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米国成人、過去20年間の血圧コントロールの状況は?/JAMA

 米国成人集団を代表するよう補正された一連の横断的調査の結果、血圧コントロール良好者の割合は、1999/2000年~2007/08年にかけては増加していたが、2007/08年~2013/14年は有意な変化はみられず、2013/14年以降は減少傾向にあることが明らかにされた。血圧コントロールは心血管疾患を減少することから、米国・アラバマ大学のPaul Muntner氏らは、過去20年間(1999/2000年~2017/18年)の高血圧の米国成人におけるコントロール状況の変化を調べる検討を行った。JAMA誌オンライン版2020年9月9日号掲載の報告。「全米国民健康・栄養調査」の10回分のデータを解析 検討は、米国成人を代表するよう重み付けされた「全米国民健康・栄養調査」の逐次横断研究の、1999/2000年~2017/18年の10回分のデータを用いて行われた。 同データから、高血圧症(収縮期140mmHg以上、拡張期90mmHg以上と定義)を有するか、降圧薬の使用歴のある18歳以上1万8,262例を包含して解析を行った。最終データの収集は2018年。 平均血圧を3回測定にて算出し、血圧コントロールの主要アウトカムは、収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満と定義した。 解析に包含されたのは5万1,761例であった。平均(SD)年齢は48(19)歳、2万5,939例(50.1%)が女性、人種による内訳は、白人43.2%、黒人21.6%、アジア系5.3%、ヒスパニック系26.1%であった。2013/14年以降、血圧コントロール良好者の比率は低下の傾向 高血圧と定義された成人1万8,262例において、血圧コントロール良好者の年齢補正後推定割合は、1999/2000年の31.8%(95%信頼区間[CI]:26.9~36.7)から2007/08年は48.5%(45.5~51.5)へと増加していた(傾向のp<0.001)。その後は安定的に推移し、2013/14年は53.8%(48.7~59.0)であったが(傾向のp=0.14)、以降は低下し、2017/18年は43.7%(40.2~47.2)であった(傾向のp=0.003)。 2015~18年の血圧コントロール良好者の割合を年齢群別に見ると、18~44歳群と比較して、45~64歳群はより多い傾向が(49.7% vs.36.7%、多変量補正後有病率比:1.18[95%CI:1.02~1.37])、75歳以上群はより少ないことが推定された(37.3% vs.36.7%、0.81[0.65~0.97])。人種別に見ると、非ヒスパニック黒人は、白人と比べて血圧コントロール良好者の割合が低い傾向が高いと推定された(41.5% vs.48.2%、0.88[0.81~0.96])。 血圧コントロール良好者の割合は、民間保険(48.2%)、メディケア(53.4%)、メディケア・メディケイド以外の政府系健康保険(43.2%)の加入者で多く、一方で健康保険未加入者(24.2%)は少ない傾向がみられた(多変量補正後有病率比はそれぞれ1.40[95%CI:1.08~1.80]、1.47[1.15~1.89]、1.36[1.04~1.76])。 また、かかりつけ医療施設(usual health care facility)を持つ集団のほうが、持たない集団と比べて血圧コントロール良好者の割合が多い傾向がみられた(48.4% vs.26.5%、多変量補正後有病率比:1.48[95%CI:1.13~1.94])。また、過去1年間に医療サービスを利用した群のほうが、利用しなかった群と比べて血圧コントロール良好者の割合が多い傾向がみられた(49.1% vs.8.0%、5.23[2.88~9.49])。

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新規抗体薬物複合体SG、TN乳がんのPFSとOSを延長(ASCENT)/ESMO2020

 転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対する新規の抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab-govitecan (SG)の国際第III相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・マサチューセッツ総合病院がんセンターのAditya Bardia氏から発表された。 このSGは、多くの固形腫瘍の細胞表面に発現するタンパクTrop-2を標的とするADCで、複数の治療歴を有するmTNBCに対し、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を有意に改善することが報告された。・対象:mTNBCに対する化学療法剤治療を2ライン以上(中央値4ライン)受けている患者529例で、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬の既治療例も含まれる。・試験群:SG 10mg/kgをday1、8に投与し、1週休薬の3週間隔での点滴投与(SG群)・対照群:主治医選択の単剤化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビン)(CT群)・評価項目:[主要評価項目]脳転移のない症例を対象にした盲検下中央判定によるPFS[副次評価項目]脳転移がある症例を含む全症例のPFS、脳転移のない症例を対象にしたOSと奏効率、安全性、奏効期間など なお、本試験はデータ安全性モニタリング委員会の勧告により、早期の有効中止となっている。 主な結果は以下のとおり。・SG群には、脳転移あり32例を含む267例が、CT群には脳転移あり29例を含む262例が登録された。・脳転移なし集団におけるPFS中央値は、SG群5.6ヵ月、CT群1.7ヵ月で、HRが0.41(95%CI:0.32~0.52、p<0.0001)と、有意にSG群で良好であった。・OS中央値は、SG群で12.1ヵ月、CT群6.7ヵ月、HRが0.48(95%CI:0.38~0.59、p<0.0001)と、同様に有意にSG群で良好であった。・奏効率は、SG群35%、CT群5%と、有意にSG群で高かった(p<0.0001)。・SG群の安全性プロファイルは過去の報告と同様であり、忍容性は良好であった。・Grade3以上の主な治療関連有害事象は、好中球減少症がSG群で51%、CT群で33%、下痢が10% vs.1%未満、発熱性好中球減少症が6% vs.2%であった。・SG群では、治療中止となった有害事象の発現率は、4.7%であり(CT群は5.4%)、重度の心血管系毒性はなく、治療関連死もなかった。CT群では治療関連死が1例に発生した。 Bardia氏は「SGは既治療のmTNBC患者に対する新たな標準治療として考慮すべきである」と結んだ。

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alpelisib+フルベストラント、PIK3CA陽性進行乳がんに対するOS最終結果(SOLAR-1)/ESMO2020

 ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)、PIK3CA変異陽性の進行乳がんに対する、α特異的PI3K阻害薬alpelisibとフルベストラントの併用療法は、統計学的有意差には達しなかったものの、フルベストラント単剤療法と比較し全生存期間(OS)を7.9ヵ月延長した。フランス・Institut Gustave RoussyのFabrice Andre氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で第III相SOLAR-1試験のOS最終結果を発表した。 HR+/HER2-乳がん患者の約40%がPIK3CA変異を有し、予後不良と関連する。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、プラセボ群5.7ヵ月に対しalpelisib+フルベストラント併用群11.0ヵ月と有意な改善を示し(ハザード比[HR]:0.65、 95%信頼区間[CI]:0.50~0.85、片側検定p=0.00065)、米国FDA は2019年5月、欧州委員会は2020年7月に同併用療法を承認している。・対象:ホルモン療法中/後に再発/進行した、HR+/HER2-乳がん患者(閉経後女性および男性、再発後の化学療法歴なし、ECOG PS≦1)をPIK3CA変異陽性および陰性コホートに分類・試験群:PIK3CA変異陽性患者を以下の2群に1対1の割合で無作為に割り付けalpelisib併用群:28日を1サイクルとし、alpelisib(300mg/日)、フルベストラント(1サイクル目のみ500mgを1日目と15日目、以降1日目)投与 169例プラセボ群:28日を1サイクルとし、プラセボ+フルベストラント(1サイクル目のみ500mgを1日目と15日目、以降1日目)投与 172例・評価項目:[主要評価項目]PIK3CA陽性コホートにおけるPFS[主要副次評価項目]PIK3CA陽性コホートにおけるOS[副次評価項目]客観的奏効率(ORR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・本OS解析のデータカットオフ日(2020年4月23日)時点で、死亡は181例、治療継続中の症例は併用群21例(12.4%)、プラセボ群7例(4.1%)であった。・追跡期間中央値30.8ヵ月におけるOS中央値は併用群39.3ヵ月 vs. プラセボ群31.4ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.64~1.15、片側検定p=0.15)で、事前に設定された境界値(片側検定p≦0.0161)を満たさなかった。・OSのサブグループ解析の結果、肺および/または肝転移を有する患者(84例vs.86例)におけるOS中央値は併用群37.2ヵ月 vs. プラセボ群22.8ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.46~1.00)。血漿ctDNAによるPIK3CA陽性患者(92例vs.94例)におけるOS中央値は併用群34.4ヵ月 vs. プラセボ群25.2ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.51~1.08)であった。・化学療法開始までの期間の中央値は、併用群23.3ヵ月 vs.プラセボ群14.8ヵ月で(HR:0.72、 95%CI:0.54~0.95)、併用群で8.5ヵ月長かった。・PFS2(無作為化から、全死因死亡あるいは試験治療中止後の最初の抗腫瘍療法における疾患進行までの期間)は、併用群22.8ヵ月 vs.プラセボ群18.2ヵ月(HR:0.80、 95%CI:0.62~1.03)であった。・安全性についての長期追跡結果(追跡期間中央値42.4ヵ月)は、以前の報告と一致していた。頻度の高いGrade3/4の有害事象(AE)は、高血糖(併用群37.0% vs.プラセボ群<1%)、皮疹(9.9% vs.<1%)、下痢(7.0% vs.<1%)であった。

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ダロルタミド、転移のない去勢抵抗性前立腺がんの生存率改善/NEJM

 転移のない去勢抵抗性前立腺がん患者の治療において、ダロルタミドはプラセボに比べ、3年生存率が有意に高く、有害事象の発現はほぼ同程度であることが、フランス・Institut Gustave RoussyのKarim Fizazi氏らが行った「ARAMIS試験」の最終解析で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年9月10日号に掲載された。ダロルタミドは、独自の化学構造を持つアンドロゲン受容体阻害薬で、本試験の主解析の結果(無転移生存期間中央値:ダロルタミド群40.4ヵ月、プラセボ群18.4ヵ月、ハザード比[HR]:0.41、95%信頼区間[CI]:0.34~0.50、p<0.0001)に基づき、転移のない去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、すでに米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。主解析の時点では、全生存(OS)を解析するためのデータは不十分であり、試験期間を延長してフォローアップが継続されていた。OSを含む副次エンドポイントを評価 本研究は、転移のない去勢抵抗性前立腺がん患者の治療におけるダロルタミドの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2014年9月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Bayer HealthCareとOrion Pharmaの助成による)。 対象は、前立腺特異抗原(PSA)≧2ng/mL、PSA倍加時間≦10ヵ月、全身状態(ECOG PS)0または1の転移のない去勢抵抗性前立腺がんの患者であった。 被験者は、ダロルタミド(600mg)を1日2回、食事とともに経口投与する群、またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。この間、アンドロゲン除去療法は継続された。 主要エンドポイント(無転移生存期間)の解析結果が肯定的であることが明らかとなった時点で、治療割り付けの盲検を中止し、プラセボ群の患者は非盲検下ダロルタミド投与へのクロスオーバーが許可された。 今回の事前に規定された最終解析では、OSを含む副次エンドポイントの評価が行われた。死亡リスク31%低下、他の副次エンドポイントにも有意差 1,509例が登録され、ダロルタミド群に955例、プラセボ群には554例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は29.0ヵ月だった。 データを非盲検とした時点でプラセボの投与を受けていた170例は、全例がダロルタミドにクロスオーバーされた。非盲検となる前にプラセボを中止していた137例は、ダロルタミド以外の1種類以上の延命治療を受けていた。 3年OS率はダロルタミド群が83%(95%CI:80~86)、プラセボ群は77%(72~81)であった。死亡リスクは、ダロルタミド群がプラセボ群に比べて31%低く、有意差が認められた(死亡のHR:0.69、95%CI:0.53~0.88、p=0.003)。 ダロルタミド群では、他の副次エンドポイントである症候性骨関連事象発現までの期間(HR:0.48、95%CI:0.29~0.82、p=0.005)、細胞傷害性化学療法開始までの期間(0.58、0.44~0.76、p<0.001)、疼痛進行までの期間(0.65、0.53~0.79、p<0.001)についても、有意な改善効果がみられた。 有害事象は、二重盲検期にはダロルタミド群85.7%、プラセボ群79.2%で発現した。有害事象による治療中止の割合は、主解析(ダロルタミド群8.9%、プラセボ群8.7%)と変わらず、二重盲検期の重篤な有害事象やGrade5の有害事象の割合も主解析と一致していた。ダロルタミド群では、疲労感が13.2%で報告され、二重盲検期に10%を超えた唯一の有害事象であった。発現率が5%を超えたその他の有害事象は、いずれも両群でほぼ同等の頻度であった。 治療曝露量で補正したとくに注意すべき有害事象(転倒、痙攣発作、高血圧、抑うつ/気分障害など)のほとんどは、両群間に頻度の差がないか、あってもわずかであった。 著者は、「この試験は規模が大きく、とくにフォローアップ期間を延長して報告したOSの解析において、頑健な統計解析が可能となった」としている。

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論文執筆した若手医師には超特急対応で応援だ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第28回

第28回 論文執筆した若手医師には超特急対応で応援だ!初めて何とか英語で書いた論文原稿を、指導してくださる先輩医師に手渡した時の緊張感は今も忘れられません。論文といっても症例報告です。興味深い経過をとった担当例があり、生意気にも症例報告したいと志願したのです。先輩医師もサポートを快諾してくれました。1日に1行書くことを自らへの課題として執筆しました。英語を書くのは大変な苦労を伴います。「なるべく早く目を通しておくから」そう言って受け取ってくれました。その10分後に廊下で出会ったときには、もう修正を完了した原稿が返ってくるのではないかとドキドキしている自分がいました。その翌日の朝です。「少し手直ししておいたからね」「ありがとうございます」見事に赤ペンが入り、ことごとく修正されています。自分の書いた英語らしきものは、英語に変身していました。論旨も明確になり、何より半分近くに短くなっています。疑問点やコメントも記されています。何と、24時間もかからずに返ってきたのです。そんな短時間で完了する修正作業でないことは明白です。昨夜は遅くまで、もしかすると徹夜で読みこんで修正してくださったのかもしれません。ありがたいことです。自分もこのスピード感に応える以外にありません。翌朝には、再修正版の原稿を手渡しました。何度かのやりとりの後に、完成版ができあがり投稿です。メールが普及する前の時代ですから、国際郵便での「submission:投稿」です。ちゃんと届くいてれよ! 待つこと1ヵ月半、「revise:修正」の返事でした。この返事が届くまでの時間は、無限にも感じられました。「reject:却下」でないだけでも感謝すべき祝報なのですが、当時の自分は生意気にも、修正すべきという編集部からの返答に憤っていました。若さゆえと恥ずかしく思い起こされます。ここからの修正作業にも先輩の力添えをいただき、見事に「accept:採択」され、「publication:出版」されました。紙媒体として届いた英文の別刷を見た時の感激は言いようのないものでした。「Author:著者」としてローマ字で書かれた自分の名前が輝いているようでした。人生の紆余曲折を経て、不思議なことに若手医師から論文原稿を手渡される立場になりました。手渡しではなくメールですが、その若手の心情は痛いほど伝わってきます。自分が受けた先輩からの御恩を、次世代の医師に返さなければなりません。最優先事項として手直し作業に着手します。24時間以内は無理でも、数日内には修正したものを返却したいところです。とくに初めての英語論文の執筆者には、超特急のレスポンスが肝要です。ここで待たせるようでは、育つべき人材も芽が出ません。待たせていけません。人間は期待して待つときには時間を長く感じます。英文の医学雑誌に投稿しようとすると、要項には「impact factor」だけでなく、必ず「submission to first decision」つまり、投稿から最初の掲載可否の判断までの平均の日数が記載されています。投稿してから返事が来るまでの時間は長く感じるのです。待つことが苦手なのは洋の東西を問わないようです。世界中の医学雑誌の中でも頂点に位置するNEJM誌は、「reject:却下」の場合には1週間以内で返答があります。たとえダメでも短時間で決着するのならば挑戦してみようと、良い投稿が集中する仕組みです。膨大な投稿量の論文を読みこむ編集部の医学的な判断力は賞賛に値します。誰でも待たされることにはイライラします。病院を受診する際にイライラしながら待っている人は大勢います。部下からの報告を待ってイライラしている人もいます。論文、それも英語論文を執筆しようという者には、イライラ感を持つことが無いように応援してあげたいものです。イライラせずに待つことができる素晴らしい生き物が猫様です。いつも慌てず泰然自若としています。野生時代の猫は獲物を確実に捕まえられるように、機会をうかがってじっと待っていたそうです。飼い猫は、飼い主を待っていれば期待に応えてくれることを知っています。遊んでほしい、甘えたい、キャットフードが欲しい、いろいろの期待で一杯です。上目遣いにいじらしい姿で待つ猫には、つい優しくしてしまいます。では、猫に邪魔される前に、若手の英語論文の修正作業に取り掛かることにします。

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早期乳がん/DCISへの寡分割照射による乳房硬結リスク(DBCG HYPO試験)/JCO

 Danish Breast Cancer Group(DBCG)では、1982年以来、早期乳がんに対する放射線療法の標準レジメンは50Gy/25回である。今回、デンマーク・Aarhus University HospitalのBirgitte V. Offersen氏らは、リンパ節転移陰性乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する放射線療法において、40Gy/15回の寡分割照射が標準の50Gy/25回に比べて3年の乳房硬結が増加しないかどうかを検討するDBCG HYPO試験(無作為化第III相試験)を実施した。その結果、乳房硬結は増加せず、9年局所領域再発リスクは低いことが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年9月10日号に掲載。 本試験の対象は、リンパ節転移陰性乳がんまたはDCISで乳房温存手術を受けた40歳超の1,882例で、50Gy/25回または40Gy/15回の放射線療法に無作為に割り付けた。主要評価項目は、局所領域再発に関して非劣性と仮定して、3年のGrade2〜3の乳房硬結とした。 主な結果は以下のとおり。・2009〜14年に、8施設から1,854例(50 Gy群:937例、40 Gy群:917例)が登録された(リンパ節転移陰性乳がん:1,608例、DCIS:246例)。・3年乳房硬結率は、50Gy群で11.8%(95%CI:9.7〜14.1%)、40Gy群で9.0%(95%CI:7.2〜11.1%)で、硬結リスクは増加しなかった(リスク差:-2.7%、95%CI:-5.6〜0.2%、p=0.07)。・毛細血管拡張、色素脱失、瘢痕、乳房浮腫、痛みの発現率は低く、美容上のアウトカムと乳房外観における患者満足度はどちらの群も同様に高いか、40Gy群で50Gy群より良かった。・9年局所領域再発リスクは、50Gy群で3.3%(95%CI:2.0〜5.0%)、40Gy群で3.0%(95%CI:1.9〜4.5%)であった(リスク差:-0.3%、95%CI:-2.3〜1.7%)。・9年全生存率は、50Gy群で93.4%(95%CI:91.1〜95.1%)、40Gy群で93.4%(95%CI:91.0〜95.2%)と同等であった。・放射線治療による心臓および肺疾患はまれであり、分割療法による影響はなかった。

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高齢入院患者のせん妄予防に対する薬理学的介入~メタ解析

 入院中の高齢患者に対するせん妄予防への薬理学的介入の効果について、スペイン・Canarian Foundation Institute of Health Research of Canary IslandsのBeatriz Leon-Salas氏らがメタ解析を実施し、包括的な評価を行った。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2020年9~10月号の報告。 2019年3月までに公表された、65歳以上の入院患者を対象としたランダム化比較試験を、MEDLINE、EMBASE、WOS、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの電子データベースよりシステマティックに検索した。事前に定義した基準を用いて研究を抽出し、それらの方法論的な質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・各データベースより抽出された1,855件から重複を削除し、1,250件の評価を行った。・メタ解析には、以下の25件のランダム化比較研究が含まれた。 ●抗てんかん薬(1件、697例) ●抗炎症薬(2件、615例) ●抗精神病薬(4件、1,193例) ●コリンエステラーゼ阻害薬(2件、87例) ●催眠鎮静薬(13件、2,909例) ●オピオイド(1件、52例) ●向精神薬・認知機能改善薬(1件、81例) ●抑肝散(1件、186例)・プラセボや通常ケアと比較し、せん妄の発生率を減少させた薬剤は、以下のとおりであった。 ●オランザピン(RR:0.36、95%CI:0.24~0.52、k=1、400例) ●リバスチグミン(RR:0.36、95%CI:0.15~0.87、k=1、62例) ●デクスメデトミジン(RR:0.52、95%CI:0.38~0.71、I2=55%、k=6、2,084例) ●ラメルテオン(RR:0.09、95%CI:0.01~0.64、k=1、65例)・デクスメデトミジンのみが、せん妄期間の短縮(0.70日短縮)、抗精神病薬の使用量低下(48%)と関連が認められた。・死亡率、有害事象、尿路感染症、術後合併症への影響は認められなかった。 著者らは「本メタ解析では、デクスメデトミジンが入院中の高齢患者におけるせん妄の発生率減少と期間短縮に有用であることが示唆された。各研究において、ラメルテオン、オランザピン、リバスチグミンの効果が報告されているが、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分である」としている。

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経口可逆的DPP-1阻害薬brensocatibが気管支拡張症の増悪を抑制/NEJM

 気管支拡張症患者において、brensocatib投与による好中球セリンプロテアーゼ活性の低下は気管支拡張症の臨床アウトカムを改善することが、英国・Ninewells Hospital and Medical SchoolのJames D. Chalmers氏らが行った、投与期間24週の第II相無作為化プラセボ対照用量範囲試験で示された。気管支拡張症患者は、好中球性炎症に関連すると考えられる増悪を頻繁に起こす。好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼの活性と数量は、ベースラインで気管支拡張症患者の喀痰中で増加し、さらに増悪によって増大することが知られる。brensocatib(INS1007)は、開発中の経口可逆的ジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬で、DPP-1は好中球セリンプロテアーゼの活性に関与する酵素である。NEJM誌オンライン版2020年9月7日号掲載の報告。brensocatib治療群とプラセボ投与群で初回増悪までの期間を評価 試験は14ヵ国116施設で行われ、被験者は、前年に少なくとも2回の増悪を呈した18~85歳の気管支拡張症患者であった。 研究グループは被験者を、プラセボ投与群、brensocatib 10mg群、brensocatib 25mg群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回、24週間投与した。 初回増悪までの期間(主要エンドポイント)、増悪頻度(副次エンドポイント)、喀痰中の好中球エラスターゼ活性、および安全性を評価した。brensocatib治療群は初回増悪までの期間を有意に延長した 256例が無作為化を受け、87例がプラセボを、82例がbrensocatib 10mgを、87例が同25 mgをそれぞれ投与された。 初回増悪までの期間の25パーセンタイル値は、プラセボ群67日、brensocatib 10mg群134日、同25mg群96日であった。brensocatib治療群は、プラセボ群と比較して初回増悪までの期間が有意に延長した(10mg群対プラセボのp=0.03、25mg群対プラセボのp=0.04)。 brensocatib群とプラセボ群を比較した増悪に関する補正後ハザード比は、10mg群で0.58(95%信頼区間[CI]:0.35~0.95、p=0.03)、25mg群で0.62(95%CI:0.38~0.99、p=0.046)であった。プラセボ群と比較した発生率比は、10mg群0.64(95%CI:0.42~0.98、p=0.04)、25mg群0.75(95%CI:0.50~1.13、p=0.17)であった。 24週の治療期間中、brensocatib群はいずれの用量群とも喀痰中の好中球エラスターゼ活性のベースラインからの低下が認められた。なお、とくに注目される歯および皮膚の有害事象の発生は、プラセボと比べてbrensocatibの両用量群で高かった。

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第26回 悪玉細菌を減らす常在細菌ロゼオモナスの塗布でアトピー性皮膚炎が改善

プラセボ群なしの非盲検第I/II相試験の結果、健康なヒトの皮膚に備わっていることが多いグラム陰性細菌・Roseomonas mucosa(以下、ロゼオモナス)を塗布した軽度~重度のアトピー性皮膚炎小児20人中18人が病状指標EASIの半減(EASI-50)を達成しました1~3)。中等~重度の小児に限ると9人全員(100%)がEASI-50に至りました。Science Translational Medicine誌に掲載された今回の総ざらい報告に先立ち、2年前の2018年には途中結果が報告されています4,5)。2年前の報告では、健康なヒトの皮膚から集めたロゼオモナスを塗布した9~14歳の小児5人と成人10人のアトピー性皮膚炎改善効果が認められました。また、ロゼオモナスはアトピー性皮膚炎の進展に寄与するらしい黄色ブドウ球菌を減らしました。その後小児15人がさらに加わり、3~16歳の小児全部で20人にロゼオモナスが投与された最終結果が今回報告され、2018年の発表と同様に病状は改善し、効果は投与を終えてから長ければ8ヵ月後の観察時点まで持続しました。皮膚の黄色ブドウ球菌の減少も確認されました。また、ロゼオモナスが作る脂質がどうやらアトピー性皮膚炎治療効果に寄与していることが新たに判明しています。ロゼオモナス治療の権利は米国カリフォルニア州拠点のForte Biosciences社に付与され、同社はFB-401という名称でその治療の開発を進めています。間もなく今月中には軽~中等度のアトピー性皮膚炎を患う2歳以上の小児や成人が参加するプラセボ対照第II相試験がいよいよ始まります1)。ロゼオモナスの効果はアトピー性皮膚炎のみに限定されるわけではなさそうで、他の皮膚疾患へのFB-401の試験もやがて実施されるかもしれません。たとえば、顔の皮膚の炎症を特徴とする酒さの患者の皮膚のロゼオモナスもアトピー性皮膚炎患者と同様に乏しいことが最近の試験6)で確認されており、FB-401を試してみる価値がありそうです。アトピー性皮膚炎の治療効果を担いうる細菌は他にもあり、スタフィロコッカス ホミニス(S. homini)はロゼオモナスと同様にアトピー性皮膚炎患者皮膚の黄色ブドウ球菌を強力に抑制しうることが確認されています7)。それらの有益と思しき細菌を減らす恐れがある環境要因の検討によると、スキンケア製品におなじみの防腐剤パラベンは健康な皮膚のロゼオモナスを増えにくくします4)。また、保湿剤はアトピー性皮膚炎に使うことが一般的に推奨されていますが、それらの幾つかも健康な皮膚のロゼオモナスの増殖をより阻害しました。それらの製品はアトピー性皮膚炎の悪化を招いたりロゼオモナスなどの微生物塗布治療の効果を妨げてしまうかもしれません5)。実際、パラベンとアトピー性皮膚炎の関連が東京の国立成育医療研究センターの小児患者138人を調べた研究で示されています8)。ほとんどの小児(85%;117/138人)はパラベン含有製品を使っており、それら製品の使用とアトピー性皮膚炎が関連し、アトピー性皮膚炎小児の尿中にはパラベンがより多く含まれていました。これまでの前臨床実験や臨床試験成績を総括するに黄色ブドウ球菌を減らすロゼオモナスやS. hominiなどの常在細菌によるアトピー性皮膚炎治療の検討の価値は大いにあり9)、Forte社が今月中に始めるプラセボ対照試験はアトピー性皮膚炎の細菌治療の力量を示すひとまずの試金石となるでしょう。参考1)Forte Biosciences, Inc. Announces Full Publication of Phase 1/2 Data in Science Translational Medicine / BUSINESS WIRE2)Probiotic skin therapy improves eczema in children, NIH study suggests / Eurekalert3)Myles IA,et al. Sci Transl Med. 2020 Sep 9;12 [Epub ahead of print]4)Myles IA,et al.JCI Insight. 2018 May 3;3. [Epub ahead of print]5)Bacteria Therapy for Eczema Shows Promise in NIH Study6)Rainer BM, et al. Am J Clin Dermatol. 2020 Feb;21:139-147. 7)Nakatsuji T, et al. Sci Transl Med. 2017 Feb 22;9: [Epub ahead of print]8)Mitsui-Iwama M, et al. Asia Pac Allergy. 2019 Jan 21;9:e5. [Epub ahead of print]9)Paller AS, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019 Jan;143:26-35.

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精神病性うつ病患者の再発に対するベンゾジアゼピンの影響

 ベンゾジアゼピンの長期投与は、依存、転倒、認知障害、死亡リスクを含む有害事象が懸念され、不安以外の症状に対する有効性のエビデンスが欠如していることから、うつ病治療には推奨されていない。しかし、多くのうつ病患者において、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用が行われている。東京医科歯科大学の塩飽 裕紀氏らは、ベンゾジアゼピン使用がうつ病患者の再発または再燃リスクを低下させるか調査し、リスク低下の患者の特徴について検討を行った。Journal of Clinical Medicine誌2020年6月21日号の報告。 対象は、入院中に寛解を達成したうつ病患者108例。うつ病の再発および再燃を定量化するため、カプラン・マイヤー生存分析を用いた。主な結果は以下のとおり。・対象患者のうち、26例は重度の精神病性うつ病と診断されていた。・すべての患者をまとめて分析したところ、ベンゾジアゼピン使用患者と非使用患者の再発または再燃の割合に、有意な差は認められなかった。・精神病性うつ病患者の再発率は、ベンゾジアゼピン使用患者で21.2%、非使用患者で75.0%であった(log rank p=0.0040)。・カプラン・マイヤー生存分析では、効果は用量依存的であることが示唆された。 著者らは「ベンゾジアゼピンの補助療法は、重度の精神病性うつ病患者の再発または再燃の減少に有用である可能性がある」としている。

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第45回 右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第45回:右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)「右脚ブロック」と「右室肥大(RVH)」って心電図の波形が“似てるよね”という話を前回しました。基本は“似て非なる”両者ですが、この2つが合併した時に心電図はどうなると思いますか? そもそも「右脚ブロック」かつ「右室肥大」という診断を正しく下せるのでしょうか。ある程度勉強が進んだ人なら一度は気になるこの“難問”につき、Dr.ヒロが解説します。最終結論は“感動”か、はたまた“絶望”かー。では、レクチャーのスタートです!【問題1】53歳、男性。増悪傾向を示す労作時息切れの精査目的にて他院より紹介受診した。心電図所見に関して、最も適切なものを一つ選べ。(図1)53歳、男性の心電図画像を拡大する1)完全右脚ブロック2)右室肥大3)両方とも該当しない4)完全右脚ブロックかつ右室肥大5)その他解答はこちら4)解説はこちらさて、第42回からお送りしてきた右心系の“チラ見”、とくに「右室肥大」に関するレクチャーは今回で完結です。普通の教科書などではここまで詳しく説明されることはないと思うので、『もうお腹一杯~(泣)』という方もいるでしょう。このラスト1回を頑張りましょう。さて、この問題をどう考えますか? なんか選択肢がややこしいでしょ。前回に「右脚ブロック」と「右室肥大」の心電図は似ていてややこしいという話をしましたが、(図1)はどちらに見えますか? パッと見、QRS幅はかなりワイド(wide)ですし、波形的にはただの「完全右脚ブロック」のように見えます。でも、「右脚ブロック」と「右室肥大」は“似たもの同士”なので、注意が必要です。では、この心電図に「右室肥大」 所見があるかどうかを調べましょう。前々回示した「右室肥大」の診断フローチャートの項目をチェックしますか? いいえ、残念ながら、QRS幅が広い時点であのフローチャートを使っちゃダメなんです。フローチャートに「個別に条件を設定」という注意書きを入れたので、気になっていた方もおられるのではと思っています。「右脚ブロックの心電図で、右室肥大の合併をどう見抜くか?」これが今回のメインテーマです。以下のレクチャーを読む前に完璧な解答ができるのならば、既にあなたは心電図に関してセミ・プロレベルです! ただ、多くの方は悩むと予想されるので、話を続けましょう。“「右脚ブロック」はここでもクセモノ”まずは、普段通りに心電図(図1)を読みましょう。“いつも通り”が一番大事なんです(第1回)。心拍数は、最後の“見切れ”たQRS波を0.5個と数えると81/分であり(“新・検脈法”)、P波の様子から「洞調律」であることも間違いありません(“イチニエフの法則”)。ニサンエフのP波がツンッと立ってて、「右房拡大」かなぁ…「異常Q波」はなくって、次は“スパイク・チェック”で、「向き」(電気軸)は、Iが下向き、IIが上向きですね。トントン法Neoを使えば「+100°」と求まるので、「右軸偏位」で良さそうです。QRS幅はかなりワイドで、胸部誘導でV1が「rSR'型」なので、「完全右脚ブロック」と予想することができます(第44回)。残りのST部分を読めば、II、III、aVF、V1~V5誘導で「ST低下」と「陰性T波」を考えますね。そうそう、素晴らしい。皆さん、だいぶ読み“型”(第1回)が板についてきたのではないでしょうか? 拾った所見のうち「右房拡大」「右軸偏位」「完全右脚ブロック」がそろった場合、“右つながり”で「右室肥大」が気になるという方はセンス良しです。とそんな時、ほかに絶対確認すべきマスト所見がありましたよね? そう、V1誘導の「高いR波」です(第43回)。具体的な数値は「7mm」、それを確認しようとしても最初の「r波」か2番目の「R'波」のどちらで“7mm基準”を確認すべきか悩んでしまうのではないでしょうか? ここでエイヤッと割り切って後半成分の「R'波」でチェックするのは間違いです。以前、「R>S(V1)」も「高いR波」の表現の代わりになることをお伝えしましたが、これも2つのうちどちらのR(r)波を使うのかとか、後半のR波なら大概「R>S」になるので、ホントにそれでいいのかって思ってしまうのではないでしょうか。そして、まだまだ参考にすべき補助所見がありました。ただ、ストレイン型の「(2次性)ST-T変化」やR peak timeの遅れも「右脚ブロック」ではほぼ全例で満たされてしまいます。また、「時計回転」ともとれる「R<S(V5)」所見も、軸偏位を合併した場合などで高率に見られます。つまり、「右脚ブロック」なだけで、「右室肥大」の条件をほどよく満たしてしまい、通常の診断条件が“あり”というのが「右室肥大」の肯定所見とは見なせず、結局のところ「wide QRS」な時点、とくにそれが「右脚ブロック」な時点で、例のフローチャートは当てにならないのです。先般示したフローチャートに用いた診断項目は主にMyer1)や“そこのライオン”で有名な、Sokolowら2)が指摘した内容ですが、これらは2つ目の「R'波」のある「右脚ブロック」系統には適応できないのです。この点は知っておくべきです。■ポイント■「右脚ブロック」の場合は通常の「右室肥大」の診断基準は使えない!では逆に、“完全“にしても“不完全”にしても「右脚ブロック」も立派に右心系負荷を示唆するサインの一つですから、ほかの所見と併せて「右室肥大」と言っちゃいましょうか? いいえ、これも誤りです。そうするとエセ右室肥大が世の中に溢れてしまうことになります。「異常Q波」の時にもクセモノぶりを発揮していた「右脚ブロック」ですが(第32回)、ここでもまたやってくれたわけです。“絶望の淵に光はさすのか?”ここまで聞いただけで気分が暗くなりますが、現実はさらに厄介な状況があるんです。心電図の世界では“似たもの同士”な「右脚ブロック」と「右室肥大」ですが、現実問題として意外と両者の病態がバッティングするのです。これはどういうことを意味するのでしょうか? 頻度的には「右脚ブロック」のほうが多いため、普通だと「右脚ブロック」と診断した時点で安心してしまいます。そのため、まさかそこに「右室肥大」所見が“重なっている”かなど考えが及ばず、心電図の発する“RVHサイン”がうまく届かない状況が生まれてしまうんです。「右脚ブロック」が存在する場合、「右室肥大」の診断は不可能なのでしょうか? 結論だけ言うと、不可能だというのが真実に近いかもしれません。実際、主に学童を対象とした日本循環器学会ガイドライン3)には、「WPW症候群」とともに、「右脚ブロック」がある場合には「右室肥大」の診断は困難と銘記されています。ガイドラインにまで記載されてしまうと、さすがに萎えますね。ただ、やはり、人一倍、十、いや百倍、心電図を愛するボクからすると、“モッタイナイ”と感じてしまいます。ただでさえ分の悪い「肥大」の心電図診断に、またひとつ“Impossible”を作ることに抵抗感があるのかもしれません。この苦難を何とか乗り越えたい…非才のボクでは解決できない問題には“先人の知恵”をお借りしましょう。前回示したフローチャートも参考にしつつ、「右脚ブロック」の“霧”を晴らすため、「右脚ブロックに合併した右室肥大」に関して集められた代表的な知見を以下に示します。■ポイント:右脚ブロック“専用”の「右室肥大」基準■【Milnor基準】QRS幅:0.12秒(120ミリ秒[ms])以下でいずれかを満たす場合QRS電気軸:+110~+270°*1R(またはR')/S >1(V1誘導)かつ R(またはR')>5mm(0.5mV)【Barker & Valencia基準】R'V1>10mm(不完全右脚ブロック)R'V1>15mm(完全右脚ブロック)*1:原著の表現(QRS軸:+110~±180°または-90~±180°)がわかりにくいため改変して示した。意味的には「+110°以上の右軸偏位」または「高度の(右)軸偏位」を意味する。皆さんの中には、「えっ? また外人の名前? そんなのもう覚えられないよー」という方も多いと思うので、「誰の」基準かは覚えなくとも、「どんな」条件なのかを優先して覚えてください。“見るな!と言いたくなるMilnor基準”一つ目はMilnorらによる診断基準です。これは、“よりシンプルさ”を追求した研究報告で、基準中に「R'」という文字が含まれており、われわれの期待をふくらませます。…ところが、その期待はもろくも崩れ去ります。なぜなら、前提条件に「QRS duration less than 0.12 second」と表記されているからです。“使えない”とまでは言いませんが、これを適用するとしても「不完全右脚ブロック」のほうだけ。しかも、この基準は「右脚ブロック」例だともっぱら“overdiagnosis”するとされています4)。そんな訳でDr.ヒロ的には、もう“見るな!”の基準です(笑)。もちろん、今回の心電図には適用しちゃダメですよ。バッチリ「QRS幅≧0.12秒」ですから。でも、「右脚ブロック」つながりなので一応は紹介しました。“もう一つも実はイマイチ-Barker-Valencia基準”次に紹介するのは、“バッグにオレンジ”基準。これは勝手にボクが決めたゴロ合わせで、オレンジはバレンシア産(笑)。これはBarkerとValenciaらによる基準で、文献として確認できるのは「不完全右脚ブロック」を扱った1949年のものです5)。そして、実は本題でもある「完全右脚ブロック」のほうは、かなり入念に調べたのですが、原典が書籍でした6)。もし読者の方で原著論文などをご存じであれば、教えてもらえると嬉しいです。この基準は実にシンプルです。「右脚ブロック」のV1-QRS波形には「rsR'(rSR')」や「RR'」などがありますが、通常「r(R)<R'」でなくてはならないという暗黙のルールがあるので、後半の“第2波”(R'波)の高さだけで勝負する方式です。「不完全」でも「完全」でも、右脚ブロックになると、もともと「R'波」は“盛られる”傾向にあるため、通常の「7mm」ではなく、厳しめの基準で判定しましょうという考えなんだと思います。「10mm」も「15mm」も共に切りの良い数字ではありますが、やや記憶力の衰えたボクの場合、「不完全~」なら1.5倍、「完全~」なら2倍しただけの基準だと考えるようにしています。もちろん“7mm基準”をベースとしてね。早速、心電図(図1)で適用してみましょう。V1誘導に着目し、心拍ごとにやや差はありますが、小ぶりな2拍目、ないし5拍目で見ても「R'>15mm」を満たします。つまり、やはり「右室肥大」の合併を疑うべきということになり、問題の正解は4)が該当します。実際、この中年男性は、その後に「肺動脈性肺高血圧症」と診断され、心エコーでも顕著な「右室肥大」が確認されました。ですから、心電図にもやはり“暗号”が隠れていたわけです。しかし、このBarker-Valencia基準が完璧かと言うと、基本的に「右脚ブロック」と「R'波高」だけで判定するので、完璧とは言いがたいようです4)。次の心電図(図2)はどうでしょう?(図2)71歳、女性、肺高血圧症の心電図画像を拡大する71歳、女性で、肺高血圧症の診断で加療されています。「右軸偏位」(+110°)と「時計回転」(RV5<SV5)の所見はあるようですが、ワイドなQRS波で「完全右脚ブロック」に典型的な波形ですが、肝心なV1誘導ではR'波は15mmには足りません。そのためBarker-Valencia基準を適用すると、「右室肥大」ではないと判定されてしまいます。ただ、実際にはバッチリ「右室肥大」が心エコーその他で確認されていることから、この考え方は通じないということです。ちなみに“お隣”のV2誘導だと基準に合致しますが、原著にその記載はありません。さらに心電図(図2)をよく見ると、「148cm、41kg」と表示されていますが、欧米人対象の研究で得られた知見を、人種や体格差の明らかな日本人にそのまま適応していいのかという当然に疑問にぶち当たります。また、逆に“健康的な”「右脚ブロック」の一部に「右室肥大」の“濡れ衣”を着せてしまうことが少なくないというのも“バッグにオレンジ”基準の弱点でもあります。どちらかと言うと、後天性よりは先天性の心疾患の方がよく当てはまるようです。最近では、小児期に修復手術が行われた方を成人患者として迎え入れるケースも増えていると思います。そうした方の多くは今回に似た心電図であり、その場合は「右室肥大」の合併を正確に診断できる確率が高くなるわけです。“Dr.ヒロの所感と全体まとめ”上記2つ以外にも、血まなこになって教科書やガイドライン、そして文献を探し、最終的には「完全右脚ブロック」の心電図の場合、完璧な「右室肥大」診断基準はない、という考えに着地しました…。先述のガイドラインも、こうした流れを汲んでのコメントなのかもしれません。しかし、ボクは普段どうしているのか、それを最後に述べたいと思います。■ポイント:Dr.ヒロ流!右脚ブロックと右室肥大の合併病態に対する考え方■1)「右脚ブロック」を見たら一瞬でも「右室肥大」の合併を考慮2)Barker-Valencia基準:「R'>10 or 15mm」をチェック3)「右軸偏位」(できれば「+110°」以上)と「右房拡大」を確認4)臨床背景を確認する―「右室肥大」を呈する病態か?「右脚ブロック」と「右室肥大」の合併を見落とさないためには、「右脚ブロック」を見た時、ほんの一瞬でも“似たもの”な「右室肥大」に思いをはせること。そして“バッグにオレンジ”基準を割と大事にしつつ、QRS電気軸と右房の情報を取りにいきます。ズルいのかもしれませんが、最後に病歴やその他の検査所見などを総合して考えていくようにします。これがDr.ヒロ流心電図の判読法。一つの心電図だけでは勝負せず、“+α情報”を確認する意識をつけることで心電図の能力は一段と磨かれると信じているからです。ちなみに、「完全左脚ブロック」の場合には「右室肥大」と診断するための“決定打”はなく、よく言われるのは「左脚(ブロック)なのに右軸(偏位)」というものだと思います。ただ、これもかなり“ドンブリ”的な見方ですので、 あまり執着せずに、「完全左脚ブロック」なら細かな波形診断は諦めるスタンスでも良いかもしれません。現実的な話では、心電図は決して「心室肥大」の診断に長けているわけではありません。その上で、「右脚」にせよ「左脚」にせよ、QRS幅が広くなる「心室内伝導障害」では、ただでさえ不得手な「右室肥大」の診断精度をより低下させてしまうという現実を知っておくべきだと思います。今回の内容はまあまあハイレベルな内容ですので、非専門医の先生ですと必ずしも要求されない知識かもしれませんが、知っておくと診断の幅がだいぶ広がると思います。それでは、4回にわたってだいぶ詳しく扱った「右室肥大」の話題はここで終了。次回はこれまでの知識を総動員させたクイズを出しますよ。それではまた!Take-home Message「右脚ブロック」の存在は「右室肥大」の心電図診断の感度・特異度をさらに低下させる!“後半成分”(R’波)がより“強調”された「右脚ブロック」では「右室肥大」の合併を疑え―“不完全”は1.5倍、“完全”なら2倍1)Myers GB, et al. Am Heart J. 1948;35:1-40.2)Sokolow M, Lyon P. Am Heart J. 1949;38:273-294.3)日本循環器学会/日本小児循環器学会編. 2016年版学校心臓検診のガイドライン.4)Booth RW, et al. Circulation. 1958;18:169-176.5)Barker JM, Valencia F. Am Heart J. 1949;38:376-406.6)Barker JM. The Unipolar Electrocardiogram. 1st ed. Appleton-Century-Crofts;1952.【古都のこと~天ヶ瀬ダム】この連載では寺社について扱うことが多いですが、今回はダムに目を向け、天ヶ瀬ダム(宇治市)について話しましょう。平等院から宇治川沿いに車で登って10分ほどで到着します。改めて京都が山に囲まれていることを実感できます。1964年に竣工した多目的ドーム型アーチ式コンクリートダム*1で、規模は堤高73m・堤頂254m・堤体積16万4,000m3。総貯水量2,628万m3は東京ドーム20杯分です。休憩がてら下流域を散策していると、歓声が上がり、振り向くとコンジット(放流管)ゲートから放流です! その迫力の眺めにしばらく圧倒され、その後、なぜかスッキリとした気分になったのでした。当日はかないませんでしたが、次回来るときは必ず「天端(てんば)」(堤頂通路)に上がってアーチの曲線美に酔いしれようと思います。現在は「宇治川の渓谷と調和する放水設備」の再開発工事中*2ですが、皆さんも“大人の社会見学”をぜひ!*1:ダムカードに記載された「目的記号」は“FWP”。洪水調整(F:flood control)、上水道(W:water supply)、発電(P:power generation)。*2:2022年2月末まで。

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日本人双極I型うつ病に対するルラシドン単剤療法~二重盲検プラセボ対照試験

 主に米国と欧州で実施されたこれまでの研究において、双極I型うつ病に対するルラシドン(20~120mg/日)の有効性および安全性が報告されている。理化学研究所 脳神経科学研究センターの加藤 忠史氏らは、日本人を含む多様な民族的背景を有する患者において、双極I型うつ病に対するルラシドン単剤療法の有効性および安全性を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年8月22日号の報告。 対象患者を、ルラシドン20~60mg/日群(182例)、同80~120mg/日群(169例)、プラセボ群(171例)にランダムに割り付け、6週間の二重盲検治療を実施した。主要評価項目は、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)のベースラインから6週目までの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・ルラシドン20~60mg/日群で、プラセボと比較し、ベースラインから6週目までのMADRS合計スコアの有意な減少が認められた。しかし、ルラシドン80~120mg/日群では、有意な差は認められなかった。 ●ルラシドン20~60mg/日群:-13.6(調整後p=0.007、エフェクトサイズ:0.33) ●同80~120mg/日群:-12.6(調整後p=0.057、エフェクトサイズ:0.22) ●プラセボ群:-10.6・ルラシドン20~60mg/日群では、MADRS治療反応率、機能障害、不安症状の改善も認められた。・ルラシドン治療による体重増加、脂質、血糖コントロール値に対する影響は、最小限にとどめられた。 著者らは「ルラシドンは、高用量ではなく20~60mg/日の単剤での使用で、双極I型うつ病患者のうつ症状や機能を有意に改善した。この結果は、これまでの研究と全体的に一致しており、日本人を含む多様な民族において、ルラシドン20~60mg/日による治療は有効かつ安全であることを示唆している」としている。

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コルヒチンで慢性冠疾患の心血管リスクが低下/NEJM

 慢性冠疾患患者においてコルヒチン0.5mg 1日1回投与は、プラセボと比較し、心血管イベントのリスクを有意に低下させることが、オーストラリア・GenesisCare Western AustraliaのStefan M. Nidorf氏らが実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「LoDoCo2試験」で明らかとなった。コルヒチンの抗炎症作用が心筋梗塞患者の心血管イベントリスクを低下させることが、最近の研究で示唆されていたが、慢性冠疾患患者におけるエビデンスは限られていた。NEJM誌オンライン版2020年8月31日号掲載の報告。コルヒチン群とプラセボ群に慢性冠疾患患者約5,500例を無作為化 研究グループは2014年8月4日~2018年12月3日の間に、血管造影で冠疾患が確認され6ヵ月以上安定している35~82歳の慢性冠疾患患者5,522例を、コルヒチン(0.5mg 1日1回投与)群(2,762例)またはプラセボ群(2,760例)に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要エンドポイントは、心血管死・突発性心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血による冠動脈血行再建の複合とした。主な副次エンドポイントは心血管死・突発性心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合であった。Cox比例ハザードモデルを使用しintention-to-treat解析を実施した。コルヒチン群で、心血管イベントの発生リスクが31%低下 合計5,522例の患者が無作為化を受け(コルヒチン群2,762例、プラセボ群2,760例)、追跡期間中央値は28.6ヵ月であった。 主要エンドポイントのイベント発生は、コルヒチン群187例(6.8%)、プラセボ群264例(9.6%)であった(発生率:2.5 vs.3.6件/100人年、ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83、p<0.001)。主な副次エンドポイントのイベント発生は、コルヒチン群115例(4.2%)、プラセボ群157例(5.7%)であった(1.5 vs.2.1件/100人年、0.72、0.57~0.92、p=0.007)。 また、突発性心筋梗塞または虚血による冠動脈血行再建(複合)、心血管死または突発性心筋梗塞(複合)、虚血による冠動脈血行再建、および突発性心筋梗塞のいずれの発生率も、プラセボ群と比較してコルヒチン群で有意に低かった。一方、非心血管死の発生率は、コルヒチン群がプラセボ群より高かった(発生率:0.7 vs.0.5件/100人年、HR:1.51、95%CI:0.99~2.31)。 なお著者は、被験者の女性の割合が低いこと、血圧や脂質などのデータを収集しておらずリスク因子別の転帰が不明であること、炎症関連のデータを定期的に評価していないことなどを研究の限界として挙げている。

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患者とどこまでわかり合える?「医療マンガ大賞2020」開催

 医療現場では、同じ出来事でも、患者と医療従事者では受け取り方や感じ方が異なることが少なくない。横浜市は、こうした視点の違いによるコミュニケーションギャップの可視化を目的に、「第2回医療マンガ大賞」の開催を発表した。 これは、医療広報の一環として、患者や医療従事者が体験したエピソードを基に、それぞれの視点の違いを描く漫画を公募する取り組み。昨年開催された第1回では、55作品の漫画が応募され、「人生の最終段階」をテーマに患者・家族の視点を描いた油沼氏(ペンネーム)の作品が大賞を受賞した。 今回、ケアネットほか3社の協力企業から、計4テーマ9部門の原案エピソードで漫画作品を募集する。応募受付期間は9月17日(木)~10月15日(木)で、誰でも応募できる。 これに先立ち、ケアネットでは、「心がふるえた 医療現場のエピソード」をテーマに、会員医師・薬剤師よりアンケートにて公募を行った。採用エピソードは、医療マンガ大賞ウェブサイト(URL:https://iryo-manga.city.yokohama.lg.jp/)に掲載されている。 CareNet.comでは、医療マンガ大賞の結果が発表される11月以降に、採用エピソードと受賞漫画作品を掲載する予定。

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本邦におけるレムデシビルの投与基準は妥当か?(解説:山口佳寿博氏)-1285

 レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液)はエボラウイルス病(旧エボラ出血熱)の原因病原体(マイナス1本鎖RNAウイルス)に対する治療薬として開発が進められてきた。レムデシビルは核酸類似体でRNA依存RNA合成酵素を阻害する。この薬物が、プラス1本鎖RNAウイルスである新型コロナにも効果が期待できる可能性があり、世界レベルで治験が施行されてきた。とくに、米国における期待度は高く、米国の新型コロナ感染症の第1例目にレムデシビルが投与され劇的な改善が得られたと報告された。それ以降、米国では科学的根拠が曖昧なまま“人道的(compassionate)”投与が繰り返された(Grein J, et al. N Engl J Med. 2020;382:2327-2336.)。しかしながら、中国・武漢で施行されたdouble-blind, randomized, placebo-controlled trial(症状発現より12日以内の中等症以上の患者、237例)では、薬物投与群(レムデシビル10日投与)と対照群の間で有意差を認めた臨床指標は存在しなかった(Wang Y, et al. Lancet. 2020;395:1569-1578.)。本稿で述べる重症度分類は本邦厚労省の『新型コロナウイルス感染症診療の手引き』に準ずる。米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のスポンサーシップの下で施行されたdouble-blind, randomized, placebo-controlled trial(本邦を含む世界9ヵ国が参加、中等症以上の患者、1,059例)の中途解析(731例)では、臨床症状/所見の回復が薬物投与群(レムデシビル10日投与)で対照群より4日短縮されることが示された(Beigel JH, et al. N Engl J Med. 2020 May 22. [Epub ahead of print])。この結果を受け、米国FDAは5月1日にレムデシビルの重症例に対する緊急使用を承認した。本邦の厚労省も5月7日に呼吸不全を合併する中等症患者、機械呼吸/ECMOを必要とする重症患者(小児を含む)に対してレムデシビルの特例使用を許可した。投与期間に関しては、機械呼吸/ECMO導入例では最大10日間、それ以外の場合には5日間と規定された。 5月以降、レムデシビルの至適投与期間を決定するための治験が続行された。世界8ヵ国で施行されたレムデシビルの5日投与と10日投与のrandomized, open-label, phase 3 trial(中等症以上の患者、397例)で、臨床効果は両群で有意差がなく重篤な呼吸不全への進展を含む有害事象の発症は10日投与群で有意に高かった(Goldman JD, et al. N Engl J Med. 2020 May 27. [Epub ahead of print])。Spinnerら(Spinner CD , et al. JAMA. 2020 Aug 21. [Epub ahead of print])は、中等症入院患者(肺炎あり、しかし、室内気吸入時のSpO2>94%)を対象としたrandomized, open-label, phase 3 trial(596例)を施行し、試験開始11日目における臨床症状/所見の改善度は対照の標準治療群に較べ5日投与群で有意に勝ることを示した。一方、10日投与群と標準治療群の間では有意差を認めなかった。Goldman、Spinnerらの治験結果は、レムデシビルの10日投与の臨床的意義に疑問を投げかけるものであった。Spinnerらの治験結果ならびにNIAID治験の最終結果(1,062例、臨床症状/所見の回復はレムデシビル投与群で5日間短縮)を受け、米国FDAは、8月29日、レムデシビルの投与対象を修正した。新しいFDAの指針では、重症度と無関係に入院中の小児を含むすべての患者(感染確定例、疑い例)にレムデシビルを投与してよいと改定された。 本邦においては、9月4日、『新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第3版)』が厚労省より刊行されたが、レムデシビルの投与対象、投与期間は5月7日の特例承認の時とほぼ同じであった。第3版では、機械呼吸/ECMO導入なしの呼吸不全を伴う中等症において5日投与で臨床症状が改善しない場合は10日まで投与を延長できると記載されている。しかしながら、この投与期間の延長は、Goldman、Spinnerらの治験結果と矛盾するものであり再考が必要である。さらに、第3版では、肺の浸潤陰影が急速に増悪する場合(重症化)にはステロイドの投与と共にレムデシビルの使用を考慮すべきだと記載されている。このような状況は、ウイルスそのものに起因する一次性肺炎の増悪に加え生体の免疫過剰反応に惹起された二次的病変がより強く関与する病態と考えなければならず、ステロイドは正しい選択であるがレムデシビルに関してはどうであろうか? レムデシビルはRNA合成酵素阻害薬で抗ウイルス薬の1つと位置付けられる。それ故、レムデシビルは原則としてウイルス量が多い感染初期に投与されるべき薬物である。重症化した症例ではウイルス量は低下せず維持される場合があることが示唆されている(Lucas C, et al. Nature. 2020;584:463-469.)。しかしながら、このような時期に抗ウイルス薬の投与が病態を改善するか否かについては解明されておらず、今後の検討が必要な課題である。 Beigelらのデータにおいて注意すべき点は、レムデシビルの効果(回復までの時間)が白人(試験参加人数:全体の53%)においては確実に認められるが、黒人(21%)、日本人を含むアジア人(13%)では標準治療群との間に有意差を認めていないという事実である(Beigelらの図3、subgroup解析参照)。すなわち、Beigelらのデータは、試験への参加人数が多かった白人に引っ張られた結果であり、レムデシビルが日本人に有効であることを示しているわけではない。それ故、厚労省のレムデシビルに関する指針には確固たる根拠がなく、日本人を対象とした独自の治験でレムデシビルの効果を直接検証する必要がある。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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流行性耳下腺炎(ムンプス)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第3回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ムンプスもしくは流行性耳下腺炎は、ワクチンで予防できる疾患Vaccine Preventable Diseaseの代表疾患である。1)ムンプスの概要感染経路:飛沫感染潜伏期:12~24日周囲に感染させうる期間:耳下腺腫脹の7日前から発症後9日頃まで感染力(R0:基本再生産数):11~14注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。感染症法:5類感染症(小児科指定医療機関による定点観測、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種感染症(耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで)2)ムンプスの臨床症状(表)ムンプスは、多彩な経過や合併症に特徴がある1)。ムンプスは主に唾液による飛沫によりヒト-ヒト感染を起こす。感染から発症までの潜伏期間は典型例で17~18日と非常に長いうえ、発症する6日前から唾液や尿中にウイルスが排泄され感染性がある。さらに、感染しても平均30%は不顕性感染で終わる。不顕性感染は低年齢者に多く,年齢があがるほど症状が現れやすく腫脹も長期化する傾向にある。ただし,無症状でも唾液中のウイルスには感染性がある。耳下腺の腫脹は最も有名かつ高頻度の症状で,発症者のうち90~95%に出現するとされる。しかし、前述の通り感染者全体では70%前後にすぎず、腫脹も両側とは限らない。ここで重要な点として,耳下腺や顎下腺の腫脹は他のウイルス感染症でも起こるため、発熱と耳下腺腫脹だけでムンプスとは確定診断できない。したがって「熱と耳下腺腫脹があった」だけではムンプス罹患といえず、ワクチン不要と判断すべきでない。耳下腺腫脹に続いて多い症状は、思春期以降の男性に起こる睾丸炎で、感染者の1/3に起こるほど多い。片側性の腫脹が多く、睾丸が萎縮し精子数も減少するが、完全な不妊に至ることはまれとされる。女性では感染者の5%に卵巣炎が起こるが,不妊との関連はいまだ証明されていない。このほか無菌性髄膜炎から脳炎、乳腺炎、膵炎といった症状も知られている。無症候の髄液細胞数増多は感染者の50%に認められるとの報告もある。このようにムンプスは潜伏期間が長く、無症候性感染が多いうえ、発症前からウイルスを排泄する。つまり、発症者や接触者を隔離しても伝搬は防げない。表 自然感染の症状とワクチンの合併症1)画像を拡大する3)ムンプスの疫学4~5年おきに大きな流行があり、年間報告数は4~17万例で推移している。ここ数年では、2016年に比較的大きな流行が確認されており、2020年の再流行が懸念されていた(図1)。合併症として問題になる難聴について日本耳鼻咽喉科学会が実施した調査によると2)、上記2年間の流行中に少なくとも335例がムンプス難聴と診断されていた。調査デザインの限界から考えると、症例はもっと多いことが推定される。図1 ムンプスウイルス診断名別分離・検出報告数の推移(2000年1月~2019年9月)画像を拡大するワクチン概要単味の生ワクチンであり、年齢を問わず0.5mLを皮下注する。正確には、ワクチンキットに付属している溶解液0.7mLをバイアル瓶に注入したうち0.5mLを吸い出して接種する。ワクチンで一般にみられるアレルギー反応、接種部位の腫脹、短時間の発熱、といった副反応のほかに特異的なものはない。弱毒化した病原性ウイルスそのものを接種する生ワクチンであり、妊娠中の女性には接種は禁忌である。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるべきである。同様にステロイドを含む免疫抑制薬を投与中、もしくは免疫抑制状態にある患者も接種禁忌である。現時点では任意接種に位置付けられており、自治体などの補助がなければ接種費用は自己負担となる。なお、先進国の中で日本だけが定期接種化されていない(図2)。図2 世界のムンプスワクチンの接種状況画像を拡大する(From data reported to WHO by 193 WHO Member States as of February 2015より引用)国内では、鳥居株を用いたタケダと星野株を用いた第一三共の2製品が流通している。両者とも無菌性髄膜炎の発生頻度は同様(鳥居株が1/1,600、星野株が1/2,300)。国際的に広く流通しているJeryl-Lynn株は、国産品に比べて免疫獲得能がやや低い一方で無菌性髄膜炎の発症は少ない。接種スケジュール「1ヵ月以上の間隔で2回以上の接種」が原則となる。添付文書では生後24ヵ月~60ヵ月の間に接種することが望ましいとされているが、妊娠中などの禁忌がなければ成人でも接種可能である(図3)。画像を拡大するその他の注意事項は以下の通りである。他の生ワクチン接種:27日以上空ける(4週目の同じ曜日から接種可能)不活化ワクチン接種:6日以上空ける(翌週の同じ曜日から接種可能)輸血およびガンマグロブリン製剤の投与:投与3ヵ月以降に接種ガンマグロブリンを200mg/kg以上の大量投与:投与6ヵ月以降に接種ワクチン接種後14日以内にガンマグロブリン製剤投与:投与後3ヵ月以降に再接種ステロイドや免疫抑制剤:投与中止後6ヵ月以降に接種罹患歴については前述の通り、医療機関でムンプスウイルス感染を証明された場合のみ意義ありとして、臨床症状のみで罹患歴としないことが望ましい。ムンプス成分を3回以上接種しても医学的には問題はない。Jeryl-Lynn株ワクチンを採用している先進国によってはむしろ、10年程度で抗体価が低下することによる“Secondary vaccine failure”への対策として追加接種を検討している。また、ウイルス曝露の早期にワクチン接種することで発症を予防する曝露後緊急接種について、麻疹や水痘では有効性が確認されているが、ムンプスワクチンでは無効と考えられてきた。しかし、2017年に“The New England Journal of Medicine”で一定の効果が報告されるなど3)、近年ムンプスワクチンの接種戦略は世界的に見直しが検討されつつある。ただし、この研究で用いられたのはJeryl-Lynn株を含むMMRワクチンであり、日本製品とは素性が異なる。また、日本のムンプスワクチンには曝露後接種の適応はない。日常診療で役立つ接種ポイント(例.ワクチンの説明方法や、接種時の工夫)外来などでは、おおむね以下の点について説明することが望ましい。「いわゆる『おたふく風邪』を予防するワクチンです。1回接種の予防効果は75~80%で、確実な予防のために2回接種しましょう」「『おたふく風邪』で死亡することはまれですが、多様な合併症が起きます。特に難聴は、年間300人前後も発症している可能性があるうえ、もし発症すると回復不能です」「感染から発症まで2週間以上と長いことや、感染しても1/3は無症状のままウイルスを広げている、といった特性から発症者の隔離は意味がなく、確実な予防法はワクチンだけです」「接種間隔を伸ばすメリットはないので、幼稚園などの集団生活を始める前に2回接種を済ませましょう」「海外へ移住する方は、お子さんだけでなく大人も接種を検討しましょう。幼少時に耳下腺が腫れた、というだけではムンプスとは限りませんし、追加接種しても問題ありません」今後の課題・展望ワクチンギャップ解消の機運を受け、厚生労働省の厚生科学審議会は2012年に「広く接種を促進することが望ましい」と7つのワクチンを提示した4)。これら7つのうち、2020年現在いまだに定期接種化を果たしていないのはムンプスだけになった。これには、1989年のMMR統一株ワクチンによる無菌性髄膜炎が大きく影響している。それまで積極的だったワクチン行政を決定的に転回させ、日本にワクチンギャップが生まれる遠因ともなった渦中のムンプスワクチンが、その影響を最後まで受けているともいえる。しかし、そもそも自然感染に比べれば現行ワクチンでも無菌性髄膜炎の発症率は1/20以下であるし、さらに1歳前後で早期接種すると無菌性髄膜炎の発生率が減ることが明らかになってきた。そして、現在、無菌性髄膜炎の発生率は、MMR統一株ワクチン当時の1/10にまで減っている。ムンプスワクチン定期接種化のメリットは感覚的にも明らかだが、医療経済学的な試算でも有効性は示されており5)、学術団体からも繰り返し要望が出ている。しかしながら、無菌性髄膜炎が減ったことでワクチン接種の効果を自然感染と比較する調査のハードルは高くなっており、承認申請のために治験を通過する必要がある輸入ワクチンの導入やワクチン株の新規開発を一層難しくなっている。一方、諸外国では、Jeryl-Lynn株ワクチン2回接種後の感染が問題となっており、不活化ワクチンの新規開発や曝露後接種の検討なども始まっており、日本と世界の現状は乖離しつつある。2020年1月の厚生科学審議会の評価小委員会では、ムンプスワクチンについて審議が行われたが、明確な方針決定には至らなかった6)。 参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)おたふくかぜワクチンに関するファクトシート2)2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査3)Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.4)予防接種制度の見直しについて(第二次提言)5)大日康史、他. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析.厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究(研究代表者:岡部信彦)」、平成15年度から平成17年度総合研究報告書.p144-154:2006.6)厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)第37回講師紹介

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初回SSRI治療に奏効しない場合の抗うつ薬切り替えへの期待~STAR*D研究

 初回のSSRI治療で奏効しない場合、その多くの臨床試験で抗うつ薬の切り替えが行われる。第2選択治療による治療反応や寛解が、いつ、どのような患者に、どれくらい発生するのか、またどれくらいの試験期間を要するかはよくわかっていない。この問題を解決するため、デューク・シンガポール国立大学のA John Rush氏らが検討を行った。多くの治療法が承認されていることから、エビデンスに基づく適切な治療の定義が求められていた。The Journal of Clinical Psychiatry誌2020年8月11日号の報告。 STAR*D研究(2001年7月~2006年9月実施)でのcitalopram治療後、16項目の簡易うつ症状自己評価尺度(QIDS-SR16)のスコアが11以上の患者を、徐放性bupropion、セルトラリン、徐放性ベンラファキシンによる治療のいずれかにランダムに割り付け、最大14週間治療を行った。治療反応、寛解、効果不十分の判定には、QIDS-SR16スコアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者438例のうち約80%が、切り替え後6週間以上の治療を完了した。・すべての治療で、同等のアウトカムが認められた。・寛解した患者の割合は21%(91例)、寛解はしなかったが治療反応が認められた患者の割合は9%(40例)、効果不十分であった患者の割合は58%(255例)であった。・治療反応が認められた患者の半数と寛解した患者の3分の2は、治療後6週間以降に効果が発現した。・治療反応が認められた患者の33%(43例)は、治療後9週間以降に効果が発現した。・治療反応または寛解の早さとベースライン時の評価との関連は認められなかった。・治療反応や寛解を早期に予測するトリアージポイントは明らかにならなかったが、第2週あたりのQIDS-SR16スコアがベースラインから20%以上減少した患者は、減少しなかった患者と比較し、治療反応率または寛解率が6倍高かった。 著者らは「初回SSRI治療に奏効しなかった患者に対する他のモノアミン作動性抗うつ薬への切り替えは、寛解率が約20%であり、半分以上の患者で効果不十分であった。第2選択治療による治療反応を評価するためには、試験期間が12週間は必要であると考えられる」としている。

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COVID-19重症化への分かれ道、カギを握るのは「血管」

 COVID-19を巡っては、さまざまなエビデンスが日々蓄積されつつある。国内外における論文発表も膨大な数に上るが、時の検証を待つ猶予はなく、「現段階では」と前置きしつつ、その時点における最善策をトライアンドエラーで推し進めていくしかない。日本高血圧学会が8月29日に開催したwebシンポジウム「高血圧×COVID-19白熱みらい討論」では、高血圧治療に取り組むパネリストらが最新知見を踏まえた“new normal”の治療の在り方について活発な議論を交わした。高血圧はCOVID-19重症化リスク因子か パネリストの田中 正巳氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)は、高血圧とCOVID-19 重篤化の関係について、米・中・伊から報告された計9本の研究論文のレビュー結果を紹介した。論文は、いずれも同国におけるCOVID-19患者と年齢を一致させた一般人口の高血圧有病率を比較したもの。それによると、重症例においては軽症例と比べて高血圧の有病率が高く、死亡例でも生存例と比べて有病率が高いとの報告が多かったという。ただし、検討した論文9本(すべて観察研究)のうち7本は単変量解析の結果であり、交絡因子で調整した多変量解析でもリスクと示されたのは2本に留まり、ほか2本では高血圧による重症化リスクは多変量解析で否定されている。田中氏は、「今回のレビューについて見るかぎりでは、高血圧がCOVID-19患者の重症化リスクであることを示す明確な疫学的エビデンスはないと結論される」と述べた。 一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)が6月25日、COVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、高血圧が重症化リスクの一因であることが明示された。これについて、パネリストの浅山 敬氏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)は、「ガイドラインを詳細に見ると、“mixed evidence(異なる結論を示す論文が混在)”とある。つまり、改訂の根拠となった文献は、いずれも高血圧の有病率を算出したり、その粗結果を統合(メタアナリシス)したりしているが、多変量解析で明らかに有意との報告はない」と説明。その上で、「現時点では高血圧そのものが重症化リスクを高めるというエビデンスは乏しい。ただし、高血圧患者には高齢者が多く、明らかなリスク因子を有する者も多い。そうした点で、高血圧患者には十分な注意が必要」と述べた。降圧薬は感染リスクを高めるのか 高血圧治療を行う上で、降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されている。山本 浩一氏(大阪大学医学部老年・腎臓内科学)によれば、SARS-CoV-2は気道や腸管等のACE2発現細胞を介して生体内に侵入することが明らかになっている。山本氏は、「これまでの研究では、COVID-19の病態モデルにおいてACE2活性が低下し、RA系阻害薬がそれを回復させることが報告されている。ACE2の多面的作用に注目すべき」と述べた。これに関連し、パネリストの岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科)が国外の研究結果を紹介。それによると、イタリアの臨床研究1)ではRA系阻害薬を含むその他の降圧薬(Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬全般)について、性別や年齢で調整しても大きな影響は見られないという。一方、ニューヨークからの報告2)でも同様に感染・重症化リスクを増悪させていない。岸氏は、「これらのエビデンスを踏まえると、現状の後ろ向き研究ではあるが、RA系阻害薬や降圧薬の使用は問題ない」との認識を示した。COVID-19重症化の陰に「血栓」の存在 パネリストの茂木 正樹氏(愛媛大学大学院医学系研究科薬理学)は、COVID-19が心血管系に及ぼす影響について解説した。COVID-19の主な合併症として挙げられるのは、静脈血栓症、急性虚血性障害、脳梗塞、心筋障害、川崎病様症候群、サイトカイン放出症候群などである。SARS-CoV-2はサイトカインストームにより炎症細胞の過活性化を起こし、正常な細胞への攻撃、さらには間接的に血管内皮を傷害する。ウイルスが直接内皮細胞に侵入し、内皮の炎症(線溶系低下、トロンビン産生増加)、アポトーシスにより血栓が誘導されると考えられる。また、SARS-CoV-2は血小板活性を増強することも報告されている。こうした要因が重ることで血栓が誘導され、虚血性臓器障害を起こすと考えられる。 さらに、SARS-CoV-2は直接心筋へ感染し、心筋炎を誘導する可能性や、免疫反応のひとつで、初期感染の封じ込めに役立つ血栓形成(immnothoronbosis)の制御不全による血管閉塞を生じさせる可能性があるという。とくに高血圧患者においては、血管内細胞のウイルスによる障害のほかに、ベースとして内皮細胞の障害がある場合があり、さらに血栓が誘導されやすいと考えられるという。茂木氏は、「もともと高血圧があり、血管年齢が高い場合には、ただでさえ血栓が起こりやすい。そこにウイルス感染があればリスクは高まる。もちろん、高血圧だけでなく動脈硬化がどれだけ進行しているかを調べることが肝要」と述べた。 パネリストの星出 聡氏(自治医科大学循環器内科)は、COVID-19によって引き起こされる心血管疾患の間接的要因に言及。自粛による活動度の低下、受診率の低下、治療の延期などにより、持病の悪化、院外死の増加、治療の遅れにつながっていると指摘。とくに高齢者が多い地域では、感染防止に対する意識が強く、自主的に外出を控えるようになっていた。その結果、血圧のコントロールが悪くなり、LVEFの保たれた心不全(HFpEF、LVEF 50%以上と定義)が増えたほか、血圧の薬を1日でも長く延ばそうと服用頻度を1日おきに減らしたことで血圧が上がり、脳卒中になったケースも少なくなかったという。星出氏は、「今後の心血管疾患治療を考えるうえで、日本においてはCOVID-19がもたらす間接的要因にどう対処するかが非常に大きな問題」と指摘した。

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ICUでの重症COVID-19、ヒドロコルチゾンは有効か/JAMA

 集中治療室(ICU)での重症COVID-19患者の治療において、ヒドロコルチゾンの使用は、これを使用しない場合に比べ、呼吸器系および循環器系の臓器補助を要さない日数を増加させる可能性が高いものの、統計学的な優越性の基準は満たさなかったとの研究結果が、米国・ピッツバーグ大学のDerek C. Angus氏らの検討「REMAP-CAP試験」によって示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2020年9月2日号に掲載された。コルチコステロイドは、実臨床でCOVID-19患者にさまざまな方法で投与されており、観察研究では有益性と有害性の双方が報告されている。この不確実性を軽減するために、いくつかの研究グループが無作為化臨床試験を開始しているという。8ヵ国121施設が参加した進行中の無作為化試験 本研究は、アダプティブプラットフォーム臨床試験と実臨床のポイントオブケア臨床試験の特徴を併せ持つ進行中の非盲検無作為化試験であり、重症肺炎患者における最良の治療戦略の検証を目的に開始された(Platform for European Preparedness Against[Re-]emerging Epidemics[PREPARE]consortiumなどの助成による)。アダプティブプラットフォームでは、複数の治療ドメイン(たとえば抗菌薬、コルチコステロイド、免疫グロブリンなど)で複数の介入の効果の評価が可能である。 2020年3月9日~6月17日の期間に、8ヵ国121施設で、呼吸器系または循環器系の臓器補助のためにICUに入室した成人重症COVID-19の疑い例と確定例が登録された(614例)。このうち403例がコルチコステロイドによる治療ドメインに含まれ、非盲検下に介入が行われた。フォローアップは、2020年8月12日に終了した。 コルチコステロイド治療ドメインの患者は、次の3つの群のいずれかに無作為に割付けられた。参加施設の担当医は、事前に、3つのうち2つ以上の治療群を選択した。(1)固定用量ヒドロコルチゾンの7日間静脈内投与(50mgまたは100mg、6時間ごと)、(2)ショック時ヒドロコルチゾン静脈内投与(臨床的にショックが明白な場合にのみ、50mgを6時間ごと)、(3)ヒドロコルチゾン非投与。 主要エンドポイントは、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を行わない日数)であり、患者が死亡した場合は-1日とした。呼吸補助は、侵襲的・非侵襲的機械換気または高流量式鼻カニュラで、循環補助は、昇圧薬または強心薬の静脈内注入とした。解析には、ベイジアン累積ロジスティックモデルを用いた。優越性は、オッズ比(OR)>1(非臓器補助日数が非投与に比べて多い)の事後確率(優越性確率の閾値は>99%)と定義した。 本研究は、他の試験(RECOVERY試験)の結果を受けて、2020年6月17日、運営委員会により患者登録の早期中止が決定された。非投与群より非補助日数が優れる確率は93%と80% 403例のうち同意を撤回した19例を除く384例(平均年齢60歳、女性29%)が登録され、固定用量群に137例、ショック時投与群に146例、非投与群に101例が割り付けられた。379例(99%)が試験を完遂し、解析に含まれた。 3群の平均年齢の幅は59.5~60.4歳、男性が70.6~71.5%と多くを占め、平均BMIは29.7~30.9、機械的換気施行例は50.0~63.5%であった。ベースラインで全例が呼吸補助または循環補助を受けていた。 非臓器補助日数中央値は、固定用量群が0日(IQR:-1~15)、ショック時投与群が0日(-1~13)、非投与群が0日(-1~11)であった。院内死亡率はそれぞれ30%、26%、33%で、生存例の非臓器補助日数中央値は、11.5日(0~17)、9.5日(0~16)、6日(0~12)だった。 非投与群と比較した固定用量群の補正後OR中央値は1.43(95%信用区間[CrI]:0.91~2.27)、ベイズ解析による優越性確率(bayesian probability of superiority)は93%であり、ショック時投与群はそれぞれ1.22(0.76~1.94)および80%であった。 重篤な有害事象は、固定用量群4例(3%)、ショック時投与群5例(3%)、非投与群1例(1%)に認められた。 著者は、「これらの知見は、重症COVID-19患者の治療におけるヒドロコルチゾン投与の有益性を示唆するが、本試験は早期中止となり、どの治療戦略も事前に規定された統計学的な優越性の基準を満たしておらず、確定的な結論には至っていない」としている。

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