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最近、循環器領域の疾患では、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)や抗血小板薬を処方する傾向が顕著になっている。確かに脳卒中や心筋梗塞予防効果はあることはあるが、そのウラ側にある有害事象のことも考えてほしいというのが本研究のメッセージである。抗血栓薬処方の爆発的な増加には企業の激しい宣伝合戦も影響しているかもしれないが、ここで一歩立ち止まって考える必要がありそうだ。言うまでもないことではあるが、抗血栓薬は血栓を予防して梗塞性イベントを防ぐ一方で、大出血という重大な有害事象を発生することも、あらためて認識する必要がある。 すでに、JAMA誌(Gaist D, et al. JAMA. 2017;317:836-846.)では、抗血栓薬で明らかに硬膜下血腫リスクが増大しているというデータを示しているが、今回の本論文は血尿である。 カナダ・オンタリオ州における66歳以上の一般住民の追跡調査であるが、抗凝固薬や抗血小板薬などの抗血栓薬服用者の肉眼的血尿発現率は、123.95イベント/1,000人年であり、これは非服用者の80.17人年に比べて1.44倍高かったという。この調査での血尿は、入院と救急外来受診者に限定され、一般診療での血尿は含まれておらず、一般臨床での血尿を含めるとさらに多くなると思われる。 本研究はあくまでも一般住民での追跡調査成績であり、いくつかのlimitationはあるとしても、抗血栓薬の安易な処方傾向に一石を投じる報告である。 抗血栓薬服用者では、泌尿器科処置に伴う合併症や、入院、救急外来受診率などの頻度も、非服用者に比していずれも有意に高かった。これらは医療行為による医師の負担を増大させ、医療経済の点から言ってもマイナスの要因であろう。 抗血栓薬処方の裏では、消化管出血、血尿、硬膜下血腫などの副作用で、消化器科医師、泌尿器科医師、脳外科医師がその後始末に四苦八苦している事情も知っておくべきである。 近年では、脳卒中の急性期治療の進歩により、脳卒中死は著しく減少したが、消化管出血、硬膜下血腫などは死亡に直結する有害事象であることは、あらためて認識する必要がある。とくにDOACは効果のマーカーがないだけに、高齢者では慎重な処方が必要である。