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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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添付文書改訂:アメナリーフに再発性単純疱疹が追加/ミチーガが在宅自己注射可能に ほか【下平博士のDIノート】第125回

アメナリーフに再発性の単純疱疹が追加<対象薬剤>アメナメビル(商品名:アメナリーフ錠200mg、製造販売元:マルホ)<改訂年月>2023年2月<改訂項目>[追加]効能・効果再発性の単純疱疹[追加]効能・効果に関連する注意単純疱疹(口唇ヘルペスまたは性器ヘルペス)の同じ病型の再発を繰り返す患者であることを臨床症状および病歴に基づき確認すること。患部の違和感、灼熱感、そう痒などの初期症状を正確に判断可能な患者に処方すること。<Shimo's eyes>本剤の適応症はこれまで帯状疱疹のみでしたが、2023年2月から「再発性の単純疱疹」が追加されました。帯状疱疹の場合は1日1回2錠を原則7日間投与ですが、再発性の単純疱疹では1回6錠の単回投与となります。初発例は適応になりません。用法・用量に関連する注意には「次回再発分の処方は1回分に留めること」とあり、患者さんの判断で服用するPIT(Patient Initiated Therapy)分を前もって1回分処方することができます。患者さん自身が単純疱疹の症状の兆候を認識した際に速やかに服用することで、早期の対応が可能となります。パキロビッド:パック600と中等度腎機能障害用のパック300が承認<対象薬剤>ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック600/同300、製造販売元:ファイザー)<承認年月>2022年11月<改訂項目>[変更]医薬品名、規格パキロビッドパック600、同300が承認<Shimo's eyes>パキロビッドパックは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)に続く、2番目の新型コロナウイルス感染症の経口薬として2022年2月に承認されました。2023年3月21日以前は、登録センターに登録することで特定の医療施設に配分されていました。今回パキロビッドパック600/同300が薬価収載され、2023年3月22日以降は一般流通されています。パキロビッドパック600は従来のパキロビッドパックと同等の製剤で通常用のパッケージです。一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害(eGFR30mL/min以上60mL/min未満)の患者さん用のパッケージです。600と300はブースターであるリトナビルの投与量は同じですが、抗ウイルス薬であるニルマトレルビルが300では半分の量になっています。ミチーガ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ネモリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)<在宅自己注射の保険適用日>2023年6月1日<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認したうえで、医師の管理指導のもと実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、ただちに自己投与を中止させ、医師の管理のもと慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。[追加]薬剤交付時の注意患者が家庭で保管する場合は、光曝露を避けるため外箱に入れたまま保存するよう指導すること。<Shimo's eyes>本剤は、4週間の間隔で皮下投与する抗体医薬品のアトピー性皮膚炎治療薬として2022年8月に発売され、2023年6月から在宅自己注射が可能となりました。近年、新しい作用機序のアトピー性皮膚炎治療薬が続々と開発されています。経口薬としては、関節リウマチへの適応から始まったJAK阻害薬、本剤のような抗体医薬品、外用薬ではPDE4阻害薬が発売され、難治性の患者さんにも選択肢が増えています。RA系阻害薬:妊娠禁忌について再度注意喚起<対象薬剤>RA系阻害薬<改訂年月>2023年5月<改訂項目>[新設]妊娠する可能性のある女性、妊婦妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無なども考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、ただちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。妊娠が判明したまたは疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。<Shimo's eyes>RA系阻害薬に関しては、2014年9月に妊婦や妊娠の可能性がある女性には投与しないこと、投与中に妊娠が判明したらただちに中止することなどが注意喚起されていましたが、それ以降も妊娠中のRA系阻害薬投与により、胎児や新生児への影響が疑われる症例(口唇口蓋裂、腎不全、頭蓋骨・肺・腎の形成不全、死亡など)が継続的に報告されていました。医師が妊娠を把握せずにRA系阻害薬を使用していた例が複数存在していたため、RA系阻害作用を有する降圧薬32成分(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)の添付文書改訂が指示されました。

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血圧管理ケアバンドル、脳内出血の機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳内出血の症状発現から数時間以内に、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムとの組み合わせで早期に集中的に降圧治療を行うケアバンドルは、通常ケアと比較して、機能的アウトカムを有意に改善し、重篤な有害事象が少ないことが、中国・四川大学のLu Ma氏らが実施した「INTERACT3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月25日号で報告された。10ヵ国121病院のstepped wedgeクラスター無作為化試験 INTERACT3試験は、早期に集中的に血圧を下げるプロトコールと、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムを組み込んだ目標指向型ケアバンドルの有効性の評価を目的に、10ヵ国(低・中所得国9、高所得国1)の121病院で実施された実践的なエンドポイント盲検stepped wedgeクラスター無作為化試験であり、2017年5月27日~2021年7月8日に参加施設の無作為化が、2017年12月12日~2021年12月31日に患者のスクリーニングが行われた(英国保健省などの助成を受けた)。 参加施設は、ケアバンドルと通常ケアを行う時期が異なる3つのシークエンスに無作為に割り付けられた。各シークエンスは、4つの治療期間から成り、3シークエンスとも1期目は通常ケアが行われ、ケアバンドルはシークエンス1が2~4期目、シークエンス2は3~4期目、シークエンス3は4期目に行われた。 ケアバンドルのプロトコールには、収縮期血圧の早期厳格な降圧(目標値:治療開始から1時間以内に140mmHg未満)、厳格な血糖コントロール(目標値:糖尿病がない場合6.1~7.8mmol/L、糖尿病がある場合7.8~10.0mmol/L)、解熱治療(目標体温:治療開始から1時間以内に37.5°C以下)、ワルファリンによる抗凝固療法(目標値:国際標準化比<1.5)の開始から1時間以内の迅速解除が含まれ、これらの値が異常な場合に実施された。 主要アウトカムは、マスクされた研究者による6ヵ月後の修正Rankin尺度(mRS、0[症状なし]~6[死亡]点)で評価した機能回復であった。6ヵ月以内の死亡、7日以内の退院も良好 7,036例(平均年齢62.0[SD 12.6]歳、女性36.0%、中国人90.3%)が登録され、ケアバンドル群に3,221例、通常ケア群に3,815例が割り付けられ、主要アウトカムのデータはそれぞれ2,892例と3,363例で得られた。 6ヵ月後のmRSスコアは、通常ケア群に比べケアバンドル群で良好で、不良な機能的アウトカムの可能性が有意に低かった(共通オッズ比[OR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.76~0.97、p=0.015)。 ケアバンドル群におけるmRSスコアの良好な変化は、国や患者(年齢、性別など)による追加補正を含む感度分析でも、全般に一致して認められた(共通OR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.017)。 6ヵ月の時点での死亡(p=0.015)および治療開始から7日以内の退院(p=0.034)も、ケアバンドル群で優れ、健康関連QOL(EQ-5D-3Lで評価)ドメインのうち痛み/不快感(p=0.0016)と不安/ふさぎ込み(p=0.046)が、ケアバンドル群で良好だった。 また、通常ケア群に比べケアバンドル群の患者は、重篤な有害事象の頻度が低かった(16.0% vs.20.1%、p=0.0098)。 著者は、「このアプローチは、収縮期血圧140mmHg未満を目標とする早期集中血圧管理を基本戦略とする簡便な目標指向型のケアバンドルプロトコールであり、急性期脳内出血患者の機能的アウトカムを安全かつ効果的に改善した」とまとめ、「この重篤な疾患に対する積極的な管理の一環として、医療施設は本プロトコールを取り入れるべきと考えられる」としている。

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24時間平均血圧および夜間血圧は、診察室血圧よりも優れた総死亡のリスクマーカー なぜ夜間血圧は予後予測能が高いのか? 治療の対象なのか?(解説:石川讓治氏)

 24時間自由行動下モニタリングは、カフ・オシロメトリック法を用いて、上腕で20分間~30分間隔で血圧を自動測定する装置であり、昼間の自由行動下におけるストレス状態や夜間睡眠時の血圧などの、診察室血圧では評価できない時間帯の血圧の情報を得ることができる。地域一般住民および日常診療における多くの研究で、24時間平均血圧、とくに夜間血圧が診察室血圧よりも優れた総死亡や心血管死亡の予測因子であることが報告されてきた。Spanish Ambulatory Blood Pressure Registryは、スペインのプライマリケア医が高血圧の診断や治療のために24時間自由行動下血圧測定を行った患者のデータの登録研究であり、5万9,124例もの患者が平均9.7年間追跡された。このように非常に大きな症例数のデータベースにおいても以前と同様の知見が再確認されたが、追跡期間中に12.1%もの患者が死亡していた。 安定した状況で、繰り返し測定された血圧が、診察室というストレスや不安定な測定環境での回数の少ない血圧よりも、患者の真の血圧値に近いことが、主な理由であると考えられているが、夜間という測定時刻や睡眠というライフサイクルが、夜間血圧の予後予測能の増加に影響を与えているかどうかはわかっていない。夜間(睡眠)の血圧は、年齢、腎機能低下、体液貯留、睡眠の質の影響を受けていることが報告されている。そのため、夜間血圧のリスク増加は、夜間(睡眠)中の血圧に影響を与える上記の背景因子が重要である可能性が示唆されている。 夜間血圧をターゲットにした降圧治療は必要なのであろうか? スペインおよび日本の2つのグループから、就寝前の降圧薬投与によって夜間血圧をターゲットにした降圧治療を行うことの有効性が報告され、わが国においても就寝前に降圧薬が処方されている患者が多く認められる。近年、欧米を中心とした多施設共同研究において、降圧薬の朝食後内服と就寝前内服の比較試験が追試され、その結果、長時間作用型の降圧薬は、朝食後と就寝前のいずれに投与しても、予後には有意差が認められなかったことが報告された。降圧薬は朝食後に飲んでも就寝前に内服しても大きな差がないから、睡眠前に処方すると主張する意見もあるが、従来通りの朝1回の内服のほうが服薬アドヒアランスもよいものと思われる。朝食後に降圧薬を投薬した場合も、長時間作用型の降圧薬であれば、夜間血圧は投与開始前の血圧レベルに依存して低下することが報告されている。そのため、夜間高血圧はその背景となる因子への介入のほうが有用に思われた。 24時間平均血圧、とくに夜間(睡眠)中の血圧は、診察室血圧より優れた総死亡、心血管死亡のリスクマーカーであることは本研究を含む多くの研究で一貫して示されているが、その機序や夜間血圧を指標とした血圧コントロールを行うべきかどうかといった問題に関しては、今後のエビデンスの積み重ねが必要であると思われた。

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降圧薬による血圧低下度に薬剤差、個人差があるのか?(解説:石川讓治氏)

 降圧薬の投与によって速やかに降圧目標に達することで、投与開始後早期の患者の心血管イベント抑制につながると考えられている。そのため、それぞれの患者に最も有効な降圧薬を選択していくことが重要である。 本研究は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル20mg)、アンジオテンシンII受容体阻害薬(カンデサルタン16mg)、サイアザイド利尿薬(ハイドロクロロサイアザイド25mg)、カルシウムチャンネル阻害薬(アムロジピン10mg)の4種類の降圧薬をクロスオーバーデザインで繰り返し投与し、降圧度の薬剤差、個人差を検討している。ダブルブラインドではあるが、1例の患者が繰り返しこれらの薬剤を内服したり中止したりするプロトコールであり、参加に同意した患者および医師の大変さが想像された。結果として薬剤間で最大4.4mmHgの収縮期血圧の低下度に差が認められたことが報告された。 降圧の効果に患者間で差があることは重要であるが、本研究の降圧投与量は我が国の最大投与量に近い。血圧低下度の差は設定投与量の差でもあり、日常臨床では4.4mmHg程度の差は投与量の増減で調整すればいいのではないかと感じる。本研究においては、どういった特徴の患者において各降圧薬の降圧度がより大きかったのかといったことは示されていないが、日常臨床においてはそういった情報のほうがより重要に思われた。 英国のNICEガイドランにおいては、年齢によって、カルシウムチャンネル阻害薬と、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体阻害薬のどちらを第一選択にするのかを規定している。プライマリケア医においては、このような明確な指標のほうが有用に思われる。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにおいては、4つの種類の降圧薬を医師の判断で第一選択薬として選択可能になっているが、英国同様にプライマリケア医に対するより簡便な指針も検討する時期が来たのかもしれない。また、欧米のガイドラインにおいては、降圧薬間の降圧度の差を考慮し、速やかに降圧目標に到達する目的で、第一選択薬として合剤を使用する基準が記載されている。わが国においては、そういったガイドラインの記載はなく、今後の検討が必要である。

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5月17日 高血圧の日【今日は何の日?】

【5月17日 高血圧の日】〔由来〕日常的な血圧測定や定期健診を促すことで、高血圧による疾病リスクを低減するために「世界高血圧デー」に准じ、2007年に日本高血圧学会と日本高血圧協会によって制定された。また、毎月17日は、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐために「減塩の日」として諸活動を行っている。関連コンテンツ降圧目標【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧:脳心血管疾患の危険因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】体重増加は糖尿病や高血圧のリスク【患者説明用スライド】降圧薬使用とアルツハイマー病との関連~メタ解析

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地域医療提供者による集中的な血圧介入は有用か?(解説:三浦伸一郎氏)

 わが国の高血圧有病者は4,300万人であり、治療中・コントロール良好な患者はわずか27%である一方、未治療・認知なしが33%、未治療・認知ありは11%も存在し、いまだに十分な心血管疾患の発症抑制にはつながっていないのが現状である。わが国は世界的に見ても、国民皆保険制度が確立し医師数も比較的多いが、医療制度が未熟な国々は多く存在し医師数も不足している。そのような国々では、医師以外の地域医療提供者の存在が欠かせない。  今回、He氏らは、Lancet誌にCRHCP Study Groupによる興味深い報告を発表した1)。医師以外の地域医療提供者主導による集中的な血圧介入が通常のケアと比較して、高血圧患者の心血管疾患および全死亡リスクを抑制するかを検討した、非盲検、エンドポイント盲検、クラスター無作為化臨床試験である。 介入群では、訓練を受けた非医師の地域医療提供者が降圧薬を開始し、簡単な段階的ケアプロトコルに従って漸増していた。その結果、介入群では、主要評価項目の心筋梗塞、脳卒中、入院を必要とする心不全、および心血管疾患による死亡の複合エンドポイントが、通常ケア群に比し有意に抑制されていた。この有用な抑制効果と共に、低血圧発症率が通常のケア群よりも介入群のほうで高かったが、低血圧による症状発現率に有意差はなく、安全性もある程度担保された結果となっていた。  今回の結果は、医療が十分に行き届いていない世界の国々において、いかに血圧を管理・治療し心血管疾患の発症抑制の方策を推進すべきかに、1つの戦略をもたらした。また、現在、わが国では遠隔医療を推進しており、地域への医療提供体制をさらに整えようとしている。オンライン診療において、医師‐患者(D to P)では情報不足となり、安全性の高いD to P with N(看護師)、D to P with H(ヘルパー)といったことを進めていく場合の参考にもなると思われる。今回のLancet誌への報告は、医師以外の地域医療提供者の活躍の可能性を広げた点において非常に興味深い結果であった。

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最適な降圧薬は人によって異なるのか/JAMA

 高血圧患者における最適な降圧療法は個人によって異なるか、個別に目標を定めた降圧療法は有益性を最大化できるかという問いには、いまだ明確な解答は得られていないという。スウェーデン・ウプサラ大学のJohan Sundstrom氏らは「PHYSIC試験」において、高血圧に対する4つの異なるクラスの降圧薬による単剤療法の血圧反応にはかなりの異質性があり、これは高血圧治療における個別化治療の進展の可能性を示唆するものであることを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年4月11日号に掲載された。スウェーデンの無作為化反復クロスオーバー試験 PHYSIC試験は、いくつかの降圧薬による治療を反復することで、患者内および患者間の血圧反応の差を定量化するようデザインされた二重盲検無作為化反復クロスオーバー試験であり、2017年2月~2020年5月の期間に、ウプサラ大学病院内科の外来研究クリニックで参加者のスクリーニングが行われた(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 対象は、年齢40~75歳の男女で、試験開始前の5年以内にI度高血圧(収縮期血圧[SBP]140~159mmHg)と診断され、未治療または1剤による降圧治療を受けており、試験期間中に降圧治療の中止が可能な患者であった。混合効果モデルを用いて、1つの治療が他の治療よりも、どの程度効果が高いかを評価し、個別化治療によって達成可能な付加的な血圧の低下量を推定した。 被験者は、4つのクラスの降圧薬(リシノプリル[ACE阻害薬]、カンデサルタン[ARB]、ヒドロクロロチアジド[サイアザイド系利尿薬]、アムロジピン[Caチャネル拮抗薬])の投与を受ける群に無作為に割り付けられ、2つのクラスの薬剤による反復治療が行われた。1剤の投与期間は7~9週で、6期間の治療が実施された。 主要アウトカムは、各治療期間終了時における日中の外来SBPであった。個別化によりSBPがさらに4.4mmHg低下の可能性 280例(平均年齢64歳、男性54.3%)が無作為化の対象となり、合計1,680回の治療が行われた。このうち270例における1,468回の治療(治療期間中央値56日)が主解析に含まれた。高血圧の平均罹患期間は3年、62.1%が降圧薬単剤療法の治療歴があり、平均診察室血圧は154/89mmHgだった。 初回治療期間終了時の平均SBPは、ヒドロクロロチアジド(136.1[SD 10.3]mmHg)が他の薬剤に比べて高く、アムロジピン(130.9[8.6]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも、カンデサルタン(131.8[12.8]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも高かった。 個々の治療に対する血圧反応は、患者間でかなり異なっていた(p<0.001)。血圧反応の差は、とくにリシノプリルとヒドロクロロチアジド(p<0.001)、リシノプリルとアムロジピン(p<0.001)、カンデサルタンとヒドロクロロチアジド(p=0.03)、カンデサルタンとアムロジピン(p<0.001)の間で顕著であった。 一方、リシノプリルとカンデサルタン(p=0.46)、ヒドロクロロチアジドとアムロジピン(p=0.10)には大きな差はなかった。 また、降圧薬を固定した場合と比較して、個別化治療により個々の患者にとって最良の降圧薬を選択すると、SBPをさらに平均4.4mmHg低下させる可能性が示された。 著者は、「これらの知見は、個別化治療の可能性を示唆するものである。今後、複数の降圧薬による治療の個別化の可能性を検証し、日常臨床において降圧療法の個別化を可能にするメカニズムを解明するための研究を進める必要がある」としている。

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HFpEF診療はどうすれば…?(後編)【心不全診療Up to Date】第7回

第7回 HFpEF診療はどうすれば…?(後編)Key Points簡便なHFpEF診断スコアで、まずはHFpEFの可能性を評価しよう!HFpEF治療、今できることを整理整頓、明日から実践!HFpEF治療の未来は、明るい?はじめに近年、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)は病態生理の理解、診断アプローチ、効果的な新しい治療法の進歩があるにもかかわらず、日常診療においてまだ十分に認識されていない。そのような現状であることから、前回はまず最新の定義、病態生理についてレビューした。そして、今回は、その後編として、HFpEFの診断、そして治療に関して、最新情報を含めながら皆さまと共有したい。 HFpEFの診断スコアってご存じですか?呼吸苦や倦怠感などの心不全徴候を認め、EF≥50%でうっ血を示唆する客観的証拠を認めた場合、HFpEFと診断される1)。そのため、エコーでの拡張障害の評価はHFpEFを診断する上では必要がなく、またNa利尿ペプチド(NP)値が正常であっても、HFpEFを除外することはできないと前回説明した。では、具体的にどのようにして診断を進めていくとよいか、図1を基に考えていこう。(図1)HFpEFが疑われる患者を評価するためのアプローチ方法画像を拡大するまず、原因不明の労作時息切れを主訴に来院された患者に対して、病歴、身体所見、心エコー検査、臨床検査などからHFpEFである可能性を検討するわけであるが、その際に大変参考になるのが、診断のためのスコアリングシステムである。たとえば、米国で開発されたH2FPEFスコアでは、スコア5点以上であれば、HFpEFが強く疑われ(>80% probability)、1点以下であれば、ほぼ除外できる2)。ただし、NP値上昇や心不全徴候を認めるにも関わらず、H2FPEFスコアが低い場合は、アミロイドーシスやサルコイドーシスのような浸潤性心筋症など非典型的なHFpEFの原因疾患を疑う姿勢が重要である点も強調しておきたい(図2)。(図2)HFpEFを発症し得る治療可能な疾患画像を拡大するこれらのスコア算出の結果、HFpEFの可能性が中程度の患者に対しては、運動負荷検査が推奨される。運動負荷検査には、心エコー検査と右心カテーテル検査があるが、診断のゴールドスタンダードは、右心カテーテル検査による安静時および運動時の血行動態評価であり、安静時PAWP≥15mmHgもしくは労作時PAWP≥25mmHg(spine)、もしくは労作時PAWP/心拍出量slope>2mmHg/L/min(upright)を満たせば、HFpEFと診断できる3)。ただ、侵襲的な運動負荷検査は、どの施設でも気軽にできるものではなく、受動的下肢挙上や容量負荷といった代替的な検査法の有用性に関する報告もある4-6)。とくに心エコー検査にて下肢挙上後の左房リザーバーストレインの低下は、運動耐容能の低下とも関連していたという報告もあり、非侵襲的であることから一度は施行すべき検査手法と考えられる7)。なお、脈拍応答不全の診断については、Heart rate reserve([最大心拍数-安静時心拍数]/[220-年齢-安静時心拍数])を算出し、0.8未満(β遮断薬内服時は0.62未満)であれば、脈拍応答不全あり、と一般的に定義される8)。なお、私自身も現在、HFpEF早期診断のためのウェアラブルデバイス開発に取り組んでいるが、今後はより非侵襲的に診断できるようになることが切望される。そして、HFpEFであると診断した後、まず考えるべきことは『原因は何だろうか?』ということである。なぜなら、その鑑別疾患の中には治療法が存在するものもあるからである(図2)。アミロイドーシスを疑うような手根管症候群や脊柱管狭窄症を示唆する身体所見はないか、頚静脈もしっかり観察してKussmaul徴候はないか、心エコーにて中隔変動(septal bounce)や肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波はないか、スペックルトラッキングエコーによる左室長軸方向ストレイン(GLS, global longitudinal strain)のbullseye mapに特徴的なパターンがないか…など、ぜひご確認いただきたい9)。HFpEF治療の今、そして今後は?かかりつけ医の先生方にもご承知いただきたいHFpEF治療の流れを図でまとめたので、これを基にHFpEF治療の今を説明する(図3)。(図3)HFpEF治療 2023画像を拡大するHFpEFの診断が確定し、図2に記載してあるような疾患を除外した上で、まず考慮すべき処方は、SGLT2阻害薬である。なぜなら、EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験において、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンおよびダパグリフロジンが、EF>40%の心不全患者において、主要エンドポイントである心不全入院または心血管死が20%減少することが示されたからである(ただし、eGFR<20mL/min/1.73m2、1型糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシスの既往がある場合は避ける。そのほかSGLT2阻害薬使用時の注意事項は、「第3回 SGLT2阻害薬」を参照)10, 11)。そして、それと同時に身体所見、臨床検査、画像検査などマルチモダリティを活用して体液貯留の有無を評価し、体液貯留があれば、ループ利尿薬や利水剤(五苓散、牛車腎気丸、木防已湯など)を使用し12)、TOPCAT試験の結果から心不全入院抑制効果が期待され、薬価が安いMR拮抗薬の投与をできれば考慮いただきたい13)。とくにカリウム製剤が投与されている患者では、それをMR拮抗薬へ変更すべきであろう。そして、忘れてはならないのが、併存疾患に対するマネージメントである。高血圧があれば、130/80mmHg未満を達成するように降圧薬(ARB、ARNiなど)を投与し、鉄欠乏性貧血(transferrin saturation<20%など)があれば、骨格筋など末梢の機能障害へのメリットを期待して鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄[商品名:フェインジェクト])の静注投与を検討する。そのほか、肥満、心房細動、糖尿病、冠動脈疾患、慢性腎臓病、COPD、睡眠時無呼吸症候群などに対してもガイドライン推奨の治療をしっかり行うことが重要である。(表1)画像を拡大するそれでも心不全症状が残存し、EFが55~60%未満とやや低下しており、収縮期血圧が110~120mmHg以上ある患者に対しては、ARNiの追加投与を検討する(詳細は第4回 「ARNi」を参照)。なお、HFrEFにおいて必要不可欠なβ遮断薬については、虚血性心疾患や心房細動がなければ、HFpEFに対しては原則投与しないほうが良い。なぜなら、HFpEFでは運動時に脈拍を早くできない脈拍応答不全の合併が多く、投与されていたβ遮断薬を中止することで、peak VO2が短期で大幅に改善したという報告もあるからである14)。なお、脈拍応答不全に対して右房ペーシングにより運動時の心拍数を上げることで運動耐容能が改善するかを検証した試験の結果が最近公表されたが、結果はネガティブで、現時点では脈拍応答不全に対して、心拍数を落とす薬剤を中止する以外に明らかな治療法はなく、今後さらに議論されるべき課題である15)。これらの治療以外にも、mRNA医薬、炎症をターゲットとした薬剤、代謝調整薬(ATP産生調整など)といった、さまざまなHFpEF治療薬の開発が現在進められている16)。また、近年HFpEFは、肥満や座りがちな生活と密接に結びついた運動不耐性の原因としても着目されており、心不全患者教育、心臓リハビリテーションもエビデンスのあるきわめて重要な治療介入であることも忘れてはならない17, 18)。最近は大変ありがたいことに心不全手帳(第3版)が心不全学会サイトでも公開されており、ぜひ活用いただきたい(http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)。非薬物治療に関しても、今まで欧米を中心に多くの研究が実施されてきた。例えば、症候性心不全患者に対する肺動脈圧モニタリングデバイスガイド下の治療効果を検証したCHAMPION試験のサブ解析において、肺動脈モニタリングデバイス(商品名:CardioMEMS HF System)を使用することで、HFpEF患者において標準治療よりも心不全入院が50%減少し、心不全管理における有用性が報告されている(本邦では未承認)19)。また、HFpEF(EF≥40%)に対する心房シャントデバイス(商品名:Corvia)治療の効果を検証したREDUCE LAP-HF II試験の結果もすでに公表されている20)。心血管死、脳卒中、心不全イベント、QOLを含めた主要評価項目において、心房シャントデバイスの有効性を示すことができなかったが、本試験では全患者に対して運動負荷右心カテーテル検査を実施しており、ポストホック解析において、運動時肺血管抵抗(PVR, pulmonary vascular resistance)が上昇しなかった群(PVR≤1.74 Wood units)では臨床的便益が得られる可能性が見いだされ21)、この群にターゲットを絞ったレスポンダー試験が現在進行中である。また、血液分布異常を改善させるための右大内臓神経アブレーション(GSN ablation)の有効性を検証するREBALANCE-HF試験も現在進行中であるが、非盲検ロールイン段階における予備的解析では、運動時の左室充満圧とQOL改善効果が認められたことが報告されており22)、今後本解析(sham-controlled, blinded trial)の結果が期待される。そのほかにも多くのHFpEF患者を対象とした臨床試験、橋渡し研究が進行中であり(表2)、これらの結果も大変期待される。(表2)HFpEFについて進行中の臨床試験 画像を拡大する以上HFpEF治療についてまとめてきたが、現時点ではHFpEFの予後を改善する治療法はまだ確立しておらず、さらに一歩進んだ治療法の確立が喫緊の課題である。つまり、HFpEFのさらなる病態生理の解明、非侵襲的に診断するための技術開発、個別化治療に結びつくフェノタイピング戦略を活用した新たな次世代の革新的研究が必要であり、その実現に向けて、前回紹介した米国HeartShare研究など、現在世界各国の研究者が本気で取り組んでいるところである。ただ、それまでにわれわれにできることも、図3の通り、しっかりある。ぜひ、目の前の患者さんに今できることを実践していただき、またかかりつけ医の先生方からも循環器専門施設の先生方へフィードバックいただきながら、医療従事者皆が一眼となってより良いHFpEF治療をわが国でも更新し続けていければと強く思う。1)Borlaug BA, et al. Nat Rev Cardiol 2020;17:559-573.2)Reddy YNV, et al. Circulation. 2018;138:861-870.3)Eisman AS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004750.4)D'Alto M, et al. Chest. 2021;159:791-797.5)Obokata M, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2013;6:749-758.6)van de Bovenkamp AA, et al. Circ Heart Fail. 2022;15:e008935.7)Patel RB, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:245-257.8)Azarbal B, et al. J Am Coll Cardiol 2004;44:423-430.9)Marwick TH, et al. JAMA Cardiol. 2019;4:287-294.10)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.13)Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392.14)Palau P, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:2042-2056. 15)Reddy YNV, et al. JAMA;2023:329:801-809.16)Pugliese NR, et al. Cardiovasc Res. 2022;118:3536-3555.17)Kamiya K, et al. Circ Heart Fail. 2020;13:e006798.18)Bozkurt B, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;77:1454-1469.19)Adamson PB, et al. Circ Heart Fail. 2014;7:935-944.20)Shah SJ, et al. Lancet. 2022;399:1130-1140. 21)Borlaug BA, et al. Circulation. 2022;145:1592-1604.22)Fudim M, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:1410-1414.

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ICIの継続判断にも有用、日本初のOnco-cardiologyガイドライン発刊

 本邦初となる『Onco-cardiologyガイドライン』が第87回日本循環器学会学術集会の開催に合わせて3月10日に発刊された。これまで欧州ではESC(European Society of Cardiology、欧州心臓病学会)などがガイドラインを作成・改訂しており、国内でもガイドライン発刊が切望されていたことから、日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働しMindsに準拠したものを作成した。今回、学術集会の会長企画シンポジウム6「OncoCardiology:診断と治療Up-to-Date」において、Onco-cardiologyガイドラインのポイントについて発表された。Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題10項目を選定 Onco-cardiologyガイドラインの目的は、(1)がん診療において心機能を正確に評価し、心血管疾患を適切に管理すること、(2)がん治療を中断することなく可能な限り継続することで、本ガイドラインの利用によってがん患者の全生存率とQOL改善が期待される。 Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題を以下のように10項目を選定し、がん患者が薬物治療を行う過程からその後のがん治療関連心血管毒性(静脈血栓塞栓症、肺高血圧症、心不全)発現時の対応方法に関するquestionが盛り込まれている(p.9 総説1-9参照)。<重要臨床課題>1)がん薬物療法中の心機能のモニター2)心血管イベントを発症した患者に対する薬物療法の選択3)トラスツズマブのマネジメント4)血管新生阻害薬のマネジメント5)プロテアソーム阻害薬のマネジメント6)免疫チェックポイント阻害薬のマネジメント7)がん薬物療法における静脈血栓塞栓症のマネジメント8)がん薬物療法における肺高血圧症のマネジメント9)心毒性を有するがん薬物療法のマネジメント10)がん薬物療法における心血管イベントの予防 上記の2)を担当した矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科 診療部長/教授)は、「がん薬物療法中の心血管イベントを理由にがん薬物療法を中止することは再発率の増加や全生存期間の短縮につながることから、『Background question(BQ)2:がん薬物療法中に心血管イベントを発症した患者に対して、がん薬物療法を継続することは推奨されるか?』を設定した」とコメント。また、「欧米のガイドラインと比較して、Onco-cardiologyガイドラインはエビデンスのあるquestionはシステマティックレビューを行いCQとしたが、エビデンスのないquestionはBQまたはfuture research question(FRQ)にした点に注目してほしい」と述べ、「がん薬物療法が有効でかつ治療継続が可能と判断できる場合は、モニタリングと対症療法を行いながらがん治療の継続を検討する。治療継続が困難な場合は代替療法について検討することをこのBQのステートメントにした」と説明した。Onco-cardiologyガイドラインにICIと心筋炎の関係性 Onco-cardiologyガイドラインで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と心筋炎の関係性について解説した庄司 正昭氏(国立がん研究センター中央病院総合内科・循環器内科)は、「ICIによる心筋炎は直接的なものと間接的なものがあるが、いずれもスクリーニングにはトロポニンや心電図などが重要」と話し、「トロポニンはICI心筋炎患者の94%で上昇を認めたが、トロポニンが上昇しても臨床的な心筋障害を認めないケースも報告されている。また、心電図異常はICI心筋炎患者の89%で認められた1)」と述べた(FRQ6-1:ICI投与中の心筋障害診断のスクリーニングは有用か?)。 さらに、心筋障害発生時のステロイドの使用(BQ6-2:ICIによる心筋障害発生時、その治療としてステロイド療法は有用か?)について、「使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないが有用な可能性があるため、ステロイドを選択しない手はない」とコメントし、座長ならびに演者を務めた阿部 純一氏(MDアンダーソンがんセンター 教授)からの“ICIで発症リスクの高い虚血性心疾患との鑑別”に関する問い対して、同氏は「虚血性心疾患では胸痛などの症状が見られることから、それらの患者の訴えにしっかり耳を傾けることがスクリーニング検査とともに重要」と回答した。Onco-cardiologyガイドラインにがん患者の高血圧治療 高血圧の視点からOnco-cardiologyについて解説した赤澤 宏氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科)によると、がん患者における高血圧の管理や治療に関するエビデンスがほとんどない状況だという。実際に、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では『第7章:他疾患を合併する高血圧』にも項目立てられておらず、『第13章:二次性高血圧-薬剤誘発性高血圧 4)その他』の1つとして、がん分子標的薬、主として血管新生阻害薬(抗VEGF抗体医薬あるいは複数のキナーゼに対する阻害薬など)により高血圧が誘発される。発症率については薬剤、腫瘍の種類などにより異なるが、これらの薬剤使用時には血圧変化に注意する。通常の降圧薬を用いた治療を行うと、ESCのポジションペーパー同様の記載がなされている。このような現状を踏まえ、「JSH2025年改訂版には腫瘍循環器としてのCQを提案していきたい」と意気込んだ。なお、Onco-cardiologyガイドラインでは、『BQ4:血管新生阻害薬投与中の患者に対し、血圧管理が必要か?』が設定されており、血管新生阻害薬投与中の患者においても、非がん患者と同等の血圧コントロールをすることが望ましく、「がん患者における高血圧治療のエビデンスは乏しく、降圧治療の適応や強度は、がんの治療内容や予後、パフォーマンスステイタス、年齢や併存疾患、臓器障害、脳心血管リスクなどのさまざまな背景を考慮して、個別に対応する必要がある」と強く訴えた。

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高齢者へのDOAC、本当に減量・中止すべき患者とは/日本循環器学会

 高齢者の心房細動治療において、つい抗凝固薬を減量してしまいがちだが、それは本当に正しいのだろうか。今回、小田倉 弘典氏(土橋内科医院)が『心房細動抗凝固薬(アブレーションを望まない高齢のPAFなど)』と題し、第87回日本循環器学会学術集会のセッション「クリニックで選択されるべき循環器治療薬~Beyond guideline~」にて、高齢者心房細動の薬物療法における注意点を発表した。 小田倉氏はまず、以下の高齢者の症例を提示し、実際に直接経口抗凝固薬(DOAC)を処方するかどうか、またその際に減量するか否かについて問題提起した。高齢者へのDOAC減量と出血リスクの管理<症例>●年齢・性別:82歳・男性、体重:64kg、クレアチニンクリアランス(CCr):52 mL/min(血清クレアチニン[Cr]:1.0mg/dL)●主訴:ある日、脈をとったら不整で、心電図で心房細動と診断された。●服用歴:降圧薬、認知症治療薬、前立腺肥大症治療薬など6種類●患者背景:要介護2。トイレ歩行は可能だが受診時は車いす。転倒歴あり。長男夫婦と3人暮らしだが、日中は1人のことが多い。●CHADS2スコア:3点、HAS-BLEDスコア:1点 上記の高齢者の症例について、「DOAC各薬剤の添付文書にある減量基準、たとえば、アピキサバンは(1)80歳以上、(2)60kg以下、(3)Cr 1.5mg/dL以上のうち2つ以上が、エドキサバンは(1)60kg以下、(2)CCr 15~50、(3)P糖蛋白阻害薬服用のうち1つ以上が該当する場合にそれに当たるが、いずれにも該当していないので、この患者の場合、該当項目を見る限りでは処方可能であり、減量する必要もない」とコメント。 しかし、実際には高齢というだけでDOACの減量基準を満たさずとも減量する例が散見される。クリニックの患者が主体となった日本の高齢者心房細動に対する抗凝固薬療法に関する2つの試験からもその状況が見て取れる。・ANAFIEレジストリ1):3万2,275例(平均年齢81.5歳[85歳以上が26.1%]、経口抗凝固薬の服用:92.4%、ワルファリンTTR :75.5%、発作性心房細動:42%、認知症:7.8%[通院・在宅患者])ではunder-doseが16.8%、未承認低用量が3.7%。 ・GENERAL研究2):5,717例(平均年齢73.9歳、経口抗凝固薬の服用:100%、フレイル[要介護]:12.1%、認知症治療薬の併用:5.9%)ではunder-doseが27.3%。 では、実臨床で高齢者(75歳以上)に対しDOACをunder-doseする理由とは何か。35.8%でunder-doseを認め、脳卒中/全身性塞栓症が有意に多かったXAPASS study3)の結果によると「処方医は通常用量による出血リスクを最も懸念し、続いて高齢、腎機能低下を意識していた。一方、低体重や併用薬剤を選んだ者は少なかった」とコメント。 ところが、75歳以上の日本人で非弁膜症性心房細動患者を対象としたJ-ELD AF試験4)によれば、アピキサバン5mg/日(低用量)群と同薬10mg/日(通常用量)群に割り付け、脳卒中または全身性塞栓症、入院を要する出血について評価したところ、いずれの発生率も有意差が得られなかった。ただし、サブ解析で出血イベントの発生とアピキサバンの血中濃度の関係性を調べたところ、低用量群では血中濃度が高い(トラフ中央値:86ng/dL)群で出血性イベントが有意に多かった。その原因は明らかではないが、「減量基準以外のunknown factorsの存在が示唆される」と同氏は指摘した。DOAC減量基準を満たした患者の出血リスクに注力を これらの報告を踏まえ、同氏は「DOACの減量基準に該当しなければ用量を守り、減量基準を満たす患者は減量したうえで、いかに出血の関連リスクを減らせるかを考えることが重要」と述べ、「その関連リスクはDOAC減量基準やHAS-BLEDスコアに記載がないものにも注意を払う必要があり、改善可能なソフトプロブレム(上記unknown factorsにおおむね相当)と改善困難なハードプロブレムに分類できる。前者にはポリファーマシー(抗凝固薬と併用注意の薬剤を確認)、フレイル(転倒頻度や低体重を考慮)、認知症(服薬アドヒアランスを確認)、高血圧(外来での血圧130/80mmHg目標)が該当し、後者には腎機能低下や出血の既往があるだろう。後者では低用量投与を前提とし、2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン5)に従い、腎機能チェックの採血をCCr<60mL/minの患者では少なくともXヵ月(X=CCr/10)に1回実施すれば、リスク回避につながる」と対策を講じた。DOACの中止を考えるタイミング また、とくに高齢者ではDOAC中止を考える場面は多いが、具体的には以下が挙げられた。・出血したとき →出血の制御ができないような大腸憩室炎、蜂窩織炎などの既往歴がある場合 →生活面に支障を来すような重い後遺症が残る可能性のある場合・出血以外の副作用が出たとき・腎機能が低下してきたとき・アドヒアランス不良のとき・フレイル(要介護度)が進行した(寝たきりになった)とき 最後に同氏は「併存疾患の有無や身体機能レベルが個々で大きく異なるにもかかわらず、そもそも高齢者を1つのカテゴリーとして捉えることは不可能であり、多様な視点からのカテゴライズが必要となる。言うならば、“科学”と“生活”の両面からのアプローチが必要なのであり、それにはゴールはないため、考え続けることが重要である」と締めくくった。

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医師以外の医療従事者による厳格降圧、地域住民のCVDを低減/Lancet

 高血圧患者における心血管疾患の予防では、医師以外の地域医療従事者による厳格降圧治療は標準降圧治療と比較して、降圧効果が高く、心血管疾患や死亡の抑制に有効であることが、米国・Tulane University School of Public Health and Tropical MedicineのJiang He氏らが実施した「CRHCP試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月2日号で報告された。中国の326村落でクラスター無作為化試験 CRHCPは、中国の非盲検エンドポイント盲検化クラスター無作為化試験であり、2018年5月~11月にクラスターとして326の村落が登録された(中国科学技術部などの助成を受けた)。 対象は、年齢40歳以上、未治療の場合は収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHgの患者、心血管疾患のリスクが高い場合や、降圧治療を受けている場合は、収縮期血圧≧130mmHg、拡張期血圧≧80mmHgの患者であった。 326の村落は、非医師の地域医療従事者が厳格降圧治療を行う群(163村落)、または標準降圧治療を行う群(163村落)に無作為に割り付けられた。 厳格降圧群では、訓練を受けた非医師の地域医療従事者が、プライマリケア医の指導の下で、収縮期血圧<130mmHg、拡張期血圧<80mmHgの達成を目標に、簡略な段階的治療プロトコルに従って降圧治療を開始し、薬剤の用量を漸増した。また、降圧薬を割引または無料で提供したり、生活様式の改善や家庭での血圧測定、服薬アドヒアランスなどについて指導を行った。 標準降圧群では、非医師の地域医療従事者は標準的な血圧測定の訓練を受けたが、プロトコルに基づく血圧管理の訓練は受けず、非医師の地域医療従事者またはプライマリケア医が標準治療を行った。 有効性の主要アウトカムは、36ヵ月の時点における心筋梗塞、脳卒中、入院を要する心不全、心血管疾患による死亡の複合とされた。重篤な有害事象は少ないが、低血圧の発生が増加 3万3,995例が登録され、厳格降圧群が1万7,407例、標準降圧群は1万6,588例であった。ベースラインの全体の平均年齢は63.0歳で、61.3%が女性であり、20.9%が自己申告による心血管疾患の既往歴を有しており、57.6%が降圧薬の投与を受けていた。 厳格降圧群では、収縮期血圧がベースラインの平均157.0mmHgから36ヵ月後には126.1mmHgへ低下し、拡張期血圧は87.9mmHgから73.1mmHgへと低下した。また、標準降圧群では、それぞれ155.4mmHgから147.6mmHgへ、87.2mmHgから82.3mmHgへと低下した。 36ヵ月の時点における降圧の正味の群間差は、収縮期血圧が-23.1mmHg(95%信頼区間[CI]:-24.4~-21.9)、拡張期血圧は-9.9mmHg(95%CI:-10.6~-9.3)であり、いずれも厳格降圧群で降圧効果が有意に優れた(いずれも、p<0.0001)。使用された降圧薬の種類の数は、平均で厳格降圧群が3.1種、標準降圧群は1.1種だった。 主要アウトカムの年間発生率は、厳格降圧群が1.62%と、標準降圧群の2.40%に比べて有意に低かった(ハザード比[HR]:0.67、95%CI:0.61~0.73、p<0.0001)。サブグループ解析では、主要アウトカムのリスク低下は年齢や性別、学歴、ベースラインの降圧薬使用の有無、心血管疾患リスクの高さにかかわらず、一貫して厳格降圧群で優れた。 副次アウトカムも厳格降圧群で良好であり、心筋梗塞(厳格降圧群0.2%/年vs.標準降圧群0.3%/年、HR:0.77[95%CI:0.60~0.98]、p=0.037)、脳卒中(1.3% vs.1.9%、0.66[0.60~0.73]、p<0.0001)、心不全(0.1% vs.0.2%、0.58[0.42~0.81]、p=0.0016)、心血管疾患による死亡(0.4% vs.0.6%、0.70[0.58~0.83]、p<0.0001)、全死因死亡(1.4% vs.1.6%、0.85[0.76~0.95]、p=0.0037)の発生率は、いずれも厳格降圧群で低かった。 重篤な有害事象は、厳格降圧群が21.1%、標準降圧群は24.1%で発生した(リスク比:0.88[95%CI:0.84~0.91]、p<0.0001)。低血圧の発生率は、厳格降圧群が標準降圧群に比べて高かった(1.75% vs.0.89%、1.96[1.62~2.39]、p<0.0001)。 著者は、「この医師以外の地域医療従事者の主導による戦略は、中国の農村部などの医療資源が乏しい環境において血圧関連の心血管疾患や全死因死亡を減少させるために、その規模の拡大が可能と考えられる」としている。

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日本人の認知症リスクに対する喫煙、肥満、高血圧、糖尿病の影響

 心血管リスク因子が認知症発症に及ぼす年齢や性別の影響は、十分に評価されていない。大阪大学の田中 麻理氏らは、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病が認知症リスクに及ぼす影響を調査した。その結果、認知症を予防するためには、男性では喫煙、高血圧、女性では喫煙、高血圧、糖尿病の心血管リスク因子のマネジメントが必要となる可能性が示唆された。Environmental Health and Preventive Medicine誌2023年号の報告。 対象は、ベースライン時(2008~13年)に認知症を発症していない40~74歳の日本人2万5,029人(男性:1万134人、女性:1万4,895人)。ベースライン時の喫煙(喫煙歴または現在の喫煙状況)、肥満(過体重:BMI 25kg/m2以上、肥満:BMI 30kg/m2以上)、高血圧(SBP140mmHg以上、DBP90mmHg以上または降圧薬使用)、糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上、非空腹時血糖200mg/dL以上、HbA1c[NGSP値]6.5%以上または血糖降下薬使用)の状況を評価した。認知機能障害は、介護保険総合データベースに基づき要介護1以上および認知症高齢者の日常生活自立度IIa以上と定義した。心血管リスク因子に応じた認知症予防のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox比例回帰モデルを用いて推定し、集団寄与危険割合(PAF)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.1年の間に認知症を発症した人は、1,322例(男性:606例、女性:716例)であった。・現在の喫煙および高血圧は、男女ともに認知機能障害の高リスクと関連していたが、過体重または肥満は男女ともに認知機能障害のリスクと関連が認められなかった。・糖尿病は、女性のみで認知機能障害の高リスクと関連していた(p for sex interaction=0.04)。・有意なPAFは、男性では喫煙(13%)、高血圧(14%)、女性では喫煙(3%)、高血圧(12%)、糖尿病(5%)であった。・有意なリスク因子の合計PAFは、男性で28%、女性で20%であった。・年齢層別化による解析では、男性では中年期(40~64歳)の高血圧、女性では老年期(65~74歳)の糖尿病は、認知機能障害のリスク増加と関連していた。

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冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会

 『2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン』が第87回日本循環器学会年次集会の開催に合わせ発刊され、委員会セッション(ガイドライン部会)において、藤吉 朗氏(和歌山県立医科大学医学部衛生学講座 教授)が各章の改訂点や課題について発表した。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは全5章構成 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会をはじめとする全11学会の協力のもと、これまでの『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)』を引き継ぐ形で作成された。今回の改訂では、一次予防の特徴を踏まえ「冠動脈疾患とその危険因子(高血圧、脂質、糖尿病など)の診療に関わるすべての医療者をはじめ、産業分野や地域保健の担当者も使用することを想定して作成された。また、2019年以降に策定された各参加学会のガイドライン内容も冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインと整合性のある形で盛り込み、「一般的知識の記述は最小限に、具体的な推奨事項をコンパクトに提供することを目指した」と藤吉氏は解説した。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは全5章で構成され、とくに第2章の高血圧や脂質異常などに関する内容、第3章の高齢者、女性、CKD(慢性腎臓病)などを中心に改訂している。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン全5章のなかで変更点をピックアップしたものを以下に示す。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン第2章の改訂点<高血圧>・『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)に準拠。・血圧の診断については、SBP/DBP(拡張期/収縮期血圧)130~139/80~89mmHg群から循環器疾患リスクが上昇してくるため、その名称を従来の「正常高値血圧」から「高値血圧」とした。また、診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先する。・降圧目標について、75歳以上の高齢者は原則140/90mmHg未満とするが、高齢者でも厳格降圧(130/80mmHg未満)の適応となる併存疾患を有しており、かつ厳格降圧の忍容性ありと判断されれば過降圧に注意しながら130/80mmHg未満を目指すことが記されている。・降圧薬の脳心血管病抑制効果の大部分は、薬剤の特異性よりも降圧の度合いによって規定されている。その点を前提に、降圧薬治療の進め方に関する図を掲載した(p.22 図4)。<脂質異常>・脂質異常は『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)に準拠し、危険因子の包括的評価(p.26 図5)にて、治療方針を決定する(p.23 表8)。・治療すべき脂質の優先順位を明確化した(1:LDL-C、2:non-HDL-C、3:TG/HDL-C)。<糖尿病・肥満>・糖尿病の診断早期から適切な血糖管理・治療が重要で、その理由は、糖尿病診断前のHbA1cが上昇していない耐糖能異常の段階から冠動脈疾患(CAD)リスクが上昇するため。・2型糖尿病の血糖降下薬の特徴が表で明記されている(p.31 表13)。・糖尿病患者においてCADの一次予防を目的としてアスピリンなどの抗血小板薬をルーチンで使用することを推奨しない、とした。これは近年のエビデンスを踏まえた判断であり、以前のガイドラインとは若干異なっている。<運動・身体活動>・運動強度・量を説明するため、身体活動の単位である「METs(メッツ)」や、主観的運動強度の指標である「Borg指数」に関する図表(p.42 表16、図6)を掲載し、日常診療での具体的指標を示した。<喫煙・環境要因、CAD発症時対処に関する患者教育・市民啓発、高尿酸血症とCAD>・禁煙に関する新たなエビデンスを記載し、新型タバコについても触れている。・寒冷や暑熱などの急激な温度変化がCAD誘発リスクを高めること、大気汚染からの防御などに触れている。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン第3章の改訂点・本章はポリファーマシー、フレイル、認知症、エンドオブライフに注目して作成されている。<高齢者>・75歳までは活発な高齢者が増加傾向である。また年齢で一括りにすると個人差が大きいため、個別評価の方法について冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインに記載した。<女性>・CADリスクの危険因子は男性と同じだが、女性の喫煙者は男性喫煙者に比してその相対リスクが高くなる傾向がある。また、脂質異常症と更年期障害を同時に有する女性に対しては、禁忌・慎重投与に該当しないことを確認したうえでホルモン補充療法を考慮する、とした。<慢性腎臓病(CKD)>・高中性脂肪(高TG)血症を有するCKDに対する注意喚起として、フィブラート系薬剤は、高度腎機能障害を伴う場合には、ペマフィブラート(肝臓代謝)は慎重投与、それ以外のフィブラート系は禁忌であることが記載された。 このほか、冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインで推奨した危険因子の包括的管理に関連し、第2章では包括的管理や予測モデルについて、また第4章にはリスク予測からみた潜在性動脈硬化指標に関する記載を加えた。第5章「市民・患者への情報提供」では市民への急性心筋梗塞発症時の対応や、心肺蘇生法・AEDなどについて触れている。 最後に同氏は「将来的には患者プロファイルを入力することで、必要な情報がすぐに算出・表示できるようなアプリを多忙な臨床医のために作成していけたら」と今後の展望を述べた。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインの全文は日本循環器学会のホームページでPDFとして公開している。詳細はそちらを参照いただきたい。

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治療抵抗性高血圧、超音波腎デナベーションが有用性示す/JAMA

 治療抵抗性高血圧に対する超音波腎デナベーションは、シャムとの比較において降圧薬なしで2ヵ月後の日中自由行動下収縮期血圧(SBP)を低下させ、重大な有害事象は認められなかったことが、フランス・Universite Paris CiteのMichel Azizi氏らが実施した多施設共同無作為化シャム対照臨床試験「RADIANCE II試験」の結果、示された。超音波腎デナベーションは、2件のシャム対照試験(RADIANCE-HTN SOLOおよびTRIO試験)において、軽度~中等度の高血圧および治療抵抗性高血圧患者の血圧を低下させることが認められていた。JAMA誌2023年2月28日号掲載の報告。2ヵ月後の日中自由行動下収縮期血圧を評価 研究グループは2019年1月14日~2022年3月25日の間に、米国の37施設および欧州の24施設において、異なるクラスの降圧薬最大2種類を服用しても、血圧コントロールが不良(診察室座位収縮期血圧[SBP]/拡張期血圧[DBP]が140/90mmHg以上、ただし180/120mmHg未満)で、心血管および脳血管イベントの既往がなく、推定糸球体濾過量(eGFR)が40mL/分/1.73m2以上の18~75歳の高血圧患者のうち、4週間の休薬期間後に日中自由行動下SBP/DBPが135/85mmHg以上および170/105mmHg未満で、適切な腎動脈解剖を有する患者を対象とした。 被験者を超音波腎デナベーション群またはシャム(腎血管造影)群に2対1の割合で無作為に割り付け追跡調査した(患者および評価者盲検)。なお、事前に規定された血圧基準を超え臨床症状を伴わない限り、2ヵ月後の評価まで降圧薬を使用しないこととした。 主要有効性アウトカムは、ITT解析による2ヵ月時点における日中自由行動下SBPの平均変化量であった。主要安全性アウトカムは、30日時点の死亡、腎不全、主要な塞栓性・血管性・心血管・脳血管・高血圧イベントの複合アウトカム、および6ヵ月時点の70%以上の腎動脈狭窄症とした。副次アウトカムは、2ヵ月時点の24時間自由行動下SBP、家庭SBP、診察室SBP、全DBPの平均変化量であった。2ヵ月後収縮期血圧の低下は、-7.9mmHg vs.-1.8mmHg 1,038例が登録され、このうち無作為化のためのすべての基準を満たした224例が超音波腎デナベーション群(150例)およびシャム群(74例)に無作為化された。平均(±SD)年齢55±9.3歳、女性が28.6%、黒人またはアフリカ系アメリカ人が16.1%であった。 日中自由行動下SBPの低下(平均±SD)は、超音波腎デナベーション群が-7.9±11.6mmHgであり、シャム群の-1.8±9.5mmHgと比較して有意に大きく(ベースライン補正後の群間差:-6.3mmHg、95%信頼区間[CI]:-9.3~-3.2mmHg、p<0.001)、24時間概日周期を通して超音波腎デナベーションの効果は安定していた。 副次アウトカムの血圧関連7項目のうち6項目が、シャム群と比較し超音波腎デナベーション群で有意に改善した。両群とも、重大な有害事象は報告されなかった。 なお、著者は、追跡調査期間が限られていたこと、心血管リスクが低い患者を対象としたこと、個々の患者における降圧効果の予測は困難であることなどを研究の限界として挙げている。

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第153回 安価な心疾患薬がプラセボ対照試験で糖尿病に有効

わが国では1965年に承認されて心血管疾患治療薬として世界で普及している安価なCaチャネル遮断薬ベラパミルの服用でインスリン生成細胞の損失を遅らせうることが成人患者の試験に続いて小児患者の試験でも示されました1,2,3,4)。インスリン生成を担うβ細胞に特有の経路のいくつかと1型糖尿病(T1D)の関連が最近明らかになりつつあります。チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)が絡む経路がその1つで、TXNIPは活性酸素を除去する酸化還元タンパク質であるチオレドキシンに結合してその働きを阻害し、酸化ストレスを助長します。糖に応じて発現するTXNIPはどうやらインスリンを作る膵臓β細胞には好ましくないようで、糖尿病のマウスのβ細胞ではその発現が増え、過剰発現させるとβ細胞が死ぬことが確認されています。であるならその抑制はβ細胞にとって好ましいと容易に予想され、TXNIPを省くとやはりβ細胞がより生き残り、マウスの糖尿病を予防することができました。ベラパミルはTXNIPのβ細胞での発現を抑制します。その効果は同剤のよく知られた作用であるL型Caチャネルの阻害とそれに伴う細胞内Caの減少によると示唆されています。とするとインスリンを作るβ細胞や心臓などのL型Caチャネルの発現が豊富な組織ではベラパミルのようなTXNIP阻害薬の恩恵が最も期待できそうです。ベラパミルにどうやら糖尿病抑制効果がありそうなことは細胞や動物の実験のみならず臨床データの解析でも早くから観察されています。2006年にAmerican Heart Journal誌に掲載された2つの報告では冠動脈疾患患者の降圧薬治療2種を比較した試験INVESTのデータが解析され、ヒスパニック患者の同剤使用と糖尿病発症リスク低下の関連が認められています5,6)。より最近の2017年の報告ではベラパミル使用患者の2型糖尿病発現リスクが他のCaチャネル阻害薬に比べて低いことが確認されています7)。台湾の4万例超を調べた結果です。その翌年2018年には小規模とはいえ歴としたプラセボ対照二重盲検試験の結果が報告されるに至ります8,9)。試験には1型糖尿病と診断されてから3ヵ月以内の成人24例が参加し、ベラパミル投与に割り振られた11例の1年時点でのインスリン投与量はプラセボ投与群の13例に比べて少なくて済んでいました。また、β細胞機能がどれだけ残っているかを示すCペプチド分泌はベラパミル投与群がプラセボ群を35%上回りました。そして今回、小児患者を募ったプラセボ対照試験でもベラパミルの有益な効果が認められました1)。試験では1型糖尿病と診断されて1ヵ月以内の小児患者88例がベラパミルかプラセボに割り振られ、同剤使用群の1年時点でのCペプチド分泌は成人患者の試験結果と同じようにプラセボ群を30%上回りました。ただし、血糖値の推移を示すHbA1c、血糖値が目安の水準であった期間の割合、インスリン用量に有意差は認められませんでした。今後の課題としてベラパミルの効果の持続の程や最適な投与期間をさらなる試験で調べる必要があると著者は言っています。去年2022年11月に米国FDAは1型糖尿病の進展を遅らせる抗体薬teplizumabを承認しました。少なくとも30分間かけての1日1回の静注を14日間繰り返す同剤の費用は約20万ドル(19万3,900ドル)です3)。Cペプチドへの効果の程はというと、ベラパミルのプラセボ対照試験2つと同様に小規模の被験者58例の無作為化試験のteplizumab投与群のCペプチド分泌は1年時点でプラセボを20%ほど上回りました10)。Cペプチドへの効果がそこそこあって安くて忍容性良好なベラパミルのような経口薬は実用的であり11)、teplizumabのような他の薬剤との併用での活用がやがて実現するかもしれません4)。参考1)Forlenza GP, et al. JAMA. 2023 Feb 24. [Epub ahead of print]2)Verapamil shows beneficial effect on the pancreas in children with newly-diagnosed type 1 diabetes / Eurekalert3)Blood pressure drug helps pancreas function in type 1 diabetes. / Reuters4)Old Drug Verapamil May Have New Use in Type 1 Diabetes / MedScape5)Cooper-DeHoff RM, et al. Am Heart J. 2006;151:1072-1079.6)Cooper-DeHoff R, et al. Am J Cardiol. 2006;98:890-894.7)Yin T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102:2604-2610.8)Ovalle F, et al. 2018;24:1108-1112.9)Human clinical trial reveals verapamil as an effective type 1 diabetes therapy. / Eurekalert10)Herold KC, et al. Diabetologia. 2014;56:391-400.11)Couper J. JAMA. 2023 Feb 24. [Epub ahead of print]

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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アルドステロン合成酵素に対する選択性を100倍にしたbaxdrostatによる第II相試験の結果は、治療抵抗性高血圧症に有効である可能性が示された―(解説:石上友章氏)

 高血圧症は、本邦で4,000万人が罹患するといわれている、脳心血管病の最大の危険因子である。降圧薬は、市場規模の大きさから多くの製薬企業にとって、開発・販売に企業の持っているリソースの多くを必要とするカテゴリーの製品であった。医療サイドにとっては、その患者数の多さと健康寿命に与える影響の重要さから、確実で安全な医療の提供の実現が求められている。公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の調査によると、あらゆる薬剤の中で、降圧薬の貢献度・満足度がきわめて高いことが示されている。降圧治療は、疾病の克服において、これまでに人類が手にした治療薬として、きわめて高い水準の完成度に達したといえる。 利尿薬を含む、3種類以上の降圧薬の内服にもかかわらず、降圧目標に到達していない場合に、治療抵抗性高血圧症と定義される。高血圧症の多くを占める本態性高血圧症は、多因子性の疾患であると考えられており、これまではアルドステロン受容体拮抗薬が推奨されていた。本邦では、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)が降圧薬としての適応を取得したことから、数年以内に改訂される高血圧診療ガイドラインでは、その推奨が変わる可能性がある。 こうした高血圧診療の成熟が、製薬企業による新薬開発の低下や、若手医師や研究者の高血圧領域への関心の低下といった事態を招いている可能性がある。米国では、約10%が治療抵抗性高血圧といわれている。本邦に当てはめるならば、約400万人が該当する。既存の降圧薬で十分な降圧が得られない高血圧症は、実感としても少なからず存在している。第II相試験ではあるが、baxdrostatの成果は、降圧薬の新たな選択肢として期待できるだけでなく、高血圧症の制圧の実現に大きく寄与すると考えられる。

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ペグIFN-λ、高リスクCOVID-19の重症化を半減/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種者を含むCOVID-19外来患者において、ペグインターフェロンラムダ(IFN-λ)単回皮下投与は、COVID-19進行による入院または救急外来受診の発生率をプラセボ投与よりも有意に減少させた。ブラジル・ミナスジェライスカトリック大学のGilmar Reis氏らTOGETHER試験グループが報告した。NEJM誌2023年2月9日号掲載の報告。ブラジルとカナダで、入院/救急外来受診の発生を比較 TOGETHER試験は、ブラジルとカナダで実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照アダプティブプラットフォーム試験である。研究グループは、ブラジルの12施設およびカナダの5施設において、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陽性でCOVID-19の症状発現後7日以内の18歳以上の外来患者のうち、50歳以上、糖尿病、降圧療法を要する高血圧、心血管疾患、肺疾患、喫煙、BMI>30などのリスク因子のうち少なくとも1つを有する患者を、ペグIFN-λ(180μg/kgを単回皮下投与)群、プラセボ群(単回皮下投与または経口投与)または他の介入群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後28日以内のCOVID-19による入院(または三次病院への転院)または救急外来受診(救急外来での>6時間の経過観察と定義)の複合とした。主要評価のイベント発生率、ペグIFN-λ群2.7% vs.プラセボ群5.6%、有意に半減 2021年6月24日~2022年2月7日の期間に、計2,617例がペグIFN-λ群、プラセボ群および他の介入群に割り付けられ、ペグIFN-λ群のプロトコール逸脱2例を除外したペグIFN-λ群931例およびプラセボ群1,018例が今回のintention-to-treat集団に含まれた。患者の83%はワクチンを接種していた。 主要アウトカムのイベントは、ペグIFN-λ群で931例中25例(2.7%)に、プラセボ群で1,018例中57例(5.6%)に発生した。相対リスクは0.49(95%ベイズ信用区間[CrI]:0.30~0.76、プラセボに対する優越性の事後確率>99.9%)であり、プラセボ群と比較してペグIFN-λ群で、主要アウトカムのイベントが51%減少した。 副次アウトカムの解析結果も概して一貫していた。COVID-19による入院までの期間はプラセボ群と比較しペグIFN-λ群で短く(ハザード比[HR]:0.57、95%ベイズCrI:0.33~0.95)、COVID-19による入院または死亡までの期間もペグIFN-λ群で短い(0.59、0.35~0.97)など、ほとんどの項目でペグIFN-λの有効性が示された。また、主な変異株の間で、およびワクチン接種の有無で有効性に差はなかった。 ベースラインのウイルス量が多かった患者では、ペグIFN-λ群のほうがプラセボ群より、7日目までのウイルス量減少が大きかった。 有害事象の発現率は、全GradeでペグIFN-λ群15.1%、プラセボ群16.9%であり、両群で同程度であった。

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経皮的脳血栓回収術後の血圧管理について1つの指標が示された(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術はデバイスの改良に伴って8割程度の再開通率が見込まれるようになり、再開通後に出血性合併症に留意して管理する機会が増えた。急性期には出血を惹起する薬剤を併用する機会が多く、これには血栓回収術に先立って行われるアルテプラーゼ静注療法、手術中のヘパリン静注、術後の抗凝固薬・抗血小板薬の内服などがある。 出血性合併症を避けるためには降圧を行うべきであるが、どの程度の血圧が適切であるかについてはわかっていない。そのため脳卒中ガイドライン2021では、脳血栓回収術後には速やかな降圧を推奨しており、また過度な降圧を避けるように勧められているが具体的な数値は挙げられていない。 本研究は血栓回収術後の血圧管理について1つの指標となる重要な結果を示したものである。再開通を果たした患者において収縮期血圧120mmHg未満を目標とした群は、140~180mmHgを目標とした群と比較して、機能予後が悪化していた。 血栓回収術施行中、再開通前の低血圧が予後の悪化と関連していたという報告があるが(Petersen NH et al. Stroke. 2019;50:1797-1804.)、本研究は両群ともにTICI2b以上の患者を対象としているうえに8割以上が完全再開通TICI3の患者である。血管撮影上は灌流障害が解消されたと判断するところであるが、強い降圧によって機能予後が悪化するということは、急性期には画像上は指摘しえない微小な循環障害が残存している可能性が示唆されて、興味深い結果である。 ただし両群共に心原性脳塞栓症の患者は3割弱で、降圧強化群の44%と対照群の53%が動脈硬化性閉塞であったと報告されており、本邦で行われている血栓回収術の対象患者に比べると心原性脳塞栓症患者が少ない。閉塞機序は低灌流への耐性に影響する可能性があるので、結果を参考にするときには注意が必要だろう。

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