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オミクロン株時代における未成年者に対するRNAワクチン接種の意義は?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本邦にあっては、2022年4月1日をもって民法第4条で定められた成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それ故、2022年4月以降、他の多くの先進国と同様に本邦においても18歳未満を未成年者と定義することになる。未成年者の内訳は複雑で種々の言葉が使用されるが、児童福祉法第4条と旅客及び荷物運送規則第9条の定義に従えば、1歳未満は乳児、1~6歳未満は幼児、6~12歳未満(小学生)は小児、6~18歳未満(小学生、中学生、高校生)は包括的に児童と呼称される。しかしながら、12~18歳未満(中学生、高校生)に該当する名称は定義されていない。未成年者に対するRNAワクチンの海外治験は生後6ヵ月以上の乳児を含めた対象に対して施行されている。これらの海外治験では、本邦の幼児、小児の定義とは少し異なり5歳児は小児として取り扱われている。そこで、本論評では、海外治験の結果を正しく解釈するため、5~12歳未満を小児、12~18歳未満を(狭義の)児童と定義し、オミクロン株時代におけるこれらの世代に対するRNAワクチン2回接種ならびに3回目Booster接種の意義について考察する。小児、児童に対するRNAワクチン2回接種の予防効果 Pfizer社のBNT162b2(コミナティ筋注)の12~16歳未満の児童に対する感染予防効果は米国においてD614G株とAlpha株が混在した時期(2020年10月15日~2021年1月12日)に検証された(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。接種量、接種間隔は16歳以上の治験の場合と同様に30μg筋注、21日間隔2回接種であった。結果は、2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価が16~25歳の思春期層での値に対して1.76倍であった(非劣性)。感染予防効果も100%と高い値が報告された。 BNT162b2の5~12歳未満の小児に対する治験は米国を中心に世界4ヵ国で施行された(Walter EB, et al. N Engl J Med. 2021 Nov 9. [Epub ahead of print])。治験施行時期は2021年6月7日~9月6日であり背景ウイルスはDelta株が中心の時期であった。ワクチン接種量は12歳以上の場合と異なり1回10μgの筋注(接種間隔は21日)であった。2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価は思春期層で得られた値の1.04倍であった(非劣性)。感染予防効果は90.7%であり、心筋炎、心膜炎などの特異的副反応を認めなかった。 Moderna社のmRNA-1273(スパイクバックス筋注)の12~18歳未満の児童に対する感染/発症予防効果は背景ウイルスとしてAlpha株が主流を占めた2020年12月9日~2021年2月28日の期間に米国で観察された(Teen COVE Trial)(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2241-2251.)。ワクチン接種は成人と同量の100μg筋注が28日間隔で2回接種された。児童の中和抗体価は思春期層の1.08倍であり(非劣性)、有症候性の感染予防効果(発症予防)は93.3%でBNT162b2と同様に非常に高い有効性が示された。 6~12歳未満の小児に対するmRNA-1273の有効性は50μg筋注(成人量の半量)を28日間隔で2回接種する方法で検証された(Kid COVE Trial)。結果は正式論文として発表されていないがModerna社のPress Releaseによるとワクチン2回接種後の小児の中和抗体価は思春期層の1.5倍であった(非劣性)(Moderna Press Release. 2021年10月25日)。 以上の小児、児童におけるワクチン接種による中和抗体価と予防効果は2回目接種後2~3ヵ月以内のものであり、中和抗体価、予防効果の最大値を示すものと考えなければならない。今後、小児、児童にあっても接種後の時間経過によって中和抗体価、予防効果がどのように変化するかを検証しなければならない。オミクロン株感染の疫学、遺伝子変異、臨床的特徴 2021年11月9日に南アフリカ共和国において初めてオミクロン株(B.1.1.529)が検出されて以来、この新型変異株はアフリカ南部の国々を中心に世界的播種が始まっている。WHOは、11月26日、この新たな変異株をVOC(Variants of Concern)の一つに分類し、近い将来、Delta株を凌駕する新たな変異株として警戒を強めている(WHO TAG-VE. 2021年11月26日)。南アフリカ共和国では第1例検出からわずか1ヵ月の間にオミクロン株はDelta株を中心とする従来の変異株を凌駕する勢いで増加している(CoVarints.org and GISAID. 2021年12月10日)。南アフリカ共和国での感染発生初期の感染者数倍加速度(Doubling time)はDelta株で1.9日であったのに対しオミクロン株では1.5日に短縮されていた(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。12月14日、WHOはアフリカ南部、欧州、北米、南米、東アジア、豪州に位置する世界76ヵ国でオミクロン株が検出されていることを報告した(WHO COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 2021年12月14日)。米国では、12月1日にオミクロン感染第1例が報告されて以来、海外からの旅行者以外に市中感染例も認めている。米国CDCは12月8日までに集積された43名のオミクロン株感染者の疫学的特徴を報告しているが、感染者のうち20名(46.5%)は米国が承認しているワクチンの2回接種を、14名(32.6%)はワクチンの3回目Booster接種を終了していたという驚愕の事実が浮かび上がっている(CDC. MMWR Early release vol. 70. 2021年12月10日)。すなわち、オミクロン株感染者の79%までがワクチン接種者であり、Breakthrough infection(BI)あるいはDecreased humoral immune response-related infection(DHIRI)が非常に高い確率で発生していることを示唆した。BI、DHIRIは初感染者のみならず再感染者の数を増加させる。この原因は、下述したごとく、オミクロン株が有する高度の液性免疫回避変異のためにワクチン接種後の中和抗体価の上昇が従来の変異株に較べて有意に抑制されているためである。 本邦では、12月15日までに空港検疫において海外渡航者32名にオミクロン株感染が確認されている(国立感染症研究所. 2021年12月15日)。これらの症例のうち入院した16名にあって1歳未満の1名を除く15名全員がワクチン2回接種を終了していた。感染と経済の両立を考えた場合、海外渡航者を永久に締め出すことはできず医療体制が整った所で水際での“鎖国”を緩和していかなければならない。それ故、2022年の冬場から春にかけて欧州、米国などに遅れること数ヵ月で本邦でもオミクロン株の本格的播種が始まるものと覚悟しておかなければならない。この場合、オミクロン株の単独播種以外にDelta株との共存播種の可能性も念頭に置く必要がある。 オミクロン株は今までの変異株に較べ多彩な遺伝子変異を有することが判明しており、ウイルス全長での遺伝子変異は45~52個、S蛋白での遺伝子変異は26~32個と想定されている(WHO Enhancing Readiness for Omicron. 2021年11月28日)。オミクロン株ではウイルスの生体細胞への侵入を規定するS1、S2領域に従来の変異株よりも多い5種類以上の変異が確認されている(N501Y、Q498R、H655Y、N679K、P681Hなど)(米国CDC Science Brief. 2021年12月16日)。これらの変異の結果、オミクロン株の感染性/播種性はDelta株を含めた従来の変異株をはるかに凌駕する。 オミクロン株にあっては、液性免疫回避を惹起するReceptor binding domain(RBD)の複数個の遺伝子変異が報告されており、特に重要な変異はK417N、T478K、E484Aの3つである。417、484位の変異はBeta株、Gamma株にも認められ、478位の変異はDelta株でも確認されているが、Delta株を特徴づける452位の変異はオミクロン株では存在しない。いずれにしろ、従来の変異株よりも多い液性免疫回避変異の結果、オミクロン株はワクチン、Monoclonal抗体薬に対して高い抵抗性を示し、オミクロン株感染におけるBI、DHIRIの発生機序として作用する。 コロナ感染症の重症化(入院/死亡)は主としてCD8-T細胞に由来する細胞性免疫の賦活によって規定される(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。T細胞性免疫の発現に関与するウイルス全長に存在するEpitope(抗原決定基)数は500以上であり(Tarke AT, et al. bioRxiv. 2021;433180.)、遺伝子変異の数が多いオミクロン株(45~52ヵ所)でもCD8-T細胞反応を惹起するEpitopeの78%は維持されている(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE 2021年12月8日)。ウイルスに感染した細胞は賦活化されたCD8-T細胞によって処理され、その後の免疫過剰反応の発現を抑制する。細胞性免疫は液性免疫とは異なり変異株の種類によらず少なくとも8ヵ月以上は維持される(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)。それ故、オミクロン株感染においても有意な細胞性免疫回避は発生せず重症化が従来の変異株感染時を大きく上回ることはない。以上の遺伝子学的事実より、オミクロン株時代における現状ワクチンの第一義的接種意義は”感染予防”から”重症化予防”にシフトしていることを理解しておくべきである。オミクロン株時代にあって未成年者全員にワクチン接種は必要か? ワクチン接種後の中和抗体価に代表される液性免疫とそれに規定される感染予防効果が2回接種後の時間経過に伴い低下することが明らかにされた結果(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021;385:e84. , Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021;385:e83.)、Delta株抑制を目的としてRNAワクチンの3回目Booster接種が世界各国で開始されている。イスラエルの解析ではBNT162b2の2回接種後に比べ3回目接種後(2回目接種から5ヵ月以上経過)のDelta株に対する感染予防効果は8.3倍、重症化(入院/死亡)予防効果は12.5倍と著明に上昇することが報告された(Barda M, et al. Lancet. 2021;398:2093-2100.)。しかしながら、3回目接種以降の経過観察期間は2ヵ月にも満たず、3回目ワクチン接種の効果がどの程度持続するかは不明である。さらに、これらの観察結果は現在問題となりつつあるオミクロン株を対象としたものでないためReal-Worldでの意義は不明である。 Pfizer社の記者会見によると、BNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/25まで低下したものの3回目接種によってオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/2まで回復した(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE, 2021年12月8日)。一方、英国での暫定的検討によると、BNT162b2の2回接種4~6ヵ月後のオミクロン株に対する発症予防効果は35%と低いが3回目Booster接種2週後には75.5%まで上昇した(UKHSA Technical Briefing 31)。ただし、3回目Booster接種によって底上げされたオミクロン株に対する発症予防効果がどの程度の期間持続するかは解析されていない。また、重症化予防効果についても解析されていない。 米国FDAはDelta株感染の拡大を阻止するために16歳以上の年齢層に対するBNT162b2の3回目Booster接種を認可している(Moderna社のmRNA-1273のBooster接種は18歳以上)。本邦でも18歳以上の成人に対するBNT162b2、mRNA-1273の3回目Booster接種が特例承認され、12月初旬より医療従事者からBNT162b2を用いた3回目Booster接種が開始されている。では、オミクロン株時代に、18歳未満の未成年者(児童、小児、幼児、乳児)に対してはいかなるワクチン政策を導入すべきなのであろうか? 現状では、海外治験によって、オミクロン株ではないが従来の変異株に対する児童、小児におけるワクチン2回接種の効果が報告されている。幼児、乳児におけるワクチン接種に関しては現在Pfizer社、Moderna社主導で治験が進行中である。未成年者におけるコロナ感染症の71%までは家族内感染、幼稚園/保育所/学校/塾での感染が12%と報告されている(日本小児学会 デ-タベ-スを用いた国内発症小児COVID-19症例の臨床経過に関する検討)。未成年者がオミクロン株に感染しても重症化する可能性は低いが児童、小児にあっては家から離れた学校などで感染する機会が存在する。それ故、オミクロン株時代にあっても少なくとも2回のワクチン接種を、また、必要に応じて3回目以降のBooster接種を考慮すべきであろう(米国は、10月29日、5歳以上の小児に対するPfizer社ワクチン10μgの2回接種を認可)。一方、幼児、乳児に関しては、彼らに対する直接的ワクチン接種を考える前に親/年長の家族ならびに保育所職員など大人に対する3回目のBooster接種を含めたオミクロン株感染予防対策を徹底すべきであろう。

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人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役【令和時代の糖尿病診療】第4回

第4回 人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役今回は、2021年の締めくくりとして、糖尿病治療において最も歴史のある「インスリン」について語ろうかと思う。今年は、20世紀最大の発見の1つともいわれるインスリンの生誕100年であり、本来なら世界中でいろいろな記念行事があったに違いない。しかしコロナの影響で中止を余儀なくされたり、バーチャル開催になってしまったりと残念でならない。読者の皆さんにもいろいろな年代層の方がいらっしゃると思う(ひょっとしたら100歳の方がご覧になっているかも!?)ので、私と同じく、あらためてインスリンについて考えてみるのもよいかと思う。100年前というと、和暦で大正10年まで遡る。歴史を紐解くと、この年は日本で原 敬首相暗殺というショッキングな事件があり、混沌とした時代だ。また、大正時代の市民生活は、大卒サラリーマンの初任給(月給)が50~60円というデータが残っているなど、まさにタイムスリップした気分で長い時の流れが感じられる。余談はこのくらいにして、少しインスリンの歴史を振り返ってみることにする。図1:インスリン発見100年の軌跡画像を拡大する1921年、カナダ・トロントの医師Frederick Grant Banting氏とCharles Best氏が膵島ホルモンの抽出に成功し、“isletin(アイレチン)”と命名した。その翌年、isletinは14歳の1型糖尿病患者に初めて投与されたが、当初は抽出物の精製が不十分であったためほとんど効果がなく、アレルギー反応が現れ投与は1回限りで中止された。それから程なくして、精製度を高めたものが用いられ、患者の血糖値は正常に低下した。トロントの研究グループは、膵からの抽出液isletinを“insulin”と名付け、製薬企業の協力下で製剤化し、大量生産ができる体制を整えた。これにより、糖尿病が治療可能な疾患になった。それ以前は、治療といえば飢餓療法という非常に悲しい延命策しかなく、不治の病だったのである。インスリンによる治療が可能になり、糖尿病性昏睡は激減したものの、網膜症・腎症の合併症がクローズアップされ、1930年代後半からは血糖コントロールと細小血管障害との関係があるのかなど、喧々諤々と議論されたこともあった。これに決着をつけたのが、1983~1993年に実施された糖尿病の大規模臨床研究DCCT1)である。数多あるインスリン製剤を使いこなすための基礎知識インスリン発見から100年後の2021年4月現在、インスリン製剤は26種類、59製品もの種類が存在する2)。こうまで増えると何を使用すればいいのかわかりづらく、「それなら糖尿病専門医に任せよう」ということにもなりかねないが、そうならないためにもこの場を借りてインスリン治療の基礎を伝授させていただく。まずはインスリンの適応であるが、日本糖尿病学会が提唱しているインスリン依存状態などの「絶対的適応」であれば、病態が安定するまでは専門医に任せてもよいと思われるので、今回は非依存状態であっても血糖コントロールのためにインスリンが必要な場合に、どのような選択をするかを中心に述べたいと思う。インスリン製剤は、作用時間により(超)超速効型・超速効型・速効型・中間型・持効型に分けられ、さらには作用時間が異なるインスリンを混ぜた混合型インスリン(配合注)が存在する。これらを適切に組み合わせ、正常な生理的インスリン分泌(下図)に近づけるよう単位調節を行っていく。インスリン治療の土台部分であり、食事と関係ない基礎分泌の補充を目的に使用される中間型・持効型、および食後の血糖値上昇に伴う追加分泌の補充を目的に使用される(超)超速効型・超速効型・速効型で分けて考えると理解しやすいかと思う。さらに、自己注射で使用できるデバイスには種類があり、それぞれメーカーや特徴によって名称が異なるため、これらの名前も覚えておくとよいだろう。図2:生理的インスリン分泌2型糖尿病患者にインスリン製剤を処方する際の実際(1)インスリンの導入は基礎か追加か?最初に使用するインスリン製剤については、空腹時血糖値の良しあし(個人的なカットオフ値の目安は150mg/dL)により決めることが多い。さほど高くなければ超速効型(追加分泌)から、高ければ持効型(基礎分泌)からと考えられるが、導入時はおそらくHbA1cが8%以上で空腹時血糖値が高い可能性が考えられる。慣れていない場合は、経口血糖降下薬に持効型(基礎)インスリンを追加する形のBOT(Basal supported Oral Therapy)が処方しやすいだろう。追加インスリンを使用する場合、今は食直前に投与する超速効型が主流だが、直近で登場したいわゆる(超)超速効型といわれる製剤(商品名:フィアスプ、ルムジェブ)は、食事2分前~食事開始後20分以内に注射する必要があり、打つタイミングの指導には注意しなければならない。(2)開始量は?糖尿病治療ガイド2020-20213)には、2型糖尿病における持効型インスリン療法開始時の投与量の目安として、1日0.1~0.2単位/実測体重(kg)程度(4~8単位)と記載されている。血糖値が高いからといって、最初から大量に投与することは避けるべきである。(3)1日の注射回数は?外来導入する場合は、1日1回の持効型または混合型インスリン(配合注)から始めるのが、先生方にとっても、また患者さんにとってもやりやすいかと思われる。とくに最近は高齢の糖尿病患者が非常に多くなり、自己注射がおぼつかないケースも増えている中で、1日1回なら同居家族の方に見守ってもらったり、打ってもらったりすることができるからである。(4)デバイス(インスリン注入器)は?インスリン製剤のデバイスは大きく3つに分かれ、使い捨てのプレフィルド製剤(ペンタイプ)、カートリッジ製剤(万年筆タイプ)、バイアル製剤があるが、それぞれにメリットとデメリットがある。わが国においては、利便性や衛生的な観点から圧倒的にプレフィルド製剤が多く使われているが、費用負担も大きいので、医療費を気にする患者さんには希望を確認したほうがよい。(5)注射針は?現在、太さ・長さ・構造が異なる8製品が処方可能であるが、これに関しての使い分けはマニアックなため一部の専門医に任せるとして、いたって標準的な製品で十分である。これで患者さんの同意が得られれば、インスリン導入ができ目標血糖値に合わせて単位の調節を行っていくことになる。インスリン注射部位の皮膚病変に注意ここで一つ注意点を述べておくと、インスリンは現時点で注射製剤のみであり、個人的に使用上で最も重要な事象として、同一部位に繰り返し注射をすることで発生する皮膚病変に留意している。アミロイドの沈着したインスリンボール(右写真)と、脂肪が肥大したリポハイパートロフィーの2種類がある4)。このような腫瘤部への注射で、インスリンの効果が顕著に減少してしまう。そのため、インスリン自己注射手技の再確認時に腹部の状態も忘れずに確認しておくことが大切である(とくに原因不明のコントロール悪化時など)。「注射部位を毎回変えている」と話す患者さんの中には、左右交互にはしているものの、同一部位に注射しているケースも多々あるので注意が必要だ(再三再四言ってはいるが、どうしても打ちやすい場所が決まってくる、中には硬いところに打った方が痛くないなどと言う患者さんまでいる)。これは糖尿病専門医ですらよく陥る失敗であり、読者にもぜひ心に留めておいてほしい。わが国において、1981年にインスリン自己注射が保険適応となり、自宅でも投与可能となったものの、以前はよく「インスリンは最後の治療」などと言われていた。かつては患者さんから「インスリンを打った知り合いはすぐに亡くなってしまった。だから打ちたくない」などという言葉をよく聞いたものだったが、最近はめっきり聞かなくなった。これは、われわれ医療従事者やインスリンを使用している患者さん方の地道な情報発信により、インスリン治療の有用性が未使用の人々にもきちんと理解されてきたからであろう。同時に、インスリンの早期導入によって生命予後がよくなることも伝わっていると認識している。これからも、インスリンは糖尿病患者さんのよりよい治療薬としてますます活躍していくに違いない。人生100年時代、インスリンも100歳今もこれからも現役今宵はインスリン100歳生誕記念に際し、楽しく気ままに書かせていただいた。まだまだ書き足りないことがあるものの、この辺で宮崎が生んだ焼酎「百年の孤独」を飲みながら、筆をおくことにする。それでは、皆さん来年こそいい年であることを祈りましょう!1)Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N Engl J Med. 1993 Sep 30;329:977-986.2)竹内 淳. レジデント2021(医学出版)Vol.14 No.2. [通巻132号]:6-16.3)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.4)Nagase T, et al. Am J Med. 2014;127:450-454.

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日本人の認知症リスクに対する身体活動の影響

 認知症リスクに対する身体活動の影響に関しては、逆因果律の可能性も考えられるため、その因果関係は疑問視されている。京都大学の佐藤 豪竜氏らは、認知症リスクの軽減に対する身体活動の潜在的な因果関係を調査するため、雪国の居住を操作変数(IV)として用いて評価を行った。International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity誌2021年10月29日号の報告。 2013年、65歳以上の高齢者を対象に、独立した身体的および認知機能に関するデータを登録した縦断的コホート研究である日本老年学的評価研究のコホートデータを用いて調査した。平均フォローアップ期間は、5.7年であった。本研究の対象には、日本の19の市町村に在住する7万3,260人が含まれた。身体活動に関するデータは、自己報告形式の質問票で収集し、認知症の発症率は、介護保険データベースより確認を行った。IVは、2段階回帰手順を用いて、piecewise Cox比例ハザードモデルより推定した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中に認知症を発症した高齢者は、8,714人であった(11.9%)。・IV分析では、1週間当たりの身体活動の頻度と認知症リスクとの間に負の関係が認められた。なお、この関連性は、時間経過とともに減少した。 ●1年目のハザード比(HR):0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.74) ●4年目のHR:0.69(95%CI:0.53~0.90) ●6年目のHR:0.85(95%CI:0.66~1.10) 著者らは「認知症リスクに対する身体活動の影響は、少なくとも4年間は継続することが示唆された。そのため、高齢者の認知症リスクを軽減させるためにも、身体活動を推奨すべきであろう」としている。

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円形脱毛症患者、網膜疾患リスクが3.1倍

 円形脱毛症(AA)患者は網膜疾患リスクが高いことが、台湾・国立陽明交通大学のHui-Chu Ting氏らによる検討で示された。AA患者では網膜構造の異常を認めるエビデンスが増えていたが、AAと網膜症との関連は明らかになっていなかった。 研究グループは、今回の研究はレトロスペクティブなものであり、台湾住民のみを対象としていることから他の人口集団に該当するかは不明である、としながらも、「AAと網膜疾患の病態生理を明らかにするため、さらなる研究が必要である」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2021年11月1日号掲載の報告。 研究グループは、台湾の全民健康保険研究データベースを用いて、AAと網膜疾患の関連を調べた。9,909例のAA患者と、その適合対照として9万9,090例を特定し、網膜疾患リスクについて評価した。すべての解析は、Cox回帰モデルを用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較して、AA患者の網膜疾患に関する補正後ハザード比(aHR)は3.10(95%信頼区間[CI]:2.26~4.26)であった。・AA患者において対照群よりも有意に発症リスクが高い網膜疾患は、網膜剥離(aHR:3.98、95%CI:2.00~7.95)、網膜血管閉塞症(2.45、1.22~4.92)、網膜症(3.24、2.19~4.81)であった。

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精神科医、患者、介護者における統合失調症の治療目標

 米国のリアルワールドにおける精神科医、統合失調症患者、その介護者の治療目標の類似点および相違点について、米国・Lundbeck社のHeather M. Fitzgerald氏らが調査を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2021年10月21日号の報告。 精神科医および成人統合失調症患者を対象として2019年6月~10月に実施した調査(Adelphi Schizophrenia Disease Specific ProgrammeTM)よりデータを収集した。精神科医は、連続した8例の外来患者および2例の選択基準に適合する入院患者についての情報を提供した。調査に参加した精神科医、患者、介護者は、調査の一環として治療目標に関する質問に回答した。 主な結果は以下のとおり。・精神科医124名は、統合失調症患者1,204例のデータを提供した。薬物療法に関するデータが1,135例(外来患者928例[82%]、入院患者207例[18%])分含まれていた。また、アンケートは患者555例および介護者135例より収集した。・最も重要な治療目標として、主要な症状の改善と回答した患者の割合は、患者自身は64%、精神科医は63%、介護者は68%であった。・患者、精神科医、介護者はいずれにおいても、性的問題が少ない、体重増加が少ないの項目を最も重要度の低い目標としていた。・患者は、現在投与されている薬剤が最も重要な目標達成のために必要であると感じていた(症状の改善:68%、思考の明瞭さ:39%)。・治療方法や年齢別の分析においても、治療目標に対する全体的な傾向は類似していた。 著者らは「主要な治療目標は、症状改善であることが明らかとなった。この調査結果は、患者、精神科医、介護者が話し合いをするうえで役立ち、効果的なマネジメント戦略や共通の意思決定を促進する可能性がある」としている。

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見逃してはならない“しびれ”とその部位は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第9回

第9回 見逃してはならない“しびれ”とその部位は?―Key Point―しびれは重大な疾患の一つの症状のことがあるしびれの分布や部位から原因疾患を絞り込むことができる頻度が高い疾患は、症状の特徴を覚えておくと診断が容易である症例:68歳 女性主訴)右胸痛、呼吸苦現病歴)7日前、突然左指と左口唇がしびれたが数分で改善した。脳MRI検査を受けたが異常なし。昨夕から徐々に右胸痛と右背部痛が出現。体動時と深呼吸時に痛みは増悪。動くと息切れあり。本日、外出時に痛みの増悪を認め来院した。既往歴)COPD薬剤歴)なし社会歴)たばこ:20歳から45歳まで30本/日アルコール:飲まない経過)左指と左口唇のしびれからは視床の病変が連想される(手口感覚症候群)。視床では口唇と手指の感覚領域が近接して存在する息をすると胸が痛むという症状は胸膜に病変が及んでいることを示唆する胸部レントゲン写真で異常陰影を認めたので、胸部CT検査を行い原発性肺がん(S4) と右第7肋骨骨転移の診断となった肺がんのため過凝固となり手口感覚症候群を起こしたと考えられた◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者はしびれをよく訴える多発神経障害は臨床で遭遇する頻度が高い多発性単神経障害なら原因疾患を絞り込みやすい【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】見逃してはならないしびれかを考察する1)手口感覚症候群(視床の出血/梗塞)指先がしびれている時には、口もしびれていないか必ず確かめるWallenberg症候群(延髄外側症候群)病側の顔面温痛覚低下(V)+構音障害/嚥下障害(IX、X) + ホルネル症候群 + 小脳失調、反対側の体幹/上下肢の温痛覚低下(外側脊髄視床路)Guillain-Barre症候群数日から数週間で急速に進行する。カンピロバクター感染症による下痢が先行することがある。症状は下肢から始まる左右対称性弛緩麻痺、呼吸筋麻痺、自律神経障害(血圧変動、頻脈、徐脈)。感覚障害はなくてもよい。閉鎖孔ヘルニア患側大腿内側から下腿の痛み/しびれ(Howship-Romberg兆候)、やせ型の高齢女性に多いNumb chin syndrome顎がしびれる。悪性リンパ腫/乳がん/前立腺がんが三叉神経(V3下顎神経)に浸潤【STEP2-2】しびれの分布から考える多発神経障害(polyneuropathy)2)神経線維の長い足底から上方にしびれが進行。左右対称性<主な原因>DANG THERAPIST(ひどい療法士)*以下の各頭文字を表しているDM(糖尿病)Alcohol(飲酒)Nutritional(ビタミンB12、銅欠乏)Guillain-Barre(ギランバレー症候群)Toxic(中毒:重金属、薬剤)Hereditary(Charcot-Marie-Tooth)Renal(尿毒症)Amyloidosis(アミロイドーシス)Porphyria(ポルフィリン症)Infection(感染症:HIV、ライム病)Systemic(全身性:血管炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群)Tumor(腫瘍随伴症候群)多発性単神経障害(mononeuritis multiplex)いろいろな部位の単神経障害が左右非対称に進行糖尿病、血管炎、膠原病(SLE、関節リウマチ)、HIV【STEP3】部位から原因を鑑別する■母指~環指橈側のしびれ(正中神経支配)手根管症候群(最も頻度の高い末梢性絞扼神経障害)夜間に増悪、手を振ると軽快、リスクファクターは手を使う職業、甲状腺機能低下症、糖尿病、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、妊娠。猿手■環指尺側と小指のしびれ(尺骨神経支配)肘部管症候群変形性関節症、ガングリオン、スポーツ、小児期の骨折による外反肘が原因。鷲手変形■手背母指と示指のしびれ(橈骨神経支配)橈骨神経麻痺飲酒後に肘掛け椅子で寝て上腕内側を圧迫。下垂手■上肢のしびれ…頸椎症による神経障害3)神経根症頸部~肩甲骨部の痛み、デルマトームに沿った根性疼痛(しびれだけなら脊髄症)脊髄症手のしびれで発症し、手指が器用に動かせなくなる。10秒テスト: 手掌を下にしてできるだけ速く、グーとパーを繰り返す。10秒間で正常者では25~30回できる。胸郭出口症候群上肢のしびれ、肩/上肢/肩甲骨周囲の痛み、腕神経叢の障害■大腿外側のしびれ大腿外側皮神経痛体重増加、妊娠、きついベルトが原因。股関節の伸展/深い屈曲で症状増悪■腰痛+殿部や膝より末梢の下肢に放散痛3)椎間板ヘルニアSLR(straight leg raising)test陽性(感度80%、特異度40%)。95%はL5とS1の根が関与。膝蓋腱反射低下(L4)足関節/母趾背屈力低下(L5)アキレス腱反射低下/つま先立ちができない(S1)■下腿外側~足背のしびれ総腓骨神経麻痺右下肢外側腓骨頭での圧迫。外傷やギプス固定が原因。下垂足のため鶏様歩行■足底~つま先のしびれ足根管症候群内果後方の足根管で脛骨神経を圧迫閉塞性動脈硬化症下肢のしびれや痛み、冷感、間欠性跛行(休息で改善)ABI(ankle-brachial index)1.3<治療>原疾患の治療を行う。 <参考文献>1)塩尻俊明.非専門医が診る しびれ. 羊土社. 2018.2)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. 2019. p525-539.3)仲田和正. 手・足・腰診療スキルアップ. シービーアール. 2004.

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英語で「眠気が出ます」は?【1分★医療英語】第7回

第7回 英語で「眠気が出ます」は?Are there any side effects of this med?(何か副作用はありますか?)This medication may cause drowsiness.(服用後、眠気が出る可能性があります)《例文1》I feel drowsy during the daytime.(昼間に眠気がひどいです)《例文2》When did you start feeling drowsiness?(眠気の症状はいつから始まりましたか?)《解説》「眠気」は“drowsiness”や“sleepiness”で表現します(文語では“somnolence”を使うこともあります)。これが「疲労」となると“tiredness”や“fatigue”(文語では倦怠感・不快感として“malaise”)、「だるい」「ぼーっとする」は“sluggish”(文語では“lethargic”)など、似たような症状でも多くの単語があります。現場では、患者のさまざまな表現を聞き取り、チャートには文語を使って書くなど、使い分けをしています。また、日本語は主語を省略しても成り立つので、日本語から英語へ直訳しようとすると、「あれ?」となることも多くあります。「眠気が出る可能性がある」を“There is a possibility…”と一字一句を訳すのではなく、会話例のように“The medication(この服薬)”を主語にする、または“You may feel drowsiness.”にするなど、直訳ではなく、自分が知っている単語を使って状況を説明するように心掛けると、さらにスムーズに英語が出てくるようになるかもしれません。講師紹介

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第91回 オミクロン株がより広まりやすいことに寄与しうる特徴

治療で除去されたヒト組織を使った香港大学の研究の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株は去年2020年のSARS-CoV-2元祖やデルタ株に比べておよそ70倍も早く気管支で増えることができました1)。オミクロン株が人から人により広まりやすいゆえんかもしれません。一方、肺でのオミクロン株の複製はよりゆっくりでSARS-CoV-2元祖の10分の1足らずでした。もしオミクロン株感染がより軽症であるとするなら肺で増え難いことがその一因かもしれません。スパイクタンパク質に無数の変異を有するオミクロン株の感染しやすさが他のSARS-CoV-2を上回ることにはヒト細胞のACE2との相性の良さも寄与しているようです。SARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)を使った実験の結果、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するときの足がかりとなる細胞表面受容体であるACE2へのオミクロン株スパイクタンパク質の結合はデルタ株やSARS-CoV-2元祖のどちらにも勝りました2,3)。著者によるとオミクロン株代理ウイルスの感染しやすさは調べた他のSARS-CoV-2変異株のどれをも上回りました。重症度はどうかというと、南アフリカ最大の保険会社の先週14日の発表を含む同国からの一連の報告ではオミクロン株感染入院率がデルタ株に比べて一貫して低く、オミクロン株感染は比較的軽症らしいと示唆されています4)。その保険会社Discovery Healthの解析ではオミクロン株感染が同国で急増した先月11月中旬(15日)から今月12月初旬(7日)のおよそ8万件近くを含む21万件超のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)検査情報が扱われ、オミクロン株感染者の入院率は同国での昨年2020年中頃のD614G変異株流行第一波に比べて29%低いことが示されました5,6)。それに、入院した成人がより高度な治療や集中治療室(ICU)に至る傾向も今のところ低く5)、入院後の経過も比較的良好なようです。とはいえ、他国の状況を鑑みるにオミクロン株感染は軽症で済むとまだ断定はできないようです。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの先週16日の報告7,8)によると、同国イングランドでのオミクロン株感染の重症度はデルタ株と異なってはおらず、南アフリカからの報告とは対照的に入院が少なくて済んでいるわけではありません4)。ただしイングランドでの入院データはまだ十分ではありません。いずれにせよオミクロン株感染の重症度はまだ症例数が少なすぎて結論には至っておらず4)、さらなる調査が必要なようです。オミクロン株感染の増加が医療を圧迫する恐れ今後の研究で幸いにしてオミクロン株感染の重症化や死亡のリスクが低いと判明したとしてもその感染数が莫大ならとどのつまり重症例も多くなります。その結果医療への負担は大きくなり、他の病気の治療に差し障るかもしれません4)。たとえば英国バーミンガム大学が率いた研究では、オミクロン株流行で入院が増えることで同国イングランドのこの冬(今年12月~来年4月)の待機手術およそ10万件が手つかずになりうると推定されました9,10)。待機手術を受け入れる余力を残しておく必要があると著者は言っています。参考1)HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung / University of Hong Kong 2)mRNA-based COVID-19 vaccine boosters induce neutralizing immunity against SARS-CoV-2 Omicron variant. medRxiv. December 14, 2021 3)Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet / STAT4)How severe are Omicron infections? / Nature5)Discovery Health, South Africa’s largest private health insurance administrator, releases at-scale, real-world analysis of Omicron outbreak based on 211 000 COVID-19 test results in South Africa, including collaboration with the South Africa / Discovery Health6)Covid-19: Omicron is causing more infections but fewer hospital admissions than delta, South African data show / BMJ7)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis8)[Summary] Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis9)COVIDSurg Collaborative.Lancet. December 16, 2021 [Epub ahead of print] 10)Omicron may cause 100,000 cancelled operations in England this winter / Eurekalert

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COVID-19感染クロザピン使用患者における好中球数の変化

 クロザピンは、無顆粒球症・顆粒球減少症などの重篤な副作用リスクを有しているものの、治療抵抗性統合失調症の重要な治療選択肢である。そして、クロザピンのモニタリングシステムは、無顆粒球症の発生率や死亡率の低下に貢献している。しかし、COVID-19のパンデミックは、このモニタリングシステムに影響を及ぼしている。マレーシア・ケバングサン大学のFitri Fareez Ramli氏らは、COVID-19に感染したクロザピン治療患者における好中球の変化に関する現在のエビデンスより、各症例における、絶対好中球数(ANC)レベル、正常、低下、上昇に関する情報を収集し、評価を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2021年10月27日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・無顆粒球症の報告は認められなかった。・中等度~重度のANCレベルであった1例については、クロザピン治療期間が18週であった。・最初の症例集積の累積分析では、決定的な結果は報告されなかった。・サンプルサイズの大きな最近の研究では、COVID-19感染によりANCレベルが有意に低下することが報告されている。しかし、ベースライン時と感染後のANCレベルに有意な差が認められないため、この影響は一時的なものであると考えられる。 著者らは「COVID-19は、ANCレベルの一時的な低下を引き起こす可能性が示唆された。本結果は、クロザピンモニタリングの頻度を減らすことをサポートするものであった」としながらも「研究デザイン、サンプルサイズ、統計分析などの制限を考慮すると、この結果を明らかにするためには、さらなるデータが必要とされる」としている。

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デュピルマブ、中等症~重症喘息児の急性増悪を抑制/NEJM

 コントロール不良の中等症~重症喘息児の治療において、標準治療にデュピルマブ(インターロイキン-4受容体のαサブユニットを遮断する完全ヒトモノクローナル抗体)を追加すると、標準治療単独と比較して、急性増悪の発生が減少し、肺機能や喘息コントロールが改善することが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLeonard B. Bacharier氏らが行った「Liberty Asthma VOYAGE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年12月9日号で報告された。追加効果を評価する国際的な第III相試験 研究グループは、コントロール不良の中等症~重症喘息の小児の治療におけるデュピルマブの有効性と安全性の評価を目的に、国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SanofiとRegeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢6~11歳で、Global Initiative for Asthma(GINA)ガイドラインに基づき、コントロール不良の中等症~重症の喘息と診断された患児であった。 被験者は、デュピルマブ(体重≦30kgは100mg、>30kgは200mg)またはプラセボを、2週ごとに52週間、皮下投与する群に無作為に割り付けられた。すべての患児が、一定の用量の標準的な基礎治療を継続した。 主要エンドポイントは、重度の急性増悪の年間発生率。副次エンドポイントは、12週時の気管支拡張薬投与前の予測1秒量の割合(ppFEV1)と、24週時の質問者記入式の喘息管理質問票7(ACQ-7-IA)のスコアのベースラインからの変化などであった。 エンドポイントは、次の2つの主要有効性解析集団で評価された。(1)喘息の表現型が2型炎症(ベースラインの血中好酸球数≧150/mm3または呼気中一酸化窒素濃度≧20ppb)の患者、(2)ベースラインの血中好酸球数≧300/mm3の患者。有害事象プロファイルは許容範囲 408例が登録され、デュピルマブ群に273例、プラセボ群に135例が割り付けられた。2型炎症の集団は、デュピルマブ群236例(平均年齢8.9±1.6歳、男児64.4%)、プラセボ群114例(9.0±1.6歳、68.4%)であり、好酸球数≧300/mm3の集団は、それぞれ175例(8.9±1.6歳、66.3%)および84例(9.0±1.5歳、69.0%)であった。追跡期間中央値は365日だった。 2型炎症の集団における重度急性増悪の補正後年間発生率は、デュピルマブ群が0.31(95%信頼区間[CI]:0.22~0.42)と、プラセボ群の0.75(0.54~1.03)に比べ有意に低かった(デュピルマブ群の相対リスク減少率:59.3%、95%CI:39.5~72.6、p<0.001)。また、好酸球数≧300/mm3の集団でも、重度急性増悪の補正後年間発生率はデュピルマブ群で良好であった(0.24[95%CI:0.16~0.35]vs.0.67[0.47~0.95]、デュピルマブ群の相対リスク減少率:64.7%、95%CI:43.8~77.8、p<0.001)。 ppFEV1のベースラインから12週までの変化の平均値(±SE)は、デュピルマブ群は10.5±1.01ポイントであり、プラセボ群の5.3±1.4ポイントに比し有意に大きく(平均群間差:5.2ポイント、95%CI:2.1~8.3、p<0.001)、肺機能の改善が認められた。この効果は、2型炎症の集団(プラセボ群との最小二乗平均の差:5.2、95%CI:2.1~8.3)と好酸球数≧300/mm3の集団(同5.3、1.8~8.9)でほぼ同程度であった。 24週時におけるACQ-7-IAスコア(減少幅が大きいほど喘息コントロールが良好)のベースラインからの変化の最小二乗平均(±SE)は、2型炎症の集団ではデュピルマブ群は-1.33±0.05、プラセボ群は-1.00±0.07(プラセボ群との最小二乗平均の差:-0.33、95%CI:-0.50~-0.16)、好酸球数≧300/mm3の集団ではそれぞれ-1.34±0.06および-0.88±0.09(同-0.46、-0.67~-0.26)であり、いずれもデュピルマブ群で有意に優れた(双方ともp<0.001)。 52週の試験期間中に、有害事象はデュピルマブ群83.0%、プラセボ群79.9%で発現した。頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(デュピルマブ群18.5%、プラセボ群21.6%)、上気道感染症(12.9%、13.4%)、咽頭炎(8.9%、10.4%)、インフルエンザ(7.4%、9.0%)などであり、注射部位反応による紅斑がそれぞれ12.9%および9.7%で認められた。重篤な有害事象の発現率は両群で同程度だった(4.8%、4.5%)。喘息の増悪による入院が、デュピルマブ群の4例(1.5%)でみられた。 著者は、「この年齢層における生物学的製剤の上乗せ治療に関する無作為化試験はほとんど行われていないが、今回の研究で、デュピルマブは臨床的に意義のある肺機能の改善効果をもたらすとともに、バイオマーカー主導型のアプローチの効用性が明らかとなった」としている。

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第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法Q1 糖尿病診療における高齢者総合機能評価とは?なぜ重要なのですか?高齢者糖尿病では老年症候群の認知機能障害、フレイル、ADL低下、転倒、うつ状態、低栄養、ポリファーマシーなどが約2倍きたしやすくなります1)。また、疾患としては認知症、サルコペニア、脳卒中、骨関節疾患などの併存症も多くなります。さらに、孤立、閉じこもり、経済的な問題など社会的な問題も伴いやすくなります。こうした多岐にわたる診療上の問題点に対して、疾患よりも心身機能に焦点を当てて、多職種でその機能を改善する老年医学的アプローチが高齢者総合機能評価です。英語のComprehensive geriatric assessmentを略してCGAと呼ばれています。糖尿病におけるCGAは身体機能、認知機能、栄養、薬剤、心理状態、社会状況の6つの領域を評価するのがいいと考えています。そうした場合、栄養のことは栄養士、薬剤のことは薬剤師、心理と社会のことは看護師、心理士、ケースワーカーなどと協力して評価すると詳細に評価できると思います。入院患者のCGAの場合は、こうした多職種が分担して評価し、カンファレンスを行って、6つの領域に対する対策をチームで立てることができます。高齢者にチームでCGAを行うと、死亡や施設入所のリスクを低下させることができるというメタ解析の結果が得られています2)。Q2 糖尿病診療における高齢者総合機能評価で実際に評価すべき項目、用いるツールは?身体機能では手段的ADL、基本的ADL、フレイル、サルコぺニア、転倒、視力、聴力、巧緻機能などを評価します。手段的ADLと基本的ADLはLawtonの指標やBarthel指標で評価できますが、簡易に評価する場合はDASC-8(第7回参照)の質問の一部を使うことができます。フレイルはJ-CHS基準または基本チェックリストで評価しますが、歩行速度の測定が難しい施設では簡易フレイルインデックス(表1)が便利です。J-CHS基準や簡易フレイルインデックスは3項目以上、基本チェックリストでは8点以上がフレイルです。サルコペニアはAWGS2019による診断基準で診断しますが、臨床的には握力測定か5回椅子立ち上がりテストを行うのがいいと思います。握力は男性で28kg未満、女性で18kg未満が低下となります(第24回参照)。視力や巧緻機能はインスリン注射が可能かの判断に重要です。画像を拡大する認知機能では認知機能全般だけでなく、記憶力、遂行機能(実行機能)、注意力、空間認識など糖尿病で低下しやすい領域を評価することもあります。認知機能全般はMMSEまたは改訂長谷川式知能検査で評価する場合が多いです。DASC-21またはDASC-8は日常生活に関して質問する指標なので、メディカルスタッフや介護職が行うのがいいと思います。DASC-21は31点以上が認知症疑いとなります。MMSEがそれほど低下しなくてもインスリン注射などの手技ができない場合は、時計描画試験を行って遂行機能が障害されていないかを確かめます。MoCAは糖尿病患者のMCIのスクリーニング検査として有用です。MoCA25点以下がMCI疑いですが、臨床的には23点以下が実態に合っているように思います。心理状態はうつ状態、不安、QOL低下があるかをチェックします。うつはGDS15で評価しますが、短縮版のGDS5や基本チェックリストの5問の質問も利用できます。栄養では低栄養として体重減少、BMI低値、食事摂取の低下などを評価します。MNA-SFは低栄養のスクリーニングとして利用できます。また、腹部肥満の指標として腹囲を測定します。薬剤では、服薬や注射のアドヒアランス低下、ポリファーマシー、有害事象の有無を評価します。社会状況では、孤立、閉じこもり、社会参加、家族サポート、介護保険の要介護認定、住宅環境、経済状況などをチェックします。孤立や閉じこもりは社会的フレイルの重要な要素で、それぞれ同居家族以外の人の交流が週1回未満、外出が1日1回未満が目安となります。高齢糖尿病患者におけるCGAは入院患者の治療方針を決める場合に行い、外来では可能ならば年に1回、あるいは心身機能に変化があると考える場合に施行することが望ましいと考えます。Q3 外来診療で簡易に高齢者総合機能評価を行う方法はありますか?Q2でご紹介した高齢者総合機能評価(CGA)の項目は入院患者などが対象で、評価する時間と人手がある場合に行うものです。外来診療で簡易にCGAを行う例をご紹介したいと思います(図1)。画像を拡大するまず、身体機能と認知機能を簡易にスクリーニングするために、DASC-8またはDAFS-8を行います。DASC-8は以前にご紹介したように認知(記憶、時間見当識)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問を4段階で評価し、合計点を出します(第7回参照)。DAFS-8は知的活動(新聞を読む)、社会活動(友人を訪問)、手段的ADL(買い物、食事の用意、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問からなり、知的・社会活動、手段的ADLは老研式活動能力指標から5問、Barthel指標から3問をとっています(表2)。DAFS-8はDASC-8と比べて基本的ADL以外は2者択一の質問なので聞きやすいという利点があります。DASC-8とDAFS-8のいずれも総合点によって3つのカテゴリー分類を行うことができ、血糖コントロール目標を設定することができます3,4)。画像を拡大するカテゴリーII以上で認知機能の精査を希望する場合はMMSEや改訂長谷川式知能検査を行います(第4回参照)。また、カテゴリーII以上はフレイル・サルコペニアがないかをチェックします。まず、握力の測定をします。さらに、簡易フレイルインデックスの体重減少、物忘れ、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の有無を質問し、フレイルをスクリーニングします。座位時間が長くなっていないかも身体活動を評価するのに参考になります。さらに、糖尿病の診療で従来から行っている栄養、薬剤、心理、社会面の評価を追加すればCGAとなります。外来でも多職種で分担すると効率的にCGAを行うことができます。当センターの糖尿病外来では初診時の問診項目にDASC-8を加えて、看護師が聴取するようになっています。Q4 評価結果を実際どのような考え方で治療・介入に結びつけていますか?こうしたCGAでは領域ごとに対策を立てることが大切です。カテゴリーII以上では身体活動量低下、フレイル・サルコペニア、アドヒアランス低下、社会ネットワーク低下の頻度が増加することが明らかになっています5)。したがって、カテゴリーII以上では、適正なエネルギーと十分なタンパク質を摂り、坐位時間を短くするように指導し、レジスタンス運動を含む運動を週2回以上行うことを勧めます。服薬アドヒアランス低下の対策は治療の単純化であり、服薬数や服薬回数を減らすこと、服薬タイミングの統一、一包化(SU薬を除く)、配合剤の利用などが挙げられます。インスリン治療の単純化は複数回のインスリン注射を(1)1日1回の持効型インスリン、(2)週1回のGLP-1受容体作動薬、または(3)持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更していくことです。この治療の単純化はアドヒアランスの向上だけでなく、血糖のコントロールの改善や低血糖の防止を目指して行うことが大切です。カテゴリーIIIの場合は減薬・減量の可能性も考慮します。社会的な対策として、カテゴリーII以上で孤立や閉じこもりがある場合には社会参加を促し、通いの場などで運動、趣味の活動、ボランティアなどを行うことを勧めます。介護保険の要介護認定を行い、デイケア、デイサービスを利用することも大切です。また、訪問看護師により、インスリンなどの注射の手技の確認や週1回のGLP-1受容体作動薬の注射を依頼することもできます。1)Araki A, Ito H. Geriatr Gerontol Int 2009;9:105-114.2)Ellis G, et al. BMJ. 2011 Oct 27;343:d6553. 3)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.4)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int 2021;21:512-518.5)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2020; 20:1157-1163.

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統合失調症に対する抗精神病薬治療効果とテロメア長との関連

 統合失調症の重症度や認知機能障害に対する持続性注射剤(LAI)および経口剤の非定型抗精神病薬の有効性とテロメア長との関連について、インド・University College of Medical Sciences and Guru Teg Bahadur HospitalのNisha Pippal氏らが調査を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2021年10月29日号の報告。 18~50歳の性別を問わない統合失調症患者60例を対象に、12週間の研究を実施した。LAI抗精神病薬と経口抗精神病薬を、それぞれ30例に投与した。ベースライン時および12週間時点で、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)およびインド国立精神衛生神経科学研究所(NIMHANS)の神経心理学的テスト・バッテリーを用いた評価を行った。テロメア長は、ベースライン時に推定した。 主な結果は以下のとおり。・12週間の治療後、両群ともにPANSSスコアおよびNIMHANSテスト・バッテリーのスコアの有意な改善が認められた(p<0.001)。・ベースライン時の平均テロメア長は、LAI抗精神病薬治療群で407.58±143.93、経口抗精神病薬治療群で443.40±178.46であった。・テロメア長の短さと、治療後のPANSS陰性症状スコアの平均変化との有意な関係が認められた(r=-0.28、p=0.03)。 著者らは「LAI抗精神病薬は、統合失調症における重症度の軽減および認知機能障害の改善に対し、経口抗精神病薬と同様の効果を有していた。また、テロメア長が短い患者では、PANSS陰性症状スコアのより大きな改善が認められた。そのため、統合失調症患者に対する抗精神病薬の治療反応を予測するうえで、テロメア長は有用である可能性が示唆された」としている。

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早期乳がん、タキサンへのアントラサイクリン追加のベネフィットとリスク~メタ解析/SABCS2021

 早期乳がんに対するタキサンとアントラサイクリンをベースとした化学療法は、アントラサイクリンによる心毒性と白血病リスク増加の懸念から、アントラサイクリンを含まないレジメン、とくにドセタキセル+シクロホスファミド(DC)が広く使用されている。アントラサイクリン併用のベネフィットとリスクは複数の無作為化試験で検討されているが、結果が一致していない。今回、Early Breast Cancer Trialists Collaborative Group(EBCTCG)が、2012年以前に開始された16件の無作為化比較試験から約1万8,200例のデータのメタ解析を実施した。その結果、アントラサイクリン併用で、乳がん再発リスクが相対的に15%減少し、また同時投与レジメンで最大の減少がみられたことを、英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS 2021)で発表した。・比較試験の種類:(A)アントラサイクリン+DC同時投与6サイクル vs. DC 6サイクル(タキサン累積投与量が両群で同じ)3試験(B)アントラサイクリン/タキサン逐次投与 vs. DC 6サイクル(タキサン累積投与量が併用群で少ない)8試験(C)タキサン+アントラサイクリン vs. タキサン±カペシタビン3試験(D)タキサン+アントラサイクリン vs. タキサン+カルボプラチン2試験・主要評価項目:再発率、乳がんによる死亡率 主な結果は以下のとおり。・全試験でのメタ解析では、タキサンに対するタキサン+アントラサイクリンでの再発リスクの相対的減少は15%(RR:0.85、95%CI:0.78~0.93、2p=0.0003)、10年での絶対的減少は2.5%(95%CI:0.9~4.2)だった。乳がん死亡リスクの相対的減少は13%(RR:0.87、95%CI:0.78~0.98、2p=0.02)、10年での絶対的減少は1.6%(95%CI:0.1~3.1)だった。・再発リスクの相対的減少は、アントラサイクリン同時投与の有無による比較(A)で42%(RR:0.58、95%CI:0.43~0.79)と最大だった。一方、アントラサイクリン/ドセタキセル逐次投与とDCの比較(B、ドセタキセル累積投与量が併用群で少ない)では、アントラサイクリン併用による有意なベネフィットはなかった(RR:0.92、95%CI:0.78~1.09)。・再発率の相対的減少について、エストロゲン受容体の発現状況やリンパ節転移の個数による違いはなかった。・心血管疾患や白血病による死亡の有意な増加は示されなかった(長期フォローアップが必要)。

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tapinarofクリームが尋常性乾癬に有効~第III相試験/NEJM

 軽度~重度の尋常性乾癬患者において、tapinarof 1%クリーム1日1回12週間塗布は、対照(基剤)と比較して重症度を有意に改善したが、局所および頭痛などの有害事象も伴った。米国・マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のMark G. Lebwohl氏らが、tapinarofの2件の無作為化第III相試験「PSOARING 1」および「PSOARING 2」の結果を報告した。tapinarofは、インターロイキン(IL)-17と皮膚バリア機能に関与するフィラグリンおよびロリクリンの発現を調節するアリル炭化水素受容体調節薬で、クリーム剤が乾癬の治療薬として検討されており、第II相試験で有効性が示されていた。今回の結果を受けて著者は、「乾癬に対するtapinarofクリームの有効性と安全性を既存の治療薬と比較検討するためには、より大規模で長期的な試験が必要である」とまとめている。NEJM誌2021年12月9日号掲載の報告。tapinarofの有効性をPGAスコアで評価 研究グループは、ベースライン時の医師による全般的評価(PGA)スコア(範囲:0~4、スコアが高いほど乾癬の重症度が高いことを示す)が2~4(軽度~重度)で、病変面積が体表面積(BSA)の3~20%の成人乾癬患者を、tapinarof 1%クリーム(tapinarof群)または基剤クリーム(対照群)の2群に、2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回12週間塗布した。 主要評価項目はPGA奏効(12週時のPGAスコアが0~1、かつベースラインから2ポイント以上低下)、副次評価項目は、それぞれ12週時における、PASI 75(乾癬面積重症度指数[PASI]スコアのベースラインから75%以上改善)を達成した患者の割合、PGA0/1(PGAスコア0または1)を達成した患者の割合、病変面積のBSAに占める割合のベースラインからの平均変化量、PASI 90を達成した患者の割合とした。また、患者報告アウトカムとして、そう痒重症度スコア(Peak Pruritus Numerical Rating Scale[PP-NRS]:かゆみなし[0]~想像できる限り最悪のかゆみ[10])のベースラインからの平均変化量および4ポイント以上改善した患者の割合、PP-NRS総合スコア、皮膚疾患特異的QOL(DLQI)合計スコア、乾癬症状日誌(Psoriasis Symptom Diary)スコアのベースラインからの平均変化量を評価した。PGA奏効率、tapinarof群35%、対照群6% 「PSOARING 1」および「PSOARING 2」において、それぞれ692例および674例がスクリーニングされ、510例および515例が登録された。 PGA奏効率は、「PSOARING 1」でtapinarof群35.4%、対照群6.0%、「PSOARING 2」ではそれぞれ40.2%および6.3%であった(いずれの試験もvs.対照群のp<0.001)。副次評価項目および患者報告アウトカムについても、主要評価項目と同様の結果が得られた。 有害事象については、tapinarof群で毛包炎、鼻咽頭炎、接触性皮膚炎、頭痛、上気道感染症、そう痒などが認められた。

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天疱瘡〔Pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義天疱瘡は、表皮細胞間接着に働くデスモグレイン:Dsg(カドヘリン型細胞接着分子)にIgG自己抗体が結合し、その接着機能を阻害するために皮膚・粘膜に水疱を形成する自己免疫性水疱症である。天疱瘡は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡と、尋常性天疱瘡の亜型とされる増殖性天疱瘡や、腫瘍随伴性天疱瘡、落葉状天疱瘡の亜型とされる紅斑性天疱瘡、疱疹状天疱瘡などを含むその他の天疱瘡の3型に大別される。■ 疫学2015年の天疱瘡による受給者証所持数は5,777人、2017年は3,347人、2019年は3,091人であった1)。2017年以降の減少については、2015年に「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」が施行され、制度が変更されたことや経過措置の期限に伴う変動が考えられる。受給者証保持数の年齢分布は50~60歳台が多く、60歳台が最も多い1)。発症年齢は50歳台に多く、男女比はおおむね1:1.5と女性にやや多いとされる。病型については、世界では落葉状天疱瘡が多いブラジルなど地域により病型の頻度が異なる地域もあるが、一般的には尋常性天疱瘡が最も多く、わが国では尋常性天疱瘡が65%程度を占めており、落葉状天疱瘡が次に多く20%程度を占める2)。■ 病因前述のように、IgG自己抗体がDsgに結合することにより表皮細胞間接着機能を阻害することが天疱瘡における水疱形成の主な病態であると考えられている。接着機能阻害の機序として、自己抗体の結合によりDsgを直接阻害するほか、自己抗体結合後の細胞内シグナル伝達を介したDsgの細胞内への取り込みや抗原特異的T細胞およびB細胞、制御性T細胞の病態への関与などが考えられているが、今なお自己抗体が産生される原因は不明である。■ 症状尋常性天疱瘡は、粘膜皮膚型と粘膜優位型に分類され、粘膜皮膚型では抗Dsg3抗体と抗Dsg1抗体が、粘膜優位型では抗Dsg3抗体がみられる。各病型の症状を説明する上で、デスモグレイン代償説が知られている。Dsg3は皮膚では表皮下層優位に、粘膜では全層に強く発現し、Dsg1は皮膚では表皮全層に上層優位に、粘膜ではほぼ全層で弱く発現している。粘膜皮膚型尋常性天疱瘡では、両抗体により粘膜・皮膚ともに障害され、基底層直上で水疱を形成する。口腔内粘膜症状が初発症状となることが多い。水疱は弛緩性で破れやすく容易にびらんとなり、また、一見正常にみえる部位にも圧力によってびらんを来すNikolsky現象がみられる。一方、粘膜優位型尋常性天疱瘡では、阻害されたDsg3の機能をDsg1が代償しきれない粘膜で主に症状を呈するが、皮膚ではDsg1が代償し、症状がみられないかもしくは軽度に留まる。落葉状天疱瘡では、抗Dsg1抗体により、Dsg3の代償がない表皮上層に水疱が形成される。頭部や胸背部などの脂漏部位に小紅斑を伴う水疱とびらんがみられることが多いが、広範囲の紅斑を呈する場合もある。粘膜では阻害されたDsg1の機能をDsg3が代償するため、通常粘膜病変はみられない。リンパ系疾患に伴うことが多い腫瘍随伴性天疱瘡では、難治性の口腔内びらん・潰瘍や眼粘膜病変が特徴的であり、消化管や陰部の病変を伴うこともある。閉塞性細気管支炎を併発し得る。■ 予後一般に尋常性天疱瘡は、落葉状天疱瘡に比し重症であることが多いが、2010年に天疱瘡診療ガイドラインが示され2)、治療導入期の集中的治療が標準的になった近年、天疱瘡は寛解や軽快を達成し得る疾患となっている。施設間にもよるが、治療導入により一旦臨床的に寛解した症例は80~90%超などの報告がある3、4)。しかし、重症難治例や軽快しても再燃を起こす例がみられ、寛解後も病勢の変化に注意して経過観察する必要がある。また、本疾患は第1選択であるステロイド内服療法が長期となる場合が多いことから、感染症、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、消化管潰瘍などの合併症に十分留意する必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)天疱瘡診療ガイドラインに示されている診断基準を下記に示す2)。天疱瘡の診断基準(1)臨床的診断項目[1]皮膚に多発する、破れやすい弛緩性水疱[2]水疱に続発する進行性、難治性のびらん、あるいは鱗屑痂皮性局面[3]口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、あるいはびらん[4]Nikolsky現象陽性(2)病理組織学的診断項目表皮細胞間接着障害(棘融解 acantholysis)による表皮内水疱を認める。(3)免疫学的診断項目[1]病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部にIgG(時に補体)の沈着を直接蛍光抗体法により認める。[2]血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG自己抗体(抗デスモグレインIgG自己抗体)を間接蛍光抗体法あるいはELISA法により同定する。[判定および診断][1](1)項目のうち少なくとも1項目と(2)項目を満たし、かつ(3)項目のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。[2](1)項目のうち2項目以上を満たし、(3)項目の[1]、[2]を満たす症例を天疱瘡とする。前述した臨床症状の他、皮膚生検による組織学的および免疫学的項目が必須となる。病理組織学的に棘融解を伴う表皮内水疱をみとめ、免疫学的に蛍光抗体直接法(DIF)にて表皮細胞間にIgGの沈着や、蛍光抗体間接法(IIF)にて表皮細胞間にIgG自己抗体を認める。また、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法[現在は多くの場合、chemiluminescent enzyme immunoassay(CLEIA法)]に移行している)にて自己抗体を検出する。また、重症度の判定としては現在、皮膚・頭皮・粘膜の皮疹を元に算出するPemphigus Disease Activity Index(PDAI)が主に用いられている2)。PDAIは急性期の病勢指標として優れており、また、治療維持期の病勢指標としては、ELISAもしくはCLEIA法による抗Dsg抗体価の追跡が有用である。しかし、抗Dsg抗体価は臨床的に寛解後も陽性のまま経過する場合も散見され、急性期に比し寛解期では陽性であっても低値となることが多いことが報告されているが5)、その値や経過は個人間によって異なるため、抗体価による評価は他症例との間でなく患者個々の経過の中で行うべきである。また、症状とELISAもしくはCLEIA法、DIF・IIFなどの検査間の乖離がみられる例もあり、病勢や経過の評価には総合的な判断が必要である。鑑別診断としては、水疱性類天疱瘡やDuhring疱疹状皮膚炎、後天性表皮水疱症などを含む表皮下水疱症、また、TEN(toxic epidermal necrolysis)・Stevens-Johnson症候群を含む重症薬疹や伝染性膿痂疹、多型紅斑などが挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)天疱瘡の治療は治療導入期と治療維持期とに分かれる。治療導入期には、プレドニゾロン(PSL)が第1選択となり、重症から中等症ではプレドニゾロン1.0mg/kg/日の投与が標準的である。天疱瘡では初期治療が重要であり、ステロイド単剤で十分な効果が得られない場合には、速やかに免疫抑制剤やγグロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)、二重膜濾過血漿交換療法(double filtration plasmapheresis:DFPP)を主流とする血漿交換、ステロイドパルス療法などの集中的治療を考慮すべきである。免疫抑制剤としては、アザチオプリンがガイドラインにて推奨度Bである他、シクロスポリン、シクロホスファミドなどがC1とされている2)。病勢が制御できた後の治療維持期においてはステロイドの減量を行い、PSL20mg/日以上では1~2週で1回に5~10mg/日、20mg/日以下では1~2ヵ月で1回に1~3mg/日を減量する。免疫抑制剤を併用している場合は、ステロイドを十分減量した後に免疫抑制剤を減量する。治療においては、PSL0.2mg/kg/日もしくは10mg/日以下で臨床的に症状を認めない状態、すなわち寛解を維持することを目標とする。4 今後の展望わが国において2010年に天疱瘡診療ガイドラインが作成され、診断、重症度、治療アルゴリズムなどが示された2)。治療導入期のDFPPやIVIgを含めた集中的治療が標準化した現在、適切な初期治療を行うことにより、多くの症例で寛解もしくは無症状の状態を維持することが可能となった。一方で、重症難治例や臨床的に寛解に至ってもステロイドを減量することが困難な例や再燃を繰り返す例が存在するのも事実である。近年、天疱瘡の病態機序については、自己抗体による直接的な細胞接着障害の他、細胞内シグナルの活性化によるDsgの細胞内への取り込みや、抗原特異的T細胞およびB細胞、さらには制御性T細胞の病態への関与が知られるようになった6-9)。抗原特異的B細胞をターゲットとしたヒトCD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブやキメラ自己抗体受容体T細胞を利用した治療は、より標的を絞った今後の治療として注目されている10-12)。天疱瘡に対する治療は目覚ましく発展しており、今後さらに予後が改善されることが期待されている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚科学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報天疱瘡・類天疱瘡友の会(患者とその家族および支援者の会)1)難病情報センター 天疱瘡2)天谷雅行ほか. 日皮会誌. 2010;120:1443-1460.3)込山悦子,池田志斈. 日皮会誌. 2008;118:1977-1979.4)Kakuta R, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020;6:1324-1330.5)Kwon EJ, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2008;22:1070-1075.6)Jolly PS, et al. J Biol Chem. 2010;285:8936-8941.7)Takahashi H, et al. J Clin Invest. 2011;121:3677-3688.8)Takahashi H, et al. Int immunol. 2019;31:431-437.9)Schmidt T, et al. Exp Dermatol. 2016;25:293-298.10)Joly P, et al. N Engl J Med. 2007;57:545-552.11)Ellebrecht CT, et al. Sience. 2016;353:179-184.12)Joly P, et al. Lancet. 2017;389:2031-2040.公開履歴初回2021年12月16日

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円形脱毛症と認知症リスク~コホート研究

 円形脱毛症は、さまざまな併存疾患と関連しており、認知症と同様の徴候が認められる疾患である。また、円形脱毛症による心理社会的なマイナスの影響は、認知症のリスク因子である社会との関与の低下につながる可能性がある。しかし、円形脱毛症と認知症との関連は、これまであまり知られていなかった。台湾・台北栄民総医院のCheng-Yuan Li氏らは、円形脱毛症と認知症リスクとの関連を調査するため、コホート研究を実施した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2021年10月26日号の報告。 1998~2011年の台湾全民健康保険データベースより、45歳以上の円形脱毛症(ICD-9診断コード:704.01)患者2,534例および、年齢、性別、居住地、収入、認知症関連併存疾患、全身性ステロイド薬の使用、毎年の外来通院でマッチさせた対照群2万5,340例を抽出し、2013年までの認知症発症状況を調査した。潜在的な交絡因子で調整した後、マッチさせた各ペアの層別Cox回帰分析を用いて、円形脱毛症患者と対照群の認知症リスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・円形脱毛症患者は、対照群と比較し、すべての認知症(調整ハザード比[aHR]:3.24、95%信頼区間[CI]:2.14~4.90)、アルツハイマー病(aHR:4.34、95%CI:1.45~12.97)、不特定の認知症(aHR:3.36、95%CI:2.06~5.48)の発症リスクが高かった。・年齢と性別による層別分析では、65歳未満および65歳以上、男性および女性のいずれにおいても、すべての認知症および不特定の認知症リスクが高く、男性においてはアルツハイマー病リスクおよび65歳以上での発症リスクの増加が認められた。・観察開始後最初の1年または3年を除外した感度分析においても、一貫した結果が示された。 著者らは「円形脱毛症患者は、認知症発症リスクが高いことが示唆された。円形脱毛症と認知症リスクとの間にある根本的な病態生理を解明するためには、さらなる研究が必要である」としている。

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EGFR変異肺がん外科切除例の特徴と予後~肺癌登録合同委員会からの考察/日本肺癌学会

 外科手術の対象となるEGFR変異肺がんの特徴や予後について、肺がん治療例の全国集計を行う肺癌登録合同委員会による2010年手術例を対象とした第7次事業の報告(以下、合同員会報告)からの考察として、第62回日本肺癌学会学術集会において近畿大学の須田健一氏が発表した。 合同委員会報告のデータを用いて、EGFR変異陽性肺がん(2,410例)とEGFR変異陰性肺がん(3,370例)の臨床病理学的因子の比較や予後解析などを行った。 その結果、EGFR変異陽性肺がんは非喫煙者、女性、すりガラス陰影(GGO)、リンパ管や脈管への湿潤のない肺がんが多かった。また、多変量解析からEGFR変異陽性肺がんは変異陰性肺がんに比べて予後が良好であることが示されていた(無増悪生存期間[PFS]ハザード比[HR]:0.894、95%信頼区間:0.814~0.980、p=0.017)。 EGFR変異は主にexon19 deletion(Del 19)と L858R point mutation(L858R)の2種類が存在する。合同委員会報告ではDel 19(983例)はL858R(1,170例)に比べて若年齢(66.1歳 vs.69.0歳)で、腫瘍サイズが大きく(2.33cm vs.2.07cm)、GGO例が多く、また病期が進むほど増える傾向がみられた。L858Rに比べDel 19で予後が悪い傾向が示されたが、予後予測因子としてのインパクトは大きいものではなかった。 EGFR変異陽性肺がん(1,120例)とEGFR変異陰性肺がん(1,550例)の初再発部位を比較したデータからは、EGFR変異陽性肺がんは、脳での再発が15.9%と、陰性の12.2%に比べ高いことが明らかになった。 日本の肺癌診療ガイドライン(2020)では、病変全体径が2cm以上の病理病期IA/IB/IIA期の完全切除腺がんに対しては、デガフール・ウラシル配合剤療法が推奨されている。デガフール・ウラシル配合剤単剤療法は、EGFR変異陰性肺がんでより治療効果が高い可能性を示唆する報告があるが、現行の化学療法の有用性は、今後のより大規模な研究で評価していく必要がある。

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肺塞栓除外、YEARS基準+D-ダイマー年齢補正カットオフ値が有効/JAMA

 肺塞栓症の疑いで救急部門に搬送され、肺塞栓症除外基準(PERCルール)で除外できなかった患者について、YEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値を組み合わせた診断戦略は、従来のD-ダイマー年齢補正カットオフ値のみによる診断戦略と比べて非劣性であることが、フランス・ソルボンヌ大学のYonathan Freund氏らが1,414例を対象に行った無作為化試験で示された。YEARS基準+D-ダイマー診断群では、胸部画像撮影実施率も約9%低減し、救急部門入院期間は短縮したという。これまで非コントロール試験では、YEARS基準とさまざまなD-ダイマーのカットオフ値を組み合わせた診断戦略が、安全に肺塞栓症を除外できることが示されていた。JAMA誌2021年12月7日号掲載の報告。肺塞栓をYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値で除外 研究グループは2019年10月~2020年6月にかけて、フランスとスペインの18ヵ所の救急部門で、肺塞栓症の臨床的リスクは低いもののPERCルールで除外できなかった患者、または肺塞栓症の主観的な中等度の臨床リスクが認められた患者の合計1,414例を対象に、クラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験を行った。追跡は、2020年10月まで行った。 各試験センターで、無作為に介入期間とコントロール期間の順序が決められた。介入期間に、YEARS基準に該当せずD-ダイマー値が1,000ng/mL未満、またはYEARS基準1以上に該当しD-ダイマー値が年齢補正カットオフ値(50歳未満は500ng/mL、50歳以上は年齢×10ng/mL)未満の患者について、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(726例)。 コントロール期間では、D-ダイマー値が年齢補正カットオフ値未満の場合に、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(688例)。 主要エンドポイントは、3ヵ月時点の静脈血栓塞栓症(VTE)の発生率で、非劣性マージンは1.35%とした。副次エンドポイントは8項目で、いずれも3ヵ月時点で評価した胸部画像撮影、救急部門入院期間、入院、非適応抗凝固療法、全死因死亡、あらゆる再入院などだった。肺塞栓除外のYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値の組み合わせは有効 被験者数1,414例(平均年齢55歳、女性58%)のうち、1,217例(86%)を対象にper-protocol解析が行われた。 試験期間中に、救急部門で肺塞栓症の診断を受けたのは100例(7.1%)だった。3ヵ月時点で、VTE発症は介入群1例(0.15%、95%信頼区間[CI]:0.0~0.86)に対し、コントロール群5例(0.80%、0.26~1.86)で、介入群の非劣性が示された(補正後群間差:-0.64%、片側97.5%CI:-∞~0.21)。 解析を行った6項目の副次エンドポイントのうち有意差が認められたのは、胸部画像撮影の実施率(介入群30.4% vs.コントロール群40.0%、補正後群間差:-8.7%[95%CI:-13.8~-3.5])、救急部門入院期間の中央値(6時間[IQR:4~8]vs.6時間[5~9]、補正後群間差:-1.6時間[95%CI:-2.3~-0.9])の2項目のみだった。

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ファイザーの経口コロナ治療薬、最終結果でも重症化89%減、オミクロン株にも有効か

 米国・ファイザーは12月14日付のプレスリリースで、開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規経口治療薬であるnirmatrelvir(PF-07321332)/リトナビル配合剤(商品名:Paxlovid)について、第II/III相臨床試験(EPIC-HR)の最終データを公表した。それによると、Paxlovidを投与した高リスクの成人患者において、入院または死亡のリスクが、プラセボに比べ89%減少したという。これは、先月同社が公表した中間解析のデータとも一致している。 Paxlovidは、ファイザー社が新たに開発した抗ウイルス薬nirmatrelvirと、既存の抗HIV薬リトナビルとの合剤。今回、最終結果が公表されたEPIC-HR試験では、全登録患者(2,246例)のうち、発症3日以内に治療を開始(投与群)した場合、登録後28日目までに入院した患者は0.7%(5/697例が入院、死亡例なし)だったのに対し、プラセボ群では、入院または死亡した患者は6.5%(44/682例が入院、その後9例死亡)で、Paxlovidは入院または死亡のリスクを89%減少させた(p<0.0001)。 また、nirmatrelvirについては、以前に同定された懸念すべき変異株(VOC)に対し、in vitroにおいて一貫した抗ウイルス活性を示しており、現在拡大が懸念されているオミクロン株に関連した3CLプロテアーゼについても強力に阻害したという。これは、nirmatrelvirがオミクロン株への強固な抗ウイルス活性を有する可能性を示唆しており、ファイザー社では、追加研究でデータ収集を進めていく方針。

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広い範囲で有効なアスピリンでもCOVID-19には効かないみたい(解説:後藤信哉氏)

 アスピリンには抗炎症効果がある。また、アスピリンは心筋梗塞などの血栓イベント予防効果もある。COVID-19はウイルス感染なので炎症が起こる。COVID-19では血栓症も増える。抗炎症効果、抗血栓効果のあるアスピリンはCOVID-19の予後改善効果があると期待された。 話は変わるが筆者はOxford大学と密接に共同研究している数少ない日本の研究者であると思う。Oxford大学は多くのカレッジからなる。臨床研究を主導するのはNuffield Department of Population Health(旧称 Clinical Trial Service Unit:CTSU)である。彼らの臨床医学における実証的ポリシーは揺るがない。バイアスをなくすために大規模ランダム化比較試験により臨床的仮説を徹底的に検証する。COVID-19 pandemicと同時に、少しでも効きそうな治療法についてランダム化比較試験を行うRECOVERY試験を開始した。本研究を主導したMartin Landray教授は筆者の長年の共同研究相手である。RECOVERY試験は次々と成果を生み出している。本年のエリザベス女王の誕生日にLandray教授はRECOVERY試験の貢献により女王陛下のknightに任命され、Sir. Martin Landray教授になった。臨床医学の貢献に対してSirの称号と名誉を与える英国の対応は日本でも真似できるかもしれない。 COVID-19の症例でもアスピリンは28日間の観察期間における血栓性イベントを5.3%から4.6%に減少させ、重篤な出血イベントを1.0%から1.6%に増加させた。つまり、簡易なランダム化比較試験でもアスピリン群ではしっかり薬剤を服用していたと想定される。しかし、死亡率には差がなかった。経過中の人工呼吸器の装着にも差がなかった。カプランマイヤーカーブを見ると、わずかにアスピリン群の予後が良いようにも見える。しかし、14,892例のランダム化比較試験では、アスピリンによる予後改善効果は否定されてしまった。 COVID-19は本当に厄介な病気である。

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