サイト内検索

検索結果 合計:415件 表示位置:1 - 20

1.

PPIやNSAIDsの併用、ICIの有効性に影響せず

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの一般的な併用薬が治療効果に影響するとの報告があるが、その因果関係には議論がある。米国・ミシガン大学のDaria Brinzevich氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)の全国データベースを用い、非小細胞肺がん(NSCLC)患者における一般的併用薬とICI治療成績の関連を検証した。Cancer誌オンライン版2025年12月15日号掲載の報告。 2005~23年に治療を受けたStageIVのNSCLC患者のうち、1次または2次治療でICI(n=3,739)または化学療法(n=6,585)を受けた患者を対象とした。20種類の薬剤クラス(PPI、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、抗菌薬、スタチン、β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、NSAIDs、オピオイド、ステロイド、抗凝固薬など)について「治療開始前3ヵ月内の処方」を併用と定義した。主要評価項目は全生存期間(OS)とTTNT(次治療開始までの期間)と併用薬の関連で、傾向スコアに基づく重み付けを用いたCox比例ハザードモデルで解析した。ICI群で名目上有意(p<0.05)な関連が認められた薬剤については、化学療法群でも同様の解析を行い、非特異的な影響を検証した。 主な結果は以下のとおり。・ICI群は男性が97%、60~79歳が81%、ICI+化学療法併用が45%、1次治療が71%だった。対照群(化学療法群)は多くの背景因子でICI群と類似していたが、59歳以下が24%(ICI群9.4%)と若年者が多く、併存疾患もやや少なかった。・ICI群において、20の薬剤クラスの中で15はOSと、14はTTNTと有意な関連を示さなかった。一方で、ループ利尿薬、抗凝固薬、オピオイド、ペニシリン系およびフルオロキノロン系抗菌薬はOS不良と関連した。しかし、これらの関連は化学療法群でも同様に認められ、ICIの特異的な影響ではないことが示唆された。これらの薬剤はICI群においてTTNTの悪化とも関連したが、化学療法群でも同様の関連性が観察された。・抗菌薬(1点)、PPI(1点)、ステロイド(2点)から構成される「immunomodulatory drug score」もICI群でOSおよびTTNT不良と関連したが、化学療法群でも同様の関連が認められた。すなわち、同スコアはICI効果修飾因子ではなく、一般的な予後指標である可能性が高いと考えられた。 著者らは、「本研究では、一般的に処方される併用薬がStageIV NSCLCにおけるICIの有効性を変化させることは認められなかった。従来報告されてきた併用薬とICI効果の関連の多くは、疾患重症度や基礎疾患など、未測定の交絡因子による可能性が高い。ICI治療中であっても、併存疾患の治療を過度に制限する必要はない可能性が示唆される」としている。

2.

がん関連症状:がん疼痛(脊柱管内浸潤によるしびれと痛み)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第7回

今回はがん疼痛についてです。がん診療において、疼痛は日常診療で頻繁に遭遇する症状の1つです。初診の段階ですでに約半数のがん患者が疼痛を自覚しており、治療中では55%、進行がんでは66%が疼痛を有していると報告されています。そのため紹介元であるかかりつけ医を受診した際に疼痛について相談するというケースもあると思いますが、それらの中には迅速な対応を要する緊急性の高い症例も含まれます。とくに、疼痛に神経症状を伴う場合には鎮痛薬の調整のみでは不十分であり、病勢の進行を念頭に置いた迅速な判断と専門医との連携が求められます。今回は、脊柱管内浸潤によるがん疼痛を例に、患者さんがかかりつけ医を受診した際に押さえておきたい判断のポイントと初期対応について解説します。【症例1】53歳、男性主訴背部痛、両側大腿のしびれ病歴進行大腸がん(StageIV)に対する緩和的化学療法を実施中。1ヵ月前のCTで腰椎(L2、L3)への骨転移を指摘されていた。今朝起床時より背部の疼痛が増悪し、両側大腿のしびれが出現。歩行は可能ではあるが右下肢の動かしにくさを自覚したため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見意識清明、血圧138/86mmHg、発熱なし、背部痛Numeric Rating Scale(NRS10/10)、両側大腿外側および前面に感覚障害あり、右下肢不全麻痺あり。ステップ1 この症例をどうアセスメントするか本症例はすでに腰椎(L2、L3)への骨転移が指摘されている患者さんで、起床時からの背部痛の急激な増悪に加え、両側大腿のしびれと右下肢の動かしにくさが出現しています。がん患者の疼痛は頻度が高く、外来で鎮痛薬の調整を行う場面も少なくありませんが、疼痛に神経症状を伴う場合には、単なるがん疼痛の増悪として対応することは危険と言えます。とくに、本症例のように感覚障害と運動障害が短時間のうちに出現している点は重要で、脊柱管内への腫瘍浸潤による神経圧迫が進行している可能性が強く示唆され、いわゆる「オンコロジックエマージェンシー」に該当する状況と判断できます。このような脊柱管内浸潤の症例では、治療開始時に歩行可能であるかどうかが重要な予後因子とされています。歩行可能な状態で治療を開始した場合の治療後歩行可能率は良好(治療前自立歩行可能例:93.8%、治療前支持歩行可能例:62.8%)である一方、歩行不能となってから治療を開始した場合の治療後歩行可能率は不良(不全運動麻痺例:38.0%、完全運動麻痺例:12.5%)です。症状出現から48時間以内は神経機能の回復や進行抑制が期待できる「ゴールデンタイム」とされており、この期間内に適切な治療介入が行われるかどうかが、その後の機能予後を大きく左右します。したがって、疼痛コントロールを優先するよりも、まず病勢の評価と迅速な対応が求められます。なお、「まだ歩行可能である」「排尿障害がない」といった情報から経過観察を選択してしまいがちですが、脊髄圧迫ではこれらの症状が出現した時点ですでに病勢が進行していることも多くあります。歩行可能であることや排尿障害の有無は緊急性を否定する根拠にはなりません。脊柱管内浸潤を疑うポイント画像を拡大する上記のいずれか1つでも認められた場合は、オンコロジックエマージェンシーを疑い、迅速な対応を検討する必要があります。ステップ2 外来での対応と判断本症例のような状況に遭遇した際、かかりつけの先生方には外来で可能な範囲の疼痛コントロールだけでなく、症状の緊急性を患者さんおよびご家族と共有し、早期に病院へつなぐためのご判断・ご対応をお願いしたいです。当日中に脊椎MRIなどの画像評価が可能な医療機関への紹介が望ましいものの、地域や時間帯によってはただちに検査を行うことが難しい場合もあります。そのような場合であっても、「様子をみる」判断に戻るのではなく、救急外来受診を含めた形で病院側に相談いただくことが重要です。外来での対応としては、鎮痛薬の大幅な増量による経過観察は避け、まず必要最小限の鎮痛対応(非オピオイド鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬のレスキューなど)を行います。また、診療情報提供書には、神経症状の出現時期と部位、痛みやしびれの性質、症状の進行スピードを具体的に記載していただけると、病院側での評価や対応がより円滑になります。まとめがん患者の疼痛相談は日常診療でよく遭遇する一方、経過の中で急な変化を伴うことも少なくありません。疼痛に神経症状が加わった場合には、外来での対応に悩まれる場面も多いと思います。本稿で示したような所見がみられる場合、病院側と早期に情報を共有することで、より適切な評価や対応につなげることが可能になります。外来での気付きや違和感は診療の質を高めるうえで非常に重要です。かかりつけ医と病院がそれぞれの役割を生かしながら連携することで、がん患者にとってより安全で安心な診療が実現できると考えています。1)Isaac T, et al. Pain Res Manag. 2012;17:347-352.2)Snijders RAH, et al. Cancers(Basel). 2023;15:591.3)Loblaw DA, et al. J Clin Oncol. 2005;23:2028-2037.講師紹介

3.

ブータンでの経験【非専門医のための緩和ケアTips】第117回

ブータンでの経験緩和ケアは、さまざまな環境で取り組むことが求められます。今回は医療資源の限られた環境での緩和ケアについてのご質問です。緩和ケアに限らず、「資源の限られた中での医療」という話題について、私の経験と学びをお話しします。今日の質問離島で診療をしているのですが、島の限られた医療体制の中で緩和ケアを実践する大変さを感じます。私よりもさらに少ない医療資源の中で取り組まれている方もいることでしょう。先生はこのような環境で診療経験はありますか。あればぜひ教えてほしいです。私は普段、急性期病院に勤務しており、比較的医療資源の潤沢な環境にいます。ただ、年に数回、離島での緩和ケアアウトリーチ(医療者が地域に出向く支援)の手伝いに参加しています。また、2024年からは年に1度、ブータンでの医療支援活動に参加しています。2025年は私にとって2回目のブータン訪問でした。アジア各国から指導医チームが結成され、ブータンの現地で1週間のレクチャーやベッドサイドティーチングを行います。今回は、ブータンの在宅緩和ケアを通じて貴重な経験をしました。ブータンは国土の大半が山岳地帯です。今回、私が往診に同行したお宅は、病院から車で1時間以上かかる場所にありました。市街地を出発し、その後ずっと山道を走り、さらに未舗装路に入っていきます。途中に牛を何頭も見かけ、標高はどんどん高くなっていきます。「どこまで行くのだろう」「夜間や天気が悪いときに往診が必要になっても、この立地では行けないな…」などと考えていると、やっと到着しました。訪問先のお宅が、山の頂上のようなところに、ポツンと立っていました。患者さんは末期の大腸がん、すでに会話が難しい状況で発語がやっとの状態でした。現地の訪問看護師から、「嘔気があるが、もともと内服していたモルヒネをどのように調整すべきか?」と質問されました。皆さんだったらどう答えるでしょうか? もちろん、PCA(自己調節鎮痛)ポンプなんてありません。このような環境で診療をした経験はありませんでしたが、この環境でのベストを考える必要があります。数日内に内服が難しくなりそうだったので、モルヒネの投与経路を皮下注射に切り替えるように提案しました。内服が困難になり、症状が強くなっても、医療者がすぐに駆けつけることができないことが理由です。その後も、日本の診療環境と大きく異なる光景を目の当たりにしました。モルヒネの投与量を計算して訪問看護師に伝えると、持参したモルヒネ注射薬をシリンジに引き、家族に皮下注射の指導を始めたのです。日本で医療用麻薬を家族が注射することはまずありません。再度現地の訪問看護師から、「こうした場合、日本ではどのように対応するのか?」と質問がありました。私は「日本では、在宅用の持続投与が可能なデバイスがあり、それを使っているケースが多い。家族が注射をすることはほぼなく、本人や家族が自分たちで注射するのは、在宅医療ではインスリンの自己注射製剤くらいです。でも、ブータンの環境を考えると、今皆さんがやっていることがベストプラクティスだと思いますし、緩和ケアを届けていることを尊敬しています」と英語でお伝えしました。ブータンでの国際支援活動を通じて、世界中で緩和ケアを必要としている患者さんがいること、そして緩和ケアを届けようと頑張っているスタッフがいることを実感しました。日本でもさまざまな地域で、それぞれの地域にあった形で緩和ケアを実践している仲間がいます。世界中で同じ思いの仲間が頑張っていることを忘れず、われわれもできることを少しずつ頑張っていきたいですね。今日のTips今日のTips今、この瞬間も世界のどこかで緩和ケアを届けている仲間がいることを忘れないようにしよう。

4.

IPFの慢性咳嗽、nalbuphine徐放剤が有望/JAMA

 特発性肺線維症(IPF)関連の慢性咳嗽患者に対する、κオピオイド受容体作動薬/μオピオイド受容体拮抗薬であるnalbuphine徐放剤(ER)の投与は、27mg、54mgおよび108mgの3つの用量すべてで、プラセボ群と比較し6週時の咳嗽頻度を有意に減少し、2つの高用量では患者報告による咳嗽頻度も有意に改善した。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのPhilip L. Molyneaux氏らが、10ヵ国52施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「CORAL試験」の結果を報告した。IPF患者では、咳嗽は生活の質を低下させるため、IPFに伴う咳嗽に対する有効な治療が求められている。JAMA誌オンライン版2026年1月22日号掲載の報告。nalbuphine ERの有効性を27mg、54mg、108mgの3用量でプラセボと比較 CORAL試験の対象は、IPFと診断され、スクリーニング前8週間以上続く慢性咳嗽を有し、咳嗽重症度数値評価尺度スコア(0:咳なし~10:最悪の咳嗽)が4以上、FVCが正常予測値の40%以上、一酸化炭素肺拡散能が正常予測値の25%以上、パルスオキシメーターによる酸素飽和度が92%以上の患者であった。 研究グループは、対象患者をnalbuphine ER 27mg群、54mg群、108mg群、またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日2回6週間経口投与した。 主要アウトカムは、6週時における24時間咳嗽頻度のベースラインからの変化率(デジタル咳モニターで測定)。重要な副次アウトカムは、6週時の患者報告による咳嗽頻度(IPF呼吸器症状評価の咳サブスケールスコア[範囲:0~4、低スコアほど咳嗽頻度が少ないことを示す])のベースラインからの変化であった。 2024年2月~2025年2月に、223例がスクリーニングされ、165例が無作為化された(nalbuphine ER 27mg群42例、54mg群43例、108mg群40例、プラセボ群40例)。最終追跡調査は2025年4月に行われた。6週時の咳嗽頻度の減少率は3用量群それぞれ47.9%、53.4%、60.2%、プラセボ群16.9% 無作為化された165例のうち、ベースラインの咳嗽頻度の測定値がない5例を除く160例が、主要解析に組み入れられた。患者背景は年齢中央値71歳(範囲:51~85)、女性が28.5%で、ベースラインの咳嗽頻度(平均値±SD)は28.3±27.4回/時であった。 6週時の24時間咳嗽頻度のベースラインからの変化率は、nalbuphine ER 27mg群-47.9%(24.6回/時から11.9回/時)、54mg群-53.4%(28.0回/時から14.9回/時)、108mg群-60.2%(31.5回/時から11.9回/時)、およびプラセボ群-16.9%(29.4回/時から28.1回/時)であり、プラセボ群と比較してnalbuphine ERの3用量群ともに有意に減少した(27mg群はp=0.008、54mg群および108mg群はいずれもp<0.001、対プラセボ群)。 重要な副次アウトカムである6週時の患者報告による咳嗽頻度の変化率(絶対変化)は、3用量群がそれぞれ-31.4%(2.3から1.5、対プラセボ群のp=0.14)、-40.6%(2.6から1.4、p=0.004)、-40.2%(2.4から1.4、p=0.005)、プラセボ群が-21.9%(2.6から1.9)であった。

5.

重度の慢性便秘に対する手術は「最終手段」

 米国消化器病学会(AGA)が発表した新しいガイドラインにおいて、重度の慢性便秘患者に対する外科的手術は最終手段とすべきことが明示された。治療に反応しない難治性便秘の患者に対しては、結腸の一部または全てを切除する結腸切除術を検討することがある。しかし、ガイドラインの著者らは、結腸切除術は重大な健康リスクを伴い、必ずしも症状の改善につながるわけではないとしている。米マサチューセッツ総合病院(ボストン)消化器運動研究室ディレクターのKyle Staller氏らがまとめたこのガイドラインは、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に1月7日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘に何年も苦しんできた人にとって、手術は永続的な解決策に聞こえることがある。特に、多くの薬が効かなかった場合にはなおさらだ」と話す。同氏はさらに、「検査で、結腸の動きが極端に遅く、他の治療で何も効果が得られない場合に手術が検討されることがある。しかし、手術はほとんどの患者には適しておらず、事実上リスクを伴い、手術後も腹部膨満感、腹痛、排便コントロール困難などの症状が続く人もいる」と述べている。 米国では約8~12%の人が慢性便秘に苦しんでいると推定されている。Staller氏は、「多くの人は、生涯のどこかの時点で便秘を経験するが、食事の見直し、食物繊維や水分の摂取、市販の下剤の使用といった簡単な対策で改善する。難治性便秘はそれとは別物であり、時間をかけて処方薬やバイオフィードバック、骨盤底筋療法を試しても改善しない状態を指す」と説明している。一方、結腸切除術は、腸閉塞、持続性の腹痛、腹部膨満感、便秘の再発、下剤への継続的依存など、高い合併症率と関連しているという。 新ガイドラインでは、手術を検討する前に踏むべき複数のステップが示されている。例えば、まずは慢性便秘の原因から薬剤の副作用、神経疾患、精神的問題を除外すべきことが述べられている。オピオイド系鎮痛薬や抗精神病薬、鉄剤は便秘を引き起こすことが知られている。また、膀胱疾患、アレルギー、気分障害の治療に使われる抗コリン薬も、腸の不随意運動に関与する神経伝達物質の働きを阻害するため、便秘と関連している。さらに、パーキンソン病や多発性硬化症といった神経疾患、摂食障害や抑うつ・不安などの精神的な問題も便秘リスクに影響する。 精神的な問題が便秘に関与することもあるため、術前の心理評価も意思決定プロセスの重要な一部として推奨されている。また、米食品医薬品局(FDA)の承認薬や市販薬に加え、便秘への有効性が示されている適応外使用薬も全て試すべきだとされている。さらに、大腸通過時間検査や排便造影検査など、結腸機能に加えて腸管全体の活動を評価する検査の実施を推奨している。その上で、最終手段として、一時的人工肛門(ストーマ)の使用を推奨している。これは可逆的で、恒久的な結腸切除が有益かどうかを判断する材料になる。 以上のように、ガイドラインは、手術には慎重な個別判断が必要であることを強調している。Staller氏は、「最良の結果は、十分な準備と共有された意思決定から生まれる。手術が本当に必要な場合でも、現実的な期待を持ち、消化器内科医、外科医、精神医療専門家が連携することで最善の結果が得られる」と述べている。 Staller氏は、慢性便秘のリスクを下げるためにできることとして、1)便秘を悪化させる薬剤について、定期的に医師と見直すこと、2)食事を極端に制限するのではなく規則正しく摂取すること、3)腸の運動を促すために身体的に活発に過ごすこと、4)便意のあるときは我慢せずに排泄すること、5)症状が続く場合は自己判断で治療を強化せず、医療機関を受診すること、を挙げている。また、正常な排便習慣には個人差があり、毎日排便する必要はないことも付け加えている。さらに同氏は、「何より重要なのは、便秘はしばしば長期的な管理を要する慢性疾患であると理解することだ。それがフラストレーションを防ぎ、症状が重症化・難治化するリスクを減らすことにつながる」と述べている。

6.

急性筋骨格系損傷の小児、イブプロフェン単独療法vs.併用療法/JAMA

 非観血的急性筋骨格系損傷の小児(6~17歳)において、薬剤投与60分後の疼痛スコアは、イブプロフェン+アセトアミノフェン併用投与またはイブプロフェン+ヒドロモルフォン併用投与を行っても、イブプロフェン単独投与と比較して有意な改善は認められず、副作用の発現割合はヒドロモルフォン併用投与で約4倍高かった。カナダ・アルバータ大学のSamina Ali氏らが、カナダの3次医療施設6施設の小児救急部門で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Non-Steroidal or Opioid Analgesia Use for Children With Musculoskeletal Injuries:No OUCH試験」の結果を報告した。イブプロフェンは、筋骨格痛に対する第1選択薬であるが、小児の3例に2例がイブプロフェン単独では十分な疼痛緩和が得られず、中等度から重度の筋骨格痛に対する鎮痛薬の追加併用の有効性は不明であった。JAMA誌オンライン版2026年1月8日号掲載の報告。オピオイド併用の3群比較試験と、非オピオイド併用の2群比較の2試験を実施 No OUCH試験は、オピオイド試験と非オピオイド試験の2試験で構成され、保護者および患者がいずれに参加するかを決定できる治療選好を考慮した補完的試験デザインで実施された。 対象は6~17歳の小児で、発症後24時間以内の急性筋骨格系損傷(明らかな変形や神経血管障害を伴わない)を呈し、verbal numerical rating scale(vNRS)による疼痛スコアが10点満点中5点以上の患者とした。 研究グループは、適格患者を、オピオイド試験では(1)イブプロフェン+ヒドロモルフォン群、(2)イブプロフェン+アセトアミノフェン群、(3)イブプロフェン単独群のいずれかに、非オピオイド試験では(1)イブプロフェン+アセトアミノフェン群、または(2)イブプロフェン単独群のいずれかに無作為に割り付け、それぞれ単回経口投与した。 両試験とも、イブプロフェンは10mg/kg(最大600mg)、アセトアミノフェンは15mg/kg(最大1,000mg)、ヒドロモルフォンは0.05mg/kg(最大5mg)を投与した。 有効性の主要アウトカムは、投与後60分時点の自己申告によるvNRS疼痛スコア(スコア範囲:0[無痛]~10[最悪の痛み]、臨床的意義のある最小群間差:1.5[SD 2.7])、安全性の主要アウトカムは、治療関連有害事象の発現割合であった。平均疼痛スコアは3群間で有意差なし 2019年4月~2023年3月に8,098例がスクリーニングされ、適格患者699例が無作為化された(オピオイド試験249例[イブプロフェン+ヒドロモルフォン群110例、イブプロフェン+アセトアミノフェン群70例、イブプロフェン単独群69例]、非オピオイド試験450例[イブプロフェン+アセトアミノフェン群225例、イブプロフェン単独群225例])。2試験の患者の平均(SD)年齢は11.5(3.5)歳、47.4%が女性で、登録時の平均(SD)vNRSスコアは6.4(1.8)であった。 有効性の解析対象集団653例において、投与60分後の平均(SD)vNRSスコアはイブプロフェン+ヒドロモルフォン群4.8(2.6)、イブプロフェン+アセトアミノフェン群4.6(2.4)、イブプロフェン単独群4.6(2.3)であった(p=0.78)。 治療関連有害事象の発現割合は、イブプロフェン+ヒドロモルフォン群で28.2%と、イブプロフェン+アセトアミノフェン群6.1%、イブプロフェン単独群5.8%と比較して高かった。重篤な有害事象は報告されなかった。

7.

妊娠中のアセトアミノフェン、神経発達症と関連なし

 アセトアミノフェンは、妊娠中の解熱・鎮痛の第1選択薬であり、非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドより安全性が高いとされる一方で、近年自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症への影響が議論され、注目を集めた。そこで、イタリア・University of ChietiのFrancesco D'Antonio氏らは、妊娠中のアセトアミノフェン使用と児のASD、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害(ID)リスクの関連を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦のアセトアミノフェン使用とこれらの神経発達症のリスクとの間に関連はみられなかった。本研究結果は、The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health誌オンライン版2026年1月16日号に掲載された。 研究グループは、MEDLINE、Embase、ClinicalTrials.gov、Cochrane Libraryを用いて、2025年9月30日までに発表されたコホート研究を検索した。対象の研究は、妊娠中のアセトアミノフェン使用と小児アウトカム(ASD/ADHD/ID)を評価し、調整済み推定値が示されているものとした。本研究の主要解析では、きょうだい比較を用いた研究に限定して、妊娠中のアセトアミノフェン使用とASD、ADHD、IDの関連を評価した。また、バイアスリスクが低い研究や追跡期間が5年以上の研究についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには43件の文献が抽出され、そのうち17件がメタ解析の対象となった。・きょうだい間比較を用いた研究において、妊娠中のアセトアミノフェン使用は、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連がみられなかった。オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:0.98、0.93~1.03、p=0.45、I2=0% ADHD:0.95、0.86~1.05、p=0.31、I2=18% ID:0.93、0.69~1.24、p=0.63、I2=48%・バイアスリスクが低い研究のみに限定した解析でも、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連はみられなかった。OR、95%CI、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:1.03、0.86~1.23、p=0.78、I2=75% ADHD:0.97、0.89~1.05、p=0.49、I2=10% ID:1.11、0.92~1.34、p=0.28、I2=57%・調整済み推定値を報告したすべての研究を含めた解析や、5年以上の追跡期間を有する研究に限定した解析においても、一貫して関連はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「現在のエビデンスでは、用法・用量どおりにアセトアミノフェンを使用した妊婦の児において、ASD、ADHD、IDが臨床的に重要な程度で増加することは示されなかった。これらの知見は、妊娠中のアセトアミノフェンの安全な使用に関する現在の推奨を支持するものである」とまとめている。

8.

第295回 3次救急で停電が当たり前、ベネズエラの悲惨な医療実態

INDEX米国の攻撃で死者100人、ベネズエラの医療体制とは無償以前に医療が成り立っていない3次救急でも停電やCT稼働停止が日常茶飯事!米国の攻撃で死者100人、ベネズエラの医療体制とは「健康は基本的な社会的権利であり、生命権の一部として国家がこれを保障する責任を負う。すべての者は健康保護の権利を有する」「健康への権利を保障するため、国家は全国的な公衆衛生システムを創設・指導・管理し、社会保障制度と統合し、無償性、普遍性、完全性、公平性、社会的統合および連帯の原則に従って運営する」これはある国の憲法の条文である。もちろん日本ではないことくらいは多くの人が気付くだろうと思う。どこのものかといえば、新年早々、大統領が拘束された南米・ベネズエラの憲法第83条、第84条である。憲法という理念・概念を示す最高法規にここまで医療について明記している国は珍しいのではないだろうか?ベネズエラは1500年代からスペインの植民地となり、1800年代に独立。1900年代から昨今まで、政治上は典型的な左右両派闘争と複数回のクーデターを経験してきた。1999年からはクーデターを経て大統領に就任したウゴ・チャベス氏の下、反米・社会主義路線の独裁体制へと移行。2013年にチャベス氏が死去すると、その腹心で今回アメリカが麻薬密輸容疑などで拘束したニコラス・マドゥロ氏が後を継いだ。このチャベス政権以降のベネズエラは野党などの反対勢力や市民デモなどを徹底的に弾圧し、議会を機能不全にした。マドゥロ氏は過去3度の大統領選挙で当選しているが、いずれも不正の疑いが強く指摘されている。また、同国は原油の推定埋蔵量世界1位という極めて恵まれた環境にありながら、チャベス氏の大統領就任以降は極端な社会主義政策に基づき企業を国有化し、その乱脈経営により、国内では物不足とインフレが常態化している。この結果、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ベネズエラからの国外難民・避難民は2025年5月時点で790万人以上との推計値を公表している。これはベネズエラの総人口の約4分の1にあたる。無償以前に医療が成り立っていないさてそのベネズエラは、冒頭で紹介した憲法条文からもわかる通り、社会主義国家に典型的な教育と医療は「無償」である。公式には国民・在住者IDと呼ばれるカードを医療機関で提示すれば、無償で医療を受けられる建前だ。ちなみに国内の医療機関数は、2001年の同国保健省の公表(かなり古いデータだが)によると、病院が214カ所、診療所が4,605カ所である。これらの国公立と私立の区分に関する正確なデータはないが、国内医療機関の5~10%が私立であるとの報告もある。また、ベネズエラ医師連盟(同国の医師会に相当)によると、2024年時点での国内の医師数は約8万人。もっともこれはチャベス政権以降の政治的混乱で4万2,000人ほどの医師が国外に脱出した結果だという。ここから試算すると、ベネズエラの人口1,000人当たりの医師数は2.81人であり、経済協力開発機構(OECD)がHealth Statistics 20231)で公表している加盟国平均の3.7人よりは少ないものの、同統計で示された日本(2.6人)やアメリカ(2.7人)をわずかに上回る。ただ、このデータは各種報道と公式人口から単純計算したものであり、世界保健機関(WHO)が公表した2017年時点のデータでは1.66人となっている。公式に公表されるデータが乏しく信用性が低いのは独裁国家の常だが、後者を信用するならば、医療アクセスはかなり悲惨な状況にあると言える。そして前述のように物不足とインフレが常態化している以上、こうした医療機関が十分に機能しているはずもない。実際、現地で活動する医師や学生によるNGO「Medicos por la Salud」(Doctors for health)が公表している「Encuesta Nacional de Hospitales(全国病院調査)」2)を見ると、その惨憺たる状況が浮かび上がってくる。ベネズエラ国内の主要な公的40病院からデータを収集した同調査の2024年中間(1~7月)報告を参照してみる。3次救急でも停電やCT稼働停止が日常茶飯事!調査対象はベネズエラ保健省がタイプIII、あるいはタイプIVと分類する病院。前者は州レベルの人口をカバーし、病床数は一般的に150〜300床程度。後者は人口100万人以上の広域エリアをカバーする300床以上の病院だ。日本で例えるならば、大学附属病院や都道府県で病床数が多い基幹病院に相当する。調査によると対象病院の各サービスが常時稼働できている割合は、ICUが73%、小児ICUが75%、臨床検査室が43%、X線撮影装置が31%、CT・MRIが12%、超音波装置が21%である。ICUですら約3割が常時稼働できていない状態であり、検査関連は惨憺たる結果だ。というか、これら検査が稼働していない状況でICUが機能できるわけもないだろう。つまるところICUの常時稼働は取りあえずマンパワーの配置だけはできている、という程度ではないだろうか?報告書によると、検査関連機器が稼働していない主な要因は、故障した機器の修理・更新費用が国から支払われていないためとしている。もし病院のCTが稼働していない場合、患者はCTが稼働している民間医療機関で撮影を行わねばならず、その費用が約90ドルであると記述している。もはやこの段階で憲法が保障する無償医療が崩壊している。ベネズエラの公務員月給は、基本給に加えてインフレによる通貨暴落に対応するためのボーナスや食糧配給クーポンなどを合わせ、米ドル連動の「包括的最低収入」という仕組みで月額160ドルが支払われる。ちなみに公務員の基本給自体は月額4ドル程度にすぎない。ここから民間医療機関でのCT撮影費用を捻出することが患者にとってどれほど大きな負担かは容易に想像がつくだろう。さらに、入院患者に1日3回の食事を提供できている病院はわずか35%であり、さらに患者の医学的ニーズに合った食事を提供できているケースは19%にとどまる。小児科の入院機能を有する病院の48%では「粉ミルクがない」と回答している。病院を支える水と電力の供給も驚くほど不安定である。毎日問題なく給水が続いている割合は、ICUで28%、手術室で30%。断続的な供給と回答している病院のうち4~5割は水道ではなく病院の貯水タンクでしのいでいるという状態だ。調査対象病院の43%が停電を経験しており、週当たりの停電発生日数は「3日未満」が68%、「3~5日」が17%、「6~7日」が16%、平均停電時間は126分である。もしかしたら「約7割は問題ないじゃないか?」と思う人もいるかもしれないが、調査対象病院は、日本で言えば停電など年1回でもあってはならない3次救急病院クラスである。実際、調査対象病院からの回答では、停電の影響で患者が死亡した事例は129例もある。加えて、手術に必要な縫合糸、鎮痛薬、生理食塩水、医師の手術ガウンなどの物品提供を患者へ求めた経験のある病院は91%に達し、手術で別途料金支払いを求めた経験のある病院は54%に上る。求めた別途料金は「100~300ドル」が最多の43%、次いで「300ドル以上」が28%である。ここでも無償医療は有名無実化している。すべての社会主義国家がこうだと言うつもりは毛頭ないが、少なくとも原油に恵まれ、反米・社会主義を掲げる独裁国家・ベネズエラの医療の実態は、違憲だけではとどまらない、もはやホラーな状態である。(表)ベネズエラの憲法と起こっている現実問題画像を拡大するもっとも、紛争や安全保障も取材領域とする私個人の意見を言わせてもらえば、チャベス政権以降のベネズエラの独裁体制には従来からかなり批判的だが、一方で今回のアメリカによる軍事作戦は明確に国際法に反する主権侵害行為とも考えている。そのため今回の事態に対しては一言では言い表せないモヤモヤしたものを感じている。ただ、もはや時計の針を巻き戻すことはできないことを考えれば、こうしたベネズエラの医療が今後少しでも改善することを願ってやまない。 参考 1) OECD:Health at a Glance 2023 2) Mid Year Report 2024

9.

日本人末期がん患者のせん妄、その発生率と薬理学的介入の現状

 末期がん患者では、疼痛やせん妄の発生が少なくない。しかし、疼痛管理のために投与されるオピオイドは、患者のせん妄を悪化させる可能性がある。名古屋市立大学病院の長谷川 貴昭氏らは、がん性疼痛とせん妄を有する末期がん患者において、実際の症状経過とオピオイドおよび抗精神病薬を含む薬理学的介入との関連を調査するため、多施設共同プロスペクティブ観察研究の2次解析を実施した。Palliative Medicine Reports誌2025年10月24日号の報告。 対象は、日本のホスピスまたは緩和ケア病棟に入院している成人患者のうち、Palliative Performance Scale(PPS)が20点以下に低下した時点(1日目、死亡直前)で、がん性疼痛(Integrated Palliative care Outcome Scale[IPOS]の疼痛スコア2以上)およびせん妄を有していた患者。薬理学的治療戦略、疼痛レベル(IPOSに基づく)、せん妄症状(Memorial Delirium Assessment Scale[MDAS]の9項目に基づく)を測定した。 主な結果は以下のとおり。・1,896例のうち、PPSが20点以下に低下した1日目に適格性の評価を受けた患者は1,396例で、そのうちの137例が解析対象の包含基準を満たした。・興奮性せん妄(多動性または混合性)が認められた患者は86例(63%)で、生存期間中央値は3日であった。・薬理学的治療戦略については、オピオイドの開始/用量漸増が32例(23%)に、抗精神病薬の定期投与が94例(69%)に行われていた。・オピオイドの開始/用量漸増と抗精神病薬投与の両方が行われていた患者は25例(18%)であった。・患者全体の約55%は、2日目に持続性がん性疼痛(IPOSの疼痛スコア2以上)が認められた。・興奮性せん妄が認められた患者のうち、2日目にも興奮症状が継続した患者の割合は79%であった。 著者らは「専門的な緩和ケアにもかかわらず、人生最後の数日間に生じるがん性疼痛とせん妄の複合的な苦痛は、依然として複雑かつ難治性であることが明らかとなった」とまとめている。

10.

『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

11.

疼痛治療薬の副作用が心不全の誤診を招く?

 オピオイドに代わる鎮痛薬として使用されている薬剤のせいで、医師が心不全と誤診してしまう例が少なくないことが、新たな研究で示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のMichael Steinman氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月2日掲載された。 ガバペンチンやプレガバリンなどのガバペンチノイドと呼ばれる種類の薬剤は、神経痛の治療目的で処方されることが多い。しかし、これらの薬剤の副作用の一つに、下肢のむくみ(浮腫)の原因となる体液貯留がある。体液貯留は、心不全の症状としても広く知られている。そのため、この副作用が生じた患者の多くに、利尿薬のような本来は不要であるはずの薬剤が追加で処方され、その結果、腎障害やふらつき、転倒によるけがなどのリスク上昇につながっていることが、今回の研究から明らかになった。このように、ある薬の副作用が別の疾患に関わる症状と認識され、それに対してさらに薬が処方される現象は、処方カスケードと呼ばれる。 研究グループによると、オピオイド危機を背景に、ガバペンチノイドの処方はこの10年でほぼ倍増した。Steinman氏は、「ガバペンチノイドは非オピオイド系薬剤であり、比較的安全性が高いと考えられがちだ。しかし、ガバペンチノイドを使用している患者は、それがベストの治療法なのかどうかを評価するために、定期的に医師に相談し、非薬物療法を含めた、より適切な別の治療選択肢について検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 Steinman氏らは今回の研究で、ガバペンチノイドとループ利尿薬の処方カスケードを経験している可能性の高い66歳以上の退役軍人120人(平均年齢73.9歳)の医療記録を調べた。120人のうち、106人(88.3%)は、5種類以上の薬を長期にわたって使用していた。73人(60.8%)では、浮腫の原因が記録されていたが、心不全(39.2%)や静脈うっ血(13.3%)を原因とする例が多く、ガバペンチノイドを考慮した医師はわずか4人(3.3%)にとどまっていた。また、116人(96.7%)にループ利尿薬が処方されていたが、そのほとんどは、下肢浮腫(86.7%)、心不全(13.3%)、呼吸困難(12.5%)の治療を目的としていた。 ループ利尿薬による治療開始から60日以内に、28人(23.3%)の患者で、腎機能の低下や起立時のめまい、低ナトリウムや低カリウムなどの電解質異常、転倒などのループ利尿薬に関連した健康問題が37件発生した。入院あるいは救急外来での治療が必要となった患者も6人(5.0%)いた。 Steinman氏らによると、下肢に浮腫が現れてからガバペンチノイドの服用を中止するよう指示した医師は1人だけだったという。一方で、浮腫の原因となり得る命に関わる疾患を除外するため、患者の約5人に1人が画像検査を受けていたことも明らかになった。 論文の筆頭著者であるUCSF医学部のMatthew Growdon氏は、「ガバペンチノイドは必要以上に高用量が処方されたり、効果が期待できない状態に対して処方されたりしている可能性がある。そのようなケースでは、医師はこれらの薬を処方しないこと、あるいは用量を減らして処方カスケードやその他の副作用のリスクを軽減することを検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。

12.

危険なOTCが国内流通か、海外での規制や死亡例は

 現在、政府が『骨太の方針2025』で言及した「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方」についての議論が活発化している。この議論は今に始まったことではなく、OTC医薬品の自己判断による服用が医療アクセス機会の喪失を招き、受診抑制による重症化・救急搬送の増加といった長期的な医療問題に発展する可能性をはらんでいるため、30年以上前からくすぶり続けている問題である。 さらに、日本社会薬学会第43年会で報告された国内の疫学研究「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」からは、OTC類似薬の利用率増加が依存性成分の摂取促進に繋がりかねないことが明らかされた(参照:解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは)。つまり、OTC医薬品の使用促進が依存性成分摂取者の増加を招く恐れもあることから、今回、上述の研究の共同研究者で市販薬の情報基盤を構築する平 憲二氏(プラメドプラス/京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野)にOTC医薬品を取り巻く現状や世界的情勢などについて話を聞いた。OTC医薬品が拠り所、頭痛患者の実情 日本神経学会が問題視するOTC医薬品の不適正使用による「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)」増加の背景を踏まえて行われた上述の研究から、重症頭痛患者にとってOTC医薬品が心身の拠り所となっている実態が明らかにされた。同時に、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分とされる以下3成分のいずれかを対象患者の約9割が摂取していたことも示された。<3つの依存性成分>・アリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素、鎮静催眠成分)・ブロモバレリル尿素(ブ尿素、鎮静催眠成分)・カフェイン 平氏は「とくにア尿素は教科書に載っていない危険な成分で、一部の国では違法薬物とみなされる。2023年5月にオーストラリア薬品・医薬品行政局(TGA)がア尿素を全面規制1)し、日本からのイブの輸入規制をかけている。また、2025年4月には韓国でもア尿素が麻薬類成分リストに記載された。なお、米国では血小板減少性紫斑病の発症を契機に1939年にすでに規制がなされている状況2)」と説明した。それに対し日本の場合、「濫用等のおそれのある医薬品の取扱い」に対する規制を課しているものの、本リストに記載されているのは、依存性成分のうち「ブ尿素のみ」であるため、医療者にもア尿素のリスクが認知されていない点を同氏は指摘した3)。ア尿素配合製剤による国内死亡例 なお、日本では規制が弱く認知度の低いア尿素であるが、その配合製剤による中毒死例が2014年に報告されている4)。<剖検例>――――――――――――――年齢・性別:20代・女性自宅アパートのトイレで、死亡しているところを発見された。死者は、老人施設で介護ヘルパーとして働いていたが、約2ヵ月前に辞職し、単身で犬・猫とともに生活していた。また、片頭痛を有しており、市販の解熱鎮痛薬を常用していた。部屋から市販の解熱鎮痛薬(イブプロフェン+ア尿素+無水カフェインの合剤)約450錠分の空き箱・空きシートが発見された。いずれの成分も検出された。※長期にわたってア尿素配合製剤の服用を継続し、最終的にカフェイン中毒で亡くなった。――――――――――――――――――― 同氏は「ア尿素やブ尿素はモノウレイド系催眠鎮静薬に区分されるが、いずれも抗不安作用があるため、頭痛頻度の多い使用者においては連用しないよう慎重な対応が必要となる。飲んですぐに眠くなるわけではない*ため、“眠くなるのが薬のせいかわからない”と話す患者もいる」とコメントした。それならば、製品パッケージをチェックしてア尿素などの依存性成分の摂取回避に努めたい。しかし、同氏はイブA錠を例示しながら、「販売製品のパッケージ(裏)に小さい文字で“イブプロフェンの鎮痛作用を高める鎮静成分”として記載されているものの、添付文書にはア尿素が催眠鎮静薬である旨の明確な記載はなされておらず、“隠し成分“のような状況」であることを示し、「パッケージ(表)や添付文書での明記」や「臨床医や薬剤師によるア尿素・ブ尿素の認知と催眠鎮静成分であることの周知」により、MOHなどの薬剤性疾患の予防につなげる必要があることを強調した。*<参考:各成分の半減期>ア尿素14.28±5.81時間(参考値)、ブ尿素2.5時間(ただし臭素の半減期は12日)市販薬の最新情報をパッケージ写真付きでチェック このように、ア尿素やブ尿素、そしてカフェイン含有製剤が海外では時代遅れな製品として「不適切製品」として扱われる一方で、日本は「不適正使用」としての注意喚起にとどまる。そこで同氏はクスリ早見帖プロジェクトを始動し、現場で実用性を高められるよう市販薬情報を詰め込んだ『クスリ早見帖ブック 市販薬1000』などを制作している。これについて、「製品画像で確認してもらい、すぐに成分のわかる本がほしかった。診断精度の向上とカルテへの正しい記載を目指して制作している」と解説した。 本プロジェクトでは、OTC医薬品の製薬企業の協力のもと、年4回発行されるクスリ早見帖季刊誌やクスリ早見帖WEBの制作も行っており、将来的には医療用医薬品のデータを含めた医薬品に関する「痒い所に手が届く」医療現場向けの情報源を作ることを目指している。市販薬の名称や画像の一覧を「早見」することで、目的の市販薬を素早く見つけることが可能であるため、患者とのコミュニケーションを円滑にするために有用なツールである。 医療者が患者の服用する真のOTC医薬品を把握できるようこのツールを現場へ普及させたい同氏は、今後の研究課題として「ア尿素配合製剤由来の薬剤の使用過多による頭痛の推計患者数や薬剤疫学研究(リスクと予後)を推進していきたい。また、薬効薬理/薬物動態などのデータがないため追加研究が必要」と語った。 

13.

第37回 「これは偽薬です」と伝えても効く? 「正直なプラセボ」が切り開く医療の未来

「プラセボ(偽薬)」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか。おそらく多くの人が、新薬の臨床試験で使われる「効果のないニセモノの薬」といったイメージを持つでしょう。そして、「プラセボ効果」は、患者さんが「本物の薬だ」と信じ込むことで生じる、つまり、「騙すこと」がその効果の前提条件だと、長年考えられてきました。しかし、もし医師が患者さんに「これは砂糖玉で、薬としての成分は一切入っていません」と正直に伝えたうえで投与したら?この素朴でありながら常識破りの疑問に挑んだのが、米国・ハーバード大学医学部のTed J. Kaptchuk氏です。彼が15年前に行った研究は、医療界の常識を揺るがす驚くべき結果を示しました。なんと、偽薬だと知らされて飲んだ患者さんでさえ、症状の改善が見られたのです。この「正直なプラセボ(オープンラベル・プラセボ)」と呼ばれるアプローチは今、慢性的な痛みやうつ症状の治療において、従来の医療を補完する新たな可能性として、大きな注目を集めています1)。「秘密」は不要だった? 「正直なプラセボ」の衝撃Kaptchuk氏が2010年に発表した画期的な研究は、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんを対象に行われました。一方のグループには何も治療を行わず、もう一方のグループには「これはプラセボ(ただの砂糖玉)です」と正直に説明したうえで、偽薬を処方しました2)。常識的に考えれば、効果があるはずがありません。しかし結果は予想を裏切るものでした。偽薬だと知らされたうえで飲んだグループは、何も治療を受けなかったグループに比べて、IBSの症状が有意に改善したのです。この研究は、「プラセボ効果に『騙す』というプロセスは必ずしも必要ではない」という衝撃の事実を明らかにしました。もちろん、1つの研究だけで結論は出せません。しかし、この研究を皮切りに、世界中で「正直なプラセボ」の研究が進められました。ドイツ・フライブルク大学のStefan Schmidt氏らによる最新のメタ分析(複数の研究データを統合して分析する手法)では、60件の研究、4,500例以上のデータを分析した結果、「正直なプラセボ」の効果は確かにあり、とくに慢性的な痛み、うつ、不安、疲労感といった「患者さん自身が感じる症状(自己申告の症状)」で見られ、その効果は幻想ではないと結論付けられています3)。なぜ「偽薬」と知っても効くのか? 脳内の“薬局”と“儀式”では、なぜ「ニセモノ」だとわかっていても私たちの身体は反応するのでしょうか。その完全なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの有力な説が浮上しています。Kaptchuk氏は、この現象を「身体の中には“薬局”が備わっている」と比喩表現しています。つまり、プラセボは、脳内にもともと備わったエンドルフィンやカンナビノイドといった「脳内鎮痛物質」の放出を促すと考えられています。言い換えれば、プラセボはそれ自体が効くのではなく、自分自身の脳が持つ鎮痛システム(薬局)を作動させるスイッチの役割を果たしているのです。このスイッチを押すために、とくに重要だとKaptchuk氏が強調するのが、「思いやりのある医師と患者の関係性」です。単に砂糖玉を渡すのではなく、医師が患者さんの苦しみに耳を傾け、「この治療があなたの自然治癒力を助けるかもしれません」と丁寧に説明し、信頼関係の中で行われること自体が、治療的な効果を生むというのです。Schmidt氏はこれを「治癒の儀式」という言葉で説明しています。「薬を飲む」という行為自体が、強力な「儀式」だというわけです。たとえ中身が砂糖だと知っていても、専門家である医師から処方され、期待を込めて服用するという「儀式」そのものが、脳にポジティブな変化をもたらすのではないか、と考えられています。この仮説を裏付ける強力な証拠もあります。イタリアの神経科学者Fabrizio Benedetti氏の研究では、プラセボで鎮痛効果が得られた人に、オピオイド拮抗薬(モルヒネなどの鎮痛効果を打ち消す薬)であるナロキソンを注射すると、その鎮痛効果が消えてしまうことが示されました。これは、プラセボが、実際に脳内のオピオイドシステム(脳内の薬局)を働かせていたことを意味します。Benedetti氏は、この現象を「ホラー映画」に例えます4)。私たちは映画に出てくる怪物が作り物だと知っていても、恐怖を感じ、心拍数が上がります。それと同じように、たとえ偽薬だとわかっていても、私たちの脳と身体は、治療という文脈や儀式に対して、無意識に反応してしまうのです。期待と倫理的ジレンマ:本当に医療に使えるのか?プラセボの研究が進むにつれ、これを実際の臨床現場で使おうという動きも出てきています。たとえば、米国ではオピオイド(医療用麻薬)の依存症が深刻な社会問題となっていますが、慢性的な痛みに苦しむ患者さんへの新たな選択肢として期待されています。米国・ノースウェスタン病院の医師らは、脊柱側弯症の術後という強い痛みを伴う青少年の患者に対し、オピオイドとプラセボを併用することで、オピオイドの使用量を減らせないかという臨床試験を計画しています。副作用や依存リスクのない治療として、その応用に期待が集まります。しかし、この「正直なプラセボ」の臨床応用には、大きな倫理的ジレンマが伴います。最大の懸念は、Benedetti氏らが指摘するように、プラセボが「エセ医療」を正当化する口実として悪用されるリスクです。科学的根拠のない治療法を提供する人々が、「これはプラセボ効果だから安全で効果がある」と主張し始めるかもしれません。スイス・バーゼル大学のMelina Richard氏が行った倫理的なレビューでも、この懸念が最も大きな問題として挙げられています5)。さらに、治療において「ポジティブシンキング(前向きな思考)」が過大評価されることで、医学的に証明された有効な治療法を患者さんが避けてしまう危険性も指摘されています。また、Richard氏は、この分野の研究者がまだ特定のグループに限られており、エコーチェンバーに陥っているリスクも指摘しています。彼女は、より多様な視点からの議論が必要であり、「プラセボの臨床応用は時期尚早である」というのが、現時点での一般的な科学的コンセンサスだと述べています。この慎重論に対し、Kaptchuk氏は「インチキ療法師は自らの治療をプラセボとは言わない。彼らは『気』や『未知のエネルギー』が効くと言うのだ」と反論します(皮肉にも「正直なプラセボ」の効果は、エセ医療の効果すら裏づけているとも言えなくもありませんが)。そして、米国でオピオイド危機により何百万人もの人々が苦しんでいる現実を前に、「時期尚早だと言っている人々は、その苦しみを知らないのか? 決めるのは患者自身であるべきだ」と強く訴えています。「正直なプラセボ」の研究は、まだ始まったばかりです。しかし、その効果が本物であるならば、それは単に「偽薬が効いた」という話にとどまりません。医師と患者の信頼関係、治療という行為自体が持つ「意味」、そして私たち自身が持つ「治癒力」の重要性を、科学が改めて解き明かそうとしているのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Webster P. The mind-bending power of placebo. Nat Med. 2025;31:3575-3578. 2) Kaptchuk TJ, et al. Placebos without deception: a randomized controlled trial in irritable bowel syndrome. PLoS One. 2010;5:e15591. 3) Fendel JC, et al. Effects of open-label placebos across populations and outcomes: an updated systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Sci Rep. 2025;15:29940. 4) Benedetti F, et al. Placebos and Movies: What Do They Have in Common? Curr Dir Psychol Sci. 2021 Jun;30(3):202-210. 5) Richard M, et al. A systematic qualitative review of ethical issues in open label placebo in published research. Sci Rep. 2025;15:12268.

14.

お腹の張りも奥が深いのです【非専門医のための緩和ケアTips】第111回

お腹の張りも奥が深いのです「お腹の張り」を訴える患者さん、内科診療をしている方であればしばしば遭遇するでしょう。皆さんはこうしたケースにどのように対応していますか? ちょっと曖昧な訴えにも感じられ、ついつい便秘と決めがちではないでしょうか。今回の質問肝臓がんでお腹の張りを訴える患者さんがいます。毎日というわけではないですが排便はあるようで、腹水が原因かと思っています。ただ、そこまで緊満しているわけではなく、対応を悩んでいます。これは腹水が溜まっている患者さんなどでよく遭遇する状況かと思います。患者さんの訴えも曖昧で、詳しく聞いてみても「とにかくお腹が張ってつらいんです」といった訴えが続くこともよくあります。緩和ケアは高齢患者も多く、詳細な情報収集が難しいのはよくあることなので、診察や検査といった客観的な情報と総合して、アプローチを考えるのが基本です。こういった時、我々の思考プロセスとしてまず考えたいのは、「緊急性の高い疾患がないか」という点です。とくに消化管穿孔、絞扼性イレウスといったところは見逃したくないですね。私の経験上では、普段から腹痛を訴えることの多い患者さんだったものの、痛みがいつもより強いようであることに違和感を覚え、検査をしました。その結果、腫瘍破裂による、腹腔内出血でした。血液は腹膜への刺激となるため、腹痛の原因となります。その典型的な例が子宮外妊娠ですが、がん患者にも同じような機序の痛みが起こりえます。「いつもの腹痛」と片付けていれば、対応が遅れるところでした。さて、上記のような緊急性の高い疾患がないことが確認できた後は、便秘や腹水貯留といった頻度の高い病態や症状であるの可能性を念頭に置いて、排便コントロールと腹水に対する介入を複数試すことになるでしょう。腹水であれば減塩、輸液量の調整、利尿薬を追加し、それでもコントロールが難しい場合は腹腔穿刺をして排液を試みます。それでも改善が乏しければ、NSAIDsやステロイドなどで腹膜の炎症を軽減しつつ、オピオイドの使用も検討します。その経過中に便秘が生じないように、緩下薬なども調整します。いずれにしても、患者さんの主観的な症状を否定せず、可能性のある病態に対し、安全な範囲で介入しながら様子を見る、という地道な診療が続きます。看護師にも観察してもらい、ケアで工夫できることを発見してもらったり、良い変化があれば小さいことでも患者と医師に共有してもらったりすることも重要です。なかなかすっきりしない症状ではありますが、私自身はこのような対応をすることが多いです。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips腹部の張りは鑑別に立ち返り、試行錯誤しながら対応しましょう。

15.

オピオイド鎮痛薬のトラマドール、有効性と安全性に疑問

 がんによる疼痛や慢性疼痛に対して広く処方されている弱オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)のトラマドールは、期待されたほどの効果はないことが、新たな研究で明らかにされた。19件の研究を対象にしたメタアナリシスの結果、トラマドールは中等度から重度の疼痛をほとんど軽減しないことが示されたという。コペンハーゲン大学(デンマーク)附属のリグスホスピタレットのJehad Ahmad Barakji氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に10月7日掲載された。研究グループは、「トラマドールの使用は最小限に抑える必要があり、それを推奨するガイドラインを再検討する必要もある」と結論付けている。 研究グループによると、トラマドールはモルヒネと同様に脳内のオピオイド受容体に結合することで鎮痛作用を発揮するが、セロトニンやアドレナリンといった脳内化学物質の再取り込みを阻害することで、抗うつ薬に似た作用も併せ持つ。トラマドールは、モルヒネ、オキシコンチン、フェンタニルといったより強力なオピオイドよりも安全で依存性が低い選択肢と見なされていることから使用が急増し、現在では米国で最もよく処方されるオピオイド鎮痛薬の一つになっているという。 Barakji氏らは今回、総計6,506人の慢性疼痛患者を対象とした19件のランダム化比較試験のデータを統合して解析した。5件の研究は神経痛、9件は変形性関節症、4件は腰痛、1件は線維筋痛症に対するトラマドールの使用を検討していた。 その結果、トラマドールは慢性疼痛の軽減に対してわずかに効果があるものの、その効果量は、NRS(Numerical Rating Scale;痛みを0〜10の数字で評価する指標)で1.0ポイントという、事前に設定した臨床における最小重要差には届かないことが明らかになった。重篤な有害事象については、トラマドール群ではプラセボ群と比較してリスクが2倍に増加しており、このリスクは、主に心臓関連イベントと新生物の発生率の高さに起因していた。その他の副作用には、吐き気、めまい、便秘、眠気などがあった。 これらの結果からBarakji氏らは、「疼痛管理のためにトラマドールを使用することで生じる潜在的な有害性は、その限られた有効性を上回る可能性が高い」と述べている。また同氏らは、対象とした研究の実施方法に鑑みると、これらの結果はトラマドールの有効性を過大評価する一方で、有害性を過小評価している可能性が高いと指摘している。 さらにBarakji氏らは、トラマドールの使用を控えるべき理由として依存と過剰摂取を挙げ、「世界中で約6000万人が依存を引き起こすオピオイドの作用を経験している。2019年には薬物使用により約60万人が死亡した。そのうちの約80%はオピオイド関連、約25%はオピオイドの過剰摂取によるものだった」と述べている。 研究グループは、「米国では、オピオイド関連の過剰摂取による死亡者数は、2019年の4万9,860人から2022年には8万1,806人に増加した。これらの傾向と今回の研究結果を考慮すると、トラマドールをはじめとするオピオイドの使用は可能な限り最小限に抑えるべきだ」と主張している。

16.

機内における急病人の発生頻度は?~84の航空会社での大規模調査

 2025年には約50億人が民間航空機を利用すると予測されている。航空機内での急病(機内医療イベント)は、医療資源が限られ、専門的な治療へのアクセスが遅れるという制約の中で対応が必要となる。米国・デューク大学のAlexandre T. Rotta氏、MedAireのPaulo M. Alves氏らの研究グループは、84の航空会社が参加した大規模な国際データを分析し、機内医療イベントの発生頻度や、航空機の目的地変更につながる要因などを明らかにした。JAMA Network Open誌2025年9月29日号に掲載。 本研究では、2022年1月1日~2023年12月31日の期間に地上支援センターへ報告された、航空会社84社7万7,790例の機内医療イベントを対象に観察コホート研究が実施された。 主な結果は以下のとおり。・全7万7,790例の機内医療イベントにおいて、その発生頻度は乗客100万人当たり39例、フライト212便当たり1例の割合であった。・急病になった乗客は、女性が54.4%、年齢中央値43歳(IQR 27~61)であった。・機内医療イベントによる航空機の目的地変更は1.7%(1,333例)発生した。・全イベントのうち312例(0.4%)が死亡し、年齢中央値69歳(IQR 55~79)であった。急性心疾患による死亡が276例(88.5%)を占め、これらの死亡例において心肺蘇生法が実施されていた。・医療経験を持つ乗客ボランティアは、32.9%(2万5,570例)の医療イベントを支援した。また、目的地変更となった1,333例のうち1,056例(79.2%)、死亡に至った312例のうち246例(78.9%)でボランティアの関与があった。・目的地変更の主な原因は、神経系疾患(542例、40.7%)と心血管系疾患(359例、26.9%)であった。・目的地変更のオッズが高かったのは、脳卒中疑い(調整オッズ比[aOR]:20.35、95%信頼区間[CI]:12.98~31.91)、急性心疾患(aOR:8.16、95%CI:6.38~10.42)、意識変容(aOR:6.96、95%CI:5.98~8.11)であった。・全イベントにおける主な医療介入として、酸素療法(40.8%)、非麻薬性鎮痛薬(15.2%)、制吐薬(14.9%)が使用された。 本研究により、機内医療イベントは従来考えられていたよりも頻繁に発生していることが示された。世界的に航空旅客数が増加し続ける中、機内医療イベントは今後も避けられない課題であり、著者らはこれらの知見が、航空会社の方針、乗務員の訓練、緊急時対応プロトコルの改善に役立つ可能性があると結論付けている。

17.

オピオイド減量」が推進?当事者の“声”が示したこれからの疼痛ケア【論文から学ぶ看護の新常識】第35回

オピオイド減量」が推進?当事者の“声”が示したこれからの疼痛ケア重症患者の疼痛・鎮静に中心的に使用されているオピオイドには、多くの副作用や退院後の慢性的な使用、依存症のリスクが指摘されている。Lize-Mari Du Toit氏らの研究結果から、「オピオイド曝露の低減」と「補助的な疼痛管理戦略の活用」が患者や家族、ならびに医療者にとって共通の重要なアウトカムであることが示された。Intensive and Critical Care Nursing誌オンライン版2025年6月10日号に掲載の報告。ICUにおけるオピオイド曝露低減に関するステークホルダーの視点:修正デルファイ法による調査研究チームは、重症成人患者におけるオピオイド減量および鎮痛補助薬の使用に関して、患者にとって重要な主要アウトカムを特定することを目的に、修正デルファイ法を用いた調査を行った。ステークホルダー(利害関係者)である患者、家族、医療提供者を対象に、2回のアンケート調査と1回のディスカッションを行い、今後のランダム化比較試験に向けて、患者にとって重要な主要アウトカム、評価時点、および適切な評価ツール/定義を特定、評価した。主な結果は以下の通り。「オピオイドの減量」は、2回のアンケート調査を通じて、参加者の82%により患者にとって重要な主要アウトカムであると特定された。2回のアンケート調査から、患者にとって最も重要と評価されたアウトカムは「死亡率」と「疼痛管理」であった。アンケート調査およびディスカッションからさまざまなテーマが浮上し、ICUの疼痛管理に対して、薬理学的および非薬理学的な補助療法の両方が好まれることが示された。研究全体を通して特定された10個の主要なテーマは、「非薬理学的な疼痛管理戦略」「地域ケア提供者の関与」「家族/介護者の関与」「患者教育」「コミュニケーションの障壁」「メンタルヘルスの評価」「オピオイド曝露歴」「オピオイド依存/中毒」「不適切なQOLの評価」「オピオイドの有害反応/副作用」であった。意見は、臨床的または非臨床的な背景によって多様であった。参加者は、「オピオイド曝露の低減」と「補助的な疼痛管理戦略の活用」が、患者にとって極めて重要なアウトカムであることに合意した。オピオイド代替療法と、薬理学的および非薬理学的介入の有効性と安全性を検討するためには、さらなる研究が求められる。本研究の最も重要な点は、ICUという専門性の高い領域において、患者さんやご家族の「声」を可視化したことにあります。特に、多様なステークホルダーを巻き込むアプローチでありながら、インタビューなどの質的研究特有の解釈の主観性に依存せず、修正デルファイ法によって意見を体系的に集約し、科学的な客観性を与えている点に、研究デザインとしての秀逸さを感じます。その結果、医療者が「死亡率」や「疼痛管理」といった臨床指標を最優先する一方で、患者さんやご家族の個別回答の中では、「オピオイド曝露低減」に関して、自らの体験からネガティブな体験が語られています。これは、ICUでの治療が単に「命を救う」だけでなく、退院後の生活の質や依存リスクといった、その後の人生全体を見据えたものであるべきだという、当事者ならではの切実な視点を浮き彫りにした非常に示唆に富んだ結果です。この医療者と患者・家族との間の視点の違いを埋めるのが、本研究でも示唆されている「コミュニケーション」と「教育」です。「なぜ今オピオイドを使うのか」、「代替案にはどのような選択肢があるのか」、そして「退院後に注意するべきことは何か」。こうした情報を医療者が丁寧に言語化し、患者・家族と共有する姿勢とプロセスが、彼らの不安を和らげ、治療への信頼を築く上で不可欠と言えるでしょう。「命を救う」ことと「その後の人生の質を守る」こと。この二つの目標を高いレベルで両立させるために、私たちはステークホルダー全員の視点を尊重した対話を続ける必要があります。本研究はその重要な第一歩を示してくれました。論文はこちらDu Toit LM, et al. Intensive Crit Care Nurs. 2025 Jun 10. [Epub ahead of print]

18.

10月13日 麻酔の日【今日は何の日?】

【10月13日 麻酔の日】〔由来〕1804年の今日、江戸時代の医師・華岡青洲が、世界初の「全身麻酔」による乳がん摘出手術に成功。人類が手術の痛みから解放された歴史的な日として日本麻酔科学会が2000年に制定。関連コンテンツ「苦しいのは仕方がない」という患者さん【非専門医のための緩和ケアTips】海外旅行と医療用麻薬【非専門医のための緩和ケアTips】意外と知らないオピオイド(1)モルヒネによる眠気【臨床力に差がつく 医薬トリビア】高齢の心臓手術患者、脳波ガイド下麻酔は術後せん妄を抑制せず/JAMAICU入室患者の鎮静、α2作動薬vs.プロポフォール/JAMA

19.

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性【論文から学ぶ看護の新常識】第34回

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性抜管直後から「少量ずつ飲水」することの効果と安全性を検証したランダム化比較試験が行われ、「抜管直後の少量飲水は口渇と咽頭不快感を和らげる効果があり、有害事象は増加しない」ことが示唆された。Sarka Sedlackova氏らの研究で、Journal of Critical Care誌オンライン版2025年8月7日号に掲載の報告。抜管直後の「少量飲水」vs.経口水分摂取の遅延:ランダム化比較試験研究チームは、抜管後すぐに経口で水分を「少量ずつ摂取」することが、口渇と不快感を軽減し、集中治療の現場において安全であるかどうかを評価することを目的に、単施設ランダム化比較試験を行った。抜管基準を満たしたICU患者160例を、水分摂取遅延群(抜管2時間後から水分摂取を開始)と、即時少量飲水群(2時間かけて最大3mL/kgを摂取)のいずれかに1:1でランダムに割り付けた。口渇、不快感、および有害事象(吐き気、嘔吐、誤嚥)を、0分、5分、30分、60分、90分、120分後に評価した。主な結果は以下の通り。120分時点では、両群ともに80例中64例(80%、95%信頼区間[CI]:70~88%)が口渇を訴え、群間差は0.0%であった(95%CI:-12%~12%、p=1.000)。120分後までの口渇の緩和は、少量飲水群の11.3%(95%CI:5~20%)に対し、水分摂取遅延群では1.3%(95%CI:0~7%)であり、10%の有意な差が認められた(95%CI:1~19%、p=0.0338)。90分時点での咽頭の不快感は、少量飲水群の23.8%(95%CI:15~35%)に対し、水分摂取遅延群では42.5%(95%CI:32~54%)であり、-18.7%の有意な差が認められた(95%CI:-34%~-3%、p=0.0118)。有害事象(吐き気、嘔吐)はまれであり、両群で同等であった;誤嚥はどちらの群でも観察されなかった。抜管直後からの少量飲水は、安全であり、喉の渇きを和らげ、ICU患者の不快感を軽減し、有害事象を増加させることなく行えると考えられる。皆さんの施設では抜管後いつから飲水が可能になりますか?施設によっては厳密な基準はなく、「翌日から飲水可能」といった大まかなスケジュールで運用されているかもしれません。でもこれって実はエビデンスが乏しく、慣習的に決められていることが多いです。「患者さんは喉が渇いてないかな?」と気にかかりながらも、「でも吐かないかな?誤嚥して肺炎になったらどうしよう」と思う葛藤を、皆さん一度は抱いたことがあるのではないでしょうか?今回は、「抜管2時間後から飲水可能」vs.「抜管直後からの少量飲水(ちょびちょび飲み:シッピング)」を比較した研究を紹介します。研究の結果、2時間後の口渇感の有無自体には両群で差はありませんでした。しかし、口渇感と咽頭不快感の軽減については、「抜管直後からの少量飲水」群が有意に優れていました。さらに、吐き気、嘔吐、誤嚥などの有害事象の発生率は両群で同等であり、少量飲水によりリスクは増加しないことが示されました。これらの知見は、従来の画一的な2時間の絶飲食に疑問を投げかけ、より患者中心に不快感を低減するケアを考えるきっかけとなります。ただし、患者さんの不快感をとるために、無制限に飲水をしていいわけではありません。まず、この研究では一度の摂取量は5~10mL程度とごく少量で、2時間かけて最大3mL/kg(合計約200mL)を上限にする制限も設けられています。またリスクがある、上部消化管手術(食道、胃、十二指腸)、頭蓋外傷、または嚥下や意識に影響を与える神経学的障害がある患者は、事前に除外しています。あくまでも誤嚥や創部に水が入るリスクが低いと想定される患者さんに限定していることは覚えておきましょう。また実臨床で取り入れる場合には、飲水により胃内容物が溜まることでPONV(Postoperative Nausea And Vomiting:術後悪心・嘔吐)のリスクが増すため、女性、オピオイド使用、非喫煙者、乗り物酔いの既往がある患者さんでは注意が必要です。適切なリスク評価を行った上で、実施可能であれば、患者さんの不快感を減らす新たなアプローチの導入を検討してみてはいかがでしょうか。論文はこちらSedlackova S, et al. J Crit Care. 2025 Aug 7. [Epub ahead of print]

20.

日本人アルコール関連肝疾患に対するナルメフェンの影響

 完全な禁酒は、アルコール関連肝疾患(ALD)マネジメントにおいて重要である。しかし、多くの患者が禁酒の達成または維持に難渋しており、ハームリダクション戦略、とくにアルコール摂取量を減らすための薬理学的介入への関心が高まっている。オピオイド受容体モジュレーターであるナルメフェンは、アルコール依存症患者の飲酒量減少に対する有効性を示している薬剤であるが、ALDにおける肝パラメーターへの影響については、実臨床において、これまで十分に検討されていなかった。奈良県立医科大学の花谷 純一氏らは、ALD患者に対するナルメフェンの有効性および安全性、飲酒量、肝機能、肝予備能の変化に焦点を当て、評価を行った。Hepatology Research誌オンライン版2025年8月16日号の報告。 2019年9月〜2023年12月に奈良県立医科大学でナルメフェン治療を行ったALD患者21例を対象に、レトロスペクティブ観察研究を実施した。アルコール摂取量、肝機能検査、肝予備能、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)スコアに関するデータは、ベースライン時および治療開始6ヵ月後に収集した。有害事象も記録した。 主な結果は以下のとおり。・ナルメフェン投与開始後1ヵ月以内に、重度の飲酒日数および総アルコール摂取量の有意な減少が認められた。・これらの減少は、肝機能パラメーターの改善を伴っていた。・しかし、肝予備能には統計的に有意な変化は認められなかった。・有害事象のほとんどは軽度から中等度(Grade1または2)であり、重篤な有害事象は認められなかった。 著者らは「ナルメフェンは、ALD患者のアルコール摂取量を減少させ、肝機能を改善するための安全かつ効果的な薬理学的選択肢であると考えられる」とし、「これらの調査結果は、完全な禁酒を達成できない人に対する危害軽減アプローチの一部として、ナルメフェンの使用を支持するものである」と結論付けている。

検索結果 合計:415件 表示位置:1 - 20