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オピオイド使用障害の妊婦、ブプレノルフィンvs.メサドン/NEJM

 オピオイド使用障害の妊婦では、ブプレノルフィンの投与はメサドンと比較して、新生児の有害アウトカム発生のリスクは低下するが、母体における有害アウトカムのリスクに差はないことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のElizabeth A. Suarez氏らの調査で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年12月1日号で報告された。米国メディケイド受給者対象のコホート研究 研究グループは、オピオイド使用障害の妊婦において、2つのオピオイド作動薬が新生児および母体のアウトカムに及ぼす影響を比較する目的で、コホート研究を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 対象は、2000~18年に米国の公的保険(メディケイド)に加入していた47州とワシントンDCの妊婦であった。2つの薬剤への曝露は、妊娠前期(妊娠19週まで)、妊娠後期(妊娠20週~分娩前日)、分娩前30日間に評価が行われた。 新生児の有害アウトカムは、新生児薬物離脱症候群、早産、在胎不当過小、低出生時体重とされた。また、母体の有害アウトカムは、帝王切開と重度の母体合併症(妊娠に起因、または妊娠によって悪化した潜在的に生命を脅かす病態の複合)であった。 新生児および母体のアウトカムのリスク比は、傾向スコアのオーバーラップ重み付け法を用いて交絡因子で補正された。妊娠前期と後期で、有害アウトカムの発生状況が一致 生児出生の妊娠254万8,372件が解析の対象となった。妊娠前期に1万704人がブプレノルフィン、4,387人がメサドンの曝露を受けていた。また、妊娠後期には1万1,272人がブプレノルフィン、5,056人がメサドンに曝露されていた(分娩前30日間は、それぞれ9,976人および4,597人)。  分娩前30日間の曝露における新生児薬物離脱症候群の発生は、ブプレノルフィン曝露児の52.0%、メサドン曝露児の69.2%で認められ(補正後相対リスク[aRR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.71~0.75)、ブプレノルフィン曝露児で良好だった。 妊娠前期の曝露における早産の発生は、ブプレノルフィン曝露児の14.4%、メサドン曝露児の24.9%で(aRR:0.58、95%CI:0.53~0.62)、また在胎不当過小の発生がそれぞれ12.1%および15.3%に(0.72、0.66~0.80)、低出生時体重の発生は8.3%および14.9%で(0.56、0.50~0.63)、いずれもブプレノルフィン曝露児で少なかった。 また、妊娠前期の曝露における帝王切開の発生は、ブプレノルフィン曝露妊婦の33.6%、およびメサドン曝露妊婦の33.1%に(aRR:1.02、95%CI:0.97~1.08)、また、重度の母体合併症の発生はそれぞれ3.3%および3.5%で(0.91、0.74~1.13)、いずれも両群間に差はみられなかった。 妊娠後期の有害アウトカムの結果は妊娠前期と一致しており、早産(ブプレノルフィン曝露児14.3% vs.メサドン曝露児25.0%、aRR:0.57[95%CI:0.53~0.62])、在胎不当過小(13.0% vs.15.6%、0.75[0.69~0.82])、低出生時体重(8.2% vs.14.4%、0.56[0.50~0.62])の発生はいずれもブプレノルフィン曝露児で良好で、帝王切開(33.1% vs.32.7%、1.03[0.97~1.09])、重度の母体合併症(3.4% vs.3.6%、0.93[0.77~1.14])の発生については、2つの薬剤の曝露妊婦で差がなかった。 著者は、「この結果は、子宮内でのブプレノルフィン曝露がメサドン曝露よりも新生児に良好なアウトカムをもたらすとする先行研究(MOTHER試験)の知見を支持するものである」とし、「この差の生物学的メカニズムは不明だが、ブプレノルフィン(部分作動薬)とメサドン(完全作動薬)の薬理作用メカニズムの違いが、これらの知見の妥当性を裏付ける可能性がある」と指摘している。

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低用量徐放性モルヒネ、COPD患者の慢性息切れを改善せず/JAMA

 重度の慢性的な息切れを伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、低用量徐放性モルヒネの毎日の使用はプラセボと比較して、治療開始から1週間後までで、最も重度な息切れに有意な改善は認められず、1日の平均歩数にも有意な変化はなかったことが、スウェーデン・ランド大学のMagnus Ekstrom氏らが実施した「BEAMS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年11月22・29日合併号に掲載された。オーストラリアの無作為化プラセボ対照比較試験 BEAMS試験は、オーストラリアの20施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2016年9月~2019年11月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、COPDと診断され、呼吸器内科医によって確定された根本的な原因に対する至適な治療を行っても重度の慢性的息切れ(修正MRC息切れスケールのスコア3または4[「平坦な道を約100ヤード〈91.4m〉または数分歩くと息切れのため立ち止まる」「息切れがひどくて家から出られない」「衣服の着替えをする時にも息切れがする」])がみられる患者であった。 被験者は、徐放性モルヒネ8mg/日、同16mg/日、プラセボを1週間経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、ベースラインの受診時に手首にアクチグラフ装置が装着された。さらに、2週目と3週目にも、それぞれ徐放性モルヒネを1週目の用量に加えて8mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、3週目にはモルヒネ8mg/日、同16mg/日、同24mg/日、同32mg/日、プラセボを投与する5つの群に分けられた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した徐放性モルヒネ投与例における、患者報告による最も重度な息切れの強度の変化とされ、ベースライン(-3~-1日目)と投与開始1週目(5~7日目)の平均スコアを用いた数値スケール(0[なし]~10[最も悪いまたは最も強い])で評価した。副次アウトカムには、アクチグラフを用いた1日の歩数の変化が含まれ、ベースライン(-1日目)と3週目(19~21日目)の平均歩数が比較された。漸増された4つの用量で、平均1日歩数に差はない 156例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:67~78]、女性48%)が主解析に含まれ、モルヒネ8mg群に55例、同16mg群に51例、プラセボ群に50例が割り付けられた。138例(48例、43例、47例)が1週目の投与を完了した。修正MRC息切れスケールのスコア3が121例(78%)、スコア4は35例(22%)だった。 1週目における最も重度な息切れの強度の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群で有意な差はなく(平均群間差:-0.3、95%信頼区間[CI]:-0.9~0.4)、同16mg群とプラセボ群の間にも差は認められなかった(-0.3、-1.0~0.4)。 3週目における平均1日歩数の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群(平均群間差:-1,453歩、95%CI:-3,310~405)、同16mg群とプラセボ群(-1,312歩、-3,220~596)、同24mg群とプラセボ群(-692歩、-2,553~1,170)、同32mg群とプラセボ群(-1,924歩、-4万7,699~921)のいずれにも有意な差はみられなかった。 治療関連有害事象は、1週目にモルヒネ8mg群の64%、同16mg群の78%、プラセボ群の48%で発現し、多くが一般的なモルヒネ関連有害事象(便秘、疲労、めまい、吐き気、嘔吐など)であった。有害事象による投与中止は、それぞれ2例、5例、0例で認められた。入院や死亡を含む重篤な治療関連有害事象は、全用量のモルヒネ群が139例中46例(33%、85件)、プラセボ群は17例中2例(12%、2件)でみられた。 著者は、「今後は、モルヒネは特定のCOPD患者に息切れの軽減をもたらすか、より高用量のモルヒネによって利益を得る患者は存在するかを検討する研究や、重度の息切れにおける短時間作用型オピオイドの役割を明らかにするための研究が必要である」としている。

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余った薬が子どもの健康リスクに

 飲み残した薬の処分の仕方が分からずに、家の中に置いたままにしている人が少なくないという実態が報告された。研究者らは、それらを幼児が口にした場合に健康被害が生じるリスクがあるとして、注意を喚起している。 米ミシガン大学のSarah Clark氏らは、家庭内での残薬の実態を把握するため、全国規模の調査を実施。その結果、約半数の世帯の保護者が、「処方薬の残薬がある」と回答した。「薬が不要になったり、あるいは有効期限が切れた薬さえも、多くの人がそれらを処分せずに保管していることが明らかになった。それらを子どもが誤って飲み込んだ場合、健康上のリスクが生じかねない」とClark氏は語っている。同氏によると、子どもたちの残薬の服用は意図しない中毒の主要な原因の一つであるばかりか、年長の子どもたちの場合には、仲間に渡したり意図的に誤った使い方をするリスクもあるという。 この調査は2022年8~9月に、18歳以下の子どもを持つ2,023人の保護者を対象に実施され、家庭での市販薬や処方薬の取り扱いに関する多岐にわたる質問がなされた。結果の詳細は、同大学のサイト内に掲載されている。それによると、例えば、有効期限が切れた市販薬は効果がなくなると回答した保護者は半分に満たないことが分かった。さらに、そのような薬は安全でないと考えている保護者は約20%に過ぎなかった。 「子どもに何かしらの症状が現れて薬が必要になるまで、保護者はその薬の有効期限が切れていることに気付かないことが多いのではないか。そうだとすると、そのような状況になった時、保護者は新しい薬を買いに走るか、期限切れの薬を子どもに与えるか、どちらかを選択しなければならない」とClark氏は述べる。そして、調査の結果は、保護者の3分の1強は「子どもに有効期限切れの薬を与えることは絶対に許されない」と答え、他の3分の1は「有効期限が切れてから3カ月以内なら与えても問題ない」とし、ほぼ同数の保護者は「有効期限を6カ月以上過ぎた薬でも問題ない」と答えた。 この結果についてClark氏は、「医薬品は時間の経過とともに有効性を失う。そのために、製造業者がその医薬品が安全で効果的であることを保証する期間として、有効期限が設けられている。期限切れの薬を子どもに与えようとしている親は、それが本当に有効なのか疑問を持つべきだ」と述べている。 また、60%以上の保護者が、市販薬よりも処方薬の残薬の取り扱いに注意を払っていると答えていたが、約4人に3人はその適切な方法を知らないと回答し、約7人に1人はトイレに流していた。Clark氏によると、残薬の最も安全な処分方法は、医療機関や薬局に持参すること、もしくは米麻薬取締局が定期的に行っている全国薬物回収デーの際に、定められた場所に持ち込むことだという。「未使用の薬または期限切れの薬は公共の安全に関わる問題であり、子どもたちに健康上のリスクをもたらす。子どもが病気になるリスクや環境への悪影響を減らすために、不要になった薬は保護者が適切に処分することが重要」と同氏は強調する。 一方、残薬を減らすためには、処方箋に書かれている薬を薬局で分割調剤してもらったり、市販薬を買いだめしないといった方策が考えられる。また研究者らは、薬は服用方法と有効期限の情報を含めて元のパッケージに保管し、年に2回は有効期限が切れていないかを確認すると良いとアドバイスしている。さらに、特に年長の子どもがいる家庭では、鎮痛剤や睡眠薬などを子どもが持ち出している可能性にも注意が必要だという。

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第24回 痛み診療のコツ まとめ【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第24回 痛み診療のコツ まとめ本連載では、痛みの原因やその内容について23回にわたって概説してまいりました。前回は治療編(2)として、社会復帰に向けた痛みのリハビリテーション療法ついてお話しました。今回は4年余りにわたってお話しました痛みについてのまとめとしてお話ししたいと思います。患者さんには「痛み」の理解を痛みを訴える患者さんにおきましては、病態は類似していても、痛みの性質や程度は個々の患者さんによって実に多種多様です。そのために、疼痛緩和療法も神経ブロック療法、薬物療法、各種理学療法、光線療法、インターベンショナル療法など患者さんに合った有効な治療法を選択する必要があります。それと共に患者さんには、痛みについてのご理解を得ていただくことが大切です。「天気痛」とか「気象痛」とか言われております自然による脅威も存在します。昨今に感じるような気温、湿度、気圧などの激しい変化は、当然ながら、自律神経系の不安定性を増強して、痛みの感受性を増強し、より痛みを訴えられる患者さんが多くなっております。そのような場合には、自分でできる鎮痛法、たとえば鎮痛薬を許容範囲内で増やすとか受診の機会を多く持つとかなどをさまざまな対処法があることをご理解していただくことは、患者さんの不安感を取り除き、安心感や自律神経系の改善に繋がり、痛みの緩和のためにも良い方向に働きます。第5のバイタルサインは「痛みの有無とその程度」実臨床の場におきましては、体温、血圧、脈拍、呼吸の基本的な4つのバイタルサインと共に、第5番目のバイタルサインとして、「痛みの有無とその程度」に関心が持たれるようになってきました。しかも、近年、新しく慢性疼痛に対する適応が認められました強オピオイド製剤や新たなトラマドール製剤も使用されるようになってきたこともあり、ますます慢性疼痛への対策の必要性が注目されてきております。2021年10月2日には、わが国における痛み関連8学会(日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本慢性疼痛学会、日本腰痛学会、日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本ペインリハビリテーション学会、日本頭痛学会)によります日本痛み関連学会連合が発足し、より強い絆の下で連合として痛みに立ち向かう姿勢を広く世に示してきております。また、国際疼痛学会では、新たな痛みの定義を発表し、より理解しやすい痛みの概念が出来上がっています。それに加えて、新しい痛みの概念として、“nociceptive pain”が提唱され、やはり、日本痛み関連学会連合が「痛覚変調性疼痛」と和訳して、その解釈としては「侵害受容の変化によって生じる痛みであり、末梢侵害受容器の活性化を引き起こす組織損傷またはその恐れがある明確な証拠、あるいは痛みを引き起こす体性感覚系の疾患や障害の証拠が存在しないにもかかわらず生じる痛み」として定義されました。このシリーズの初めに記載した痛みの種類としての侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に加えて痛覚変調性疼痛が登場しました。この痛覚変調性疼痛は単独もありうるかとも思いますが、他の疼痛たとえば侵害受容性疼痛と同時に訴えることもあります。この疼痛の位置付けとしては、中枢性感作などの脳機能の変化から発生する痛覚の変調による痛みと考えられております。高齢社会では痛みへの早期介入が重要痛みは、患者さん本人しかわからないし、患者さんの我慢に頼る時期は終わっています。特に長い人生を歩まなくてはならない高齢社会では、できるだけ早期に疼痛治療を開始することが痛みの軽減に連なり、その後の患者さんの人生にとっても良い結果を導くことと確信しております。本連載が、わが国において痛みを有されておられる患者さんの診断と治療へのさらなる発展に対して、多少なりともお役立てられれば望外の喜びです。今回がこの痛みシリーズの最終回となります。24回のご愛読、誠にありがとうございました。1)三木健司. ペインクリニック. 2022;43:1021-1022.

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お薦めのマニュアル本を紹介します【非専門医のための緩和ケアTips】第40回

第40回 お薦めのマニュアル本を紹介しますここ数年で緩和ケアに関連した書籍が一気に増えました。これに併せて「どの本が自分に合うのかわからない」という声も聞きます。日本語で書かれた緩和ケアの本はほぼすべて目を通している私が、お薦めの「緩和ケア本」をご紹介します。今日の質問私は診療所で働いており、訪問診療で緩和ケアを必要とする場面が多いため、本を読んで勉強したいのですが、本が多過ぎて選べません。お薦めを教えてください。メ在宅での緩和ケアは多職種連携がより重要となるため、医師はもとより、看護師やリハビリスタッフも、ある程度の共通知識を持っておきたいものです。こんなケースでは、次の2点が重要です。1)多くの分野での現場対応を網羅症状緩和のような比較的緊急性の高い対応が求められる場面での、具体的な処方内容や注意点について記載されていることが大切です。多職種のスタッフが何冊も専門書を読むのは現実的ではないので、1冊で多くの分野を網羅していることも重要でしょう。2)持ち歩けるサイズ感在宅医療に従事される方であれば、診療所にいない時間のほうが多いでしょう。最近では電子版が出ているものも多いですが、やはり本の使いやすさもありますよね。ちょっとした時間にぱっと確認するためには、あまりかさばらないサイズが良いでしょう。そうした観点から、以下の本を推薦します。『緩和ケア ポケットマニュアル 改訂2版』(宇井 睦人著、南山堂)出版社サイト電子版サイトサイズ感的には一番扱いやすく、タイトルどおりポケットに入るサイズです。オピオイドなど、症状緩和に重要な薬剤の具体的な投与量も記載されており、慣れない薬を処方する際に現場で確認するのにぴったりです。『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』(森田 達也ほか監修、医学書院)出版社サイト電子版サイトおなじみ「レジデントマニュアル」シリーズの緩和ケア版です。このシリーズらしい網羅性の高さで、緩和ケアの教科書にあるトピックはほぼ網羅されています。ポケットに入れるには少し厚いので、カバンを持ち歩く方に。『がん治療医が本当に知りたかった緩和ケアのレシピ』(蓮尾 英明編集、倉田 宝保監修、メジカルビュー)出版社サイト電子版サイトまず、カバーデザインがかっこいい!がん患者のケアについて、痒い所に手が届く記載が多いのが特徴です。たとえば食事の工夫やリハビリテーション、コミュニケーションといったトピックについては、私も勉強になりました。「緩和ケアのマニュアル本」という観点で、ここ数年で発売された3冊をご紹介しました。初学者であればぱっと目を通してみて、ある程度経験のある方は確認用に手元に置いておくと便利ですよ。今回のTips今回のTips緩和ケアについてまず何か1冊! なら、手軽に使えるマニュアル本がお薦め。

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英語で「湿布」は?【1分★医療英語】第55回

第55回 英語で「湿布」は?I twisted my ankle.(足をくじいてしまいました)Place this patch on the painful area.(痛むところに、この湿布を貼ってください)《例文1》Apply the patch to a clean, dry, and hairless skin area.(清潔で乾いた毛の少ない部分に湿布を貼ってください)《例文2》Remove the patch after 24 hours and choose a difference place to apply the new patch.(24時間したらパッチを取り外し、別の場所に新しいパッチを貼ってください)《解説》「湿布(貼付剤)」は“patch”(または“transdermal patch”:経皮貼付剤)といいます。日本語でも「パッチ剤」と呼ぶこともありますよね。冷湿布や温湿布を指す場合には“cold compress / hot compress”と表現します。冷または温のジェル状のものを“compress”(当てる=圧縮する、押し付ける)する、というわけで、こちらは薬剤が入っていない場合がほとんどです。アルツハイマー型認知症の経皮吸収型製薬である“rivastigmine”(リバスチグミン)パッチなどの場合には、前のものを剥がし忘れたまま複数のパッチを貼ってしまうことのないよう、《例文2》のようにパッチを取り外すことの説明を加えるとよいでしょう。また、合成オピオイドである“fentanyl transdermal patch”(フェンタニルパッチ)を誤ってペットや子供が触ってしまう事故を避けるために、“Promptly dispose of used patches by folding them in half with the sticky sides together.”(使用後のパッチは、粘着面を内側にして半分に折り、即座に処分してください)と伝えることも大切です。講師紹介

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オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?【非専門医のための緩和ケアTips】第38回

第38回 オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?オピオイドの副作用といえば「便秘」と「嘔気」ですね。内服を開始した当初は眠気が強い方もいます。今回は副作用のうち、嘔気について考えていきましょう。今日の質問高齢の肺がん患者さんが通院していて、骨転移の痛みに対して医療用麻薬を使用しています。医療用麻薬は1ヵ月前から内服を始め、痛みは和らいでいるようです。制吐薬を飲み続けているのですが、いつまで続ければいいのでしょうか?「オピオイドを内服開始する時には、必ず制吐薬を処方しましょう!」これは私が緩和ケアの仕事を始めた10年以上前によく言われていたことです。医療用麻薬という名前だけで不安を感じる方がいるのに、飲んでみたら痛みは和らいだけど吐き気がする…。こんなことがあると、「もうこんな怖い薬は飲みたくないです」と言われてしまいます。また吐き気ってつらいのですよね。そういった意味でも、制吐薬は重要な併用薬として見なされていました。しかし近年、この「オピオイド開始の際に予防的に制吐薬を内服する」というプラクティスは見直されつつあります。その背景には、高齢患者が増え、制吐薬による副作用への懸念が高まったことがあります。制吐薬の多くが抗ドパミン作用を持ち、代表的な副作用は錐体外路症状です。錐体外路症状としてはアカシジア(静座不能症)などが有名です。一方、オピオイド服用に伴う嘔気は、便秘と異なり、すべての患者さんに生じるわけではありません。またオピオイドの投与開始後1~2週間で軽減することも知られています。このような嘔気に対し、錐体外路症状の懸念のある制吐薬を全員に投与するのか? という議論が生じてきたのです。今回の質問のように、医師が気付いて「もうこの制吐薬はやめてもいいのでは?」と考えられればよいのですが、気付くと何ヵ月も不要と思われる制吐薬を内服し続けていたといったケースも見聞きします。今回の質問のケースでも、嘔気がないのであれば制吐薬は中止して問題ありません。医療用麻薬を処方する際、すべての患者さんにルーチンで制吐薬を処方するのではなく、「個別に必要性を判断すること」「長期投与にならないように注意すること」が重要になっているのです。では、どんな患者さんには制吐薬を処方すべきなのでしょうか。私のやり方としては、医療用麻薬に対する心配が強いこうした方には「吐き気が出てもクスリが手元にあると安心ですよね」と言葉を添えて処方するケースが多いです。嘔気が生じやすい病態腸閉塞を繰り返している患者さんなどは、「最初の1週間だけ内服しましょう」といって制吐薬を処方することがあります。一方、入院患者さんの場合は、嘔気が出ても迅速に対応できるので、制吐薬の処方は控えるケースが多くなります。「個別性に配慮した緩和ケア」としては、各医師の腕の見せどころかもしれません。皆さんはどうされているでしょうか?今回のTips今回のTipsオピオイドと併用する制吐薬の処方は、適応を考えて個別に判断しましょう。

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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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1人より2人〜DPNPに対する併用療法という選択肢〜(解説:永井聡氏)

 糖尿病患者の4人に1人に合併しうる糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、QOLに大きな影響を及ぼし、海外の多くのガイドライン1)では、アミトリプチリン(A)、デュロキセチン(D)、プレガバリン(P)、ガバペンチン(G)が第一選択となっており、日本においても同様である2)。これらの推奨は、システマティックレビューからのエビデンスの強さでなされ、単剤としてデュロキセチンが中等度の推奨、アミトリプチリンおよびプレガバリンが低い推奨とされている。ただし、最適な薬剤あるいは併用すべきかについてのある程度の規模の比較試験は行われていなかった。 そのような背景の中、DPNPに対する単剤および併用療法の有効性について、多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験、OPTION-DMが報告され、検討されたどの治療方針でも鎮痛効果は同等であり、併用療法の鎮痛効果は単剤療法を継続した患者より大きいことが示された。 本試験で用いられた薬剤の最大投与量は、アミトリプチリン75mg、デュロキセチン120mg、プレガバリン600mgであるが、単剤での投与量は6週の時点で各群のおよそ半数の患者において、アミトリプチリンが56mg、デュロキセチンが76mg、プレガバリンが397mgで投与されており、デュロキセチンは本邦のDPNPに対する最大投与量を超え、プレガバリンでも標準投与量である300mgを超えていたことから、短期間に投与量の積極的な増量を行うことが重要であることが再確認されている。それでも多くは併用療法へ移行していて、「十分に第一選択薬を投与した」のでは十分とはいえず、「第一選択薬の併用療法」を行うことでさらなる鎮痛効果が期待できる、という新たなエビデンスが登場したことは、臨床的にインパクトのある報告である。 ただし、本試験の結果を実臨床に活用するにはいくつか注意する点がある。どの組み合わせでも「効果は同等」という結果であるが、実際にはどうだろうか。副作用の点からは、プレガバリンではめまい、デュロキセチンでは悪心、アミトリプチリンでは口渇が多く、患者背景上副作用が起きやすい選択は避けるほうが無難であろう。投与量の点からは、本邦でのデュロキセチンの投与上限は60mgであることに注意が必要である。また、プレガバリンは300mg上限のプラセボ対照試験において有効性を証明しえない報告も多かった3)ことから「十二分に」増量することが改めて重要な薬剤であるが確認された。薬価の点ではアミトリプチリンが有利であるが、抗コリン作用のため高用量単剤での高齢者への投与は慎重に考えたい。 本試験の結果の解釈で注意する点も挙げておきたい。DPNPでは1年以内に半数が自然軽減するという報告もある4)。DPNPのプラセボ対照試験におけるプラセボ効果は一般的に高いことから本試験における単剤の奏効率が約40%、併用療法さらに14〜19%に「鎮痛効果を認めた」中には「自然軽減」や「プラセボ効果」も含まれている。また、二重盲検ではあるが医療者には投与量がマスクされておらず患者に「投与量の増量」が認知されプラセボ効果を生じる可能性がある。 それでも、これまでは効果が「不十分」であれば第一選択薬を他剤に切り替えたり、エビデンスや長期的安全性も不足している第二選択薬であるオピオイドを投与したりしていたことを考えると、本試験の「第一選択薬を併用する」新しい治療の「選択肢」は「糖尿病のない人と同じQOL」を目指す糖尿病の合併症治療を考える上で貴重なエビデンス、といえるのではないかと思う。

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知っておきたい新しいオピオイド(2)メサドン【非専門医のための緩和ケアTips】第36回

第36回 知っておきたい新しいオピオイド(2)メサドンがん疼痛に対するオピオイドもさまざまな種類があるのですが、今回はその中でも薬物療法の「最終手段」的な存在であるメサドンについてお話しします。「最終手段」だけあって、まだ使ったことがある方は多くはないと思います。今日の質問オピオイドを増量しても、なかなか緩和できない痛みの患者さんがいます。効き目が強いと聞くメサドンを使ってみたいと思うのですが、使用経験がないので不安があります。メサドン(商品名:メサペイン)、初めて聞いた方もいるのではないでしょうか? 私も、そこまで使用経験が豊富なわけではありませんが、今後、メサドンを使用している患者さんの紹介も増えるかもしれないと思い、勉強しているところです。前提として、メサドンは誰にでも処方される薬剤ではありません。その理由は大きく分けて2つあります。1)処方・流通制限があるメサドンを処方するには、事前に医師が専用のeラーニングを受講する必要があります。途中でテストがあるのですが、このテストがなかなか難しく、私は○回目で合格しました。○に何の数字が入るかはご想像にお任せします…。こういう間違い探し的な問題は苦手で、というのは言い訳ですが…。医師だけでなく、管理する調剤薬局もeラーニングを受講した「管理薬剤師」を置く必要があります。調剤前には、処方した医師がeラーニング受講済み、登録済みであることを確認することも必要です。このようにメサドンには厳格な処方・流通制限があり、簡単な処方ができないようになっています。もちろん、これには理由があり、それが「誰にでも処方できない理由」の2つ目でもあります。2)使用上の注意点が多いメサドンの使用上の注意点として、パッと思い浮かぶものを列挙するだけでも以下のようなものがあります。個人差が大きく、投与量の設定が難しいQT延長による致死性不整脈の副作用がある半減期が長く、定常状態までに1週間程度を要するが、こちらも個人差があるどうですか? なかなか使用を躊躇する言葉が並んでいますよね?こうした事情から、メサドンは、「がん疼痛に対する薬物療法に精通した医師がeラーニングを受講して」初めて処方が可能となっているのです。メサドンは使いこなせれば、非常に強力な薬剤です。NMDA受容体の拮抗作用があり、私自身も既存の強オピオイドでは鎮痛効果が不十分であった痛みに対し、有効だった例をしばしば経験しています。複数の作用機序を持つことが、ほかのオピオイドとは異なる鎮痛作用を生じさせているのです。強力な鎮痛効果から、薬物療法の「最終手段」的な位置付けのメサドン。気軽に使用できる薬剤ではないですが、専門医と連携していくきっかけにしてください。今回のTips今回のTipsメサドンは難治性がん疼痛に対する薬物療法の「最終手段」的な薬剤。

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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小児のコロナ後遺症は成人と異なる特徴~約66万人の解析

 小児における新型コロナウイルス感染症の罹患後症状には、成人とは異なる特徴があることを、米国・コロラド大学医学部/コロラド小児病院のSuchitra Rao氏らが明らかにした。同氏らは、新型コロナウイルスの感染から1~6ヵ月時点の症状・全身病態・投与された薬剤を調べ、罹患後症状の発生率を明らかにするとともに、リスク因子の特定を目的に、抗原検査またはPCR検査を受けた約66万人の小児を抽出して後ろ向きコホート研究を行った。これまでに成人における罹患後症状のデータは蓄積されつつあるが、小児では多系統炎症性症候群(MIS-C)を除くとデータは限られていた。JAMA pediatrics誌オンライン版2022年8月22日号掲載の報告。 解析対象となったのは、米国の小児病院9施設の電子カルテに登録があり、2020年3月1日~2021年10月31日の間に新型コロナウイルスの抗原検査またはPCR検査を受けた21歳未満の小児で、かつ過去3年間に1回以上受診(電話、遠隔診療を含む)したことのある65万9,286例。男性が52.8%で、平均年齢は8.1歳(±5.7歳)であった。 初回の抗原検査またはPCR検査の日から28~179日時点の、罹患後症状に関連する121項目の症状や全身病態、30項目の投与薬の計151項目を調べた。症状には発熱、咳、疲労、息切れ、胸痛、動悸、胸の圧迫感、頭痛、味覚・嗅覚の変化などが含まれており、全身病態には多系統炎症性症候群、心筋炎、糖尿病、その他の自己免疫疾患などが含まれていた。施設、年齢、性別、検査場所、人種・民族、調査への参加時期を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、検査陰性群に対する陽性群の調整ハザード比(aHR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナウイルスの陽性者は5万9,893例(9.1%)で、陰性者は59万9,393例(90.9%)であった。 ・1つ以上の症状や全身病態、投薬があったのは、陽性群で41.9%(95%信頼区間[CI]:41.4~42.4)、陰性群で38.2%(95%CI:38.1~38.4)で、差は3.7%(3.2~4.2)、調整後の標準化罹患率比は1.15(1.14~1.17)であった。・陰性群と比べて陽性群で多かった症状は、味覚・嗅覚の変化(aHR:1.96、95%CI:1.16~3.32)、味覚消失(1.85、1.20~2.86)、脱毛(1.58、1.24~2.01)、胸痛 (1.52、1.38~1.68)、肝酵素値異常(1.50、1.27~1.77)、発疹(1.29、1.17~1.43)、疲労・倦怠感(1.24、1.13~1.35)、発熱・悪寒(1.22、1.16~1.28)、心肺疾患の徴候・症状(1.20、1.15~1.26)、下痢(1.18、1.09~1.29)、筋炎(2.59、1.37~4.89)であった。・全身の病態は、心筋炎(aHR:3.10、95%CI:1.94~4.96)、急性呼吸促迫症候群(2.96、1.54~5.67)、歯・歯肉障害(1.48、1.36~1.60)、原因不明の心臓病(1.47、1.17~1.84)、電解質異常(1.45、1.32~1.58)であった。精神的な関連としては、精神疾患の治療(aHR:1.62、aHR:1.46~1.80) 、不安症状(1.29、1.08~1.55)があった。・多く用いられていた治療薬は、鎮咳薬・感冒薬のほか、全身投与の鼻粘膜充血除去薬、ステロイドと消毒薬の併用、オピオイド、充血除去薬であった。・多系統炎症性症候群以外で罹患後症状と強く関連していたのは、5歳未満、急性期のICU利用、複数または進行性の慢性疾患の罹患であった。 著者らは、「小児の新型コロナウイルス感染症の罹患後症状の発症率は少なかったが、急性期の重症、低年齢、慢性疾患の合併は罹患後症状リスクを高める」とともに「小児の罹患後症状では、成人でよく報告されている味覚・嗅覚の変化、胸痛、疲労・倦怠感、心肺の徴候や症状、発熱・悪寒など以外にも、肝酵素値異常、脱毛、発疹、下痢などが多いことに注意が必要である。とくに心筋炎は新型コロナウイルス感染症と最も強く関連する症状であり、小児では重要な合併症である」とまとめている。

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日本人高齢者における片頭痛有病率~糸魚川翡翠研究

 新潟・糸魚川総合病院の勝木 将人氏らは、日本人高齢者の頭痛、片頭痛、慢性連日性頭痛、痛み止めの使い過ぎによる頭痛(薬剤の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)の有病率を調査するためアンケート調査を実施し、3ヵ月間の頭痛の有病率とその特徴を明らかにしようと試みた。結果を踏まえ著者らは、日本人高齢者の頭痛有病率は諸外国と比較し、決して高いものではないが、片頭痛による社会経済的損失は重大であり、疾患の理解、適切な治療や予防などが重要であると報告している。また、高齢者は、さまざまな併存疾患に関連する重度な頭痛といった特徴を持つ可能性が示唆された。Journal of Clinical Medicine誌2022年8月11日号掲載の報告。 2019年、3回目の新型コロナウイルスワクチン接種後の待機時間を利用し、新潟県・糸魚川市の糸魚川総合病院と能生国民健康保険診療所で、65歳以上の高齢者を対象にアンケート調査を実施した。片頭痛および薬物乱用頭痛の定義には、国際頭痛分類第3版を用いた。慢性連日性頭痛は、1ヵ月に15日以上の頭痛発生と定義した。K-means++法を用いて、クラスタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・有効回答者2,858例における有病率は、頭痛11.97%、片頭痛0.91%、慢性連日性頭痛1.57%、薬物乱用頭痛0.70%であった。・鎮痛薬の併用や非オピオイド鎮痛薬の使用頻度が高かった。・予防薬を使用していた片頭痛患者は1例のみであった。・K-means++法を用いて薬物乱用頭痛患者332例を4つのクラスターに分類したところ、各クラスターの頭痛に下記の特徴が認められた。 ●クラスター1:緊張型頭痛様 ●クラスター2:薬物乱用頭痛様 ●クラスター3:脳卒中・脂質異常症・うつ病などを既往に持つ重症な頭痛 ●クラスター4:光恐怖症や音恐怖症を持つ片頭痛様

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド

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『がん医療におけるせん妄ガイドライン 』第2版の主な改訂点を解説

 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会編『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』(金原出版)を刊行した。2019年の初版に続く改訂2版となる。改訂作業にあたった京都大学医学部附属病院緩和ケアセンター/緩和医療科 精神科医の谷向 仁氏に、主な変更点やポイントを聞いた。 がん患者さんは精神的な問題を抱えることが多いのですが、その対応は医療者個人の診療経験などによってばらつきが認められています。この経験による判断はもちろん大切なのですが、一方でさまざまなバイアスによる影響も懸念されます。 『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ』は、がん患者さんの精神的問題に対する対応法の基本となる部分の均てん化を図ることを目的として、多くの医療分野で近年使用されている「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に基づきまとめられています。 2019年の『せん妄ガイドライン』初版にはじまり、今夏刊行の『患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』『遺族ケアガイドライン』、そして現在シリーズ4冊目となる不安と抑うつをテーマとした『がん患者の気持ちのつらさ(仮)』を作成中です。がん患者に特有のせん妄について主に解説 せん妄とは、身体的異常や使用薬剤が直接的原因となって引き起こされる意識障害です。あらゆる疾患で起こり得るものですが、がん患者ではその頻度が高く、特に終末期がん患者では80~90%に認められると報告されています。また、骨転移に伴う高カルシウム血症や脳転移、症状緩和の目的で使用されるオピオイドやステロイドなど、がん患者に特有ともいえる背景を有します。さらには、がん患者のみならず家族をも含めてのケアが重要となります。 本ガイドラインではこのようながん特有のせん妄に関するトピックに対して、がん患者でのこれまでの質の高い研究報告を中心にシステマティックレビューを行い、検討したものをまとめています。終末期せん妄へのケアや病院組織としての対応と臨床の手引きの新設およびせん妄予防視点の臨床疑問を追加 せん妄ガイドライン2019年版を発刊以後、その内容について多くの紹介の機会を頂きました。その際、さまざまなコメントと共に、今後の改定に際しての要望も頂いておりました。今回の改訂版では、それらの貴重なご意見を可能な限り採用して補強するように努めました。第2版の主な改訂点は主に以下の通りです。1)総論5「終末期せん妄のケアとゴール」の章を新設2)総論6「病院の組織としてせん妄にどう取り組むか」の章を新設3)III章の臨床疑問に「1.予防のための非薬物療法」「2.予防のための抗精神病薬」「6.症状軽減のためのトラゾドン」の3つを追加4)IV章「臨床の手引き」を新設 せん妄は発症後の対応が中心であった一昔前と異なり、近年では「せん妄を発症させない」予防が非常に重要と考えられるようになってきています。2020年度診療報酬改定で新設された「せん妄ハイリスクケア加算」はまさにせん妄予防を評価するという流れを反映したものです。せん妄予防では医師、看護師、薬剤師など多職種によるチーム医療、そして、組織としての取り組みが非常に重要となります。 また、ガイドラインの結果を臨床にどのように活かすことができるかという具体的な手引きの要望も多く聞かれたことから、まず薬物療法についての解説を加えました。さらに、可逆性のせん妄対応とは大きく異なり、不可逆性の転帰が多い終末期せん妄に対する解説を充実させました。がん診療に携わるすべての医療者に がん患者さんのせん妄に初めに遭遇するのは、せん妄診療を行う精神科医や心療内科医ではなく、がん治療に携わる医療者です。また、予防、早期発見と対応(原因検索とその対応)が大切であり、これらをチームで展開することが求められます。がん治療に携わる医師はもちろんのこと、看護師、薬剤師の方々などがん医療に携わるすべての医療者に手に取っていただき、日々の診療に役立てていただきたいと思っています。書籍紹介『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』

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第123回 マジか…コーヒー店で遭遇したコロナ様症状有する“抗原検査で陰性”の人

先日、私はあるコーヒーチェーンの店舗にノートパソコンを持ち込んで仕事をしていた。電源のある席は窓際に位置する横一列のカウンター席。隣の席との間がアクリル板ならぬ、卵パック程度の薄さのプラスチックシートで区切られていた。私の隣には女性が座っていたが、その彼女がマスクを外した状態で時折軽い咳をする。私は気にしないふりをして実は気にしていた。「気にしないふり」を敢えてしていたのは、人によっては呼吸器感染症ではなくとも咳が出てしまう人もいるからだ。昨年、私がお世話になっている編集者が咳喘息と診断され、外出先でマスク越しに咳をしても周囲から白眼視されるのがつらいという話を聞いていた。そして私もごくまれにどうしても咳が出てしまうこともある。咳一つであまり神経質にはなりたくない。やせ我慢と言われようとも人にはそれぞれ事情があるのだからと、こうしたシーンでは努めて平静を装っている。仕事を始めて1時間半ぐらい経った時も隣にはその女性がいた。しかも数分おきに咳をしている。その彼女が突然スマートフォンを片手に話し始めた。「ああ、○○(人の名前)!うん、夕べさ38℃を超える熱が出てさ、すぐあの抗原検査キットっていうの? で検査したけど陰性だった。今朝はまだ37℃台だったけどお昼には37℃切ったんで、たぶん何でもない。もう平気。今日の夜は行けるよ」これを聞いた瞬間、私は凍り付いた。この状況下を考えれば、抗原検査とはまさに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)で使う抗原定性検査(以下、抗原検査)に他ならない。もやはここで書くのは釈迦に説法だが、抗原検査の感度は発売当初よりも改善されたとはいえ、PCR検査よりは劣る。しかも、現時点でインターネット上では国による性能確認が行われていない研究用のものが購入できる。念のため記述しておくと、発売当初は陽性判定をそのまま確定診断として用いることができたが、陰性の場合はPCR検査による確定診断が必要だった。その後、発症2~9日以内の有症状者では、抗原検査キットとPCR検査の結果の一致率が高いことが確認されたため、該当する人で鼻咽頭拭い液による抗原検査の陰性でも確定診断が行えるようになっている。私が遭遇したこの女性がもし新型コロナだったと仮定したら検査をしたのは発症当日。この段階の陰性という結果は信頼性が担保されているとは言えない。この女性には悪いが私はすぐさま荷物を持って席を立ち、そこからかなり離れた電源のない席に慌てて移動した。この後、3日間、私は仕事場とするアパートにほぼこもりきりになり、自宅に戻った際もマスクを着用したまま過ごすことになった。この日から既に2週間弱が過ぎているが、私も家族もとくに異常はない。現在の第7波の感染拡大と発熱外来のひっ迫を受け、国はインターネットで医療用の認可を受けた抗原検査の販売を解禁する方針を明らかにしている。販売に当たっては薬剤師がメールなどで正しい使用法や陽性時の対応を説明することにはなっている。しかし、こうしたものはかなり薬剤師が徹底して説明したとしても、消費者は自分に都合の良い情報しか記憶に残さないものだ。そしてこの抗原検査も唾液ではなく鼻咽頭ぬぐい液の場合、消費者が自分で正確に検体を採取することができるかはかなり疑問である。少なくとも自分はできる自信があまりない。また、有症状者ならばまだしも、そうした人と濃厚接触者あるいはその疑いのある無症状者が抗原検査で陰性と判定された場合、人との接触を一時的に控え目にするなどの対策を取るだろうか? むしろ前述の女性のように安易に「セーフ」判定と思い込むのではないだろうか?「発熱外来の逼迫を避けるため」という目的で解禁される医療用抗原検査キットが逆に感染拡大傾向に拍車をかけてしまうのではないかと老婆心ながら危惧している。また、私はこのほかにも危惧していることがある。この第7波の影響で医療用の解熱鎮痛薬アセトアミノフェンが供給不安定な状態にあることは医療従事者ならご存じのはず。そして約2週間前にはこの余波でアセトアミノフェンの代替にもなる医療用のロキソニン、呼吸器症状の緩和に使うカルボシステインやトラネキサム酸も出荷調整中となった。さて、万が一の時に備えて、あるいは何らかの症状を感じてインターネットで抗原検査キットを購入する人は併せて解熱鎮痛薬も購入するだろうか? 私には彼らの多くは抗原検査キットのみを購入し、万が一陽性となった時に慌てふためくだけの姿が思い浮かぶ。販売時に説明を行った薬剤師が適切に相談に応じ、OTC医薬品のアセトアミノフェンやそのほかの解熱鎮痛薬の購入を勧める、あるいは直接配達するなどの対応が取れれば良いかもしれないが、平時から多忙な薬局に単価の安いOTC医薬品の配達などをお願いするというのは酷である。結局のところ、有症状者・無症状者を含め陽性となった人は医療機関に向かうだけではないだろうか? その結果、発熱外来などは逼迫し、アセトアミノフェンなどもさらに供給不安に陥ってしまうかもしれない。アセトアミノフェンと言えば、一般人も昨今の感染拡大や新型コロナワクチン接種後の発熱の緩和のために使用するようになり医療用の製品名「カロナール」として知っている人も増えてきた。しかし、こうした一般人はアセトアミノフェンを発熱患者だけでなく、がん性疼痛や高齢者では珍しくない変形性膝関節症や腰痛などの整形外科領域の症状でも使うメジャーな薬であるとはほとんど知らないだろう。先日、都内のある保険薬局の薬剤師と話していて、「すでに供給不安は現実になっていて、オピオイドと併用している患者では医師と相談しながら恐る恐るアセトアミノフェンを減量している」と聞かされ、私もその深刻度を改めて思い知った。この薬剤師によると、もし錠剤の供給が今以上に不足すれば、最悪は原末で提供しなければならなくなるという。がん性疼痛で使われるアセトアミノフェンの1日量は最大4,000mg。原末でこれだけの量を服用することになったら患者はどんなにつらいことだろうと思う。正直なところ、今回の国が決めた医療用抗原検査のインターネット販売解禁は、単に目先の患者の流れを変えるためだけに場当たりで行っているようにしか思われない。その司令塔、過去の本連載(第120回)で私が「延焼を続ける山火事の消火を部下の消防士に適当に指示して、自らは外出先で火遊びをする消防署長」と評した岸田 文雄首相は8月21日に新型コロナを発症し、現在はリモートで業務に当たっている。ちなみに首相とその周辺は1週間に2回ほど抗原検査を行い、頻繁に行っていた夜の会食時には出席者に事前に抗原検査の陰性確認を求めていたという。やらないよりはましだが、今風に言えば「もにょる」*対応である。*「もにょもにょする」というほかに形容しがたい感覚、感情、感触などを表現する言い回し。こそばゆい感じ、違和感やわだかまりを覚える感じ、すっきりしない印象、などを形容する場合に用いられることが多く、その意味では「むずむず」「もやもや」のニュアンスに近い。口ごもる様子をもにょると表現する例もある(実用日本語表現辞典より)その岸田首相を筆頭とする国へより緻密な対応を求めるのは「木に縁りて魚を求む」なのか?

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注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロック【非専門医のための緩和ケアTips】第34回

第34回 注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロックがん疼痛に対し、医師がまず試みるのはオピオイドなどの薬物療法でしょう。一方、薬物療法だけではなかなか緩和できない痛みがあることも事実です。そのような時に強い味方になるのが「放射線治療」と「神経ブロック」です。あまりなじみのない方も多いかもしれませんが、最近注目されている分野です。今日の質問オピオイドで鎮痛を試みても、がん疼痛がなかなか緩和しない患者さん。本人はつらそうですし、私たちも無力感が募ります。こういった難治性のがん疼痛はどのように対応したらよいのでしょうか?緩和ケアを実践する立場として切実な問題ですよね。こうした薬物療法で緩和できないがん疼痛は、「難治性がん疼痛」としてアプローチする必要があります。そこで重要になるのが薬物以外の介入です。その代表が、「放射線治療」と「神経ブロック」です。放射線治療はがん治療において広く使われていますが、がん疼痛を緩和する目的でも活用できます。とくに骨転移の痛みに対して非常に重要です。放射線治療の難点を挙げれば、「専門とする医師が少ない」ことと「放射線治療の装置が必要となるためにがん拠点病院のような大規模の病院でしか提供できない」ことです。さらに、放射線治療は通院で行うことが多いため、「通院の負担をある程度許容できる患者さんである」ことも条件です。ただし、症状緩和を目的とした放射線治療は照射回数を少なくするなど負担軽減の工夫も可能です。直接、放射線治療医に相談してみるとよいでしょう。続いて紹介するのが、神経ブロックです。最も有名なのが、膵臓がんにおける難治性がん疼痛に対して行うものです。CTで事前にターゲットになる神経叢を評価し、透視下で実施するケースが多いでしょう。痛みを伝える神経に直接アプローチするため、高い鎮痛効果を期待できます。神経ブロックも放射線同様に、術者が少ないことが課題です。麻酔科の先生が対応していることが多いのですが、専門に取り組んでいる方はなかなかいないのが現状です。このように放射線治療も神経ブロックも提供体制に課題を抱えており、自分の診療地域の状況を把握しておく必要があります。提供体制の課題の背景には、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。医師育成や地域の配分、キャリア選択など、いろいろな論点があるのですが、まずはこういった難治性がん疼痛に対する知識を身に付けることが重要です。その上で、自分が診療しているエリアにおいては、どの医療機関がどういった連携や提供体制を整備しているのか、情報収集しましょう。これらの難治性がん疼痛に対する治療は、今後、整備が進むことが予想されます。とくにがん拠点病院においては、地域連携も含めたしっかりした提供体制の構築が求められることになりそうです。先日開催された日本緩和医療学会の学術集会においても、難治性がん疼痛に対する放射線治療および神経ブロックの提供体制を向上させる議論が活発に行われました。今後の動きに注目していただければと思います。今回のTips今回のTips放射線治療と神経ブロックもがん疼痛には大切な治療法。自分の地域の提供体制を確認してみよう。

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実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」【非専門医のための緩和ケアTips】第33回

第33回 実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」今日は緩和ケアにおけるメジャートピックである、がん疼痛に対する鎮痛アプローチのお話です。皆さんはWHOの「がん疼痛ガイドライン」って、聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?この中の「WHOラダー」は、実際の臨床に活用している方も多いと思います。実は最近このアプローチが大きく変わってきているので、一緒に学んでいきましょう。今日の質問がん疼痛における基本指針といえば、WHOラダーですよね。私も長年、ラダーに従って実践してきたのですが、最近、変更があったと聞きました。どういった点が変更されたんでしょうか?ご質問者のおっしゃる通り、WHOのがん疼痛治療が変更になりました。そして私たち、長年緩和ケアに関わってきた医療者にとって非常になじみ深かった、「WHOラダーの推奨」が削除されることになりました。え! と思われた方も多いかもしれませんので、その背景をお話ししていきましょう。1990年代から2000年代に緩和ケアを学んだ方は「がん疼痛といえばWHOラダー!」と教わったと思います。「がん疼痛を見たら、まずはNSAIDsを使用し、弱オピオイドを導入、その後は強オピオイドを用いる」というアプローチです。この「ステップを踏んでいく」のが、ラダー(梯子)の名称たるゆえんです。ただ、最初から強い痛みを訴えるがん患者さんに対し、ラダー通りに「手順を踏む」よりも、最初から強いオピオイドを使用したほうがよいのでは? というのは長く議論されていた点でした。そして、2019年にがん疼痛のWHOガイドラインが改定され、従来の「がん疼痛の5原則」から「ラダーに基づいて」の項目が削除され、4原則となりました。この変更はわれわれにとってどういった意味を持つのでしょうか? ここからは私見になりますが、「今まで以上に、個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められる」のだと感じます。「ラダーに従えば、次は弱オピオイドなので、とりあえずそれで処方しよう」といった実践ではなく、痛みの程度や経過の予測を踏まえて、適切な介入が求められているのだと思います。緩和ケアに関わるほとんどの方が耳にしてきた「WHOのガイドライン」もこうして時代に合わせて改定されます。目の前の患者さんにベストの治療を提供するためにわれわれもアップデートしていく必要性を感じます。今回のTips今回のTipsWHOのがん疼痛への鎮痛アプローチが変更されています。これまで以上に個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められるでしょう。

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神経を冷却する植込み型デバイス、オピオイド系薬なしでの鎮痛に光

 将来、オピオイド系鎮痛薬の代わりとなる鎮痛法を手に入れることができる可能性を示唆する研究結果がこのほど明らかになった。米ノースウェスタン大学のJohn Rogers氏らの研究グループは、術後の痛みを緩和し、役目を果たすと体内で溶けて消失する小型の植込み型デバイスを開発したことを、「Science」7月1日号に発表した。 今のところ、実験動物を用いた研究が行われただけであり、人間にこの技術を試すことができるようになるまで、まだ数年はかかるとみられている。それでも、「将来的には術後の疼痛管理の選択肢に薬剤ではなく工学的技術を用いた手段が加わる可能性がある」とRogers氏は期待を示している。 今回の研究ではラットに使われたこの植込み型デバイスは、最も幅の大きな部分でも5mmと極めて小さく、末梢神経を包み込むカフ状の形状をしている。末梢神経は身体から脊髄、そして脳へと痛みのシグナルを伝達する役割を担う神経だ。 デバイスの内部には2本の“マイクロ流体チューブ”が内蔵されている。そのうちの1本に含まれる液体冷却剤のパーフルオロペンタンと、もう1本のチューブに含まれる乾燥窒素がチャンバー内で混じりあうことで、冷却剤が気化して冷却効果がもたらされ、末梢神経の特定の部位を冷却する。これにより、神経を介した痛みのシグナルの伝達を遅らせ、最終的にはそれを止めるという仕組みである。このデバイスは、役割を果たすと体内で自然に分解される。 さらに、このデバイスに搭載されたセンサーが神経の温度をモニタリングし、過度の温度低下などもチェックできる。また、体内に植え込まれたデバイスを外部のポンプと接続し、点滴するときのように使用者がデバイスを作動させ、強度を調整することができるという。Rogers氏は、「このデバイスは、今のところ自己完結型ではなく、ワイヤレスでコントロールすることはできない。しかし、今後はそのようなデバイスに改良して、腕に装着した装置で冷却機能を調節できるようにしたい」との展望を示している。 Rogers氏によると、このデバイスによりさまざまなタイプの手術後の痛みを緩和でき、オピオイド系薬などの鎮痛薬の使用量を減らせるか、または使わなくても済む可能性さえ期待できるという。ただし同氏は、「実際にこのデバイスを使用できるようになるまでには検討すべき課題が数多く残されている」と付け加えている。そして、まずはより喫緊の課題である、末梢神経の冷却時間の延長による“生物学的な転帰”について検討する予定だとしている。 この研究には関与していない疼痛医学の専門家で、米国麻酔科学会(ASA)疼痛医学委員会の委員長であるDavid Dickerson氏は、「非常に興味深い」研究であるとコメント。その上で、「神経に熱が加わると神経発芽が起こるが、冷却することで神経が傷つくことはない」と説明している。ただ、同氏も長時間の冷却による影響については今後検証する必要があるとの見解を示し、「神経機能障害が新たに起こるなど、神経の病理学的な変化をもたらさないことを確認する必要がある」と強調している。

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オピオイド使用者へのブプレノルフィン、導入促進に有効なのは?/BMJ

 ブプレノルフィンはオピオイド使用障害(opioid use disorder)の最も効果的な治療法の1つであり、救急診療部で安全に治療を開始できることが知られているが、その臨床導入は遅れているという。米国・イェール大学医学大学院のEdward R. Melnick氏らは、EMBED(EMergency department initiated BuprenorphinE for opioid use Disorder)と呼ばれるオピオイド使用者が主体となる臨床意思決定支援のための介入法の、救急診療部でのブプレノルフィン導入における有効性について検討し、このツールは通常治療と比較して、救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の患者レベルでの割合を増加させないことを確認した。研究の詳細は、BMJ誌2022年6月27日号に掲載された。米国の救急診療部のクラスター無作為化対照比較試験 本研究は、救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入におけるEMBEDの有効性の評価を目的に、米国の北東部、南東部、西部地域の5州の5つの保健システムに参加している18のクラスター(21の救急診療部)で行われた実践的なクラスター無作為化対照比較試験であり、2019年11月~2021年5月の期間に実施された(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 クラスターは、EMBEDによる介入を行う群または通常治療を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 オピオイド使用者主体の医師向けの臨床意思決定支援システムであるEMBEDは、電子健康記録(EHR)の診療過程と円滑に統合されており、医師によるオピオイド使用障害の診断、離脱症状の重症度の評価、患者の治療への動機付けを支援することで、救急診療部でのブプレノルフィン治療の開始を促す。また、このシステムでは、受診後の文書作成や受注、処方、紹介が自動化されており、これによりEHRを完成することができる。 主要アウトカムは、オピオイド使用障害者における救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入(投与または処方)の割合とされた。医師レベルでの治療開始は増加 141万3,693件(介入群77万5,873件、通常治療群63万7,820件)の救急診療部受診について解析が行われた。 オピオイド使用障害は5,047例(年齢中央値36.0歳[29.0~47.0]、女性1,730例[34.3%])で認められ、救急診療部の医師599人(年齢層中央値35~44歳[206人、39.3%]、女性173人[33.0%])が治療を行った。このうち、介入群が2,787例(医師340人)、通常治療群は2,260例(医師259人)であった。 ブプレノルフィン治療は、患者レベルでは、介入群が347例(12.5%)、通常治療群は271例(12.0%)で導入されたが、両群間に有意な差は認められなかった(一般化推定方程式での補正後オッズ比[OR]:1.22、95%信頼区間[CI]:0.61~2.43、p=0.58)。 一方、少なくとも1回のブプレノルフィン治療を導入した医師は、介入群が151人(44.4%)と、通常治療群の88人(34.0%)に比べ有意に多かった(補正後OR:1.83、95%CI:1.16~2.89、p=0.01)。 著者は、「依存症の治療における他の課題に対処するとともに、オピオイド使用障害者の救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の割合を高めるためには、EMBEDに加え、他の介入を使用する必要がある」としている。

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