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レポーター紹介ASCOの年次総会は毎年6月に米国・シカゴで開催されてきましたが、COVID-19の影響で、昨年のASCO 2020は初のWEB開催となりました。本年のASCO 2021も引き続きWEB開催でした。血液内科を専門領域としている私は、6月の同時期に欧州血液学会(EHA)や国際悪性リンパ腫会議(ICML)が開催されるため、それらの学会に参加することが多く、これまでASCOの会員ではあるもののASCOには参加したことがありませんでした。しかし、ASCO 2020がWEB開催となったため、昨年、初めてASCOに参加しました(WEBでの聴講参加を行いました)。そこで感じたのは、ASCOでは種々のがんに対する最新の臨床試験の結果の中でも、クオリティーが高く、今後の治療体系を変えていくような大規模臨床試験の結果や、新規の治療薬の第I/II相試験の結果が発表されているということでした。私の専門領域の血液腫瘍領域からの採択演題数はそう多くなかったのですが、逆に、そこで発表される演題は注目度の高いものばかりでありました。今年のASCO 2021もCOVID-19の影響でWEB開催されることとなったため、米国まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりすることができました。それらの演題の中から10演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。血液腫瘍領域でOralやPoster Discussionに選ばれているAbstractを見ますと、その多くが、分子標的薬や抗体薬による治療や、あるいはCAR-T細胞治療の臨床試験の結果でした。最近のトレンドであるChemo-freeレジメンによる治療にシフトしていっていることを強く感じました。以下に、白血病関連3演題、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題を紹介します。白血病関連Combination of ponatinib and blinatumomab in Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia: Early results from a phase II study. (Abstract #195835)初発および再発・難治のフィラデルフィア染色体陽性ALLおよびCMLのALL転化(CML-LBC)に対する、ポナチニブとブリナツモマブ併用による治療の第II相試験の結果が報告された。ポナチニブは30mg内服、ブリナツモマブは持続点滴による通常の投与法であった。初発患者20例、再発・難治患者10例、CML-LBC患者5例が対象となった。CR/CRp率は、全体で96%(初発:100%、再発・難治:89%、CML-LBC:100%)であり、CMR(完全分子寛解)も全体で79%であった。また、初発の患者のうち19例は同種移植を受けず生存中であった。フォローアップ期間の中央値12ヵ月時点で、1年OSは93%、1年EFSは76%であり、初発の患者に限ると1年OS、EFSはともに93%であった。本Chemo-freeレジメンは、とくに初発Ph陽性ALL患者に対し、非常に有望な治療法であると思われた。OPTIC primary analysis: A dose-optimization study of 3 starting doses of ponatinib (PON). (Abstract #195828)ポナチニブは、第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であり、第2世代TKIに抵抗性/不耐容となったCML患者、あるいはT315I変異を有するCML患者に対し、有効性を示す。しかし、心血管障害の副作用が問題となり、至適な投与量については、議論の余地があった。本試験では、2種類以上のTKIに抵抗性/不耐容となった、あるいはT315I変異を有するCML-CP患者283例を3群に分け、45mg、30mg、15mgの量で開始し、45mg、30mgの群はIS-PCRが1%以下となった時点で15mgに減量するという投与法を比較している。主要評価項目の12ヵ月時点でのIS-PCR 1%以下の達成率は、45mg開始群が最も高かった。とくにT315I変異を認める症例には明らかな差を認めている。心血管の副作用の割合も45mg開始群でやや多かったが、有効性と安全性の差を比較すると45mg開始群の優位性が示された。45mgから開始し、効果に応じて減量する治療法は有用と思われた。Effect of olutasidenib (FT-2102) on complete remissions in patients with relapsed/refractory (R/R) mIDH1 acute myeloid leukemia (AML): Results from a planned interim analysis of a phase 2 clinical trial. (Abstract #195811)変異IDH1の選択的阻害薬のolutasidenib単剤による、再発・難治のIDH1変異を有するAML患者に対する第II相試験の結果が報告されている。153例の患者が本試験に参加している。olutasidenib 150mgを1日2回内服する治療である。治療期間の中央値は4.7ヵ月で、43例が治療継続中であり、110例が治療中止した(主な中止理由は、病勢進行:31%、副作用:14%、死亡:10%、移植:8%であった)。有効性の評価可能例123例において、主要評価項目のCR+CRhは33%であった。CR+CRhの患者では、治療奏効期間の中央値は未達であり、18ヵ月時点のOSは87%であった。G3/4の副作用は主に血球減少であり、IDH1分化症候群は14%にみられた。olutasidenibはIDH1変異を有する再発・難治AMLに対し、有効と思われる薬剤である。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連First results of a head-to-head trial of acalabrutinib versus ibrutinib in previously treated chronic lymphocytic leukemia. (Abstract #201554)再発・難治性CLL(del(17p)かdel(11q)の異常を有する症例のみ)に対するBTK阻害薬のイブルチニブとアカラブルチニブのHead to headの比較試験(ELEVATE-RR試験)の結果が報告された。有効性については、PFSの中央値が両者とも38.4ヵ月で差を認めず、安全性については、心房細動の頻度が有意にアカラブルチニブで少ないという結果であった。さらに、高血圧、関節痛、出血、下痢の副作用もアカラブルチニブで少なく、一方、頭痛と咳はアカラブルチニブで多かった。副作用中止の割合は、イブルチニブで21.3%に対して、アカラブルチニブでは14.7%と少なかった。本試験の結果、OFF-ターゲット効果の少ないアカラブルチニブはイブルチニブと比較して、有効性は変わらず、副作用が少ないことが示された。Fixed-duration (FD) first-line treatment (tx) with ibrutinib (I) plus venetoclax (V) for chronic lymphocytic leukemia (CLL)/small lymphocytic lymphoma (SLL): Primary analysis of the FD cohort of the phase 2 captivate study. (Abstract #201560)初発CLL患者に、イブルチニブとベネトクラクスを併用したCAPTIVATE試験(第II相)の結果が示された。イブルチニブ420mgを3サイクル投与した後、ベネトクラクスを400mgまで増量し、12サイクル併用している。159例の患者が参加し、主要評価項目はdel(17p)を有さない患者のCR率であった。ハイリスク症例は、del(17p)/TP53変異:17%、del(11q):18%、複雑核型:19%、IGHV未変異:56%であった。92%の患者が予定治療を完遂できた。del(17p)を有さない患者のCR率は56%(95%CI:48~64%)であった。ハイリスク症例でも同様であった。MRD陰性は、末梢血で77%、骨髄で60%にみられた。腫瘍崩壊症候群は1例も認められなかった。初発CLLに対し、イブルチニブとベネトクラクスによる固定期間の治療も1つの有望な治療選択肢となりうる。Efficacy and safety of tisagenlecleucel (Tisa-cel) in adult patients (Pts) with relapsed/refractory follicular lymphoma (r/r FL): Primary analysis of the phase 2 Elara trial. (Abstract #196296)再発・難治の濾胞性リンパ腫(R/R FL)に対するtisa-cel(商品名:キムリア)の効果をみたELARA試験(第II相)の結果が報告された。2レジメン以上の前治療歴のあるR/R FL患者98例がエントリーされ、97例にキムリアが投与されている。本試験の対象となった患者の年齢中央値は57歳、60%がFLIPI 3点以上、65%がBulky massを有しており、前治療のレジメン数の中央値は4レジメン(2-13)であった。78%の患者が最終治療に抵抗性があり、60%の患者が抗CD20抗体を含む最初の治療から2年以内に再発(POD24に該当)していた。このような患者コホートに対し、CR率は66%、全奏効率は86%であった。6ヵ月時点のPFSは76%であった。G3/4の有害事象は76%にみられ、CRSは49%(G3以上は0%)にみられた。R/R FLに対する3レジメン以降の治療として、キムリアは1つの選択肢となりうることが示された。The combination of venetoclax, lenalidomide, and rituximab in patients with newly diagnosed mantle cell lymphoma induces high response rates and MRD undetectability. (Abstract #201563)初発マントル細胞リンパ腫に対するリツキシマブ、レナリドミド(R2)に、ベネトクラクス(Ven)を併用した治療の第Ib相試験の結果が報告された。レナリドミドは20mgをDay1~21に服用し、ベネトクラクスはサイクル1(C1)Day8から開始し、4週間かけて400mgまで増量する。リツキシマブは、C1では毎週投与し、以降は8週ごとに投与した。12サイクル、寛解導入治療を行った後は、維持療法として、レナリドミド10mgを24ヵ月間、ベネトクラクスを12ヵ月間、リツキシマブを36ヵ月間、投与する予定である。DLT評価期間は、C1D8から42日間とされた。28例が試験に参加し、全例、ベネトクラクスを400mgまで増量できた。DLTは認められなかった。治療開始後3ヵ月時点のORRは96%、CR/CRuは67%、MRD陰性は63%であり、Chemo-freeレジメンのR2+Venは、安全性に問題なく、有効性が期待できるレジメンの可能性が示された。多発性骨髄腫関連Carfilzomib-based induction/consolidation with or without autologous transplant (ASCT) followed by lenalidomide (R) or carfilzomib-lenalidomide (KR) maintenance: Efficacy in high-risk patients. (Abstract #196624)初発多発性骨髄腫(MM)患者に対し、KRD(4サイクル)+Auto+KRD(4)とKCD(4)+Auto+KCD(4)、KRD(12)(Autoなし)の寛解導入療法を比較し、さらにその後、維持療法をKR vs.R単剤で比較するFORTE試験のハイリスク染色体異常の有無での解析結果が報告されている。標準リスク、ハイリスクともに、KRD+Auto+KRDによる寛解導入治療が、KCD+Auto+KCD、KRD(12)より有意に治療成績が良いことが示された。ただし、1q増幅(amp(1q))の患者の予後はすべての治療で最も悪かった。また、維持療法についても、KRがR単剤と比較し、標準リスク、ハイリスクともに、有意にPFSを延長したが、1q増幅では差がなく、最も短かった。ハイリスク患者のKRD+Autoの4年PFSは62%であり、KRによる維持療法の3年PFS(維持療法開始後)は69%であった。KRD+Auto+KRD→KR維持療法は、ハイリスク染色体異常を有するMM患者に対する1つの治療戦略と考えられた。Daratumumab (DARA) maintenance or observation (OBS) after treatment with bortezomib, thalidomide and dexamethasone (VTd) with or without DARA and autologous stem cell transplant (ASCT) in patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): CASSIOPEIA Part 2. (Abstract #195428)移植適応の初発MM患者に対するDara-VTDとVTDを比較したCASSIOPEIA試験のパート2部分の、Daraによる維持療法の意義を検証した中間解析結果が報告されている。寛解導入治療でPR以上が得られた患者を対象に、Dara投与群(8週に1回の投与、最長2年間)と無治療群にランダム化されている。886例が、Dara群442例と無治療群444例に分けられ、PDとなるまでDaraの投与は行われた。全体では、有意に(HR:0.53、95%CI:0.42~0.68)Dara維持療法群でPFSの延長がみられているが、Dara-VTDによる寛解導入が行われた患者では、Dara維持療法によるPFSの延長はみられなかった。Dara-VTDによる寛解導入が行われた患者でのDara維持療法の意義については、観察期間を延長し、PFS2やOSの評価が必要であると思われる。Updated phase 1 results of teclistamab, a B-cell maturation antigen (BCMA) × CD3 bispecific antibody, in relapsed/refractory multiple myeloma (MM). (Abstract #195433)CD3とBCMAに対するバイスペシフィック抗体(バイト抗体)薬のteclistamabの再発・難治MM患者に対する第I相試験の結果が報告されている。この試験では、投与量および投与方法が検討され、第II相試験の推奨用量が、1,500μg/kgの週1回の皮下注投与に決定されている。また、本投与量・投与法で治療を受けた40例は、前治療のレジメン数の中央値が5レジメン(2-11であり、トリプルクラス抵抗性が83%、5薬抵抗性が35%)のHeavily treated患者であった。全奏効率は65%(58%がVGPR以上、40%がCR以上)であった。有害事象は、CRSが70%(G3以上は0)、G3/4の好中球減少が40%、神経毒は1例のみ(G1で自然軽快)であった。既存の治療に抵抗性のMM患者に対する新たな治療薬として期待される結果であったと思われる。おわりに以上、ASCO2021で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降、ASCOが現地開催となると、私は6月にASCOに参加することは難しくなります。できれば、COVID-19が収束しても、現地開催に加えてWEB開催を継続してもらいたいと思いました。