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電カルデータとEDCを連携、治験の負荷軽減と迅速化狙う/NTTデータ・ファイザー・国がん東

 臨床研究では、臨床データ収集システム(EDC:Electronic Data Capture)に医療施設のデータを適時入力する必要がある。しかし、そこには国際的な課題がある。NTTデータとファイザーR&Dは、国立がん研究センター東病院と臨床研究における臨床データの収集およびデータ品質点検の効率化に向けた共同研究を2021年7月から開始する。 臨床研究では、新薬等の効果と安全性を検証するためにALCOA(Attributable:帰属性、Legible:判読性、Contemporaneous:同時性、Original:原本性、Accurate:正確性)が担保された臨床データの収集が不可欠である。また、一般的に臨床データは、電子カルテを含む複数の原資料から収集される。 電子カルテのデータを原資料として利用する場合、医療機関では電子カルテのデータをEDCに入力するという、重複作業が発生しており、その負担は常に課題となっている。 この共同研究では、電子カルテ内のデータを国際標準に準拠した臨床研究報告用データに変換、Clinical Data Transfer(CDT)システムでの日本語からの翻訳等を行った上で、製薬企業等が管理するEDCに登録するソリューションを開発する。 それにより、重複入力作業の軽減とデータ点検作業の削減を図り、医療機関と製薬企業双方に有益な臨床研究の実現を目指す。 研究期間は2021年7月~2021年12月。国立がん研究センター東病院は研究に用いる臨床研究データを提供、NTTデータはCDT等のソリューションを提供、ファイザーはCDTからEDC取り込みまでの環境などを提供する。

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コロナのブレークスルー感染、感染前の中和抗体価と関連か/NEJM

 BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)を完全接種した健康な医療従事者1,497例のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)へのブレークスルー感染が認められたのは39例で、いずれの感染者も非感染者に比べて、感染前(SARS-CoV-2検出前1週間以内)の中和抗体価が低いことが、イスラエル・Sheba Medical Center Tel HashomerのMoriah Bergwerk氏らによる検討で示された。また、ブレークスルー感染者のほとんどが軽症か無症状だったが、持続的な症状を呈するという。BNT162b2 mRNAワクチンはSARS-CoV-2に対する高い有効性にもかかわらず、まれなブレークスルー感染が報告されている。研究グループは、これらの感染を特徴付け、ブレークスルーと感染性の相関関係を調べた。NEJM誌オンライン版2021年7月28日号掲載の報告。ケース・コントロールで感染相関関係要因を検証 研究グループは、イスラエル最大の医療センターに勤務する医療従事者を対象に、無症状者も含め、ワクチン完全接種後のブレークスルー感染者の特定を行った。ブレークスルー感染の定義は、ワクチンの2回目接種後11日以降のRT-PCR検査によるSARS-CoV-2の検出で、最初の6日以内に明らかな曝露や症状があった場合には除外した。 症候性(軽症を含む)、あるいは感染者との接触が確認された被験者について、疫学的調査、RT-PCR検査、抗原迅速診断法(Ag-RDT)、血清検査、ゲノム解析など詳細な検査を行った。 感染者と非感染者についてケース・コントロール解析を行い、ブレークスルー感染との相関関係要因を検証した。具体的には、SARS-CoV-2検出前1週間以内に抗体価を測定したブレークスルー感染者と、非感染者のマッチング・コントロール4~5例について、一般化推定方程式を用いて、感染群とコントロール群の幾何平均抗体価と両群抗体価の比率を予測した。感染と中和抗体価、N遺伝子増幅に必要なサイクル数(Ct値)との関連性についても検証した。ほとんどのブレークスルー感染者が軽症・無症状、19%は6週間以上症状継続 ワクチン完全接種者でRT-PCR検査結果が得られた1,497例の医療従事者のうち、SARS-CoV-2のブレークスルー感染が認められたのは39例だった。 感染群のSARS-CoV-2検出前1週間以内の中和抗体価は、非感染のコントロール群に比べ低値だった(感染群のコントロール群に対する率比:0.361、95%信頼区間[CI]:0.165~0.787)。感染前の中和抗体価の高値は、感染性の低下(Ct値がより高い)と関連していた。 ほとんどのブレークスルー感染者が軽症か無症状だったが、うち19%で症状が6週間以上続いた。 検査を行った85%が、B.1.1.7(α)株だった。 感染群の74%が、感染中のウイルス負荷が高かった(Ct値30未満)が、同時に行ったAg-RDTで陽性結果が出たのはそのうち59%(17例)だった。2次感染は認められなかった。

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「メインテート」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第63回

第63回 「メインテート」の名称の由来は?販売名メインテート錠0.625mgメインテート錠2.5mgメインテート錠5mg一般名(和名[命名法])ビソプロロールフマル酸塩(JAN)効能又は効果本態性高血圧症(軽症~中等症)狭心症心室性期外収縮次の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全頻脈性心房細動用法及び用量(1)本態性高血圧症(軽症~中等症)、狭心症、心室性期外収縮通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、5 mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。(2)虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、1日1回0.625mg経口投与から開始する。1日1回0.625mgの用量で2週間以上経口投与し、忍容性がある場合には、1日1回1.25mgに増量する。その後忍容性がある場合には、4週間以上の間隔で忍容性をみながら段階的に増量し、忍容性がない場合は減量する。用量の増減は1回投与量を0.625、1.25、2.5、3.75又は5mgとして必ず段階的に行い、いずれの用量においても、1日1回経口投与とする。通常、維持量として1日1回1.25~5mgを経口投与する。なお、年齢、症状により、開始用量は更に低用量に、増量幅は更に小さくしてもよい。また、患者の本剤に対する反応性により、維持量は適宜増減するが、最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。(3)頻脈性心房細動通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、1日1回2.5mg経口投与から開始し、効果が不十分な場合には1日1回5mgに増量する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。警告内容とその理由1.慢性心不全患者に使用する場合には、慢性心不全治療の経験が十分にある医師のもとで使用すること。2.慢性心不全患者に使用する場合には、投与初期及び増量時に症状が悪化することに注意し、慎重に用量調節を行うこと。禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)1.高度の徐脈(著しい洞性徐脈)、房室ブロック(II、III度)、洞房ブロック、洞不全症候群のある患者〔症状を悪化させるおそれがある。〕2.糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者〔アシドーシスに基づく心収縮力の抑制を増強させるおそれがある。〕3.心原性ショックのある患者〔心機能が抑制され、症状を悪化させるおそれがある。〕4.肺高血圧による右心不全のある患者〔心機能が抑制され、症状を悪化させるおそれがある。〕5.強心薬又は血管拡張薬を静脈内投与する必要のある心不全患者〔心収縮力抑制作用により、心不全が悪化するおそれがある。〕6.非代償性の心不全患者〔心収縮力抑制作用により、心不全が悪化するおそれがある。〕7.重度の末梢循環障害のある患者(壊疽等) 〔末梢血管の拡張を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。〕8.未治療の褐色細胞腫の患者9.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人10.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年8月4日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2013年9月改訂(第12版)医薬品インタビューフォーム「メインテート®錠0.625mg/錠2.5mg/錠5mg」2)田辺三菱製薬:Medical View Pont

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原発性不眠症に対する運動介入の効果~メタ解析

 運動は、身体機能や免疫力に良い影響をもたらす可能性がある。中国・四川大学のShanshan Li氏らは、原発性不眠症患者に対する運動介入の効果をシステマティックに評価し、メタ解析に基づいて、原発性不眠症患者の睡眠の質を改善するうえで役立つ運動の推奨事項を作成した。The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness誌2021年6月号の報告。 2019年10月までに公表された原発性不眠症に対する運動介入の影響を調査したランダム化比較試験をCNKI、VIP、Wanfang、Web of Science、SpringerLink、EBSCO、PubMed、Cochrane Library、Embaseより手動および電子的に検索した。バイアスリスクの評価にはCochrane Handbook 5.1.0、メタ解析にはSTATA 13.0(StataCorp LLC[米国・テキサス州カレッジステーション])を用いた。 主な結果は以下のとおり。・品質の高かった23試験より、運動介入群1,269例および対照群(薬物療法または介入なし)1,203例のデータを分析した。・メタ解析では、原発性不眠症の治療において運動介入の有意な影響が確認された(SMD:-1.64、95%CI:-2.08~-1.19、p<0.001)。・サブグループ解析において、有意なエフェクトサイズが認められた因子は、以下のとおりであった。 ●60歳超の高齢患者(SMD:-1.69、95%CI:-2.40~-0.97、p<0.001) ●有酸素運動(SMD:-2.21、95%CI:-2.89~-1.53、p<0.001) ●8~12週間の運動介入継続(SMD:-2.58、95%CI:-3.61~-1.54、p<0.001) ●60分以下の運動介入(SMD:-2.29、95%CI:-3.66~-0.92、p=0.001) ●アジア人患者(SMD:-1.86、95%CI:-2.42~-1.31、p<0.001) ●週4回以下の運動介入(SMD:-1.70、95%CI:-2.29~-1.11、p<0.001)・メタ解析結果の確実性は、バイアス分析および感度分析より支持された。 著者らは「運動介入は、原発性不眠症患者に良い影響をもたらすことが示唆された。その影響は、とくに高齢患者において顕著であった。原発性不眠症状の治療および睡眠の質の改善には、60分間の運動介入を週4、5回、8~12週間継続することが推奨される。本結果の検証には、サンプル数の増加や研究の質の向上が望まれる」としている。

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乾癬患者の肥満・糖尿病、生物学的製剤治療への影響は?

 乾癬の生物学的製剤による治療に、肥満症や糖尿病既往は、どの程度の影響を与えるのか。米国・Eastern Virginia Medical SchoolのClinton W. Enos氏らによる検討で、肥満は、PASI75およびPASI90の達成率を25~30%減少することなどが示された。乾癬は併存する全身性代謝疾患との関連が指摘されるが、結果を踏まえて著者は、「生物学的製剤の治療反応の達成率を改善するためにも、併存疾患負荷のアセスメントが重要である」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2021年7月10日号掲載の報告。 研究グループは、米国およびカナダの診療拠点で使われるCorEvitas' Psoriasis Registryに登録された乾癬患者において、併存する肥満症、糖尿病の既往、高血圧、脂質異常症と、生物学的製剤による6ヵ月時点の治療反応との関連性を評価した。 ベースラインで生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-17阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-23阻害薬)による治療を受けており、6ヵ月時点の外来受診データが入手できた2,924例を対象に分析を行った。 ロジスティック回帰法にて、肥満症、糖尿病の既往、高血圧、脂質異常症の各併存疾患を有する患者について、それぞれ有さない患者と比較した選択的アウトカムの反応性達成について、補正後オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し、評価した。 主な結果は以下のとおり。・全体で肥満症は、PASI75(OR:0.75、95%CI:0.64~0.88)とPASI90(0.70、0.59~0.81)の達成オッズ比25~30%の低下と関連した。・糖尿病の既往は、PASI75達成のオッズ比を31%(OR:0.69、95%CI:0.56~0.85)、PASI90を同21%(0.79、0.63~0.98)低下した。・肥満症は、TNF阻害薬やIL-17阻害薬クラスの反応性の低下と関連していた。・肥満症にかかわらず、糖尿病はIL-17阻害薬治療中のアウトカム不良と関連していた。・程度は低いが、高血圧はTNF阻害薬クラス治療中のアウトカム不良と関連していた。・脂質異常症グループでは、有意な関連はみられなかった。 著者らは、本検討は、短期的な効果のみを評価しており、サンプルサイズは小さく差異の検出力が限られており、結果については限定的である、としている。

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CGPを提供するリキッドバイオプシーを国内で初めて発売/中外製薬

 中外製薬は、固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリング(CGP)を提供するリキッドバイオプシー検査である「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」について、8月1日より保険償還が開始され、21021年8月2日、発売したと発表。あわせてエスアールアエルによる検査の受託も開始される。CGPとコンパニオン診断機能を持ったがん遺伝子パネル検査 FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイルは、血液検体を用いた固形がんに対するCGPと、国内承認済の複数のがん治療薬に対するコンパニオン診断機能を持ったがん遺伝子パネル検査で、本年3月22日に厚生労働省より承認されている。 FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイルは、固形がんを対象に、血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いることで、324のがん関連遺伝子を解析する。がんゲノムプロファイリング機能とあわせ、厚生労働省より承認されている複数の分子標的治療薬のコンパニオン診断機能も有しており、これらの結果を1つのレポートとして提供する。医薬品の適応判定の補助を目的とした場合の適応・活性型EGFR遺伝子変異(非小細胞肺がん):アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブ・EGFRエクソン20 T790M変異(非小細胞肺がん):オシメルチニブ・ALK融合遺伝子(非小細胞肺がん):アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ・ROS1融合遺伝子(非小細胞肺がん):エヌトレクチニブ・NTRK1/2/3融合遺伝子(固形がん):エヌトレクチニブ・BRCA1/2遺伝子変異(前立腺がん):オラパリブ

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新型コロナワクチン、デルタ株への有効性は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンであるBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)またはChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の2回接種後の有効性は、アルファ株とデルタ株で大きな差は認められなかった。ただし、初回接種後の両株に対するワクチンの有効性には顕著な差がみられ、デルタ株で低かった。英国・公衆衛生局のJamie Lopez Bernal氏らによる、診断陰性例コントロール試験の結果で、著者は結果を踏まえて、「したがって、脆弱な集団では2回のワクチン接種を最大化するよう努力する必要がある」と述べている。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のB.1.617.2変異株(デルタ株)はインドでの感染者急増の一因で、現在、感染者の増加が顕著なイギリスを含め世界中で検出されている。この変異株に対するBNT162b2およびChAdOx1 nCoV-19ワクチンの有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。診断陰性例コントロール試験によりワクチンの変異株に対する有効性を検討 研究グループは、ワクチン(BNT162b2またはChAdOx1 nCoV-19)接種によるデルタ株への影響を推定する目的で、診断陰性例コントロール試験により、デルタ株が流行し始めた期間における優勢株(B.1.1.7またはアルファ株)と比較したデルタ株の症候性疾患に対するワクチンの有効性を推定した。 検討では、症候性のCOVID-19患者のワクチン接種状況と、症状を有するPCR検査陰性者のワクチン接種状況を比較。また、英国におけるすべての症候性COVID-19患者の症例データを用い、患者のワクチン接種状況に応じた変異株保有症例の割合を推定した。 変異株は、全ゲノムシークエンス解析を用いるとともに、TaqPath PCR法によるスパイク遺伝子標的の状態(陽性の場合はデルタ株、陰性の場合はアルファ株を保有)に基づいて同定した。デルタ株に対するワクチンの有効性、2回接種後で67~88% ワクチン初回接種後の有効性は、アルファ株保有者で48.7%(95%信頼区間[CI]:45.5~51.7)、デルタ株保有者で30.7%(95%CI:25.2~35.7)であり、デルタ株保有者で低かった。この結果は、両ワクチンで同様であった。 一方、2回接種後の有効性は、BNT162b2ワクチンでアルファ株93.7%(95%CI:91.6~95.3)、デルタ株88.0%(95%CI:85.3~90.1)、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンでそれぞれ74.5%(95%CI:68.4~79.4)、67.0%(95%CI:61.3~71.8)であった。

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片頭痛の予防治療に関するレビュー

 米国・ハーバード大学医学大学院のRebecca Burch氏は、片頭痛の予防的治療の開始時期と選択方法、薬理学的オプション(従来からある経口剤治療およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド[CGRP]またはその受容体に対する新規モノクローナル抗体)、神経調節などの非薬理学的治療、難治性片頭痛の予防的治療などの片頭痛に対する介入について、レビューを行った。Continuum誌2021年6月1日号の報告。 主なレビューは以下のとおり。・片頭痛の予防的治療は、CGRPまたはその受容体を標的としたモノクローナル抗体が開発されたことにより変化した。・これらの治療法は、毎月または四半期ごとに皮下または静脈内投与することにより、高い有効性と良好な忍容性が臨床試験で確認された。・リアルワールドでの研究において、有害事象は、臨床試験よりも高率で認められた。・従来からある2つの予防的治療で効果不十分な場合、CGRPまたはその受容体を標的としたモノクローナル抗体の使用が推奨されている。・一般的に引用される米国頭痛学会、米国神経学会の頭痛予防ガイドライン2012が発表されて以来、リシノプリル、カンデサルタン、メマンチンの予防的使用を支持する臨床試験が報告されている。・外部三叉神経刺激法および単発経頭蓋磁気刺激法を含む神経調節デバイスによる予防的使用を支持するいくつかのエビデンスが報告されている。・片頭痛の予防的治療に関する米国頭痛学会、米国神経学会の頭痛予防ガイドラインは、現在アップデートされている。・新クラスの経口CGRP受容体アンタゴニスト(gepant)が、片頭痛の予防的治療に対し試験されている。 著者らは「片頭痛の予防的治療の成功は、疾患負荷の軽減やQOLの向上が期待できる。片頭痛の予防には、CGRPを標的とした新規治療法や、十分なエビデンスを有する従来治療など、多くの薬理学的および非薬理学的治療オプションが選択可能である。個々の患者に最適な治療法を見つけるためには、複数の臨床試験が必要になると考えられる」としている。

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認知症関連精神症状、pimavanserinで再発リスク低下/NEJM

 治療中止試験において、経口5-HT2A受容体逆作動薬/拮抗薬pimavanserinへの効果が認められた認知症に関連する精神症状を呈する患者について、治療中止群と比べて継続群の再発リスクが低下したことが示された。米国・アリゾナ大学のPierre N. Tariot氏らによる「HARMONY試験」の結果で、著者は「認知症関連精神症状におけるpimavanserinの有効性を確認するため、長期・大規模の試験を行うことが必要である」とまとめている。神経変性疾患に起因する認知症患者は、認知症関連精神症状を有する可能性がある。認知症のさまざまな要因に関連する精神症状への、pimavanserinの有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌2021年7月22日号掲載の報告。治療中止試験でpimavanserinの効果を検討 研究グループは、アルツハイマー病、パーキンソン病認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症に関連した精神症状を有する患者を対象に、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照治療中止試験を行った。 全患者に非盲検でpimavanserinを12週間投与し、8週および12週時点で、Scale for the Assessment of Positive Symptoms-Hallucinations and Delusions(SAPS-H+D)スコア(高スコアほど精神症状が重症であることを示す)がベースラインから30%以上低下し、臨床全般印象改善度評価尺度(CGI-I)スコアが1(著明改善)または2(中等度改善)の患者を、pimavanserin継続群またはプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付け、26週まで投与した。 主要エンドポイントは、time-to-event解析で評価した精神症状の再発で、SAPS-H+Dスコアが30%以上上昇しCGI-Iスコアが6(中等度悪化)または7(著明悪化)、認知症関連精神症状による入院、有効性の欠如によりレジメン中止または試験中断、あるいは認知症関連精神症状に対する抗精神病薬使用で定義した。継続投与群で再発リスク65%低下 非盲検期に392例が登録され、うち41例が管理上の理由(有効性について試験を中止)で治療を中断、残る351例のうち217例(61.8%)が持続的効果を有し、105例をpimavanserin継続群に、112例をプラセボ群に割り付けた。 再発例は、pimavanserin継続群12/95例(13%)、プラセボ群28/99例(28%)であった(ハザード比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.17~0.73、p=0.005)。 二重盲検期間中の有害事象発生は、pimavanserin継続群43/105例(41.0%)、プラセボ群41/112例(36.6%)であった。pimavanserin継続群では、頭痛、便秘、尿路感染症、無症候性QT延長が認められた。

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がん化療中の副作用、遠隔モニタリングで症状負荷減少/BMJ

 Advanced Symptom Management System(ASyMS)を用いたがん治療中の遠隔モニタリングにより、症状の負担が有意に減少することが示された。英国・ストラスクライド大学のRoma Maguire氏が、オーストリア、ギリシャ、ノルウェー、アイルランドおよび英国のがんセンター12施設で実施した無作為化評価者盲検比較試験「eSMART試験」の結果を報告した。ASyMSは、携帯電話を用い化学療法の毒性を24時間体制でリアルタイムにモニタリングし管理するシステムである。著者は、「効果量は“中(medium)”(Cohen's d=0.5)であったことから、ASyMSは臨床的に有効と考えられる。遠隔モニタリングシステムは、将来の医療サービス、とくにCOVID-19のパンデミックで生じる混合医療提供モデルには不可欠である」とまとめている。BMJ誌2021年7月21日号掲載の報告。初回または5年ぶりの化学療法を受けるがん患者829例を無作為化し評価 研究グループは、補助化学療法関連副作用の遠隔モニタリングが、症状の負担やQOLなどに及ぼす影響を評価する目的で、初回または5年ぶりの化学療法を受ける、転移のない乳がん、大腸がん、ホジキン病または非ホジキンリンパ腫患者829例を、ASyMSを用いた治療群(介入群、415例)または標準治療群(対照群、414例)に無作為に割り付け、6サイクルの化学療法を行った。 介入群は、ASyMSを用い、10種類の症状(悪心・嘔吐、下痢、便秘、粘膜炎、知覚異常、手足の痛み、インフルエンザ様症状/感染症、疲労感、痛み)および最大6種類の追加症状を評価する質問票(Daily Chemotherapy Toxicity Self-Assessment Questionnaire: DCTAQ)に記入した。 主要評価項目は症状の負担(Memorial Symptom Assessment Scale:MSASで評価)、副次評価項目はそれぞれの評価スケールによる、健康関連QOL(Functional Assessment of Cancer Therapy-General:FACT-G)、支持療法のニーズ(Supportive Care Needs Survey Short-Form:SCNS-SF34)、不安(State-Trait Anxiety Inventory-Revised:STAI-R)、自己効力感(Communication and Attitudinal Self-Efficacy Scale for Cancer:CASE-Cancer)、および労働遂行能力(Work Limitations Questionnaire:WLQ)であった。ASyMSを用いた副作用の遠隔モニタリングで症状負荷が軽減 症状の負担(MSAS総スコア)は、介入群では化学療法前(ベースライン)と同程度であったが、対照群ではサイクル1以降、増加した。ベースラインからの変化量は、介入群が低かった(補正後平均群間差:-0.15、95%信頼区間[CI]:-0.19~-0.12、p<0.001、Cohen's d=0.5)。MSASのサブドメインについても、介入群では対照群と比較し、全体的苦痛指数(-0.21、-0.27~-0.16、p<0.001)、精神症状(-0.16、-0.23~-0.10、p<0.001)、および身体症状(-0.21、-0.26~-0.17、p<0.001)が有意に低いことが示された。 副次評価項目のベースラインからの変化量については、介入群でFACT-G総スコアは高く(補正後平均群間差:4.06、95%CI:2.65~5.46、p<0.001)、STAI-R特性不安(-1.15、-1.90~-0.41、p=0.003)およびSTAI-R状態不安(-1.13、-2.06~-0.20、p=0.02)は低く、CASE-Cancerスコアは高く(0.81、0.19~1.43、p=0.01)、SCNS-SF34はほとんどのドメイン(性的なニーズ、患者ケアとサポートのニーズ、身体と日常生活のニーズ)が低かった。その他のSCNS-SF34ドメインおよびWLQには有意な差はなかった。 ASyMSの安全性は良好であった。好中球減少症が介入群で高頻度にみられた。

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不眠症とメタボリックシンドロームリスク~メタ解析

 不眠症と高血圧、高血糖、脂質異常症、肥満などのメタボリックシンドロームリスクとの関連を調査するため、中国・Third Military Medical UniversityのYuanfeng Zhang氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Clinical Neuroscience誌2021年7月号の報告。 PRISMAガイドラインに従ってメタ解析を実施した。PubMedおよびEmbaseより、不眠症とメタボリックシンドロームリスクとの関連を調査した2020年12月1日までに公表された観察研究を検索した。各研究のリスク推定値を集計し、プールされたデータのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、ランダム効果モデルを用いた。研究の不均一性は、I2統計量を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・高血圧、高血糖、脂質異常症、肥満のメタボリックシンドロームに関連する症状を含む12件の研究を、最終的にメタ解析に含めた。・不眠症患者のメタボリックシンドロームに関連する症状のリスクは、以下のとおりであった。 ●高血圧:OR=1.41(95%CI:1.19~1.67) ●高血糖:OR=1.29(95%CI:1.11~1.50) ●脂質異常症:OR=1.12(95%CI:0.92~1.37) ●肥満:OR=1.31(95%CI:1.03~1.67) 著者らは「不眠症患者では、そうでない人と比較し、高血圧、高血糖、肥満のリスクがそれぞれ1.41倍、1.29倍、1.31倍高かった」としている。

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がん治療の中心静脈アクセスデバイス、完全埋め込み型ポートが有用/Lancet

 固形腫瘍または血液腫瘍患者の全身性抗がん薬治療(SACT)に使用する中心静脈アクセスデバイス(CVAD)では、完全埋め込み型ポート(PORT)はHickmanトンネル型中心静脈カテーテル(Hickman)や末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)と比較して、合併症の頻度がほぼ半減し、QOLや費用対効果も比較的良好である可能性があることが、英国・グラスゴー大学のJonathan G. Moss氏らが実施した「CAVA試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年7月20日号に掲載された。3つの2群間比較で非劣性または優越性を評価 研究グループは、悪性腫瘍患者に対するSACTに用いる3つのCVADについて、合併症の発生率や費用、QOLを比較し、受容性、臨床的有効性、費用対効果を評価する目的で、非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成による)。本試験では、2013年11月~2018年2月の期間に、英国の18の腫瘍科病棟で参加者が募集された。 対象は、年齢18歳以上、固形腫瘍または血液腫瘍の治療で12週以上のSACTが予測され、最適なCVADに関して臨床的に不確実性が認められる患者であった。 被験者は、4つの無作為化の選択肢(Hickman対PICC対PORT[2対2対1]、PICC対Hickman[1対1]、PORT対Hickman[1対1]、PORT対PICC[1対1])に基づいて、3つのCVADに割り付けられた。PICCとHickmanの比較では非劣性(マージン:10%)、PORTとHickmanおよびPORTとPICCの比較では優越性(マージン:15%)の評価が行われた。 主要アウトカムは、デバイスの除去、試験中止、追跡期間1年のうちいずれか先に到達した時点における合併症(デバイス関連の感染症・静脈血栓症・肺塞栓症、静脈血吸引不能、器具の故障など)の発生率とした。医療サービス提供モデルの改変が課題 1,061例が登録され、PICC対Hickmanに424例(PICC群212例、Hickman群212例)、PORT対Hickmanに556例(253例、303例)、PORT対PICCに346例(147例、199例)が割り付けられた(Hickman対PICC対PORTの患者は2つの2群間比較に含まれたため、比較対象の患者の総数は無作為化で割り付けられた患者数よりも多く、1,326例[各群の平均年齢の幅59~62歳、女性の割合の幅44~55%]となった)。 がん種は、固形腫瘍が87~97%で、このうち大腸がんが46~65%、乳がんが11~16%、膵がんが6~15%であり、血液腫瘍は3~13%で、固形腫瘍の患者のうち59~68%に転移病変が認められた。 Hickmanの留置を最も多く行ったのは放射線科医(46~48%)で、次いで看護師(23~35%)、麻酔科医(13~20%)の順であった。PICC留置の多くは看護師(67~73%)によって行われた。PORT留置は、放射線科医(59~78%)、看護師(2~24%)、麻酔科医(10~11%)の順だった。PORT群の5例が全身麻酔下にデバイスを留置されたが、これ以外はすべて局所麻酔下であった。 PICC対Hickmanの合併症発生率は、PICC群が52%(110/212例)、Hickman群は49%(103/212例)と同程度であった。両群間の差は10%未満であったが、PICCのHickmanに対する非劣性は確認されず(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.78~1.71)、検出力が不十分である可能性が示唆された。 PORT対Hickmanの合併症発生率は、PORT群が29%(73/253例)と、Hickman群の43%(131/303例)に対して優越性が認められた(OR:0.54、95%CI:0.37~0.77)。また、PORT対PICCでは、PORT群は32%(47/147例)の発生率であり、PICC群の47%(93/199例)に比し優れていた(0.52、0.33~0.83)。 デバイス特異的なQOLは、PICC群とHickman群に差はなく、PORT群はこの2群に比べ良好であった。一方、PICC群はHickman群よりも総費用が低かった(-1,553ポンド)が、留置期間を考慮すると、週当たりの費用の差は小さくなった(-129ポンド)。PORT群はHickman群に比べ総費用(-45ポンド)が低く、週当たりの費用も安価であった(-47ポンド)が、有意差はなかった。また、PORT群はPICC群に比し総費用が実質的に高額であった(+1,665ポンド)が、週当たりの費用は逆に低かった(-41ポンド、有意差はない)。 著者は、「これらの知見により、固形腫瘍でSACTが行われる患者の多くは、英国国民保健サービス(NHS)の範囲内でPORT留置を受けるべきであることが示唆される」とまとめ、「現在の課題は、PORTをより適切な時期に、費用対効果が高い方法で施行できるように、医療サービス提供モデルを改変することである」としている。

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カナキヌマブ、重症COVID-19入院患者の生存を改善せず/JAMA

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者の治療において、抗インターロイキン(IL)-1β抗体カナキヌマブはプラセボと比較して、29日の時点での侵襲的機械換気(IMV)を要さない生存の可能性を向上させず、COVID-19関連死を抑制しないことが、米国・テンプル大学のRoberto Caricchio氏らが実施した「CAN-COVID試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年7月20日号で報告された。欧米39施設の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、重症COVID-19入院患者の治療におけるカナキヌマブの有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年4月30日~8月17日の期間に、欧州と米国の39施設で参加者の登録が行われた(スイス・Novartis Pharma AGの助成による)。 対象は、年齢12歳(米国)または18歳(欧州)以上で、低酸素症が認められるがIMVを必要とせず、直近7日以内に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染と診断、直近5日以内にX線またはCT検査で肺浸潤を伴う肺炎と診断され、全身性過剰炎症(血清C反応性蛋白[CRP]値≧20mg/Lまたは血清フェリチン値≧600μg/L)がみられる患者であった。 被験者は、カナキヌマブ(体重40~<60kgの患者:450mg、同60~80kg:600mg、同80kg超:750mg)を1回、2時間で静脈内投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、投与後3日から29日までのIMVなしの生存とされた。副次アウトカムは、COVID-19関連死、安全性などであった。有害事象の多くは基礎疾患関連 454例(年齢中央値59歳、女性187例[41.2%])が登録され、カナキヌマブ群に227例、プラセボ群に227例が割り付けられた。417例(91.9%)が29日間の試験を完了した。ベースラインで、患者の約半数が肥満(BMI>30)で、炎症性バイオマーカー(CRP、フェリチン、Dダイマー)が上昇しており、約7割が低流量酸素吸入を受けていた。 投与後3日から29日までIMVなしで生存した患者の割合は、カナキヌマブ群が88.8%(198/223例)と、プラセボ群の85.7%(191/223例)より高かったが、群間差は3.1%(95%信頼区間[CI]:-3.1~9.3)で、オッズ比(OR)は1.39(95%CI:0.76~2.54)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.29)。 また、COVID-19関連死は、カナキヌマブ群が4.9%(11/223例)、プラセボ群は7.2%(16/222例)であり、群間差は-2.3%(95%CI:-6.7~2.2)、ORは0.67(0.30~1.50)であった。 29日までに発現した有害事象のほとんどが基礎疾患に関連しており、試験薬との関連はみられなかった。重篤な有害事象は、カナキヌマブ群で16.0%(36/225例)、プラセボ群で20.6%(46/223例)に認められた。致死的な有害事象(COVID-19との関連の有無は問わない)は、カナキヌマブ群で7.6%(17/225例)、プラセボ群で9.4%(21/223例)に発現した。 著者は、「本試験は、重症COVID-19肺炎患者では、IL-1の阻害によりサイトカインの放出が抑制されるとの仮説に基づいて行われた。世界的流行の発生早期のプロトコール作成時に、主要アウトカムの15%の差を臨床的に意義のある最小の利益と定義したが、本試験ではこれは達成されなかったことから、得られた効果量とCIに基づいてこれらの結果を解釈すべきと考えられる」としている。

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ASCO2021 レポート 消化器がん(肝胆膵がん)

レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)

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GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択【令和時代の糖尿病診療】第1回

第1回 GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1 RA)、その登場は10年前にさかのぼる。ちなみに、今年はインスリン発見から100年という、糖尿病分野において記念すべき歴史的な年である(にもかかわらず、コロナの影響で大々的なイベントは開催できていない)。それに比べ、たかだか生誕10年ではあるものの、これまでに数多くのGLP-1 RA製剤が登場し、エビデンスもそろってきており、大きな注目を集めている。ここで知識の整理として、GLP-1の生理作用を見てみよう。図1:GLP-1の多彩な生理作用(間接的作用を含む)画像を拡大する非常に多彩ではあるが、GLP-1 RAは、主に膵臓において血糖依存的にインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制、肝臓においてグルコース産生を抑制、胃においては胃内容物排出の遅延により、血糖コントロールを行うという作用機序である。次に、分類を見てみよう。図2:GLP-1受容体作動薬の分類分類としては、まずヒトGLP-1由来かExendin-4由来かに大別され、各々1日1~2回もしくは週1回の投与方法があり、それに対応する製剤が存在する。さらに、今まではGLP-1 RAといえば注射薬という位置付けだったが、2021年に経口薬も加わったのである。これには大きな衝撃を受けた。重要な3つのポイント:適応患者の選択、合併症の管理、体重減少効果GLP-1 RAを使用するに当たって、重要なポイントが3つあるので、順に説明する。(1)作用機序から考えた適応患者の選択と早期導入この薬剤の作用機序は、「インスリン分泌促進系」の中でも「血糖依存性」に分類1)されるため、膵機能が保たれているインスリン非依存状態であることが必須である。すなわち、この薬剤の醍醐味を感じていただけるのは、罹病歴が比較的短く、内因性インスリン分泌能が保たれている、SU薬を多量に服用していない患者ということになる。一方、血糖依存性といえども万能ではなく、高血糖毒性を伴いインスリンの絶対的適応となるようなケースには不向きであることをご理解いただきたい。こういった場合は、糖毒性解除後に使用するとうまくいくことが多い。ひとつ症例で考えてみよう。63歳男性。脳梗塞で脳神経内科入院となり、救急外来時の随時血糖値283mg/dL、HbA1c 10.6%とコントロール不良の糖尿病を認め、血糖コントロール依頼で当科受診となった。未治療の患者で、体重85.0kg、BMI 31.2で、2度肥満を認めた。入院後に強化インスリン療法を開始、その後リハビリ目的にて転院となっている。リハビリ病院では混合型インスリン2回打ちに変更になり、3ヵ月後、当科に今後の治療につき相談があった。この時は随時血糖値141mg/dL、HbA1c 6.9%まで改善しており、体重79.0kg、BMI 29.0の1度肥満まで改善していた。総インスリン量は、22単位から12単位まで減量となっており、軽度の右不全マヒがあるものの、インスリン自己注射は問題なくできた。そこで主治医は、患者への負担を少しでも軽くしようと考え、インスリン分泌能も保たれていたため、週1回のGLP-1 RAへの切り替えを選択した。その後、3ヵ月間単剤での管理で3.1kgの減量に成功し、HbA1cも5.9%まで改善、患者さんも減量の成功を大変喜び、継続を希望したとのことである。この例は、GLP-1 RAの早期導入が功を奏したと考えられる。実際のところ、JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータを見ると、GLP-1 RAの処方は年々増加しているものの、HbA1cの目標到達率はインスリンと大きく変わらず、あまりよくない(私も言える立場ではないが反省の意味も込めて)。もしかしたら導入が遅いため、十分な効力が発揮できていないのかもしれない。(2)合併症抑制を考慮した治療選択治療選択の際、合併症(大血管症、細小血管症)を考慮できているだろうか? 2008年から米国FDA(食品医薬品庁)で、新規の血糖降下薬は心血管合併症を増やさないことの証明が必須になっているが、最近はむしろ血糖コントロール改善とは異なる機序で、糖尿病合併症を抑制する薬剤が注目を集めてきている。実際、GLP-1 RAは2021年ADAのStandards of Medical Care in Diabetes2)にも記載されているように、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)やCKDの合併、または高リスクがある場合は、メトホルミン使用とは無関係に優先的に使用すべき薬剤の1つになっている。わが国において薬剤の使用優先順位までは決められていないが、エビデンスのある薬剤の1つとして位置付けられているため、より処方するベネフィットが大きいと考えられる。図3:2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)画像を拡大する(3)体重減少、食欲抑制に対する効果GLP-1 RAの生理作用は、糖代謝改善作用以外に、胃内容物排出の遅延作用と中枢における食欲抑制作用があり、それには消化管で産生されたGLP-1が主に迷走神経を介して中枢へ作用する系、および中枢で産生されたGLP-1が作用する系の2つが関与するといわれている3)。いずれにせよ体重減少効果は大きく、米国では抗肥満薬としても上市されている(糖尿病薬の用量とは異なる)。セマグルチドの最近のエビデンスとして、太り過ぎまたは肥満成人に対する集中的行動療法の補助として有意な体重減少をもたらし4)、また従来の薬剤の約2倍の減量効果があり5)、肥満外科手術に匹敵するといわれるほどである。近年、高齢化が進むにつれ高齢者糖尿病患者も増加し、サルコペニアの問題も大きく取り沙汰されている。体重減少効果が筋肉量の減少を誘発していないかの問題も言われる中、経口セマグルチドにおける2型糖尿病患者のエネルギー摂取量、食事の嗜好、食欲、体重の効果についての論文が発表されている6)。表1:Changes from baseline in body weight and body composition as measured by Bodpod※ and waist circumference at week 12(day 3)※Bodpod:体脂肪測定装置(イタリア・COSMED SRL社製)表によると、12週で体重2.7kg、ウエスト2.4cmが減少しており、脂肪量は-2.6kg、除脂肪量-0.1kgと、減量のほとんどを脂肪量の減少が占めた。さらに、摂取エネルギーが減少するのはもちろんのこと、高脂肪食や甘味が有意に減少していたという嗜好の変化が非常にユニークな結果であった。また、GLP-1 RAの効果について、さらに細かい話にはなるが、ショートアクティングとロングアクティングでは、作用時間だけでなく血糖降下作用も異なるといわれている。まずロングアクティングは、主にインスリン分泌促進およびグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮し、ショートアクティングに比べて空腹時血糖値やHbA1cの改善効果が大きいとされる。一方、ショートアクティングは主に胃内容物排出遅延作用やグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮するとされる。実際、ロングアクティングの血糖改善効果は残存膵β細胞機能に依存するのに対し、ショートアクティングでは血糖改善効果と残存β細胞機能に明確な関連性を認めない。New Normal Selection GLP-1 RAさて、今回のタイトル「GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択」に対して、「何だろう?」と思って読んでくれた方の疑問にお答えしよう。コロナで流行ワードとなった「New Normal」、すなわち新しい生活様式のように、あらゆる行動を時勢に合わせてアップデートして動く中で、薬物治療の新たな選択肢としてGLP-1 RAの登場、そしてこの治療の幅が非常に広がったことで、新しい糖尿病診療が始まったことを意味する。たとえば、今までWeeklyのGLP-1 RA製剤は用量調節ができなかったが、セマグルチドではDaily製剤のように用量調節ができるようになった。実際は初期投与量・維持量・コントロール困難例と分けられているものの、消化器系症状が出やすい人や体重をあまり落としたくない高齢者など、人によっては初期投与量が維持量になるなど、使用範囲が広がる。また、過体重でとにかく減量させたい人やインスリンを減量したい人に高用量を使用するといった方法もあるかと思う。さらには、注射製剤をかたくなに拒否する患者さんには経口薬を選ぶこともでき、こちらも同様に3つの規格が使用できる。注射指導にハードルを感じる非専門医にとっても、経口薬なら処方しやすいのではないかと考えられる。いずれにせよ、まさにNew Normalな世界が広がる。ぜひ、ワクワクしながらこの薬剤を使用してみてはいかがだろうか?1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.3)上野 浩晶ほか. 日本糖尿病学会誌. 2017;60:570-572.4)Wadden TA, et al. JAMA. 2021;325:1403-1413.5)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989.6)Gibbons C, et al. Diabetes Obs Metab. 2021;23:581-588.

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COVID-19入院患者、60歳未満も男性では約半数で合併症/Lancet

 COVID-19入院患者は、若年者や既往歴がない患者も含めて院内合併症の発生率が高く、神経学的合併症は退院時のセルフケア能力の低下と関連していた。英国・エディンバラ大学のThomas M. Drake氏らが、COVID-19の合併症の程度や影響を明らかにする目的で、英国の医療機関302施設にて実施した多施設共同前向きコホート研究の結果を報告した。COVID-19は多臓器疾患で、生存患者は院内合併症を発症する可能性があるとされる。著者は、「COVID-19の合併症は、今後数年間、医療および社会的サポートにおいて大きな負担となる可能性がある。今回のデータは、COVID-19による入院患者の退院後のケアを目的としたサービスの設計や提供に役立つだろう」とまとめている。Lancet誌2021年7月17日号掲載の報告。COVID-19入院患者約8万例について前向きに院内合併症の発生を調査 研究グループは、International Severe Acute Respiratory and Emerging Infections Consortium(ISARIC)WHO Clinical Characterisation Protocol UK(CCP-UK)に登録された患者のうち、2020年1月17日~8月4日の間に入院し、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が確定または強く疑われた19歳以上の成人患者について解析した。 主要評価項目は、院内合併症の発生(COVID-19の特徴に加えて、単独または追加で発生した臓器別の診断と定義)とし、これらのアウトカムと院内合併症、年齢、既往症・併存疾患との関連をマルチレベルロジスティック回帰および生存モデルにて検討した。 期間中にCCP-UKに登録された入院患者は8万388例、このうちSARS-CoV-2感染が確定または強く疑われる19歳以上の患者は7万5,276例で、アウトカムに関するデータがある7万3,197例が解析対象となった。約半数が合併症を発症 7万3,197例の背景は、平均年齢71.1歳(SD 18.7)、男性が56.0%で、81.0%(5万9,289/7万3,197例)が併存疾患を有していた。 全体の死亡率は31.5%(2万3,092/7万3,197例)、合併症発生率は49.7%(3万6,367/7万3,197例)であった。合併症発生率は、年齢とともに上昇し、女性よりも男性のほうが高率で、最も発生率が高かったのは60歳以上の男性であった(60歳以上:男性54.5%[1万6,579/3万416例]、女性48.2%[1万1,707/2万4,288例]、60歳未満:男性48.8%[5,179/1万609例]、女性36.6%[2,814/7,689例])。 頻度が高い合併症は、腎臓系が24.3%(1万7,752/7万3,197例)、複雑な呼吸器系合併症18.4%(1万3,486/7万3,197例)、および全身性の合併症が16.3%(1万1,895/7万3,197例)であった。そのほか、心血管系が12.3%(8,973/7万3,197例)、神経系が4.3%(3,115/7万3,197例)、消化管・肝臓系が0.8%(7,901/7万3,197例)報告された。 若年者では合併症の存在が死亡リスクの増加と関連していたが、高齢者では合併症の存在による死亡率の増加は非常に小さかった。生存患者5万105例では、26.6%(1万3,309例)がCOVID-19罹患前に比べセルフケア能力が低下しており、この低下は年齢、男性、重症患者で増加した。合併症の存在は、年齢、性別、貧困、病院を調整後も退院後のセルフケア能力低下のリスク増加と関連する独立した因子であり、神経学的合併症は機能的アウトカムの悪化と最も強く関連していた。

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新薬aducanumabについてわかっていること【コロナ時代の認知症診療】第5回

疾患修飾薬aducanumabはこれまでと何が違うのか6月、米国の FDA によってaducanumabの承認が決定した直後から、エーザイの株価は数日ストップ高を続けた。筆者のクリニックでは幾つかの新規抗アルツハイマー病薬の治験をしているが、患者・家族の治験への姿勢も大きく変化した。つまり「治験に参加してあげてもいい」から「参加させていただけるのですか?」というトーンへと豹変したのである。これまでに5つのアルツハイマー病治療薬が承認されている。けれどもこの中の最後の薬剤は1993年に創薬された。したがってこの28年間アルツハイマー病に対する新しい治療薬開発は成功しなかった。しかも、従来の薬がsymptomatic drugs(対症療法薬)と言われるのに対して、この薬はdisease modifying drug(疾患修飾薬)と言われる。もっとわかりやすいように、世上、疾患修飾薬ではなく根本治療薬とよく言われる。それはともかく対症療法薬と疾患修飾薬の違いを図で説明してみよう。対症療法薬は、服用すればその間効果がある。けれどもある期間が過ぎて効果が切れ始めたとする。そこで薬をやめれば、急速に症状が悪化して、これまで薬を飲まなかった人と同じ状態にまで落ちていく。これに対して疾患修飾薬は、ある時点で薬を止めても、中止の時点までに得られた改善幅をその後も維持できる。画像を拡大するaducanumabにより神経細胞が100%元に戻ることはもちろんない疾患修飾薬とされるには、アルツハイマー病の病理のメカニズムの本筋に沿った薬効をもつ必要がある。本筋とは、原因物質あるいは主たる責任物質とされてきたアミロイドとタウである。アルツハイマー病と確定診断されるためにはこの両者が脳の中に確認されなくてはならない。大切なのは、アルツハイマー病がスタートするには、アミロイドが必要なことである。さてaducanumabは患者の脳の中からアミロイドβ、あるいはその集合体であるプラークなどを取り除く薬剤である。もっともこうした脳の沈着物自体が認知症の発症原因ではないことに留意が必要である。アミロイドは、単体から段階的にオリゴマー、そしてポリマーと大きくなる過程において神経毒性を発揮する。その結果、脳神経細胞が傷害されてしまうことが認知症発症の根幹となる。出刃包丁やピストルが人を殺めるように、このアミロイドあるいはタウも神経細胞を殺傷する道具だという点で共通としている。だから、aducanumabの効果は、いわばアミロイドという出刃包丁を駆逐することで神経細胞は守られることが示されたことになる。けれども本剤によって神経細胞が100%元に戻ることはもちろんない。理論的には、今残っているものがこれ以上傷害されないことで現状維持が可能だということになる。誰もが気になる効果のほどと、看過はできない副作用誰しも気になるのは効果のほどである。筆者のクリニックでは、日本における本剤の治験に関わり10名の参加者に参加していただいた。そして昨年の10月からは、第IV相試験に7名の患者さんに参加してもらっている。一方、治験とは関係なく、初診の後は、原則として半年ごとに、日本語版ADAS‐cog(Alzheimer Dementia Assessment Scale)などのテストを受験してもらっている。実は、アルツハイマー病治療薬の効果判定の世界的スタンダードはこのADAS‐cogやCDR(Clinical Dementia Rating)による点数の変化である。ところがこのテスト結果で、たとえばコントロール群よりも3点優っていたので有効と言われても普通にはピンとこない。あくまでaducanumabへの総合的な印象と当院でのテスト成績の推移から、「確かに落ちが目立たない人が多い」という私的な思いがある。雑駁な表現だが、これまでの薬が「天井から目薬」なら今度のものは「50cm上から目薬」という感じだ。なお副作用に関して、ARIA(Amyloid related Imaging abnormalities)という血管浮腫と微小出血の問題1)は看過できない。治験において、多くは無症候ながら高用量症例の41%でARIAがみられたとされる。大半が数ヵ月で改善するものの大きな障害につながりかねない怖さがある。話題沸騰の新薬であるだけに、その他の感想や質問も多い。まず年間610万円と値段が高いこと、さらに日本で承認されたら保険が適用になるのか? という質問は多い。前者には、今後第2、第3の薬剤が出てくれば下がるだろうと思っている。実際、後続の薬剤、たとえばEli Lilly社のdonanemabはFDAのBreakthrough Therapy designation(画期的治療薬指定)を6月25日に受けたとされ、審査が始まりつつあるようだ。またこの薬をいつまで続けるのかという問題がある。これは従来の対症療法薬でも言われてきたことである。理論的には従来同様、「ずっと」が答えになるのだろう。しかし現実には、ある程度以上の人数の患者さんが使ってみて、そこで観察された効果から答えが出てくるのではなかろうか。参考文献・参考情報1)How Aducanumab will impact neurology and neuroradiology practice/Quantib

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妊婦への新型コロナワクチン、有効性と安全性/JAMA

 妊婦において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の接種は、ワクチン非接種と比較してSARS-CoV-2感染リスクを有意に低下させることが確認された。イスラエル・テルアビブ大学のInbal Goldshtein氏らが、妊婦を対象とした後ろ向きコホート研究の結果を報告した。妊婦におけるBNT162b2ワクチンの有効性と安全性については、第III相試験において妊婦が除外されたためデータが不足していた。JAMA誌オンライン版2021年7月12日号掲載の報告。ワクチン接種妊婦vs.非接種妊婦、各7,530例でSARS-CoV-2感染を比較 研究グループは、イスラエルの健康保険組織Maccabi Healthcare Servicesのデータベースを用い、2020年12月19日~2021年2月28日に、妊娠中に1回目のBNT162b2 mRNAワクチン接種を受けた妊婦を特定し、2021年4月11日まで追跡した。また、ワクチン接種妊婦と年齢、妊娠週数、居住地域、民族、経産歴、インフルエンザ予防接種状況などについて1対1の割合でマッチングさせたワクチン非接種妊婦を対照群とした。 主要評価項目は、初回ワクチン接種後28日以降におけるPCR検査で確定したSARS-CoV-2感染であった。 解析対象はワクチン接種群7,530例、対照群7,530例で、妊娠第2期が46%、妊娠第3期が33%、年齢中央値は31.1歳(SD 4.9)であった。初回ワクチン接種後28日以降のSARS-CoV-2感染が約80%低下 主要評価項目の追跡期間中央値は37日(四分位範囲:21~54、範囲:0~70)であった。ワクチン接種群で追跡期間が21日以上の妊婦は、ほとんどが追跡期間終了までに2回目の接種を受けていた。 追跡期間終了時までのSARS-CoV-2感染者は、合計でワクチン接種群118例、対照群202例であった。感染者で症状を有していたのは、ワクチン接種群で105例中88例(83.8%)、対照群で179例中149例(83.2%)であった(p≧0.99)。 初回ワクチン接種後28~70日にSARS-CoV-2感染が確認されたのは、ワクチン接種群10例、対照群46例であった。感染のハザードはそれぞれ0.33%および1.64%、絶対群間差は1.31%(95%信頼区間[CI]:0.89~1.74)であり、ワクチン接種群は対照群と比較して統計学的に有意にハザード比が低下した(補正後ハザード比:0.22、95%CI:0.11~0.43)。 ワクチン接種群におけるワクチン関連有害事象は68例報告され、重篤な副反応はなかった。68例中3例は、ワクチン接種の直近にSARS-CoV-2に感染しており、症状はワクチンではなく感染に起因する可能性が示唆された。主な症状は、頭痛(10例、0.1%)、全身の脱力感(8例、0.1%)、非特異的な疼痛(6例、<0.1%)、胃痛(5例、<0.1%)であった。

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アベマシクリブ関連ILD、実臨床での発症率と好発時期は?/日本乳癌学会

 日本人転移・再発乳がん患者におけるアベマシクリブ関連薬剤性肺障害(ILD)の実臨床での発症率と好発時期について、国内77施設での調査結果が報告された。日本人におけるアベマシクリブ関連ILDの発症率やリスク因子、臨床病理学的特徴を明らかにする目的で進行中のネステッドケースコントロール研究(NOSIDE)の中間報告結果を、昭和大学乳腺外科・先端がん治療研究所の吉沢 あゆは氏が第29回日本乳癌学会学術総会で発表した。研究概要 2018年11月~2019年12月にアベマシクリブによる治療が実施された転移・再発乳がん患者を対象に、年齢・性別、アベマシクリブ開始日・終了日、ILD発症(疑いを含む)の有無と発症日等についてアンケート調査を実施(1次調査)。 7名の中央評価委員による中央評価委員会を7回開催し、アベマシクリブ投与の関連を認めるILD症例を確定した。現在進行中の2次調査ではネステッドケースコントロール研究のデザインを用いてILD症例と、3倍の非ILD症例を抽出し、患者基本情報、既往歴・合併症、乳がん治療歴、アベマシクリブ投与開始前および投与中の身体所見・検査所見、ILD発症後の身体所見、検査所見、治療内容、転帰について詳細な調査を実施。リスク因子の評価などが行われる計画となっている。・評価項目:[主要評価項目]ILDの発症率(1次調査)およびリスク因子(2次調査)[副次評価項目]ILDの好発時期およびILDの重症度、臨床病型、臨床経過(1次調査)  今回発表された主な結果は以下のとおり。・国内77施設から1,189例が1次調査に登録された。女性が1,184例(99.6%)、年齢中央値は61(52~70)歳であった。・各施設から「ILD発症有(疑いも含む)」と報告されたのは76例。そのうち、中央評価委員会によりアベマシクリブ関連ILDと判定されたのは59例(5.0%)であった。・アベマシクリブ関連ILD発症59例の年齢中央値は66.0(55.0~73.0)歳、内服開始から発症までの期間は91~120日が最も多く、中央値は133.0(86.5~224.0)日であった。・ILDの臨床病型はOP39例(66.2%)、AIP/DAD23例(22.0%)、NSIP3例(5.1%)、HP3例(5.1%)、その他(肺水腫様)1例(1.7%)であった。・アベマシクリブ療法の治療ラインについては、1~2ライン目での使用が最も多く半数以上を占めたが、6ライン目での使用も多くみられた。・CTCAEのGradeは、Grade1が15例(25.4%)、Grade2が29例(49.2%)、Grade3が7例(11.9%)、Grade5が8例(13.6%)であった。・「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」に基づく重症度は、軽症(PaO2≧80torr)28例(47.5%)、中等症(60torr≦PaO2<80torr)7例(11.9%)、重症(PaO2>60torr[PaO2/ FiO2<300])14例(23.7%)、判定不能10例(16.9%)であった。・転帰(発症後のCT所見および主治医判断の転帰を参考に、中央評価委員会が総合的に判断)については、治癒8例(13.6%)、軽快29例(49.2%)、悪化1例(1.7%)、死亡8例(13.6%)、不変1例(1.7%)、判定不能1例(1.7%)、未確認11例(18.6%)であった。 これらの結果を受け演者の吉沢氏は、5.0%というILD発症率は市販後半年の調査結果と比較して3倍程度高いが、MONARCH-2・3試験の日本人集団におけるILD発症率(4.0%)と近い結果であり、本研究結果がより正確なILD発症率に近いと考察した。また、アベマシクリブ内服中はILD発症の可能性を念頭におき、問診、定期的な聴診、胸部X線撮像のほか、KL6やSP-Dのチェックが必要と考察している。発症時期は内服開始後3~4ヵ月に多いが、1年後以降の発症例が認められた点も指摘している。CTCAE Grade3以上を15例(25.5%)に認めており、MONARCH 2・3試験より重症例が多い結果であるが、これらの要因等の評価は現在施行中の2次調査で評価予定である。 なお2次調査は、2021年10月までの全例データ固定を予定している。

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非浸潤性乳がんの局所再発におけるTILの影響~メタ解析

 非浸潤性乳がんのバイオマーカーとしての腫瘍浸潤リンパ球(TIL:Tumor Infiltrating Lymphocyte)の役割を検討するため、ベルギー・Universite Libre de BruxellesのRafael Caparica氏らは、非浸潤性乳がん患者の予後へのTILレベルの影響についてメタ解析で評価した。その結果、高TILの患者は、局所再発(浸潤性または非浸潤性)が起こりやすいが、非浸潤性乳がんでは浸潤性局所再発の可能性は低いことが示された。Breast誌オンライン版2021年7月9日号に掲載。 著者らは、系統的文献検索により、非浸潤性乳がん患者のTILレベル(高vs.低)による局所再発を評価している研究を特定し、局所再発(浸潤性および非浸潤性)ごとのサブグループ解析を実施した。副次評価項目は、TILレベルと非浸潤性乳がんのサブタイプ、年齢、グレード、壊死との関連だった。各研究からオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を抜き出し、ランダム効果モデルを用いてプール解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・7つの研究(3,437例)でメタ解析を実施した。・高TILの場合、局所再発の可能性が高いが(浸潤性または非浸潤性、2,941例、OR:2.05、95%CI:1.03~4.08、p=0.042)、浸潤性局所再発の可能性は低かった(1,722例、OR:0.69、95%CI:0.49~0.99、p=0.042)。・高TILは、トリプルネガティブ乳がん(OR:3.84、95%CI:2.23~6.61、p<0.001)、HER2陽性乳がん(OR:6.27、95%CI:4.93~7.97、p<0.001)、高グレード(OR:5.15、95%CI:3.69~7.19、p<0.001)、壊死(OR:3.09、95%CI:2.33~4.10、p<0.001)と関連していた。

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