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第246回 医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協

<先週の動き> 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(医薬品公取協)は5月30日、講演会や情報提供における飲食提供のルールを13年ぶりに見直し、明確な金額基準と提供形態の規定を導入する新運用基準を発表した。来春の2026年4月1日から実施。新基準では、医師への飲食提供の上限は「飲酒を伴う飲食」で2万円、「飲酒を伴わない食事」で3,000円に統一された。講演会の役割者や医療機関から委託された業務に伴う飲食は上限2万円まで許容されるが、施設外でのMR活動における飲食は廃止され、食事のみ・上限3,000円に厳格化された。これは「飲酒を伴う情報提供は適切でない」との判断による。また、社内研修会の講師への慰労飲食は“乱用の恐れが大きい”として禁止され、従来1万円以下で認められていた着席型の懇親会も認めない方針とした。懇親行事は原則として立食形式に限定される。この見直しは、2012年の改定以降の社会変化-コロナ禍、情報提供のデジタル化、働き方改革など-を反映したもの。従来、飲食に関する基準は不明瞭で違反リスクも高かったことから、公務員倫理規程を参考に「国民・患者からの理解」重視で簡素化と整合性を図った。あわせて2024年度には、病院長への10年以上にわたる社有車送迎による規約違反が「指導」対象となるなど、透明性向上と規律強化が求められている。医薬品公取協の新会長には安川 健司氏(アステラス製薬)が就任し、改定ルールの周知と規約遵守、業界全体の信頼向上に取り組む姿勢を表明した。 参考 1) 飲食提供ルールを改定へ-施設外での酒席認めず、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(薬事日報) 2) メーカー公取協 飲食や食事の提供に関する運用基準見直し 上限額明記 社内研修会の慰労会は許容せず(ミクスオンライン) 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府政府は2026年度から、医療費削減策として「OTC類似薬」の一部を医療保険の適用外とする方向を正式に打ち出した。風邪薬や湿布薬、胃薬など、効能が市販薬と類似する処方薬が対象で、維新の会の試算では最大3,500億円の医療費削減が見込まれる。これにより、現役世代の保険料軽減が期待される一方で、高齢者や慢性疾患患者への影響は避けられず、日本医師会は「健康被害のリスクがある」として強く反発している。このような制度改革と並行して、製薬業界でもOTC市場への展開が活発化している。2025年6月、エーザイは国内で初めてPPI(プロトンポンプ阻害薬)のOTC化を実現し、「パリエットS」を発売した。同剤は医療用と同量のラベプラゾールナトリウムを含み、要指導医薬品として薬剤師の対面販売が義務付けられている。今後はアリナミン製薬(タケプロンS)や佐藤製薬(オメプラールS)も参入予定であり、OTC胃薬市場に構造変化をもたらす可能性が高い。さらにED治療薬「タダラフィル」のスイッチOTC化も動き出した。エスエス製薬が申請を進めており、薬剤師による問診と適正使用指導、医療機関との連携体制を構築する方針だ。偽造薬の蔓延や未受診者の多さ(ED患者の88%が未治療)を背景に、正規ルートでの治療アクセス拡充が期待されている。こうした変化により、軽症疾患の自己管理が推奨される一方で、診断機会の喪失や副作用管理の困難性が課題となる。医師にとっては、患者のセルフメディケーションを前提にした服薬管理の支援や、重症化リスクの早期発見の啓発がより重要となる。 参考 1) OTC類似薬、保険除外へ 26年度から一部、骨太明記 政府、患者負担配慮(共同通信) 2) “OTC類似薬見直し”で風邪薬や湿布が保険適用外に? 膨張する医療費の削減目的が背景「健康被害広まる」と医師会は反発(FNNプライムオンライン) 3) 国内初、OTCのPPI「パリエットS」が発売(日経ドラッグインフォメーション) 4) 緊急避妊薬のOTC化「面前服用は必要」意見多数(同) 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府政府が6月6日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」に加え、自民・公明両党と日本維新の会の三党合意により、医療業界にとって重大な政策転換が進もうとしている。今回の合意では、全国で約11万床の病床削減と、電子カルテ普及率100%に向けた医療DXの加速が明記され、医療提供体制と経営構造に抜本的な変革が迫られることになる。三党は人口減少によって将来的に不要とされる病床が11万床にのぼると推定し、2040年を見据えた新たな地域医療構想の開始時期である2027年度までに、調査を踏まえて削減を図る方針。維新の試算では、この病床削減により年間約1兆円の医療費抑制効果が見込まれるとされるが、自民党側はこの数字への責任を明言せず、合意文書では「一定の合理性のある試算」との曖昧な表現に止まっている。他方、「骨太方針2025」では医療・介護給付費の対GDP比の上昇に対して制度改革を進める方針が打ち出されており、医師の地域偏在是正、在宅医療体制の整備、ICT活用の推進が重点項目となっている。とくに地方では医療・介護の維持そのものが課題となっており、病床の削減は地域医療体制の崩壊リスクを伴う。電子カルテ普及率の5年以内の実質100%実現も明記され、医療DXが急速に進む見通しである。医療情報の共有による効率化が期待される一方で、初期投資やシステム整備の負担が中小病院や診療所に重くのしかかる可能性がある。これに加え、介護分野でも人材確保と処遇改善、公的制度の見直しがセットで進められる。このような一連の改革は、医療の質の担保と地域格差の是正を両立させる必要があり、数値目標ありきで進めれば、現場の疲弊や医療難民の増加を招く恐れもある。全国自治体病院協議会も声明で「数字ありきではなく、適正な病床再編を」と強調している。現場の声を踏まえつつ、持続可能な医療・介護体制をどう築くか。今回の合意は社会保障改革の一里塚であると同時に、医療現場への重大な問いかけでもある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 自公維 “病床削減などで国民負担軽減”社会保障改革 合意(NHK) 3) 人口減で全国11万床が不要に…自公と維新が病床削減で合意、医療法改正案の年内成立目指す(読売新聞) 4) 自公維・社会保険料の負担軽減協議 余剰病床の削減で合意 11万床で1兆円の医療費削減(FNNプライムオンライン) 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」の原案において、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げ、外国人による医療費の「タダ乗り」対策を中心とする制度見直しを明記した。外国人による社会保障の不適正利用や滞納への懸念が高まる中、入国審査の厳格化、在留資格更新への制限、情報基盤整備など、多方面からの対策が進められる。厚生労働省の調査では、外国人世帯主の国民健康保険納付率は全国平均で63%に止まり、日本人世帯の93%と比べて大きな差がある。政府はこれを受け、医療費の未払い履歴を入国管理や在留資格の審査に反映させる仕組みを構築し、保険制度の適用範囲の見直しも検討する。また、医療費未払いを理由とした外国人観光客の再入国拒否や、社会保険料滞納者への在留資格更新の不許可も新たな対応策として盛り込まれた。制度の実効性を高めるため、内閣官房に新たな司令塔組織を設置し、「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」を中心に、法令順守や情報の透明性向上に取り組む方針。さらに、2028年度導入を目指す電子渡航認証制度や入国・出国情報の一元管理により、出入国管理の強化も進める。急増する外国人観光客や就労者との共生を前提に、制度の整合性と持続性が問われる中、国民の不安を背景にしたこの一連の対策は、今後の外国人政策全体の方向性を左右する転機となる可能性がある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 外国人医療費「タダ乗り」対策強化 政府「骨太の方針」原案 外国人関連部分の全容判明(産経新聞) 3) 医療費未払い、入国審査を厳格化 外国人材受け入れで司令塔組織-政府(時事通信) 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁デジタル庁は6月6日、2025年6月24日からiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載可能とする方針を発表した。これにより、iPhoneユーザーは物理カードを持ち歩かなくても、マイナポータルへのログインや、住民票などの証明書の取得が可能となる。ウォレットアプリへの登録後、顔認証や指紋認証で本人確認を行い、各種行政手続きに対応できる。医療現場にとって注目すべきは、9月以降に「マイナ保険証」機能もiPhone上で利用可能になる点だ。現在はAndroid端末のみが先行対応していたが、今後はiPhoneでも対応となる予定で、保険証確認がスマートフォン1台で完結する時代が到来する。厚生労働省は7月から一部の医療機関で実証実験の開始を予定。従来のカードリーダーにスマホ読取用アタッチメントを追加する形で運用される見込みだ。セキュリティ対策として、AppleのFace IDやTouch IDで保護されており、医療情報や銀行口座情報はスマホに保存されない設計。万が一の紛失時も24時間体制のフリーダイヤルやAppleの「探す」アプリから即時利用停止が可能となる。iPhoneへの対応により、患者側の利便性が大幅に向上する一方で、医療機関としては新たな読み取り機器や受付対応の見直しが求められる可能性がある。今後の制度設計や導入指針に注目が集まる。 参考 1) 2025年6月24日から「iPhoneのマイナンバーカード」を開始予定です(デジタル庁) 2) iPhoneにマイナ機能搭載、24日から…カードが手元になくても行政手続き可能に(読売新聞) 3) 「iPhoneのマイナンバーカード」6月24日開始(Impress Watch) 4) iPhoneへのマイナンバーカード搭載は6月24日から-秋には保険証にも 運転免許証対応は?(CNET Japan) 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省厚生労働省が公表した2023年度の「特定健康診査・特定保健指導」の実施状況によると、特定健診の実施率は59.9%、保健指導の実施率は27.6%となり、いずれも制度開始(2008年度)以来で過去最高となった。ただし、国が掲げる2023年度の目標値(健診70%以上、保健指導45%以上)には届かず、2029年度までの達成が継続課題となっている。健診の実施率は、健康保険組合や共済組合が80%超と高い一方で、市町村国保は38.2%に止まり、保険者間の格差が大きい。年代別では40~60代前半で60%を超えたが、高齢層では実施率が低下傾向にある。一方、東京都が行った2024年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」調査によれば、健康意識は高まっているものの、特定健診の受診率は66%とコロナ前の72.3%には戻っておらず、保健指導の未実施者も多い。指摘内容は、「脂質異常」「高血圧」「肥満」が中心で、保健指導を受けた人のうち約7割が「おおむね」または「一部」実行していると回答した。生活習慣の改善意欲を持つ人は9割近くに上ったが、特定保健指導を「案内されていない」とする人が約4割おり、対象者への確実な情報提供や参加促進策が課題とされる。今後は、対象者の掘り起こしや、働き盛り世代・高齢層への個別アプローチの強化、保険者間の格差是正が、生活習慣病予防と医療費抑制に向けた鍵となる。 参考 1) 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診実施率は59.9% 23年度、保健指導は27.6%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率59.9%、23年度 過去最高も国の目標未達(CB news) 4) 「都民の健康と医療に関する実態と意識」の結果(東京都)

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事例025 骨粗鬆症のエルカトニン筋注が査定【斬らレセプト シーズン4】

解説骨粗鬆症にて治療中の患者に、エルカトニン筋注を毎週のように実施していたところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。カルテでエルカトニンの注射初日を確認したところ、肋骨骨折の診療開始日からほぼ毎週実施されて2月に至っていました。エルカトニンの添付文書には「6ヵ月間を目安とし、長期にわたり漫然と投与しないこと」との注意書きがあります。過去にしばしば、「6ヵ月を超える長期投与には、漫然と投与しないこと」と返戻がありました。本事例では、7ヵ月目にもエルカトニンの注射が毎週のように続けられていたにもかかわらず、医学的必要性がレセプト上に表現されていなかったことが査定の原因となったものと推測ができます。レセプトチェックシステムでは、6ヵ月超えのアラートが表示されていましたが、そのまま提出されてしまったようです。レセプトチェック担当者には、見落としの無いように依頼しました。医師のオーダー時には限度期間を超えていることがわかるように表示し、注意を促す改修を行い査定対策としています。

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整形外科の薬物療法・保存療法

薬物療法、保存療法を実診療に即して解説「ニュースタンダード整形外科の臨床」第3巻整形外科の実臨床に真に役立つテキストシリーズ。整形外科の外来において日常的に診察する痛み、しびれ、関節リウマチ、外傷に対する薬物療法、保存療法を実診療に即して解説。従来の薬剤、注射法、ギプス、包帯固定、副子、装具、理学療法、作業療法に加え、新しく登場した鎮痛薬や抗RA薬、近年注目されているハイドロリリース、多血小板血漿(PRP)療法、脂肪由来幹細胞(ASC)療法、運動器カテーテル治療・動注治療なども詳述。臨床に役立つ動画多数収載。以前からある鎮痛薬や慢性疼痛・神経障害性疼痛に対する新しい鎮痛薬についてもわかりやすく解説関節リウマチに対する新旧治療薬を網羅ジェネラリストでも知っておいた方がよい、腱鞘内注射法や関節内注射法、さらに新しい治療法のハイドロリリースや多血小板血漿法なども動画やエコーを多数使って解説ギプス固定法の基本やテーピング、徒手整復・矯正などを動画や写真を使ってわかりやすく解説というように、ジェネラリストや非専門医にとっても役立つ知識を多数収載。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する整形外科の薬物療法・保存療法定価12,100円(税込)判型B5判頁数410頁発行2025年5月専門編集・編集委員井尻 慎一郎(井尻整形外科)編集委員田中 栄(東京大学)松本 守雄(慶應義塾大学)ご購入はこちらご購入はこちら

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症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂

 「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行された。今回の改訂は7年ぶりで、きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっている。だが、本指針内容を日常診療へ落とし込む際に注意したいポイントがある。そこで今回、本指針の作成委員長を務めた脇野 修氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科分野 教授)に、亜鉛欠乏症の現状や診断・治療を行う際の注意点などについて話を聞いた。<2018年度版からの改訂点>・診断基準と検査について、アルカリフォスファターゼ低値を削除・採血タイミングについて言及・薬物治療について、亜鉛製剤の記述が追加・小児科、内科疾患に関する臨床的意義について、近年のエビデンスに基づき大幅改訂・摂取推奨量は、日本人の食事摂取基準2025年版を引用・国内での発生頻度について追記・リスクファクターとなる疾患について、メタアナリシスで証明されたもののみ記載・亜鉛過剰症について、耐用上限量を記載し、血清膵酵素の上昇に関する記載を削除症状がない潜在性亜鉛欠乏への診断・治療 国内の亜鉛欠乏潜在患者は全人口の10~30%と予想され、亜鉛不足が心筋梗塞の発症、COVID-19の発症/死亡、子癇症、骨粗鬆症、味覚異常のリスクファクターであることが疫学研究から明らかになっている。そのため、近年では症状を有する患者への治療のみならず、症状が顕在化していない患者の診断も喫緊の課題となっている。 亜鉛の血清/血漿基準値は80~130μg/dLで、亜鉛欠乏症と診断するには、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL未満)の評価と共に、臨床症状・所見の有無、原因となる他疾患が否定されることが必要である。同氏は「亜鉛欠乏症状(皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症)がない場合には亜鉛投与の適応にはならない点は注意が必要。一方、症状がある場合には積極的に投与してほしい」と強調した。しかし、実際には症状がみられない亜鉛欠乏症への亜鉛投与の価値が証明されつつあるため、「慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全のようにしばしば血清亜鉛低値を認める患者(潜在性亜鉛欠乏も含む)では、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがあるため、“亜鉛欠乏症状が認められていなくても、亜鉛補充を考慮してもよい”と治療指針の項に示した」とし、「食欲が低下している、貧血、感染の疑いが見られた場合、原疾患の治療に難渋している場合にも低亜鉛の可能性があることから、亜鉛測定を検討してほしい」と説明した。 現在、亜鉛製剤には2024年3月に発売されたヒスチジン亜鉛(商品名:ジンタス錠)、酢酸亜鉛、ポラプレジンク(商品名:プロマックD錠ほか)があるが、低亜鉛血症で保険適用になっているものは、ヒスチジン亜鉛と酢酸亜鉛のみである。「ヒスチジン亜鉛は良好なコンプライアンスが期待でき、酢酸亜鉛よりも消化器症状が少ない特徴を持っている」と説明した。採血は1~2ヵ月を目処に、銅も考慮を 今回の改訂では、採血タイミングも盛り込まれた。これについて「現状、実臨床で血中濃度の評価が正しくされていないため、1~2ヵ月ごとに亜鉛を、数ヵ月に1回は銅を測定して薬剤継続可否の判断を行ってほしい。また、貧血症状を有している患者ではすでに鉄や銅を測定しているが、それでも改善しない場合には亜鉛測定に踏み込んでもらいたい」と述べた。亜鉛投与による有害事象の観点からも、「銅欠乏や鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので、ルーチンで測定する必要はないが、数ヵ月に1回は血清亜鉛とともに、血算、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン、血清銅を測定してほしい。亜鉛投与が適応となる患者であっても、投与数ヵ月のなかで症状の変化がみられない場合には、臨床症状が亜鉛欠乏によるものではないと判断し、亜鉛投与を中止する」といった判断が必要なことも強調した。極端な健康志向の食事療法は亜鉛不足のリスク 健康を意識した食事として、心血管疾患や糖尿病、認知症などに予防効果があるとされる地中海食やDASH食を想像するだろう。ところが、これらの食事療法で推奨される玄米や全粒粉、大豆などの植物由来製品には、亜鉛とキレートを形成するフィチン酸が多く含まれるため、亜鉛の吸収を阻害してしまうという。一方、亜鉛含有量が高い食材として牛赤身肉が推奨されるが、赤身肉の摂取はがん発症リスク、腎臓病などに悪影響を及ぼすことも報告されている。これらを踏まえて、同氏は「バランスのよい食事を心がけることが重要。実際にベジタリアンやヴィーガンでの亜鉛欠乏症が報告されている。そして、亜鉛は生体のなかでも筋肉に60%ほど分布していることを考慮すると、海産物(牡蠣、ホタテ、魚、海藻類)の摂取を意識するのが望ましい。その点で和食や地中海食はよいかもしれない」とコメントした。 最後に同氏は、「亜鉛は300種以上もの酵素や機能タンパクの活性中心に存在し、その意義が詳細に明らかにされている必須微量元素である。1961年に亜鉛欠乏症が報告されて以来、研究にも長い歴史を有しているが、その一方で“未完の大器”のような可能性を秘めている。7年ぶりの改訂では疫学研究や観察研究ではなく、さまざまな介入研究の結果を反映させることができたが、今後の課題として、糖尿病や腎不全、肝障害の発症抑制、慢性疾患に対する抗炎症作用としての亜鉛の効果(抗酸化酵素、増殖等)などに関する研究結果を発信していきたい」と締めくくった。 亜鉛などの微量元素は人間に内在する病的な因子として、決して忘れてはいけない存在である。なお、微量元素の恒常性の観点から、加齢や炎症疾患において近年注目されているセレンについても、「セレン欠乏症の診療指針2024」が同時に発刊されているので、合わせて一読されたい。

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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老後を健康に過ごすには足の健康から始めよう/科研・楽天

 科研製薬は、足に関わる生活習慣の改善を目的に、楽天モバイルとの共同プロジェクト「満足プロジェクト」で業務提携契約を締結した。このプロジェクトは、楽天モバイルの健康寿命延伸サポートサービス「楽天シニア」(現在300万ダウンロード/約7割が50代以上)を通じ、足のお悩みを把握すると同時に、足の健康に関する正しい情報を提供することで、健康満足度の向上に貢献することを目指すものである。両社は、このプロジェクト発足について、3月14日に都内でメディアセミナーを開催し、高齢者の運動器障害の観点からロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)についての概要と足の悩みの観点から巻爪、白癬などの診療と満足プロジェクトの概要が紹介された。また、科研製薬では、2025年3月27日に医療従事者向けのウェブサイト「KAKEN Medical Pro」を開設し、各製品情報に加え、足の健康を守るための「足」の疾患に関連する情報も発信し、医療従事者をサポートする。ロコモサインで早期にロコモを察知 「『満足』はロコモ対策の必要条件だ」をテーマに大江 隆史氏(NTT東日本関東病院 院長/ロコモチャレンジ!推進協議会 委員長)が、高齢者の運動器障害の原因となるロコモとその判定方法、約2万人のロコモに関するアンケート結果の概要について説明した。 「『ロコモ』とは、運動器の障害により、移動機能が低下した状態で、進行すると要介護になる危険が高いもの」と定義されている。ロコモが進展することで、生活活動や移動制限を受け、さらに疼痛や柔軟性の低下、筋力低下を来し、骨粗鬆症や変形性関節症、サルコペニアなどにいたるとされる。 そのために早くロコモに気付くことが重要となるが、ロコモの評価には、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つテストの総合でロコモ度1~3で判定する。また、最近の研究からロコモになる前の最初の兆候も明らかになっている。とくに活動性について、「階段の昇降」「急ぎ足で歩く」「休まず歩き続ける」「スポーツや踊り」の1つにでも困難の自覚があれば、「ロコモサイン」として、早期の診療介入が望まれるという。 では、実際「ロコモ」はどの程度認知されているのであろうか。2024年12月~2025年1月にかけて楽天シニアアプリ登録者などで行われたアンケート結果を説明した(回答数1万9,299人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「ロコモという言葉の認知度について」は、「はい」が50.2%、「いいえ」が48.9%だった。・「1日の歩数について」は、4,000~6,000歩が33.9%、8,000歩以上が26.3%、6,000~8,000歩が17.7%の順だった。・6,000歩以上歩く人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。・「筋トレなどのやや強めの運動を1週間に合計どれくらいしているか」では、20分未満が67.2%、20分以上1時間未満が14.5%、2時間以上が7.7%の順で多かった。・やや強めの運動を1週間に1時間20分以上する人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。爪は小さな運動器 「皮膚(爪)と足の健康との関係」をテーマに高山 かおる氏(川口総合病院 皮膚科 主任部長/足育研究会 代表理事)が、爪や足の皮膚からくる歩行障害や足爪に関するアンケート結果を説明した。 高齢者では、歩行障害、摂食障害、認知障害の順で活動が阻害される。歩行障害では、とくに爪の役割は重要だという。爪には、「指先の感覚を敏感にする」、「指先の保護」、「力のバランスをとる」という3つの働きがある。そして、足のトラブルは、皮膚と爪に表われ、日本臨床皮膚科学会の調査では、6人に1人が足爪に水虫が、7人に1人に足に水虫が、13人の1人に水虫があると報告されている。足爪のトラブルと転倒の関係では、足に何らかの問題があると、過去1年間に転倒しているリスクが高いこと、母趾爪甲の変形や肥厚は下肢機能低下をもたらすなどの報告がある。 つまずいたときに、姿勢制御の機能として、足底の触圧覚と足趾(と爪)による底面把持力により、転倒をしないように制御することから、爪に異常があると踏ん張りができないことから「爪は小さな運動器」とも言うことができる。 続いて「足爪の健康の意識調査」について、2024年9~10月にかけて楽天シニアアプリ登録者などに行われたアンケート結果を説明した(回答数2万984人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「現在の爪の状態について」(複数回答)は、「異常なし」が50%、「水虫または過去に既往がある」が15%、「爪の肥厚またはボロボロと欠けた」が14%の順で多かった。・「アプリのコラム読後、医療機関へ受診しようと思ったか」では、「受診しない」が51%、「爪水虫に感染したら受診」が34%、「すぐ受診したい」が9%の順で多かった。・受診者または受診希望者に「なぜ治療したいか」(複数回答)では、「爪をきれいにしたい」が29%、「家族にうつさないため」が26%、「他の部位への感染を防ぐため」が24%の順で多く、「転倒リスク軽減のため」も9%でみられた。・「水虫が治ったら何をしたいか」では、「隠さずに足を出す」が21%、「いろんな人と交流したい」が20%、「履きたい靴を履きたい」が16%の順で多かった。・「健康記事のどの項目に1番興味を持ったか」では、「足爪の健康が健康寿命のカギ」が26%、「足爪、きれいに洗えていますか」が22%、「爪水虫はカビの1種」が14%の順で多かった。 おわりに高山氏は、「足爪を治療し、手入れすることで、きちんと歩く機能を維持し、健康寿命を延伸してもらいたい」と思いを語り、レクチャ-終えた。 この後のパネルディスカッションでは、足の健康啓発にこうしたアプリの利活用、複数の診療科連携による下肢機能維持などの提案がなされた。また、将来的に爪の画像を送ることでできるリモート診断やAI診断の可能性、集積されたビックデータを活用した健康指導なども期待したいと展望が語られた。 今回、科研製薬と楽天モバイルが提供する「満足プロジェクト」では、セミナー開催や「楽天シニア」内でのコラム掲載などを通じ、「歩く健康」をテーマとした足に関するさまざまな疾患の啓発活動のほか、今後、足に関する情報発信を強化するとともに、協働で健康寿命の延伸を目的とした実証事業なども実現するとしている。

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避妊法による脳卒中や心筋梗塞のリスクをどのように回避することができるのか?(解説:三浦伸一郎氏)

 避妊法の条件は、確実であり、方法が簡便で長期間使用できること、経費が少なくて済み、副作用が少ないことなどが挙げられる。経口避妊薬には、ホルモン剤としてプロゲスチンとエストロゲンの混合型とプロゲスチン単独のものがある。ホルモン避妊法による深部静脈血栓症や肺塞栓症の発生率は、エストロゲン投与量が増加すると上昇することが知られている。エストロゲンやプロゲステロンの投与では、フィブリノゲンなどの凝固因子が増加し、凝固抑制因子が減少することにより凝固系が亢進する。 最近、ホルモン避妊法による虚血性脳卒中や心筋梗塞のリスクに関する前向きコホート研究の結果が報告された1)。これまで、ホルモン避妊法が心血管疾患リスクに悪影響を与えるとの報告はあったが、このコホート研究では、避妊法の違いによりリスクが異なっていることが検証され、従来の複合経口避妊薬やプロゲスチン単剤避妊法ではリスクが高かった。一方、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具は、リスク増加と関連しておらず、今後の安全な避妊法として期待されるものであった。 現在、日本では、ホルモン避妊法が多く使用されている。しかし避妊教育が少なく、避妊のリスクとベネフィットを理解できる機会を増やし、多くの選択肢を知ってもらう必要がある。このYonisらの研究は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具という新たな選択肢をもたらした。安全な方法をより普及させる必要があるとともに、ホルモン避妊法についての再教育も必要と思われる。

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第256回 安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む

安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む避妊手段は数あれど、世界のすべての妊娠の半数近くは不慮のものです。それゆえ毎年7千件を超える中絶があり、多大な精神的、肉体的、金銭的負担を強いています。男性が都度必要に応じて避妊をするなら基本的にコンドームに頼るほかありません。男性のホルモン成分の避妊薬の臨床試験がいくつか進行中ですが、承認には至っていません。ホルモンとは別の標的に目を向けることで副作用の心配が少ない避妊薬の道が開けるかもしれません。精巣に豊富な遺伝子800種超を省いた検討結果があり、それらのうち約250の遺伝子を省くと不妊を呈することが確認されています。キナーゼの類いのSTK33(serine/threonine kinase 33)遺伝子はその1つで、雄マウスのSTK33を省くと尾が動かない異常な精子が形成され、不妊となることが先立つ研究で示されています1)。パキスタンの一家系の調査で不妊男性にSTK33遺伝子変異が見つかっており2)、ヒトでもSTK33は男性の生殖能に必要なようです。STK33遺伝子一対のどちらにも変異を有する男性の精子には複数の異常が認められました。STK33遺伝子が損なわれたマウスもヒト男性も精子に異常があることを除いておおむね正常で、精巣の大きさにも異常はありませんでした。よってSTK33狙いの避妊薬なら安全に使えそうです。そこで米国・ベイラー医科大学のAngela Ku氏らは数十億の化合物ライブラリーからSTK33に結合する低分子化合物を探し出し、CDD-2807という名称のSTK33阻害薬を生み出しました3)。CDD-2807を雄マウスの腹腔内に21日間注射したところ精子の数や運動が低下して不妊となりました。注目すべきことにその効果は永続的ではなく可逆的であり、投与を止めると21日以内に生殖能が復活しました。毒性の所見は認められず、STK33欠損マウスやSTK33変異男性と同様に精巣の大きさも変化しませんでした。CDD-2807の効果はSTK33が雄の生殖能に不可欠なことを一層明確にし、必要に応じた可逆的な男性用避妊薬の標的となりうることを示しています。CDD-2807は経口投与時の体内の巡りが今ひとつだったので、効果の検討では腹腔内に注射されました。とはいえ経口薬を誂えるためのヒントとなりうるSTK33とCDD-2807の結合構造が把握されています。その構造は別のSTK33阻害薬の発見や経口投与で事足りるようにする取り組みを後押しするでしょう4)。CDD-2807の成果の実用化には多分に漏れずまだまだやるべきことがたくさんあります。広く使われる避妊薬となるためにはホルモン濃度、生殖機能全般、子孫への影響などのさまざまな安全性の検討を無事通過しなければなりません。また、長期使用で生じうる害を検討する長丁場の試験も欠かせません。まずは今後数年のうちにCDD-2807やその後続品の可逆的男性用避妊薬としての効果を霊長類で検討することを目指す、と今回の研究を率いたMartin Matzuk氏は言っています5,6)。参考1)Martins LR, et al. Dev Biol. 2018;433:84-93.2)Ma H, et al. Hum Mol Genet. 2021;30:1977-1984. 3)Ku AF, et al. Science. 2024;384:885-890.4)Holdaway J, et al. Science. 2024;384:849-850.5)A promising approach to develop a birth control pill for men / Eurekalert6)Towards a Male Contraceptive That Doesn’t Target Hormones / TheScientist

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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ホルモン避妊法、脳梗塞・心筋梗塞のリスクは?/BMJ

 生殖年齢15~49歳の女性において、現在使用されているエストロゲン・プロゲスチンおよびプロゲスチン単剤による避妊法は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具を除き、虚血性脳卒中および一部の症例では心筋梗塞のリスク増加と関連していることが、デンマーク・Nordsjaellands HospitalのHarman Yonis氏らが同国居住の女性約203万例を対象に行った前向きコホート研究の結果で示された。著者は、「絶対リスクは低いが、臨床医はホルモン避妊法を処方する際、ベネフィットとリスクの評価に動脈血栓症の潜在的リスクを含めるべきである」と述べている。BMJ誌2025年2月12日号掲載の報告。デンマーク居住の約203万例を対象にコホート研究 研究グループは、1996~2021年にデンマークに居住しており、動脈・静脈血栓症、がん(非黒色腫皮膚がんを除く)、血栓症、肝疾患、腎疾患、抗精神病薬の使用、不妊治療、ホルモン療法の使用、卵巣摘出、子宮摘出、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症の既往歴のない15~49歳の女性202万5,691例を対象に、前向きコホート研究を行った。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中または心筋梗塞の初回退院時診断とした。脳梗塞10万人年当たり、経口避妊薬群39件、黄体ホルモン単剤ピル群33件 2,220万9,697人年の追跡において、虚血性脳卒中イベントの発生は4,730件、心筋梗塞イベントの発生は2,072件であった。 試験集団は、ホルモン避妊法非使用群、複合ホルモン避妊法使用群(複合経口避妊薬[経口エチニルエストラジオール30~40μg、同20μg、経口エストラジオール]、膣リング、パッチ)、プロゲスチン単剤避妊法使用群(経口[ピル]、子宮内避妊具、インプラント、注射)に特徴付けられた。 標準化虚血性脳卒中発生頻度(10万人年当たり)は、ホルモン避妊法非使用群が18(95%信頼区間[CI]:18~19)、複合経口避妊薬使用群が39(36~42)、プロゲスチン単剤ピル使用群が33(25~44)、子宮内避妊具使用群が23(17~29)。標準化心筋梗塞発生頻度(10万人年当たり)は、それぞれ8(8~9)、18(16~20)、13(8~19)、11(7~16)であった。 非使用群に対する複合経口避妊薬使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中2.0(95%CI:1.9~2.2)、心筋梗塞2.0(1.7~2.2)であった。これら標準化発生率比の差は、10万人年当たり虚血性脳卒中21例(18~24例)、心筋梗塞10例(7~12例)の増加に相当した。 非使用群に対するプロゲスチン単剤ピル使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中1.6(95%CI:1.3~2.0)、心筋梗塞1.5(1.1~2.1)で、これは10万人年当たり虚血性脳卒中15例(6~24)、心筋梗塞4例(-1~9)の増加に相当した。 動脈血栓症リスクの増加は、膣リング使用群(補正後発生率比:虚血性脳卒中2.4[95%CI:1.5~3.7]、心筋梗塞3.8[2.0~7.3])、パッチ使用群(虚血性脳卒中3.4[1.3~9.1]、心筋梗塞なし)、およびプロゲスチン単剤インプラント使用群(虚血性脳卒中2.1[1.2~3.8]、心筋梗塞≦3)でも観察されたが、プロゲスチン単剤放出子宮内避妊具使用群では観察されなかった(虚血性脳卒中1.1[1.0~1.3]、心筋梗塞1.1[0.9~1.3])。

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65歳以上の全女性に骨粗鬆症スクリーニングを推奨――USPSTF

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は1月14日、65歳以上の全ての女性に対して、骨折予防のための骨粗鬆症スクリーニングを推奨するという内容のステートメントを発表した。また65歳未満であってもリスク因子のある女性は、やはりスクリーニングの対象とすべきとしている。一方、男性に対するスクリーニングに関しては、まだ十分なエビデンスがないとした。これらの推奨の詳細は、USPSTFのサイトに同日掲載された。 USPSTFのEsa Davis氏は、「骨粗鬆症患者に現れる最初の症状が骨折であることが非常に多い。このことが、その後の深刻な健康障害を引き起こしている」と、未診断の骨粗鬆症患者が少なくないという問題を指摘し、スクリーニング対象基準を明確にすることの意義を強調。また、「この基準の明確化によって、65歳以上の女性だけでなく、リスクが高い場合は65歳未満の女性も、骨折を来す前にスクリーニングを受けることで骨粗鬆症を早期に発見でき、女性の健康、自立、生活の質の維持につなげられる」と話している。 骨も体のほかの組織と同じように、新陳代謝を繰り返している。しかし加齢とともに、骨の吸収と形成のバランスが負になりやすく、吸収された骨が十分に補充されなくなっていく。骨粗鬆症の多くはこのような加齢の影響により進行し、徐々に骨密度が低下していき骨折のリスクが上昇してくる。米クリーブランドクリニックのデータによると、骨粗鬆症による骨折が生じやすい部位は、股関節、手首、脊椎などと報告されている。 USPSTFは予防医学関連のさまざまなステートメントを策定するとともに、それらを定期的に見直し、最新の医学的知見に準拠した内容を維持している。今回のUSPSTFのステートメントに関しては、2011年および2018年に発表された以前のバージョンと基本的には一致する内容だが、スクリーニングのための検査手法として、「二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による骨密度(BMD)測定が含まれる」とされた。 推奨項目は以下のとおり。65歳以上の女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。骨粗鬆症の危険因子を一つ以上有する65歳未満の閉経後女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。男性の骨粗鬆症による骨折を予防するためにスクリーニングを行うことのリスク/ベネフィットのバランスを評価するには、現在のエビデンスは不十分。 男性のスクリーニングについてUSPSTF副委員長のJohn Wong氏は、「検査によって骨粗鬆症の男性を特定することは可能。しかし、検査とそれに続く治療が、男性の骨折を抑制するかどうかについては、さらなるエビデンスが必要な段階だ。USPSTFは現在、男性に対する研究を奨励している」と述べている。 なお、USPSTFは全米の予防医学に関する専門家で構成される独立したボランティア委員会で、USPSTFのステートメントが医療保険制度に変化をもたらすこともある。同国の医療保険制度改革法(Affordable Care Act)では、USPSTFの推奨度が高い検査は無料で受けられるようにすべきとしている。

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副腎性クッシング症候群〔Adrenal Cushing's syndrome〕

1 疾患概要■ 定義クッシング症候群は、副腎皮質から慢性的に過剰産生されるコルチゾールにより、中心性肥満や満月様顔貌といった特徴的な臨床徴候を示し、糖・脂質代謝異常、高血圧などの合併症を伴う疾患である。手術により治癒が期待できる内分泌性高血圧症の1つである。 広義のクッシング症候群は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性クッシング症候群(下垂体性のクッシング病や異所性ACTH産生腫瘍など)とACTH非依存性クッシング症候群(副腎性クッシング症候群)に大別され、本稿では副腎性クッシング症候群について解説する。■ 疫学厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班による全国実態調査では、日本全国で1年間に約50症例の副腎性クッシング症候群の発症が報告されている。CT検査などが行われる機会が増えた現在では、副腎偶発腫を契機に診断される症例が増加していると考えられる。副腎腺腫によるクッシング症候群の男女比は1: 4と女性に多く、30~40代に好発する。■ 病因副腎皮質の腺腫やがんなどにおいてコルチゾールが過剰産生される。その分子メカニズムとしてcAMP-プロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)経路およびWNT-βカテニンシグナル経路の異常が示されている。顕性クッシング症候群を生じる症例の約85%で症例の副腎皮質腺腫において、PKAの触媒サブユニットをコードするPRKACA(protein kinase A catalytic subunit α)遺伝子、およびアデニル酸シクラーゼを活性化することによりcAMP産生に関わるタンパク質をコードするGNAS(α subunit of the stimulatory G protein)遺伝子、WNTシグナル伝達経路の細胞内シグナル伝達因子であるβカテニンをコードするCTNNB1(β catenin)遺伝子の変異を認めることが報告されている。■ 症状クッシング症候群に特異的な症状として、中心性肥満(顔、頸部、体幹のみの肥満)、満月様顔貌、鎖骨上および肩甲骨上部の脂肪沈着(野牛肩:buffalo hump)、皮膚の菲薄化、皮下溢血、赤色皮膚線条、近位筋萎縮による筋力低下があり「クッシング徴候」と言う。その他、耐糖能異常、高血圧、脂質異常症や性腺機能低下症、骨粗鬆症、精神障害、ざ瘡、多毛を認めることもある。■ 分類副腎腫瘍によるもの、副腎結節性過形成によるものに大別される。副腎腫瘍には副腎皮質腺腫、副腎皮質がんがあり、副腎結節性過形成にはACTH非依存性大結節性過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia:PBMAH)、原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)が含まれる。顕性クッシング症候群のうちPBMAH、PPNADの頻度は併せて5.8%とまれである。また、クッシング徴候を欠くがコルチゾール自律分泌を認める症例を「サブクリニカルクッシング症候群」と言う。■ 予後副腎皮質腺腫によるクッシング症候群は、治療によりコルチゾールを正常化できた症例では同年代とほぼ同程度の予後が期待できる。治療しなければ、感染症や心血管疾患のリスクが増加し、予後に影響することが示されており、早期発見、治療が重要である。一方、副腎皮質がんはきわめて悪性度が高く、急速に進行し、肝臓や肺などへの遠隔転移を認めることも多く予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)クッシング徴候や副腎偶発腫、また、治療抵抗性の糖尿病、高血圧、年齢不相応の骨粗鬆症を認めた際は、クッシング症候群を疑い精査を行う。まず、病歴、服薬状況の問診によりステロイド投与による医原性クッシング症候群を除外し、血中コルチゾール濃度に影響を及ぼす薬剤(表)の使用を確認する。表 クッシング症候群の診断に影響する可能性がある薬剤(左側は一般名、右側は商品名)画像を拡大する血中コルチゾール濃度は視床下部から分泌されるCRHの調節により早朝に高値になり、夜間には低値になる日内変動を示す。クッシング症候群ではCRHの調節を受けないため、コルチゾールの日内変動は消失し、デキサメタゾン内服により抑制されない。そのため、24時間尿中遊離コルチゾール高値、デキサメタゾン1mg抑制試験で翌朝血清コルチゾール値≧5μg/dL、夜間血清コルチゾール濃度≧5μg/dLのうち、2つ以上あればクッシング症候群と診断する。さらに早朝の血漿ACTH濃度を測定し、測定感度以下(<5μg/mL)に抑制されていれば副腎性クッシング症候群と診断する。図に診断のアルゴリズムを示す。図 クッシング症候群の診断アルゴリズム画像を拡大するただし、うつ病、慢性アルコール依存症、神経性やせ症、グルココルチコイド抵抗症、妊娠後期などでは視床下部からのCRH分泌増加による高コルチゾール血症(偽性クッシング症候群)を呈することがあり、抗てんかん薬内服ではデキサメタゾン抑制試験で偽陽性を示すことがあるため、注意が必要である。副腎腫瘍の有無の検索のため腹部CT検査を行う。副腎皮質腺腫は脂肪成分が多いため、単純CT検査で辺縁整、内部均一な10HU未満の低吸収値を認める。直径4cm以上で境界不明瞭、内部が出血や壊死で不均一な腫瘍の場合は副腎皮質がんを疑い、MRIやFDG-PETなどさらなる精査を行う。PBMAHでは著明な両側副腎の結節性腫大を認め、PPNADでは副腎に明らかな腫大や腫瘍を認めない。コルチゾールの過剰産生の局在診断のため131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィを行う。片側性副腎皮質腺腫によるクッシング症候群では、健側副腎に集積抑制を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)副腎皮質腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術を施行することで根治が期待できる。術後、対側副腎によるコルチゾール分泌の回復までに6ヵ月~1年を要するため、その間は経口でのグルココルチコイド補充を行う。手術困難な症例や、片側副腎摘出術後の再発例、著明な高コルチゾール血症による糖代謝異常や精神異常、易感染性のため術前に早急なコルチゾールの是正が必要な症例に対しては、副腎皮質ステロイドホルモン合成阻害薬であるメチラポン(商品名:メトピロン)、トリロスタン(同:デソパン)、ミトタン(同:オペプリム)が投与可能である。11β-水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは可逆性で即効性があることから最もよく用いられている。副腎皮質がんでは開腹による腫瘍の完全摘出が第1選択であり、術後アジュバント療法として、または手術不能例や再発例に対しては症状軽減のためミトタンを投与する。ミトタンは約25~30%の奏効率とされているが、副作用も少なくないため有効血中濃度を維持できない症例も多い。PBMAHでは、症状が軽微な症例や腫大副腎の左右差もあり、合併症などを考慮して症例ごとに片側あるいは両側副腎摘出術や薬物療法による治療方針を決定する。一部の症例でみられる異所性受容体に対する阻害薬が有効な場合もあるが、長期使用による成績は報告されていない。PPNADでは、顕性クッシング症候群を発症することが多いため、両側副腎全摘が第1選択となる。サブクリニカルクッシング症候群では、副腎腫瘍のサイズや増大傾向、合併症を考慮して症例ごとに経過観察または片側副腎摘出術を検討する。4 今後の展望唾液コルチゾール濃度は、外来での反復検査が可能で、遊離コルチゾール濃度との相関が高いことが知られており、欧米では、夜間の唾液コルチゾール濃度がスクリーニングの初期検査として推奨されているが、わが国ではまだ保険適用ではなくカットオフ値の検討が行われておらず、今後の課題である。また、2021年3月に11β-水酸化酵素阻害薬であるオシロドロスタット(同:イスツリサ)の使用がわが国で承認された。メチラポンと比べて服用回数が少なく、多くの症例で迅速かつ持続的にコルチゾールの正常化が得られるとされており、長期使用成績の報告が待たれる。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)1)出村博ほか. 厚生省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査研究班 平成7年研究報告書. 1996;236-240.2)Lacroix A, et al. Lancet. 2015;386:913-927.3)Yusuke S, et al.Science. 2014;344:917-920.4)Rege J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107:e594-e603.5)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.182-187.6)Nieman Lk, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93:1526-1540.公開履歴初回2025年1月23日

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