サイト内検索|page:5

検索結果 合計:352件 表示位置:81 - 100

81.

英語で「痛みに強い」は?【1分★医療英語】第10回

第10回 英語で「痛みに強い」は?I see you are in pain.(痛みがありそうですね)Yes, it’s really bad. I have a high pain threshold.(はい、とてもひどい痛みです。痛みに強いほうなのですが)《例文1》He has a really high pain threshold.(彼は非常に痛みに強いです)《例文2》She said her pain was 20 out of 10. She may have a low pain threshold.(痛みは10点満点中20点だそうです。彼女は痛みに弱いのかもしれません)《解説》“threshold”は「閾値」を意味する単語で、“pain threshold”は「痛みの閾値」という意味になります。“high pain threshold”は「痛みの閾値が高い」、つまり「痛みに強い」という意味です。似た表現に“tolerance”というものもあり、同じく「閾値」を意味します。厳密には“threshold”は「痛みを感じ始める境界」を指し、“tolerance”は「何とか我慢できる痛みの境界」を指しますが、いずれも同じような文脈で使われます。「痛みの閾値」は人それぞれですが、米国では患者の人種的・文化的な背景がさまざまで、日本よりもさらに個人差が大きい印象です。日本では麻酔なしで行われる手技が全身麻酔で行われたり、オピオイドの処方のハードルが低かったりと、臨床現場では痛みに対するアプローチの違いが見受けられます。講師紹介

82.

第93回 サイケデリック薬による精神疾患治療の開発が去年大いに前進

いわゆる麻薬の類・サイケデリック薬のものの見方を変えさせる作用が精神疾患の治療に役立つのではないかと期待されてきましたが、その効果を示した説得力のある試験はここ最近までほとんどありませんでした1)。しかし昨春2021年5月に発表された第III相試験でエクスタシーとして知られるMDMAの心的外傷後ストレス障害(PTSD)治療効果が示され、サイケデリック薬による精神疾患治療の開発は昨年大いに前進しました。俳優の沢尻エリカ氏や押尾学氏の事件で広く報じられたMDMAは主に神経のシナプス前セロトニン輸送体への結合を介してセロトニン放出を誘発します2)。MDMAは恐怖記憶の解消を促して社交的な振る舞いを支えること等が動物実験で示されています。また、合計105人が参加した6つのプラセボ対照第II相試験をまとめて解析したところMDMAを利用した治療を受けた患者の半数超(54.2%)がPTSD診断基準を脱していました3)。そして去年発表された第III相試験では42人のうち7割近い28人(67%)がMDMA投与込みの治療でPTSD診断基準を脱していました2)。プラセボ投与群37人でのその割合はMDMA使用群の半分以下の32%(12人)でした。非常に有望な結果ですがその効果の判定には注意が必要なようです。MDMAの明確な向精神作用は患者の期待感に影響を及ぼすかもしれず、そういう期待感を治療の一部として受け入れるとするなら効果の評価を根本的に見直す必要があるだろうとの見解をトロント大学の精神/神経専門家は最近のNature Medicine誌に寄稿しています1,4)。ともあれMDMAやその他のサイケデリック薬によるうつ病、不安症、依存などの精神疾患治療の検討は企業でも研究機関でも盛んになっています。2ヵ月ほど前の昨年11月初めには、マジックマッシュルームの成分として有名なサイロシビン(シロシビン;psilocybin)のうつ病治療効果が被験者数233人の無作為化試験で示されたことを英国ロンドンの企業COMPASS Pathwaysが発表しています5)。同社はさらに大規模な試験を計画しています。また、PTSDへのMDMAのもう1つの第III相試験が進行中であり、開発を担う非営利組織Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies(MAPS)は来年2023年にその治療が米国FDA承認に漕ぎ着けることを目指しています6)。参考1)A psychedelic PTSD remedy / Science2)Mitchell JM, et al. Nat Med. 2021 Jun;27:1025-1033.3)Mithoefer MC,et al.. Psychopharmacology.2019 Sep;236:2735-2745.4)Burke MJ, et al. Nat Med. 2021 Oct;27:1687-1688.5)COMPASS Pathways announces positive topline results from groundbreaking phase IIb trial of investigational COMP360 psilocybin therapy for treatment-resistant depression / globenewswire6)MAPS’ Phase 3 Trial of MDMA-Assisted Therapy for PTSD Achieves Successful Results for Patients with Severe, Chronic PTSD / MAP

83.

多くの医師が必要な「緩和ケア」、効率的に学ぶならこの動画!【非専門医のための緩和ケアTips】第17回

第17回 多くの医師が必要な「緩和ケア」、効率的に学ぶならこの動画!今日の質問私のクリニックでは高齢者が多く、自宅や施設への訪問診療も増えてきました。オピオイドなどの薬の使い方だけでなく、コミュニケーションや多職種アプローチなど、幅広く勉強する必要性を感じます。本などで勉強するべきなのでしょうが、忙しさが言い訳になってなかなか進みません。何か良い方法はないでしょうか?忙しい臨床業務の合間で勉強するのって、本当に大変ですよね。学生時代の「勉強し放題」の環境は二度と戻ってきません。失ってから気付く時間の大切さ…。でも打ちひしがれている時間はありません。過去を悔やまず、今を生きましょう(大げさ)。新しい医学領域である「緩和ケア」。多くの医師が関わる分野であるにもかかわらず、体系立てて学んだことのある方は限られています。若手や開業医の方にお勧めしたい、コスパの良い学習方法を紹介します。さまざまな学び方がある中で、近年はオンデマンド動画や音声でのインプット手段が増えています。とくに他のことをしながらでも活用できる「オーディオブック」は私も重宝しています。緩和ケア分野で最も会員数の多い学術団体に日本緩和医療学会があります。2021年11月1日時点で、1万2,177名の会員がいます。日本緩和医療学会では緩和ケアの教育機会の提供を目的としたセミナーが定期的に開催されています。その中の「教育セミナー」は緩和医療に関する能力の向上と生涯学習を目的に年2回開催され、学会員でなくても受講することができます。以前は各地で開催されていましたが、現在はオンライン開催となっており、費用は1回6,000円(非会員の場合)です。1回のセミナーで45分程度の講演が7本公開されます。執筆時点で直近となる「第31回教育セミナー」の内容は以下の通りでした。1)がん患者の不安・抑うつ・不眠2)緩和ケア病棟における臨床宗教師の活動3)がんゲノム医療における遺伝カウンセリング4)緩和医療における法的・倫理的問題へのアプロー5)ポリファーマシーとの上手な付き合い方6)難渋する痛み―私たちは評価者たりうるのか7)慢性呼吸器疾患の緩和ケアこうしてみると緩和ケアに関してかなり幅広い話題を取り扱っていることがおわかりいただけると思います。緩和ケアを深く学びたい方は、ぜひ学会員になりましょう。その理由は、会員は教育セミナーのアーカイブ動画を見ることができるからです! 私はお昼休憩に、食事をしながらこのアーカイブを見ています。時間的にも45分なのでちょうどいいんですよね。勉強のために新たな時間を捻出するのが難しい方も多いはずですが、こうした「ながら勉強」をうまく活用するのは、1つの方法だと思います。学会員になると年会費が必要ですが、緩和ケアの本を3、4冊買って自分で勉強することを思えば、意外とお得という考え方もできるかと思います。次回の教育セミナーは2022年1月30日(日)に開催予定です。オンラインで開催されますので、まだ参加したことのない方はぜひお試しください。今回のTips今回のTips非専門医が効率的に緩和ケアを学ぶには、日本緩和医療学会の「教育セミナー」がお勧め!

84.

非がん性疼痛に対するオピオイド処方、注射薬物使用との関連は?/BMJ

 非がん性疼痛に対し慢性的にオピオイド薬の処方を受けている人において、注射薬物の使用(injection drug use:IDU)を始める割合は全体ではまれであるが(5年以内で3~4%)、オピオイド未使用者と比較すると約8倍であった。カナダ・ブリティッシュコロンビア疾病管理センターのJames Wilton氏らが、カナダの行政データを用いた大規模後ろ向きコホート研究の解析結果を報告した。オピオイド処方と違法薬物または注射薬物の使用開始との関連性については、これまで観察研究などが数件あるが、大規模な追跡研究はほとんどなかった。著者は、「今回の研究で得られた知見は、IDUの開始やそれに伴う2次的な害を防止する戦略や政策に役立つと考えられるが、長期処方オピオイド治療の不適切な減量や中止の理由にしてはならない」とまとめている。BMJ誌2021年11月18日号掲載の報告。約170万人のデータから、オピオイド使用者を特定、注射薬物開始との関連を解析 研究グループは、British Columbia Hepatitis Testers Cohortとして知られている大規模な行政データ、Integrated Data and Evaluative Analytics(IDEAs)を用いてデータを解析した。IDEAsのコホートには、1992~2015年にブリティッシュコロンビア州でC型肝炎ウイルスまたはHIVの検査を受けた約170万人が含まれ、これらのデータは、医療機関の受診、入院、救急受診、がんの診断、死亡、および薬局での調剤のデータと連携している。 解析対象は、ベースライン時に物質使用歴(アルコールを除く)のない11~65歳の人で、2000~15年における非がん性疼痛に対する処方オピオイド使用の全エピソードを特定した。エピソードは、オピオイド処方の開始から終了までを、薬剤が提供されない期間が前後6ヵ月間ある場合と定義し、エピソード内の処方日数やその日数の割合によってエピソードを分類した(急性:エピソード期間<90日、一過性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日未満および/または処方日数の割合が50%未満、慢性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日以上および/または処方日数の割合が50%以上)。社会経済的変数に基づき、慢性、一過性、急性、およびオピオイド未使用者を1対1対1対1の割合でマッチングした。 IDU開始は、1年以内に、(1)注射薬物の使用に関連する問題(オピオイド、コカイン、アンフェタミンまたはベンゾジアゼピンに対する依存に関する診断コードなど)のエビデンスがある、(2)注射関連感染症の可能性の診断、の2つが認められた場合と定義し、特異性が高く妥当性のある管理アルゴリズムによって特定した。 オピオイド使用分類(慢性、一過性、急性、未使用)とIDU開始との関連性は、逆確率治療重み付け(IPTW)法によるCoxモデルを用いて評価した。解析対象は約6万人、慢性的なオピオイド処方は注射薬物使用のリスクが高い マッチングコホートには計5万9,804例(オピオイド使用分類それぞれ1万4,951例)が組み込まれた。追跡調査期間中央値5.8年において、1,149例でIDU開始が認められた。IDU開始の5年累積確率は、オピオイド使用分類が慢性(4.0%)で最も高く、次いで一過性(1.3%)、急性(0.7%)、オピオイド未使用(0.4%)の順であった。IDU開始リスクは、オピオイド使用分類が未使用に対して、慢性の場合、8.4倍上昇した(95%信頼区間[CI]:6.4~10.9)。 慢性疼痛歴のある人に限定した感度分析では、オピオイド使用分類が慢性の場合、IDU開始のリスクは主解析結果より低下したが(5年以内で3.4%)、相対リスクは低下しなかった(ハザード比:9.7、95%CI:6.5~14.5)。 IDU開始は、オピオイド投与量が多いほど、また、年齢が若いほど、高頻度であった。

85.

非がん性疼痛へのトラマドール、コデインより死亡リスク高い?/JAMA

 欧米では、非がん性慢性疼痛の治療にトラマドールが使用される機会が増えているが、安全性を他のオピオイドと比較した研究はほとんどないという。英国・オックスフォード大学のJunqing Xie氏らは、トラマドールの新規処方調剤はコデインと比較して、全死因死亡や心血管イベント、骨折のリスクを上昇させることを示した。便秘やせん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害には両薬で差はなかった。研究の成果は、JAMA誌2021年10月19日号に掲載された。スペインの後ろ向きコホート研究 研究グループは、外来で使用されるトラマドールとコデインについて、死亡および他の有害なアウトカムの発生状況を比較する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(IDIAP Jordi Gol Foundationの助成を受けた)。 解析には、System for the Development of Research in Primary Care(SIDIAP)のデータが用いられた。SIDIAPは、スペイン・カタルーニャ地方(人口約600万人)の人口の80%以上を対象とし、匿名化したうえで日常的に収集される医療・調剤の記録が登録されたプライマリケアのデータベースである。 対象は、年齢18歳以上で、1年以上のデータがあり、2007~17年の期間にトラマドールまたはコデインが新規に調剤された患者であった。両薬が同じ日に調剤された患者は除外された。 評価項目は、初回調剤から1年以内の全死因死亡、心血管イベント(脳卒中、不整脈、心筋梗塞、心不全)、骨折(大腿骨近位部、脊椎、その他)、便秘、せん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害とされた。解析の対象は、傾向スコアマッチング法で選出された。また、原因別Cox比例ハザード回帰モデルで、絶対発生率差(ARD)とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)が算出された。若年患者で死亡の、女性で心血管イベントのリスクが高い 109万3,064例が登録され、このうち32万6,921例がトラマドール群、76万2,492例がコデイン群であり、3,651例は両方の薬剤が調剤されていた。傾向スコアマッチング法で選出された36万8,960例(両群18万4,480例ずつ、平均年齢53.1歳、女性57.3%)が解析に含まれた。 トラマドール群はコデイン群に比べ、1年後の全死因死亡(発生率:13.00 vs.5.61/1,000人年、HR:2.31[95%CI:2.08~2.56]、ARD:7.37[95%CI:6.09~8.78]/1,000人年)、心血管イベント(10.03 vs.8.67/1,000人年、1.15[1.05~1.27]、1.36[0.45~2.36]/1,000人年)、骨折(12.26 vs.8.13/1,000人年、1.50[1.37~1.65]、4.10[3.02~5.29]/1,000人年)のリスクが有意に高かった。 便秘(発生率:6.98 vs.6.41/1,000人年)、せん妄(0.21 vs.0.20/1,000人年)、転倒(2.75 vs.2.32/1,000人年)、オピオイド乱用/依存(0.12 vs.0.06/1,000人年)、睡眠障害(2.22 vs.2.08/1,000人年)には両群に差はみられなかった。 トラマドールによる死亡リスクの上昇は、若年患者(18~39歳)が高齢患者(60歳以上)に比べて大きかった(HR:3.14[95%CI:1.82~5.41]vs.2.39[2.20~2.60]、pinteraction<0.001)。心血管イベントのリスク上昇は、女性が男性よりも大きかった(1.32[1.19~1.46]vs.1.03[0.93~1.13]、pinteraction<0.001)。また、併存疾患が最も多い患者(チャールソン併存疾患指数[CCI]≧3点)は最も少ない患者(CCI=0点)に比べ、骨折のリスクの上昇が大きかった(HR:2.20[95%CI:1.57~3.09]vs.1.47[1.35~1.59]、pinteraction=0.004)。 著者は、「未評価の交絡因子が残存している可能性があるため、これらの知見の解釈には注意を要する」としている。

86.

副作用の説明にこんな工夫【非専門医のための緩和ケアTips】第14回

第14回 副作用の説明にこんな工夫患者さんに新しい薬を処方するとき、いつも以上に慎重な説明が求められますよね。とくに副作用についてはしっかりと説明しておかないと、後から「聞いてなかった!」なんてクレームにもなりかねません。今回はそんな副作用の説明についてです。今日の質問外来でフォロー中の進行がん患者さん。腫瘍が増大傾向で現在の鎮痛薬では効果不十分と判断してオピオイドを勧めました。眠気、吐き気、便秘といった副作用を説明したところ顔を曇らせ、「そんなに副作用がある薬は飲みたくないです」と拒否されてしまいました。副作用を伝えないわけにはいかないと思いますが、どうすればよかったのでしょうか?今回のご質問も緩和ケアの実践ではよくあるテーマですね。まずはこういった病状の方の外来診療をしっかりされていることや、地域の診療所で緩和ケアが届けられるようご尽力いただいていることに感謝を申し上げたいと思います。さて、この「しっかり説明すると不安にさせてしまう」という問題、なかなか難しいのですが、工夫の余地はありそうです。人にはそれぞれ「バイアス」が存在します。何かをやった結果としての「良いこと」と「悪いこと」を比較すると、悪いことの影響のほうを大きく感じることが知られています。行動経済学ではこういった特性を「損失回避」という言葉で説明しています。「人は何かしたせいで良くないことが起きることを嫌う傾向が強い」というわけです。処方の時点で、医師としては使用するメリットが副作用のデメリットよりも大きいと判断しているわけです。医師側は自明と思いがちですが、その点をあらためて患者さんに伝えましょう。「メリット」と「デメリット」の説明量を同じにすると患者さんはデメリットのほうを強く感じます。まして、「後々にトラブルにならないよう、副作用についてしっかり説明した」といった説明量のバランスであれば、おそらく患者さんを「めちゃくちゃビビらせる」説明になっていることでしょう。ではどうすればよいか、具体例を少し考えてみましょう。「今の症状に対して、オピオイドを使用したほうがいいと思います(=明確に言い切る)。症状に悩まされる時間が少なくなるはずです(=メリットを先に)。人によっては眠気や吐き気といった症状が出ることがありますが(=デメリットを事実ベースで)、予防薬もあるので安心してください。便秘が続く場合も便秘薬を調整しながら経過を見ます(=デメリットにも対処できる)。今の症状を減らすことで、ご自宅でより過ごしやすく、夜も眠りやすくなると思うので、試してみませんか?(=再びメリットを伝えたうえで、最終判断は委ねるというトーン)」いかがでしょう? 私もまだまだ試行錯誤中なので、皆さんの工夫もぜひ教えていただければと思います。今回のTips今回のTips薬剤の説明はメリットを先に。副作用などのデメリットも共有しつつ、安心感が伝わるコミュニケーションを工夫しよう。

87.

提案した治療を拒否された…【非専門医のための緩和ケアTips】第13回

第13回 提案した治療を拒否された…入院と違って短時間でさまざまな患者さんの健康問題への対応が求められる外来診療。時折、医療者が勧める治療法を受け入れない患者さんがいますよね。医師としてはちょっと「イラッ」としてしまうこんな場面に役立つ、緩和ケア的なアプローチはあるのでしょうか?今日の質問乳がんの患者さん。地域の基幹病院と私の診療所に通院し、私は主に支持療法を提供しています。ご本人から「痛み(がん疼痛)が強くなってきて、もう少し和らげたい」とあったので少量の経口オピオイドを勧めたのですが、説明後には「痛み止めはまだ飲みたくありません」と言います。丁寧に説明した後にそう言われると、ちょっとがっくりしてしまいます…。今回のご質問、心中穏やかでないようですね。私も以前はよくこの方と同じ気持ちになっていました。患者さんの困り事に対し、しっかり検討したうえで提案したにもかかわらず、受け入れてもらえないという状況は緩和ケアの場でもしばしば経験します。先日、医療コミュニケーションの復習をしていて、米国の緩和ケアに関する情報サイトを見たところ、まったく同じトピックを扱っていました。われわれを悩ませるこの問題は万国共通のようです。ここでは、ともすると忘れがちな「大前提」があります。それは「判断能力のある成人は、医学的には妥当で有益であっても、その治療を拒否する権利がある」ということです。言われてみれば当たり前ですが、私たち医療者は無意識下に「患者さんは指導には従うべき!」といった認識を抱いています。そんな気持ちに駆られると、医師の言うことを聞くのが「良い患者」、聞かないのは「悪い患者」といった感覚に陥りがちです。ここはその時々で振り返りたいところです。さて、推奨する治療を拒否する患者さんに遭遇したとき、相手が「状況や内容を理解できていない」ために拒否的な態度なのか、「理解したうえで、あえて選択しない」のかを見極めることが大切です。「状況や内容を理解できていない」のであれば、より伝わる方法を考え、意思決定を支援するご家族とやり取りすることが重要です。私たちが多く接する高齢の患者さんも、こうした配慮が必要なことがよくあります。具体的な工夫としては、「説明する情報を最小限にする」「ポイントを書きながら伝える」「時間を置いて看護師から理解を確認する」などが挙げられます。一方、「理解したうえで、あえて選択しない」のであれば、そこに何か理由があるはずです。そして、その理由に合わせた代替案を提案するアプローチが大切です。ここでは、「ああ、そんなふうに思われているんですね。それはどうしてですか?」と共感を示しつつ、探索的なコミュニケーションを取ることが効果を発揮します。たとえばこんな感じです。医師「『薬を使いたくない』とのことですが、気になっていることを教えてもらえませんか?」患者「薬に頼ると、病気に負けてしまう気がするのですよね…」医師「そんなふうに感じるのですね。そんなふうに感じるようになった経験があったのでしょうか? よかったら、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」相手の懸念を深堀りしたうえで、頭ごなしに否定や説得するような態度にならないよう、留意して対話します。いかがでしょう? 探索的なコミュニケーションや相手の理解をアセスメントするといった緩和ケア的アプローチを、ぜひ臨床の場で活用してください。今回のTips今回のTips治療を拒否されたら、「状況や内容を理解できていない」のか、「理解したうえで、あえて選択しない」のかを見極め、次のアクションにつなげましょう。

88.

従業員であっても「処方箋なしで処方箋医薬品を販売」で業務停止【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第77回

先月、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売したことで、富山県の薬局が行政処分を受けました。この2年くらいで同様の違反に対する処分が立て続けに起こっていますので紹介したいと思います。富山県は9月21日、医薬品医療機器等法に基づき、調剤薬局を手掛けるビッグライム(富山市)に対し、同社が運営する「ハート薬局滑川店」(富山県滑川市)の業務停止を命じたと発表した。業務停止は24日から10月7日までの14日間となる。県によると、同店では処方箋の交付を受けていない従業員に処方箋医薬品を販売するなどしていたという。ビッグライムは県内で10店の調剤薬局を運営している。(日本経済新聞 2021年9月22日付)富山県のホームページにおいて、行政処分の理由が掲載されています。1.上記薬局において、医師などから処方箋の交付を受けていない従業員に対して、正当な理由なく、処方箋医薬品を販売した。(薬機法第49条第1項違反)2.上記薬局において、薬局医薬品の販売にあたり、必要事項の書面への記載を怠った。(薬機法第9条第1項の規定に基づく法施行規則第14条第3項違反)3.上記薬局において、向精神薬処方箋を所持する者以外の者に対して、向精神薬を譲り渡した。(麻薬及び向精神薬取締法第50条の16第4項違反)4.上記薬局の管理薬剤師は、処方箋の交付を受けていない者に対して処方箋医薬品を販売するなど管理者の義務を怠った。(薬機法第8条第1項違反)富山県では2020年9月にも別の薬局チェーンで同じような不正販売が明らかになり、複数の薬局の行政処分が行われました。これを踏まえて調査を強化したのだと思われますが、2020年10月に中部厚生センターの薬事監視員がハート薬局に定期立ち入り調査を実施したところ、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売していたことが明らかになりました。その後の県と警察の合同調査で、薬局の事務員に対して抗菌薬や抗アレルギー薬を、薬剤師に対して向精神薬を販売していたことが判明しました。なお、これらの薬剤はすべて自らが使用する目的だったとのことで、一般の方への譲渡はなく、健康被害も確認されていないとのことです。実は、富山県だけではなく、今年の3月には三重県の薬剤師会が運営する薬局でも同様の違反で行政処分が行われています。従業員への処方箋医薬品の販売はしばしば聞くため、おそらく悪気なくやっているのだと思います。依頼が断りにくい、使用方法や副作用をよく知っている、廃棄するよりはまし…などの理由があるのかもしれませんが、だめなものはだめです。開設者だけでなく、開設者に意見を申し立てる義務のある管理薬剤師が責務を果たしていないことも行政処分の理由になっています。薬局や従業員が違法であるという認識が低く、行政側は簡単に調査できる内容であるため、今後も調査が強化されるのだろうと推察します。「薬局で働いたら処方箋医薬品が入手できる」などのうわさが立たぬよう、薬局内であっても処方箋医薬品を処方箋なしで販売しては違法だということをいま一度確認してほしいと思います。もしこのような慣例があるとすれば、この行政処分の事例を共有して断ち切りましょう。参考1)富山県|薬局開設者に対する行政処分(業務停止)について(pref.toyama.jp)2)三重県|薬局開設者に対する行政処分について(pref.mie.lg.jp)

89.

うつ病患者の自殺リスク予測因子

 自殺の原因はさまざまであり、自殺リスクのある人を正確に特定することは困難である。米国・ボストン大学のTammy Jiang氏らは、機械学習を用いて、うつ病患者の自殺予測を試みた。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年8月11日号の報告。 本研究は、1995~2015年にデンマークにおいて実施されたケースコホート研究である。対象は、デンマークで自殺により死亡したすべてのうつ病患者2,774例。比較サブコホートは、ベースライン時のデンマーク人の5%ランダムサンプルであり、研究期間中にうつ病と診断された患者1万1,963例。自殺予測には、決定木およびランダムフォレストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・うつ病男性では、他の解熱鎮痛薬の使用(アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬)、催眠鎮静薬の使用、中毒症と診断された患者において自殺リスクが高かった(96例、リスク:81%)。・うつ病女性では、他の解熱鎮痛薬、抗不安薬、催眠鎮静薬が使用された患者で自殺リスクが高かったが、中毒症や脳血管疾患と診断された患者では関連が認められなかった(338例、リスク:58%)。 著者らは「精神障害とそれに関連する薬物療法は、自殺リスクとの関連が示唆された。とくに、慢性疼痛や疾患治療に用いられる抗炎症薬(アセトアミノフェンなど)の使用は、うつ病患者の自殺リスクとの関連が認められた」とし「機械学習は、自殺による死亡を予測する精度を向上させる可能性がある」としている。

90.

便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

91.

在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第10回

第10回 在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応まだまだ収束の兆しが見えない、COVID-19のパンデミック。流行の状況によっては開業医も外来や在宅医療で感染患者の診療が求められます。今回は緩和ケア分野の経験を通じてCOVID-19感染症の診療に活用できる知見を共有したいと思います。今日の質問私の診療エリアでもCOVID-19感染患者が増えた際には、在宅療養者の対応が求められそうです。原疾患の改善を待つ期間、呼吸困難に対してどのような介入ができますか? 自宅療養を支えるための緩和手段があれば教えてもらいたいです。感染者の急増を受け、病院以外の現場でCOVID-19診療に関わる方も増えているのではないでしょうか。地域によっては有症状であっても、在宅療養で経過を見る必要も出ています。適切かつ可能な範囲の治療を在宅で行いながら、重症化した際に基幹病院と連携することが重要であることは言うまでもありません。加えて、不安を抱えながら在宅療養をする患者さんを支えるためには呼吸困難といった身体症状を和らげることが大切です。日本緩和医療学会では今回のパンデミックを受け、「COVID-19患者の呼吸困難への対応に関する手引き(在宅版)」を公開しています。この手引きでは、COVID-19患者の呼吸困難に関して、STEP1酸素投与・その他の対応STEP2オピオイド経口投与(内服できる患者)STEP3オピオイド非経口投与(内服できない患者)STEP4苦痛緩和のための鎮静の4つのステップに分けて対応を記載しています。薬物療法の中心となるのは、モルヒネなどの医療用麻薬です。ご存じのように、医療用麻薬の多くは保険適用外使用となりますので、処方の際は患者・家族への説明が必要です。また、在宅療養という環境下で安全に使用できる体制構築が重要なのは言うまでもありません。在宅医療下では常時のモニタリングはできません。そのような環境下で急性期医療に近い医療を提供することは非常に困難ですが、この手引きは現状の多くの在宅医療環境で運用可能な内容となっています。COVID-19患者の呼吸困難への対応に関するエビデンスはまだ確立されていない状況であり、この手引きはその他の疾患領域での対応を踏まえたエキスパート・オピニオンに基づいたものです。実際にどこまでの対応を在宅で取り組む必要があるかは、地域の感染者数や基幹病院の状況にもよるので、地域の実情に合わせてご活用ください。日本緩和医療学会はCOVID-19に関連した情報発信をする特設サイトを開設しています。皆さまの診療に役立つ内容が多く掲載されているので、ぜひ御覧ください。早く日常が戻ってくることを祈りつつ、今回のコラムを終えたいと思います。今回のTips今回のTipsCOVID-19患者の療養を支えるためにも、緩和ケアの症状緩和スキルを活用しよう!

92.

高用量オピオイドの長期投与、用量漸減のリスクは?/JAMA

 高用量オピオイドを長期にわたり安定的に処方されている患者において、用量漸減は、過剰摂取およびメンタルヘルス危機のリスク増加と有意に関連することが、米国・カリフォルニア大学のAlicia Agnoli氏らによる後ろ向き観察研究の結果、示された。オピオイド関連死亡率の増加や処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対してオピオイドを長期間処方された患者における用量漸減が行われている。しかし、過剰摂取やメンタルヘルス危機など、用量漸減に伴うリスクに関する情報は限られていた。JAMA誌2021年8月3日号掲載の報告。高用量オピオイドの長期投与患者約11万4千例を後ろ向きに解析 研究グループは2008~19年のOptumLabs Data Warehouseデータベースから、匿名化された医療費・薬剤費および登録者のデータを用いて後ろ向き観察研究を実施した。解析対象は、ベースラインの12ヵ月間に高用量オピオイド(モルヒネ換算平均50mg以上)を処方され、2ヵ月以上追跡された米国の成人患者11万3,618例。 オピオイドの用量漸減については、7ヵ月の追跡期間中の6つの期間(1期間60日、一部期間は重複)のいずれかにおいて、1日平均投与量が少なくとも15%相対的に減量された場合と定義し、同期間中の最大月間用量減量速度を算出した。 主要アウトカムは、最長12ヵ月の追跡期間中の(1)薬剤の過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)による救急受診。統計には、離散時間型の負の二項回帰モデルを用い、用量漸減(vs.用量漸減なし)および用量減量速度に応じた2つのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)を推算して評価した。用量漸減で過剰摂取やメンタルヘルス危機が約2倍増加 解析対象11万3,618例のうち、用量漸減が行われた患者は2万9,101例(25.6%)、行われなかった患者は8万4,517例(74.4%)で、患者背景は、女性がそれぞれ54.3% vs.53.2%、平均年齢57.7歳 vs.58.3歳、民間保険加入38.8% vs.41.9%であった。 用量漸減後の期間(補正後発生率は9.3件/100人年)は、非漸減期間(5.5件/100人年)と比べて過剰摂取イベントの発生との関連がみられた(補正後発生率の差:3.8/100人年[95%信頼区間[CI]:3.0~4.6]、aIRR:1.68[95%CI:1.53~1.85])。 用量漸減は、メンタルヘルス危機イベントの発生とも関連していた。補正後発生率は同期間7.6件/100人年に対して、非漸減期間3.3件/100人年であった(補正後発生率の差:4.3/100人年[95%CI:3.2~5.3]、aIRR:2.28[95%CI:1.96~2.65])。 また、最大月間用量減量速度が10%増加することで、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI:1.07~1.11)、またメンタルヘルス危機のaIRRは1.18(95%CI:1.14~1.21)増加することが認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、用量漸減の潜在的な有害性に関する問題を提起するものであるが、観察研究のため解釈は限定的なものである」との見解を述べている。

93.

オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ【非専門医のための緩和ケアTips】第8回

第8回 オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ今日の質問開業してからは多忙で学術大会から足が遠ざかっています。参加するメリットはありますか?今回は2021年6月に開催された第26回日本緩和医療学会学術大会について、開催レポートを兼ねて紹介したいと思います。新型コロナウイルス流行下ということで、現地とオンライン参加のハイブリッド開催で行われました。緩和ケア学会、というとどんな内容をイメージするでしょうか? 医学系学会といえば、改定ガイドラインの解説や最新の研究分野の発表とシンポジウム、みたいなところがメジャーですよね。緩和ケア学会もそうした内容はあるのですが、他学会では見られないユニークな内容もあります。今回の学術大会のテーマは「初心忘るべからず(初心不可忘)」。私は知らなかったのですが、これは世阿弥が生み出した能の有名な言葉だそうです。大会ポスターも能のシーンを基に作られ、特別講演は能楽師をお招きしての「能楽の時代を超えた役割」。医学の学術大会になぜ能?と思った方も多いでしょう。ですが、緩和ケア系の学会でこうした文化的なトピックと緩和ケアの接点を探るセッションが開催されることは珍しくありません。これまでも音楽や地域づくりなど、文化人類学的な演題が行われてきました。緩和ケアという領域の特性として、文化・教育と医療の融合に関する議論は欠かすことができず、「死生観の醸成」といった議論を大切にされている方も多くいます。とはいえ、私たち臨床医がこうした分野を勉強する機会はあまりありませんから、学術大会だからこその学びでもあります。もちろん、緩和ケアの実践的な演題も多くあります。印象的だったのは「オピオイド」に関する発表です。がん治療の成績向上に伴い、オピオイドの使用が長期化する患者さんが増えてきました。読者の中にも、オピオイドを長期使用しているがん患者を外来でフォローされている方がいるのではないでしょうか。海外ではオピオイド依存症が大きな社会問題になっており、不適切使用を防ぐための指導がこれまで以上に重要になっています。発表でも慢性疼痛のマネジメントや長期使用のアセスメント、留意点の議論が活発に行われました。私が運営を手伝った「認知症BPSDの在宅緩和ケア成功の秘訣」のセッションも興味深いものでした。介護者の負担が大きい状況下にあって、医師は緩和ケアをどのように実践すべきか、薬物療法や各職種への働き掛けについて議論が交わされました。質問も活発で、がん以外の疾患に対する緩和ケアの重要性とその実践の難しさに多くの人が直面していると感じました。私は今回の学術大会の実行委員であり、現地で参加しました。オンラインは自宅でリラックスして参加できるメリットがありますが、各分野の第一人者や懐かしい仲間と直接会うことができる現地参加のメリットも再確認できました。コロナの影響で1年以上会えなかった先生方と言葉を交わすこともできました。こうした機会はバーンアウトを防ぐためにも有効だといわれています。開業されて1人で診療している先生も多いことでしょう。知識のアップデートのほか、ネットワーキングの機会としてもぜひ学術大会を有効活用していただければと思います。次の第27回日本緩和医療学会学術大会は2022年7月1日(金)~2日(土)、神戸で開催予定です!今回のTips今回のTips他分野とは一線を画したユニークなトピックに触れられる、緩和ケアの学術大会にぜひご参加ください!

94.

第22回 痛み診療のコツ・治療編(2)光線療法(1)【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第22回 痛み診療のコツ・治療編(2)光線療法(1)前回は、知覚神経と交感神経を同時にブロックする代表的な応用範囲の広い硬膜外ブロックについてお話しました。今回は、理学療法の中でもとくに高齢患者さんに好まれている光線療法ついて述べたいと思います。高齢社会を反映して、帯状疱疹後神経痛や脊椎術後疼痛症候群など本来の疾病が治癒した後に、強い痛みだけが取り残されることも稀ではありません。いわゆる難治性慢性疼痛患者さんの数が、高齢者の人口の増加に比例して急激に増加しています。痛みを訴える患者さんにおいては、病態は類似していても、痛みの性質や程度は個々の患者さんによって実に多様です。そのために、疼痛緩和療法も神経ブロック療法、薬物療法、各種理学療法、インターベンショナル治療など患者さんに合った有効な治療法に苦慮する機会も少なくありません。とくに最近では、高齢者を含めて血液抗凝固薬を服用する患者さんが増加しており、神経ブロックを回避しなくてはならない状況も少なくありません。しかも、痛みで悩まされている患者さんにとっては、より痛みの少ない治療法を望む声も多く見られます。このような背景を考慮すると、疼痛を訴えられている患者さんにとって光線療法は非常に有用な治療法であり、痛みの緩和を得られる機会も想像以上に多くみられます。今回はこの光線療法について解説いたします。光線療法機器の分類(1)低出力半導体レーザーGa-Al-As半導体をレーザー光源とした低出力半導体レーザーには、ソフトレーザリーJQ310、マルチレーザー5 MLF-601、メディアレーザーソフトパルス10などが市販されています。(2)ハロゲンランプ治療器自然灯の一種、ハロゲンランプを光源として、フィルターによって近赤外線のみを出力する装置です。アルファビームALB-200H、スーパーライザーHA-2200LEシリーズ、スーパーライザーPXシリーズのほか、家庭用としても使用できるスーパーライザーminiシリーズなどが使用されています。また、最近では、スーパーライザーPXシリーズも市販され、さらに性能を上げています。(3)キセノンライト治療器ストロボライト光源のキセノン励起光を利用したキセノンライトは、可視光よりも近赤外光を多く発光するので、近赤外線光源として利用されています。ベータエクセルXe10は、パルスモードを有する上、低周波通電機能もあり、光線療法と低周波治療を同時に施行できる特徴があります。光線療法の鎮痛作用機序レーザーの生体への影響は熱作用、光作用が基本になっています。その作用により、以下の効果が期待されています。(1)血流改善作用レーザー光による血管への直接作用、交感神経反射の減弱化、軸索反射による血管拡張などが考えられています。(2)神経伝達抑制作用脊髄後根線維の自発放電発射増加の減少作用、C線維の脱分極の抑制作用などが報告されています。(3)抗炎症作用関節リウマチ患者さんの膝関節滑膜炎症所見が、レーザー照射によって軽減されることが報告されています。(4)創傷治癒作用創傷治癒の促進が実験的、臨床的に認められています。(5)下行性疼痛抑制系の賦活ナロキソンによりレーザー鎮痛効果が抑制されることから、内因性オピオイドや、下行性疼痛抑制系の関与が考えられています。(6)その他神経細胞膜の安定化作用、免疫機能の賦活、筋緊張の緩和などが認められており、鎮痛作用の補助になりそうです。レーザー治療の対象疾患レーザー治療の鎮痛作用機序から考えて、以下のような疾患に有効性が認められています。 帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛、筋・筋膜性疼痛、頭痛、外傷性頸部疼痛症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、腰痛症、術後疼痛症候群、非定形顔面痛、関節リウマチ、肩関節周囲炎、膝関節症などで、実に多岐にわたっています。初期の疼痛緩和療法を怠ると、一生痛みが持続することも稀ではありません。できるだけ早期に鎮痛対策をとることが、その後の痛みの遷延を和らげるという認識が大切です。光線療法が疼痛治療の一環として取り入れられ、多少なりとも痛みに苦しむ患者さんの疼痛緩和療法に役立てられれば幸いです。次回は、痛みとリハビリテーション療法について説明したいと思います。1)花岡一雄他. 日本医師会雑誌.2012:140;2352-23532)花岡一雄他監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S177-178

95.

新型コロナワクチン後、乳房インプラント施行例でみられた免疫反応

 COVID-19ワクチン接種後、ヒアルロン酸注入歴などを有する症例で、まれに痛みや腫脹などの反応が報告されている。皮膚充填剤のような異物は、免疫系が刺激されることで何らかの反応を引き起こす可能性があるという。ドイツ・Marienhospital StuttgartのLaurenzWeitgasser氏らは、COVID-19ワクチン接種後1~3日の間に乳房インプラント施行歴のある4例で注目すべき反応がみられたとし、その臨床的特徴や経過をThe Breast誌オンライン版2021年6月18日号に報告した。ワクチン接種後、ヒアルロン酸注入部位に腫脹 これまでに、モデルナ製ワクチンの1回目および/または2回目の投与直後に、美容目的でのヒアルロン酸注入の経験がある症例で、軟部組織の腫脹や顔面浮腫が報告されている1)。これらはモデルナ製ワクチンの第III相試験中に観察された。ワクチン接種後1~2日の間に報告され、ヒアルロン酸注入の時期はワクチン接種の2週間前から2年前までの範囲であった。また、過去にはインフルエンザワクチン接種後にも、同様の反応が報告されている2)。乳房インプラントや人工関節などについても、さまざまな種類のワクチン接種後に炎症反応を起こす可能性があるという。 ワクチン接種後にヒアルロン酸注入歴などを有する症例で、注目すべき反応がみられた4例についての詳細は以下のとおり。[症例1(76歳)]手術歴:美容的豊胸手術(64ヵ月前)症状:痛み、腫脹(両側)ワクチンの種類と症状発現時期:Pfizer/Biontec製ワクチン、初回接種2日後診断:被膜線維化治療経過:保存的治療(NSAIDs経口投与、凍結療法)→発症後2日で解消[症例2(52歳)]手術歴:美容的豊胸手術(17ヵ月前)症状:痛み、発赤(両側)ワクチンの種類と症状発現時期:Pfizer/Biontec製、初回接種2日後診断:被膜線維化治療経過:保存的治療(抗菌薬・NSAIDs経口投与、凍結療法)→発症後まもなく解消[症例3(52歳)]手術歴:インプラントベースの再建のためのエキスパンダー挿入(9ヵ月前~、最後の挿入は4週間前)症状:痛み(片側)ワクチンの種類と症状発現時期:Johnson & Johnson製、接種3日後治療経過:保存的治療(オピオイド・メタミゾール経口投与)→数日中に解消[症例4(53歳)]手術歴:インプラントベースの再建(2ヵ月前)症状:痛み、炎症、血清腫(片側)ワクチンの種類と症状発現時期:AstraZeneca製、初回接種1日後治療経過:外科的治療(インプラント除去と自家乳房再建、抗生物質静脈投与)→術後の経過は順調、数日後に退院 著者らは、世界中で数百万回の新型コロナワクチン接種が行われた後、インプラント施行歴のあるごく少数で観察されたものであり、大きな懸念はないだろうとしたうえで、ワクチン接種後のインプラントに関連する免疫反応を注意深く観察するよう患者に助言する必要があるのではないかと指摘。同時に、インプラントに対するワクチン接種後の反応は治療により管理可能で、COVID-19感染に伴うリスクがこれらの非常にまれにしか観察されない反応によってもたらされるリスクをはるかに上回っていると伝えるべきだと結んでいる。

96.

片頭痛の急性期治療、オピオイドは有効性示されず/JAMA

 片頭痛の急性期治療において、トリプタン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、アセトアミノフェン、ジヒドロエルゴタミン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬、lasmiditan(5-HT1F受容体作動薬)による薬物療法のほか、いくつかの非薬物療法は、痛みや機能の改善をもたらすが、これらを支持するエビデンスの強さ(SOE)にはばらつきがみられ、オピオイドなど他の多くの介入のエビデンスには限界があることが、米国・メイヨークリニックのJuliana H. VanderPluym氏らの調査で示された。著者は、「現行のガイドラインでは、片頭痛の急性期治療にオピオイドやブタルビタール含有配合薬は推奨されていないが、オピオイドはさまざまな病態の急性期患者に頻繁に処方されている。今回の解析では、オピオイドは全般にSOEが低いか不十分であり、他の治療法やプラセボに比べ有害事象の割合が高いことが示された。したがって、現行のガイドラインのオピオイド非推奨に変更はない」と述べている。JAMA誌2021年6月15日号掲載の報告。急性期治療の有益性と有害性をメタ解析で評価 研究グループは、反復性片頭痛の急性期治療の有益性と有害性を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(米国医療研究品質庁[AHRQ]の助成による)。 9つのデータベースを用いて、その設立から2021年2月24日の時点までに登録された文献を検索した。対象は、成人(年齢18歳以上)患者の片頭痛発作の急性期治療について、治療終了後4週以内の短期的な有効性と有害性を評価した無作為化試験および系統的レビューの論文であった。 試験の背景因子を抽出するために、標準化されたデータ抽出用の書式が開発され、これを用いてレビュアーが個別に各試験の詳細なデータを抽出した。別のレビュアーが抽出データをレビューし、矛盾の解決を行った。 メタ解析では、治療法を直接比較した試験を統合するために、解析に含まれる試験数が4件以上の場合は、DerSimonian-Laird法による変量効果モデルとHartung-Knapp-Sidik-Jonkman法による分散補正が使用され、試験数が3件以下の場合はMantel-Haenszel法に基づく固定効果モデルが用いられた。 主要アウトカムは、無痛、痛みの軽減、持続的な無痛、持続的な痛みの軽減、有害事象とされた。SOEは、AHRQ Methods Guide for Effectiveness and Comparative Effectiveness Reviewsで評価し、「高」「中」「低」「不十分」に分類された。オピオイドのSOEは低または不十分 トリプタンとNSAIDのエビデンスは、15の系統的レビューから要約された。これ以外の介入の解析には、115件の無作為化臨床試験(121論文、2万8,803例)が含まれた。 プラセボと比較して、トリプタンとNSAIDは2時間後および1日後の痛みが統計学的に有意に軽減し(SOE:中~高)、軽度または一過性の有害事象のリスクが増加した。 また、プラセボに比べ、CGRP受容体拮抗薬(SOE:低~高)、lasmiditan(高)、ジヒドロエルゴタミン(中~高)、エルゴタミン+カフェイン(中)、アセトアミノフェン(中)、制吐薬(低)、ブトルファノール(低)、トラマドール+アセトアミノフェン(低)は有意に痛みを軽減し、軽度有害事象が増加した。オピオイドに関する知見は、SOEが低または不十分であった。 非薬物療法では、遠隔電気神経調節(REN)(SOE:中)、経頭蓋磁気刺激(TMS)(低)、外部三叉神経刺激(eTNS)(低)、非侵襲的迷走神経刺激(nVNS)(中)が、有意に痛みを改善した。非薬物療法と偽刺激(sham)には、有害事象について有意な差は認められなかった。

97.

世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」【下平博士のDIノート】第76回

世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」今回は、持続性がん疼痛治療薬「ジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤(商品名:ジクトルテープ75mg、製造販売元:久光製薬)」を紹介します。本剤は、がん疼痛に適応を有する世界初の経皮吸収型NSAIDs製剤であり、簡便かつ効率的に疼痛をコントロールすることが期待されています。<効能・効果>本剤は、各種がんにおける鎮痛の適応で、2021年3月23日に承認され、5月21日に発売されました。<用法・用量>通常、成人に対し、1日1回2枚(ジクロフェナクナトリウムとして150mg)を胸部、腹部、上腕部、背部、腰部または大腿部に貼付し、1日(約24時間)ごとに貼り替えます。なお、症状や状態により1日3枚(ジクロフェナクナトリウムとして225mg)まで増量可能です。本剤使用時はほかの全身作用を期待する消炎鎮痛薬との併用は可能な限り避け、やむを得ず併用する場合は必要最小限の使用にとどめ、患者の状態に十分注意する必要があります。<安全性>国内臨床試験において、臨床検査値異常を含む主な副作用として、適用部位そう痒感(5%以上)、適用部位紅斑、上腹部痛、AST上昇、ALT上昇、クレアチニン上昇(1~5%未満)などが報告されています。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、出血性ショックまたは穿孔を伴う消化管潰瘍、消化管の狭窄・閉塞、再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少症、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、紅皮症(剥脱性皮膚炎)、急性腎障害(間質性腎炎、腎乳頭壊死など)、ネフローゼ症候群、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、重篤な肝機能障害、急性脳症、横紋筋融解症、脳血管障害が設定されています(いずれも頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.1日1回、通常2枚を、胸、おなか、上腕、背中、腰、太もものいずれかの部位に貼って使用します。症状によって枚数が増えることもありますが、医師から指示された枚数を守り、一度に3枚を超えないように使用してください。2.創傷面または湿疹・皮膚炎などが見られる部位および放射線照射部位への貼付は避けてください。皮膚への刺激を減らすために、貼り替える際は、前回とは異なる部位を選択してください。3.この薬は1枚ずつ包装されています。貼る直前まで開封しないでください。途中で薬がはがれ落ちた場合は、ただちに新しいものを貼り、次の貼り替え予定時間には、再度新しいものに貼り替えてください。4.使用中に眠気、めまいが生じたり、かすみがかったように見えたりする場合は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないでください。貼った部位に赤みや痒みが出るなどつらいことがありましたら、早めにご相談ください。5.自己判断によるほかの消炎鎮痛薬との併用は避けてください。市販の風邪薬などを使用する場合は事前に相談してください。6.過去に風邪薬や消炎鎮痛薬を使用して喘息のような症状が現れたことがある方や、妊婦または妊娠している可能性のある女性は使用できません。<Shimo's eyes>本剤は、世界初のNSAIDsの経皮吸収型持続性がん疼痛治療薬です。同成分を含む局所作用型製剤ジクロフェナクナトリウムテープ(商品名:ボルタレン)とは異なり、全身投与型の製剤です。有効成分が全身の血中に移行するため、禁忌はジクロフェナク経口薬とほぼ同じように設定されています。NSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬は、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」において、軽度のがん疼痛に対する導入薬として推奨されています。中等度~高度のがん疼痛で、オピオイド鎮痛薬では十分な鎮痛効果が得られない、または有害事象のためオピオイド鎮痛薬を増量できない場合などでは、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬の併用が推奨されています。本剤は、1日1回の貼り替えで持続的な効果が期待できるため、患者・介護者の双方にとって利便性が高いと考えられます。3枚貼付時のジクロフェナクの全身曝露量が、同成分の徐放性カプセル剤(商品名:ナボールSRカプセル37.5)と同程度ですが、血中濃度が定常状態に達するまで7日ほどかかるため、効果判定のタイミングに注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ジクトルテープ75mg

98.

慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第3回

第3回 慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?―Key Point―皮膚に炎症がある場合は皮膚疾患である可能性が高い82歳男性。2ヵ月前から出現した痒みを訴えて来院されました。薬の副作用を疑い内服薬をすべて中止しましたが、改善がありません。抗ヒスタミン薬を中止すると痒みがひどくなります。一部の皮膚に紅斑を認めますが、皮疹のない部位もひどく痒いようです。手が届かない背中以外の場所には皮膚をかきむしった跡がありました。皮膚生検により菌状息肉腫(皮膚リンパ腫)と診断されました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!【慢性掻痒を起こす疾患】(皮膚に炎症あり)アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染(皮膚に炎症なし)胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】慢性掻痒の原因を見極める、診断へのアプローチ■鑑別診断その1皮膚に目立った炎症があるアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染家族や施設内に同様の掻痒患者がいる場合には疥癬を疑う。皮疹の部位が非常に重要である。陰部、指の間、腋窩、大腿、前腕は疥癬の好発部位である。皮膚に問題がない場合でも、慢性的にかきむしると苔癬化、結節性そう痒、表皮剥脱、色素沈着が起きることがある。■鑑別診断その2正常に近い皮膚なら全身性疾患によるそう痒を考え、以下を考慮する胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤薬剤が慢性掻痒の原因となることがあるかゆみを起こす薬剤:降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、サイアザイド)、NSAIDs、抗菌薬、抗凝固薬、SSRI、麻薬上記の鑑別疾患時に必要な検査と問診検査:CBC+白血球分画、クレアチニン、肝機能、甲状腺機能、血沈、HIV抗体、胸部レントゲン写真問診:薬剤歴■鑑別診断その3慢性的なひっかき傷がある時は、以下の疾患を想起すること心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)背部錯感覚症は背中(Th2~Th6領域)に、brachioradial pruritusは前腕部に激烈なかゆみを起こす。原因は不明。【STEP3】治療や対策を検討する薬が原因の可能性であれば中止する。以下3点を日常生活の注意事項として指導する。1)軽くてゆったりした服を身に着ける2)高齢者の乾皮症(皮脂欠乏症)は非常に多い。皮膚を傷つけるので、ナイロンタオルを使ってゴシゴシと体を洗うことを止める3)熱い風呂やシャワーは痒みを引き起こすので避ける入浴後は3分以内に皮膚軟化剤(ワセリン、ヒルドイド、ケラチナミン、亜鉛華軟膏)や保湿剤を塗る。皮膚の防御機能を高め、乾皮症やアトピー性皮膚炎に有効である。アトピー性皮膚炎にはステロイド薬と皮膚軟化剤の併用が有効である。副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡、ステロイド紫斑)に注意する。Wet pajama療法はひどい皮膚のかゆみに有効である。皮膚軟化剤または弱ステロイド軟膏を体に塗布した後に、水に浸して絞った濡れたパジャマを着て、その上に乾いたパジャマを着用して寝る。ステロイドが皮膚から過剰に吸収される可能性があるので1週間以上は行わない。夜間のかゆみには、抗ヒスタミン作用があるミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)が有効ガバペンチン(同:ガバペン)、プレガバリン(同:リリカ)は神経因性のそう痒に有効である。少量のガバペンチンは透析後の痒みに効果がある。<参考文献・資料>1)Yosipovitch G, et al. N Engl J Med. 2013;368:1625-1634.2)Moses S, et al. Am Fam Physician. 2003;68:1135-1142.

99.

勤務医と開業医の二択じゃない!お金と時間が手に入るキャリアパス【医師のためのお金の話】第45回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。最近、友人の医師がラーメン店を開業しました!ラーメン酔拳「代打は俺」しかも、普段は医師の友人自らが店頭に立ってラーメンを作る、というガチ開業です。私が医師になった平成ひとケタ年台には考えられないキャリアパスですね。彼は決して医療で「詰んでしまった」わけではありません。むしろ、ラーメン店を開業する直前まで、基幹病院に勤務する脊椎外科医として第一線で臨床に従事していました。また、基幹病院の前職は大学のスタッフで、後進指導とアカデミアを極めるべく多忙な日々を送っていました。医師からラーメン屋へ。ここまで極端な例はまだ多くないですが、皆さんも今後のキャリアパスを考えるうえで参考になるのではないでしょうか。自分の人生を生きるため、勤務医を卒業友人が勤務医を卒業したのは決して衝動的なものではなく、5年ほど前から少しずつ計画していたそうです。今から6年前の2015年、彼は日本整形外科学会のトラベリングフェローに選出され、アカデミアのど真ん中にいました。しかし、その実態は大学の業務で多忙を極めており、予定がすべて医局行事で埋め尽くされていたのです。自分のやりたいことができない不自由さと拘束感はハンパではなく、一度限りの自分の人生を生きている実感を持てなかったそうです。そして、多忙は一種の麻薬です。ブラック企業でもそうですが、過度の業務は感覚を麻痺させてしまいます。自分で能動的に考える習慣がなくなってしまい、他人から与えられた仕事やスケジュールをこなすことが自分の幸せであると思い込んでしまうのです。そのような状態が続くと、気付かないうちにダメージが蓄積します。彼はそのような状態に陥ってしまい、自分の人生を自らの意志で生きるため、勤務医を卒業することを決心しました。なぜラーメン店?「4つのクワドラント」のどこを目指すか イメージ『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)で有名なロバート・キヨサキは、就業者のカテゴリーとして以下の4つを提唱しています。1)従業員(=勤務医)2)自営業者(=開業医)3)ビジネスオーナー4)投資家医師の場合、勤務医は1)従業員に、開業医は2)自営業者に分類されますが、両者とも時間の融通をつけにくい働き方です。一方、3)ビジネスオーナーと4)投資家は、お金と時間の自由を手に入れやすい属性だといえます。医師がキャリアパスを考えるうえでは、勤務医と開業医の二択と思われがちです。しかし、自分の人生を能動的に生きるためには、お金と時間の自由が手に入りやすいキャリアパスを考える必要があります。友人はラーメン店を多店舗展開することに成功すれば、ビジネスオーナーへの道が開ける、と考えたのです。医師免許を生かした「バーベル戦略」もう1つ、参考になる考え方が、ナシーム・ニコラス・タレブが著書『反脆弱性―不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(ダイヤモンド社)の中で提唱した「バーベル戦略」です。医師の収入は安定していますが、青天井の報酬を受け取ることは難しいでしょう。一方で、医師の安定性を担保にして、ハイリスク・ハイリターンな人生を掛け合わせると、青天井の報酬にチャレンジできるというのがバーベル戦略の考え方です。要約すると、人は中庸なリスクを取りたがるが、「安全なものを多く」と「ハイリスク・ハイリターンのものを少し」を組み合わせることが最もリターンを得やすい、という理論です。友人はこのバーベル戦略を実践しており、ラーメン店を経営しながら医師としてのアルバイトを週1回続けています。この組み合わせによって、お店が赤字であっても家賃は医師のアルバイト代で賄える、という命綱を持った状況で開業しました。これは通常のラーメン店の店主とは決定的に異なる点です。勤務医を辞めても高額でアルバイトができる医師が起業するのは、通常よりもリスクが抑えられるのです。他者にチャンスを与え、自分も能動的に生きる友人は福岡県の糸島のラーメン店で自ら修業するなどして周到に開業準備をしただけあって、店は順調な滑り出しです。そんな友人が地味にうれしかったのは、店のアルバイトとして地元に雇用を生んだことだといいます。そして、「人生がなかなかうまくいかない」と悩む20代前半の彼らを見ていると、何か力になれないかと考えるそうです。「彼らが店長になって人生がうまくいくきっかけになれば大泣きしてしまうかもしれない」と言っているのを聞いて素直に感動しました。他人に人生のチャンスを提供して、自分の人生も能動的に生きることができる…。まさに彼の決断は、自分も含めて関わる人たちの人生に大きな影響を与えたことになります。キーワードは「自由な発想」医師免許という強力なツールがあれば、考え方を少し変えてみるだけで驚くほど大きな影響を、自分も含めた周囲に及ぼすことが可能です。日常の臨床に忙殺されて、その日を生きるのに精いっぱいの人も多いでしょう。しかし、人生は一度限りです。せっかく天から与えられた人生を能動的に生きるためにも、周囲にいる「少し変わった」人を観察して参考にするのもよいかもしれません。

100.

第57回 コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下

<先週の動き>1.コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下2.21日から、職場や大学での一般向けワクチン接種開始へ3.75歳以上の自己負担2割の導入へ、医療制度改革関連法案成立4.オンライン診療指針、かかりつけ医は初診から原則解禁へ5.患者の医療情報の共有システム作成へ/データヘルス改革6.外来機能報告でかかりつけ医との連携へ/社会保障審議会1.コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下厚生労働省は4日に2020年の人口動態統計を発表した。2020年の出生数は84万832人で、前年の86万5,239人より2万4,407人減少し、出生率(人口千対)は6.8(前年7.0)となった。また、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は1.34(前年1.36)と、5年連続で低下していることが明らかとなった。一方、死亡数は137万2,648人で、前年の138万1,093人より8,445人減少し、死亡率(人口千対)は11.1(前年11.2)だった。これにより算出される、自然増減数(出生数と死亡数の差)は-3万1,816人(前年比-1万5962人)となり、自然増減率(人口千対)は-4.3で、前年より0.1低下、14年連続で減少している。また2020年の婚姻件数の概数値は前年比12.3%減の52万5,490件と戦後最少となった。政府は、結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」のため、先駆的な少子化対策を行う地方公共団体を支援しているが、コロナウイルス感染拡大に伴い、より一層のテコ入れが必要になると考えられる。(参考)20年出生率1.34、5年連続低下 13年ぶり低水準(日経新聞)「出生率」去年1.34 5年連続で前年下回る 「出生数」は最少に(NHK)資料 令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚労省)2.21日から、職場や大学での一般向けワクチン接種開始へ職場や大学などでの新型コロナウイルスワクチン接種について、政府が方針を示した。文部科学省は、各国公立大学法人や各地方公共団体に向けて、職域接種の要望確認についての意向を調査しており、先月26日時点で、全国およそ350の大学が、接種会場としてキャンパスなどを提供できると回答している。なお、附属病院を持たない大学などでは打ち手の確保が課題となっている。国は大学が接種を進める際は、医師や看護師の事前確保を求めているが、人材の確保やワクチンの保管など開始までにさまざまな課題があると見られる。(参考)医学部ある大学、接種計画を続々表明…「ない」大学は打ち手確保に悩む(読売新聞)職場でのワクチン接種 6月21日開始に向け 企業の準備本格化(NHK)資料 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関する職域接種の要望確認について(調査)(文部科学省)3.75歳以上の自己負担2割の導入へ、医療制度改革関連法案成立4日、課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、参議院本会議で可決、成立した。当初は現役世代の負担軽減を目指したが、削減効果は720億円で1人当たり年700円と大きくはない。2022年以降、団塊世代が後期高齢者となるにつれて、後期高齢者の医療費はさらなる増大が見込まれるため、健保連は早期の施行を強く要望しているが、医師会などは高齢者の受診抑制を懸念しており、今後も見直しを巡って議論が重ねられるだろう。(参考)75歳以上医療費「自己負担2割」改革法成立 22年度後半から(毎日新聞)わずか30円の改革、通過点(日経新聞)医療保険制度改革関連法案に関する資料(健保連)4.オンライン診療指針、かかりつけ医は初診から原則解禁へ昨年4月から臨時特例的に電話・オンライン診療が大幅に拡大されているが、実施件数は毎月1万7,000件数程度と伸び悩んでいる。この中には、本来ならば処方できない「麻薬」「向精神薬」の処方箋、処方日数の上限(7日間)を守らない処方箋などが含まれており、不適切診療を繰り返す医療機関を問題とする声が上がっている。政府は6月2日に新たな成長戦略実行計画案を公表し、オンライン診療については、「安全性と信頼性をベースに、かかりつけ医の場合は初診から原則解禁する」とした。これに対して、日本医学会連合は「オンライン診療の初診に関する提言」を発表し、不適切に遠隔医療が行われ、患者・家族に不利益が生じてはならないとし、「オンライン診療の初診に適さない症状」および「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を作成した。今後、安全性や有効性が確認された疾患については、2022年度の診療報酬改定で、オンライン診療料の算定対象に加えることが検討される見込み。(参考)オンライン診療料、対象疾患の追加を検討へ 政府、6月中旬に新成長戦略実行計画(CBnewsマネジメント)資料 オンライン診療の初診に関する提言(日本医学会連合)第15回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚労省)5.患者の医療情報の共有システム作成へ/データヘルス改革厚労省は、4日に持ち回り審議されたデータヘルス改革推進本部がまとめた工程表を発表した。新型コロナウイルス感染症のため自宅で療養している患者が、医師の健康観察を受けられるように、保健所と医療機関の間で情報共有できるツールを開発することが明らかになった。連携を進めることによって、自宅療養患者の急変についても迅速な対応につなげる。また2022年度からは、新型コロナ以外の感染症についても情報共有に着手する。2024年度にはすべての感染症で保健所と医療機関の連携体制の確立を目指す。このほか、マイナポータルなどを通じて、2021年10月からは国民が自身の特定健診の結果や処方・調剤情報についても確認できるようになるとともに、患者本人が閲覧できる情報(健診情報やレセプト・処方箋情報、電子カルテ情報、介護情報等)については、医療機関や介護事業所でも閲覧可能とする仕組みが今後数年で整備される見通し。(参考)自宅療養者の情報、地域の医療機関が共有のシステム作成へ…容体急変に即応(読売新聞)コロナ自宅療養者、医師が健康観察 保健所と情報共有(日経新聞)データヘルス改革に関する工程表について(データヘルス改革推進本部)6.外来機能報告でかかりつけ医との連携へ/社会保障審議会3日に開催された社会保障審議会医療部会で、医療法等の改正を受けて、今後の医療提供体制改革に向けた検討スケジュールが討議された。長時間労働の勤務医の労働時間短縮および健康確保のための措置を2024年度から実施するため、都道府県による特例水準対象医療機関の指定や医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価の整備などが行われる。また、医療関係職種の業務範囲の見直しを行い、タスクシフト/シェアの推進を進めていく。外来医療の機能については、医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める外来機能報告制度の創設を2022年度から開始することが明らかになった。実際に行われている外来医療の機能に応じて、それぞれの医療機関がどのような機能を発揮すべきかの役割分担を明確化し、『かかりつけ医機能』を担う医療機関から、医療資源を重点的に活用する外来を担う医療機関につないでいくなどの機能分化・連携を推進する。(参考)医療制度を止めたオーバーホールは不可能、制度の原点を常に意識し外来機能改革など進める―社保審・医療部会(GemMed)国が4600万円をかけてかかりつけ医機能の好事例を収集 その狙いの先にあるものとは?(Beyondhealth)第79回社会保障審議会医療部会(令和3年6月3日)

検索結果 合計:352件 表示位置:81 - 100