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リジン尿性蛋白不耐症〔LPI:lysinuric protein intolerance〕

1 疾患概要■ 定義二塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、オルニチン)の輸送蛋白の1つである y+LAT-1(y+L amino acid transporter-1)の機能異常によって、これらのアミノ酸の小腸での吸収障害、腎での再吸収障害を生じるために、アミノ酸バランスの破綻から、高アンモニア血症をはじめとした多彩な症状を来す疾患である。本疾患は常染色体劣性遺伝を呈し、責任遺伝子SLC7A7の病因変異が認められる。現在は指定難病となっている。■ 疫学わが国での患者数は30~40人と推定されている。■ 病因y+LAT-1 は主に腎、小腸などの上皮細胞基底膜側に存在する(図)。12の膜貫通領域をもった蛋白構造をとり、分子量は約40kDaである。調節ユニットである 4F2hc(the heavy chain of the cell-surface antigen 4F2)とジスルフィド結合を介してヘテロダイマーを形成することで、機能発現する。本蛋白の異常により二塩基性アミノ酸の吸収障害、腎尿細管上皮での再吸収障害を来す結果、これらの体内プールの減少、アミノ酸バランスの破綻を招き、諸症状を来す。所見の1つである高アンモニア血症は、尿素回路基質であるアルギニンとオルニチンの欠乏に基づくと推定されるが、詳細は不明である。また、SLC7A7 mRNAは全身の諸臓器(白血球、肺、肝、脾など)でも発現が確認されており、本疾患の多彩な症状は各々の膜輸送障害に基づく。上述の病態に加え、細胞内から細胞外への輸送障害に起因する細胞内アルギニンの増加、一酸化窒素(NO)産生の過剰なども関与していることが推定されている。画像を拡大する■ 症状離乳期以降、低身長(四肢・体幹均衡型)、低体重が認められるようになる。肝腫大も受診の契機となる。蛋白過剰摂取後には約半数で高アンモニア血症による神経症状を呈する。加えて飢餓、感染、ストレスなども高アンモニア血症の誘因となる。多くの症例においては1歳前後から、牛乳、肉、魚、卵などの高蛋白食品を摂取すると嘔気・嘔吐、腹痛、めまい、下痢などを呈するため、自然にこれらの食品を嫌うようになる。この「蛋白嫌い」は、本疾患の特徴の1つでもある。そのほか患者の2割に骨折の既往を、半数近くに骨粗鬆症を認める。さらにまばらな毛髪、皮膚や関節の過伸展がみられることもある。一方、本疾患では、約1/3の症例に何らかの血液免疫学的異常所見を有する。水痘の重症化、EBウイルスDNA持続高値、麻疹脳炎合併などのウイルス感染の重症化や感染防御能の低下が報告されている。さらに血球貪食症候群、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、関節リウマチ)合併の報告がある。成人期以降には肺合併症として、間質性肺炎、肺胞蛋白症などが増える傾向にある。無症状でも画像上の肺の線維化がたびたび認められる。また、腎尿細管病変や糸球体腎炎も比較的多い。循環器症状は少ないが、運動負荷後の心筋虚血性変化や脳梗塞を来した症例もあり、注意が必要である。■ 分類本疾患の臨床症状と重症度は多彩である。一般には出生時には症状を認めず、蛋白摂取量が増える離乳期以後に症状を認める例が多い。1)発症前型同胞が診断されたことを契機に、診断に至る例がある。この場合も軽度の低身長などを認めることが多い。2)急性発症型小児期の発症形態としては、高アンモニア血症に伴う意識障害や痙攣、嘔吐、精神運動発達遅滞などが多い。しかし、一部では間質性肺炎、易感染、血球貪食症候群、自己免疫疾患、血球減少などが初発症状となる例もある。3)慢性進行型軽症例は成人まで気付かれず、てんかんなどの神経疾患の精査から診断されることがある。■ 予後早期診断例が増え、精神運動発達遅延を呈する割合は減少傾向にある。しかし、肺合併症や腎病変は、アミノ酸補充にもかかわらず進行を抑えられないため、生命予後に大きく影響する。水痘や一般的な細菌感染は、腎臓・肺病変の重症化を招きうる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高アンモニア血症を来す尿素サイクル異常症の各疾患の鑑別のため血中・尿中アミノ酸分析を提出する。加えてLDHやフェリチンが上昇していれば本疾患の可能性が高まる。確定診断には遺伝子解析を検討する。■ 一般血液検査所見1)血清LDH上昇:600~1,000IU/L程度が多い。2)血清フェリチン上昇:程度は症例によって異なる。3)高アンモニア血症:血中アンモニア高値の既往はほとんどの例でみられる。最高値は180~240μmol/L(300~400μg/dL)の範囲であることが多いが、時に600μmol/L (1,000μg/dL)程度まで上昇する例もある。また、食後に採血することで蛋白摂取後の一過性高アンモニア血症が判明し、診断に至ることがある。4)末梢白血球減少・血小板減少・貧血上記検査所見のほか、AST/ALTの軽度上昇(AST>ALT)、TG/TC上昇、貧血、甲状腺結合蛋白(TBG)増加、IgGサブクラスの異常、白血球貪食能や殺菌能の低下、NK細胞活性低下、補体低下、CD4/CD8比の低下などがみられることがある。■ 血中・尿中アミノ酸分析1)血中二塩基性アミノ酸値(リジン、アルギニン、オルニチン)正常下限の1/3程度から正常域まで分布する。また、二次的変化として、血中グルタミン、アラニン、グリシン、セリン、プロリンなどの上昇を認めることがある。2)尿の二塩基性アミノ酸濃度は通常増加(リジンは多量、アルギニン、オルニチンは中等度、シスチンは軽度)なかでもリジンの増加はほぼ全例にみられる。まれに(血中リジン量が極端に低い場合など)、これらのアミノ酸の腎クリアランスの計算が必要となる場合がある。(参考所見)尿中有機酸分析における尿中オロト酸測定:高アンモニア血症に付随して尿中オロト酸の増加を認める。■ 診断の根拠となる特殊検査1)遺伝子解析SLC7A7(y+LAT-1をコードする遺伝子)に病因変異を認める。遺伝子変異は今まで50種以上の報告がある。ただし本疾患の5%程度では遺伝子変異が同定されていない。■ 鑑別診断初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。1)尿素サイクル異常症の各疾患2)ライソゾーム病3)周期性嘔吐症、食物アレルギー、慢性腹痛、吸収不良症候群などの消化器疾患 4)てんかん、精神運動発達遅滞5)免疫不全症、血球貪食症候群、間質性肺炎初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。<診断に関して留意する点>低栄養状態では血中アミノ酸値が全体に低値となり、尿中排泄も低下していることがある。また、新生児や未熟児では尿のアミノ酸排泄が多く、新生児尿中アミノ酸の評価においては注意が必要である。逆にアミノ酸製剤投与下、ファンコーニ症候群などでは尿アミノ酸排泄過多を呈するので慎重に評価する。3 急性発作で発症した場合の診療高アンモニア血症の急性期で種々の臨床症状を認める場合は、速やかに窒素負荷となる蛋白を一旦除去するとともに、中心静脈栄養などにより十分なカロリーを補充することで蛋白異化の抑制を図る。さらに薬物療法として、L-アルギニン(商品名:アルギU)、フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウムなどが投与される。ほとんどの場合は、前述の薬物療法によって血中アンモニア値の低下が得られるが、無効な場合は持続的血液透析(CHD)の導入を図る。■ 慢性期の管理1)食事療法十分なカロリー摂取と蛋白制限が主体となる。小児では摂取蛋白0.8~1.5g/kg/日、成人では0.5~0.8g/kg/日が推奨される。一方、カロリーおよびCa、Fe、ZnやビタミンDなどは不足しやすく、特殊ミルクである蛋白除去粉乳(S-23)の併用も考慮する。2)薬物療法(1)L-シトルリン(日本では医薬品として認可されていない)中性アミノ酸であるため吸収障害はなく、肝でアルギニン、オルニチンに変換されるため、本疾患に有効である。投与により血中アンモニア値の低下や嘔気減少、食事摂取量の増加、活動性の増加、肝腫大の軽減などが認められている。(2)L-アルギニン(同:アルギU)有効だが、吸収障害のため効果が限られ、また浸透圧性下痢を来しうるため注意して使用する。なおL-アルギニンは、急性期の高アンモニア血症の治療としては有効であるが、本症における細胞内でのアルギニンの増加、NO産生過剰の観点からは、議論の余地があると思われる。(3)L-カルニチン2次性の低カルニチン血症を来している場合に併用する。(4)フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウム血中アンモニア値が不安定な例ではこれらの定期内服を検討する。その他対症療法として、免疫能改善のためのγグロブリン投与、肺・腎合併症に対するステロイド投与、骨粗鬆症へのビタミンD製剤やビスホスホネート薬の投与、成長ホルモン分泌不全性低身長への成長ホルモンの投与、重炭酸ナトリウム、抗痙攣薬、レボチロキシン(同:チラーヂンS)の投与などが試みられている。4 今後の展望小児期の発達予後に関する最重要課題は、高アンモニア血症をいかに防ぐかである。近年では、早期診断例が徐々に増えることによって正常発達例も増えてきた。その一方で、早期から食事・薬物療法を継続したとしても、成人期の肺・腎合併症は予防しきれていない。その病因として、尿素サイクルに起因する病態のみならず、各組織におけるアミノ酸の輸送障害やNO代謝の変化が想定されており、これらの病態解明と治療の開発が望まれる。5 主たる診療科小児科、神経内科。症状により精神科、腎臓内科、泌尿器科、呼吸器内科への受診も適宜行われている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター リジン尿性蛋白不耐症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sperandeo MP, et al. Hum Mutat. 2008;29:14-21.2)Torrents D, et al. Nat Genet. 1999;21:293-296.3)高橋勉. 厚労省研究班「リジン尿性蛋白不耐症における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究」厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 平成22年度総括分担研究報告書;2011.p.1-27.4)Charles Scriver, et al(editor). The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York City:McGraw-Hill;2001:pp.4933-4956.5)Sebastio G, et al. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2011;157:54-62.公開履歴初回2018年8月14日

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高齢者の疼痛管理に必要なものとは?

 2018年7月19日より3日間開催された日本ペインクリニック学会 第52回大会(学会長:井関 雅子/テーマ「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る」)のジョイント基調講演で「高齢者の疼痛管理に必要なものとは何か?」をテーマに、川井 康嗣氏(仙台ペインクリニック石巻分院 院長)が講演を行った。本稿ではこの講演の概要をお届けする。被災地特有の運動器障害と疼痛 川井氏は、東日本大震災の被災地である石巻・東松島地区で、約4年前からペインクリニックに従事し、主に高齢者の非がん性の痛みのマネジメントを行っている。 高齢者の「痛み」の多くは、加齢によるロコモティブシンドロームなどから起こる運動器障害の痛みであり、腰痛、関節痛および骨粗鬆症・脊椎椎体骨折などの整形外科疾患の痛みが多い。とくに石巻では、現在も狭小な仮設住宅に住む高齢者も多く、不良な生活環境が運動器の痛みの原因になっていることが推察される。また、震災で地域コミュニティが崩壊したこともあり、「生きがいを感じる場所の喪失は日常生活の不活発化~不動化をもたらし、患者に与えている影響は震災後7年を経過した現在でも大きい」と同氏は被災地の現状を語った。こうした高齢患者には良質の鎮痛とともに、不動化を予防するマネジメントが求められる。 不動化が生じている高齢患者の診療では、痛みが改善しても不動化が改善しない場合があり、その中には単なる運動不足ではない、いわゆる「生活不活発病」の症例があるという。これは、生活環境や人間関係の激変・喪失を契機に心身の機能が低下する状態であり、全国の他の被災地でも同様なことが生じているのではないかと危惧している。こうした症例では、「運動器の器質的なアプローチでは不十分であり、心理・社会的アセスメントと地域コミュニティ対策が求められる」と同氏は指摘する。老化の痛みのマネジメント 高齢者の運動アドヒアランスを維持するためには、1~2種類の体操に限定して指示することや、寝たきりが予防できる歩数として1日最低2,000歩以上は歩行するような提案(理想は速歩き20分を含む8,000歩/日:青柳幸利 The Nakanojo Studyより)、積極的な介護保険の申請と利用の推奨などを行う必要がある。また同時に、「医療者からは高齢患者に社会的な関わりを持たせるための工夫(男性ではスポーツ、ゲームなど競争要素のあるもの、女性では人間交流の点で利点の多い運動や趣味を中心に)を来院時に持ち掛けることも運動機能の維持に有益ではないか」と同氏は提案する。今後、こうした運動へのモチーベーションの提供のため、「同世代のサークル募集の張り紙や運動仲間のお誘いポスターを院内に掲示するなどの工夫をしたい」とも話す。 そのほか、高齢者では、退行変性(老化)の痛みを老化ではなく疾患と捉え、治癒を目指して闘っている姿がしばしば見られる。このような症例では、自己の老化を受け入れ、それをマネジメントしていくため、医療者からの丁寧な説明が必要だという。同氏は「医療者は、こうした患者に安易に鎮痛薬を処方するのではなく、薬物療法と同時に、投薬の意義についての教育も重要」と語る。高齢者の薬物療法はチームプレイで当たる 疼痛の薬物治療について、高齢者では出来る限りNSAIDsは慎重に使用し、アセトアミノフェンから使用することが望ましい。最近では、神経障害性疼痛に対する治療薬やオピオイド鎮痛薬が発売され、患者の選択肢は飛躍的に拡大した。しかし、忍容性の低い高齢者では、「細心の薬剤選択と用量調整(マルチモーダル鎮痛法や“start low, go slow”など)や副作用対策が必要となる。そのほか、薬物療法に神経ブロック療法を組み合わせることで、さらに良質な鎮痛が期待できる」と語る。 また、「高齢者では服薬アドヒアランスを維持することが重要で、看護師や薬剤師などを中心としたチームアプローチによって、患者に治療薬の説明や薬物療法の意義についての教育や副作用の相談や対処、残薬の確認などを行う必要がある。そのためにも日ごろから薬剤について学習会などを通じて、医療チーム全体で知識のアップデートを行うことが大事だ」と同氏は提案する。 最後に、「高齢者の疼痛管理では、鎮痛や不動化予防などの目標に加え、生きる自信を与えながら、人生のゴールに向かって苦痛や不安に寄り添う姿勢が求められる。今後も、高齢者が困ったときに、気軽に立ち寄れるようなクリニックを目指し診療を行っていく」と思いを語り、講演を終えた。■参考日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事診療よろず相談TV シーズンII第21回「腰痛」回答者:福島県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授 紺野 愼一氏

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1日1回の牛乳摂取がサルコペニア予防に有効か~鳩山/草津コホート研究

 毎日普通乳を飲む習慣が、高齢者におけるサルコペニアの予防につながる可能性が示唆された。東京都健康長寿医療センター研究所の成田 美紀氏らが、日本の地域在宅高齢者を対象に、牛乳の摂取頻度とサルコペニアの有無との関連を検討したコホート研究により明らかにしたもの。第60回日本老年医学会学術集会(2018年6月14日~16日)において発表された。 本研究の対象は、鳩山コホート研究の2012年追跡調査対象者、および草津町研究の2013年高齢者健診受診者のうち、70歳以上でかつ簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)による食品摂取調査を行い、有効回答を得た810例(鳩山405例、草津405例)。牛乳の摂取状況は、普通乳あるいは低脂肪乳について、摂取頻度ごとに3群に分けて評価し、サルコペニアの診断にはAWGSの診断基準を用いた。 牛乳の摂取頻度とサルコペニアの有無との関連性は、多重ロジスティックモデルを用いて解析し、性、年齢、対象地域、総エネルギー摂取量(BDHQから推定)に加え、BMI(21.5未満、21.5以上25.0未満、25.0以上)、生活習慣(飲酒、喫煙および運動の習慣)、食品摂取の多様性スコア(牛乳の摂取頻度以外)および既往症(脊椎系疾患、骨粗鬆症の有無)について調整した。 主な結果は以下のとおり。・サルコペニア罹患者の割合は10.4%であった。・牛乳の摂取頻度(毎日1回以上、毎日1回未満、飲まない)の割合は、普通乳でそれぞれ52.9%、28.5%、18.6%、低脂肪乳で18.1%、16.4%、65.5%であった。・多変量解析の結果、普通乳を「飲まない」群に対する「毎日1回未満」と「毎日1回以上」の摂取群のサルコペニア保有リスク(多変量調整オッズ比)は、それぞれ0.47(95%信頼区間[CI]:0.22~1.03、p=0.059)、0.41(95%CI:0.20~0.83、p=0.013)となり、「毎日1回以上」摂取群で有意に低かった。・同じく低脂肪乳については、オッズ比はそれぞれ0.82(95%CI:0.36~1.85、p=0.627)、0.54(95%CI:0.20~1.47、p=0.225)であった。・サルコペニア罹患と有意な関連がみられたほかの要因は、高年齢1.16(95%CI:1.11~1.22、p<0.001)、BMI低値2.78(95%CI:1.56~4.96、p=0.001)、BMI高値0.41(95%CI:0.17~0.97、p=0.041)および脊椎系疾患の既往2.05(95%CI:1.08~3.91、p=0.029)であった。 発表者の成田氏は、「普通乳を飲む頻度が高い人では、総エネルギー摂取量や体重1kg当たりのタンパク質量が多く、PFC比におけるタンパク質・脂質比が上昇し、炭水化物比が減少している傾向がみられた。縦断研究で検証していく必要があるが、普通乳を毎日1回以上摂取することは、サルコペニア罹患に防御的であることが示唆された。高齢期における乳・乳製品の継続的な摂取は、筋肉量や身体機能の低下を抑制する可能性がある」とまとめた。

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メポリズマブは難病EGPAの治療を変えるか

 2018年6月6日、グラクソスミスクライン株式会社は、同社のメポリズマブ(商品名:ヌーカラ)が、5月25日に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以下「EGPA」と略す)の適応追加の承認を取得したことを期し、本症に関するメディアセミナーを都内で開催した。 セミナーでは、EGPAの診療概要ならびにメポリズマブの説明が行われた。EGPAの診断、喘息患者に神経症状が現れたら要注意 セミナーでは、石井 智徳氏(東北大学 血液免疫病学分野 特任教授)が、「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症について」をテーマにEGPAの最新の知見を講演した。 EGPAは、従来「チャーグ・ストラウス症候群」や「アレルギー性肉芽腫性血管炎」と呼ばれていたが、2012年より本症名で統一された。EGPAの病態は、気管支喘息というアレルギーの要素と種々の臓器障害という血管炎の要素を併せ持った疾患であり、自己抗体(ANCA:抗好中球細胞質抗体)が出現することで著明な好酸球増多を起こし、血管に炎症を起こすとされている。わが国のEGPAの患者像として、推定患者は約2,000例、男女比では女性が多く、その平均発症年齢は55歳、気管支喘息の既往歴のある患者が多いという。 EGPAの全身症状としては、発現頻度順にしびれ、感覚障害などの「神経症状」(93%)、発熱、関節痛などの「全身症状」(76%)、肺炎などの「呼吸器症状」(60%)、紫斑などの「皮膚症状」(51%)、糸球体腎炎などの「腎障害」(39%)、副鼻腔炎などの「耳鼻咽喉症状」(23%)、不整脈などの「心血管系症状」(16%)、腹痛、下痢などの「消化器症状」(16%)、強膜炎などの「粘膜・目の症状」(10%)が報告されている。 診断では、先行症状の喘息、副鼻腔炎などからEGPAに結びつけることは難しく、ANCAでは臨床検査を行っても陽性率が30~50%とあまり高くなく、診断では見逃されている可能性が高いという。石井氏は「EGPAの診断では、患者教育と丁寧な問診、診察が求められ、患者が『最近、喘息発作が多い』『手足がしびれた感じがする』『足首に力が入らず上げられない』など訴えた場合は、本症を疑うべき」と診療のポイントを示した。また、EGPAでは、血管炎による心血管症状が最も予後に関わることから息切れ、心電図異常、MRI・心エコー検査の結果に注目する必要があるという。メポリズマブによるEGPA治療でステロイドを減量できた EGPAの治療では、現在第1選択薬としてステロイドが使用されている。ステロイドは、効果が確実に、早く、広く作用する反面、易感染症、骨粗鬆症、糖尿病の発症、脂質異常症、肥満など副作用も多いことが知られている。そこでステロイド抵抗性例やステロイドの減量を目的に、シクロフォスファミド、アザチオプリン、タクロリムスなどの免疫抑制剤が治療で併用されている。効果はステロイドのように広くないものの、長期投与では副作用がでにくく、最初はステロイドで治療し、免疫抑制剤とともにステロイドを減量する治療も行われている。そして、今回登場した生物学的製剤メポリズマブは、好酸球を作るIL-5に結合することで、好酸球の増殖を阻止し、血管などでの炎症症状を抑える効果を持つ。副作用も注射部位反応はプラセボに比べて多いものの、重篤なものはないという。 最後に石井氏は、「本症のステロイド治療者で糖尿病を発症し、インスリン導入になった患者が、メポリズマブを使用したことでステロイドの減量が可能となり、インスリンを離脱、糖尿病のコントロールができるようになった」と具体的な症例を紹介するとともに、「メポリズマブは、好酸球浸潤のコントロールが難しかった症例への適用やステロイドが減量できなかった症例への効果が期待でき、さらに再燃を抑制し、寛解維持を目指すことができる」と希望を寄せ、講演を終えた。メポリズマブの製品概要 薬効分類名:ヒト化抗IL-5モノクロナール抗体 製品名:ヌーカラ皮下注 100mg 効能・効果:(追加として)既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 用法・容量:通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回300mgを4週間ごとに皮下に注射する

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第61回

第61回:ALK-TKIの使い分け、irAEへのステロイド長期使用(視聴者からの質問)キーワード肺がんメラノーマALK-TKIアレクチニブirAE動画書き起こしはこちら音声だけをお聞きになりたい方はこちら //playstopmutemax volumeUpdate RequiredTo play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your Flash plugin.こんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井敬祐です。今日はこのプログラムを見てくださっている方からの質問があるので、お答えしたいと思います。1つ目はALKインヒビターをどのように使っているか、ということなんですけども、J-ALEX、Global ALEX study両方で、アレクチニブのPFSの結果がでたので、アレクチニブを1stラインに使うことが多くなっています。ただ、アレクチニブが効かなくなったときはどうするのかということで、リキッドバイオプシーを使って研究を進めるという話を聞いたことあるんですけど、そこに使われるGUARDANTという会社のキット、ALKインヒビター耐性のさまざまなミューテーションについて結果を出してくるので、それを使うことが多くなっています。リキッド・バイオプシーのメリットとしては、病気が進行したときに、繰り返しできる…やはりティシュー・バイオプシーに比べるとやりやすいということなんですけど、ただコストがかかるので、日本では1回の診断につき1回のみと聞いたことがありますが、アメリカでもそれを何回まで許すか、どこまで保険会社が払ってくれるかというのは、まだはっきりしてないようです。数年前にAlice Shaw先生というMGH(Massachusetts General Hospital)の先生が出した論文でも、そういうものを使うことで、kinaseインヒビターをリサイクルできるということがあったので、刻々と変わってく可能性があるものを追跡するというのは、学問的には非常に興味のあるところです。ただ、耐性のミューテーションに対して、この薬が効くとか効かないとか、今一覧表みたいなものが出てるんですけれども、必ずしもそれでは一概には言えないようなこともあるのでそれがまだ難しいところですね。ローラチニブという薬が今、compassionate use、まだFDAには認可されてないけども、そういう特殊なミューテーションがあった場合にはFDAに手紙を書くことで、使うことが許可されるというような状況になっています。効果があることがわかっている薬を、少しでも早く患者さんに届けようというところでしょうか。実際、イピリムマブでも認可数ヵ月前から使いましたし、キイトルーダもそういう状況にありました。もう1つの質問はirAEですね。Immune relaed adverse eventに対してステロイドを長期に使用することがあるかもしれないですけど、どういったところに注意をするかというご質問をいただいたんですけど、ほとんどのirAEのステロイドというのは、僕の印象では9割5分以上は結局中止できるんですけども、確かに中には多発性筋痛症のような感じの方で、5mgとか10mg程度のプレドニゾロンを長く使われている方はいます。何回も7.5とか5とかにテーパリンしようとすると痛みが強くなって日常生活に支障を来たす方はおられますね。そういう方には、骨粗鬆症も考えてビタミンDとカルシウムを飲んでもらったりしてるんですが、それも実際どの程度効果があるのか、わからないところは多いです。あと、やはりホルモン補充…たとえば甲状腺ホルモンとか、副腎不全になってステロイドの補充が必要という人は、ほとんどの場合、長く補充することが必要なようです。2月24日に、NCCNとASCOの共同のirAEに対するガイドラインが出たことは、以前も紹介させていただいたと思うんですけれども。流れとしては昔に乗り比べると、ステロイドから早めにインフリキシマブなどを使うことが多くなってきている印象はあります。抗炎症薬も、新しいものが出てきているので、消化器の先生と一緒に診ながら、新しいインフリキシマブではない抗炎症薬を使っている患者も数人います。この間アジュバントのニボルマブが認可になったんですけれども、クローン病をアクティブに治療されてる方が、StageIIIのメラノーマで来られて、その方は今ニボルマブとクローン病に対するmab(monoclonal antibody)を併用しながら治療しています。どういう結果になるかは、まだわからないですけれど、StageIVに関しては、自己免疫疾患に対するmabを使いながら、メラノーマに対するmabを使っても抗腫瘍効果があったという報告が、ケースレポートレベルでは出ています。大きな臨床試験グループ、ALLIANCEなどではそういう自己免疫疾患がある患者に対する、抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を使うことに対する臨床試験(正確にデータを取ろうということなんですけど)そういう臨床試験も始まるようです。ハーバードとかスローンケタリングになると、たとえば消化器の先生でもirAEのcolitisといった消化器症状を専門にした、若手の研究者の方がたくさん出てきて(います)。そういうことで臨床の知見、経験値は上がってくるものだと考えています。アレクチニブ、未治療ALK陽性非小細胞肺がんに奏効/NEJMShaw AT,et al.Resensitization to Crizotinib by the Lorlatinib ALK Resistance Mutation L1198F.N Engl J Med.2016;374:54-61

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「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」通知へ:厚労省

 厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会は 5月7日の会合で、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」について大筋で了承した。本指針では65歳以上の高齢者、とくに平均的な服薬薬剤数が増加する75歳以上に重点をおいて、処方見直しの基本的な考え方や評価・減薬までの流れ、よく使われる薬剤の高齢者における留意点などをまとめている。 早ければ5月中旬を目途に、関連団体や都道府県宛に通知が発出される見通し。また、同検討会では引き続き、主に急性期での対応をまとめた本指針の追補として、外来・在宅などの療養環境別の特徴を踏まえた「高齢者の医薬品適正使用の指針(詳細編)」の作成を開始し、2018年度中のとりまとめを目指す。 本指針は多剤服用やポリファーマシーといった言葉の概念から、処方見直し時のポイントや進め方のフローチャート、減薬する際の注意点などをまとめた本文と、薬効群ごとの薬剤処方における留意点、慎重な投与を要する薬物リストなどの別表から構成される。別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」では、A~Lの12の薬効群ごと(下記参照)に薬剤選択や投与量・使用法に関する注意点、他の薬剤との相互作用に関する注意点が一覧化されている。A.催眠鎮静薬・抗不安薬B.抗うつ薬(スルピリド含む)C.BPSD 治療薬D.高血圧治療薬E.糖尿病治療薬F.脂質異常症治療薬G.抗凝固薬H.消化性潰瘍治療薬 I.消炎鎮痛剤J.抗微生物薬(抗菌薬・抗ウイルス薬)K.緩下薬L.抗コリン系薬剤 なお、詳細編では認知症や骨粗鬆症、COPDなどについても取り上げることが検討されている。■参考厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」

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バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

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麻雀がもたらした悲劇的な1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第113回

麻雀がもたらした悲劇的な1例 いらすとやより使用 私は医学生の頃、三度の飯より麻雀が好きというくらい麻雀を打っていました。も、も、も、も、もちろん、お金なんて1円も賭けていない、健康麻雀ですよッ!麻雀は現在では全自動卓が当たり前になっていますが、安くても数十万円するあんな大きなモノが学生に買えるはずがなく、仲間内では“手積み”でプレイするのが一般的でしょう。金持ちの同級生は自動麻雀卓を買っていましたが。 Zhang GS, et al.Mah-Jong-related deep vein thrombosis.Lancet. 2010;375:2214.かの有名なLancetに、麻雀の論文があることをご存じでしょうか。これは、麻雀の本場である中国から投稿された短報です。2009年、左下肢痛を訴えた40歳女性が来院しました。下肢は赤くパンパンに腫脹していました。問診してみると、どうやら彼女は連続8時間も麻雀に興じており、なんとその間ほとんど水分を摂らなかったというのです。下肢エコーを見てみると、見事なドデカイ深部静脈血栓症があるではありませんか。経口避妊薬を常用しており、もともと多少なりとも血栓症があったのかもしれませんが、8時間に及ぶ死闘が引き金になったのは確かなようです。あまりにひどかったので、入院して低分子ヘパリンで治療が施されました。その後、リハビリなどを経て、無事2ヵ月後に退院したそうです。麻雀は、全自動卓でないと、1局あたり1時間に及ぶこともあります。その間、足を動かさずにじっとしているわけですから、ほとんどエコノミークラス症候群と同じ状況です。麻雀の対局中は、立ち上がって対戦者の手牌をのぞき込むわけにはいきませんので、ふくらはぎを揉んだり足を動かしたり、工夫をしないといけないかもしれませんね。熱中して、水分を摂るのを忘れないようにしたいです。ちなみに長時間の麻雀は痙攣のリスクもあると報告されています。てんかんの既往がある人は注意したほうがよいかもしれません1)。というわけで、麻雀に熱中している医学生・医師諸君、気を付けたまえ!1)An D, et al. Epilepsy Behav. 2015;53:117-119.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第43回

第43回:二次性高血圧症の考え方と検索法監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 高血圧患者の多くに明確な病因はなく、本態性高血圧に分類されます。しかし、このうち5~10%の患者については二次性高血圧症の可能性があり、潜在的かつ治療可能な原因を含みます。この二次性高血圧症の有病率および潜在的な原因は、年齢によって異なりますので今回の記事で確認してみましょう。 また、国内では「高血圧治療ガイドライン2014」2)が出ているので、この機会に併せてご覧ください。 以下、American family physician 2017年10月1日号1)より【疫学】二次性高血圧症は潜在的に治療可能な原因を伴う高血圧症で、高血圧の症例の5~10%とわずかな割合しか占めていない。二次性高血圧の罹患率は年齢によって異なり、18~40歳の高血圧患者では30%に近い有病率で、若年者ではより一般的である。すべての高血圧症患者において、二次性高血圧の網羅的な検査が勧められるわけではないか、30歳未満の患者では、詳細な検査が推奨される。【二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合】*これまで安定していた血圧が急に高値になった場合思春期前に高血圧を発症した場合高血圧の家族歴がなく、非肥満性で非黒人の30歳未満の場合(末梢臓器障害の徴候を伴う)悪性高血圧もしくは急速進行の高血圧の場合重症高血圧(収縮期血圧>180mmHgおよび/または拡張期血圧>120mmHg)または、ガイドラインに準じて1つの利尿薬を含む3つの適切な降圧薬使用にもかかわらず持続する治療抵抗性の高血圧【アプローチ】(1)まずは正確な血圧測定の方法を確認し、食生活や肥満による高血圧を除外する(2)既往歴、身体診察、検査(心電図、尿検査、空腹時血糖、ヘマトクリット、電解質、クレアチニン/推定糸球体濾過率、カルシウム、脂質)を確認する(3)二次性高血圧を疑う症状/徴候があれば、以下の表のように検索をすすめる画像を拡大する(4)二次性高血圧を疑う症状/徴候がなくても、上記の二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合(*の項目を参照)は下記を考え、検索をすすめる【二次性高血圧の年齢別の一般的な原因】11歳までの子ども(70~85%):腎実質疾患、大動脈縮窄症12~18歳の青年(10~15%):腎実質疾患、大動脈縮窄症19~39歳の若年成人(5%):甲状腺機能不全、線維筋性異形成、腎実質疾患40~64歳の中高年(8~12%):高アルドステロン症、甲状腺機能不全、閉塞性睡眠時無呼吸、クッシング症候群、褐色細胞腫65歳以上の高齢者(17%):アテローム硬化性腎動脈狭窄、腎不全、甲状腺機能低下症【二次性高血圧の稀な原因】強皮症、クッシング症候群、大動脈縮窄症、甲状腺・副甲状腺疾患、化学療法薬、経口避妊薬※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Am Fam Physician. 2017 Oct 1; 96:453-461. 2) 高血圧治療ガイドライン2014

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COPDを「食」からケアする~ポイントは“脂質”

 COPDは日本人男性における死因の第8位に位置づけられ、約7割のCOPD患者が日常生活に制限を感じるなど、QOLに与える影響の大きい疾患である1,2)。そのCOPDに対して、栄養療法を活用する取り組みがある。2017年11月6日に都内で開催されたセミナーの内容をレポートする。COPDにおける食の重要性 COPDは全身に炎症が波及し、骨粗鬆症や糖尿病、筋の障害といった全身併存症の頻度が高いことが知られている3)。嚥下筋を含めた筋力の低下に加えて、気流制限などによりCOPD患者の呼吸に伴う消費エネルギー量は健常者の約10倍にも増大する4)。 さらに、日本人COPD患者の85%は痩せ型であり、栄養不良状態が多いといわれている。痩せ型のCOPD患者は標準体型のCOPD患者に比べて予後が悪く、QOLが低いことが報告されている5)。そのため、運動療法と体重増加を目標とした栄養療法が行われるが、息切れのある患者や嚥下機能の低下した高齢者にとって、エネルギー確保のための食事はその量が負担となる可能性がある。COPD患者向けレシピ集の作成 そのような状況を踏まえ、株式会社フィリップス・ジャパンとNPO法人 日本呼吸器障害者情報センターはCOPD啓発活動の一環として、専門医や管理栄養士の協力のもと、COPD患者の栄養食事療法をサポートするレシピ集「COPD患者さんのおうちごはん」を作成した。 食事から摂取した炭水化物は体内でCO2とH2Oに分解されるため、呼吸によるCO2排出量が低減するCOPD患者にとって、炭水化物の過剰摂取は息苦しさの原因となる。レシピ集の作成に携わった駒沢女子大学 人間健康学部健康栄養学科教授の田中 弥生氏は、効率的にエネルギーを確保しつつもCO2産生を抑制するために、体内で速やかにエネルギーに代わるMCTオイル(中鎖脂肪酸)などの脂質を活用してエネルギー摂取量を増やすことを、COPD患者に対する食事療法のポイントとして挙げた。 レシピの監修者である東京女子医科大学八千代医療センター 内科部長/呼吸器内科教授の桂 秀樹氏は、COPDに対する栄養療法の重要性については医療者・患者ともに認識が不十分であるとし、今後の啓発活動の必要性を述べた。今回のレシピ開発がその第一弾となる。■参考1)厚生労働省.平成28年度人口動態統計の概況.2)一ノ瀬 正和.日本呼吸器学会雑誌.2007;45:927-935.3)Fabbri LM, et al. Eur Respir J. 2008;31:204-212.4)Rogers RM, et al. Am Rev Respir Dis. 1992;146:1511-1517.5)Katsura H, et al. Respir Med. 2005;99:624-630.

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高齢者のCaやビタミンD補給、骨折を予防せず/JAMA

 自宅で生活する高齢者について、カルシウム、ビタミンD、またはその両方を含むサプリメントの使用は、プラセボや無治療と比較して骨折リスクの低下と関連しないことが、中国・天津病院のJia-Guo Zhao氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果で明らかにされた。骨粗鬆症関連の骨折による社会的および経済的負荷が世界的に増加しており、骨折を予防することは公衆衛生上の大きな目標であるが、カルシウム、ビタミンDまたはそれらの併用と、高齢者における骨折の発生との関連性については、これまで一貫した結果が得られていなかった。著者は、「施設外で暮らす一般地域住民である高齢者に対し、こうしたサプリメントの定期的な使用は支持されない」と結論付けている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。カルシウム/ビタミンDとプラセボ/無治療を比較した無作為化試験についてメタ解析 研究グループは、PubMed、Cochrane Library、Embaseを用い、「カルシウム」「ビタミンD」「骨折」のキーワードで2016年12月24日までに発表された論文を系統的に検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 組み込まれた研究は、50歳以上の地域在住高齢者を対象とした、カルシウム・ビタミンD・カルシウム+ビタミンD併用サプリメントとプラセボまたは無治療とで骨折の発生を比較した無作為化臨床試験。なお、新たに公表された無作為化試験の追加検索を、2012年7月16日~2017年7月16日の期間で実施した。 2人の独立した研究者がデータを抽出し、研究の質を評価した。メタ解析では、ランダム効果モデルを用いてリスク比(RR)、絶対リスク差(ARD)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主要評価項目は股関節骨折で、副次評価項目は非脊椎骨折、脊椎骨折および全骨折であった。カルシウム、ビタミンD、またはその併用は、骨折リスクと関連なし 33件の無作為化試験(計5万1,145例)が、基準を満たし組み入れられた。プラセボ/無治療と比較し、カルシウム/ビタミンD使用と股関節骨折リスクとの有意な関連は認められなかった。カルシウム使用群のRR:1.53(95%CI:0.97~2.42)、ARD:0.01(95%CI:0.00~0.01)、ビタミンD使用群のRR:1.21(95%CI:0.99~1.47)、ARD:0.00(95%CI:-0.00~0.01)。 同様に、カルシウム+ビタミンD併用群も股関節骨折リスクと関連していなかった(RR:1.09[95%CI:0.85~1.39]、ARD:0.00[95%CI:-0.00~0.00])。また、カルシウム、ビタミンD、またはカルシウム+ビタミンD併用は、非脊椎骨折、脊椎骨折または全骨折の発生とも有意な関連は確認されなかった。 サブグループ解析の結果、これらの結果は、カルシウム/ビタミンDの用量、性別、骨折歴、食事からのカルシウム摂取量、ベースライン時の血清25-ヒドロキシビタミンD濃度にかかわらず一貫していることが示された。

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経口避妊薬の長期使用により、乳がん発症リスクがごくわずかに上昇(解説:矢形寛氏)-794

 経口避妊薬と乳がんとの関連について研究したものはこれまでに複数存在するが、本研究はこれまでの中で一般市民を対象とした、最も規模が大きく質の高い前向き研究である。デンマークの登録データを用い、経口避妊薬の種類や使用期間、最近の使用の有無を詳細に検討している。 相対リスクが約1.2であったということは、絶対リスクで考えればごくわずかな乳がん発症リスクの上昇である。5年以上の長期使用と最近の使用がリスクであり、経口避妊薬の種類による差については、使用期間と最近の使用の有無がさまざまであることから、現時点では結論づけられないであろう。また、これだけのレベルの研究でもバイアスや交絡因子が複数存在し、排除することはできないので注意は必要である。 経口避妊薬には他に卵巣がん、子宮内膜がん、大腸がんの発症リスク減少や血栓症のリスク上昇などの影響もあるので、使用の有無については研究の限界とともに総合的に考える必要がある。

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スクリーニング実施で高齢女性の骨折リスクが低減/Lancet

 高齢女性の骨折リスクを評価する地域ベースのスクリーニングプログラムは、骨折全般の発症は抑制しないものの、大腿骨近位部骨折のリスク低減には有効であることが、英国・イースト・アングリア大学のLee Shepstone氏らが実施したSCOOP試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2017年12月15日号に掲載された。骨粗鬆症およびその関連骨折については、有効な評価法や薬物療法があるが、英国では現在、骨折リスクのスクリーニングは提唱されていない。FRAXによるスクリーニングと通常管理を比較 SCOOP試験は、高齢女性の骨折予防スクリーニングプログラムの有用性を評価するプラグマティックな非盲検無作為化対照比較試験(Arthritis Research UKと英国医学研究協議会[MRC]の助成による)。 対象は、70~85歳の女性で、骨粗鬆症治療薬(ビタミンDとカルシウムは除く)を処方中の女性は除外したが、過去にこれら薬剤の投与歴のある女性は可とした。また、試験への参加が不適当と判断された場合(認知症、終末期の状態、近親者を亡くしたばかりなど)も除外することとした。 被験者は、骨折リスク評価ツール(Fracture Risk Assessment Tool:FRAX)を用いたスクリーニングプログラムを受ける群(スクリーニング群)、または通常管理を受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。スクリーニング群のうち、FRAXで10年の大腿骨近位部骨折リスクが高いと判定された女性には、高リスク例として治療が推奨された。 主要アウトカムは、5年時の骨粗鬆症関連骨折を1つ以上発症した女性の割合とした。事前に規定された副次アウトカムは、1つ以上の大腿骨近位部骨折、すべての臨床的骨折、死亡のほか、不安や健康関連QOLに及ぼすスクリーニングの効果が含まれた。骨粗鬆症関連骨折、臨床的骨折、不安、QOLには差がない 2008年4月15日~2009年7月2日に、英国の7地域(バーミンガム、ブリストル、マンチェスター、ノリッチ、シェフィールド、サウサンプトン、ヨーク)の100のGP(general practitioner)施設から1万2,483例が登録され、スクリーニング群に6,233例、対照群には6,250例が割り付けられた。スクリーニング群のうち898例(14%)が、高リスク例として治療が推奨された。1年時の骨粗鬆症治療薬の使用率は、スクリーニング群が15%と、対照群の4%に比べて高く、とくに高リスク例での使用率は6ヵ月の時点で78%に達していた。 スクリーニング群は対照群と比較して、5年時の骨粗鬆症関連骨折率(12.9% vs. 13.6%、ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.85~1.03、p=0.178)および臨床的骨折率(15.3% vs.16.0%、HR:0.94、95%CI:0.86~1.03、p=0.183)に有意な差は認められなかったが、大腿骨近位部骨折率(2.6% vs.3.5%、HR:0.72、95%CI:0.59~0.89、p=0.002)は有意に低かった。 5年時の死亡率(8.8% vs.8.4%、HR:1.05、95%CI:0.93~1.19、p=0.436)は両群間に差はなく、不安の発症率(p=0.515)にも差はみられなかった。また、EQ-5DおよびSF-12で評価したQOLも両群で同等であった。 著者は、「FRAXを用いた地域ベースのスクリーニングは実行可能であり、大腿骨近位部骨折の発症率を低減する可能性があるが、この知見の解釈には注意を要する」とまとめ、「現在、費用対効果の解析が進行中だが、本試験は、英国や他の地域で大腿骨近位部骨折の発症を低減する可能性を有する有望な骨折管理戦略をもたらすものである」としている。

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ホルモン避妊法、乳がんリスクが2割増/NEJM

 現代のホルモン避妊法をこれまで一度も使用したことがない女性と比較し、現在使用中または最近まで使用していた女性において、乳がんのリスクが高く、しかも使用期間が長いほどそのリスクは増加することが明らかとなった。デンマーク・コペンハーゲン大学のLina S. Morch氏らが、同国の女性を対象とした前向きコホート研究の結果を報告した。これまでに、エストロゲンは乳がんの発生を促進し、一方でプロゲスチンの役割はより複雑であることが示唆されていたが、現代のホルモン避妊法と乳がんリスクとの関連はほとんど知られていなかった。NEJM誌2017年12月7日号掲載の報告。15~49歳の女性約180万例を平均約11年、前向きに追跡 研究グループは、デンマーク在住の15歳~79歳の全女性が含まれるDanish Sex Hormone Register Studyのデータを用い、1995年1月1日現在15~49歳の女性、ならびにそれ以降2012年12月31日までに15歳になった女性で、がんや静脈血栓塞栓症の既往および不妊治療歴がない女性を抽出し、National Register of Medicinal Product Statisticsからホルモン避妊法の使用、乳がんの診断ならびに潜在的交絡因子に関するデータを得て、ホルモン避妊法の使用と浸潤性乳がんリスクとの関連を評価した。解析にはポアソン回帰分析を用い、相対リスクと95%信頼区間(CI)を算出した。 1995年~2012年に、平均10.9年間、約180万例(1,960万人年)を追跡した。ホルモン避妊法の使用で乳がんリスク1.2倍、使用期間が長いほどリスク増大 180万例中1万1,517例に乳がんが発生した。ホルモン避妊法の使用歴がない女性と比較し、使用歴のある(現在使用中または最近まで使用していた)女性では、乳がんの相対リスクが1.20(95%CI:1.14~1.26)と有意に高かった。このリスクは、使用期間が1年未満では1.09(95%CI:0.96~1.23)であったのに対し、10年超では1.38(95%CI:1.26~1.51)まで上昇した(p=0.002)。ホルモン避妊法を中止しても、使用期間が5年以上の場合は、使用歴がない女性より乳がんリスクが高かった。 経口避妊薬の使用(現在使用中または最近まで使用)による乳がんリスク推定値は、各種エストロゲン・プロゲスチン配合薬により1.01~1.62と幅があった。プロゲスチンのみの子宮内避妊システム(レボノルゲストレル放出子宮内システム)の使用でも同様に、乳がんリスクが上昇した(相対リスク:1.21、95%CI:1.11~1.33)。 あらゆるホルモン避妊法の使用による乳がん診断の増加は、絶対値で10万人年当たり13件(95%CI:10~16)であった。ホルモン避妊法を1年間で7,690例が使用すると、乳がんが約1例増加することが認められた。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【整形外科編】

第1回 筋骨格系の診察の基本 第2回 筋膜性疼痛とトリガーポイントについて 第3回 肉離れの診断と治療 第4回 むちうちと緊張性頭痛 第5回 肩関節の診察と五十肩 第6回 肩の痛みの鑑別第7回 腰痛の鑑別 第8回 腰痛のレッドフラッグ 第9回 腰痛の治療 第10回 膝痛の鑑別 第11回 膝関節穿刺 第12回 骨折を疑うときの診察と画像診断 第13回 骨折の初期対応 第14回 骨粗鬆症の診断と治療 「五十肩と言われたときどう診察する?」「専門医に紹介すべき腰痛は?」「膝関節穿刺のコツは?」などの整形外科領域の診療に関する疑問を、プライマリケア医視点で前野哲博氏が厳選。整形外科のスペシャリスト斉藤究氏が、日常診療に役立つノウハウを交えてそれらの疑問に答えます!第1回 筋骨格系の診察の基本 内科の診察であっても、よく診る患者から腰痛、膝痛など整形外科領域の相談を受けることもあるのではないでしょうか。整形外科といっても、実は問診が最も重要。単に痛い箇所を聞くだけでは、適切な治療につなげることはできません。問診で必ず確認すべきポイント、痛みの原因を特定するために押さえるべき診察項目を伝授します。第2回 筋膜性疼痛とトリガーポイントについて腰痛や肩こりなどの慢性的な痛みに対して、鎮痛薬を処方するしかないのでしょうか?筋膜性疼痛とトリガーポイントについて知っていると、内科でできる治療選択肢が増えます。今回は筋膜性疼痛の概念と、トリガーポイントを発見するアセスメントを紹介します。第3回 肉離れの診断と治療 内科でもよく出合う整形外科領域の訴え、肉離れはどこまで内科で診てよいのでしょうか?また内科で行うべき処置は?専門医に送るべきタイミングの判断まで、ズバリ回答します。第4回 むちうちと緊張性頭痛 むちうちの症状が長引く原因は、複数の要素が絡み合っていることだと斉藤先生は言います。なかには、緊張性頭痛をむちうち由来の症状と思っている場合も。今回は、患者の訴えが長引く原因を明らかにし、内科でできる対応を学びます。第5回 肩関節の診察と五十肩 患者さんから「五十肩」で肩が上がらない、と言われることはありませんか?いわゆる五十肩はおもに肩関節周囲炎です。今回は肩関節の診察方法、専門医に紹介すべき例、そしてプライマリケアで行える治療を挙げて、「五十肩」と言われたときの対応を解説します。 第6回 肩の痛みの鑑別肩が痛いといっても、痛みの部位やできない動作によって原因が異なります。今回は紹介すべき疾患と、保存的に診療してよい疾患を見分ける方法を、身体診察を交えて解説します。第7回 腰痛の鑑別 腰痛の8割以上が非特異的腰痛…つまり原因がわからない?これは画像検査では原因が見えないだけ。筋肉の触診や可動域の確認で診断ができるものが多くあります。しかも身体診察のコツを知れば、プライマリケアでも鑑別可能。ただし、鑑別疾患を理解していることが必須です。今回は非特異的腰痛の中で頻度が高い仙腸関節性腰痛や椎間関節性腰痛などを解説します。第8回 腰痛のレッドフラッグ 腰痛の大半は筋疲労などによる非特異的腰痛と考えても問題はないでしょう。とはいうものの、中には治療が必要な疾患も潜んでいます。拾い上げるべきレッドフラッグの症例を例に、腰痛に伴うどんな症状を見逃さずに拾い上げるべきか解説します。とくに注意すべきポイントは高齢者と若年者で異なります。それぞれの特徴的な訴えを押さえて、見逃さずに診断するコツをつかんでください。第9回 腰痛の治療 腰痛の治療はずっと湿布とNSAIDs…でいいのでしょうか?慢性化した場合ほど、全身状態の改善や心理的なケアといった取り組むべき課題があります。そしてそれらを解消していくことが、意外にも原因療法になるのです。腰痛だけでなく慢性疼痛全般に応用できる痛みの回避モデルとその対応方法は必見です。第10回 膝痛の鑑別 膝が痛いというと、真っ先に変形性膝関節症(OA)を鑑別に挙げていませんか?膝も画像偏重で診断してはダメ。まず重要なのは触診です。膝痛に関連する筋肉群を押さえておきましょう。その上で一見OAに見える症例や専門医への紹介が必要な事例の見分け方を解説します。第11回 膝関節穿刺 どんなときに膝関節穿刺が必要?引いた液で疾患の鑑別ができるので、やはり穿刺はしておきたいところ。今回はプライマリケアで膝関節穿刺を行うべきタイミングと、手技のポイントをコンパクトに解説します。ヒアルロン酸注射にも応用できる手技解説は必見です。第12回 骨折を疑うときの診察と画像診断 「骨折を見落としたくない!」これはプライマリケア医に共通の心配ではないでしょうか?今回は、骨折を疑うとき、何を見て、どう対処すればよいか、クリアカットに解説します。診察のポイントは画像より●●。これを押さえていれば、見落としを恐れることはなくなります!外来での遭遇頻度が高い、転倒や高齢者に起こりやすい骨折など、具体的な例を挙げて身体診察のコツも伝授します。第13回 骨折の初期対応 骨折を疑うときの初期対応はシンプル。対応のルールと、固定の方法をしっかり押さえておきましょう。基本に忠実に、かつ回復を妨げない固定のTIPSは必見です。第14回 骨粗鬆症の診断と治療 骨粗鬆症診療のキモは、検査、薬剤、フォロー。骨密度検査を勧めるべき患者の条件は初めに押さえましょう。スペシャリストが教える骨密度に応じた薬剤選択、長期服用による副作用が心配されるビスホスホネートの扱い方は必見です。

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卵巣予備能バイオマーカーと不妊、関連性は?/JAMA

 生殖年齢後期の女性において、血中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インヒビンBあるいは尿中FSHといった卵巣予備能を示すバイオマーカーの低下は、妊孕性の低下とは関連していないことが明らかとなった。米国・ノースカロライナ大学のAnne Z. Steiner氏らが、不妊歴のない妊活3ヵ月未満の30~44歳の女性を対象とした前向きコホート試験の結果を報告した。卵巣予備能のバイオマーカーは、その有益性に関するエビデンスがないにもかかわらず、生殖能の目安として用いられている。著者は「尿または血中FSHや血中AMHを用いて、女性の現在の受胎能を評価することは支持されない」と注意を促している。JAMA誌2017年10月10日号掲載の報告。卵巣予備能バイオマーカーを測定し、1年間にわたり受胎率を評価 研究グループは2008年4月~2016年3月の期間で、ノースカロライナ州にあるローリー-ダーラムの地域コミュニティで募集した、不妊歴のない妊活3ヵ月未満の30~44歳の女性981例を対象に、卵胞期前期の血清AMH、血清FSH、血清インヒビンB、尿中FSHを測定した。 主要評価項目は、6周期と12周期までの累積受胎率および相対的な受胎確率(特定の月経周期における受胎率)とし、妊娠テスト陽性を受胎と定義した。 計750例(平均年齢33.3歳[SD 3.2]、白人77%、過体重または肥満36%)から血液と尿の検体が提供され、解析に組み込んだ。バイオマーカー低値と正常値の女性で受胎率に有意差なし 年齢、BMI、人種、現在の喫煙状況、ホルモン避妊薬使用の有無で補正後、妊活6周期までの推定受胎率は、AMH低値(<0.7ng/mL)群(84例)で65%(95%信頼区間[CI]:50~75%)、AMH正常値群(579例)で62%(同:57~66%)と両群で有意差はなかった。妊活12周期までの推定受胎率比較においても、有意差は示されなかった(AMH低値群84%[同:70~91%] vs. 正常値群75%[同:70~79%])。 血清FSHについても同様に、妊活6周期までの推定受胎率は高値(>10mIU/ml)群(83例、63%[95%CI:50~73%])と正常値群(654例、62%[同:57~66%])で有意差はなく、12周期までの推定受胎率も有意差はなかった(82%[同:70~89%] vs.75%[同:70~78%])。 尿中FSH値についても、高値(>11.5mIU/mg creatinine)群の妊活6周期までの推定受胎率(69例、61%[95%CI:46~74%])は、正常値群(660例、62%[同:58~66%])と有意差はなく、妊活12周期までの推定受胎率も有意差はなかった(70%[同:54~80%] vs.76%[同:72~80%])。 インヒビンB値に関しては、測定しえた737例において特定の月経周期での受胎率との関連性が確認されなかった(1-pg/mL増加当たりのハザード比:0.999、95%CI:0.997~1.001)。 なお著者は、出生ではなく受胎を主要評価項目としていること、排卵は評価されていないこと、男性の精液検体は提供されていないことなどを研究の限界として挙げている。

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国民病「腰痛」とロコモの関係

 2017年9月7日、日本整形外科学会は都内において、10月8日の「骨と関節の日」を前に記者説明会「ロコモティブシンドロームと運動器疼痛」を開催した。今月(10月)には、全国各地で講演会などのさまざまな関連行事が予定されている。予防にも力を入れる整形外科 はじめに理事長のあいさつとして、山崎 正志氏(筑波大学医学医療系整形外科 教授)が、学会の概要と整形外科領域の説明を行った。 わが国において整形外科医師が関わる疾患は幅広く、関節、脊髄、骨粗鬆症、外傷など運動器疾患全般を診療の範囲としている。近年では、運動器の障害から要介護となるリスクが高まることからロコモティブシンドローム(運動器症候群、略称:ロコモ)の概念を提唱し、2010年に「ロコモチャレンジ! 推進協議会」を設立、運動器障害の予防、健康寿命の延長を期している。また、この「ロコモ」の認知度の向上にも注力し、学会では2022年までに認知度80%(2017年現在46.8%)を目標として掲げている。 山崎氏は「今回の講演では、国民の有訴率で男女ともに上位にある『腰痛』を取り上げた。運動器疾患に伴う疼痛であり、愁訴も多いので理解を深めていただきたい」とあいさつを終えた。腰痛にもトリアージが肝心 続いて、山下 敏彦氏(札幌医科大学医学部整形外科学講座 教授)が「国民病・腰痛の“原因不明”の実際とは?  痛みに関する誤解と診断・治療の最新動向」をテーマに講演を行った。 まず、ロコモの要因となる疾患と痛みの関係について触れ、主な原因疾患として変形性膝関節症(患者数2,530万人)、腰部脊柱管狭窄症(同600万人)、骨粗鬆症(同1,070万人)を挙げ、これらは関節痛、下肢痛、腰背部痛を引き起こすと説明。筋骨格系の慢性痛有病率は15.4%で、およそ1,500万人が慢性痛を有し、とくに腰、頸、肩の順に多いという1)。 こうした慢性痛による運動困難は筋力低下をもたらし、これがさらに運動困難を誘引、脊椎・関節の変性を惹起して、さらなる痛みを生む。また、痛みがうつ状態を招き、引きこもりにより脳内鎮痛を低下させて痛みの除去を困難にするといった、悪循環に陥ると指摘する。 次に痛みの中でも「腰痛」に焦点を当て、その原因を探った。従来、腰痛の原因は、その85%が不明とされていたが、近年の研究では78%の原因が特定可能で、22%は非特異的腰痛だとする2)。特定できる腰痛の原因は椎間関節性、筋・筋膜性、椎間板性の順に多く、心因性腰痛はわずか0.3%にすぎないという。そして、腰痛診断ではトリアージが大切であり、重篤な順に、がんや化膿性脊椎炎などの重篤な疾患による腰痛(危険な腰痛)、腰椎椎間板ヘルニアや椎体骨折などの神経症状を伴う腰痛(神経にさわる腰痛)、深刻な原因のない腰痛(非特異的腰痛も含む)となる。とくに危険な腰痛の兆候として「安静にしても痛みがある」、「体重減少が顕著である」、「発熱がある」の3点を示し、これに神経症状(足のしびれ・痛み、麻痺)が加われば、早急に専門病院などでの受診が必要とされる。多彩な治療で痛みに対処 運動器慢性痛の治療は、現状では完全な除痛が難しい。痛みの緩和とQOL・ADLの改善をゴールとして、薬物療法、理学療法、手術療法、生活指導、心理療法(認知行動療法)が行われている。 薬物療法では、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、ステロイド、プレガバリン、抗うつ薬、オピオイドが使用されるが、個々の痛みの性質に応じた薬剤の選択が必要とされる。 理学療法では、温熱療法、電気療法のほかストレッチや筋力増強訓練などの運動療法があり、運動は廃用性障害による身体機能不全の改善となるだけでなく、脳内鎮痛が働くことで痛みの緩和も期待されている。 手術療法は、機能改善や痛みの軽減を目的として変形性膝関節症の人工関節置換術などが行われているが、近年では術後の痛みの少なさ、早期離床が可能、入院期間の短縮、早い職場復帰などのメリットから最小侵襲手術(MIS)が行われている。 心理療法(認知行動療法)では、運動、作業、日記療法などが行われ、「腰痛でできないことよりも、できることを探す」ことで痛みを和らげ、患者さんが願う生活が過ごせることを目指している。 腰痛の予防では、各年代に合ったバランスのとれた食事、体操、水泳、散歩などの適度な運動、正座や中腰を避けるなどの生活様式の工夫などが必要とされる。 最後に山下氏は「慢性痛では、民間療法で済ませている人が多い。しかし、先述の危険な兆候があれば早期に医療機関、整形外科への受診をお勧めする。また、痛みで仕事、家事、学業、趣味・スポーツができない、毎日が憂鬱であれば整形外科を受診し、痛みの治療をしてもらいたい」と語りレクチャーを終えた。

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新規抗体薬ロモソズマブ、骨粗の骨折リスク有意に減少/NEJM

 骨折リスクが高い骨粗鬆症の閉経後女性において、新たな骨粗鬆症治療薬ロモソズマブ(承認申請中)を12ヵ月間投与し、その後アレンドロネートを12ヵ月投与した群は、24ヵ月間アレンドロネートのみを投与した群と比べて有意に骨折リスクが低かった。米国・アラバマ大学のKenneth G. Saag氏らが、第III相の国際多施設共同無作為化試験の結果を発表した。ロモソズマブは、骨形成モノクローナル抗体であるが、スクレロスチンに結合し骨形成を増加させる一方で、スクレロスチンを阻害し骨吸収を減少させるという二重の効果を有する。NEJM誌オンライン版2017年9月11日号掲載の報告。閉経後女性4,093例を対象に無作為化試験でロモソズマブの有効性と安全性を評価 研究グループは、骨粗鬆症で脆弱性骨折歴のある閉経後女性4,093例を登録し、12ヵ月間にわたりロモソズマブ(210mg)の月1回皮下投与を受ける群、またはアレンドロネート(70mg)の週1回経口投与を受ける群に、無作為に二重盲検下で1対1の割合で割り付けた。両群は続いて12ヵ月間、オープンラベル下でアレンドロネートの投与を受けた。 主要エンドポイントは、24ヵ月時点の新たな脊椎骨折の累積発生率と、主要解析の期間(臨床的骨折が330例以上で確認後)における臨床的骨折(非脊椎骨折、症候性の脊椎骨折)の累積発生率であった。 副次エンドポイントは、主要解析期間時の非脊椎および大腿骨近位部骨折の発生率などであった。また、安全性について、重篤な心血管有害事象、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折などを評価した。主要および副次エンドポイントの骨折リスク、ロモソズマブ投与群で有意に低率 24ヵ月の間に発生した新規脊椎骨折は、ロモソズマブ-アレンドロネート群(ロモソズマブ併用群)6.2%(127/2,046例)、アレンドロネート-アレンドロネート群(アレンドロネート単独)11.9%(243/2,047例)であり、ロモソズマブ併用群でリスクが48%低かったことが観察された(リスク比:0.52、95%信頼区間[CI]:0.40~0.66、p<0.001)。 臨床的骨折の発生は、ロモソズマブ併用群9.7%(198/2,046例)、アレンドロネート単独群13.0%(266/2,047例)で、ロモソズマブ併用群のリスクが27%低かった(p<0.001)。また非脊椎骨折リスクは、ロモソズマブ併用群のリスクが19%低く(8.7%[178/2,046例] vs.10.6%[217/2,047例]、p=0.04)、大腿骨近位部骨折リスクは、ロモソズマブ併用群でリスクが38%低かった(2.0%[41/2,046例]vs.3.2%[66/2,047例]、p=0.02)。 すべての有害事象および重篤有害事象の発生は両群で類似していたが、1年の間(各単独投与期間中)に確認された重篤心血管有害事象の頻度は、ロモソズマブ群がアレンドロネート群よりも高率であった(2.5%[50/2,040例]vs.1.9%[38/2,014例])。また、オープンラベル下でアレンドロネートを投与した期間において、顎骨壊死(ロモソズマブ併用群1例、アレンドロネート単独群1例)、非定型大腿骨骨折(各群2例、4例)が観察されている。

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2017年度 総合内科専門医試験、直前対策ダイジェスト(前編)

【第7回】~【第12回】は こちら【第1回 呼吸器】 全7問呼吸器領域は、ここ数年で新薬の上市が続いており、それに伴う治療方針のアップデートが頻繁になっている。新薬の一般名や承認状況、作用機序、適応はしっかり確認しておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)肺結核について正しいものはどれか?1つ選べ(a)IGRA(QFT-3G・T-SPOT)は、冷蔵保存して提出する(b)医療者の接触者健康診断において、IGRAによるベースライン値を持たない者には、初発患者の感染性期間における接触期間が2週間以内であれば、初発患者の診断直後のIGRAをベースラインとすることが可能である(c)デラマニドはリファンピシン(RFP)もしくはイソニアジド(INH)のどちらかに耐性のある結核菌感染に使用可能である(d)レボフロキサシンは、INHまたはRFPが利用できない患者の治療において、カナマイシンの次に選択すべき抗結核薬である(e)結核患者の薬剤感受性検査判明時の薬剤選択としてINHおよびRFPのいずれも使用できない場合で、感受性のある薬剤を3剤以上併用することができる場合の治療期間は、菌陰性化後24ヵ月間とされている(f)潜在性結核感染症(LTBI)の標準治療は、INH+ RFPの6ヵ月間または9ヵ月間である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第2回 感染症】 全5問感染症領域では、耐性菌対策とグローバルスタンダード化された部分が出題される傾向がある。また、認定内科医試験に比べて、渡航感染症に関する問題が多いのも特徴である。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)感染症法に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)鳥インフルエンザはすべての遺伝子型が2類感染症に指定されている(b)レジオネラ症は4類感染症に指定されており、届出基準にLAMP法による遺伝子検出検査は含まれていない(c)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は4類感染症に指定されており、マダニを媒介とし、ヒト‐ヒト感染の報告はない(d)鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除くインフルエンザ感染症はすべて5類定点把握疾患である(e)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症は5類全数把握疾患に指定されているが、保菌者については届出の必要はない例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第3回 膠原病/アレルギー】 全6問膠原病領域では、ほぼ毎年出題される疾患が決まっている。リウマチと全身性エリテマトーデス(SLE)のほか、IgG4関連疾患、多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)についてもここ数年複数の出題が続いている。アレルギーでは、クインケ浮腫、舌下免疫療法、アスピリン喘息が要注意。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)全身性エリテマトーデス(SLE)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)疾患活動性評価には抗核抗体を用いる(b)神経精神SLE(NPSLE)は、血清抗リボゾームP抗体が診断に有用である(c)ヒドロキシクロロキンは、ヒドロキシクロロキン網膜症の報告があり、本邦ではSLEの治療として承認されていない(d)ベリムマブは本邦で承認されており、感染症リスクの少なさより、ステロイド併用時のステロイド減量効果が期待できる(e)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)が、2016年5月にループス腎炎に対して承認になり、MMF単独投与によるループス腎炎治療が可能となった例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第4回 腎臓】 全5問腎臓領域では、ネフローゼ症候群はもちろん、急性腎障害、IgA腎症、多発性嚢胞腎についても、症状、診断基準、治療法をしっかり押さえておきたい。また、アルポート症候群と菲薄基底膜病も、出題される可能性が高い。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)次の記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)血清または血漿シスタチンCを用いたGFR推算式は年齢・性差・筋肉量に影響を受けにくい(b)随時尿で蛋白定量500mg/dL、クレアチニン250mg/dL、最近数回での1日尿中クレアチニン排泄量1.5gの場合、この患者の実際の1日尿蛋白排泄量(g)は2g程度と考えられる(c)70歳、検尿で尿蛋白1+、血尿-、GFR 42mL/分/1.73m2(ただしGFRの急速な低下はなし)の慢性腎臓病(CKD)患者を認めた場合、腎臓専門医への紹介を積極的に考える(d)食塩摂取と尿路結石リスクの間に相関はないとされている(e)日本透析医学会による「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」2015年版によると、血液透析(HD)・腹膜透析(PD)・保存期CKD患者のいずれにおいても、複数回の検査でHb値10g/dL未満となった時点で腎性貧血治療を開始することが推奨されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第5回 内分泌】 全5問内分泌領域は、甲状腺疾患、クッシング症候群は必ず出題される。さらに認定内科医試験ではあまり出題されない先端巨大症、尿崩症もカバーしておく必要があり、診断のための検査と診断基準についてしっかりと押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)先端巨大症について正しいものはどれか?1つ選べ(a)重症度にかかわらず、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」による医療費助成を受けることが可能である(b)診断基準に「血中GH値がブドウ糖75g経口投与で正常域まで抑制されない」という項目が含まれている(c)診断基準に「軟線撮影により9mm以上のアキレス腱肥厚を認める」という項目が含まれている(d)骨代謝合併症として、変形性関節症・手根管症候群・尿路結石・骨軟化症が挙げられる(e)パシレオチドパモ酸塩徐放性製剤は高血糖のリスクがあり、投与開始前と投与開始後3ヵ月までは1ヵ月に1回、血糖値を測定する必要がある  例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第6回 代謝】 全5問代謝領域では、糖尿病、肥満症、抗尿酸血症は必ず出題される。加えて骨粗鬆症とミトコンドリア病を含む、耐糖能障害を来す疾患が複数題出題される。とくに骨粗鬆症は、内科医にはなじみが薄いがよく出題される傾向があるので、しっかりとカバーしておこう。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)肥満に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)本邦における高度肥満は、BMI30以上の肥満者のことをいう(b)肥満関連腎臓病の腎組織病理像は膜性腎症像を示す(c)「肥満症診療ガイドライン2016」 において、減量目標として肥満症では現体重からの5~10%以上の減少、高度肥満症では10~20%以上の減少が掲げられている(d)PCSK9阻害薬であるエボロクマブの効能・効果に、「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症。ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分な場合に限る」と記載があり、処方にあたってはHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用が必要である(e)低分子ミクロソームトリグリセリド転送たん白(MTP)阻害薬であるロミタピドメシルは、ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症に適応がある例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第1回~第6回の解答】第1回:(b)、第2回:(e)、第3回:(b)、第4回:(a)、第5回:(b)、第6回:(d)【第7回】~【第12回】は こちら

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骨粗鬆症のBP治療後、新規抗体製剤vs.テリパラチド/Lancet

 経口ビスホスホネート系薬で治療を受ける、閉経後の骨粗鬆症女性の治療薬移行について、開発中のヒト抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤romosozumab(AMG 785、承認申請中)が既存薬のテリパラチド(フォルテオ)との比較において、股関節部の骨密度(BMD)を上昇させたことが報告された。デンマーク・オーフス大学病院のBente L. Langdahl氏らによる第III相の非盲検無作為化実薬対照試験の結果で、Lancet誌オンライン版2017年7月26日号で発表された。ビスホスホネート系薬の既治療は、テリパラチドの骨形成作用を減弱することが確認されている。著者は、「今回示されたデータを、骨折リスクの高い患者の臨床的意思決定のために周知すべきである」と述べている。ビスホスホネート系薬既治療患者を対象に無作為化試験 試験は、北米、中南米、欧州の46施設で行われた。閉経後の骨粗鬆症女性(55歳以上90歳以下)で、スクリーニング以前に3年以上ビスホスホネート系薬を服用、およびスクリーニングの前年にアレンドロネート(アレンドロン酸ナトリウム錠)を服用しており、BMD Tスコアが、total hip、大腿骨頸部、腰椎で-2.5以下、さらに骨折歴がある患者を登録した。 研究グループは適格患者を、romosozumab皮下投与群(月1回210mg)またはテリパラチド皮下投与群(1日1回20μg)に無作為に割り付けて追跡した。 主要エンドポイントは、ベースラインから12ヵ月時点(6~12ヵ月の平均)のDEXA法で測定したBMDの%変化とし、線形ミックス効果モデルを用いて反復測定を行い、6~12ヵ月時点の平均治療効果を表した。 無作為化を受けた患者は全員、ベースラインで測定を受けた。有効性の解析には、その後少なくとも1回測定を受けた患者を包含した。12ヵ月間のtotal hip BMDの平均%変化、2.6% vs.-0.6% 2013年1月31日~2014年4月29日に、436例がromosozumab群(218例)またはテリパラチド群(218例)に無作為に割り付けられた。有効性解析には、romosozumab群206例、テリパラチド群209例が包含された。 ベースラインからの12ヵ月間で、total hip BMDの平均%変化は、romosozumab群2.6%(95%信頼区間[CI]:2.2~3.0)に対し、テリパラチド群は-0.6%(-1.0~-0.2)で、群間差は3.2%(95%CI:2.7~3.8、p<0.0001)であった。 有害事象の頻度は、概して両群間で一致していた。報告の頻度が高かった有害事象は、鼻咽頭炎(romosozumab群28/218例[13%]、テリパラチド群22/214例[10%])、高カルシウム血症(romosozumab群2/218例[<1%]、テリパラチド群22/214例[10%])、関節痛(romosozumab群22/218例[10%]、テリパラチド群13/214例[6%])であった。重篤有害事象は、romosozumab群で17例(8%)、テリパラチド群は23例[11%]報告されたが、いずれも治療に関連した事象とは判定されなかった。なお、有害事象により試験薬投与が中断されたのは、romosozumab群は6例(3%)、テリパラチド群は12例(6%)であった。

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