サイト内検索|page:3

検索結果 合計:10239件 表示位置:41 - 60

41.

診療科別2025年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Pulsed Field or Cryoballoon Ablation for Paroxysmal Atrial FibrillationReichlin T, et al. N Engl J Med. 2025;392;1497-1507.<SINGLE SHOT CHAMPION試験>:心房細動へのアブレーション、パルスフィールドか冷凍バルーンか心房細動へのアブレーションは本邦でも普及しています。従来の高周波や冷凍バルーンによる熱的アブレーションは、組織特異性が低く心筋周辺組織への影響が問題でした。非熱的アブレーション法であるパルスフィールドアブレーションを評価した研究です。冷凍バルーンに比べ、パルスフィールドアブレーションが再発予防効果において非劣性を示しました。この新技術の普及に弾みがつくのか注目されます。Lorundrostat Efficacy and Safety in Patients with Uncontrolled HypertensionLaffin LJ, et al. N Engl J Med. 2025;392;1813-1823.<Advance-HTN試験>:治療抵抗性高血圧へのアルドステロン合成酵素阻害薬に注目コントロール不良の治療抵抗性高血圧への新規降圧薬であるアルドステロン合成酵素阻害薬のlorundrostat(ロルンドロスタット)を評価した研究です。24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性も許容範囲内にあると報告されました。難治性高血圧の患者は一定数存在します。循環器領域で血圧管理は本質的な命題であり、降圧薬開発は永続的なテーマです。Efficacy and safety of clopidogrel versus aspirin monotherapy in patients at high risk of subsequent cardiovascular event after percutaneous coronary intervention (SMART-CHOICE 3): a randomised, open-label, multicentre trialChoi KH, et al. Lancet. 2025;405;1252-1263.<SMART-CHOICE 3試験>:PCI患者のSAPTはクロピドグレルかアスピリンかPCI患者のDAPT完了後の抗血小板薬の単剤療法(SAPT)は、従来から慣れ親しんだアスピリンなのか、P2Y12阻害薬のクロピドグレルなのかは古くて新しい課題です。韓国で虚血イベント再発高リスク患者を対象にして施行されたこの無作為ランダム化試験では、クロピドグレル群で出血を増加させずに全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことを報告しました。Cardiac Arrest During Long-Distance Running RacesKim JH, et al. JAMA. 2025;333;1699-1707.<RACER 2研究>:マラソンでの心停止は減少も一定数発生、冠動脈疾患が最多マラソン中の心停止の発生率と転帰を調べた臨床研究。2012年にNEJM誌に発表されたRACER1研究の続報的な内容です。2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会での走行中の心停止事故は、2000~10年を対象としたRACER 1と比して発生率は同じでしたが心臓死は半減していました。原因は冠動脈疾患が最多でした。日本では市民参加型マラソン大会が全国各地で開催されており、参考になるデータと思われます。Phase 3 Open-Label Study Evaluating the Efficacy and Safety of Mavacamten in Japanese Adults With Obstructive Hypertrophic Cardiomyopathy - The HORIZON-HCM StudyKitaoka H, et al. Circ J. 2024;89:130-138.<HORIZON-HCM試験>:閉塞性肥大型心筋症の治療を変革する新規薬剤の日本人データ閉塞性肥大型心筋症(HCM)の選択的心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンの治療効果を日本人で検証した臨床研究です。30週の時点での有効性・安全性・忍容性について報告しています。2024年12月25日論文掲載であり、2024年下半期ではなく今回の2025年上半期での紹介となりました。2025年3月の日本循環器学会年次集会で54週のデータも報告されています。本邦の実臨床でも使用可能となったばかりの新規薬剤であり、今後も注目していきたいところです。

42.

がん診療に明日から役立つtips満載、第15回亀田総合病院腫瘍内科セミナー【ご案内】

 2025年7月20日(日)に、第15回亀田総合病院腫瘍内科セミナーが御茶ノ水での現地開催とWeb上のLIVE配信のハイブリッド形式で開催される。白井 敬祐氏(ダートマス大学腫瘍内科)、中村 能章氏(Department of Oncology, University of Oxford)、佐田 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学)を講師として迎え、がん診療における臨床推論、救急対応、感染症、コミュニケーション方法など幅広い領域を扱う。亀田総合病院腫瘍内科スタッフによる、ベッドサイドで役立つ「実臨床における思考過程」を解説する講座も用意されており、がん診療において明日から役立つtipsを学ぶことができる内容となっている。 開催概要は以下のとおり。開催日時:2025年7月20日(日)9:30~17:00※セミナー終了後には、御茶ノ水周辺で懇親会を予定(現地参加者のみ対象)場所:御茶ノ水ソラシティ対象:医学生、初期研修医、後期研修医、総合内科医 のほか、がん診療に興味を持っているすべての医療従事者定員:現地40人(数席追加予定)、オンライン200人受講料:現地参加・オンライン参加いずれも2,000円※現地参加の方には,昼食(お弁当)を用意※懇親会は無料で参加可能※いずれも事前振り込み申込締切:7月11日(金)※キャンセルポリシー7月11日(金)まで:全額返金(手数料申込者負担)7月12日(土)から:返金不可■参加登録はこちら◆セミナー参加者への特典◆・開催後に期間限定でオンデマンド配信を視聴可能・大山氏、白井氏、佐田氏も現地で講演予定。今後のキャリアなどに関する相談も可能(現地参加者のみ)。【プログラム】※スケジュールや講演内容は、一部変更になる可能性があります。9:00 開場9:30~10:20がん薬物療法のエッセンス(亀田総合病院腫瘍内科 部長 大山優)10:30~11:20チーム医療の31のTipsとがん診療で(以外でも)使える(かもしれない)裏技~すぐ怒る医者VSつっけんどんな看護師~(米国ダートマス大学腫瘍内科 教授 白井敬祐)11:30~12:00腫瘍×循環器~EFだけじゃだめですか~(亀田総合病院腫瘍内科 木村恵理)12:05~12:20 研修プログラム説明12:20~13:00 昼食13:00~13:30Oncologic Emergency~腫瘍救急24時~(亀田総合病院腫瘍内科 藤森賢)13:40~14:10がん患者のAdvance Care Planning(亀田総合病院腫瘍内科 横溝加奈子)14:20~15:10抗腫瘍療法における感染症診療update(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学 佐田竜一)15:20~15:50症例から学ぶ腫瘍免疫~irAEの多彩な世界~(亀田総合病院腫瘍内科 小口億人)16:00~16:50My Journey in Oncology:がんの克服を目指して(Department of Oncology, University of Oxford 中村能章)17:00 閉会18:00~20:00 @御茶ノ水付近懇親会(途中参加・退室可能)【お問い合わせ先】亀田総合病院腫瘍内科事務局e-mail:oncology.medical@kameda.jp

43.

バレット食道の経過観察、カプセルスポンジ検査が有用/Lancet

 英国・ケンブリッジ大学のW Keith Tan氏らDELTA consortiumは、食道全体から細胞を採取するデバイス(カプセルスポンジ)とバイオマーカーを組み合わせて、患者を3つのリスク群に層別化する検査法を開発し、英国の13施設にて2つの多施設前向きプラグマティック実装試験の一部として評価した結果、このリスク分類に基づく低リスクのバレット食道患者の経過観察では、内視鏡検査の代わりにカプセルスポンジを使用可能であることを明らかにした。内視鏡検査による経過観察はバレット食道の臨床標準であるが、その有効性は一貫していなかった。Lancet誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。臨床・カプセルスポンジいずれも陰性を低リスク群と定義 研究グループは、integrateD diagnostic solution for EarLy deTection of oesophageal cAncer (DELTA)研究およびNHSイングランド(National Health Service England[NHSE])の実装パイロット研究に参加した、非異形成バレット食道と診断され英国のガイドラインに従って経過観察を受けている18歳以上の連続症例を対象に、カプセルスポンジ検査を実施した。 採取したすべての検体はISO-15189認定検査施設にて中央評価し、年齢・性別・バレット食道長に基づく臨床バイオマーカーと、カプセルスポンジバイオマーカー(HE染色[正常、異形成、意義不明の異型]、ならびにp53染色[正常、不明瞭、過剰発現])に基づき、低リスク(両バイオマーカー陰性)、中リスク(臨床バイオマーカー陽性、カプセルスポンジバイオマーカー陰性)、高リスク(臨床バイオマーカーに関係なくカプセルスポンジバイオマーカー陽性[異形成またはp53過剰発現、あるいはその両方])に分類した。 主要アウトカムは、各リスク分類群における、治療を要する高度異形成またはがんの診断とした。低リスク群の高度異形成またはがんの有病率は0.4% 2020年8月~2024年12月に910例が登録された(DELTA研究505例、NHSE研究405例)。910例のうち138例(15%)が高リスク、283例(31%)が中リスク、489例(54%)が低リスクであった。 高リスク群において、あらゆる異形成またはがんの陽性的中率は37.7%(95%信頼区間[CI]:29.7~46.4)であった。高リスク群の中でも腺異型とp53異常の両方を有する集団は、高度異形成またはがんのリスクが最も高かった(低リスク群に対する相対リスク:135.8、95%CI:32.7~564.0)。 低リスク群における高度異形成またはがんの有病率は0.4%(95%CI:0.1~1.6)であり、あらゆる異形成またはがんの陰性的中率は97.8%(95%CI:95.9~98.8)、高度異形成またはがんの陰性的中率は99.6%(98.4~99.9)であった。 DELTA研究コホートにて機械学習アルゴリズムをテストしたところ、デジタル病理ワークフローの一環として機械学習アルゴリズムを用いることでp53病理診断を要する症例の割合を32%にまで減少させることができ、かつ陽性症例の見逃しはなかったことが示された。

44.

インスリン未治療の2型糖尿病、efsitora vs.グラルギン/NEJM

 インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において、insulin efsitora alfa(efsitora)週1回固定用量投与はインスリン グラルギン(グラルギン)1日1回投与と比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善に関して非劣性であることが示された。米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らQWINT-1 trial investigatorsが、米国、アルゼンチン、メキシコの71施設で実施した52週間の第III相無作為化非盲検treat-to-target試験「QWINT-1試験」の結果を報告した。これまでのtreat-to-target試験では、基礎インスリンの用量調整は少なくとも週1回、空腹時血糖値に基づいて行われてきたが、efsitoraは週1回投与の基礎インスリンであり、インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において有用である可能性があった。NEJM誌オンライン版2025年6月22日号掲載の報告。52週時のHbA1c変化量に関し、efsitoraのグラルギンに対する非劣性を評価 研究グループは、インスリン治療歴のない2型糖尿病の成人患者(18歳以上、HbA1c値7.0~10.0%、BMI値45.0以下)を、efsitora週1回皮下投与群(efsitora群)またはインスリン グラルギンU100の1日1回皮下投与群(グラルギン群)に1対1の割合で無作為に割り付け、52週間投与した。 efsitora群では、週1回100Uから投与を開始し、目標空腹時血糖値を80~130mg/dLとして、必要に応じて4週間ごとに150U、250U、400Uのいずれかの固定用量に調整した。グラルギン群では、同様の目標血糖値で、従来の投与アルゴリズムに従って週1回以上の頻度で用量調整を行った。 主要エンドポイントは、52週時のHbA1c値のベースラインからの変化量で、非劣性マージンは群間差の両側95%信頼区間(CI)の上限が0.4%とした。最小二乗平均変化量は-1.19%vs.-1.16%、群間差-0.03%(95%CI:-0.18~0.12) 2023年1月14日~2024年7月17日に1,148例がスクリーニングされ、適格基準を満たした795例が無作為化された(efsitora群397例、グラルギン群398例)。 HbA1c値は、efsitora群ではベースラインの8.20%から52週時には7.05%に低下し(最小二乗平均変化量:-1.19%)、グラルギン群では8.28%から7.08%に低下した(最小二乗平均変化量:-1.16%)。推定群間差は-0.03%(95%CI:-0.18~0.12)であり、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が示されたが、優越性は示されなかった(p=0.68)。 臨床的に重要な低血糖(54mg/dL未満)または重症低血糖(レベル3:治療のために介助を必要とする)の発現頻度は、efsitora群のほうがグラルギン群に比べて低かった(efsitora群0.50件/人年vs.グラルギン群0.88件/人年、推定発生率比:0.57[95%CI:0.39~0.84])。 52週時における平均インスリン総投与量は、efsitora群で289.1U/週、グラルギン群で332.8U/週(推定群間差:-43.7U/週、95%CI:-62.4~-25.0)、用量調整回数の中央値はそれぞれ2回および8回であった。

45.

診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

Immune-mediated adverse events and overall survival with tremelimumab plus durvalumab and durvalumab monotherapy in unresectable hepatocellular carcinoma: HIMALAYA phase 3 randomized clinical trialLau G, et al. Hepatology. 2025 May 16. [Epub ahead of print]<HIMALAYA試験>:肝細胞がんSTRIDE療法、imAEが治療効果の指標となる可能性近年注目される肝細胞がんの複合免疫療法について、HIMALAYA試験ではSTRIDE療法が生存期間を有意に延長することを示しました。本研究では、STRIDE群で免疫介在性有害事象(imAE)を経験した患者に良好な生存が認められ、imAEが治療効果の指標となる可能性が示唆されました。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHへのセマグルチド、肝組織の改善と顕著な体重減少示す世界が注目する第III相試験において、800例のMASH患者を対象にセマグルチドが肝組織の改善と顕著な体重減少を両立させる効果を初めて明確に示しました。セマグルチドは糖尿病や肥満症の患者に広く使用されており、本結果は将来的なMASHへの保険適用取得に向けて大きく前進する意義深い成果です。Multi-zonal liver organoids from human pluripotent stem cellsReza HA, et al. Nature. 2025;641:1258-1267.<iPS細胞から「ミニ肝臓」作製>:3層構造の再現に成功ヒトのiPS細胞から、本物と同様の3層構造を持つ約0.5mmの「ミニ肝臓」を作り出すことに成功しました。肝臓の異なる機能を担う層(Zone)の再現に成功し、重度肝不全ラットへの移植で生存率が改善されました。iPS細胞からミニ臓器を作る技術は、肝臓病の解析や治療法開発への応用が期待されています。The impact of neoadjuvant therapy in patients with left-sided resectable pancreatic cancer: an international multicenter studyE. Rangelova, et al. Ann Oncol. 2025;36:529-542.<切除可能な左側膵がんに対する術前化学療法>:術前化学療法は有意に生存期間を改善左側切除可能膵がんにおいて、術前化学療法は初回手術単独より生存期間を有意に延長し、とくに腫瘍径が大きい例やCA19-9高値例で効果が顕著であり、今後の前向き試験が期待されます。Phase 3 Trial of Cabozantinib to Treat Advanced Neuroendocrine TumorsChan JA, et al. N Engl J Med. 2025;392:653-665.<CABINET試験>:進行性神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブ、PFSを有意に延長カボザンチニブは進行性膵外・膵神経内分泌腫瘍(NET)に対し、プラセボと比べて有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、客観的奏効も一部で認められました。安全性についても、既知の範囲で管理可能と考えられました。

46.

非喫煙者の肺がん、よく料理する人ほどリスク高い?

 家庭内空気汚染が非喫煙者における肺がんの潜在的な原因であるというエビデンスが蓄積され、空気中の粒子状物質、家庭用家具から発生する揮発性有機化合物、調理煙への曝露が肺がんリスクを高める可能性がある。今回、英国・レスター大学のBria Joyce McAllister氏らが、家庭内空気汚染の1つである調理煙への曝露と非喫煙者の肺がんとの潜在的関連について高所得国で検討し、関連性が認められたことを報告した。1日1食調理する女性に対し1日3食調理する女性の肺がんのオッズ比(OR)は3.1と発症リスクが高かった一方、換気フード使用のORは0.49と予防効果が示唆された。BMJ Open誌2025年6月20日号に掲載。 世界では肺がんの10~25%が非喫煙者に発症すると推定されている。低中所得国では、非喫煙者における肺がんの環境リスク因子、とくに暖房や調理用バイオマスの燃焼による家庭内空気汚染が広く調査されてきたが、高所得国においても近年エビデンスが発表され始めている。本研究では、Embase、Scopus、Cochrane library、CINAHLをそれぞれの開始時から2024年3月まで検索し、高所得国における家庭内空気汚染とその非喫煙者の肺がんへの影響に焦点を当てた症例対照研究を対象に系統的レビューを実施した。抽出された研究は、曝露評価や報告方法が異なりメタ解析が不可能であったため、ナラティブシンセシスを行った。 主な結果は以下のとおり。・解析には3件の研究の計3,734人が含まれた。すべての研究は台湾または香港で実施され、伝統的な中華料理の調理法を用いる中国人女性が対象であった。・Chenらの研究では、生涯の調理煙への曝露を測定する「調理時間・年」によって肺がんリスクを評価し、曝露が最高レベルの場合のORは3.17(95%信頼区間[CI]:1.34~7.68)であった。・Yuらの研究では、調理煙への曝露の指標として「調理皿・年」を使用し、曝露が最高レベルの場合のORは8.09(95%CI:2.57~25.45)であった。一方、Koらの研究では、調理年数よりも毎日の調理皿数のほうがリスク指標として重要であることが示され、1日1食調理する女性に対する1日3食調理する女性のORは3.1(95%CI:1.6~6.2)であった。・換気フードは非喫煙者の肺がんの予防効果があり、調整ORは0.49(95%CI:0.32~0.76)であった。 この3件の研究のレビューの結果から、著者らは「高所得国における調理煙への曝露と非喫煙者の肺がん発症リスクに関連がある可能性が示唆された。これは、低中所得国における調理煙曝露と非喫煙者の肺がんとの関連を示す多くのエビデンスを裏付けるものであり、曝露のリスクを明確に裏付けている」とした。

47.

脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

48.

抗精神病薬による統合失調症患者の死亡リスクを比較

 抗精神病薬は、統合失調症の主要な治療薬であるが、過剰な死亡リスクと関連している。しかし、各抗精神病薬やレジメンに関連する死亡リスクの違いは、明らかになっていない。香港大学のCatherine Zhiqian Fang氏らは、抗精神病薬単剤治療または抗精神病薬レジメンに関連する死亡リスクを比較するため、集団ベースのコホート研究を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年7月号掲載の報告。 時変共変量として、抗精神病薬曝露を用いたCox回帰分析を実施し、すべての原因による死亡、自然死、不自然な死亡のリスクを調査した。対照治療として、抗精神病薬単剤治療ではペルフェナジン、抗精神病薬レジメンでは第1世代抗精神病薬(FGA)による治療を用いた。 主な内容は以下のとおり。・全体的なコホートには、4万1,695例が含まれた。・抗精神病薬単剤治療では、ペルフェナジンと比較し、クロザピンは死亡リスクが最も低かった。【すべての原因による死亡リスク】調整済みハザード比(aHR):0.41、95%信頼区間(CI):0.33〜0.52【自然死リスク】aHR:0.52、95%CI:0.40〜0.69【不自然な死亡リスク】aHR:0.16、95%CI:0.09〜0.27・パリペリドンとリスペリドンの2つの長時間作用型注射剤(LAI)では、パリペリドンLAIの死亡リスクがより低かった。【すべての原因による死亡リスク】aHR:0.51、95%CI:0.36〜0.72【自然死リスク】aHR:0.55、95%CI:0.37〜0.83・オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、amisulprideは、ベルフェナジンと比較し、死亡リスクが低かった。・抗精神病薬レジメン分析では、クロザピンまたはLAI抗精神病薬を含む多剤併用レジメンは、FGA経口単剤療法と比較し、死亡リスクの低下が認められた。・FGA-LAI単剤療法、各抗精神病薬の多剤併用療法、クロザピンを含まない経口抗精神病薬の多剤併用療法は、すべての原因による死亡リスクおよび自然死リスクの上昇との関連が認められた。・インシデントコホート(1万3,283例)においても、おおむね一貫した結果が認められた。 著者らは「各抗精神病薬およびレジメンにより、死亡リスクは異なっている。クロザピンおよびLAI抗精神病薬が超過死亡リスクの軽減において重要な役割を果たしていることが確認された。本研究結果は、統合失調症患者の精神的および身体的アウトカムを最適化するために、クロザピンおよびLAI抗精神病薬への早期アクセスを確保することの重要性を示唆している」としている。

49.

低リスク分化型甲状腺がん、全摘後のアブレーションは回避できるか/Lancet

 低リスクの分化型甲状腺がん患者の治療において、甲状腺全摘後に放射性ヨウ素治療(アブレーション)を行った場合と比較して、アブレーションを行わない場合でも5年無再発生存期間(RFS)は非劣性であり、有害事象の発現は両群で同程度であることから、この治療は安全に回避可能であることが、英国・Freeman HospitalのUjjal Mallick氏らが実施した「IoN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月18日号で報告された。英国の第III相無作為化非劣性試験 IoN試験は、英国の33のがん治療施設で行われた第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2012年6月~2020年3月に参加者を登録した(Cancer Research UKの助成を受けた)。 甲状腺全摘で根治切除(R0)が達成され、TNM病期分類でpT1、pT2、pT3(TNM7基準)またはpT3a(TNM8基準)で、リンパ節転移がN0、Nx、N1aの病変を有する患者を対象とした。これらの患者を、甲状腺全摘後に1.1GBqアブレーション群または非アブレーション群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは5年RFS率とした。RFSは、構造的な局所・領域再発または遺残病変、遠隔再発、甲状腺がんによる死亡のいずれもが発生しないことと定義された。非劣性マージンは5%ポイントであった。全体ではpT3/pT3a、N1aで再発率が高い 504例(ITT集団)を登録し、非アブレーション群に251例(年齢中央値48歳[範囲:17~77]、女性76%)、アブレーション群に253例(47歳[17~80]、79%)を割り付けた。非アブレーション群の249例が実際にアブレーションを受けず、アブレーション群の231例がアブレーションを受けた(per-protocol集団)。 追跡期間中央値は、非アブレーション群が6.8年、アブレーション群は6.6年で、この間に17例で再発を認めた(非アブレーション群8例、アブレーション群9例)。5年RFS率は、ITT集団では非アブレーション群が97.9%(95%信頼区間[CI]:96.1~99.7)、アブレーション群は96.3%(93.9~98.7)であり(ハザード比[HR]:0.84[90%CI:0.38~1.87])、per-protocol集団ではそれぞれ97.9%(95%CI:96.1~99.7)および96.9%(94.7~99.1)であった(1.03[90%CI:0.44~2.42])。 ITT集団における両群間のRFS率の5年絶対リスク差は0.5%ポイント(95%CI:-2.2~3.2)であり、非アブレーション群のアブレーション群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.033)。 全体(504例)の病期別の再発率はpT3/pT3aの腫瘍を有する患者で高く(pT3/pT3a腫瘍9%[4/46例]vs.pT1/pT2腫瘍3%[13/458例])、リンパ節転移の状態別ではN1aの患者で高かった(N1a 13%[6/47例]vs.N0/Nx 2%[11/457例])。一方、非アブレーション群ではこのような違いはなかった。疲労感、嗜眠、口渇が多かった 有害事象の頻度は両群で同程度であり、多くが一過性であった。最も頻度の高い有害事象は、疲労感(非アブレーション群25%[63/249例]vs.アブレーション群28%[65/231例])、嗜眠(14%[34例]vs.14%[32例])、口渇(10%[24例]vs.9%[21例])だった。治療関連死の報告はなかった。 著者は、「低リスクの分化型甲状腺がん患者では、甲状腺全摘後のアブレーションを安全に回避できることが示された」「これにより、アブレーション関連の有害事象や入院を回避でき、家族や友人、職場の同僚との密接な接触を避ける必要性がなくなるなどの有益な影響がもたらされ、医療費の削減につながると考えられる」としている。

50.

大手術前のRAS阻害薬の継続/中止、心血管リスク有無での判断は?

 昨年JAMA誌に掲載されたStop-or-Not試験では、非心臓大手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の継続と中止のアウトカムを比較し、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムに差は認められなかった。しかし、術前の心血管リスク層別化がこの介入に対する反応に影響を与えるかどうかは依然として不明である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のJustine Tang氏らはStop-or-Not試験の事後解析を行い、術前の心血管リスクが患者の転帰に影響を与えないことを明らかにした。JAMA Cardiology誌オンライン版2025年6月25日号に短報として掲載された。 本研究は、術前の心血管リスク層別化が非心臓大手術前のRASI管理戦略に影響を及ぼすかどうかを評価するため、Stop-or-Not試験(フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象に行われたランダム化比較試験)の事後解析を行った。主要評価項目は、全死因死亡と術後合併症の複合。副次評価項目は、主要心血管イベント(MACE)および急性腎障害であった。なお、心血管リスク層別化は、ランダム化前に改訂版心リスク指標(revised cardiac risk index:RCRI)、ベイルート・アメリカン大学(AUB)-HAS2心血管リスク指数、および収縮期血圧を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・2,222例(年齢中央値[IQR]:68歳[61~73]、女性:771[35%])のうち、1,107例がRASI継続群に、1,115例がRASI中止群に無作為に割り付けられた。・RCRIでは、592例が低リスク(0点)、1,095例が中低リスク(1点)、418例が中高リスク(2点)、117例が高リスク(3点以上)に分類された。・AUB-HAS2心血管リスク指数では、1,049例が低リスク(0点)、727例が中低リスク(1点)、333例が中高リスク(2点)、113例が高リスク(3点以上)に分類された。・計2,132例が術前収縮期血圧の四分位群に分けられた。・術後合併症およびMACEのリスクはRCRIスコアによって異なったが、RASIの継続と中止戦略は、術後合併症のリスク上昇とは関連していなかった。 研究者らは本結果を踏まえ、「非心臓大手術前のRASI継続/中止の決定は、患者の術前の心血管リスク評価によって左右されるべきではない」としている。

51.

睡眠中の脳にカフェインはどう作用するのか

 朝のコーヒーは活力をもたらしてくれるが、夜にコーヒーを飲んで眠りにくくなったことはないだろうか。新たな研究で、カフェインは睡眠中の脳の電気的信号の複雑性を増大させ、「臨界状態」に近付けることが示された。臨界状態とは秩序と無秩序の境目にある状態で、脳が外からの刺激に最も敏感に反応し、最も適応力が高く、情報処理の効率も最大になると考えられている。モントリオール大学(カナダ)のPhilipp Tholke氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications Biology」に4月30日掲載された。 Tholke氏らは40人の健康な成人を対象に、脳波計(EEG)と人工知能(AI)を用いて、睡眠中の脳に対するカフェインの影響を分析した。試験参加者は、就寝前にカフェイン200mg(コーヒー1〜2杯に相当)を含んだカプセルまたはプラセボを摂取した。 その結果、カフェインは脳の電気的信号の複雑性を増大させ、それにより神経活動はより多様で柔軟になることが示された。また、カフェイン摂取により脳活動のパターンは臨界状態に近付き、脳の電気的リズムにも顕著な変化が見られた。具体的には、精神的な集中や覚醒状態に関係するベータ波は増大する一方で、回復に導く深い睡眠に関係するシータ波やアルファ波などのより遅い脳波は抑制されることが明らかになった。こうした変化は、特に、記憶の定着と認知機能の回復に重要なノンレム睡眠中に顕著であった。 さらに、こうしたカフェインの影響は、レム睡眠中の20〜27歳の若年層において、41~58歳の中年層よりも顕著に現れた。この違いは、眠気を引き起こす脳内の神経伝達物質であるアデノシン受容体の変化に起因する可能性があるという。共著者の1人であるカナディアン・スリープ・アンド・サーカディアン・ネットワーク会長のJulie Carrier氏は、カフェインはアデノシン受容体を阻害することで覚醒状態を保つが、若年層はこれらの受容体を多く持っているため、カフェインの刺激作用がより強く現れる可能性があると指摘している。同氏は、「アデノシン受容体は加齢に伴い自然に減少するため、それらを阻害して脳の複雑性を改善するカフェインの作用も弱まる。これが中年層でカフェインの影響が減弱する一因かもしれない」と話している。 Carrier氏は、就寝前のカフェイン摂取により就寝中に脳が臨界状態に近付くことが示された点について、「この状態は日中に集中力を高めるには有用だが、夜間の休息を妨げる可能性がある。脳はリラックスできないため、十分な回復は望めないだろう」と言う。一方、論文の上席著者であるモントリオール大学心理学教授および同大学認知・計算論的神経科学研究所所長のKarim Jerbi氏は、「本研究結果は、睡眠中であってもカフェインの影響下では脳がより活性化し、回復力が低下した状態にあることを示唆している。脳のリズミカルな活動の変化は、カフェインが脳の記憶の処理や夜間の回復効率に影響を与える可能性を説明するのに役立つかもしれない」と述べている。 研究グループは、カフェインが脳の健康に与える長期的な影響についてより深く理解し、年齢層ごとに個別化された推奨を導き出すために、さらなる研究が必要であるとしている。

52.

第273回 GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない

GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない肥満治療で売れているGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)が治療しうる疾患一揃いは終わりがないかのように増え続けています1)。最近発表された小規模試験の結果によると、その果てしない用途候補の一覧に次に加わるのは片頭痛かもしれません。試験はイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学(ナポリ大学)で実施され、GLP-1薬の1つであるリラグルチドが肥満患者の1ヵ月当たりの片頭痛の日数を半分近く減らしました。その結果は先月6月17日にまずHeadache誌オンラインに掲載され2)、その数日後の21日に欧州神経学会(EAN)年次総会でも発表されました。ノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドは、2型糖尿病(T2D)や肥満治療(本邦では適応外)に使われます。同社は肥満治療としてはウゴービ、T2D治療としてはオゼンピックという商品名で売られている別のGLP-1薬セマグルチドも作っています。リラグルチドやセマグルチドは属する薬剤群の名が示すとおり、GLP-1というホルモンの働きを真似ます。GLP-1は血糖調節や食欲抑制に携わることがよく知られていますが、他にも種々の働きを担うようです。それらの多岐にわたる機能を反映してかGLP-1薬も多才で、目下の主な用途である体重管理やT2D治療に加えて、他のさまざまな病気や不調を治療しうることが示されるようになっています。たとえば今年1月にNature Medicine誌に掲載されたT2D患者200万例超の解析3)では、心不全、心停止、呼吸不全や肺炎、血栓塞栓症、アルツハイマー病やその他の認知症、アルコールや大麻などの物質乱用、統合失調症などの42種類もの不調が生じ難いこととGLP-1使用が関連しました4,5)。ナポリ大学の神経学者Simone Braca氏らがリラグルチドの片頭痛への効果を調べようと思い立ったのは、片頭痛の発生にどうやら頭蓋内圧上昇(ICP)が寄与し、ICPを下げうるGLP-1薬の作用がラットでの検討6)で示されたことなどを背景としています。その効果はヒトでもあるらしく、2023年に結果が報告されたプラセボ対照無作為化試験では、GLP-1薬の先駆けのエキセナチドが特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)患者のICPを有意に下げ、頭痛を大幅に減らしています7)。ナポリ大学のBraca氏らの試験では片頭痛と肥満の併発患者が2024年1~7月に連続的に31例組み入れられ、リラグルチドが1日1回皮下注射されました。それら31例は片頭痛予防治療を先立って2回以上受けたものの効き目はなく、片頭痛の日数は1ヵ月当たり平均して約20日(19.8日)を数えていました。先立つ治療とは対照的に12週間のリラグルチド投与の効果は目覚ましく、1ヵ月当たりの片頭痛日数はもとに比べて半分ほどの約11日(10.7日)で済むようになりました。試験でのリラグルチドの用量(最初の一週間は0.6mg/日、その後は1.2mg/日)は欧州での肥満治療用途の維持用量(3.0mg/日)8)より少なく、体重の有意な変化は認められず、BMIが34.0から33.9へとわずかに減ったのみでした。回帰分析したところBMI変化と片頭痛頻度の変化は無関係でした。対照群がない試験ゆえ片頭痛頻度低下のどれほどがプラセボ効果に起因するのかが不明であり、無作為化試験での検証が必要です。頼もしいことに、頭蓋内圧の測定を含む二重盲検無作為化試験が早くも計画されています9)。リラグルチド以外のGLP-1薬に片頭痛予防効果があるかも検討したい、とBraca氏は言っています。 参考 1) Obesity drugs show promise for treating a new ailment: migraine / Nature 2) Braca S, et al. Headache. 2025 Jun 17. [Epub ahead of print] 3) Xie Y, et al. Nat Med. 2025;31:951-962. 4) Quantifying Benefits and Risks of GLP-1-Receptor Agonists for Patients with Diabetes / NEJM Journal Watch 5) GLP-1 Agents' Risks and Benefits Broader Than Previously Thought / MedPage Today 6) Botfield HF, et al. Sci Transl Med. 2017;9:eaan0972. 7) Mitchell JL, et al. Brain. 2023;146:1821-1830. 8) Saxenda : Product Information / EMA 9) From blood sugar to brain relief: GLP-1 therapy slashes migraine frequency / Eurekalert

53.

不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

54.

TN乳がん術前ペムブロリズマブ併用化学療法、ddAC vs.AC

 高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対し、ペムブロリズマブ+化学療法による術前補助療法およびペムブロリズマブ単独による術後補助療法は、病理学的完全奏効(pCR)および無イベント生存期間(EFS)を有意に改善することがKEYNOTE-522試験で示された。しかし、同試験では術前化学療法のレジメンとしてdose-denseAC(ddAC)療法は使用されていなかった。カルボプラチン+パクリタキセルとペムブロリズマブにddAC療法を併用した術前補助療法の有効性と安全性を評価する目的で、ブラジル・Hospital do Cancer de LondrinaのVitor Teixeira Liutti氏らはメタ解析を実施。結果をBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年6月13日号で報告した。 本解析では、AC療法(3週ごと)との比較の有無にかかわらず、TNBCを対象にカルボプラチン+パクリタキセルおよびペムブロリズマブとddAC併用術前補助療法を評価した研究を、システマティックレビューにより特定した。両レジメンを比較した研究にはランダム効果モデル、ddAC療法のエンドポイントの評価には単群比例メタアナリシスの手法を用いて、統計解析が実施された。 主な結果は以下のとおり。・535例(ddAC群329例、AC群206例)を対象とした4件の観察研究が、本解析の包含基準を満たした。うち3件は両レジメンの比較を行い、1件はddAC併用療法のみの評価であった。・病理学的完全奏効(pCR)率に有意差は認められなかった(ddAC群66.1%vs.AC群61.6%、リスク比[RR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.94~1.28、p=0.25)。・一方、Grade3以上の有害事象の発現率は、ddAC群で有意に高かった(43.7%vs.29.7%、RR:1.65、95%CI:1.15~2.37、p=0.007)。・用量調整や治療遅延の発生率には、両レジメン間で有意差は認められなかった。・ddAC併用療法を評価した研究の統合解析では、全体的なpCR率は63%で、治療遅延の発生率は40%であった。今回対象となった研究でddAC併用療法を受けた患者の生存データは報告されていない。 著者らは、「ddAC療法を含む術前のペムブロリズマブ併用化学療法は、KEYNOTE-522試験で報告されたpCR率と同等の結果を示した。AC療法との比較において、pCR率に有意差は認められなかったものの、ddAC療法では有害事象の発現率が高いことが明らかとなった」とまとめている。

55.

非定型うつ病に対する薬理学的治療の比較〜ネットワークメタ解析

 非定型うつ病は、気分反応性、過眠、鉛様の麻痺を含む非常に一般的なサブタイプであり、メランコリックうつ病との異なる治療アプローチが求められる。イタリア・University School of Medicine of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、これまで実施されていなかった非定型うつ病に対する薬理学的治療についてのネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacolojy誌2025年7月号の報告。 PubMed/Central、ClinicalTrials.gov、Embase、Psycinfo、Scopus、WebofScienceより、PRISMAに準拠したシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。共通主要アウトカムは、抑うつ症状の変化(標準化平均差:SMD)、治療反応、すべての原因による治療中止(許容性:リスク比[RR])。忍容性は副次的アウトカムとした。バイアスリスクおよびglobal/local inconsistenciesを測定し、エビデンスに対する信頼性評価によりネットワークメタ解析(CINeMA)を行った。 主な結果は以下のとおり。・抽出された2,214件のうち、適格なRCT21件を含め、20件をネットワークメタ解析に含めた。・有効性については(16件、903例、12種の治療)、phenelzineのみがプラセボよりも有効であった(SMD:−1.13、95%信頼区間[CI]:−2.14〜−0.49)。・phenelzine、moclobemide、isocarboxazid、イミプラミン、セレギリン、セルトラリン、fluoxetineは、ノルトリプチリンよりも優れていた(SMD:−4.54[95%CI:−8.02〜−1.07]〜−3.08[95%CI:−5.42〜−0.75])。・治療反応については(13件、1,442例、7種の治療)、phenelzine(RR:2.58、95%CI:2.02〜3.31)、セルトラリン(RR:2.25、95%CI:1.01〜4.99)、moclobemide(RR:2.16、95%CI:1.12〜4.19)、fluoxetine(RR:1.89、95%CI:1.30〜2.76)、イミプラミン(RR:1.76、95%CI:1.35〜2.28)は、プラセボよりも優れ、phenelzine(RR:1.56、95%CI:1.25〜1.96)はイミプラミンよりも優れていた。・許容性については、プラセボと比較し、有意な治療の差は認められなかった。・分析力の喪失による可能性が高く、CINeMA全体の評価が低い/非常に低いため、高リスクバイアスおよびITTの試験を除外した場合には、感度分析の結果に対し、プラセボよりも優れる介入はないと考えられる。 著者らは「非定型うつ病に対してphenelzineは、他の薬剤よりも優れている可能性がある。また、いくつかの薬剤はプラセボよりも有効であり、ノルトリプチリンは他の薬剤よりも悪化のリスクが高かった。これらの結果を明らかにするためにも、より高品質の研究が求められる」と結論付けている。

56.

糖尿病と高血圧の併発が命を脅かす

 米国では2型糖尿病と高血圧を併発している患者が過去20年間で倍増し、そのような患者は全死亡リスクが約2.5倍、心血管死のリスクは約3倍に上ることが明らかになった。これは米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院のNour Makarem氏らの研究の結果であり、詳細は「Diabetes Care」に5月21日掲載された。 この研究には、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した4万8,727人の成人のデータが用いられた。参加者全体を、2型糖尿病も高血圧もない群(50.5%)、2型糖尿病のみの群(2.4%)、高血圧のみの群(38.4%)、両方に罹患している群(8.7%)という4群に分類して、全死亡(あらゆる原因による死亡)と心血管死のリスクを比較した。なお、2型糖尿病と高血圧を併発している患者の割合は、前記の期間中に6%から12%へと倍増していた。 中央値9.2年の追跡期間中に7,734人の死亡が記録されていた。2型糖尿病のみの群の死亡率は20%、高血圧のみの群では22%であるのに対して、両疾患併発群では約3分の1が死亡していた。一方、どちらの疾患もない群での死亡率はわずか6%だった。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、飲酒・喫煙状況、教育歴、婚姻状況、世帯収入、がん・うつ病の既往など)を統計学的に調整後、以下のようなリスク差の存在が浮かび上がった。 2型糖尿病も高血圧もない群を基準とすると、両疾患併発患者群は全死亡リスクが約2.5倍であり(ハザード比〔HR〕2.46〔95%信頼区間2.45~2.47〕)、心血管死リスクは約3倍(HR2.97〔同2.94~3.00〕)と有意に高かった。性別に解析すると、女性の方が男性よりも両疾患の併発と死亡リスクとの関連が強く認められた(交互作用P<0.01)。 また、糖尿病とは診断されない程度の高血糖状態(前糖尿病)や、高血圧とは診断されない程度の血圧上昇(血圧高値)の死亡リスクに対する影響も明らかにされた。例えば、前糖尿病と血圧高値の双方に該当する群の全死亡リスクは、両方とも該当しない群に比べて10%有意に高かった(HR1.10〔1.09~1.11〕)。さらに、血圧高値のみ、または前糖尿病のみが該当する群を基準とする比較でも、両者該当群は有意なリスク上昇が認められた。 これらの結果についてMakarem氏は、「注目すべき点の一つは、解析対象期間中に、糖尿病と高血圧を併発している患者がほぼ倍増したことが挙げられる。また、糖尿病や高血圧の診断基準に至らない程度の血糖値や血圧の上昇であっても、死亡リスクを押し上げることが明らかになった」と総括。その上で、「血糖値と血圧がともに高い人が増加傾向にあるという状況を変化させるため、両者の併存を効果的に予防・管理し得る公衆衛生戦略の立案が、喫緊の課題であることが強調される」と述べている。

57.

妊娠中のカルシウム摂取量が子供のうつ症状に関連か

 栄養バランスの偏りや特定の栄養素の不足は、うつ症状の発症リスクを高める可能性があるとされている。今回、妊娠中の母親のカルシウム摂取量が、子供のうつ症状の発症リスクと関連しているとする研究結果が報告された。妊娠中の母親のカルシウム摂取量が多いほど、生まれた子の13歳時うつ症状に予防的であることを示したという。愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座の三宅吉博氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Psychiatric Research」に5月6日掲載された。 2017年に実施された5つの研究を含むメタ解析では、カルシウム摂取量とうつ病のリスクとの間には有意な負の関連が認められている。さらに、国内の九州・沖縄母子研究(KOMCHS)のデータから、カルシウム摂取量と妊娠中のうつ症状の有病率との間に負の関連があることが示された。しかし、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と生まれた子のうつ症状との関連を検討した研究は存在しない。また、思春期は精神衛生上きわめて重要な時期であり、この時期に発症するうつ症状の修正可能なリスク因子を特定することで、若年層の精神疾患の増加を抑えられる可能性がある。このような背景から筆者らは、KOMCHSのデータを活用し、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と13歳時うつ症状のリスクとの関連を前向きに検討した。 KOMCHSは母子の健康問題に関するリスク要因と予防要因を特定することを目的とした前向きの出生前コホート研究である。KOMCHSでは、2007年4月から2008年3月にかけて、九州7県および沖縄県に在住していた妊婦1,757名がベースライン調査に参加した。ベースライン後の追跡調査は、出産時、産後4ヵ月時、1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、12、13歳の時点で実施した。本研究では13歳時追跡調査に参加した873組の母子を対象とした。13歳時追跡調査では、子供がCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)の日本語版に回答し、うつ症状の評価を行った。CES-Dスコアのカットオフ値は16点とした。また、母親の妊娠中の食習慣に関するデータは、自記式食事歴法質問票(DHQ)を用いて収集した。 873組において、子供の13歳時うつ症状の有症率は23.3%であった。ベースライン調査時の平均妊娠週は17.0週目、母親の平均年齢は32.0歳であり、約18%が妊娠中にうつ症状を呈していた。1日のカルシウム摂取量の中央値は482.5mgであった。 次に、ベースライン時の母親の年齢、妊娠週、両親の教育歴などで補正した多重ロジスティック回帰分析により、妊娠中の母親のカルシウム摂取量別にみた、13歳時の子供のうつ症状に対するオッズ比(OR)を算出した。その結果、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の第1分位(最低摂取量)を基準として比較した場合、第2、第3、第4分位における子供のうつ症状の補正OR(95%信頼区間)は0.63(0.39~0.99)、0.91(0.58~1.41)、0.58(0.36~0.93)であった(P=0.10〔傾向性P値〕)。 本研究の結果について筆者らは、「本研究では、妊娠中の母親のカルシウム摂取量を増やすことで、13歳時の子供がうつ症状を発症するリスクが低下する可能性が示唆された。この知見は、小児期のうつ症状を予防する手段として、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の増加がもたらす潜在的なメリットを明らかにしている」と述べている。

58.

地震で多発するクラッシュ症候群、現場での初期対応は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第1回

地震で多発するクラッシュ症候群、現場での初期対応は?クリニックの近くで地震による家屋の倒壊が起き、「30代男性が下敷きになっているが、意識があるから来てほしい」という依頼がありました。すでに救助隊が到着しており、安全を確保したうえで傷病者に接触しました。やや多弁で軽度の興奮状態ですが、会話はでき、指示には従えます。右下肢が瓦礫に挟まれ動けないようですが、疼痛は軽度で、右上肢は動かすことができるため、バイタルサインを測定しました。血圧124/76mmHg、脈拍78bpm、体温35.4度、呼吸数18回/分。既往歴に特記すべきことはなし。救出にはまだ時間がかかる見込みで、20Gで静脈ルートを確保しました。どのような輸液を行えばよいでしょうか?クラッシュ症候群とは:「Smiling Death」のメカニズムクラッシュ症候群は、直前まで会話をしていたのに、救出後急に反応がなくなる患者がいることから、「Smiling Death」とも呼ばれます。ご存じのように、メカニズムは、圧迫が解除され圧座されていた部分に血液が流れることにより起きる広義の虚血再灌流障害です。挫滅した筋肉の細胞から大量のミオグロビン・カリウム・乳酸などが血流に乗って全身に流れると、高濃度のミオグロビンは腎臓の尿細管に障害を起こすことで、急性腎障害を引き起こします。高濃度のカリウムは心室細動などの致死性不整脈を引き起こします。虚血にさらされた部分では、血管内皮細胞が障害を受け、血管透過性が亢進することから、著明な浮腫が起こります1)。典型的な症状は、損傷した四肢のひどい腫れ、圧迫された四肢の運動・感覚神経障害、褐色尿(ポートワイン尿)ですが、血圧低下やショックを呈することもあります。阪神淡路大震災では、372例がクラッシュ症候群と診断され、そのうち約半数の傷病者が急性腎障害となり、多くが人工透析を必要としました。クラッシュ症候群の約13%に当たる50例が死亡しています。CPKの値が重症度と相関するようです。報告例も多く、広く認識された病態です2,3)。救出時の対応:輸液プロトコルクラッシュ症候群が疑われる場合には、現場でしっかり輸液を行うことが推奨されています4,5)。挫滅されてから少なくとも6時間以内に、尿を1時間に300mL出すことを目標に「クラッシュ症候群カクテル」が考案され、1,000mLの生理食塩水に40mEqの炭酸水素ナトリウム(8.4% 40mL)と20%マンニトールを50mL加え、これを急速輸液することが提唱されていました。しかし、最近はマンニトールは「乏尿」「循環血液量低下」のある症例ではむしろ害となりうるため、使用は尿量が十分に確保されてからに限定すべきとされています6)。炭酸水素ナトリウムは、血液をアルカリ性にする目的で使用します。血中の水素イオン(H+)が減少することでカリウムイオン(K+)が細胞内に取り込まれ、結果として血清カリウム濃度を低下させます。圧迫解除後に突如心停止に至ることがあるため、事前にAEDを準備しておくことで即座に電気的除細動を行えます。災害時マニュアルやDMAT(災害派遣医療チーム)などでも、クラッシュ症候群の圧迫解除前にAEDや除細動器を準備することが推奨されています。救出後は速やかに病院搬送を試みます。心電図を装着し、P波の消失またはQRS幅の増大が認められる場合は、高カリウム血症による心筋への影響に拮抗する10%グルコン酸カルシウム10~20mLを5~10分かけて静脈内投与します。ちなみに、この患者さんは8時間後に救出され、救護所に搬送されました。下肢に変形はなく、右大腿に発赤や水泡は認められず、軽度の腫脹はあるものの疼痛の訴えはありませんでしたが、患肢の運動麻痺と知覚鈍麻を認めたとのことでした。クラッシュ症候群の疑いがあるとのことで、その後速やかに広域搬送され、ICUで人工透析を受け、救命され社会復帰されたそうです。当科に来てくださっている稲葉 基高先生も、能登半島地震で高齢のクラッシュ症候群患者に対応していますが、この患者さんは不幸にも1ヵ月後に亡くなっています7)。能登半島地震でのクラッシュ症候群の患者さん救出の様子写真提供:稲葉 基高氏 1) Sever MS, et al. Management of crush-related injuries after disasters. N Engl J Med. 2006;354:1052-1063. 2) Oda J, et al. Analysis of 372 patients with Crush syndrome caused by the Hanshin-Awaji earthquake. J Trauma. 1997;42:470-475; discussion 475-476. 3) Genthon A, et al. Crush syndrome: a case report and review of the literature. J Emerg Med. 2014;46:313-319. 4) Usuda D, et al. Crush syndrome: a review for prehospital providers and emergency clinicians. J Transl Med. 2023;21:584. 5) Altintepe L, et al. Early and intensive fluid replacement prevents acute renal failure in the crush cases associated with spontaneous collapse of an apartment in Konya. Ren Fail. 2007;29:737-741. 6) Stanley M, et al. Rhabdomyolysis. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing;2025 Jan. 7) Inaba M, et al. Multidisciplinary approach to a 93-year-old survivor with crush syndrome: A 124-h rescue operation after the 2024 Noto Peninsula earthquake. Acute Med Surg. 2024;11:e967.

59.

週に数パックの納豆で死亡リスクが40%減少か~前向き研究

 納豆など、個別の大豆発酵食品の摂取が死亡率に及ぼす影響を調べた疫学研究はほとんどない。今回、関西医科大学の藤田 裕規氏らが高齢男性を対象とした前向きコホートで調査したところ、納豆を習慣的に摂取している男性は全死亡リスクが低く、週に数パック摂取する男性では摂取しない男性より40%低いことが示された。Clinical Nutrition ESPEN誌オンライン版2025年6月12日号に掲載。 本研究は65歳以上の男性2,174人を対象とし、このうち2,012人がベースライン調査を完了した。5年後と10年後に追跡調査を実施、アウトカムは死亡率とした。ベースライン時および追跡調査時に納豆摂取に関するアンケートを行った。Cox比例ハザードモデルを用いて、納豆摂取と全死亡との関連についてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・最終解析集団は1,548人で、平均追跡期間12.0年(1万8,553.3人年)の間に430人の死亡が確認された。・「摂取なし」と比較したHRは、「週に数パック」で0.603(95%CI:0.441~0.825)、「1日1パック以上」で0.786(同:0.539~1.145)であった。・「ベースライン時および初回追跡時ともに摂取なし」のカテゴリーと比較すると、「ベースライン時および初回追跡時に週に数パックと1日1パックの組み合わせ、またはベースライン時および初回追跡時ともに週に数パック」のカテゴリーのHRは0.700(95%CI:0.507~0.966)であった。 本研究では、納豆の習慣的多量摂取、とくに長期にわたる摂取は、高齢男性における低い全死亡リスクと関連していた。

60.

高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫、ニボルマブ+AVDがBV+AVDより有用(S1826サブ解析)/JCO

 進行古典的ホジキンリンパ腫に対する1次治療としてニボルマブ(N)+AVD(ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)とブレンツキシマブ ベドチン(BV)+AVDを比較した第III相S1826試験における高齢者(60歳以上)のサブセット解析で、N+AVDはBV+AVDより忍容性および有効性が高いことが示された。米国・Weill Cornell MedicineのSarah C. Rutherford氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年6月16日号で報告した。 第III相S1826試験は、StageIII~IVの古典的ホジキンリンパ腫と新たに診断された患者を対象に、N+AVD 6サイクルもしくはBV+AVD 6サイクルに無作為に割り付け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、無イベント生存期間(EFS)、安全性を比較した試験である。 今回のサブセット解析の結果は以下のとおり。・60歳以上の登録患者103例のうち、99例が適格だった。・追跡期間中央値2.1年で、N+AVD群(50例)の2年PFS率は89%、BV+AVD群(49例)の2年PFS率は64%であった(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.09~0.63、層別片側log-rank検定p=0.001)。・2年OS率はN+AVD群で96%、BV+AVD群で85%であった(HR:0.16、95%CI:0.03~0.75、層別化片側log-rank検定p=0.005)。・N+AVD群は69%、BV+AVD群は26%が減量することなく6サイクル投与され、14%がニボルマブを中止し、55%がBVを中止した。・非再発死亡率はBV+AVD群で16%、N+AVD群で6%であった。・好中球減少はN+AVD群で多かったが、発熱性好中球減少症、敗血症、感染症はBV+AVD群で多く、末梢神経障害もBV+AVD群で多かった。・主要有害事象の患者報告アウトカムでは、N+AVDがBV-AVDより毒性プロファイルが改善されていることが確認された。 著者らは、「N+AVDはBV+AVDよりも忍容性が高く効果的であったことから、アントラサイクリン系薬剤の併用療法が適応となる高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫患者に対する新たな標準治療となる」としている。

検索結果 合計:10239件 表示位置:41 - 60