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双極性障害が日本人の健康関連QOLや労働生産性に及ぼす影響

 これまでの研究では、双極性障害患者は、対人関係、教育または就業に問題を抱えて、QOLが低下しているといわれている。順天堂大学の加藤 忠史氏らは、健康関連QOL、労働生産性およびそれらに関連するコストに対する双極性障害の影響を推定するため、検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年8月1日号の報告。 オンライン調査National Health and Wellness Surveyの2019年のデータを用いて、検討を行った。双極性障害患者179例、うつ病患者1,549例、対照群(双極性障害、うつ病、統合失調症でない人)2万7,485例について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害の生涯有病率は0.60%、うつ病の生涯有病率は5.16%と推定された。・双極性障害患者では、精神的QOLサマリー(MCS)スコア、役割的QOLサマリー(RCS)スコア、EQ-5D-5Lサマリーインデックスの有意な低下が認められ、Work Productivity and Activity Impairment questionnaireで評価されたプレゼンティズム、労働生産性の問題、活動性の問題および対照群と比較した双極性障害に関連するコスト、PHQ-9スコア10以上の割合の有意な増加が認められた。・双極性障害患者は、うつ病患者と比較し、RCSスコアが有意に低く、労働生産性の損失と活動性の問題が多かった。・日本における双極性障害の全コストは、human-capital approachを用いて、1兆2,360億円と推定された。・本研究の限界として、本分析で使用したデータは自己申告であり、横断的であるため、因果関係を推測することはできない。 著者らは「双極性障害患者および重度の抑うつ症状を有する患者では、健康関連QOLの有意な低下が認められ、労働生産性の損失や関連コストが増大することが示唆された。このことは、双極性障害および双極性うつ病の適切なスクリーニングや診断および治療の重要性を表している」としている。

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うつ病の初期治療と持続的治療反応との関連~メタ解析

 うつ病は、しばしば再発を繰り返す疾患である。そのため、患者を良い状態に導くだけでなく、良い状態を保つために最も効果的な治療法から選択すべきである。京都大学の古川 壽亮氏らは、成人うつ病患者の急性期治療における心理療法(PSY)、プロトコール化された薬物療法(PHA)、心理療法と薬物療法の併用(COM)、プライマリまたはセカンダリケアでの標準的治療(STD)、プラセボ治療についてランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析を実施し、治療期間およびフォローアップ期間を通じた初期治療と持続的治療反応との関連を調査した。World Psychiatry誌2021年10月号の報告。 研究デザイン上、急性期治療は、維持期まで継続するか、別の治療法へ切り替えるか、任意の治療を行うか選択可能であった。対象は、81件のRCTより抽出された1万3,722例。持続的治療反応の定義は、急性期治療の反応が認められた後、維持期を通じて抑うつ症状の再発が認められなかった場合とした(平均期間:42.2±16.2週間、範囲:24~104週間)。12ヵ月目に最も近い時点で報告されたデータを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・COMは、COM治療が維持期まで継続された場合(OR:2.52、95%CI:1.66~3.85)と任意の治療が行われた場合(OR:1.80、95%CI:1.21~2.67)のいずれにおいても、PHAと比較し、持続的治療反応が認められた。・STDとの比較においても、COMは、COM治療が維持期まで継続された場合(OR:2.90、95%CI:1.68~5.01)と任意の治療が行われた場合(OR:1.97、95%CI:1.51~2.58)に同様の結果が得られた。・PSYは、PSY治療が維持期まで継続された場合(OR:1.53、95%CI:1.00~2.35)と任意の治療が行われた場合(OR:1.66、95%CI:1.13~2.44)のいずれにおいても、PHAと比較し、持続的治療反応がより維持された。・STDとの比較においても、PSYは、PSY治療が維持期まで継続された場合(OR:1.76、95%CI:0.97~3.21)と任意の治療が行われた場合(OR:1.83、95%CI:1.20~2.78)に同様の結果が得られた。・STDによる持続的治療反応率の平均値が29%であることを考慮すると、PHAまたはSTDに対するPSYまたはCOMの利点は、12~16%ポイントの範囲でリスク差に影響を及ぼすと考えられる。 著者らは「心理療法または心理療法と薬物療法の併用は、薬物療法単独よりも持続的治療反応が得られることが示唆された。これを踏まえて、臨床ガイドラインにおけるうつ病の第1選択治療に関する項は、改訂が必要になるかもしれない」としている。

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Stage IV乳がんの原発巣切除の意義とは?/日本癌治療学会

 わが国で実施されているJCOG1017試験(PRIM-BC)「薬物療法非抵抗性Stage IV乳がんに対する原発巣切除の意義(原発巣切除なしversusあり)に関するランダム化比較試験」は、来年8月に追跡期間が終了する予定で結果が待たれている。第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)におけるシンポジウム「乳癌治療におけるデエスカレーションとエスカレーション-さらなる個別化-」において、本試験の研究事務局である岡山大学の枝園 忠彦氏が、すでに発表されている海外での4つの前向きランダム化比較試験の結果と問題点を紹介し、それらのメタ解析の結果や今後の課題について発表した。de novo Stage IV乳がんに対する原発巣切除の役割とは? Stage IV乳がんの治療の目的は延命と症状緩和で、薬物療法が基本である。近年、薬物療法の進歩はめざましく、早期乳がんのみならず、転移している乳がんにおいても、体内のがん細胞が消失する割合が増えてきている。また、画像検査の精度が上がり、小さながん転移もみつけることが可能で、さらに血液中の微小転移も検出できる検査も確立してきている。このような時代の中で、再度、原発巣切除の役割を考えるというのが、これらの前向きランダム化比較試験の目的である。5つのランダム化比較試験の結果と問題点 de novo Stage IV乳がんに対する原発巣切除による予後の比較については、10年以上前から色々な施設から後ろ向き研究のデータが出ているが、ほとんどが原発巣切除するほうが予後がよいという結果となっている。それを受け、世界で5つの前向きランダム化比較試験が開始された。インドのTata Memorial Hospitalでの単施設試験(登録数350例)、トルコのMF07-01試験(274例)、オーストリアのABCSG28試験(90例)、米国のECOG2108試験(256例)、日本のJCOG1017試験(407例)の5つで、日本を除く4試験の結果がすでに報告されている。このうち、インド、米国、日本の試験は、全身療法で効果があった患者に対して切除の有無でランダム化しているのに対し、インドとオーストリアの試験ではStage IV乳がんと診断された時点ですぐにランダム化しているという違いがある。<インド・Tata Memorial Hospitalでの単施設試験>結果:全生存期間(OS)には差がなく、すべてのサブグループでも差がなかったが、局所の無増悪生存期間(PFS)は切除群のほうが良好だった。遠隔転移のPFSは切除群のほうが悪かった。問題点:生存期間中央値(MST)が20ヵ月未満と他の試験に比べて非常に短い。抗HER2療法を含めたNCCガイドラインに沿った薬物療法がなされていない。<トルコ・MF07-01試験>結果:切除群でOSが良好だった。サブグループ解析ではER/PR陽性、HER2陰性、55歳未満、単発性の骨転移で切除群のほうが良好だった。問題点:両群の背景に偏りがあった(切除群にER/PR陽性例が多く、非切除群にトリプルネガティブタイプが多い、など)。<オーストリア・ABCSG28試験>結果:OSには差がなかった。問題点:登録症例数が90例(予定は560例)と少ない。<米国・ECOG2108試験>結果:OSに差はなかったが、局所のPFSは切除群で良好であった。ただし、遠隔転移のPFSは差がなかった。サブグループ解析では、トリプルネガティブタイプのみ切除群でOSが悪かった。QOLは18ヵ月時点で切除群が有意に悪かった。問題点:非切除群の19%で切除を受けていた。4試験のメタ解析ではOSに差なし、JCOG1017試験が加わったときの結果は? 登録された症例や治療法は4つの試験間で均一ではなく、それぞれに問題点を抱えているが、これらをメタ解析するとOSは差がなく、どのサブグループでも差がなかった。一方、局所のPFSは切除群で有意に良好であり、局所制御を目的とした場合、切除が有効と考えられる。これらの結果より、乳がん診療ガイドライン2018年度版において「Stage IV乳がんに対する予後の改善を期待しての原発巣切除を行わないことを弱く推奨する」とされている。トルコの試験では単発性の骨転移には切除群で良好だったことから、枝園氏は「局所制御のための原発巣切除の適応となる患者の選別や、原発巣切除を含めたオリゴメタに対する治療方針をさらに検討する必要がある」と述べた。 日本のJCOG1017試験は来年8月に追跡期間が終わり、結果が発表される。「そのときにメタ解析の結果が変わるのか、いずれかのサブグループで差が出てくるのか、期待していただきたい」と枝園氏は締めくくった。

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tirzepatideの効果、心血管高リスク2型DMでは?/Lancet

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの週1回投与は、インスリン グラルギンと比較し52週時点のHbA1c値低下について優越性が示され、低血糖の発現頻度も低く、心血管リスクの増加は認められないことが示された。イタリア・ピサ大学のStefano Del Prato氏らが、心血管への安全性評価に重点をおいた第III相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURPASS-4試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年10月18日号掲載の報告。tirzepatideの3用量(5、10、15mg)とインスリン グラルギンを比較 試験は、14ヵ国、187施設において実施された。適格患者は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬のいずれかの単独または併用投与による治療を受けており、ベースラインのHbA1c値が7.5~10.5%、BMI値25以上、過去3ヵ月間の体重が安定している2型糖尿病の成人患者で、心血管リスクが高い患者とした。心血管リスクが高い患者とは、冠動脈・末梢動脈・脳血管疾患の既往がある患者、または慢性腎臓病の既往がある50歳以上の患者で、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満またはうっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII/III)の既往がある患者と定義した。 研究グループは、被験者をtirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群またはインスリン グラルギン(100U/mL)群に1対1対1対3の割合で無作為に割り付け、tirzepatideは週1回、インスリン グラルギンは1日1回皮下投与した。tirzepatideは2.5mgより投与を開始し、設定用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。インスリン グラルギンは10U/日で開始し、自己報告による空腹時血糖値が100mg/dL未満に達するまで漸増した。52週間投与した時点で有効性の主要評価項目について解析し、その後、心血管疾患に関する追加データを収集するため最大で52週間の追加治療を行った。 有効性の主要評価項目はベースラインから52週までのHbA1c値の変化量で、tirzepatide(10mg、15mg)のインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)および優越性を検証した。安全性として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中および不安定狭心症による入院の複合エンドポイント(MACE-4)についても評価した。10、15mg群で血糖降下作用の非劣性・優越性を確認、心血管リスクに差はなし 2018年11月20日~2019年12月30日に、3,045例がスクリーニングされ、2,002例が無作為に割り付けられた。治験薬の投与を1回以上受けた修正ITT集団は1,995例で、tirzepatide 5mg群329例(17%)、10mg群328例(16%)、15mg群338例(17%)、インスリン グラルギン群1,000例(50%)であった。 52週時点におけるHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値±SE)は、tirzepatide 10mg群-2.43±0.053%、15mg群−2.58±0.053%、グラルギン群-1.44±0.030%であった。グラルギン群に対する推定治療差は、10mg群で−0.99%(97.5%CI:−1.13~−0.86)、15mg群で−1.14%(97.5%CI:−1.28~−1.00)であり、非劣性および優越性が確認された。 有害事象については、tirzepatide群で悪心(12~23%)、下痢(13~22%)、食欲不振(9~11%)、嘔吐(5~9%)の発現頻度がグラルギン群(それぞれ2%、4%、<1%、<2%)より高かったが、ほとんどが軽症~中等度で、用量漸増期に生じた。低血糖(血糖値<54mg/dLまたは重症)の発現頻度は、tirzepatide群(6~9%)がグラルギン群(19%)より低く、とくにSU薬を用いていない患者で顕著であった(tirzepatide群1~3%、グラルギン群16%)。 MACE-4のイベントは全体で109例に認められた。tirzepatide 5mg群19例(6%)、10mg群17例(5%)、15mg群11例(3%)で、tirzepatide群合計で47例(5%)、インスリン グラルギン群では62例(6%)であった。tirzepatide群のグラルギン群に対するMACE-4イベントのハザード比は0.74(95%信頼区間:0.51~1.08)であり、MACE-4のリスク増加は認められなかった。試験期間中の死亡はtirzepatide群で25例(3%)、グラルギン群で35例(4%)、計60例確認されたが、いずれも試験薬との関連性はないと判定された。

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心停止後昏睡患者の低体温療法、31℃ vs. 34℃/JAMA

 院外心停止後の昏睡状態の患者において、体温31℃を目標とした体温管理を行っても、34℃を目標とした体温管理と比較して180日死亡率や神経学的アウトカムは改善しないことが示された。カナダ・University of Ottawa Heart InstituteのMichel Le May氏らが、単施設での無作為化二重盲検優越性試験「CAPITAL CHILL試験」の結果を報告した。院外心停止後の昏睡状態の患者は死亡率が高く、重度の神経学的損傷を生じる。現在のガイドラインでは、目標体温32℃~36℃で24時間の体温管理が推奨されているが、小規模な研究においてより低い体温を目標とすることに利点があることが示唆されていた。JAMA誌2021年10月19日号掲載の報告。心停止後の昏睡状態の患者389例を、31℃と34℃に無作為に割り付け 試験は、カナダ・オンタリオ州東部の三次心臓医療センターで実施された。研究グループは、2013年8月4日~2020年3月20日の期間に、院外心停止後の昏睡状態(入院時のグラスゴー・コーマ・スケールスコアが8点以下)にある18歳以上の患者389例を登録し、目標体温31℃群(193例)または34℃群(196例)に無作為に割り付けて24時間の体温管理を行った(最終追跡調査2020年10月15日)。 主要評価項目は、180日時点での全死亡または不良な神経学的アウトカムの複合エンドポイント、副次評価項目は30日死亡、180日死亡、集中治療室在室期間など合計19項目とした。神経学的アウトカムはDisability Rating Scale(範囲:0~29、29は植物状態)を用いて評価し、スコアが>5を不良と定義した。180日時点の死亡および神経学的アウトカムが不良の患者の割合に有意差なし 389例のうち、割り付けられた治療を受け主要評価項目の解析対象となったのは367例(平均年齢61歳、女性69例[19%])で、このうち366例(99.7%)が試験を完遂した。 主要評価項目のイベントは、31℃群で184例中89例(48.4%)、34℃群で183例中83例(45.4%)に発生した(リスク差:3.0%[95%信頼区間[CI]:7.2~13.2]、相対リスク:1.07[95%CI:0.86~1.33、p=0.56])。 19の副次評価項目のうち、18項目では統計的な有意差は確認されなかった。集中治療室在室期間中央値は、31℃群で有意に延長した(10日 vs.7日、p=0.004)。180日死亡率は、31℃群43.5%、34℃群41.0%であった(p=0.63)。 有害事象については、深部静脈血栓症の発現率は31℃群11.4% vs.34℃群10.9%、下大静脈血栓症は3.8% vs.7.7%であった。

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PTSDやBPDにおける解離性症状と自殺傾向との関係

 解離性症状と自殺傾向は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断における特徴である。カナダ・マニトバ大学のJordana L. Sommer氏らは、PTSDとBPD患者における解離性症状(離人感や現実感消失症)と自殺傾向(自傷行為や自殺企図)との関連を調査した。Journal of Traumatic Stress誌オンライン版2021年8月23日号の報告。解離性症状のあるPTSD患者の自殺企図の推定率34.5~38.1% 2012~13年に行われた大規模疫学調査National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions(NESARC-III)のデータを分析した(3万6,309例)。DSM-VのAlcohol Use Disorder and Associated Disabilities Interview Scheduleを用いて、PTSD患者およびBPD患者の寿命を評価した。PTSD患者およびBPD患者の解離性症状と自傷行為および自殺企図との関連を調査するため、多重ロジスティック回帰を用いた。 PTSD患者およびBPD患者の解離性症状と自殺傾向との関連を調査した主な結果は以下のとおり。・解離性症状のあるPTSD患者およびBPD患者における自傷行為および自殺企図の推定率は、以下のとおりであった。【自傷行為】 ●PTSD患者:15.5~26.2% ●BPD患者:13.7~23.5%【自殺企図】 ●PTSD患者:34.5~38.1% ●BPD患者:28.3~33.1%・とくにBPD患者において解離性症状と自殺傾向との関連が認められた(aOR:1.39~2.66)。しかしこの関連性は、PTSDまたはBPDの他の症状(気分障害、疾患重症度など)により(3番目の変数)、部分的に引き起こされている可能性も考えられる。 著者らは「PTSD患者およびBPD患者の自殺リスクを減少させるために、個々の患者のリスク評価とターゲットを絞った介入が役立つ可能性がある」としている。

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再発乳がんへのパルボシクリブ、実臨床での併用薬や次治療は?/日本癌治療学会

 2017年の承認以来、CDK4/6阻害薬パルボシクリブはホルモン受容体陽性/HER2陰性の手術不能または再発乳がん治療に使用されているが、治療ラインや併用薬、次治療についてのデータは限定的となっている。澤木 正孝氏(愛知県がんセンター)らは、日本におけるパルボシクリブによる治療状況を明らかにするために、リアルワールドデータを用いた後ろ向き観察研究を行い、第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)で報告した。 2017年12月から2021年2月までにMedical Data Vision(MDV)データベースでパルボシクリブが処方された患者の請求データが解析に用いられた。MDVデータベースには439病院(2021年4月時点)が参加しており、DPC病院全体の25%がカバーされている。 治療成功期間(TTF)中央値は、カプランマイヤー法を使用して推定され、併用内分泌療法についてはパルボシクリブ開始から30日以内を開始日とする乳がん治療として定義された。 主な結果は以下のとおり。・MDVデータベースに含まれる乳がんの診断を受けた約44万例のうち、パルボシクリブが投与された1,074例が解析対象とされた。追跡期間中央値は15.9ヵ月。・患者背景は年齢中央値が64(53~72)歳。女性が99.3%、閉経後が86.4%を占めた。チャールソン併存疾患指数の中央値は8、化学療法施行率は18.2%、術後内分泌療法施行率は52.0%で、45.7%は内分泌療法中あるいは内分泌療法開始1年以内の再発であった。・パルボシクリブが使用された治療ラインについて、半年ごとに期間を区切って変化をみると、1次治療は22.7%(2017年12月~2018年6月)から42.6%(2020年7月~12月)に増加し、4次治療以降は29.3%(2017年12月~2018年6月)から10.2%(2020年7月~12月)に減少していた。・併用内分泌療法はフルベストラントとレトロゾールが主に使用され、フルベストラントはLate lineになるほどその使用割合が増加していた。1次治療(357例):フルベストラント(57.4%)、レトロゾール(34.5%)、エキセメスタン(2.2%)、アナストロゾール(1.7%)、タモキシフェン(0.6%)、トレミフェン(0.3%)、その他(3.4%)2次治療(336例):フルベストラント(62.8%)、レトロゾール(23.5%)、エキセメスタン(5.1%)、アナストロゾール(3.9%)、タモキシフェン(0.3%)、トレミフェン(0.3%)、その他(4.2%)3次治療(150例):フルベストラント(66.0%)、レトロゾール(20.0%)、エキセメスタン(6.0%)、アナストロゾール(4.0%)、タモキシフェン(1.3%)、その他(2.7%)・TTF中央値は1次治療が12.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.7~14.2)、2次治療が9.8ヵ月(95%CI:8.6~11.9)、3次治療が8.4ヵ月(95%CI:6.8~10.6)だった。・初回投与量は125mgが82.0%を占め、うち63.5%で1回以上の減量が行われ、32.7%で75 mgまで減量が行われていた。・パルボシクリブ投与後の次治療については、20~30%で内分泌療法+CDK4/6阻害薬が使用されており、化学療法はLate lineになるほどその使用割合が増加していた。1次治療でのPAL投与後(194例):内分泌療法+CDK4/6阻害薬(29.4%)、化学療法単独(23.7%)、内分泌療法単独(17.0%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(12.9%)、化学療法+ベバシズマブ(12.4%)、化学療法+内分泌療法(2.1%)、その他(2.6%)2次治療でのPAL投与後(213例):内分泌療法+CDK4/6阻害薬(30.0%)、化学療法単独(29.1%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(13.6%)、化学療法+ベバシズマブ(12.7%)、内分泌療法単独(8.9%)、化学療法+内分泌療法(3.8%)、その他(1.9%)3次治療でのPAL投与後(93例):化学療法単独(35.5%)、内分泌療法+CDK4/6阻害薬(22.6%)、内分泌療法+mTOR阻害薬(15.1%)、内分泌療法単独(12.9%)、化学療法+ベバシズマブ(11.8%)、化学療法+内分泌療法(1.1%)、その他(1.1%) 澤木氏は、PALOMA-2試験におけるPFS中央値(27.6ヵ月)1)と比較すると本結果におけるTTFは短いが、米国のリアルワールドデータと大きな差はみられないと考察。また、パルボシクリブによる治療後、一定の割合でCDK4/6阻害薬が使用されている点についても、米国でのリアルワールド研究2)において同様の傾向が報告されているとした。

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汎PPAR作動薬のlanifibranor、活動性NASHに有効/NEJM

 活動性非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者において、汎ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)作動薬lanifibranorの1,200mg、1日1回24週間経口投与は、プラセボと比較して肝線維化が増悪することなく脂肪変性・活動性・線維化(SAF)評価スコアの活動性(SAF-A)が2点以上低下した患者の割合を有意に増加させた。ベルギー・アントワープ大学のSven M. Francque氏ら、lanifibranorの無作為化二重盲検プラセボ対照第IIb相試験「NATIVE試験」の結果を報告した。NASHの治療はアンメットニーズであるが、lanifibranorはNASHの発症に重要な役割を果たす代謝、炎症および線維形成の各経路を調節し、前臨床研究では1種類または2種類のPPARに対する作動薬より高い効果が示唆されていた。今回の結果を受けて著者は、「第III相試験におけるlanifibranorのさらなる評価が期待される」とまとめている。NEJM誌2021年10月21日号掲載の報告。lanifibranor 1,200mg群、800mg群、またはプラセボ群を比較 研究グループは、18歳以上で活動性が高い非肝硬変NASH患者247例を、lanifibranor 1,200mg、800mg、またはプラセボ群に1対1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ1日1回24週間投与した。 主要評価項目は、線維化の悪化を伴わないSAF-Aスコア(肝細胞の風船様変性と炎症性細胞浸潤;スコアの範囲は0~4、スコアが高いほど疾患活動性が高いことを示す)の2ポイント以上の低下。副次評価項目は、NASHの消失と線維化の退縮であった。1,200mg群でプラセボ群より活動性(SAF-Aスコア)が有意に低下 無作為化された247例中、103例(42%)が2型糖尿病、188例(76%)が中等度または高度の線維化を有していた。 線維化の悪化を伴わないSAF-Aスコアの2ポイント以上低下を達成した患者の割合は、lanifibranorの1,200mg群がプラセボ群より有意に高く(55% vs.33%、リスク比[RR]:1.69、95%信頼区間[CI]:1.22~2.34、p=0.007)、800mg群では差はなかった(48% vs.33%、1.45、1.00~2.10、p=0.07)。 lanifibranorの1,200mg群および800mg群はいずれもプラセボ群と比較し、線維化の悪化を伴わないNASH消失率(49%および39%、vs.22%)、NASH悪化を伴わない線維化ステージ1段階以上改善率(48%および34%、vs.29%)、NASH消失かつ線維化ステージ1段階以上改善率(35%および25%、vs.9%)が高率であった。また、lanifibranorの両群で肝酵素値が低下し、ほとんどの脂質、炎症、線維化のバイオマーカーが改善した。 有害事象による投与中止の発現率はすべての群で5%未満であり、群間で類似していた(1,200mg群4%、800mg群5%、プラセボ群4%)。プラセボ群に比べてlanifibranor群で発現率が高かった主な有害事象は、下痢、悪心、末梢性浮腫、貧血、体重増加であった。

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新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第41回

第41回 新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える2021年8月末に開催されたESC(欧州心臓病学会)においてMASTER DAPT試験の結果が報告されました。冠動脈内に薬剤溶出性ステントを留置した後は、ステント血栓症を予防するために抗血小板薬を2剤服用(DAPT)することが必要となります。高齢患者である場合や、他の疾患のため経口抗凝固薬の服用を余儀なくされる場合では、出血性合併症のリスクが高く、DAPT期間をどの程度に設定するかが問題となります。MASTER DAPT試験は、ステント留置から1ヵ月が経過した時点でDAPTから単剤治療に変更する群(短縮群)と、さらに最低2ヵ月以上DAPTを継続する群(継続群)にランダマイズし、割り付けから335日経過時点で両群の安全性と有効性を比較しています。心臓および脳の有害事象と出血イベントの複合として定義される主要評価項目で、短縮群と継続群の間で非劣性が満たされました。とくに出血イベントでは短縮群は継続群に対し優越性を示しました。このように、出血性合併症リスクの高い患者において、DAPT期間の短縮は予後の改善につながることを明らかにしました。本試験の結果は、発表と同時にNEJM誌に論文が公表されました(N Engl J Med. 2021 Aug 28. [Epub ahead of print])。このMASTER DAPT試験は、欧州、日本、アジア、オーストラリア、南米地域の30ヵ国の140施設が参加し遂行されました。特筆すべき点は、この研究に登録された患者のすべてのステント治療は、日本企業であるテルモ社のUltimaster(アルチマスター)ステントを用いて行われたことです。DAPT期間の差異を正確に評価するためには、患者によってバラバラではなく統一したステントを用いるべきです。さらに、そのステントは現代のPCI治療に要求されるレベルをクリアしていなければなりません。この研究の結果がNEJM誌に掲載されるという快挙を成し遂げたことは、研究の根幹をなす治療器具であるステントが、世界規模の研究に求められる基準を満たしていることを意味します。こういった大規模な研究を推進し完遂するには大きな資金が必要となります。その金額は、おそらく読者の皆さまが思い浮かべる額よりも、ゼロが後ろに何個も必要な莫大なものです。営利企業の関与が大きいほど、研究という学術行為の社会的責任と産学連携活動に伴い生じる利益が衝突・相反する状態が必然的に発生します。医学系研究の独立性が損なわれたり、結果公表で企業寄りのバイアスも懸念されます。日本においても過去に社会問題化する事件もありました。MASTER DAPT試験に対してテルモ社が資金援助していることはNEJM誌の論文内にもしっかり記載されています。隠すのではなく堂々と開示することが求められる時代です。それに加えて、金銭的な援助はするが、研究デザイン・患者募集・モニタリング・解析・データ解釈・原稿執筆のいずれにもテルモ社は一切関与していないことまで具体的に論文に記載されています。「金は出すが口は出さない」ことが求められるのです。大相撲で、力士のひいき筋・後援者のことをタニマチ(谷町)と呼ぶ隠語があることはご存じでしょう。明治の末ごろ、大阪谷町筋4丁目の相撲好きの外科医である薄恕一(すすき・じょいち)が相撲取りからは治療代を取らなかったことに由来するそうです。タニマチの援助は、繁華街等での豪遊まで広範囲に及んでいたそうです。援助を受ける方にも、提供されるものは相手を精査せずに何でも頂く「ごっつぁん体質」があったようです。現在の社会では容認されない考え方です。我が家には、援助を受けることを当然として生きている、「ごっつぁん体質」の権化がいます。そうです。飼い猫のレオです。猫は支援を獲得する天才です。我が家は猫を飼っているのではなく猫に居ていただいている、猫に遊んでいただいている、援助させていただいているという謙虚な気持ちでお世話しております。これは猫をサポートすることによって、われわれ人間側が享受する歓びがあまりに大きいから成立しているのでしょう。研究を資金面で援助する企業が目に見える形の利益を求めるのではなく、もっと大きな社会的な歓びを獲得できることが肝要と思います。MASTER DAPT試験におけるテルモ社の役割から、新時代のタニマチのあり方を感じ取ってもらえればと思います。あらためまして、MASTER DAPT試験の成功おめでとうございます!Congratulations!

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進むがん遺伝子パネル検査普及と見える課題/日本癌治療学会

 1万8,329例中607例、8.1%。C-CATに登録されたわが国のがん遺伝子パネル累積検査数と、そこから治療に結び付いた症例数および割合である。 2021年10月21~23日に開催された第59回日本癌治療学会学術集会のワークショップにおいて、わが国のがん遺伝子パネル検査の現状が発表された。大幅な検査の増加とともに、いくつかの課題が示されている。検査数も治療に結びついた症例割合も増加 東北大学の小峰 啓吾氏は、がんゲノム医療中核拠点病院における、がん遺伝子パネル検査の経時的な解析結果を発表した。 調査は、がんゲノム医療中核拠点病でのがん遺伝子パネル検査を対象に行われ、2019年6月~2020年1月の第1期と、2020年2月~2021年1月の第2期に分けて分析された。 がん遺伝子パネル検査数は、第1期754例、第2期では2,295例、と第2期で大きく増加した。また、検査から治療に結び付いた症例の割合も、第1期3.7%、第2期7.7%、と第2期で有意に増加した(p<0.001)。 治療に結び付いた症例の治療内訳では治験がもっとも多く、割合は第1期で2.1%、第2期では4.7%と増加していた。また、治験登録数は治療に結びつく症例数と相関していた(R=0.72)。 遺伝カウンセリングが推奨された割合についても、第1期2.4%、第2期では11.1%、と第2期で増加した(p

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第83回 小児にCOVID-19抗体は生じ難い~ワクチンは有望で効果91%

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した成人はほとんど(90%超)が抗体反応を示し、それらの抗体は少なくとも12ヵ月間は持続するようです1)。感染を経て抗体ができた成人の更なる感染は7~9割ほど少なくて済むようになることが示されています2,3)。一方、SARS-CoV-2感染(COVID-19)小児のどれほどが抗体を備えるかはわかっていませんでした。無症状や軽症の小児はなおさらそうです。そこでオーストラリアのMurdoch Children’s Research Instituteの感染/免疫研究者Paul Licciardi氏等は同国メルボルンの非入院の無症状か軽症のSARS-CoV-2感染患者108人を募って小児の抗体反応が成人とどう違うかを調べました4,5)。その結果、小児と成人のウイルス量は同程度だったにもかかわらずSARS-CoV-2への抗体ができていた小児の割合は成人のおよそ半分ほどでしかありませんでした。小児57人の年齢中央値は4歳で、それらのうち解析が可能だった54人のおよそ4割(37%;20/54人)にしかSARS-CoV-2への抗体ができていませんでした。成人は51人(年齢中央値37歳)のうち解析が可能だった42人の8割ほど(76%;32/42人)に抗体ができていました。抗体ができていた成人には細胞免疫も認められましたが、小児はそうなっておらず、小児が感染で確かな細胞免疫を確立することは難しいのかもしれません。SARS-CoV-2感染小児のほとんどは無症状か軽症で済んでいて入院を必要とすることはほとんどありません。しかしデルタ変異株をはじめとするSARS-CoV-2変異株の出現を受けて小児のSARS-CoV-2感染は2021年になって増えており、小児の免疫を危ぶむ声も上がっています。SARS-CoV-2に感染しても抗体ができなかった小児は再感染する恐れがあり、抗体ができ難い小児は長い目で見て成人に比べてSARS-CoV-2感染をより許してしまうのかもしれません。今回の結果によると小児をCOVID-19から守るためにワクチン接種を含む手立てを講じる必要があるようです5)。実際COVID-19ワクチンは成人や10代の若者と同様に幼い小児の感染予防の手立てとなりうることが今週開催される米国FDA諮問委員会に先立って先週末に公表された解析結果6,7)で示されています。第II/III相試験の第1集団2,268人の10月8日までのデータ解析の結果、Pfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b2は5~11歳小児のCOVID-19発症のほとんどを防ぎました。2,268人は2対1の割合でBNT162b2かプラセボに割り付けられ、BNT162b2投与群は1,518人、プラセボ群はその約半数の750人となりました。先立つ感染経験がない小児のCOVID-19発症数はBNT162b2投与群ではわずか3人でした。一方、プラセボ群はBNT162b2投与群より人数が少ないにもかかわらず16人がCOVID-19を発症し、BNT162b2は先立つ感染経験がない5~11歳小児のCOVID-19発症の90.7%を防ぎました。米国FDAの承認や疾病管理予防センター(CDC)の後押しが得られて事がすべてうまく運べば同国の5~11歳小児へのワクチン接種は来月11月の最初の週かその次の週には可能になるだろうと同国政府感染症対策のリーダーAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏は述べています8)。参考1)Feng C,et al. Nat Commun. 2021 Aug 17;12:4984.2)Rovida F,et al. Int J Infect Dis. 2021 Aug;109:199-202.3)Lumley SF, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 11;384:533-540.4)Children with mild COVID-19 may lack antibodies afterward / Reuters5)Reduced seroconversion in children compared to adults with mild COVID-19. medRxiv. October 18, 20216)Pfizer Briefing Document / Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting October 26, 20217)FDA Briefing Document / Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting October 26, 20218)Wuhan research theory 'molecularly impossible': Fauci / abcNEWS

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若年性認知症の特徴~千葉県での多施設調査

 若年性認知症は、65歳未満で発症した認知症と定義されており、頻度はまれであるものの、その社会的影響は大きい。千葉大学の平野 成樹氏らは、千葉県の認知症センター11施設における若年性認知症患者の診断や臨床的および社会的な特徴について調査を行った。Dementia and Geriatric Cognitive Disorders誌オンライン版2021年8月26日号の報告。 レトロスペクティブに1年間調査を実施した。臨床診断、発症年齢、調査年齢、神経心理学的検査、家族歴、就業、生活状況に関するデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・若年性認知症患者208例が特定された。その内訳は、以下のとおりであった。 ●アルツハイマー病:123例(59.4%) ●血管性認知症:24例(11.6%) ●前頭側頭葉変性症:21例(10.1%) ●レビー小体型認知症/パーキンソン病認知症:17例(8.2%) ●アルコール関連認知症:10例(4.8%)・ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア24未満は、50~75%の患者で観察されており、これは罹病期間との相関は認められなかった。・若年性認知症の家族歴を有する患者は、24例(16.4%)であった。・若年性認知症患者は、早期退職のリスクが高かった。また、家族と同居していた患者は133例、子供と一緒に暮らしていた患者は64例(30.8%)であった。 著者らは「認知症センターでは、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症の割合が比較的高かった。若年性認知症患者とその家族に対する、雇用、経済、社会的な支援が早急に求められる」としている。

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細胞培養由来4価ワクチン、小児で良好なインフル予防効果/NEJM

 インフルエンザ流行期の健康な小児/青少年における感染予防では、細胞培養由来4価不活化インフルエンザワクチン(IIV4c、Flucelvax Quadrivalent、英国・Seqirus製)は非インフルエンザワクチンと比較して、インフルエンザワクチン接種歴の有無を問わず良好な有効性が認められ、有害事象の発現は両者でほぼ同様であることが、オーストラリア・メルボルン大学のTerence Nolan氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年10月14日号で報告された。3回の流行期、8ヵ国の無作為化第III/IV相試験 研究グループは、8ヵ国の小児/青少年において、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞株を用いたIIV4c(A/H1N1、A/H3N2、B/Yamagata、B/Victoria)の有効性、免疫原性、安全性の、非インフルエンザワクチン(髄膜炎菌ACWY[A、C、W-135、Y群]ワクチン)との比較を目的に、観察者盲検化層別無作為化第III/IV相試験を行った(Seqirusの助成による)。 3回のインフルエンザ流行期に、8ヵ国(39施設)で参加者(2~<18歳)が募集された。各流行期の参加国は、シーズン1(2017年の南半球の流行期[~2017年12月31日])がオーストラリア、フィリピン、タイ、シーズン2(2017~18年の北半球の流行期[~2018年6月30日])がエストニアとフィンランドで、シーズン3(2018~19年の北半球の流行期[~2019年6月30日])はエストニア、フィンランド、リトアニア、ポーランド、スペインだった。 参加者は、IIV4cまたは髄膜炎菌ACWYワクチンの接種を受ける群(比較群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。全参加者が、試験ワクチンの1回目の接種を受けた。インフルエンザワクチン接種歴がなく、IIV4c群に割り付けられた2~<9歳の小児は、29日目に2回目の接種を受け、比較群に割り付けられた小児にはプラセボが接種された。有効性と安全性に関して、少なくとも180日間の追跡が行われた。 インフルエンザ様疾患に罹患した参加者は、鼻咽頭拭い液を採取され、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法およびウイルス培養でインフルエンザウイルスの有無が確定された。 主要エンドポイントは、2~<18歳の集団における、最終接種から14日以降、流行期最終日までに検査で確認されたA型またはB型インフルエンザの初回発生であった。有効率は、A/H1N1が80.7%、A/H3N2は42.1%、B型は47.6% 3回の流行期に4,514例(平均[SD]年齢8.8±4.1歳、女性48.5%)が登録され、IIV4c群に2,258例、比較群に2,256例が割り付けられた。全体の65.9%がインフルエンザワクチン接種歴を有し、50.7%が2~<9歳であった。 全体のインフルエンザウイルス感染者は、IIV4c群が7.8%(175/2,257例)、比較群は16.2%(364/2,252例)であり、IIV4c群の有効率は54.6%(95%信頼区間[CI]:45.7~62.1)であった。 A型インフルエンザのうちA/H1N1に対するIIV4c群の有効率は80.7%(95%CI:69.2~87.9)、A/H3N2に対する有効率は42.1%(20.3~57.9)であり、B型インフルエンザに対する有効率は47.6%(31.4~60.0)であった。年齢別、性別、人種別、インフルエンザワクチン接種歴の有無別のサブグループで、IIV4c群の有効性(有効率42.1~82.3%)が一貫して認められた。 免疫原性の評価には721例(2~<9歳、IIV4c群364例、比較群357例)が含まれた。IIV4c群における2つの流行期(シーズン2と3)のワクチン接種後の幾何平均抗体価(GMT)は、A/H1N1で283.5から380.7へ、B/Victoriaで45.3から66.8へ、B/Yamagataでは52.8から108.5へと、それぞれ増加した。比較群では、シーズン2と3で接種後のGMT増加は観察されなかった。 接種後6時間~7日までに非自発的に報告された有害事象の割合は、IIV4c群が51.4%、比較群は48.6%であった。発熱(体温≧38.0℃)は、IIV4c群が5.3%、比較群は4.5%にみられ、重度発熱(≧40.0℃)はそれぞれ0.3%および0.2%で発現した。また、重篤な有害事象は、1.1%および1.3%に認められた。担当医によってワクチン関連と判定された有害事象はなく、試験中止の原因となった有害事象もなかった。 著者は、「IIV4cは、卵を使用しないインフルエンザワクチン製造プラットフォームで作製されており、卵馴化変異の回避や、新型のインフルエンザウイルス発生時の対応に要する時間の短縮など、一定の利点を有する」と指摘している。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第13回

コクラン・ライブラリー~該当フル・レビュー論文を読み込んでみるCQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後上記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。前回、コクラン・ライブラリーで”low protein diet”をキーワードに関連先行研究を検索したところ、読み込むべきフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)として、下記の2編が挙げられました。Low protein diets for non‐diabetic adults with chronic kidney disease(慢性腎臓病を有する非糖尿病成人のための低たんぱく食)1)Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対するたんぱく摂取制限)2)文献1)の書誌情報を確認してみると、連載第11回でUpToDate®の活用法を解説した際に引用した文献3)と論文タイトルが若干異なり、また筆頭著者名が変更され、出版年も2009から2020に変わっています。しかし、コクラン・ライブラリー収載フル・レビュー論文の固有IDであるCD番号(CD001892)は同一であり、文献1)は文献3)の「アップデート論文」であることに気が付きます。コクランでは新しいエビデンスを取り入れるために、定期的なフル・レビュー論文のアップデートを著者に求めています。コクラン・ライブラリーのホームページでこの最新のフル・レビュー論文1)を見ると、タイトル、著者名の直下に、Version published: 29 October 2020 Version historyとの記載があります。また、“Version history”には更新履歴のリンクが貼られており、クリックすると2000年11月出版の初版から、2006年4月、2009年7月3)、2018年10月、そして2020年10月の最新版まで計5回にわたってアップデートされていることがわかります。連載第11回執筆時点(2021年8月)では UpToDate®では2018年10月および2020年10月のアップデート論文1)はカバーされていないようでしたので、最新版1)のフル・レビュー論文の内容をチェックしてみましょう。UpToDate®で引用されたバージョン3)と比較すると、システマティック・レビュー(SR:systematic review)に組み込まれたランダム化比較試験(RCT:randomized controlled trial)は10編(解析対象患者数2,000名)から17編(解析対象患者数2,996名)に増えていました。また、UpToDate®で引用されたバージョン3)では行われていなかった、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)と超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)の比較もなされています。その結果は下記の様に記述されています。超低たんぱく食は低たんぱく食と比較して末期腎不全(透析導入)に到るリスクは35%減少する(相対リスク[RR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.49~0.85)が、推定糸球体濾過量(eGFR)の変化に影響を及ぼすかは不明であり、死亡のリスク(RR:1.26、95%CI:0.62~2.54)にはおそらく差はなかった(筆者による意訳)。われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ) は0.5g/kg/標準体重/日未満という厳格な低たんぱく食の効果を検証しようとするものです。このRQにより役立つ先行研究からの知見が、UpToDate®では網羅されてない最新のフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)で言及されていることに気が付きます。これまで述べてきたように、診療ガイドライン、UpToDate®、コクラン・ライブラリー、などの質の高い2次情報源を補完的に活用することにより、効率的で網羅的な関連先行研究のレビューを行うことができるのです。1)Hahn D et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 29;10:CD001892.2)Robertson L et al.Cochrane Database Syst Rev.2000;CD002181. 3)Fouque D et al. Cochrane Database Syst Rev.2009 Jul 08;3;CD001892.

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事実探求にはある程度の強引さも必要?(解説:野間重孝氏)

 現在全国あちこちで心肺蘇生法の講習が行われている。可及的速やかに、最低限の動脈血流を維持することが生命予後に重大な影響を与えると考えられ、実際各方面から支持されているからである。ここで注意しなければならないのは、なぜ最低限の血流を保つことが重要であるかである。それは心肺系の機能維持のためではない。脳神経系の機能の維持が最大の目的なのである。脳は10~15秒間虚血が続くだけで重大な損傷を受ける。これに対して心筋は10~15分の虚血に晒されても、損傷は受けるものの回復が可能である。であるならば、心肺蘇生から回復した人の最大の予後規定因子は中枢神経系の損傷の程度であるはずである。本studyはこの事実を対象を広く取って最終的に証明してみせたものである。 本研究には優れた先行研究があることを紹介しておかなければならない。COACT studyである(Lemkes JS, et al. N Engl J Med. 2019;380:1397-1407.)。実はこの論文の論文評を評者が担当しており、不思議な縁を感じている。このstudyはオランダの19施設が参加して行われたもので、院外心停止から蘇生しST上昇のみられない患者(非ST上昇型院外心停止患者)552人を2群に分け、一方には即時的に冠動脈造影(CAG)を行い必要ならば直ちに治療を施したのに対し、もう1群に対しては至適内科治療を行って経過を観察し、意識回復をしたもののみを対象としてCAGを施行した。両者の間で90日生存率に差はなく、死亡原因を分析すると神経学的損傷に起因するものが圧倒的に多かったことを示した。 このstudyは待機的CAG群で神経学的回復がみられたもののみをCAGの対象にしたという点は医療倫理の面から評価されたものの、統計学的には解釈が複雑なものとされざるを得なかった。またカウンターショックによる蘇生の対象となった患者のみを扱ったことに、患者層の偏りがあるのではないかという問題点も指摘された。 このような疑問点を払拭すべく計画されたのが本試験だった。ただし、一部の方がこうした流れを自然な流れと考えてしまわれないために、PROCAT II registryを紹介しておくことが適当であると思う。このregistryは蘇生に成功した非ST上昇型院外心停止患者958人全員に対してCAGを施行したところ、3分の1にinterventionの対象となる病変が見つかり、実際interventionを施行したと報告したものである。つまり非ST上昇型心停止であっても、それだけ虚血の関与が大きいと主張したのである。しかし一方COACT studyでは逆のことを強調されている。つまり彼らが対象とした非ST上昇型院外心停止回復患者の3分の1には冠動脈の異常が見いだせなかったことがむしろ強調されているのである。COACT studyは院外心停止回復後患者の予後を決定する最重要因子は脳神経損傷であって心血管系疾患ではないと結論しているのだから、この態度は一貫しているといえる。一方PROCAT II groupが冠動脈疾患の治療をした患者の予後が良好だったことを報告したことは評価されなければならないが、では残り3分の2はいったいなぜ心停止を起こしたのか、その予後決定因子は何だったのかについてしっかり追跡、報告する責任があると思われるが、その点は不明確である。つまりstudyの目的が違ったのだが、従来はこうした方向のほうが一般的だったといえるのである。 今回のTOMAHAWK studyではカウンターショックの対象にならない院外心停止患者をも対象に含めた。つまり、完全心停止や電気的機械的乖離なども蘇生に成功したものはすべて対象に含めた。また待機的CAG群では神経学的回復の有無を問わず、全身状態が落ち着き、CAGに耐えられると考えられたもの全員を対象とした。randomized studyとしてはこれが正しいやり方であることには誰も異論はないだろう。この結果脳神経障害の程度こそが非ST上昇型心停止回復例の主たる予後決定因子であり、心血管系因子の関与の程度は低いことをシンプルな統計で証明した。統計デザインがシンプルであるほど結果が明快であることは、いわば常識であるといってよい。 ただし、医療倫理という点からこうした研究方針が正しいのかとする異論もあるだろう。このような無作為分類をすると、脳死状態や植物状態に移行する可能性の高い患者までもstudyの対象に含めてしまうからである。そして先行したCOACT studyはまさにこの点を勘案して神経学的に回復しない患者を除外したのである。この辺の研究の倫理的側面については評者は軽々な発言はできないので、読者の方々に判断を委ねたいと思う。しかし批判はあるものの、非ST上昇型心停止回復後の予後決定因子は圧倒的に脳神経障害の程度が重要であり、心血管系損傷はそれほど大きな因子ではないこと、したがって全身状態が落ち着いてからCAGを行うという方針が妥当であることを明確な形で示したことは大きな事績であると評価されなければならない。上記の問題の観点からみれば、科学的事実の証明のためにはある程度の強引さも必要であることを示した研究だったともいえるのだろうか。

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新型コロナワクチン接種後のリンパ節腫脹はPET陽性になる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第196回

新型コロナワクチン接種後のリンパ節腫脹はPET陽性になるphoto-acより使用私の職場で、新型コロナワクチン接種後に腋窩リンパ節が腫大した看護師さんがいました。当時そこまで知見が集まっていなかったものの、稀ながらこういう副反応もあることを海外の文献で読みました。しかし、がん診療においては解釈に注意が必要です。Schapiro R, et al.Case report of lymph node activation mimicking cancer progression: A false positive F 18 FDG PET CT after COVID-19 vaccination.Curr Probl Cancer Case Rep . 2021 Dec;4:100092.40代女性が、2011年末に左乳がんと診断されました。乳房切除術と、左センチネルリンパ節の摘出を受け後、タモキシフェンの投与が行われました。その後、骨転移を指摘され、レトロゾール、パルボシクリブ、デノスマブによる治療を開始しました。定期的にPET CT検査を受け、次第に臨床的効果が得られている状態でした。しかし、2021年1月の定期的PET CT検査で、左腋窩リンパ節および大胸筋下のリンパ節に集積がみられました。転移を疑っていろいろと検査を受けることになりましたが、生検前にリンパ節が正常サイズに戻っていることがわかりました。あれれ?おかしいぞ。よくよく聞いてみると、患者さんは2021年1月のPET CT検査の1週間前、左腕にモデルナ社製の新型コロナワクチン接種を受けており、これがPET CT偽陽性の原因だったと考えられました。新型コロナワクチン接種後のリンパ節腫脹については、本当に注意が必要で、とくにがん診療をされている医師は安易に転移の診断をしないよう注意が必要です。

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第80回 身近なコロナ死から考える、ワクチン接種キャンペーンへのもやもや感

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新規感染者報告数が急激な減少を続けている。10月18日の全国での新規感染者報告数は230人。この日の東京都の新規感染者報告数は29人。これ以前に東京都で同じ数の新規感染者報告だったのは2020年6月22日だから、実に1年4ヵ月ぶりの低水準である。この感染者急減の原因については諸説あるが、ワクチン接種の進展が一因であるだろうということは多くの専門家の共通した認識のようだ。10月20日公表の日本国内でのワクチン接種完了率は68.3%、高齢者に限ると90.2%にものぼる。全世界での接種完了率で見ても、日本はすでにアメリカ、イギリス、フランス、ドイツも追い抜いている。ワクチン接種の本格スタートが先進国の中でも遅かったとの指摘はあったものの、その後は先頭集団に追いつき、一部は追い抜くというこの結果は、高度経済成長期に見せた「日本らしさ」なのかとも思ったりする。もっとも従来から国が希望者への2回接種を11月中までに完了したいと言っていることを考えれば、これから接種スピードは減速し、徐々にプラトーになることは自明である。そうした中で、現在本格接種が最も遅くなった若年層へのワクチン接種率向上策が一部の自治体で行われている。「若年層のワクチン接種率向上へパソコンなどあたるキャンペーン」 (長野県、NHK)「泉佐野市、ワクチン接種完了でピーチポイント 若年層に動機付け 、4600人に」 (Aviation Wire.jp)「ワクチン接種率向上へ マツダ車などをプレゼント 広島県」 (広島ホームテレビ)「ワクチン接種で石垣島旅行が当たる! 浦添市が接種率向上に向けキャンペーン」 (沖縄テレビ放送)若者向けにインセンティブを用意したキャンペーンを行うのは、若年世代は重症化する危険性が低いために新型コロナを自分事としてとらえきれない、また若年ゆえに長期的な副反応などへの懸念が起きやすいことなどから、ワクチン忌避がほかの年代と比べて多いと指摘されていることも影響しているだろう。たとえば、東京都が行ったアンケート調査結果でも若年層に接種忌避の割合が高いことが明らかになっている。こうした「モノで釣る」的なことに対してはさまざまな意見があるだろう。私個人についていえば、賛成半分、反対半分なのである。そもそも今回、日本でワクチン接種が始まった後に感染力が高い変異株・デルタ株が登場している。米国疾病予防管理センター(CDC)が試算したデルタ株の基本再生産数は5~9.5人。ここから計算すると集団免疫獲得のために求められる接種率は80~89%になる。ところが現在世界を見回しても、接種完了率80%を超えているのは、アラブ首長国連邦(UAE)とポルトガル、地中海の小国マルタしかない。この事実だけでも接種完了率80%以上を実現するのは容易ではないことは明らか。とりわけ人口が1億人を超える日本にとって難易度は高いと言わざるを得ない。そうした中で少なくとも80%を実現するためには、既成概念にとらわれていてはいけないというのがインセンティブ政策へ一定の賛意を示す理由である。一方で反対とも考えてしまう理由は、行政施策の平等性の観点からである。民間企業の戦略ならまだしも、行政施策で特定層に限定したインセンティブ供与は不公平と言うべきである。しかも、今回の新型コロナに対するmRNAワクチンは「副反応自慢大会」とまで言われるほど、SNS上では各人が経験した副反応経過が書き込まれている。高齢ほど発熱などの副反応は軽いと言われているものの、高齢者の中にも副反応経験者はそこそこにいる。それだけ苦痛を伴うものを自ら進んで接種した人ではなく、ワクチン接種をためらっている人にインセンティブを与えるのは、いわば「ゴネ得」にもなりかねない。その意味では若年層へのワクチン接種インセンティブ政策を行う自治体には、ぜひともほかの年代層へも広く薄くて良いので何らかのメリットを提供してほしいと思うのである。また、接種率向上という意味で地方自治体に今一度奮起してほしいことがある。それはアナフィラキシーなどの理由以外で1回接種に留まっている人、あるいは高齢層での未接種者に対する再度の啓発・勧奨アプローチである。現状のように65歳以上の高齢者での接種完了率が90.2%にまで達していることを考えれば、対象者は絞り込みやすいだろう。さらに付け加えれば、接種の優先順位も影響したと思われるが、基礎疾患などがあれば重症化や死に至る可能性がある40代、50代の接種率も向上可能な余地がまだ残されていそうだ。まあ、このように思う理由の一つには最近の私個人の経験も影響している。先週、私用のため東海地方の某市の安ホテルに宿泊していた時のことだ。午前3時半過ぎに珍しく中途覚醒してスマホを手に取った際、LINEにしばらく連絡を取っていなかった中学の同級生からメッセージが着信していることに気づいた。寝ぼけ眼でメッセージを開くと次のように書いてあった。「○○、コロナで亡くなったって、明日お通夜で明後日告別式です」○○は52歳で私の中学、高校の同級生だ。基礎疾患があることは本人からは聞いていたのでリスクは高かったのだろうが、後に聞いたところ入院後すぐ重症化してECMOを装着し、2ヵ月間も眠り続けて力尽きたとのこと。通夜に参列した同級生などによると、たまたま間に合わなかったのか、本人が避けていたのか、単に面倒で後回しになっていたのかはわからないが、ワクチンは未接種だったという。いまさら言っても詮無き事ではあっても、もし接種していたらと考えずにはいられない。私事をつらつら書いて恐縮だが、彼とは6年間も同じ学校にいたが、中学も高校も1学年で350人超というマンモス学校だったので同じクラスになったことは一度もない。ただ、中学1年生の時はクラスが隣同士。中学時代は体育の授業が男女別で2クラス合同なので互いに見知ってはいた。中学は各種運動部を中心とする任意参加の部活動と、全員がどれかに参加する文化系の必修クラブがあった。自分の部活動は水泳部、必修クラブは写真クラブ。彼の部活動はテニス部だった。ちなみに中総体といわれる全国中学校体育大会の地元の予選は、水泳競技以外がほぼ1週間程度のメイン日程の中で集中的に行われ、そこから2週間ほど経ってから水泳競技だけが行われる。ということで、私の場合は中学3年間、メイン日程中は写真クラブの活動が中心だった。カメラを持って各競技場に配置され、3年間担当したのが今回亡くなった彼が所属していたテニス会場だった。中学1年時に撮影に行った際は同じクラスにテニス部員がいなかったこともあり、自分は昼食時に同じ中学のテニス部員たちが陣取っていた場所からちょっと離れたところに座り込み一人で弁当を食べていた。2、3口ほど食べた時、いきなり背中に誰かがぶつかった。振り返ると体育の授業で見知っていた彼が、自分の背中をこっちの背中にくっつけてニッコリ笑いながら自分の弁当を食べ始めた。背中をくっつけ合いながら互いに弁当をほおばって時々会話をした。テニス部OBが差し入れたジュースが余った時にわざわざ持ってきてくれたのも彼だ。心細かった時の事なので、この時のことははっきり覚えている。そんな彼も中年になり、肥満気味になり頭部も薄くなった。でも相変わらず性格は明るかった。最後に会った時も前歯が欠けたままガハガハ笑いながらタバコを吸っていた。今回、LINEをくれた同級生から教わった葬祭場に連絡を取り供花の手配をしたが、そんな花が最も似合わない中年男性の彼に花を贈ることになるなんて思いもしなかった。もうこんな思いはごめんである。だからこそ自分も今一度、一般向けにどのようなワクチン情報を発信すべきかと思いを巡らしている。

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COPD増悪入院患者、肺塞栓症診断戦略の追加は?/JAMA

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪で入院した患者において、通常治療に積極的な肺塞栓症(PE)の診断戦略を追加しても、通常治療のみと比較し複合的な健康アウトカムの有意な改善は認められないことが、スペイン・Universidad de AlcalaのDavid Jimenez氏らが同国18施設にて実施した、多施設共同無作為化非盲検試験「Significance of Pulmonary Embolism in COPD Exacerbations trial:SLICE試験」の結果、示された。PEはCOPDの増悪を呈した患者に多くみられることが報告されているが、増悪により入院したCOPD患者においてPEを積極的に検査することで臨床アウトカムが改善されるかどうかを評価した臨床試験はこれまでなかった。JAMA誌2021年10月5日号掲載の報告。通常治療と、無作為化後12時間以内のPE診断追加を比較 研究グループは2014年9月~2020年7月に、増悪のために入院したCOPD患者746例を、通常治療+積極的なPE診断戦略(無作為化後12時間以内にDダイマー検査→陽性の場合は肺血管造影CT検査)を行う介入群(370例)と、通常治療のみの対照群(367例)に、1対1の割合で無作為に割り付け、3ヵ月間追跡調査した(最終2020年11月)。 主要評価項目は、無作為化後90日以内の非致死的な新規/再発症候性静脈血栓塞栓症(VTE)、COPDによる再入院または死亡の複合エンドポイントであった。副次評価項目は主要評価項目の各イベントとし、有害事象についても評価した。アウトカムの改善には結び付かず 無作為化された746例のうち、無作為化時点で抗凝固薬を投与されていた4例、同意撤回3例、および誤って無作為化された2例を除く737例(98.8%)がintention-to-treat解析対象集団となった(平均年齢70歳、女性195例[26%])。 主要評価項目のイベントは、介入群で110例(29.7%)、対照群で107例(29.2%)に認められた(絶対リスク差:0.5%[95%信頼区間[CI]:-6.2~7.3]、相対リスク:1.02[95%CI:0.82~1.28]、p=0.86)。介入群の対照群に対する無作為化後90日以内の複合アウトカム発生に関するハザード比は1.0(95%CI:0.8~1.3、p=0.82)であった。 無作為化後90日以内の非致死的な新規/再発症候性VTEは、介入群で2例(0.5%)、対照群で9例(2.5%)(絶対リスク差:-2.0%[95%CI:-4.3~0.1]、相対リスク:0.22[95%CI:0.05~1.01])に発生した。COPD増悪による再入院についても、94例(25.4%)vs.84例(22.9%)で両群に差はなかった(2.5%[-3.9~8.9]、1.11[0.86~1.43])。90日死亡率は、6.2% vs.7.9%であった(-1.7%[-5.7~2.3]、0.79[0.46~1.33])。 有害事象については、大出血は介入群で3例(0.8%)、対照群で3例(0.8%)に発生した(相対リスク:1.0、95%CI:0.2~4.9、p=0.99)。

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PCI後心筋梗塞、クロピドグレルによるde-escalation戦略が好結果/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の安定した急性心筋梗塞(AMI)患者において、チカグレロルからクロピドグレル(ローディングなし)への非ガイド下でのde-escalation抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)戦略は、虚血リスクを増大することなく出血リスクを有意に低下し、12ヵ月までの臨床イベントリスク低下がチカグレロルを継続するDAPT戦略よりも優れている。韓国・カトリック大学議政府聖母病院のChan Joon Kim氏らによる同国32施設で実施した医師主導の多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「TALOS-AMI試験」の結果を報告した。PCI後のAMI患者に対しては、クロピドグレルよりも強力なP2Y12受容体阻害薬を最大1年間投与することが推奨されているが、維持期に出血リスクが高い状態が続くことが懸念されていた。Lancet誌2021年10月9日号掲載の報告。チカグレロルからクロピドグレルへの切り替えの安全性と有効性を検証 研究グループは2014年2月26日~2018年12月31日の期間にPCIが成功したAMI患者をスクリーニングし、同意が得られた患者に1ヵ月間アスピリン+チカグレロルによるDAPTを行い、主要有害虚血/出血イベントが認められなかった患者をde-escalation群(アスピリン+クロピドグレル)または継続群(アスピリン+チカグレロル)に、1対1の割合に無作為に割り付けた。 de-escalation群では、チカグレロルからクロピドグレルへ切り替える際、チカグレロル最終投与後の次の投与予定時刻(例:チカグレロル最終投与から約12時間後)に、クロピドグレル75mg(ローディングなし)を投与した。 主要評価項目は、1~12ヵ月までの心血管死、心筋梗塞、脳卒中、出血(BARC出血基準の2、3、5)の複合エンドポイントであった。非劣性マージンは、層別Cox比例ハザードモデルによるde-escalation群の継続群に対するハザード比(HR)が1.34(intention-to-treat集団で絶対差3.0%に相当する)とし、非劣性が認められた場合は優越性を検証した。ローディングなしクロピドグレルへのde-escalation戦略、複合エンドポイントを改善 計2,901例がスクリーニングを受け、2,697例が無作為に割り付けられた(de-escalation群1,349例、継続群1,348例)。 12ヵ月時点で、主要評価項目のイベントはde-escalation群で59例(4.6%)、継続群で104例(8.2%)確認された。HRは0.55(95%信頼区間[CI]:0.40~0.76、非劣性のp<0.001)であり、de-escalation群が有意に優れていた(優越性のp=0.0001)。 心血管死、心筋梗塞および脳卒中の複合では、de-escalation群(2.1%)と継続群(3.1%)で有意差はなかったが(HR:0.69、95%CI:0.42~1.14、p=0.15)、出血(BARC出血基準の2、3、5)はde-escalation群が少なかった(3.0% vs.5.6%、HR:0.52、95%CI:0.35~0.77、p=0.0012)。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験であること、非劣性マージンの幅が広いことなどを挙げ、多枝病変や複雑病変を有するAMI患者へのde-escalation戦略の適用には限界があるとの見解を述べている。

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ESMO2021レポート 肺がん

レポーター紹介2021年のESMOは、6月のASCO、8月のWCLCに続く9月開催ということもあり、肺がん領域では大きなインパクトのある発表はないと思われましたが、重要な試験のアップデート、EGFR-TKIや免疫チェックポイント阻害薬の耐性後の治療開発、希少ドライバー変異に対する新薬や、がん免疫療法の第III相試験など、新たな知見の報告が多くありました。今回はその中から、とくに実臨床や近い将来に影響すると思われる演題について概括します。WJOG9717L試験EGFR遺伝子変異陽性、未治療進行再発、非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを標準治療に、オシメルチニブ+ベバシズマブの優越性を評価した無作為化第II相試験である。活性型EGFR遺伝子変異タイプの割合や約2割の術後再発症例を含むなど、患者背景は同じ対象の過去の試験と同様であった。122例が登録され1:1に割り付けられた。主要評価項目は中央判定による無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は主治医判定のPFS、全生存期間、奏効割合が設定されている。第1世代のEGFR-TKIであるエルロチニブにベバシズマブ(BEV)を併用することでPFS延長効果が第III相試験で示されており、オシメルチニブにBEVを併用することでPFSのさらなる延長効果に大きな期待が集まっていた試験である。BEV併用効果を示すことができなかった本試験の結果は、BEV併用群のPFS中央値22.1ヵ月、オシメルチニブ単剤群20.2ヵ月であった。生存曲線を見ると、治療開始早期から離れていたが24ヵ月あたりでほぼ重なってしまい、ハザード比0.862(95%信頼区間0.531~1.397)という結果だった。医師判定による結果も同様で、BEV併用群24.3ヵ月、オシメルチニブ単剤群17.1ヵ月であり、ハザード比0.801(95%信頼区間0.504~1.272)で差がなかった。サブ解析では、喫煙歴のある集団、del19の集団で併用群のPFSが良い傾向が認められた。奏効率は、BEV併用群82%、オシメルチニブ単剤群86%で同等であるが、Waterfall plotでは併用群は全例で縮小が認められた。しかし、血管新生阻害薬併用時に見られる腫瘍縮小の深さは見られなかった。有害事象で1つ興味深い結果があった。併用群でオシメルチニブに関連する肺臓炎発症頻度が少ないことである。オシメルチニブ単剤群18.3%、併用群3.3%であり、肺臓炎発症リスクを低減させる可能性が示唆される。この傾向は血管新生阻害薬併用の他試験でも見られている。本試験以外に、オシメルチニブにBEVを併用した試験は、T790M遺伝子変異陽性既治療症例を対象に実施された比較試験が2つあり(BOOSTER、WJOG8715L)、いずれも併用によるPFS延長効果を示すことができていない。血管新生阻害薬併用は単純ではなく、EGFR変異タイプ、胸水貯留や間質性肺炎の懸念など、使いどころを考える必要がある。DESTINY-Lung01試験HER2を標的としたADC(Antibody Drug Conjugate活性を:抗体薬物複合体)トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)の第II相試験である。本試験には、標的とするHER2の免疫染色による、HER2過剰発現、またはHER2遺伝子変異を対象とした2つのコホートがある。2020年のASCOでHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん42例の中間解析結果が発表されたが、今回は91例の結果が発表された。主要評価項目は独立評価による奏効割合である。観察期間中央値は13.1ヵ月、年齢中央値60歳、36.3%に脳転移を有し、変異部位はキナーゼドメインが93.4%であった。ほぼ全例が標準治療を受けた既治療例で、HER2-TKI既治療例も一部いた。解析時、15例(16.5%)が治療継続していた。CR 1.1%を含む、54.9%の奏効割合、病勢制御率は92.3%。HER2変異部位、蛋白発現や遺伝子増幅レベル、TKI既治療の有無に関係なく奏効していた。PFS中央値は8.2ヵ月、生存期間中央値は17.8ヵ月で、標準治療後の成績として有望な結果である。有害事象において特筆すべきは間質性肺疾患(ILD)である。24例(26.4%)に薬剤関連のILDが発現し、多く(75%)はGrade1/2であるが、死亡2例(2.2%)を認めた。細胞傷害性抗がん剤がリンカーで結合している薬剤のため、30%を超える消化器毒性と骨髄抑制の発現があり、50%を超える嘔気と倦怠感が最も多い減量理由であった。RET阻害薬が最近承認され、KRAS阻害薬は承認申請中であり、希少ドライバー変異に対する分子標的治療薬が臨床に届き始めた。HER2を標的にする阻害薬はなく、この試験結果から間違いなく期待される薬剤であるが、リスクベネフィットを考慮する必要がある。本研究は発表と同時にNEJM誌に掲載されている。ZENITH20試験(コホート4)HER2エクソン20挿入変異陽性、未治療の非小細胞肺がんを対象にした、経口の汎HERチロシンキナーゼ阻害薬poziotinibの第II相試験である。EGFRとHER2のエクソン20の挿入変異は、非小細胞肺がんにおいてそれぞれ約2~4%に認められ、変異全体の約10%を占めている。またエクソン20挿入変異は既存のTKIに対して耐性を示すことが知られている。HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対し有効な治療はない。本試験には7つのコホートがあり、主に既治療・未治療、EGFR・HER2のそれぞれに対する有効性を検討している。今回のコホートでは、最初の48例にpoziotinib 16mgを1日1回経口投与、以後登録される被験者には8mgが1日2回投与された。年齢中央値は60歳で肺がん試験では比較的若い。未治療48例中21例が奏効し、奏効率43.8%(95%信頼区間:29.5~58.8)であり、主要評価項目を達成した。PFS中央値は5.6ヵ月、そのうち26%の症例はPFSが12ヵ月を超えて持続していた。有害事象は、下痢(83%)、口内炎(81%)、皮疹(69%)、爪囲炎(46%)が認められ、投与中断割合88%、減量割合77%で治療中止割合は13%、と既存の第2世代EGFR-TKIと同程度であり、毒性がやや強いと思われる。治療薬がないドライバー変異に対する新規治療として有効性を示しているが、初回治療成績として臨床的に意義のある有効性とは言い難い。IMpower010試験完全切除された術後IBからIIIA期(UICC第7版)の非小細胞肺がんで、術後化学療法を最大で4サイクル受けた患者を対象に、アテゾリズマブを16サイクル投与する試験治療を経過観察と比較した第III相試験である。PD-L1(SP263)発現陽性54.6%、EGFRまたはALK遺伝子陽性例14.9%が含まれていた。無病生存期間(DFS)を主要評価項目とした中間解析の結果がすでにASCO2021で発表されており、アテゾリズマブは経過観察に比べて、再発または死亡リスクを34%低下させた(ハザード比:0.66、95%信頼区間0.50~0.88)。ASCO、WCLCでの発表に続く今回は、再発の詳細と再発後の治療についての発表で、少しずつ試験の全貌が明らかになってきている。再発率は、PD-L1 TC 1%以上でII~IIIA期の集団で、アテゾリズマブ群29.4%、経過観察群44.7%であった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団では33.3%と43.0%、ITT集団(IB~IIIA期)では30.8%と40.8%であった。再発形式は局所または遠隔のみ、その両方と中枢神経再発別で比較しているが、2群間で大きな差はない。再発形式は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期の集団で、局所領域のみの再発はアテゾリズマブ群47.9%、経過観察群41.2%、遠隔再発のみは38.4%と39.2%、局所と遠隔再発は12.3%と16.7%、中枢神経再発のみは11.0%と11.8%だった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団やITT集団でも、再発形式、その割合はほとんど一緒であり、2群間に大きな差はなかった。無作為化から再発までの期間は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期集団でアテゾリズマブ群のほうが経過観察群より長く、中央値がそれぞれ、アテゾリズマブ群17.6ヵ月(0.7~42.3ヵ月)、経過観察群10.9ヵ月(1.3~37.3ヵ月)であった。また、同集団の再発形式別に見た再発までの期間は、いずれもアテゾリズマブ群のほうが長かった。しかし、無作為化されたII~IIIA期の集団やITT集団では、2群間の再発までの期間中央値は差が小さかった。再発後の治療においても外科治療、放射線治療、化学療法いずれも2群ともほとんど同じ割合であり、免疫療法を受けた割合は経過観察群(35.3%)で、アテゾリズマブ群(11.0%)より多かった。アテゾリズマブ群の再発に関しては経過観察群と比べて特徴のある因子はなく、局所から脳転移などの遠隔転移まで、満遍なく制御していることでDFS延長効果を示した結果であった。また、PD-L1発現50%以上の強発現集団では、DFSのハザード比は0.43と報告されている。現在、アテゾリズマブは術後化学療法に対して承認申請を行っている。本試験の観察期間中央値が32ヵ月であり、生存曲線もテイルプラトーが見られておらず、本当の意味での術後治療の有効性を見極めるためにはもうしばらく時間が要りそうである。IMpower010試験のデータは、Lancet誌に掲載されている。PACIFIC-R Real-World Study切除不能III期非小細胞肺がんを対象として、根治的同時化学放射線療法(CRT)後にデュルバルマブ維持療法を1年間投与する治療を、プラセボと比較して検証したPACIFIC試験のリアルワールドデータである。今年のASCO2021でデュルバルマブ投与による5年生存割合40%と長期生存改善効果が報告され、切除不能III期の予後を大きく改善しているが、試験データがこの1つしかない。良好な治療成績を示したPACIFIC試験だが、プラセボ群の治療成績も良い。そのため、試験に登録された対象全体が全身状態を含め条件の良い症例であると考えられ、患者背景もさまざまな実臨床で治験と同様の成績が証明できるのか疑問があった。この試験は、PACIFICレジメンの実臨床における有効性を後ろ向きに評価した観察研究である。11ヵ国、29施設から登録された1,399例が解析対象となった。患者背景は年齢中央値66歳、StageIIIA 43.2%、扁平上皮がん35.5%、CRT同時併用は76.6%、PD-L1≧1%は72.5%であった。放射線治療終了からデュルバルマブ投与までの期間中央値は56日、デュルバルマブ投与回数中央値22回、PFS中央値は21.7ヵ月で治験成績(16.9ヵ月)より良好であった。デュルバルマブ投与完遂率47.1%、有害事象による中止率16.7%、PDによる中止率26.9%も治験と同様であった。切除不能III期非小細胞肺がんに対するCRT後のデュルバルマブ維持療法の有用性は、リアルワールドでも裏付けられた結果といえる。CASPIAN試験進展型小細胞肺がんを対象に、プラチナ+エトポシドを標準治療とし、デュルバルマブの併用、デュルバルマブ+tremelimumabの併用をそれぞれ評価した第III相試験である。主要評価項目である全生存期間の延長効果がデュルバルマブの上乗せによって示され、肺がん診療ガイドラインで推奨されている。最近、Lancet Oncology誌に掲載された2年フォローアップ解析の生存データの報告も新しい。今回の発表では、追跡期間中央値39.4ヵ月の3年生存割合のアップデート結果が示された。進展型小細胞肺がんで3年生存まで解析するのは珍しい。報告された生存に関する解析では、両群のハザード比が0.71、95%信頼区間0.60~0.86、3年生存割合が試験治療群17.6%、標準治療群5.8%という結果で、生存曲線の開きを維持しつつ、3年生存率の差が3倍になりテイルプラトーも見られた。小細胞肺がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の上乗せによる長期生存効果が確認できたが、非小細胞肺がんと違い、有望なバイオマーカーがなく、開発に期待したい。CheckMate-743試験切除不能進行、未治療悪性胸膜中皮腫の1次治療に対して、ニボルマブとイピリムマブ併用療法の試験治療を、標準化学療法であるペメトレキセドとシスプラチンまたはカルボプラチンと比較した第III相試験である。観察期間中央値29.7ヵ月で実施された事前指定の中間解析においてハザード比0.74(96.6%信頼区間:0.60~0.91、p=0.0020)と、ニボルマブとイピリムマブ併用療法による生存延長効果が示されているが、今回、観察期間中央値43.1ヵ月の3年長期生存結果と探索的バイオマーカーの解析結果が発表された。生存期間中央値は、ニボルマブとイピリムマブ併用群18.1ヵ月、標準治療群14.1ヵ月でハザード比0.73(95%信頼区間0.61~0.87)であった。3年生存割合は、23%と15%で、少しずつ年次生存率の差は小さくなっている。生存曲線はしっかり離れているがテイルプラトーは見え始めたような印象である。腫瘍組織のRNAシークエンスを用いてCD8A、STAT-1、LAG-3、PD-L1の4遺伝子の発現スコア、TMB、LIPI(Lung immune prognostic index、好中球/リンパ球比とLDHから算出される)と生存の関連が解析された。ニボルマブとイピリムマブ治療を受けた集団において、4遺伝子の発現スコアが高い集団で生存が良かった(21.8ヵ月vs.16.8ヵ月)。一方、化学療法群ではスコアによって生存に差がなかった。TMBやLIPIスコアに関係なく、ニボルマブとイピリムマブ群の生存が良い傾向が示された。WJOG9616L試験PD-1(L1)抗体が有効であった進行再発非小細胞肺がんに対して、ニボルマブ投与の有効性を検討した第II相試験である。主要評価項目は奏効割合、副次評価項目は無増悪生存期間、全生存期間などとなっている。標準治療を受けた既治療進行肺がんでは、前治療で奏効が得られた抗がん剤の再投与による治療は、比較的広く受け入れられている。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の再投与の有効性は、症例報告で散見されている程度である。対象は、CR、PRもしくは6ヵ月以上のSDの臨床的有効性が得られ、その後に増悪し、最終投与から60日以上経過している61症例で、59例で有効性が解析された。奏効割合は8.5%、無増悪生存期間中央値2.6ヵ月、全生存期間中央値は11.0ヵ月だった。診断時のPD-L1発現や前治療ICIの効果(41例がCRまたはPR)と有効性は関連性がなかった。ICI無効後のリチャレンジの有効性はない結果となったが、irAEなどで中止後の再投与とは違うと思われる。おわりに今回取り上げた演題以外にも知っていただきたい発表がたくさんありますが、臨床に反映できる内容が良いと考えて演題を選び概括させていただきました。まずはこのレポートが、多くの先生方に読んでいただき、今の臨床に役立つ内容になっていれば幸いです。

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