神経を冷却する植込み型デバイス、オピオイド系薬なしでの鎮痛に光

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/28

 

 将来、オピオイド系鎮痛薬の代わりとなる鎮痛法を手に入れることができる可能性を示唆する研究結果がこのほど明らかになった。米ノースウェスタン大学のJohn Rogers氏らの研究グループは、術後の痛みを緩和し、役目を果たすと体内で溶けて消失する小型の植込み型デバイスを開発したことを、「Science」7月1日号に発表した。

 今のところ、実験動物を用いた研究が行われただけであり、人間にこの技術を試すことができるようになるまで、まだ数年はかかるとみられている。それでも、「将来的には術後の疼痛管理の選択肢に薬剤ではなく工学的技術を用いた手段が加わる可能性がある」とRogers氏は期待を示している。

 今回の研究ではラットに使われたこの植込み型デバイスは、最も幅の大きな部分でも5mmと極めて小さく、末梢神経を包み込むカフ状の形状をしている。末梢神経は身体から脊髄、そして脳へと痛みのシグナルを伝達する役割を担う神経だ。

 デバイスの内部には2本の“マイクロ流体チューブ”が内蔵されている。そのうちの1本に含まれる液体冷却剤のパーフルオロペンタンと、もう1本のチューブに含まれる乾燥窒素がチャンバー内で混じりあうことで、冷却剤が気化して冷却効果がもたらされ、末梢神経の特定の部位を冷却する。これにより、神経を介した痛みのシグナルの伝達を遅らせ、最終的にはそれを止めるという仕組みである。このデバイスは、役割を果たすと体内で自然に分解される。

 さらに、このデバイスに搭載されたセンサーが神経の温度をモニタリングし、過度の温度低下などもチェックできる。また、体内に植え込まれたデバイスを外部のポンプと接続し、点滴するときのように使用者がデバイスを作動させ、強度を調整することができるという。Rogers氏は、「このデバイスは、今のところ自己完結型ではなく、ワイヤレスでコントロールすることはできない。しかし、今後はそのようなデバイスに改良して、腕に装着した装置で冷却機能を調節できるようにしたい」との展望を示している。

 Rogers氏によると、このデバイスによりさまざまなタイプの手術後の痛みを緩和でき、オピオイド系薬などの鎮痛薬の使用量を減らせるか、または使わなくても済む可能性さえ期待できるという。ただし同氏は、「実際にこのデバイスを使用できるようになるまでには検討すべき課題が数多く残されている」と付け加えている。そして、まずはより喫緊の課題である、末梢神経の冷却時間の延長による“生物学的な転帰”について検討する予定だとしている。

 この研究には関与していない疼痛医学の専門家で、米国麻酔科学会(ASA)疼痛医学委員会の委員長であるDavid Dickerson氏は、「非常に興味深い」研究であるとコメント。その上で、「神経に熱が加わると神経発芽が起こるが、冷却することで神経が傷つくことはない」と説明している。ただ、同氏も長時間の冷却による影響については今後検証する必要があるとの見解を示し、「神経機能障害が新たに起こるなど、神経の病理学的な変化をもたらさないことを確認する必要がある」と強調している。

[2022年7月1日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら