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食道がん、食道胃接合部がんに対するニボルマブの術後補助療法(CheckMate-577)/ESMO2020

 米国・ベイラー大学のRonan J. Kelly氏は、術前補助化学放射線療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られなかった切除可能な食道がん・食道胃接合部(GEJ)がんの切除後の術後補助療法でニボルマブ投与とプラセボ投与を比較した無作為化二重盲検第III相臨床試験であるCheckMate-577試験の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO2020 Virual Congress 2020)で発表。ニボルマブによる術後補助療法は、プラセボと比較して統計学的に有意な無病生存期間(DFS)の延長を認めたと報告した。・対象:術前補助化学放射線療法でpCRが得られなかったStageII~III食道、GEJがん(PS 0~1)794例。・試験薬群:ニボルマブ240mg 2週間ごとに16週間投与後480mg 4週間ごと投与(ニボルマブ群、532例)・対照群:プラセボ(プラセボ群、262例)・評価項目:[主要評価項目]DFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、1年OS率、2年OS率、3年OS率 主な結果は以下のとおり。・DFS中央値は、ニボルマブ群が22.4ヵ月、プラセボ群が11.0ヵ月で、ニボルマブ群で有意な延長を認めた(HR:0.69、96.4%CI:0.56~0.86、p=0.0003)。・全Gradeでの治療関連有害事象(TRAE)の発現率は、ニボルマブ群が71%、プラセボ群が46%であった。Grade3/4のTRAEにおよる治療中止はニボルマブ群が13%、プラセボ群が6%であった。・ニボルマブ群での主な免疫関連有害事象は内分泌関連や消化器症状で、Grade3/4のものはいずれも発現率が1%未満だった。・EQ-5D-3LによるQOL評価でニボルマブ群はプラセボ群とほぼ同程度だった。 Kelly氏は今回の結果を受けて「対象となった患者集団の治療としては過去数年で初めての前進であり、ニボルマブによる術後補助療法は新たな標準治療として確立される可能性がある」と強調した。

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アテゾリズマブ単剤、NSCLC1次治療でOS延長(IMpower110)/NEJM

 非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療において、アテゾリズマブ単剤はプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、組織型を問わず、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の発現量が多い患者の全生存(OS)期間を延長させることが、米国・イェール大学医学大学院のRoy S. Herbst氏らが行った「IMpower110試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年10月1日号に掲載された。PD-L1発現NSCLCで転移のある患者の1次治療において、抗PD-L1モノクローナル抗体アテゾリズマブはプラチナベースの化学療法と比較して、有効性と安全性が優れるか否かは明らかにされていなかった。PD-L1発現量が多い集団のOS中間解析 研究グループは、EGFRとALKが野生型で転移のあるPD-L1陽性NSCLCにおけるアテゾリズマブの有用性を評価する国際非盲検無作為化第III相試験を実施した(F. Hoffmann-La RocheとGenentechの助成による)。今回は、PD-L1発現量が多い患者におけるOSの中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上、化学療法歴がなく、SP142による免疫組織化学法でPD-L1の発現が腫瘍細胞の1%以上または腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上に認められ、転移のある非扁平上皮または扁平上皮NSCLCで、全身状態(ECOG PS)が0または1の患者であった。 被験者は、アテゾリズマブ(1,200mg、静脈内投与)またはプラチナ製剤ベースの化学療法(4または6サイクル)を3週ごとに投与する群に1対1の割合で割り付けられた。 主要評価項目はOS期間とした。OSの評価は、EGFR変異やALK転座がない野生型の腫瘍を有する患者のintention-to-treat集団において、PD-L1の発現量別に階層的に行った。また、EGFRとALKが野生型の腫瘍を持つ集団の血液中の腫瘍遺伝子変異量に基づくサブグループで、OS期間と無増悪生存(PFS)期間を前向きに評価した。OS期間が7.1ヵ月、PFS期間が3.1ヵ月延長 2015年7月~2018年2月の期間に、日本を含む19ヵ国144施設で、無作為割り付けが行われた。572例が登録され、アテゾリズマブ群に285例、化学療法群には287例が割り付けられた。 EGFRとALKが野生型の腫瘍で、PD-L1発現量が最も多かったサブグループ(205例)では、フォローアップ期間中央値15.7ヵ月の時点におけるOS期間中央値は、アテゾリズマブ群が化学療法群よりも7.1ヵ月長かった(20.2ヵ月vs.13.1ヵ月、ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.40~0.89、p=0.01)。1年OS率は、アテゾリズマブ群が64.9%、化学療法群は50.6%だった。 EGFRとALKが野生型の腫瘍で、PD-L1発現量が最も多かったサブグループでは、PFS期間もアテゾリズマブ群で良好であった(8.1ヵ月vs.5.0ヵ月、層別HR:0.63、95%CI:0.45~0.88)。この集団における担当医判定による奏効率は、アテゾリズマブ群が38.3%、化学療法群は28.6%であり、このうちデータカットオフ日に、それぞれ68.3%および35.7%で奏効が持続していた。 血液中の腫瘍遺伝子変異量が多いサブグループ(PD-L1発現量は問わない)では、OS期間中央値はアテゾリズマブ群で良好な傾向が認められ(13.9ヵ月 vs.8.5ヵ月、非層別HR:0.75、95%CI:0.41~1.35)、PFS期間中央値はアテゾリズマブ群で優れた(6.8ヵ月vs.4.4ヵ月、0.55、0.33~0.92)。 有害事象は、アテゾリズマブ群が90.2%、化学療法群は94.7%で発現し、Grade3/4の有害事象はそれぞれ30.1%および52.5%で認められた。重篤な有害事象の発現率は、それぞれ28.3%および28.5%で、Grade5の有害事象が11例(3.8%)および11例(4.2%)にみられた。免疫関連有害事象は、それぞれ40.2%および16.7%で発現し、Grade3/4は6.6%および1.5%であった。 著者は、「アテゾリズマブ単剤の安全性プロファイルは、以前の研究で観察されたものと一致していた。転移のあるNSCLC患者におけるがん免疫療法への治療応答性を検出するバイオマーカーとしての腫瘍遺伝子変異量(血液、組織)の役割は不明である」としている。

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進行乳がんにおける内分泌療法+BVへの切り替え、患者報告アウトカムの結果(JBCRG-M04)/ESMO2020

 進行・再発乳がんに対する標準的化学療法は、病勢進行まで同レジメンを継続することだが、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)や倦怠感などの用量依存的な影響が問題になる場合がある。今回、エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性進行・再発乳がん患者に対して、1次化学療法のパクリタキセル(wPTX)+ベバシズマブ(BV)療法から、内分泌療法(ET)+BVの維持療法に切り替えた場合の患者報告アウトカム(PRO)について、化学療法継続と比較したところ、身体的健康状態(PWB)と倦怠感を有意に改善し、重度のCIPNを防いだことが示された。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、福島県立医科大学の佐治 重衡氏が報告した。 本試験は、わが国における多施設共同非盲検無作為化比較第II相試験のJBCRG-M04(BOOSTER)試験。主要評価項目である無作為化から治療戦略遂行不能までの期間(time to failure of strategy:TFS)については、wPTX+BV群8.87ヵ月、ET+BV群16.82ヵ月で有意に延長した(ハザード比:0.51、95%信頼区間:0.34~0.75、p<0.001)ことを、2019年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)で同氏が報告している。・対象:ER陽性HER2陰性進行・再発乳がん患者に対して、1次化学療法としてwPTX+BV療法を4~6サイクル施行後、SD以上の効果が認められた患者・介入群:wPTXを休薬しET+BVに置き換え、規定イベント後にwPTX+BVを再導入する群(ET+BV群)・対照群:wPTX+BV継続治療群(wPTX+BV群)・評価項目[主要評価項目]TFS[副次評価項目]全生存期間、無増悪生存期間、安全性、PROなど※PROの評価は、無作為化時および無作為化後2ヵ月、4ヵ月、1年、2年に、FACT-B、EQ-5D、患者用末梢神経障害質問票(PNQ)、HADS、cancer fatigue scale(CFS)を使用 主な結果は以下のとおり。・1次化学療法が奏効した125例について、wPTX+BV群63例、ET+BV群62例に割り付けた。 ・mixed-effect models for repeated measures(MMRM)を用いた解析では、FACT-Bのtrial outcome indexに有意差が認められ(p=0.004)、PWBの平均変化は2ヵ月後(p=0.015)および4ヵ月後(p=0.028)に、ET+BV群がPTX+BV群より有意に優れていた。・CIPNについては、1年後における重度の運動神経障害の割合がET+BV群でwPTX+BV群よりも低かった(5.1% vs. 26.1%、p=0.017)。・CFSでも有意差が認められ(p=0.048)、そのうち精神的倦怠感のスコアの平均変化は、2ヵ月後(p=0.006)および4ヵ月後(p=0.010)でET+BV群がwPTX+BV群より有意に優れていた。 佐治氏は、「化学療法継続で蓄積毒性が懸念される症例において、ET+BVの維持療法は健康関連QOLの点で1つの選択肢となるだろう」と結論した。

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アンチエイジングのためのHealthy Statement作成が始動/日本抗加齢医学会

 近年、EBM普及推進事業Mindsの掲げるガイドライン作成マニュアルが普及したこともあり、各学会でガイドラインの改訂が活発化している。さまざまな専門分野の医師が集結する抗加齢医学においても同様であるが、病気を防ぐための未病段階の研究が多いこの分野において、ガイドライン作成は非常にハードルが高い。Healthy Statement-ガイドライン作成の第一歩 そこで、日本抗加齢医学会は第20回総会を迎える節目の今年、ワーキング・グループを設立し、今後のガイドライン作成、臨床への活用を目的にコンセンサス・レポートとしてHealthy Statement(以下、ステートメント)の作成を始めた。ステートメントの現況は、9月25日(金)~27日(日)に開催された第20回日本抗加齢医学会の会長特別プログラム1「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」にて報告された。 ステートメントは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)が検討されており、今回、新村 健氏(兵庫医科大学内科学総合診療科)、宮本 健史氏(熊本大学整形外科学講座)、阿部 康ニ氏(岡山大学脳神経内科学)、堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学/日本抗加齢医学会理事長)らが、各部門の作成状況を発表した。各分野、抗加齢に特化したデータ抽出進む 『食事・カロリー制限とアンチエイジング』について講演した新村氏は、「抗加齢医学の領域において、食事療法・カロリー制限に関するエビデンスは十分と言えず、ガイドライン・診療の手引きを作成するだけの材料が揃っていないのが現状」とし、「食事療法の選択としては日本人での実行性と重要性を重視し、健常者または重篤な疾患を持たない者を対象者に想定している」と述べた。さらに今後の方針として「1つの食事療法に対して、複数のアウトカムから評価し、アンチエイジング医学の多様性を意識する」と話した。 『運動・エクササイズとアンチエイジング』については宮本氏がコメント。「運動介入と高齢者の骨密度、認知症や寿命延伸に関するデータをまとめ、CQを作成した。とくに運動介入は高齢者の骨密度の軽度の増加、認知症予防に強く推奨される。また要介護化の予防に中等度、寿命・健康寿命の延伸には弱く推奨される」など話した。 『サプリメント・機能性表示WGからの報告』について阿部氏が講演。「本ワーキング・グループは感覚器、歯科、循環器、消化器/免疫、皮膚科、脳神経の6領域において活動を行っている。サプリメントは分類上では機能性表示食品に該当するが、医薬品のように観察研究や介入研究が多くデータが豊富に揃っていた。評価文、根拠文献、評価上の要点、エビデンスグレードの各案が出揃い、完成近い品目もある」と解説した。このほか、アルツハイマー病治療において、アミロイドβの根本治療が全滅している現在、サプリメント活用のメリットにも言及した。 『テストステロン(男性ホルモン)』については堀江氏が既存のエビデンスとして、テストステロン低値の人の早逝、内蔵脂肪との関連、そのほか低テストステロンが惹起する身体機能の低下や合併症について説明。「テストステロンはメタボリックシンドローム、耐糖能異常、うつ病、フレイルなどの疾患との関連において十分なエビデンスが存在する。これらのデータを踏まえ、テストステロンは未病のための明日の健康指標になる。さらには、社会参画や運動量など人生のハツラツ度に影響するホルモンであることから、今日の健康指標にもつながる」とし、「今後、性ホルモン分野としてエストロゲン、テストステロンの両方について報告していく」と締めくくった。抗加齢医学の目標、ステートメント完成は2021年を目処 講演後、大会長の南野氏は「抗加齢医学は集団も然り、研究疾患もヘテロである。このヘテロジェナイティを認識したうえで、足りないエビデンスをわれわれで補うことが最終目標である」と述べた。これに堀江氏は「われわれは疾患ではなく、疾患に至る前段階を捉えて研究を行っている。診療ガイドラインの疾患アウトカムと異なるエビデンスが必要であり、それゆえ研究対象も従来の研究とは異なる。たとえば、高齢者の認知機能ではなく40歳くらいの若年者の機能探索がその1つである」と補足し、今後の抗加齢医学会の進むべき道について強調した。Healthy Statementは来年6月頃までにまとめられ、2021年の本学術集会にて発表される予定である。 なお、本講演は10月8日(木)~21日(水)の期間限定でケアネットYouTubeにて配信している。

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COVID-19パンデミックによる米国うつ病有病率

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと感染症防止のための政策は、抑うつ症状に対する未知の影響を伴い、全米に拡大した。米国・ボストン大学のCatherine K. Ettman氏らは、米国成人におけるCOVID-19パンデミックによるの抑うつ症状の有症率とリスク因子を推定するため、検討を行った。JAMA Network Open誌2020年9月1日号の報告。 本研究は、18歳以上の米国成人を対象とした2つの人口ベースの調査を用いた、米国国民生活調査として実施した。COVID-19と生活ストレスによるメンタルヘルスやウェルビーイングへの影響に関する研究より、COVID-19パンデミック期間の推定値を算出した。調査期間は、2020年3月31日~4月13日とした。COVID-19パンデミック前の推定値は、2017~18年に実施した国民健康栄養調査のデータより抽出した。データの分析は、2020年4月15日~20日に実施した。COVID-19パンデミックおよびそれを軽減するための政策に関連するアウトカムへの影響を調査した。主要アウトカムは、抑うつ症状(こころとからだの質問票[PHQ-9]カットオフ値10以上)とした。抑うつ症状の重症度分類は、なし(スコア:0~4)、軽度(スコア:5~9)、中等度(スコア:10~14)、中等度から重度(スコア:15~19)、重度(スコア:20以上)とした。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19パンデミック中に調査を完了した参加者は1,470人(完了率:64.3%)であった。データが不十分な参加者のデータは削除し、最終的に1,441人のデータを分析した(18~39歳:619人[43.0%]、男性:723人[50.2%]、非ヒスパニック系白人:933人[64.7%])。・パンデミック前のデータとして、5,065人分のデータが使用された(18~39歳:1,704人[37.8%]、女性:2,588人[51.4%]、非ヒスパニック系白人:1,790人[62.9%])。・抑うつ症状の有病率は、いずれの重症度においてもCOVID-19パンデミック中のほうがパンデミック前よりも高かった。 ●軽度:24.6%(95%CI:21.8~27.7) vs.16.2%(95%CI:15.1~17.4) ●中等度:14.8%(95%CI:12.6~17.4) vs.5.7%(95%CI:4.8~6.9) ●中等度から重度:7.9%(95%CI:6.3~9.8) vs.2.1%(95%CI:1.6~2.8) ●重度:5.1%(95%CI:3.8~6.9) vs.0.7%(95%CI:0.5~0.9)・COVID-19パンデミック中に、抑うつ症状リスクの高さと関連していた因子は以下のとおりであった。 ●収入の少なさ(オッズ比:2.37、95%CI:1.26~4.43) ●収入と支出の差額が5,000ドル未満(オッズ比:1.52、95%CI:1.02~2.26) ●ストレス要因の多さ(オッズ比:3.05、95%CI:1.95~4.77) 著者らは「米国におけるCOVID-19パンデミック中の抑うつ症状有病率は、パンデミック前と比較し、3倍以上高いことが示唆された。社会的資源や経済的資源が少なく、失業などのストレス要因が、抑うつ症状の発症に影響を及ぼしている。COVID-19パンデミック後においては、今後精神疾患の発症が増加する可能性があり、とくに高リスク集団では、注意が必要である」としている。

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メタボ健診の特定保健指導に心血管リスク低減効果なし

 京都大学の福間 真悟氏らの疫学研究により、わが国の特定健康診査(メタボ健診)を受けた勤労世代の男性において、特定保健指導によって体重は1年後にわずかに減少したが、血圧、HbA1c、LDLコレステロールなどの心血管リスク因子改善が認められなかったという結果が発表された。著者らは「特定健康診査の費用が高額(年間約160億円)であることを考慮し、そのシステムを再評価する必要がある」としている。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2020年10月5日号掲載の報告。特定保健指導を受けた人に血圧などの心血管リスクの軽減効果なし 著者らは、2013年に健診後、1年以上追跡できた40~74歳の男性約7万4,693人を1~4年間追跡した。腹囲85cm以上、高血圧、糖尿病などの心血管リスク因子を1つ以上有している人では、特定保健指導を受けることが必要とされていた。統計方法は、回帰不連続デザイン(regression discontinuity design:RDD)で実施された。RDDとは、ある連続変数(ここでは腹囲)の値が特定の値より高いか低いかで介入群(ここでは特定保健指導)に割り付けることにより、介入の効果を推定する方法である。本研究では、腹囲85cm以上か否かで分け、特定保健指導の効果におけるその後の腹囲、体重、BMIへの影響のほか、血圧、血糖値(HbA1c)やLDLコレステロールへの影響についても検討した。特定保健指導の内容は、トレーニングを受けた指導員による運動・食事の指導で、必要に応じて医療機関受診などの指導を受けることになっていた。なお、介入群と非介入群についてintention-to-treat解析を行ったが、実際に指導を受けた人は介入群の15.9%にすぎず、指導を受けた人についてtreatment-on-the treated(ToT)解析により検討した。 メタボ検診後の特定保健指導の効果を検証した主な結果は以下のとおり。・対象者の平均年齢は52.1歳、ベースラインでの平均腹囲は86.3cm(腹囲が閾値の-6~0cmの群では82.2cm、0~6cmの群では87.7cm)であった。・腹囲が閾値(85cm)より大きく特定保健指導を受ける群において、腹囲は1年後に-0.34 cm(p=0.02)、体重-0.29kg(p=0.005)、BMIは-0.10(p=0.008)とわずかではあるが減少した。しかし3、4年後には、有意差は消失し効果がみられなかった。・心血管リスクに関して、収縮期血圧、拡張期血圧、HbA1c、LDLコレステロールのいずれも1~4年間で改善が認められなかった。・実際に特定保健指導を受けた人のみで検討したToT解析では、1年後に体重は-1.56kg(p=0.02)、BMIは-0.61(p=0.01)と、いずれもわずかな減少がみられたが、血圧などの心血管リスクの軽減はみられなかった。専門家はこう見る:CLEAR!ジャーナル四天王メタボ健診の保健指導に心血管リスク低減効果なし~見直しが必要(解説:桑島 巖 氏)-1296 コメンテーター :桑島 巖( くわじま いわお ) 氏東京都健康長寿医療センター顧問J-CLEAR理事長

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COVID-19、ECMO導入患者の院内死亡率は?/Lancet

 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、装着から90日後の推定死亡率、および入院中の患者を除く最終的に死亡または退院となった患者の死亡率はいずれも40%未満であり、これは世界の多施設のデータであることから、COVID-19患者で一般化が可能な推定値と考えられることが、米国・ミシガン大学のRyan P. Barbaro氏らExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)の検討で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年9月25日号に掲載された。いくつかの大規模な医療組織では、COVID-19関連の急性低酸素性呼吸不全患者に対してECMOによる補助が推奨されている。一方、COVID-19患者でのECMO使用に関する初期の報告では、きわめて高い死亡率が示されているが、COVID-19患者におけるECMO使用に関する大規模な国際的コホート研究は行われていなかった。36ヵ国213施設のECMO導入患者を解析 研究グループは、ELSOレジストリのデータを用いて、2020年1月16日~5月1日の期間に36ヵ国213施設でECMOが導入された年齢16歳以上のCOVID-19確定例の疫学、入院経過、アウトカムの特徴を解析した(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19の診断は、臨床検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の存在が確認された場合と定義された。フォローアップのデータは、2020年8月3日まで更新された。 主要アウトカムは、ECMO開始から90日の時点でのtime-to-event解析による院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者因子と病院因子が院内死亡率と関連するかを評価した。ECMO導入から90日の院内死亡率は37.4% ECMOを導入されたCOVID-19患者1,035例のデータが解析に含まれた。年齢中央値は49歳(IQR:41~57)、BMI中央値は31(IQR:27~37)で、74%が男性であった。 724例(70%)がECMO導入前に1つ以上の併存疾患を有し、819例(79%)が急性呼吸促迫症候群(ARDS)、301例(29%)が急性腎障害、50例(5%)が急性心不全、22例(2%)が心筋炎を有していた。 1,035例のうち、67例(6%)が入院を継続しており、311例(30%)が退院して自宅または急性期リハビリテーション施設へ、101例(10%)が長期急性期治療(long-term acute care)施設または詳細不明の場所へ、176例(17%)が他院へ移り、380例(37%)が院内で死亡した。 ECMO導入から90日の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%信頼区間[CI]:34.4~40.4)であった。また、入院中の67例を除く、最終的に院内死亡または退院した968例の死亡率は39%(380例)だった。 一時的な循環補助(静脈-動脈ECMO)の使用は、院内死亡率の上昇と独立の関連が認められた(ハザード比[HR]:1.89、95%CI:1.20~2.97)。また、呼吸補助(静脈-静脈ECMO)を受け、ARDSと診断された患者の90日院内死亡率は38.0%であった。 著者は、「世界の200ヵ所以上の施設でECMOを導入されたCOVID-19患者の検討により、ECMO導入患者における一般化可能な推定死亡率がもたらされた。これらの知見は、難治性のCOVID-19関連呼吸不全患者では、経験豊かな施設においてはECMOの使用を考慮すべきとの、これまでの推奨を支持するものである」としている。

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Dr.飯村の英語の発音が劇的に変わるトレーニング

第1回 日本人のカタカナ英語はこんなにヤバイ!?第2回 LとRともう1つの「ラ行」第3回 BとVの違いは口の形にあらず第4回 母音はshortとlongの2つずつ覚えればOK第5回 「あ」の発音は3つにしちゃってOK第6回 多くの日本人が読めない「it」第7回 carsとcardsを区別できているか?第8回 「ん」の発音でぐっとネイティブっぽくなる第9回 poolとpull 2つの「う」をマスターする第10回 ネイティブスピードで喋るためのテクニック 学会や症例カンファレンスで必要と感じながら、なかなか習得することができない英会話。なかでも日本人に足りないとされるのは「英語で喋る力」です。もしかして英語が喋れないのは発音に自信がないからではないですか?英語の発音をきちんと理解すると自信を持って話せるだけでなく、驚くほどリスニング力も上達します。Dr.飯村が考案したこの特別なメソッドで、ネイティブのように聞こえる発音をマスターしましょう!第1回 日本人のカタカナ英語はこんなにヤバイ!?「発音記号がわからないから」「外国人っぽく喋るのは恥ずかしいから」と言って、あえて平坦なカタカナ英語を喋っていませんか?第1回では日本人にありがちなカタカナ英語が外国人に一体どのくらい伝わっているのかというヤバイ実情を解説します。この番組をきっかけにネイティブ発音をマスターしましょう!第2回 LとRともう1つの「ラ行」LとRの発音が一発で分かる、目からウロコのトレーニング法をお教えします。あなたが今使っている「L」はネイティブには「T」や「D」に聞こえているかもしれない!?そんなLの発音が今すぐできるようになる秘密の裏技も収録!練習セクションは声に出して繰り返しご覧ください。第3回 BとVの違いは口の形にあらず今回はBとVの発音の違いについて解説します。Bは日本語のバ行、Vは下唇を噛んで発音すればいいと思っていませんか?実は2つの発音の最も重要なポイントは破裂音と摩擦音という違いなんです。この違いを意識すれば、患者さんの「vein(血管)」が「bane(苦しみ)」に間違われるなんてこともなくなります。ぜひ繰り返し再生して練習してください。第4回 母音はshortとlongの2つずつ覚えればOK英語の母音にはshort vowelsとlong vowelsというまったく違う2つの読み方があります。いわゆる短母音と長母音。漢字1つの音読みと訓読みを間違えるだけで文章の意味がわからなくなってしまうのと同様に、この母音1つの読み方が違うだけで、アメリカ人はあなたの英語を聞き取ることができません。番組では「aorta」「edema」など、読み方を間違えやすい臨床英単語をご紹介します。第5回 「あ」の発音は3つにしちゃってOK英語には、「あ」に聞こえる発音記号は6つもあります。「お」っぽい「あ」、口をまるめた「あ」、曖昧な「あ」...そんなに言い分けるのは無理という人は、実はこの3つを覚えてしまえばOKという方法があります。アメリカでも若い世代を中心に発音の省略が行われており「Cot-Caught Merger」と「Short A Tensing」と呼ばれている現象です。後半ではAR、ORの音の違いを学び、発音のトレーニングをします。第6回 多くの日本人が読めない「it」itとeatの発音の違いは「イット」と「イート」という音の長さではなかった!?「い」でも「え」でもないShort Iの音は難しく感じられますが、実は私たちの生活の中にも存在する、誰でも発音できる音なのです。Short Iの発音を覚えて正確なitの発音をマスターしましょう!第7回 carsとcardsを区別できているか?今回は英語における四つ仮名「じ・ぢ・ず・づ」について解説。日本語で喋るときに四つ仮名を意識することはあまりありませんが、英語ではこれら4つの発音を間違えると意味が通じません。たとえばcarsとcardsはどう言い分ければいいでしょうか。実はその違いは明確で、練習すれば誰でも習得できる音なんです。聞けば納得、たった13分でわかる簡単な発音のコツをお教えします!第8回 「ん」の発音でぐっとネイティブっぽくなる今回は「ん」の発音について解説します。英語の”ん”はN、M、NGの3種類。実は日本語の”ん”の方がバリエーションが多いので、この3つをしっかり区別して発音しないと伝わらないことがあります。またNの周りでは様々な発音の変化が起こります。suscreenはなぜサンツクリーンと読むのか、mentalのtは読んではいけないなど、ぐっとネイティブに近づく発音のコツを教えます!第9回 poolとpull 2つの「う」をマスターするpoolとpullは「プール」と「プル」ではない!第6回で解説した“itとeat”と同様に英語は音の長さで単語を区別することはありません。いわゆる「う」のlong OOと、「うとおの間」のshort OOの発音の違いをわかりやすく解説します。また、英語にはろうそくを吹き消すような「ふ」という音も存在しません。ネイティブに伝わる「う」と「ふ」をマスターしましょう!第10回 ネイティブスピードで喋るためのテクニック最終回の目標はネイティブのような速いスピードで英語を話すこと。滑らかに喋るための発音の変化、単語の削り方のルールをお伝えします。書いてあるのにどうしても聞こえない文字ってありますよね。それ、聞こえないんじゃなくて言ってないんです!ラストには英文の症例サマリーもあるので、これまでに勉強した発音のコツを復習しながら、ぜひシャドーイングに挑戦してください!

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高齢者に特化した必読救急良書【Dr.倉原の“俺の本棚”】第35回

【第35回】高齢者に特化した必読救急良書最近、救急搬送される高齢者が増えています。いや、というよりも、そもそも未曽有の高齢化社会なので、こればかりは仕方がない。小児科と産科以外の診療科では、必然的に高齢者が増えているのです。「高齢者診療の基本はDNARをとること」なんていう考え方を目にしたことがありますが、アレはいけない。20歳の若者と90歳の高齢者では、確かに救命スイッチの入り方は違うでしょう。しかし、助けられる命は助けたいと思うのが救急診療の本質。また、よくわからないので、頭からつま先まで全身CTを撮影して、異常があったら専門家をコールなんて、ちょっとダサいかもしれません。どこからがイケているのかは、結局主観なのでしょうが……。『高齢者ERレジデントマニュアル』増井 伸高/著. 医学書院. 2020年若手医師が敬遠するのは、高齢者救急が極めて複雑だからです。かといって、偽陽性と偽陰性がテンコモリでセオリーを無視している別の生き物というほどでもありません。研修医時代、「断らない救急」で当直をしていたとき、夜中にホームレスのおじいちゃんが運ばれてきました。酒臭いし、ただ酔っぱらっているだけじゃないかと思っていたら、39.1℃の発熱。研修医の十八番である、jolt accentuationやCVA tendernessをみましたが、おじいちゃんの反応がフニャフニャしていてよくわからない。熱源不明の場合、今ではコロナか!と騒がれる症例だと思いますが、身体所見だけで熱源を絞り込んだ指導医がいました。膝関節が熱感を持っていて、関節腔穿刺とGram染色で化膿性関節炎と診断したのです。こんな極端な神的ファインプレーはともかくとして、高齢者こそ基本的診察が大事なのだと痛感しました。実際に、この本には非高齢者成人ERと一線を画した対応として、身体所見を繰り返しとることで鑑別疾患を絞り込む作業の重要性が書かれています。この本で必読なのは、PART1とPART3です。高齢者特有の問題であるせん妄について、そして社会問題化しつつあるポリファーマシーや生活環境への介入など、痒いところに手が届くコラムが多いのが特徴です。とくに、入院したはいいけど、社会背景はどうなんだろう、というのは入院主治医だけでなく救急担当医にも把握してもらいたいところです。高齢者を診るということは、その人の生活を診るということ。私たち医療従事者が忘れてはいけないことです。『高齢者ERレジデントマニュアル』増井 伸高 /著出版社名医学書院定価本体3,600円+税サイズB6変刊行年2020年

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ESMO2020レポート 消化器がん(上部下部消化管)

レポーター紹介本年度の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)は、昨今の新型コロナウイルス感染症の社会情勢を鑑み、完全バーチャル化して2020年9月19日~21日まで開催された。消化管がん領域における注目演題についてレポートする。CheckMate-649試験本邦の実臨床が大きく変わるであろう臨床試験結果の演題として、未治療のHER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法の化学療法に対する優越性が検証されたCheckMate-649試験を報告する。HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんでは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を行うことが標準治療として位置付けられている。また、本邦では後方ラインの治療としてすでにニボルマブが実地臨床でも使用されている。そこで、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんを対象に化学療法群(カペシタビン+オキサリプラチン併用療法または、FOLFOX療法)に対して、化学療法+ニボルマブ併用療法群、またはイピリムマブ+ニボルマブ併用療法群のそれぞれの優越性を検証したCheckMate-649試験が行われた。今回のESMOでの報告では、化学療法+ニボルマブ併用療法群および、化学療法群を比較した結果が公表された。主要評価項目は化学療法+ニボルマブ併用療法群の化学療法群に対する、CPS5以上のPD-L1陽性例でのOSとPFSだった。副次評価項目は、CPS1以上のPD-L1陽性例でのOS、ランダム化された症例でのOSなどであった。ランダム化1,581例のうちCPS5以上のPD-L1陽性例は955例(60%)であった。両群の患者背景に差はなかった。アジア人は化学療法+ニボルマブ併用療法群が25%、化学療法群が24%、MSSは化学療法+ニボルマブ併用療法群が89%、化学療法群が88%であった。後治療移行割合は、全体で39%、化学療法+ニボルマブ併用療法群で38%、化学療法群で41%であった。後治療として免疫療法を受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が2%、化学療法群が8%であった。主要評価項目であるCPS5以上のPD-L1陽性例におけるOS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で14.4ヵ月(95%CI:13.1~16.2)、化学療法群で11.1ヵ月(95%CI:10.0~12.1)、HR 0.71(98.4%CI:0.59~0.86)、p<0.0001と化学療法+ニボルマブ併用療法群が有意に良好であった。CPS1以上のPD-L1陽性例においても同様に、化学療法+ニボルマブ併用療法群で化学療法群よりもOSが良好であった。さらに、全ランダム化症例におけるOS中央値も、化学療法+ニボルマブ併用療法群が化学療法群よりも有意に良好であった(OS中央値:13.8ヵ月vs.11.6ヵ月、HR:0.80、p=0.0002)。CPS5以上のPD-L1陽性例の奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で60%、化学療法群で45%と、化学療法群+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。完全奏効は化学療法+ニボルマブ併用療法群で12%、化学療法群で7%に認められた。化学療法+ニボルマブ併用療法群で安全性に関する新たな情報はなかった。以上の結果から、演者らは、HER2陰性進行胃・食道胃接合部がん・食道腺がんにおける化学療法+ニボルマブ併用療法は標準治療の1つと考えられると結論付けた。ATTRACTION-4試験現在、本邦では胃がん領域において免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが実地臨床で用いられている。本試験は、HER2陰性の切除不能進行再発胃がん/食道胃接合部がんにおける1次化学療法として、化学療法+ニボルマブ併用療法と化学療法をHead-to-Headで比較した第III相試験として日本・韓国・台湾で実施された。主要評価項目は、PFSとOSに設定され、副次評価項目は奏効割合、安全性などであった。統計学的に、最終解析においてPFS、OSでそれぞれ両側α=0.01、0.04として設定された。化学療法(SOXまたはCapOX)+ニボルマブ併用療法、化学療法にそれぞれ1:1に割り付けられた。2017年3月から2018年5月までに724例が登録され、化学療法+ニボルマブ併用療法群に362例、化学療法群に362例が割り付けられた。患者背景に両群で差は認めなかった。後治療移行割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で64%、化学療法群で68%であった。後治療としてニボルマブあるいはペムブロリズマブを受けたのは、化学療法+ニボルマブ併用療法群が10%、1%、化学療法群が25%、2%であった。主要評価項目であるPFS中央値は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で10.45ヵ月(95%CI:8.44~14.75)、化学療法群で8.34ヵ月(95%CI:6.97~9.40)、HR 0.68(98.51%CI:0.51~0.90)、p=0.0007と有意に化学療法+ニボルマブ併用療法群で良好な成績であった。OSについては、OS中央値が化学療法+ニボルマブ併用療法群で17.45ヵ月(95%CI:15.67~20.83)、化学療法群で17.15ヵ月(95%CI:15.18~19.65)、HR 0.90(95%CI:0.75~1.08)、p=0.257と統計学的有意差は示せない結果となった。カプランマイヤー曲線をみると、全体としてわずかに化学療法+ニボルマブ併用療法群が上回っていた。奏効割合は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で57.5%、化学療法群で47.8%と化学療法+ニボルマブ併用療法群で有意に高かった(p=0.0088)。完全奏効は、化学療法+ニボルマブ併用療法群で19.3%、化学療法群で13.3%であった。安全性に関しては、化学療法+ニボルマブ併用療法群で新たな情報はなかった。CheckMate-649試験の結果を受けて、日本の実地臨床でも近い将来、初回化学療法から免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となっていくものと考えられる。しかしながら、これまで進行胃がんの1次治療における化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法の有用性を検証した臨床試験として、KEYNOTE-062試験、CheckMate-649試験、ATTRACTION-04試験の3つの大規模試験が示されているが、全体集団のOSにおいて、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示したのはCheckMate-649試験のみとなっている。なぜこのような結果となったのか。異なる臨床試験間の比較をすることは御法度だが、ATTRACTION-04試験はアジアで行われた試験であること(標準治療群のOSが17ヵ月というのは驚異的な成績である)、後治療の移行割合(免疫チェックポイント阻害薬を含む)の違い、併用backboneレジメンの違い、CPSの評価方法の違い、あるいは胃がん特有のheterogeneityなのか、検討すべき点は多々あると思われる。昨今は胃がんにおいても次々と新規薬剤が承認される時代に突入したが、予後不良の胃がん患者において実際に「薬の使い切り」を行える症例は少ないのが現状である。より効果の高い治療をより効果の高い患者へ最適に届けることが今後の課題といえよう。KEYNOTE-590試験進行食道がんの初回化学療法は、フルオロピリミジン+プラチナ系薬剤併用(FP)療法が標準治療として用いられている。ペムブロリズマブ単独療法は、KEYNOTE-181試験において、CPS10以上のPD-L1陽性の既治療食道扁平上皮がん症例で化学療法との比較が行われ、奏効割合22% vs.7%、OS中央値10.3ヵ月 vs.6.7ヵ月と報告されている。本試験は、腺がんを含む進行食道がんの初回化学療法における化学療法+ペムブロリズマブ併用療法の化学療法に対する優越性を検証した、無作為化二重盲検第III相試験である。治療は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群は5-FU+CDDP+ペムブロリズマブを3週ごと、化学療法+プラセボ群は5-FU+CDDP+プラセボを3週ごとに投与された。主要評価項目は、OS(扁平上皮がん患者、扁平上皮がんかつCPS10以上のPD-L1陽性、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)とPFS(扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性、全登録患者)であった。副次評価項目は、奏効割合、安全性などであった。2017年7月から2019年6月までに749例が登録され、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群に373例、化学療法+プラセボ群に376例が無作為に割り付けられた。患者背景に両群で差はなかった。アジア人は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が53%、化学療法+プラセボ群が52%、扁平上皮がんは化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が74%、化学療法+プラセボ群が73%、CPS10以上のPD-L1陽性例は化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が50%、化学療法+プラセボ群が52%であった。 扁平上皮がん患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.8ヵ月(95%CI:10.2~14.3)、化学療法+プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.6~11.1)、HR 0.72(95%CI:0.60~0.88)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。CPS10以上のPD-L1陽性患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が13.5ヵ月(95%CI:11.1~15.6)、化学療法+プラセボ群が9.4ヵ月(95%CI:8.0~10.7)、HR 0.62(95%CI:0.49~0.78)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。全登録患者におけるOS中央値は、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が12.4ヵ月(95%CI:10.5~14.0)、プラセボ群が9.8ヵ月(95%CI:8.8~10.8)で、HR 0.73(95%CI:0.62~0.86)、p<0.0001と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に良好だった。PFS中央値も、扁平上皮がん患者、CPS10以上のPD-L1陽性患者、全登録患者において、それぞれで化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が化学療法+プラセボ群と比較して有意に良好であった。奏効割合は、全登録患者において、化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群が45.0%、化学療法+プラセボ群が29.3%と化学療法+ペムブロリズマブ併用療法群で有意に高かった(p<0.0001)。安全性に関しては新たな問題は認められなかった。以上の結果から、演者らは食道胃接合部腺がんを含む進行食道がんに対する初回化学療法として、化学療法とペムブロリズマブ併用療法を第1選択に考慮すべきと結論付けている。今回の試験の結果をもって、本邦でも進行食道がんの初回化学療法として免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が標準治療となるだろう。本邦で最も頻度の高い組織型である食道扁平上皮がんに対する初回化学療法として、FP療法、FP+ニボルマブ併用療法、イピリムマブ+ニボルマブ併用療法を比較するCheckMate648試験の結果も今後報告されてくる。また、最近では、FOLFOX療法が食道がんに対して実施が認められており、オキサリプラチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法なども開発が進んでいくものと思われる。現在はまさに食道がん化学療法の転換期に当たるといわれ、今後の展開に期待したい。

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METexon14スキッピング変異、MET増幅肺がんに対するカプマチニブの効果/NEJM

 非小細胞肺がん(NSCLC)では、3~4%の患者にMET遺伝子exon14スキッピング変異が、また1~6%の患者にMET増幅が認められる。ドイツ・ケルン大学のJurgen Wolf氏らGEOMETRY mono-1 Investigatorsは、さまざまなタイプのMET活性がんモデルにおいて作用が認められたカプマチニブについて、METexon14スキッピング変異が認められる進行NSCLC患者を対象とした第II相試験を行い、持続的な抗腫瘍効果が、とくに未治療の患者において示されたことを明らかにした。また、MET増幅進行NSCLCにおける有効性は、腫瘍細胞の遺伝子コピー数が少ない患者よりも多い患者で高かったこと、主な副作用は軽度の末梢浮腫および悪心であったことも示された。NEJM誌2020年9月3日号掲載の報告。 MET増幅進行NSCLC患者におけるカプマチニブの評価は、複数コホート試験にて行われた。 患者は、既治療ラインとMETステータス(MET遺伝子exon14スキッピング変異またはMET増幅)に基づくコホートに割り付けられ、カプマチニブ400mg×2/日を投与された。 主要評価項目は、全奏効率であった。主な副次評価項目は、奏効期間とした。両評価項目は独立審査委員会で評価された。 主な結果は以下のとおり。・合計364例が、コホートに割り付けられた。・MET遺伝子exon14スキッピング変異NSCLC患者において、全奏効率は、1次または2次治療既往の患者(69例)では41%、未治療患者(28例)では68%であった。・奏効期間中央値は、1次または2次治療既往患者群9.7ヵ月、未治療患者群12.6ヵ月であった。・遺伝子コピー数10未満のMET増幅既治療患者における有効性は、限定的であった(全奏効率7~12%)。・遺伝子コピー数10以上のMET増幅患者では、奏効率は既治療群で29%であったが、未治療群は40%であった。・最も頻度の高かった副作用は、末梢浮腫(51%)、悪心(45%)であったが、大半がGrade1/2であった。

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化学療法+アテゾリズマブの1次治療で長期生存した小細胞肺がんの特徴(IMpower133)/ESMO2020

 IMpower133では、進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)の1次治療において、カルボプラチン+エトポシドへのアテゾリズマブの追加は、長期追跡でも持続した全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の改善を示している。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)では、IMpower133の長期生存者(LTS、無作為化後18ヵ月以上生存)の探索的分析を米国・Lombardi包括的がんセンターのS. V. Liu氏が報告した。・対象:全身治療未実施のES-SCLC患者(無症状の既治療CNS病変を有する患者は許容)・試験群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド、21日ごと4サイクル(atezo+CE群、201例)・対照群:プラセボ+カルボプラチン+エトポシド、21日ごと4サイクル(CE群、202例)・評価項目:治験医師評価による無増悪生存期間(PFS)およびOS 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2019年1月24日)の追跡期間中央値は22.9ヵ月であった。・OS中央値は、atezo+CE群51.9ヵ月に対しCE群10.3ヵ月と、atezo+CE群の有意な改善は持続していた(HR:0.76、95%CI:0.60~0.95、p=0.00154)。・373例(182例、191例)が今回の探索的研究の対象となった。・LTS患者の割合は、atezo+CE群33.5%(61/182例)、 CE群20.4%(39/191例)と、atezo+CE群で多かった。・年齢、性別、PS、転移巣の数、腫瘍最長径和などのベースライン状況を問わず、atezo+CE群でLTS患者が多かった。・血漿腫瘍遺伝子変異量、PD-L1発現量とLTSとの関連は見られなかった。

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1日1杯以上の飲酒が糖尿病患者の高血圧リスクと関連?

 これまで、2型糖尿病患者における飲酒と高血圧の関連は、十分に研究されていない。今回、米国・ウェイクフォレスト大学のJonathan J. Mayl氏らのデータ分析で、2型糖尿病患者では、適度な飲酒でも高血圧リスクに関連する可能性が示された。JAHA誌オンライン版2020年9月9日号での報告。 本研究は、成人の2型糖尿病患者を対象に心血管疾患(CVD)を軽減するための介入を比較したランダム化試験(ACCORD試験)の参加者1万200人(平均年齢約63歳)のデータを利用した。参加者は、軽度の飲酒(1~7杯/週)、中程度の飲酒(8~14杯/週)、重度の飲酒(15杯以上/週)の3群に分類された。なお、“1杯”の定義は12オンスのビール、6オンスのワインまたは1.5オンスのリキュールとした。 血圧については、ACC/AHA2017高血圧ガイドラインに従って、正常(収縮期血圧[SBP]120mmHg未満かつ拡張期血圧[DBP]80mmHg未満)、血圧上昇(SBP:120~129mmHgかつDBP:80mmHg未満)、ステージ1高血圧(SBP:130~139mmHgまたはDBP:80~89mmHg)、ステージ2高血圧(SBP:140mmHg以上またはDBP:90mmHg以上)に分類された。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別、人種、BMI、CVDの既往、現在・過去の喫煙状態、2型糖尿病の罹患年数を考慮した多変量ロジスティック回帰モデルでは、軽度の飲酒と血圧上昇または高血圧との間に関連は見られなかった。・中程度の飲酒では、血圧上昇(オッズ比[OR]:1.79、95%CI:1.04~3.11、p=0.03)、ステージ1高血圧(OR:1.66、95%CI:1.05~2.60、p=0.03)およびステージ2高血圧(OR:1.62、95%CI:1.03~2.54、p=0.03)と関連していた。・重度の飲酒では、血圧上昇(OR:1.91、95%CI:1.17~3.12、p=0.01)、ステージ1高血圧(OR:2.49、95%CI:1.03~6.17、p=0.03)およびステージ2高血圧(OR:3.04、95%CI:1.28~7.22、p=0.01)と関連していた。 著者らは「2型糖尿病患者は心血管リスクがとくに高いため、飲酒と高血圧の関係を理解することが非常に重要だ。週に7杯以上の飲酒は、2型糖尿病患者の高血圧に関連している可能性がある」と結論している。

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ニボルマブ+化学療法の非小細胞肺がん術前補助療法がpCRを向上(CheckMate-816)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2020年10月7日、切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした第III相CheckMate-816試験において、ニボルマブと化学療法の併用療法が主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)を達成したと発表。 同試験において、術前にニボルマブと化学療法の併用療法を受けた患者群では、化学療法を受けた患者群と比較して、切除組織にがん細胞を認めない患者数が有意に多かった。 CheckMate-816試験は、非進行NSCLCの術前補助療法で、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法がベネフィットを示した初めてかつ唯一の第III相試験となる。 CheckMate-816試験では、現在、もう一つの主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)の評価のため盲検下で維持し、主要な副次評価項目も評価するため進行中である。

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ESMO2020レポート 肺がん

レポーター紹介今年はCOVID-19の影響で、ASCOをはじめ多くの学会がvirtual meeting開催となり、ESMO2020も例にもれずvirtual meetingとして、2020年9月16日~21日に開催された。肺がん領域においては注目の演題が多数存在し、Presidential SymposiumにおいてはADAURA試験およびCROWN試験の報告がされた。日本人演者においては、先ほどのADAURA試験において坪井先生、@Be試験の瀬戸先生、WJOG8715L試験の戸井先生がOral Presentationに選出されている。重要な試験のフォローアップの報告を含め、いくつか注目の演題を紹介したい。ADAURA試験ASCO2020で大幅な無病生存期間(DFS)の改善を示したADAURA試験であるが、ESMO2020においては中枢神経系(CNS)を含む再発パターンについて国立がん研究センター東病院の坪井 正博先生によって報告された。ADAURA試験は、StageIB~IIIA期の切除可能な上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異(Del-19/L858R)を有する非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、術後補助療法として第三世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)オシメルチニブとプラセボを比較した第III相試験である。Stage(IB/II/IIIA)、EGFR遺伝子変異(Del-19/L858R)および人種(アジア人/非アジア人)によって層別化され、オシメルチニブ群およびプラセボ群には1:1で割付された。オシメルチニブの投与は3年間または再発まで行われた。今回の報告では、CNSを含む再発パターンについての内容であった。CNS転移再発はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において比較的高頻度に認められる遠隔転移の再発形式の1つであり、予後不良因子である。オシメルチニブは既存のEGFR-TKIに比べ血液脳関門通過性が高いことが報告されており、脳転移への効果が期待された。全体の再発割合はオシメルチニブ群において11%、プラセボ群において46%であり、そのうち遠隔転移再発はオシメルチニブ群で38%、プラセボ群で61%であった。主な再発部位は、オシメルチニブ群では肺が6%、リンパ節が3%、CNSが1%、プラセボ群では肺が18%、リンパ節が14%、続いてCNSが10%となっており、期待されていたとおりオシメルチニブ群におけるCNS再発は低かった。CNS DFS中央値は、プラセボ群の48.2ヵ月(95%CI:NC~NC)に対し、オシメルチニブ群では未到達(NR)(95%CI:39~NC)、ハザード比(HR)0.18(95%CI:0.10~0.33)、p<0.0001と有意な延長が示された。1年/2年/3年CNS DFS率はプラセボ群ではそれぞれ97%/85%/82%と低下傾向を示したのに対し、オシメルチニブ群では100%/98%/98%とほぼ低下は認めなかった。また、試験開始後18ヵ月時のCNS再発率はオシメルチニブ群で1%未満(95%CI:0.2~2.5%)、プラセボ群で9%(95%CI:5.9~12.5%)と、CNS再発率もオシメルチニブ群において低かった。今回の報告より、術後補助療法としてのオシメルチニブを投与することにより、局所および遠隔転移の再発リスクが減少することが示された。術後補助療法の再発予防としてオシメルチニブを使うべきか、術後再発としてオシメルチニブを使用すべきか、今後の全生存期間のさらなるフォローアップの報告が期待される。WJOG8715L試験現在初回治療でオシメルチニブを選択する機会も増えており、2次治療で使用する機会が少なくなってきたが、そもそものオシメルチニブの適応であるEGFR-TKI不応となったT790M陽性NSCLCに対して、オシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法とオシメルチニブを比較した第II相試験がWJOG8715L試験である。未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいてはエルロチニブ+VEGF阻害薬によりPFSの延長効果が示されており、今回の結果も期待された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、治療成功期間(TTF)、OS、安全性であり、当院の戸井 之裕先生によって発表された。PFSは、ベバシズマブ併用群が9.4ヵ月、単剤群が13.5ヵ月、HR 1.44(95%CI:1.00~2.08)、p=0.20でベバシズマブ併用群のほうがむしろ短い結果となった。前治療でVEGF阻害薬の治療歴有無別でのPFSの解析も行われており、VEGF(-)-オシメルチニブ(37例)13.7ヵ月、VEGF(+)-オシメルチニブ(4例)15.1ヵ月、VEGF(-)-ベバシズマブ併用(32例)11.1ヵ月、VEGF(+)-ベバシズマブ併用(8例)4.6ヵ月、とVEGF阻害薬の治療歴のある併用群の成績がとくに短かった。併用群で多く認められたGrade3以上の副作用は蛋白尿および高血圧であり、間質性肺炎は両群で10%程度に認められた。今回の報告では、残念ながらベバシズマブを併用することの意義は示せなかった。PFSが延びなかった理由として、VEGF阻害薬の治療歴のある症例に対する併用群の成績が良くなかったのが影響している可能性があるが、VEGF阻害薬の治療歴のない症例の比較においてもベバシズマブを上乗せする効果はみられていない。オシメルチニブとベバシズマブとの相性の問題か、EGFR-TKI既治療という腫瘍周囲環境がある程度整った状況によるものなのか、議論に尽きない結果となった。未治療EGFR遺伝子変異陽性肺がんを対象にオシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法の有効性を検討するWJOG9717L試験、またオシメルチニブ・ラムシルマブ併用療法の有効性を検討するTORG1833試験がそれぞれ登録終了しており、それらの結果と合わせ、オシメルチニブにVEGF阻害薬を併用することの意義が結論付けられることとなるだろう。CROWN試験CROWN試験は未治療のALK転座陽性進行NSCLCを対象に、初回治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相試験である。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しオシメルチニブが初回治療として承認されたように、ALK転座陽性NSCLCに対しての初回治療になるかが期待される。本試験は多くの試験において脳転移症例が除外される中、治療済または症状のない未治療の脳転移を有する患者の登録が認められていた。しかしながら、クロスオーバーは認められていなかった。今回は中間解析の結果が報告された。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はロルラチニブ群でNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群で9.3ヵ月(95%CI:7.6~11.1)、HR 0.28(95%CI:0.19~0.41)、p<0.001と有意な延長が示された。1年PFS率はロルラチニブ群が78%(95%CI:70~84)、クリゾチニブ群が39%(95%CI:30~48)と大きな開きをみせている。PFSは、脳転移の有無も含めてすべてのサブグループで有意にロルラチニブ群が良かった。奏効率はロルラチニブ群で76%、クリゾチニブ群で58%であった。ロルラチニブは頭蓋内移行性が高く、今回の報告では脳転移に対する効果も検討されている。頭蓋内奏効率は、ベースラインで測定可能または測定不能な脳転移があった患者で、ロルラチニブ群(38例)が66%(95%CI:49~80)、クリゾチニブ群(40例)が20%(95%CI:9~36)とロルラチニブ群での高い奏効が示された。脳転移の増悪までの期間は、ロルラチニブ群(149例)がNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群(147例)が16.6ヵ月(95%CI:11.1~NE)、HR 0.07(95%CI:0.03~0.17)、p<0.001で有意にロルラチニブ群が良かった。OSはインマチュアであり、両群ともに中央値はNEであった。副作用はロルラチニブ群において高脂血症、高TG血症、浮腫、体重減少、末梢神経障害を高頻度に認めている。中間解析の結果ではあるが、PFSは有意な改善が期待できる。ALK肺がんは現時点でも長期のOSが示されているが、ロルラチニブを初回に使うことによってさらなるOSの改善が期待できるのか、今後の報告が気になるところである。WJOG10718L/@Be試験@Be studyはEGFR/ALK/ROS1陰性、PD-L1強陽性(Daco 22C3)の未治療非扁平上皮非小細胞肺がんに対して、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を検証する単群第II相試験である。免疫チェックポイント阻害薬に血管新生阻害薬を上乗せする試験は近年いくつか報告されており、本試験は肺がんにおいてベバシズマブを上乗せする初めての試験である。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次的評価項目はPFS、DoR、OS、安全性であり、試験事務局である九州がんセンターの瀬戸 貴司先生により結果が報告された。登録された40例中、39例が適格であり、TPS 50~75%が13例(33.3%)、75~100%が26例(66.7%)であった。主要評価項目であるORRは64.1%(90%CI:49.69~76.83)と統計学的にメットしており、9割以上の症例において腫瘍縮小が認められた。PFSは15.9ヵ月(95%CI:5.65~15.93)、1年PFS率は54.9%(95%CI:35.65~70.60)であり、これまでのPD-L1強陽性に対する報告を上回る結果となり、今後が期待される。副作用は、23件/12例においてGrade3の副作用を認め、Grade4以上は認めなかった。副作用中止は2例に認め、硬化性胆管炎と脳症によるものだった。今後、PD-L1強陽性に対して免疫チェックポイント単剤(IMpower110 or KEYNOTE-024)か免疫チェックポイントに血管新生阻害薬を上乗せする(@Be)か、さらには殺細胞性抗がん剤も併用する(IMpower150)か、第III相試験が興味深いところである。KEYNOTE-024試験KEYNOTE-024試験は、PD-L1強陽性(TPS≧50%)の未治療進行NSCLCに対する初回治療におけるペムブロリズマブ単剤治療と化学療法(プラチナ併用療法)を比較した第III相試験である。化学療法群ではPDを認めた場合にペムブロリズマブ群へのクロスオーバーが認められていた。これまでPFS、OSにおいて有意な延長効果が示されてきたが、今回は5年フォローアップのデータの報告となった。2020年6月1日にデータカットオフされ、追跡期間中央値は59.9ヵ月であった。化学療法群のペムブロリズマブへのクロスオーバーは66.0%であった。OSはペムブロリズマブ群で26.3ヵ月(95%CI:18.3~40.4)、化学療法群で13.4ヵ月(95%CI:9.4~18.3ヵ月)、HR 0.62(95%CI:0.48~0.81)と既報と大きな変わりは認めなかった。3年OS率はペムブロリズマブ群で43.7%、化学療法群で19.8%、5年OS率はペムブロリズマブ群で31.9%、化学療法群で16.3%と、3年以上の症例ではtail-plateauの傾向もみられ、5年たった時点でも生存率は約2倍維持されている。化学療法群において高いクロスオーバーがあったにもかかわらず、ペムブロリズマブ群は5年OS率においても有意な延長効果が示され、初回治療で投与することは重要と考える。さらには、35サイクル(2年間)ペムブロリズマブを投与できた症例(39例)の奏効率は82%と高率であった。多くは治療早期に奏効が得られており、免疫チェックポイント阻害薬においても、縮小効果がある症例においては長期の治療効果が期待できることが示された。現在、PD-L1強陽性に対しては単剤で十分ではないかという議論がされるが、今回の長期フォローアップのデータはそれを裏付ける結果の1つであるといえる。PD-L1強陽性に対する単剤とコンビネーションの比較試験も進行中であり、その結果にも注目したい。CheckMate-9LA試験EGFR/ALK陰性の未治療進行NSCLCを対象に初回治療としてニボルマブ(Nivo)+イピリムマブ(Ipi)に化学療法2サイクルを併用するNivo+Ipi+化学療法群と化学療法群を比較する第III相試験である。ASCO2020において有効性が公表され、すでに米国・オーストラリア・シンガポール・カナダでは承認されており、日本でも承認間近と伺っている。今回は、アジア人サブグループの結果が報告された。9LA登録例のうち、アジア人は日本人患者(50例)と中国人患者(8例)であった。Nivo+Ipi+化学療法群が28例、化学療法群が30例であった。OSは、アジア人サブグループでも全集団と同様の傾向がみられ、Nivo+Ipi+化学療法群でNR(15.4ヵ月~NR)、化学療法群で13.3ヵ月(8.2ヵ月~NR)、HR 0.33(95%CI:0.14~0.80)と併用群で良好な結果が示された。組織型(Sq/non-Sq)、PD-L1発現(≧1%/<1%)でみた解析においても、少数ながらNivo+Ipi+化学療法群において改善傾向が認められた。気になる副作用であるが、アジア人における全体およびGrade3/4の頻度、そして副作用中止の頻度が高い傾向があるが、とくにアジア人集団で新たに認められたものはなかった。今回の報告でもあるように9LAレジメンは副作用が懸念点であり、今後実臨床においてどのように評価されていくのかが気になるところである。さいごに今回のESMO2020もvirtualではあったものの、肺がん領域においてはいくつもの重要な報告があった。日本においてはいくらかCOVID-19の蔓延が落ち着きつつあり、現地とwebのハイブリッド開催が行われるようにもなってきたが、世界的には落ち着いておらず国際学会に行くのはまだまだ先になるだろう。国際学会の刺激は現地でないと味わえないところもあり、一刻も早い現状の改善を期待している。

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ニボルマブとイピリムマブの併用療法、MSI-High大腸がんへの国内適応拡大/小野・BMS

 小野薬品工業とブリストル マイヤーズ スクイブは、2020年9月25日、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)との併用療法について、「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High:microsatellite instability-High)を有する結腸・直腸がん」への適応拡大に係る国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したと発表。 今回の承認は、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法による治療中または治療後に病勢進行した、もしくは同治療法に忍容性がなかった進行・再発のMSI-Highまたはミスマッチ修復欠損(dMMR)を有する大腸がん患者を対象に、ブリストル マイヤーズ スクイブが実施した多施設共同非盲検第II相臨床試験(CheckMate-142試験)のニボルマブとイピリムマブの併用療法コホートによる結果に基づいている。同試験では、ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、主要評価項目である治験担当医師の評価による奏効率(ORR)において有効性を示した。本試験におけるニボルマブとイピリムマブの併用療法の安全性プロファイルは、これまでに報告された臨床試験のものと一貫しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。ニボルマブは、単剤療法でがん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発のMSI-Highを有する結腸・直腸がんの効能又は効果で承認されているが、今回の承認によって、同効能又は効果に対して、ニボルマブとイピリムマブの併用療法でも使用が可能となった。

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AKT阻害薬ipatasertibが、PTEN欠損CRPCのPFS改善(IPATential150)/ESMO2020

 転移を有するPTEN欠損去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する1次治療としての、AKT阻害薬ipatasertibとアビラテロン/プレドニゾロンの併用療法は、アビラテロン/プレドニゾロンに比べて、画像評価による無増悪生存期間(rPFS)を有意に延長することが示された。日本も参加した、この国際共同のプラセボコントロール第III相試験、IPATential150の結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で英国・The Royal Marsden HospitalのJohann De Bono氏より発表された。・対象:未治療のmCRPC患者・試験群:ipatasertib(400mg/日)+アビラテロン(1,000mg/日)++プレドニゾロン(5mg×2/日)を投与(IPAT群、547例・対照群:プラセボ+アビラテロン+プレドニゾロン(Pla群、554例)・評価項目:[主要評価項目]全症例(ITT)およびPTEN欠損症例における、主治医判定によるrPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、疼痛増悪までの期間、化学療法開始までの期間、奏効率、遺伝子検索(NGS)によるPTEN欠損症例におけるrPFSなど[統計学的設計]PTEN欠損症例におけるrPFS(α=0.05)、ITTでのrPFS(α=0.01)、PTEN欠損のOS、ITTのOSが順に解析される。 主な結果は以下のとおり。・1,101例が登録され、PTEN欠損(免疫組織化学染色[IHC]での腫瘍細胞のPTEN染色<50%)は521例であった。・PTEN欠損患者のrPFS中央値はIPAT群18.5ヵ月、Pla群16.5ヵ月、ハザード比(HR)は0.77(95%CI:0.61~0.98)、p=0.0335と有意にIPAT群で良好であった。・ITTにおけるrPFS中央値は、IPAT群19.2ヵ月、Pla群16.6ヵ月、HR0.84(95%CI:0.71~0.99)、p=0.0431であった。これは予め設定されていたp値の閾値(α=0.01)を下回らなかった。・PTEN欠損症例における奏効率は、Pla群39%に対し、IPAT群で61%と高かった(CR19%、PR41%)。・NGSによるPTEN欠損症例(208例)におけるrPFS中央値は、IPAT群19.1ヵ月、Pla群14.2ヵ月、HR0.65(95%CI:0.45~0.95)であった。・有害事象は、IPAT群でGrade3以上の皮疹、下痢、高血糖、肝機能異常などが多かった。重篤な有害事象はIPAT群で39.6%、Pla群で22.7%に認められた。有害事象中止は、IPAT群21.1%、Pla群5.1%、減量はそれぞれ39.9%、6.2%であった。

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日本人統合失調症患者における経皮吸収型ブロナンセリンのD2受容体占有率

 経皮吸収型の抗精神病薬は、アドヒアランスの改善など、潜在的なベネフィットを有している。大日本住友製薬のHironori Nishibe氏らは、経皮吸収型ブロナンセリン1日1回の使用による線条体のドパミンD2受容体占有率について調査を行った。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2020年9月16日号の報告。 本研究は、ブロナンセリン錠8mg/日または16mg/日で治療された、日本人統合失調症外来患者18例(20~64歳、スクリーニング時の陽性・陰性症状評価尺度[PANSS]スコア120未満)を対象とした非盲検第II相臨床試験である。対象患者は、2~4週間のブロナンセリン錠による治療後、経口用量に基づき、2~4週間の経皮吸収型ブロナンセリン1日1回使用の1日量10mg、20mg、40mg、60mg、80mgに割り付けられた。主要評価項目は、ブロナンセリンの線条体ドパミンD2受容体占有率とし、[11C]raclopride-PET画像を用いて測定した。副次評価項目は、用量別の受容体占有率の評価、PANSSおよび臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアの変化、アドヒアランスに対する患者の意向、経皮吸収型製剤の粘着性とした。 主な結果は以下のとおり。・ブロナンセリン錠での治療を開始した患者18例のうち、14例が治療を完了した。・ブロナンセリンの錠剤および経皮吸収型製剤の用量別の平均D2受容体占有率は、以下のとおりであった。 ●ブロナンセリン錠8mg/日:59.2%(5例) ●ブロナンセリン錠16mg/日:66.3%(9例) ●経皮吸収型ブロナンセリン10mg/日:33.3%(3例) ●経皮吸収型ブロナンセリン20mg/日:29.9%(2例) ●経皮吸収型ブロナンセリン40mg/日:61.2%(3例) ●経皮吸収型ブロナンセリン60mg/日:59.0%(3例) ●経皮吸収型ブロナンセリン80mg/日:69.9%(3例)・受容体占有率は、錠剤、経皮吸収型製剤ともに用量依存的に増加していた。・受容体の50%阻害濃度(IC50)は、錠剤で6.9mg/日、経皮吸収型製剤で31.9mg/日であった。・受容体占有率の日内変動は、錠剤よりも経皮吸収型製剤のほうが小さかった。・経皮吸収型ブロナンセリンは、安全性に重大な問題は認められず、十分な忍容性が認められた。 著者らは「ブロナンセリンの経皮吸収型製剤は錠剤と比較し、D2受容体占有率の日内変動が小さく、錠剤8mg/日から経皮吸収型製剤40mg/日、錠剤16mg/日から経皮吸収型製剤80mg/日がそれぞれ適切な切り替え用量であると考えられる。経皮吸収型ブロナンセリンは、統合失調症の潜在的な新しい治療オプションであることが示唆された」としている。

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マイナンバーは医学研究にとっても不可欠だ(解説:折笠秀樹氏)-1292

 セクハラと自殺との関係を調べるときどうするだろうか。因果関係なので縦断研究が必要だろう。介入研究は無理なので観察研究になるだろう。だからコホート研究になる。しかし、セクハラと自殺を取り入れたコホート研究はあまりない。では、どうやって研究したのだろうか。 セクハラの実態に関する調査はよく行われている。それはいわゆる横断研究である。今回もそうだったようだ。横断研究では因果関係は捉えられない。そこでどうしたかというと、国民背番号をIDとして、患者医療データ(patient register)をリンクさせたようだ。自殺あるいは自殺企図というのは患者医療データから入手した。セクハラの実態は横断研究から入手した。どちらも日付がわかるので、セクハラを受けてから自殺あるいは自殺企図までの時間に関する比例ハザード分析ができた。 わが国だったらどうだろうか。セクハラに関する実態調査はあるだろう。自殺あるいは自殺企図についても、同じような患者医療データはあるだろう。それらのデータはリンクできるだろうか。両方のデータに共通する国民背番号がないとリンクはできない。本研究はスウェーデンで行われたが、個人識別番号という国民背番号があったようだ。アメリカならSocial Security numberがある。私も留学時代に与えられた。それで確定申告も行った。わが国ではマイナンバーがそれに当たるのだろうが、遅々として進んでいない。全員がマイナンバーを持ったとしても、それを医療データにひも付けしないといけない。そこでもハードルがあるに違いない。銀行口座とのひも付けでさえ拒んでいるのに、医療データなどもっての外だろう。個人情報保護を強く掲げるために、貴重な情報や知見を得られる可能性が損なわれているように思われてならない。

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第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念

トランプ入院、世界の医療現場にも影響こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、高尾山にハイキングに行って来ました。599mの低山ですが、NHKの人気番組「ブラタモリ」でも紹介された東京有数の観光地です。たまたま先週の「ブラタモリ」は「日本の山スペシャル」で、2016年放送の高尾山の回のダイジェストを放送していたのですが、こうした番組を観ても実際に登っても、その魅力がよくわからない不思議な山です。いつもとても混んでいますが、先週も激混みで、登山道は夏の富士山並みに長い行列ができていました。印象的だったのは高齢者(60~70代)の登山者が目立っていたことです。コロナ禍で、北アルプスや南アルプス、あるいは八ヶ岳や奥秩父といった山は高齢者登山者が激減しています。勢い、日帰りで登れる高尾山などの低山の人気が高まっているようです。しかし、標高599mと言っても山は山。谷沿いの6号路などは足を踏み外すと危ない場所もあります。高齢者は山での事故率が高く、今後、高尾山での遭難や事故が増えそうで心配です。さて、今回は日本の医療現場から少し離れ、世界の医療現場にも影響を及ぼしかねない、米国のドナルド・トランプ大統領が新型コロナウイルス感染で受けたとされる治療法について、少し考えてみたいと思います。「コンパッショネート・ユース」で未承認の抗体医薬投与トランプ米大統領は2日未明(現地時間)にツイッターで、自分自身とメラニア夫人が新型ウイルス陽性となったことを発表。同日に、首都ワシントン郊外のウォルター・リード陸軍医療センターに入院しました。CNNなどの米メディアをはじめ、日本でも各紙がトランプ大統領の容態やホワイトハウスで発生したクラスターの状況を逐一伝え、5日の退院後も報道合戦は続いています。それらの報道を読んで気になったのは、トランプ大統領が投与されている治療薬です。10月3日付のCNNは、トランプ大統領が2日、米国のバイオテクノロジー企業リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)社が開発した未承認の抗体医薬8gの投与を受けたとホワイトハウスが公表した、と報じました。リジェネロン社も同治療薬を提供したことを確認。大統領の主治医から未承認薬の人道的使用を認める、いわゆる「コンパッショネート・ユース」の要請があったと明らかにした、とのことです。トランプ大統領の治療薬としては、その後、レムデシビル、デキサメタゾンの投与も明らかになっていますが、未承認の抗体医薬をまず使った、というところがなかなかに興味深い点です。また、大統領といえども「勝手に使わせろ」と薬の提供を求めたのではなく、米国のコンパッショネート・ユースの制度に則った点も面白いです。もっとも、米国において未承認薬のコンパッショネート・ユースが例外的に認められるのは、ほかの代替療法では効果が得られなかった場合とされており、トランプ大統領への投与を「ゴリ押しだ」との批判も上がっているようです。「血漿療法」よりも有望と判断かさて、トランプ大統領に使われたリジェネロンの抗体医薬は「REGN-COV2」という名称で開発中の薬です。2種のモノクローナル抗体を組み合わせた薬のため「Antibody Cocktail(抗体カクテル)」とも呼ばれています。ワクチンはヒトの体に抗体をつくらせて感染予防や重症化予防の効果をもたらすものですが、抗体医薬とは、抗体そのものを投与して疾患を治療するものです。同様の考え方に基づいて、新型コロナウイルス感染症から回復した患者から提供された血液から、血漿を調製して患者に投与する「回復期患者血漿療法」も、重篤な患者に対する緊急措置として米国などで行われてはいますが、現時点で明確な有効性は実証されていません。ちなみに米国では、2020年8月、新型コロナウイルス感染症の重症患者を対象に、血漿療法の緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)が降りています。メイヨー・クリニックが主導した臨床試験(非盲検)が「有効性がある可能性がある」と米食品医薬品局(FDA)が判断した結果です。しかし、これをトランプ大統領が「FDAのお墨付きを得た」「死亡率を35%低下させる」などと絶賛、その後データ解釈の誤りなども発覚し、物議を醸したこともありました。そのトランプ大統領が自ら絶賛した血漿療法ではなく、未承認の抗体医薬を選んだのはご愛嬌とも言えます。主治医チームの「血漿療法より有望」との判断が働いたためでしょう。 2つのモノクローナル抗体をカクテルに「REGN-COV2」は、回復者由来の抗体や、遺伝子操作でヒトと同様の免疫系を持つようにしたマウスにウイルスを免役して得られた抗体から、実験で新型コロナウイルスの中和に最も効果があった2つの抗体を選出し、組み合わせた薬剤だと報道されています。なお、2つの抗体をカクテルにした理由としては、ウイルス変異への対応に効果的だからのようです。同薬についてリジェネロン社は6月に臨床試験を開始。9月29日には、非入院患者275人を対象に行った臨床試験の結果を発表し、「同治療薬の安全性が確認され、ウイルスレベルの低減や症状の改善に効果があったとみられる」としています。感染前に投与する予防薬としても期待「REGN-COV2」以外にも、新型コロナウイルスの中和抗体の抗体医薬の開発は全世界で進められています。感染初期に投与して発症や重症化を防ぐ治療薬としてのみならず、ワクチンのように感染前に投与する予防薬としても期待されているようです。実際、「REGN-COV2」に先駆けて研究が進む米国イーライリリー社の抗体医薬「LY-CoV555」は、NIHの主導でナーシングホームの入所者と医療従事者を対象にした二重盲検の第III相臨床試験が進んでいます 。同試験では、主要評価項目として、新型コロナウイルスに感染した割合が設定されており、高リスクの高齢者を対象に感染を減らせるかどうかを評価するとしています。なお、「LY-CoV555」は、米国で最初にCOVID-19から回復した回復期患者の血中から抗体遺伝子をクローニングし、わずか3カ月で作成にこぎ着けた中和抗体で、こちらはカクテルではありません。高価な抗体医薬は予防的に使えるか?トランプ大統領の容態については、「快方に向かっている」との報道があった一方で、「高齢で肥満なので依然楽観できない」との見立てもありましたが、10月5日に強行退院してしまいました。医療チームにはウォルター・リード陸軍医療センターだけではなく、ジョンズ・ホプキンス大学のなど複数の医療機関の医師も入っており(医師団の記者会見ではジョンズ・ホプキンス大学の医師も話していました)、世界最高レベルの治療が行われたことは確かです。ここで気になるのは、入院初期に投与された「REGN-COV2」の役割です。仮に、抗体医薬投与が 非常に効果的だった、ということになれば、感染初期や予防的に投与する薬として大きな脚光を浴びるでしょう。しかし、抗体医薬は非常に高価なため、予防的に多くの人に投与する場合には、財政的な問題が浮上してきます。また、保険適用にならず、富裕層だけが自費で使用するという形になれば、医療格差が指摘されるかもしれません。もっとも、抗体医薬の効果の持続期間によって何度も打ち続けることになりそうで、それはそれで大変そうです。70歳以上入院時重症例の死亡率は20.8%大統領選を気にしてか、トランプ大統領の入院はわずか3泊4日でした。今後、果たして、残り少ない大統領選の最前線に立ち、合併症なくあの独特の弁舌を復活させることができるでしょうか。ちなみに、日本の国立国際医療研究センター・国際感染症センターの研究グループは9月30日、新型コロナウイルス感染症で入院した患者の死亡率を、2020年6月5日までの第1波の入院症例と、治療法が固まってきた2020年6月6日以降の第2波の入院症例に分けて公表しました。それによると、トランプ大統領が当てはまる、6月6日以降の「70歳以上入院時重症例(入院時酸素投与、SpO2 94%以下に該当と仮定)」の死亡率は20.8%です。これはそこそこ高い数字です。高齢者登山と同様、タフなトランプ大統領といえども、楽観は禁物でしょう。

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