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温泉地での集中的健康管理で身体の諸指標と睡眠の質が改善

 最近、温泉は、リゾートとしてヨーロッパなどでは健康増進の目的で利用されている。そこで、中国・重慶医科大学公衆衛生学のYu Chen氏らの研究グループは、温泉地での慢性疾患ハイリスク者の身体検査指標と睡眠の質に対する集中的健康管理の効果を検証し、その結果を報告した。International Journal of Biometeorology誌2023年12月号に掲載。健康介入は不眠にも効果ありか 本研究では、慢性疾患のリスクが高いボランティア114例を介入群57例、対照群57例に分けて検証。介入群には4週間(28日間)、重慶の統景温泉で定期的な日課、バランスの取れた食事、適切な運動、的確な健康教育など、包括的な健康管理介入を行った。主なアウトカムは、身体検査指標(身長、体重、ウエスト周囲径、血圧、血中脂質、血糖値)と睡眠の質。両群とも、ベースライン時、2週後、4週後に質問票と身体検査を実施。 主な結果は以下のとおり。・曝露基準で分類したグループ内比較で、介入群では2週後、4週後ともにBMI、ウエスト周囲径、トリグリセライド、総コレステロール、血糖値が低下した(すべてp<0.05)。対照群では4週後にトリグリセライドのみが低下した(p<0.05)。・グループ間比較では、BMIとウエスト周囲径は4週時点で介入群が対照群より有意に低下した(すべてp<0.05)。・不眠症重症度指数(ISI)スコアのグループ内比較では、介入群では2週後と4週後の両方で有意な減少がみられ(すべてp<0.001)、対照群では有意な変化はみられなかった(p>0.05)。・グループ間比較のISIスコアは、ベースラインでは対照群より介入群で有意に高かったが(p=0.006)、は2週後と4週後では対照群より有意に低くなった(すべてp<0.001)。 以上の結果から、慢性疾患ハイリスク者で集中的健康管理を行った介入群においてBMI、ウエスト周囲径、トリグリセライド、睡眠の質を有意に改善した。

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30代で糖尿病と診断されると寿命が14年短くなる?

 人生のより早い時点で2型糖尿病と診断されるほど、寿命が短くなることを示唆するデータが報告された。30代で診断された場合、50歳時点の余命が14年短くなる可能性があるという。英ケンブリッジ大学のEmanuele Di Angelantonio氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Diabetes & Endocrinology」10月号に掲載された。性別で比較した場合、女性でより大きな影響が認められるという。 この研究では、2件の大規模疫学研究を統合したデータが用いられた。そのうち1件は、心血管疾患に関連する潜在的なリスク因子探索のための国際共同研究(Emerging Risk Factors Collaboration)であり、別の1件は英国で行われている「UKバイオバンク」。高所得国を中心に19カ国、151万5,718人(平均年齢55.0±9.2歳、男性45.6%)のデータが解析された。 2310万人年の追跡で24万6,670人が死亡。2型糖尿病と診断されていた人は、その診断時年齢が若いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)リスクが高いという、線形の用量反応関係が認められた。全死亡のハザード比(HR)は、診断時年齢が30代の場合は2.69(95%信頼区間2.43~2.97)、40代では2.26(同2.08~2.45)、50代で1.84(1.72~1.97)、60代1.57(1.47~1.67)、70歳以上1.39(1.29~1.51)。 50歳時点の平均余命を米国の非糖尿病者と比較すると、30歳で診断されていた場合は14年、40歳で診断されていた場合は10年、50歳で診断されていた場合は6年、それぞれ短縮すると計算された。同様にEUの非糖尿病者と比較すると、同順に13年、9年、5年短くなると計算された。性別に解析すると、女性は糖尿病と診断された場合の余命が、男性よりも短縮するという結果が示された。例えば米国の非糖尿病者と比較した場合、50歳時点の平均余命は男性では、診断時年齢が30代であれば約14年、40代なら約9年、50代なら約5年短縮するのに対して、女性は同順に約16年、11年、7年の短縮と計算された。 論文の筆頭著者である同大学のStephen Kaptoge氏は、2型糖尿病という疾患について、「この疾患はハイリスク者を特定した上で、行動変容を促すことやリスクを抑制する薬剤の処方などのサポートによって、発症を抑制できる。発症後には生活のさまざまな側面に影響が及ぶことを考慮すると、2型糖尿病の発症予防を社会的な緊急課題とすべきと言える」と解説している。なお、国際糖尿病連合(IDF)は2021年の世界の成人糖尿病患者数を5億3700万人と推定している。 糖尿病発症後に血糖値などの治療が不十分な状態が続いていると、心臓発作や脳卒中、腎臓病、がんなどの合併症の発症、および、それらによる死亡のリスクが増大する。今回の研究で示された糖尿病患者の余命短縮も、多くはそれらの合併症が原因だった。論文の共著者の1人である英グラスゴー大学のNaveed Sattar氏は、「われわれの研究結果は、2型糖尿病を発症する年齢が若ければ若いほど、合併症の負担が大きくなるという従来からの考え方を裏付けている。しかし、スクリーニングによる糖尿病の早期発見とその後の集中的な血糖管理によって、糖尿病による疾病負担を抑制する余地のあることを示すものでもある」と強調している。

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英語で「心室細動」は?【1分★医療英語】第106回

第106回 英語で「心室細動」は?《例文1》看護師She had a short run of V-tach last night.(昨晩、彼女は短時間の心室頻拍を起こしました)医師Can you pull up the EKG tracing?(心電図画像を見せてもらえますか?)《例文2》医師Was it V-tach or V-fib when you arrived?(到着時は心室頻拍か心室細動、どちらでしたか?)看護師I am not sure.(わかりません)《解説》今回はイディオム表現というよりも、略式表現の紹介です。心室細動や心室頻拍に遭遇するのは決して望ましい状況ではなく、可能な限り避けたいものです。しかし、臨床現場において必ず遭遇する状況ともいえます。その際に有用なのが、今回紹介する“V-tach/V-fib”です。これらは“Ventricular tachycardia/fibrillation”の略で、「ヴィータック」「ヴィーフィブ」と読みます。迅速な状況把握やコミュニケーションが求められる状況では、長い単語を極力省略して話すことも求められます。例文に示してあるように使うことで、重要かつ必要な情報交換を迅速に行いましょう。関連した言葉として、“STAT”というものもあり、これは「大至急で」の意味になります。使い方としては、“Get STAT X-ray, now!!”のようになります。※心電図の略語には「ECG」もあるが、米国の医療機関ではドイツ語由来の「EKG」のほうがより一般的に使われる。講師紹介

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脳が萎縮していても、必ずしも認知症ではない?【外来で役立つ!認知症Topics】第11回

当クリニックでは、「『脳が萎縮している、認知症が疑われる』と言われました。本当に私は認知症なんですか?」と泣かんばかりの表情で初診する人が年間に数人はいらっしゃる。前頭葉萎縮と海馬萎縮脳の萎縮は2つに大別できる。まずは大脳半球を左右に分け前後に走る深い溝、すなわち大脳縦裂の前方が開いているので前頭葉萎縮があると言われた人である。「前頭側頭型認知症の疑いと言われました」と告げる人もいる。このタイプはこの画像所見だけで、下角の拡大などの所見がなければ、問題なしが普通である。しかしこのタイプの人には飲酒する人が多い。ざっくり言うと、相当の「吞兵衛」が少なくない。この飲酒と前頭葉萎縮の関係を報告した論文は、欧米でも国内でも出ている。もう1つが有名な海馬萎縮である。「海馬が痩せている、イコール、アルツハイマー病」という簡単な筋書きが世間一般はもとより、認知症を診る医師にもかなり浸透している。実際、海馬を含む側頭葉内側と知的機能との相関を、MRIの容量測定により検討することで、健康高齢者とごく軽度のアルツハイマー病患者の区別が、容量値により可能だとした報告もある。「海馬萎縮=アルツハイマー病」ではないこともあるだが、海馬萎縮が必ずしもアルツハイマー病であるとは言えない。意外なことに、海馬を含む側頭葉内側と認知機能の関連は最近まであまり知られていなかった。軽度認知障害(MCI)で有名なピーターセンらは、側頭葉内側の容積と記憶、言語、一般的な知的機能との相関を、アルツハイマー病患者と健康高齢者コントロールにおいて評価している。全体では、記銘や想起のテスト成績と海馬の容積は比例した。しかし健康高齢者とアルツハイマー病患者に分けてみたところ、こうした相関はアルツハイマー病患者群においてのみ観察されたという1)。一方で記憶に関わる海馬の役割は、PETなど脳画像技術の進歩、また記憶に関する新たな知見により見直されつつある。側頭葉内側の機能は記憶に限らないこと、また記憶のプロセス(記銘、把持、想起)には海馬以外に、側頭葉内側、間脳領域のみならず新皮質から小脳までもが含まれると分かっている。さらに健康高齢者において加齢によって影響を受ける脳構造を調べた研究もある。海馬を含む辺縁系の容積はいかなる認知機能(言語性ワーキングメモリー、言語性の明示的記憶、言語性プライミング)とも無関係という驚きの結果であった。このように海馬萎縮の背景は単純でない。アルツハイマー病とは別の病理学的な影響も受ける。世界最大のアルツハイマー病研究組織であるAlzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)のデータに、海馬萎縮に関与する遺伝子を調べた報告がある2)。ゲノムワイド関連研究(GWAS)から3つの遺伝子多型、すなわちTOMM40-APOC1領域にあるrs4420638、rs56131196、rs157582が関与すると報告されている。アルツハイマー病患者の海馬萎縮速度は3倍以上なおアルツハイマー病患者や健康高齢者において海馬はどの程度の速度で萎縮するのだろうか? アルツハイマー病における年間あたりの海馬萎縮率をメタ解析した報告がある。それによればアルツハイマー病患者での萎縮率は4.66%(95%信頼区間[CI]:3.92~5.40)、また健康コントロールでは1.41%(95%CI:0.52~2.30)であった3)。つまりアルツハイマー病患者では海馬の年間萎縮率は健康高齢者の3倍以上も大きい。以上をまとめると、知的健康でも海馬の萎縮を示す人がいる。1回の海馬萎縮のMRI画像によってアルツハイマー病の診断はできるわけではない。しかしアルツハイマー病になると海馬は規則的に萎縮していくということになる。海馬萎縮はVSRADで評価さてこれに絡めてわが国では、「海馬萎縮といえばMRI画像のVSRAD(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer's Disease)」と定着している。確かにこのZスコアを使うことで、多くの場合、海馬萎縮が客観的に評価されてすっきりする。ところがMRI画像の視覚評価で海馬萎縮がはっきりしているのに、Zスコアが低い、つまり数字上はアルツハイマー病を示唆するとは言い難い症例がある。またその逆もある。つまり視覚評価とZスコアが乖離する症例が時にはある。こうしたケースでは、「VSRADの測定が誤っているのではないか?」とも尋ねられる。そうしたご意見には、次のようにお答えしている。「VSRADは絶対値の測定ではない。全脳に対する海馬領域の体積、正確に言えば、全脳の灰白質体積で正規化した海馬領域の灰白質体積を意味します。だから乖離がありえます」。もちろんすべてがそうだと言わないが、アルツハイマー病は海馬領域の選択的萎縮を示すため、視覚評価よりもVSRADのほうがアルツハイマー病の特徴を良く捉える。ちなみに私信(松田 博史先生)では、視覚評価による海馬萎縮からアミロイド沈着の可能性の診断率は60%ぐらいだが、VSRADによると70%を超えるとされる。参考1)Petersen RC, et al. Memory and MRI-based hippocampal volumes in aging and AD. Neurology. 2000;54:581-587.2)Wang WY, et al. Impacts of CD33 Genetic Variations on the Atrophy Rates of Hippocampus and Parahippocampal Gyrus in Normal Aging and Mild Cognitive Impairment. Mol Neurobiol. 2017;54:1111-1118.3)Barnes J, et al. A meta-analysis of hippocampal atrophy rates in Alzheimer's disease. Neurobiol Aging. 2009;30:1711-1723.

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第190回 コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンド

コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンドファイザーのコロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬ニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼ(Mpro)を阻害してSARS-CoV-2の複製を食い止めます。軽~中等度のCOVID-19患者の入院や死亡が同剤で減ることが無作為化試験や観察試験で確認されており、今年5月に米国FDAは重症化リスクが高い軽~中等度COVID-19成人患者の治療に同剤を使うことを本承認しました1)。ニルマトレルビル・リトナビルは2年ほど前の2021年12月に本承認に先立って取り急ぎ認可されており、今では広く使われるようになっています。その普及に伴い、当初に比べてニルマトレルビル・リトナビルは感染再発(リバウンド)をより生じやすいことを示唆する報告が増えています。しかしこれまでの試験での検査や症状の把握は回数が少なくて期間も短く、それにウイルス培養のデータもなく、ニルマトレルビル・リトナビル使用に伴うリバウンドの正確な推定には至っていません2)。そこでMass General Brighamのチームはより正確な結果を得るべく、昨年2022年3月から今年2023年5月の外来のCOVID-19患者127例を繰り返し検査してリバウンド状況を詳しく調べました。それら127例のうち72例にニルマトレルビル・リトナビルが5日間投与されました。残り55例は非投与です。リバウンドはSARS-CoV-2がひとまず検出されなくなった後に培養でSARS-CoV-2が再び検出されること、またはSARS-CoV-2が基準(4.0 log10 copies/mL)未満にいったん減った後に増えた状態をしばらく維持することとみなされました。そのリバウンドがニルマトレルビル・リトナビル投与患者72例のうち15例(20.8%)に認められました3)。それら15例のうち13例は何らかの症状を伴い、7例はより明確に発症し(点数が大きいほど負担が大きいことを意味する下限0で上限30の症状検査値が3点以上上昇)、2例はまったくの無症状でした。ニルマトレルビル・リトナビル非投与55例でのリバウンドは少なくわずか1例(1.8%)のみでした。リバウンドはもっぱら高齢患者や免疫抑制患者に生じました。それは合点がいくことですが、奇妙なことにワクチン接種回数が多い人がリバウンドをより被っていました。つまりワクチンのリバウンド予防効果は認められませんでした。また、興味深いことにニルマトレルビル・リトナビル投与を遅くに始めた患者に比べてより早くに開始した患者にリバウンドがより多く認められました。著者が自覚しているとおり試験は被験者数が少ないという欠点があります。また、ニルマトレルビル・リトナビルが投与されなかった患者は悪化のリスクが低く、そもそもがリバウンドを生じ難かったのかもしれないという試験の設計上不可避な偏りが生じていたかもしれません2)。ニルマトレルビル・リトナビルはリバウンドをどうやら生じやすくするかもしれませんが、先行きが心配な患者の命を救い、入院や死亡を防ぐ効果的な薬であることに変わりはないと著者は言っています4)。著者がそう言うように同剤は軽~中等度COVID-19の治療手段として不可欠なだけにリバウンドを封じる手段を見つけることは大きな意義があります。そのためにはニルマトレルビル・リトナビルとリバウンドを関連付ける仕組みの解明が必要です。さしあたりかなり確からしい説明として、5日間の投与期間が実は不十分でリバウンドを招いているのではないかとの指摘があります2)。より長期間の投与の検討は始まっており、たとえばフランスの研究所ANRS Emerging Infectious Diseasesは免疫抑制患者へのニルマトレルビル・リトナビル10日間投与と5日間投与の比較試験を実施しています5)。また、リバウンド患者へのニルマトレルビル・リトナビル再投与の試験も進行中です6)。日本で承認済みの塩野義製薬の経口薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)は今のところリバウンドが少なくて済んでいるようです。欧州の学会で最近発表された試験解析によると、半減期が長い同剤治療患者のPCR検査で認められたウイルスRNAリバウンド率は7.8%、プラセボ群では4.7%でした7)。参考1)Pfizer’s PAXLOVID Receives FDA Approval for Adult Patients at High Risk of Progression to Severe COVID-19 / BUSINESS WIRE2)Cohen MS, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print]3)Edelstein GE, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print] 4)One in five patients experience rebound COVID after taking Paxlovid, new study finds5)OPTICOV試験(ClinicalTrials.gov)6)NCT05567952(ClinicalTrials.gov)7)ECCMID 2023: Shionogi to Present Data Showing COVID-19 Symptom Recurrence is Not Associated with Ensitrelvir Treatment / BUSINESS WIRE

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肥満は胆道がんの発症・死亡に関連~アジア人90万人のプール解析

 肥満と胆道がんの関連について、愛知県がんセンターの尾瀬 功氏らがアジア人集団のコホート研究における約90万人のデータをプール解析した結果、BMIと胆道がん死亡率の関連が確認された。さらに肥満は胆石症を介して胆道がんリスクに影響を与え、胆石症がなくても胆道がんリスクを高める可能性があることが示唆された。International Journal of Cancer誌オンライン版2023年11月15日号に掲載。 本研究では、アジアコホートコンソーシアムに参加している21のコホート研究の計90万5,530人をプール解析した。BMI値で、低体重(18.5未満)、標準(18.5~22.9)、過体重(23~24.9)、肥満(25以上)の4群に分類した。BMIと胆道がん発症率および死亡率との関連は、脆弱性を共有したCox回帰モデルによるハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・標準BMIと比較して高BMIは胆道がん死亡率と関連し、HRは男性で1.19(95%CI:1.02~1.38)、女性で1.30(同:1.14~1.49)だった。・胆道がんリスクにおいて胆石症はBMIと有意な相互作用を示した。・BMIと胆道がんリスクの関連は、女性では直接および胆石症を介して関連していたが、男性では関連は明らかではなかった。・胆石症がある場合、男女共にBMIは胆道がん死亡とは関連しなかったが、胆石症のない女性で関連していた。

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日常生活の中の短時間の身体活動でも寿命が延びるか

 日常生活における家事などの身体活動であっても、寿命延伸につながる可能性を示唆するデータが報告された。シドニー大学(オーストラリア)のMatthew Ahmadi氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Public Health」10月号に掲載された。数分程度の身体活動でも有意な影響が認められるという。ただし、身体活動の持続時間がより長くより高強度である場合に、寿命に対してより大きな影響が認められるとのことだ。 この研究では、英国で行われている大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが解析に用いられた。余暇時間に積極的な運動を行っていない成人2万5,241人(平均年齢61.8±7.6歳、女性56.2%)を7.9±0.9年間追跡。身体活動量はウェアラブルデバイスにより把握した。追跡期間中に主要心血管イベント(MACE)が824件発生し、全死亡(あらゆる原因による死亡)は1,111人だった。なお、これまでの研究で、健康アウトカムとの関連が検討されていた最も短い身体活動持続時間は10分であることから、今回の研究では持続時間10分未満の身体活動の影響が検討された。 解析の結果、中強度以上の身体活動の持続時間が10分以下であっても、その時間の長さによって心臓発作や脳卒中、および全死亡リスクに差が認められることが明らかになった。Ahmadi氏は、「われわれの研究により、従来はスポーツなどの運動によって得られると考えられていた健康上のメリットが、日常生活での身体活動でも得られることが分かった。スポーツウェアやスポーツシューズを身に着けるまでもなく、家事やガーデニング、子どもと遊ぶことも健康にとって有益だ。この結果は運動が苦手な人、または運動をしたくてもできない状況の人にとって素晴らしい知見と言える」と話している。 明らかになった主な結果は以下の通り。いずれも1日の中で観察された、最も持続時間の長い中強度以上の身体活動時間(以下、最長身体活動持続時間)が1分未満であった群(全体の5.6%)と比較した結果であり、年齢や性別、喫煙・飲酒習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往、心血管疾患・がんの家族歴、座位行動時間、睡眠時間、教育歴、フレイル指数などの交絡因子の影響を調整済み。・最長身体活動持続時間が5~10分未満の群(52.6%)は、早期死亡リスクが52%低く、MACEリスクが41%低い。・最長身体活動持続時間が3~5分未満の群(26.7%)は、早期死亡リスクが44%低く、MACEリスクが38%低い。・最長身体活動持続時間が1~3分未満の群(15.1%)は、早期死亡リスクが34%低く、MACEリスクが29%低い。 なお、このような短時間の身体活動のメリットが示唆された一方、身体活動時間が長いと健康上のメリットがより大きいことや、身体活動中の運動強度が重要であることも明らかになった。運動強度については、1機会の身体活動のうち最低15%(1分間の場合は約10秒)は、高強度の負荷のかかる身体活動とすると効果が最大化すると考えられ、その条件を満たしていれば、たとえ最長身体活動持続時間が1分未満であっても、有意な影響が観察されたとのことだ。 これらの結果を総括してAhmadi氏は、「明らかになった結果は、日常生活の中で行われる短時間の身体活動が、心血管系に対して保護的に働く可能性を示している。それらの身体活動は、血圧や血糖値のコントロール、心肺機能の強化、酸化ストレスの抑制などを介して、健康上のメリットを発揮するのではないか」と述べている。

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血液検査が双極性障害の診断に有用か

 双極性障害に関連するバイオマーカーを検出できる簡単な血液検査の開発に関する報告が、「JAMA Psychiatry」に10月25日発表された。論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学のJakub Tomasik氏は、この検査法により双極性障害の診断が容易になる可能性があると話している。 Tomasik氏は、「双極性障害は、気分が落ち込むうつ状態(うつ病エピソード)と気分が高揚する躁状態(躁病エピソード)を繰り返す精神疾患だ。ただ、双極性障害患者はたいていの場合、うつ病エピソードのときにしか医師の診察を受けない。そのため、間違って大うつ病性障害(以下、うつ病)と診断されている患者は少なくない」と説明する。一方、論文の上席著者であり同大学ニューロテクノロジー分野教授のSabine Bahn氏は、「双極性障害とうつ病は別の疾患として扱う必要がある。双極性障害患者に、気分安定薬を加えずに抗うつ薬のみを処方すると、躁病エピソードを誘発してしまう可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。 双極性障害は精神医学的評価により正確に診断することができるが、評価を受けるまでの待ち時間が長くなる可能性がある。Tomasik氏は、「精神医学的評価は極めて有効だが、簡単な血液検査で双極性障害を診断できるようになれば、患者が最初から適切な治療を受けられるようになり、専門の医師にかかるプレッシャーも軽減されるだろう」と話す。 Tomasik氏の研究では、過去5年以内にうつ病の診断を受け、現在抑うつ症状を経験している患者を対象に2018年4月27日から2020年2月6日の間に英国で実施された研究(デルタ試験)の検体と患者データを用いて、うつ病エピソード期間中の双極性障害患者をうつ病患者と区別するための代謝バイオマーカーを特定できるかが検討された。患者のデータは、635項目の質問から成るオンライン調査により収集した。また、患者から集めた乾燥した血液検体に含まれる630種類の代謝物質について、特定の分子を標的とする質量分析ベースのプラットフォームを用いて分析した。 発見コホートの総数は241人(平均年齢28.1歳、女性70.5%)で、このうちの67人(27.8%)は後にComposite International Diagnostic Interviewにより双極性障害の診断を受け、174人(72.2%)はうつ病と確定診断された。Tomasik氏らは、発見コホートの代謝物質データを解析し、最終的に双極性障害とうつ病を区別するための17種類のバイオマーカーから成るパネルを構築した。このバイオマーカーパネルを、検証コホート(30人、平均年齢25.4歳、女性53%)で検証したところ、PHQ(Patient Health Questionnaire)-9スコアやMood Disorder Questionnaire(MDQ)スコアなどのオンライン調査で得た患者情報を組み合わせることで診断性能が有意に向上することが確認された。決定曲線分析からは、この血液検査を使用することで、最大30%の双極性障害患者を追加で特定できる可能性が示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「まだ概念実証段階の研究ではあるが、この血液検査は、最終的には既存の診断ツールを補完することになるかもしれない。また、研究者が精神疾患の生物学的起源を理解するのにも役立つだろう」との見方を示している。Bahn氏は、「全体として、オンラインアセスメントの方が診断には有効ではあるが、バイオマーカーを用いた血液検査も性能が良く、結果が出るまでにかかる時間がはるかに短い。この2つのアプローチは相補的であるため、両者の併用が理想的だ」と述べている。 なお、同大学の商業部門であるケンブリッジ・エンタープライズは、この研究に関連する特許を申請している。

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増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー【見落とさない!がんの心毒性】第26回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・女性(BMI:26.2)既往歴高血圧症、2型糖尿病(HbA1c:8.0%)、脂質異常症服用歴アジルサルタン、メトホルミン塩酸塩、ロスバスタチンカルシウム臨床経過進行食道がん(cT3r,N2,M0:StageIIIA)にて術前補助化学療法を1コース受けた。化学療法のレジメンはドセタキセル・シスプラチン・5-fluorouracil(DCF)である。なお、初診時のDダイマーは2.6μg/mLで、下肢静脈エコー検査と胸腹部骨盤部の造影CTでは静脈血栓症は認めていない。CTにて(誤嚥性)肺炎や食道がんの穿孔による縦隔炎の所見はなかった。2コース目のDCF療法の開始予定日の朝に37.8℃の微熱を認めた。以下が上部消化管内視鏡画像である。胸部進行食道がんを認める。画像を拡大する以下が当日朝の採血結果である(表)。(表)画像を拡大する【問題】この患者への抗がん剤投与の是非に関し、専攻医がオーダーしていたために病態を把握できた項目が存在した。それは何か?a.プロカルシトニンb.SARS-CoV-2のPCR検査c.Dダイマーd.βD-グルカンe.NT-proBNP筆者コメント本邦のガイドラインには1)、「がん薬物療法は、静脈血栓塞栓症の発症再発リスクを高めると考えられ、Wellsスコアなどの検査前臨床的確率の評価システムを起点とするVTE診断のアルゴリズムに除外診断としてDダイマーが組み込まれているものの、がん薬物療法に伴う凝固線溶系に関連するバイオマーカーに特化したものではない。がん薬物療法に伴う静脈血栓症の診療において、凝固線溶系バイオマーカーの有用性に関してはいくつかの報告があるものの、十分なエビデンスの集積はなく今後の検討課題である」と記されている。一方で、「がん患者は、初診時と入院もしくは化学療法開始・変更のたびにリスク因子、バイオマーカー(Dダイマーなど)などでVTEの評価を推奨する」というASCO Clinical Practice Giudeline Updateの推奨も存在する2)。静脈血栓症の症状として「発熱」は報告されており3)、欧米のデータでは、実際に肺塞栓症(PE)発症患者の14~68%で発熱を認め、発熱を伴う深部静脈血栓症(DVT)患者の30日死亡率は、発熱を伴わない患者の2倍になることも報告されている4)。このほか、可溶性フィブリンモノマー複合体定量検査値は、食道がん周術期においても中央値は正常値内を推移することが報告されており、その異常高値はmassiveな血栓症の指標になる可能性もある5)。がん関連血栓症の成因として、(1)患者関連因子、(2)がん関連因子、(3)治療関連因子が2022年のESC Guidelines on cardio-oncologyに記載された6)。今後一層のがん患者の生存率向上とともに、本症例のようなケースが増加すると思われる。1)日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023. p.56-58.2)Key NS, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3063-30713)Endo M, et al. Int J Surg Case Rep. 2022;92:106836. 4)Barba R, et al. J Thromb Thrombolysis. 2011;32:288–292.5)Tanaka Y, et al. Anticancer Res. 2019;39:2615-2625.6)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;43:4229-4361.講師紹介

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統合失調症患者における抗精神病薬誘発性糖尿病性ケトアシドーシスのリスク評価~医薬品副作用データベース解析

 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は、生命を脅かす重篤な状態であり、抗精神病薬により引き起こされる可能性がある。アジア人糖尿病患者は、白人と比較し、インスリン抵抗性が低いといわれている。これまでに報告されている抗精神病薬に関連したDKAの研究は、すべて欧米人を対象としているため、これらのデータが日本人でも同様なのかは、不明である。獨協医科大学の菅原 典夫氏らは、自発報告システムデータベースである日本の医薬品副作用データベースを用いて、抗精神病薬とDKAとの関連を分析した。その結果から、統合失調症患者のDKA発現にはオランザピン治療が関連していることが明らかとなった。とくに、男性患者において、DKAリスクが高いことも確認された。Journal of Psychosomatic Research誌オンライン版2023年10月19日号の報告。 2004年4月~2021年3月に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出された有害事象報告書を用いて、レトロスペクティブにファーマコビジランスの不均衡分析を行った。対象集団は統合失調症患者7,435例であり、抗精神病薬に関連したDKAの報告は合計55件であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者のDKA症例55例のうち、DKA後の死亡した患者は3例(6%)であった。・DKAの兆候は、オランザピン治療後に報告されており、調整後報告オッズ比は有意であった(aROR:3.26、95%信頼区間[CI]:1.87~5.66)。・準選択法を用いた多変量ロジスティック回帰分析では、オランザピン治療症例1,399例において、DKA発現と関連していた因子は、男性であることだった(aROR:2.72、95%CI:1.07~6.90)。 結果を踏まえ、著者らは「本データは、統合失調症患者の抗精神病薬に関連するDKA発現を減少させるために、リスク管理やモニタリングに役立つであろう」としている。

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ソーシャルメディアの閲覧が子どものスポーツ離れの一因に

 TikTokやInstagramなどのソーシャルメディアに投稿された写真には、体型が大幅に加工された非現実的なものが少なくない。70人の子どもを対象にした予備的な研究で、そのような理想化されたアスリートの写真を目にした子どもは、自分の体型がそのスポーツには適していないと思い込んでやめてしまう可能性のあることが示された。米Nemours小児病院のスポーツドクターであるCassidy M. Foley Davelaar氏らによるこの研究結果は、米国小児科学会(AAP)のNational Conference & Exhibition(AAP Experience 2023、10月20〜24日、米ワシントン)で発表された。 スポーツをすることは、子どもが心身ともに健全に育つ上で有用なことが知られている。しかし、現実には、70%の子どもが13歳までにスポーツをやめてしまう。また、14歳になるまでにスポーツをやめる女子の割合は男子の2倍以上といわれている。 この研究では、スポーツからの離脱に、ボディイメージ、ソーシャルメディア、ジェンダーと文化的なバイアスなどの因子が及ぼす影響について検討された。Davelaar氏らは、地域のスポーツ団体に所属するか、スポーツクリニックを受診した8〜18歳の子ども70人に調査を実施し、その回答の分析を行った。対象者には、現在スポーツを行っている者だけでなく、過去にスポーツを行っていた者も含まれていた。 その結果、調査参加者がスポーツをやめた理由として挙げたものの中で最も多かったのはコーチング(指導者との関係性の問題)であったが、そのほかの理由として、ソーシャルメディア閲覧を通じたボディイメージの低下とスポーツの競争性によるプレッシャーも多いことが明らかになった。競争性を理由にスポーツをやめた参加者の割合は、女子の方が男子よりも多かった(35.5%対10.3%)。また、ソーシャルメディアで目にした他者の競技能力と自分の能力を比較することとスポーツからの離脱との間には強い相関があることが示され、スクリーンタイム、運動、ボディイメージはスポーツからの離脱と統計学的に有意に関連することが明らかになった。例えば、自分の競技能力にあまり自信のない参加者は、自分自身のボディイメージをそのスポーツに「あまり向いていない」と評価していた。 この研究には関与していない、米ネイションワイド小児病院の小児心理学者であるErin McTiernan氏は、「子どもというものは、フィルターがかけられたり加工されたソーシャルメディア上の非現実的な顔や体型の写真を見て、気付かないうちに自分と比較してしまいがちだ。実生活での活動や人間関係が自尊心を育むのに役立っている子どもなら、その影響を払いのけることができるが、全ての子どもがそうできるわけではない」と話す。同氏は、「この研究は小規模ではあるが、ソーシャルメディアが原因で子どもが健康的な活動をやめてしまう頻度はどの程度なのかという重要な問題を提起した」との見方を示す。 McTiernan氏は、ティーンエイジャーの生活の中でソーシャルメディアの使用を禁じるのは現実的ではないが、時間制限やその他のルールを設けることはできると話す。同氏は、「何より重要なのは、スポーツやその他の活動、友人や家族と顔を合わせる時間など、子どもに実生活でたくさんの経験を積ませることだ」と言う。さらに、子どもがソーシャルメディア上で閲覧しているコンテンツや、それが子どもに抱かせる感情を親が把握する必要性についても強調している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

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飲酒をする人は緑内障になりやすい?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第245回

飲酒をする人は緑内障になりやすい?Unsplashより使用緑内障は、人間ドックで眼底や眼圧をみてもらわないとなかなか発見できない病気なので、定期的にチェックする必要があります。さて、日本から新たなエビデンスが発出されました。飲酒と緑内障の関係についてです。Sano K, et al.Association Between Alcohol Consumption Patterns and Glaucoma in Japan.J Glaucoma. 2023 Nov 1;32(11):968-975.これは、緑内障3,207例、マッチコホート3,207例を含んだ日本人の症例対照研究です。アルコールの摂取量が多いと緑内障の有病率が増えるのではないかという関連を検証したものです。詳細な飲酒パターンのほか、喫煙歴や生活習慣に関連する併存疾患など、さまざまな交絡因子を登録し、条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、緑内障有病率のオッズ比を算出しました。その結果、男性においては、1週間当たり数日(オッズ比:1.19、95%信頼区間[CI]:1.03~1.38)、1週間当たりほぼ毎日(オッズ比:1.40、95%CI:1.18~1.66)の飲酒頻度は緑内障のリスクであることが示されました。生涯の総飲酒量でみると、1年当たり60杯超90杯以下(オッズ比:1.23、95%CI:1.01~1.49)、1年当たり90杯超(オッズ比:1.23、95%CI:1.05~1.44)で有意な関連が示されています。反面、女性においては、これらの因子とは有意な関連がみられませんでした。最近のメタアナリシスでは、アジア人はアルコール摂取と緑内障との間に強い関連があることが示されています1)。アルコールによって誘発される緑内障の感受性に人種差があるのかもしれません。というわけで、飲酒習慣がある男性は、メタボ、肝炎、そのほかの生活習慣病だけでなく、緑内障にも気を付けながら生活する必要があるかもしれません。ちなみに、緑内障と診断された後にアルコールをやめることで、視力障害や失明のリスクを減らすことができるという報告もあります2)。1)Stuart KV, et al. Alcohol, Intraocular Pressure, and Open-Angle Glaucoma: A Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2022;129:637-652.2)Jeong Y, et al. Visual Impairment Risk After Alcohol Abstinence in Patients With Newly Diagnosed Open-Angle Glaucoma. JAMA Netw Open. 2023 Oct 2;6(10):e2338526.

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第186回 妊婦禁忌のコロナ薬を処方、その理由が独自取材で明らかに

11月14日、日本感染症学会 、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体が医療従事者向けに「妊婦にとって禁忌とされている新型コロナウイルス感染症治療薬の処方並びに調剤に関する合同声明文」を発表した。要は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口治療薬で催奇形性があるとされているモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)について、再三の注意喚起が行われながら現在でも処方後に妊娠が判明した事例が報告されていることを受け、改めて注意喚起を促した声明文である。従来のこの手の声明文と異なり、今回の声明文はお堅い表現も用いずに極めて平易な文章で書かれている。しかも、「新型コロナウイルス感染症の治療を受けられる女性の患者さんへ お薬を飲むまえに、もう一度確認を!」という日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会による患者向け文書も作成されている。その最後には以下のように記述されている。「新型コロナウイルス感染症に罹患され、そのお薬を内服したいというお気持ちもあると思いますが、あとでつらい思いをすることがないように、妊娠可能な世代の女性の患者さんにおかれましては、問診や調剤前、チェックリスト使用の時には妊娠の可能性はない、と申告されたとしても、内服前には、もう一度、最近数ヵ月間のことをよく思い出し、妊娠の可能性につき、思い当たる節がある場合には内服を控えるようにしてください。その場合には、お薬を保管しないで、ご自身で破棄するか、薬剤師に戻してください」最悪のケースとして異例とも言える患者自身による破棄まで言及している点からして、相当に危機感が強いのだろう。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部と医薬局医薬安全対策課も同日付の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)宛の事務連絡で、声明文の周知依頼を行っている。では、実際どれだけこうした事例があるのだろうか?エンシトレルビルについては緊急承認に基づく使用成績調査が課されており、10月15日までに妊婦への投与は疑い6例を含む32例が報告されている(この間の推定投与患者数84万1,646例)。一方、モルヌピラビルについては、MSD広報部門は「国内で妊婦に投与された事例があることは当社でも把握しているものの、例数は非開示」としている。ただし2023年1月4日に開催された薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対策部会安全対策調査会)において、国内で特例承認を受けた2021年12月24日から一般流通開始前の2022年9月15日までに数例あることが明らかにされている(この間の投与実績は61万9,621例)。ざっくり言えば、数万件に1件の割合で妊婦への処方事例が起きている計算になる。頻度としては少ないことになるだろうが、実際に胎児に影響が出れば、出生児にとっては生涯にわたって影響する可能性があるため、重大な問題だろう。とはいえ、これらの薬剤投与後に妊娠が発覚したケースは、製薬企業作成のチェックリストを使用せずに投与してしまった事例がごく一部にあるものの、声明文にあるように大半はこうしたチェックを経ても防げなかった事例である。ある意味、打つ手なしとも言えそうだが、まだやるべきことは残されていると個人的には思っている。というのも、モルヌピラビルに関してはアメリカで医療提供者向けに「Healthcare Provider Action」と題して「Assess whether an individual of childbearing potential is pregnant or not, if clinically indicated」と表記してある。直訳すれば「臨床上の兆候があれば、妊孕性のある女性での妊娠の有無を評価すること」となるが、事実上、必要に応じて妊娠検査を行うよう求めていると十分に解釈できるものだ。しかし、国内ではモルヌピラビル、エンシトレルビルとも添付文書やインタビューフォームにこうした記載はなく、投与前のチェックリストに「妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があります」と記載するに留まっている。アメリカと同様の記載がないことについて、MSD広報部門は「通常、添付文書の作成は規制当局と検討が行われますが、本剤の承認申請時の規制当局との添付文書の検討において、(国内の添付文書では)妊娠検査等の記載が必要であるという指示等は受けていないという背景がございます」と回答した。ただ、個人的にはアメリカでのモルヌピラビルの例にならった表現やより明確に事前に妊娠検査を行うよう記述することが望ましいのではないかと思う。それでも妊婦へ誤って処方してしまうケースはゼロにはならないだろうが、前述したように、たとえ1例でも重大なことである以上、やって損はないと思う。この点について当事者である行政、企業に尋ねてみたところ、次のような回答が返ってきた。「添付文書の記載を変更する予定は今のところありません。禁忌という形で注意喚起しておりますので、その中で医療現場が必要に応じて対応していただけていると思っております。また妊娠検査も妊娠週数4~5週間以降でやっと尿検査などでわかるようなものと認識しております」(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課)「MSDでは妊婦さんへの投与について注意喚起するために、医療関係者向けの文書や投与前のチェックリストなどを作成し、適正使用の推進に努めているところでございます。また、今後の添付文書等の改訂についてですが、現時点では予定はありませんが、引き続き今後の状況を確認しながら、適正使用の推進に向けて必要な対応を行ってまいります」(MSD広報部門)「妊娠検査の必要性に関する添付文書への記載も含め、妊婦への投与を防ぐための取り組みについては、さまざまな検討は行っております。ただ、現時点で添付文書に妊娠検査の必要性を記載するということは決まっておりません」(塩野義製薬広報部)確かにチェックリストの記載を見れば、本来、妊娠検査を含む対応は医療現場でやっていてしかるべきと思える面はある。しかし、ここまで各方面が繰り返し注意喚起を行わなければならない現状となっている以上、とくに厚生労働省にはもう一歩踏み込んでもらっても良さそうな気がするのだが。

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ファイザーのコロナワクチン、インフルワクチンと同時接種の有効性は?

 ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)と季節性インフルエンザワクチンを同時に接種した場合、別々に接種した場合と比べて有効性に差があるかを、米国の18歳以上の約344万人を対象に、米国・ファイザー社のLeah J. McGrath氏らの研究グループが調査した。その結果、コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種は、それぞれ単独で接種した場合と比較して同等の有効性があることが示された。JAMA Network Open誌2023年11月8日号に掲載。 本研究では、2022年8月31日~2023年1月30日に、ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)のみ、インフルワクチンのみ、または両方を同日接種した、米国の民間医療保険に加入している18歳以上の344万2,996人を対象に、後ろ向き比較試験を実施した。1価ワクチンまたは他社の新型コロナワクチン接種者は除外した。65歳以上は、強化型インフルワクチン接種者のみを対象とした。主な転帰および評価基準は、COVID-19関連およびインフルエンザ関連の入院、救急(ED)や緊急診療(UC)の受診、および外来受診とした。ワクチン接種群間の残存バイアスを検出するため、尿路感染と不慮の傷害の2つのネガティブコントロールアウトカム(NCO)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・全344万2,996人(女性57.0%、平均年齢65歳[SD 16.7])のうち、62万7,735人がコロナワクチンとインフルワクチンの同時接種を受け、36万9,423人がコロナワクチン単独接種を受け、244万5,838人がインフルワクチン単独接種を受けた。・65歳以上(221万493人、女性57.9%、平均年齢75歳[SD 6.7])において、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較して、COVID-19関連入院の発生率が類似していた(調整ハザード比[aHR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.87~1.24)。一方、救急や緊急診療の受診(aHR:1.12、95%CI:1.02~1.23)と、外来受診(aHR:1.06:95%CI:1.01~1.11)の発生率はわずかに高かった。・18~64歳(123万2,503人、平均年齢47歳[SD 13.1]、女性55.4%)では、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較してCOVID-19関連転帰の発生率がわずかに高く、COVID-19関連入院はaHR:1.55(95%CI:0.88~2.73)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.57(95%CI:1.09~2.26)、外来受診はaHR:1.14(95%CI:1.07~1.21)であった。ただし、若年層群では全体的にイベントが少なかったため、CIは広くなった。・65歳以上では、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はすべてのインフル関連転帰の発生率が低く、インフル関連入院はaHR:0.83(95%CI:0.72~0.95)、救急や緊急診療の受診はaHR:0.93(95%CI:0.86~1.01)、外来受診はaHR:0.86(95%CI:0.81~0.91)であった。・18~64歳でも高齢者と同様に、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はインフル関連転帰の発生率が同等か、それより低かった。インフル関連入院はaHR:0.92(95%CI:0.69~1.23)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.08(95%CI:0.91~1.29)、外来受診はaHR:0.76(95%CI:0.72~0.81)。・NCOを用いたCOVID-19関連およびインフルエンザ関連の転帰のキャリブレーション(較正)で、一貫してすべてのaHR推定値が基準値に近づき、ほぼすべてのCIが1.00を横断し、同時接種の有効性に有意な差がないことが示唆された。 本研究により、ファイザーの2価コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種が、高齢者と若年者の両方で、各ワクチンを単独で接種した場合と同等の有効性があることが示された。本結果は、今後の秋冬期のワクチン接種キャンペーンにおいて、両ワクチンの同時接種を支持するものとなった。

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日本人統合失調症患者の院内死亡率と心血管治療との関連性

 統合失調症は、心血管疾患(CVD)リスクと関連しており、統合失調症患者では、CVDに対する次善治療が必要となるケースも少なくない。しかし、心不全(HF)により入院した統合失調症患者の院内予後およびケアの質に関する情報は限られている。京都府立医科大学の西 真宏氏らは、統合失調症患者の院内死亡率および心不全で入院した患者の心血管治療との関連を調査した。その結果から、統合失調症は心不全により入院した非高齢患者において院内死亡のリスク因子であり、統合失調症患者に対する心血管治療薬の処方率が低いことが明らかとなった。Epidemiology and Psychiatric Sciences誌2023年10月18日号の報告。 日本全国の心血管登録データを用いて、2012~19年に心不全により入院した患者70万4,193例を対象に、年齢別に層別化を行った。18~45歳の若年群2万289例、45~65歳の中年群11万4,947例、65~85歳の高齢群56万8,957例に分類した。すべての原因による死亡率、30日間の院内死亡率、心血管治療薬の処方について評価を行った。欠損データを複数回代入した後、混合効果多変量ロジスティック回帰分析を用いて分析した。ランダム効果の変数として、病院識別コードを有する患者と病院の特性を用いた。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者は、入院期間が長期化し、入院費用が高額になる可能性が高かった。・非高齢者群における統合失調症患者の院内死亡率は、非統合失調症患者と比較し、有意に不良であった。 【対若年群死亡率】7.6% vs. 3.5%、調整オッズ比(aOR):1.96、95%信頼区間(CI):1.24~3.10、p=0.0037 【対中年群死亡率】6.2% vs. 4.0%、aOR:1.49、95%CI:1.17~1.88、p<0.001・30日以内の院内死亡率は、中年群で有意に不良であった(4.7% vs. 3.0%、aOR:1.40、95%CI:1.07~1.83、p=0.012)。・高齢群の院内死亡率は、統合失調症の有無にかかわらず同程度であった。・β遮断薬およびACE阻害薬、ARB処方は、すべての年齢層の統合失調症患者で有意に低かった。 結果を踏まえ、著者らは「重度の精神疾患を有する患者では、心不全に対する十分なケアやマネジメントが必要である」としている。

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頻脈を伴う敗血症性ショック、ランジオロールは無益/JAMA

 頻脈を伴う敗血症性ショックでノルアドレナリンによる治療を24時間以上受けている患者において、ランジオロール点滴静注は標準治療と比較し、無作為化後14日間のSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアで評価される臓器不全のアウトカムを改善しなかった。英国・University Hospitals Birmingham NHS Foundation TrustのTony Whitehouse氏らが、医師主導の多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験「Study into the Reversal of Septic Shock with Landiolol:STRESS-L試験」の結果を報告した。敗血症性ショックは、アドレナリン作動性ストレスにより心臓、免疫、炎症、代謝経路に影響を与える。β遮断薬は、カテコールアミン曝露の悪影響を軽減する可能性があり、最近のメタ解析で、敗血症性ショック患者においてβ遮断薬による死亡率の低下が示されていた。しかし著者は本試験の結果を受けて、「敗血症性ショックに対してノルアドレナリンで治療されている患者の頻脈管理に、ランジオロールを用いることは支持されない」とまとめている。JAMA誌2023年11月7日号掲載の報告。ランジオロールvs.標準治療、SOFAスコアおよび死亡率等を比較 研究グループは、英国国民保健サービス(NHS)急性期病院の集中治療室40施設において、コンセンサス基準(Sepsis-3)により敗血症性ショックと診断され、24時間以上(72時間未満)のノルアドレナリン(0.1μg/kg/分)投与を受け、頻脈(心拍数95/分以上)を有する18歳以上の成人患者を、ランジオロール群および標準治療群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後14日時点の平均SOFAスコア、副次アウトカムは28日および90日死亡率、有害事象の件数などであった。 本試験は、ランジオロール群で有害性が示唆されたため、独立データモニタリング委員会の勧告により2021年12月15日に早期中止となった。2018年4月19日~2021年12月15日に無作為化された患者は、予定された340例のうち126例(37%)にとどまった(ランジオロール群63例、標準治療群63例)。126例の患者背景は、平均年齢55.6歳(95%信頼区間[CI]:52.7~58.5)、男性58.7%であった。平均SOFAスコアに有意差なし、28日および90日死亡率はランジオロール群で上昇 SOFAスコア(平均値±SD)は、ランジオロール群8.8±3.9、標準治療群8.1±3.2、平均群間差は0.75(95%CI:-0.49~2.0、p=0.24)であった。 無作為化後28日死亡率は、ランジオロール群37.1%(62例中23例)、標準治療群25.4%(63例中16例)(絶対群間差:11.7%、95%CI:-4.4~27.8、p=0.16)、90日死亡率はそれぞれ43.5%(62例中27例)、28.6%(63例中18例)(15%、-1.7~31.6、p=0.08)であった。 有害事象の発現率は、ランジオロール群17.5%(63例中10例)、標準治療群12.7%(63例中8例)で、両群間に有意な差はなかった。しかし、重篤な有害事象の発現率は、ランジオロール群25.4%(63例中16例)に対し、標準治療群では6.4%(63例中4例)で有意差がみられた(p=0.006)。1つ以上の有害事象を発現した患者数については両群で差はなかった。

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VR技術がため込み症の治療に役立つ可能性示唆

 ため込み症の人が散らかった部屋を片付けるのにバーチャルリアリティー(VR)を利用したプログラムが役立つ可能性のあることを、米スタンフォード大学医学部精神医学・行動科学教授のCarolyn Rodriguez氏らが報告した。この研究結果は、「Journal of Psychiatric Research」10月号に掲載された。 米国では罹患率が2.5%と推定されているため込み症が精神疾患の一つとして定義されたのは、わずか10年前のことに過ぎない。ため込み症患者は、本人の身の安全性や人間関係、仕事の能力を損なうレベルにまで物をため込む環境を作り出す可能性があるが、スティグマや羞恥心から助けを求めることを控えることもある。ため込み症には遺伝的要因の関与が示唆されているが、それだけが原因とは考えられていない。また、その重症度は10年ごとに高まる可能性も指摘されている。ため込み症の主な治療法の一つは、対面での片付けの訓練を含む認知行動療法だが、この方法では臨床医に危険が及ぶ場合がある。 Rodriguez氏らは今回、ため込み症患者が症状管理に必要な手順を踏む練習にVRが役立つかどうかを確認するための小規模なパイロット研究を実施した。その意図について同氏は、「安全面について懸念する必要がない方法で、こうした訓練の有用性を明らかにしたかった」と説明している。 研究は、56〜73歳のため込み症患者9人(平均年齢64.0歳)を対象に実施された。研究参加者には、自宅の最も散らかっている部屋の写真と動画、および30点の所有物の写真を撮影してもらい、これらのデータを基に、3Dのバーチャル環境を作り出した。まず、参加者たちは、ピアサポートとため込み症に関わる認知行動スキルの提供を目的とした16週間のリモートによるグループセラピーを受けた。また、グループセラピーの7週目から14週目には、VRヘッドセットと手動型のコントローラーを使って、臨床医の指導による1時間のVRセッションを受けた。VRセッションでは、自分の所有物をリサイクル、寄付、またはごみ箱のいずれかに出す訓練をした。その上で、実際の所有物を自宅で処分することが課された。 その結果、研究に参加した全ての患者が平均24.9%の症状の軽減を報告し、9人中8人でセッション後の家の散らかり具合が平均14.8%改善したことが確認された。 Rodriguez氏によると、この研究での興味深い発見の一つは、VR環境では、収集される物と、その物への愛着を生み出す要因のいくつかを分離できたことだったという。同氏は、「VR環境では、実際に物に触ることはできず、また、大切な人や物にまつわる経験を思い出させるにおいを感じることもできないため、捨てることに対する余地が生まれる。また、VR環境では何かを手放す練習を何度も繰り返すことが可能だ。そうすることで意思決定できるようになるための感情面のスキルを養うこともできる」と説明している。 なお、今回の研究で示されたため込み症の改善度は、過去の研究で報告されている、対面でのグループセラピーのみを受けた場合の改善度と同程度であった。そのため、VRを用いた訓練の効果がどの程度なのかは不明だ。また、VRを用いた訓練を受けた患者の一部からは、訓練が非現実的に感じられたとの意見も聞かれた。このことは、より先進的な技術の必要性を示唆しているとも考えられる。 今回の研究には関与していない、米インスティテュート・オブ・リビング不安障害センターのDavid Tolin氏は、「VRの利用が実現可能で、患者の受容性も高いことを示した研究結果だ。ため込み症の治療は非常に困難なことが多いため、この知見の意義は大きい」との見解を示している。ただし同氏は、「この研究により、VRがため込み症の治療に有効であることが明らかになったわけではないことを認識しておく必要がある」とし、今後、対照群を設定した研究の実施に期待を示している。

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20分強の身体活動でも座位時間の悪影響を相殺できる可能性

 座位時間が長い人では死亡リスクが高まるが、1日にわずか20分強の中強度から高強度の身体活動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)を行うことで、そのリスクを相殺できる可能性が、新たな研究で示唆された。ノルウェー北極大学(UiT)のEdvard Sagelv氏らによるこの研究の詳細は、「British Journal of Sports Medicine」に10月24日掲載された。Sagelv氏は、「何らかの理由で1日の大半を座位で過ごす人でも、少量の身体活動を行うことで死亡リスクは大幅に低減し得る」と述べている。 Sagelv氏らは、ノルウェー、スウェーデン、米国で実施された4件の前向きコホート研究のデータ(対象者の総計は1万1,989人、女性50.5%)を用いて、MVPAが座位時間と死亡リスクとの関連にどのような影響を及ぼすのかを検討した。腰に装着する加速度計で計測された対象者の1日当たりの身体活動量と座位時間のデータを用いて、いずれも中央値を基準に、座位時間は10.5時間未満の「短い」と10.5時間以上の「長い」で、身体活動量は「22分未満」と「22分以上」で分類した。 中央値5.2年の追跡期間中に対象者の6.7%(805人)が死亡していた。解析の結果、1日当たりのMVPAが22分未満の人では、1日当たりの座位時間が8時間の場合と比べて、12時間の場合だと死亡リスクが38%(ハザード比1.38、95%信頼区間1.10〜1.74)、13時間の場合だと98%(同1.98、1.53〜2.57)上昇することが明らかになった。一方、1日当たりのMVPAが22分以上の人では、1日当たりの座位時間が12時間以上でも死亡リスクの上昇は認められなかった。死亡リスクは座位時間の長短に関係なく、MVPAの時間が長いほど低下していたが、この関連にはMVPAの量が大きく影響していることも示された。例えば、MVPAを1日10分増やした場合の死亡リスクの低下の幅は、1日当たりの座位時間が10.5時間未満の人では15%であるのに対し、座位時間が10.5時間以上の人では35%であった。 ただし、本研究により、身体活動が死亡リスクを低下させることが証明されたわけではなく、両者の関連性が示されたに過ぎない。それでも、本研究には関与していないTrue Health Initiativeの代表を務めるDavid Katz氏は、「この研究は、われわれが自身の身体から活力を得るためには、まずは体を動かすことが必要なことを再確認するものだ」と述べている。 Sagelv氏は、先進国の多くでは、成人が1日に9〜10時間も、その大部分は仕事のために、座位で過ごしていると説明する。そのため、一部の職場では、立ってでも座ってでも仕事ができるような場所を設けたりするなど、座位時間を減らすための試みがなされている。これに対して、仕事以外の時間に、人々に身体活動を行うための安全な場所を提供することはより困難であると同氏は指摘する。同氏は、安全にサイクリングやウォーキングを行える場所や、都市に緑地を増やすことの必要性に言及し、「公的資金をもっと投入して安全に運動できるスペースを増やせば、より多くの疾患予防につながり、それが早期死亡の減少につながる」と主張している。 なお、Sagelv氏によれば、MVPAとは、一般に考えられているほど激しい運動ではなく、安静時よりもやや呼吸の上がる程度の身体活動だということだ。MVPAの例としては、早歩きする、普通のペースで坂道を上る、普通のペースで自転車を漕ぐ、ガーデニングをする、子どもと遊ぶ、などが挙げられるという。さらに同氏は、「運動を始めるのに遅過ぎるということはない。活動的であればあるほど、筋力や心臓の健康の低下を防ぐことができる」と強調している。

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論文に特化したAIを活用する【医療者のためのAI活用術】第9回

(1)論文に特化したAll-in-oneのAIツール「SciSpace」ChatGPTを論文の執筆にすでに活用している方も多いかもしれませんが、論文の執筆や読解に特化したAIツールも存在します。SciSpaceは論文の検索や個々の論文の精読、さらには執筆までサポートしてくれる、All-in-oneのAIツールです。しかも、基本的なツールは無料で利用することができます。ウェブサイトにアクセスし、「Literature Review」のタブをクリックして調べたい内容を入力すると、論文を検索したうえで内容を1段落でまとめてくれ、引用元の文献を表示してくれます(図1)。前回の記事で紹介したPerplexity AIやElicitも同様の検索機能がありますが、それぞれの質の高さは検索内容によってさまざまです。それぞれの検索ツールを試してみて自分に合うものを選んだり、同じ内容を複数のツールで検索したりしてみるのが良いと思います。(図1)論文検索の方法と検索結果画像を拡大するまた、「Copilot - read with AI」というタブをクリックし、論文のPDFを添付するとAIが内容を読み込んで、知りたい内容について論文をもとに回答してくれます(図2)。たとえば「Limitation of this paper」をクリックすると、該当する部分をピックアップして表示してくれます。さらに、言語を日本語に設定すると和訳して内容を表示してくれるという優れもの。抄読会の担当になった時など、読み込みたい時に役立つツールです。(図2)PDFをアップロードすると知りたい内容の要約が可能画像を拡大する(2)論文の執筆に活用するSciSpaceには論文を執筆する時に役立つツールもあります。「Paraphrasing tool」というものを使用すると、元の文章の意味を保ちながら、ほかの単語や文章に書き換えてくれる「パラフレーズ」の作業を自動で行ってくれます(図3)。また、書き換えた後の文章の長さや文章の変化量などのパラメーターも調節できるのが嬉しい点です。論文の中で使用した表現をAbstractにもう一度使用したい場合など、重複表現を避けたい時に有効です。(図3)英文の書き換えにも活用可能画像を拡大するそのほかにも、論文のURLを入力すると論文の参考文献の形式に編集してくれる「Citation generator」や、AIが書いた文章かどうか判断してくれる「AI detector」などの機能がありますが、使い勝手はいま一つで、ほかのツールを使うのが良いと思います。なお、ChatGPTをはじめとしたAIツールの使用を禁止または制限している雑誌もあるため、使用する際には雑誌の投稿規定を確認するようにしてください。

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