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第18回 もしかして、あの人も?高齢者の「セルフネグレクト」という見過ごされがちな問題

「最近、身なりに構わなくなった」「家がゴミで溢れている」「必要な治療を受けていないようだ」――。あなたのまわりの高齢者に、そんな心配な様子はないでしょうか。もしかしたらそれは、単なる老化や性格の問題だと思われているかもしれません。あるいは、認知症のある頑固な高齢者だという形でのみ認識され、問題が放っておかれてしまっているかもしれません。しかし本当は、「セルフネグレクト」という、支援が必要な状態のサインではないでしょうか。医学雑誌The New England Journal of Medicine誌に掲載された論文1)は、このセルフネグレクトを「臨床的、社会的、倫理的ジレンマ」と位置づけ、その複雑さと向き合うための新たな視点を提案しています。この記事では、その内容を紐解きながら、私たちにとって身近なこの問題について考えていきます。そもそもセルフネグレクトとは?セルフネグレクトとは、自分自身の健康や安全を守るために必要な行動をとれなくなってしまう状態を指します。これは、他者から危害を加えられたり、他者の意図で十分なケアが与えられなかったりする「虐待」とは異なります。しかし、本人の意思が密接に関わるため、問題はより複雑になります。言うまでもなく「自分のことは自分で決める」という自己決定権は、自己の尊厳を保つ上で不可欠なものです。たとえ周りから見て「危ない」「不健康だ」と思われる選択であっても、本人の自由な意思であれば尊重されるべきかもしれません。しかし、認知症などの理由で判断力が低下している場合はどうでしょうか。本人は(一人暮らしが)「大丈夫」と言っていても、実際には薬の飲み忘れが原因で何度も救急搬送されたり、お金の管理ができずに家賃を滞納してしまったりするケースは少なくありません。このような状況で、私たちはどのように本人の意思を尊重し、どう介入すべきでしょうか。実は、高齢者医療や介護の専門家でさえ、この判断に頭を悩ませることがあります。支援の必要性を判断する「3つの物差し」この問題に対し、先にご紹介した論文では、支援の必要性のレベルを判断するための一つの「物差し」として、状況を3つの段階に分けて考えることを提案しています。これは、いつ、どのような対応を始めるべきかを考えるうえで、とても参考になります。レベル1:心配(潜在的リスク)これは、自分自身のケアが十分にできておらず、手助けしてくれる人もいないものの、今すぐ大きな危険があるわけではない状態です。たとえば、「最近、お風呂に入っていない日が増えたかな」「食事の用意が億劫そうだ」といった初期のサインがこれにあたります。この段階では、まず本人の様子を注意深く見守り、どこにつまずいているのか、どうすればリスクを減らせるかを家族内で話し合うことが大切です。レベル2:危険(差し迫ったリスク)この段階では、自分自身のケアができていないことに加え、重大な危険につながる可能性のある行動が見られます。たとえば、火の不始末がある、危険性がありながら車の運転をやめていない、といった状況です。このような場合には、医療機関で認知機能や判断能力の専門的な評価を行い、本人や他者に危害が及ぶ可能性が高いと判断されれば、行政の専門機関(米国では成人保護サービス[APS])に報告することを検討すべきです。レベル3:問題発生(確定したセルフネグレクト)この段階は、セルフネグレクトが原因で、実際に医学的・社会的な「害」が発生してしまっている状態です。薬を飲まなかったことで心不全が悪化して入院したり、請求書の支払いができずに家を追い出されそうになったりしているケースです。このような場合は、本人の安全を守ることが最優先であり、速やかに専門機関に報告し、介入を求める必要があります。この分類は、周囲から見て「心配だけど、どこまで口を出すべきなのか…」と悩む際の、大雑把な判断基準を与えてくれるものです。私たちにできることこのセルフネグレクトという問題は、高齢化が急速に進む日本にとっても、決して他人事ではありません。ご紹介した論文では、米国の高齢者の10%が認知症、さらに20%以上がその前段階である軽度認知障害(MCI)を抱えていると指摘していて、今後セルフネグレクトのリスクを抱える人が確実に増加すると予測しています。これは日本の未来の姿とも重なります。日本では、米国のAPSに相当する相談窓口として、各市町村に設置されている「地域包括支援センター」があります。ここは、高齢者の健康、福祉、医療など、さまざまな相談に対応してくれる専門機関です。もし、あなたの周りに心配な高齢者がいたら、まずは孤立させないことが第一歩です。そして、段階に応じて、地域包括支援センターなどにも相談する必要があるでしょう。「行政に相談すると、本人の意思を無視して無理やり施設に入れられてしまうのでは」などと心配する方もいるかもしれません。しかし、専門機関の役割は人を罰することではなく、「できる限り本人の自律性を尊重しながら、安全性を高める手助けをすること」です。具体的には、ヘルパーの訪問時間を少しずつ増やしたり、食事の宅配サービスを手配したりと、本人が受け入れやすい最小限の介入から始めてくれる場合が多いでしょう。セルフネグレクトは、本人の尊厳と安全性がぶつかり合う、非常に繊細な問題です。しかし、それを「個人の問題」として放置してしまえば、最悪の場合、孤独死のような悲しい結末につながりかねません。異変に気づいた際に、適切な「物差し」を持ち、専門機関へつなぐこと。それが、超高齢社会に生きる私たちに求められる役割なのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)Lees Haggerty K, et al. Self-Neglect in Older People - A Clinical, Social, and Ethical Dilemma. N Engl J Med. 2025;393:4-6.

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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月1回投与の肥満治療薬maridebart cafraglutide、体重を大幅減/NEJM

 月1回投与のmaridebart cafraglutide(MariTideとして知られる)は、2型糖尿病の有無にかかわらず肥満者の体重を大幅に減少させたことが、米国・イェール大学のAnia M. Jastreboff氏らMariTide Phase 2 Obesity Trial Investigatorsによる第II相試験で示された。maridebart cafraglutideは、GLP-1受容体アゴニスト作用とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体アンタゴニスト作用を組み合わせた長時間作用型ペプチド抗体複合体で、肥満症の治療を目的として開発が進められている。第II相試験では、2型糖尿病の有無を問わない肥満成人を対象に、maridebart cafraglutideのさまざまな用量、用量漸増の有無における有効性、副作用プロファイルおよび安全性が評価された。NEJM誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。2型糖尿病の有無別に肥満者を11群に無作為化、52週の体重変化率を評価 研究グループは、11グループを含む2コホートを対象に、第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量範囲試験を実施した。 18歳以上の肥満者(BMI値30以上または27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有しHbA1c値6.5%未満、肥満コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群、420mg(8週ごと漸増なし投与)群、420mg(4週ごと投与で4週ごとに用量漸増)群、420mg(4週ごと投与で12週ごとに用量漸増)群またはプラセボ群に3対3対3対2対2対2対3の割合で無作為に割り付けた。 また、2型糖尿病を有する肥満者(肥満・糖尿病コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までの体重変化率とした。体重変化、2型糖尿病なしは-12.3~-16.2%、2型糖尿病ありも-8.4~-12.3% 2023年1月~2024年9月に592例が登録された(肥満コホート465例、肥満・糖尿病コホート127例)。両コホートの各投与群間のベースライン特性は類似していた。 肥満コホート(女性63%、平均年齢47.9歳、平均BMI値37.9)において、treatment policy estimand(ITTアプローチ法)に基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-12.3%(95%信頼区間[CI]:-15.0~-9.7)~-16.2%(-18.9~-13.5)の範囲にわたり、プラセボ群は-2.5%(-4.2~-0.7)であった。 肥満・糖尿病コホート(女性42%、平均年齢55.1歳、BMI値36.5)において、treatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-8.4%(95%CI:-11.0~-5.7)~-12.3%(-15.3~-9.2)の範囲にわたり、プラセボ群は-1.7%(-2.9~-0.6)であった。また、本コホートにおけるtreatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからのHbA1c値の平均変化(%ポイント)は、maridebart cafraglutide投与群が-1.2~-1.6%ポイントの範囲にわたり、プラセボ群は0.1%ポイントであった。 消化器系の有害事象がmaridebart cafraglutide群で多くみられたが、用量漸増および開始用量の低減により発現頻度は低下した。 安全性に関する新たな懸念はみられなかった。

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看護師の貢献が病院経営を救う?【論文から学ぶ看護の新常識】第22回

看護師の貢献が病院経営を救う?看護師の経済的価値を検証した最新研究で、看護業務において最も大きな経済的インパクトを与える領域は、「健康教育」と「医療安全」であることが示された。Daniel Barcenas-Villegas氏らの研究結果であり、Journal of Nursing Management誌2025年3月19日号に掲載された。臨床看護師による病院の効率性と経済的持続可能性への貢献:システマティックレビュー研究チームは、看護専門職による病院の効率性と医療の持続可能性への貢献に関するエビデンスを分析することを目的に、システマティックレビューを行った。4つのデータベース(CINAHL、PubMed、Scopus、WOS)で2013年から現在までの英語およびスペイン語の研究を検索し、経済評価に関する一次研究およびシステマティックレビューを対象とした。質の評価にはCASPツール、CHEERSチェックリスト、STROBE声明を用いた。主な結果は以下の通り。3,058件の記録のうち、9件の研究(333,597例)が適格と判断された。病院が提供する健康教育は費用対効果が高く、1 QALY(質調整生存年)あたり10万ドル未満の費用に収まる可能性がある。看護の専門性、高度実践看護師、および医療安全への投資は、入院や病状悪化の数を減少させる。看護業務の中で最も大きな経済的インパクトを与える領域は、健康教育と医療安全であることが示された。看護の専門性と高度実践看護師の導入は、より経済的に持続可能なモデルを推進するために、医療システムが注力すべき分野であることも示された。近年の研究では、医療現場での看護師の貢献が、病院の効率性や経済的持続可能性の鍵を握ると示唆しています。これは、従来の「Evidence Based Medicine(EBM;根拠に基づく医療)」が重視する臨床的効果に加え、医療が患者にもたらす「価値」を費用対効果で測る「Value Based Medicine(VBM;価値に基づく医療)」の考え方に合致します。(EBM、VBMという用語自体は本論文中に直接記されていませんが、その概念は本研究の議論の基盤です。)その「価値」を定量化する主要指標が、QALY(質調整生存年)です。前回の記事でも解説がありましたが、今回はその具体的な考え方と、海外での評価基準について触れておきます。QALYは、生存期間だけでなく生活の質も加味して費用対効果を評価する指標であり、1QALYあたりにかかるコストが低いほど「費用対効果が高い」とされます。例えばオーストラリアでは、1QALYあたり3万~6万豪ドルが許容目安とされています。本研究では、「健康教育」や「医療安全」、「専門看護師および高度実践看護師(Advanced Practice Nurse:APN)」への投資が、入院や病状悪化の減少、ひいては医療経済への肯定的な影響、費用削減につながる可能性を強く示唆しました。APNは、特定領域でリーダーシップを発揮し、再発・再入院を減らすことでコスト改善に貢献しています。ただし、各国の医療制度や経済状況は大きく異なります。そのため、評価基準も多様であり、引用論文の一部には「結果を私たちの環境に適用できない」との指摘もあります。このため、結果をそのまま日本に適応することはできません。日本においても、看護師の専門性が医療経済に与える影響を、国内のシステムに即した形で具体的に評価し、その真の価値を引き出す戦略が必要不可欠だと考えます。論文はこちらBarcenas-Villegas D, et al. J Nurs Manag. 2025:3332688.

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日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる有効性と忍容性

 獨協医科大学の鈴木 紫布氏らは、日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる長期的な有効性と忍容性を明らかにするため、レトロスペクティブ観察単施設コホート研究を実施した。Neurological Research and Practice誌2025年6月3日号の報告。 対象は、フレマネズマブ治療を行った反復性片頭痛(EM)または慢性片頭痛(CM)患者165例。主要エンドポイントは、ベースラインから1〜24ヵ月までの1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)の変化量とした。副次的エンドポイントは、片頭痛評価尺度(MIDAS)スコアの変化量、有害事象、治療反応率、治療反応予測因子、治療継続率。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体におけるベースラインからのMMDスコアの変化量は、3ヵ月で−7.2±4.7日、6ヵ月で−8.1±6.3日、12ヵ月で−8.4±5.1日、24ヵ月で−9.6±6.0日であった(p<0.001)。・50%以上の治療反応率は、3ヵ月で57.0%、6ヵ月で63.6%、12ヵ月で63.5%、24ヵ月で69.0%。・全体、EM群、CM群のいずれにおいても、MIDASスコアの有意な低下が認められた。・月1回投与群と四半期ごとの投与群との間に、有効性の有意な差は認められなかった。・有害事象は13.3%の患者で発現(主に注射部位反応)、副作用のために治療を中止した患者は2.4%であった。・治療反応不十分患者、早期治療反応患者、超遅発的治療反応患者との間で、精神疾患合併、薬物乱用性頭痛、脈動性頭痛などの臨床背景の違いが認められた。・治療継続率は12ヵ月で73.5%、18ヵ月で65.4%、24ヵ月で58.0%であり、四半期ごとの投与群のほうが月1回投与群よりも治療継続率が高かった(p<0.001)。 著者らは「日本の実臨床において、フレマネズマブは、長期的な片頭痛予防に有効であり、忍容性も良好である」と結論付けている。

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健康的な食事は体重が減らなくても心臓を守る

 健康的な食生活に改めたのに体重が減らないからといって、イライラする必要はないかもしれない。体重は変わらなくても、健康的な食生活により心臓の健康には良い影響を期待できることを示唆する研究結果が、「European Journal of Preventive Cardiology」に6月5日掲載された。 この研究は、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のAnat Yaskolka Meir氏らの研究によるもの。論文の筆頭著者である同氏は、「健康のために減量が欠かせないとわれわれは刷り込まれてきており、体重を減らせない人に負の烙印を貼ってしまいがちだ。しかし今回の研究は、食生活を改めることで、たとえ体重が減らなくても代謝が改善し将来の健康リスクを下げられることを示しており、これまでの捉え方を根本から変えるものだ」と述べている。 Meir氏らは、研究期間が18~24カ月に及ぶ3件の大規模な生活習慣介入研究のデータを統合して、食生活改善が体重や心臓の健康に影響を及ぼす検査値の変化を検討した。解析対象者は合計761人で、平均年齢は50.4歳、男性89%、介入前のBMIは30.1だった。研究参加者は、低脂肪食、低炭水化物食、地中海食などの食事スタイルにランダムに割り付けされていた。 介入前後での体重の変化は全体で-3.3kg(-3.5%)であり、-5%以上の体重減を達成した「減量成功群」が36%、体重が減らなかった(または増加した)「減量抵抗群」が28%、そして変化率-5~0%の群が36%だった。減量成功群は、心臓の健康に関する検査値も3群の中で最も大きく改善していた。しかし減量抵抗群であっても、内臓脂肪面積は有意に低下し(-7.15cm2、P<0.001)、HDL-C(善玉コレステロール)は有意に上昇(+1.16mg/dL、P=0.008)。また、脂肪細胞から分泌される食欲に関連するホルモンであるレプチンにも、有意な影響が認められた。 Meir氏は、「解析結果は介入による代謝の大きな変化を表しており、このような変化は心臓の健康に影響を及ぼし得る。つまり、体重が減らなくても、健康的な食生活には効果があることが示された」と述べている。 一方、この研究では、5%以上の減量達成に関連のあるDNAメチル化部位(遺伝子発現に関わる可能性のある部位)が12カ所特定された。この点について、論文の上席著者である同大学院のIris Shai氏は、「この発見は、同じ食生活を送っていても異なる反応を示す生物学的素因を持つ人がいる可能性を示している」と解説。そして、「減量に成功するか否かは、単に意志の力や自制心の問題ではなく生物学の問題と言え、われわれは今、その理解に近づきつつある」と付け加えている。

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がんサバイバーの脳卒中・心血管死リスク、大規模コホート研究で明らかに

 がんと診断された人(がんサバイバー)は、そうでない人と比較して心血管系疾患(CVD)を発症するリスクが高いことが報告されている。今回、がんサバイバーの虚血性心疾患・脳卒中による死亡リスクは、一般集団と比較して高いとする研究結果が報告された。大阪大学大学院医学系研究科神経内科学講座の権泰史氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association;JAHA」に5月15日掲載された。 近年、医療の進歩により、がん患者の生存率は大幅に向上している。しかし、その一方で、CVDが新たながんサバイバーの懸念事項として浮上している。CVDはがんサバイバーでがんに次ぐ死因であることが明らかになっており、疫学研究では、CVDによる死亡リスクが一般集団の約2倍であることも報告されている。従来の研究では、CVD全体による死亡リスクが調査されてきたが、特定のCVDに焦点を当てた研究は限られていた。そのような背景を踏まえ、筆者らは「全国がん登録(NCR)」データベースを用いて、国内のがん患者におけるCVDによる死亡リスクを調査するコホート研究を実施した。CVD全体のリスク評価に加え、虚血性心疾患、心不全、大動脈解離・大動脈瘤、虚血性脳卒中、出血性脳卒中といった特定のCVDについても解析を行った。 解析対象は、NCRデータベースに含まれる、2016年1月~2019年12月の間にがんと診断された患者とした。対象者の死因は、国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づき、死亡診断書に記載された情報からNCRに登録されたコードを用いて特定された。がん患者と一般集団のCVD死亡リスクを比較するため、標準化死亡比(SMR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。また、特定のCVDにおいてもがん種ごとのSMRを算出した。 本研究には397万2,603人(うち女性は45.8%)の患者が含まれ、621万2,672人年の追跡調査が行われた。CVDのSMRは2.39(95%CI 2.37~2.41)で、がん患者は一般人口集団と比較してCVD死亡リスクが2.39倍高かった。SMRは男性より女性で高くなっていた。CVD死亡リスクをがん種別にみると、全てのがん種でSMRが1.0を超えて上昇していた。SMRは非リンパ系造血器悪性腫瘍が最も高く(4.32〔95%CI 4.15~4.50〕)、前立腺がんが最も低かった(1.52〔95%CI 1.48~1.57〕)。 次にがん種ごとに特定のCVDのSMRを調べた。その結果、特定のCVDのSMRはがん種によって異なることが明らかになった。虚血性心疾患と心不全では非リンパ系造血器悪性腫瘍のSMRが最も高かった(それぞれ3.15〔95%CI 2.87~3.45〕、7.65〔95%CI 7.07~8.27〕)。虚血性脳卒中、大動脈解離・大動脈瘤、出血性脳卒中ではそれぞれ膵臓がん(5.39〔95%CI 4.79~6.05〕)、喉頭がん(3.31〔95%CI 2.29~4.79〕)、肝がん(3.75〔95%CI 3.36~4.18〕)のSMRが最も高くなっていた。 本研究の結果について著者らは、「がん患者はCVDによる死亡リスクが高く、非リンパ系造血器悪性腫瘍ではその傾向が顕著だった。また、死亡リスクは、がんの種類やCVDの種類によって大きく異なることが明らかになった。特定のがん種と心血管疾患関連の死亡率との関連性を理解することは、高リスク集団を特定し、がんサバイバーに対する長期的な管理戦略の策定に役立つだろう」と述べている。 本研究の限界点については、NCRに記載のICD-10コードはまれに不正確であること、本研究が観察研究であり、がんとCVDの因果関係を確立するできないこと、などを挙げている。

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副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第2回

今回は化学療法中によく遭遇する「下痢」についてです。私自身が消化器内科医でもあるので下痢はお手のもの! と言いたい所ですが、下痢は非常に奥が深く、難渋することもあります。このコラム1回分ではとても語り尽くせませんので、抗がん剤治療中に下痢を生じた患者さんが、紹介元であるかかりつけ医を受診した際に有用な下痢の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】64歳、女性主訴下痢病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。昨日から水様性下痢が発現し、回数が増えてきた(2→4回)ため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取割合は6割程度。内服抗がん剤S-1 120mg/日(Day12)【症例2】80歳、男性主訴尿量減少病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。昨日からストーマ排泄量が増加した。口渇感と尿量減少を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取問題なし。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤による下痢は、早発性の下痢と遅発性の下痢に大きく分類できます。早発性の下痢は抗がん剤投与中または投与直後~24時間程度にみられることが多い一方で、遅発性の下痢は投与後数日〜数週間程度でみられることが多いため、鑑別が難しいこともあります。抗がん剤以外の他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)下痢の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染性腸炎、食事内容、他の薬剤など)との鑑別。抗がん剤による免疫抑制中は、感染性腸炎の可能性(発熱、血便、白血球減少時の腸炎など)を常に考慮。また、抗がん剤治療中は治療機関(大学病院や高次医療機関)から発熱時に抗菌薬を処方されていることがあり、抗菌薬内服後の場合は、クロストリジオイデス・ディフィシル関連腸炎も鑑別に挙げる。下痢を生じやすい抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など画像を拡大する(2)重症度の評価回数(例:1日5~6回以上)、持続時間、血便、発熱、脱水症状の有無を確認。食事摂取状況や全身状態もチェック。脱水所見(口渇、皮膚乾燥)があれば、経口補水や点滴を検討。高齢者や併存疾患がある患者はより注意が必要。CTCAE ver5.0画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、下痢回数はCTACEという化学療法中の重症度分類でGrade1相当の下痢となります。発熱はなく、食事摂取も減少しているものの経口補液も可能でした。症状としては軽度であり、感染性腸炎を疑う現病歴がなければ、治療機関から下痢時の対応薬(ロペラミド)などが処方されている場合は内服を勧めてもよいと思います。このケースでは、受診時に輸液を実施し、抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、患者申告ではCTACEでGrade1相当の下痢で食事摂取も問題ありませんが、口渇や尿量減少から高度の脱水が示唆される所見です。直ちに治療機関への連絡を行い、入院加療となりました。ストーマ排泄量は患者さん自身では把握が難しい場合もあるため、脱水所見の有無やストーマ排泄量*の確認が重要です。*ストーマから1日2,000mL以上排泄される場合、排液過多とみなす。抗がん剤治療中の下痢対応フロー画像を拡大する内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「食事が半分以上食べられない場合や下痢が5回以上続く場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。下痢に対して輸液や整腸剤を投与してもよいか?軽度の下痢であれば、輸液や整腸剤の支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の下痢のみでも長期に続く場合や、十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため、治療機関へご紹介ください。また、クリニックで輸液を実施しても翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。なお、イリノテカンによる遅発性下痢の場合は整腸剤による増悪やロペラミド高用量療法が必要なこともあるため、主治医への確認が望ましいです。下痢だと思ったら腸閉塞寸前!?婦人科がんや胃がんの腹膜播種症例、直腸がん症例の中には骨盤底部の播種病変の増悪や原発狭窄により直腸狭窄を来し、少量の下痢が持続することがあります。患者さんからの「下痢が多い」という訴えをよく確認すると、「少量の下痢」が「1日に十数回あり、制御できない」という症状で、腸閉塞の一歩手前であったという症例を時折経験します。狭窄した腸管の脇から漏れ出るようにしか水様便が排出されないために起こる症状です。もし、そのような患者さんがいればすぐに治療機関へ相談してください。画像を拡大する<奥深い下痢>先日、下痢で難渋した患者さんの話です。免疫チェックポイント阻害薬を使用していた患者さんで、免疫関連有害事象で1型糖尿病と甲状腺機能低下症になってしまい、緊急入院となりました。さまざまな内分泌補充療法を実施して何とか退院したものの、今度は下痢で再入院…。短絡的に「まさか大腸炎も併発したのか!?」と思い、下部内視鏡検査や各種検査を実施してもまったく問題ありません。入院後は速やかに改善したので退院しましたが、数日経つと「下痢が治らない。食べたらすぐに下痢をする」と言って来院しました。結局、同期の大腸エキスパート医師に泣きついて診察してもらうと、CT検査で経時的に萎縮していた膵臓に目をつけ、「免疫関連有害事象からの膵萎縮に伴う膵酵素分泌低下に伴う下痢」と診断してくれました。早い話が慢性膵炎の下痢のようなものです。慢性膵炎に準ずる治療で下痢はすぐに改善し、今も元気に通院治療されています。免疫関連有害事象に伴う新たな下痢のカタチかも知れず、下痢はやはり奥が深いと実感した最近の一例でした。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版;2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.5)NCCN Guidelines:Palliative Care(Version 2. 2025)

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第274回 有毒な難分解性物質PFASを吸収する腸内細菌を発見

有毒な難分解性物質PFASを吸収する腸内細菌を発見妊娠困難、小児の発達遅延、がんや心血管疾患を生じやすくするなどの数々の害と関連し、便利だけれども分解し難くて環境中や体内にずっと居座る厄介な難分解性化学物質・PFAS(ピーファス)を吸収して糞中に排泄しうる腸内細菌を、ケンブリッジ大学の科学者らが発見しました1,2)。ヒトの腸内のそれらの細菌を底上げすることで、PFASの害をやがては防げるようになるかもしれません。人工の化学物質の環境汚染はもはや安全な水準を超えているかもしれません。水や農業システムの広範囲に及ぶ汚染によって数多の環境汚染物質が食物に吸収され、それらを食する人間の体内に入り込んでいます。そういう環境汚染物質の中で永続化学物質(forever chemical)との異名でも知られるPFASはとくに心配です。消火剤の泡、防水服、食材が張り付かない調理器具、口紅、食品包装などの工業や店頭のありとあらゆる製品に使われている4,730種類の化合物がPFASに属し、近代社会に不可欠なものとなっています。PFASが引っ張りだこなのは、炭素-フッ素(C-F)結合の強度に由来する他に類を見ない安定性と強力な親水/疎水性基に由来する界面活性剤様の便利な特徴によります。しかしそれらの特徴は諸刃の剣でもあり、長く分解されずに環境や人体に蓄積して健康を害します。PFASは数日で尿中に放出されるものもありますが、長い分子構造のものは体内に何年も留まる恐れがあります。PFASの健康への負担は莫大なようです。たとえば欧州全域の年間のPFAS絡みの医療費は実に500~800億ユーロにも達すると試算されています。その欧州や米国での血中PFAS検出率は高く、飲水のPFASを抑えることやPFASの使用を制限することが計画されています。しかし世界的な取り組みにはなっていません。環境中に長くとどまるPFASの効率良い除去法はいまのところありませんが、しかしよい兆しもあり、PFAS汚染地で見つかったシュードモナス属の細菌にPFASを収集する能力があることが判明しています3)。また、乳酸菌がPFASと結合してPFASの毒性を緩和しうることも示唆されています4)。それらの先立つ成果を踏まえてケンブリッジ大学のKiran Patil氏らは人体の腸内細菌とPFASの関わりを検討し、PFASを盛んに吸収しうる38の細菌株の発見にこぎ着けました。それらのうちPFASを最も蓄積するいわばエリート細菌株5種類をマウスの腸に導入したところ、糞中のPFAS排泄が増加し、腸の細菌がPFASを蓄積して体外へと排出しうることが裏付けられました。しかしその結果はあくまでも一回きりのPFAS投与の結果であり、次の課題としてPFASの摂取とその血中濃度、尿や糞中への排泄、微生物組成の長期間の推移を検討する必要があります。Patil氏らは体内のPFASを取り除く微生物を開発する企業であるCambiotics社5)を早くも設立し、目当ての微生物の性能を格段に飛躍させる手段を検討しています2)。 参考 1) Lindell AE, et al. Nat Microbiol. 2025;10:1630-1647. 2) Gut microbes could protect us from toxic ‘forever chemicals’ / Eurekalert 3) Presentato A, et al. Microorganisms. 2020;8:92. 4) Chen Q, et al. Environ Int. 2022;166:107388. 5) Cambiotics社ホームページ

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精神科医療現場の突然死に関連する要因と予防戦略

 精神科入院患者の予期しない死亡には、さまざまな要因が関連している。シンガポール・Buangkok Green Medical ParkのJing Ling Tay氏らは、精神科入院患者の突然死に対する影響因子/リスク因子および予防戦略を評価するため、スコーピングレビューを実施した。Archives of Psychiatric Nursing誌2025年6月号の報告。 本研究は、スコーピングレビューのためのPRISMA拡張版およびPRISMA 2020声明に基づき行われた。関連するキーワードを用いて、2023年12月18日までに公表された研究を6つのデータベースより検索した。精神科医療現場における入院患者の突然死の原因、影響因子、リスク因子、予防戦略を検討した英語論文を対象に含めた。 主な結果は以下のとおり。・27件の研究を対象に含めた。・精神科医療現場における突然死の要因を調査した研究が27件(100%)、対策を検討した研究が16件(59.3%)であった。・突然死の原因として4つが挙げられた。 ●医学的状態 ●拘束 ●窒息 ●緊張病または極度の興奮・主に症例報告などの一部の研究において抗精神病薬使用による死亡が報告されているものの、ケースコントロール研究のような質の高い研究においてこの関連性は否定された。・上記4つに抗精神病薬使用を含めた5つの原因に対応する予防戦略として、以下が挙げられた。 ●医学的評価と治療(とくに心血管疾患および関連リスク因子)、医師との連携、スタッフ研修、人員配置(医師の増員) ●カウンセリング、迅速な鎮静、徹底した観察下の最終手段としての拘束といったより良い代替手段の活用 ●窒息に関するリスク評価、トレーニング ●緊張病に対する迅速な治療 ●抗精神病薬治療レジメンの簡素化 著者らは、「議論の的である本テーマの検証には、さらに質の高い研究が求められる」とし、「この重要なテーマをエビデンスベースで理解することは、精神医学における救命につながるであろう」とまとめている。

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2日目のカレーは食中毒のリスク

翌日のカレーで多い食中毒はウエルシュ菌食中毒●原因と感染経路原因菌は、ヒトなどの大腸内常在菌で下水、耕地などに広く分布するウエルシュ菌(図)。ウエルシュ菌食中毒は、エンテロトキシンにより発症する感染型食中毒であり、年20~40件(平均28件)程度あるが、1事件当たりの平均患者数は83.7人で、他の細菌性食中毒に比べ、圧倒的に多く、大規模事例が多い。食中毒の発生場所は、給食施設などで、主な原因食品は、カレー、スープ、肉団子などがある。●主な症状潜伏時間は通常6~18時間(平均10時間)で、喫食後24時間以降に発病することはほぼない。主要症状は腹痛と下痢。下痢の回数は1~3回/日程度のものが多く、主に水様便と軟便。腹部膨満感が生じることもあるが、嘔吐や発熱などの症状はきわめて少なく、症状は一般的に軽く1~2日で回復する。●治療や予防法特別な治療方法はなく、治療は対症療法が主体。予防は食品中の菌の増殖防止であり、加熱調理食品は小分けするなどして急速冷却し、低温で保存する。保存後に喫食する場合は充分な再加熱を行う。また、前日調理、室温放置は避けるべきである。●その他注意する点ウエルシュ菌が産生する溶血毒のために急死する敗血症例もある。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト ウエルシュ菌感染症より引用(2025年7月4日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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左右の肺がんで死亡リスクに差~日本のがん登録データ

 肺がん罹患率は、解剖学的、遺伝的、環境的要因の影響により右肺と左肺で異なる可能性がこれまでの研究で示唆されている。今回、千葉県がんセンターの道端 伸明氏らが日本のがん登録データで調べたところ、右側肺がんが左側肺がんより多く、死亡リスクは男性では右側肺がんが高かったが、女性では差がなかったという。Cancer Epidemiology誌オンライン版2025年6月24日号に掲載。 本コホート研究では、千葉県がん登録(2013~20年)のデータを用いて、原発性肺がん3万6,502例を対象とし、患者特性を右側肺がんと左側肺がんで比較した。年齢、性別、病期、組織型、その他の共変量で調整した死亡率の左右差を、カプランマイヤー生存曲線、ログランク検定、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。  主な結果は以下のとおり。・右側肺がん(60%)は左側肺がん(40%)よりも多かった。・右側肺がんの死亡率は左側肺がんよりわずかに高かった(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.02~1.08、p=0.003)。・男女別に分析すると、男性では右側肺がんの死亡リスクが高かったが(HR:1.08、95%CI:1.04~1.12、p<0.001)、女性では左右差は有意ではなかった。 著者らは「右側肺がんの有病率が高いのは、解剖学的な違いやL858R変異の割合が高いなどの遺伝的要因によるのかもしれない」と考察し、「左右差による臨床的な影響は小さいものの、これらの結果は肺がんの病態に関する見識を提供し、個別化医療の進展に寄与する可能性がある」としている。

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「終末期」を「人生の最終段階」へ変更、その定義とは/日本老年医学会

 日本老年医学会は6月27日のプレスリリースにおいて、「終末期」から「人生の最終段階」への変更における定義などを示した『高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025』を発表した。この立場表明は同学会が21世紀初頭に初版を発表、2012年の第1改訂から10年以上が経過したため、現在を見据えつつ近未来を展望して今回の改訂がなされた。今回開催された記者会見では、立場表明のなかで定義付けされた用語とその理由について、本改訂委員会委員長を務めた会田 薫子氏(東京大学大学院人文社会系研究科 附属死生学・応用倫理センター 特任教授/同学会倫理委員会 エンドオブライフ小委員会委員長)を中心に解説が行われた。『立場表明2025』の目的 立場表明は、臨床現場においてさまざまな難問に直面しつつ、本人のために最期まで最善の医療・ケアを提供しようと尽力している専門職の行動指針となり、同時に、日本で生きる人々の心の安寧を支えることを願っている専門職の職業倫理として作成されている。また、すべての人が有する権利(すべての人は最期まで、医学的に適切な判断を土台に、それぞれの思想・信条・信仰を背景とした価値観・人生観・死生観を十分に尊重され、「最善の医療およびケア」を受ける権利を有する)を擁護・推進するために、日本老年医学会として「高齢者の人生の最終段階における医療・ケア」に関する立場を表明した。 2015年に厚生労働省が『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』を改訂した際に、「終末期」という表現を「人生の最終段階」としていたが、その言葉の定義付けなどは各領域や学会に一任されていたことから、今回、国内で初めて日本老年医学会がこの用語の定義を示した。「人生の最終段階」の定義 厚生労働省が「終末期医療」を「人生の最終段階における医療」に替えると発表した際、これが「最期まで尊厳を尊重した、人間の生き方に着目した医療を目指す」という考え方に寄っていると説明していたことを踏まえ、日本老年医学会は、「人生の最終段階」を以下のように定義付けした。(1)【医学的見込み】 病状や老衰が不可逆的で、更なる治療によっても状態の好転や進行の阻止は見込めず、遅かれ早かれ死に至ることが避けられない。(2)【人生についての見方】 (1)を踏まえ、医療・ケアチームが本人の人生全体を眺める視点で、本人は人生の物語りの最終章を生きていると考えられ、本人が表明してきた人生に関する意向を尊重したうえでも、そう考えることができる。以上の(1)と(2)が満たされている時、本人は「人生の最終段階」にある。「最善の医療およびケア」とは 次に、最善の医療およびケアについて、「緩和ケア(palliative care)の考え方と技術を中核とし、単に診断・治療のための医学的な知識・技術のみならず、他の自然科学や人文科学、社会科学を含めた、すべての知的・文化的成果を統合した、適切な医療およびケア」としている。会田氏は、「日本では非がん領域における緩和ケアが不十分な状態にある。WHOは1990年に緩和ケアの考え方を、2002年にはその定義を示している。国内でもそれらを踏まえて苦痛の予防・緩和に注力していくため、最善の医療およびケアを緩和ケアの考え方で進めていく」とし、「高齢者にとって侵襲性の高い高度医療はリスクとなる。また、薬物療法についても同様で、とくにポリファーマシーの有害性の認識は重要。よって、高齢者への医療やケアは一般成人とは異なる考え方をすることを社会にも広く知っていただきたい」と強調した。10の立場表明 この立場表明には、本学会における10個の立場表明が示されており、「日本老年医学会はこれらの立場が実現できるようにたゆまぬ努力を傾注する」と同氏はコメントした。・立場1:年齢による差別(エイジズム)に反対する・立場2:緩和ケアを一層推進する・立場3:本人の意思と意向を尊重する・立場4:人権と尊厳および文化を尊重する意思決定支援を推進する・立場5:多職種のチームによる医療・ケアの提供を推進する・立場6:臨床倫理に関する取り組みを推進する・立場7:在宅医療および地域包括ケアシステムを推進する・立場8:死への準備教育を推進する・立場9:不断の研究の進歩を医療・ケアに反映させる・立場10:高齢者の人権と尊厳を擁護する医療・介護・福祉制度の構築を求める医療界で汎用される「尊厳」とは 本表明にも頻出する「尊厳」。この言葉は多くの法令や医学会の提言、ガイドラインでも頻繁に利用されているが、「その割に意味が不明確。辞書で意味を調べてみると、“尊く厳かで犯し難いこと”と書いてあり、どのように医療現場で本人の尊厳を尊重すればいいのかわかりにくい」と同氏は指摘。そこで同学会は医療における尊厳についても定義付けを行った。(1)「現在のありのままの自分を価値ある存在だとする思い」:この場合は自尊感情や自己肯定感と同義的であるとし、本人が自己肯定できるよう医療とケアを提供すること(2)「尊厳に値するという価値」:本人に何かを押し付けたり支配したりすることを否定すること これに対して同氏は「他学会や政府にも、この尊厳の考え方について参照してもらいたい」と思いを示した。 第67回日本老年医学会学術集会の会期中に開かれた本記者会見において、大会長の神﨑 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学教室 教授)は、「本表明にはセンシティブな内容も含まれる。しっかり目を通してもらいたい」と締めくくった。

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心房細動を伴う脳梗塞のDOAC開始、早期vs.遅延~メタ解析/Lancet

 急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の遅延開始(5日以降)と比較して早期開始(4日以内)は、30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合アウトカムのリスクを有意に低下させ、症候性脳内出血を増加させないことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHakim-Moulay Dehbi氏らが実施した「CATALYST研究」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月23日号に掲載された。DOAC開始の早期と遅延をメタ解析で比較 研究グループは、急性虚血性脳卒中発症後におけるDOACの早期開始と遅延開始の有効性の評価を目的に、無作為化対照比較試験の系統的レビューと、個別の患者データのメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 医学関連データベースを検索し、2025年3月16日までに発表された無作為化対照比較試験を選出した。対象は、事前登録を行い、無作為化され、臨床アウトカムを評価し、急性虚血性脳卒中と心房細動を有する患者を、承認を受けた用量のDOACの早期開始(4日以内)または遅延開始(5日以降)に割り付けた臨床試験であった。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発性虚血性脳卒中、症候性脳内出血、分類不能の脳卒中の複合とした。早期開始で再発が有意に少なく、症候性脳内出血は増加しない 4つの臨床試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)を同定した。データ共有に応じなかった参加者や、DOACの開始が4日以内または5日以降に割り付けられなかった参加者を除外したうえで、5,441例(平均年齢77.7[SD 10.0]歳、女性2,472例[45.4%]、NIHSSスコア中央値5点)をメタ解析に含めた。主要アウトカムのデータは5,429例から得た。 30日の時点における主要アウトカムの発生率は、遅延開始群が3.02%(83/2,746例)であったのに対し、早期開始群は2.12%(57/2,683例)と有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.50~0.98]、p=0.039)。絶対リスクの群間差は-0.0093(p=0.039)であった。また、1件の主要アウトカムを防止するための治療必要数は108(95%CI:55~2,500)だった。 30日時の再発性虚血性脳卒中は早期開始群で有意に少なく(1.68%[45/2,683例]vs.2.55%[70/2,746例]、OR:0.66[95%CI:0.45~0.96]、p=0.029)、症候性脳内出血は早期開始群で増加しなかった(0.37%[10/2,683例]vs.0.36%[10/2,746例]、1.02[0.43~2.46]、p=0.96)。また、早期開始群では頭蓋外の大出血の増加も認めなかった。90日後の主要アウトカムには差がない 一方、90日後の主要アウトカムの発生率は、早期開始群で低かったが、両群間に有意な差はなかった(3.10%[83/2,678例]vs.3.51%[96/2,738例]、OR:0.88[95%CI:0.65~1.19]、p=0.40)。 著者は、「これらの知見は、実臨床におけるDOACの早期の投与開始を支持するものである」「本研究のデータは、脳内出血への懸念から、脳卒中の重症度を問わず、抗凝固療法を最大で2週間遅らせるという一般的に行われている治療法を支持しない」「今後のCATALYSTサブグループ解析では、DOACの早期開始のリスクとベネフィットについて、さらに検討を進める予定である」としている。

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スタチンは敗血症の治療にも効果あり?

 スタチン系薬剤(以下、スタチン)は、高LDLコレステロール(LDL-C)血症の治療における第一選択薬であるが、この安価な薬剤は、別の病態において救命手段となる可能性があるようだ。新たな研究で、敗血症患者の治療において、抗菌薬、点滴、昇圧薬による通常の治療にスタチンを加えることで死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。天津医科大学総合病院(中国)のCaifeng Li氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Immunology」に6月6日掲載された。 敗血症は、感染症に対する過剰な免疫反応によって全身に炎症が広がり、複数の重要な臓器に機能不全が生じる病態である。研究グループによると、米国では毎年約75万人が敗血症で入院し、そのうち約27%が死亡している。敗血症患者の約15%には、血圧が危険なレベルまで低下する敗血症性ショックが生じる。敗血症性ショックの死亡リスクは30〜40%に上ると報告されている。 スタチンには、「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-Cとトリグリセライド(中性脂肪)の値を下げる一方で、「善玉コレステロール」とも呼ばれるHDLコレステロール(HDL-C)の値を上げる作用がある。しかしLi氏によると、スタチンには炎症を抑制し、免疫反応を調整し、血栓形成を抑制する効果があることも示されているという。 この研究でLi氏らは、2008年から2019年の間にボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの集中治療室(ICU)で収集されたデータ(Medical Information Mart for Intensive Care-IV;MIMIC-IV)を用いて、スタチンにより敗血症患者の転帰が改善するのかを検討した。対象はこのデータから抽出した敗血症患者2万230人で、うち8,972人(44.35%)はスタチンを投与されていた。傾向スコアマッチングを行い、最終的に1万2,140人(スタチン群と非スタチン群が6,070人ずつ)を対象に解析を行った。 その結果、28日間での全死因死亡率はスタチン群で14.3%(870/6,070人)、非スタチン群で23.4%(1,421/6,070人)であり、スタチン投与は28日間の全死因死亡リスクの44%の低下と関連していた(ハザード比0.56、95%信頼区間0.52〜0.61、P<0.001)。また、スタチン群ではICU死亡リスク(オッズ比0.43、95%信頼区間0.37〜0.49、P<0.001)および院内死亡リスク(同0.50、0.45〜0.57、P<0.001)も有意に低かった。ただし、スタチン群では、人工呼吸器の装着期間と持続的腎機能代替療法を受ける期間が、非スタチン群よりも有意に長かった。 Li氏は、「これらの結果は、スタチンが敗血症患者に保護効果をもたらし、臨床転帰を改善する可能性があることを強く示唆している」と述べている。同氏は、本研究結果が過去の臨床試験の結果と矛盾していることを指摘し、その理由について、「これまでのランダム化比較試験では、敗血症の診断の報告不足、サンプル数の少なさ、スタチン投与と患者特性との複雑な相互作用を考慮していないことなどが原因で、敗血症患者に対するスタチンの有効性が認められなかった可能性がある」と考察している。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、本格的な臨床試験で得られるような、スタチンと敗血症による死亡リスクの低下との間の直接的な因果関係を示すことはできないとしている。Li氏は、「これらの結果は、理想的には、大規模なサンプル数の敗血症患者を対象とし、スタチンの種類、投与量、治療期間に関する詳細な情報を含めたランダム化比較試験で検証されるべきだ。また、スタチン投与の開始時期と潜在的な交絡因子について慎重に検討することも必要だ」と述べている。

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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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オピオイド使用がん患者へのナルデメジン、便秘予防にも有用~日本のRCTで評価/JCO

 オピオイドは、がん患者の疼痛管理に重要な役割を果たしているが、オピオイド誘発性便秘症を引き起こすことが多い。オピオイド誘発性便秘症に対し、ナルデメジンが有効であることが示されているが、オピオイド誘発性便秘症の予防方法は確立されていない。そこで、濵野 淳氏(筑波大学医学医療系 緩和医療学・総合診療医学 講師)らの研究グループは、ナルデメジンのオピオイド誘発性便秘症の予防効果を検討した。その結果、ナルデメジンはオピオイド誘発性便秘症に対する予防効果を示し、QOLの向上や悪心・嘔吐の予防効果もみられた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌2024年12月号に掲載された。試験デザイン:国内多施設共同二重盲検無作為化比較試験対象:初めて強オピオイドを使用するがん患者99例試験群:ナルデメジン(0.2mg、1日1回)を朝食後14日間内服(ナルデメジン群、49例)対照群:プラセボを朝食後14日間内服(プラセボ群、50例)評価項目:[主要評価項目]14日目におけるBowel Function Index(BFI)※28.8未満の患者割合[副次評価項目]自発排便(SBM)の頻度、QOL(EORTC QLQ-C15-PAL、PAC-QOL、PAC-SYM)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度など※:排便の困難さ、残便感、便秘の個人的評価について、VAS(0~100)で評価。28.8未満を便秘なしとする。 主な結果は以下のとおり。・ナルデメジン群、プラセボ群の年齢中央値はそれぞれ67.8歳、66.4歳であり、女性の割合はそれぞれ51.0%、68.0%であった。・がん種の内訳は、肝がん・胆道がん・膵がん(35例)、消化管がん(18例)、婦人科がん(10例)、乳がん(8例)、泌尿器がん(8例)、肺がん(7例)などであった。・主要評価項目の14日目におけるBFI 28.8未満の患者割合は、ナルデメジン群64.6%、プラセボ群17.0%であり、ナルデメジン群が有意に良好であった(p<0.0001)。・14日目における1週間当たりのSBM回数が3回以上の割合は、ナルデメジン群87.5%、プラセボ群53.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0002)。14日目における1週間当たりの完全自発排便回数が3回以上の割合は、それぞれ70.8%、36.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0007)。・14日目におけるQOLは、いずれの指標もナルデメジン群が有意に良好であった。・3日目までの制吐薬の使用割合は、ナルデメジン群10.6%、プラセボ群51.1%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p<0.0001)。・1~3日目の悪心・嘔吐の発現は、いずれの日においてもナルデメジン群が有意に少なかった(いずれの日もp<0.0001)。・有害事象の発現割合はナルデメジン群29.2%、プラセボ群61.7%であった。嘔吐の発現割合はナルデメジン群12.5%、プラセボ群40.4%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p=0.0072)。

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1日1回の経口orforglipron、早期2型DMのHbA1c改善/NEJM

 早期の2型糖尿病成人患者において、GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回40週間経口投与はプラセボと比較して、HbA1c値を有意に低下させた。米国・Velocity Clinical Research Center at Medical City DallasのJulio Rosenstock氏らACHIEVE-1 Trial Investigatorsが、中国、インド、日本、メキシコおよび米国で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ACHIEVE-1試験」の結果を報告した。orforglipronは、2型糖尿病および体重管理を適応症として臨床開発中の、経口投与可能な低分子非ペプチドGLP-1受容体作動薬であり、有効性と安全性に関する追加データが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年6月21日号掲載の報告。orforglipronの3用量をプラセボと比較、1日1回40週間投与 研究グループは、食事療法および運動療法のみでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病を有し、登録前3ヵ月以内に他の血糖降下薬(経口または注射)の投与を受けていない18歳以上の患者(インスリン未治療、HbA1c値7.0~9.5%、BMI値23.0以上)を、orforglipron 3mg群、12mg群、36mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回40週間投与した。 orforglipron群は、いずれも1mgより投与を開始し、4週ごとに各群の規定用量まで漸増(3mg、6mg、12mg、24mg、36mg)した。 主要エンドポイントは、40週時におけるHbA1c値のベースラインからの変化量、重要な副次エンドポイントは、40週時における体重のベースラインからの変化率とした。HbA1c値の推定平均変化量、orforglipron群は-1.48~-1.24%ポイント 2023年8月9日~2025年4月3日に559例が無作為化された(orforglipron 3mg群143例、12mg群137例、36mg群141例、プラセボ群138例)。患者背景は、平均罹病期間4.4年、平均HbA1c値8.0%、平均体重90.2kg、女性が48.1%であった。 40週時におけるHbA1c値のベースラインからの推定平均変化量は、3mg群-1.24%ポイント、12mg群-1.47%ポイント、36mg群-1.48%ポイント、プラセボ群-0.41%ポイントであり、orforglipronの3群すべてでプラセボ群よりもHbA1c値が有意に低下した。 推定平均変化量のプラセボ群との差は、3mg群-0.83%ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.10~-0.56)、12mg群-1.06%ポイント(-1.33~-0.79)、36mg群-1.07%ポイント(-1.33~-0.81)であり(すべてp<0.001)、40週時の平均HbA1c値はorforglipron群で6.5~6.7%であった。 40週時における体重のベースラインからの変化率は、3mg群-4.5%、12mg群-5.8%、36mg群-7.6%、プラセボ群-1.7%であった。 主な有害事象は軽度~中等度の胃腸障害で、そのほとんどは用量漸増中に発現した。重症低血糖は報告されなかった。投与中止に至った有害事象は、orforglipron群4.4~7.8%、プラセボ群1.4%であった。

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2型糖尿病合併慢性腎臓病におけるフィネレノン+エンパグリフロジン併用療法:アルブミン尿の著明な改善―CONFIDENCE研究は腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? CONFIDENCE研究では、2型糖尿病(T2DM)に合併する慢性腎臓病(CKD)の初期治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノンと、SGLT2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジンの併用療法が、それぞれの単独療法と比較して尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させることが示された。これまで、フィネレノンとSGLT2iの併用療法をT2DMに伴うCKDの初期段階で評価したエビデンスは限られており、この点において本研究は新規性を有する。CONFIDENCE研究の背景 T2DMに伴うCKD患者に対する腎保護療法の第1選択は、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬である。これは、2000年代に実施されたRENAAL、IDNT、MARVAL、IRMA2といった大規模臨床試験によって裏付けられている。2015年以降、SGLT2iにおいて、EMPA-REG OUTCOME、CANVASなどの試験で心血管イベントや複合腎エンドポイント(EP)の改善が相次いで報告された。SGLT2iではさらに、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYなどの試験により、非糖尿病性CKDに対しても心腎保護効果を有するエビデンスが蓄積されている。 一方、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)については、2000年ごろにRALES(スピロノラクトン)やEPHESUS(エプレレノン)により、重症心不全や心血管死に対する有用性が示されたが、これらは腎関連のハードEPについては検討されていない。その後、新世代のnsMRAであるエサキセレノンおよびフィネレノンが開発された。このうち、エサキセレノンはT2DMに伴う早期CKD患者においてUACRの低下効果が認められているが、現在の適応は高血圧症のみであり、尿蛋白陽性例やeGFRが低下した症例では原則として使用できない。これに対しフィネレノンは、FIGARO-DKD、FIDELIO-DKD、そして両試験を統合解析したFIDELITYにおいて、心血管イベントおよび複合腎EPに対する有用性が示されている。なお、nsMRAとSGLT2i併用の同様の研究は、フィネレノンとダパグリフロジン併用でも行われ、UACRの相加的減少効果として報告されている(Marup FH, et al. Clin Kidney J. 2023;17:sfad249.)。 これらのエビデンスを踏まえ、2024年のKDIGOガイドラインでは、フィネレノンはRAS阻害薬およびSGLT2iに上乗せ可能な薬剤として、T2DMに伴うCKDの早期における心・腎保護の「新たな選択肢」として推奨されている(推奨の強さ:弱い、エビデンスレベル:高い、リスクとのバランスを考慮したうえでの判断)(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。病態生理学的見地から、T2DMに合併するCKDにはミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化が心・腎障害を惹起することから、MR抑制効果の優れたnsMRAに対する理論的期待は大きい。 CONFIDENCE研究は、以上の背景を踏まえ、フィネレノンとSGLT2iの併用療法の有効性および安全性を評価することを目的として実施された。登録症例数は約800例、観察期間は180日間である。腎疾患領域の臨床研究の課題 腎疾患領域における臨床研究の報告数は、循環器系や神経系など、他の医学分野と比較してきわめて少ない(Palmer SC, et al. Am J Kidney Dis. 2011;58:335-337.)。その主な要因としては、CKDにおいて治療目標となるバイオマーカーが乏しいこと、CKDステージ早期と末期で適切な腎予後のサロゲートEPを設定する必要があること、などが挙げられている。CKDにおける「真のEP」としては、透析導入、腎関連死、腎不全などがある。一方で、サロゲートマーカーとしては、血清クレアチニン(Cr)の倍加速度、推算糸球体濾過量(eGFR)、eGFRの40%以上の低下などが用いられ、これらは複合腎EPとして適宜設定される。UACRは、容易に短期間でも観察可能なサロゲートマーカーであり、研究費の削減や実施期間の短縮に資する利便性も高い。しかしながら、サロゲートEPは本来、真のEPと強く関連していなければ優れた予後予測因子とはいえない。この点において、UACRは早期のマーカーとしては、UACR>300mg/g・Crを超える腎疾患以外は適切な腎アウトカムの予測因子とまではいえない(濱野高行. 日本腎臓学会誌. 2018;60:577-580.)。 本論文の著者の1人であるHeerspink氏は、本試験で仮に複合腎EPを評価項目とする場合は4万例以上のサンプルサイズと長期観察が必要となること、またUACRは優れたサロゲートではないものの一定の予測的価値があること、などを踏まえ、UACRを主要評価項目として採用したと述べている。CONFIDENCE研究からのメッセージと今後の方向性 CONFIDENCE研究は、「腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?」―この問いには議論が必要である。Agarwal氏はイベントリスクに対する媒介解析の結果から、フィネレノンを用いた早期介入による複合腎イベント低下の多くの部分がUACR抑制作用により媒介されていることから、アルブミン尿抑制の重要性を強調している(Agarwal R, et al. Ann Intern Med. 2023;176:1606-1616.)。また、2025年6月に開催された欧州腎臓学会においても、短期的なUACRの変化が長期的な腎保護効果と関連することに言及し、「併用療法の新時代が到来した」との論調の講演もあった(Liam Davenport. Medscape. June 5, 2025.)。 しかしながら、「フィネレノン+SGLT2iの早期導入によるUACR低下」を「長期的な腎アウトカムを改善すること」に全面的に外挿するのは無理がある。ちなみに、本研究でeGFRの初期低下(Initial drop or dip)に注目すると、14日目において併用群では−6.1mL/分/1.73m2の低下がみられた(SGLT2i単独群では−4.0mL/分/1.73m2)。この併用群におけるInitial drop後のeGFRスロープには、観察期間である180日目においては緩徐化がみられず、この点からは腎保護効果は支持されない。一方で、有害事象の観点からは、一定のメリットが示唆される。高カリウム血症の発現率は、併用群で25例(9.3%)、フィネレノン単独群で30例(11.4%)と、併用群で15~20%程度相対的に低下していた。これは、SGLT2iが高カリウム血症のリスクを抑制する可能性を示した先行研究の知見と一致しており、一定のベネフィットとして評価できる可能性がある。 今後、フィネレノンとSGLT2iの早期併用による腎保護効果の有無を明らかにするためには、長期間かつ大規模に複合腎EPを設定した追試検証が必要と思われる。

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