サイト内検索|page:172

検索結果 合計:10309件 表示位置:3421 - 3440

3421.

原発性アルドステロン症〔PA:Primary aldosteronism〕

1 疾患概要原発性アルドステロン症(PA)は治癒可能な高血圧の代表的疾患である。副腎からアルドステロンが過剰に分泌される結果、腎尿細管からのナトリウム・水再吸収の増加による循環血漿量増加、高血圧を呈するととともに、腎からのカリウム排泄による低カリウム血症を示す。典型例では高血圧と低カリウム血症の組み合わせが特徴であるが、近年は、血清カリウムが正常な例も多く経験され、通常の診察のみでは本態性高血圧との区別がつかない。高血圧は頻度の高い生活習慣病であることから、日常診療において常にその診断に配慮する必要がある。頻度が高く、全高血圧の約3~10%を占めることが報告され、わが国の患者数は約100万人とも推計されている。典型例は片側の副腎腺腫が原因となる「アルドステロン産生腺腫」であるが、両側の副腎からアルドステロンが過剰に分泌される両側性の原発性アルドステロン症(「特発性アルドステロン症」と呼ばれてきた)もあり、最近では、前者より後者の経験数が増加している。腺腫による場合は病変側の副腎摘出により、高血圧、低カリウム血症が治癒可能で、治癒可能な二次性高血圧の代表的疾患である。一方、診断の遅れは治療抵抗性高血圧の原因となり、これに低カリウム血症、アルドステロンの臓器への直接作用が加わって、脳・心血管・腎などの重要臓器障害の原因となる。わが国の研究からも通常の高血圧より、脳卒中、心不全、心肥大、心房細動、慢性腎臓病の頻度が高いことが明らかにされていることから、早期診断と特異的治療が極めて重要である1)。腺腫によるPAでは、細胞膜のカリウムチャンネルの一種であるKCNJ5の遺伝子変異などいくつかの遺伝子異常が発見され、アルドステロンの過剰分泌の原因となることが明らかにされている。一方、両側性は肥満との関連が示唆2)されているが、病因は不明である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 自覚症状低カリウム血症がある場合は、四肢のしびれ、筋力低下、脱力感、四肢麻痺、多尿、多飲などを認める。正常カリウム血症の場合では、高血圧のみとなり、血圧の程度に応じて頭痛などを認めることもあるが、非特異的な症状であり、本態性高血圧との区別はつかない。■ どのようなケースで疑うか正常カリウム血症で特異的な症状を認めない場合は本態性高血圧症と鑑別が困難なことから、すべての高血圧患者でその可能性を疑う必要があるが、ガイドラインでは特にPAの頻度が高い高血圧患者を対象として積極的にスクリーニングすることを推奨している(表)3)。表 PAの頻度が高いため、特にスクリーニングが推奨される高血圧患者低カリウム血症合併(利尿薬投与例を含む)治療抵抗性高血圧40歳未満での高血圧発症未治療時150/100mmHg以上の高血圧副腎腫瘍合併若年での脳卒中発症睡眠時無呼吸症候群合併(文献3より引用)■ 一般検査所見代謝性アルカローシス(低カリウム血症がある場合)、心電図異常(U波、ST変化)を認めることがある。典型例では低カリウム血症を認めるが、正常カリウム血症の症例が多い。また、血清カリウム濃度は(1)食塩摂取量、(2)採血時の前腕の収縮・伸展、(3)溶血などのさまざまな要因で変動することから、適宜、再評価が必要である。■ スクリーニング検査血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)を測定し、両者の比率アルドステロン/レニン活性比(ARR)≧200以上かつPAC≧60pg/mLの場合に陽性と判定する。ARRは分母であるPRAに大きく依存することから、偽陽性を避けるためにPACが一定レベル以上であることを条件としている。従来、PACはラジオイムノアッセイにより測定されてきたが、本年4月から化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)に変更され、それに伴ってPAC測定値が大幅に低下した。このためARR100~200の境界域も暫定的に陽性とし、個々の例で患者ニーズと臨床所見を考慮して検査方針を判断することが推奨される。■ 機能確認検査スクリーニング陽性の場合、アルドステロンの自律性・過剰産生を確認するために機能確認検査を実施する。カプトプリル試験、生食負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験がある。カプトプリル試験は外来でも実施可能である。フロセミド立位試験は起立に伴い低血圧を来すことがあるので、前2つの検査が実施困難な場合を除き、推奨されない。一検査が陽性の場合、機能的にPAと診断する。測定法の変更に伴い、陽性判定基準も見直されたため注意を要する。約25%にコルチゾール同時産生を認めるため、明確な副腎腫瘍を認める場合には、デキサメタゾン抑制試験(1mg)を実施する。降圧薬はレニン・アルドステロン測定値に影響するため、可能な限り、Ca拮抗薬、α遮断薬の単独あるいは併用が推奨されるが、血圧コントロールが不十分な場合は、血圧管理を優先し、ARBやACE阻害薬を併用する。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の影響は比較的大きいが、高血圧や低カリウム血症の管理が困難な場合は、適宜使用する必要がある。■ 局在・病型診断病変が片側性か両側性か、片側性の場合、右副腎か左副腎かを明らかにする。副腎摘出術の希望がある場合に実施する。まず副腎腫瘍の有無を確認するため造影副腎CTを実施するが、PAの腺腫は小さいことから、約60%はCTで腫瘍を確認できない。一方、明確な腫瘍を認めても非機能性腺腫の可能性があり、腫瘍の機能評価はできない。このため、確実な局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが最も推奨される。副腎静脈血中のアルドステロン濃度/コルチゾール濃度比の左右差(Lateralized ratio)にて病変側を判定する。侵襲的なカテーテル検査であり、技術に習熟が必要であることなどから、専門医療施設での実施が推奨される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 主たる治療法副腎腫瘍を有する典型的な片側性PAでは腹腔鏡下副腎摘出術が第1選択、両側性や手術希望が無い場合は、MR拮抗薬を主とする薬物治療を行う。片側性PAでは手術による降圧効果が薬物治療より優れることが報告されている。通常の降圧薬のみで血圧コントロールが良好であっても、PAではアルドステロン過剰に対する特異的治療(手術、MR拮抗薬)による治療が推奨される。スクリーニング陽性であるが、機能確認検査を初めとする精査を実施しない場合、臨床所見の総合判断に基づき、MR拮抗薬投与の必要性を検討する。■ 診断と治療のアルゴリズム日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズムを図に示す3)。PAの頻度が高い高血圧患者でスクリーニングを行い、陽性の場合に機能確認検査を実施する。1種類の検査が陽性判定の場合に臨床的にPAとし、CT検査さらには、患者の手術希望に応じて副腎静脈サンプリングを実施する。機能確認検査以降の精査は、専門医療施設での実施が推奨される。局在・病型診断の結果に基づき、手術あるいは薬物治療を選択する。図 日本内分泌学会PAガイドラインにおける診療アルゴリズム3)画像を拡大する(文献3より引用)4 今後の展望局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが標準的であるが、侵襲的検査であるため、代替えとなる各種バイオマーカー4)、PETを用いた非侵襲的画像診断法5)の開発が進められている。MR拮抗薬に変わる治療薬として、アルドステロン合成酵素の阻害薬の開発が進められている。PAの多くが両側性PAであることから、その病因解明、適切な診断、治療方針の確立が必要である。5 主たる診療科診断のスタートは高血圧の診療に従事する一般診療クリニック、市中病院の内科などである。スクリーニング陽性例は、内分泌代謝内科、高血圧内科などの専門外来に紹介する。副腎静脈サンプリングの実施が予想される場合は、それに習熟した専門医療施設への紹介が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)「重症型原発性アルドステロン症の診療の質向上に資するエビデンス構築(JPAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出(JRAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎腫瘍の疾患レジストリと診療実態に関する検討」研究班(主任研究者:田辺晶代)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Ohno Y, et al. Hypertension. 2018;71:530-537.2)Ohno Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103:4456-4464.3)日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン策定と診断水準向上」委員会 編集.原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021.診断と治療社;2021.p.viii.4)Nakano Y, et al. Eur J Endocrinol. 2019;181:69-78.5)Abe T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:1008-1015.公開履歴初回2021年11月11日

3422.

Webベースの認知症BPSDケアプログラムの普及促進のために

 COVID-19パンデミックとその結果引き起こされたソーシャルディスタンスの順守は、認知症患者の精神神経症状を誘発する可能性があるといわれている。東北大学の中西 三春氏らは、認知症の精神神経症状に対応するためのWebベースの心理社会的介入プログラムの有効性およびWebベースツールを利用する認知症介護者に対するeラーニングトレーニングコースの有用性を評価した。JMIR Medical Education誌2021年10月12日号の報告。 本研究は、東京において準実験的研究として実施された。eラーニングコースは、2020年7月~12月に専門の介護者に対し3回実施した。コースを修了した介護者は、認知症患者の精神神経症状レベルを評価するため、Webベースツールを介したNeuropsychiatric Inventory(NPI)合計スコアを用いた。主要アウトカムは、2021年3月までNPI評価のフォローアップを実施した介護者数およびベースラインから最新の評価までのNPIスコアの変化とした。2019年7月~2020年3月に対面によるトレーニングコースを完了した専門の介護者を対照群とし、情報を入手した。 主な結果は以下のとおり。・2020年にeラーニングコースを完了した介護者は268人であった。・患者268例中63例が認知症患者であり、56例(20.9%)がフォローアップ評価を実施できた。・平均NPIスコアは、ベースライン(20.4±16.2)から最新のフォローアップ評価(14.3±13.4)まで有意な減少が認められた。・エフェクトサイズは、中程度であると推定された(Cohen's drm=0.40)。・対面によるトレーニングコースを完了した介護者(対照群)は252人であった。・患者252例中114例(45.2%)がフォローアップ評価を実施できた。・eラーニングコースを完了した介護者は、対照群と比較し、フォローアップ評価を実施する割合が有意に低かった(χ2=52.0、p<0.001)。・NPIスコアの変化は、トレーニングコースの種類で違いは認められなかった(coefficient=-0.61、p=0.69)。 著者らは「対面トレーニングをeラーニングに変更することで、これまでプログラムに参加できなかった専門の介護者にDEMBASE認知症ケアプログラムへ参加する機会を創出することができた。どちらのトレーニングコースでもプログラムの効果は同等であったが、再現性は最適ではなく、eラーニングコースを受けた介護者の実施レベルは低かった。実現可能性を改善するためには、実施や技術支援の動機付けを提示できる戦略を開発する必要がある。また、オンラインコミュニティを使用したプログラムについても調査する必要がある」としている。

3423.

医師の生命保険の年間払込額、3割は10万円以下/会員アンケート結果

 10月にCareNet.comにて医師の『生命保険の加入状況に関するアンケート』を実施した結果、9割超の医師が何らかの生命保険に加入し、医師の生命保険加入者の約3割の年間払込額が10万円以下であることが明らかになった。また、重粒子線治療などが支払い対象となる「先進医療1)特約」については医師の生命保険加入者の4割が申し込んでいた。医師の生命保険の年間払込総額5~10万円が17%で最多 生命保険文化センターが行った一般家庭における「2021年度生命保険に関する全国実態調査※(速報版)2)」によると、生命保険(個人年金保険を含む)の世帯加入率は89.8%、そのうち医療保険の加入率は93.6%だった。また、世帯の普通死亡保険金額は平均2,027万円、世帯年間払込保険料は平均37.1万円であることが明らかになった。※一般家庭における生命保険の加入実態および生命保険・生活保障に対する考え方を把握することを目的として、1965(昭和40)年以降3年ごとに実施している調査。 では、本会員医師はどうだろうか。今回は、自由記入を含む全6問のアンケートを実施。Q1「現在加入している生命保険の種類について」では、医師は死亡保険と医療・入院保険にそれぞれ3割が加入しており、意外にもがん保険への加入は1割に留まった。Q3「保険に加入または解約/減額したきっかけ(未加入者は加入しようと思うタイミングを回答)」については、“自分の意思”が最も多く、次いで“結婚や離婚”、“家族に言われて”の順で多かった。Q4「世帯全体の保険料の年間総額」では、医師の生命保険加入者の3割が一般家庭の平均を上回る保険料(個人年金含む額)を支払っていたが、10万円以下も3割だった。そのほか、Q5「どこの保険会社の商品に加入しているか」、Q6「生命保険について、気になることや疑問に感じること(自由記入)」について回答を得た。どの年代でも医師がどのくらいの生命保険の掛け金を支払っているのかなどに疑問を感じていた。<Q6:気になること、疑問に感じることの一例>・同世代の保険料・内容(20代/臨床研修医)・各保険会社のプランのお得な組み合わせについて(30代/脳神経外科)・医院開業時に加入すべき生命保険の情報を知りたい(40代/小児科)・年齢とともにどれくらいの掛金にするか、難しい(50代/産婦人科)・掛け過ぎたことを後悔している(60代/外科/乳腺外科) 保険には生命保険、損害保険、年金保険などさまざまな商品が存在する。医師の場合、患者から保険請求に必要な診断書の記述を求められるなど、“保険”という言葉に慣れ親しんでいる一方で、自身や家族の「保険」をどのくらい意識しているだろうかー。そんな疑問から、医療現場で活躍する医師がどんな保険商品にどのくらいの費用を投じているのかを調査した。そのため、今回は医師の生命保険に絞り込んだ調査であり、学資保険や年金保険、地震保険などに対する認識は明らかではないが、この機会に保険全般を見直してみるのはどうだろうか。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。『医師の「生命保険」への加入状況は?』

3424.

双極性障害に対するアドヒアランス強化戦略

 双極性障害患者は、服薬アドヒアランスが不良であることが少なくない。米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のMartha Sajatovic氏らは、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬を組み合わせたカスタマイズアドヒアランス強化(CAE)戦略が双極性障害患者のアドヒアランス、症状、機能へ及ぼす影響を評価するため、パイロット研究を実施した。The Primary Care Companion for CNS Disorders誌2021年9月16日号の報告。 アドヒアランスが不良な双極性障害患者30例を対象に、LAI抗精神病薬を組み合わせたCAE戦略の有効性を評価するため6ヵ月間の非対照試験を行った。アドヒアランスの評価にはTablets Routine Questionnaire(TRQ)、症状の評価には簡易精神症状評価尺度(BPRS)、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、臨床全般印象評価尺度(CGI)を用いた。機能は、社会的職業的機能評定尺度(SOFAS)、機能の全体的評定尺度(GAF)を用いて評価した。評価は、スクリーニング時、ベースライン時、12週目、24週目(6ヵ月後)に実施した。調査期間は、2018年4月~2020年5月であった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は49.5±9.3歳、黒人の割合は56.7%であった。・研究を途中で中止した患者は9例(30%)であり、副作用による中止は1例(振戦)のみであった。・LAIの平均投与量は、314.3±96.4mgであった。・過去1週間で服薬を守れなかった割合(平均TRQ)は、スクリーニング時の50.1±24.8%から24週目の16.9±27.0%へ有意な改善が認められた(p<0.001)。過去1ヵ月間のTRQについても40.6±23.8%から19.2±24.0%への改善が認められた(有意傾向、p=0.599)。・ベースライン時から24週目のTRQの変化に有意な差は認められなかった。・BPRS(p<0.001)、MADRS(p=0.01)、YMRS(p<0.001)、CGI(p<0.001)、SOFAS(p<0.001)、GAF(p<0.001)においても、有意な改善が認められた。 著者らは「LAIを組み合わせた個別のアドヒアランス強化戦略は、ハイリスク双極性障害患者のリカバリー向上が期待できる」としている。

3425.

臓器移植後患者における複数の皮膚がん発症リスク

 米国の臓器移植を受けたレシピエント(OTR)における皮膚がんリスクについて、米国・ペンシルベニア大学のMackenzie R. Wehner氏らによる、10年間にわたる電子健康記録(EHR)と医療費支払いデータをレトロスペクティブに解析した結果が報告された。 移植後に少なくとも1回の皮膚がん治療を受けていたOTRは4.5~13.3%で、そのうち約半数が2年以内に2次皮膚がんを発症しており、約20人に1人が10以上の皮膚がんを発症していたことが明らかになったという。これまでOTRにおける複数原発皮膚がんのリスクに関する報告は限定的であったが、今回得られた結果を踏まえて著者は、「複数の原発皮膚がんリスクが最も高いOTRを特定することが、予防と早期発見のターゲット戦略に寄与する可能性がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年10月20日号掲載の報告。 研究グループは、検討に用いたデータセットにおける(1)移植後皮膚がんの発症、(2)移植後の初発皮膚がん発症後の2次皮膚がん発症、および(3)10以上の皮膚がん発症について、OTRの経時的リスクとリスク要因を確定するレトロスペクティブなコホート研究を行った。 使用したデータセットは2つで、2007~2017年のOptumの匿名化されたEHR(患者770万人分)とTruven Health MarketScanの医療費支払いデータセット(患者1億6,100万人分)であった。皮膚がんは、診断+治療コード(基底細胞がん、扁平上皮がん、メラノーマ)で特定。OTRは、4つ以上の臓器移植の診断コードを用いて識別した。データ解析は、2007年1月1日~2017年12月31日に実施された。 主要評価項目は、使用データセットにおけるOTRの(1)移植後のあらゆる皮膚がんの治療、(2)移植後の初回皮膚がん治療後の2次皮膚がんの治療、(3)10以上の皮膚がん治療の累積リスクとした。また、Wei-Lin-Weissfeldマージンモデルを用いてあらゆる皮膚がんのリスク要因を推定した。 主な結果は以下のとおり。・Optumで7,390例のOTR、MarketScanで13万3,651例のOTR関連データを特定した。・少なくとも1回の皮膚がん治療が認められたのは、Optum OTR群4.5%、MarketScan群13.3%であった。・また、初回皮膚がん治療後2年時点で、OTRは44.0~57.0%の2次皮膚がん治療のリスクを有しており、10以上の皮膚がん治療を有するリスクが3.7~6.6%に認められた。・あらゆる皮膚がんに関する統計的に有意なリスク因子は、両データセットにおいては年齢、皮膚がん歴、日光角化症歴などであり、MarketScanのデータセットでは、男性、胸部への移植などであった。

3426.

英語で「利尿薬」は?【1分★医療英語】第1回

第1回 英語で「利尿薬」は?Are you taking a water pill?(利尿薬を服用していますか?)I used to, but not now.(以前は飲んでいましたが、今は飲んでいないです)《例文1》Don’t take a water pill at night.(利尿薬は夜に服用しないでください)《例文2》We will increase the dose of your water pill.(利尿薬の用量を上げます)《解説》「利尿薬」は正式には“diuretic”といいますが、患者と話す時は“water pill”を使うことがほとんどです。水分の排泄促進剤として、書いて字のごとく“water pill”のほうがわかりやすいですね。薬の名前は、日本語のカタカナと異なる場合があり、注意が必要です。thiazideは「サイアザイド」と発音し、ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothiazide)は「ハイドロクロロサイアザイド」と、LもRもThも交ざり、発音の難易度は高めです。また、薬を「飲む」の動詞は“drink”ではなく“take”を使います。たとえば、“What medications do you regularly take?(普段どのお薬を服用していますか?)”のように使います。講師紹介

3427.

第85回 経口レムデシビルがフェレットのCOVID-19に有効~感染伝播も阻止

近い将来には、手軽に投与しうる経口薬が発症後間もない外来の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療のおそらく主流となっていくことを予感させるニュースが先週末に相次ぎました。木曜日には米国・メルク社の経口COVID-19薬molnupiravir(モルヌピラビル)の世界初の承認を英国医薬品庁(MHRA)や同社が発表し1,2)、その翌日金曜日にはそれに負けじとファイザー社が同じく経口のCOVID-19薬Paxlovid(PF-07321332+ritonavir)が第II/III相試験でCOVID-19患者の入院または死亡リスクを89%低下させたことを報告しました3)。ギリアド社が世に送り出したCOVID-19治療薬の先駆けレムデシビル(日本での販売名:ベクルリー)はより重症の患者向けで、点滴静注を要し、メルク社やファイザー社の経口薬とは違って外来患者には不向きです4)。そこでギリアド社は米国・ジョージア州立大学と協力し、メルク社やファイザー社の経口薬と同様に外来の初期段階のCOVID-19患者に使えるようにレムデシビルに一工夫施した化合物GS-621763を開発しています。GS-621763は経口投与でより吸収されやすく、レムデシビル静注後と同一の活性代謝物(GS-443902)を体内で生み出します。その効果のほどをイタチ科の哺乳類・フェレットで検討した研究成果が先週金曜日にネイチャー姉妹誌Nature Communicationsに掲載されました5)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はフェレットに感染可能で、SARS-CoV-2感染フェレットはヒトのSARS-CoV-2感染特徴の多くを呈します。フェレットにGS-621763を1日2回経口投与したところSARS-CoV-2量が検出不可能な水準近くまで減りました。GS-621763はSARS-CoV-2の複製を効率よく阻止し、より広まりやすい(high transmissibility)ことで知られるSARS-CoV-2変異株VOC γ感染フェレットにGS-621763を投与したところ感染フェレットと同居するフェレットへの伝播を完全に防ぐことができました。GS-621763のような経口の抗ウイルス薬は世間で幅を利かす感染しやすいSARS-CoV-2変異株への強力な対抗手段となりうると著者は言っています4)。一番乗りの見返りは大きいどこの世界でも同じだと思いますが、一番乗りというのはやはり大事なことのようで、COVID-19薬市場を切り開いたレムデシビルは依然として世界でよく使われています。ギリアド社の直近の業績発表によると、今年9月末までの3ヵ月間(第3四半期)の同剤の売り上げは74億ドルであり、需要の増加を受けて昨年同期より13%多い額となりました6)。一番乗りが得をするのはワクチンでも同様なようです。米国FDA認可に最初に漕ぎ着けたファイザー社のCOVID-19ワクチンの第3四半期売り上げは100億ドルの大台を軽々と超える130億ドルであり7)、僅か1週間ほど遅れて二番目にFDA認可に達したモデルナ社のワクチンの同期売り上げ48億ドル8)を3倍近く引き離しています。今後もその差は開いていくようです。ファイザー社が今年1年間のCOVID-19ワクチンの売り上げを360億ドルへと上方修正したのとは対照的にモデルナ社は今年1年間のCOVID-19ワクチン出荷量予想を8~10億回投与分から7~8億回投与分に下方修正しています。モデルナ社のワクチンは心筋炎リスクの懸念にも大いに巻き込まれており、12~17歳小児への同社COVID-19ワクチンのFDA認可審査がその安全性懸念を背景にして長引いていることが先月10月末に発表されました9)。ファイザー社のCOVID-19ワクチンの同年齢層の小児への使用はすでに取り急ぎ認可または承認されています10)。COVID-19ワクチンの開発は失敗したもののCOVID-19経口薬の一番手となったメルク社とそれに肉薄するファイザー社の域にギリアド社の経口レムデシビルが辿り着くのにあとどれだけの時間を要するのかはわかりませんが、実現したとすれば、よく知った薬と根本は同じという馴染みの力を頼りに活躍の場を得ることができそうです。参考1)First oral antiviral for COVID-19, Lagevrio (molnupiravir), approved by MHRA / MHRA 2)Merck and Ridgeback’s Molnupiravir, an Oral COVID-19 Antiviral Medicine, Receives First Authorization in the World / BUSINESS WIRE 3)Pfizer’s Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate Reduced Risk of Hospitalization or Death by 89% in Interim Analysis of Phase 2/3 EPIC-HR Study / BUSINESS WIRE4)Gilead Sciences Inc. partners with Center for Translational Antiviral Research to test oral Remdesivir variant / Eurekalert5)Cox RM,et al Nat Commun. 2021 Nov 5;12:6415.6)Gilead Sciences Announces Third Quarter 2021 Financial Results / BUSINESS WIRE7)PFIZER REPORTS THIRD-QUARTER 2021 RESULTS / BUSINESS WIRE8)Moderna Reports Third Quarter Fiscal Year 2021 Financial Results and Provides Business Updates / BUSINESS WIRE9)Moderna Provides Update on Timing of U.S. Emergency Use Authorization of its COVID-19 Vaccine for Adolescents / BUSINESS WIRE10)Comirnaty and Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine / FDA

3428.

初の十二指腸癌診療ガイドライン刊行

 十二指腸がんは消化器がんの中で代表的な稀少がんとされ罹患率は低いものの、近年増加傾向がみられており、診断モダリティの進歩により今後さらに発見される機会が増加することが予想される。日本肝胆膵外科学会と日本胃癌学会の協力のもとガイドライン作成委員会が立ち上げられ、「十二指腸癌診療ガイドライン 2021年版」が2021年8月に刊行された。 これまで本邦では確立された十二指腸がんの診療ガイドラインはなく、エビデンスも不足しているため、日常診療では、各医師の経験に基づいて胃がんや大腸がんに準じた治療が行われてきた。本ガイドラインでは、診断アルゴリズム(無症状/有症状)、治療アルゴリズム(切除可能/切除不能・再発)が示されたほか、「診断・内視鏡治療」「外科治療」「内視鏡・外科治療」「薬物療法」についてそれぞれClinical Questionが設けられ、推奨が示されている。 掲載されているClinical Questionは以下のとおり。<診断・内視鏡治療>CQ1-1 十二指腸癌の疫学についてCQ1-2 十二指腸癌のリスクは何か?CQ2-1 十二指腸腺腫は治療対象か?CQ2-2 十二指腸腫瘍における腺腫と癌の鑑別をどのように行うか?CQ3-1 粘膜内癌と粘膜下層癌の鑑別には何が推奨されるか?CQ3-2 遠隔転移診断に何が推奨されるか?CQ4-1 十二指腸腫瘍に対する各種内視鏡治療の適応基準は何か?CQ4-2 各種内視鏡治療の術者・施設要件は何か?CQ5 表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療後の偶発症予防は推奨されるか?CQ6-1 内視鏡治療後に外科的治療を行う推奨基準は何か?CQ6-2 内視鏡治療後局所再発ならびに異時性多発の早期発見のために、内視鏡によるサーベイランスは推奨されるか?<外科治療>CQ1 十二指腸癌に対する外科的治療においてリンパ節郭清は推奨されるか?CQ2 深達度や占居部位を考慮し、膵頭十二指腸切除術以外の術式を行うことは推奨されるか?CQ3 十二指腸癌外科切除後の再発診断にはどのようなフォローアップが推奨されるか?<内視鏡・外科治療>CQ1 閉塞症状を伴う切除不能十二指腸癌に対する消化管吻合術や内視鏡的ステント挿入は推奨されるか?<薬物療法>CQ1 切除可能十二指腸癌を含む小腸癌に周術期補助療法を行うことは推奨されるか?CQ2 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌にMSI検査、HER2検査、RAS遺伝子検査は推奨されるか?CQ3 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に全身薬物療法は推奨されるか?CQ4 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?十二指腸癌診療ガイドライン 2021年版編集:十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会定価:3,300円(税込)発行:金原出版発行日:2021年8月5日金原出版サイト

3429.

統合失調症症状別の抗精神病薬至適用量~用量反応メタ解析

 統合失調症の急性期治療において抗精神病薬の最適な投与量を決定することは、臨床的に非常に重要なポイントである。また、急性期治療後には維持期治療へ移行するため、陰性症状に対する抗精神病薬の効果を考慮することも求められる。スイス・ジュネーブ大学のMichel Sabe氏らは、急性期統合失調症に対する抗精神病薬の有効性を評価した固定用量ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューに基づき、陰性症状および陽性症状の用量反応メタ解析を実施した。NPJ Schizophrenia誌2021年9月13日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・40件のRCTより、1万5,689例が抽出された。・各薬剤の1日当たりの95%有効量は、以下のとおりであり、多くの薬剤で陰性症状と陽性症状で違いが認められた。 ●amisulpride(陰性症状:481mg、陽性症状:690.6mg) ●アリピプラゾール(陰性症状:11.9mg、陽性症状:11mg) ●アセナピン(陰性症状:7.61mg、5.66mg) ●ブレクスピプラゾール(陰性症状:2.1mg、陽性症状:4mg) ●cariprazine(陰性症状:4mg、陽性症状:6.51mg) ●ハロペリドール(陰性症状:6.34mg、陽性症状:7.36mg) ●ルラシドン(陰性症状:58.2mg、陽性症状:86.3mg) ●オランザピン(陽性症状:15.5mg、陽性症状:9.52mg) ●オランザピン長時間作用型注射剤(陰性症状:15.7mg、陽性症状:13.5mg) ●パリペリドン(陰性症状:7.2mg、陽性症状:7mg) ●パリペリドン長時間作用型注射剤(陰性症状:7.5mg、5.9mg) ●クエチアピン即放性製剤(陰性症状:264.2mg、陽性症状:316.5mg) ●クエチアピン徐放性製剤(陰性症状:774mg、陽性症状:707.2mg) ●リスペリドン(陰性症状:7.5mg、陽性症状:7.7mg) ●リスペリドン長時間作用型注射剤(陰性症状:5.13mg、陽性症状:6.7mg) ●sertindole(陰性症状:13.5mg、陽性症状:16.3mg)●ziprasidone(陰性症状:71.6mg、陽性症状:152.6mg)・用量反応曲線の形状は薬剤により異なっていたが、ほとんどの薬剤は高用量で定常状態に達していた。 著者らは「ほとんどの薬剤の最大有効量は、各薬剤の承認用量の低~中程度の範囲であることが確認された。最適な用量を把握するためには、さらなるRCTが必要とされる」としている。

3430.

ステロイド投与に関連する臨床試験の難しさ:心肺蘇生の現場から(解説:香坂俊氏)

(1)敗血症性ショック症例に対するステロイド投与今回のテーマはVAM-IHCA試験という院内の心停止症例に対してバソプレシン+メチルプレドニゾロンを投与するかどうかというRCTなのであるが(JAMA誌掲載)、このテーマに関しては少し昔の話から始めさせていただきたい。ステロイドが集中治療の現場に登場したのは、2002年くらいからではないだろうか。Annane氏らによってフランスで敗血症性ショック症例を対象としたRCTが行われ(300例)、ACTH負荷不応だった患者に対して・ヒドロコルチゾン50mg(6時間ごと)+フルドロコルチゾン50mg(24時間ごと)を7日間実施すると、プラセボと比較して、ICU死亡(58% vs.70%)や院内死亡(61% vs.72%)が減少したと報告された。この研究を契機に、敗血症性ショックにはACTH試験を行い不応性であればステロイド投与を行うというのが普及した。当時自分はニューヨークで内科のレジデントをやっていたが、ICUのことが詳しかった同僚※に「これどうなの?」とか聞いたりして、四苦八苦しながらそのプロトコールを実施していた記憶がある。しかし、このフランスのRCTは小規模なものであり、プロトコール外で副腎ステロイド複合体阻害薬が投与されていた症例が少なからずいたこと、フルドロコルチゾンが単なる交絡因子であった可能性、そして対照群で抗菌薬投与の遅れがあったなど、議論の余地が結構残されていた。その後、さまざまな小規模あるいは中規模の試験が行われたが、明確な結論を得るに至らず、2018年にようやく満を持してADRENAL試験(3,800例)の結果が報告された。その結果であるが、Among patients with septic shock undergoing mechanical ventilation, a continuous infusion of hydrocortisone did not result in lower 90-day mortality than placebo. というものであった。(2)心停止症例に対するステロイド投与前置きが長くなったが、今回デンマークで行われたVAM-IHCA試験の結果を拝読し、Annane氏らの敗血症性ショックに対するRCTの結果が重なった。VAM-IHCAは501人の院内心停止症例を対象としており、蘇生時にバソプレシン+メチルプレドニゾロン(40mg)、あるいは通常どおりエピネフリンを投与するかどうかをランダム化したものであり(Annane氏らの研究と異なりメチルプレドニゾロンの投与は蘇生時の1回のみ)、結果としてROSC(return of spontaneous circulation)の率は改善したものの(42% vs.33%)、30日生存率の改善には至らなかった(10% vs.12%)。VAM-IHCAではAnnane氏らの研究と同様にさまざまな交絡が指摘されており、たとえば24時間生存したプラセボ群の患者の実に46%が何らかのステロイドの投与が行われていた。また、プライマリエンドポイントはあくまでROSCであり、生存率を検証するための症例数はこの研究ではそもそも担保されていなかったという限界もある。今後この領域でADRENALのような決定的な臨床試験が行われるか? そこはかなり難しいように思われるが、デンマークを含む北欧諸国の成熟したregistry-based RCTのシステムを用いればもしかすると可能かもしれない(3)今後心肺蘇生のプロトコールは変更されるか?敗血症性ショックに対するステロイド治療の歴史を体験してきた身としては、この領域の試験の難しさは身に染みてわかっているつもりである。ステロイドにはα受容体をアップレギュレートする効果があり、また全身的な炎症反応が不活化されている状況下で相対的な副腎機能低下を補うことも期待される。しかし、このように「想定されるベネフィット」も臨床試験の検証があってのものであり、VAM-IHCA試験の結果を踏まえて、すぐにASLSなどの心肺蘇生のプロトコールが変更されることはないだろう。ステロイド治療は、一部のCPR-refractoryの患者群のみに用いられるべき、と捉えるのが現段階での最適解ではなかろうか。※現Intermountain LDS HospitalのICU Directorである田中 竜馬氏

3431.

ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下 - 3回目booster接種必要性の基礎的エビデンス (解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

ワクチン接種後の時間経過に伴う液性免疫の低下 Levin氏らはイスラエルにおいてBNT162b2を2回接種した一般成人におけるS蛋白IgG抗体価、野生株に対する中和抗体価の時間推移を6ヵ月にわたり観察した(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print] )。その結果、S蛋白IgG抗体価はワクチン2回接種後30日以内に最大値に達し、それ以降、IgG値はほぼ一定速度で低下し、6ヵ月後には最大値の1/18.3まで減少することが示された。野生株に対する中和抗体価の低下はS蛋白IgGと質的に異なり、中和抗体価は、2回接種後3ヵ月間は一定速度で低下、それ以降は、低下速度が緩徐となりほぼ横ばいで推移、6ヵ月後には最大値の1/3.9まで低下した。高齢、男性、併存症(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心/腎臓/肝疾患)が2つ以上存在する場合にはS蛋白IgG抗体価ならびに中和抗体価の時間経過に伴う低下はさらに増強された。Levin氏らが示したのと同様の知見はShrotri氏らによっても報告された(Shrotri M, et al. Lancet. 2021;398:385-387. )。Shrotri氏らによると、BNT162b2の2回接種後70日(2.3ヵ月)以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は最大値の1/2まで低下していた。 Shrotri氏らは、AstraZenecaのChAdOx1接種後のS蛋白IgG抗体価の時間推移についても検証し、ChAdOx1の2回接種後のS蛋白IgG抗体価の最大値はBNT162b2接種後に比べ1/10と低く、かつ、ワクチン接種後70日以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は自らの最大値の1/5まで低下することを示した。 ModernaのmRNA-1273の2回接種後3ヵ月にわたるRBD-IgG抗体の低下速度は第I相試験の時に検討され、BNT162b2に比べ緩やかであることが示唆された(Widge AT, et al. N Engl J Med. 2021;384:80-82. )。さらに、mRNA-1273の2回接種後のRBD-IgG抗体価の最大値はBNT162b2の2回接種後の1.4~1.5倍高値であると報告された(Self WH, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1337-1343.、Richards NE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124331. )。以上より、コロナウイルスに対するIgG抗体形成能と時間経過に伴う抗体価低下の両者を鑑みた液性免疫原性の優越性はmRNA-1273>BNT162b2>ChAdOx1の順であると結論できる。以上のようなワクチンによる液性免疫原性の違いの結果、mRNA-1273のDelta株新規感染予防効果はBNT162b2よりも優れていることが示された(Puranik A, et al. medRxiv. 2021;2021.08.06.21261707. )。しかしながら、BNT162b2とmRNA-1273の免疫原性の差に関して考慮しなければならない事実は、ワクチン接種を介して生体に導入されるmRNA量の違いである。BNT162b2では30μg、mRNA-1273では100μgを1回の接種で筋注する。すなわち、投与されるmRNA量はmRNA-1273でBNT162b2に比べ約3倍多い。この投与量の差が液性免疫の差を規定している可能性が高く、mRNA-1273に比べBNT162b2がワクチンとして劣っていることを意味するものではない。この考えの妥当性を支持する知見として全身/局所における一般的副反応もmRNA-1273接種後により多く認められることが報告されている(Chapin-Bardales J, et al. JAMA. 2021;325:2201-2202. )。 BNT162b2の2回接種によるDelta株に対する中和抗体価の最大値は野生株に対する値の1/5.8と低い。さらに、Delta株に対する中和抗体価の時間経過に伴う低下率は野生株と大きな差を認めないが、時間経過の出発点である最大値が低いがために2回目接種後100日(3.3ヵ月)経過した時点でのDelta株に対する中和抗体価が検出限界以下まで低下する症例が免疫不全を有さない一般成人の中にも存在することが判明している(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333. )。以上の事実から、まん延するコロナウイルスの中心がDelta株である場合には、ワクチン(BNT162b2あるいはmRNA-1273)2回接種後の中和抗体価が3~6ヵ月後には無効域近傍まで低下する人が少なからず存在する可能性を念頭におく必要がある。3回目booster接種 ワクチン接種後のウイルス中和抗体価の予想以上に速い低下によって招来される問題を打破するために世界のワクチン先進諸国では3回目の追加ワクチン接種(booster接種)が開始されつつある。3回目のbooster接種に関しては、次の論評(山口, 田中. ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する)で詳細に論じるので、それを参照していただきたい。本邦ではなぜ夏場の第5波を克服することができたのか? PfizerのBNT162b2を中心にコロナ感染症に対するワクチン接種は2020年12月より世界各国で積極的に進められている。本邦においても2021年4月から一般成人に対するワクチン接種(Pfizer、Moderna)が開始され、10月29日現在、全人口の71.2%(65歳以上の高齢者が最も高く90.6%、12~19歳の若年者が最も低く47.8%)が2回目接種を終了し(首相官邸ホームページ. 新型コロナワクチンについて. Oct. 29, 2021)、本邦はワクチン接種先進国(優等国)の一つに数えられるようになっている(2回接種率:カナダ、イタリアに次ぎ世界第3位)。その結果として、本邦のコロナ第5波は9月初旬より急速に終焉に向かっている。しかしながら、7月以降、ワクチン接種先進国でワクチン接種者におけるDelta株新規感染の急激な増加という新たな問題が発生しており、本邦もこの問題に早晩直面するものと考えておかなければならない。Delta株による新規感染はワクチン接種開始が早かったイスラエル、カタールなどの中東諸国、英国などの欧州諸国、米国などを中心に顕著になっており、主たる原因は、前項で述べたワクチン接種後の液性免疫の経時的低下である。ワクチン接種を早期(2020年の12月)に開始した国では、ワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した国民の数が多くなり、これらの人々では、ワクチン接種により誘導された液性免疫が時間経過とともに低下し、Delta株を中心とする変異株感染に対する予防効果が低い状態に維持されているものと考えなければならない。一方、本邦では、ワクチン接種開始時期の遅延が幸いし、Delta株がまん延し出した2021年の6月以降になってもワクチン接種によって形成された液性免疫の低下が少なくDelta株に対する予防効果が有効域に維持されている国民が多く存在していたものと推測される。それ故、ワクチン接種を昨年の12月早々から開始した国々とは異なり、本邦では、夏場のDelta株による第5波を“運よく”乗り越えることができたものと考えることができる。しかしながら、2021年の12月以降になると、本邦でもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たちの数が増加し、3回目のワクチン接種など何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。ワクチン突破感染(BI:breakthrough infection)なる言葉について 最後に、ワクチン突破感染(BI)という言葉について一言コメントしておきたい。BIはワクチンの感染予防効果が十分に維持されている場合に意味ある言葉でBIを引き起こす個体の背景因子を探求するうえで重要である(山口, 田中. CareNet論評-1422)。しかしながら、ワクチンの予防効果が低下している場合には、BIは個体が有する背景因子とは無関係にワクチン予防効果の低下が“強制的に”規定因子として作用する。それ故、このような場合には、BIという言葉は不適切だと論評者らは考えている。BIの代わりに“ワクチン非接種者、不完全接種者、完全接種者における感染”と正確に記載すべきである。さらに、ワクチン接種後どの時点で発生した感染であるかを明記すべきである。BIに代わる言葉を定義するならば、ワクチン接種者における“液性免疫低下関連感染(DHIRI:decreased humoral immune response-related infection)”という言葉が適切ではないだろうか?

3432.

ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 前論評(山口, 田中. ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下―3回目Booster接種必要性の基礎的エビデンス)で論じたように、ワクチン接種後の液性免疫は、野生株、従来株、Delta株を中心とする変異株の別なく、月単位で有意に低下する。この液性免疫の経時的低下によって、Delta株を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大(第6波)が今年の12月以降の冬場に発生する可能性を論評者らは危惧している。 第6波の発生を避けるためには、ワクチン接種後の時間経過と共に低下した液性免疫を再上昇させるためのワクチン3回目接種(Booster接種)、あるいは、Delta株を中心とするコロナ変異株抑制能力が高く効果持続期間がワクチンと同等、あるいは、それ以上に長いIgG monoclonal抗体をワクチン代替薬として考慮する必要がある(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.、山口, 田中. CareNet論評-1440)。ただし、現時点では、免疫不全を有さない一般成人に対してIgG monoclonal抗体を“pre-exposure and post-exposure prophylaxis”、すなわち、ワクチン代替薬として用いる方法は英国以外では承認されていない(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。さらに、IgG monoclonal抗体の1回分の費用は20万円以上でワクチン2回接種の約100倍の高額治療であり、不特定多数の人に適用することは難しい。それ故、本論評では国民全体を対象としても医療経済面から施行可能な3回目のワクチンBooster接種に焦点を合わせ考えていくものとする。第6波の発生とその臨床的特徴 ワクチン3回目接種を考える前に、今冬季に発生が予想されるDelta株による第6波の臨床的特徴について考察する。 Chemaitellyらは、背景ウイルスがBeta株からDelta株に置換されつつあったカタ-ルにおける検討で、BNT162b2の2回接種後5~7ヵ月が経過するとワクチンの感染予防効果がピーク時の77.5%から20%前後まで低下するが、入院/死亡に対する重症化予防効果はワクチン接種後の時間経過とは無関係に90%前後に維持されることを示した(Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print])。Tartofらは米国における検討で、BNT162b2の2回接種後のDelta株に対する感染予防効果が、ピーク時の75%から4ヵ月後には53%まで低下すると報告した(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)。Goldbergらはイスラエルにおける検討で、Delta株の感染率は年齢とは無関係にBNT162b2ワクチン2回接種後の時間経過に依存して上昇、重症感染者比率も60歳以上の高齢者にあってはワクチン2回接種後の時間経過が長いほど高いことを報告した(Goldberg Y, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 27. [Epub ahead of print])。しかしながら、高齢層で認められた重症感染に関する傾向は、59歳以下の若年/中年層では確認できなかった(若年/中年層における重症感染者数が少ないため統計処理が困難)。Grangeらはスコットランドにおける解析で、ワクチンの2回接種(BNT162b2、ChAdOx1)によって全体の死亡者数を軽減できるが、死亡者数は75歳以上の高齢者、男性、複数の併存症を有する人で有意に高いことを示した(Grange Z, et al. Lancet. 2021 Oct 28.)。この傾向は、非ワクチン接種者、不完全ワクチン接種者におけるDelta株感染に起因する死亡者の場合と質的に同じである。 今年の12月以降には、本邦においてもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たち(医療従事者を含む)の数が増加し、何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。この場合、Deltaは総称であり、原型(起源)のB.1.617.2に加え、それから派生したAY.1~AY.3、AY.4~AY.11(英国)ならびにAY.12(イスラエル)を含む(WHO. COVID-19 Weekly epidemiological update. 2021 Oct 19.)。これらのDelta株による第6波を阻止するための有効な医学的/社会的施策を講じる時間は2ヵ月ほどしか残されていない現実を、医療関係者ならびに為政者はもっと真摯に受け止める必要がある。 ただ、Delta株に起因する第6波は、国民の約70%以上がPfizer社あるいはModerna社のワクチンの2回接種を終了した状況下で発生するので、ワクチン未接種状態で発生するDelta株感染とは質的に異なる様相を呈するはずである。多くの国民がワクチンの2回接種を終了している時点で発生する第6波においては、感染者数はある程度の数に達するが、夏場の第5波よりも規模が小さいものと予想できる。第6波における感染者の重症度はワクチン未接種状況下で発生するDelta株感染に比べ、軽症者が多いという特徴を有するはずである。ワクチン接種者に発生する“液性免疫低下関連感染(DHIRI:Decreased humoral immune response-related infection)”では、ワクチンの抗ウイルス作用は完全に無効というわけではなく不完全ながらウイルスの病原性を抑制する。それ故、ワクチン接種後のDelta株感染にあっては、感染症状が弱く、症状持続期間が短く、重症化の頻度が低い比較的軽症患者が多くなるものと予想される。しかしながら、高齢層における死亡を含む重症患者数は、若年/中年層に比べ有意に多くなることも念頭に置く必要がある。ワクチン3回目Booster接種の効果 一般成人にPfizer社のBNT162b2を3回接種(2回接種後7.9~8.8ヵ月)した時のDelta株に対する中和抗体価は、2回接種後に比べ55歳以下の若年/中年者で5.5倍、65歳以上の高齢者で12.0倍高値になることが示された(Falsey AR, et al. N Engl J Med. 2021;385:1627-1629. )。Moderna社のmRNA-1273の3回接種(半量の50μg筋注、2回接種後5.9~7.5ヵ月)後の変異株(Beta株、Gamma株)に対する中和抗体価に関する検討でも、質的に同様の結果が報告されている(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)。 本論評で取り上げたイスラエルの検討では、60歳以上の高齢者に対する3回目接種は2回目接種後と比較して新規感染リスクを11.3倍、重症化リスクを19.5倍低下させることが示された(Bar-On YM, et al. N Engl J Med. 2021;385:1393-1400.)。この結果を受け、イスラエルでは2021年7月30日以降、2回目接種後少なくとも5ヵ月以上経過した60歳以上の高齢者ならびに50歳以上の医療従事者を対象としてBNT162b2の3回目接種が開始されている(現在は、12歳以上を対象とすることに変更)。同様に、アラブ首長国連邦、ドイツ、フランスなどでも3回目接種が始まっている。 2021年9月17日、米国FDAは一般成人に対する3回目Booster接種に対してPfizer社のBNT162b2を使用することを緊急承認した。対象は、65歳以上の高齢者と16歳以上でコロナ感染による重症化因子を有する人とされた。後者には医療従事者、学校の教員など、コロナ患者との濃厚接触の確率が高い職業に従事する人たちも含まれる。Moderna社のmRNA-1273においても通常量の半量(50μg)を3回目接種に用いる緊急使用が10月14日に、Johnson & Johnson社のAdeno-vectored vaccineであるAd26.COV2.SのBooster接種(このワクチンの場合、2回目がBooster接種となる)が10月15日に承認された。さらに、米国FDAは、液性免疫原性が低いAd26.COV2.Sの代わりに、液性免疫原性が高いBNT162b2あるいはmRNA-1273をBooster接種時に使用してもよいと決定した(ハイブリッド・ワクチン)。 本邦においても、2021年9月17日、厚生労働省は3回目接種を認めることを決定し、実施の詳細について議論が開始されている。10月28日に開催された厚労省の分科会では12歳以上の国民全員を3回目接種(公費負担)の対象とすることが了承され、2回目接種後8ヵ月経過した人から順に3回目接種を施行する方向でまとまりつつある。3回目接種においてハイブリッド・ワクチンを認めるかどうかを含め、正式決定は11月中旬になされるとのことである(朝日新聞デジタル 2021年10月29日付)。 本論評では“3回目のワクチン接種”と記載したが、これはワクチン接種を3回施行すればすべての問題が解決することを意味しているわけではなく、必要に応じて4回目、5回目の接種をさらに追加する可能性を含んだ言葉だと解釈していただきたい。事実、フランス保健省は、2021年6月から臓器移植患者で3回目ワクチン接種に反応しない患者に対して4回目のワクチン接種を開始している(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。 ワクチンの3回目接種による液性免疫の底上げは、免疫不全患者において絶対的に必要な手段であるが、紙面の都合上本論評では割愛する。この問題に関しては論評者らの総説を参照していただきたい(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.)。

3433.

熱傷診療ガイドライン改訂第3版が発刊

 前回の改訂より5年が経過したことを機に『熱傷診療ガイドライン 改訂第3版』が7月に発刊された。今回の改訂目的は、本邦における熱傷入院診療の標準治療を示すことで、本書で扱う熱傷は、「十分な診療リソースを利用できる環境にある本邦のような高所得国における」「概ね受傷後4週間以内」「入院治療が必要な程度にある重症度」。また、今回の改訂では、改訂第2版公開以降の新知見を十分な時間をかけ検討し、これまでの版で盛り込むことができなかった電撃傷・化学損傷などの特殊熱傷、鎮痛・鎮静、輸血、深部静脈血栓症対策のみならず、リハビリテーション、リエゾン・終末期・家族対応などを取り上げ、診療指針が示されている。対象とする患者集団小児から成人にいたる全年齢の患者において、おおむね受傷後4週間程度、集中治療室、熱傷ケアユニット、一般病棟で入院治療を必要とする重症度の熱傷。外来通院のみで治療が可能な重症度の熱傷は対象としていない。熱傷のなかには、気道損傷、化学損傷、電撃傷を含む。対象とする利用者(本ガイドラインの使用者)医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、熱傷診療にかかわるすべての医療従事者。治療の環境は、熱傷専門施設に限らず、本邦における日常診療を想定して患者に対し十分な診療リソースを利用できる環境とした。13領域69題のCQ 本書のclinical question(CQ)は2019 年 4 月にパブリックコメントを募集し、第45回日本熱傷学会総会学術集会で学会員の意見を求めた。得られた意見を参考にCQの修正を行い、ガイドライン作成グループで最終的に13領域69題のCQが決定された。―――・CQ 1 重症度評価・CQ2 気道損傷・CQ3 初期輸液療法・CQ4 初期局所療法・CQ5 外科的局所療法・CQ6 熱傷感染・CQ7 栄養・CQ8 特殊熱傷・CQ9 鎮痛・鎮静・CQ10 輸血・CQ11 深部静脈血栓症・CQ12 リハビリテーション・CQ13 リエゾン―――

3434.

ESMO2021レポート 泌尿器腫瘍

レポーター紹介2021年のESMOは、9月16日から21日まで、フランスのパリで開催されましたが、いまだCovid-19感染が世界的に終息していない状況を反映し、完全バーチャルの形式でした。発表形式は、Presidential Symposium、Proffered Paper session、Mini Oral session、e-Posterとして発表され、泌尿器領域からも各セッションで注目演題が並びました。LBA5 mHSPCにおけるUp frontアビラテロン療法の第III相試験:PEACE-1試験A phase III trial with a 2x2 factorial design in men with de novo metastatic castration-sensitive prostate cancer: Overall survival with abiraterone acetate plus prednisone in PEACE-1. Fizazi K, et al. Presidential Symposium 2.PEACE-1試験は、フランスを中心として実施された国際共同第III相試験で、転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対する初回治療として標準治療にアビラテロン(Abi)1,000mg+プレドニゾロン10mgを加えることと、局所放射線照射74Gy/37frを加えることの効果を検証する2×2のFactorial designで計画されました。2013年から2018年まで登録を行った試験であり、途中の2015年にUpfrontでのドセタキセル(DTX)のエビデンスが報告されるという大きなパラダイムシフトがありました。そのため試験デザインは、標準治療が2015年まではアンドロゲン除去療法(ADT)のみであったのに対し、2015年からはADT+DTX 75mg/m2×6回が追加できることに、変更されました。Abiを加えた群とAbiなしの群を比較したデータの報告は、6月に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)で無増悪生存期間(PFS)が報告されましたが、今回のESMOでは全生存期間(OS)の結果が初めて報告されました。標準治療がADT+DTXであった症例の患者背景は、各群バランスよく臓器転移が10%強、High burdenは60%強でした。PFSはすでに報告があったとおり、radiologic PFSは中央値4.5年と2.0年、ハザード比[HR]: 0.50、95%信頼区間[CI]: 0.40~0.62、p<0.0001であり、あらかじめ設定された両側α=0.001を下回り、有意にAbiの追加が優れていました。OSの解析には両側α=0.049が設定され、全体集団でのAbiあり群とAbiなし群の中央値は5.7年と4.7年、HR:0.82、95%CI:0.69~0.98、p=0.030でした。また、標準治療がADT+DTXであった集団でのAbiあり群とAbiなし群の中央値は到達せずと4.4年、HR:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.017であり、OSでも優越性が示されました。興味深いことに、サブグループ解析ではHigh volume症例においては、HR:0.72、95%CI:0.55~0.95、p=0.019と差が維持されるのに対し、Low volume症例においては、HR:0.83、95%CI:0.50~1.38、p=0.66と差がなくなる方向にシフトしていました。Low volumeではとくにイベント数が少ないため解釈には注意が必要ではありますが、少なくともHigh volumeでのADT+DTX+Abiは、既報の中で最も長いOS中央値を報告しており、もはやこれが標準治療ではないかと演者は締めくくりました。日本では、UpfrontでのDTXに関し本年8月に添付文書の改訂が行われ、ようやく保険上使用可能になりました。Abiを併用することが可能かどうかは未知数ですが、High volume症例へのUpfront療法の有用性は強く意識せざるを得ない結果だと思います。652O 筋層浸潤性膀胱がんに対する周術期化学療法dd-MVAC vs. GCの第III相試験:VESPER試験Dose-dense methotrexate, vinblastine, doxorubicin and cisplatin(dd-MVAC)or gemcitabine and cisplatin(GC)as perioperative chemotherapy for patients with muscle-invasive bladder cancer(MIBC): Results of the GETUG/AFU VESPER V05 phase III trial.Pfister C, et al. Proffered Paper session - Genitourinary tumours, non-prostate 1.dd-MVAC療法は、メトトレキサート30mg/m2 day1、ビンブラスチン3mg/m2 day2、ドキソルビシン30mg/m2 day2、シスプラチン70mg/m2 day2を2週間ごとに繰り返す、顆粒球コロニー形成刺激因子 (G-CSF)を用いたIntensiveなレジメンであり、転移性膀胱がんではGC療法と同等の効果が報告されています。GC療法は転移再発の膀胱がんにおいては4週サイクルで用いられますが、Intensiveなレジメンとしてゲムシタビン1,250mg/m2 day1、8、シスプラチン70mg/m2 day1を3週ごとに繰り返すレジメンも海外では用いられています(日本のゲムシタビンの保険承認用量は1,000mg/m2であることに注意)。周術期治療は、強度を上げることで生存の改善が望まれていますが、VESPER試験はそれに一定の答えを与えてくれる、重要なランダム化比較第III相試験です。2013年から2018年にかけてフランスの28施設で登録された試験であり、Primary endpointは3年PFSでした。術前治療の場合はT2以上N0M0、術後治療の場合はpT2以上かpN+でM0の症例を対象とし、dd-MVAC療法 6サイクルとGC療法4サイクルに1:1に割り付けました。GC群(N=245)とdd-MVAC群(N=248)の患者背景は、おおよそ同じではありましたが、術後化学療法ではN+がGC群に若干多く73%と60%でしたが、T3/4は27%と40%でありdd-MVAC群に多いようでした。また術前化学療法ではT2は95%と90%でGC群に若干多く、T4は1.8%と4.1%でdd-MVAC群に若干多いという偏りが見られました。有意差があったかどうかは言及がありませんでした。3年PFSは両群とも中央値に達さず、HR:0.77、95%CI:0.57~1.02、p=0.066でdd-MVAC群が上回るKaplan-Meier曲線でした。術前化学療法例に限ると、HR:0.70、95%CI:0.51~0.96、p=0.025と、dd-MVAC群の効果が際立つ結果でした。また今回の報告で初めてOSのデータが提示されました。全体集団ではOSのHRは0.74、95%CI:0.55~1.00、術前化学療法例ではHR:0.66、95%CI:0.47~0.92でdd-MVAC群が上回っていました。試験全体のPrimary endpointがPFSであることを鑑みると、Negativeな結果であり、周術期治療においてdd-MVAC療法のGC療法に対する優越性は示せなかったという結論になると思います。しかしながら、演者の論調もDiscussantの話しぶりも、術前化学療法にはdd-MVAC療法がより優れているのが明らかになったと解釈しており、論点はdd-MVAC療法を6サイクル行うか4サイクルで手術に行くか? という別の次元の問題がトピックになっていました。術前治療の効果を最大限高めることを目標にする場合は、明日からの診療はdd-MVAC療法となると思います。個人的な感想ですが、今回の報告からは安全性の情報は省かれていたことや、統計設定とその解釈についての情報はなかったことから、論文化を待って再度吟味したいと考えています。LBA29 転移性腎細胞がん1次治療のイピリムマブ+ニボルマブ療法の投与スケジュール変更の安全性と効果を検討するランダム化第II相試験:PRISM試験Nivolumab in combination with alternatively scheduled ipilimumab in first-line treatment of patients with advanced renal cell carcinoma: A randomized phase II trial (PRISM).Vasudev N, et al. Proffered Paper session - Genitourinary tumours, non-prostate 2.CheckMate-214試験において、転移性淡明腎細胞がんのIntermediate/Poorリスク例におけるイピリムマブ+ニボルマブ療法は、スニチニブ単剤と比較しOSの延長が報告され、現在標準的な治療となっています。イピリムマブとニボルマブの併用により、重篤な免疫関連有害事象は47%で発生し、22%は治療中止に至ると報告されています。PRISM試験は、英国で行われた多施設共同ランダム化第II相試験であり、イピリムマブ+ニボルマブの投与スケジュールを3週間ごとと3ヵ月ごとに1:2に割り付け比較しました。標準治療群(N=64)は、イピリムマブ1mg/kgとニボルマブ3mg/kgを3週ごとで4回投与後、ニボルマブ480mgを4週ごとで継続します。試験治療群(N=128)は、イピリムマブ1mg/kgとニボルマブ3mg/kgを3ヵ月ごとで4回投与、ニボルマブ240mgを最初の3ヵ月は2週ごと、次の3ヵ月以降は480mgを4週ごとで投与します。Primary endpointは、12ヵ月以内のGrade 3/4有害事象の比較であり、Secondary endpointはその他の有害事象、PFS、客観的奏効率(ORR)、OS、Quality of life;QOLでした。両群の患者背景は、バランスが取れており、追跡期間中央値は19.7ヵ月でした。Primary endpointのGrade 3/4の治療関連有害事象は、試験治療群で32.8%、試験治療群で53.1%、オッズ比0.43、90%CI:0.25~0.72、p=0.0075であり、試験治療群で安全性が上回っていました。とくに両群に違いが見られた有害事象は、関節痛(1.6% vs.7.8%)、大腸炎(3.9% vs.6.3%)、リパーゼ上昇(1.6% vs.9.4%)、下垂体機能低下症(0.8% vs.3.1%)であり、治療中止に至った症例はそれぞれ22.7%と39.1%でした。PFS中央値はmodified Intention to Treat;ITT(1回以上の治療を行った患者)では、試験治療群で10.8ヵ月、標準治療群で9.8ヵ月であり、Kaplan-Meyer曲線はほぼ重なっていました。Intermediate/Poorリスク群でのPFS曲線や、全体集団でのOS曲線も同様であり、2群の治療の効果は互角と読み取れました。本研究により、イピリムマブを3ヵ月ごとに投与するスケジュールは、効果を損なわず安全性が向上することが示されました。イピリムマブ+ニボルマブ療法の最適な治療のスケジュールはまだ探索の余地があることが示唆されます。654MO 集合管がんに対するカボザンチニブの第II相試験:BONSAI試験A phase II prospective trial of frontline cabozantinib in metastatic collecting ducts renal cell carcinoma: The BONSAI trial (Meeturo 2)Procopio G, et al. Mini Oral session - Genitourinary tumours, non-prostate.イタリアのがんセンターで行われた単施設の単群第II相試験で、標準治療のない転移性集合管がんに対する1次薬物療法として、カボザンチニブ60mg連日内服を実施しその効果と安全性を報告しました。統計設定はSimonの2ステージデザインで行われ、1stステージでは2/9例、2ndステージでは6/14例の奏効で有効性を判断することになっていました。2018年1月から2020年11月にかけて25例を登録し23例で治療が行われました。年齢中央値は66歳、19例が男性でした。追跡期間中央値8ヵ月時点において、奏効は8/23例で認められORR 35%、PFS中央値は6ヵ月でした。有害事象は全例でGrade 1/2の毒性が見られ、頻度の高いものは倦怠感43%、甲状腺機能低下症28%、口腔粘膜炎28%、食思不振26%、手足症候群13%などでした。DNAシークエンスを行った結果、奏効例には脱ユビキチン関連遺伝子、細胞間伝達関連遺伝子、TGF-βシグナル伝達関連遺伝子が認められていました。本研究の結果、集合管がんにおいてカボザンチニブは有効な治療選択肢であることが示されました。演者のProcopio氏はさらに、これら遺伝子プロファイルの結果、カボザンチニブのような血管新生阻害薬や、免疫チェックポイント阻害薬、あるいは化学療法が適しているのかを個別に治療選択する臨床試験(CICERONE試験)も始めていると報告しました。日本において腎細胞がんに対するカボザンチニブは、保険適用となっています。集合管がんの治療は、尿路上皮がんとして治療されたり腎細胞がんとして治療されたりしていますが、本研究の報告は治療選択の参考になるものと思われます。

3435.

日本人アルツハイマー病患者の経済状況と死亡率との関係

 さまざまな国においてアルツハイマー病(AD)への対策が実施されており、アルツハイマー病患者における経済状況と死亡率との関係についての知見もアップデートすることが望まれている。神戸大学の小野 玲氏らは、レセプトデータを用いて日本人アルツハイマー病患者の死亡率に対する経済状況の影響を調査するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2021年9月15日号の報告。アルツハイマー病患者において低所得と死亡率との関連が認められた LIFE研究(Longevity Improvement and Fair Evidence study)に参加した13の地方都市より収集した2014年4月~2019年3月のレセプトデータを分析した。対象は、研究期間中に新たにアルツハイマー病と診断された65歳以上の患者とした。アウトカムは、フォローアップ期間中の死亡とした。経済状況は、家計収入により中高所得と低所得で評価した。低所得状況の指標となるデータは、アルツハイマー病診断時における限度額適用認定および標準負担額減額認定(医療費軽減カード)の利用より収集した。経済状況と死亡率との関連を調査するため、年齢、性別、チャールソン併存疾患指数、抗認知症薬の使用で調整し、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて分析した。 アルツハイマー病の死亡率に対する経済状況の影響を分析した主な結果は以下のとおり。・期間中、新たにアルツハイマー病と診断された高齢者は、3万9,081例(平均年齢:83.6歳、女性の割合:67.1%)であった。・経済状況が低所得と分類されたアルツハイマー病患者は、3,189例であった。・交絡因子で調整した後、低所得と死亡率との関連が認められた(ハザード比:1.95、95%CI:1.84~2.07)。 著者らは「新たにアルツハイマー病と診断された日本人高齢者において、低所得と予後不良との関連が確認された。このような患者が利用する医療介護サービスを徹底的に調査し、改善を検討する必要がある」としている。

3436.

『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

3437.

非がん性疼痛へのトラマドール、コデインより死亡リスク高い?/JAMA

 欧米では、非がん性慢性疼痛の治療にトラマドールが使用される機会が増えているが、安全性を他のオピオイドと比較した研究はほとんどないという。英国・オックスフォード大学のJunqing Xie氏らは、トラマドールの新規処方調剤はコデインと比較して、全死因死亡や心血管イベント、骨折のリスクを上昇させることを示した。便秘やせん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害には両薬で差はなかった。研究の成果は、JAMA誌2021年10月19日号に掲載された。スペインの後ろ向きコホート研究 研究グループは、外来で使用されるトラマドールとコデインについて、死亡および他の有害なアウトカムの発生状況を比較する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(IDIAP Jordi Gol Foundationの助成を受けた)。 解析には、System for the Development of Research in Primary Care(SIDIAP)のデータが用いられた。SIDIAPは、スペイン・カタルーニャ地方(人口約600万人)の人口の80%以上を対象とし、匿名化したうえで日常的に収集される医療・調剤の記録が登録されたプライマリケアのデータベースである。 対象は、年齢18歳以上で、1年以上のデータがあり、2007~17年の期間にトラマドールまたはコデインが新規に調剤された患者であった。両薬が同じ日に調剤された患者は除外された。 評価項目は、初回調剤から1年以内の全死因死亡、心血管イベント(脳卒中、不整脈、心筋梗塞、心不全)、骨折(大腿骨近位部、脊椎、その他)、便秘、せん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害とされた。解析の対象は、傾向スコアマッチング法で選出された。また、原因別Cox比例ハザード回帰モデルで、絶対発生率差(ARD)とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)が算出された。若年患者で死亡の、女性で心血管イベントのリスクが高い 109万3,064例が登録され、このうち32万6,921例がトラマドール群、76万2,492例がコデイン群であり、3,651例は両方の薬剤が調剤されていた。傾向スコアマッチング法で選出された36万8,960例(両群18万4,480例ずつ、平均年齢53.1歳、女性57.3%)が解析に含まれた。 トラマドール群はコデイン群に比べ、1年後の全死因死亡(発生率:13.00 vs.5.61/1,000人年、HR:2.31[95%CI:2.08~2.56]、ARD:7.37[95%CI:6.09~8.78]/1,000人年)、心血管イベント(10.03 vs.8.67/1,000人年、1.15[1.05~1.27]、1.36[0.45~2.36]/1,000人年)、骨折(12.26 vs.8.13/1,000人年、1.50[1.37~1.65]、4.10[3.02~5.29]/1,000人年)のリスクが有意に高かった。 便秘(発生率:6.98 vs.6.41/1,000人年)、せん妄(0.21 vs.0.20/1,000人年)、転倒(2.75 vs.2.32/1,000人年)、オピオイド乱用/依存(0.12 vs.0.06/1,000人年)、睡眠障害(2.22 vs.2.08/1,000人年)には両群に差はみられなかった。 トラマドールによる死亡リスクの上昇は、若年患者(18~39歳)が高齢患者(60歳以上)に比べて大きかった(HR:3.14[95%CI:1.82~5.41]vs.2.39[2.20~2.60]、pinteraction<0.001)。心血管イベントのリスク上昇は、女性が男性よりも大きかった(1.32[1.19~1.46]vs.1.03[0.93~1.13]、pinteraction<0.001)。また、併存疾患が最も多い患者(チャールソン併存疾患指数[CCI]≧3点)は最も少ない患者(CCI=0点)に比べ、骨折のリスクの上昇が大きかった(HR:2.20[95%CI:1.57~3.09]vs.1.47[1.35~1.59]、pinteraction=0.004)。 著者は、「未評価の交絡因子が残存している可能性があるため、これらの知見の解釈には注意を要する」としている。

3438.

NAFLDの肝線維化ステージが肝合併症・死亡リスクに影響か/NEJM

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の組織学的スペクトラム全体の死亡や肝臓・肝臓以外のアウトカムの予後は十分に解明されていないという。米国・バージニア・コモンウェルス大学のArun J. Sanyal氏らNASH Clinical Research Network(CRN)は「NAFLD DB2試験」において、NAFLDの中でも肝線維化stageが高い(F3、F4)患者は低い(F0~2)患者に比べ、肝関連合併症や死亡のリスクが高く、F4では糖尿病や推算糸球体濾過量が40%超低下した患者の割合が高いことを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌2021年10月21日号で報告された。米国の前向きレジストリ研究 研究グループは、NAFLDのすべての組織学的スペクトラムが含まれる米国の患者集団における、肝線維化の進展度別のアウトカムの評価を目的に、多施設共同前向きレジストリ研究を行った(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 本研究には、NASH CRNのレジストリから2009年12月~2019年4月の期間に登録された患者が選出され、FLINT試験(オベチコール酸とプラセボを比較した無作為化試験)を終了した患者も含まれた。 対象は、肝生検でNAFLDが確認され、48週後までに少なくとも1回の診察を受けた成人患者であった。死亡と他のアウトカムの発生率が、ベースラインの組織学的特徴に基づいて比較された。 主要アウトカムは、全死因死亡、肝代償不全(臨床的に明らかな腹水、脳症、静脈瘤出血)、肝細胞がん、肝臓以外のがん、心血管イベント、脳血管イベントなどとされた。新たな肝代償不全イベントの発生で全死因死亡率上昇 解析には1,773例(平均年齢52歳、女性64%)が含まれ、肝線維化stage(NASH CRN分類)はF4(肝硬変)が167例、F3(架橋線維化[bridging fibrosis])が369例、F0~2(F0:線維化なし、F1:軽度、F2:中等度)が1,237例であった。診断名は、脂肪性肝炎が55%、境界型脂肪性肝炎が20%、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のない脂肪肝が25%だった。 追跡期間中央値4年(IQR:2.1~7.4)の期間に全体で47例(3%)が死亡し、100人年当たりの死亡率は0.57件であった。全死因死亡率は、肝線維化stageが上がるに従って増加し、100人年当たりF0~2で0.32件、F3で0.89件、F4では1.76件であった(F4のF0~2に対するハザード比[HR]:3.9、95%信頼区間[CI]:1.8~8.4、F3のF0~2に対するHR:1.9、95%CI:0.9~3.7)。 また、100人年当たりの肝関連合併症の発生率も、肝線維化stageの上昇に伴って増加した([静脈瘤出血]F0~2:0.00件、F3:0.06件、F4:0.70件、[腹水]0.04件、0.52件、1.20件、[脳症]0.02件、0.75件、2.39件、[肝細胞がん]0.04件、0.34件、0.14件)。 さらに、肝線維化stageがF4の患者はF0~2に比べ、2型糖尿病の発生率が高く(7.53件vs.4.45件/100人年)、推算糸球体濾過量が40%超低下した患者の割合が高かった(2.98件vs.0.97件/100人年)。一方、心イベントや肝臓以外のがんの発生には、肝線維化stageの違いによる差は認められなかった。 年齢、性、人種、およびベースラインの糖尿病、NASH、非アルコール性脂肪肝の有無、組織学的重症度で補正すると、新たな肝代償不全イベント(腹水、脳症、静脈瘤出血)の発生は全死因死亡率の上昇と関連していた(補正後HR:6.8、95%CI:2.2~21.3)。 著者は、「本研究は観察研究であるため、線維化の重症度と全死因死亡との因果関係を証明するものではない」と指摘し、「F3はF0~2に比べ肝代償不全イベントや肝細胞がんの発生率が高かったことから、線維化stageをF3からF2へと1段階下げることで肝代償不全イベントが減少するとの仮説の理論的根拠をもたらし、これを検証するための試験が進行中である」としている。

3439.

双極性障害が日本人の健康関連QOLや労働生産性に及ぼす影響

 これまでの研究では、双極性障害患者は、対人関係、教育または就業に問題を抱えて、QOLが低下しているといわれている。順天堂大学の加藤 忠史氏らは、健康関連QOL、労働生産性およびそれらに関連するコストに対する双極性障害の影響を推定するため、検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年8月1日号の報告。 オンライン調査National Health and Wellness Surveyの2019年のデータを用いて、検討を行った。双極性障害患者179例、うつ病患者1,549例、対照群(双極性障害、うつ病、統合失調症でない人)2万7,485例について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害の生涯有病率は0.60%、うつ病の生涯有病率は5.16%と推定された。・双極性障害患者では、精神的QOLサマリー(MCS)スコア、役割的QOLサマリー(RCS)スコア、EQ-5D-5Lサマリーインデックスの有意な低下が認められ、Work Productivity and Activity Impairment questionnaireで評価されたプレゼンティズム、労働生産性の問題、活動性の問題および対照群と比較した双極性障害に関連するコスト、PHQ-9スコア10以上の割合の有意な増加が認められた。・双極性障害患者は、うつ病患者と比較し、RCSスコアが有意に低く、労働生産性の損失と活動性の問題が多かった。・日本における双極性障害の全コストは、human-capital approachを用いて、1兆2,360億円と推定された。・本研究の限界として、本分析で使用したデータは自己申告であり、横断的であるため、因果関係を推測することはできない。 著者らは「双極性障害患者および重度の抑うつ症状を有する患者では、健康関連QOLの有意な低下が認められ、労働生産性の損失や関連コストが増大することが示唆された。このことは、双極性障害および双極性うつ病の適切なスクリーニングや診断および治療の重要性を表している」としている。

3440.

心停止後昏睡患者の低体温療法、31℃ vs. 34℃/JAMA

 院外心停止後の昏睡状態の患者において、体温31℃を目標とした体温管理を行っても、34℃を目標とした体温管理と比較して180日死亡率や神経学的アウトカムは改善しないことが示された。カナダ・University of Ottawa Heart InstituteのMichel Le May氏らが、単施設での無作為化二重盲検優越性試験「CAPITAL CHILL試験」の結果を報告した。院外心停止後の昏睡状態の患者は死亡率が高く、重度の神経学的損傷を生じる。現在のガイドラインでは、目標体温32℃~36℃で24時間の体温管理が推奨されているが、小規模な研究においてより低い体温を目標とすることに利点があることが示唆されていた。JAMA誌2021年10月19日号掲載の報告。心停止後の昏睡状態の患者389例を、31℃と34℃に無作為に割り付け 試験は、カナダ・オンタリオ州東部の三次心臓医療センターで実施された。研究グループは、2013年8月4日~2020年3月20日の期間に、院外心停止後の昏睡状態(入院時のグラスゴー・コーマ・スケールスコアが8点以下)にある18歳以上の患者389例を登録し、目標体温31℃群(193例)または34℃群(196例)に無作為に割り付けて24時間の体温管理を行った(最終追跡調査2020年10月15日)。 主要評価項目は、180日時点での全死亡または不良な神経学的アウトカムの複合エンドポイント、副次評価項目は30日死亡、180日死亡、集中治療室在室期間など合計19項目とした。神経学的アウトカムはDisability Rating Scale(範囲:0~29、29は植物状態)を用いて評価し、スコアが>5を不良と定義した。180日時点の死亡および神経学的アウトカムが不良の患者の割合に有意差なし 389例のうち、割り付けられた治療を受け主要評価項目の解析対象となったのは367例(平均年齢61歳、女性69例[19%])で、このうち366例(99.7%)が試験を完遂した。 主要評価項目のイベントは、31℃群で184例中89例(48.4%)、34℃群で183例中83例(45.4%)に発生した(リスク差:3.0%[95%信頼区間[CI]:7.2~13.2]、相対リスク:1.07[95%CI:0.86~1.33、p=0.56])。 19の副次評価項目のうち、18項目では統計的な有意差は確認されなかった。集中治療室在室期間中央値は、31℃群で有意に延長した(10日 vs.7日、p=0.004)。180日死亡率は、31℃群43.5%、34℃群41.0%であった(p=0.63)。 有害事象については、深部静脈血栓症の発現率は31℃群11.4% vs.34℃群10.9%、下大静脈血栓症は3.8% vs.7.7%であった。

検索結果 合計:10309件 表示位置:3421 - 3440