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「泥棒!」【Dr. 中島の 新・徒然草】(643)

六百四十三の段 「泥棒!」水道の栓を捻っても湯が出てくる今日このごろ。皆さんいかがお過ごしでしょうか。さて先日のこと。総診外来におみえになった女性の患者さんは80歳でした。何でも98歳の母親に骨粗鬆症の薬が処方されているのだとか。他人事みたいに言っておられたので、ちょっと注意喚起しておきました。 中島 「体質は親子で遺伝しますからね。ご本人も骨粗鬆症には気を付けたほうがいいですよ」 患者 「そうなの?」 中島 「そうに決まってまんがな」 患者 「知らんかった」 中島 「大事なことなので、ちゃんと覚えて帰りましょうね」 ところでこの人、とんだ災難に遭ったのだとか。 患者 「この前、道を歩いてたら、知らない女の人に『奥さん、ええネックレスしてはるねえ』と言われて引っ張られたのよ」 中島 「何ですか、それ!」 患者 「それで『大したモンやあれへんから』言うて引っ張り返して」 中島 「大したモンやないって……そこですか?」 患者 「しまいに諦めてどっか行ってもたんやけどな」 白昼堂々とそんなことがあるんですね。この世の出来事とは思えません。あまりにも暑すぎるせいで、いろいろな人が湧いてきたのでしょうか。 患者 「それで警察に行ってね。『あの人、絶対に悪い人やから』って言ってきたのよ」 実際のところはもっとずっと長い話でした。要領を得ない愚痴を聞かされたお巡りさんも大変だったと思います。 中島 「あのねえ」 患者 「はあ」 中島 「そんなもん、泥棒じゃないですか」 患者 「そうなの?」 中島 「『泥棒!』と大声で叫んだら済んだ話ですよ」 これ、叫ぶ一手でしょう。 中島 「ちゃんと叫んだら泥棒も逃げていくし、警察も私も回りくどい話に付き合わなくて済みますから」 患者 「やっぱり!」 ようやくわかってくれましたか。実際のところ、ネックレスの引っ張り合いをしただけで被害は出ていないのだから、警察も対応できません。 中島 「そうだ、ちょうど良い機会だから練習してみましょう」 患者 「練習?」 中島 「私がネックレス引っ張るから『泥棒!』と叫んでください」 いったい、診察室でやるべきことなのか?そういう難しい話はとりあえず置いといて、この患者さんに必要なのはとにかく「叫び」です。そう思って私はネックレスを引っ張りました。 患者 「泥棒」 中島 「そうそう、その調子」 そう言いながらもう一度引っ張りました。 患者 「泥棒!」 中島 「おっ、なかなかいい声が出てきましたね」 理屈は抜き、とにかく叫ぶ。それに尽きます。こうして十分に練習ができたと思った私は、最後に念を押しました。 中島 「これで覚えて帰ることが2つに増えましたね。『親子の体質は似る』ということと『泥棒!』の2つです」 患者 「そやね」 何だか、患者さんもちょっと嬉しそうです。でも、すぐに何もかも忘れてしまうのがお年寄り。そう思った私は念を押すことにしました。「お大事に」と言いつつ、椅子を立った患者さんのネックレスを引っ張ったのです。 患者 「泥棒!!」 ちゃんと叫び声が返ってきました。 中島 「合格!!」 思わずこちらも叫んでしまいました。まさか、両隣の診察室に変に思われたりしなかったかな。ちょっと心配ではありましたが、あえて確認はしませんでした。それにしても、患者教育というのも何かと大変ですね。次は診察室に入ってきた時に、ネックレスを引っ張ってみてもいいかも。ちゃんと「泥棒!」と叫んでくれたら練習の甲斐があったというものです。ということで、最後に1句 暑い中 引っ張る奴は 泥棒だ!

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8月4日 栄養の日【今日は何の日?】

【8月4日 栄養の日】〔由来〕「えい(8)よう(4)」(栄養)と読む語呂合わせから、栄養を学び、体感することをコンセプトに、食生活を考える日とすることを目的に日本栄養士会が制定。同会では、この日を中心に「栄養週間」として、全国の管理栄養士・栄養士とともに「栄養をたのしむ」生活を応援している。関連コンテンツすぐに使える!糖尿病の食事指導スライドビタミンAってなあに?【患者説明用スライド】心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増骨折・転倒予防、CaとビタミンDに効果認めず~メタ解析/BMJ

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閉経前女性のホルモン避妊薬使用、大腸がんと関連なし/BMJ

 現代のホルモン避妊薬の現在または最近の使用は、大腸がん発症リスクに影響を及ぼさなかったことを、デンマーク・Danish Cancer InstituteのIsabella H. Lange氏らが、同国レジストリーを用いたコホート研究の結果で報告した。ホルモン避妊薬は、卵巣がんや子宮内膜がんのリスクを低減させる一方、乳がんのリスクを高めることが知られている。しかしながら大腸がんとの関連については依然として限定的で一貫性がなく、とくに現代のホルモン避妊薬(新規プロゲスチン、プロゲスチン単剤、非経口製剤を含む)が大腸がんのリスクに与える影響は明らかにされていなかった。著者は今回の結果について、「現代の避妊薬が若年女性の大腸がん発症リスクの上昇にも低下にも関連しないことを示しており、ホルモン避妊薬の使用と大腸がんとの関連性を裏付ける証拠は得られなかった」とまとめている。BMJ誌2026年7月15日号掲載の報告。デンマークの女性約196万人を追跡調査 研究グループは、デンマークの処方箋登録(Danish National Prescription Registry)、がん登録(Danish Cancer Registry)、患者登録(Danish National Patient Registry)および統計局の雇用および教育状況に関するデータを用い、1995年1月1日時点で15~49歳および2021年12月31日までに15歳に達した女性で、デンマークに5年以上居住しており、子宮摘出術、卵巣摘出術、または不妊手術の既往歴がない195万6,948人を特定した。ホルモン避妊薬の使用期間または種類と大腸がんの初回診断との関連について、ポアソン回帰モデルを用い、補正後発症率比および95%信頼区間(CI)を算出し評価した。 ホルモン避妊薬の使用期間は、現在または最近の使用(継続使用、または過去6ヵ月以内に使用を中止)、過去使用(使用中止から6ヵ月超経過)、未使用(追跡調査日にその時点まで一度もホルモン避妊薬を処方されていない)に分類した。 追跡期間は、大腸がんの初回診断、死亡、国外への移住、50歳に達した時点または2021年12月31日の追跡期間終了のいずれか早い時点までであった。がんの診断または子宮摘出術、卵巣摘出術、不妊手術を受けた場合は打ち切り、妊娠中および妊娠終了後6ヵ月間は一時的に打ち切りとした。大腸がん発症率比に差は認められず 追跡期間中央値12.5年(四分位範囲:5.9~20.5)、2,450万人年において、1,878例が新たに大腸がんと診断され、発症率は年齢とともに増加した。 現在および最近の使用者の未使用者に対する大腸がん発症率比は0.94(95%CI:0.83~1.06)であり、現在または最近の使用者の中で使用期間が5年未満の場合は0.97(95%CI:0.85~1.11)、10年超でも0.86(95%CI:0.62~1.18)であった。過去使用者の発症率比は未使用者と同様であったが、中止後10年以上経過した場合は発症率比がわずかに低下した(0.81、95%CI:0.66~0.99)。 配合経口避妊薬の種類によって発症率比に一貫した差異は認められなかった。最も多く使用されているプロゲスチン単剤の経口製剤(desogestrel)の発症率比は1.09(95%CI:0.74~1.61)、非経口製剤(レボノルゲストレル放出子宮内システム)の発症率比は0.96(95%CI:0.81~1.15)であった。

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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第327回 卵巣を柔らかくする薬で生殖年齢を延長

卵巣を柔らかくする薬で高齢のマウスやラットがより妊娠しやすくなって子をより多く産めるようになり、ヒトの女性がより高齢になってから子を授かるのをより容易にする可能性が示唆されました1-3)。やがて排卵で放出される成熟卵のもととなる未成熟卵の数や質は加齢と共に低下し、女性の生殖能力はだいたい30歳代中頃から衰え始めます。ゆえにより若い頃のほうが子を得やすいものの、日本は晩婚化につられて晩産化が進んでいます。日本の女性の第1子出産年齢は1975年には約26歳でしたが、それから50年後の最近の2024年には31歳へと約5歳上昇しました。卵巣の細胞外基質(ECM)が歳とともに固くなることは卵子の発達や質に支障を来すようですが、その仕組みはよくわかっていませんでした。そこで中国の華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)のチームは、子宮頸がんか子宮内膜がんの手術で摘出された卵巣を使って硬化の原因解明を試みました。生殖適齢の30歳前(18~28歳)の30例、中年(35~42歳)の37例、より高年(47~52歳)の40例の3つの年齢層に分けて卵巣のタンパク質量を調べたところ、インターロイキン11(IL-11)がより高齢になるほど多く発現していました。そのIL-11こそ卵巣硬化の主犯格らしく、線維芽細胞からのECMタンパク質のコラーゲン分泌を促して卵巣をより固くしていると示唆されました。高齢のマウスやラットの卵巣でもIL-11が増えており、試しにマウスをIL-11に反応しないようにしたところ、老いても卵巣の硬直が少なく、加えて排卵される卵母細胞もより多くなりました。続く大詰めの研究でIL-11抑制の効果が調べられました。IL-11の発現をRNA干渉の仕組みで阻止する薬が、ヒトでは30歳代後半から40歳代初めに相当する生後36週のマウスの尾の静脈に投与されました。すると卵巣は非投与マウスに比べてより柔軟になり、受胎率が向上し、産む子の数が増えました。マウスと同じぐらいの年齢のラットでの検討でもIL-11抑制薬は同様に卵巣機能を改善し、受胎率を高め、産む子の数を増やしました。閉経前の女性でもIL-11抑制薬はラットやマウスでの検討と同様の効果をもたらすかもしれません。今回の観察では婦人科系のがん女性の卵巣で検討されたことから、そうではない女性もIL-11上昇を示すことを今後の検討でまずは示す必要がありそうです。もしIL-11抑制に卵巣機能を保つ働きがあるなら、その効果は生殖能力の向上のみならず、女性の健康全般の底上げにも役立つかもしれません。卵巣機能の維持手段は閉経で健康が損なわれるのを遅らせ、骨粗鬆症や心血管系疾患などの不調を遠ざける働きを担いうるからです。マウスやラットでの検討でIL-11抑制薬は尾の静脈に投与され、卵巣に限らずおそらく全身を行き交いました。そうではなくIL-11抑制薬を卵巣に直接届ける方法をヒトでの試験に先立って確立したいと研究チームは考えています。何しろ卵巣は次世代の素となる卵細胞を預かる器官だけに、卵巣への薬はこの上なく安全でなければなりません3)。参考1)Wu M, et al. Nat Aging. 2026 Jul 2. [Epub ahead of print]2)Targeting interleukin-11 to slow ovarian aging / Nature3)Our fertility window could be extended by making ovaries softer / NewScientist4)第1子の出産年齢推移 / こども家庭庁

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テゼペルマブで重症喘息患者のステロイド減量が可能に

 最近承認された喘息治療薬テゼペルマブ(商品名テゼスパイア)により、喘息コントロールを維持しながら経口ステロイドの使用量を減らせる可能性が、臨床試験で示された。テゼペルマブ群では、喘息コントロールを維持しつつ日常的なステロイド使用量をより大きく減らせるオッズがプラセボ群の約3倍であったという。米National Jewish HealthにあるCohen Family Asthma Institute所長であるMichael Wechsler氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Respiratory Medicine」6月号に掲載された。Wechsler氏は、「長期的な経口コルチコステロイドの使用は、糖尿病、骨粗鬆症、心血管疾患などの健康被害をもたらす可能性があり、生活の質(QOL)にも重大な影響を与え得る」と述べている。 米食品医薬品局(FDA)は2021年に、重症喘息の維持療法としてテゼペルマブを承認した。喘息患者は本剤を月1回自己注射する。テゼペルマブは、炎症誘発性サイトカインの一種である胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を阻害することにより喘息発作を抑制する。 今回の第3相臨床試験は、12カ国、63施設で、18〜80歳の重症喘息患者122人を対象に実施された。対象者は、テゼペルマブ210mgを4週間ごとに28週間投与する群(83人)とプラセボを投与する群(39人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、喘息コントロールを維持したまま、28週時点における経口ステロイド使用量のベースラインからの変化量であった。 最終的に、90人(74%)が治療を完了した。その結果、28週時点で、テゼペルマブ群では69%の患者がステロイドの使用量を半分以上減量できたのに対し、プラセボ群では44%にとどまっていた。また、ステロイドを90〜100%減量できたのは、テゼペルマブ群では36%(30人)、プラセボ群では21%(8人)であった。さらに解析の結果、喘息コントロールを維持しながら経口ステロイド使用量をより大きく減量できるオッズは、テゼペルマブ群でプラセボ群の約3倍(オッズ比2.93)であることが示された。 Wechsler氏は、「これらの知見は、テゼペルマブで治療された重症喘息患者が、喘息コントロールを維持しながら経口ステロイドへの依存を大幅に減らせる可能性を示す点で重要である」とニュースリリースで述べている。 ただし、本試験は登録の遅れにより予定していた参加者数(207例)に達せず、早期終了したと研究グループは説明している。その上で、「しかしながら、本試験は高い質で実施されており、ランダムに割り付けられた参加者のほぼ4分の3が試験を完了している。早期終了は、参加者の試験未完了の最も一般的な理由であった」と論文の中で述べている。 なお、本試験の資金は、テゼペルマブの開発・販売元であるアストラゼネカ社およびアムジェン社が提供した。

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関節リウマチでは効かなかったIL-17阻害薬がリウマチ性多発筋痛症で有効―REPLENISH試験(解説:金子開知氏)

 リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多くみられ、肩や股関節周囲の強い疼痛と朝のこわばりを特徴とする。グルココルチコイドが著効する一方で再燃率が高く、長期グルココルチコイド投与による感染症、骨粗鬆症、糖尿病などの有害事象が大きな課題となっている。 REPLENISH試験では、再燃したリウマチ性多発筋痛症患者381例を対象にIL-17A阻害薬セクキヌマブの有効性および安全性を評価した。その結果、52週時の持続寛解率はセクキヌマブ群で約41%とプラセボ群(20%)の約2倍に達し、累積グルココルチコイド投与量も有意に減少した。感染症や過敏症反応はセクキヌマブ群でやや多く認められたものの、安全性プロファイルに大きな懸念は認められなかった。 リウマチ性多発筋痛症では近年、IL-6阻害薬が海外で有効性を示し、炎症性サイトカインを標的とした治療への期待が高まっている。一方、本試験でとくに注目されるのは、関節リウマチでは十分な効果を示せなかったセクキヌマブがリウマチ性多発筋痛症で有効性を示した点である。一般にリウマチ性多発筋痛症は高齢発症関節リウマチとの鑑別が問題となることも多いが、今回の結果はリウマチ性多発筋痛症と関節リウマチの免疫学的背景が異なることを示唆する。すなわち、関節リウマチでは主要な治療標的とならなかったIL-17/Th17経路がリウマチ性多発筋痛症の病態形成に重要な役割を果たしている可能性が示された。現在、日本ではリウマチ性多発筋痛症に対して承認された生物学的製剤はなく、本試験はグルココルチコイド依存からの脱却を目指す新たな治療戦略として注目される。

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6月5日 ロコモ予防の日【今日は何の日?】

【6月5日 ロコモ予防の日】〔由来〕「ロ(6)コ(5)モ」と「ろ(6)うご(5)」(老後)と読む語呂合わせから、ロコモティブ・シンドロームの認知度を高め、その予防に関する正しい理解を広めることを目的に「ロコモティブ・シンドローム予防推進委員会」が制定。関連コンテンツ医療・介護施設従事者のための転倒・転落事故へのアプローチこれから、ロコモ対策、何をやる(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)7つの“ロコモチェック”(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)初めて治療ゴールを示した「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」変形性膝関節症、膝装具の追加で患者報告アウトカムが改善/BMJ

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骨折・転倒予防、CaとビタミンDに効果認めず~メタ解析/BMJ

 これまでの系統的レビューでは、カルシウムおよびビタミンDは、単独では骨折の減少をもたらさず、これらを併用しても結果に一貫性はなく、転倒に対するビタミンDの効果にもばらつきがみられる。それにもかかわらず、ガイドラインなどは筋骨格系の健康維持にビタミンD(±カルシウム)の補充を推奨し、2000年代初頭以降、これらの処方量は大幅に増加しているという。カナダ・CIUSSS du Nord-de-l’Ile-de-MontrealのOlivier Masse氏らは、骨折および転倒の予防において、カルシウム、ビタミンD、またはこれらを併用した栄養補充製品の有益性はほとんど、あるいはまったく認められないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年5月20日号で報告された。骨折・転倒の予防効果をメタ解析で評価 研究グループは、成人における骨折および転倒に対する、カルシウム、ビタミンD、またはこれらを併用した栄養補充製品の効果を評価する目的で、関連文献の系統的レビューとメタ解析を行った(特定の助成は受けていない)。 対象は、骨粗鬆症の薬物治療を受けていない成人(18歳以上)において、骨折または転倒の予防法として、カルシウム、ビタミンD、またはこれらの併用補充製品を、プラセボまたは無治療と比較した無作為化比較試験とした。全骨折の予防効果はほとんどない 69件の試験(参加者15万3,902例)を解析の対象とした。60試験(87%)は地域在住の高齢者のみ、26試験(38%)は女性のみを対象とし、50試験(72%)の参加者は骨折や転倒のリスクが高いグループには属していなかった。全体の年齢中央値は71.2歳(四分位範囲:63.8~76.9)だった。 主要アウトカムである全骨折に関して、カルシウム補充製品(11試験、参加者9,067例、リスク比:0.91[95%信頼区間[CI]:0.81~1.01]、エビデンスの確実性:中)や、ビタミンD補充製品(36試験、9万2,415例、1.00[95%CI:0.95~1.06]、高)、併用栄養補充製品(15試験、5万1,126例、0.91[95%CI:0.84~0.99]、高)のいずれにおいても、予防効果はほとんど、あるいはまったく認めなかった。 大腿骨近位部骨折、非脊椎骨折、脊椎骨折についても、3つの補充製品とも、ほとんど予防効果はなかった。転倒の予防にも効果はない、他の介入法の可能性を 転倒の予防に関しても、カルシウム補充製品(2試験、参加者2,966例、リスク比:0.91[95%CI:0.78~1.06]、エビデンスの確実性:中)、ビタミンD補充製品(32試験、6万5,234例、1.01[95%CI:0.98~1.04]、高)、併用栄養補充製品(10試験、1万1,068例、0.92[95%CI:0.84~1.00]、中)のすべてで、予防効果はみられなかった。 また、複数のサブグループ解析により、異質性に関して広範な検討を行ったが、上記の知見の頑健性は保持されていた。 一方、高リスク例や在宅看護を要する患者については、カルシウム単独療法および併用補充療法の多くのアウトカムに関して、エビデンスは十分ではなかった。 著者は、「これらの知見は、骨折や転倒の予防を目的とするカルシウム、ビタミンD、これらを併用した栄養補充製品の日常的な摂取を支持しない」としている。また、「本研究の結果は、特定の骨疾患を有する患者、あるいは骨粗鬆症の薬物治療や、長期にわたりコルチコステロイドを使用している患者には一般化できない可能性がある」「今後は、骨折や転倒の予防に、これら以外の介入法の評価が行われる可能性があり、検討が期待される分野として、食事療法、医薬品の再評価、教育や行動変容へのアプローチ、多面的な介入、および転倒予防のためのデジタルツールなどが挙げられる」と指摘している。

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ロキソプロフェン、トラマドール、PPI…、高齢者疼痛管理の見直しポイント【高齢者処方のデザイン】第1回

以下の症例に対する前医での処方箋には「替えるべきポイント」が3つ隠れています。あなたは見抜けますか?【症例】患者78歳・女性変形性膝関節症と慢性腰痛で整形外科に通院中。既往に胃潰瘍(8年前、ピロリ菌除菌後)、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症があり、直近の血液検査でeGFR 48と腎機能低下を認める。前医では疼痛に対してロキソプロフェンが定期処方され、痛みが強い時にはトラマドールを頓用、加えてランソプラゾールが継続されている。また、併存症に対してロサルタン、ロスバスタチン、アレンドロン酸が処方されている。最近、食欲低下と軽度の倦怠感を訴えて来院した。痛みのコントロールは「まあまあ」とのことだが、便秘とふらつきも自覚しているという。トラマドールは1日平均1~2錠程度内服している。診察上、両膝に軽度の腫脹を認めるが、消化器症状や明らかな浮腫は乏しい。【Before:前医の処方箋】A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時 1) Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525. 2) Derry S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;5:CD008609. 3) Roth SH, et al. J Pain Res. 2011;4:159-167. 4) Chappell AS, et al. Pain. 2009;146:253-260. 5) Chappell AS, et al. Pain Pract. 2011;11:33-41. 6) Kolasinski SL, et al. Arthritis Rheumatol. 2020;72:220-233. 7) 日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会編. 変形性膝関節症診療ガイドライン2023. 南江堂; 2023. 8) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 講師紹介

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治療抵抗性の皮膚筋炎、新規経口TYK2/JAK1阻害薬brepocitinibが有効/NEJM

 brepocitinibは、皮膚筋炎への関与が知られているサイトカインシグナル伝達を遮断するfirst-in-classの経口選択的チロシンキナーゼ2(TYK2)/ヤヌスキナーゼ1(JAK1)阻害薬。米国・ハーバード大学医学大学院のRuth Ann Vleugels氏らは「VALOR試験」において、従来の治療に抵抗性の皮膚筋炎の成人患者では、brepocitinibはプラセボと比較して複合筋炎指数を有意に改善するほか、皮膚疾患の重症度、グルココルチコイドの漸減、機能障害などに関して有意な有益性を示すことを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月28日号(同31日更新)に掲載された。20ヵ国の第III相無作為化プラセボ対照比較試験 VALOR試験は、20ヵ国90施設で実施した第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2022年10月~2024年6月に参加者のスクリーニングを行った(Priovant Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、18~75歳、欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会(EULAR/ACR)の特発性炎症性筋疾患(definiteまたはprobable)の分類基準(2017年)と皮膚筋炎の亜分類基準を満たし、活動性の筋疾患(MMT-8スコア[0~150点、点数が低いほど筋力が低下]80~142点)および皮膚疾患(CDASI-Aスコア[0~100点、点数が高いほど疾患活動性が重度]6点以上)を有し、少なくとも1つの従来治療(全身グルココルチコイド療法、従来型DMARD、静注免疫グロブリン療法など)で効果が不十分な患者であった。 被験者を、brepocitinib 30mg、同15mg、プラセボを、1日1回経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は52週であった。併せて標準治療を継続し、グルココルチコイドは漸減した。 主要エンドポイントは、52週の時点における、筋炎の活動性に関する6つの主要な指標を統合した加重複合筋炎指数である総合改善スコア(TIS、範囲:0~100点、点数が高いほど改善度が高い)の平均値とした。30mg群でTISが有意に改善 241例(平均年齢50.6歳、女性77.6%)を登録し、brepocitinib 30mg群に81例、同15mg群に81例、プラセボ群に79例を割り付けた。ベースラインの疾患活動性は、患者の81.3%が中等度~重度であり、皮膚疾患(平均[±SD]CDASI-Aスコア19.8[±11.5]点)、筋疾患(平均MMT-8スコア122.6[±15.9]点)とも高い活動性を示した。210例(87.1%)が52週の投与期間を完了した。 52週の時点で、平均TISは、brepocitinib 30mg群が46.5点、同15mg群が37.5点、プラセボ群は31.2点であった。30mg群とプラセボ群のTISの最小二乗平均差は15.3点(95%信頼区間[CI]:6.7~24.0、p<0.001)と有意差を認め、15mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は6.3点(95%CI:-2.4~14.9)であった。 9項目の主な副次エンドポイントはすべて、プラセボ群に比べ30mg群で有意に優れた。たとえば、52週時にCDASI-Aスコアの40%以上かつ4点以上の改善を達成した患者の割合の最小二乗平均差は17%(95%CI:1~32、p=0.04)、52週時にTIS≧40点で、かつ経口グルココルチコイドの使用が最小限または非使用の患者の割合の最小二乗平均差は26%(95%CI:11~40、p<0.001)、機能障害の指標であるHAQ-DIスコアのベースラインから52週目までの変化量の最小二乗平均差は-0.30点(95%CI:-0.49~-0.10、p=0.004)であった。重篤な感染症が10%に 52週の投与期間に、重篤な有害事象はbrepocitinib 30mg群で13例(16%)、プラセボ群で10例(13%)に発現した。重篤な感染症の発生頻度は、プラセボ群に比べ30mg群で高かった(8例[10%]vs.1例[1%])。投与中止に至った有害事象は、30mg群で5例(6%)、プラセボ群で9例(11%)に認めた。 とくに注目すべき有害事象として、30mg群で心血管系が1例(1%)、ウイルスの再活性化が4例(5%)、ALT値またはAST値の上昇が1例(1%)にみられた。試験期間中に死亡の報告はなかった。二重の利点をもたらす可能性を示唆 著者は、「治療効果の大きさは、全身性の筋炎活動性、機能障害、皮膚疾患活動性を含む複数の領域において、確立された臨床的に意義のある最小変化量(MCID)の閾値を上回った」「臨床効果は4週目までに現れ、52週間の試験期間を通じて持続した」としている。 また、「長期の全身グルココルチコイド療法は、重大な毒性(感染症、糖尿病、心血管疾患、骨粗鬆症のリスク増大など)を伴うため、その減量は重要な治療目標とされる」とし、「本試験の知見は、brepocitinibが疾患活動性を抑制すると同時に、グルココルチコイドへの曝露を低減するという二重の利点をもたらす可能性を示唆する」と指摘している。

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在宅医療・介護の場で見逃してはいけない骨粗鬆症/日本シグマックス

 整形外科領域などで衛生材料や診療機器、サポーターなどの開発・販売を行う日本シグマックスは、2026年3月24日に都内で「在宅医療・介護で見過ごされがちな『骨粗鬆症』リスクと転倒・骨折予防の重要性」をテーマにメディアセミナーを開催した。 骨粗鬆症は自覚症状に乏しく、発見が遅れがちな疾患であり、転倒・骨折をきっかけに要介護へ移行するケースも多く、医療・介護双方で課題となっている。同社の代表取締役社長の鈴木 洋輔氏は、これらの課題の解決に「超音波医療機器の開発や機械の小型化といった知識の導入により、治療に貢献する製品を研究開発していく」と展望を述べている。 セミナーでは、骨粗鬆症の病態と予防の解説のほか、在宅医療の視点から骨折リスクとしての骨粗鬆症と在宅でできる予防法などが講演された。骨粗鬆症検診率は全国平均でまだ5% 「骨粗鬆症と骨折予防の意義」をテーマに山本 智章氏(新潟リハビリテーション病院 院長)が、骨粗鬆症の病態、高齢者と骨折、骨折予防などについて講演した。 ヒトの最大骨量は20~40代であり、男性は女性に比べてやや多い骨量となっている。とくに女性では閉経後に急激な骨量の減少がみられ、骨粗鬆症の1番の原因は閉経と老化とされる。若いときに最大骨量をいかに高められるかが、将来の骨粗鬆症の予防につながると近年の研究から判明し、生涯にわたり骨の健康を考えることが重要な時代となっている。 わが国は超高齢社会となり、2000年以降、骨折の概念は外傷性ではなく、脆弱性骨折へと変化している。実際、病院で受診する骨折患者のほとんどが脆弱性骨折であり、骨折はけがではなく、慢性疾患の中で起きる1つのイベントという認識が必要となる。 脆弱性骨折は、椎体や上腕骨、大腿骨近位部などさまざまな部位で発生する。とくに高齢者では、脊椎椎体と大腿骨頸部の骨折が多く、大腿骨近位部骨折の患者数は年々増加し、1980年代と比較すると5~6倍となり、2017年には約19万3,000例となっている1)。 大腿骨近位部骨折は、フレイル、骨粗鬆症、低栄養などさまざまな症状が併存した結果起こり、治療では手術が第1選択となる。また、骨折を起こすと医療費の増加、介護の発生、再発のリスクがあるほか、受傷1年後の患者の日常生活動作(ADL)を調査した研究によると1年以内の死亡が20%、永続的な能力障害が30%、歩行不能が40%、限定的な生活動作が80%と大きな生活上のリスクとなることが報告されている2)。そのため海外では、早期治療が有効であり、徹底して予防し、優先的に治療すべきとされている。 最近、社会的認知が広がっている「いつの間にか骨折」の椎体骨折の発生数について、ROAD研究から形態椎体骨折は420万件、臨床的椎体骨折は118万件と報告されている。多発脊椎圧迫骨折が進行すると脊柱後弯症となり、ADLの障害、慢性背部痛、呼吸換気不全などのQOLの低下を来す。また、体型バランスが変わることで転倒リスクが高くなり、さらなる転倒・骨折などを来す原因となる。 骨折について医療経済や介護環境についてみると、医療費の面で2018年の新潟県の後期高齢者入院の医療費では、「脆弱性骨折」が9.25%と1番高く、脳卒中が7.50%、そのほかの心疾患が7.40%の順で高かった。また、介護の主要因について厚生労働省の調査では、認知症が23.6%で1番高く、脳血管疾患が19.0%、骨折・転倒が13.0%と上位の3要因に入っている。骨折で介護が必要となった場合の5年間の自己負担額の試算では1,540万円と試算するデータもあり、これら介護の負担は、患者本人だけでなく、家族を巻き込み、社会的にも医療的にも問題となる。 骨折の原因となる骨粗鬆症治療を受けるべきターゲットは、「(1)(50歳以降に)骨折を起こした人、(2)骨密度の低下した人(若いときの70%以下の骨密度)のどちらかに該当する人は骨粗鬆症の治療を始めたほうがよい」と山本氏は提言する。 その一方で骨粗鬆症検診の現状は、全国平均で約5%と低く、地域によってはゼロというところもある。「健康日本21」では、「骨粗鬆症の検診率を15%まで引き上げる」という目標が設定され、今後積極的な取り組みがなされる。 わが国の高齢者の転倒発生率は80歳以上で11.1%、85歳以上で13.6%であり、その20%が治療適用となり、5~10%が骨折となる。転倒では、筋力の低下、バランス障害、歩行障害などが大きく寄与しており、正常なバランスの指標として「片足立ちができるかどうか」がある。片足でしっかり立てるということは、歩行も安定し、さまざまな場面でバランスも取れるということが転倒予防に重要となる。また、もう1つ重要なことが「環境」である。屋外はもちろん、屋内でも浴室や居間、階段などさまざまな場での転倒リスクをいかに低下させるかということを高齢者に指導していくことが重要となる。 最後に山本氏は「第28回 日本骨粗鬆症学会が新潟で開催される。『女性医学と整形老年病学』という若いときから女性がいかに元気でいられるかというテーマで開催されるので、多くの医療者に参加してもらいたい」と述べ、講演を終えた。病診連携では「再骨折予防手帳」を活用 「在宅だからこそ見逃される骨折リスクと地域連携の重要性」をテーマに山口 正康氏(医療法人社団 山口クリニック 院長)が、オンラインで在宅患者の骨粗鬆症リスクをいかに見つけ、どのように予防し、地域で支えていくかを講演した。 山口氏は、新潟市内で消化器内科を専門に、地域の在宅医療も行っている。往診先には寝たきりの患者、独居の認知症患者など、さまざまな患者が自宅で自分らしい生活を続けている中で、通院できない患者について骨折予防のため定期的に骨粗鬆症の治療も行っているという。 在宅医療患者の特性と骨折リスクとしては、身体的要因として転倒リスクが高い疾患が多いこと、服用薬の影響、加齢による骨・筋肉の脆弱化、通院できないことによる治療の放置がある。また、社会的要因として見守りの目が届きにくい住環境などに転倒誘因が多いほか、身体機能に合わない杖などの補助具の使用、閉じこもりによる身体の廃用性萎縮などがある。さらに在宅特有の診断困難性として、「DXA検査へのアクセス制限」「無症候骨折の看過」「既存骨折の未評価」「検査の遅れ」などもあり、骨折の診断・評価の機会損失が潜在化すると山口氏は警鐘を鳴らす。 骨粗鬆症財団の行った「診療所に通院する骨粗鬆症患者の合併症」の調査では、高血圧(55%)、脂質異常症(27%)、眼病(19%)、糖尿病と循環器疾患(13%)の順で多く、生活習慣病と骨粗鬆症は悪循環を形成し、心血管イベントのリスク因子となることも知られている3)。そのため在宅診療時には動脈硬化の進行度や心肺機能の検査も必要となる。 山口氏のクリニックでは、患者向けの骨粗鬆症の啓発に、疾患の説明や検査の内容を提示するとともに、待ち時間などの間に超音波測定法を用いた骨量測定器で測定なども行っている。そのほか骨粗鬆症の予防について万歩計を活用した1日8,000歩以上の励行や日常動作でのちょっとした運動の勧め、骨に関連するカルシウム、ビタミンD・Kなどの摂取について栄養士による指導も行っている。 高齢者が骨折や寝たきりの状態にならないためには、病診連携、多職種間、医療と介護、市町村と行政、患者(家族)と地域など幅広い連携が必要になる。とくに再骨折の予防のためには病診連携が重要であり、「正確な骨密度検査の結果と治療方針を病院、クリニック、患者と共有することが治療継続のための出発点となる」と山口氏は語る。 病診連携のメリットは専門医の診断により、治療方針が明確になることであり、病院の専門医と地域のかかりつけ医がそれぞれの役割を果たすことで地域全体による骨粗鬆症治療が活発化する。また、山口氏の地域では患者が病院からの紹介で受診される際、必ず「再骨折予防手帳」を持参するという。この手帳により患者の退院後の状態が容易に把握でき、病院の医師とかかりつけ医の情報共有ができ、患者の安心感につながっていく。 最後に山口氏は、「在宅医療における骨粗鬆症対策は、骨折する前に見つけることが最も重要な役割だと考えている。在宅特有の見逃されるリスクに目を向け、地域全体で骨折予防を支える体制作りを目指したい」と思いを述べ、講演を終えた。

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事例45 デノタスチュアブル配合錠の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール・炭酸マグネシウム(商品名:デノタスチュアブル)配合錠(以下「同錠」)が、B事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。査定の原因を探るため、まずは、同錠の添付文書を見てみました。効能または効果には「RANKL阻害剤(デノスマブ(遺伝子組換え)等)投与に伴う低カルシウム血症の治療及び予防」と記載があります。事例を見返すと、病名に「低カルシウム血症」は付与されていますが、レセプト内に「RANKL阻害剤」の投与が見当たりません。カルテを参照したところ、紹介の患者であって、当院に紹介される3ヵ月前に前医にて「RANKL阻害剤」の投与があったことを診療情報提供書にみつけました。担当医師は、この情報をもとに同錠を適切に投与されていました。レセプトにこの情報が反映されていなかったために、過剰な投与と判定されたものと推測ができます。算定要件に反していないため、「2025年6月、他院にてプラリア皮下注(RANKL阻害剤)施注済み」を理由にカルテの写しを添えて再審査請求を行ったところ復活しました。査定対策として、検査結果から同錠を処方する際には、処方画面にて「RANKL阻害剤」の有無をチェックする警告が表示されるようにマスター変更しています。

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血糖や肥満、虚血管理を阻むリスク記憶とは、AGEから紐解く

第26回日本抗加齢医学会総会が2026年6月26日(金)~28日(日)の3日間、パシフィコ横浜ノースにて開催される。今回のテーマは『「人新世」のアンチエイジング 食事、運動、睡眠、美容による統合医療』。大会長である山岸 昌一氏(昭和医科大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 主任教授)が長年の研究で培ってきた糖尿病学と老年医学の関係、本総会のテーマの意味、大会長が力を入れる演題について話を聞いた。「人新世(じんしんせい)」とはまず、今大会のテーマである「人新世」についてお話ししましょう。人新世とは、新しく設定された地質学的な時代区分のことで、人間の活動が地球環境や生態系に多大な影響を及ぼす「現代」を示す言葉です。この時代におけるアンチエイジングを私なりに解釈いたしますと、単に若返りを求めるのではなく、持続可能な地球環境との共生や社会との調和を目指し、究極的な統合医療や健康の探求を目指すことだと思います。とりわけ、食事・運動・睡眠・美容は個人の健康を支える最も基本的な要素であると同時に、医療資源として科学的に評価・活用されるべき対象であるとも考えています。そこで、本大会ではこれらを統合医療の視点から捉え、予防・診断・治療、生活支援にまでつなぐ多角的な議論を展開していきたいと考えています。なお、このテーマに多くの先生が賛同してくださり、過去8年間で最多数の一般演題を応募いただいたようです。糖化×老化、たどり着いた30年の軌跡私の専門とする糖尿病は、患者さんの健康寿命が健康な方と比べて10~15年短く、死亡リスクは1.8倍、さらに老化が加速しやすい疾患であることが過去の研究1)から明らかになっています。また、2024年に米国心臓協会(AHA)が提唱したLife’s Essential 8の中でも糖尿病の有無が寿命を大きく左右することが明らかになってきました。では、なぜ糖尿病が実寿命や健康寿命に悪影響を及ぼすのでしょうか? そのメカニズムにはどうやら“記憶”が関与しているようです。私が医師になった37年前、糖尿病の合併症として教科書に挙げられていたのは、大小血管合併症、感染症、皮膚病くらいでした。しかし、多くの患者さんの診療に当たっていると、認知症やがん、骨粗鬆症などの老年病も糖尿病で合併しやすいことに気が付きました。そこで、糖尿病に一番特徴的な血管合併症である網膜症の病態生理を解明していくことで、最終的には「なぜ、糖尿病で老化が進むのか?」といった課題を明らかにすることができるのではないかと思ったのです。糖尿病網膜症では、内皮細胞の外側を取り囲む周皮細胞が選択的に死滅し、病期が進行していきます。そして、この周皮細胞の消失は、糖尿病でしか観察されません。しかしながら、周皮細胞は、短期間の高血糖の曝露ではなかなか死滅しません。長期間、高血糖に曝露されて初めて周皮細胞は死んでいきます。その後の研究で、年余にわたる高血糖により生体内タンパク質が糖化、変性を受け、AGE(Advanced Glycation End Products、終末糖化産物)と呼ばれる老化物質が体に蓄積していくことで初めて周皮細胞が死んでいくことがわかりました(図1)。ほかの研究者らは、長い年月にわたって糖尿病患者の経過を見ていく中で、過去の高血糖の曝露歴がその後の糖尿病合併症の進展を左右することを見いだしました。そして、現在の血糖コントロールが良好でも、過去長期間にわたり高血糖に曝露していたような患者は、臓器合併症の進展リスクが高く治療が難渋しやすいことから、この現象は「高血糖の記憶(Metabolic Memory)」と呼ばれるようになり、“過去のツケ”のごとく体内に残存する物質、AGEが「高血糖の記憶」に関わることが明らかになっていったのです2)。その後、約20年前に世界で初めて血液中からいろいろなタイプのAGEを簡便に測定する手段を開発することに成功しました。(図1)AGEの蓄積過程画像を拡大する悪い過去を記憶するAGE、どうやって除去する?AGEは「タンパク質と糖が加熱されてできた物質」の総称で、老化を進める原因物質とされています。これらは高血糖状態の体内で作られたり、食べ物から体内に入ったりすることで蓄積が進み、シワやたるみの原因、動脈硬化や心血管疾患の発症リスクの上昇、骨粗鬆症や寝たきりへの発展、大腸がん、乳がんなどのがん発症リスクとの関連も報告されています3)。とくにAGEが問題とされるのは、血糖値が基準値に戻ったとしても、AGE化して一度変性したタンパク質はなかなか元に戻らないこと、加齢に伴いこの蓄積が加速するということです(図2)。(図2)画像を拡大するAGEのうち3分の1は外因性で食事由来によるものです。AGEはどんな食品にも含まれているので、日頃の予防法として重要なのは、調理法のアドバイスです。たとえば、焼き鳥とかステーキなどは茶色の焼き目が付きますが、その部分がAGEなのです。同じ食材でも低温調理などのように調理法を変えるだけでAGE摂取を抑えることができます。私の診察では、「(肉を食べる場合は)焼くよりも茹でるのはどうですか?」といった提案をしています。このように同じ食事でも、調理法や付け合わせを変えることによってAGEの生成量を低減できることが知られています。この食事に由来するAGEに関しては、米国・マウントサイナイ医科大学教授のJaime Uribarri氏をお招きし、最先端のデータをご解説いただく予定です。また、食事由来AGEに予防法があるように、加齢に伴い蓄積するAGEの制御も可能とされ、老化のプロセスとして介入できれば多くの老年病を包括的に制御できると考えられます。私は、AGEを体から除去するAGEアプタマーと呼ばれる医薬品の開発に動物モデルで成功しています。そこで、本大会ではAGEに焦点を当てつつ、老科学仮説の概念に基づきながら、食事・運動・睡眠などの観点からもアンチエイジングを考えていきたいと思っています(図3)。(図3)画像を拡大する会長企画、5つのシンポジウム今回の総会では、認知症、フレイル、睡眠、腸内細菌などの講演が組まれておりますが、AGEに関連のある記憶という概念からもシンポジウムを設定いたしました。新たな抗加齢医学の観点を理解いただくためにも、5つの会長企画シンポジウムにぜひご注目ください。(1)「リスク記憶の分子メカニズム」リスク記憶について(低酸素の記憶、肥満の記憶、コレステロールの記憶)(2)老化治療の最前線老化細胞除去法「セノリシス」や老化細胞阻害薬などの最前線を紹介(3)女性の生涯の健康課題に寄り添う―基礎的研究から支援体制の構築まで―女性の生涯の健康課題に寄り添う治療や研究の最前線について解説(4)AI技術人工知能が抗加齢医学に果たす役割について、診断、サポート、遠隔診療・治療、創薬などの切り口で講演を予定(5)インナービューティーを目指した統合医療身体の内側から健康を担保するため、統合医療の観点からヨガやピラティスをテーマに講演を予定このほか、中野 京子氏(作家・ドイツ文学者)による特別講演「“美”の裏に潜む真実―芸術と老いをめぐる想像力」と題し、同氏の代表著書『怖い絵』から人の心と身体を捉えることで新たなアンチエイジングの発想についてお話しいただく予定です。また、鍋島 陽一氏(京都大学医学研究科健康加齢医学講座)による招待講演では、「Klotho(老化ホルモン)の研究の総括と新たな展望(仮)」と題し、抗加齢医学の最新データをご紹介いただく予定です。一人ひとりがその人らしく年を重ねられる健やかな社会の実現に向けて、本大会が皆さまと共に考える場となることを願っています。一人でも多くの皆さまのご参加をお待ちしております。参考1)Seshasai, S. R. K, et al. N Engl J Med. 2011;364:829-841.2)Yamagishi S, et al. J Diabetes. 2017;9:141-148.3)Si C, et al. Food Funct. 2024;15:1553-1561.

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