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AZ社の新型コロナワクチン4試験統合中間解析で安全性・有効性確認/Lancet

 ChAdOx1 nCoV-19ワクチン(AZD1222)は、英国・オックスフォード大学で開発された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン。同大学のMerryn Voysey氏らは、このワクチンに関する進行中の4つの臨床試験の第1回目の統合中間解析を行い、安全性プロファイルは容認可能なものであり、COVID-19に対し有効であることを確認した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年12月8日号に掲載された。AZD1222は、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞表面の構造蛋白である糖蛋白抗原(スパイク蛋白:nCoV-19)遺伝子を含む、チンパンジー由来の増殖能を欠失させたアデノウイルスベクター(ChAdOx1)から成る。2020年4月23日、英国で第I/II相試験(COV001)が開始され、その後、英国(COV002、第II/III相)、ブラジル(COV003、第III相)、南アフリカ共和国(COV005、第I/II相)で無作為化対照比較試験が進められている。2回接種の安全性・有効性を評価 今回の中間解析には、進行中の4つの盲検化無作為化対照比較試験のデータが含まれ、AZD1222の安全性と有効性の評価が行われた(英国研究技術革新機構[UKRI]、AstraZenecaなどの助成による)。 COV001試験の対象は年齢18~55歳の健康ボランティアであり、COV002試験ではSARS-CoV-2への曝露の可能性が高い職種も含まれた。COV003試験は、医療従事者などのウイルス曝露リスクの高い職種の登録に重点を置き、18歳以上の安定期の併存疾患を有する集団も含まれた。COV005試験にはHIV感染者も登録されたが、今回の解析には含まれず、年齢18~65歳の健康成人が対象とされた。 被験者は、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンを接種する群または対照群(髄膜炎菌A、C、W、Y結合型ワクチン[MenACWY]または生理食塩水)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。ChAdOx1 nCoV-19群は、5×1010(標準用量)のウイルス粒子を含むワクチンを2回接種され(SD/SDコホート)、英国の試験(COV001、COV002)の一部では、1回目に低用量、2回目には標準用量のワクチンが接種された(LD/SDコホート)。 主要アウトカムは、ウイルス学的に確定された症候性COVID-19とし、2回目の接種から14日以降にスワブが核酸増幅検査(NAAT)で陽性であることと、1つ以上の特定の症状(37.8℃以上の発熱、咳、息切れ、臭覚障害/味覚障害)がみられることと定義された。ワクチンの有効性は、年齢で補正した頑健ポアソン回帰モデルによる相対リスクの値を1から引いた値として算出した。データカットオフ日は2020年11月4日。ワクチン有効性:全体70.4%、SD/SD群62.1%、LD/SD群90.0% 2020年4月23日~11月4日までの期間に2万3,848例が登録され、有効性の主要中間解析には1万1,636例(英国のCOV002試験:7,548例[SD/SDコホート4,807例、LD/SDコホート2,741例]、ブラジルのCOV003試験:4,088例[すべてSD/SDコホート])が含まれた。 全体(SD/SD+LD/SDコホート)では、主要アウトカムの発生はChAdOx1 nCoV-19群0.5%(30/5,807例)、対照群1.7%(101/5,829例)であり、ワクチンの有効性は70.4%(95.8%信頼区間[CI]:54.8~80.6)であった。 2回とも標準用量を接種したSD/SDコホートでは、主要アウトカムの発生はChAdOx1 nCoV-19群0.6%(27/4,440例)、対照群1.6%(71/4,455例)であり、ワクチンの有効性は62.1%(95%CI:41.0~75.7)であった。また、初回は低用量で2回目は標準用量のLD/SDコホートでは、主要アウトカムの発生はそれぞれ0.2%(3/1,367例)および2.2%(30/1,374例)であり、ワクチンの有効性は90.0%(67.4~97.0)であった(p interaction=0.010)。 初回接種後21日目以降に、COVID-19による入院が10例認められ、いずれも対照群であった。このうち2例は重症COVID-19に分類され、死亡が1例含まれた。安全性の追跡調査は7万4,341例月(中央値3.4ヵ月、IQR:1.3~4.8)で行われ、重症有害事象は168例で175件発現し、ChAdOx1 nCoV-19群が84件、対照群は91件であった。ワクチン関連の可能性もあると判定された重症有害事象は3件で、ChAdOx1 nCoV-19群、対照群、割り付けがマスクされた群それぞれ1件ずつだった。 著者は、「免疫が広く行き渡るまでは、COVID-19の管理には身体的距離(physical distancing)を取ることと新たな治療法が必要である。この間に、有効なワクチンが重症化のリスクがある集団に使用されれば、世界的流行に大きな影響を及ぼす可能性がある。ウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19は有効であり、現在の世界的流行において疾患管理に寄与する可能性があることが、初めて示された」としている。

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第39回 より感染しやすい新型コロナウイルス変異株が英国で急増/ 重症COVID-19への幹細胞治療の試験結果が判明

より感染しやすい新型コロナウイルス変異株が英国で急増英国ケント州やロンドンでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の増加を受けて同国の保健行政組織Public Health England(PHE)がいっそうの注意を傾けて調べたところ新たなSARS-CoV-2変異体が急速に広まっていることが判明し、VUI - 202012/01と名付けられたその変異体の感染例1,108人が先週13日までに確認されました1)。その1週間後のこの週末19日の記者会見でBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)英国首相はロンドンやイングランド南部/東部でのCOVID-19急増は13日発表の新たな変異株のせいらしいとの見解を示しました2)。変異株感染は重病や死に至りやすいという謂われはいまのところないが、他のSARS-CoV-2感染よりも次から次にどうやら感染しやすいらしいと示唆されています。PHEが他と協力しての調査は進行中ですが、いまのところ重症度、抗体反応、ワクチン効果へのVUI - 202012/01の影響は示唆されていません3)。今年2月の遅くに南欧で見つかって今や世界で最も幅を利かせる先着のSARS-CoV-2変異株4)がスパイクタンパク質に614Gという変異を有するのに似て新参のVUI - 202012/01もスパイクタンパク質にN501Yという変異を有します。世界を席巻しているその614G変異ウイルスもVUI - 202012/01と同様に感染を広めやすいらしいことがNatureに最近発表された培養実験やハムスター実験で裏付けられています5)。その実験で614G変異ウイルスは培養気道上皮細胞や気道を模す3次元組織でより増えて居座ることができ、より感染力が高いと示唆されました。続いて614G変異株をハムスターに感染させたところ鼻の拭い液や気管で盛んに増えており、その結果は614G変異ウイルスが上気道により集まるという感染者所見に見合うものであり、どうやらより感染しやすいことを示唆しています。目下のCOVID-19予防ワクチンは614G変異ウイルスに先立つウイルス(614Dウイルス)を起源としており、614Dウイルス感染で生じる抗体が614G変異ウイルスも中和できるならワクチンは614G変異ウイルスにも通用しそうです。そこで研究者は614Dウイルスを感染させたハムスターの血清が614G変異ウイルスの細胞感染を防げるかどうかを調べました5)。その結果、血清は幸いにも614G変異ウイルスの細胞侵入や複製を防ぐ中和活性を発揮し、614G変異は目下のCOVID-19ワクチンの守備範囲にあると示唆されました4,5)。 英国で広まる新たな変異株VUI - 202012/01のCOVID-19ワクチン等の効果への影響はいまのところ示唆されていませんが、確実な答えを得る研究が進行中であると英国の最高医学責任者(CMO)・Chris Whitty氏は14日の声明で述べています6)。COVID-19の幹細胞治療remestemcel-Lの試験は残念な結果になった本連載の第6回で紹介した急性呼吸窮迫症候群(ARDS)合併COVID-19患者へのMesoblast社の間葉系幹細胞(MSC)薬remestemcel-L(レメステムセル-L)の第III相試験が途中解析され、残念ながら主要評価項目・30日間の死亡減少の達成は不可能と判断されました7)。すでに組み入れ済みの233人全員の計画に沿った検討が済むまで試験は続けられ、追跡期間最終の60日時点での人工呼吸器なしでの生存日数・生存率・集中治療日数・入院期間・心臓/神経/肺損傷の結果が後に判明します。先月の終わりにノバルティス社はCOVID-19やその他の病気に伴うARDS へのremestemcel-Lの用途の権利を得る合意を発表しています。同社は残りの試験結果をMesoblast社と共に解析し、有意義な情報を見つけ出してremestemcel-Lの今後の開発方針に役立てることを目指します。参考1)PHE investigating a novel strain of COVID-19/GOV.UK2)Prime Minister's statement on coronavirus (COVID-19): 19 December 2020 /GOV.UK 3)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant/GOV.UK4)Baric RS. N Engl J Med. 2020 Dec 16. [Epub ahead of print] 5)Plante JA,et al . Nature. 2020 Oct 26.[Epub ahead of print]6)Statement from Chief Medical Officer, Professor Chris Whitty about new strain of Covid-19/GOV.UK7)Mesoblast Update on COVID-19 ARDS Trial/ Mesoblast

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高齢者扁平上皮NSCLCの新スタンダードとなるか(CAPITAL)/名古屋医療センター

 高齢者のStage IIIB/IV扁平上皮非小細胞肺がん(SQ NSCLC)1次治療の標準治療が世代交代か。nab-パクリタキセルとカルボプラチンの併用(nab-PTX+CBDCA)とドセタキセル(DTX)単剤を比較した無作為化第III相試験CAPITAL試験の結果を名古屋医療センターが発表した。 肺がんには高齢患者が多い。高齢患者の標準化学療法は長期にわたりドセタキセル単剤である。非扁平非小細胞肺がん(NSQ NSCLC)おいては、JCOG1210/WJOG7813L試験でカルボプラチン+ペメトレキセドのDTX単剤に対する非劣性が示され、2019年の肺癌診療ガイドラインでCBDCA併用レジメンの使用が推奨された。しかし、SQ NSCLCについては依然としてドセタキセル単剤が標準である。 そのような中、CA031試験で良好な成績を示したnab-PTX+CBDCAが高齢者SQ NSCLCの新たな治療薬として浮上した。そこで、高齢者SQ NSCLCの1次治療におけるnab-PTX+CBDCA療法の第III相CAPITAL試験が行われた。CAPITAL試験は、山本小班インターグループ試験として6つの臨床試験グループ(NEJSG、TCOG、NHO、CJLSG、WJOG、LOGiK)から92施設が参加して行われた。 対象は70歳以上の化学療法未施行の根治照射不能進行・再発SQ NSCLC(ECOG PS 0〜1)250例を目標症例とした。登録患者は、DTX(60mg/m2 day1 3週ごと)とCBDCA(AUC6 day1 3週ごと)+nab-PTX(100mg/m2 day1,8,15 3週ごと)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は全生存期間、副次的評価項目は奏効割合、無増悪生存期間、安全性である。 事前から予定されていたイベント数92例時点での中間解析の結果、nab-PTX+CBDCAはドセタキセル単剤に比べOSを改善。有意水準0.0158を下回り、早期有効中止を達成した。 研究事務局である名古屋医療センターの小暮啓人氏は、この中間解析の結果から、nab-PTX+CBDCAは高齢者SQ NSCLCの標準療法になると述べている。この試験結果は2021年に投稿すると共に米国臨床腫瘍学会(ASCO)での発表を目標としているとのこと。

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高齢者の身体活動とうつ病との関係

 都市部または農村部で生活している高齢者において、日常生活での身体活動(PA)に違いがあるのか、さらにPAとうつ病との関連について、アイスランド大学のBirgitta R. Smaradottir氏らが調査を行った。Laeknabladid誌2020年10月号の報告。 2017~18年のアイスランド北部のデータを用いて、横断的人口ベースの調査を実施した。対象は、地域在住の65~92歳の高齢者175人(参加率:59.7%、女性の割合:43%)であり、地方在住者は40%であった。PAの測定には、Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)を用い、PA合計スコアと余暇、家庭、仕事に関連するPAを反映するサブスコアを調査した。うつ症状の評価には、老年期うつ病評価尺度を用いた。 主な結果は以下のとおり。・都市部と農村部のPA合計スコアは同程度であった。・性別では、男性は女性よりも活動的であった。・年齢層では、65~74歳は75~92歳よりも活動的であった。・農村部の高齢者は、都市部と比較し、仕事関連のPAが高かった。65~74歳のPAも75~92歳と比較し、同様であった。・男性は女性よりも、家庭関連でのPAが高かった。・PASEのPA合計スコアおよびサブスコアの高い高齢者では、抑うつ症状の少なさと有意な関連が認められた。・余暇関連のPAは、PASEサブスコアの中で唯一、抑うつ症状の少なさと独立した関連が認められた。 著者らは「さまざまな状況に関連するPAは、健康上のベネフィットをもたらすと考えられるが、余暇関連のPAに注目することは、メンタルヘルスに最も有益な影響を及ぼすであろう」としている。

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新型コロナ、病床逼迫の診療現場から~呼吸器科医・倉原優氏が緊急寄稿

 各地で新型コロナ感染症の新規感染者数の増加が止まらない。7~8月にかけてのピーク時を超え、間違いなく現状は「第3波」の真っただ中にある。自治体独自の基準により「非常事態」を宣言している大阪府の状況について、CareNet.com連載執筆者の倉原 優氏(近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)が緊急寄稿した。大阪府コロナ第3波の現状 大阪府は、現在コロナ第3波の最終局面であると信じたいくらい新規入院患者数が増えている。指定感染症として診療しているので、必然的に病床が逼迫している。政府は12月17日、向こう1年間は現行の指定感染症扱いを継続するという見通しを発表した。医療者の一部にも、「5類感染症に変えるべき」という意見もある。ただ、COVID-19を5類感染症にすることにより、複数の病院で分散して診療されるようになり、追跡されない水面下で感染者が激増するため、医療崩壊への道をたどることになるのではという懸念がある。 大阪府は現状、重症病床以外を軽症中等症病床という枠組みで運用しているが、医療施設によっては、ほぼ軽症しか診なくなっていたり、当院のようにほぼ中等症病床化していたりする施設もある。普段から高齢者を多く診ている施設には、基礎疾患がある寝たきりの症例を担当してもらい、当院のような急性期病院には少し重症寄りの症例を担当してもらおう、という暗黙の住み分けはあるかもしれない。重症化の予測は可能か パンデミック当初から、重症化指標として、フェリチン・CRP・リンパ球数が報告されていた。軽症例が少ない当院では、6~7人に1人が重症化(高流量鼻カニュラ酸素療法[HFNC] or 気管挿管 or 死亡)しているが、後ろ向きにデータを取ると、いろいろなことが見えてきた(2020年11月までの約120人で検討)。 COVID-19患者のリンパ球絶対数は、おおむね1,000/μL前後で、重症化例で際立って低いという印象はない。圧倒的に差があるのがCRPで、非重症化症例の中央値が3.7mg/dL(IQR:1.0~7.6)、重症化症例の中央値は11.0mg/dL(IQR:7.1~15.3)だった(p<0.001)。フェリチンも、非重症化323.1ng/mL(IQR:114.1~840.8)、重症化787.5ng/mL(IQR:699.9~1407.3)と約2倍の開きがある(p=0.002)。これらが高い患者は、中等症病床から重症病床へ転院する可能性が高いと言える。ASTとALTについては、正常上限を10 IU/Lほど上回っていることが多く、その理由として胆管細胞にACE2があるからという説が有力だという。時に150~200 IU/L近くまで上昇しているケースがあり、そういう場合抗ウイルス薬はなかなか使いづらい印象である。また、呼吸器専門施設ということで、当院ではKL-6を多くの症例で測定しているが、非重症例250U/mL(IQR:190.8~337.8)、重症例333.5U/mL(IQR:261.0~554.1)と、重症例でII型肺胞上皮細胞の傷害が強いことがわかる(p=0.04)。 重症化した患者さんは全例、「両肺全葉」に肺炎像があった。含気が1葉か2葉に残っていれば気管挿管は回避できるかもしれないが、全葉が侵されていると換気する肺胞がなく、呼吸不全から気管挿管に至るということである。「入院時の胸部画像検査を見たとき、医師がゾっとするほど陰影が多い」という現象は、もしかしたら重症化の一番のリスク因子かもしれない。治療と気管挿管 抗ウイルス薬については、軽症~中等症Iでファビピラビル、中等症I~重症でレムデシビルを使うことが多いが、発症早期にこれらを投与して効果があるかどうかは、臨床で実感できない。理論的には効果があると信じているが、現状「投与しない」という選択肢はほぼない状況である(投与していない施設もあると聞くが)。 SpO2が低め(94%未満)あるいはすりガラス陰影(GGO)主体のフレッシュなCOVID-19の肺炎には、デキサメタゾンを積極的に使用しているが、それが急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展するのを抑制しているのかどうか、これも実感があるとは言い難い。入院時に広範囲にGGOがあるシビアなARDSでは、ステロイドパルス療法を適用して、早い段階で気管挿管に踏み切っている。エアロゾルボックスの使用は、ハードウェアを介した接触感染のリスクがあるため、いまだ議論の余地がある。また、RSI(rapid sequence induction)の技術を持っている医師が院内に常時いるわけではないので、当院では呼吸器センターの強みを生かした気管支鏡を用いた気管挿管を行うことも多い。咳嗽によって術者に飛沫が飛ばないというメリットがあるが、内視鏡なので洗浄が煩雑である。 気管挿管した場合、大阪府では重症病床に転院することになる。大阪府コロナ重症センターが稼働したとはいえ、実運用ベースでの病床使用率は75%を超えているので、転院してから数日後に抜管され、再び中等症病床に戻ってくるというケースが多くなっている。今後、患者数がさらに増えてくれば、中等症病床においても重症患者を診るケースが増えることを覚悟している。【倉原 優氏プロフィール】2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て、08年より現職。CareNet.comでは、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」「Dr.倉原の“俺の本棚”」連載掲載中。

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第48回 学び直し!やさしい冠動脈の話【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第48回:学び直し!やさしい冠動脈の話2020年という年は、全世界が新型コロナウイルスに翻弄され続けた一年でしたね。ところで、ボクも含め、多くの循環器医にとって、“コロナ…検査”と言えば、抗原でもPCR検査でもなく、「冠動脈造影」のことだと思います。コロナリー・アンジオ、いわゆるCAG(coronary angiography)ね。循環器分野では、ごくごく基本的な検査のうちの一つです。皆さんは冠動脈について、どこまで理解してますか? “ドキ心”のメインは心電図の解説ですが、今回は循環器分野での「コロナ…検査」の話をしてみようと思います。“冠動脈の基礎のキソ”心臓が活動するのに必要な酸素や栄養を供給する冠動脈、英語でcoronary arteryといいますよね。そう、「コロナリー」です。「“corona”の語源的には心臓血管もウイルスも同じなんだよ」という話、耳にタコができるほど聞きました(笑)。たしかに、3本の血管が王冠(crown)に絡まるツタのように見えなくもありません。しかし、昔の人のイメージ力ってすごいな。そうくるか、ってレベルですよね? 今回のテーマは、“クイズ形式で冠動脈について楽しく基本を学びましょう”で、以前からご意見として頂戴していたものに答えるレクチャーです。冠動脈に関しては.実際、個々人でかなりバリエーションがあり、厳密な話は少し難しいと思います。また、読者のすべてが循環器の専門医ではないことを踏まえ、あまり微や細を論じることなく、あくまで“学び直し”として、大事な点に絞って解説していこうと思います。では、はじまり~。【問題1】冠動脈はどこから出ますか?解答はこちら右冠動脈:右冠尖、左(主)冠動脈:左冠尖解説はこちら最初は冠動脈の“はじまり”を問う問題からはじめましょう。循環器の医師が“カスプ”と呼ぶ構造物について理解しましょう。“冠動脈の起始部の原則”大動脈の根元(基部)は、若干膨らんでいて、ボク自身は3つのスズランの花のようなイメージを持っています。このスズランはカップ(cup)にも例えられ、間に“s”を足して「冠尖」([coronary]cusp)と呼ばれます。そして、3つのスズラン・カスプの部分を「バルサルバ洞」(Sinus of Valsalva)といい、冠動脈の出どころはここになります。具体的なCT画像を供覧しましょう(図1)。(図1)左右冠尖と冠動脈の起始部[冠動脈CT画像より]画像を拡大する(図1)Aの最も前方にある「右冠尖」(RCC)からは右冠動脈(RCA)が、その左の「左冠尖」(LCC)から左冠動脈(LCA)が出るというのが一般的です。右左そのままでしょ。左の血管は2本に分かれる前の部分であり、「左(主)冠動脈」ないし「左冠動脈主幹部」と呼ばれています1)。(図1)Bの3つの冠尖のうち、唯一、血管が出て行かないのが“ノンコロ”とか言われる「無冠尖」(noncoronary cusp)です。ここが最も後方に位置するわけです。図でも何も出ていませんよね?1):わが国では「LMT:left main trunk」という表現のほうが市民権を得ているように思いますが、海外ではLMCA(left main coronary artery)という言い方をよく見かける気がしてます。【問題2】冠動脈は何本あるか?解答はこちら2本(ないし3本)解説はこちら問題の答えに関しては2本ですかね。あるいは、3本だと答える人もいるかもしれませんが、どちらも正解だと思います。ボクは患者さんに「心臓には血管が3本あってね…」と説明することにしてますが、左も元々は1本ずつですから、ここは「2本」と思ってください。“冠動脈の基本的な本数”右冠動脈は「Cの字」の本幹部分を1本と捉えてください。実際は、最後にそこからヒゲのようなチョロが出ます。フランス語とかにありますよね、「Ç」っていう字。あんなイメージ(笑)。“セディーユ”とかっていうんですよね、たしか。左(主)冠動脈は左冠尖から出て、はじめは1本ですが、ほどなく左前下行枝と左回旋枝の2本に分かれて「逆Yの字」を形成するケースが普通です2)。正味は2本で構成されると考えられ、もちろんそれぞれ枝も出します。たとえば、冠尖からだいぶ上の(上行)大動脈から出たり、右冠動脈のくせに左冠尖から出たり…その逆なんていう起始異常はここでは放っておきましょう。まずはスタンダードを知ることが大事ですから。2):時に最初から2本別個に出て、主幹部がない人もいます。“ダブルバレル”(double barrel)とか、俗称ですが“豚鼻”なんて呼ぶ人もいるなぁ…たしかにそう見えます(笑)【問題3】「右冠動脈」「左冠動脈」以外の“第3の”冠動脈はあるか?解答はこちらときどき「ある」解説はこちら「あれ? コロナリーは、右と左に少なくとも最初は1本ずつ言ったじゃんか」そう思うのは最もで、実際、多くはその血管だけだと思います。でも、皆さん“第3の”冠動脈があるって人、時々いるの知っていますか? この“3番目”の称号は、最も有名なものとしては、左冠動脈に当てられ“クマデ(熊手)”のように、Y字に2本に分岐する左冠動脈のちょうど間を抜くように走る血管を持つ人がいます(図2)。20%、実に5人に1人と、まぁ多いワケ。日本だと“ハイラテ”(high lateral branch)「HL」と呼ばれる血管を指すことが多いです。ほかに、「Ramus Intermedius」なんていう名称の血管も、これと同一だと思われます(しかしここまで来ると覚えづらいですね)。そのほか、右冠動脈にもあるそうです。つまり、仮に右冠尖を内側から覗いたら、穴が2つかそれ以上あいているというケースです。ややマニアックですが、最初に分岐する円錐枝(conus branch)が右冠動脈と独立して冠尖から出るケースが2~3割ほどあるそうです(図2)。ただ、個人的には小さい血管なので、これを“第3の”(または2本目の右冠動脈)というのは抵抗があります。(図2)“第3の”冠動脈?画像を拡大するさらに、右室枝が右冠尖から直接出ることがあります。しかも複数枝が出たりもしたら、もはや「3」では済みませんね。ただ、こんな特殊な例を覚えておく必要はないでしょう。【問題4】右冠動脈は、(A:三尖・僧帽)弁を“巻く”ように(B:   )溝[右房と右室の間]を下方[尾側]に向かって“Cの字”を描くように走行する。最下面に至り、心室中隔面にきた時点で2本に分かれる。基本的な灌流域は、刺激伝導系、(C:右室・左室)および左室 (D:   )壁と考えておくと良い。解答はこちらA:三尖、B:右房室間、C:右室、D:下解説はこちら冠動脈の走行を理解するには、血管用に作られた溝について理解することが大事です。直交する道路で地理的な場所をとらえる“京都”的な考えであり、個人的には好きな思考法です(笑)。“冠動脈を理解するための2平面と溝”血管の話をしてるのに、なぜ溝(salcus)の話を持ち出すのって?…そう思いますよね。まあまあ、聞いてください。心臓を栄養するのが冠動脈の役割ですが、外側というか表面を走りつつ随所で枝を出します。腎臓や肝臓との違いは何でしょう? 直接中に入り込むのではなく、表面を伝って各所に外側から血液を提供する点です。このユニークな構造って…たしか、心臓と脳だけなんですってね。まず、冠動脈がどういう風に走っているのかを理解するのには大事な“平面”があります。これをおさえましょう。一つは心室中隔で、右室と左室とを分けている壁(面)、そして、もう一つは房室弁が乗っている平面です。房室弁とは、心「房」と心「室」をつなぎ目の「弁」ということで、ご存じ、三尖弁と僧帽弁があります。まぁ、言ってみたら“中隔面”と“房室面”ですかね(図3)。(図3)直交2平面を意識した右冠動脈の走行画像を拡大する実は、これらの面の一番外側(表層)に溝(ミゾ)3)があり、ここを冠動脈が走ります。3):個人的には“排水溝”のようなイメージ“右冠動脈の起始部の原則”このミゾを理解した上で、右冠動脈から考えていきましょう。右冠動脈は、右側の房室面のミゾ、正式には「右房室間溝」を“反時計回り”に走行します。三尖弁の周りをグルーッと大外に回って時計の“6時方向”(心臓の真裏)まで来れば“Cの字”完成です。道すがら、何本かの枝を出しますが、基本的に覚えておくべき重要なものは「右室」への枝になります。人によっては複数本ありますが、最低1本は鋭縁枝「AM:Acute Marginal branch」として知られます。三尖弁を回ってCの字の最終点、位置的には心室中隔一番後ろまで来ると、そのままの勢いで左室の裏側に回り込む枝(房室結節[または後側壁]枝)と“中隔面”の後ろ側のミゾ、すなわち「後室間溝」を走る枝(後下行枝)「PD」の2本に分岐するパターンが標準的だと思います。いいですか? “Cの字から2分岐”―これが右冠動脈のパターンです。房室結節(または後側壁)枝や後下行枝の灌流域は、反対の「左房室間溝」を走ってくる左回旋枝との“力関係”で決まります。右冠動脈と左回旋枝は互いに拮抗するのだと考えましょう。後室間溝を走り、左室の「下壁」へ血流を提供するのが後下行枝ですが、この部分は8~9割は右冠動脈が担うことが知られています。この枝は、心室中隔に突き刺さる枝を出し、後方3分の1を潅流する、なんて習いましたよね?4)4):前側の大半(目安:3分の2)は左前下行枝が担当する一方、房室結節や左室「側壁」や「後壁」と呼ばれるゾーンに侵入してゆく房室結節(または後側壁)枝は左回旋枝と“半分こ”か、むしろそちらに主導権を渡すことが多いようです。残りの細かい枝振りは循環器専門医でなければ不要ですが、一応載せておきましょう。【右冠動脈】(RCA:right coronary artery)*円錐枝(conus):右室流出路洞結節枝(sinus node):洞結節右室枝(RV):右室鋭縁枝(acute marginal)5):右室(自由壁)後下行枝(posterior discending):心室中隔(後1/3)房室結節枝/後側壁枝(AV nodal/posterolateral):房室結節ほか(側壁、後壁)*:「branch」は省略。以下同様5):循環器医が“アキュート・マージン”と呼んだりする。横隔膜を“なめる”ように沿って走り、右室の一部(側壁)を栄養する円錐枝については、専門家以外は暗記(意識すら)する必要はないと思いますが、最初の枝で肺動脈へとつながる右室の“ヤカンの注ぎ口”にあたる部分(右室流出路)を担当します。ほかに心房や、もっと大切なものとして、洞結節や房室結節にも血流を供給しているんですね。後二者とも回旋枝を経由した流れもあると思いますが、この2点は右冠動脈の影響が強いことが多く、右冠動脈閉塞時に徐脈性不整脈が起きやすいのにも納得でしょうか。右室枝は文字通り、そして鋭縁枝も右室に血流を供給します。標準的な右冠動脈造影をお示しします(図4)。(図4)右冠動脈造影画像を拡大するあまり煩雑にならないよう、“覚えなくて良い”と言った枝は(あえて)ラベルしていません。大筋でとらえると、房室弁に対峙するAでは頭に三尖弁を思い浮かべてたしかにCの字に回って最後に2分岐していますし、Bが心室中隔に向かい合う面で櫛(クシ)状の後下行枝がキレイに見えますね。【問題5】左冠動脈前下行枝は、(A:  )溝(右室と左室の間)を心尖部に向かって下っていく。途中、前方の(B:   )を栄養する何本かの中隔枝、および左室(C:   )壁などを灌流する対角枝を各々何本か出す。非常に発達している場合、心尖部から後室間溝に回り込み、左室(D:   )壁まで支配するケースも見られる。解答はこちらA:前室間溝、B:心室中隔、C:前、D:下解説はこちら左冠動脈のうち、左前下行枝から扱いましょう。これは、“3人戦隊!コロナ・レンジャー”ではセンターの赤色のヒーローです(笑)。もっとも大事な冠動脈のとも言えるこの血管の走行は非常にシンプルで理解しやすいです。“左前下行枝は冠動脈のエース”では、次に左冠動脈脈のうち前下行枝について話します。先ほども言ったように、左の冠動脈も最初は一本で、ちょっとして2本に分かれると考えましょう。そのうちの一本、冠動脈のエースと言えば、そう、左前下行枝です。循環器医は“エルエーディ”(LAD)とか略称で呼んだりしてますが、その血管はどういう走行、枝ぶりをしているのでしょうか。左前下行枝は、冠動脈のエースにふさわしく、ここが根元でやられると心臓の約半分がダメージを受けると言われています。非常に大事な血管です。ここでも、(心室)“中隔面”と“房室面”を意識しましょう(図5)。(図5)直交2平面を意識した左前下行枝の走行画像を拡大する左前下行枝は心臓のど真ん中、右と左の心室を分ける前側のミゾ、正確には「前室間溝」をレールとして使います。つまり、心室中隔の一番上、ダムで言う“天端”(マニア以外知らないかも…)を心尖方向に向かって下り落ちます。途中で出す枝の系統は大きく分けたら2通りあり、一つは心室中隔にグサッと突き刺さる「中隔枝」で、ここが右冠動脈の後下行枝を迎え撃つ前側3分の2くらいに血流を供給することになります。右冠動脈の後下行枝のちょうど反対側を走るので、これもクシのように見えるのが特徴です。左前下行枝の本幹以外のもう一系統はと言えば、対角枝(Dx)です。複数あったら(おおむね)出た順にD1、D2、D3…と表記し、“ダイアゴナル・ブランチ”なんて言いますかね。この枝は、左室の前面、つまり「前壁」を中心に、全例ではないものの(左)側方である「側壁」ゾーンを担当することもあります。画的に見ても、理解できると思います。さらに、とてつもなく大きな左前下行枝の話もしておきましょう。レールの終端である心尖部から後室間溝まで回り込むという例があり、その場合は左室「下壁」までを栄養してしまう“欲張り”ぶりを発揮することがあります。これはおさえておきましょう。“wrapped(あるいはwraps around)-LAD”というようです。ラップで“包み込む”感じね(笑)。以上、“エース”左前下行枝の走行は比較的シンプルで、灌流域に関してもバリエーションが比較的小さいと思います。【左前下行枝】(LAD:left anterior discending artery)中隔枝(septal):心室中隔(前2/3)対角枝(diagonal):左室前壁ほか(側壁)本幹:心尖ほか(下壁)【問題6】左回旋枝は、(A:三尖・僧帽)弁を“巻く”ように(B:  )溝(左房と左室の間)を走行し、右冠動脈の走行と対称的なイメージで良い。左室(C:   )壁および(D:   )壁が主な灌流域である。解答はこちらA:僧帽、B:左房室間、C:側・後、D:側・後解説はこちら最後に残った左回旋枝の走行を考えましょう。これも前述のミゾを理解していれば,走る場所はだいたいわかりますね?それを言葉で表現しただけの問題です。“左回旋枝は残りモノ担当”では、もう一本の左回旋枝のほうはどうでしょうか? これは通称“エルシーエックス”(LCX)、ないし“シーエックス”(Cx)という風に呼ばれます。基本的な理解としては、また例の溝の絵で、左回旋枝は、右冠動脈と反対側の「左房室間溝」を通って僧帽弁の周りを走ります。つまり、力士の“まわし”で例えますと、“右まわし”がRCA、“左まわし”がLCX、そしてLADは真ん中の“ふんどし”ないし“さがり”のような部分が守備範囲となるわけです。ボクの言ってる意味、わかります?そして、基本的に左回旋枝は、左室「側壁」、そして「後壁」に血流を送ることになります。これも左側方から後方に向かうイメージをつけておけばいいでしょう。左前下行枝と右冠動脈が担当する場所“以外”という、すき間産業的な印象を抱いてしまうのは、ボクだけでしょうか。主な枝は“オーエム”(OM:Obtuse Marginal)と呼ばれる鈍縁枝、そして右冠動脈にも似たような名前がありましたが、後側壁枝を出すと考えましょう。前者は主に「側壁」、後者は文字通り「側壁」+「後壁」ゾーンを流れると考えて良いと思います。まとめて“marginal branches”と呼んでしまえば、左側後方に向かうイメージそのものです。左回旋枝に関しても、枝振りをまとめておきましょう。【左回旋枝】(LCX:left circumflex artery)鈍縁枝(obtuse marginal)後側壁枝:側壁(・後壁)後下行枝(PD):下壁(左優位の場合)左冠動脈造影も標準的な画像を二方向で示しておきます(図6)。(図6)左冠動脈造影画像を拡大する図6の中隔面と平行なAでは、ジェットコースター的なLADの走行や中隔枝の様子がわかりやすいです。一方の房室面に対峙するBの断面は、前側壁に流れる対角枝と僧帽弁を巻き、ほとんど同じゾーンに枝を出す回旋枝の様子もわかってもらえると思います。このように考えると、冠動脈造影も別に難しいことはないわけです。“さいごに”今回は冠動脈の基本中のキホンを一緒に学びましたね。この知識が何に生かせるのかを述べて今回のレクチャーを終わろうと思います。それは次のまとめの図と関連します。(図7)冠動脈と心電図誘導[まとめ]画像を拡大する心電図の世界では“誘導”は“目”と言い換えるのでしたよね。この表は、「ST上昇」や「異常Q波」がどの誘導にあったら、「~壁梗塞」でどこの血管がつまっているという対応を示しています。今日学んだ知識を習得していれば、V2~V4誘導あるいはV1誘導を含めた「前壁(中隔)梗塞」の場合、閉塞した血管は左前下行枝かなぁと思えるでしょう。一緒にII、III、aVFにも「ST上昇」があったら、ドデカいLADなんだろうなぁ…なんて予想ができるはず。ほかに、「下壁梗塞」は単独なら概ね右冠動脈ですし、そのほか「側壁」や「後壁」が組み合わさっても、左回旋枝とのどちらかだろうなぁと予想ができると思います(現実的には心電図だけでの両者の厳密な鑑別は難しい) 。実際には、複数の血管の“力関係”が拮抗するゾーンもあるため、画一的かつ確実な予想は容易ではありません。もちろん、これはあくまでも“目安”です。心筋梗塞の患者さんに対峙したとき、心電図を使って詰まっている血管を当てる“ゲーム”が本題ではなく、その何倍、いや何十倍、やるべき大事な事がありますので、現実ではDr.ヒロはあまり“予想屋”はしないと心に決めています。以上、基本といいながら、冠動脈に関してまあまあちゃんとした知識をつけるレクチャーになったのではないでしょうか。年末年始を利用して復習してみてくださいね。本年もご愛読ありがとうございました。2021年からはペースは不定期となりますが、有用な情報が提供できれば嬉しいです。Young PM. AJR Am J Roentgenol. 2011:197;816-826.Villa AD, et al. World J Radiol. 2016:8;537-555.【古都のこと~延暦寺:文殊楼】前回に引き続き、今回も比叡山延暦寺の話をしましょう。今回ご紹介するのは「文殊楼」(もんじゅろう)で、国の重要文化財です。延暦寺発祥の地である東塔(とうどう)にあり…というか、根本中堂を出てすぐの長くてキツイ石段を登ったところにあります。ここは868年(貞観8年)、慈覚大師円仁が「常坐三昧院」として創建したもので*1、比叡山の総門(いわゆる正門)です。1668年(寛文8年)に焼亡した直後に再建されたものが現在のもので、唐様がちりばめられる中に和様も忘れない折衷様式となっています。楼上には文殊菩薩がまつられ、今では合格祈願スポットとしても有名です。谷崎潤一郎の小説*2にも登場するというのは知らなかったなぁ。“忍者屋敷”を思わせる階段を登るには手の力が相当いります。内部はもとより、全体的な佇まいも素敵。ぜひ、皆さんにも訪れて欲しい個人的お気に入りスポットです。*1:唐留学時代に修行した五台山の文殊菩薩堂に倣ったとされる。*2:『二人の稚児』。幼い頃から比叡山に預けられた千手丸と瑠璃光丸の兄弟が登場する。世間が恋しくなり脱走した兄は、残った弟も誘い出そうとするが、弟は御仏の恵みを受けるべく山に留まると返答する。手紙を届けた使者が崇高な瑠璃光丸を待ち続けた場所が文殊楼であった。

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TN乳がん1次治療でのipatasertib+ PTX、PIK3CA/AKT1/PTEN変異を持つ患者でPFS改善せず(IPATunity130)/SABCS2020

 PIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を持つ、手術不能な局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の1次治療において、経口AKT阻害薬ipatasertibとパクリタキセル(PTX)の併用は、PTXのみと比較してPFSの改善がみられなかった。シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏が、第III相IPATunity130試験コホートAの結果をサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)で発表した。 同治療法については、第II相LOTUS試験において無増悪生存期間(PFS)の改善が報告され、なかでもPIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を有する患者でより顕著な効果が得られていた。・対象:PIK3CA/AKT1/PTEN遺伝子変異を持ち、測定可能病変のある、手術不能な局所進行または転移を有する、化学療法未治療([術前]術後化学療法終了から12ヵ月以上)のTNBC患者(ECOG PS:0/1、タキサン単剤療法への適格性あり)・試験群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+ipatasertib 400mg(Day1~21)を1サイクル28日として投与(ipatasertib群)168例・対照群:PTX 80mg/m2(Day1、8、15)+プラセボ(Day1~21)(プラセボ群)87例・評価項目:[主要評価項目]治験責任医師評価によるPFS[主要副次評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性など・層別化因子:[術前]術後化学療法の有無、地域(アジア vs.欧州 vs.北米 vs.その他)、腫瘍の変異状態(PIK3CA/KT1 活性型変異 vs. PIK3CA/AKT1 活性型変異のないPTEN異常) 主な結果は以下のとおり。・2018年2月~2020年4月に計255例が登録され、ipatasertib群とプラセボ群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。・ベースライン時の患者特性は、[術前]術後化学療法歴有がipatasertib群48% vs.プラセボ群55%、手術不能・局所進行がんが21% vs.13%。PD-L1陽性が29% vs.40%、PIK3CA /AKT1活性型変異を有する患者が両群とも51%で、両群間で有意な差がある項目はなかった。・追跡期間中央値8.3ヵ月において、主要評価項目のPFS中央値は、ipatasertib群7.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~8.5) vs.プラセボ群6.1ヵ月(95%CI:5.5~9.0)であった(層別ハザード比[HR]:1.02、95%CI:0.71~1.45、log-rank検定のp=0.9237)。・ORRはipatasertib群39% vs.プラセボ群35%、CBRは47% vs.プラセボ群45%。・ipatasertib/プラセボによる治療期間中央値は5.9ヵ月 vs. 5.6ヵ月と差はみられず、PTX治療期間も両群で差はなかった。・安全性については、以前の報告と一致していた。 同試験ではOSのフォローアップが進行中のほか、ipatasertibによるベネフィットを受けうるバイオマーカーの探索が行われている。

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ガイドライン、報告書、意見記事、レビューでも利益相反の影/BMJ

 臨床ガイドライン、諮問委員会の報告書、意見記事、ナラティブレビューにおいて、金銭的な利益相反と薬品およびデバイスの推奨は関連しているとのシステマティックレビューによる調査結果を、デンマーク・オーデンセ大学病院のCamilla H. Nejstgaard氏らが報告した。ただし今回のレビューには、包含した研究に交絡リスクがあったこと、個々の文書の解析に統計学的に不正確な点があったことなどの限界があり、非金銭的な利益相反が推奨事項に影響を与えるかどうかは定かでないとしている。これまでの研究では、金銭的利益相反と推奨との関連は、重要な試験やシステマティックレビューでは認められることが報告されていたが、臨床ガイドライン、諮問委員会の報告書、意見記事、ナラティブレビューについては関連性の程度は明らかになっていなかった。BMJ誌2020年12月9日号掲載の報告。システマティックレビューで、利益相反と推奨との関連を調査 研究グループは、臨床ガイドライン、諮問委員会の報告書、意見記事(エディトリアルなど)、ナラティブレビューにおける、利益相反と薬品またはデバイスの推奨(たとえば推奨薬など)との関連を比較していた研究を対象としたシステマティックレビューを行った。適格研究はPubMed、Embase、Cochrane Methodology Register(創刊~2020年2月)、参考文献リスト、Web of Science、灰色文献で検索され、2人の著者がそれぞれデータを抽出し、試験の方法論的質を評価した。統合相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を、ランダム効果モデルを用いて算出(RR>1は利益相反のある文書がない文書よりも多くの推奨を有することを示す)。金銭的および非金銭的利益相反をそれぞれ解析し、4タイプの文書別に解析(事前に計画)および統合して解析(事後解析)した。関連性の相対リスクは各文書で1.20~2.62、統合解析で1.26 解析には、21の研究(臨床ガイドライン106本、諮問委員会の報告書1,809本、意見記事340本、ナラティブレビュー497本)が包含された。11の研究で非公表データ(8研究は完全データ、3研究は要約データ)を入手できた。一方で、15の研究では、比較文書が利益相反以外の要因(異なる薬品が異なる集団に使われたなど)によって異なる可能性があり、交絡リスクが認められた。 金銭的利益相反と推奨の関連性のRRは、臨床ガイドラインで1.26(95%CI:0.93~1.69、4研究・86本)、諮問委員会の報告書で1.20(0.99~1.45、4研究・629本)、意見記事で2.62(0.91~7.55、4研究・284本)、ナラティブレビューで1.20(0.97~1.49、4研究・457本)であった。 これらの調査結果は、4タイプの文書のすべてを統合した解析でも支持された(1.26、1.09~1.44)。 なお、専門分野について調査した1つの研究(臨床ガイドライン12本を包含)で、ガイドラインの著者に放射線科医を含めること、および乳がんのルーチンなスクリーニング推奨に、関連性が認められることが報告されていた(RR:2.10、95%CI:0.92~4.77)。

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IL-1阻害薬による残余リスク低減効果に期待(解説:佐田政隆氏)-1330

 rilonaceptはインターロイキン-1(IL-1)の可溶性受容体製剤である。IL-1α、IL-1β双方をトラップして阻害する。当初、関節リウマチでの応用が期待されたが、TNF阻害薬ほど劇的な効果は認められなかったという。希少自己免疫疾患であるクリオピリン関連周期性発熱症候群に対して、2008年にFDAによって承認されたが、日本や欧州では承認に至っていない。 原因不明の再発性心膜炎は、日常の循環器内科診療でたびたび遭遇する疾患である。心嚢穿刺など対症療法しかなく治療に難渋することが多い。本試験は、86人と比較的少数例を対象にした二重盲検第3相試験である。標準的治療を施しても再発する心膜炎の再発を、rilonaceptが有意に抑制した。今後、再発心膜炎への適応拡大が期待される。 さて、動脈硬化性疾患の2次予防、1次予防にスタチンが有効であることが確立している。しかし、スタチンによるリスク低下効果は3割程度であり、7割程度はLDLコレステロールを十分に低下させてもイベントが再発し、残余リスクと呼ばれ問題になっている。 動脈硬化の根本的病態は非感染性の慢性炎症であると20年以上前から提唱され、抗炎症薬が有効であることが期待されていた。積極的な2次予防治療後もCRPが高値の心筋梗塞既往例において、IL-1β中和抗体であるカナキヌマブが心血管イベントを抑制することを示したCANTOS試験が世界を驚かせたことが記憶に新しい。 rilonaceptが、同じIL-1阻害薬であるカナキヌマブと同じように動脈硬化性疾患の残余リスク低減に効果があるのではないかと期待される。今後の大規模臨床研究の結果が楽しみである。しかし、IL-1は、感染に対する生体防御のために必要な免疫の中心的な役割を担うサイトカインであり、その阻害による有害性を慎重に検討する必要がある。実際、CANTOS試験でも蜂窩織炎、致死的感染症、敗血症といった重篤な有害感染性イベントはカナキヌマブで有意に増加した。本試験でも50週程度の比較的短い期間で、注射部位反応と上気道感染症の有害事象がみられている。IL-1阻害治療の長期的安全性も、今後検討されなければならないであろう。

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治療抵抗性うつ病に対するケタミン静注の有効性~メタ解析

 治療抵抗性うつ病(TRD)患者の治療において、ケタミンによる治療が期待されているが、いくつかの問題点は、いまだ不明である。カナダ・コンコルディア大学のWalter S. Marcantoni氏らは、TRD患者に対するケタミン静脈内投与が、うつ病スコア、臨床的寛解および奏効率に及ぼす影響を評価し、時間および頻度の両方における有効性について検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2020年12月1日号の報告。 2019年1月4日までに、TRD患者に対する麻酔域下用量で用いたケタミン治療を評価した研究を5つの電子データベースより検索した。研究の選定、品質評価、データ抽出は、2人のレビュアーが独立して実施した。結果は、narrative synthesisで統合した。投与4時間後、24時間後、7日後のアウトカム測定値の標準化平均差およびオッズ比の調査が可能な場合には、変量効果モデルを用いてメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・35件の論文より28件の研究が抽出された。・ケタミンの強い効果は、単回投与4時間以内に認められ、24時間でピークに達した。・ケタミンの有効性は、投与7日後でも持続していたが、いくらかの低下は認められた。・複数回投与により、ケタミンの効果は増強、延長された。・TRD患者に対するケタミンの長期的な安全性および有効性は、データが不十分なため、調査されなかった。 著者らは「抑うつ症状の迅速なマネジメントに対し、ケタミン投与は支持された。TRD患者の短期治療においてケタミンは、有用であると考えられる。今後、ケタミン長期投与の有効性、耐性、安全性に関するより多くの臨床的および実験的データが求められる」としている。

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みんなで医療の働き方を考えよう

 AI問診サービスで医療現場の業務効率化をサポートするUbie株式会社は、医療従事者がより働きやすい医療現場づくりを実現すべく、『#みんなで医療の働き方会議』プロジェクトを勤労感謝の日である2020年11月23日より開始した。 同社共同代表取締役で医師の阿部 吉倫氏は「本プロジェクトを通じて、医療サービスを受ける一人ひとりの生活者にとって、よりよい社会の実現へ一歩近づくことを願う」と、プロジェクトへの思いを述べている。 2020年は世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、医師や看護師などの医療従事者は、今もその最前線で人々を守るために尽力している。そういった方々の今後の働き方について、社会全体で考えて改善できるきっかけとなることを本プロジェクトに期待したい。医師の残業時間の現状 「働き方改革関連法案」の改正により、企業の年間残業時間上限は720時間となったが、全国に約20万人いる病院勤務医の約4割は年間残業時間が960時間以上である。さらに、約1割の医師の年間残業時間は2,000時間を超えていた1)。この調査はコロナ禍以前に実施されたものであり、現状はより過酷であると推察される。医療従事者、その家族の働きやすい環境への期待 全国の医療従事者(医師・看護師・准看護師)118人と医療従事者の家族200人を対象に、同社が2020年10月に実施したアンケート※では、医療従事者の約7割が「勤務先の働きやすい環境づくりに期待したい」と回答した。また医療従事者の家族の約9割が「医療業に勤める家族の職場がもっと働きやすい環境になってほしい」と回答しており、医療現場の労働環境改善に対する強い要望があった。『#みんなで医療の働き方会議』プロジェクトの開始 医療現場の労働環境改善と、医療従事者が働きやすい現場の実現に向けた『#みんなで医療の働き方会議』プロジェクトは、2020年11月23日「勤労感謝の日」に開始された。医療従事者やその家族、そして患者として医療サービスを受ける生活者の立場から感じる、医療現場における働き方の課題・改善案を特設サイトやTwitter上で募集している。将来的には、賛同する全国の医療機関とこれらを共有し、実現に向けたアクションプランを共創する予定である。Twitterでトレンド入りも 本プロジェクトの立ち上げとともに、ハッシュタグ「#みんなで医療の働き方会議」がTwitterでトレンド入りし、現在も医療従事者の声が上がり続けている。新型コロナウイルスに伴う感染拡大の影響で、引き続き医療従事者にとっても厳しい状況が続く。感染症の影響が落ち着いた時に実現に向けたアクションプランが始まり、働きやすい医療現場が実現することが望まれる。【参考資料】1)厚生労働省 第16回 医師の働き方改革に関する検討会資料「時間外労働規制のあり方について(3)(議論のための参考資料)」(2019年[平成31年]1月)※アンケート調査概要<調査概要>「Ubie株式会社 全国の医療従事者の働き方に関する調査」・調査対象:全国の医療従事者男女20~59歳118人/全国の医療従事者の家族である男女20~59歳200人・調査時期:2020年10月・調査方法:インターネット調査プロジェクト特設サイト:https://ubie-thanksgiving-for-healthcare-professionals.studio.site/プロジェクト公式Twitter@Ubie_AI:https://twitter.com/Ubie_AI

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TN乳がん1次治療へのペムブロリズマブ上乗せ、化療レジメンによらず有効(KEYNOTE-355)/SABCS2020

 手術不能な局所再発または転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療において、併用する化学療法の種類によらず、ペムブロリズマブの追加で無増悪生存期間(PFS)を改善することが明らかになった。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)包括的がんセンターのHope S. Rugo氏が、第III相KEYNOTE-355試験の新たな解析結果をサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)で発表した。 同試験については、CPS≧10のPD-L1陽性患者におけるPFS中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法群9.7ヵ月 vs.化学療法単独群5.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.65、95%CI:0.49~0.86、片側p=0.0012)と有意に改善したことが報告されている。今回は、探索的評価項目(併用化学療法別のPFS中央値)ならびに副次評価項目(ORR、DOR、DCR)の解析結果が発表された。・対象:18歳以上の手術不能な局所再発または転移を有するTN乳がん(ECOG PS 0/1)847例・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンの3種類のうちいずれか)566例・対照群:プラセボ+化学療法 281例・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)およびITT集団におけるPFSと全生存期間(OS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性[探索的評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)およびITT集団における併用化学療法の種類による治療効果の一貫性 主な結果は以下のとおり。・併用化学療法別のPFS中央値[CPS≧10の患者]全体(323例):ペムブロリズマブ群9.7ヵ月 vs.化学療法単独群5.6ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.49~0.86)ナブパクリタキセル(99例): 9.9ヵ月 vs. 5.5ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.34~0.95)パクリタキセル(44例):9.6ヵ月 vs.3.6ヵ月(HR:0.33、95%CI:0.14~0.76)ゲムシタビン/カルボプラチン(180例):8.0ヵ月 vs.7.2ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.53~1.11)[CPS≧1の患者]全体(636例):7.6ヵ月 vs. 5.6ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.61~0.90)ナブパクリタキセル(204例):6.3ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.47~0.92)パクリタキセル(84例):9.4ヵ月 vs.3.8ヵ月(HR:0.46、95%CI:0.26~0.82)ゲムシタビン/カルボプラチン(348例): 7.5ヵ月 vs.7.5ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.66~1.11)[ITT集団]全体(847例):7.5ヵ月 vs. 5.6ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.69~0.97)ナブパクリタキセル(268例):7.5ヵ月 vs.5.4ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.51~0.93)パクリタキセル(114例):8.0ヵ月 vs.3.8ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.35~0.93)ゲムシタビン/カルボプラチン(465例):7.4ヵ月 vs.7.4ヵ月(HR:0.93、95%CI:0.74~1.16)・ORRはCPS≧10の患者で53.2% vs.39.8%、CPS≧1の患者で45.2% vs.37.9%、ITT集団で41.0% vs.35.9%であった。・ORRを併用化学療法別にみると、ITT集団のゲムシタビン/カルボプラチン併用を除いて(40.2% vs. 42.2%)、ペムブロリズマブ群で高かった。・DCRはCPS≧10の患者で65.0% vs.54.4%、CPS≧1の患者で58.6% vs.53.6%、ITT集団で56.0% vs.51.6%であった。・DOR中央値はCPS≧10の患者で19.3ヵ月 vs.7.3ヵ月、CPS≧1の患者で10.1ヵ月 vs.6.5ヵ月、ITT集団で10.1ヵ月 vs.6.4ヵ月であった。 Rugo氏は、サブグループ解析の結果、化学療法レジメンの種類によらずペムブロリズマブの上乗せによりPFSは改善し、またその治療効果はPD-L1発現状況に応じて高まる傾向がみられると結論付けた。ディスカッサントを務めた米国・NYU Langone Medical CenterのSylvia Adams氏は、併用する化学療法レジメンの比較については、本サブ解析結果のみで判断するのはエビデンスとして十分ではないと述べている。

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HIV維持療法、長時間作用型注射剤2剤併用2ヵ月ごと投与は?/Lancet

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者において、長時間作用型注射剤cabotegravirと長時間作用型注射剤リルピビリンの2剤併用の8週ごと投与は、4週ごと投与と比較し有効性および安全性プロファイルは類似していることが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のEdgar T. Overton氏らの「ATLAS-2M試験」で明らかとなった。cabotegravir+リルピビリン2剤併用投与については、第II相試験で8週ごと投与と4週ごと投与の有用性が示唆され、第III相試験で4週ごと投与の経口抗レトロウイルス療法に対する非劣性が検証されたことから、8週ごと投与のさらなる評価が求められていた。結果を踏まえて著者は、「HIV-1感染患者の治療選択肢として、より簡便なcabotegravir+リルピビリンの2ヵ月ごと投与の使用は支持される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年12月9日号掲載の報告。cabotegravir+リルピビリン8週ごと投与の有効性と安全性を、4週ごと投与と比較 ATLAS-2M試験は、HIV-1感染患者の維持療法としてcabotegravir+リルピビリン8週ごと投与(cabotegravir 600mg+リルピビリン900mg)の4週ごと投与(cabotegravir 400mg+リルピビリン600mg)に対する非劣性を検証する第IIIb相無作為化非盲検非劣性試験。現在、13ヵ国(オーストラリア、アルゼンチン、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、メキシコ、ロシア、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、米国)で行われている。 対象は、初回または2回目の標準的な経口レジメンを、連続して最低6ヵ月以上受けており、ウイルス学的失敗のない18歳以上のHIV-1感染患者で、ATLAS試験からの参加者はATLAS-2M試験のスクリーニング時に血漿中HIV-1 RNAが50コピー/mL未満で52週間の比較試験期を完遂した患者とした。対象患者を、cabotegravir+リルピビリンの8週ごと投与群または4週ごと投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、48週時点のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合(非劣性マージンは4%)であった。48週時のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は非劣性 2017年10月27日~2018年5月31日に1,149例がスクリーニングを受け、このうち1,045例が8週ごと投与群(522例)と4週ごと投与群(523例)に無作為化され治療を受けた。患者背景は、37%(391例)がATLAS試験のcabotegravir+リルピビリン4週ごと投与群から移行した患者であり、年齢中央値は42歳(四分位範囲:34~50)、女性(出生時の性別)は27%(280例)、白人は73%(763例)であった。 48週時点のHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は、8週ごと投与群2%、4週ごと投与群1%、補正群間差0.8(95%信頼区間[CI]:-0.6~2.2)で、8週ごと投与は4週ごと投与に対して非劣性であることが検証された。ウイルス学的失敗(2回の測定で連続してHIV-1 RNA≧200コピー/mL)は、8週ごと投与群8例(2%)、4週ごと投与群2例(<1%)で確認された。8週ごと投与群では8例中5例(63%)、ベースラインでリルピビリンに対する耐性変異ウイルスが検出された。 安全性プロファイルは両群で類似しており、1,045例中844例(81%)に有害事象(注射部位反応を除く)が発現した。治療に関連した死亡は確認されなかった。

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なぜ・どうやって患者に禁煙をすすめるか?/日本肺癌学会

 11月に行われた第61回日本肺癌学会学術集会では、「禁煙を通して肺がん撲滅をめざす」と題したシンポジウムが行われ、この中で岡山済生会総合病院 がん化学療法センター長の川井 治之氏が「呼吸器内科医はなぜ・どうやって患者に禁煙をすすめているのか」と題した講演を行った。 冒頭に川井氏は、患者に禁煙を薦める理由として 1)喫煙は多くの呼吸器疾患の原因や悪化因子となる 2)がん治療への悪影響がある 3)がん治療後の2次(原発)がんの発生要因となる という基本事項を確認した。 1)について、今年に入って注目されたトピックスとして、COVID-19と喫煙の関係を紹介し、最新の研究を踏まえると「喫煙者は非喫煙者と比較して約2倍、新型コロナ感染症で重症化しやすい」1)というデータを共有した。 2)について、手術においては術後合併症発生率・術後死亡率・再手術の発生率がいずれも上がること、抗がん剤治療においてはイリノテカン・エルロチニブの全身曝露量を低下させ効果を減弱させる、シスプラチンの作用によるアポトーシスを阻害して耐性をもたらす、放射線治療においては治療効果の低下、治療関連毒性の増加など、各治療において広範囲に及ぶ悪影響があることを紹介した。さらに、小細胞肺がんの放射線化学療法中に喫煙を継続した場合、5年生存率が5%低下する2)、喫煙が肺がんの脳転移リスクを上昇させる3)といった研究結果も紹介した。 3)の喫煙関連の2次がんのリスク増については、喫煙者は治療後の肺がん発症リスクが6~24倍になること4)、2次がん発症のリスクが76%増加すること5)を指摘した。さらに診断時、3年以内に禁煙していた場合、現在の喫煙者と比較して死亡リスクが11%減少するというデータ6)を紹介し、喫煙の有害性、禁煙の有効性を改めて訴えた。相手に合わせて言葉を変え、あらゆる機会に介入 続けて、実際に診療にあたってどのように患者に禁煙をすすめるのかという点について、自身の実践を踏まえて紹介した。 初診時は、カルテのバイタルサイン欄に喫煙歴のチェック欄を設け、診療時に医療者が喫煙について触れる機会をつくる試みを紹介。この際、過去に喫煙歴のある患者は「(現在は)喫煙していない」と回答しがちなので、過去の喫煙歴も必ず聞くとよい、とアドバイスした。  「検診の胸部異常陰影で受診したが、CTでは異常がなかった」というケースの診療時では、「肺がんでなくてよかったですね。でもこのままタバコを吸っていると6人に1人は肺がんになります。良い機会ですから禁煙しませんか?」と伝え、40歳以下の患者であれば「喫煙者は寿命が10歳短くなりますが、今禁煙すれば寿命に対する影響をほぼなしにできますよ」と相手に響く言葉を添えたうえで禁煙外来につなぐことを紹介した。 さらに、非専門医が禁煙をすすめる際の手引きとして日本肺癌学会が翻訳・公開するNCCNガイドラインを推奨、自身のブログ・SNSを使った禁煙についての情報発信も紹介し、一般向けにわかりやすく禁煙の大切さを伝える重要性を訴えた。■参考1)Patanavanich R , et al. Nicotine & tobacco research. 2020 ;24:22;1653-1656.2)Videtic GMM, et al. J Clin Oncol. 2003;21:1544-9.3)Wu SY, et al. Int J Clin Exp Med. 2020;03:2174)The Health Consequences of Smoking—50 Years of Progress: A Report of the Surgeon General5)Tabuchi T, et al. Ann Oncol. 2013;24:2699-27046)Tabuchi T, et al. Int J Cancer. 2017;140:1789-1795.

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早期TN乳がんの術前化療+アテゾリズマブにおける患者報告アウトカム(IMpassion031)/SABCS2020

 未治療の早期トリプルネガティブ(TN)乳がんの術前化学療法に、免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブの追加を検討したIMpassion031試験における患者報告アウトカムの解析結果が報告された。米国・Brigham and Women's Hospital Dana-Farber Cancer InstituteのElizabeth A. Mittendorf氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)で発表した。 本試験では、18歳以上で未治療のStageII~IIIのTN乳がん患者333例を、アテゾリズマブ(840mg、2週ごと)+nab-パクリタキセル(アテゾリズマブ群)またはプラセボ+nab-パクリタキセル(プラセボ群)に1対1で無作為に割り付けた。12週間(3サイクル)投与後、ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)との併用で8週間(2サイクル)投与し、手術を実施した。術後、アテゾリズマブ群はアテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと)を11回投与し、プラセボ群は経過観察を行った。主要評価項目の病理学的完全奏効(pCR)率については、PD-L1の有無にかかわらず、アテゾリズマブ群が57.6%とプラセボ群41.1%に比べて有意に改善(p=0.0044)したことがすでに報告されている。 患者報告アウトカムの測定は、EORTC Quality of Life Questionnaire Core 30(QLQ-C30)およびFunctional Assessment of Cancer Therapy-General(FACT-G)single item GP5の質問票を用いて、術前療法および術後療法の各サイクルのベースライン・1日目・治療終了時、観察期間には1年目は3ヵ月ごと、2~3年目は6ヵ月ごと、その後は年に1回実施した。 主な結果は以下のとおり。・両群のQLQ-C30完了率(ITT解析)は、ベースラインは100%、術前療法期間では90%以上、術後療法期間(16サイクルまで)では89%以上、GP5完了率は、ベースライン(2サイクル1日目)で98%以上、術前療法期間および術後療法期間で88%以上であった。・ベースラインの平均値(95%CI)は、身体機能がアテゾリズマブ群91%(89~93)、プラセボ群90%(88~92)、役割機能がアテゾリズマブ群89%(86~93)、プラセボ群89%(86~92)、健康関連(HR)QOLがアテゾリズマブ群79%(76~82)、プラセボ群76%(73~79)と高かった。・16サイクルまでの治療評価期間、観察期間を通じ、身体機能、役割機能、HRQOLの平均値とベースライン値からの平均変化は両群で類似していた。・平均身体機能は、両群で3~5サイクル目の術前療法期間中に臨床的に重要な低下を示したが、術後療法期間に回復し、7サイクル目の開始を安定させた。・平均役割機能は、アテゾリズマブ群では2サイクル目から、プラセボ群では3サイクル目から5サイクル目までの術前療法期間で臨床的に重要な低下を示したが、術後療法期間に回復し、プラセボ群のみ9サイクル目で安定した。・平均HRQOLは、両群で3~5サイクル目の術前療法期間で臨床的に重要な低下を示したが、術後療法期間で回復し、6サイクル目から安定した。・術前療法期間の疲労、下痢、悪心・嘔吐は、機能およびHRQOLにおけるベースライン値からの平均および平均変化と類似した傾向で、両群とも5サイクルを通じて悪化した。術後療法期間の平均症状スコアは、疲労を除いて両群ともベースラインと同様であった。 Mittendorf氏は、「両群の治療関連症状は類似しており、化学療法へのアテゾリズマブの追加は新たな副作用はみられず忍容性があった。この解析結果から、nab-パクリタキセル後にACを投与する術前化学療法にアテゾリズマブを追加することで、患者に新たな治療負担を与えることなくpCRを改善することが示された」と述べた。

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第37回 「論文は査読前ですので…」、時代遅れ過ぎる閣僚たちのコメント

「Go To トラベル」、全国一斉停止へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。私は今週末も自粛して、スポーツ観戦で過ごしました。楽しみにしていたのは、ゴルフの全米女子オープン、ではなく、アメリカンフットボールの大学日本一を決める甲子園ボウルです。12月13日に行われた甲子園ボウルは、関西学院大対日本大の対戦でした。ユニフォームの色から「青対赤」と呼ばれる伝統の一戦です。日大は2017年の悪質タックル問題で、18年度は公式戦出場停止、19年度は下位リーグ降格と厳しい状況が続きましたが、立命館大OBの橋詰 功監督の下、再び力を取り戻し、今年度1部リーグに復帰、甲子園ボウル出場を決めたのです。試合相手が悪質タックルを行った関学大であり、“被害者”であったクオーターバックの奥野 耕世選手も出場するということで、“因縁対決”と話題になりました。結果はランとパスを自在に使い分け6つのタッチダウンを奪った関学大が、42対24で日大を下しました。関学大の圧勝でしたが、あの日大が甲子園ボウルに戻ってきたことに感慨深いものがありました。日大フェニックスは1989年〜1991年、故・篠竹 幹夫監督の下、甲子園ボウルどころか、社会人チームと対戦し、日本一を決めるライスボウルで3連覇しています。フェニックス(不死鳥)のように、再び強い日大となって、社会人を倒す日がやってくることを願っています。さて、新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。政府はやっと重い腰を上げて、「Go To トラベル」を12月28日から全国一斉に一時停止することを決めました。すでに停止している北海道・札幌市と大阪市については延長、27日までは東京と愛知・名古屋市が新たに停止対象とされました。国の「経済優先」という強い意向はわかるのですが、そこにこだわるあまり、これまでなぜ「Go To トラベル」を継続したのか、一時停止の対象が一部の大都市だけだったのか、政府が国民に対して理論だった説明をしてこなかったことを、とてももどかしく感じます。それにしても、今から12日後の28日からの一斉停止で大丈夫なのでしょうか。とても心配です。「Go Toトラベル」利用者のほうが関連症状多い12月7日、「GoToトラベル」を利用した人は新型コロナへの感染リスクが高いとする調査結果を東京大学や大阪国際がんセンターなどの共同研究チームが発表、新聞やテレビなどの各メディアが報道し、話題となりました。しかし、こうした研究成果に対し、政府は正対した意見を言いません。印象的だったのは、閣僚たちの「査読前の論文ですので…」というちょっと“時代遅れ”のコメントです。この研究は、東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士・助教、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部の田淵 貴大・副部長らによるもので、12月4日付でプレプリント・サーバー「medRxiv (メッドアーカイヴ)」に「査読前原稿」(This article is a preprint and has not been peer-reviewed)の記載とともに公開されました1)。その概要は以下のようなものです。同研究チームは、15〜79歳を対象とした大規模なインターネット調査を2020年8月末〜9月末に実施。2カ月以内の「Go Toトラベル」の利用経験と、過去1カ月以内の新型コロナを示唆する「発熱」「咽頭痛」「咳」「頭痛」「嗅覚/味覚異常」の経験の割合との関連性の調査を行いました。その結果、性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上での数字は、発熱:利用者4.8% vs.非利用者3.7%、咽頭痛:20.0% vs.11.3%、咳:19.2% vs.11.2%、頭痛:29.4% vs.25.5%、嗅覚/味覚異常:2.6% vs.11.7%だった、とのことです。つまり、「Go Toトラベル」を利用したことがある人は、利用経験のない人に比べて、より多くの人が関連症状を認めていたことがわかったのです。研究チームは、「Go Toトラベル」の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示す結果であり、「Go Toトラベル」が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることが示唆された、としています。高齢者や基礎疾患のある人を外すのは有効ではない?さらに、「Go Toトラベル」利用者の有症率については、65歳以上の高齢者よりも65歳未満の非高齢者が顕著であったことや、基礎疾患の有無によって「Go Toトラベル」利用者の有症率は変わらないことも示唆されたとしています。こうした結果から、高齢者や基礎疾患のある人を「Go Toトラベル」の対象外とするこれまでの方法は、新型コロナの感染拡大防止にあまり有効ではない可能性がある、としています。なお、同研究は発症ではなく症状を聞いただけであることや、「Go Toトラベル」利用と症状の発生率との間の時系列的関係が不明であることなどから、研究として限界があることを踏まえつつも、「感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待される」としています。「査読も終わっておらず評価のしようがない」この調査結果に対する関係閣僚たちのコメントを各紙の報道から拾ってみました。「エビデンスといえるものなのかどうなのか、ちょっと査読も終わっていないという話ですし。評価のしようがない」(田村 憲久厚生労働相)。「著者以外の専門家から科学的検討、査読を受ける前段階のもの。慎重な評価が必要」(西村 康稔経済再生担当相)「正式に査読前という話もありましたし。現時点では全くコメントする段階でない」(赤羽 一嘉国土交通相)。「著者自らも、研究方法の限界として、『Go Toトラベル』の利用が、直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できないと書いている。引き続き、専門家の意見を伺いながら事業を適切に運用していく」(加藤 勝信官房長官)。査読前、という点に“こだわる風”を装う閣僚が何人もいた点がとても興味深いです。査読前論文とは、そんなに価値が低いものなのでしょうか?拡大する「プレプリント・サーバー」論文が正式に公開されるまでには、査読と修正等を含め、長い時間と手間暇がかかります。そのため、査読の過程を経ないで素早く論文を公開できる「プレプリント・サーバー」という仕組みが、広がりを見せています。「medRxiv」もその1つです。プレプリント・サーバーは、1990年代から数学・物理学分野やIT分野を中心に利用され始めました。近年は、研究成果の共有といった意味合いから、生命科学や医学分野でも、研究者に広く使われるようになってきています。とくに、新型コロナウイルス感染症については、研究成果を論文発表まで読めないのでは、感染症対策を世界レベルで進めていく意味でもマイナスです。今回のコロナ禍で、医学分野のプレプリント・サーバー利用や注目度が今まで以上に進んだ、との見方もあります。ちなみに生命科学、医学分野では紹介した「medRxiv」(2019年開始)と「BioRxiv(バイオアーカイヴ)」(2013年開始)が代表的です。時代遅れでダサい対応もちろん査読前ですから、過誤や捏造が含まれている可能性はそれなりに高いと言えます。とは言え、「査読された論文だから大丈夫」とも言えない現実があります。世界的な研究者数の増大と論文数の増加で査読者の絶対数が不足しており、査読完了までの時間が非常に長くなっています。また、査読者による研究成果盗用などの不正、さらには権威ある論文誌の高額な掲載料などもかねてから問題視されています。そういったさまざまな理由から、多くの分野でプレプリント・サーバーの存在感が増してきているわけです。「査読前だから」という理由だけで「参考にならない」という考え方は、もはや古過ぎると言えるでしょう。これからは、いち早く発表された研究成果が、正しそうかどうかを自分たちで判断し、必要ならば参考にするという姿勢が、研究者のみならず、政策を担当する人間にも必要でしょう。「やるべきことをスピード感を持って、ちゅうちょなく実行に移す」(内閣発足1ヵ月後の菅総理の言葉)はずの政権が、単純に「査読前だから」を理由にしていたのは、ちょっと時代遅れでダサいですね。もっとも、12月11日のニコニコ生放送の番組「菅 義偉総理が国民の質問に答える生放送」の番組冒頭の菅総理の「みなさん、こんにちは。ガースーです」の挨拶も、相当時代遅れでダサかったと思いますが…。参考1)Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection. medRxiv. December 05, 2020.

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再発スコアの低いリンパ節転移陽性閉経後早期乳がん、術後化学療法は回避可能か(RxPonder)/SABCS2020

 リンパ節転移1~3個でオンコタイプDX乳がん再発スコアが0~25の閉経後早期乳がん患者において、術後内分泌療法への化学療法追加のベネフィットが認められなかったことが、RxPonder試験(SWOG S1007)の中間解析で示された。米国・エモリー大学のKevin Kalinsky氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2020)で発表した。RxPonder試験は、米国国立がん研究所(NCI)の支援でSWOG Cancer Research Networkが主導している前向き無作為化第III相試験。RxPonder試験で閉経後の患者に化学療法追加のベネフィットがないことが示唆された RxPonder試験の対象は、ホルモン受容体陽性HER2陰性でリンパ節転移1~3個の18歳以上の早期乳がんの女性。再発スコア0~25の女性を内分泌療法単独群と内分泌療法後に化学療法を追加する群に1:1で無作為化し、再発スコア(0~13と14~25)、閉経状態、リンパ節の術式(リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検)で層別化した。主要な目的は、化学療法が無浸潤疾患生存期間(iDFS)に及ぼす影響と、その影響が再発スコアに依存するかどうかの評価であった。 RxPonder試験の中間解析で示された主な結果は以下のとおり。・2011年2月28日~2017年9月29日に登録された9,383例のうち5,083例(54.2%)が無作為化され、追跡期間中央値5.1年で、447のiDFSイベントが認められた。・化学療法のベネフィットと再発スコアの交互作用は統計学的に有意ではなかった(p=0.30)。・化学療法・再発スコア・閉経状態を含むモデルにおいて、再発スコアが高いほうがiDFSが悪化し(HR:1.06、p<0.001、95%CI:1.04~1.07)、化学療法がiDFSの改善と関連していた(HR:0.81、p=0.026、95%CI:0.67~0.98)。・事前に設定された解析で、化学療法と閉経状態の間に有意な交互作用が確認され(p=0.004)、閉経状態による解析を行った。・閉経後の患者(3,350例、67%)においては、再発スコアを調整すると、内分泌療法単独群に対する化学療法追加群のHR(0.97)は有意ではなく(p=0.82、95%CI:0.78~1.22、 5年iDFS率:91.6% vs.91.9%)、化学療法追加のベネフィットがないことが示された。・閉経前の患者(1,665例、33%)においては、内分泌療法単独群に対する化学療法追加群のHR(0.54)が統計学的に有意であり(p=0.0004、95%CI:0.38~0.76、5年iDFS率:94.2% vs.89.0%)、化学療法追加のベネフィットが示された。 これらのRxPonder試験の結果から、Kalinsky氏は「現時点のデータでは、リンパ節転移が1~3個で再発スコアが0~25の閉経後患者では、iDFSを悪化させることなく化学療法を回避することが可能だろう。一方、リンパ節転移陽性で再発スコアが0~25の閉経前患者は化学療法で有意なベネフィットがあるようだ」と述べた。

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HFpEFに対するsGC刺激薬の効果―VITALITY-HFpEF試験を読み解く(解説:安斉俊久氏)-1329

 VITALITY-HFpEF試験では、6ヵ月以内に心不全増悪の既往を有する左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)を対象にして、可溶型グアニリル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬であるvericiguat 10mg/日あるいは15mg/日を24週間投与した際の生活の質(QOL)ならびに運動耐容能に対する効果が、多施設共同第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験として検証された。結論としてvericiguatの有効性は示されず1)、HFpEFに対する臨床試験としては、またしてもネガティブな結果に終わった。 本研究に先立って行われたSOCRATES-PRESERVED試験では、HFpEFに対するvericiguatの12週間投与がN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値および左房容積に及ぼす効果について検証された。プライマリエンドポイントにvericiguat投与群とプラセボ群間で有意差を認めなかったが、探索項目として調査されたカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)によるQOL評価値が、vericiguat 10mg/日投与群においてプラセボ群に比べ有意に改善した2)。このことにより、より長期の24週間にわたって10~15mg/日の高用量を投与する本研究はQOLを改善させ、同時に運動耐容能を改善するのではないかと考えられた。しかしながら、今回の研究においてKCCQの身体制限に関するスコアや6分間歩行距離に有意な結果が得られなかっただけでなく、JAMA誌の同号に掲載されたCAPACITY HFpEF試験(Phase II)でも、sGC刺激薬であるpraliciguatは、HFpEFにおける最大酸素摂取量をはじめとした運動耐容能を改善するには至らなかった3)。 HFpEF患者の心筋生検標本を用いた検討においては、環状グアノシン3’,5’-1リン酸(cGMP)ならびにプロテインキナーゼG(PKG)活性の低下が報告されており4)、加齢や、糖尿病、高血圧、肥満などのHFpEFに多く認める併存症によって血管内皮機能が障害され、一酸化窒素(NO)の生物学的利用能が低下することが原因と考えられてきた5)。PKGの活性低下は左室の肥大・線維化を介して拡張機能障害をもたらすことから、NO-cGMP-PKG経路が治療標的として着目されるに至った。 しかしながら、HFpEFの左室における圧容積曲線の特性上、血管拡張作用を有する薬剤は、過降圧や一回拍出量低下などを来すことにより、むしろ血行動態を悪化させてしまう可能性が指摘されており6)、これまでの血管拡張作用を有する薬剤を用いた大規模臨床試験では、いずれも有意な結果が得られていない。本試験においても、症候性低血圧の出現頻度は、vericiguat 15mg/日、10mg/日、プラセボの各群で、6.4%、4.2%、3.4%とvericiguat高用量投与群において高率に発生している。血行動態にまで悪影響をもたらしたかどうかは不明であるが、QOL改善に至らなかった一因と考えられる。 NO-cGMP-PKG経路の障害は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の全身ならびに冠動脈における血管平滑筋細胞に生じており、前・後負荷増大とともに心筋虚血を悪化させている7-9)。cGMPを増加させるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)やsGC刺激薬はHFrEFの予後を改善することが報告されているが10,11)、冠動脈疾患の合併が比較的少なく、血管拡張薬によって血行動態の改善が得られにくいHFpEFでは、sGC刺激薬の効果が十分に得られなかった可能性が考えられる。また、sGC刺激薬以外にも、経口硝酸薬やホスホジエステラーゼ5阻害薬、ARNIを用いた研究が過去に行われているが、いずれも有意な結果が得られていない12-15)。PKG活性の低下から心筋肥大・線維化を呈し、すでに症候性となっている段階では、NO-cGMP-PKG障害が治療標的とはなり得なかった可能性もある。ただし、病態によっては有効な可能性も否定できず、多様な病態を持つHFpEFに対しては、ディープフェノタイピングに基づいた精密医療が今後は必要になるものと考えられる。引用文献1)Armstrong PW, et al. JAMA. 2020;324:1512-1521.2)Pieske B, et al. Eur Heart J. 2017;38:1119-1127.3)Udelson JE, et al. JAMA. 2020;324:1522-1531.4)Komajda M, et al. Eur Heart J. 2014;35:1022-1032.5)Emdin M, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;76:1795-1807.6)Schwartzenberg S, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;59:442-451.7)Kubo SH, et al. Circulation. 1991;84:1589-1596.8)Ramsey MW, et al. Circulation. 1995;92:3212-3219.9)Katz SD, et al. Circulation. 2005;111:310-314.10)Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020;382:1883-1893.11)McMurray JJ, et al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.12)Redfield MM, et al. N Engl J Med. 2015;373:2314-2324.13)Borlaug BA, et al. JAMA. 2018;320:1764-1773.14)Redfield MM, et al. JAMA. 2013;309:1268-1277.15)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.

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治療抵抗性うつ病に対する非定型抗精神病薬増強療法

 治療抵抗性うつ病の臨床症状として、自殺念慮や重度の機能障害が認められることがしばしばある。治療抵抗性うつ病の治療に対し、使用可能な薬剤の中で、第2世代抗精神病薬が有用であることが報告されている。イタリア・ミラノ大学のFilippo Cantu氏らは、治療抵抗性うつ病に対する第2世代抗精神病薬増強療法の有効性を評価するため、臨床研究のレビューを行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2020年11月5日号の報告。 2000年1月~2020年3月に公表された、治療抵抗性うつ病に対する抗精神病薬増強療法を評価したすべてのランダム化比較試験を、PubMed、Medline、PsychINFOより包括的に検索した。選択基準を満たした研究は16件であった。 主な結果は以下のとおり。・レビューした研究では、治療抵抗性うつ病に対してアリピプラゾール増強療法が有用である可能性が示唆された。・また、不安神経症や不眠症を合併した治療抵抗性うつ病に対するクエチアピン増強療法の使用も支持された。・治療抵抗性うつ病に対するリスペリドンとオランザピンの効果を検討した研究はあまりなかったが、予備データでは、プラセボよりも有用であることが示唆されており、治療選択肢となりうると考えられる。・本研究の限界として、治療抵抗性うつ病の定義が一貫していない、サンプルサイズが小さい、抗精神病薬の投与量が不均一である点が挙げられる。 著者らは「全体として、治療抵抗性うつ病に対する第2世代抗精神病薬増強療法、とくにアリピプラゾールとクエチアピンによる治療は、有用な治療選択肢であるという仮説を支持するものであった。しかし、治療抵抗性うつ病の治療アウトカムを改善するためには、サンプルサイズの大きな、質の高いランダム化比較試験が必要であると考えられる」としている。

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医師が選ぶ「2020年の顔」TOP5!(医療人、政治家部門)【ケアネット医師会員アンケート結果発表】

新型コロナの国内発生と流行、緊急事態宣言、東京五輪延期…本当にいろいろあった2020年―。今年を振り返ってみて思い浮かぶのは誰の顔でしょうか。ケアネットでは医師会員にアンケートを実施。535人の先生方にご協力いただき、選ばれた「今年の顔」は?今回は、医療人部門と政治家部門のTOP5をご紹介します!新型コロナのコメンテーター部門 、文化・芸能人部門 はこちら!医療人部門第1位 尾身 茂氏ダントツの得票数で第1位となったのは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議およびその後の分科会で、中心的役割を担っている尾身 茂先生。経験に裏付けされたリーダーシップはもちろん、記者会見などでは報道陣からの質問に根気強く答える姿も印象的でした。選んだ理由のコメント中には、「安定」や「信頼」という言葉が多く並びました。 「尾身 茂」氏を選んだ理由(コメント抜粋)指導者として信頼しています。(60代 産婦人科/大阪府)今年はこの人しかいないでしょう。(40代 内科/東京都)医療と政治の板挟みに苦悩しているところが印象に残った。(50代 精神科/神奈川県)第2位 忽那 賢志氏コメンテーター部門での1位に続き、医療人部門でも2位にランクイン。新型コロナの最前線で診療に当たる感染症専門医として、医師からの知名度と信頼度の高さが伺える結果となりました。国内での症例数があまり多くなかった段階から、エビデンスに自身の診療経験からの知見を織り交ぜ、わかりやすく解説されていた姿が印象に残った先生も多かったのではないでしょうか。 「忽那 賢志」氏を選んだ理由(コメント抜粋)臨床で活躍されており、経験、知識も豊富で、説明も論理的で分かりやすい。(40代 内科/埼玉県)最も信頼できるから。(40代 精神科/愛知県)さまざまなメディア、講演会などで見かける機会が多かったから。(20代 臨床研修医/滋賀県)第3位 岩田 健太郎氏ダイアモンドプリンセス号についてのYouTube動画の配信は、大きな反響を呼びました。選んだ理由についてのコメントでは、「世の中にインパクトを与えた」という声のほか、「良くも悪くも発信力があった」といった声も。現場の医療者が発信する情報として、その後も発信を継続的にチェックしていたという声もあがっています。 「岩田 健太郎」氏を選んだ理由(コメント抜粋)新型コロナウイルス感染症に関する行動および発言が際立っていた。(40代 精神科/北海道)現場の実態をわかっているから。(30代 糖尿病・代謝・内分泌内科/兵庫県)いい意味でも悪い意味でも印象に残ったから。(50代 神経内科/徳島県)第4位 西浦 博氏 「西浦 博」氏を選んだ理由(コメント抜粋)純粋に学問的見地からがんばっておられた。(40代 皮膚科/東京都)統計を介したモデルだが世間で議論するたたき台となった。(30代 膠原病・リウマチ科/北海道)コロナ対策で奮闘された。(20代 臨床研修医/東京都)第5位 山中 伸弥氏 「山中 伸弥」氏を選んだ理由(コメント抜粋)独自の視点で情報発信されているので。(50代 消化器内科/山口県)ツベルクリンの話に共感したから。(50代 産婦人科/愛媛県)政治家部門第1位 安倍 晋三氏憲政史上最長となる7年8ヵ月の長期政権を築き、今年9月に体調不良を理由に辞任した安倍 晋三前内閣総理大臣が第1位に。 アベノマスクや給付金支給などの施策を含め、先進諸国の中では結果的に感染者数を抑えたことを評価する声、体調を慮る声が多くみられました。持病とされる潰瘍性大腸炎に光を当てることにも貢献されたのではないでしょうか。 「安倍 晋三」氏を選んだ理由(コメント抜粋)日本で結果的に感染者を増やさなかったから。(30代 泌尿器科/福岡県 他多数)体調の悪い中リーダーとして可能なかぎりの仕事をされたと思います。(30代 耳鼻咽喉科/福岡県)在任時のさまざまな対策は今も続行されている。(50代 消化器外科/鹿児島県)第2位 吉村 洋文氏新型コロナウイルス感染拡大で各首長のリーダーシップが求められるなか、1975年生まれ45歳の大阪府知事はスピード感のある対応や発信力の高さで注目を集めました。ポピドンヨード入りのうがい薬を推奨した件では批判を浴びましたが、「何とか状況を改善しようと先頭に立って行動している」と評価する声が多く上がりました。 「吉村 洋文」氏を選んだ理由(コメント抜粋)誤った情報もあるが、責任ある立場でより良い方向を目指している姿勢が伝わるから。(30代 小児科/大阪府)第一波の時の対応の早さは今までの日本の政治家ではあまり見られなかったと思う。(40代 泌尿器科/兵庫県)フットワーク良く決断力がある。(40代 糖尿病・代謝・内分泌内科/京都府)第3位 菅 義偉氏第2次安倍政権が発足した2012年以降、長きにわたり官房長官を務めてきた菅氏が、安倍政権を引き継ぐ形で第99代内閣総理大臣に就任しました。突然の交代、そして新型コロナ感染症対応が求められる難しいタイミングでの就任となりましたが、官房長官としての第一波への対応経験に期待するコメントが多く寄せられました。 「菅 義偉」氏を選んだ理由(コメント抜粋)官房長官として初期対応から重責を担っていたから(20代 臨床研修医/滋賀県)安倍政権時代から比較的バランスのとれた政策、実行力が感じられた(40代 血液内科/宮城県)期待も込めて(40代 病理診断科/島根県)第4位 オードリー・タン(唐 鳳)氏 「オードリー・タン」氏を選んだ理由(コメント抜粋)封じ込めに成功した台湾のキーマンである。(40代 神経内科/茨城県)日本のITがいかに遅れているのかを気づかせてくれた。(30代 臨床研修医/福岡県)若くて頭も切れて素晴らしい。(40代 皮膚科/群馬県)第5位 蔡 英文氏 「蔡 英文」氏を選んだ理由(コメント抜粋)民主主義的な手法でコロナ収束に導いた。(30代 内科/広島県)初期のコロナ対策は見事。(30代 心療内科/東京都 他多数)★アンケート概要★アンケート名 :『2020年振り返り企画!さまざまな分野の「今年の人」を挙げてください』実施日    :2020年11月12日~19日調査方法   :インターネット対象     :CareNet.com会員医師有効回答数  :535件

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