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エキスパートに聞く!「糖尿病」Q&A

CareNet.comでは11月の糖尿病特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より糖尿病診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、糖尿病の専門医である3人の先生にご回答いただきました。本宮哲也(もとみや・てつや)氏(もとみや内科クリニック 院長)http://www.motomiya-clinic.jp/専門医が行っている、DPP-4阻害薬と他剤との併用例を教えてください。また、DPP-4阻害薬間での効果の差異や使い分けの基準などがあれば同じくお願いします。1)シタグリプチンは、SU薬、BG薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、インスリン注射、2)アログリプチンとアナグリプチンは SU薬、BG薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、3)ビルダグリプチンおよびリナグリプチンはSU薬、4)テネリグリプチンはSU薬とチアゾリジン薬との併用が可能で症例に応じて薬剤を選択します(2012年11月時点での適応に基づく)。また、Aroda氏ら1)が行った効果の差異検討では、DDP-4阻害薬の最大維持用量の投与によるHbA1c改善率は、ビルダグリプチン -1.06%、アログリプチン -0.69%、シタグリプチン -0.67% という結果でしたが、分析内容が不十分とされ、再検討待ちです。使い分けについては、シタグリプチンは現時点では腎不全には使用できず、アログリプチンは腎不全の程度に応じて用量の調節が必要です。アナグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチンは腎不全には慎重投与ですが、用量の制限はありません。1)Aroda.VR et al:Clin Ther.2012;34:1247-1258膵臓疾患のある方へのDPP-4阻害薬の投与時の注意点について、教えてください。膵疾患のある方へのDDP-4阻害薬の投与は、急性膵炎と慢性膵炎を区別して考える必要があります。FDA(アメリカ食品医薬品局)は、2006年10月16日から2009年2月9日におけるDDP-4阻害薬の市販後調査で88例(出血性や壊死性の膵炎2例を含む)に急性膵炎が発症した報告を受け、急性膵炎への投与は禁忌とし、使用中に膵炎の発現が疑われた場合は使用を中止するよう推奨しています。しかし、膵炎の既往がある患者さんへのDDP-4阻害薬の使用については、検討や研究はされていないとしています(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部発行 医薬品安全性情報Vol.7 No.23)。また、飲酒家で慢性膵炎で血糖が上昇してきた患者さんへDDP-4阻害薬を使用した場合に、慢性膵炎が悪化したデータや報告は、今のところないようですが、このような患者さんへの投与は慎重に行い、どうしても投与しなければならない時には、膵炎に関する適切なモニタリングが必要と考えます。経口薬治療はどこまで続けるべきなのでしょうか?また、最大何剤まで増やして治療された経験がありますか?第1に、2型糖尿病では腎症の程度により禁忌となる経口糖尿病薬があり、基本的に透析患者、ならびにCcr30mL/分 以下では一部のDDP-4 阻害薬やα-グルコシダーゼ阻害薬を除き、経口糖尿病薬は原則禁忌となります。第2に、複数の経口糖尿病薬を併用しても血糖コントロールが改善せず、内因性インスリン分泌の低下が著明になった場合には、インスリン注射療法へ変更することになります。2012年の ADA/EASD が発表した推奨される2型糖尿病の血糖降下療法によればメトホルミンで治療を開始し、血糖コントロールの改善度、副作用、体重などを3ヵ月毎に慎重に観察しながら、2剤、3剤と経口糖尿病薬を併用し、目標が達成できない場合にインスリン注射療法の導入を勧めています。私は、DDP-4阻害薬をベースに少量のSU薬やメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬の追加で3剤まで増やしても良好な血糖コントロールにならない場合、インスリン自己注射が可能で、承諾の得られた患者さんにはインスリン療法を導入しております。梅澤慎一(うめざわ・しんいち)氏(医療法人 うめざわクリニック 院長)http://www5d.biglobe.ne.jp/~umecli/index.htmHbA1c7%前後の軽症例への第1選択薬は、どのような選択肢が考えられるでしょうか?HbA1c7%(NGSP値)前後の軽症例の第1選択薬とは、HbA1c値を0.5%程度(良の中央値)下げられる、できるだけ安価で副作用の少ない薬剤を意味するものと解釈します。したがって注射製剤は今回除くこととします。インタビューフォームに記載されていたほとんどの経口血糖降下薬のHbA1c低下効果は、その治験対象の治療前HbA1c値が高いため(8.0% 前後)、軽症例に投与しても添付文書のようには低下しません。万人に単剤でしっかり0.5%下げられる能力が期待できると私が考える薬は、速効型インスリン分泌促進薬のレパグリニド〔商品名:シュアポスト〕(1.5mg/日)、DPP-4阻害薬のビルダグリプチン〔商品名:エクア〕(100mg/日)、テネリグリプチン〔商品名:テネリア〕(20mg/日)、シタグリプチン〔商品名:グラクティブ〕(100mg/日)、〔商品名:ジャヌビア〕(100mg/日)、 アログリプチン〔商品名:ネシーナ〕(25mg/日)、リナグリプチン〔商品名:トラゼンタ〕(5mg/日)、SU薬のグリメピリド〔商品名:アマリール〕(0.5~1.0mg/日)などが該当します。いずれも初回の規定投与量を遵守し、忍容性を見極めての増量が基本です。臓器合併症がない人に限っては、ピオグリタゾンとメトホルミンなどのBG薬が期待できますが、どちらも効果は個人差が強いといえます。病識のない患者さんへの教育・指導のコツやポイントを教えてください。最も重症な病識欠如は通院中断者であることは間違いないでしょう。定期的に中断者リストを作成して、再診を促すハガキを出すことができれば理想的です。診療所など地域に根差した施設では、家族の受診の付き添いで来院する際や風邪などで再初診する機会にさりげなく「最近、糖尿病の方はどうかな?」と声掛けをすることで通院再開に成功するケースもあると思います。内服・注射アドヒアランスの低下などは処方薬の選択、投与法の工夫など医師の役割部分が大きく、認知症などによる飲み忘れ対策では家族の教育(看護師)、一包化調剤の利用(薬剤師)などの多職種との連携が必要になるでしょう。食事運動療法、節酒・禁煙ができないなどの病識の欠如は、個人的な事情もあるので、万人に有効な処方箋はありません。私は“その人が今できることを探して、具体的な方法を提示し、できたら少しでも賛美し、結果にむすびついたら一緒に喜ぶ”、“合併症がでたら大変という脅しはしない”の2項目を念頭に、辛抱強く向かい合うようにしております。BOT導入に際し、スタッフへの教育をどう進めるべきか教えてください。まずはBOTの概念をスタッフに理解してもらうことが大事です。BOTで使用するインスリングラルギン(商品名:ランタス)やインスリンデテミル(商品名:レベミル)などの持効型インスリンの本来の使用目的は、インスリン強化療法の基礎分泌(basal)部分を担うことにありました。そのため持効型インスリンは、速効または超速効型インスリン食前3回投与と組み合わせた使用が一般的です。その後、経口血糖降下剤で効果不十分な2型糖尿病に少量の持効型インスリンを追加する(basal + oral therapy)ことにより、内因性インスリン分泌が回復し、血糖コントロールが改善する事例報告が多く認められ、新たな治療法の概念となっていったものです。 BOTはすでに今行われている治療法を変更しないで、1日1回のインスリン注射を加えることで実行できるため、患者も医療者側も治療法の変更という大きな心理的不安を緩和することができるのです。注射時刻は各薬剤の添付文書に基づきますが、毎日一定の時間に投与すればよく、SU薬を併用しているケースでは1回抜けたくらいで急性代謝失調に陥ることはないという安心感が維持できます。田中啓司(たなか・けいじ)氏(田中内科クリニック)http://www.tanakanaika-clinic.com/BG薬はどのような患者に使うべきでしょうか?また、副作用のマネジメント(乳酸アシドーシスへの対応等)についても教えてください。BG薬は、肝臓で乳酸からの糖新生の抑制、脂肪や筋肉への糖の吸収促進、腸管での糖の吸収抑制、食欲低下作用などが報告されています。適応患者としては、肥満の2型糖尿病で、ある程度コントロールのよい例をよりよくする目的のほか、SU薬やインスリンを多量に使ってもコントロール不良例での改善、さらにそれら薬剤を減量させる目的などで投与することが多いです。乳酸アシドーシスの重大な副作用症状は、「意識障害、嘔吐、倦怠感、過呼吸、腹痛など」です。日本糖尿病学会の「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、乳酸アシドーシスに至った例は、各剤の添付文書において禁忌や慎重投与となっている事項に違反した例がほとんどであると報告しています。「腎機能障害患者(透析患者を含む)、過度のアルコール摂取、シックデイ、脱水などの例、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者」とのことです。乳酸アシドーシスへの対応というよりは、投与してよい例か否かを慎重に検討して、乳酸アシドーシスを起こさないことが重要と考えられます。75歳以上の高齢者のHbA1c管理目標値は、他の年代の方と同様でよいでしょうか?また、食事指導は実施すべきでしょうか?日本糖尿病学会では、高齢者の血糖管理目標値を空腹時血糖140mg/dL、HbA1c 7.4%以下(NGSP値)としています。しかし一方で、患者の状態を詳細に把握して個別的な対応を行うことも重要と呼びかけています。高齢者糖尿病は多様性があることを理解して、高齢者でも、非常に元気な例もあれば、予後の限られた例もある。もちろん肥満例では足腰に負担がかかり、ADL低下に至る可能性もあるので食事療法は必要です。しかし、食が細くなっている高齢者もいますので、本人や家族からの聴き取り調査が必要です。また、高齢者糖尿病例は代謝の低下に伴い、突然低血糖になる例もあります。一方で、風邪をひいて急に高血糖になる例もあります。大血管障害は別として、血糖にこだわり細小血管障害を心配するよりも、低血糖や高血糖性昏睡などの直接命に関わる急性合併症を回避することが大切で、全身を診る医療が最も重要と考えます。最近、話題の「糖質制限食」(メリット/デメリットなど)について教えてください。〔メリット〕減量効果:3度の食事の糖質(主食:ごはん、パンなど)を減らすことにより、摂取カロリーが減ります。例えばごはん、大盛り300g → 並200gに変更することにより100g(160Kcal) × 3回 × 30日 = 14,400Kcalとなり、1ヵ月で約2kgの減量につながります。食後血糖改善効果:糖質は、タンパク質や脂肪に比べて吸収が速く、食後の血糖値が高くなります。ひいては血糖コントロール改善効果があります。〔デメリット〕間食が多くなる:ごはん、パンなどは腹もちがよく、極端に減らすことにより次の食事までの間に空腹感が出て、その結果、間食をしてしまう患者さんが多く、肥満や血糖コントロールの乱れにつながります。心血管・内臓負担:当然のことながら、肉や魚の量が増えてしまいます。そのため、タンパク質や脂肪の摂取過剰になります。タンパク質を多く摂ると腎臓に負担がかかり(腎不全では禁忌)、脂肪を多く摂るとコレステロールが高くなり動脈硬化性疾患である心臓病や脳卒中になりやすい可能性があります。

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生活保護受給者の「医療費一部負担案」、いかがお考えですか?

不正受給問題に端を発し、生活保護のあり方が議論されている中、現在窓口負担がゼロである医療費について患者の一部負担を求める、あるいは後発医薬品の使用を義務付けるという案も出ています。今回の「医師1,000人に聞きました!」ではこれを踏まえ、現場の立場でこの問題がどのようにとらえられているのか尋ねてみました。コメントはこちら結果概要医師の7割以上が生活保護受給者の医療費一部負担に賛成医療費一部負担案に賛成したのは全体の73.1%。勤務形態別に見ると病院医師では76.2%、一般診療所医師では64.9%と、窓口業務まで管理する立場である一般診療所医師は若干低い結果となった。賛成派からは「年金生活者や、働きながら保険料を納め医療費の一部負担をしている低所得者がいることを考えると、生活保護受給者のみ全て無料というのは不公平」といった意見が見られた。「違った方法を考えるべき」医師、『いったん支払い、後日返還しては』など次いで15.6%の医師が「違った方法を考えるべき」と回答。コスト意識を持ってもらうために『いったん支払ってもらい返還する形に』、複数の施設を回って投薬を受ける患者や、悪用する施設の存在を踏まえた『受診施設の限定』などが挙げられた。「現状のままで良い」医師、『理念を維持しながら受給認定を厳密に』一方「現状のままで良い」とした11.3%の医師からは、『生活保護の本質まで変えるべきではない』『受給認定を厳格にすることで対応すべき』といった意見のほか、『現実に支払ができなければ病院の負担になるのが見えているので』といった医師もいた。"後発医薬品の使用義務付け"、病院医師の約6割が賛成、一般診療所医師では意見割れる薬の処方にあたり、生活保護受給者へは価格の安い後発医薬品を義務付けるという案に対しては全体の54.1%が賛成、「現状のままで良い」とした医師は28.9%であったが、一般診療所医師に絞ると賛成40.3%、現状維持37.3%と割れる結果となった。賛成派からは、『後発品は国が「先発品と同等」としているので問題ない』、現状維持派からは『必ずしも薬効が同じとは限らないと考えるため』『院内処方で扱いがない場合がある』『処方の裁量権は医師にある』といったコメントが寄せられた。設問詳細生活保護受給者の医療費負担についてお尋ねします。現在、生活保護受給者が医療サービスを受ける場合、その費用は直接医療機関に支払われ本人負担はありません。市町村国保の被保険者などと比べて生活保護受給者1人当たりの医療費のほうが高いことなどを理由に、適正化のための取り組みを強化すべきだという意見も挙がっています。これに関し、10月23日の日本経済新聞では『三井辨雄厚生労働相は23日の閣議後の記者会見で、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることに関して「自己負担を導入すれば必要な受診を抑制する恐れがあり、慎重な検討が必要だ」と述べた。価格が安い後発医薬品の使用を義務付けることについては「一般の人にも義務付けられていないのに生活保護受給者だけに義務付けるのは難しい」との認識を示した。 生活保護受給者の医療費は全額公費で負担しており、生活保護費の約半分は医療費が占める。財務省は22日の財政制度等審議会の分科会で、医療費を抑制するために医療費の一部自己負担の導入と後発医薬品の使用を受給者に義務付けることを提案していた。』と報じられています。そこで先生にお伺いします。Q1. 医療費適正化のため、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ2. 生活保護受給者に後発医薬品の使用を義務付けることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ3. コメントをお願いします(Q1・2の選択理由、「違った方法を考えるべき」とした方は代替案、その他患者さんとの具体的なエピソード、など、どういったことでも結構です)2012年10月26日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「先発品と後発品の効果がまったく同じと保証できない現状では後発品の義務は困難。感冒薬程度なら問題ないが高度医療を必要とするような患者さんでは問題が出ると思う。」(50代診療所勤務,消化器科)「全くの無料は無駄の原因。工夫の余地をなくす。」(50代病院勤務,内科)「後発品をとるか否かは自由意志とすべき、その代り 医薬品の5%(0.5割負担)でも徴収すべきと思う。そうすれば、安い方を望むなら自ら選択することになる。」(60代以上病院勤務,血液内科)「一部負担は、真面目な方には受診抑制になって、重症化する可能性が出る。生活保護に甘えている方は病院で怒って現場の混乱を生むだけで何の意味もない。それよりは、医療費の適正化をすすめるべきである。求められても不要なお薬は出さない。出さないからと暴れたり、怒ったりする方へのペナルティを明確化する方が良い。後発品義務付けは、治療内容の権利の侵害に当たる可能性があるので勧奨程度にすべき。例えば、糖尿病の治療であっても同じようにHbA1cを下げる薬はあるが、合併症などを防ぐそいう視点で新薬が使用できない場合、将来の合併症を増やし結局医療費の高騰につながる」(40代病院勤務,呼吸器科)「一部負担にしたとして、お金を払ってくれない人を診療拒否できるのなら生保の負担金をつくっても良い。」(50代診療所勤務,内科)「不正受給ばかりが報道されているが、大多数の受給者は後ろめたさから声を上げられないと思います。もちろんどんな医療機関にもフリーに何度でも受診できるということは良くないので、受診可能な機関を一定の生活圏内に制限することや、通院手段を制限するなどの方策も考えられます。」(40代病院勤務,内科)「救急外来への頻繁な来院はペナルティがあっても良い。」(50代診療所勤務,小児科)「負担がないことですべて許されていると考えている受給者が多く、一人ひとりに理解させることは極めて困難であり、一律に決めるべきである」(50代病院勤務,外科)「受給金をパチンコで使い果たし無料で入院、なんてことができないよう方策を考えてほしい。」(50代診療所勤務,腎臓内科)「医療費の負担増加とこれに対する原資の増加を期待する事の難しい情勢からみてやむを得ない事と思います。逆にそのことで負担が少しでも軽減されるのではないかと思います。」(50代病院勤務,産婦人科)「抗けいれん剤を後発品に変更して、ずっと起こっていなかった発作が起こったことがある。後発品を義務づけるなら、特定の薬品に限定すべきと思う。」(50代病院勤務,リハビリテーション科)「一部負担といっても幅があるのでどの程度負担させるのかによって意見が違うと思う」(60代以上病院勤務,腎臓内科)「先発薬と後発薬両方を揃えるのは医療機関に負担となるので反対。」(40代診療所勤務,腎臓内科)「一般の患者は医療費負担は上限ありになっている。生活保護者も基本的には同じ枠組みで良い。上限額に配慮するとか、いったん支払いさせて申請後(部分的に)返ってくるとか。」(40代病院勤務,耳鼻咽喉科)「自己負担をつけても支払いをたぶんしないで病院の負担になるので、現状のままでよい」(50代病院勤務,循環器科)「一律というのは如何か。生活保護を必要としてないのに受給されている人と 本当に必要な人がいることがそもそもおかしいのだが。この両者は区別して、必要ない人は切って欲しい」(40代病院勤務,消化器科)「医療費一部負担は受診抑制に繋がる。また、後発品を使用していない当院では、診察できないことになる。いまだに後発品に不安要素がある事を先に改善すべき。」(50代診療所勤務,内科)「最低保証賃金より保護費の方が高い現状は異常。ワーキングプアの方々が強いられている窮状は、生活保護の方々にも受け入れていただく必要がある。」(40代病院勤務,精神・神経科)「当院受診の生活保護者の半分は疑問に感じる人が多いのは事実、「魚釣りに行って風邪をひいた、点滴をしてくれ」などざら」(50代病院勤務,神経内科)「目に余るケースがあるから、と言って生活保護の本質まで変えるべきではない。取り締まるには人件費などかかるので、現状のままのほうがよい。」(60代以上診療所勤務,精神・神経科)「服薬指導を徹底させ、薬の無駄を少なくすることが大切だと思います。みんながその費用を負担していることを自覚する必要があります。生保患者さんが立て替えで支払うことも一つの案だと思います。」(50代診療所勤務,内科)「後期高齢の生活保護者は無料のままで、若年者は就労を図る意味でも有料化すべき。」(60代以上診療所勤務,内科)「今ほど生保の継続が必要な時期はない」(50代診療所勤務,内科)「他の患者さん同様に窓口負担分をとって、還付を検討すべきでしょう。」(40代病院勤務,内科)「『生活保護で自己負担がないから先発品を処方してくれ』と堂々と言う患者がいて腹が立った」(50代診療所勤務,整形外科)「生活保護でも本当に働きたい人もおり、そういう方はむしろ病気があってもギリギリまで我慢してしまう傾向が強いと思います。元々自分は生保でもそうでなくても基本的に必要不可欠なことしかせず、差はつけていない。この議論自体がおかしいと思う。」(40代診療所勤務,内科)「薬代がタダなので、あまり必要の無い薬を「念のため・・」などと言ってもらって無駄にしていることが有る。」(40代病院勤務,内科)「受診できる病院を限定するとか、カルテを1つにするとか、不正な薬剤処方をなくしたり、不要な受診を減らしたりの工夫が必要」(30代以下病院勤務,小児科)「コンビニ受診は避けるべきだが、本当に加療の必要なひとには受診萎縮にならないようすべき」(50代診療所勤務,口腔外科)「低収入であるが故に受診を控えて病状の悪化を招いたり、経済的理由で後発医薬品しか選択できない勤労者が存在することを考えれば、生活保護受給者が何の躊躇もハンディも無く医療を求めることは問題である」(40代診療所勤務,呼吸器科)「行政側から患者(生保受給者)に説明し、後発品使用を了解(同意)させ、医療機関にその旨「書面で」申し出る。しかし、その場合も最終的には医師の処方権は留保される。」(60代以上診療所勤務,消化器科)「小額でも一部負担とすることで、毎日不要な点滴をしたりする方は減るでしょう。」(40代病院勤務,内科)「薬品は、好みもあり人によっては効果の違いもあるので、義務付けは賛成しかねます。」(50代病院勤務,整形外科)「働ける様な若者も生活保護を受け、日中ぷらぷらしやたらと必要以上に病院へ来る方、結構見かけます。生活保護を受ける基準や負担額なども細かく等級を設けて、等級に応じて設定したらいいのではないか。」(40代診療所勤務,内科)「生活保護を受けている割に子供にピアス、アクセサリーがジャラジャラ・・・本当に必要な家族への受給を充実させ、このような家庭へ受給はしないようにしっかりした制度設計をやり直すべき」(40代病院勤務,小児科)「『どうせタダなんだから薬だしてよ、検査してよ、病院のもうけになるんでしょ』という患者もいる。町のドラッグストア感覚(それよりも手軽)みたいに思っている。一部でも自己負担させるべき。後発品は合う・合わないもあるので義務づけはちょっと乱暴。」(40代診療所勤務,内科)「どの医院も薬局もすべてのものに対応できるものではないので、義務付けではなく、やはり努力目標にせざるを得ないと思う」(50代診療所勤務,泌尿器科)「生活保護になりやすくなっている状態を検討すべき。ならなくていい人もなっている感じと一度生活保護になってしまった人がぬけたくなるような部分も必要なのではないか」(40代病院勤務,血液内科)「『おいしい』ことはなるべく少なくしていくことで、本当に必要な人が「仕方なく受ける」最後の砦にするべき。」(40代病院勤務,内科)「薬を貰うために何軒も医療機関を回るので、公的な指定医療機関を設置しては」(50代診療所勤務,循環器科)「生活保護一歩手前の患者様(化学療法中)を何人か診ているが、その方のほうが、よっぽど生活は苦しいと思います。高額の治療を断念している方もおられます。生活保護受給者は、医療に関しては恵まれすぎ!です。生保以外の方で後発薬を希望される方は多いですし、私自身も抵抗はありません。一部でも自分で負担できないなら後発薬で我慢するべきだし、一時金を払うことは、むやみな受診の抑制に効果あると思います。 上記のような何らかの対策をとらないと、さらに他の人たちの負担が増えてしまうと思います」(40代病院勤務,外科)「一部負担といっても現実に負担できない患者がいれば、それは結局支払われずに病院の負担になる。末端の医療機関への責任転嫁である。現状の後発品制度には多大な問題がある。制度自体に根本的な議論がなされない限り簡単に賛成とはいえない。」(50代病院勤務,循環器科)「国策として後発医薬品の使用を推進するのであれば、先発品にこだわる必要はないはず。生活保護とはあくまでも援助なのだから受給者に選択権はないはずである。」(40代病院勤務,皮膚科)「一旦納付→後日給付にすべき.疾患によっては(アレルギー疾患等)後発薬を使うことは避けるべきで全て義務付けというのは不適切」(40代病院勤務,内科)「風邪などの軽症疾患は自己負担を導入し、慢性疾患や重症疾患はこれまでどおりにしては。」(30代以下病院勤務,小児科)「生活保護が本当に必要な人もいることを忘れてはいけない。」(40代病院勤務,精神・神経科)「働いて健康保険料などを納め、医療費の一部負担をしている、生活保護とあまり年収のかわらない人もいるのだから、何らかの負担は必要と思います」(50代診療所勤務,内科)「ともに、大いに賛成です。 現場の目から見て、「生保だから必要のない受診を気軽に繰り返している人がいる」ということは明白。必要な受診を抑制する可能性も皆無とは言えませんが、本当に必要な場合には、収入や家庭環境などについて綿密な精査を行った上で、自己負担金の免除を決める制度を別途設ければ良いと思います。 もっといえば、不適切受診の内容や明らかに贅沢な生活実態などを医師側から通報できる制度があれば良い」(30代以下病院勤務,循環器科)「基本は後発品とし、医師の判断で変更できればと思います。一部負担で受診抑制を心配するのであれば、その前にワーキングプアといわれきちんと保険料を収めているのに窓口負担を心配して受診できない方々に補助すべきだ。生活保護は最低限の生活を保証すればよいのだから、そうしたものをもらわず働くワーキングプアの方々以上の保護は要らないはず。」(30代以下病院勤務,小児科)「一部の不心得者のために、真に保護が必要な人への援助を削るべきではない。マクロの視点しか持っていない役人やマスコミの怠慢が世の中をどんどん歪めている。不正受給をなくすべく、役人がきっちりと精査することだ」(50代診療所勤務,内科)「生活に必要なお金を受給されているのだから、医療機関の受診、薬代も他の方と同様に支払うべきである。」(40代病院勤務,内科)「不必要に多くの薬をもらって余っていてもなくなったと主張し、さらに多く持って帰る患者がいる。量や種類の制限は必要と思う。」(30代以下病院勤務,整形外科)「経済的理由からジェネリックを希望する人が多い中、全額免除の人だけが高い薬を使うのはヒトとして納得できない。」(30代以下病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者は高価な治療薬を使えるが、通常の被保険者はお金の関係で使いたい薬も使わないでいることがある。何かおかしいです。」(50代病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者が時間外に不必要な受診をすることが度々みうけられるので、時間外受診料などに自己負担を導入すればよいと思う」(30代以下病院勤務,整形外科)「多くの人に不正がないと信じるが、隣人などから薬をもらうよう頼まれてくる人もいるようである。」(50代診療所勤務,内科)「望ましいことではないが、すべてのことについて性悪説にたった制度が必要になってきていると思う。」(50代病院勤務,内科)「生活保護がsafety-netとしての役割を担っていることを考えると、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることは少し賛成しにくい。しかし生活保護を延々と受け取って無料であることを良いことに薬の処方を欲しがる患者がいることは事実であり、それを悪用して薬を無駄に処方させている病院があるのも事実なので、必要以上の処方を行なっていると判断された医師に厳罰が発生するような仕組みのほうが抑制効果があるのではないかと思う。ただし、その基準を明確にする必要があるが、その基準は非生活保護受給者よりも厳しい基準であるべきだと思う。」(30代以下病院勤務,外科)「生活保護の患者さんがブランド物のバッグをもって受診しましたが、このような人に私たちが支払った税金が使われていると思うと、憤りを感じます。」(50代診療所勤務,内科)「もともと、病気で仕事ができないことによる生保受給が多く、一般人に比べ医療費が高くなるのは当然だと思います。 むしろ、何万円ものタクシー代や、飛行機利用を許した対応など、自治体側の対応の仕方が不適切なことの方が問題かと思います。」(50代診療所勤務,消化器科)「医療費の膨張に歯止めをかけるためにはやむを得ないと思う。ただ、原疾患で働けなくて生活保護になっている人は別に扱う事が必要。」(50代診療所勤務,皮膚科)「後発品の場合、特に呼吸器系後発医薬品に変更した際に効果が落ちる例も経験している。効果が落ちた場合は、受診回数の増加や時間外受診の発生などに繋がる場合があるので、義務づけはあまり賛成できない。」(30代以下その他医師,呼吸器科)「奈良の山本病院の事例を含め悪用が目に余り歯止めが利かない」(50代診療所勤務,内科)「利益を享受する分の負担は当然」(30代以下病院勤務,神経内科)「本当に医療を必要とする患者の医療費公費負担と、無料をよいことに安易に行なわれる受診やそれを食い物にする医療機関を選別する方法が必要である。」(50代病院勤務,内科)「低所得者、年金生活者などの方たちは、少ない収入の中で保険料も払い、さらに医療費の何割かを負担している。生活費を切りつめてもいるわけで、生活保護費を丸々自由に使える生活保護者と比べると非常に不公平。 後発医薬品は、無料であるならば選択の自由はなくしてもいいと思っています。厚労省の認可していない薬ならいざ知らず、認可されている薬品なので義務付けてもいいのではないでしょうか。 」(50代病院勤務,泌尿器科)「薬を多めにもらっては売って酒代に換える患者がいますし、月の前半でパチンコをして下旬はお金がなくなり栄養失調の病名で入院、月が変わった受給日には必ず退院する無料の宿泊施設としている患者もいます。ごくごくわずかでも良いので自己負担とすれば少しは抑制できるのでは。本当に必要な人の負担にならないくらいわずかな手数料が必要。」(30代以下病院勤務,脳神経外科)「無料では不必要受診を生む。昔のお年寄りの健康保険無料化のときと同じ弊害。 後発医薬品は薬効が低いというわけではないので、生活保護に関しては当然安い薬に限定するべきでしょう。」(50代病院勤務,その他診療科)「生活保護に限らずまるっきりただはよくない。 ワンコインでも負担すべき」(50代病院勤務,小児科)「タダだからとビタミン剤や感冒薬、睡眠薬などの無駄な薬や検査など何でも要求してくる。負担金を取ったほうが医療費の抑制になる。」(50代病院勤務,内科)

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被災地で心を病む人々と、ともに生きる―不幸な人?挑戦者? ―

相馬中央病院 副院長小柴 貴明2012年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。被災地 相馬市にある相馬中央病院周辺には、心の風邪に罹った患者さんが多い。風邪の程度は、軽いものから、かなりの重症まである。こういった患者さんは、診察室に入って来られた瞬間の表情が、どこか違う。うつむき加減で、来られる患者さん。険しい表情の患者さん。落ち着きのない患者さん。私は、仙台市の精神科医の友人から、相双地区から、多くの心を病む人が診察に来られるとの話を聞いた。震災以後、相双地区には、相当数の心を病む人がいるにも、かかわらず、そのような患者さんを専門に診る医者がほとんどいないのだという。このような、事情から相馬中央病院で、不眠や、不安、不定愁訴を訴える患者さんに、私は臓器移植やHIV感染症に携わってきた臨床医、研究者でありながら、精神科医のアドバイスを受け、心理医学療法を開始した。この仕事を始めようと考えた一つのきっかけは、あるサイコセラピストから、教わった、とても興味深い話。人の感情には、楽しい、うれしいなどのポジティブな感情と、悲しみ、怒り、恐怖などのネガティブな感情がある。人は、ポジティブな感情は、机の上に、ネガティブな感情は整理もせず、引き出しにしまってしまう。例えば、職場で嫌いな人への怒りを抑えなければ、人間関係に歪が入ったりする。しかし、ネガティブな感情をあるとき、敢えて引き出しから出して、整理する必要があるというのだ。ネガティブな感情を自分でも気づかないでいる人すらある。いつまでも、ネガティブな感情から逃げるのではいけない。自分のために認めてあげることで、病んだ心は少しずつ和らぐのだと、そのサイコセラピストは言う。仙台の精神科医の友人も、同意見であった。私は、最低30分の時間をかけて、心の風邪に罹った患者さんの机の引き出しを開き、封じ込まれたネガティブな感情を患者さんに認めてもらうように、努めている。7月25日は、朝9時から、夕方6時まで、昼食を取る間もなく、診察に来られる患者さんに、心の引き出しを開いて頂いた。そうして、新たなことに気付いた。受診される患者さんは、50代以降の高齢者。多くの人は、懸命に何十年もの間、悲しみ、怒り、恐怖 (例えば、幼少期の嫌な思い出、苦痛な人間関係) と戦ってきた。しかし、3.11 が起きて以降、これまでの長年の我慢の糸がプツンと切れてしまい、ついに心の病気となってしまったかのように見える。この世に生を受けた全ての人は、死を迎え永遠の休息を得るまで、必ず何かの苦悩を抱えて生きている。実に、3.11は、被災地の全ての人々の苦悩に、大きな追いうちをかけていたのだ。診察を受けられた患者さんには、家族、家が津波に流された人、仮設住宅に移って何時になったら元の家に戻れるかわからない人、仕事を失った人がおられる。私が封印された感情を引き出すと、多くの患者さんが咽び泣かれた。そして、この日、私の外来についてくれた 寺島和美看護師も、また、患者さんと一緒に涙を流した。はたして、患者さんの引き出しにしまわれていたネガティブな感情とは、なんだったのか?悲しみ?否。 怒り?否。 恐怖?否。私には、そのどれでもなく、もっともっと深遠なもの。言葉で表すことのできないほどの激しいものではないかと思われた。くたくたになって、帰宅してベッドに入った。しかし、その夜、私は、長時間にも亘る壮大な悲劇的シンフォニーを聞いたような興奮で、眠られぬ夜を過ごした。翌日、寺島看護師は、私に点滴を勧めた。彼女も同じく、眠れなかったという。彼女は細やかな心遣を、患者さんにだけではなく、私にも向けてくれた。点滴の最後の一滴が落下したとき、元気を取り戻した私は、彼女にこう言った。「私たちが、患者さんと共に、肩を落としてはいけない。私たちは、医療のプロ。咽び泣く患者さんは、不幸な人ではない。これから、立ち上がろうとする挑戦者。長距離ランナーが、疲れて、しばし道端に座りこんでいる。私たちは、懸命に生きる挑戦者たちと、ここでまた懸命にともに生きる。」その瞬間、私と同じく、睡眠不足で疲れきった表情をしていた寺島看護師の眼が、突如、キラッと輝いた。これからも、被災地の人々と、医療スタッフの果敢な挑戦は続く。

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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避難場所における【感染予防のための8ヵ条】 東北感染症危機管理ネットワークより

診断学分野のご厚意により転載させていただきます。避難場所では、インフルエンザや風邪、嘔吐下痢症の流行が心配されています。【感染予防のための8ヵ条】vol.1.0 ~可能な限り守っていただきたいこと~(1)食事は可能な限り加熱したものをとるようにしましょう(2)安心して飲める水だけを飲用とし、きれいなコップで飲みましょう(3)ごはんの前、トイレの後には手を洗いましょう(水やアルコール手指消毒薬で洗ってください)(4)おむつは所定の場所に捨てて、よく手を洗いましょう~症状があるときは~(5)咳が出るときには、周りに飛ばさないようにクチを手でおおいましょう(マスクがあるときはマスクをつけてください)(6)熱っぽい、のどが痛い、咳、けが、嘔吐、下痢などがあるとき、特にまわりに同じような症状が増えているときには、医師や看護師、代表の方に相談してください。(7)熱や咳が出ている人、介護する人はなるべくマスクをしてください。(8)次の症状がある場合には、早めに医療機関での治療が必要かもしれません。医師や看護師、代表の方に相談してください。 ・咳がひどいとき、黄色い痰が多くなっている場合 ・息苦しい場合、呼吸が荒い場合 ・ぐったりしている、顔色が悪い場合 ※特に子供やお年寄りでは症状が現れにくいことがありますので、まわりの人から見て何かいつもと様子が違う場合には連絡してください。東北大学大学院内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野東北大学大学院 感染症診療地域連携講座東北感染制御ネットワーク 平成23年3月17日東北感染症危機管理ネットワークホームページ 東北関東大震災感染症ホットラインよりその他の情報はこちら東北感染症危機管理ネットワークhttp://www.tohoku-icnet.ac/

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健康づくりには、まずは「きれいな空気」から!?

ダイキン工業株式会社は5日、全国の20代~60代の男女1万人を対象に実施した「空気に対する意識変化」をテーマにしたアンケートの結果を発表した。調査の結果、9割以上の人が空気と健康の関係性を認識しており、”健康づくりには「きれいな空気」が欠かせない”という意識を持っていることがわかった。今まで日常生活の中で気にならなかった「空気」と「健康」の関係を、昨年のパンデミック騒動で、多くの人が意識するようになったと考えられる。調査では、「きれいな空気」が、具体的にどのような効果・影響を与えるかを聞いたところ、「健康を促進する」(28.5%)という回答が最も多く、続いて、「病気を予防する」(16.1%)、「気管支・肺によい」(15.7%)と、身体面での“健康”に与える効果・影響が上位3 位を占める結果となった。また「空気」が気になる時を聞いたところ、1 位「風邪・インフルエンザのシーズン」、2 位「近くに喫煙者がいる時」、3 位「交通量の多い道路を通る時」、4 位「花粉のシーズン」という結果になった。いずれも、身の回りの「空気」の変化によって、健康が脅かされるという危機感を感じる時、健康を守るために「空気」を意識する傾向があると考えられる。併せて、「風邪・インフルエンザのシーズン」(18.1%)と「風邪・インフルエンザなどにかかった時」(4.9%)を比較すると、インフルエンザにかかった後よりも、かかる前の“予防段階”に、より敏感になっていることがわかるという。詳細はこちらhttp://www.daikin.co.jp/press/2010/101105/index.html

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教授 尾﨑重之先生の答え

遠隔期について自己心膜による大動脈弁形成の遠隔期成績はいかがでしょうか。大動脈弁逆流等の発生はないのでしょうか。自己心膜を使用した大動脈弁形成術は2007年の4月から開始し、現在、約3年半が経過しております。250名以上の方がこの手術を受けられておりますが、現在までのところⅡ度以上の大動脈弁閉鎖不全症を認める患者様はおらず、再手術例はありません。弁の生着、採取部位の強度についてはじめまして、都内で勤務医をしている整形外科医です。患者さんで弁置換が必要といわれている方がおり調べている間にたどり着きました。人工物に比し生体材料でつくられるものがより良いということはわれわれ整形外科でも常に言われていることですが、自己生体材料を採取するということはその採取部位に欠損が生じるということです。整形外科では骨は骨、硝子軟骨は繊維軟骨で再生されます。ただ強度は正常に比し、しばらくの間採取した大きさにもよりますが弱いです。自己心膜採取部位は採取後に再生される組織の強度、機能は問題ないのでしょうか?また生体弁は術後どれくらいで生着するのでしょうか?不勉強ですみませんがよろしくご教授ください。グルタールアルデハイド処理したヒト心膜の強度は、早稲田大学生命理工学部梅津研究室との共同研究の結果、正常な大動脈弁尖の4倍以上の強度があることを確認しております。従って、グルタールアルデハイド処理したヒト心膜を大動脈弁尖として使用することには、全く問題が無いと考えます。残念ながら、ヒト心膜は再生しないので切除した欠損部にはゴアテックスシートを挿入し、代用しております。縫着された自己心膜は、縫着直後より機能しておりますが、約1ヶ月もすれば完全に生着すると思われます。自己心膜の耐久性について生体弁は耐久性におとり10数年が限界と聞きましたが、自己心膜の場合はいかがでしょうか。基本的には自分の組織を使っているので、耐久性という概念自体がないのでしょうか?再手術が必要になる場合はどんな時なのでしょうか?基本的な質問で申し訳ないですがご教示お願いします。「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」、最長で3年半の経過です。遠隔期については5年、10年と経過を見なければなりませんが、3年半経過して再手術がゼロという数字は画期的な数字です。機械弁・生体弁では術後1年で約1%の再手術があります。とても成績がいいことは確かです。われわれの手術方法とは異なりますが、1990年代にアメリカのデュラン先生が、同様にグルタールアルデハイド処理された自己心膜を使用した大動脈弁形成術の耐久性を報告しています。対象疾患が「リウマチ熱による大動脈弁狭窄症」であるため、われわれの対象年齢よりはずっと若く20~30歳代の症例に手術を施行していますが、10年の再手術回避率(再手術を受けなくても良い確率)が86%です。一方、生体弁(ウシ心のう膜弁)を45歳の患者に移植した場合の再手術回避率も同様に86%という報告があります。若年者ほど生体弁の劣化が早いことは周知の事実です。デュラン先生が手術を施行された症例は更に若年であり、この事実を考慮するとグルタールアルデハイド処理後の自己心膜を使用した大動脈弁形成術の耐久性は、生体弁と同等もしくはそれ以上と言うことが出来ると考えます。詳しくは当科ホームページをご参照ください。再手術が必要となるのは移植した心膜が石灰化を起こし、重症な大動脈弁狭窄症を起こすか、心膜の劣化が起こり、重症な大動脈弁閉鎖不全症が発生したときです。経過観察中の患者さんでそのような方はおりません。執刀できる医師について先生の術式は大変素晴らしく、感銘を受けております。新しい術式なだけに執刀できる医師は限られていると思いますが、先生の他に執刀できる医師は何名位いるのでしょうか?また、この出術を受けることができる医療機関は貴院の他にも存在するのでしょうか?教えて頂けると幸いです。これまでに、多くの医師が当院に手術見学に来られ、現在準備を進めている施設がいくつかあります。しかし、手術の質を維持させるため、最初は必ず私が手術に立ち会わせて頂くようにしています。また、弁形成をするための器具であるサイザーやテンプレートなどの準備があり、手術を開始するには少々時間がかかっています。今後はさらに多くの施設で手術が出来るようにウエットラボ、ドライラボを使用したトレーニングシステムの構築等も考えています。現在のところ、苑田第一病院(東京都足立区)、仙台厚生病院(仙台市)、大分大学医学部附属病院(大分市)で自己心膜を使用した大動脈弁形成術が施行されております。入局について初期研修医1年目です。現在市中病院で研修を受けていますが、外科医を目指したいので、後期研修は大学病院に入局しようと考えております。大橋病院心臓血管外科のホームページを拝見しましたが、入局希望者への案内がありません。他の科は案内があるものとないものがありました。基本的に他からの入局は募集していないということなのでしょうか?場違いな質問かもしれませんがご回答宜しくお願いします。ホームページでの入局のご案内が未完成ではありますが、常に入局は大歓迎です。ご迷惑をおかけしました。遠慮なく下記にお問い合わせ下さい。見学、相談希望の方は、お気軽にご連絡ください。お問い合わせ先:医局秘書 古谷 美幸 myurine@oha.toho-u.ac.jp女性の心臓外科医現在医学部に通う学生、女性です。心臓外科に興味を持っています。どんな科でも、出産などで1、2年ブランクが開くと手技が衰えてしまうと思いますが、心臓外科医としてそれは致命傷になるのでしょうか?学生の思い込みかもしれませんが、心臓外科の手技は他の外科と比べ、特に繊細だと考えております。1、2年のブランクが心臓外科医として致命傷になるのか教えて頂きたくお願い申し上げます。心臓外科のトレーニングは、どの時期にどれくらい集中的に施行することが出来るかが大切であると考えます。私自身も、当初は自衛隊医官として勤務していたため、外来で毎日、風邪と水虫を診る日々でした。心臓なんて夢のまた夢でした。自衛隊退職後、卒後6年目からやっと心臓外科に携わるようになりました。心臓外科を始めた時期としては決して早いわけではありません。時期が来たときに集中してトレーニングを重ねることが出来れば、心臓外科医になることは十分に可能と考えます。自分次第ですよ。また、昨今、女性医師は増加しており、今後、女性心臓外科医も増えると思います。まだまだ環境は整っていないかもしれませんが、確実に女性心臓外科医が誕生する土壌は整いつつあります。諦めないでください。自己心膜では適さないケースについて患者さんの状態によっては、自己心膜を使用した大動脈弁形成術に適さず、人工弁でないと駄目なケースがあるのでしょうか。あるとしたらそれはどんなケースなのでしょうか。初歩的な質問で恐縮ですがご教授ください。すべての大動脈弁疾患(大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈基部拡大による大動脈弁閉鎖不全症、人工弁置換手術後の再手術、感染性心内膜炎など)に対し「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」を施行しています。これまでのところ大動脈弁形成術が適さなかった症例はありません。成長する大動脈弁について先生の記事拝読いたしました。「今後、身体の成長に合わせて「成長する大動脈弁」の開発に力を入れていく」とありましたが、具体的にはどのような研究なのでしょうか?人工弁だけど成長する弁なのでしょうか?もしくはまた違った着想での開発なのでしょうか?差し支えない範囲で結構ですので、その辺りの開発状況をお聞きしたく思います。現在、早稲田大学生命理工学部梅津研究室との共同研究で「無細胞化技術の開発」「無細胞化組織の滅菌技術の確立」に成功しており、当該材料の製造・滅菌において実用化に向けて更なる一歩を踏み出す域に到達しています。無細胞化する事でvirusの除去が完全に可能で有る事と、無細胞化組織を人体に移植すると異物として認識されず、scaffold(枠組み)の中に移植された人体から細胞が入り込み自己組織化していく事を、これまでの研究で実証しています。無細胞化組織を使用する事で、(1)遠隔期の弁尖の石灰化を予防出来き(2)無細胞化組織移植後組織に自己の細胞が入り込み無細胞化組織が自己組織化され組織(弁尖)が成長する可能性も高いと言えます。先生が理想とする心臓外科医ベルギー留学中に、先生が理想とする心臓外科医と出会われたそうですが、どんな方なのでしょうか?日本にはいないタイプなのでしょうか?興味あるので是非教えてください。記事の中でもご紹介しましたが、私がベルギーで出会った医師は、臨床での不明な点を大動物で実験・検証し、その結果を必ず臨床にフィードバックし、少しでも患者さんにプラスになるように努力していました。このように、文武両道な医師が私の理想とする医師です。私の感覚なので、そうではないと言われる方がおられると思いますが、日本の心臓外科医は手術をする人、研究をする人が別れており、両方をともにバランス良く行っている外科医はヨーロッパと比べて少ないと思います。あくまでも個人的な感想です。先生のご経歴を今は田舎で診療所をやっていますが、昔大橋病院にいたことがあります。その時代は外科手術を年間何百例もこなすようなところではなかった記憶があります。先生しかできない手術を行っているからかもしれませんが、それだけではないと思います。宜しければ体制を変えるために先生が取り組まれたことを教えていただけますでしょうか。宜しくお願いします。先生が大橋病院にいらした頃と同様に、私が大橋病院へ赴任した当初も開心術数は多くありませんでした。病院の体制としても現在のように開心術を200以上施行できる環境ではありませんでした。まわりのスタッフの多くが、「心臓の手術は大変だから。」という認識を持っていたと思います。大変なことを行うのはみんな嫌なわけで、その認識を変えない限り、前進できないなと考えました。まず取り組んだことは、慌てないでひとつひとつ実績を重ね、スタッフのみんなに「心臓の手術は大変ではなく、心臓の手術を受けた患者さんみんなが笑顔で元気に退院していくこと。」を実証することでした。心臓外科はチーム医療ですから、これまでの認識が変わるにつれてチームとして対応できるようになり、増えてきた症例数にも対応できるようになったと考えます。でも6年かかりました。「ローマは一日にしてならず。」を実感しています。総括「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」、最長で3年半の経過です。遠隔期については5年、10年と経過を見なければなりませんが、3年半経過して再手術がゼロという数字は機械弁・生体弁では不可能な数字です。それくらい成績がいいことは確かです。また、手術中に人工弁置換術に移行した症例もありません。この手術がいかに再現性の高い手術であるかが判ります。今後も遠隔期の向上目指してさらに努力していきたいと考えています。異物を使用しないこと、ワーファリンなどの抗凝固療法を使用しないためQOLが維持できることに患者さんはとても満足されています。「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」でも多くの患者さんの笑顔が見られます。学生・研修医の方々へ心臓外科は楽しいですよ。楽な科ではありませんが、患者さんは本当に元気になります。元気になった患者さんの笑顔を見ると疲れが吹っ飛びます。僕と一緒に心臓外科をやりませんか。教授 尾﨑重之先生「弁膜症治療の歴史を変える「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」」

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教授 白井厚治先生の答え

最近のゼロカロリージュースについて0キロカロリーのコーラなどが最近は多く売られてますが、代謝内分泌学的には糖尿病の方に自信を持って勧められているのでしょうか?あくまで噂に過ぎないのですが、ああいうゼロカロリー飲料そのものには確かにカロリーがなくても、一緒に他の食事を摂った時に他の糖質の吸収を促進する作用があると聞きました。。。。PS:そもそも、人工甘味料のアスパルテームが身体に良いかどうかわかりませんし、炭酸飲料は身体に悪いのかもしれませんが。。。実際に、カロリーゼロ表示の飲料物を飲んでもらい、30分から120分まで、採血したところ、血糖の増加はほとんど見られないものもありましたが、なかにはあがるものもあり、原因は、カロリーゼロ表示は、糖質0.5%以下で使っているとのことでした。ですから、成分表示で、糖分ゼロと明記しているものは大丈夫でしょうが、それ以外のものは、大量飲めば、血糖は上がる可能性があります。アスパルテームについては、アミノ酸摂取として評価してよいと思われます。極端に、多用しなければ問題ないと思います。高感度CRPについて高感度CRPは動脈硬化の一つのいい指標でしょうが、上気道炎、歯肉炎などの炎症にても上昇すると理解しています。そうすると、風邪の流行している季節などでは動脈硬化の判定ができずらくなるということはないでしょうか?その通りで、CRPは体内でほかに目立った炎症がない場合にのみ、動脈硬化(炎症性反応としての)の指標として意味がありますが、特異性は、高感度CRPを用いてもありません。大規模スタデイで、ある治療の効果などをみるにはよいでしょう。しかし、日常診療で、個々の例に当てはめ、それのみで、あなたは動脈硬化があります、ありませんとの判定に用いるのは、困難と思います。逆に、動脈硬化のためと決め込んで、ほかの炎症、癌などの初期を見逃す可能性もあります。個人には参考にする程度でよいのではないでしょうか。破壊性甲状腺炎の診断動悸、全身倦怠、微熱、軽い咽頭痛の症状で他院受診。FT3 10.4,FT4 4.6 TSH感度以下、 抗体陰性(TPO、TG、TRAb,TSAb)でCRP 1前後、血沈正常からやや亢進、甲状腺エコーでまだら様low echo部位のある患者さんが当院紹介となりました。ヨードuptake 1%以下で破壊性甲状腺炎と診断しましたが、一貫して頸部痛はありません。頸部痛のない亜急性甲状腺炎と判断するのか、咽頭炎併発の無痛性甲状腺炎と迷いました。これでTPO抗体やTG抗体が陽性であればさらに橋本病の急性増悪とも迷うところです。頸部痛のない亜急性甲状腺炎という病態はあると考えて宜しいのでしょうか。また今回のケースではありませんが橋本病の抗体が陽性の場合、無痛性甲状腺炎と橋本病の急性増悪との鑑別についてもご教授いただければ幸いです。甲状腺機能亢進でTSAb、TRAb陰性、さらにヨードuptakeの低下という所見は破壊性甲状腺炎に矛盾しません。破壊性甲状腺炎には、亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎があります。亜急性甲状腺炎は炎症反応があり、low echo部位を認めるととも頸部痛はほぼ必発です。本例では頸部痛なしなので、亜急性甲状腺炎とは言えないでしょう。従って、無痛性甲状腺炎の可能性が強くなります。無痛性甲状腺炎は、多くは橋本病を基盤とした疾患とされており、本例がTPO、TGの抗体が陰性であることから、合致しません。まだ特定されていませんが何らかのウィルスによる甲状腺炎かもしれません。実際、本症例をどうするかですが、私なら経過観察が重要と考えます。ホルモン値を追跡し、下がればそれでよく、もし、炎症反応が強くなったり、頸部痛が出現してきたりすれば、亜急性甲状腺炎と考えて、ステロイド投与も考慮していくべきでしょう (当面はNSAIDでも十分)。甲状腺機能亢進症が長引くようであれば、甲状腺中毒症状に応じて、メルカゾールを適量処方、経過観察します。術前術後の糖尿病コントロール経口糖尿病薬は手術前後は禁忌となっています。手術前後とはどれくらいの期間をいうのでしょうか。その間はインシュリンでコントロールすることになりますが基本的なやりかたをご教示ください。手術の種類、術後の食事摂取の状況からも、ことなり、一律にはいえないと思います。一般に消化管手術は、吸収が不安定なこともあり、最低前1日、後7日間くらいは、血糖測定下でのインスリン治療が望まれます。SU剤を中止してのインスリン量の決定は、個々異なり、試行錯誤ですが、グリペングラマイド(2.5mg)3T/日では、およそ、インスリン必要量は、8-12単位くらいではないでしょうか。当院では、毎食前血糖測定後、血糖(mg/dl)100-120、  120-150、150-200、200-250、250-300 それぞれ、インスリン(レギュラー)2-4、4-6、6-8、8-10、10-12単位打つことを目安にしています。大学病院に足りないもの先生が大学病院の経営のみならず、臨床の現場でもご活躍されている様子、記事で拝見しました。大学病院の上から下までご存知の先生にお聞きしたいことがあります。「今、大学病院に足りないもの」を一つ挙げるとしたら、なんでしょうか?今や大学病院も収入につながる診療に振り回され、臨床研究の機会がどんどん減っているような感があります。周りの若手を見ても、診療に疲れて、「大学病院でバリバリ研究するぞ!」という気概を感じることができません。魅力ある大学病院を作るために何が必要なのか?何が足りないのか、日々悩んでいる状況です。ご教授頂けると幸いです。こんな時代の今こそなぜ、大学病院にいるのか、どのような姿勢をとるのか、原点が問われていると思います。それというのも、いろいろ言われていますが、医療の原点である患者さんの満足度(医療レベルもふくめ)を中心に、医師をきちんと配備し、グループ、科の壁を乗り越え、互いに手を出し合ってゆけば、大学病院は採算的にやってゆけるというのが実感でした。ただそこには、多くの若い医師たちがいるということ、即ち、採算的にみると、薄給でがんばってくれている若手医師がいるからこと成り立つことを忘れてはなりません。それに対して、彼らが大学病院にいる存在意義を見出すには、スタッフが魅力的な医療技能を提示でき、全身全霊をかけて患者さんを診ているすばらしい姿をみせること。若手医師は今の医療を学ぶのみでなく、医療を開拓していくメンバーの1人として、テーマを持ち未解決なものを解決する術を身につけることの充実感とそれによる自信が必要と思います。従って、大学スタッフの責任は重大で(それだけやりがいがあるという意味です)、面白い研究テーマを見つけ、その解決を目指してあらゆる手段を用い(基礎、臨床研究)、しかもそれを楽しみながらやっている姿勢を見せ続けることです。そして、病院の業務に追われ疲れているように見えた時こそ、それらを吹き飛ばす面白い研究テーマを突きつけるべきです。マンネリと疲労から脱出させる最良の方法となります。先生のようなやる気のある上級医師は、遠慮せず、怖がらず若手医師に語りかける続けることでしょう。今の医学教育は研究の面白さ楽しさを感じ取るレセプターを育成していませんから、苦労しますが、でも、わかってくれる日が必ず来ると思います。CAVIの開発についてCAVIにはいつもお世話になっています。お恥ずかしい話、先生が開発に携わっていたこと、知りませんでした。このような新しい技術や検査機械の開発はどのように始まり、進行していくものなのでしょうか?また、このように周りを上手く巻き込んでいく時のポイント、秘訣などありましたらご教授頂きたいです。宜しくお願いします。CAVIは、今次々と新しい事実が見出されています。大切なことは、若い先生方に興味を持ってもらえ、いったん途絶えていた血管機能学が代謝学と連携して再度面白くなり始めたことです。CAVIと巡り合ったいきさつですが、たまたま、開発初期に相談をうけたわけで、私が発想し持ち込んだわけではありません。ただ、血管機能については興味をもち30年前から大動脈脈波速度(長谷川法=血圧補正法)を毎年透析患者さんで10数年にわたり測定していました。そこでPWVの限界と可能性を私なりに理解していたつもりです。今回CAVIの初期のデータとりをする中で、計算式決定まで多少紆余曲折がありましたが、バイオメカニクスの科学と臨床成績から現在の式が最終決定され、以後広い臨床評価が始まりました。そこには、長年血管機能解析に興味を持ち続け誠実にデータを蓄積分析してくれていた施設と人がいたこと、会社も、科学性と臨床データ両面を尊重し互いに納得のいくまで検討できたこと、また脈波感知と分析に高度の技術を発揮した優秀なスタッフがいたことが幸運だったと思います。加えて、全国の大御所というよりは若手研究者の方がCAVIに素直に興味をもってくれ、いわゆる大学の研究室よりは、一般病院で、素養のある先生方が先行して出された研究が多く、現場で開拓心旺盛な医師の存在が大きく浮かび上がりました。新しい世界を開くのは情熱ある若手医師とつくづく思いました。無理に誰かを巻き込もうとしたこともなく、CAVIそのものの原理と測定の安定性が最大の牽引力であったと思います。でもまだまだ、これから多くを検証する必要があります。佐倉病院でないとできないこととある病院で研修医やっている者です。先生の記事を興味深く読ませて頂きました。文末にある「佐倉病院でないとできないことに向けて頑張っていく」という言葉が印象的です。記事を読んでいると、佐倉病院さんはとてもチームワークが良く、ドクターもコメディカルも同じ目標に向かって猛進しているような印象を受けました。(先生のところだけかもしれませんが...。)「佐倉病院にしかできないこと」というのは、そのように「チームワークが良い病院でしかできないこと」なのでしょうか?それともまた何か他とは違う特徴が佐倉病院さんにはあるのでしょうか?基礎も臨床もしっかり行い、しかも全て患者さんのためになっている様子に感銘を受けました。ご回答宜しくお願いします。どこの場にいても、そこを、地球上で一番すばらしいところにしてやろうという気持ちが大切です。恵まれてすべてが整っているところほど、これからの人にとってつまらない場所はないと思います。とにかく、その場での問題点を探し、皆が一番困っているところを見つけ出し、その解決に向けて、できるとところを一歩一歩解決してゆく姿勢を評価、支援しあえる環境が佐倉病院にはあるということです。内科も、外科医に負けないような患者さんに感謝される治療学を確立しようと、研究テーマの根幹は、酸化、再生、免疫制御、栄養の4本柱で、おのおの磨いているところです。たとえば、呼吸器は抗酸化療法で間質性肺炎に挑戦、代謝は、肥満治療を分子から栄養、こころの問題と多面的に捉える治療、特に肥満外科治療が開始されましたがその術前術後のフォロー、フォーミュラー食(低エネルギー低糖質、高たんぱく食)の応用と基礎、糖尿病腎症に対するプロブコールを用いた抗酸化療法で透析療法移行抑制試験、循環器は、インターベンションに加えて、これから、難治性心不全に対する鹿児島大鄭教授の開発した和温療法実施と評価、睡眠時無呼吸と不安定狭心症の関係をみつけその治療システムの確立、消化器は、炎症性腸疾患のメッカとして、顆粒球除去療法、レミケード療法、神経内科は、排尿障害を中心に、パーキンソン病の深部脳刺激治療のバックアップ、再生医療も狙っています。研究は、各グループ専門を超えて互いに連携しています。原則として、できれば自然の法則性を体感するため、医師は基礎研究もする機会を経験してもらいたいものです。研究開発部の協力のもとに細胞培養、酵素学、遺伝子実験をできる体制を敷いています。要するに、病気を多面的にいくつかの独自の視点をもって診、医療を開拓してゆける人の育成がもっとも大切と考え、それには、チーム医療、他コメヂィカルとも力を合わせ、初めてできることと考えています。理想の地域連携とは先生がお考えになる「理想の地域連携」の姿とはどんなものでしょうか?また、その理想の姿になれない、理想の姿になるのを阻んでいる障害はなんでしょうか?(実現されていたら申し訳ないです。)現在、私も地域連携について勉強はしているものの、なかなか思うような形にできません。障害が多すぎて、「理想的」どころが「現実的」な連携フローにもなっていません。宜しくお願いします。地域となるとさまざまな価値観の人がおり、同じ言葉でも受け取り方が違ったり、利益配分に問題が出たりで、そう簡単に理想的な地域連携ができるわけではありません。しかし、今の医療は、個々の医療人が隔離状態で医療行為を行えるほど甘くなく、互いに、助け合って連携せざるをえないと思います。でも問題は、ただ患者さんを送りあえば医療連携になるかといえばそうでもなく、問題は患者さんも含めて、互いにわかりあい納得できることが大切で、それには情報の整理集約が必須です。私どもは、生活習慣病を中心としたヘルスケアファイルと呼ばれるノートを患者さん全員にお渡ししています。そこには、動脈硬化リスク因子、標準体重、BMI、臓器障害の有無、程度、さらに主要な検査値はグラフで提示するシステムを用いています。これで、関わる医師は無論、クラークさん、看護師さんも経過が一目瞭然。するとアドバイスも適切。また家族もわかり、応援しやすくなります。これを地域に広げたいというのが私どもの夢です。ただこのファイルは、血圧、糖尿、脂質、尿酸、体重、一般検査を含んでおり、全部網羅していると思います。わがままかもしれませんが、これ一冊にしていただきたいのです。一般には、00手帳が3つも5つももっておられる方もいますね。でもなんだかわからないというのが実情です。大人版、母子手帳を作るべきだと思います。チームワーク先生、チームをまとめ上げるために必要なものはなんでしょうか?チームワークというと「みんな仲良く」というイメージがありますが、決してそうではないと思います。きっと先生は、今までのご苦労の中から「これが大事!」というもの発見されていると思います。それを教えてください。宜しくお願いします。リーダーは、今自分らの分野で何が問題で、それを解決するために、どう力を互いに出し解決するかを提言し続けること。 即ち、小さなグループミーチングでも、プロジェクトを提示し、その成果がささやかでも出たら皆で確認し、面白がること。プロジェクトは、参加者全員が順に一つずつ持つように絶えず心がけていると、みんなに参加意識と存在感さらい自信が生まれます。すると、とたんに楽しく動き始めます。低糖質食私も低糖質食でメタボを脱却したものですが、抵糖質食の心血管病変に対してrisk reductionあるのでしょうか?食事の内容によっても大きく変化するのでしょうか?低糖質、高蛋白食が減量に効果があるとともに、血圧、血糖、脂質異常などの冠動脈リスク因子を減らすことは、海外のスタデイでも、ほぼ一致して報告されています。インスリン抵抗性解除作用と思います。ただし長期(1年)になると元に戻るとの報告もあり、それを鵜呑みに意味がないという人もいます。しかしその食事調査結果をみると、実際の摂取成分がもとに戻っており、実はそう長くは自己調整を続けられなかたというのが実態で、低糖質、高蛋白食は長期になると効果がなくなるというものではないわけです。御質問の「では実際、心血管イベントを減らせたか」はもっとも重要な点ですが、上述のごとく、通常食で成分調整を長年にわたり継続すること自体がほとんど不可能なため、年余にわたる低糖質、高蛋白食の冠動脈疾患の発生を抑えるかどうかの研究自体ができないのです。本当は、このような基本となる栄養組成の研究こそ、国が、コンプライアンスを保障できる食事の宅配便制度などを利用し、長期にわたる調査を企画運営すべきです。そこにこそ研究費をつぎ込むべきです。薬物のようにメーカー主導のエビデンスベーストメデイシンは、この分野では行われることはないでしょう。現在、ある程度コンプライアンスをよくして低糖質、高蛋白食の効果を見る方法とすれば、フォーミュラ食を一日一回用いるなどの方法が考えられます。また、長期のイベントの発生調査を、より短期に予測しうる方法があれば、即ち、動脈硬化のよいサロゲートマーカーがあれば早期に結論が出せるかもしれません。それには、新しい動脈硬化指標CAVIが使えるかもしれないとの淡い期待を、持っています。教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

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准教授 平山陽示先生「全人的医療への入り口」

平山先生は循環器内科医を20年経験後、総合診療科の道に入る。医師が自分の専門領域しか診察しない今の医療体制を変化させるべく、総合的に診察して患者さんのメンタル面を含む治療アプローチを実践。東京医科大学病院における「総合診療科」の設立に尽力し現在活躍中である。プライマリ・ケアの重要性から総合診療へ大学病院での初期研修は、通常各診療科目をラウンドしますが、それだけではプライマリ・ケアの習得は困難です。専門診療科のラウンドでは入院患者ばかりを診察、外来患者を診察することがほとんどありません。大部分の患者さんは既に診断がついています。しかし、多くの患者さんは「疾患名」ではなく「主訴」で病院の外来を訪れます。そこでは患者さんの訴えから病気を診断していく重要なプロセスがあります。「症候論」といってもいいし、「診断学」「診断推論」と言っても構いませんが、この初期の段階では幅広い知識と技術が必要です。そして、この研修にはプライマリ・ケアを扱う部門が必要となります。例えば、循環器内科をラウンドすれば心筋梗塞の入院患者さんを診察。しかし、この患者さんが病院を訪れたのは「胸が痛かった」からであり、実際にはこの「胸痛」という症候から正しく診断しなければならないわけです。「胸痛」を主訴とする患者は心臓が原因であれば循環器科、肺が原因でならば呼吸器科、肋骨骨折ならば整形外科、帯状疱疹ならば皮膚科、心因性の胸痛ならば精神科に紹介することもあるわけです。循環器医は心臓由来の胸痛ではないと診断するだけではなく、その患者の胸痛の原因がなんであるのかを推論、院内でたらい回しをせずに適切な診療科に橋渡しするべきです。だからこそ専門治療のスぺシャリストを目指ししている医師にもプライマリ・ケアの知識が必要なのです。幅広いジェネラリストの上にスペシャリストが立つのです。ジェネラリストとしての地固めをしないと良いスペシャリストにはなれません。以前は、プライマリ・ケアを学ぶ場はあまりありませんでした。アクセスのよい都心にある東京医科大学は市民病院的な役割も果たしており、紹介状の有無に限らず、単なる風邪や下痢で来院する患者さんも比較的多く、プライマリ・ケアを学ぶ環境が揃っていました。それも総合診療科が育った要因です。また、この領域では全国的に有名な大滝純司教授をお迎えすることが出来たのも幸運でした。なぜ総合診療なのか東京医科大学病院総合診療科設立のきっかけは新医師臨床研修制度の始まりでした。新制度の目的がプライマリ・ケアの習得であるので、当院では初期研修医に総合診療科のラウンドが義務付けられています。最近では後期研修で総合診療科を希望する人が増えてきており、総合診療科が役に立つ診療科目であることを研修医たちが認知し始めているのを実感しています。総合診療科は、文字どおり総合的に患者さんを診る診療科であり、患者さんが訴えている症状を読み取り、身体所見や検査所見を加味して推論した診断で次なる専門診療科への道筋をつけるチーム医療と同時に、専門医の手を煩わせることもない一般的な疾患(Common disease)は総合診療科で治療をしています。また、総合診療では専門診療科との連携を図りながら、プライマリ・ケアを通して診療のの基礎を固めることができます。ですから、総合診療科の役割のひとつは、研修医に病気を診るのではなく患者さんを診るという態度を身に付けさせることでもあるのです。例えば、MUS(Medically unexplained symptom:医学的に説明できない症状)を訴えてくる患者さんにはメンタルな要因も多いわけですが、そのときに身体疾患がみつからなくとも"症状"まで否定することなく、その症状を現す意味について、患者さんの社会的環境要因も考えるぐらいのことが医師の頭の中にないといけません。いわゆる「全人的医療」、つまり病気を診るのではなく患者さんを診ることの教育が必要なのです。診療科目が細分化されすぎて専門的な知識のみで症状を追うのではなく、幅広いプライマリ・ケアの知識を持った上での診察が求められています。東京医科大学病院の研修医にこの意識を持たせることも総合診療科の重要な役割です。総合診療科という立場への理解不足総合診療科として専門診療科の医師と連携がうまくとれているかと言えば、必ずしもそうではありません。それは臓器専門医にプライマリ・ケアが十分に理解されてないからだと思います。総合診療科は初期診療の担い手ですが、決してスーパーマンではないので、専門診療科で診ないと言った患者さんを何でも引き受けることが出来るわけではありません。極端な例を挙げれば、原発不明がんの患者さんは、いくつかの臓器にがんが見つかっても原発巣が同定されないと、どの診療科も主治医になろうとはせず院内でたらい回しにされてしまう危険があります。だからといってプライマリ・ケアの総合診療科がこのような患者を受け持つことは適切ではありません。現に専門診療科からの患者さんの押し付けで疲弊している総合診療科も多々あるように聞いています。また、総合診療の場合、各診療科目との連携が重要となるのでコミュニケーション能力は極めて重要です。しかし、連携を図るのが容易でない時があります。その場合相手の診療科に患者さんを押し付けるのではなく「一緒に診てほしい」「相談に乗ってほしい」とお願いする心がけを指導しています。連携をとる苦労はどこにでもあると思いますが、難しいですね。総合医の果たす役割今の医療体制では、患者さんが自ら診療科を探すことが多いため、自ら選んだ診療科では病気が分からず帰宅するケースがあります。その意味では総合診療科は医療の玄関口として、その先に専門性の高い医師に依頼して先端治療へ導くなど役割は大きいです。また、プライマリ・ケアを通して診療の基本を研修医に教えるのも総合医であり総合診療科の役割です。現在では、総合的に診療ができるジェネラリストが求められています。総合診療科を目指すドクターがもう少し多くならなくては、今の医療体制の変革には限界があると思います。英国では家庭医制度が確立されており、患者がいきなり総合病院や大学病院に行くことはまずありません。家庭医に診てもらってから専門医へ紹介され診療を受けます。そのため家庭医になるためのプログラムが確立しています。我々の総合診療科でも家庭医養成プログラムを用意しており、何人かの後期研修医がそのプログラムに則って研修しています。家庭医はメンタル面を含めた総合的な診察をします。家族全員を診るため、大人は内科、子どもは小児科などの振り分けを行わず、家族に同じ症状があれば家庭内での原因も探ります。家族全体を診ていくという姿は医療の理想のひとつの型でもあります。もし、そういう家庭医を大学病院でも育てていくとしたら総合診療科がなくてはできないと思います。総合医認定制度がスタート総合診療科がしっかりとプライマリ・ケアを実践するには、専門医に委ねるべき患者を臓器別専門科がしっかり請け負ってくれることが大切です。総合診療と専門診療がうまく連携できていれば、より少ない専門医でも病院は機能するはずですし、それが本来の病院の姿だと私は思っています。厚生労働省も総合医を推進、「総合医認定制度」を視野に入れて検討しているようです。日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療医学会、日本家庭医療学会の3学会は、今春にひとつにまとまって総合医(家庭や総合診療医)の育成プログラムと認定に向けてすでに準備が進んでいます。この認定制度により、首都圏はもとより地域医療も大きく変化、そして患者さん側の医療に対する意識も変化していくでしょうね。多くの総合医(ジェネラリスト)が活躍すれば患者さんは単なる風邪や下痢などの一般的な疾患で大病院を受診することも少なくなり、医療費削減にもつながります。私は東京医科大学病院において、総合診療科の第一線で活動してきました。現在取材も多く、注目を浴びている診療科目です。ぜひ、総合医(ジェネラリスト)を目指す人が多くなることを期待します。質問と回答を公開中!

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牛乳たんぱく質由来の新規ペプチド素材「オリゴミル」を開発

ロート製薬株式会社は12日、機能性素材の探索を重点研究テーマに掲げる研究拠点「ロートリサーチビレッジ京都」において、牛乳のたんぱく質から、新規ペプチド素材「オリゴミル」を開発したと報告した。研究の結果、「オリゴミル」は「免疫力」の指標となる‘IL-12’の産生を高める働きが他の素材よりも強いことを確認したという。牛乳由来で水に溶けやすいという特長もあり、「オリゴミル」は風邪をひきやすい時期などの健康維持に有用な機能性素材であると考えているとのこと。なお、同成果は日本フードファクター学会第14回学術大会(11月15~17日、神戸市)にて発表される。詳細はプレスリリースへhttp://www.rohto.co.jp/comp/news/?n=r091112

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新型インフルで医療現場は患者6割増 受診控えの悪影響も

病院検索サイトQLife(http://www.qlife.jp/)を運営する株式会社QLifeが行った、新型インフルエンザ流行が、医療機関の現場にどのような影響を及ぼしているかの緊急アンケート調査によると国民は混乱して医療機関に殺到し、患者数は6割増え、医師への必要以上の要求が増し、発症数以上に診療現場の仕事が増えていることが報告された。また3割の医療機関では、他疾患の患者が「受診控え」する悪影響も出ているという。同調査は10月20日~23日の3日間、インターネット調査にて全国の内科医師300人(病院56%、診療所 44%)を対象に行われた。風邪様・インフルエンザ様症状の患者数について、昨年同時期との比較おいては、68%が「昨年より多い」と答え、「昨年より少ない」は8%にとどまった。特に「病院」の方が増加傾向が激しい(2倍程度:病院33% vs 診療所21%、3倍程度:病院8% vs 診療所2%)。平均すると、病院での患者数は昨年比77%増、診療所では48%増となっていて、全体では64%増の患者数が発生していた。昨年までの季節性インフルの患者と比べて、新型インフルの患者の特徴を挙げてもらったところ、「過剰に心配・恐怖している」が最も多く、20%の医師が感じていた。「軽症でも受診」「検査の希望多い」も上位に入り、実際の発症数以上に医療機関の現場が混雑している様子がうかがえる。なお「例年と変わらない」は28%だった。糖尿病・高血圧など他の疾患の患者への影響については、30%の医療機関で「受診控え」がみられた。他疾患患者は、院内でのインフルエンザ・ウイルス感染の恐れやインフルエンザ患者の殺到で、医療機関から遠ざけている可能性があるという。また、新型ワクチンの優先接種対象になっている「基礎疾患がある人」の定義がどの程度、明瞭な形で医師に届いているかの確認では、病院の61%、診療所の52%、全体では57%の医師が、「明瞭な定義が届いていない」とした。ワクチン接種に関して国に望むことについては、「供給量を増加/充分に」が4人に1人が答え、圧倒的に望んでいた。情報面の要望も多く、「迅速さ」「正確さ」「伝達経路」「順位マスコミよりも先に医師に)」「詳細さ(曖昧なのは困る)」など多岐にわたっていた。「情報不全のせいで医療現場は混乱をきたしており、その対処負荷を末端医師は背負わされて疲弊している」とストレスを訴えている内容が多かった。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.qlife.jp/square/pdf/091026qlife_news.pdf

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新型インフルエンザの地域感染発生の突き止め方:イギリス

イギリス、バーミンガムのHealth Protection Agency Realtime Syndromic Surveillance TeamのAlex J Elliot氏らは、今般の新型インフルエンザ(いわゆる豚インフル、A/H1N1)の、イギリスにおける最初の地域感染を突き止めるため、2つのモニタリング方法について評価を行った。1つは、風邪症状あるいはインフルエンザ症状もしくは両方の症状を有し、NHSの健康電話サービスを利用した患者から同意提供を受けた自己検体からの感染結果。もう1つは、Health Protection Agency(HPA)地方マイクロバイオロジー研究室で、インフルエンザ疑い症例に対する臨床アルゴリズムに従い検査が行われた患者検体からの感染結果である。結果報告は、BMJ誌2009年9月12日号(オンライン版2009年8月27日号)にて掲載されている。5月末~6月末のイギリス6地域の新型インフル発現動向を調査評価調査は、2009年5月24日~6月30日に、6つの地域を対象に行われた。主要転帰尺度は、新型インフルエンザと確認されたラボ検体の割合とされた。結果、新型インフルエンザ(A/H1N1)の感染は、自己検体1,385例からは91例(7%)が見つかった。加えて、インフルエンザA/H3感染が8例、インフルエンザB型感染が2例も見つかった。NHS健康電話サービス利用増加とラボでの検出増加はぴったりマッチ自己検体からの感染症例の割合の週ごとの変化は、HPA地方マイクロバイオロジー研究室から報告された感染事例の割合増加とぴったり適合していた。そして両モニタリング結果の比較から、6月23日~30日の週に地域感染がロンドンとウェスト・ミッドランズで起きていたことが判明した。1ヵ所のHPA地方マイクロバイオロジー研究室からだけで100例以上の新型インフルエンザが見つかり始め、毎週、検体のうち20%以上で陽性が見つかり始めていた。Elliot氏は、「地域感染の傾向は臨床マネジメントを通じて検知された。その傾向は、NHS電話サービスの利用率とHPAラボで感染が確認された割合を反映していた」と述べ、「HPAラボからの報告だけでは限りがある。それは、渡航歴および既感染者との接触に関する情報が不明だからである。HPAラボからの報告は、地域感染が起きていることを確認するのに用いるべきだろう」とまとめている。

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米国における流行性耳下腺炎の再燃で予防接種改善の必要性

米国では1990年以降、学童に対する流行性耳下腺炎(おたふく風邪)ワクチンの2回接種が広範に行われるようになってから、その流行発生は歴史的な低さが続いていたが、2006年に米国内としては過去20年間で最大の流行が発生した。そこで米国疾病管理予防センター(CDC)が全国調査を実施した。NEJM誌2008年4月10日号より。2006年に発症した6,584例と予防接種率データを調査米国は2010年までに流行性耳下腺炎を根絶するという目標を掲げたが、2006年に計6,584例の発生が報告されたことから、同年の耳下腺炎症例に関する全国データに加えて、最も患者が多かった州からの詳細な症例データ、および3つの全国調査に基づく予防接種率データを検証した。最多発の中西部8州で予防接種による免疫付与に失敗か全症例の76%が3~5月に発症し、85例が入院したが、死亡は報告されなかった。また全体の85%は、中西部の隣接する8州に居住していた。耳下腺炎の全国的発病率は、人口10万人当たり2.2人で、18~24歳の年齢層が最も発症率が高く、他の全年齢層を合計した発症率の3.7倍に達していた。これらの患者の83%は当時、大学に在籍していた。最も流行した8州の予防接種状況では、住民全体の63%と、18~24歳の84%が、流行性耳下腺炎ワクチンの2回接種を受けたことが確認された。大流行に先立つ12年間、未就学児童に対する耳下腺炎の第1回予防接種率は、全国で89%以上、最も流行した8州では86%以上だった。2006年における、若年者に対する第2回接種は、米国史上最高の87%だった。しかし、流行性耳下腺炎を含むワクチン2回接種が高率であるにもかかわらず、耳下腺炎の大流行が起こったのは、おそらく学童期に予防接種を受けた中西部の大学生と同年代の若者たちに、ワクチン2回接種でも免疫が成立しなかったことを意味する。このためCDCは「将来の流行性耳下腺炎発生を回避し、耳下腺炎の根絶を成し遂げるには、より効果的なワクチンか、予防接種方針の変更が必要になるだろう」と報告をまとめ警告を発している。(武藤まき:医療ライター)

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早期・持続的・重層的な非薬物的介入は有効なインフルエンザ対策となる

インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)への重要な対策の1つに、非薬物的介入がある。流行時期を遅らせ、全体の発病率やピークを低下させ、死亡者数を減らす可能性のほか、ワクチンや抗ウイルス剤の生産と供給に時間的余裕をもたらす可能性があるからだ。最適かつ適切な非薬物的介入は、医療サービスと発症地域の負担を減少させることになる。ミシガン大学医学部医学史センターのHoward Markel氏らは、最適かつ適切な非薬物的介入を明らかにするため、20世紀最悪と言われたいわゆる「スペイン風邪」流行時の、全米43都市における非薬物的介入の状況を調べた。JAMA誌8月8日号の報告から。非薬物的介入を3つのカテゴリーに分類し比較検証本研究は、1918年9月8日から1919年2月22日の間に全米43都市で流行を緩和するために実行された非薬物的介入を、史実研究や統計学的解析、疫学的分析をもとに検証された。調査対象は、非薬物的介入のタイミング、期間、組み合わせによる都市ごとの死亡率の差異、先行流行波による集団感染率の変化、年齢および性分布、人口規模・密度など。非薬物的介入は主に「学校閉鎖」「集会の禁止」「隔離、封鎖」の3つにカテゴリー化された。主要評価項目は、週間超過死亡率(EDR)、非薬物的介入開始からファーストピークEDRまでの時間、ファーストピークの週間EDR、そして対象期間24週の累積EDR。「学校閉鎖」+「集会の禁止」を34都市で実施24週にわたる43都市の肺炎・インフルエンザの超過死亡は115,340人(EDR、人口500/100,000)だった。各都市は非薬物的介入の3つのカテゴリーのうち、少なくとも1つを採用しており、組み合わせでは「学校閉鎖」+「集会の禁止」が最も多く34都市(79%)で実行していた。この組み合わせの実行期間中央値は4週(範囲1-10週)で、週間EDR低下と強い相関を示した。また、非薬物的介入を早期に実行した都市ほどピーク死亡率を遅らせ(Spearman r=-0.74、P<0.001)、ピーク死亡率は低く(同 r =0.31、P=0.02)、総死亡率が低かった(同 r=0.37、P=0.008)。介入期間の長さと総死亡率の減少には統計学的に有意差が認められた(同 r=-0.39、P=0.005)。Markel 氏らは、「これらの所見は、非薬物的介入を早期から持続的かつ重層的に行うこととインフルエンザによる死亡率の減少との強い関連性を示すもの。インフルエンザ大流行への対策として、ワクチン開発や薬物療法と並んで非薬物的介入を考慮に入れるべきだ」と結論付けている(武藤まき:医療ライター)

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