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教授 中村正人先生「カテーテルの歴史とともに30年、最先端治療の場で」

名だたる方のカテーテル手術を手がけていることでも有名。日本心血管インターベンション治療学会理事など学会の委員を多数兼務。心臓カテーテルに関する著作は多く、循環器医の中では初めてに近い「末梢血管インターベンションのノウハウをまとめたハンドブック」を作成。現在、東邦大学医療センター大橋病院で心臓血管カテーテルセンター長を務める。カテーテルの世界は進歩早く魅力的東邦大学医療センター大橋病院の外来数は、他病院から紹介などを含め1日あたり約50人ですね。生活スタイル、食生活の変化などから日本人の私たちの体も変化してきていて、患者数はますます増加傾向にあります。自分が大学病院に入った時には心臓にカテーテルを用いた治療がこれからという時でした。まだそれほどカテーテルが主流でなかった時から、ともに約30年を歩んできました。多くの患者さんのための手術をしてきました。10年サイクルで新方式が開発されるカテーテル治療の世界では、最先端治療により、より良好な成績で患者さんの負担の少ない手術が行われるようになりました。最新の冠動脈カテーテルインターベンションを行っています。東邦大学医療センター大橋病院では、年約1,400件の心臓血管カテーテル、うち400件の心血管治療を行っています。冠動脈以外には、経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC)、経皮的中隔焼灼術(PTSMA)、腎動脈、下肢の動脈などのカテーテル治療を行っています。カテーテルの世界はものすごいスピードで進化しており、それは魅力的な世界です。私がこの世界に入った時とは比べ物にならないくらい、多種の病気に対応しており治療自体が違っています。しかし、カテーテルだけの知識だけでは専門域を極めることができません。循環器は体の隅々にまで影響する病気を発症するため、体の細部にわたる知識と専門治療医との連携が患者さんのために必要です。糖尿病とカテーテルの進化の中で60年代まで少なかった糖尿病の患者さんは、現在1000万人以上いると言われ、予備軍を含むと相当数な人数に上りますね。食生活の欧米化、自動車の普及による運動不足など、現代化の波は糖尿病患者を急増させています。虚血性心疾患の患者さんの半分ぐらいまでが糖尿病で、その場合には再狭窄が多く起こることがわかっています。糖尿病対策を早く推し進めていかなければならないでしょう。糖尿病に関しては、まだまだ大きな課題があります。カテーテルはここ約30年で、様々な患者さんに対応するために大きく進化しました。その30年とともに私も歩んできたわけです。この医療に入った時にはここまで進化・進歩するとは思ってもみませんでした。治療に関して、治療方針、患者さんの選択が広がってもきました。しかし、ここで忘れてはならないのが、患者さんの気持ちです。治療ばかりでなく患者さんのためにはどの選択がよいのか。カテーテルの進化により、最先端治療の現場では治療優先になりがちなので注意が必要ですね。あくまでも患者さんのための治療であることを忘れないことです。地域医療、他診療科との連携カテーテル手術の専門域だけでは私たちのこの医療は成立しません。患者さんは全国から来院します。当院以外の病院からの紹介などでカテーテル入院治療をした後、患者さんは今までの生活に戻ってくわけです。その後の治療は、自宅に戻った後も続きます。また、私たちのセンターへ地域医療からの紹介も多く、そういった意味でも地域医療との連携は必須です。また、患者さんの急増とともにカテーテルの進化・進歩してきているわけですが、それに伴い治療、薬剤なども進歩しており、知識を蓄える必要があり、他診療科との連携も重要となります。ここでは今まで自分が学んだものが全てではなく、患者さんのための選択肢を考えていかなくてはいけないわけです。治療知識を蓄えておけば、様々な病気への対応が遅れることなく治療できるようになるでしょう。カテーテル治療の場合、時間との戦い、タイミングが全てとなるケースが多いので連携と判断能力を養うことがポイントとなります。国内各地でカテーテル研修をする日々私の勤務する東邦大学医療センター大橋病院は都内にあり、多数の患者さんが来院するためカテーテル手術の件数も多く症例数は国内でも数多いと思います。これは都心の病院だからでしょう。地域によっては人口密度の関係から、数多い症例の確立が難しい時がありますね。カテーテル治療は知識のみならず経験が必要になります。このため、アプローチの方法なども含めて後輩の方々に伝授したいと考え、各地で研修をしています。研修は、1、豚を使用し実際に治療を行う2、コンピューターシミュレーションをつかうの2種類を主に行っています。何人かの先生と一緒になってカテーテル治療のトレーニングコースを作り、若い先生へ技術を年に数回ほど指導しています。このシミュレーションをするのとしないのでは、随分と技術に違いが出てきます。そしてディスカッションをしつつ理論を展開していく場を作っています。また若い人たちが非常に熱心で、こちらもそういう姿勢を見ていると研修を続けていこうという気持ちにさせられますね。普段治療を行っていて「自分の治療が正しいかどうか」これが一番気になるところだと思いますが、この研修を通じて症例を持ち寄る検討会をしています。治療が正しかったのかどうか、他にも治療方法があったのかなどアプローチ方法を考える理論の展開をしています。学会で発表されるような症例はベストなものを扱う発表の場であり、うまくいかなかった症例がなく、振り返ることがありません。様々な症例でアプローチ方法を探り次回へ活かしていってもらいたいです。アプローチ方法を検討しあい症例を多く集める、これは実際の診療に役立っていると思います。情報を共有して、国内のカテーテル治療の現状アップにつなげていけらと考えます。このような研修は、疑問を持ちつつ地域で医療を展開している人たちにとって得難い機会でもあると私は思います。多くの知識とコミュニケーション能力循環器は体全体の病気に関係しているので、体全体の多岐にわたる知識が必要ですね。それに伴い専門治療医との連携、これが重要になってくるわけです。そして、糖尿病患者さんの急増問題。これは糖尿病専門医だけではなくメタボ関係と並び社会全体の問題です。メタボな患者さんの循環器診察をして糖尿病を防がねばなりません。循環器医でも患者さん減少に取り組まなくてはならないと思います。患者さん、専門治療医、地域医、術後の管理などその後の治療などを含めると多くの医療従事者、患者さんが繋がっていることがわかります。患者さんの情報をお互いにやりとり、その連携が患者さんの術後の生活を支えていきます。コミュニケーション能力は大切、能力を養っておくべきです。ここにはカテーテル治療専門域だけでは対応は難しいですね。専門域だけで診察するのではなく、患者さん「人」を見るということをした方がよいでしょう。カテーテル治療は先端治療なので病巣以外を見逃しがちになりますが、患者さんにとって何がベストな治療であるかを考えなくてはいけません。また、数週間入院している患者さんを診察するとき、私は一週間に一度はカテーテル治療部分の病巣を忘れ全身を診察しています。その病気の別の顔、他への影響、あるいは他の病気が隠れているかもしれないというような気づきがあるかもしれません。同じ治療を施しても、助かる助からないの差が出てきてしまうのはその時のタイミングが大きくものをいうということを肝に銘じておくことも重要です。それは患者さんの命を左右することにもなりかねないからです。患者さんがどこまで治療を望んでいるのか、患者さんのお気持ちを最優先とした治療を心がけることが一番だと考えますね。質問と回答を公開中!

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准教授 平山陽示先生「全人的医療への入り口」

平山先生は循環器内科医を20年経験後、総合診療科の道に入る。医師が自分の専門領域しか診察しない今の医療体制を変化させるべく、総合的に診察して患者さんのメンタル面を含む治療アプローチを実践。東京医科大学病院における「総合診療科」の設立に尽力し現在活躍中である。プライマリ・ケアの重要性から総合診療へ大学病院での初期研修は、通常各診療科目をラウンドしますが、それだけではプライマリ・ケアの習得は困難です。専門診療科のラウンドでは入院患者ばかりを診察、外来患者を診察することがほとんどありません。大部分の患者さんは既に診断がついています。しかし、多くの患者さんは「疾患名」ではなく「主訴」で病院の外来を訪れます。そこでは患者さんの訴えから病気を診断していく重要なプロセスがあります。「症候論」といってもいいし、「診断学」「診断推論」と言っても構いませんが、この初期の段階では幅広い知識と技術が必要です。そして、この研修にはプライマリ・ケアを扱う部門が必要となります。例えば、循環器内科をラウンドすれば心筋梗塞の入院患者さんを診察。しかし、この患者さんが病院を訪れたのは「胸が痛かった」からであり、実際にはこの「胸痛」という症候から正しく診断しなければならないわけです。「胸痛」を主訴とする患者は心臓が原因であれば循環器科、肺が原因でならば呼吸器科、肋骨骨折ならば整形外科、帯状疱疹ならば皮膚科、心因性の胸痛ならば精神科に紹介することもあるわけです。循環器医は心臓由来の胸痛ではないと診断するだけではなく、その患者の胸痛の原因がなんであるのかを推論、院内でたらい回しをせずに適切な診療科に橋渡しするべきです。だからこそ専門治療のスぺシャリストを目指ししている医師にもプライマリ・ケアの知識が必要なのです。幅広いジェネラリストの上にスペシャリストが立つのです。ジェネラリストとしての地固めをしないと良いスペシャリストにはなれません。以前は、プライマリ・ケアを学ぶ場はあまりありませんでした。アクセスのよい都心にある東京医科大学は市民病院的な役割も果たしており、紹介状の有無に限らず、単なる風邪や下痢で来院する患者さんも比較的多く、プライマリ・ケアを学ぶ環境が揃っていました。それも総合診療科が育った要因です。また、この領域では全国的に有名な大滝純司教授をお迎えすることが出来たのも幸運でした。なぜ総合診療なのか東京医科大学病院総合診療科設立のきっかけは新医師臨床研修制度の始まりでした。新制度の目的がプライマリ・ケアの習得であるので、当院では初期研修医に総合診療科のラウンドが義務付けられています。最近では後期研修で総合診療科を希望する人が増えてきており、総合診療科が役に立つ診療科目であることを研修医たちが認知し始めているのを実感しています。総合診療科は、文字どおり総合的に患者さんを診る診療科であり、患者さんが訴えている症状を読み取り、身体所見や検査所見を加味して推論した診断で次なる専門診療科への道筋をつけるチーム医療と同時に、専門医の手を煩わせることもない一般的な疾患(Common disease)は総合診療科で治療をしています。また、総合診療では専門診療科との連携を図りながら、プライマリ・ケアを通して診療のの基礎を固めることができます。ですから、総合診療科の役割のひとつは、研修医に病気を診るのではなく患者さんを診るという態度を身に付けさせることでもあるのです。例えば、MUS(Medically unexplained symptom:医学的に説明できない症状)を訴えてくる患者さんにはメンタルな要因も多いわけですが、そのときに身体疾患がみつからなくとも"症状"まで否定することなく、その症状を現す意味について、患者さんの社会的環境要因も考えるぐらいのことが医師の頭の中にないといけません。いわゆる「全人的医療」、つまり病気を診るのではなく患者さんを診ることの教育が必要なのです。診療科目が細分化されすぎて専門的な知識のみで症状を追うのではなく、幅広いプライマリ・ケアの知識を持った上での診察が求められています。東京医科大学病院の研修医にこの意識を持たせることも総合診療科の重要な役割です。総合診療科という立場への理解不足総合診療科として専門診療科の医師と連携がうまくとれているかと言えば、必ずしもそうではありません。それは臓器専門医にプライマリ・ケアが十分に理解されてないからだと思います。総合診療科は初期診療の担い手ですが、決してスーパーマンではないので、専門診療科で診ないと言った患者さんを何でも引き受けることが出来るわけではありません。極端な例を挙げれば、原発不明がんの患者さんは、いくつかの臓器にがんが見つかっても原発巣が同定されないと、どの診療科も主治医になろうとはせず院内でたらい回しにされてしまう危険があります。だからといってプライマリ・ケアの総合診療科がこのような患者を受け持つことは適切ではありません。現に専門診療科からの患者さんの押し付けで疲弊している総合診療科も多々あるように聞いています。また、総合診療の場合、各診療科目との連携が重要となるのでコミュニケーション能力は極めて重要です。しかし、連携を図るのが容易でない時があります。その場合相手の診療科に患者さんを押し付けるのではなく「一緒に診てほしい」「相談に乗ってほしい」とお願いする心がけを指導しています。連携をとる苦労はどこにでもあると思いますが、難しいですね。総合医の果たす役割今の医療体制では、患者さんが自ら診療科を探すことが多いため、自ら選んだ診療科では病気が分からず帰宅するケースがあります。その意味では総合診療科は医療の玄関口として、その先に専門性の高い医師に依頼して先端治療へ導くなど役割は大きいです。また、プライマリ・ケアを通して診療の基本を研修医に教えるのも総合医であり総合診療科の役割です。現在では、総合的に診療ができるジェネラリストが求められています。総合診療科を目指すドクターがもう少し多くならなくては、今の医療体制の変革には限界があると思います。英国では家庭医制度が確立されており、患者がいきなり総合病院や大学病院に行くことはまずありません。家庭医に診てもらってから専門医へ紹介され診療を受けます。そのため家庭医になるためのプログラムが確立しています。我々の総合診療科でも家庭医養成プログラムを用意しており、何人かの後期研修医がそのプログラムに則って研修しています。家庭医はメンタル面を含めた総合的な診察をします。家族全員を診るため、大人は内科、子どもは小児科などの振り分けを行わず、家族に同じ症状があれば家庭内での原因も探ります。家族全体を診ていくという姿は医療の理想のひとつの型でもあります。もし、そういう家庭医を大学病院でも育てていくとしたら総合診療科がなくてはできないと思います。総合医認定制度がスタート総合診療科がしっかりとプライマリ・ケアを実践するには、専門医に委ねるべき患者を臓器別専門科がしっかり請け負ってくれることが大切です。総合診療と専門診療がうまく連携できていれば、より少ない専門医でも病院は機能するはずですし、それが本来の病院の姿だと私は思っています。厚生労働省も総合医を推進、「総合医認定制度」を視野に入れて検討しているようです。日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療医学会、日本家庭医療学会の3学会は、今春にひとつにまとまって総合医(家庭や総合診療医)の育成プログラムと認定に向けてすでに準備が進んでいます。この認定制度により、首都圏はもとより地域医療も大きく変化、そして患者さん側の医療に対する意識も変化していくでしょうね。多くの総合医(ジェネラリスト)が活躍すれば患者さんは単なる風邪や下痢などの一般的な疾患で大病院を受診することも少なくなり、医療費削減にもつながります。私は東京医科大学病院において、総合診療科の第一線で活動してきました。現在取材も多く、注目を浴びている診療科目です。ぜひ、総合医(ジェネラリスト)を目指す人が多くなることを期待します。質問と回答を公開中!

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准教授 平山陽示先生の答え

紹介の仕方について診断がつかない患者を紹介する時に、受け入れる側としてはどの様な紹介のされ方が好ましいでしょうか?診断がつかないので、当然、検査結果に異常見られないケースが多いです。その様な場合に、どんな情報を付与すれば良いのか悩んでおります。診断がつかない患者の場合、病歴・身体所見・検査所見から、再度、鑑別疾患を挙げることから考えることになると思います。その際には稀な疾患も考慮しなければなりません。我々の診療科では、悩む症例を夕方のミーティングでプレゼンテーションして、皆で鑑別疾患を考え、追加検査について話し合ったりします。ですから、紹介して下さった先生が、たとえ陰性所見であっても、その検査が陰性であったのでこの疾患は考えにくいとか、あるいはどのような身体所見がなかったからこの疾患が否定的であったとかが判ると役に立ちます。大学病院を怖がる患者とのコミュニケーションについて田舎でクリニックをしております。高齢者ばかりの土地なので大学病院を紹介するというだけで大騒ぎ。ましてや、ここでは診断がつかないので総合診療科を紹介するとなると、あたかも死の宣告を受けたかのように萎縮してしまいます。先生の記事を拝見すると、患者さんとのコミュニケーションについても研究されているとのことなので、何か良いアドバイスがありましたら教えて頂きたく思います。この場合、大学病院に紹介して精査をしたほうが良いと考えるのが医師の解釈モデルであり、その際は何かしらの鑑別疾患が念頭にあるのでしょう。一方、精査の必要はないと考えるのが患者さんの解釈モデルです。患者さんは大した病気だと考えていないのかもしれないし、あるいは悪い病気と考えていて、大学病院の検査で苦しい思いをするよりも静かに家で最期を迎えたいと考えているのかもしれません。いろいろな解釈モデルがあり得ます。医療面接が患者の解釈モデルと医師の解釈モデルを付け合せる場であることからすれば、患者は何を心配しているのか、その症状の原因を何だと考えているのか、そのためにどんな検査を希望しているのかという情報を患者さんから得ることが大切と考えています。そして患者さんの解釈モデルと医師の解釈モデルが異なるときには、患者さんが心配している病気だとすると、どこがどう合わないのかを説明してあげることが重要です。忙しい外来でそのように対処する時間はないかもしれませんが、医師が患者さんとの医療面接において、少なくともこの解釈モデルを意識して接していることは重要なことのひとつです。大学病院と聞くだけで"怖い"と思ってしまう理由が判れば、それについての話し合いも出来ると思います。大学病院に行かせる行かせないの議論をしていると不毛に終わることも多く、患者さんからすると「あの医者は私の話を聴いてくれない」などとなってしまいます。医師の思ったとおりに患者が行動してくれないときこそ、患者さんの解釈モデルは何であるのかを確認することが大切です。糖尿病初期患者の扱いについて東医大さんの総合診療科では、糖尿病初期患者の扱いをどうされているのか教えて下さい。実は当院にも総合診療を担当する科と糖尿を扱う科があるのですが、専門医に初期患者まで担当させるとバンクしてしまうのが実情です。現在は食事療法が中心の初期患者は総合診療担当医と栄養士レベルで対応しています。しかし患者さんの中には通院する科が糖尿でないことに不安を持つ方も少なくありません。キャパを超えたら東医大のような大きい病院を紹介するべきなのでしょうか。お知恵を頂ければ幸いです。現在、当科では糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の初期患者については出来るだけ近医を紹介するように努めていますが、どうしても本院に通院希望の患者さんだけ専門医に回しています。当科で抱えることは原則しておりません。大学病院の場合は軽症患者であっても、ある研究や治験が進行していることがあるので、必ずしも専門医が嫌がるわけではないようです。それよりも当科において、慢性疾患を抱えないために、後期研修医たちが慢性疾患患者と長期間にわたって関係していく経験を積ませることができないのが悩みとなっています。その意味では、将来的に当科のスペースと人的資源が大きくなれば、貴院のように初期患者や軽症患者を抱えるほうが教育的には良いと考えています。一方、通院患者さんの中に糖尿病専門医でないと不安だという場合は、やはり専門医に紹介するしかないと思います。ただ、そういう軽症患者さんの場合は、専門医に紹介する基準をあらかじめ示しておくと安心される方がおられます。例えば、HbA1cが6.5を超えたら臓器障害の進行がより進むので、そのときは専門医に回ってもらいますとか、何かしらの糖尿病合併症が認められたら専門外来に行ってもらいますというような基準です。MUSの患者さんの対応 どうすれば安心するのか?記事の中にMUSの患者さんが多いことに触れていましたが、当院でも同じことが言えます。明らかに疾患ではない方もいらっしゃいますが、このような場合、どうやって安心させてあげれば良いのか暗中模索状態です。何か対応のポイントがあれば御教授下さい。非常に難しい内容の事柄です。Up To Dateには一応MUSのアプローチについての記載がありますが、日本と欧米で異なるかもしれません。私は、日本におけるMUSの一番の問題は、患者さんが「病気がないと症状はない」と固く信じていることにあると考えています。ですから、身体疾患が否定されたときに患者さんは、「このような症状があるのに病気がないわけはない」と考えてしまうわけです。そして医師もそのように考えてしまうと、患者への説明が不誠実になってしまい、医師患者関係がぎくしゃくしてしまいまいます。現実には明確な疾患が認められなくても症状が出現することは良くあるわけで、昔から症状を利用した表現もあるくらいです。大きな悩みを抱えたときに「頭が痛い」「胃が痛い」「目が回る」とか、借金をして「首が回らない」とか、悲しい話で「胸が痛む」などです。呑めない話(承諾できない話)を提示されて「物を飲み込むときにつかえる」ことも良くあります。もちろん疾患が100%ないと断言できることも難しいので、私が注意していることは、(1)決して症状を否定しない(共感を示す)、(2)疾患がなくても症状がでることは良くあることを説明する(データがあれば示す;何割は原因不明など)、(3)現時点では疾患が見つかっていないが、疾患は時間が経過してから発見されることがあるので、症状があまりにも改善しないか、悪化するときには再診するよう促すなどです。心身相関についてはまだまだわからないことが多く、もっともっと研究が進めばよいと思っています。他大学病院との違いは?大学病院の総合診療科が縮小・廃止傾向と聞きました。東京医科大学病院さんでは、上手く運営されているようですが、縮小・廃止になる大学病院とどのような違いがあるのでしょうか。また、順調に運営するために注力している取組等があれば教えて頂きたいと思います。宜しくお願いします。大学病院大学病院は全国的に見るとまだまだ敷居が高いようですが、東京医科大学病院は近隣に他の大学病院や大病院が散在しているのと、地下鉄の駅とほぼ直結しているなどの利便性も影響してか、大学病院としては非常に多くの患者さんが気軽に受診されるようです。紹介状がなく、受診科が明らかでない患者さんと、臓器別専門科の依頼患者さんを診察しているのですが、1日60名ほどの患者さんが総合診療科を受診しています。このように患者数に恵まれているのに加えて、臨床研修医が毎年40名以上採用できていること、病院執行部が支えてくれており、私が卒後臨床研修センターの副センター長を兼任したり、研修プログラム責任者を務めていたりして、卒後臨床研修センターとの極めて密度の濃い連携が保たれていることなども理由として挙げられると思います。卒後臨床研修センターが主催して指導医のための教育ワークショップや後期研修医のための教育ワークショップを開催したり、研修医を対象としたセミナーや手技研修をしたりして、総合診療科が指導医育成や研修医教育をしっかりと行うことで、他科から総合診療科の存在価値が認められつつあることもあるかと思います。また、ほとんどの大学病院の総合診療科は病院の1診療部門にしか過ぎず、大学の講座との関係は薄いことが多く立場が弱いのではないでしょうか。その点、当科の大滝教授が医学教育講座の主任教授に就任したことも大きな要素であると思います。標榜科目せっかくの専門医も患者さんに向けて案内が出来ないと理解が進まない部分があると思います。そのためには標榜科目に総合診療科が入るなども必要かと思いますが、その点はいかがでしょうか。医学の進歩に伴い、診療科が細分化された今、おっしゃるように総合診療科が正式な標榜科目に入る必要があると私も考えます。厚労省とプライマリ・ケア関連学会と医師会との協議が進めば、将来的にはその方向で進むのではないでしょうか。ただし、現時点では総合診療科と言っても、内科系の総合診療のみで、外傷を扱っていない当院のような場合から、外傷はもちろん、簡単な手術まで行う総合診療科もあります。また、救急と一緒になって三次救急まで扱う総合診療科まであるなど、プライマリ・ケアの守備範囲が定まっていないため、もう少し時間が掛かるかもしれません。紹介患者の疾患他院から紹介されてくる患者さんですが、結果的にどんな疾患が多いのでしょうか?我々開業医が、どの様な疾患を見落としがちなのかが気になっています。大学病院の総合診療科という性質上、他院からの紹介患者さんに限れば、やはり不明熱などの発熱精査の患者が最も多いですが、それ以外は多岐にわたります。開業医が見落としがちな疾患が特にあるとは思えませんが、一般的に、発熱の患者に関して言えば、安易に抗生物質を使用されるために、感染性心内膜炎をはじめとした菌血症患者の菌の同定が遅れることがあります。過去の医学部の授業は症候学や診断学に乏しく、我々は診断方法を実践の中で習得してきました。最近では学生や研修医たちには症状と身体所見の段階で出来る限り多くの鑑別疾患を挙げさせ、それらを鑑別するためにはどのような身体所見を取ればいいのか、どの検査を出すべきなのかを考えさせるようにしています。近年、このような診断推論の本も増えてきましたので、一読してみてください。外科系から総合医への道について現在医学部に通っている者です。親が病院を経営しておりますので将来的には継ぐ予定です。病院は200床弱の病院です。自分としては外科系に興味を持っていますが、病院の実情を見ると総合診療医になる必要を感じております。先生は元々循環器内科医を20年経験して総合診療医の道に進まれたとのことですが、外科系を専門とする医師が総合医になるケースもあるでしょうか?進路相談になって申し訳ありませんが、お教え下さい。もちろん外科系の専門医が総合診療医に進むこともめずらしくはありません。当科にも外科系に進まれたあとの医師がいます。また、当院では外傷を扱ってはいませんが、本来、プライマリ・ケアの守備範囲には小外科も含まれるはずですし、虫垂炎やヘルニアなどの手術を行っている総合診療科もあります。現在、東京医科大学病院では、生涯教育センター部門を設置し、大学を辞める前に総合診療科などで研修できる体制作りに着手しています。たとえ呼吸器外科医であったとしても、開業するとなれば、ほぼ内科中心でしょうから、総合診療科でしばらく研修すれば役立ちます。現在の初期研修は2年間でプライマリ・ケアの習得をするわけですから、君たちの時代は外科に進んだ後に総合診療医になるのは今までよりも楽になると思います。ですから安心して2年間の初期研修後に外科系に進んでください。総合診療科を希望する理由本文中に「後期研修で総合診療科を希望する人が増えてきており」とありましたが、その方々は開業医を目指すドクターでしょうか?私も総合診療医をもっと増やさないと、地域医療が持たないと考えている方です。しかし、今総合診療医を目指す研修医は、果たして「総合診療医」として大学病院や地方の総合病院で活躍することを目指しているのか?または単に「開業や継承」するために総合診療医のスキルが必要と考えているだけなのか?疑問に思っております。私の立場では、総合診療科で後期研修を行うドクターの本音を伺う術がないので是非お聞きしたいと考えております。現在、当科に入ってくる後期研修医の目指している医師像は多彩です。家庭医を目指す者、病院勤務医(ホスピタリスト)を目指す者、大学で医学教育・研究を目指す者、海外での医療協力を目指す者などです。皆、ジェネラリストであることには変わりありませんが、目標が異なるため、彼らの研修プログラムはそれぞれ異なります。特に家庭医を目指す者は家庭医療学会専門医のプログラムに則っているため、地域での研修が長くなっており、大学病院内で働く期間が短い傾向があります。海外協力を目指していた者は我々の後期を終えた後に長崎大学の熱帯医学研究所に進み、年内には海外に派遣されるそうです。また、ある後期研修医は女性外来を担当する医師になるため、当科で内科認定医を取得し、次に産婦人科専門医を取得すべく他施設ですが、産婦人科の後期研修医になっています。また、親の開業を継ぐことを目標としている後期研修医も、臓器専門医になることをきらって当科に来たのですが、内視鏡やエコーを習い、小児科もしっかりと学びたいと言っています。実際、米国では内科―小児科コースがあるそうです。最近、当院の小児科から後期研修医の中で、小児科専門医を取得後に総合診療科で研修したい者がいるとの相談も受けており、今後は総合診療科と小児科の連携が強まりそうです。いずれにしろ、今までの大学病院の医局・講座制では彼らの要求は満たされず、総合診療科の存在意義があると思っています。専門医とのコミュニケーションについて専門医とのコミュニケーションについて工夫されているようですが、取組方についてもう少し具体的にご教授願えないでしょうか。実は、私もその点について大変苦労しており、特に目上のドクターには何も言えない状況です。同僚の中にも専門医とのコミュニケーションの難しさから総合診療科を離れていくドクターが出てきております。何かしらアドバイス頂けたら幸いです。これが一番難しいですね。この問題を抱えていない総合診療科は皆無ではないでしょうか?当科でも、医局員から他科とのコミュニケーションに関する文句はよく聞きます。正直言って妙案があるわけではありません。とにかく当科からの基本的姿勢は「押し付け」ではなく専門医に「お願い」しているということです。我々は専門医が診るべき疾患だと考えていても、専門医側がcommon diseaseだと考えて「これぐらいは総合診療科で診ろ」という態度を取ると当科で診ざるを得なくなります。しかし、総合診療科がすべての専門医を抱えているわけではありませんので、患者さんが重症化したときに困るわけです。従って、私たちは疾患が明らかとなったにも関わらず、臓器別診療科が引き取らないときは、必ずミット(併科または兼科のこと)になって一緒に診てもらいます。そうすると治療がうまく行かないときには取ってくれることが多いです。彼らが併診すらしないときは、不本意ですが、併診しない診療科のトップと話し合わなければなりません。私も数回そのような話し合いをしたことがありますが、そのときは必ず臓器別診療科に転科となります。だいたい患者さんは「何科」に入院したのではなく、「何病院」に入院するのですから、専門医が診てくれなくて困るのは患者さんであり、それは医療安全の観点からも問題だということを理解してもらうようにしています。病院執行部と安全管理室は総合診療科に好意的であることが多いので、そのあたりをうまく利用してもいいと思います(ちなみに私は安全管理室の副室長でもあります)。しかし、我々が何でも押し付けるのではなく、出来る限り診るという姿勢がないと彼らの反感を買うばかりとなってしまうので注意が必要です。准教授 平山陽示先生「全人的医療への入り口」

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「オンコロジードリームチーム・キックオフ・フォーラム」開催

3月21日「オンコロジードリームチーム・キックオフ・フォーラム」がオンコロジー教育推進プロジェクト、日本対がん協会、キャンサーネットジャパン共催で開催された。当日は、患者さん・家族、医療者、学生などが参加し会場は満席となった。基調講演では、M.D.アンダーソンがんセンター腫瘍内科・教授であり自らもがん体験者である上野直人氏はじめ、医師及び患者の代表が、それぞれのテーマで講演した。患者中心の医療が叫ばれるが、実際はオンコロジーチームに患者・家族が入ることはないのが現状である。本当の意味で患者中心の医療の実現のためには、患者さんが自らの想いを伝え、医療者もそれを汲むよう努力することが必要である。そのためには、各自ががん医療に関する想い・夢を発信し共有することが重要であるとの意見が述べられた。パネルディスカッションでは、「私の夢から私たちの夢へ」と題し、東京大学医学部 緩和ケア診療部 岩瀬哲氏、埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科 佐治重衡氏、作家でありがん体験者の岸本葉子氏、がん体験者でありキャンサー・ソリューションズ株式会社代表の桜井なおみ氏と上野直人氏による議論が行われた。最後に、ドリームメイキング・セッションとして会場の参加者全員ががん医療に関する夢をパネルに書き出し会は終了した。この上野氏のインタビュー及びフォーラムの詳細は、ケアネット・ドットコムで4月下旬に紹介の予定。 ●オンコロジードリームチーム ホームページhttp://www.oncology-dreamteam.org/(ケアネット 細田雅之)

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HbA1c値、糖尿病および心血管アウトカムを予測

糖尿病診断の基準として空腹時血糖値が使用されてきたが、近年、食事や運動など生理的影響を受けにくい糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の使用が推奨されるようになっている。今年1月の米国糖尿病協会(ADA)の推奨の動きに続き、日本でも診断基準改定の動きが本格化している。そのHbA1c値と従来の空腹時血糖値の予後予測能(糖尿病または心血管疾患リスク同定)について、米国ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ校疫学部門のElizabeth Selvin氏らのグループが、比較試験を行った。NEJM誌2010年3月4日号より。HbA1c値が増すほど、糖尿病、冠動脈疾患、脳卒中のリスクは高まるSelvin氏らは、全米4地区で行われているAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)前向き研究参加者で、1990~1992年の2回目の被験者登録時に、糖尿病または心血管疾患の既往歴がなかった黒人および白人成人11,092例の全血サンプルから測定したHbA1c値をベースラインとした。その後約15年追跡した、両群の各イベント発症を比較した。結果、ベースラインのHbA1c値と、新たに診断された糖尿病並びに心血管アウトカムとの相関が確認された。HbA1c値「5.0%未満」「5.0~5.5%未満」「5.5~6.0%未満」「6.0~6.5%未満」「6.5%以上」の各グループの、糖尿病と診断されるリスクの多変量補正ハザード比は「5.0~5.5%未満」を基準とした場合、「5.0%未満」群0.52(95%信頼区間:0.40~0.69)、「5.5~6.0%未満」群1.86(同:1.67~2.08)、「6.0~6.5%未満」群4.48(同:3.92~5.13)、「6.5%以上」群16.47(同:14.22~19.08)だった。冠動脈疾患のハザード比は、「5.0%未満」群:0.96(同:0.74~1.24)、「5.5~6.0%未満」群:1.23(同:1.07~1.41)、「6.0~6.5%未満」群1.78(同:1.48~2.15)、「6.5%以上」群1.95(同:1.53~2.48)だった。脳卒中のハザード比も同程度だった。空腹時血糖値モデルでは予測できないものもHbA1c値を加えると……一方、全死因死亡率とHbA1c値とは、J字型曲線の相関を示した。 これらHbA1c値モデルにおける、糖尿病、心血管アウトカム、死亡率との関連性はいずれも、ベースラインの空腹時血糖値による補正後も有意だった。対照的に空腹時血糖値モデルでは、心血管疾患および全死因死亡リスクとの関連が、全共変量による補正後モデルにおいても有意性は認められなかった。冠動脈疾患のリスクとの関連については、空腹時血糖モデルにHbA1c値がつけ加えた場合に有意となった。これらからSelvin氏は、「非糖尿病成人の地域ベースの集団において、HbA1c値は空腹時血糖値と比較して、糖尿病リスクについては同程度の相関を、心血管疾患および全死因死亡リスクについてはより強い相関を示した。このことは、糖尿病診断にHbA1c値を活用するべきことを裏づけるエビデンスが得られたことを意味する」と結論している。(医療ライター:朝田哲明)

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重度の脳損傷を受けた意識障害患者との会話、機能的MRIの応用で可能?

集中治療技術の進展により、重度の脳損傷を受けても生存する患者が増加しているが、良好な回復を示す患者がいる一方、一部は植物状態のままで、大半の患者はこん睡状態から目覚めても再現性のある意思疎通ができる状態にまでは回復しない。2002年にAspen Neurobehavioral Conference Work Groupが、意識障害患者の枠組みに「最小意識状態」(minimally conscious state;MCS)という「意思表示を行動で示せない患者」の区分を加えた。しかしベッドサイド検査だけでは鑑別診断が難しく誤診率は約40%に及ぶという。そこで英国医学研究審議会(MRC)認知・脳科学ユニットのMartin M. Monti氏らは、機能的MRIを用いた意思疎通を図れるかを試験した。NEJM誌2010年2月18日号(オンライン版2010年2月3日号)掲載より。54例の意識障害患者に機能的MRIを試験Monti氏らは、英国のケンブリッジとベルギーのリエージュにある2つの主要なメディカルセンターで、54例の意識障害患者(植物状態23例、最小意識状態31例)を対象に機能的MRIを用いた試験を実行した。まず、健常者に対する試験で明らかになっている、心象作業の際の脳血流動態が活発になる部位が、運動をイメージする、場所をイメージする各作業の場合で異なることを活用し、被験者に各心象作業(運動しているイメージ、場所をイメージ)をするよう質問をなげかけ、脳血流動態をMRIでスキャンし脳活動の調整が可能かを判定した。次に、その心象作業を利用してコミュニケーションが可能かを検証した。「はい」「いいえ」で答えられる簡単な質問を投げかけ、質問に対し「はい」なら、先と同じ運動心象作業を、「いいえ」なら場所の心象作業をするよう指示をし、脳活動の再現性を評価するという方法である。植物状態と判定されていた患者とのコミュニケーションに成功結果、54例中5例の患者が脳活動を調整することが可能だった。5例とも外傷性脳損傷を受けた患者で4例は植物状態と判定(残り1例はMCS)されていた患者だった。5例のうち3例は、ベッドサイド検査でもいくつかの認知していることを示すサインが確認できた。2例には確認できなかった。また心象作業を利用した「はい」「いいえ」のコミュニケーションの方法は、1例の患者(植物状態と判定されていた)で可能だった。その患者とのコミュニケーションは、それ以外の方法では全くできなかった。Monti氏は「少数ではあったが、植物状態、最小意識状態の患者に、いくつかの認知を反映する脳活動があることが証明された。このことは、臨床検査を入念に行えば意識状態の再分類化がなされる患者もいることを意味する。我々が開発した方法は、反応がないと思われる患者との基本的コミュニケーションの確立に役立つだろう」と結論している。(医療ライター:武藤まき)

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防げる子宮頸がん…防がないのは罪 ~HPVワクチンの接種により73%の子宮頸がんが減少。社会・経済的効果も190憶円~

諸外国に遅れをとりながらわが国でも子宮頸がんの予防ワクチンが承認された。そのような中『子宮頸がんと予防ワクチン』と題し、国立がんセンター中央病院にて講演会が開催された。講演会では、主催者の国立がんセンター中央病院院長土屋了介氏に加え3名の演者が製薬企業、医療者、患者それぞれの立場でHPVワクチンを日本の医療環境に取り入れていく中での課題や問題点について発表した。そのなかから自治医大埼玉医療センター産婦人科今野良氏の講演内容を中心に紹介する。日本と世界に於ける子宮頸がんの状況世界では、子宮頸がんにより毎年50万人が亡くなっている。日本での子宮頸がん発生率は人口10万人当たり約8人、死亡率は2.6人であり、世界的にみても少ないといえる。これは、日本の子宮頸がん検診は導入、充実が世界的にも早かったためである。しかし、近年は若年者での発生率が増加しているという問題が発生している。実際、20~29歳の浸潤がんの発生率は1984年に比べ1996年で4倍である。その原因としては若年者の子宮頸がん検診受診率が極めて低いことが挙げられる。欧米先進国の子宮頸がん検診受診率は80%以上であるが、日本の受診率は既に24%と極端に低くなっている。これは若い世代に検診の重要性を伝えきれていない結果である。このまま若年者の検診受診の習慣付けをしないと患者数が大幅に増加すると予想される。検診での過ちをワクチンでも繰り返すべきではないと考える。成人女性であれば特別なこととはいえないHPVの感染HPV(Human Papiloma Virus)感染は子宮頸がん発生の必要条件として報告されており、HPV感染の有無は500倍のodds比であり関連度は99%である。HPV感染は通常の性交渉によって起こる。HPVは子宮頸部の非常に微細な上皮の傷から感染し増殖する。そのため、成人女性であれば大部分の方が一度は感染しているといえ、非常にありふれたものといってもおかしくない。いまだ一部誤解があるようだが、問題がある性交渉を行ったから発生するというものではない。また、HPV感染の90%は一過性感染である。残りの10%が持続感染になり、その中からがんに至るものがでてくる。HPVワクチンの効果は非常に高く日本での臨床試験ではHPV16、18感染に関して共に100%予防可能であった。HPVワクチンと検診の両輪で子宮頸がんを克服する子宮頸がんは、リスクファクターもその前がん病変も明らかである。前がん病変は検診時の細胞診で従来から判定が可能である。それに加えリスクファクターであるHPV感染を予防するワクチンが出現した。つまり、子宮頸がんは、一次予防のHPVワクチンと二次予防の検診の両輪で予防可能な疾患なのである。*HPVワクチンについて会場質問と回答も追記・HPVワクチンは成人に接種しても意味がない:現在HPV16、18に感染している方には効果がないが、過去に感染があっても現在陰性であれば年齢に関係なく有効。90%の方は陰性であり成人に対する接種も医学的には有効である。 ・HPV感染者への接種で抗体価が上がる:抗体価は上がらない。また、感染者に接種しても良くも悪くもならない・腺がんの対策:腺がんは検診では鑑別できないため現状の対策はHPVがワクチンしかないHPVワクチン導入による社会・経済的効果本邦におけるHPVワクチン接種による医学的効果と経済評価を行った。その結果、12歳の女児全員に接種すると子宮頸がんの発生率、死亡率ともに73%抑えることが推計された。経済的には、治療費用、機会費用を合せ400億円が削減され、ワクチン費用約210億円(ワクチン1コース36,000円と仮定)を差し引くと社会全体で約190億円の費用削減効果が期待された。さらに、10~45歳の女性全員にワクチンを接種させた場合、約430億円の社会的費用が削減さると推計された。増分費用効果比からみても45歳までの接種が許容されるという計算になる。 子宮頸がん後進国にならないためにHPVがワクチン接種の公費負担をHPVワクチンは100ヵ国以上の国で承認され、約30ヵ国で公費負担により12歳前後の女子に対し接種が行われている。そして、オーストラリア、欧州、米国でも医療保険、民間保険で費用の一部あるいは全額がカバーされている。WHOからも今年の4月にPositionPaperが提示され、世界の多くの国や機関でワクチン政策に組み入れることを推奨している。検診率が高い欧州は、更にHPVワクチン接種を組み込むことによって子宮頸がんを根絶しようという戦略である。一方、経済資源がなく検診の充実が期待できないアフリカなどでもGAVI(Global Alliance for Vaccines and Immunization)のような世界的支援機関の援助でHPVワクチン接種が始められている。日本では、発売されたものの公費負担は認可されていない。公費負担がないとワクチン接種率は5%程度と予想される。前出の費用効果分析の手法でシミュレーションしても、それでは子宮頸がんの発症抑制は全く期待できないことになる。このままだと日本は子宮頸がん対策に取り残されることになるのである。ワクチンの普及には行政がイニシアチブをとることが必要である。まずは11~14歳のHPVワクチンの全額公費負担を、次に15~45歳の保険償還での補助などでHPVワクチン接種の費用負担を実現させたい。 最後に座長の土屋了介氏は、HPVがワクチン公費負担についての会場署名およびWebサイト公募署名を長妻大臣に届けることを会場で宣言し会を締めくくった。(ケアネット 細田 雅之)

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食人習慣で蔓延したクールー病、生き残った患者で獲得されていたプリオン病耐性因子

 南太平洋の島国パプアニューギニアの高地の、極めて限定された地域で見られる致死的流行性のプリオン病としてクールー病(現地語で「震える」の意味)がある。いわゆる狂牛病と同じく病因は伝染性タンパク質で、石器時代から続く同部族内の死者の脳を食べる風習が感染ルートであることが解明されている。事実、クールー病の出現率は食人習慣の中断以来、着実に低下した。なお、食人習慣は儀礼的な意味があり女性と子どもにのみ課せられてきたもので、疾病発症もほとんどが成人女性と男女の子どもで見られていた。本論は、英国ロンドン大学校のSimon Mead氏らの研究グループによる、過去の食人葬参加者を含む3,000例以上を対象とした、プリオン遺伝子および臨床評価と系統学的評価の報告。NEJM誌2009年11月19日号より。クールー病の流行期に選択的に獲得された後天性のプリオン病耐性因子がコドン127Vと分析 この調査で、過去に食人葬に参加したことのある人は709例いた。そのうち152例はその後、クールー病で死亡していた。一方、クールーに曝露されながらも、流行期を生き延びた人々の多くは、プリオン蛋白遺伝子(PRNP)のコドン129と呼ばれる既知の耐性因子のヘテロ接合を有していた。 研究グループは今回、G127Vと呼ばれる新しいPRNP異型について報告している。この異型はPRNPコドン129のホモ接合体で、クールー病が流行していた地域で生活していた人々の間で特異的に見つかり、最も曝露されていた地域で生活し本来ならクールー病に感受性があるはずの女性の半数で確認された。 この対立遺伝子はクールー病の出現率が最も高い地域では一般的だが、クールー病患者や、世界的にもクールーに曝露されていない人口群では見つかっていない。系統的な解析によって、クールー病に対し保護的な対立遺伝子を保有している血統は、地理的に適合する対照家系よりクールー病出現率は有意に低かった。 これらから研究グループは、127V遺伝子多型は、クールー病の流行を誘発した病原性の突然変異の結果というよりも、クールー病の流行期に選択的に獲得された後天性のプリオン病耐性因子であると分析した。PRNPのコドン127と129の異型は、プリオン病の流行に対する集団における遺伝的反応を示すもので、ヒトにおいて新しく見られた力強い選択のエピソードを意味していると述べている。

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それでも低調、パンデミック宣言後の香港市民の新型インフルワクチン接種意欲

香港の医療従事者を対象とした調査(5月)で、新型インフルのワクチン接種希望者が半数以下にとどまることが報告されている(2009/10/02配信:http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=10240)。低調の背景には過去の季節性インフルワクチンの“歴史”が大きく影響しており、ワクチンの効果や安全性に対する疑念があった。では一般市民の意識はどうなのか。香港大学のJoseph T F Lau氏らが、接種費用およびワクチン効果に関する5つの仮説を用意し、接種意図について約300人に電話インタビューを行った。これまでの接種動向を見ると、2006~2007年シーズンの季節性インフルワクチン接種率は、高齢者35%、妊婦4%、2歳未満児9%、持病がある人23%、健常者15%と低調だったという。BMJ誌2009年10月31日号(オンライン版2009年10月27日号)より。「無料」「100香港ドル以下」など5つの仮定条件を立て接種意図を聞く電話アンケートは、7月2~8日の間に、ランダムに選択した18~60歳の中国系住民301例を対象に行われた。女性が55%、40歳以下が47%、有効回答率は80%だった。新型インフルの「パンデミック」宣言は6月11日に出されていたが、香港での新型インフルによる初めての死者が報告されたのは7月27日である。そうした状況下でのインタビューは、ワクチン接種の意図に関して5つの仮定条件――「接種費用が無料」「100香港ドル以下」「101~200香港ドル未満」「200香港ドル以上」「臨床試験による効果と安全性が確認されていない」を投げかけそれぞれ回答を寄せてもらうというものだった。「無料」でも45%、「予防効果を確信」は39%、効果と安全性の確立が普及に不可欠結果、「無料」なら受けるだろうと回答した人は45%(135人)、受けないと思う・わからないと回答した人は55%(166人)だった。以下、受けるだろうと回答した人の割合は、「100香港ドル以下」36%、「101~200香港ドル未満」24%、「200香港ドル以上」15%とコスト増とともに減っていき、また「効果と安全性が未確認」では5%にとどまった。その上で、32%の人が、万能な新型インフルワクチンが必要と回答していた。ワクチン接種が予防に寄与すると信じていた人は全体で39%(117人)であり、全国民接種が必要と回答した人は16%(49人)だった。なお、新型インフルワクチンの有効性が臨床試験で確認されたと誤認していた人は63%(189人)いた。Lau氏は、「香港市民の新型インフルワクチンの接種意欲はあまり高くないようだ。接種意図には費用負担も影響すること、また、効果と安全性は普及に重大な意味を持つことが明らかになった」とまとめている。

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プライマリ・ケア医の疲弊感に対する改善策

バーンアウト(疲弊感)を感じているプライマリ・ケア医に対し、瞑想や自己認識訓練などを含んだ教育プログラムを行うことで、患者への態度や感情障害の程度などが改善することが、JAMA誌2009年9月23/30日号で報告されている。米国ロチェスター大学医学部のMichael S. Krasner氏が、70人のプライマリ・ケア医を対象に行った試験で明らかにした。米国ではプライマリ・ケア医が高いストレスを感じていること、それが疲弊感や消耗感、またケアの質低下に連鎖していることが報告されており、プライマリ・ケア医のおよそ60%が燃え尽き症候群を感じているとの報告はあるものの、それを改善するプログラムやプログラムの評価に関する報告は珍しいという。週2.5時間の講座を8週間、月2.5時間を10ヵ月実施Krasner氏らは2007~2008年にかけて、ニューヨーク州ロチェスターのプライマリ・ケア医70人を対象に、CMEコース(continuing medical education)というストレスや燃え尽き症候群の改善を目的とした教育プログラムを行った。当初8週間は、2.5時間/週プラス7時間の集中講座1回(6週と7週目の間に)を行い、その後10ヵ月は2.5時間/月の講座が実施された。プログラムでは、意識の高い瞑想(mindfulness meditation)や自己認識訓練(self-awareness exercises)、意味深長な臨床経験の語り(narratives about meaningful clinical experiences)、話し手の内容をきちんと聞き取る訓練(appreciative interviews)、ディスカッションなどを行った。同プログラムの開始前と最中、終了後に、5回にわたり、意識の高さや疲弊感の程度などについて自己評価を行った。「意識の高さ」に大きな改善、バーンアウトでも中程度の改善70人の参加者のうち、1回目の評価を受けたのは60人、5回目の評価を受けたのは51人だった。試験開始前と開始15ヵ月後の、「意識の高さ」について見てみると、スコアは45.2から54.1に、大幅に有意に改善した(スコアの改善幅:8.9、95%信頼区間:7.0~10.8)。マスラック・バーンアウト尺度による評価によって、情緒的疲弊スコアは26.8から20.0に(改善幅:-6.8)、患者に対し非人間的な対応をする離人化スコアは8.4から5.9に(同:-2.5)、個人的達成感のスコアは40.2から42.6へと(同:2.4)、いずれも中程度の改善が見られた。患者に対する共感度についても、Jefferson Scale of Physician Empathy(JSPE)スコアが111.6から121.2へ(同:4.6)改善した。その他、感情障害の程度や自覚、情緒的安定性などについても、改善が見られ、意識の高さの改善は、感情障害やバーンアウトなどの改善と相関関係が見られた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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高感度心筋トロポニン検査は心筋梗塞の早期診断を大いに改善できる(2)

心筋梗塞の早期診断は迅速な治療を促し、胸痛症状を示した患者のアウトカムを改善する。その意味で、緊急環境下で施行される心筋壊死マーカー検査は診断価値が高く、胸痛患者ケアに一里塚を築いたが、胸痛出現直後の精度は低い。これに代わって心筋トロポニン検査が急性心筋梗塞の診断の中心的役割を果たすようになっているが、ヨハネス・グーテンベルク大学(ドイツ)のTill Keller氏ら研究グループは、急性心筋梗塞の早期診断とリスク層別化について、高感度トロポニンI測定法の評価を行った。NEJM誌2009年8月27日号より。診断精度は高感度トロポニンI測定法が最も高い本試験は多施設治験で、急性心筋梗塞が疑われる一連の1,818例の患者を対象に、入院時、入院後3時間、同6時間について、高感度トロポニンI測定法と、トロポニンT、従来の心筋壊死マーカーの3つで診断精度を比較した。入院時に得られたサンプルによる診断精度は、トロポニンT測定法(受信者動作特性曲線[AUC]:0.85)、従来の心筋壊死マーカーと比較して、高感度トロポニンI測定法が最も高かった(AUC:0.96)。入院時の高感度トロポニンI測定法(カットオフ値:0.04ng/mL)の臨床的感度は90.7%、特異度は90.2%だった。診断精度は、胸痛発症からの時間にかかわらず、ベースライン(入院時)と入院後の連続サンプルで実質的に変わらなかった。トロポニンI濃度0.04ng/mL超は発症後30日のリスク上昇と関連胸痛発症後3時間以内の患者において、1回の高感度トロポニンI測定法の陰性適中率は84.1%、陽性適中率は86.7%だった。これらの所見から、6時間以内にトロポニンIレベルが30%上昇すると予測された。0.04ng/mLを超えるトロポニンI濃度は、発症後30日における有害アウトカムのリスク上昇とそれぞれに関連していた(リスク比:1.96、95%信頼区間:1.27~3.05、P = 0.003)。研究グループは、高感度トロポニンI測定法の利用は、胸痛発症からの経過時間によらず、急性心筋梗塞の早期診断とリスク層別化を向上させると結論づけた。(医療ライター:朝田哲明)

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米国における移民・難民の結核疫学調査

結核は、感染症死亡世界第2位で、発病率は1990年から2003年の間に世界的に増加した。WHOによれば、2005年の新規患者は世界で約880万人、うち84.1%がアジアおよびサハラ以南のアフリカからの報告だったという。一方、先進国の発病率も、こうした国からの移民・難民の影響を受けていると言われ、米国では、1年間の結核の新規患者の約6割が、外国生まれの人であり、その大半は、移民や難民と推定されるという(2007年調べ)。こうした外国生まれの人に対する結核予防対策を講じるため、米国疾病管理予防センター(CDC)のYecai Liu氏らは、詳細な疫学調査を実施した。NEJM誌2009年6月4日号より。外国生まれの人の結核発病率は、米国内で生まれた人の9.8倍2007年の米国における結核の新規患者数は1万3,293人で、そのうち57.8%が外国生まれの人だった。それら外国生まれの人の発病率は、米国生まれの人の9.8倍に上った(20.6例対2.1例/人口10万)。米国には毎年、約40万人の移民、5万~7万人の難民が移住してきており、外国生まれで結核を発病した人の多くがそうした人々だと推定された。海外でスミア陰性だった人のうち7%が移住後に発病一方、CDCでは、移民や難民の移住後の結核に関する追跡調査とともに、海外スクリーニングのデータも収集している。Liu氏らは、それらデータを分析。1999~2005年の間の、移民者271万4,223人の海外スクリーニングデータから、スミア陰性例(胸部X線によって活動性結核が示唆されたが、喀痰スミアは3日連続で抗酸菌陰性)が合計2万6,075例、非活動性結核例(胸部X線によって臨床的に非活動性結核を示した症例)が2万2,716例だったことが明らかになった。これは、有病率がそれぞれ、961例/10万人(95%信頼区間:949~973例)、837例/10万人(826~848例)であることを意味する。また同期間の、難民37万8,506人については、スミア陰性の結核は3,923例、非活動性の結核は1万0,743例で、有病率はそれぞれ、1,036例/10万人(1,004~1,068例)、2,838例/10万人(2,785~2,891例)であった。これら海外スクリーニングデータと国内発症データを合わせると、海外ではスミア陰性と診断されていた人のうち7.0%が、米国に移住後、活動性肺結核と診断されており、また、非活動性結核と診断されていた人については、1.6%が移住後、活動性肺結核と診断されていた。(武藤まき:医療ライター)

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筋骨格の疼痛とうつ症状、12ヵ月の3段階治療で大きく改善

筋骨格の疼痛とうつ症状の緩和には、薬物療法の最適化や痛みの自己管理などを含めた3段階治療が効果があるようだ。米国Indiana大学内科/老年病学のKurt Kroenke氏らが無作為化試験で明らかにしたもので、JAMA誌2009年5月27日号で発表した。12ヵ月間にわたる介入で、被験者の26%が、痛みとうつ症状の両方が大きく改善したという。痛みとうつ症状は、プライマリ・ケアの中で最も多い患者の訴えで、その30~50%が両者を併発している。抗うつ薬最適化治療、痛みの自己管理指導とフォローアップの3段階治療同氏らは、2005~2008年にかけて、背下部や腰、膝の痛みが3ヵ月以上続き、中程度以上のうつ症状のある患者250人について、試験を行った。研究グループは、被験者を無作為に2群に分け、一方には3段階の12ヵ月にわたる治療を、もう一方には通常の治療を行った。3段階治療では、当初12週間に抗うつ薬の開始および見直しを行った。次の12週間では、スタンフォード自己管理プログラムに即した、痛みを緩和するための自己管理についての講習を6回実施した。さらに続く12週間では、抗うつ薬の効果の確認や、痛みの自己管理などに関するフォローアップを、看護師が電話で2度行った。うつ症状には、ホプキンス症状チェックリストを、また痛みの程度については簡易疼痛調査用紙などを使ってそれぞれ評価した。うつ症状5割以上改善は治療群で37.4%その結果、試験開始後12ヵ月時点で、うつ症状が50%以上改善したのは、対照群では127人中21人(16.5%)だったのに対し、3段階治療群では123人中46人(37.4%)と、有意に高率(相対リスク:2.3、95%信頼区間:1.5~3.2)だった。また、重度うつ症状を訴える人の割合も、対照群では68.5%だったのに対し、3段階治療群では40.7%と、有意に低率(0.6、0.4~0.8)だった。さらに、臨床的に意味のある程度の痛みの軽減(30%以上)が見られたのは、対照群では17.3%だったのに対し、3段階治療群では41.5%と有意に高率だった(相対リスク:2.4、95%信頼区間:1.6~3.2)。全体的な痛みについてもまた、30%以上の軽減が見られたのは、対照群の12.6%に対し、3段階治療群は47.2%だった(同3.7、2.3~6.1)。痛みとうつ症状の両方で大きな改善が見られたのは、対照群では7.9%だったのに対し、3段階治療群では26.0%だった(同3.3、1.8~5.4)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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乳児の細気管支炎、エピネフリン+デキサメタゾン併用療法で入院が減る可能性

 乳児に最もよく見られる急性感染症の細気管支炎(大半はRSウイルスが原因)には、エピネフリン+デキサメタゾン併用療法を行うことで、入院を有意に減らす可能性があるとの報告が、カナダから寄せられた。オタワ大学小児科のAmy C. Plint氏らPERC(Pediatric Emergency Research Canada)の調査による。北米での細気管支炎による入院は、ここ10~15年でほぼ倍増しており、入院医療費は1998年時点で約4億~7億ドルに上ると試算されている。一方で、細気管支炎への治療についてはなお論争の的となっており、気管支拡張薬とコルチコステロイド療法は広く行われているが、推奨はされていない。研究グループは、それら懸念や論争に一石を投じるべく、救急部門で行われている治療(エピネフリン吸入療法、短期のデキサメタゾン経口投与、もしくは両治療の併用)によって入院が減っているかどうかを調べた。NEJM誌2009年5月14日号より。乳児800例対象の多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験 小児科救急部門を受診した細気管支炎の乳児800例を対象とした、多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験。対象患児は、無作為に4群(併用群、エピネフリン群、デキサメタゾン群、プラセボ群)に割り付けられた。 エピネフリンは、0.1%溶液3mLの吸入を2回、デキサメタゾンは、経口投与6回(救急部門で1.0mg/kg体重、以後0.6 mg/kg体重/日を5日間)で治療された。 主要転帰は、救急部の初回受診から7日以内の入院とした。 ベースラインでの臨床的特徴は4群とも同等だった。 入院率は併用群17.1%、プラセボ群26.4% 7日までに入院したのは、併用群が34例(17.1%)、エピネフリン群47例(23.7%)、デキサメタゾン群51例(25.6%)、プラセボ群53例(26.4%)だった。 重大な有害事象は特に見られなかった。 解析の結果、補正前解析では、プラセボ群と比較して併用群だけが、7日以内の入院率が低いように思えた(相対リスク:0.65、95%信頼区間0.45~0.95、P=0.02)。しかし、多重比較解析後には、この結果は意味をなさなくなっていた(P=0.07)が、研究グループは、「併用療法を行うことで、入院を有意に減らす可能性がある」と結論している。■「デキサメタゾン」関連記事術前デキサメタゾン追加で術後24時間の嘔吐が低減/BMJ

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豚インフルについて、研修医の皆さんへ -神戸大学 岩田健太郎先生より

神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生より、今回の豚インフルエンザに関して、ご自身が2001年の炭疽菌騒ぎの際にNYで2004年には北京でSARSに関わった医者として研修医の皆さんに流された提案を先生のご好意により掲載させていただきました。 豚インフルについて、研修医の皆さんへ まず、毎日の診療を大切にしてください。呼吸器症状の有無を確認し、ないときに安易に「上気道炎」と診断せず、旅行歴、シックコンタクト、動物暴露歴など問診を充分に聴取してください。患者さんが言わない、ということはその事実がない、という意味ではありません。せきをしていますか?と聞かなければ、せきをしているとは言わないかも知れません。原因不明の発熱であれば、必ず血液培養を検討してください。バイタルサインを大切にしてください。バイタルサインの重要度は重要な順番に、血圧、脈拍、呼吸数、(第五のバイタル)酸素飽和度、そして、体温です。極端な低体温などはまずいですが、発熱患者で大切なのは体温「以外」のバイタルサインと意識状態であることは認識してください。発症のオンセット、潜伏期など、時間の感覚には鋭敏になってください。要するに、ブタインフルエンザ診療のポイントは普段の診療の延長線上にしかありません。ほとんど特別なものはないことを理解してください。上記の診療は診療所、大学病院、どこのセッティングでも可能です。大抵の感染症診療は、大抵のセッティングで可能なのです。 自分の身を護ってください。とくに初診患者では外科用マスクの着用をお奨めします。患者の診察前とあとで、ちゃんと手を洗っていますか。呼吸器検体を採取するなら採痰ブースが理想的ですが、理想的な環境がないからといって嘆く必要は少しもありません。「うちには○○がない」と何百万遍となえても嘆いても、物事は一つも前に進みません。「うちには○○がないので、代わりに何が出来るだろう」と考えてください。考えても思いつかなかったら、そこで思考停止に陥るのではなく、分かっていそうな上の先生に相談してください。いつだって相談することは大切なのです。診察室で痰を採取するなら、部屋の外に出て患者さんだけにしてあげるのもいいかもしれません。日常診療でも、とくに女性の患者は人前で痰なんて出せないものです。呼吸器検体を扱うとき、気管内挿管時などはゴーグル、マスク(できればN95)、ガウン、手袋が必要です。採血時やラインを取るときも手袋をしたほうがよいでしょう。こういうことは豚インフルに関わらず、ほとんどすべての患者さんに通用する策に過ぎません。繰り返しますが、日常診療をまっとうにやることが最強の豚インフル対策です。 あなたが不安に思っているときは、それ以上に周りはもっと不安かも知れません。自分の不安は5秒間だけ棚上げにして、まずは周りの不安に対応してあげてください。豚インフルのリスクは、少なくとも僕たちが今知っている限り、かつて遭遇した感染症のリスクをむちゃくちゃに逸脱しているわけではありません。北京にいたときは、在住日本人がSARSのリスクにおののいてパニックに陥りましたが、実際にはそれよりもはるかに死亡者の多かった交通事故には全く無頓着でした。ぼくたちはリスクをまっとうに見つめる訓練を受けておらず、しばしばリスクを歪めて捕らえてしまいます。普段の診療をちゃんとやっているのなら、豚インフルのリスクに不安を感じるのはいいとしても、パニックになる必要はありません。 今分かっていることでベストを尽くしてください。分からないことはたくさんあります。なぜメキシコ?なぜメキシコでは死亡率が高いの?これからパンデミックになるの?分かりません。今、世界のどの専門家に訊いても分かりません。時間と気分に余裕のあるときにはこのような疑問に思考をめぐらせるのも楽しい知的遊戯ですが、現場でどがちゃかしているときは、時間の無駄以外の何者でもありません。知者と愚者を分けるのは、知識の多寡ではなく、自分が知らないこと、現時点ではわかり得ないこととそうでないものを峻別できるか否かにかかっています。そして、分からないことには素直に「分かりません」というのが誠実でまっとうな回答なのです。 情報は一所懸命収集してください。でも、情報には「中腰」で対峙しましょう。炭疽菌事件では、米国CDCが「過去のデータ」を参照して郵便局員に封をした郵便物から炭疽感染はない。いつもどおり仕事をしなさい」と言いました。それは間違いで、郵便局員の患者・死者がでてしまいました。未曾有の出来事では、過去のデータは参考になりますが、すがりつくほどの価値はありません。「最新の」情報の多くはガセネタです。ガセネタだったことにむかつくのではなく、こういうときはガセネタが出やすいものである、と腹をくくってしまうのが一番です。他者を変えるのと、自分が変わるのでは、後者が圧倒的にらくちんです。 自らの不安を否定する必要はありません。臆病なこともOKです。ぼくが北京で発熱患者を診療するとき、本当はこわくてこわくて嫌で嫌で仕方がありませんでした。危険に対してなんのためらいもなく飛び込んでいくのは、ノミが人を咬みに行くような蛮行で、それを「勇気」とは呼びません。勇気とは恐怖を認識しつつ、その恐怖に震えおののきながら、それでも歯を食いしばってリスクと対峙する態度を言います。従って勇気とは臆病者特有の属性で、リスクフリーの強者は、定義からして勇気を持ち得ません。 チームを大切にしてください。チーム医療とは、ただ集団で仕事をすることではありません。今の自分がチームの中でどのような立ち位置にあるのか考えてみてください。自分がチームに何が出来るか、考えてください。考えて分からなければ、チームリーダーに訊くのが大切です。自分が自分が、ではなく、チームのために自分がどこまで役に立てるか考えてください。タミフルをだれにどのくらい処方するかは、その施設でちゃんと決めておきましょう。「俺だけに適用されるルール」を作らないことがチーム医療では大切です。我を抑えて、チームのためにこころを尽くせば、チームのみんなもあなたのためにこころを尽くしてくれます。あなたに求められているのは、不眠不休でぶっ倒れるまで働き続ける勇者になることではなく、適度に休養を取って「ぶったおれない」ことなのです。それをチームは望んでいるのです。 ぼくは、大切な研修医の皆さんが安全に確実に着実に、この問題を乗り越えてくれることを、こころから祈っています。 2009年4月28日 神戸大学感染症内科 岩田健太郎 

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【医師限定記事】4割の医師が臨床研修制度の見直しに反対!

医師限定コミュニティ「Dr'sVoice」にて行ったアンケート「臨床研修制度の見直しは医療崩壊を救えるか?」の結果によると、約4割の医師が今回の臨床研修制度の見直しに反対していることがわかった。投票は2009/03/05から2009/04/05まで行われ、846名の医師の方が回答。その結果、「賛成」14%、「一部賛成」35%、「反対」43%、「わからない・その他」8%だった。医療崩壊は解決しない、研修の本来の意味から逆行する、あるいは医局の復権を期待する、など、様々なコメントをいただいている。また、同時期に開催したアンケート「医師偏在を解決するには医師を計画的に配置すべきか?」では、45%の医師が反対という結果が出ている。「賛成」が17%、「条件付き賛成」35%だが、ここでも医療崩壊の解決策につながらないとのコメントが寄せられている。詳細は下記の結果画面をご覧いただきたいと思います。 ●「臨床研修制度の見直しは医療崩壊を救えるか?」結果画面はこちらhttp://www.carenet.com/click/voice/result.php?eid=8 ●「医師偏在を解決するには医師を計画的に配置すべきか?」結果画面はこちらhttp://www.carenet.com/click/voice/result.php?eid=15

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すい臓がん患者と家族のための啓発イベントを開催

すい臓がん患者・家族のサポートグループNPO法人パンキャンジャパンと、がん患者主体のがん医療の普及啓発を目指すNPO法人キャンサーネットジャパンは2009年3月より、日本を縦断する、すい臓がん患者・家族のための「すい臓がん啓発キャンペーンキャラバン」を開始する。このキャンペーンには、日本イーライリリー株式会社が支援・協力する。3月14日に広島、その後は東京、神戸で順次開催される予定。講演者は、それぞれの地域ですい臓がん治療に関るオピニオン・リーダーに依頼し、イベント運営は、NPO法人パンキャンジャパン、NPO法人キャンサーネットジャパンに加え、地元がん患者会で運営にあたるという。主要ながんのなかで最も5年生存率の向上が望まれているのが、すい臓がんであり、高リスクグループの同定とモニタリング、早期発見、早期治療、全身化学療法の開発・進歩、さらに疫学的予防法の周知徹底がすい臓がんにおいては重要な意味をもつ。詳細はこちらhttp://www.lilly.co.jp/CACHE/news_2009_02.cfm

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WHO予算配分は感染症に偏りすぎ:バマコ2008会議に向けて

WHOの予算配分は感染症に極端に偏っており、世界的な疾病負担にも不均衡が見られるため、その是正に向けた検討が必要であることが、WHOの一般公開データの解析で明らかとなった。2008年11月、各国の保健相、支援機関、慈善活動家、国際機関らがマリ共和国の首都バマコに参集し、以前の協議で設定されたWHOの通常予算あるいは特別予算の医療優先事項の再評価を行うという。そこで、イギリス・Oxford大学社会学科のDavid Stuckler氏らは、WHOの予算枠内で以前の決定事項の優先順位をどのように改善できるかを検討した。Lancet誌2008年11月1日号掲載の報告。WHOの予算配分と疾病負担の関連を、西太平洋地域とアフリカで比較研究グループは、1994~1995年度から2008~2009年度のWHOの予算配分(2年ごと)と疾病負担の比較を行った。疾病負担は、死亡および障害で調整した生存年と定義した。一般に公開されているWHOの情報源からデータを集め、WHOの予算配分が疾病負担によってどのように変化するかを、西太平洋地域とアフリカ(いずれも疫学的な移行期あるがそのステージが異なる2つのWHO加盟地域)を比較することで評価した。さらに、配分が資金源(分担金、任意拠出金)によって異なるか、また資金をいかに拠出するかの決定メカニズムについても検討した。全予算の87%が感染症に拠出WHOの予算配分は感染症に極端に偏っていることがわかった。2006~2007年度には、全予算の87%が感染症に拠出され、非伝染性疾患には12%、傷害や暴力に使用されたのは1%未満であった。死因の約3/4が感染症であるアフリカと、同じく約3/4が非伝染性疾患である西太平洋地域で、資金の配分がほぼ同様であった。両地域とも、傷害への資金拠出は1%にすぎなかった。感染症への偏りは、通常予算よりも特別予算で実質的に大きかった。通常予算が加盟国により民主的な手続きを経て決定されるのに対し、特別予算は支援者によって拠出され、近年著しく増大している。著者は、「バマコ2008会議では、世界的な保健研究においては、全体的な医療優先事項や疾病負担が不均衡にある現状の意味を考慮すべきある。外部支援による資金とWHO加盟国による資金とは実質的に異なるものである」と結論し、「バマコ会議は、この格差にいかに取り組むことが可能かを考える機会を提供する」としている。(菅野守:医学ライター)

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がん患者さんの思い 浮き彫りに

 千葉市にて、千葉県がん患者大集合2008が開催された。「千葉のがん医療を考える」と題し、アンサーパッドを用いた会場参加型のシンポジウムも行われた。現在あるいは過去に受けたがん診療に対するがん患者さんの思いが明らかにされるとともに医療者との意識差が垣間見られている。「がん診療に満足」3割 まず、がん診療に対する安心度合いについて、がん患者とその家族267名に回答を求めた。その結果、「がん医療に満足している」は87名で33%。対象者の3割は満足していると答えたが、逆に7割は満足と答えなかった。 インフォームドコンセントの理解については、「医師の説明が良く理解できないことがあった」は117名と対象者の44% 半数弱が理解できないことがあったと回答した。 よく理解できなかった理由を、上記117名にたずねたところ、「医療用語が難しくて理解できなかった」が75名で70%「説明の時間が短くて理解できなかった」は93名で90%弱「精神的に余裕がなくて理解できなかった」は71名で70%弱医療用語が難解であることも背景にあるが、それ以上に説明時間の短さが理解の障害要因として印象に残っているようである。インフォームドコンセントの受け止め方について、患者さんと家族267名に尋ねたところ、「副作用や合併症、後遺症の説明で不安になった」は144名で70%弱。 しかし、「ごく稀にしか起こらない副作用、合併症、後遺症の説明も説明すべき」は199名と91%にのぼった。 不安ではあるが細かなことも話して欲しいのが患者さん、家族の心理であるようだ。「十分な心のケアを受けていた」2割 心のケアについてがん患者さんと家族に尋ねた。その結果、「十分に心のケアのサポートを受けていた」と答えたのは47名で18%。対象者の8割以上は十分な心のケアを受けていたとは回答しなかった。 また、がん相談窓口について尋ねたところ、「がんの相談窓口があることを知っていた」は93名29% 「相談窓口について担当医から説明を受けたことがある」は23名で9% 3割が相談窓口を知っていたが、ほとんどは担当医からの説明を受けていないことがわかった。 その他、「院内にがん体験者が相談にのる場があれば利用したい」、「同じような立場の人と話してみたいと思うことがある」、「院内に患者同士が交流する場があれば参加したい」は患者さん家族の70%以上であり、患者同士の相談交流への要求の高さが伺える。医療者と患者の相互信頼 引き続き行われた、がん経験者の講演では次のように述べられた。 病気そのものへの不安はなくせないが、診断治療を受ける際の不安は少なくできる。意味がわからない事からくる不安は大きいが、正体がわかってしまえば不安は軽減する。そういう意味でも医師の説明は重要である。 また、悪い知らせを聞くときは、医師の説明に気持ちがついて行かないことが多い。信頼できる人に付き添ってもらいメモを取ってもらうなどの工夫が必要。医師と患者の情報量の違いは明らかであり医療者には病気だけではなく、病気を持つ人を診て欲しい。しかし、患者もお任せにせず自分の病気を知ることが必要。そのようにして、医療者と患者の相互の信頼関係を築いてゆくべきである。 そして、乳がん体験者である耳鼻咽喉科医師小倉恒子氏が自身の体験を説明。今は副作用対策も進化し、自分自身は化学療法を受けていても社会生活に問題はない状態。医師は、重症であっても最期までがん患者を救って欲しいと述べた。

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米国における流行性耳下腺炎の再燃で予防接種改善の必要性

米国では1990年以降、学童に対する流行性耳下腺炎(おたふく風邪)ワクチンの2回接種が広範に行われるようになってから、その流行発生は歴史的な低さが続いていたが、2006年に米国内としては過去20年間で最大の流行が発生した。そこで米国疾病管理予防センター(CDC)が全国調査を実施した。NEJM誌2008年4月10日号より。2006年に発症した6,584例と予防接種率データを調査米国は2010年までに流行性耳下腺炎を根絶するという目標を掲げたが、2006年に計6,584例の発生が報告されたことから、同年の耳下腺炎症例に関する全国データに加えて、最も患者が多かった州からの詳細な症例データ、および3つの全国調査に基づく予防接種率データを検証した。最多発の中西部8州で予防接種による免疫付与に失敗か全症例の76%が3~5月に発症し、85例が入院したが、死亡は報告されなかった。また全体の85%は、中西部の隣接する8州に居住していた。耳下腺炎の全国的発病率は、人口10万人当たり2.2人で、18~24歳の年齢層が最も発症率が高く、他の全年齢層を合計した発症率の3.7倍に達していた。これらの患者の83%は当時、大学に在籍していた。最も流行した8州の予防接種状況では、住民全体の63%と、18~24歳の84%が、流行性耳下腺炎ワクチンの2回接種を受けたことが確認された。大流行に先立つ12年間、未就学児童に対する耳下腺炎の第1回予防接種率は、全国で89%以上、最も流行した8州では86%以上だった。2006年における、若年者に対する第2回接種は、米国史上最高の87%だった。しかし、流行性耳下腺炎を含むワクチン2回接種が高率であるにもかかわらず、耳下腺炎の大流行が起こったのは、おそらく学童期に予防接種を受けた中西部の大学生と同年代の若者たちに、ワクチン2回接種でも免疫が成立しなかったことを意味する。このためCDCは「将来の流行性耳下腺炎発生を回避し、耳下腺炎の根絶を成し遂げるには、より効果的なワクチンか、予防接種方針の変更が必要になるだろう」と報告をまとめ警告を発している。(武藤まき:医療ライター)

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