法の発展に大きく寄与している。本庶氏は日本医師会での講演にて、がん免疫療法によって「今世紀中にがん死はなくなる可能性が出てきた」と語っている。いま一度、両氏の功績を振り返るとともに、がん治療に大変革をもたらした免疫チェックポイント阻害薬の開発までの軌跡をたどる。がん免疫療法、はじめの一歩 免疫チェックポイント阻害薬の標的である免疫チェックポイント分子のうち、最初に発見されたのがCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)であった。 1987年、CTLA-4は活性化T細胞上に発現する分子として発見され1)、1990年代半ばにはCTLA-4が抑制性受容体であり、T細胞のブレーキ機能を果たすことが明らかにされた2)。これに着目し、がん治療への応用を考えたのがAllison氏らだ。Allison氏らはマウスを用いた実験でCTLA-4をモノクローナル抗体で遮断し、いわばT細胞のブレーキを外すことで、抗腫瘍免疫応答を活性化できることを証明した3)。これは、最初の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体の臨床開発につながる大きな発見だった。大変革への架け橋 時を同じくして、1992年に本庶氏らは、もう1つの免疫チェックポイント分子を発見する。それがPD-1(Programmed cell Death 1)分子だ。本庶氏らはPD-1がCTLA-4と同様にT細胞のブレーキとして機能するものの、CTLA-4とは異なる機序で作動することを示した4)。そして1990年代後半には、本庶氏らが実施したPD-1欠損マウスでの研究5)からPD-1分子による免疫抑制作用が明らかにされた6)。2000年にはPD-1のリガンドであるPD-L1(Programmed cell Death ligand 1)が同定された。T細胞上のPD-1が、がん細胞に発現したPD-L1と結合すると、T細胞にブレーキが掛かり活発な免疫反応が妨げられる。その結果、がん細胞は免疫システム攻撃から逃れていることを解明したのだ7)。 この本庶氏らの研究成果は、抗PD-1抗体開発につながる偉大な功績となった8)。がん免疫療法のいま・未来 2000年代に入り、抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体といった、免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が開始された。2010年、抗CTLA-4抗体のイピリムマブの、悪性黒色腫に対する顕著な効果が示された9)。 また2012年には、抗PD-1抗体であるニボルマブの、非小細胞肺がん(NSCLC)、悪性黒色腫、腎細胞がん(RCC)といった複数のがん種に対する臨床試験において、既存の治療法と比べて、全生存期間および奏効率の双方に関する臨床的に著しい改善が示された10-12)。まさにがん治療の大変革が現実のものとなったのだ。 その後本邦では、2014年7月に世界に先駆けてニボルマブが、2015年7月にはイピリムマブが承認を取得した。両剤は免疫チェックポイント阻害薬のトップランナーとして、実臨床で高い効果を発揮し、がん治療に大きな貢献を果たしている。 現在、多数のがん種において、さまざまな免疫チェックポイント阻害薬の開発が進む中、がん免疫療法単独での効果を増強する目的で、作用機序が異なるがん免疫療法同士を組み合わせた、複合がん免疫療法の開発が盛んに行われている13)。イピリムマブとニボルマブの併用療法も一部のがん種で承認され、治療の幅が広がっている。今後もがん免疫療法の発展は続いていくようだ。 免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に大きな変革をもたらした。本庶氏が語るように、がん免疫療法によってがん克服が可能になる日も遠くないのかもしれない。■参考1)Brunet JF, et al. Nature. 1987;328:267-270.2)Krummel MF, et al. J Exp Med. 1995;182:459-465.3)Leach DR, et al. Science. 1996;271:1734-1736.4)Ishida Y, et al. EMBO J. 1992;11:3887-3895.5)Nishimura H, et al. Science. 2001;291:319-322.6)Nishimura H, et al. Immunity. 1999;11:141-151.7)Freeman GJ, et al. J Exp Med. 2000;192:1027-1034.8)Iwai Y, et al. Int Immunol. 2005 Feb;17:133-144.9)Hodi FS, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:4712-4717.10)Brahmer J, et al. N Eng J Med. 2015;373:123-135.11)Weber J, et al. N Engl J Med. 2017;377:1824-1835.12)Motzer RJ, et al. N Eng J Med. 2018;378:1277-1290.13)河上 裕. 日臨. 2017;75:175-180.

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英国でプライマリケアの検査件数が激増/BMJ

 英国では、性別や年齢、検査の種類にかかわらず、検査件数が経時的に増加しており、調査対象となった検査の9割が、16年間で統計学的に有意に件数が増加したことが、英国・オックスフォード大学のJack W. O’Sullivan氏らの検討で明らかとなった。プライマリケアにおける検査を定量的に評価したデータは、世界的にみても少ない。英国では、2005~09年の検査件数の増加を示す調査が1件あるだけで、加えてこの調査はサンプル数が少なく、種類は検体検査のみで、対象集団も限定的だという。BMJ誌2018年11月28日号掲載の報告。44の検査の16年間の使用状況を評価 研究グループは、英国のプライマリケアにおける検査の使用状況の経時的変化を評価するために、後ろ向きコホート研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 2000年4月1日~2016年3月31日の期間に、英国のGeneral Practices in the Clinical Practice Research Datalink(CPRD)に登録された全患者のデータを用いた。 プライマリケアにおける年間の年齢別、男女別の検査件数を算出。44の検査(検体検査:28、画像検査:11、その他の検査:5[スパイロメトリー、上部消化管内視鏡、大腸内視鏡、子宮頸部細胞診、心電図])の解析を行った。 16年間(7,143万6,331人年)において、1,108万2,628例の患者に2億6,297万4,099件の検査が行われた。使用率は3.3倍、1例に年5件、3分の1が年10件以上、40検査が有意に増加 年齢・性別で補正した検査の使用率は、年間8.5%(95%信頼区間[CI]:7.6~9.4)上昇し、2000~01年度の1万人年当たり1万4,869件から、2015~16年度は4万9,267件へと3.3倍に増加した。患者1例当たりの年間平均検査件数は、2000~01年度が1.5件であったのに対し、2015~16年度は5件に達した。 16年間を通じて、検査使用率が最も高い年齢層は45~64歳で、次いで65~74歳、25~44歳の順であった。年齢・性別で補正した検査使用率は調査期間を通じて全年齢層で有意に上昇し、最低でも6.5%増加した。年間使用率が最も上昇したのは85歳以上の患者(11.1%)で、次いで75~84歳の患者(9.8%)だった。 検体検査は、調査期間を通じて画像およびその他の検査よりも大幅に使用頻度が高かった。補正後使用率は、3種の検査のいずれもが有意に上昇した。検体検査は、2000~01年度の1万人年当たり1万3,091件から、2015~16年度には4万4,847件へと増加し、年間平均増加率は8.7%であった。同様に、画像検査とその他の検査の年間平均増加率は、それぞれ5.5%および6.3%だった。 年に10件以上の検査を受けた患者の割合は、2000~01年度が9.5%であったのに対し、2015~16年度は32.7%に増加した(絶対増加率:23.2%、p<0.001)。検査を1つだけ受けた患者の割合は、2000~01年度に比べ2015~16年度は16.4%低くなった(p<0.001)。年に1件以上の検査を受けた患者のうち、複数の検査を受けた患者の割合は、経時的に有意に増加していた。 腎機能検査、全血算検査、肝機能検査などの使用頻度が高く、骨盤CTや膝MRIの頻度は低かった。44の検査のうち40検査の使用率が有意に増加した。調査期間中に年間使用率が統計学的に有意に低下したのは、膣スワブ検査のみであった。また、3つの検査(子宮頸部細胞診、腰椎X線検査、非違法薬物の尿検査)は、変化に有意差がみられなかった。 著者は、「これらの変化は、人口増加の変化よりも大きかった」とし、「今回の結果により、政策立案者は検査の使用状況の傾向を評価可能となった。国民保健サービス(NHS)の先例のない財政負担を踏まえると、これらのデータは今後の医療リソース計画の指針となるだろう」と指摘している。

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第8回 p値が小さいほど効果があったといえるのか?【統計のそこが知りたい!】

第8回 p値は小さいほど効果があったといえるのか?p値とは何だったでしょうか。p値とはprobability(確率)の頭文字です。pの値は0~1の間の値です。p値は小さくなればなるほど誤る確率は低くなり、母集団において効果がある(違いがある)という結論の確からしさが高まります。p値と統計学が定めた基準の値(有意水準という)を比較し、p値<有意水準であれば帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択します。たとえば、新薬Yは母集団において効果があると判断します。有意水準は通常0.05の定数を適用します。では、既存薬Xとの比較試験でp<0.05となり効果があると判断された新薬Yと、同じく既存薬Xとの比較試験でp<0.01となり効果があると判断された新薬Zでは、効果の違いは判断できるでしょうか? 新薬Zのほうが既存薬Xと比べて新薬Yよりも効果があったといってもよいでしょうか?今回は、p値と効果との違いについて解説します。■仮説検定は帰無仮説を棄却できるかで決まる統計的仮説検定で最初にすることは、帰無仮説と対立仮説を立てることでした。新薬は従来の治療薬よりも効果が優れているというのが、自信を持って開発した薬剤が証明したい本当の仮説だったとします。しかし、検定ではあえて「既存薬と新薬の効果は等しい」という帰無仮説を立てて、それをデータで棄却しようとする方法をとります。帰無仮説が棄却された場合は、対立仮説が正しいとするのですが、問題はその対立仮説の確率が評価されないことにあります。統計的仮説検定は、帰無仮説を棄却することだけにあります。一方で、帰無仮説が棄却できなかった場合は、2つの薬剤(既存薬と新薬)の効果が等しいと積極的に証明できたわけではありません。帰無仮説が棄却できなかった場合は、「結論は保留」。つまり、「有意差はなかった」あるいは「効果があったかどうかはわからなかった」というのが、結果の正しい解釈です。このことを「仮説検定の非対称性」といいます。つまり、「有意差が出なかった」=「既存薬と新薬との効果に違いがなかった」と解釈することはできないのです。「有意差が出なかった」=「偽陽性の確率が高い(αエラー)」=「差があるということがわからなかった」ということなのです。■p値の小ささは効果を裏付ける指標となるか?p値が、小さければ小さいほど差があるとはいえません。つまり、p値が小さいことを理由にして、大きな効果があったと結論付けることはできません。p値の比較として、表の解熱効果を比較し、データでみてみましょう。表 各薬剤の解熱効果の比較新薬Yは、既存薬Xや新薬Zと比較し、体温低下の平均値は2.2と最も体温を下げています。そして、新薬Zも既存薬Xに比べて、有意に体温を下げています。既存薬Xと新薬Yの検定から得られるp値は0.041、既存薬Xと新薬Zのp値は0.009でした(図)。仮にp値の大きさが小さいからという理由で薬剤を選択したら、新薬Zのほうが効果が大きい(良い結果)ことになってしまいます。つまりp値の大きさだけで薬剤を選ぶと、効果の低い薬剤を選んでしまうという間違った判断をしてしまいます。図 新薬と既存薬との体温低下の平均値の比較p値は信頼度の強さの指標であって、効果の大きさの指標ではありません。単一のp値もしくは統計的有意性は、その結果である効果や重要性の大きさを測るものではないのです。実際に新薬Yも被験者数をもっと多くの人数で実施していたとしたら、p値は0.041よりも、もっと小さな値になるかもしれません。値が非常に小さければ、それだけで何かが証明されるわけではなく、p値は5%程度でもいいから、きちんと計画された追試がいくつか行われて、一貫して同じ結果が得られるほうが重要だというわけです。p値は目安ですので統計的には,次のようにおおまかな範囲を*印の数で示すことがあります。*  0.01≦p<0.05** 0.001≦p<0.01*** p<0.001また、p≧0.05 を有意でないという意味で n.s.(not significant)と書くこともあります。このようにp値の情報にも限界がありますので、臨床試験論文を読むときには、p値だけではなく、主要エンドポイントの効果の差に臨床的意義があるかないかも併せて確認してください。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション10 p値による仮説検定セクション11 対応のない場合の仮説検定第4回 ギモンを解決! 一問一答質問1 p値は小さければ小さいほど差がある(よく効いた)といえるのか?

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学校全体への介入、いじめの抑制に有効/Lancet

 生徒間のいじめや攻撃行動、暴力は、最も重大な公衆衛生上の精神面の問題の1つとされる。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のChris Bonell氏らは、“Learning Together”と呼ばれる学校全体への介入により、いじめに対しては小さいものの有意な効果が得られたが、攻撃行動の改善は有意ではなかったとの研究結果を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月22日号で報告した。Learning Togetherは、単なる教室ベースの介入ではなく、学校全体の方針やシステムの修正を目指す全校的な介入法である。修復的実践(restorative practice)を活用し、社会情動的スキル(social and emotional skills)を身に付けることで、生徒に学校環境の修正を図るよう促すという。3年後のいじめと攻撃行動を評価するクラスター無作為化試験 研究グループは、南東イングランドの中等学校において、3年間のLearning Togetherによる介入の経済および作業評価を目的に、クラスター無作為化試験「INCLUSIVE試験」を実施した(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 Learning Togetherは、修復的実践におけるスタッフの育成、学校活動グループの招集と活動の促進、生徒の社会情動的スキルに関する教育課程から成る。2014~17年に40の中等学校が登録され、Learning Togetherを行う群(20校)または標準教育を行う対照群(20校)に無作為に割り付けられた。ベースラインの生徒の年齢は11~12歳、フォローアップ終了時は14~15歳だった。 主要アウトカムは、36ヵ月時の自己申告によるいじめ被害および攻撃行動の経験であった。いじめはGatehouse Bullying Scale(GBS:他の生徒からのからかい、うわさ、仲間外れ、身体的脅威、実際の暴力などがあり、対面およびインターネットを介する場合が含まれる)、攻撃行動はEdinburgh Study of Youth Transitions and Crime(ESYTC)school misbehaviour subscaleを用いて評価した。費用は1人当たり58ポンド増加 40校で7,121例の生徒が登録され、ベースラインのデータは6,667例(93.6%、介入群:3,320例、対照群:3,347例)から、36ヵ月時のデータは7,154例中5,960例(83.3%)で得られた。 36ヵ月時の平均GBSいじめスコアは、介入群が0.29(SE 0.02)、対照群は0.34(SE 0.02)であり、補正平均差に有意差が認められ、介入群で良好であった(補正平均差:-0.03、95%信頼区間[CI]:-0.06~-0.001、p=0.0441、補正効果量:-0.08)。 36ヵ月時の平均ESYTCスコアは、介入群が4.04(SE 0.21)、対照群は4.33(SE 0.20)であり、両群間に有意な差はみられなかった(補正平均差:-0.13、95%CI:-0.43~0.18、p=0.4199、補正効果量:-0.03)。 24ヵ月時の平均GBSいじめスコア(p=0.1581)および平均ESYTCスコア(p=0.7206)には有意差はなかった。 費用については、介入群の生徒は対照群に比べ1人当たり58ポンド負担が大きかった。重篤な有害事象は、介入群が8件(自殺2件、自傷の可能性のある行為4件、刺殺事件2件)、対照群は7件(強姦の可能性のある行為6件、身体障害/長期の病気1件)発生した。 著者は、「学校全体の環境を修正することで生徒の健康を促進する介入は、小児および若者と密接に関連したリスクや、健康アウトカムへの取り組みとして最も実行性が高く、効果的な方法の1つとなる可能性がある」とまとめ、「このような介入に修復的実践を含めることで、若者のいじめや、攻撃性の高い集団の攻撃行動が低減される可能性がある」と指摘している。

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BVSにまだ将来性はあるのか?(解説:上田恭敬氏)-970

 BVS(Absorb bioresorbable vascular scaffolds)とDES(Xience everolimus-eluting stent)を比較した国際多施設RCTであるABSORB IV試験の結果である。1,296例がBVS群に1,308例がDES群に割り付けられ、主要評価項目を30日でのtarget lesion failure(TLF:cardiac death、target vessel myocardial infarction、ischaemia-driven target lesion revascularisation)、主要副次評価項目を1年でのTLFと狭心症症状として非劣性が検討された。 30日でのTLFは5.0% vs.3.7%(BVS vs.DES)で非劣性が証明された。1年でのTLFは7.8% vs.6.4%(BVS vs.DES)、狭心症症状は20.3% vs.20.5%(BVS vs.DES)で非劣性が証明された。1年のステント血栓症は0.7% vs.0.3%(BVS vs.DES)と有意差はなかった。 結果からは、1年までの臨床成績はBVSとDESで同等であるということになるが、Ischaemia-driven TLRやQ-wave MIの発生頻度は有意ではない(p=0.08)もののBVSでやや多い印象がある。1年で非劣性なら長期的にはBVSが勝るだろうとの期待もあるのだろうが、やや不安の残る非劣性である。 また、「至適な方法で留置されたBVS」と記載されているが、前拡張が必要で高圧での後拡張が推奨されただけで、IVUSガイドでの至適拡張が大きく結果を改善するエビデンスが出ている現在においては、この試験のBVS留置方法およびDES留置方法が至適とは言えない。イメージングガイド下に真に至適に留置されたBVSとDESの比較がどのような結果になるかは誰にもわからないが、BVS留置早期の血管内視鏡画像を見ると、黄色病変と血栓像が見られ、Cypherステントに近い印象がある。死亡例での病理所見のみならず、生体内での各種血管内イメージングの所見を合わせて解釈し、BVSの早期血栓症の発症機序を解明して適切に対応することが、BVSの将来性を評価するためにぜひ必要と思われる。

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チョコレートクッキーをあげると医学生からの講義の評価が上がる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第128回

チョコレートクッキーをあげると医学生からの講義の評価が上がる いらすとやより使用 医学部の講義というのは、試験で医学生のことを評価するだけでなく、講師が医学生にどのように評価されているかも重要です。私は大学病院の医局に入っていないので、近くの看護学校の講義に時々赴くくらいですが、「わかりやすく伝わっているかな?」とちょっと気になります。 Hessler M, et al.Availability of cookies during an academic course session affects evaluation of teaching.Med Educ. 2018;52:1064-1072.この論文は、医学部の救急の講義に対して行われたランダム化比較試験です。どのような介入を行ったかというと、118人の医学生(医学部3年生)を20グループに分けて、そのうち10グループには500gのチョコレートクッキーを提供するという、前代未聞の研究です。10グループずつ、2人の講師が講義を担当し、全員同じ内容の講義を受けました。プライマリアウトカムは38の質問から構成された講義・講師に対する評価です。すなわち、チョコレートクッキーを与えられることによって、講師に対する医学生の評価が変化するかどうかを調べたのです。チョコレートクッキーは、ドロップクッキータイプのものを選びました。カントリーマ●ムみたいなヤツですね。アレを食べながら講義を受けられるなんてうらやましい。評価が可能だったのは112人の医学生でした。解析の結果、驚くべきことに、チョコレートクッキー群は、コントロール群と比較すると有意に講師や教材に対する評価が高かったのです(いずれもp=0.001)。総合的な評価でもチョコレートクッキー群のほうが上回っていました。この論文の考察では、チョコレートクッキー群のほうで評価が高かった理由について、「チョコレートの成分が影響を与えた」という可能性が真面目に論じられています。ジョークなのか本気なのか。クリスマスの時にBMJ誌から発表されるトンデモ論文と似たような印象を受けました。この研究はいろいろリミテーションがありそうです。医学生なら、さすがにチョコレートクッキーが出てきたら「怪しいな」と思うので、恣意的にスコアを高くつけそうな気もします。また、講師も目の前でチョコレートクッキーを食べている医学生を見ているわけですから、これも影響を及ぼしそうです。まぁ、クソ真面目に論じる内容ではないのは事実です。だからこそ、このコーナーで紹介しているわけですが(笑)。

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臨床研究で患者登録増に影響を与える要素とは/BMJ

 英国・オックスフォード大学のJoanna C. Crocker氏らは、臨床試験の登録率や維持率への患者・市民参画(patient and public involvement:PPI)の影響、ならびにその影響が患者・市民参画の状況(対象患者集団、募集要件、臨床試験の介入/治療など)や特性(活性度、参画モデルなど)でどのように変化するかを調査した。システマティックレビューとメタ解析による検討の結果、とくに実際に臨床試験に参加した経験のある人が患者・市民参画に含まれている場合に、臨床試験の患者登録が改善する傾向が認められ、臨床試験における患者・市民参画の影響は大きいことが示された。著者は、「患者・市民参画に関しては、個々の状況でどのタイプが最も機能するか、費用対効果、試験計画の初期段階での影響、および維持に関する影響について評価するさらなる研究が必要である」とまとめている。BMJ誌2018年11月28日号掲載の報告。患者・市民参画の有無で臨床研究への登録率や維持率をメタ解析 研究グループは、10の電子データベース(Medline、INVOLVE Evidence Library、clinical trial registriesなど)を検索し、臨床試験への登録率や維持率に対する患者・市民参画の影響を、患者・市民参画なしまたは患者・市民参画以外の介入と比較し定量的に評価した実証研究および観察研究を特定した。患者・市民参画には、患者・市民参画と切り離せないそれ以外の要素(他の利害関係者の関与など)が加わったものも含めた。 2人の独立した研究者が、登録率および維持率、ならびに患者・市民参画の状況や特性に関するデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。ランダム効果メタ解析により、臨床試験における登録と維持に対する患者・市民参画の平均的な影響を算出。主要解析には無作為化試験のみを組み込み、副次解析として非無作為化試験を組み込んだ解析、いくつかの探索的サブグループ解析および感度解析も行った。患者・市民参画により登録率は1.16倍 26件の研究がレビューに組み込まれた(登録に関するメタ解析19件、維持に関するメタ解析5件)。臨床試験への患者・市民参画には、関与の程度、関与する人の数やタイプ、臨床試験における一連の過程のどの段階で関与するかなど、さまざまな違いが確認された。 登録に関しては、主要解析では、患者・市民参画により被験者登録の可能性が若干ではあるものの有意に増加することが示された(オッズ比[OR]:1.16、95%信頼区間[CI]および予測区間[prediction interval]:1.01~1.34)。なお、この結果には患者・市民参画ではない介入要素が影響を与えた可能性があった。また、探索的サブグループ解析では、臨床試験に実際に参加した経験のある人が関与することが、登録の改善と有意に関連した(OR:3.14 vs.1.07、p=0.02)。 一方、維持に関しては、適格試験が少なく結論は得られなかった(主要解析のOR:1.16、95%信頼区間:0.33~4.14)。

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急性期脳梗塞治療で高知県が抜群の成績を上げている理由

 発症4.5時間までのrt-PA投与、主幹動脈閉塞に対する16時間までの血栓回収療法。2017年の脳卒中診療ガイドライン改訂で、6時間以内の血栓回収療法がグレードAの推奨となり、急性期脳梗塞治療の現場は変革を迫られているが、全国各地で診療体制が十分に整っているとはいえないのが現状だ。 そんな中、全国でも際立って多い血栓回収療法治療数を誇る県は四国にある。高知県だ。「脳卒中スクランブル」体制構築、禁忌例以外は全例rt-PA 日本では2016年の人口 10 万人当たりの血栓回収療法の治療件数は全国平均で6.06件と報告されている1)。しかし、海外文献では血栓回収療法は20件/10万人/年まで増えるだろう、との試算もあり、確実に治療できる体制を整えることが急務。また、治療件数の地域格差も問題視されている。 その中で高知県の取り組みは全国的に注目されている。人口10万人当たりの専門医数はさほど多いわけではないが、高知県の人口10万人当たりの同治療件数は非常に多い。つまり治療件数の増加に、同県の診療体制そのものが大きく影響していることが容易に想像できよう。 こうした高知の急性期脳梗塞治療の中心にあるのが高知医療センター。高知にはrt-PA投与および血栓回収療法を実施できる病院は5ヵ所しかなく、同医療センター脳神経外科診療科長の太田 剛史氏が主導し、2015年1月にスタートした「脳卒中スクランブル」が“躍進”の原動力になっている2)。 「脳卒中スクランブル」とは、救急隊が現場でその患者に脳卒中の疑いがあると判断した場合、「脳卒中スクランブル」を宣言し、病院側が一斉に体制を整えるもの。いわば、救急隊と院内各部の間で合意した取り決めだ。 具体的には、救急隊から連絡を受けた救急担当医は、「脳卒中スクランブル」がかかると、すぐに脳神経外科医に連絡。担当看護師、放射線技師にもただちに情報を共有し、当該脳卒中疑い患者への対応を病院を挙げて最優先する。CT撮影、検査などを迅速に行い、1分1秒を争うrt-PA投与、血栓回収療法までの時間を可能な限り圧縮するための措置だ。 救急隊に対しても当然そうした病院側の体制を事前に説明。「脳卒中疑い」の判断をしやすくするために、チェックすべき症状などを示した搬送前に確認すべき事項を記したカードを作成し、配布して啓発した。 たった、それだけのこと?と思われるかもしれないが、「このような体制が全県規模でしっかり取れている地域はまだまだ少ないようだ」と太田氏は言う。 さらに、rt-PA投与では、禁忌以外は基本的には全例投与という独自の適応基準を採用した。「日本では、rt-PA投与の適応が厳しく考えられすぎているように思う。2013年の報告だが、当時の基準の発症3時間以内に搬送された症例でも、16%にしかrt-PAが投与されていない。しかし、海外ではすでに積極的投与が推奨されているし、自験例で検証した結果、慎重投与例に投与してリスクがとくに高まることはなかった3)」(太田氏)。 「脳卒中スクランブル」導入前後で、rt-PAを投与した患者は飛躍的に伸びた。導入前2年半では、4.5時間以内に搬送された患者の32%だったのに対し、導入後の同期間では86%に達した。救急隊の協力などで4.5時間以内の搬送数そのものも35%から41%に向上した。独自ルールで血栓回収療法を迅速実施、転帰も飛躍的に向上 血栓回収療法も「脳卒中スクランブル」導入とほぼ同時に積極的に取り組み始めた。「それ以前は血栓回収療法の有効性を示すエビデンスがなかったが、ちょうど2015年2月に米国ナッシュビルで開催された国際脳卒中学会で立て続けに有効性を示す4つのRCT(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT PRIME)が発表され、よいタイミングだった」と太田氏。 rt-PA静注療法、血栓回収療法は数分単位の遅れが転帰に大きく影響するため、施行までの時間を一刻でも短縮するために、rt-PA投与の判断ではMRIではなくCTを使用、血栓回収療法の開始までの時間もできるだけ短くなるよう、さまざまな工夫を実臨床で取り入れている。それらの結果、件数は、年間20件前後から50件へと劇的に伸び、冒頭で述べたように全国的にもトップクラスといえる病院となった。 もちろんrt-PA投与、血栓回収療法の実施件数が増えても、転帰が改善していなければ意味がない。これに関しても、きわめて良好な結果が出ている。 2012年9月から2014年12月の脳卒中スクランブル導入前と2015年1月から2017年4月の導入後の治療成績を比較したところ、退院時のmRS(modified Rankin Scale)が0または1の患者は36%から59%に増加。出血などの副作用も増えておらず、死亡率も7.0%から5.7%に、わずかだが有意に減少した。「虚血性脳卒中の6割が社会復帰できているというのは、かなり喜ばしいことだと思う」と太田氏は笑顔で語る。 高知医療センターの脳神経外科は7人全員が脳神経外科専門医であり、脳血管内治療専門医は指導医である太田氏のほかに3人。地域によって状況が違うことを考慮しても、急性期脳梗塞診療に関しては、理想に近い高いパフォーマンスを示しているといえそうだ。■参考1)Ohta T, et al.J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27:1844-1851. 2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0003/_article/-char/ja/3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0005/_article/-char/ja/

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ダパグリフロジンによる心血管イベントの抑止-RCTとリアルワールド・データとの差異(解説:吉岡成人氏)-967

オリジナルニュースCV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA(2018/11/13掲載)はじめに SGLT2阻害薬の投与によって2型糖尿病における心血管リスクが低下することが、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programの2つの大規模臨床試験で示されている。それぞれ、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジン、カナグリフロジンが用いられ、心血管イベントの既往者およびハイリスク患者において、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を総合して「主要心血管イベント」とした際に、SGLT2阻害薬を使用した患者における統計学的に有意なイベント抑制効果が確認された。さらに、副次評価項目として、アルブミン尿の進展やeGFRの低下をも抑制し、腎保護作用を示唆するデータも示された。DECLARE-TIMI58 SGLT2阻害による心血管イベントの抑制効果がクラスエフェクトであることを確認すべく、ダパグリフロジンのプラセボに対する有用性を確認すべく実施されたDECLARE-TIMI58(Dapagliflozin Effect on Cardiovascular Events-Thrombolysis in Myocardial Infarction 58)の結果が、2018年11月に米国心臓協会学術集会で公表され、NEJM誌に同時掲載された。対象となったのは1万7,160例の2型糖尿病患者で、平均年齢64歳、41%は心血管疾患の既往がある2次予防群、残りの59%は複数の心血管危険因子を有するものの心血管疾患の既往がない1次予防群である。 中央値4.2年間の追跡期間において、ダパグリフロジン群では8.8%に主要心血管イベントが発生し、プラセボ群の9.4%よりも少なかったが、統計学的には有意な差ではなかった(ハザード比:0.93、95%信頼区間:0.84~1.03)。しかし、試験開始後に追加された、心血管死または心不全による入院という複合評価項目においては、ダパグリフロジン群4.9%、プラセボ群5.8%(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.73~0.95)と有意な減少を認めた。とはいえ、個別の評価項目では、心血管死の頻度は2.9%と差がなく、心不全による入院の減少がダパグリフロジンで2.5%と少なかったこと(プラセボ群:3.3%、ハザード比:0.73、95%信頼区間:0.61~0.88)が複合評価での優位性を示したといえる。 副次評価項目としての、腎複合アウトカム(eGRFが40%以上低下して60mL/min/1.73m2となる末期腎不全の新規発症、腎疾患ないしは心血管疾患による死亡)の減少も確認されている。 有害事象としては、ダパグリフロジン投与群で、糖尿病ケトアシドーシス、性器感染症の頻度が高かった。リアルワールド・データとの差異 ダパグリフロジンを含むSGLT2阻害薬の心血管イベント抑止効果に関しては、リアルワールドでの観察研究としてCVD-REALおよびCVD-REAL 2のデータが公表され、SGLT2阻害薬の追加投与群はDPP-4阻害薬を追加した群に比較して、全死亡、心不全による入院、心筋梗塞、脳卒中のリスクを低下させると報告している。とくに、日本を含むアジア太平洋、中東、北米の6ヵ国を対象として実施したCVD-REAL 2では全死亡のリスクを49%も低下させる(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.54~0.69)ことが注目された。 RCTであるDECLARE-TIMI58の結果と、リアルワールドのデータに著しい違いがあるのはなぜであろうか? リアルワールドのデータが過大に評価される原因としてバイアスの関与が示唆されている。ひとつは、選択バイアスである。実診療の現場で、患者の予後がはかばかしくない場合に、新たな薬剤としてSGLT2阻害薬が追加されるかどうかにはバイアスが入り込むと考えられる。また、生存・死亡に関するバイアス(immortal timeバイアス)*の関与も示唆されており、SGLT2阻害薬が追加投与されるまでの期間が考慮されない場合の解析では、生存期間が過大に評価されてしまう(Suissa S. Diabetes Care. 2018;41:6-10.)。*生存・死亡に関するバイアス(immortal timeバイアス) 追跡ないしは観察中に対象者が死亡しない期間をimmortal timeという。コホート研究においては登録時から薬剤の投与が開始されるまでの期間は対象者が必ず生存している。そのため、薬剤の影響を評価するときに、immortal time を含めて解析すると、解析対象の薬剤を投与した群で生存期間を長く評価してしまうというバイアスが生じる。おわりに EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programと違い、DECLARE-TIMI58において、ダパグリフロジンの投与で主要心血管イベントが統計学的に有意な減少を示さなかったのは、対象患者における心血管イベントの既往などの差異によるのかもしれない。とはいえ、SGLT2阻害薬の心不全に対する優位な効果は薬剤のクラスエフェクトとして十分に評価される。しかし、リアルワールドのデータとの乖離が大きいことを勘案すると、リアルワールドのデータを安易に評価せず、RCTを適切に解釈し、臨床の現場に生かす姿勢が重要なのではないかと思われる。

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第9回 ケーキを選ぶならどっち?【実践型!食事指導スライド】

第9回 ケーキを選ぶならどっち?医療者向けワンポイント解説イベントごとが重なる時期には、ケーキのような高カロリーな嗜好品を食べる機会が増えてくる方も多くいます。日常の中で、ケーキを食べる習慣がついたり、食べる回数が増えたりすることも問題ですが、「食べてはいけない」と伝えるのではなく、実際のカロリーや糖質、脂質を意識してもらうことや、食べる時のポイントを伝えましょう。患者さんの気づきへつながります。代表的なケーキをカロリーが高い順番に並べると、以下のようになります。(1)チョコレートケーキ        502kcal(2)ミルクレープ           453kcal(3)レアチーズケーキ         418kcal(4)モンブラン            386kcal(5)ショートケーキ          349kcal(6)ジャンボプリン          312kcal(7)チーズケーキ(スフレ風)     254kcal(8)ジャンボシュークリーム      251kcal(参考:コージーコーナーお客様相談室 株式会社エビータ電話取材)ケーキは、砂糖、脂肪(クリームやバターなど)、小麦粉などが主原料のため、どれも高カロリーという認識を持ってもらうことが必要です。また、「チョコレートケーキや、ミルクレープなどの500kcal前後のケーキは、1個で1食分に近い(または超える)カロリーがある」、「食べる時には前後の食事でカロリーを調整するように心がけると良い」ことをお伝えします。さらに、悩んだ場合の選び方を考えてみましょう。◎ミルクレープVS.ショートケーキミルクレープは、薄いクレープ生地とクリームなので、カロリーが比較的低いように思われがちですが、実は、クレープ生地とクリームは高密度に重なっているため高カロリーです。それに比べ、ショートケーキは空気を含む軽いスポンジと生クリームで構成されるため、見た目よりも低カロリーです。そして、この8つのケーキの中では唯一、生のいちごが入るため、少量ですがビタミンやミネラルを摂取することができます。ケーキを選ぶときは、生のフルーツが入っているものを選ぶこともオススメの選択肢の1つです。よって、この2つの比較でカロリーが高いのは、ミルクレープです。◎チョコレートケーキVS.モンブランチョコレートケーキは、チョコレートの濃度が上がるほど、高カロリーになります。モンブランも高カロリーですが、大きさの割に、空気を含み隙間が多いので、カロリーは低めになります。よって、この2つの比較でカロリーが高いのは、チョコレートケーキです。ただし、チョコレートケーキの中でも、「チョコレートの濃度が低め」、「スポンジやクリームで構成されている」ことを基準に選ぶと、比較的カロリーが抑えられます。また、モンブランは生クリームよりも、栗や芋、砂糖、スポンジ生地で構成されるため、脂質よりも糖質の割合がぐっと高くなるので、糖質を気にしている方は、注意が必要です。今回ご紹介する8つのケーキの中でも糖質が一番多いのは、モンブランです。◎レアチーズケーキVS.スフレタイプのチーズケーキチーズケーキを選ぶ場合、主原料であるクリームチーズの濃度に注目します。チーズが多く、重さがありそうなもの、密度が高いものの方が高カロリーなので、ベイクドチーズケーキや濃厚なレアチーズケーキには注意が必要です。反対に、スフレタイプのものは空気の層を多く含むため、見た目よりも低カロリーです。よって、この2つの比較でカロリーが高いのは、レアチーズケーキです。◎プリンVS.シュークリームプリンとシュークリームで悩む場合、やはり重さと密度を比較します。牛乳、卵、砂糖、生クリームなどで構成されるプリンは、重さとともに、しっかりとした密度があります。シュークリームは、空気を含んだシュー生地にクリームが注入されているため、見た目の大きさの割には、空気の層があります。つまり、見た目の重さからも、カロリーが高いのはプリンです。高カロリーであるケーキを選ぶときの手軽なポイントは、「見た目の重さ」、「空気の層(密度)があるか」です。見た目が軽そうで密度が低いものの方が、低カロリーである確率が高くなります。「ケーキを食べたいけど、どれにしよう」と悩む患者さんには、「大きさよりも、見た目が軽そうで密度が低そうな方を選びましょう」とお伝えしてみてはいかがでしょうか?(すべてが当てはまるとは限りませんが、多くがこの判断に当てはまります。)なんとなく食べてしまうよりも、選択肢を考えてもらうことが、間食への意識づけにもつながります。

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リナグリプチン、高リスク2型DMでのCV・腎アウトカムは/JAMA

 心血管および腎リスクが高い2型糖尿病の成人患者では、通常治療と選択的DPP-4阻害薬リナグリプチンの併用療法は、主要な心血管イベントのリスクがプラセボに対し非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCARMELINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2018年11月9日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクの増加と関連する。これまでに実施された3つのDPP-4阻害薬の臨床試験では、心血管への安全性が示されているが、これらの試験に含まれる高い心血管リスクおよび慢性腎臓病を有する患者の数は限定的だという。心血管・腎アウトカムへの影響を評価するプラセボ対照非劣性試験 研究グループは、心血管および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において、心血管および腎アウトカムに及ぼすリナグリプチンの影響の評価を目的に、プラセボ対照無作為化非劣性試験を行った(Boehringer IngelheimとEli Lillyの助成による)。 対象は、HbA1cが6.5~10.0%で、高い心血管リスク(冠動脈疾患、脳卒中、末梢血管疾患の既往、微量・顕性アルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>30mg/g])および腎リスク(推定糸球体濾過量[eGFR]が45~75mL/分/1.73m2かつUACR>200mg/g、またはUACRにかかわらずeGFRが15~45mL/分/1.73m2)を有する2型糖尿病患者であった。末期腎不全(ESRD)患者は除外された。 被験者は、通常治療に加え、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。臨床的必要性および参加施設のガイドラインに基づき、他の血糖降下薬およびインスリンの使用は可能とされた。 主要心血管アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合の初回発生までの期間とした。非劣性の判定基準は、リナグリプチンのプラセボに対するハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)の上限値が1.3未満の場合とした。副次腎アウトカムは、腎不全による死亡、ESRD、eGFRのベースラインから40%以上の低下の持続とした。 2013年8月~2016年8月の期間に、27ヵ国605施設に6,991例が登録され、6,979例(リナグリプチン群3,494例、プラセボ群3,485例)が1回以上の試験薬の投与を受けた。このうち98.7%が試験を完遂した。主要心血管アウトカム:12.4% vs.12.1%、副次腎アウトカム:9.4% vs.8.8% ベースラインの全体の平均年齢は65.9歳、eGFRは54.6mL/分/1.73m2、UACR>30mg/gの患者の割合は80.1%であった。57%が心血管疾患を有し、74%が腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2あるいはUACR>300mg/gCr)であり、33%が心血管疾患と腎臓病の双方に罹患しており、15.2%はeGFR<30mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値2.2年における主要心血管アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が12.4%(434/3,494例)、プラセボ群は12.1%(420/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.13(95%CI:-0.63~0.90)であり、リナグリプチン群はプラセボ群に対し非劣性であった(HR:1.02、95%CI:0.89~1.17、非劣性のp<0.001)。優越性には、統計学的に有意な差はなかった(p=0.74)。 副次腎アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が9.4%(327/3,494例)、プラセボ群は8.8%(306/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.22(95%CI:-0.52~0.97)であり、優越性に関して統計学的に有意な差は認めなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.22、p=0.62)。 有害事象の発生率は、リナグリプチン群が77.2%(2,697/3,494例)、プラセボ群は78.1%(2,723/3,485例)であった。低血糖エピソードが1回以上発現した患者の割合は、それぞれ29.7%(1,036例)、29.4%(1,024例)であり、急性膵炎は0.3%(9例)、0.1%(5例)に認められた。 著者は、「本試験全体の高い主要心血管イベントの発生率(5.63/100人年)は、これまでの血糖降下薬の心血管アウトカムに関する検討の中でも最もリスクの高いコホートの1つを登録したこの試験が、2型糖尿病治療薬の心血管安全性の評価に関するFDAの必要条件に従って実施され、腎障害への臨床的影響を明らかにしたことを示すものである」としている。

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双極性障害に併存する不安障害の治療

 不安障害は、双極性障害患者において最もよく認められる併存疾患である。米国・パデュー大学のCarol A. Ott氏は、不安障害の治療に関して、現時点での情報をまとめた。The Mental Health Clinician誌2018年11月1日号の報告。不安障害への対処として気分安定薬による治療が確立されるべき 不安障害の治療に関する主なまとめは以下のとおり。・併存する不安障害の診断は、双極性障害の症状重症度に有意な影響を及ぼし、自殺念慮のリスクを上昇させ、心理社会的機能やQOLを低下させる可能性がある。・CANMAT(Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments)タスクフォースは、2012年に治療法の推奨事項を公表しており、併用治療薬として、特定の抗けいれん気分安定薬と第2世代抗精神病薬を選択肢として挙げている。・セロトニン作動性抗うつ薬は、ほとんどの不安障害の治療に対して第1選択薬とされているが、双極性障害患者では問題となることがある。・双極性障害での抗うつ薬の使用は、躁転リスクや気分の潜在的な不安定化と関連している。・不安障害を併発した双極性障害患者および不安障害患者における不安障害への対処として、他の薬剤を併用する前に、気分安定薬による治療が確立されるべきである。・ベンゾジアゼピンは、CANMATタスクフォースの推奨では、第3選択療法とされているが、不安障害を併発した双極性障害患者、PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者、物質使用障害患者では避けるべきである。・現在の臨床研究に基づき、ベンゾジアゼピン使用は、すべての患者において可能な限り避けなければならない。・対人関係療法、認知行動療法、リラクゼーション療法は、不安症状(とくに感情的体験)の治療に対し有効である。■関連記事双極性障害と全般性不安障害は高頻度に合併双極性障害患者の約半数が不安障害を併存双極性障害に対するベンゾジアゼピンの使用開始と長期使用

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Harmony Outcomes試験はGLP-1受容体作動薬のポジショニングに調和をもたらしたのか?(解説:住谷哲氏)-965

 GLP-1受容体作動薬を用いた心血管アウトカム試験(CVOTs)はこれまでにELIXA(リキシセナチド)、LEADER(リラグルチド)、SUSTAIN-6(セマグルチド)、そしてEXSCEL(weeklyエキセナチド)の4試験が報告されているので本試験が5試験目になる。これまでの試験の結果についてはすでにメタ解析が報告されており1)、おそらく週1回製剤albiglutideによる本試験を加えた5試験のメタ解析の結果が近日中に報告されると思われる。来年には同じく週1回製剤であるデュラグルチドのREWINDの結果が報告される予定であり、すべての試験を合わせると参加患者は合計50,000人以上になり1つのデータベースを形成すると言ってよい。 従来の4試験のメタ解析の結果では、3-point MACEはHR 0.90(0.82~0.99)、心血管死HR 0.87(0.79~0.96)、心筋梗塞(非致死性および致死性)HR 0.94(0.86~1.03)、脳卒中(非致死性および致死性)HR 0.87(0.75~1.00)、総死亡HR 0.88(0.81~0.95)であり、3-point MACE、心血管死および総死亡には有意な減少を認めた。しかし心筋梗塞および脳卒中には有意な減少を認めなかった。一方、本試験では3-point MACE HR 0.78(0.68~0.90)および心筋梗塞(非致死性および致死性)HR 0.75(0.61~0.90)には有意な減少を認めたが、その他のアウトカムには有意な減少を認めなかった。この結果の相違が薬剤の違いによるのか、対象患者の背景の相違によるのか、試験期間の相違によるのか、または単なる偶然によるのかは明らかではない。 本試験の観察期間の中央値はわずかに1.6年である。図2にある3-point MACEのKaplan-Meier曲線を見ると試験開始12ヵ月後にすでに差が開いており、これは主として心筋梗塞の減少に由来していると思われる。本試験も他のCVOTsと同様にevent-drivenであり、試験開始前のpower analysisでは611の3-point MACEが発生した時点で試験は終了予定で、2.2~3.2年が必要と想定されていた。しかし予想以上の速度で3-point MACE(とくに非致死性心筋梗塞)が発生したため、そのままでは1.1年程度で試験が終了することになり十分な安全情報が得られない可能性があることが明らかとなった。そこで途中でプロトコルを変更して最低1.5年はフォローすることになったようである。 本試験も含めたGLP-1受容体作動薬の5試験の中で有意に総死亡を減らしたのはLEADERのリラグルチドのみである。しかしEXSCELにおいては、実は総死亡のHR 0.86(0.77~0.97、p=0.016)であったが、hierarchical statistical testing planに基づいて有意な減少とはされなかった。LEADERの観察期間は5試験の中で最も長く中央値3.8年であり、EXSCELはそれに次いで3.2年であった。ELIXAおよびSUSTAIN-6はともに2.1年である。あくまで推測であるが、GLP-1受容体作動薬による総死亡減少を期待するには少なくとも3年以上の長期間が必要なのかもしれない。 先日ADA/EASDが発表した高血糖管理アルゴリズム2018では、動脈硬化性心血管病(ASCVD)を有する2次予防患者においてはメトホルミンに併用する薬剤としてGLP-1受容体作動薬を推奨している。4試験のメタ解析の結果から考えて、これは妥当な推奨だといえよう。本試験の結果は、少なくともこの推奨に対して不協和音discordを奏でるものではないだろう。

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サルコペニア嚥下障害は誤嚥性肺炎などの入院が引き金に

 元気だったはずの高齢者が、入院後に低栄養で寝たきりになるのはなぜか。2018年11月10、11日の2日間、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)が「栄養の視点からみたサルコペニアの摂食嚥下障害対策」について講演した。誤嚥性肺炎で救急搬送されサルコペニアの嚥下障害になる “嚥下障害があり、食べられないから低栄養になる”という流れはごく普通である。若林氏は、「低栄養があると嚥下障害を来すことがあり、これはリハビリテーションだけでは改善することができない。つまり、栄養改善が要」と、本来とは逆ともとれる低栄養のメカニズムについて解説した。 若林氏によると、一見、元気な老人でも実はサルコペニアを発症している可能性があるという。たとえば、喉のフレイル(嚥下障害ではないが正常より衰えている状態)が原因となり、誤嚥性肺炎を発症。その後、救急搬送され寝たきりや嚥下障害になる場合がある。この原因について同氏は、「急性期病院で誤嚥性肺炎を発症すると“根拠のない安静”や“禁食”がオーダされやすい」と、嚥下、腸管や心臓機能などの適切な評価がなされていない点を指摘。さらに、「病院内での不適切な安静臥床と栄養管理や肺炎の急性炎症による筋肉の分解でサルコペニアを生じる結果、これまで外出や食事が可能であった方でも寝たきりや嚥下障害となる」と、入院後の管理体制を問題視した。サルコペニアによる嚥下障害の定義とは 同氏らを含む4学会(日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会)は、サルコペニアによる嚥下障害を立証し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言するために、ポジションペーパーを作成している1)。 この合同学会において、サルコペニアによる嚥下障害を以下のように定義している。1)全身の筋肉と嚥下関連筋の両者にサルコペニアを認める2)脳卒中など明らかな摂食嚥下障害の原因疾患が存在し、その疾患による摂食嚥下障害と考えられる場合は除外する3)神経筋疾患による筋肉量減少や筋力低下、そして摂食嚥下障害はサルコペニアの摂食嚥下障害には含めない ポジションペーパーに採用された研究の一部には、今年発表された基礎研究も含まれる。これによると、誤嚥性肺炎では舌や横隔膜で筋分解が亢進し、筋萎縮が生じることが示された2)。これについて同氏は、「人間でも同様のメカニズムにおいて呼吸筋、全身の骨格筋、嚥下筋の筋萎縮が引き起こされ、最終的に寝たきりに至るのでは」と、研究結果を踏まえた人体への影響を説明。さらに、同氏が行った嚥下関連筋のレジスタンストレーニングに関するRCT3)を示し、摂食嚥下障害の原因がサルコペニアの場合、栄養改善を行いながらレジスタンストレーニングを行うと改善しやすい傾向であることを解説した。急性期病院患者のサルコペニア嚥下障害の有病割合は32% 急性期病院の実態として、嚥下リハ患者のサルコペニア有病割合は49%を占め、患者の2人に1人がサルコペニアであることが判明している4)。さらに、患者全体ではサルコペニア嚥下障害の有病割合は32%と、3人に1人はサルコペニアの嚥下障害を有し、急性期病院で起こりがちな、“とりあえず安静”、“とりあえず禁食”、“とりあえず水電解質輸液のみ”によって引き起こされている。これを『医原性サルコペニア』と呼び、同氏は「サルコペニアによる嚥下障害の患者は、他の嚥下障害よりも予後が悪いため予防が重要」と予防の大切さを訴えた5)。サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防・治療へ攻めの栄養管理 今後の展望として、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防、治療への介入研究、管理栄養士の積極的な介入を必要が必要であると述べ、それに有用な“攻めの栄養管理“を以下のように提唱した。・(痩せている)実体重の場合:エネルギー必要量=エネルギー消費量±蓄積量(200~750kcal/day)・理想体重の場合:35kcal/kg/day 最後に同氏は、「サルコペニアは地域での予防、軽微な状態で発見し介入することが重要」と述べ、リハ栄養診断やゴール設定など、リハ栄養における5つのステップ5)の活用を求めた。■参考1)Fujishima I, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int, in press2)Komatsu R, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018;9:643-653.3)Wakabayashi H, et al. Nutrition. 2018;48:111-116.4)Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging. 2018 Oct 16.5) Nagano A, et al. Rehabilitation nutrition for iatrogenic sarcopenia and sarcopenic dysphagia. J Nutr Health Aging, in press■関連記事初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を「食べる」ことは高齢者には大問題

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脳梗塞、70歳未満なら180分で再開通できれば9割転帰良好

 急性期脳梗塞に対する血行再建治療では、若年で再開通までの時間が短いほど転帰がよく、とりわけ70歳未満ならば180分未満で再開通できれば、9割で良好な転帰が得られる。大阪大学医学部附属病院の藤堂 謙一氏らは、こうした結果をRESCUE Japan Registry2のデータを用いた解析で明らかにした。2018年11月22日~24日、仙台で開催された日本脳神経血管内治療学会で発表した。 解析は、2014年10月から2017年1月に46施設で登録された急性脳主幹動脈閉塞2,399例のうち、緊急血行再建治療を実施しTICI(Thrombolysis In Cerebral Infarction)スコア2b以上の有効再開通を獲得した1,094例を対象に行われた。70歳未満、70歳以上80歳未満、80歳以上の各年齢層において、最終確認から再開通までの時間カテゴリごと(180分未満、180分以上240分未満、240分以上)の転帰を比較。3ヵ月後のmRS (Modified Rankin Scale)2以下を転帰良好とし、性別、発症前mRSスコア、NIHSSスコア、ASPECTS(またはDWI-ASPECTS、pc-ASPECTS)、心房細動の有無、搬入時血圧・血糖値で調整し、転帰良好に対する再開通遅延(1カテゴリ遅延)のオッズ比を算出した。 各年齢層における最終確認-再開通時間180分未満/180分以上240分未満/240分以上の転帰良好の頻度は、70歳未満では90%/68%/55%(p<0.01)、70歳以上80歳未満では65%/48%/39%(p<0.01)、80歳以上では41%/34%/25%(p<0.05)。いずれの年齢層も再開通までの時間が短いほど、転帰は有意に良好だった。遅延による転帰良好の減少幅は、若い年齢層ほど大きい傾向であったが、有意ではなかった(交互作用のp=0.11)。 また、最終確認-再開通遅延(1カテゴリ遅延)のオッズ比は、70歳未満0.35(0.23~0.53)、70歳以上80歳未満0.48(0.34~0.67)、80歳以上0.68(0.49~0.94)だった。 「いずれの年齢層でも再開通時間短縮による転帰改善を確認できた。若年層は短時間で再開通できれば、高率で良好な転帰を獲得できるが、遅延するほど、転帰良好の割合の減少幅が大きくなり、時間短縮の重みがより大きいといえる」と藤堂氏は話している。

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HPV陽性中咽頭がん、セツキシマブvs.標準レジメン/Lancet

 低リスクHPV陽性中咽頭がんに対して、放射線療法+EGFR阻害薬セツキシマブは、標準レジメンの放射線療法+シスプラチンと比較して毒性低下のベネフィットは示されず、腫瘍コントロールに関しては重大な損失をもたらすことが示された。英国・バーミンガム大学のHisham Mehanna氏らによる第III相の多施設共同非盲検無作為化試験「De-ESCALaTE HPV試験」の結果で、Lancet誌オンライン版2018年11月15日号で発表された。HPV陽性中咽頭がんの発生は急速に増大しており、とくに若年成人を急襲している。セツキシマブは、標準治療のシスプラチンの毒性を低下しde-escalationな放射線併用療法を可能にするものとして提案されたが、この戦略の有効性に関して無作為化試験に基づくエビデンスはなかった。3ヵ国32治療センターで被験者を集めて無作為化試験 De-ESCALaTE HPV試験は、アイルランド、オランダ、英国の頭頸部治療センター32ヵ所で行われた。対象者は、18歳以上で低リスクHPV陽性中咽頭がん(非喫煙者もしくは生涯喫煙が10 pack-year未満)の患者。 適格患者は臨床担当医によって集められ、放射線療法(35回照射で計70Gy)に加えて、シスプラチン静脈内投与(100mg/m2を放射線照射日1、22、43日に投与)、またはセツキシマブ静脈内投与(初回400mg/m2投与後、7週ごとに250mg/m2投与)を受けるよう1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、治療終了後24ヵ月時点で評価したすべて(急性および遅発性)の重篤(Grade3~5)毒性イベントで、intention-to-treat集団およびper-protocol集団で解析・評価した。標準レジメンを用いるべき 2012年11月12日~2016年10月1日に、334例の患者が集められた(シスプラチン群166例、セツキシマブ群168例)。 主要評価項目の発生について、群間で有意な差はなかった。患者当たりの平均イベント件数は、シスプラチン群4.8件(95%信頼区間[CI]:4.2~5.4)、セツキシマブ群4.8件(4.2~5.4)であった(p=0.98)。24ヵ月時点で、全グレードの毒性イベントについても群間で有意な差はなかった。患者当たりの平均イベント件数は、シスプラチン群29.2件(27.3~31.0)、セツキシマブ群30.1件(28.3~31.9)であった(p=0.49)。 一方で、2年時点の全生存率(OS)については有意差が認められ、シスプラチン群97.5 vs.セツキシマブ群89.4%であった(ハザード比[HR]:5.0[95%CI:1.7~14.7]、p=0.001)。また、2年再発率にも有意な差があった(6.0 vs.16.1%、HR:3.4[1.6~7.2]、p=0.0007)。 結果を踏まえて著者は、「シスプラチンに忍容性がある低リスクHPV陽性中咽頭がん患者に対しては、標準レジメンの放射線療法+シスプラチンを用いるべきである」とまとめている。

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EPAとアスピリン、単独/併用の大腸腺腫予防効果は?/Lancet

 オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)もアスピリンも、大腸腺腫を有する患者割合の低下と関連していなかった。英国・リーズ大学のMark A. Hull氏らが、EPAとアスピリンの単独または併用投与の大腸腺腫予防効果を検証した、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「seAFOod Polyp Prevention trial」の結果を報告した。EPAとアスピリンはともに、大腸がんの化学的予防に関するproof of concept試験で、有効性と優れた安全性プロファイルが示されていた。Lancet誌オンライン版2018年11月19日号掲載の報告。EPAとアスピリン、単独/併用投与による有効性を腺腫検出率で評価 研究グループは、英国の大腸がんスクリーニングプログラム(Bowel Cancer Screening Programme:BCSP)を実施している内視鏡部門53施設において、大腸内視鏡検査で高リスク(BCSP:腺腫が3つ以上で少なくとも1つは直径10mm以上、あるいはいずれも直径10mm未満だが腺腫が5つ以上)と特定された55~73歳の患者を対象に試験を行った。 被験者を、1)EPA-遊離脂肪酸2g/日投与(EPA)群、2)アスピリン300mg/日投与(アスピリン)群、3)EPA+アスピリン併用投与群または4)プラセボ群に、施設を層化因子とし置換ブロック法を用いて1対1対1対1の割合で無作為に割り付け(二重盲検)、それぞれ12ヵ月間投与した。 主要評価項目は、1年時点の大腸内視鏡検査における腺腫検出率(ADR:腺腫を有する患者の割合)で、観察可能な追跡調査データのあるすべての患者を対象とし、いわゆるat-the-margins法を用い施設とベースライン時の内視鏡再施行で補正して解析した。 安全性解析集団は、1回以上の治験薬投与を受けたすべての患者とした。EPAとアスピリンの単独/併用投与、いずれもADRは低下せず 2011年11月11日~2016年6月10日に、計709例が無作為化された(プラセボ群176例、EPA群179例、アスピリン群177例、EPA+アスピリン併用群177例)。 主要評価項目の解析対象は、プラセボ群163例(93%)、EPA群153例(85%)、アスピリン群163例(92%)、併用群161例(91%)で、ADRはそれぞれ61%(100/163例)、63%(97/153例)、61%(100/163例)、61%(98/161例)であった。 EPA群のリスク比(95%信頼区間[CI])は0.98(0.87~1.12)、リスク差(95%CI)は-0.9%(-8.8~6.9)(p=0.81)、アスピリン群ではそれぞれ0.99(0.87~1.12)、-0.6%(-8.5~7.2)(p=0.88)であり、どちらも有効性は認められなかった。 有害事象発現率は、プラセボ群44%(78/176例)、EPA群46%(82/177例)、アスピリン群39%(68/174例)、併用群45%(76/170)で、EPAおよびアスピリンの忍容性は良好であった。ただし、消化器系有害事象の発現件数はEPA群で増加した(EPA群146件、プラセボ群85件、アスピリン群86件、併用群68件)。また、上部消化管出血イベントは6例(EPA群2例、アスピリン群3例、プラセボ群1例)報告された。 一方で、両薬を受けた参加者1人当たりの平均腺腫数は少なく、大腸腺腫負荷に関する化学的予防効果は認められた。また、EPAとアスピリンの、腺腫サブタイプや発生部位に依存的な特異性は、従前の観察と一致しており、著者は、「今後、腺腫の種類や発生部位別の腺腫数に関する効果の検討が必要である」と述べている。さらに、アスピリンは大腸腺腫の再発を減らし大腸がんリスクを軽減するとの既存データを踏まえて、「EPAとアスピリンの最適使用は、大腸腺腫再発への的確な医学的アプローチにおいて必要なものかもしれない」と述べ、両薬に関する報告は、長期的大腸がんリスクにおける臨床的に意義のある減少に変わっていく可能性を示唆した。[12月3日 記事の一部を修正いたしました]

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