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記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD【知って得する!?医療略語】第1回

第1回 記憶に残る医療略語―多尿に関連したPOD「POD」は医学界では“Post-Operative Day”(術後○○日目)を意味することが多いですが、PODが別の意味を持つことはありますか?コム太君、そうなんです。1つの略語でも複数の意味を持つことがありますね。カルテで見かける「POD」は圧倒的に“術後〇〇日目”を意味する「POD」が多いですね。でも、あまり知られていないけれど、“Post obstructive diuresis”(尿閉解除後利尿)という“疾患・病態”を意味する「POD」もあるんですよ。カルテでみかけたら、意味を間違えないようにしましょうね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】POD【日本語】尿閉解除後利尿【英字】Post obstructive diuresis【分野】腎・泌尿器【診療科】救急/集中治療・泌尿器・腎臓【関連】尿路閉塞・利尿過多・電解質異常【略語】POD【日本語】術後○○日目【英字】Post-Operative Day【分類】カルテ表現【分野】―【診療科】外科一般【関連】術後日数実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。本シリーズでは皆様のお役に立つかもしれない医療略語をご紹介していきます。今回は「POD」です。外科系の先生は、この「POD」から“Post-Operative Day”(術後◯日目)を連想されるのではないでしょうか。しかし、「POD」が「尿閉解除後利尿」を表していることがあります。そこで今回は尿閉解除後利尿に関する話題を取り上げたいと思います。PODは1951年にWilsonらにより尿閉解除後のナトリウムと水の過剰排泄により生命の危機を来たした3例として報告されたのが最初とされます。国内の論文報告を調べると、「POD」は「尿管閉塞解除後利尿」「閉塞後利尿」「尿閉解除後利尿」「尿閉解放後」と訳されており、統一した和訳はありませんが、いずれも尿路閉塞解除後に生じる利尿過多の病態を指しています。本邦でも、1984年には既にPODと略されています。1987年に比嘉氏らが尿管閉塞61例における尿閉解除後の尿量を報告1)しており、55例中16例では24時間蓄尿で5L以上の尿量が記録されています。日常診療で尿閉患者さんは時々遭遇し、バルーンカテーテルで尿閉を解除する機会は多いと思います。一方、日々の臨床でたまに、原因不明の多尿患者さんに遭遇することがあります。PODの概念を知っておくことは、多尿患者さんの鑑別に役立つかもしれません。PODのメカニズムと管理については、以下に詳述されていますのでぜひご参照ください。A guide for the assessment and management of post-obstructive diuresisurology news MARCH/APRIIL 2015 VOlL19 No31)Higa I, et al. Kinyokika Kiyo. 1987;33:1005-1010.

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機械学習でアトピー性皮膚炎患者を層別化

 アトピー性皮膚炎(AD)の治療を巡って、近年の治療薬の開発に伴い、対象患者の層別化の重要性が指摘されている。そうした中、ドイツ・ボン大学病院のLaura Maintz氏らはAD重症度と関連する主要因子を明らかにするため、同病院入院・外来患者367例について機械学習ベースの表現型同定(deep phenotyping)解析を行い、アトピースティグマと重症ADとの関連性や、12~21歳と52歳以上で重症ADが多くなる可能性などを明らかにした。 ADは、ごくありふれた慢性の炎症性皮膚疾患であるが、表現型は非常に多様で起因の病態生理は複雑である。著者は、「今回の検討で判明した関連性は、疾患への理解を深め、特定の患者に注視したモニタリングを可能とし、個別予防・治療に寄与するものと思われる」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年11月10日号掲載の報告。 研究グループは、思春期および成人ADの重症度関連因子の表現型を深める検討として、2016年11月~2020年2月に前向き追跡試験に登録されたボン大学病院皮膚科の入院・外来患者を対象に断面データ解析を行った。 被験者を、Eczema Area and Severity Index(EASI)を用いて重症度別にグループに分け、AD重症度と関連する130の因子について、相互検証ベースの同調機能を有する機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法で解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、367例(男性157例[42.8%]、平均年齢39歳[SD 17]、成人94%)。うち177例(48.2%)が軽症(EASI:≦7)、120例(32.7%)が中等症(EASI:>7~≦21)、70例(19.1%)が重症(EASI:>21)であった。・アトピースティグマは、重症ADと関連する可能性が高かった(口唇炎のオッズ比[OR]:8.10[95%信頼区間[CI]:3.35~10.59]、白色皮膚描画症:4.42[1.68~11.64]、ヘルトーゲ徴候:2.75[1.27~5.93]、乳頭湿疹:4.97[1.56~15.78])。・女性は、重症ADと関連する可能性が低かった(OR:0.30、95%CI:0.13~0.66)。・総血清免疫グロブリンE値1,708IU/mL超、好酸球値6.8%超は、重症ADと関連する可能性が高かった。・12~21歳または52歳以上の患者は、重症ADと関連する可能性が高く、22~51歳の患者は軽症ADと関連する可能性が高かった。・AD発症年齢が12歳超では30歳をピークに重症ADと関連する可能性が高く、AD発症年齢が33歳超では中等症~重症ADと関連する可能性が高く、小児期の発症では7歳をピークに軽症ADと関連する可能性が高かった。・重症ADと関連するライフスタイル要因は、身体活動が週に1回未満と、(元)喫煙者であった。・円形脱毛症は、中等症AD(OR:5.23、95%CI:1.53~17.88)、重症AD(4.67、1.01~21.56)と関連していた。・機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法の予測能は僅差であった(それぞれの平均マルチクラスAUC値:0.71[95%CI:0.69~0.72]vs.0.68[0.66~0.70])。

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英語で「検査をしてほしい」は?【1分★医療英語】第5回

第5回 英語で「検査をしてほしい」は?I might have been exposed to COVID.Can I get tested for it?(コロナウイルスに曝露してしまったかもしれません。検査を受けることはできますか?)Okay,do you have any symptoms?(わかりました、何か症状はありますか?)《例文1》He needs to get tested for Hepatitis B before the surgery.(彼は手術前にB型肝炎検査を受ける必要があります)《例文2》You haven’t got tested for STI for the past three years. Would you like?(ここ3年間性病検査を受けていないようですね。検査されますか?)《解説》“get tested for A”で、「Aの検査を受ける」という表現になります。医療現場でも“want to get tested for COVID”という表現で、患者から検査を要求されることが頻繁にあります。この言い回しは使い勝手が良く、たとえば医師が患者に説明する際にも、“You need to get tested for A(Aの検査を受ける必要があります)”などと説明することができます。ちなみに、日本ではメディアが「新型コロナウイルス」という表現を使って報道しているのに対して、医療現場を除いた日常会話では「コロナ」という略称を使うことが多いかと思います。一方、米国のメディアは“COVID-19”や“Coronavirus”という表現で報道することが多いです。そして、日常ではほとんどの人が“COVID(コービッ)”と言います。“Coronavirus”や“Corona”を聞くことはまずありません。「COVID-19の検査を受けたい」という表現では、“I want a COVID test”という非常にシンプルな伝え方もあります。こちらの表現も日常的によく使われます。“I want to get tested for COVID”と同じ意味ですが、ネイティブからすると、“I want a COVID test”のほうがやや楽観的な印象を受けるようです。講師紹介

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第89回 米国が自宅でのCOVID-19検査も無料化、英国は自宅治療を検討

6日のReutersのニュースによると、いまや米国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染が少なくとも16の州で認められています1)。それらオミクロン株感染の多くはワクチン接種済みの人に生じており、幸いなことに症状は軽度です。米国での先週の1日当たりのSARS-CoV-2感染(COVID-19)者数は平均約12万人(11万9,000人)でした。米国疾病管理予防センター(CDC)の長Rochelle Walensky氏によるとそれら新規感染のほぼすべて(99.9%)は依然としてデルタ株によるものです。しかしオミクロン株らしき報告は多くなっており、おそらくその感染数は今後増えると同氏は予想しています。さしあたり軽症ともっぱら報告されているとはいえまだはっきりしないオミクロン株感染重症度の見きわめに科学者が取り組み、保健部門がこれからの寒い季節の感染数増加への準備を進めるなか、米国政府はデルタ株やオミクロン株から同国民を守るための新たな対策を発表しました2)。今後は米国の誰もが家庭でのCOVID-19検査を無料で受けられるようになります。民間保険に加入している1億5,000人超は病院や薬局で検査を無料で受けられることに加えて自宅での検査も保険からの支払いで無料になります。民間保険に非加入の人は米国全域の2万を超える無料検査拠点を利用できることに加えて自宅でできる無料の検査製品を保健所や病院から配布してもらえるようになります。バイデン政権はワクチン接種を引き続き推進し、飛行機・鉄道・バスなどの公共交通でのマスク着用義務を継続します。マスク非着用の違反には罰金が課されており、最低でも500ドル、違反を繰り返す人は最大3,000ドルを払わねばなりません。米国が検査なら大西洋を挟んだその隣国・英国は家庭で使えるCOVID-19治療探しに取り組みます。COVID-19治療を同定して広める世界的な取り組みを率いてきたことを自負する英国はオミクロン株感染に弱そうな人を守るべく米国Merck(メルク)社の経口薬Lagevrio(モルヌピラビル/molnupiravir)を家庭に届ける試みを準備しているようです3)。その取り組みでは病弱な人や免疫が低下している人のCOVID-19検査陽性判定から48時間以内に同剤が自宅に届けられる予定です。家庭での治療が検討されるのはモルヌピラビルの他にもあるらしく、その詳細は追って伝えると政府の広報担当者は話しています。Reutersのニュースによると英国では先週末12月5日(日曜日)までに246人のオミクロン株感染が確認されています4)。12月5日の感染者数は86人でした。新たな決まりとしてイングランドはオミクロン株感染らしき人と接触した人に10日間の隔離を義務付けています5)。参考1)Omicron variant found in nearly one-third of U.S. states / Reuters2)President Biden Announces New Actions to Protect Americans Against the Delta and Omicron Variants as We Battle COVID-19 this Winter / WHITE HOUSE3)Covid antiviral pill molnupiravir/Lagevrio set for UK at-home trials / Guardian4)UK reports 86 new cases of Omicron COVID-19 variant, total 246 / Reuters5)New rules in response to Omicron variant / Gov.UK

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高血糖の進行に影響を及ぼす抗精神病薬の関連因子

 抗精神病薬は、高血糖リスクを高める危険性がある。高血糖の進行に影響を及ぼす因子として、抗精神病薬の種類、1日投与量、数量などが挙げられているが、これらとの関連を調査した研究は少ない。北海道大学の石川 修平氏らは、高血糖の進行に関連すると考えられる背景因子で調整した後、高血糖の進行に影響を及ぼす抗精神病薬治療の関連因子について調査を行った。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年10月9日号の報告。 新規に抗精神病薬治療を開始した患者を対象に高血糖の発生率を12ヵ月間調査した全国多施設共同プロスペクティブ研究を実施した。ベースライン時に正常な血糖値であった患者631例を対象に人口統計データ、処方歴、血液検査値を収集した。主要評価項目は、高血糖の発生率(正常状態から糖尿病予備軍または糖尿病が疑われる状態への進行)とし、統合失調症患者を対象とした日本のモニタリングガイダンスに基づき評価を行った。経時的なグルコース代謝に対する抗精神病薬の影響を調査するため、各抗精神病薬治療開始3、6、12ヵ月後のHbA1cレベルの変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・ゾテピンおよびクロザピンの使用が、高血糖の発生率の高さと有意に関連していることが示唆された。・ゾテピン治療開始6ヵ月後のHbA1cレベルの変化は、ブロナンセリンおよびハロペリドール治療と比較し、有意に高かった。・対照的に、同期間の総コレステロール、トリグリセライド、HDLコレステロール、BMIの変化に有意な変化は認められなかった。・高血糖の発生と抗精神病薬の1日投与量および数量との関連は認められなかった。・しかし、抗精神病薬のH1、M1、M3、5-HT2C受容体に対する阻害作用の強さに基づき2つの群に分類した事後分析では、抗精神病薬の中~高用量治療群における高血糖の発生は、低用量群と比較し高かった。 著者らは「抗精神病薬の1日投与量や数量ではなく、種類が高血糖の発生率に影響を及ぼしている可能性が示唆された。なかでもゾテピンは、高血糖の発生率を増加させる可能性が高く、とくに注意が必要であろう」としている。

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ファイザー製ワクチン2回目後、90日から徐々に感染増加/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防におけるBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製、21日間隔で2回接種)は、2回目接種から数ヵ月後には重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の防止効果が低下し始め、2回目接種から90日以降はブレークスルー感染リスクが徐々に増加することが、イスラエル・Leumit Health ServicesのAriel Israel氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年11月25日号で報告された。イスラエルの後ろ向きのtest negative design研究 研究グループは、BNT162b2ワクチンの2回目接種後の経過期間とCOVID-19の罹患リスクとの関連を評価することを目的に、test negative designを用いた後ろ向き症例対照研究を行った(イスラエル・Leumit Health Servicesなどの助成を受けた)。 解析には、イスラエルの大規模な国立医療機関であるLeumit Health Servicesの電子健康記録(electronic health records)が用いられた。対象は、年齢18歳以上、2021年5月15日~9月17日の期間に逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)による検査を受け、ワクチンの2回目接種後少なくとも3週間が経過し、3回目の接種は受けておらず、COVID-19の既往歴がない集団とされた。 解析では、2回目接種からRT-PCR検査までの期間が90日未満の集団を参照として、30日ごとに90~119日、120~149日、150~179日、180日以上の集団に分けた。また、全年齢層のほか、3つの年齢層(60歳以上、40~59歳、18~39歳)に分けて解析が行われた。 主要アウトカムは、RT-PCR検査で検出されたSARS-CoV-2感染とされた。SARS-CoV-2陽性例と対照(陰性例)を、検査を受けた週、年齢層、人口統計学的集団(超正統派ユダヤ教徒、アラブ系住民、一般人口)でマッチさせた。条件付きロジスティック回帰を用いて、年齢、性、社会経済的状況、併発疾患で補正し、感染リスクの補正後オッズ比(OR)を算出した。ブレークスルー感染率:接種後90日未満1.3%から180日以上は15.5%に上昇 研究期間中に8万3,057例(平均年齢43.97[SD 16.89]歳、女性4万3,554例[52.4%])がSARS-CoV-2感染を検出するRT-PCR検査を受け、7,973例(9.6%)が陽性であった。2回目接種からRT-PCR検査までの期間中央値は164日(IQR:138~185)であった。マッチング後のコホートは、陽性例が6,320例、陰性例は3万1,600例だった。 マッチング前の集団における2回目接種後の経過期間(日数)中央値は、3つの年齢層のいずれにおいても、RT-PCR検査陽性例が陰性例よりも有意に長かった。すなわち、60歳以上では、陽性例が192日、陰性例は173日(p<0.001、標準化平均差[SMD]:0.61)、40~59歳ではそれぞれ185日および166日(p<0.001、SMD:0.62)、18~39歳では174日および164日(p<0.001、SMD:0.62)であった。 マッチング前の集団における2回目接種後のSARS-CoV-2陽性率(ブレークスルー感染の割合)は、接種後の経過期間が長くなるほど有意に高くなり、21~89日(参照集団)の1.3%に対し、90~119日が2.4%(OR:1.91、95%信頼区間[CI]:1.39~2.67)、120~149日が4.6%(3.67、2.75~4.98)、150~179日が10.3%(8.82、6.67~11.90)、180日以上は15.5%(14.10、10.68~19.01)と、経時的に上昇した。また、2回目接種から180日以上が経過すると、3つの年齢層のすべてでSARS-CoV-2陽性率が有意に上昇していた(p<0.01)。 マッチング後の集団における2回目接種から90日以上経過後の、参照集団(90日未満)と比較した感染の補正後ORは、90~119日が2.37(95%CI:1.67~3.36)、120~149日が2.66(1.94~3.66)、150~179日が2.82(2.07~3.84)、180日以上は2.82(2.07~3.85)であった(30日間隔ごとのp<0.001)。 著者は、「これらの知見の解釈は、観察研究デザインの制約を受けるが、3回目のワクチン接種の検討が必要であることを示唆する」としている。

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第86回 “外交官”のオミクロン株感染から学ぶ、入国禁止以外にできる水際対策とは

一体、私たちはギリシャ文字のアルファベットをいくつ覚えなければならないのだろう。そしてこれまでの各方面の努力が水泡に帰するのだろうか? 南アフリカ(以下、南ア)が起源と考えられている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新たな変異株・オミクロン株の登場に世界が震撼している。ちょうど先週末から今週初めまである地方都市に滞在していたので、夜の飲食店の暖簾をくぐったが、カウンターだけの店内ではオジサンだらけ(もちろん自分も含めてである)。そこでもほかの客が時々「オミクロン」と口にしていて、ややうんざりしてしまった。もっとも私自身は何もオミクロン株を軽視しているわけではない。むしろこれまでよりも厄介なのではないかとすら思っている。すでに広く知られているように、オミクロン株は新型コロナウイルスの野生株と比べ、スパイクタンパク質部分に30ヵ所以上の変異を有し、この数はこれまでの変異株の中で最多。このうち約半分が受容体結合部位(RBD)に関する変異で、常識的に考えれば、この数の多さだけで感染やワクチン接種によりできた抗体の抗原認識能力は低下すると考えられる。しかも細胞へのウイルスの侵入を容易にし、感染性の増強に関わる変異も有するので極めて厄介と言わざるを得ない。起源と言われる南アでは昨年5月下旬から9月初旬にかけての第1波、昨年11月下旬から今年2月上旬にかけての第2波、そして今年5月中旬から9月下旬まで続いた第3波を経験し、11月中旬から第4波とみられる感染流行を見せている。この第4波では各国で猛威を振るい日本の第5波を引き起こしたデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進み、感染流行の主流株になりつつあるという。その意味でオミクロン株はデルタ株より感染力は増している可能性があり、実際一部の事例の報告からその可能性がうかがい知れる。たとえば、香港では入国後に検疫用隔離ホテルに滞在していた南ア渡航歴がある人でオミクロン株感染が判明し、同じホテルでこの感染者の真向いの部屋に滞在していたカナダからの帰国者でも感染が発覚。その後の調査から同じフロアの廊下などの環境中からもオミクロン株が検出されている。このような経緯もあり、日本政府は11月27日から水際対策の強化を目的に南アとそれに隣接するナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)、レソトの計6ヵ国からの入国者に国指定の宿泊施設で10 日間の待機を義務付け、翌28日にはこの対象国にザンビア、マラウイ、モザンビークを加えた。もっともアフリカの事情を考えた場合、この対策は不十分だと思い、私個人はそのことをTwitterでツイートもしていた。何かというと、アフリカ大陸は1880年代から第一次世界大戦期までの「アフリカ分割」と称されるヨーロッパ列強による植民地支配により、各国とも人流において、当時の支配者だったいわゆる旧宗主国とのつながりが深い。たとえば当初の水際対策強化の対象だった6ヵ国の場合はそうした事情でイギリスが旧宗主国であり、追加された3ヵ国のうちモザンビークはポルトガル、残り2ヵ国もやはりイギリスがそれである。つまりこれらの対象国からの流入阻止を考えた場合、ヨーロッパからの入国にも一定の制限を設けなければ理屈に合わない。また、前述の9ヵ国から日本への直行便はないため、これらの国からの来日はアフリカ大陸でも世界各地への旅客機の本数が多いエジプト、エチオピア、ケニア、あるいは中東のアラブ首長国連邦やカタール、アジア圏内の韓国、中国、タイ、シンガポール各国を経由する。つまりこのルートも厳重警戒を払わねばならない。結局のところ水際対策を強化するならば、ほぼ全世界からの入国に対して対策強化をしなければならないのだ。その意味で11月30日午前0時から全世界からの外国人の入国を1ヵ月停止し、オミクロン株が確認されている各国からの日本人帰国者を厳重な隔離施設で待機させるとした首相官邸の決定は、かなりの英断だったと個人的には評価している。ただ、最終的に撤回はされたものの、国土交通省を通じて日本に到着する国際線を運航する各航空会社に新規予約を止めるよう要請していた件は、不安に駆られ帰国を急ぎたい日本人をさらに不安に陥れるという意味で愚策だったことは確かだ。また、日本の在留資格を有する外国人が、日本入国直前14日以内に前述の9ヵ国にアンゴラを加えた10ヵ国に滞在歴がある場合、特段の事情がない限り再入国を原則拒否する決定もやり過ぎの感がある。在留資格を持つということは日本に一定の生活基盤があることを意味し、そうした人たちを追い返すのは人道上問題だからだ。さて、それだけの対策を取っていても、日本では11月28日に入国したナミビア滞在歴のある30代男性、29日にペルーから入国した20代男性の合計2人のオミクロン株感染者が確認された。ナミビアからの入国者に関しては外交官で、モデルナ製ワクチンを2回接種済みだったと報じられている。正直、ブレークスルー感染という事実以上に、私は日本で確認された1例目が外交官だったことに衝撃を受けている。表現が適切と言い難いかもしれないが、外交官と言えば、どこの国であっても社会の上流層だ。ナミビアの人口当たりのワクチン接種完了率は、「Our World in Data」によると12月1日時点で11.39%で、この外交官はまさに国民の10人に1人の恩恵にあずかった人である。そのナミビアは国連が算出した所得分布の不平等さ、つまり経済格差を表す「ジニ係数」は世界2位。ワクチンを接種できる外交官が感染する社会・衛生状況ならば、下流層はどうなっているのだろうか? いわんや、ジニ係数で世界1位、アフリカ大陸内での国別人口ランキング5位、人口密度はナミビアの16倍でオミクロン株の起源国と言われる南アの実際の状況はいかばかりかと想像してしまう。さらに12月2日午前段階で日本も含め世界の27ヵ国・地域でオミクロン株の感染者が確認されているが、そのうちの1つ、ベルギーで確認されている事例はアフリカ大陸内で国別人口第2位(約1億39万人)のエジプトへの渡航歴を有する人であり、お隣の韓国で確認された事例はアフリカで最大の人口(約2億96万人)を有するナイジェリアに渡航した韓国人だったと報じられている。これらも渡航目的が業務であれ観光であれ、この時期と社会環境で渡航できる以上、衛生面にも配慮が可能なある程度の裕福な層の人だろう。そうした人たちがこの巨大な人口を有する国で感染してしまうのである。これらを総合すると、アフリカでのオミクロン株の蔓延は数字で判明している以上のものなのではないかと考えられる。もっとも現状でのせめてもの救いは、各国で判明しているオミクロン株の感染者の多くが無症候か軽症であるということ。ただ、いまだに新型コロナに対抗する手段が十分とは言えない状況では、軽症であれ感染者が増加するのは看過できない事態である。水際対策では完全に流入を防ぎきれるものではないことは確かだが、メリハリをつけながらも当面は厳重な体制を敷くほうが合理的ではないだろうか。一方、懸念されるワクチンの効果減弱だが、理論上はワクチンの効果が低下すると予想されているが、そうした中でイスラエルからファイザー製ワクチンのブースター接種完了者で検討したオミクロン株に対する有効率が、感染予防で90%、重症化予防で93%と報道されている。数字だけを見れば安心してしまうが、そもそも国内で4例しかオミクロン株の感染者がいないイスラエルで、南アのデータなども参考にして算出したともいわれているが、根拠が不明確で額面通りに受け取るのは難しい。とくに日本の場合はブースター接種が医療従事者で始まったばかりで、参考にするには状況が違いすぎる。また、ここで浮かび上がってきた課題がある。それはワクチン接種率の低い発展途上国で新たな変異株が登場したという現実だ。今回警戒されているアフリカ南部10ヵ国のワクチン接種完了率は、Our World in Dataによると、最高でレソトの26.51%、最低はマラウイの3.06%である。こうした接種率の低い国が存在すれば、そこで感染が激増し、変異株を生むことになる。そうなればワクチン接種と変異株登場のイタチごっこが続くだけだ。日本や先進国は自国の接種率向上やブースター接種推進を急ぐだけでなく、こうした国々へのワクチン供与などで協調支援に動くべき段階に来ているとも言えるだろう。

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乳児・遅発型のポンペ病の標準治療となるか?/サノフィ

 サノフィ株式会社は、ポンペ病治療剤アバルグルコシダーゼアルファ(遺伝子組換え)(商品名:ネクスビアザイム)点滴静注用100mgを、11月26日に発売した。 アバルグルコシダーゼアルファは、ポンペ病(糖原病II型)において、乳児型ポンペ病(IOPD)および遅発型ポンペ病(LOPD)の新たな標準治療となる可能性がある。世界で5万人の患者が推定されているポンペ病 ポンペ病は進行性の筋疾患で、運動機能や呼吸機能の低下を来す希少疾患。ライソゾーム酵素の1つである酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の遺伝子の異常によりGAA活性の低下または欠損が原因で生じる疾患で、複合多糖(グリコーゲン)が全身の筋肉内に蓄積する。このグリコーゲンの蓄積が、不可逆的な筋損傷を引き起こし、肺を支える横隔膜などの呼吸筋や、運動機能に必要な骨格筋に影響を及ぼす。世界でのポンペ病の患者数は5万人と推定されて、わが国では、指定難病研究班により実施された全国疫学調査において、患者数は134人と報告されている。 ネクスビアザイムは、筋細胞の中にあるライソゾームにGAAを送り届け、グリコーゲンの分解を促すことで、本症がもたらす重大な症状である呼吸機能、筋力・身体機能(運動能力など)を標準治療薬であるマイオザイム(アルグルコシダーゼアルファ)よりも改善させる目的で開発された。 わが国では2020年11月27日に希少疾病用医薬品に指定され、米国食品医薬品局は、2021年8月に承認、英国の医薬品・医療製品規制庁は、本剤を有望な革新的医薬品に指定している。 2021年9月のわが国での製造販売承認取得では、ピボタル第III相二重盲検比較試験のCOMET試験と第II相Mini-COMET試験の肯定的な結果が審査された。前者では、遅発型ポンペ病の患者を対象としてネクスビアザイムの安全性と有効性を標準治療薬であるアルグルコシダーゼアルファとの比較で検討した。後者では、アルグルコシダーゼアルファの投与経験のある乳児型ポンペ病患者を対象にネクスビアザイムの安全性を主に評価するとともに、探索的に有効性の評価を行った。 その結果、前者の試験では、アルグルコシダーゼアルファに比べネクスビアザイムは、第49週時点における努力肺活量(%FVC)が2.4ポイント改善し、主要評価項目である非劣性が示された(p=0.0074;95%CI,-0.13,4.99)。 また、後者の試験では、6ヵ月時点では、アルグルコシダーゼアルファの治療時に悪化または効果不良がみられた患者において、有効性の評価項目である粗大運動能力尺度-88、簡易運動機能検査、ポンペPaediatric Evaluation of Disability Inventory、左室心筋重量のZスコアおよび眼瞼の位置に改善または安定化がみられた。 いずれの試験でも重篤または重度の治療と関連する有害事象は認められなかった。アバルグルコシダーゼアルファの概要一般名:アバルグルコシダーゼアルファ(遺伝子組換え)販売名:ネクスビアザイム点滴静注用100mg効能または効果:ポンペ病用法および用量:通常、アバルグルコシダーゼアルファ(遺伝子組換え)として、遅発型の患者には1回体重1kgあたり20mgを、乳児型の患者には1回体重1kgあたり40mgを隔週点滴静脈内投与する。国内製造販売承認取得日:2021年9月27日薬価収載日:2021年11月25日発売日:2021年11月26日製造販売会社:サノフィ株式会社

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接種勧奨再開のHPVワクチン、男性にも高い有効性

 副反応の報道により、2013年から個別接種の積極的勧奨が中止されていたHPVワクチンについて、国内外から有効性と安全性を認める報告が集積し、ついに2022年4月から積極的勧奨が再開される見通しだ。定期接種として無料で接種できるのは13~16歳の女子だが、同ワクチンが若年男性の感染症およびウイルス起因のがん予防に有効であるという報告が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版11月12日号に掲載された。 米国マウントサイナイ医科大のStephen E Goldstone氏らによる本研究は、4価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを用いた、16~26歳の男性1,803例を対象とした無作為化プラセボ対照試験。10年間の追跡調査で、HPV6または11に関連した外性器疣贅、HPV6、11、16、18に関連した性器病変および肛門異形成の発生率を評価した。 3年間の基礎試験は18ヵ国71施設で実施された。対象は異性愛者の男性(16~23歳)または男性と性交渉を持つ男性(=MSM、16~26歳)で、スクリーニング時にHPV以外の性感染症への感染を示唆する肛門性疣贅や性器病変がある、またはそのような所見の既往歴がある例は除外された。参加者は4価HPVワクチンまたはプラセボのいずれかを、1日目、2ヵ月目、6ヵ月目の計3回接種した(両群比1対1)。 続く7年間の長期フォローアップ試験は、16ヵ国46施設で行われた。基礎試験の期間中に4価HPVワクチンを1回以上接種した参加者が登録可能とされた(早期群)。プラセボ群は、基本試験の終了時に4価HPVワクチンの3回接種を行い、1回以上接種した時点で長期フォローアップの対象となった(キャッチアップ群)。 有効性に関する主要評価項目は以下のとおり。・全被験者におけるHPV6または11に関連した外性器疣贅の発生率・HPV6、11、16、18に関連した性器病変の発生率・MSM例におけるHPV6、11、16、18に関連した肛門上皮内新生物(肛門疣贅と扁平病変を含む)または肛門がんの発生率 早期群のper-protocol集団における主要な効果分析は、1)3回のワクチン接種を受けた、2)1日目に血清陰性、1日目から7ヵ月目まで分析対象となるHPV型のPCR検査陰性、3)ワクチン効果の評価に影響を与えるプロトコル違反がない、4)長期フォローアップ中に1回以上の診察を受けた参加者を対象とした。 キャッチアップ群における有効性は修正intention-to-treat集団で評価され、1)1回以上ワクチン接種を受けた、2)ワクチン接種前の基本試験1日目から最終フォローアップ診察日までのPCR検査陰性、3)長期フォローアップ中に1回以上の診察を受けた参加者を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・2010年8月10日~2017年4月3日の間に1,803例が登録され、うち936例(異性愛:827例、MSM:109例)が早期群に、867例(異性愛:739例、MSM:128例)がキャッチアップ群に組み入れられた。・早期群はワクチン3回目接種後に中央値9.5(範囲:0.1~11.5)年、キャッチアップ群は3回目接種後に中央値4.7(0.0~6.6)年のフォローアップ調査を受けた。・「長期フォローアップ中の早期群」と「基本試験中のプラセボ群」を比較した1万人年当たりの発生率は以下のとおり。●外性器疣贅:0.0(95%CI:0.0~8.7)対137.3(83.9~212.1)●外性器病変:0.0(0.0~7.7)対140.4(89.0~210.7)●MSMの肛門上皮内新生物または肛門がん:20.5(0.5~114.4)対906.2(553.5~1,399.5)・キャッチアップ群の「ワクチン接種前の基本調査中」と「ワクチン接種後のフォローアップ中」を比較したの1万人年当たりの発生率は以下のとおり。●外性器疣贅:149.6(101.6~212.3)対0(0.0~13.5)●MSMの肛門上皮内新生物または肛門がん:886.0(583.9~1289.1)対101.3(32.9~236.3)・フォローアップ中のキャッチアップ群において、外性器病変の新規報告例はなかった。・ワクチンに関連した重篤な有害事象は報告されなかった。 著者らは「4価のHPVワクチンは、HPV6、11、16、18に関連する肛門性器疾患に対する持続的な保護を提供する。この結果は、キャッチアップ接種を含む男性への4価HPVワクチン接種を支持するものである」としている。 国内におけるHPVワクチンの承認状況は、女性対象は2価(商品名:サーバリックス)、4価(ガーダシル)、9価(シルガード9)が承認済みだが、男性対象は4価のみで公費助成は対象外、適応は肛門がん(扁平上皮がん)およびその前駆病変、尖圭コンジローマとなる。海外では男性に対しても接種勧奨や公費助成の対象とする国も多い。

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非がん性疼痛に対するオピオイド処方、注射薬物使用との関連は?/BMJ

 非がん性疼痛に対し慢性的にオピオイド薬の処方を受けている人において、注射薬物の使用(injection drug use:IDU)を始める割合は全体ではまれであるが(5年以内で3~4%)、オピオイド未使用者と比較すると約8倍であった。カナダ・ブリティッシュコロンビア疾病管理センターのJames Wilton氏らが、カナダの行政データを用いた大規模後ろ向きコホート研究の解析結果を報告した。オピオイド処方と違法薬物または注射薬物の使用開始との関連性については、これまで観察研究などが数件あるが、大規模な追跡研究はほとんどなかった。著者は、「今回の研究で得られた知見は、IDUの開始やそれに伴う2次的な害を防止する戦略や政策に役立つと考えられるが、長期処方オピオイド治療の不適切な減量や中止の理由にしてはならない」とまとめている。BMJ誌2021年11月18日号掲載の報告。約170万人のデータから、オピオイド使用者を特定、注射薬物開始との関連を解析 研究グループは、British Columbia Hepatitis Testers Cohortとして知られている大規模な行政データ、Integrated Data and Evaluative Analytics(IDEAs)を用いてデータを解析した。IDEAsのコホートには、1992~2015年にブリティッシュコロンビア州でC型肝炎ウイルスまたはHIVの検査を受けた約170万人が含まれ、これらのデータは、医療機関の受診、入院、救急受診、がんの診断、死亡、および薬局での調剤のデータと連携している。 解析対象は、ベースライン時に物質使用歴(アルコールを除く)のない11~65歳の人で、2000~15年における非がん性疼痛に対する処方オピオイド使用の全エピソードを特定した。エピソードは、オピオイド処方の開始から終了までを、薬剤が提供されない期間が前後6ヵ月間ある場合と定義し、エピソード内の処方日数やその日数の割合によってエピソードを分類した(急性:エピソード期間<90日、一過性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日未満および/または処方日数の割合が50%未満、慢性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日以上および/または処方日数の割合が50%以上)。社会経済的変数に基づき、慢性、一過性、急性、およびオピオイド未使用者を1対1対1対1の割合でマッチングした。 IDU開始は、1年以内に、(1)注射薬物の使用に関連する問題(オピオイド、コカイン、アンフェタミンまたはベンゾジアゼピンに対する依存に関する診断コードなど)のエビデンスがある、(2)注射関連感染症の可能性の診断、の2つが認められた場合と定義し、特異性が高く妥当性のある管理アルゴリズムによって特定した。 オピオイド使用分類(慢性、一過性、急性、未使用)とIDU開始との関連性は、逆確率治療重み付け(IPTW)法によるCoxモデルを用いて評価した。解析対象は約6万人、慢性的なオピオイド処方は注射薬物使用のリスクが高い マッチングコホートには計5万9,804例(オピオイド使用分類それぞれ1万4,951例)が組み込まれた。追跡調査期間中央値5.8年において、1,149例でIDU開始が認められた。IDU開始の5年累積確率は、オピオイド使用分類が慢性(4.0%)で最も高く、次いで一過性(1.3%)、急性(0.7%)、オピオイド未使用(0.4%)の順であった。IDU開始リスクは、オピオイド使用分類が未使用に対して、慢性の場合、8.4倍上昇した(95%信頼区間[CI]:6.4~10.9)。 慢性疼痛歴のある人に限定した感度分析では、オピオイド使用分類が慢性の場合、IDU開始のリスクは主解析結果より低下したが(5年以内で3.4%)、相対リスクは低下しなかった(ハザード比:9.7、95%CI:6.5~14.5)。 IDU開始は、オピオイド投与量が多いほど、また、年齢が若いほど、高頻度であった。

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特発性基底核石灰化症〔IBGC:idiopathic basal ganglia calcification〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性基底核石灰化症(idiopathic basal ganglia calcification:IBGC)は従来、ファール病と呼ばれた疾患で、歴史的にも40近い疾患名が使われてきた経緯がある。欧米では主にprimary familial brain calcification(PFBC)の名称が用いられることが多い。基本は、脳内(両側の大脳基底核、小脳歯状核など)に生理的な範囲を超える石灰化を認める(図1)、その原因となる生化学的異常や脳内石灰化を来す基礎疾患がないことである。最近10年間で、原因遺伝子として、4つの常染色体優性(AD)遺伝子(SLC20A21)、PDGFRB2)、PDGFB3)、XPR14))、2つの常染色体劣性(AR)遺伝子(MYORG5)、JAM26))が報告された。日本神経学会で承認された診断基準が学会のホームページに公開されている(表)。図1  IBGCの典型的な頭部CT画像画像を拡大する69歳・男性。歯状核を中心とした小脳、両側の大脳基底核に加え、視床、大脳白質深部、大脳皮質脳回谷部などに広範な石灰化を認める。表 特発性基底核石灰化症診断基準<診断基準>1.頭部CT上、両側基底核を含む病的な石灰化を認める。脳以外には病的な石灰化を認めないのが特徴である。病的とする定義は、大きさとして斑状(長径で10mm以上のものを班状、10mmm未満は点状)以上のものか、あるいは点状の両側基底核石灰化に加えて小脳歯状核、視床、大脳皮質脳回谷部、大脳白質深部などに石灰化を認めるものと定義する。注1高齢者において生理的石灰化と思われるものは除く。注2石灰化の大きさによらず、原因遺伝子が判明したものや、家族性で類似の石灰化を来すものは病的石灰化と考える。2.下記に示すような脳内石灰化を二次的に来す疾患が除外できる。主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム(Ca)、無機リン(Pi)、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清Ca低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(Albright骨異栄養症)、コケイン(Cockayne)症候群、ミトコンドリア病、エカルディ・グティエール(Aicardi Goutieres)症候群、ダウン(Down)症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。注1iPTH:intact parathyroid hormone インタクト副甲状腺ホルモン注2小児例では、上記のような先天代謝異常症に伴う脳内石灰化である可能性も推測され、全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。3.下記に示すような 緩徐進行性の精神・神経症状を呈する。頭痛、精神症状(脱抑制症状、アルコール依存症など)、てんかん、精神発達遅延、認知症、パーキンソニズム、不随意運動(PKDなど)、小脳症状などの精神・神経症状 がある。注1PKD:paroxysmal kinesigenic dyskinesia 発作性運動誘発性ジスキネジア注2無症状と思われる若年者でも、問診などにより、しばしば上記の症状を認めることがある。神経学的所見で軽度の運動機能障害(スキップができないなど)を認めることもある。4.遺伝子診断これまでに報告されているIBGCの原因遺伝子は常染色体優性遺伝形式ではSLC20A2、PDGFRB、PDGFB、XPR1、常染色体劣性遺伝形式ではMYORG、JAM2があり、これらに変異を認めるもの。5.病理学的所見病理学的に脳内に病的な石灰化を認め、DNTCを含む他の変性疾患、外傷、感染症、ミトコンドリア病などの代謝性疾患などが除外できるもの。注1 DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification(別名、小阪-柴山病)この疾患の確定診断は病理学的診断であり、生前には臨床的にIBGCとの鑑別に苦慮する。●診断Definite1、2、3、4を満たすもの。1、2、3、5を満たすもの。Probable1、2、3を満たすもの。Possible1、2を満たすもの。日本神経学会ホームページ掲載のものに、下線を修正、追加(改訂申請中)してある。■ 疫学2011年に厚生労働省の支援により本症の研究班が立ち上がった。研究班に登録されている症例は、2021年現在で、家族例が40家系、孤発例が約200例である。症例の中には、頭部外傷などの際に撮影した頭部CT検査で偶発的にみつかったものもあり、実際にはこの数倍の症例は存在すると推定される。■ 病因2012年に中国から、IBGCの原因遺伝子としてリン酸トランスポーターであるPiT2をコードするSLC20A2の変異がみつかったことを契機に、上記のように4つの常染色体優性遺伝子と2つの常染色体劣性遺伝子が連続して報告されている。また、症例の中には、過去に全身性エリテマトーデス(SLE)の既往のある症例、腎透析を受けている症例もあり、2次性とも考えられるが、腎透析を受けている症例すべてが著明な脳内石灰化を呈するわけではなく、疾患感受性遺伝子の存在も示唆される。感染症も含めた基礎疾患の関与によるもの、外傷、薬剤、放射線など外的環境因子の作用も推測される。原因遺伝子がコードする分子の機能から、リン酸ホメオスタシスの異常、また、周皮細胞、血管内皮細胞とアストロサイトの関係を基軸とした脳血管関門の破綻がこの石灰化の病態、疾患の発症機構の基盤にあると考えられる。■ 症状症状は中枢神経系に限局するものである。無症状からパーキンソン症状など錐体外路症状、小脳症状、精神症状(前頭葉症状など)、認知症を来す症例まで極めて多様性がある。発症年齢も30~60歳と幅がある。自験例の全202例の検討では、パーキンソニズムが26%、認知機能低下26%、精神症状21%、てんかん14%、不随意運動4%であった7)。不随意運動の内訳はジストニアが4例、ジスキネジアが2例、発作性運動誘発性ジスキネジア(Paroxysmal kinesigenic dyskinesia:PKD)が2例であった。わが国では諸外国と比して、不随意運動の頻度が低かった8)。必ずしも遺伝子変異によって特徴的臨床所見があるわけではない。国内外でもSLC20A2遺伝子変異患者ではパーキンソニズムが最も多く、PDGFB遺伝子変異では頭痛が多く報告されている。筆者らの検索でも、PDGFB変異患者では頭痛の訴えが多く、患者の語りによる質的研究でも、QOLを低下させている一番の原因であった。PKDはSLC20A2遺伝子変異患者で多く報告されている。筆者らはIBGC患者、とくにSLC20A2変異患者の髄液中の無機リン(Pi、リン酸)が高いことを報告している9)。頭部CT画像にも各遺伝子変異に特徴的な画像所見はないが、JAM2遺伝子変異では、他ではあまりみられない橋などの脳幹に石灰化がみられることがある。■ 分類原因遺伝子によって分類される。遺伝子の検索がなされた家族例(FIBGC)では、40%がSLC20A2変異10)、10%がPBGFB変異11)で、他XPR-1変異が1家系、PDGFRB変異疑いが1家系で、この頻度は国内外でほぼ一致している。■ 予後緩徐進行性の経過を示すが、症状も多彩であり、詳しい予後、自然歴を調べた論文はない。石灰化の進行を評価するスケール(total calcification score:TCS)を用いて、遺伝子変異では、PDGFRB、PDGFB、SLC20A2の順で石灰化の進行が速く、さらに男性、高齢、男性でその進行速度が速くなるという報告がある12)。原因遺伝子、二次的な要因によっても、脳内石灰化の進行や予後は変わってくると推定される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)基本的には原因不明の脳内に限った石灰化症である。National Center for Biotechnology Information(NCBI)には、以下のPFBCの診断基準が挙げられている。(1)進行性の神経症状(2)両側性の基底核石灰化(3)生化学異常がない(4)感染、中毒、外傷の2次的原因がない(5)常染色体優性遺伝の家族歴がある常染色体優性遺伝形式の原因遺伝子として、すでにSLC20A2、PDGFB、PDGFRB、XPR1の4遺伝子が報告され、現在、常染色体劣性遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2がみつかってきており、上記の(5)は改訂が必要である。わが国では孤発例の症例も多く、疾患の名称に関する課題はあるが、診断は前述の「日本神経学会承認の診断基準」に準拠するのが良いと考える(上表)。鑑別診断では、主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム、Pi、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清カルシウム低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト骨異栄養症)、コケイン症候群、ミトコンドリア脳筋症(MELASなど)、エカルディ・グティエール症候群(AGS)、ダウン症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。IBGCの頭部CT画像は、タツノオトシゴ状、勾玉状などきれいな石灰化像を呈することが多いが、感染症後などの二次性の場合は、散発した乱れた石灰化像を呈することが多い。後述のDNTCの病理報告例の頭部CT所見は、斑状あるいは点状の石灰化である。IBGCは小児期、青年期は大方、症状は健常である。小児例では、AGSを始め、多くは何らかの先天代謝異常に伴う脳内石灰化症、脳炎後など主に二次性の脳内石灰化症が示唆されることが多い。今後の病態解明のためには、とくに家族例、いとこ婚などの血族結婚の症例を含め、エクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。高齢者の場合は、淡蒼球の生理的石灰化、また、初老期以降で認知症を呈する“石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病”(diffuse neurofibrillary tangles with calcification:DNTC、別名「小阪・柴山病」)が鑑別に上がる。DNTCの確定診断は、病理学的所見に基づく。しかし、最近10年間の班研究で調べた中ではDNTCと病理所見も含めて診断しえた症例はなかった。脳内石灰化をみた場合の診断の流れを図2に提示する。図2 脳内石灰化の診断のフローチャート画像を拡大する脳内に石灰化をみた場合のフローチャートを示す。今後、病態機構によって、漸次、更新されるものである。全体をPFBCとして包括するには無理がある。名称として現在は、二次性のものを除外して、全体をPBCとしてまとめておくのが良いと考える。【略号】(DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification、FIBGC:Familial Idiopathic Basal Ganglia Calcification、IBGC:Idiopathic Basal Ganglia Calcification、PBC:Primary Brain Calcification)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はまだみつかっていない。遺伝子変異を認めた患者の疾患特異的iPS細胞を用いて、PiT2、PDGFを基軸に創薬の研究を進めている。対症療法ではあるが、不随意運動や精神症状にクエチアピンなど抗精神病薬が用いられている。また、病理学的にもパーキンソン病を合併する症例があり、抗パーキンソン病薬が効果を認め、また、PKCではカルバマゼピンが効果を認めている。4 今後の展望中国からAR遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2が見出され、今後さらなるARの遺伝子がみつかる可能性がある。また、疾患感受異性遺伝子、環境因子の関与も想定される。IBGC、とくにSLC20A2変異症例では根底にリン酸ホメオスタシスの異常があることがわかってきた。ここ数年で、Pi代謝に関する研究が大いに進み、生体におけるPi代謝にはFGF23が中心的役割を果たす一方、石灰化にはリン酸とピロリン酸(二リン酸, pyrophosphate:PP)の比が重要である指摘やイノシトールピロリン酸 (inositol pyrophosphate:IP-PP)が生体内のリン酸代謝に重要であることが注目されている。最近では細胞内のPiレベルの調節にはイノシトールポリリン酸 (inositol polyphosphate: InsPs)、その代謝にはイノシトール-ヘキサキスリン酸キナーゼ、(inositol-hexakisphospate kinase:IP6K)がとくに重要で、InsP8が細胞内の重要なシグナル分子として働き、細胞内Pi濃度を制御するという報告がある。また、SLC20A2-XPR1が基軸となって、クロストークを起こすことによって、細胞内のPiやAPTのレベルを維持する作用があることも明らかとなってきた。生体内、細胞内でのPi代謝の解明が大きく進展している。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。IBGCでは通常は小児期には症状を呈さない。小児期における脳内石灰化の鑑別では小児神経内科医へのコンサルトが必要である。精神発達遅滞を呈する症例あり、脳内石灰化の視点から、多くの鑑別すべき先天代謝異常症がある。とくに、MELAS、AGS、副甲状腺関連疾患、コケイン症候群、Beta-propeller protein-associated Neurodegeneration (BPAN、 SENDA)などは重要である。また、家族例では、IRUD-P(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases in Pediatrics:小児希少・未診断疾患イニシアチブ)などを活用したエクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子解析が望まれる。   そのほか、症例の中には、統合失調症様や躁病などの精神症状が前景となる症例もある。これらはある一群を呈するかは今後の課題であるが、精神科医との連携が必要なケースもまれならずある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会診断基準(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NCBI GeneReviews Primary Familial Brain Calcification Ramos EM, Oliveira J, Sobrido MJ, et al. 2004 Apr 18 [Updated 2017 Aug 24].(海外におけるPFBCの解説、医療従事者向けのまとまった情報)●謝辞本疾患の研究は、神経変性疾患領域の基盤的調査研究(20FC1049)、新学術領域(JP19H05767A02)の研究助成によってなされた。本稿の執筆にあたり、貴重なご意見をいただいた岐阜大学脳神経内科 下畑 享良先生、林 祐一先生、国際医療福祉大学 ゲノム医学研究所 田中 真生先生に深謝申し上げます。1)Wang C, et al. Nat Genet. 2012;44:254–256.2)Nicolas G, et al. Neurology. 2013;80:181-187.3)Keller A, et al. Nat Genet. 2013;45:1077-1082.4)Legati A, et al. Nat Genet. 2015;47:579-581.5)Yao XP et al. Neuron. 2018;98:1116-1123. 6)Cen Z, et al. Brain. 2020;143:491-502.7)山田 恵ほか. 臨床神経. 2014;54:S66.8)山田 恵ほか. 脳神経内科. 2020;92:56-62.9)Hozumi I, et al. J Neurol Sci. 2018;388:150-154.10)Yamada M, et al. Neurology. 2014;82:705-712.11)Sekine SI, et al. Sci Rep. 2019;9:5698.12)Nicolas G, et al. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2015;168:586-594.公開履歴初回2021年12月2日

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認知症診断に関する日米間の比較

 認知症は、日米で共通の問題であるが、医療システムの異なる両国における認知症診断に関するプライマリケア医の診療および今後の展望について、浜松医科大学の阿部 路子氏らが、調査を行った。BMC Geriatrics誌2021年10月11日号の報告。 日本全国および米国中西部ミシガン州におけるプライマリケア環境において、半構造化面接および主題分析を用いて、定性的研究を実施した。参加者は、日米それぞれ24人のプライマリケア医(合計48人)。両群ともに地理的因子(地方/都市部)、性別、年齢、プライマリケア医としての経験年数が混在していた。 主な結果は以下のとおり。・日米ともに、認知症診断に対し同様の診療を実施しており、認知症診断のベネフィットについての見解も一致していた。・しかし、認知症診断を下す適切なタイミングについて違いが認められた。・日本のプライマリケア医は、家族が介護サービスを受けるうえで問題が発生した場合に診断を下す傾向があった。・米国のプライマリケア医は、健康診断で認知症をスクリーニングし、認知症の早期診断に積極的であり、事前指示書の作成などのために患者自身が意思決定可能な時期に診断を行えるよう努めていた。・日米における認知症診断の適切なタイミングに関する見解は、認知症の患者および家族をサポートするために利用可能な医療または介護サービスの影響を受けていると考えられる。 著者らは「認知症診断は、日本では介護サービス利用に際して行われるのに対し、米国では早期介入や事前指示書の作成などのために行われている。プライマリケア医による認知症の早期診断を確立するための検査は、利用可能な検査および治療選択肢に一部のみ関連していた」としている。

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第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う

ランサムウェアに感染、1ヵ月経つも電子カルテ復旧せずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今年の日本シリーズはとても見応えがありました。第1、2戦の日本を代表する投手たちによる息詰まる投手戦や、オリックスが神戸に戻るために必死で1勝を手にした第5戦など、野球の醍醐味が詰まったシリーズでした。私はヤクルト球団で働いている知人の伝手で、第3戦を東京ドームで観戦したのですが、ドームのカクテル光線にキラキラ光る大量の応援傘は壮観でした。それにしても、優勝したヤクルト、惜しくも敗れたオリックス共に打撃陣が抑え込まれたのは、やはりデータ野球の成果なのでしょう。もっとも、データ野球の先進国、米国のMLBのワールドシリーズは、乱打戦が多かった印象です。あちらのトップ選手には、データをねじ伏せるだけの技術とパワーが備わっているからでしょうか。今年の筒香 嘉智選手に続き、来年のメジャー移籍を目指す鈴木 誠也選手が少々心配です。さて、今回は徳島県内陸部、吉野川沿いにあるつるぎ町の町立半田病院(120床)を襲った、電子カルテのランサムウェア(身代金要求型ウイルス)感染事件について書いてみたいと思います。10月31日未明に同病院で起きたこの事件、1ヵ月経った現在も事態は収束していません。当初は地元紙が報じるだけだったのですが、NHKや全国紙も大きく扱う事態となっています。受付から、診察、会計まですべてのシステムがダウン事件が起こったのは、10月31日の未明でした。NHKや徳島新聞等の報道を基に、事件の流れを整理してみました。31日午前0時半ごろ、町立半田病院の電子カルテに不具合があり、複数プリンターから勝手に不審な書類が大量に印刷されはじめました。紙には英語で「あなたのデータは盗んで暗号化された。ランサムにお金を払わないとダークウェブにデータを公開する(Your data are stolen and encrypted. The data will be published on TOR website……,if you don‘t pay the ransom.)」などと書かれてありました。この時既に、バックアップ用も含めて、院内のサーバーのデータは暗号化されており、受付から、診察、会計まですべてのシステムがダウンしていました。英語の書類が大量に自動印刷されるのを見つけた当直の看護師が、システム担当の職員や電子カルテシステムのメーカーなどに連絡したものの対応不能で、同病院は早朝、開院前に美馬署と県警本部に連絡、ランサムウェアに感染した可能性があるとして被害届を提出しました。同病院は、31日朝から救急患者の受け入れを停止、11月1日以降の新規の外来や入院の受け入れの停止も決めました。同病院では平日1日当たり200~300人の外来患者がいるとのことです。なお、予約再診や予防接種、透析は実施することとしました。31日に同病院は会見を開き、被害にあった事実を公表しました。病院事業管理者の須藤泰史氏は「多くの方にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。警察と今後の対応を検討して参ります」と陳謝したとのことです。バックアップサーバーのデータも暗号化され使えず感染したのはシステムのメインサーバーとバックアップサーバーで、患者約8万5,000人分の個人記録が保存されていました。同日午後9時時点で、流出したデータが公開されているダークウェブには町立半田病院の情報はありませんでした。同病院によると、電子カルテシステムと連係した検査システムや画像システム、診療報酬システムなども使用不能となったとのことです。同病院の電子カルテシステムは、県内の医療ネットワークなどと専用回線のみで接続され、セキュリティーソフトなど不正アクセスを防ぐ対策も取っていたとしています。入院や外来患者のカルテは手書きの記録へ町立半田病院では災害対策本部を立ち上げ、対応に乗り出しました。しかし、その後の復旧は遅々として進みませんでした。電子カルテが使えないため、入院や外来患者のカルテは手書きで紙に記録することになりました。紹介状などの作成も手書きなので、職員の負担は相当なものとなりました。倉庫で眠っていた古いパソコンを再利用して共有データの入力も始めました。この間、システムのセキュリティー専門会社がメインサーバーの復旧作業にあたりましたが、効果はなかったそうです。なお、同病院とネットワークで患者情報共有している県内の97医療機関では、システム被害は報告されていません。その後、1週間たってもメインサーバーは復旧せず、外来診療は予約のある再診患者や透析、予防接種に限定しての対応が続き、休日診療や小児救急は、近隣の医療機関にサポートを頼んだりしたそうです。なお、会計もできないため診療費の請求は後日に延期しているとのことです。共同通信の取材に、病院事業管理者の須藤氏は「過去の診察記録が全部見られなくなった。災害レベルの事態だ。南海トラフ巨大地震を想定した非常事態と同じ対応をしている」と語ったそうです。身代金は支払わず、電子カルテのシステムを一からつくり直すことに11月30日現在、サーバーの復旧のメドは立っていません。紙カルテでの作業が続く中、小児科は11月15日から通常診療を開始、19日からは産科部門で新規妊産婦や救急患者の受け入れを始めました。内科や外科、泌尿器科などは新規患者を受け入れられない状態が続いています。同病院は11月26日に会見を開き、身代金は支払わず電子カルテのシステムを一からつくり直す、と表明しました。現在、ホームページには、「通常診療の再開は2022年1月4日(火)よりを予定しております」と掲示されています。プリンターを使用して脅迫文を自動印刷するランサムウェア「LockBit2.0」各紙報道によれば、町立半田病院のサーバーを襲ったのは、「LockBit2.0」と名乗る国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアとのことです。感染するとデータが勝手に暗号化され、LockBit2.0側が公開停止や復旧と引き換えに金を要求する、というものです。調べてみるとこのLockBit2.0、今年に入ってから世界中でさまざまな企業の攻撃を繰り返しているようです。2019年9月に「LockBit」という名前で出現したこのグループは、2021年6月に活動を再開。6月末にダークウェブ上のWebサイトで「アフィリエイト」と呼ばれる攻撃部隊の募集をはじめ、7月中旬からはダークウェブ上のリークサイトに、多数の被害組織への攻撃声明を掲載するようになりました。リークサイトには、被害組織の具体名を掲載。被害組織と交渉中(またはコンタクト待ち)の段階では組織名公開に留め、暗号化した窃取データは公開しない、としています。そして、窃取データの公開までの残り時間をサイトに表示し、身代金の支払いを促すという流れです。LockBit2.0の特徴の1つが、プリンターを使用して脅迫文を自動印刷することで、ランサムウェアでは珍しいタイプとのことです。なお、YouTubeでは、LockBit2.0によってプリンターが脅迫文を印刷する実際の様子の動画が公開されています。興味のある方は見てみて下さい(「LockBit2.0、印刷」で検索)。なぜ、町立半田病院が狙われたのか?LockBitの被害企業として有名なのは、米最大級の石油パイプライン企業「コロニアル・パイプライン」で、同社は440万ドル(約4億8,000万円)の身代金を支払っています。また、日本企業でも光学機器大手HOYAのアメリカの子会社が攻撃を受け、顧客の視力に関するデータを含む書類などが公開されたことが明らかになっています。また昨年11月には、ゲームソフト大手のカプコンが攻撃を受け、社員など1万5,000人余りの個人情報が流出しています。では、今回なぜ町立半田病院が狙われたのでしょうか。ハッカー側は、企業の大小や業態で攻撃対象を選別しているわけではなさそうです。11月20日のNHKニュースは、「セキュリティーの専門家によれば、半田病院を狙ったわけではなく、攻撃対象を無作為に探していたハッカー集団側が、弱点のあるシステムを見つけ、侵入できた先が、結果的に半田病院だったとみられている」と報じています。VPN経由での攻撃の可能性セキュリティー対策をしていた同院のシステムが、ウイルスに感染した原因もわかっていません。11月28日の朝日新聞によれば、「院内のネットに外部からアクセスできる『VPN(仮想プラベートネットワーク)』の通信機器が複数、接続されていた。電子カルテシステムを遠隔操作で業者がメンテナンスしたり、県内の医療機関と患者の情報を交換したりするため」とのことで、VPN経由での攻撃の可能性が示唆されています。同病院のVPNの機器は、過去に認証情報の流出が問題になった米国製のものだった、との報道もあります。NHKの報道によれば、「近年、ランサムウェアによる被害は、国内外で民間企業だけでなく、医療機関でも増えている」そうです。海外の病院では、カルテ情報の大量漏洩やシステム停止による診療中止によって、患者が死亡する事例も出ているとのことです。日本の病院、特に中小病院は、情報システムの担当者を置いていないことが多く、セキュリティー対策も専門業者任せのところがほとんどだと言われています。ハッカーたちは、「田舎の小さい病院だから攻撃は止めておこう」とは考えません。セキュリティーに穴があれば、すぐさまそこを突いてきます。感染症を引き起こすウイルスだけではなく、コンピュータウイルスに対しても、医療機関は万全の感染防止体制を求められる時代になった、と言えそうです。

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精神疾患発症リスクの高い人に対する抗精神病薬の予防効果

 既存のガイドラインでは、精神疾患における臨床的にハイリスクな人に対する抗精神病薬の使用は推奨されていないが、抗精神病薬がハイリスクな人の精神疾患を予防できるかは、よくわかっていない。中国・上海交通大学医学院のTianHong Zhang氏らは、精神疾患発症リスクの高い人において、抗精神病薬の予防効果を比較するため、本研究を実施した。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2021年9月18日号の報告。 統合失調症前駆症状の構造化面接(SIPS)を用いて精神疾患発症リスクの高い人300人を特定し、3年間フォローアップを行った。ベースライン時にNAPLS-2リスク計算(NAPLS-2-RC)を実施した人は228人(76.0%)、フォローアップが完了した人は210人(92.1%)であった。リスクレベルに応じて層別化を行った。ハイリスクの定義は、NAPLS-2-RCスコア20%以上およびSIPS陽性症状合計スコア10以上とした。主要アウトカムは、精神疾患発症、機能アウトカム不良(フォローアップ時のGAFスコア60未満)とした。 主な結果は以下のとおり。・精神疾患発症リスクの高い人において、抗精神病薬使用の有無により、精神疾患発症や機能アウトカム不良に有意な差は認められなかった。・抗精神病薬治療を受けたリスクの低い人では、抗精神病薬を使用しなかった人と比較し、機能アウトカム不良の割合が高かった(NAPLS-2-RC推定リスク:χ2=8.330、p=0.004、陽性症状重症度:χ2=12.997、p<0.001)。・精神疾患発症予防に効果的な因子は特定されなかった。また、高用量の抗精神病薬で治療された精神疾患発症リスクの高い人において、機能アウトカム不良リスクに有意な増加が認められた。 著者らは「精神疾患発症リスクの高い人に対する抗精神病薬治療は、機能アウトカム不良リスクを考慮する必要がある。また、実臨床下において、抗精神病薬使用が精神疾患発症予防に寄与するとは考えにくいことが示唆された」としている。

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マスク・手洗いでコロナ発症率がどの程度下がるのか~メタ解析/BMJ

 新型コロナウイルスへの感染、発症、死亡に関して、感染対策はどの程度有効だったのだろうか。オーストラリア・Monash UniversityのStella Talic氏らの系統的レビューとメタ解析から、手洗い、マスク着用、対人距離保持などがCOVID-19発症率の減少と関連することが示唆された。BMJ誌2021年11月17日号に掲載。マスク着用効果を35報の論文からメタ解析 本研究では、Medline、Embase、CINAHL、Biosis、Joanna Briggs、Global Health、World Health Organization COVID-19データベース(プレプリント)において、COVID-19発症率、SARS-CoV-2感染率、COVID-19死亡率の減少における感染対策の有効性を評価した観察研究と介入研究の論文を検索した。主要評価項目はCOVID-19発症率、副次評価項目はSARS-CoV-2感染率とCOVID-19死亡率などであった。マスク着用、手洗い、対人距離保持がCOVID-19発症率に及ぼす影響をDerSimonian Lairdのランダム効果メタ解析で評価した。 マスク着用などの効果をメタ解析した主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした論文72報中35報が個別の感染対策を評価し、37報が複数の感染対策を「介入パッケージ」として評価していた。・35報中8報をメタ解析した結果、手洗い(相対リスク:0.47、95%信頼区間:0.19〜1.12、I2=12%)、マスク着用(0.47、0.29〜0.75、I2=84%)、対人距離保持(0.75、0.59〜0.95、I2=87%)がCOVID-19発症率の減少と関連していた。・検疫・隔離、ロックダウン、国境・学校・職場の封鎖による有効性は、研究の不均一性からメタ解析は不可能だった。

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左冠動脈主幹部病変へのPCI vs.CABG、メタ解析で転帰の違いは/Lancet

 低~中等度の解剖学的複雑性を有する左冠動脈主幹部病変に対して、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)の5年死亡リスクは同等であることが示された。一方でベイジアン解析では、死亡リスクには違いがありPCI よりCABGのほうが支持される(年率0.2%未満である可能性が高い)ことを示唆する結果が示された。また、自然発生心筋梗塞や血行再建術のリスクは、PCI群がCABG群より高かったが、脳卒中はPCI群が低かった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S. Sabatine氏らによるメタ解析の結果で、結果を踏まえて著者は、「これらの予想される結果の違いを伝えることは、患者の治療を決定するのに役立つだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2021年11月12日号掲載の報告。左冠動脈主幹部病変へのPCIとCABGを5年以上追跡した試験抽出 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochraneのデータベースを基に、左冠動脈主幹部病変に対し、薬剤溶出ステントを用いたPCIまたはCABGを行い5年以上追跡し、全死因死亡リスクを比較した無作為化比較試験で、2021年8月31日までに英語で発表されたものを検索した。選択基準に合った試験の抽出については、Sabatine氏ら2人が行った。 主要エンドポイントは、5年全死因死亡。副次エンドポイントは、心血管死、自然発生心筋梗塞、脳卒中、血行再建術再施行だった。 分析は一段階法で行い、イベント発生率はKaplan-Meier法で算出、PCI群とCABG群の比較にはCox異質性モデルを用い、それぞれの無作為化試験は変量効果として扱った。 ベイジアン解析では、PCI群とCABG群の主要エンドポイント絶対リスクの群間差が、0.0%、1.0%、2.5%、5.0%である確率をそれぞれ推算した。PCIとCABGを比較した4試験、計約4,400例についてメタ解析 文献検索で抽出した1,599件の試験結果のうち、基準に見合った「SYNTAX」「PRECOMBAT」「NOBLE」「EXCEL」の4試験についてメタ解析を行った。被験者は合計4,394例で、SYNTAXスコア中央値は25.0(IQR:18.0~31.0)で、PCI群、CABG群ともに2,197例だった。 Kaplan-Meier法による5年全死因死亡率は、PCI群が11.2%(95%信頼区間[CI]:9.9~12.6)、CABG群が10.2%(9.0~11.6)で(ハザード比[HR]:1.10、95%CI:0.91~1.32、p=0.33)、絶対リスクのPCIとCABGの群間差の統計的有意差は認められなかった(絶対リスク群間差:0.9%、95%CI:-0.9~2.8)。 ベイジアン解析では、5年死亡率がCABG群よりPCI群が高い確率が85.7%で、群間差は1.0%以上(年率0.2%未満)である可能性が高かった。死因の内訳は、心血管死よりも非心血管死が多かった。 自然発生心筋梗塞発生率は、CABG群が2.6%(95%CI:2.0~3.4)に対しPCI群が6.2%(5.2~7.3)(HR:2.35[95%CI:1.71~3.23]、p<0.0001)、血行再建術再施行率もそれぞれ10.7%(9.4~12.1)と18.3%(16.7~20.0)(HR:1.78[95%CI:1.51~2.10]、p<0.0001)と、いずれもPCI群がCABG群より高かった。戦略間の周術期心筋梗塞発生の違いは、各試験で使用された定義に依存していた。 全体的に脳卒中発生率は、CABG群が3.1%(95%CI:2.4~3.9)でPCI群が2.7%(2.0~3.5)と両群で同等だったが(HR:0.84[95%CI:0.59~1.21]、p=0.36)、無作為化後1年間ではPCI群がCABG群より低率だった(0.37[0.19~0.69]、p=0.0019)。

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妊娠高血圧腎症pre-eclampsiaとメトホルミン(解説:住谷哲氏)

 筆者は内科医で産科は専門外なのではじめに用語を整理したい。2018年に発表された日本産科婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の定義分類」によると、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される」とあり、病型分類から子癇eclampsiaを除外し、高血圧に母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める場合は蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症とする、とされている。妊娠高血圧腎症が以前の妊娠中毒症であり、本論文のpre-eclampsiaと同一概念である。HELLP(Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet count)症候群のような腎症を伴わない病態を妊娠高血圧腎症の訳語に含めるのは何となく違和感があるが、本稿でもpre-eclampsiaの訳語として妊娠高血圧腎症を使用する。 妊娠高血圧腎症の病態は現在も明らかではないが、何らかの胎盤機能異常が存在するとされている。胎盤機能異常があるので、最も確実な治療法は分娩または中絶による妊娠終了であるが現実的には妊娠継続を選択する場合がほとんどである。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦に対する低用量アスピリン投与が発症予防に有効であるとのエビデンスがあるが、発症した妊娠高血圧腎症に対する治療薬は現在存在しない。そこでこれまで、drug-repurposingの観点から、プラバスタチン、プロトンポンプ阻害薬、それとメトホルミンなどの投与が試みられてきた。本論文はメトホルミンの有効性を検証するためのproof-of-concept trialである。 対象は糖尿病のない、妊娠26週0日から31週6日の間に妊娠高血圧腎症と診断された妊婦(preterm pre-eclampsia)180人であり、プラセボおよびメトホルミン(徐放性メトホルミン3g/日 分3)が分娩まで入院下において投与された。主要評価項目はランダム化から分娩までの期間中央値とした。結果は、メトホルミン投与群で期間中央値が7.6日延長したが統計学的有意差はなかった(P=0.057)。しかし試験前に設定されたper-protocol analysisでは、分娩までメトホルミンの服薬を継続した患者においてはプラセボ群に比較して有意に延長していた。有害事象としてはメトホルミン投与群で下痢が有意に高頻度であった。 proof-of-concept試験であるから、妊娠高血圧腎症に対するメトホルミンの有効性が証明されるには大規模な臨床試験が必要である。しかし、妊娠高血圧腎症の妊婦に対してメトホルミン3.0gが投与される臨床試験が実施されたことは、妊婦に対するメトホルミンの安全性がもはや常識になりつつあることを示しているように思われる。

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英語で「体調が悪い」は?【1分★医療英語】第4回

第4回 英語で「体調が悪い」は?How are you feeling today?(今日の体調はいかがですか?)I’m feeling under the weather today.(今日は体調が悪いです)《例文1》He seems a bit under the weather today.(彼は今日、少し体調が悪そうだ)《例文2》I’ve been feeling under the weather for a couple of weeks.(ここ数週間、体調が優れないです)《解説》“under the weather”は「体調が優れない」という意味のイディオムです。睡眠不足、二日酔い、おなかを壊している、などちょっとした体調不良のときに使用する表現で、重い病気に対して使うことは少なく、大きな問題にならないほどの具合の悪さを表します。患者から聞くこともありますが、医師同士や友人との会話でもしばしば登場する表現です。由来は諸説ありますが、一説では、「天気の悪い日には船乗りが船酔いするため、悪天候を避けるためにデッキの下に行って休んだことから来ている」といわれています。ほかの表現としては、“sick/ill”などがあります。日本人には聞き慣れない表現としては“I’m in bad shape”という表現も使います。shapeは「形」以外にも「健康状態や調子」を意味し、“in bad shape”は「体調不良」という意味になります。講師紹介

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第88回 オミクロン株のスパイクタンパク質の抗体認識領域はどれも変異している

先週金曜日26日、南アフリカから24日に世界保健機関(WHO)に初めて報告された心配な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株B.1.1.529がオミクロン(Omicron)株と命名されました1)。南アフリカでのこれまでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の波は3回あり、直近の第3波は主にデルタ株が担いました。オミクロン株が認められた検体の最初の採取日は26日時点で知られている限り今月上旬の9日で、同国ではその検出と時を同じくしてここ数週間SARS-CoV-2感染が急増しています。オミクロン株はやけに多くの変異を有し、これまでの変異株に比べて再感染しやすいようです1)。渡航制限にもかかわらず世界にすでに広がっており、29日のReutersのニュースによると南アフリカに加えてオーストリア、ベルギー、ボツワナ、英国、デンマーク、ドイツ、香港、イスラエル、イタリア、オランダで検出されています2)。オミクロン株が憂慮されるのはなぜかというと、COVID-19研究で名を馳せた英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの専門家によればスパイクタンパク質のこれまでに知られている抗原部分のどうやらすべてに変異を有しているからです3)。ワクチンに応じて作られる抗体はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の随所の抗原領域に取り付き、ウイルスの細胞侵入を阻止して感染や発病を防ぎます。ウイルスが抗体一揃いを回避する変異1つを獲得したとしてもたいていは他の抗体一揃いの働きで依然として感染を防ぐことができます。抗体は変異に対応しうる余力をそのように常に残しています。しかしオミクロン株のスパイクタンパク質の抗原領域はどこもかしこもすべて変異しているらしく、抗体のかなりがオミクロン株スパイクタンパク質の認識には苦労しそうです。ゆえに、現在普及しているワクチンはオミクロン株に手こずるかもしれません。ただし、まったく歯が立たないのかそれとも苦戦するとはいえ勝てる相手なのかはまだわかりません。オミクロン株のスパイクタンパク質のフリン切断領域の変異も心配です。それらの変異は感染をより広まりやすくすることと関連し、デルタ株もその領域に非常に手強い変異を有しています。また、細胞のACE2受容体にスパイクタンパク質を結合しやすくする変異もオミクロン株は有します。その変異はアルファ株の広まりやすさに貢献したことで知られます。スパイクタンパク質以外の核タンパク質等にもオミクロン株は心配な変異を有します。それらの変異はウイルス粒子内のゲノムの組み立てや収納を捗らせて免疫反応に打ち勝てるようにするようです。WHOも把握している通り南アフリカでオミクロン株はデルタ株を急速に凌駕して感染者数を増やしていることが伺え、おそらく横溢(fit)で伝播可能であり、現在のワクチンや先立つ感染経験で確立した免疫の少なくとも幾らかは回避できるようです。オミクロン株感染の特徴免疫を回避して生じたオミクロン株感染がより重病を招くかどうかは不明ですが、幸いにも南アフリカの感染者はいまのところ軽症で済んでいます。新参のSARS-CoV-2感染を早くに察した南アフリカの医師の一人Angelique Coetzee氏が治療したオミクロン株感染者はいたって軽症であり、外科的処置が必要になったことはなく、自宅で治療できています4)。デルタ株感染とは違ってオミクロン株感染者は匂いや味の消失を被っておらず、酸素レベルの大幅な低下も認められていません。最も目立つ症状は1日か2日の極度の疲労感で、頭痛やその他の痛みを伴います。Coetzee氏が治療したオミクロン株感染症患者のおよそ半数はワクチンを接種していませんでした。南アフリカではわずかに4人に1人ほどしかワクチン接種が済んでいません5)。流通の不手際に加えてワクチン接種忌避や無関心が同国でのワクチンの普及を妨げています。流行第4波の火種となりうるオミクロン株感染増加を背景にして南アフリカの大統領Cyril Ramaphosa氏は一定条件でのCOVID-19ワクチン接種義務化を検討しています5)。オミクロン株とワクチン開発オミクロン株に対応するようにワクチンの手直しが必要かどうかを決める更なるデータが早ければ来月初めには揃い、必要とあらば修正済みの新たなワクチンを100日もあれば出荷しうるとの見解をPfizer(ファイザー)/BioNTech(ビオンテック)が先週金曜日に発表しました6)。Moderna(モデルナ)も対応を始めており、オミクロン株に特化したワクチンmRNA-1273.529の開発を急いで進める予定です7)。また、先立って試験が進む変異株向けのワクチンmRNA-1273.211やmRNA-1273.213、それに世界で使用されている認可済みのmRNA-1273の高用量投与がオミクロンに有効かどうかの検討も進めます。AstraZeneca(アストラゼネカ)も同様にオミクロン株のワクチンや抗体治療への影響を調べています8)。参考1)Classification of Omicron (B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern / WHO2)Omicron variant detected in more countries as scientists race to find answers / Reuters3)Q&A: Imperial experts discuss new variant B.1.1.529 / Imperial College London4)South African doctor says patients with Omicron variant have "very mild" symptoms / Reuters5)South Africa mulling compulsory COVID-19 jabs for some places, activities / Reuters6)Pfizer/BioNTech, Moderna expect data on shot's protection against new COVID-19 variant soon / Reuters7)Moderna Announces Strategy to Address Omicron (B.1.1.529) SARS-CoV-2 Variant / BUSINESS WIRE8)AstraZeneca examining impact of new COVID variant on vaccine, antibody cocktail/ Reuters

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ワクチン接種の目的は“次世代の健康”/EFPIA Japan

 EFPIA(欧州製薬団体連合会)Japanは、2021年11月22日に感染症領域のエキスパートである岡部 信彦氏(川崎市健康安全研究所 所長)を講師に迎え、ワクチンに関するオンラインプレスセミナーを開催した。セミナーでは、ワクチンが人類に果たしてきた役割について、その軌跡をたどるとともに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の盾を担うmRNAワクチンにも触れて講演が行われた。ワクチンギャップは解消しつつある日本 岡部氏を講師に「生涯を通じての感染症予防(Life Course Immunization)-COVID-19の経験を含めて-」をテーマにレクチャーが行われた。 はじめに予防接種の歴史について振り返り、天然痘の予防としてわが国では江戸時代末期から種痘が行われたこと、その際に種痘後にお土産を渡すなど予防接種へのインセンティブをもたらす取り組みがこの時代から行われていたことを現代のCOVID-19ワクチン接種の現状と重ねて説明した。 次に戦後のわが国の予防接種制度と社会状況の変化との関連について振り返り、その時代時代と予防接種は強い関係にあると説明した。現在、日本で接種できるワクチンは定時/臨時接種で21種類、任意接種で10種類、計31種類の接種ができ、世界から遅れていたワクチンギャップも解消に向かいつつあるという(2021年9月現在)。また、近年では「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」(日本環境感染学会)や「医療関係者のためのワクチンガイドライン」(同学会)も整備され、医療者の感染予防と他者への感染源とならないための予防などの指針も整備されていると解説を行った。子供がかかる感染症に大人がかかるとリスクが上がる 次にCOVID-19を例にとり、現在までのクラスターの発生状況を振り返った上で、「ワクチン接種のターゲットとして、まず医療機関が守られることであり、医療が動くことが重要」と述べ、ワクチンのポリシーとしては「死亡者を出さないことが大事だ」と語った。 次に大人がかかる子供の感染症について解説を行った。 大人がかかるとリスクが高い感染症として、「水ぼうそう」「はしか」「おたふくかぜ」「ポリオ」「手足口病」「伝染性紅斑」「百日咳」などを代表感染症に挙げ、沖縄県で起こった麻疹のクラスター、近年の風疹のクラスターについて解説。いずれもワクチン接種をしていない、接種不明や1回のみ接種などで抗体ができていない大人が感染し、拡大させていたことを報告した。大人でもワクチンを接種しておけばクラスターを予防できた可能性を述べるとともに、社会的事象としておたふくかぜと難聴の関係、大規模災害と破傷風の流行なども示し、ワクチンの重要性を強調した。これからのワクチン接種で大切な“ISRR” 予防接種の目的は、「感染症罹患予防」「個人の健康保持」「次世代の健康を守る」「社会を守る」「感染症の制圧・根絶」「がんの予防」などさまざまな目的があることを示し、とくに「次世代の健康を守る」「社会を守る」ことが重要だと同氏は語る。また、COVID-19ワクチンとして現在広く接種されているmRNAワクチンについても触れ、開発は過去の研究から積み重ねられて製作されたこと、新しいものを含めワクチンの接種では、感染症患者、健康被害者、健康な人のどこに視点をおいて守るかにより接種機会は変わってくることを説明し、ワクチンの接種では、「いつも接種のメリットとデメリットを衡量することが重要」と同氏は指摘した。また、最近ワクチン接種で注目されているトピックスとして、予防接種ストレス関連反応(Immunization stress related response:ISRR)について触れ、「接種時に医療者はISRRも考慮し、丁寧な説明、接種手技、科学的・医学的対応をする必要がある」と警鐘を鳴らした。 最後に同氏は成人のワクチンの課題として、「効果・安全性に関する説明法やその内容、費用の負担、接種への動機付けなどがある」と指摘し、「ワクチンの安全性を高めるためにも医療者も被接種者も『焦らない・慌てない・数を競わない』ようにしてほしい」と結びレクチャーを終えた。

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