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テレモニタリング+薬剤師による管理で血圧改善/JAMA

 患者の自宅からの家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療の有用性が、米国・HealthPartners Institute for Education and Research(ミネアポリス市)のKaren L Margolis氏らが行ったHyperLink試験で確認された。多くの有効な治療薬が開発されているにもかかわらず、米国では血圧が推奨値以下に管理されている成人高血圧患者は約半数にとどまる。最近の系統的レビューは、血圧の改善には診療体制を再編し、医師以外の医療従事者の主導で降圧治療の調整を行う必要があると結論づけており、遠隔治療と看護師、薬剤師主導のチーム医療を組み合わせた介入の有効性を示唆する研究結果もあるという。JAMA誌2013年7月3日号掲載の報告。多彩な患者に対する効果をクラスター無作為化試験で評価 HyperLink試験は、降圧治療における家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による患者管理を組み合わせた介入の有用性を検証するクラスター無作為化試験。ミネアポリス市およびセントポール市の16のプライマリ・ケア施設が、介入を行う群(8施設)または通常治療を行う群(8施設)に無作為に割り付けられた。 患者選択基準は収縮期血圧(SBP)≧140mmHgもしくは拡張期血圧(DBP)≧90mmHgとし、糖尿病や慢性腎臓病を併発する患者(基準値:SBP≧130mmHgもしくはDBP≧80mmHg)も含めた。介入群の患者は自宅で測定した家庭血圧のデータを薬剤師に送信し、薬剤師はデータに基づいて降圧治療の調整を行った。治療期間は1年であった。 主要アウトカムは、治療開始から6ヵ月、12ヵ月時のSBP<140/DBP<90mmHg(糖尿病、慢性腎臓病を併発する場合はSBP<130/DBP<80mmHg)の達成とし、18ヵ月時(治療終了後6ヵ月)の血圧管理、患者満足度などの評価も行った。塩分摂取制限や患者満足度も良好 2009年3月~2011年4月までに介入群に228例、通常治療群には222例が登録された。全体の平均年齢は61.1歳、女性が44.7%、白人が81.8%で、平均SBPは147.9mmHg、平均DBPは84.7mmHgだった。また、このうち糖尿病が19.1%、慢性腎臓病は18.6%にみられた。 主要アウトカムの治療開始6ヵ月時の達成率は、介入群71.8%、通常治療群45.2%(p<0.001)、12ヵ月時はそれぞれ71.2%、52.8%(p=0.005)、18ヵ月時は71.8%、57.1%(p=0.003)であり、いずれも介入群で有意に良好であった。 6ヵ月と12ヵ月の両時点で主要アウトカムが達成された患者は介入群57.2%、通常治療群30.0%(p=0.001)、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月のすべてで達成された患者はそれぞれ50.9%、21.3%(p=0.002)であり、有意な差が認められた。 介入群のSBPは、ベースラインから治療開始6ヵ月時までに21.5mmHg低下し、12ヵ月時には22.5mmHg、18ヵ月時には21.3mmHg低下した。DBPの低下はそれぞれ9.4、9.3、9.3mmHgであった。通常治療群のSBPはそれぞれ10.8、12.9、14.7mmHg低下し、DBPは3.4、4.3、6.4mmHg低下した。 SBPの低下は、いずれの時点でも介入群が有意に良好で、両群間の降圧の差は6ヵ月時が10.7mmHg(p<0.001)、12ヵ月時が9.7mmHg(p<0.001)、18ヵ月時は6.6mmHg(p=0.004)であった。DBPの低下も介入群が良好で、それぞれ6.0(p<0.001)、5.1(p<0.001)、3.0mmHg(p=0.07)の差が認められた。 介入群では、降圧薬の種類の増加、服薬遵守、塩分摂取制限、患者満足度なども良好で、安全性も許容可能なものであった。 著者は、「家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療は、通常治療に比べ降圧達成率が良好であり、効果は治療終了6ヵ月後も持続していた」とまとめ、「今後、費用対効果や長期効果が確かめられれば、このモデルは高血圧や他の慢性疾患の管理法として普及すると考えられる」と指摘している。

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Vol. 1 No. 2 糖尿病患者におけるPCIのエビデンス

大塚 頼隆 氏福岡和白病院循環器内科はじめに糖尿病(DM)および境界型糖尿病(IGT)患者の罹患数は、今後も全世界で増加の一途をたどると推測されている1)。現在、日本のDM有病率は全世界の第6位であり1)、また、厚生労働省のDM実態調査からもDM患者数は年々増加傾向にあり、2007年時点でDMかDMの可能性が否定できない人数は2,210万人に達すると報告されている2)。日本人において、DM(特に2型DM)患者は非DM患者に比べて心血管疾患、特に冠動脈疾患の発症のリスクが2~4倍に増加することが、久山町研究3)やJapan DiabetesComplications Study(JDCS)4)などの疫学調査から明らかである。また、舟形町研究からも、DMばかりでなく、IGTも心血管病のリスクファクターであることは明らかである3)。DMやIGTは、高血糖や酸化ストレスの増大ばかりでなく、インスリン抵抗性、高血圧、脂質代謝異常などの合併により複合的な病態を呈し、動脈硬化が進展すると考えられている。特に、食後過血糖(glucose spikes)は炎症・酸化ストレス増加により動脈硬化進展およびプラークの不安定化を招き、血管不全を起こす重要な因子と考えられている5)。事実、DM患者を長期観察したDiabetes Intervention Study(DIS)により、食後過血糖が心筋梗塞症の発症を増加させることが明らかとなり6)、食後過血糖が動脈硬化の強い促進因子であることも報告されている7)。本稿では、日本でも今後も増加し、他のリスクファクターよりも未だ解決されていないことが多いDMやIGTを有する患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)のエビデンスについて概説する。1)糖尿病合併の虚血性心疾患患者の冠動脈の特徴欧米の報告によると、DM患者の死因の約80%が動脈硬化性疾患によるものであり、その約7割以上が冠動脈疾患によるものである。DM患者の冠動脈疾患の死亡率が高い原因として、(1)無症候性であることがしばしばあり、発見が遅れる(2)多枝病変、重症左主幹部病変、びまん性病変であることが多く、重症かつ治療難治性である(3)心機能低下症例(拡張能障害を含めた)が多い(4)経皮的冠動脈形成術後の再狭窄率が高い(5)多数のリスクファクター合併や他の合併症が多いなどの特徴があるなどが考えられる8)。また、2型DM患者における心血管病発症率や死亡率は、非DM患者に比し、男性の場合約2倍、女性の場合は約4倍で、特に女性においてDMと非DMとの差は顕著である9)。われわれは、耐糖能異常患者の冠動脈病変の特徴を明らかにするために、冠動脈造影を施行しOGTTを施行した534名の冠動脈の定量的冠動脈解析を行い、平均血管径および平均狭窄病変長を算出した10)。また、その2つの冠動脈指標に寄与している因子も同時に解析した。その結果、平均血管径は「正常耐糖能」「IGT」「preclinical DM」「treated DM」の順に小さくなり、平均狭窄病変長もその順に長くなることが証明された(本誌p21の図1を参照)。つまりこの結果は、耐糖能の病状が進むほどプラーク増加に伴い血管径が細くなり、びまん性の病変になることを示している。また、血管径および狭窄病変長に食後過血糖が強く関与していることがこの検討からは示唆された。このような特徴は、血管内超音波で調べられた研究におけるプラーク量が、非DM患者に比しDM患者において有意に多いことと一致するデータと考えられる11)。2)PCI後の予後上記のような冠動脈の特徴を持つDM患者は、PCI後の再狭窄率が高く、長期的な心血管イベント率が高いことが以前から知られている。われわれは、この冠動脈の特徴と耐糖能異常が、PCI後の長期の予後にどのように関与しているかを検討した12)。PCI対照血管径を、2.5mm以上と未満で大血管径、小血管径とに分け、「小血管径+耐糖能異常グループ」「小血管径+正常耐糖能グループ」「大血管径+耐糖能異常グループ」「大血管径+正常耐糖能グループ」の4群に分類し、PCI後の長期予後を検討した。小血管径+耐糖能異常グループは早期から心血管イベントが多く予後は不良であるが、大血管径であっても耐糖能異常があるグループは特に5年後より心血管イベントが増加し、長期的に予後不良であることが判明した(本誌p22の図2を参照)。また、多変量解析により、耐糖能異常が心血管イベントおよび死亡に大きく関与することが示され、PCI後の患者において長期的な予後に耐糖能異常そのものが大きな因子であることが明らかとなった。最近のimaging modalityを用いた研究では、急性冠症候群患者において、DM患者は非DM患者に比べて、不安定プラークを意味するTCFA(thincap fibroatheroma)が多く存在していることが明らかとなった13)。また、DMの罹病歴が長い患者ほどプラーク量が多く、TCFAの比率が高いことも証明されている14)。つまり、耐糖能異常をもつ患者は血管性状も悪く、“質も悪い”ということになる。局所治療のPCIのみでは、血管全体が悪いDM患者の長期予後の改善効果には結びつかないのである。このことはPCI(局所治療)を行った後も、DM患者においてはよりintensiveな動脈硬化治療を長期に行わなければならないことを意味している。3)PCIまたはCABG経皮的バルーン血管形成術(POBA)およびベアメタルステント(BMS)時代のDM患者は、非DM患者に比べて再狭窄率が高く、治療に難渋する症例も多々存在した。しかし、薬剤溶出性ステント(DES)の登場により再狭窄率は激減し、再狭窄率が高かったDM患者においても再狭窄率は激減している15)。DESを用いたPCIが標準治療となった現在、複雑病変や多枝病変についても良好な成績が示されている。しかしながら、DMが合併した多枝病変の治療において、血行再建の選択は難しい問題である。POBA時代のBARI研究においては、DMを有する患者において、冠動脈バイパス術(CABG)の方がPOBAによるPCI治療に比べて、長期的に死亡率が有意に低いことが示されている16)。POBA(6 trials)およびBMS(4 trials)を用いたPCI治療とCABGを比較したメタ解析によると、約5年予後において全体では死亡、心筋梗塞の発生率に両群間に差はなく、再血行再建率はCABGが有意に低いという結果であった17)。一方、DM患者のみのサブ解析では、BARI研究と同様にPCI治療群において死亡率が有意に高いという結果であった17)。再狭窄の問題とは別に、PCIがlesion treatmentであるのに対して、CABGはvessel treatmentであるため、血管全体が悪いDM患者においてCABGの方が血管保護的に働く(バイパスされている血管にイベントが生じても、心血管イベントに繋がらない)のではないかと推測される。一方、薬物療法が発達した現在、DM患者に対してDESを用いたPCIとCABGを比較した最近の研究においては、短期から中期予後において、少なくとも死亡・心筋梗塞・脳卒中の発生率において両群間に差がないことが示されている(本誌p23の図3を参照)18-20)。CARDia試験においてはDESまたはBMS vs. CABGが、SYNTAX試験のサブグループにおいてはpaclitaxel-eluting stent vs. CABGが比較検討されている(本誌p24~25の図4を参照)。これらの報告からは、DM患者における血行再建において未だ再血行再建率はPCI群が高いが、脳血管イベントに関してはCABGが高いことが示されている。また、SYNTAX scoreを用いた解析で、冠動脈が重症な患者ほどCABGの心血管イベントが低いことが報告されており(本誌p24~25の図4を参照)21)、DM患者の治療選択の際に冠動脈の重症度は大きな因子である。われわれも、多枝病変を有するDM患者に対するoff-pump CABGとDES(sirolimus-eluting stent)を用いたPCIの3年予後を検討しており、3年の死亡、心筋梗塞を含めた総心血管イベントに両群間で差は認めないが、PCIは再血行再建率が有意に高く、CABGは脳血管イベントが有意に高いという結果が得られた(本誌p26の図5を参照)22)。また、SYNTAX scoreはCABGで有意に高値であった。このデータはrandomized controlled trialではないので、すべての多枝病変を有するDM患者にこの結果を当てはめることはできない。しかし、内科医・外科医が患者背景および冠動脈の重症度からPCIまたはCABGの選択を適切に判断すれば、DM合併多枝病変患者においてもDESを用いたPCIで良好な成績が期待できると思われる。また、PCIとCABGの直接比較試験ではないが、DM合併の虚血性心疾患患者を対象に、「早期血行再建+積極的薬物療法」と「積極的薬物療法単独」とを比較したBARI-2D研究では23)、積極的薬物療法単独群の42%が血行再建へ移行したが、両群間に死亡率の差はなく、より重症冠動脈病変が多いCABG群のほうが薬物療法群より心筋梗塞発症率が少ないことが報告された。つまり、血行再建を行う上で積極的薬物療法は不可欠であるのは間違いなく、重症冠動脈病変にはCABGがより有効であることが示唆される。長期のイベントにおいては、未だ十分なデータの蓄積はないが、RAS系降圧薬、スタチンや抗血小板薬などの内科的治療が発達した現在、多枝病変をもつDM患者におけるPCI治療の位置づけが今後のデータによりはっきりするのではないかと考えられる。特に、第1世代のDESに比べ、安全性および有効性が良好な第2・第3世代のDESでのデータが待たれる。現状では、DM合併の虚血性心疾患患者は予後不良と認識し、積極的薬物療法を行いつつ、個々の患者背景、冠動脈病変の重症度を十分評価した上で、心臓血管外科医との適切な検討のもと治療戦略を立てて治療に当たるべきであると考えられる。4)再狭窄への対応DMは、ステント留置後のステント内再狭窄において最も重要なリスク因子の1つである。ステント留置後の再狭窄の原因は新生内膜の増生であるが、DM患者へのステント留置後のステント内新生内膜の増生は、非DM患者へのステント留置後に比べて多いことが知られている。それは、DM患者の血管性状(4つの重要な因子)が大きく関与している(本誌p27の表1を参照)24)。DMでは、高血糖、インスリン抵抗性だけでなく、先にも述べたように高血圧や脂質代謝異常の合併により複合的な病態を有しており、DM患者に合併した多数のリスク因子の合併が新生内膜の増生や動脈硬化進展に寄与しているところが大きい。DMは慢性高血糖状態によりprotein kinase Cの活性化に伴う酸化ストレスの産生亢進や、NF-κBの活性化を介した炎症性サイトカインや増殖因子の分泌を促進し、内皮障害、血管拡張障害および動脈硬化進展を引き起こしている25)。しかし、血糖を下げる糖尿病治療薬において、現在のところ、再狭窄を予防できる確立したエビデンスはない。また、転写調節因子のperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)-γは、インスリン抵抗性の改善や脂肪細胞の分化誘導、および抗炎症作用などと関連していることが報告され、それにより動脈硬化進展や再狭窄予防に作用することが知られている25)。PPAR-γのアゴニストでインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン薬は、炎症反応、LDLコレステロール、中性脂肪などの減少効果を持ち合わせ、動物実験により平滑筋細胞の増殖抑制や再狭窄予防効果が確認されている26)。また、いくつかの臨床研究において、チアゾリジン薬がステント内再狭窄を抑制することが報告されており27-29)、最近のメタアナリシスでもチアゾリジン薬がDM患者の再狭窄を予防するばかりでなく30)、非DM患者においても再狭窄予防効果があることが報告されている31)。このことは、チアゾリジン薬が血糖降下作用ばかりでなく、他の多面的効果により再狭窄を予防する可能性が示唆されるデータと考えられる。また、PERISCOPE試験におけるスルホニルウレア(SU)薬との比較では、チアゾリジン薬が動脈硬化進展抑制(むしろ退縮)する可能性を示した32)。一方、SU薬やインスリンに比べ、心筋梗塞症および死亡の減少に効果があることがUKPDS 80において報告されたメトホルミンが33)、PCI後のDM患者の心筋梗塞症や再血行再建術の発生を減らすことがいくつかの臨床試験で報告されており34, 35)、現在のところ、チアゾリジン薬、メトホルミン、後述するDPP-4阻害薬は、再狭窄を予防する糖尿病治療薬として期待できる薬剤であり、PCIを施行したDM患者に選択すべき薬剤ではないかと考える(本誌p27の表2を参照)。5)2次予防このように、長期的に予後不良なDMおよびIGT患者は、血行再建を行うと同時に長期的予後改善を目指して、厳重なる2次予防が重要である。DM患者を対象としたSteno-2 試験では、厳格かつ集学的な治療(血糖コントロールばかりでなく、厳密な脂質コントロールや血圧コントロールなど)を行うと、特に長期的に心血管イベントを有意に抑制できることや、legacy effect(遺産効果)を認めることが証明されている36)。従来療法群に比較して、強化療法群では心血管死、非致死性心筋梗塞および脳卒中を含めた複合1次エンドポイントが50%低下している。現在のところ、虚血性心疾患患者の2次予防としてエビデンスがあるのはピオグリタゾンのPROactive研究である37)。PROactive研究の中で心筋梗塞症の既往のあるサブグループ解析では、placeboに比べピオグリタゾンは急性冠症候群の発症を有意に(37%)減少させている。また、先にも述べたPERISCOPE研究において、SU薬のグリメピリドでは冠動脈プラークの進展が認められたが、ピオグリタゾンでは冠動脈プラークがむしろ退縮させることが確認され、抗動脈硬化作用があることが証明されている32)。また、新規DM患者を対象としたUKPDS 80では、SU薬とインスリンによる厳格な血糖コントロールを行った群の方が、通常治療群よりも心筋梗塞症の発症率や死亡率を減少させることが証明され、特にメトホルミンを使用した群では、さらに心筋梗塞症の発症率や死亡率を低下させることが証明されている33)。メトホルミンは、血糖コントロール以外にも心血管保護作用があることが報告されており、虚血性心疾患の2次予防にも期待できる薬剤である。インクレチン(GLP-1)の働きを利用する薬剤として、最近使用可能となったDPP-4阻害薬が注目されている。GLP-1受容体は心筋細胞や血管内皮細胞に存在しているため、DPP-4阻害薬は心血管保護作用をもつのではないかと推測されている。最近の動物実験により、DPP-4阻害薬はApo Eノックアウトマウスの内皮機能改善効果および動脈硬化進展予防が確認されている38)。また、この論文では、虚血性心疾患のない患者の血中活性型GLP-1濃度は、虚血性心疾患のある患者の血中活性型GLP-1濃度よりも有意に高値であることが示され、それは非DM患者においても同様であることが報告されている。このことは、血糖コントロールによる動脈硬化進展予防効果以外に、活性型GLP-1上昇による抗動脈硬化作用がDPP-4阻害薬には期待できる可能性を示唆している38, 39)。よって、DPP-4阻害薬も虚血性心疾患患者の2次予防に期待できる薬剤と考えられる。また、IGT患者に対しては、STOP-NIDDM研究40)や日本人のVICTORY研究41)においてα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)が有意に新規DM発症を予防することが報告されており、STOP-NIDDMにおいては、心血管イベントを49%低下させることが報告されている42)。特に、心血管イベントの中で、急性心筋梗塞症の発症を有意に低下させていることは注目すべき点である。このことは、DM患者を対象にしたメタ解析のMeRIA7における、α-GIが心血管イベント特に心筋梗塞症の発症リスクを有意に減少させるとした結果と一致しており43)、食後過血糖を抑制するα-GIは、虚血性心疾患患者の2次予防に期待できる薬剤であるといえる。現在のところ、虚血性心疾患の2次予防という観点において、DM患者にはチアゾリジン薬、メトホルミン、DPP-4阻害薬、IGT患者にはα-GIまたはDPP-4阻害薬が期待できる薬剤ではないかと考えられる。最後にDM患者に対するPCIは、DESの登場により再狭窄は激減しているが、未だDM患者はPCI後のハイリスク因子であることに変わりはない。DM患者を治療する上での留意点としては、上記のようなDM患者の冠動脈の特徴を理解しつつ、血管(狭窄)のみを診て治療するのではなく、患者全体を診て、長期的な予後改善の観点に立ちインターベンション治療と同時に積極的薬物的なインターベンションも考慮して治療を行わなければならないと考えている。また、早期の耐糖能異常の検索も重要である。われわれは急性心筋梗塞症患者に対して退院前に75g OGTTを施行している44)。その結果、正常耐糖能の 25%に対し、IGT 33%、preclinical DM 16%、DM 26%という割合であり、いわゆる“隠れ耐糖能異常”の存在が多いことが明らかとなった。これは、欧米からの報告45)とまったく同じ結果であり、虚血性心疾患患者における隠れ耐糖能異常の存在は日本人にとっても“対岸の火事”ではない。また、虚血性心疾患発症後は耐糖能異常を発症するリスクが高まることも報告されている46)。このように、虚血性心疾患を発症した患者には耐糖能異常が多く存在することを認識し、また、耐糖能異常の発症リスクが高いことも理解し、早期からの検索および治療介入を行う必要があるのではないか。そのためにも、日本人におけるDMまたはIGT合併の虚血性心疾患患者に対する検索の意義および治療介入のエビデンスがさらに必要である。さいたま医療センターの阿古潤哉先生、神戸大学の新家俊郎先生らとともに、糖尿病専門医の先生方も交えて心疾患と糖尿病に関する研究会「Cardiovascular Diabetology meeting」を発足し、日本人におけるエビデンス構築に一役買いたいと考えている。興味のある方は、ぜひともご参加いただきたい。文献1)http://www.eatlas.idf.org/media/2)http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1225-5.html3)Tominaga M, Eguchi H, Manaka H, et al. 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加算導入後1年超、半数以上の医師は現在も”一般名処方”を行っていない

2012年4月に新設された“一般名処方加算”。導入後1年以上が経過した今、実施率はどんな状況なのでしょうか?行わない先生、その理由は?「一般名は長い!覚えられない!書けない!」「後発品の銘柄をいちいち覚えられない、いっそ全て一般名で」といった“名前問題“から、「成分が同じでも効果はどうなの?」「どの製品が出されるのかわからないのに責任持てないよ」などの“後発品って…問題”まで、一般名処方をめぐるあれこれを伺ってみました!コメントはこちら結果概要昨年より比率は高まったものの、半数以上の医師は現在も一般名処方を行っていない一般名処方の実施有無について前回調査(2012年6月)と同様に尋ねたところ、『行っている』との回答が17.4%(前回15.1%)、『一部行っている』が25.4%(同19.3%)であり、何らかの形で行っている医師は全体で42.8%(同34.4%)。診療報酬改定前後で17.2%→34.4%と倍増した前回結果と比較すると実施率はゆるやかな伸びに留まった。『行っていない』とした医師を施設別に見ると、診療所・クリニックでは39.4%、一般病院では62.9%、大学病院では71.4%に上った。(回答医師単位の集計であり、処方箋枚数および金額は加味していません)行っていない医師、最大の理由は「一般名を調べるのが手間」。煩雑さに加え、処方ミスを不安視『行っていない』とした医師に理由を尋ねると、『一般名を調べる手間がかかるため』で42.1%、『電子カルテに一般名処方のサポート機能がなく煩雑』29.7%、『紙カルテで煩雑』10.1%と、一般名の長さ・複雑さによる処方(事務作業含む)の手間を挙げた回答が多く見られた。その点に関連して『処方ミスを起こす不安がある』も24.0%に上り、「一般名は"うろ覚え"が現実。いつでも・どこでも事故が起こる可能性がある」「専門外では覚える余裕はない」などのコメントが寄せられた。「後発品の効果・供給体制に懸念」、「処方はするがどれでも良いわけではない」後発品に対して懸念点がある医師からは『後発品の効果に疑問があるため』24.0%、『供給体制に不安があるため』8.2%といった回答が挙がった。その他『後発品も銘柄指定で処方するため』21.0%との意見があり、「後発品にも良いものや粗悪なもの、作用の強いもの弱いもの様々で、成分では怖くて(処方箋を)書けない」といったコメントが寄せられるなど、既に後発品を処方している医師にとっても、製品を指定できない一般名処方へのハードルは高いことが明らかとなった。設問詳細一般名処方についてお尋ねします。2012年4月の診療報酬改定で“一般名処方加算”が新設されるなど、医療費削減策の一環として、後発医薬品の使用促進策がさまざまな形で検討・実施されています。厚労省は今年4月5日、「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を公表。普及に関する目標値の算出方法をこれまでの“全ての医療用医薬品に占める後発品のシェア”から“後発品に置き換え可能な医薬品(長期収載品と後発品を含める)に占める後発品のシェア”に変更し、2018年3月末までにシェア60%(現在約45%)を達成するという数値目標を掲げました。そこで先生にお尋ねします。Q1.先生は一般名処方を行っていますか?行っている一部行っている行っていないQ2.Q1で「行っていない」と回答した先生にお尋ねします。一般名処方を行わない理由として当てはまるものを全てお選びください。(複数回答可)後発品に関しても銘柄指定で処方するため後発品の効果に疑問があるため後発品の供給体制に不安があるため後発品を患者が嫌がるため慣れた薬が変更となるのを患者が嫌がるため一般名を調べる手間がかかるため処方ミスを起こす不安があるため紙カルテで処方が煩雑なため電子カルテだが一般名処方のサポート機能がなく煩雑なため院内処方のためその他Q3.コメントをお願いします。2013年6月6日(木)~7日(金)実施有効回答数1,000件調査対象CareNet.com会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「専門外領域の一般名処方は、調べることが多く面倒だ。」(一般病院,内科,60代)「後発薬には、明らかに効果に疑問符のつくものがある。思いもかけない副作用が出ることもあり、 後発薬なら何でもOKというわけにはいかないのが実情。一般名とする場合、慣れるまで相当に処方に余計な時間を要し、診療にも支障が出る。事務・薬局の混乱も避けられない。何が何でも後発薬に・・という風潮はいただけない。」(診療所・クリニック,内科,40代)「間違いのない処方をおこなうためには、慣れた、性質、データの良くわかった先発品が優先になります。後発品はやはりばらつきがあり、副作用データもよくわからず使いにくいです。」(診療所・クリニック,内科,40代)「ジェネリックの場合はジェネリック可としてその薬剤名を書いています」(診療所・クリニック,耳鼻咽喉科,50代)「まだコンピューターのシステムが対応していないので難しい。個人的には一般名でかまわないが・・・」(診療所・クリニック,精神科,40代)「一般名処方が基本だと思う。同じ薬剤で異なる商品名を覚えること、同じ薬剤で違った名前があることは安全管理の面から好ましくない。しかし、当院では一般名処方がサポートされておらず残念」(大学病院,麻酔科,60代)「一般名が多すぎて、他院で処方されている薬の手帳を 見せてもらっても、何の薬か分からない。調べる手間がかかり迷惑以外のなにものでもない。いかにも現場のわかっていない役人が考えた事だというのがよくわかります」(診療所・クリニック,皮膚科,70代以上)「一般名で処方することは医師の義務と考えており、厚労省の方針は妥当と思う。」(一般病院,消化器内科,50代)「一般名にすると、胃腸薬など処方ごとに薬が変わり患者に不信感を与えたことがある。効果に私自身も疑問がある。」(一般病院,小児科,60代)「後発品のエビデンスがはっきりしないのにそっちへ強引に切り替えさせようとする厚労省の方針には呆れます」(診療所・クリニック,循環器内科,40代)「専門領域では商品名と一般名の両方を憶えられますが、専門外ではそんな余裕はありません」(一般病院,糖尿病・代謝・内分泌内科,30代以下)「ただでさえ忙しい中、いちいち一般名を調べていたら堪りません」(診療所・クリニック,内科,70代以上)「一般名で処方しても薬局から先発品が出ることもある。意味がないような気がする」(診療所・クリニック,皮膚科,50代)「後発品も先発品と同じPK/PDの試験が義務付けられ、同等と判断できれば積極的に使います。最大の欠陥はこれが行われていないこと。試薬ではないので、同一成分同一効果ではない。有効成分に添加剤や賦形剤などを加えている。例えるなら、同じ材料で料理を作っても、味も栄養の吸収も料理人の腕で変わるということと同じ」(一般病院,呼吸器内科,40代)「商品名で入力して、自動的に一般名になるようなシステムがあれば一番良いのでは」(診療所・クリニック,呼吸器内科,40代)「後発薬の名前が長すぎて処方箋に記載するのが大変。(当院は手書きのため)また、覚えていないものもある」(一般病院,泌尿器科,30代以下)「当初は行っていたが、薬局が患者さんの希望を聞かず処方し、大混乱になり中止した。また、処方した薬をきちんと報告する薬局としない薬局まちまちで カルテがメチャメチャになってしまった」(診療所・クリニック,心療内科,50代)「後発品の臨床成績を、先発品から独立して示してほしい」(診療所・クリニック,内科,50代)「一般名のほうが判りやすいし、迷わない」(一般病院,麻酔科,50代)「後発品にも良いもの、粗悪なものと様々で、mgをそろえても作用の強いものや弱いものもある。処方に関して責任を医師に求めるならば成分では怖くて書けない。副作用が出てから動いても遅い。チェックは厚労省主導でないと何も始まらないので粗悪なジェネリックを締め出してほしい」(診療所・クリニック,内科,50代)「先発品は純度99.5~99.9%に対して、後発品の純度は98%前後です。不純物の比較だと、4~20倍 の差があります。私自身も、ある日突然、病院の方針で抗生剤が後発品に変わっていて、心肺停止を起こした症例を経験しています。余程患者が望まない限り、後発品は使用しません」(診療所・クリニック,糖尿病・代謝・内分泌内科,50代)「後発薬の名前が、他の成分の先発品などと似ていた為 誤処方、誤薬が起きかけたことが何度かある。後発品の商品名はリスク要因である」(診療所・クリニック,内科,40代)「電子カルテに一般名処方の機能がなくできません」(大学病院,呼吸器内科,50代)「レセコン(電カル)なので、設定すればストレスなし」(診療所・クリニック,内科,60代)「ジェネリックを積極的に採用、使用している」(大学病院,泌尿器科,40代)「医師免許を取得した20年以上前には今ほど後発品は無く、当時の厚生省としても、一般名処方に関しては何の方針も有していなかったと思うが、先発品の一部は複数社から異なる薬品名で販売されており、『同一成分なのに複数の製品名を知っておかねばならない」ことに煩わしさを感じていたので、当時から『処方は一般名で良い」と思っていた。その考えは今も変わらないが、後発品の中には薬効が不確かな製品もあり、流通する製品の効果・副作用や安全性に対する保証が不十分なまま、医療費削減を動機に政策を推進しようとする厚労省の姿勢はいただけない。」(一般病院,整形外科,50代)「後発品の選択については患者が望むならそうすべき。効果の同等性については一般医が結論づけることは困難。厚労省が推進するかぎり、齟齬が生じた場合には厚労省が責任をとるのだろう」(一般病院,麻酔科,50代)「後発品はメーカーにより品質がまちまちで、全く先発品に劣ってしまっているものも多い。でも薬局は後発品比率を上げるために必死で質の良くない後発品を勧めてしまっている。患者が迷惑だと思う」(診療所・クリニック,内科,40代)「一般名処方は考え方としては妥当であろうが、医療現場で実際に対応するには甚だしく準備不足であると考えます。実務上、最大の障害は電子カルテの対応が追いつかないことにありますが、そもそも後発薬一般について、基剤成分が先発薬と違うのか否か等の情報が不十分であると感じてもいます」(診療所・クリニック,放射線科,40代)「薬局でジェネリックに変更された際にこちらに届く、処方変更の書類の束の処理が困る」(大学病院,血液内科,50代)「やらなければいけないのか、やらなくても良いのか、中途半端な方針が多すぎる。監督省庁として適切な方針を責任を持って立てて頂きたい。明確に出されないと、システム更新のための予算手配もできない」(大学病院,その他,40代)「一般名処方をしても院外薬局に先発薬を出されるケースが多く困っています」(診療所・クリニック,内科,40代)「医師も混乱するが、看護師はほとんど一般名を知らないので全銘柄覚えられるとは思えない。外来時は先発品を、入院後は後発品を投与していた患者がいたが、同一成分薬とは知らず重複投与していたということに。」(一般病院,泌尿器科,50代)「成分が同じだけで、効果は明らかに違うように実感している。目先の安さに飛びつき、効果不十分であれば結局医療費は長期的には増大するし、また先発の製薬会社を窮地に追いやることで新薬の開発が鈍ると危惧している。ジェネリックが素晴らしいように煽るCMなど、やめてほしい」(大学病院,精神科,30代以下)「電子カルテで、商品名を入力すれば、一般名に変換できるシステムがあれば、先発品・後発品にはこだわらない。手書き処方箋の場合は厳しい」(一般病院,精神科,40代)「一時期混乱致しましたが、現在ではもう慣れました」(一般病院,整形外科,40代)「商品名:エコリシン点眼液 一般名:エリスロマイシンラクトビオン酸塩・コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム点眼液。こんな長い薬名、処方箋に書けるわけがない」(診療所・クリニック,皮膚科,60代)「抗アレルギー薬の後発品にアレルギーを起こした症例を見ました。他の薬に対するアレルギーならまだしも、抗アレルギーに対するアレルギーは少し後発品の怖さを感じます」(一般病院,呼吸器内科,30代以下)「後発品を使うことで後発品の品質向上がもたらされることはいいことです。先発メーカーの利益が損なわれることによる創薬へのマイナス面が気になります」(診療所・クリニック,小児科,50代)「後でどこの会社の薬を処方したか確認しないといけないから大変!」(診療所・クリニック,消化器内科,40代)「厚労省がジェネリックや一般名処方を強力に推進する意図は、唯一「医療費の削減」ですが、それによって果たして医療費の削減がなされているかのしっかりしたデータはあるのでしょうか?その処方をする事により、病状がかえって改善するのに時間が掛かり服薬期間が長くなったり、本来なされない検査が追加される事になったり、本来の効能が十分発揮されなかったりした事例が数多く臨床現場で発生しているのを聞きますし、それで来院した症例も数多く経験しています」(診療所・クリニック,循環器内科,60代)「医療費が0割の方には、後発薬がある薬剤に関してはその使用を義務化して頂きたい」(大学病院,神経内科,30代以下)「レセコンの性能の問題かもしれませんが、一般名処方も覚えなくてはならないのが困ります。後でカルテを見る時に、この薬は何の薬?と思ってしまう事が多々あり、いずれ医療事故を招きかねない感じがします」(診療所・クリニック,内科,50代)「どんな後発品でも良いから変更させて医療費削減しか考えない厚労省、突然『その薬剤はうちでは生産中止になりました』という製薬会社、自分に都合の良いように処方を変える調剤薬局。病院(医師)側だけが面倒な一般名処方をする必要はない」(一般病院,内科,50代)「処方箋に一般名を書くのは、調べるのと書くのに手間がかかる。また覚えにくいので歓迎できない。仕方なく実施している」(診療所・クリニック,内科,60代)「推進したいのであれば『自己負担のない方は、原則的に後発品処方』くらいの姿勢が必要と思います」(一般病院,循環器内科,30代以下)「一般名の管理番号(厚労省のコード)が振り当てられていないものが多く、一般名処方が適宜、状況に応じてになってしまっている」(診療所・クリニック,耳鼻咽喉科,50代)「門前薬局と事前に打ち合わせて、一般名だが先発品を使うもの、後発品でも構わないものを分けている。何が出されているか分からないのは避けるようにしている。降圧剤等循環器系の薬は出来るだけ先発を使っているが、痛み止め、胃薬などはゾロでも構わないかもと考えている」(診療所・クリニック,腎臓内科,40代)「後発品は多くの会社が生産しているが、調剤薬局では一般名だとどこの会社が選ばれているのかが分からない。後発品の一般名がまだ手書き処方をしているため、一診察に時間がかかっている」(診療所・クリニック,内科,40代)「長い名前を書くのが大変なので最初の4文字だけにして欲しい。錠とかの材形は省略可にして欲しい。余計な手間がかかって診療に集中できない」(一般病院,整形外科,40代)「合剤やらいろいろ出ている中、一般名で全て済ませるのは無理がある」(大学病院,膠原病・リウマチ科,40代)「医療費抑制のため後発品を推進するのは仕方ないとしても、生活保護受給者が『どうせお金がかからないから先発品で』と言ったり、生活保護こそ後発品にすべきだという意見に『差別するのか』と言うのはけしからんと思う。厚労省は強い態度で臨んでほしい」(一般病院,外科,50代)「後発品は使用したくないが、点数のためにしています。やむをえず・・・」(診療所・クリニック,皮膚科,30代以下)「後発品使用についてはやむをえないと思うが、ころころ政策を変えすぎで混乱しやすい」(診療所・クリニック,整形外科,40代)「厚労省の方針や後発薬について思うこと 1)抗痙攣薬では、先発品と後発品の間で明らかに効果に差があります。2)医師のみならず、レセコン入力の事務職員、薬局のレベルでも仕事が煩雑となり、ミスが起きやすくなります。3)医療費の削減に際しては、根幹の、終末期医療をどうするのか、先端医療の費用は、国民皆保険制度はどうするのかを議論せず、後発薬の普及は枝葉末節の話だと思っています」(診療所・クリニック,小児科,50代)「このたびの一般名処方加算は、なんとも下らないものである。後発品への移行を促すならば、もっと抜本的なインセンティブを考えるべきである」(診療所・クリニック,糖尿病・代謝・内分泌内科,40代)「後発品の名称は、先発品名の後ろに後発品であることがわかる記号や製造会社名を付加する形式にすれば良かったのです。なぜこんなに単純なことが素直にできなかったのか。また後発品メーカーには、医薬品費低減目的のためにも広告は一切禁止すべき」(一般病院,内科,50代)「すべて一般名処方とするのがふさわしいと思う」(一般病院,精神科,30代以下)「院内で先発薬を処方するのと、処方箋を出し後発薬を薬局で処方してもらうのとでは、患者からみたトータルコストはほぼ変わらない。こんな薬局寄りの保険点数配分はおかしい」(診療所・クリニック,内科,40代)「ほとんどの医師は一般名は"うる覚え"が現実です。いつでも・どこでも事故が起こる可能性があります、が、事故が起こっても厚労省は隠す(積極的な公表はしない)でしょうが…」(一般病院,小児科,30代以下)「今後発売する後発品はいわゆる商品名はつけず、すべて一般名での発売としてもらいたい。先発品ならいざ知らず、売れなければいつ撤退し手に入らなくなるかも知れない後発品にまで商品名がつけられ、それをその都度覚え直すという全く価値のない作業にこれまでどれほどの労力を割いたことか」(一般病院,整形外科,50代)「①後発品使用を推進するのは、財政上もっともかと思います。一部の循環器系薬などは、後発品が先発品と同等の効果を持っていないようですが、私が関係する領域では概ね『後発品で効かなくなった』『効き方が先発品と違う』等のクレームは経験していません。②そもそも日本では先発品の薬価が高すぎるのが問題。日本の薬剤費の高さは異常です」(一般病院,精神科,50代)「医療費削減のために後発品を推奨するなら、先発品の特許が切れたのち先発品の値段を後発品並みに下げればよいと思う」(一般病院,消化器内科,60代)「後発薬の有無が分かりにくいときがある」(一般病院,呼吸器内科,40代)「後発品の中にはいまだ品質などが安定しないものも多く、基本的には先発品の使用を行いたいが、受けてくれている薬局などに対し後発品の使用割合による支払額の差などがつくため『やむを得ず』一般名処方を行っているのが本心である」(診療所・クリニック,小児科,50代)「しくみをよくわからず、電子カルテのなすがままに任せています。今のところ、トラブルはないようですが・・・」(大学病院,産婦人科,30代以下)「先発品と後発品の保険適応を一致させるべき」(一般病院,内科,40代)

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Vol. 1 No. 2 糖尿病と心血管イベントの関係

横井 宏佳 氏小倉記念病院循環器内科はじめに糖尿病患者の心血管イベント(CV)予防とは、最終的には心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症といったアテローム性動脈硬化症(ATS)の発症をいかに予防するか、ということになる。そのためには、糖尿病患者の動脈硬化の発生機序を理解して治療戦略を立てることが必要となる。糖尿病において見られるアテローム血栓性動脈硬化症の促進には慢性的高血糖、食後高血糖、脂質異常症、インスリン抵抗性を含むいくつかの代謝異常が関連しており、通常状態や血管再生の状態でのCVを起こすような脆弱性を与える。また、代謝異常に加えて、糖尿病は内皮細胞・平滑筋細胞・血小板といった複数の細胞の配列を変える。糖尿病が関連するATSのいくつかの特徴の記述があるにもかかわらず、ATS形成過程の始まりと進行の確定的なメカニズムはわからないままであるが、実臨床における治療戦略としてはATSに関わる複数の因子に対して薬物治療を行うことが必要になる。インスリン抵抗性脂質代謝異常、高血圧、肥満、インスリン抵抗性はすべて、メタボリックシンドロームのカギとなる特徴であり、引き続いて2型糖尿病に進行する危険性の高い患者の最初の測定可能な代謝異常でもある。インスリン抵抗性は、インスリンの作用に対する体の組織の感度が低下することであり、これは筋肉や脂肪でのグルコース処理や肝臓でのグルコース産出でのインスリン抑制に影響する。結果的に、より高濃度のインスリンが、末梢でのグルコース処理を刺激したり、2型糖尿病患者では糖尿病でない患者よりも肝臓でのグルコース産出を抑制したりするのに必要である。生物学的なレベルでは、インスリン抵抗性は凝固、炎症促進状態、内皮細胞機能障害、その他の病態の促進に関連している。インスリン抵抗性の患者では、内皮細胞依存性血管拡張は減少しており、機能障害の重症度はインスリン抵抗性の程度と相互に関係している。インスリン抵抗性状態での内皮細胞依存性血管拡張異常は、一酸化窒素(NO)の産生を減少させる細胞内シグナルの変化によって説明できる。つまり、インスリン抵抗性は、遊離脂肪酸値の上昇と関連しており、それがNO合成酵素の活性を減少させ、インスリン抵抗性状態においてNOの産生を減らす。臨床的には、インスリン抵抗性はCVリスクを増加させることに関連している。当院の2006年の急性心筋梗塞患者連続137例の検討では、本邦のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす患者は49%を占めており、久山町研究の男性29%、女性21%よりも高率であった。この傾向は1990年前半に行われた米国の全国国民栄養調査の成績と同様であった。また、当院で施行した糖尿病と診断されていない患者への糖負荷試験と冠動脈CTの臨床研究でも、インスリン抵抗性と冠動脈CT上の不安定プラークの存在(代償性拡大、低CT値、限局性石灰化)との間に有意な相関を認めた。インスリン抵抗性を改善する薬物にはビグアナイド薬(BIG)とチアゾリジン薬(TZD)が存在するが、ATSの進展抑制の観点からはTZDがより効果的である。TZD(PPARγアゴニスト)は、血中インスリン濃度を高めることなく血糖を低下させる効果を有し、インスリン抵抗性改善作用はBIGよりも強力である。また、糖代謝のみならず、BIGにはないTG低下、HDL増加といった脂質改善作用、内皮機能改善による血圧降下作用、アディポネクチンを直接増加させる作用を有し、抗動脈硬化作用が期待される。さらに、造影剤使用時の乳酸アシドーシスのリスクはなく、PCIを施行する患者には安心して使用できる利点がある。このほかに、血管壁やマクロファージに直接作用して抗炎症、抗増殖、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1( PAI-1)減少作用を有することが知られている。この血管壁に対する直接作用はATS進展抑制作用が期待され、CVイベント抑制に繋がる可能性が示唆される。実際、臨床のエビデンスとしては、PROactive試験のサブ解析における心筋梗塞既往患者2,445例を抽出した検討で、ピオグリタゾン内服患者が非内服患者に比較して、心筋梗塞、急性冠症候群(ACS)などの不安定プラーク破裂により生じる心血管イベントは有意に低率であることが示されている。またPERISCOPE試験では、糖尿病を有する狭心症患者におけるIVUSを用いた検討において、SU剤に比較してピオグリタゾンは18か月間の冠動脈プラークの進行を抑制し、退縮の方向に転換させたことが明らかとなり、CV抑制の病態機序が明らかとなった。また、ロシグリタゾンではLDL上昇作用によりCVイベントを増加させるが、ピオグリタゾンのメタ解析ではCVイベントを有意に抑制することが報告されている。ピオグリタゾンは、腎臓におけるNa吸収促進による循環血液量の増大による浮腫、体重増加、心不全の悪化、骨折、膀胱癌などの副作用が指摘されているが、CVイベント発症時の致死率を考えるとrisk/benefitのバランスからは、高リスク糖尿病患者には血糖管理とは別に少なくとも15mgは投与することが望ましいと思われる。内皮細胞機能障害糖尿病血管疾患は内皮細胞機能障害によって特徴づけられ、それは、高血糖、遊離脂肪酸産生の増加、内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少、終末糖化産物(AGE)の形成、リポ蛋白質の変化、そして前述のインスリン抵抗性と関係する生物学的異常である。内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少は、後に内皮細胞依存性の血管拡張障害を伴うが、検出可能なATS形成が進行するよりもずっと前に糖尿病患者において観察される。NOは潜在的な血管拡張因子であり、内皮細胞が介在して制御する血管弛緩のメカニズムのカギとなる物質である。加えて、NOは血小板の活性を抑え、白血球が内皮細胞と接着したり血管壁に移動したりするのを減少することによって炎症を制限し、血管平滑筋細胞の増殖と移動を減らす。結果として、正常な場合、血管壁におけるNO代謝は、ATS形成阻害という保護効果を持つ。AGEの形成は、グルコースについているアミノ基の酸化の結果である。増大するAGE生成物によって誘発される追加の過程は、内皮下細胞の増殖、マトリックス発現、サイトカイン放出、マクロファージ活性化、接着分子の発現を含んでいる。慢性的高血糖、食後高血糖による酸化ストレスが、糖尿病合併症の病因として重要な役割を果たしているのだろうと推測されている。高血糖は、グルコース代謝を通して直接的にも、AGEの形成とAGE受容体の結合という間接的な形でも、ミトコンドリア中の活性酸素種の産生を誘発する。臨床的には内皮細胞機能障害がATSの進行を助長するのみならず、冠動脈プラーク破裂の外的要因である冠スパスムも助長することになる。急性心筋梗塞患者の20%は冠動脈に有意狭窄はなく、薬物負荷試験で冠スパスムが誘発される。高血圧患者に対して施行されたVALUE試験では、スパスムを予防できるカルシウム拮抗薬(CCB)が有意にアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)よりも心筋梗塞の発症を予防すること、またBPLTTCのメタ解析では、NO産生を促すACE阻害薬がARBよりも冠動脈疾患の発生が少ないことなどが明らかにされ、これらの結果は、心筋梗塞の発生に内皮細胞機能障害によるスパスムが関与していることを示唆している。従って糖尿病患者においては内皮細胞機能障害を念頭に、特にスパスムの多いわが国においては、降圧薬としてはHOPE試験でエビデンスのあるRA系阻害薬に追加してCCBの投与を考慮すべきではないかと思われる。また、グルコーススパイクが内皮細胞のアポトーシスを促進させることが知られている。自験例の検討でも、食後高血糖がPCI施行後のCVイベント発症を増加させることが判明しており、STOP-NIDDM試験、MeRIA-7試験のエビデンスと合わせて、内皮機能障害改善のためにα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)の投与も考慮すべきであると思われる。血栓形成促進性状態糖尿病患者が凝固性亢進状態にあるという知見は、血栓形成イベントのリスク増加と凝固系検査値の異常が基となっている。ACS患者の血管内視鏡による検討では、プラーク潰瘍および冠内血栓は、糖尿病患者においてそうでない患者よりも頻繁に見られることが明らかにされている。同様に、血栓の発生率は、糖尿病患者から取った粥腫切除標本の方が、そうでない患者から取ったそれよりも高いこともわかった。糖尿病患者では、ずり応力(シェアストレス)に対して、血小板の作用と凝集が亢進し、血小板を刺激する。加えて、血小板表面上の糖タンパク質GP-Ib受容体やGPⅡb/Ⅲaの発現が増加するといわれている。その上、抗凝集作用を持つNOやプロスタサイクリンの内皮細胞からの産生が減少するのに加え、フィブリノゲン、組織因子、von Willebrand因子、血小板因子4、因子Ⅶなどの凝血原の値が増加し、プロテインC、抗トロンビンⅢなどの内因性抗凝血物質の濃度が低下することが報告されている。さらにPAI-1が内在性組織のプラスミノーゲンアクチベーター仲介性線溶を障害する。つまり、糖尿病は、内因性血小板作用亢進、血小板作用の内在性阻害機構の抑制、内在性線溶の障害による血液凝固の亢進によって特徴づけられる。臨床的には、CVイベント予防のために高リスク糖尿病患者へのアスピリン単剤投与がADAのガイドラインでも推奨されている。クロピドグレルの併用は、出血のリスクとのバランスの中で症例個々に検討していく必要があると思われる。GPⅡb/Ⅲa受容体拮抗薬は、糖尿病患者のPCIの予後を改善することが報告されているが、本邦では未承認である。炎症状態炎症は、急性CVイベントだけでなくATS形成の開始と進行にも関係がある。糖尿病を含むいくつかのCVリスクファクターは炎症状態の引き金となるだろう。白血球は一般的には炎症の主要なメディエーターと考えられているが、近年では、炎症における血小板がカギとなる役割を果たすことが報告されている。この病態と関連する代謝障害が血管炎症の引き金となるということはもっともなことだが、その逆もまた正しいのかもしれない。従って、C反応性タンパク質(CRP)が進行する2型糖尿病のリスクを非依存的に予測するものとして示されてきた。糖尿病や明らかな糖尿病が見られない状態でのインスリン抵抗性状態において上昇する炎症パラメーターには、高感度C反応性タンパク質(hsCRP)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、循環性(可溶性)CD40リガンド(sCD40L)がある。さらに内皮細胞(E)-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞内接着分子1(ICAM-1)などの接着分子の発現が増加することもわかっている。血管炎症作用亢進状態での形態学的な基質は、ACS患者の粥腫切除標本の分析から得たものである。糖尿病患者の組織は、非糖尿病患者の組織と比較して、脂質優位の粥腫がより大部分を占めており、より明らかなマクロファージ浸潤が見られる。特に糖尿病患者においては、冠血管のATS形成過程を促進することでAGE受容体(RAGE)が炎症過程や内皮細胞作用に重要な役割を果たすかもしれない。近年では、ATS形成が見られる患者における炎症促進のカギとなるサイトカインであるCRPが、内皮細胞でのRAGE発現をアップレギュレートすることが報告されている。これらの知見は、炎症、内皮細胞機能障害、ATS形成における糖尿病の機構的な関連を強化している。臨床的にCVイベントの発生に炎症が関与しており、その介入治療としてスタチンが効果的であることがJUPITER試験より明らかとなった。CARDS試験ではストロングスタチンが糖尿病患者のCVイベント抑制に効果的であることが報告されたが、この効果はLDL低下作用とCRP低下作用の強力な群でより顕著であった。2010年、ADAでは糖尿病患者のLDL管理目標値は1次予防で100mg/dL、2次予防で70mg/dLとより厳格な脂質管理を求めているが、脂質改善のみならず、抗炎症効果を期待したものでもあると思われる。プラーク不安定性と血管修復障害ATS形成の促進に加えて、糖尿病ではプラーク不安定性も起きる。糖尿病患者での粥状動脈硬化症病変は、非糖尿病患者に比して、血管平滑筋細胞が少ないことが示されている。コラーゲン源として血管平滑筋細胞は粥腫を強化し、それを壊れにくくする。加えて、糖尿病の内皮細胞は、血管平滑筋細胞によるコラーゲンの新たな合成を減少させる過剰量のサイトカインを産生する。そして最後に、糖尿病はコラーゲンの分解につながるマトリックスのメタロプロテイナーゼの産生を高め、プラークの線維性キャップの機械的安定性を減少させる。つまり、糖尿病はATS病変の形成、プラーク不安定性、臨床的イベントによって血管平滑筋細胞の機能を変える。糖尿病患者では非糖尿病患者より、壊れやすい脂質優位のプラークの量が多いことが報告されてきた。その上、糖尿病患者では、血管修復に重要な制御因子であると考えられているヒト内皮前駆細胞の増殖、接着、血管構造への取り込みが障害されていることが近年の知見で示唆されている。前述の機能障害に加えて、年齢と性をマッチさせ調整した対照群と比較して、培養液中の糖尿病患者から取った内皮前駆細胞の数が減っていることがわかり、その減少は逆にHbA1c値と関係していた。別の調査では、末梢動脈疾患を持つ糖尿病患者では、内皮前駆細胞値が特に低いことが報告されており、この株化細胞の枯渇が、末梢血管の糖尿病合併症の病変形成に関わっているのではないかと推測されている。ピオグリタゾンは糖尿病患者の内皮前駆細胞を増加させることが知られている。まとめ以上のごとく、糖尿病患者のCVイベント予防のためにはHbA1cの管理に加えて、ATS発症に影響を及ぼす多様な因子に対して集学的アプローチが重要となる。Steno-2試験では糖尿病患者に対して血糖のみならず、脂質、高血圧管理を同時に厳格に行うことでCVイベントを抑制した。血糖管理に加えて、スタチン、アスピリン、RA系阻害薬、CCB、TZD、α-GIによる血管管理がCVイベント抑制に効果的であると思われる。また、今後EPA製剤による脂肪酸バランスの是正、DPP-4やGLP-1などのインクレチン製剤による心血管保護も、糖尿病患者のCVイベント抑制に寄与することが期待される。今後は、糖尿病患者ごとにCVイベントリスクを評価し、薬物介入のベネフィットとリスクとコストのバランスを考慮して最適な薬物治療を検討していくことが重要になると思われる。このような観点から、今後登場する各種合剤は、この治療戦略を実行する上で患者服薬コンプライアンスを高め、助けになると思われる。

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急性脳内出血後の降圧治療、積極的降圧vs.ガイドライン推奨/NEJM

 発症6時間以内の急性脳内出血患者に対して、1時間以内の収縮期血圧目標値<140mmHgとした積極的降圧治療と、ガイドラインで推奨されている同<180mmHgの場合を比較した、オーストラリア・シドニー大学のCraig S. Anderson氏らによるINTERACT2試験の結果が報告された。死亡および重度身体障害発生の主要転帰について、積極的降圧治療の有意な低下は示されなかったが、試験課程で脳卒中試験に認められたRankinスコアの順序尺度解析(ordinal analysis)では、機能的転帰の改善が示されたという。NEJM誌オンライン版2013年5月29日号掲載の報告より。目標<140mmHgとガイドライン推奨<180mmHgを比較 INTERACT2(Intensive Blood Pressure Reduction in Acute Cerebral Hemorrhage Trial 2)は、脳内出血患者への早期の積極的降圧治療の有効性と安全性を評価することを目的に、2008年10月~2012年8月に21ヵ国144病院から被験者を募り行われた国際多施設共同前向き無作為化非盲検試験だった。 被験者は、発症6時間以内の脳内出血患者は2,839例(平均年齢63.5歳、男性62.9%)で、無作為に、積極的降圧治療を受ける群(1時間以内の収縮期血圧目標値<140mmHg、1,403例)またはガイドライン推奨治療(1時間以内の収縮期血圧目標値<180mmHg、1,436例)に割り付けられた。使用する降圧治療は医師の選択にて行われた。 主要転帰は90日時点での、修正Rankinスケールのスコア3~6で定義される死亡(スコア6)または重大な身体障害(スコア5)とした。また、修正Rankinスコアの事前規定順序尺度解析も行い副次アウトカムとして評価した(スコア0~6の全7段階の身体的機能評価)。その他に重度有害事象イベントの発生率について両群間で比較した。順序解析で積極的降圧治療による機能的転帰の改善が示される 主要転帰の判定を受けたのは2,794例だった。<140mmHg群での主要転帰発生は、719/1,382例(52.0%)、ガイドライン推奨治療群は785/1,412例(55.6%)で、<140mmHg群のオッズ比は0.87(95%信頼区間[CI]:0.75~1.01、p=0.06)で有意差はみられなかった。 一方で、順序解析の結果、修正Rankinスコアの低下は、<140mmHg群が有意であった(より重大な障害に関するオッズ比:0.87、95%CI:0.77~1.00、p=0.04)。 死亡率は、<140mmHg群11.9%、ガイドライン推奨治療群12.0%だった(p=0.96)。 また、非致死的重大有害事象の発生は、それぞれ23.3%、23.6%だった(p=0.92)。 これらの結果から著者は、「積極的降圧治療は、主要転帰を有意に減少しなかった。修正Rankinスコアによる順序解析では、積極的降圧治療による機能的転帰の改善が示された」と結論している。

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「脳卒中再発予防のためには収縮期血圧130mmHg未満」を支持する結果(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(105)より-

脳卒中既往歴のある症例の降圧目標値に関して、欧州のガイドラインは130/80mmHgとしている。これは、脳卒中再発予防におけるACE阻害薬ペリンドプリルの有用性を検討したPROGRESS試験の結果を参考にしている。一方、わが国のガイドライン2009年版では140/90mmHgとしているが、これに関しては反論も多い。脳卒中初発および再発の、最大のリスク因子は高血圧であることに議論の余地はなく、これまでの介入試験でも”The lower the better”を証明してきた。 本試験SPS3(Secondary Prevention of Small Subcortical Stroke)trialは、NIHの公的支援によっておこなわれた臨床試験である。約3,000人のラクナ梗塞患者を収縮期血圧130~149mmHg目標群と130mmHg未満を目標とする群にランダマイズして、平均3.7年間追跡された。全脳卒中、致死的脳卒中、心筋梗塞複合などにおいていずれも有意は差はみられなかったものの、厳格目標群の方が発症率が低い傾向が認められた。頭蓋内出血は厳格降圧群の方が有意に発症率が低いという結果だった。この結果は、従来の「脳卒中再発抑制のためには収縮期血圧130mmHg未満のより厳格な降圧が望ましい」というコンセンサスを支持する結果といえる。 本試験では、試験開始直後から両群間の血圧値に大きな差がみられ、その差が継続していることが大きな特徴である。3,000人規模の参加者にもかかわらず有意差がつかなかった最大の理由はやはり、イベント発症数が少なかったことによる。 医療現場では、再発予防のために抗血小板薬は必須となっており、また高脂血症があればスタチン薬を処方する時代になったため、脳卒中再発が発生しにくい状況にあることを反映しているともいえよう。

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カリウム摂取は血圧を下げ、脳卒中を減らす。(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(95)より-

米国、日本などではカリウム摂取量が減少傾向にあることが指摘されている。一方、カリウムを摂取するとナトリウム排泄が促進され、血圧を下げる作用があることは、実験レベルではよく知られており、またそのことを証明した臨床研究も少なくない。本メタ解析では1,606人の参加者を含む22のランダム化比較試験と、約12万人を含む11のコホート研究のメタ解析である。解析対象が多いことで、成人と子ども、高血圧の有無など、さまざまなサブ解析も可能にしている。 結果として、食品であれ、サプリメントであれ、カリウム摂取は血圧を有意に下げるとともに、脳卒中を有意に抑制する効果が示されている。 血圧の下降度は、成人では収縮期血圧で平均3.49mmHgの有意な降圧をもたらし、子どもにおいても、有意ではないが減少傾向を示している。とくにカリウム摂取効果は高血圧患者で明らかであった。カリウム摂取量も1日90~120mmolでは収縮期血圧の下降度は平均7.16mmHgにも及んだという。カリウム摂取量と脳卒中発症との間には逆相関もみられ、改めてその重要性を示した点で本メタ解析の意義は大きい。 ただし、腎機能障害や心不全のある症例は除外されている点は注意を要する。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(93)〕 すべての非心臓手術症例でのβ遮断薬投与は必須か?

これまで心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の投与はClass Iとされてきたが、すべての患者に投与することによる有用性は無いという報告がされるようになった。また、降圧薬としてのβ遮断薬も欧州のガイドラインからは除外された。さらに、β遮断薬間でも、心不全患者の予後改善効果に差があることがメタ解析から報告されている。  このようにβ遮断薬をめぐる種々の問題があるなかで、非心臓手術患者周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は、現在も結論が得られていない。メタ解析やコホート研究では、周術期のβ遮断薬の有効性を示した報告も数多くあるが、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACC(米国心臓協会/米国心臓病学会)ガイドラインでは、すでに他の疾患のためにβ遮断薬が投与されている患者に限って、周術期も継続投与すべき、とされるにとどまっている。  本研究では、米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例を対象に、β遮断薬の投与の有無でみた30日全死因死亡、副次的評価項目である心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率を調べ、後ろ向きにβ遮断薬の有効性について検討された。β遮断薬の投与は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子(うっ血性心不全、心血管疾患、糖尿病、虚血性心疾患、高リスク手術、慢性腎臓病)数が増えるに従ってリスクを低下させることが示され、今後ランダム化試験が必要とされるものの、術前にRCRIを評価したうえでβ遮断薬の投与を考慮すべき、と本論文では結論付けられている。  ただ、わが国では多くの施設で術前の心疾患のスクリーニングがなされ、かつ心機能を含めた評価のうえで手術が行われている。このようにRCRI以上のリスク評価のうえで手術が行われている現状を考慮すれば、β遮断薬投与の新たな必要性が問題となることは少ないであろう。ただ、β遮断薬の投与量や薬剤の選択を含め、β遮断薬の投与の是非を検討することは今後とも必要である。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(90)〕 否定された『減塩パラドックス』―降圧の基本は、やはり減塩。

食塩摂取と高血圧とは、いわば切っても切れない関係にある。 薬剤による降圧療法は日常的に行われているが、各国の高血圧診療ガイドラインでは、薬物療法に先行する生活習慣の改善(life style modification)、なかでも『減塩』の履行・遵守を強く勧めている。高血圧診療における、生活習慣の改善の代名詞が『減塩』であり、日本高血圧学会でも学会をあげて『減塩』に取り組んでいる。たとえば、例年開催される学会のランチは減塩弁当であり、また昨年初めて行われた減塩サミットの共催に名を連ねた。 本論文は、こうした『減塩』の価値を、改めて再確認する内容をSystematic Review・メタ解析の手法を用いて報告している。いまさらとも言われかねない『減塩』の価値を検討し、証明する試みがなされ、BMJに発表された背景には、2011年に相前後してJAMAに発表された2本の論文で、『減塩パラドックス』、すなわち過度の減塩が心血管イベントを増加させる可能性が報告されたことが強く影響している1), 2)。これらの論文では、減塩が心血管イベントの抑制につながらない根拠として、減塩によるレニン・アンジオテンシン系の活性化や、交感神経系の活性化、脂質異常の悪化の可能性があげられている。 これらの論文は、JAMAに掲載されると瞬く間に反論、疑義が寄せられ、議論の的となった3)~11)。反論の中核となった論点は、食塩摂取量の推定方法 (標準的な24時間蓄尿サンプルによる推定ではなく、single urine sampleによる推定に基づいている)、データ採集の方法(数年間の隔たりがあるコホートについて解析をしており、データ採集時期に重大な差がある)であり、誤った手法によって収集されたデータが、誤った結論を導いた可能性が指摘されている。 著者らは、改めて厳格な選定基準のもと選定した研究成果に対して、Systematic Review・メタ解析を行った。その結果は、従来通り『減塩』の有効性を支持するものであり、世界的・公衆衛生学的な取り組みの修正を迫るものではなかった。CKDの評価項目にも採用されているsingle urine sampleによる簡便な評価法は、疾病についての啓蒙や、さまざまなコストの軽減、データ収集の容易さをもたらすメリットがある。しかし、このような簡便さによって、科学的な評価に耐えるデータ収集が損なわれている可能性があることを見過ごしてはいけない。ポストホック解析や、観察研究による問題提起は重要であるが、科学に求められていることは、普遍的な真実の解明であることを忘れてはならないのではないか。参考文献1) Stolarz-Skrzypek K, et al. JAMA. 2011; 305: 1777-1785.2) O'Donnell MJ, et al. JAMA. 2011; 306: 2229-2238.3) Aleksandrova K, et al. JAMA. 2011; 306:1083.4) Bochud M, et al. JAMA. 2011; 306: 1084.5) Cook NR. JAMA. 2011; 306: 1085.6) de Abreu-Silva EO, et al. JAMA. 2011; 306: 1085-1086.7) He FJ, Appel LJ, et al. Kidney Int. 2011; 80: 696-698.8) Labarthe DR, et al. JAMA. 2011; 306: 1084-1085.9) Rebholz CM, et al. JAMA. 2011; 306: 1083-1084.10) Whelton PK. JAMA. 2011; 306: 2262-2264.11) Mann S. JAMA. 2012; 307: 1138-1139.

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薬剤誘発性高プロラクチン血症への対処は?

 抗精神病薬による薬剤誘発性の高プロラクチン血症は男女を問わず問題となる。ルーマニアのキャロル・ダビラ医科薬科大学のVictor Voicu氏らは、下垂体でのプロラクチン分泌制御のメカニズムや薬物療法の分析結果を報告した。Expert opinion on drug metabolism & toxicology誌オンライン版2013年4月21日号の報告。 本研究では、プロラクチン分泌を制御する主要なメカニズムについて、さまざまな神経伝達物質や薬物動態だけでなく、精神的または心的外傷後ストレスとの相互作用にも焦点を当て検討した。また、高プロラクチン血症に影響を及ぼす薬物療法の詳細な分析(薬物動態、薬理学的メカニズム)や長期投与の臨床的意義も検討した。 主な専門家からの意見は以下のとおり。・薬剤誘発性の高プロラクチン血症に対する、正確なモニタリングと評価を行うことが強く推奨される。・第一世代抗精神病薬、一部の第二世代抗精神病薬(アミスルプリド、リスペリドン、パリペリドン)、いくつかの抗うつ薬、降圧薬、抗パーキンソン薬は高プロラクチン血症を誘発する。・薬剤誘発性高プロラクチン血症は、ドパミンD2受容体に対する親和性、血液脳関門浸透性と相関しており、脳内のD2受容体占拠と関連する。・抗精神病薬誘発性の高プロラクチン血症を適切に管理するためには、薬物動態および薬理学的データから、アリピプラゾールのような高プロラクチン血症を起こしにくい薬剤への切り替えが推奨される。関連医療ニュース 抗精神病薬によるプロラクチン濃度上昇と関連する鉄欠乏状態 アリピプラゾールvsその他の非定型抗精神病薬:システマティックレビュー 統合失調症患者とタバコ、どのような影響を及ぼすのか?

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大人も子どもも減塩によるベネフィットがある/BMJ

 世界保健機構(WHO)のNancy J Aburto氏らは、減塩による降圧効果および心血管疾患との関連、さらに血中脂質、カテコールアミン、腎機能の変化にみられる有害反応の可能性について、システマティックレビューとメタ解析を行った。これらに関する過去のメタ解析は方法論の限界や検出力不足が指摘され、さらに一部の研究者から減塩は健康を害する可能性があるといった報告もあり、WHO栄養ガイドライン専門家アドバイザリーグループ栄養・健康サブグループが、減塩と非伝染性疾患との関連を明らかにすることを求められたことによる。BMJ誌オンライン版2013年4月3日号掲載の報告より。成人・小児を含む非急性疾患の無作為化試験または前向きコホート試験をメタ解析 研究グループは、成人・小児非急性疾患の無作為化試験または前向きコホート試験で、食塩摂取と血圧、腎機能、血中脂質値、カテコールアミン値との関連を評価している試験、さらに成人対象の非急性疾患で全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、虚血性心疾患との関連を評価している試験を適格とし、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Medline、Embaseなどをデータソースとして文献検索を行った。 その結果、14件のコホート試験と5件の無作為化対照試験(全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、虚血性疾患について報告)、37件の無作為化対照試験(成人の血圧、腎機能、血中脂質、カテコールアミンの測定を報告)、9件の無作為化対照試験と1件のコホート試験(小児の血圧について報告)のデータを解析に組み込んだ。ナトリウム摂取量2g/日(食塩相当5g)未満群のほうが降圧効果は大きい 解析の結果、成人において減塩は、有意な降圧をもたらした。安静時収縮期血圧は-3.39mmHg[95%信頼区間(CI):-4.31~-2.46]、同拡張期血圧は-1.54mmHg(同:-2.11~-0.98)低下した。また、ナトリウム摂取量2g/日(食塩相当5g)未満群は同2g/日以上群と比べて、収縮期血圧は-3.47mmHg(同:-6.18~-0.76)、拡張期血圧は-1.81mmHg(同:-3.08~-0.54)低かった。 一方で、減塩の血中脂質、カテコールアミン値、腎機能に対する有意な有害反応は認められなかった(p>0.05)。 死亡率および罹病率への影響を評価するための無作為化試験は不十分であった。またコホート試験における評価で、減塩と全死因死亡、致死的・非致死的心血管疾患、虚血性心疾患発生について有意な関連は認められなかった(p>0.05)。 その一方で食塩摂取量の増加と脳卒中リスク上昇との関連(リスク比:1.24、95%CI:1.08~1.43)、また脳卒中死(同:1.63、1.27~2.10)、虚血性心疾患死(同:1.32、1.13~1.53)との関連が認められた。 小児においても減塩と降圧の有意な関連が認められた。収縮期血圧は-0.84mmHg(95%CI:-1.43~-0.25)、拡張期血圧は-0.87mmHg(同:-1.60~-0.14)低下した。 著者は、「成人における減塩の降圧効果および脂質などへの有害反応はないということについて質の高いエビデンスが得られた。また小児においても減塩の降圧効果があるという中等度の質のエビデンスが得られた」と報告。「成人では減塩量が大きいほど脳卒中リスクや致死的虚血性疾患が低いことも認められた。これらのエビデンスは総合すると、大半の人が減塩によりベネフィットを得られることを示すものである」とまとめている。

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高血圧患者も正常血圧の人も、まずは-4.4g/日、4週以上の減塩継続を/BMJ

 現在、多くの国で、食塩の1日摂取量は約9~12g/日から5~6g/日へという減塩の推進が行われている。そのような減塩の降圧効果のエビデンスも多く示されるようになり、より少ない食塩摂取(3g/日)は心血管疾患リスクの低下と関連するとの前向きコホート研究の結果も示されている。しかし最近のメタ解析報告で、減塩はホルモンや脂質には逆効果で降圧のベネフィットが軽減される可能性があり、正常血圧の一般集団における減塩効果は疑問とする報告がなされた。英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のFeng J He氏らは、その解析には20g/日を4~5日間だけ1g/日とするといった最近の流れとは異なる多量・短期の減塩効果をみた試験が含まれているとして、少量・長期の減塩効果に的を絞ったメタ解析を行った。その結果、-4.4g/日、4週以上の減塩継続が、高血圧患者、正常血圧の人、また性別、人種を問わず、有意に大きな降圧効果をもたらし心血管疾患予防に結びつくことを報告した。BMJ誌オンライン版2013年4月3日号掲載の報告より。少量・長期の減塩効果に的を絞った34試験・3,230例についてメタ解析 He氏らは、減塩量が少量で試験期間が4週間以上であった無作為化試験を適格基準とし、Medline、Embase、Cochrane Hypertension Group Specialised Registerなどから該当文献を検索した。2人の独立レビュワーがデータ抽出を行い、ランダムエフェクトメタ解析、サブグループ解析、メタ回帰分析を行った。 解析には、34試験・3,230例が組み込まれた。試験期間中央値は4週間(範囲:4週~3年)、被験者の年齢中央値は50歳、24時間尿中Na量中央値160mmol、食塩摂取量中央値9.4g/日(範囲:7.3~11.7g/日)、血圧中央値141/86mmHgであった。 プール解析の結果、被験者の24時間尿中Na量の平均低下値は75mmol、食塩相当量で4.4g/日の減塩を行っており、この減塩に伴い血圧中央値は収縮期血圧が-4.18mmHg(95%信頼区間[CI]:-5.18~-3.18、I2=75%)、拡張期血圧は-2.06mmHg(同:-2.67~-1.45、68%)低下していた。 メタ回帰分析では、年齢、人種、血圧状態(高血圧あるいは正常血圧)、24時間尿中Na量はすべて、収縮期血圧低下と有意に関連していた(試験間のバリアンス68%)。 また、24時間尿中Na量100mmol(食塩6g/日相当)の低下は、収縮期血圧5.8mmHg(95%CI:2.5~9.2、p=0.001)の低下(年齢、人種、血圧状態で調整後)をもたらした(拡張期血圧、年齢、人種、血圧状態、24時間尿中Na量変化値で補正後の試験間のバリアンスは41%)。食塩1日摂取量5~6g/日の減塩推奨、将来的には3g/日を目標値に 高血圧患者についてのメタ解析では、収縮期血圧-5.39mmHg(95%CI:-6.62~-4.15、I2=61%)、拡張期血圧-2.82mmHg(同:-3.54~-2.11、52%)の減塩効果が認められた。また正常血圧者のメタ解析でもそれぞれ-2.42mmHg(同:-3.56~-1.29、66%)、-1.00mmHg(同:-1.85~-0.15、66%)の減塩効果が認められた。人種や性別にみたサブグループ解析でも、収縮期血圧の有意な低下が認められた。 本解析ではホルモン、脂質への効果も検証された。その結果、血中レニン活性(変化値中央値:0.26ng/mL/時、95%CI:0.17~0.36、I2=70%)、アルドステロン(同:73.20pmol/L、44.92~101.48、62%)、ノルアドレナリン(同:187pmol/L、39~336、5%)ではわずかだが減塩と各値上昇との関連が認められた。しかし、脂質とは有意な関連はみられなかった[総コレステロール(同:0.05mmol/L、-0.02~0.11、0%)、LDL-C(同:0.05mmol/L、-0.01~0.12、0%)、HDL-C(同:-0.02mmol/L、-0.06~0.01、16%)、トリグリセリド(同:0.04mmol/L、-0.02~0.09、0%)]。 解析の結果を踏まえて著者は、「本結果は、一般集団において減塩が降圧とそれによる心血管疾患発生の低下に結びつくことを支持するものである」と結論。「観察された24時間尿中Na量低下と収縮血圧値低下との関連は、減塩量が大きいほど収縮期血圧値の低下も大きくなることを示すものである」と述べた上で、「最近の潮流である食塩の1日摂取量約9~12g/日から5~6g/日へという減塩の推奨は血圧に大きな効果をもたらすと思われる。さらに3g/日への減塩がより大きな効果をもたらすと思われ、人々の食塩摂取量の長期の目標値とすべきである」とまとめている。

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カリウム摂取増で高血圧患者の血圧が低下:WHO調査/BMJ

 カリウム摂取量を増やすことで成人高血圧患者の血圧が低下するとともに、血中脂質濃度やカテコラミン値、腎機能には有害な影響はないことを示す質の高いエビデンスが得られたとする研究結果を、世界保健機関(WHO)のNancy J Aburto氏らの研究グループが、BMJ誌オンライン版2013年4月5日号で報告した。脳卒中のリスクも24%低下したという。カリウム摂取量が少ないと血圧上昇、高血圧、脳卒中のリスクが増加し、多ければこれらの疾患は予防される可能性が指摘されている。一方、カリウム高摂取が血圧や心血管疾患に及ぼす良好な効果に関するデータにはばらつきがあり、血中脂質濃度、カテコラミン値、腎機能に及ぼす有害な作用のデータも十分ではない状況だ。カリウム摂取が健康に及ぼす影響をメタ解析で評価 研究グループは、カリウム摂取が健康に及ぼす影響に関する知見の不足を補うために、文献の系統的レビューとメタ解析を行った。 データベースと既報の総説の文献一覧に当たり、カリウム摂取が血圧、腎機能、血中脂質濃度、カテコラミン値、全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、冠動脈心疾患に及ぼす影響を検討した無作為化対照比較試験およびコホート試験を選出した。 2名の研究者が別個に試験の評価を行い、患者背景および転帰のデータを抽出した。カリウム高摂取の影響を評価するために、逆分散法とランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った(平均差またはリスク比と、その95%信頼区間[CI]を算出)。非高血圧患者では降圧効果なし 血圧、血中脂質濃度、カテコラミン値、腎機能について検討した22件の無作為化対照比較試験(1,606例)および成人の全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、冠動脈心疾患の検討を行った11件のコホート試験(12万7,038例)がメタ解析に含まれた。 カリウム摂取の増加により、成人の高血圧患者で血圧が3.49(95%CI:1.82~5.15)/1.96(同:0.86~3.06)mmHg低下したが、非高血圧患者ではこのような効果はみられなかった。 カリウム高摂取群(90~120mmol/日≒3,500~4,700mg/日)では収縮期血圧が7.16(95%CI:1.91~12.41)mmHg低下したが、用量反応は認めなかった。カリウム摂取の増加が、成人の腎機能、血中脂質濃度、カテコラミン値に有害な作用を及ぼすことはなかった。 カリウム摂取と脳卒中の発症リスクは有意な逆相関を示し、高摂取によりリスクが24%低下した(リスク比:0.76、95%CI:0.66~0.89)。心血管疾患(同:0.88、0.70~1.11)や冠動脈心疾患(同:0.96、0.78~1.19)との間には有意な関連はなかった。 小児では、3件の無作為化対照比較試験と1つのコホート試験において、カリウム摂取の増加により収縮期血圧が0.28(95%CI:-0.49~1.05)mmHg低下するが有意差はないことが示唆された。 著者は、「カリウム摂取量の増加により成人の高血圧患者の血圧が低下し、血中脂質濃度、カテコラミン値、腎機能には有害な作用はないことを示す質の高いエビデンスが得られた。また、カリウム高摂取により脳卒中のリスクが24%低下することを示す中等度の質のエビデンスも確認された」とまとめ、「これらの結果は、血圧上昇および脳卒中の予防、管理においては、カリウム摂取量を増やすことで、腎でのカリウム処理を損なわずにベネフィットがもたらされることを示唆する」と指摘している。

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心不全への標準治療に加えたアリスキレン投与、長期アウトカム改善せず/JAMA

 心不全入院患者に対し、利尿薬やβ遮断薬などの標準的治療に加え、直接的レニン阻害薬の降圧薬アリスキレン(商品名:ラジレス)の投与を行っても、6ヵ月、12ヵ月後のアウトカム改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMihai Gheorghiade氏らによるプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告された。研究グループは、先行研究における、心不全患者に対するアリスキレン投与は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有意に低下し良好な血行動態をもたらすといった報告を踏まえて、アリスキレンの長期アウトカム改善の可能性に関する本検討を行った。JAMA誌2013年3月20日号掲載の報告より。世界316ヵ所で、心不全入院患者1,639例を無作為化 研究グループは2009年5月~2011年12月にかけて、南・北米、ヨーロッパ、アジアの316ヵ所の医療機関を通じ、心不全で入院した患者1,639例を対象に無作為化試験を行った。アリスキレンを、標準的な治療に加え投与した場合のアウトカムについて比較した。 被験者は18歳以上で、左室駆出率(LVEF)40%以下、BNP値400pg/mL以上、またはN末端プロBNP(NT-proBNP)値1,600pg/mL以上であった。また、水分過負荷の徴候や症状も認められた。 主要アウトカムは、6ヵ月後および12ヵ月後の心血管死または心不全による再入院とした。心血管死または心不全のイベント発生率、両群で同程度 被験者のうち最終的に分析対象に組み込まれたのは1,615例だった。平均年齢は65歳、平均LVEFは28%、平均推定糸球体濾過量(eGFR)は67mL/分/1.73m2だった。また被験者のうち41%が糖尿病を有していた。無作為化時点で利尿薬を服用していたのは95.9%、β遮断薬は82.5%、ACE阻害薬またはARBは84.2%、アルドステロン受容体拮抗薬は57.0%だった。 6ヵ月後の主要エンドポイント発生率は、アリスキレン群24.9%(心血管死:77例、心不全による再入院:153例)に対し、プラセボ群は26.5%(同:85例、同:166例)であり、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.76~1.12、p=0.41)。 12ヵ月後の同イベント発生率についても、アリスキレン群35.0%に対しプラセボ群37.3%と、両群で有意差はなかった(同:0.93、0.79~1.09、p=0.36)。 なお、高カリウム血症、低血圧症、腎機能障害や腎不全の発症率は、いずれもアリスキレン群で高率だった。

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(65)〕 スピロノラクトンは収縮機能保持心不全例の左室拡張機能指標を改善させる:予後改善効果に期待

本研究は左室収縮機能が保持された心不全患者を対象に、二重盲検法でスピロノラクトン25mgあるいは偽薬を各々約200例に対して1年間投与し、同薬の左室機能や形態、運動耐容能などに与える影響を検討した。その結果、同薬は左室拡張能指標、左室重量係数、NT-proBNP値を改善させることを明らかにした。しかし、運動耐容能やQOL指標には明らかな改善効果はみられなかったとしている。左室収縮機能保持心不全例の予後やQOLを改善させる治療法は確立されておらず、最近増えつつあるこのタイプの心不全に対する治療エビデンスを確立させることは喫緊の課題である。 本論文では、残念ながら生命予後や運動耐容能までの改善効果は見出すことはできなかった。とはいえ、投与法や対象群選定の工夫により、同薬の収縮機能保持心不全例に対しての臨床的有用性を期待させる結果である。しかし、注意しなければならないのは、対象例の9割以上が高血圧を合併しており、スピロノラクトン群は偽薬群に比較して収縮期血圧が最終的に約9mmHg低くなっている。この降圧効果の差をいかに解釈するかがポイントと考えられる。左室肥大を有する高血圧例では、いくつかの降圧薬により左室重量や左室拡張機能が改善することはすでに知られている。本論文では、その左室拡張機能改善と降圧効果は統計学的に処理しても独立したものとしているが、対照を偽薬ではなく同程度の降圧効果を有するものとした場合にも同様の効果が現れるものかを知りたいところである。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(53)〕 HOPE試験の再来か?ACE阻害薬が間歇性跛行に”降圧を超えた”有効性

ASOによる間歇性跛行を有する症例に対して、ACE阻害薬ラミプリルの6ヵ月投与は、歩行距離、歩行時間、歩行スピードのいずれも改善し、疼痛の軽減させることでQOL改善をもたらしたという論文である。 しかも、これらの改善に対する血圧低下は収縮期/拡張期血圧各々3.1/4.3mmHgと比較的少なく、また高血圧の有無にかかわらずその改善度は同様であった。このことから著者らは、HOPE試験と同じようにACE阻害薬の「降圧を超えた」血管保護効果があったとしている。この程度の血圧低下を、“降圧”とみなすか“降圧以外”とみなすかは判定が難しいが、HOPE試験では診察室血圧の差は軽微であっても24時間血圧、とくに夜間血圧に大きな差がみとめられていた。 本研究では、921例リクルートされた症例から212例のみが登録されており、大多数が登録基準を満たさず脱落している。患者背景では、高血圧患者は50%前後にすぎず、糖尿病患者も25%しか含まれていない。すなわち、冠動脈疾患、腎疾患など他の心血管合併症を有する例やプラセボ治療に耐えることのできない症例はすべて除外されていることになる。 実臨床の世界では、ASO症例は他の心血管合併症を有していることが多く、本試験の結果が実臨床の世界で通用するか否かは不明である。もう一つ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)でも同様な結果が得られるか否かについて著者らは言及していないが、ACE阻害薬のブラジキニンによる血管拡張効果をWIQスコアの改善と関連づけていることから、ARBでは同様の改善効果は期待できないであろう。 いずれにしても比較的軽症なASO症例では高血圧の有無にかかわらずACE阻害薬の処方が有用であることを示す一つのエビデンスではあろう。

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バレンタインデーの前に知っておきたい「チョコレートが体に良い5つの理由」

 日本のチョコレートの年間消費量の2割程度がこの日に消費されるというバレンタインデー。近年、チョコレートが健康に良いことを裏付ける研究結果が発表されているため、バレンタインデーのこの機会に少しまとめてみた。研究者らは、チョコレートのカカオに多く含まれるフラバノールによる抗酸化、抗凝固、抗炎症作用などが心血管疾患に良い効果をもたらしているのではないかと考えているようだ。1. 毎日少量のダークチョコレート摂取で血圧が低下1) ダークチョコレートによる降圧効果が小規模な無作為化比較試験により示された(2007年JAMA誌掲載)。この試験では高血圧前症または高血圧症(第I度)44例に、ダークチョコレートを毎日6.3g(30kcal)、もしくはホワイトチョコレートを摂取させた。その結果、18週間で、ダークチョコレート摂取群の収縮期血圧が平均2.9mmHg、拡張期血圧も1.9mmHg下がった(p<0.001)。体重、血漿中の脂質、ブドウ糖、8-isoprostaneのレベルに変化はなかった。高血圧有病率は86%から68%まで減少した。一方、ホワイトチョコレート摂取群では血圧、血漿中マーカーとも変化は見られなかった。2. チョコレートの消費量が多い人ほど心血管疾患リスクが低い2) チョコレート消費量と心血管疾患リスクに関するメタアナリシスの結果が2011年のBMJ誌に発表されている。この研究では2010年10月までに発表された文献のデータベースを検索し、選択基準を満たした7試験(11万4,009人)をメタアナリシスの対象としている。この解析の結果、チョコレートの消費量が最も多い群は最も少ない群に比べて、全心血管疾患リスクが37%低下(相対リスク:0.63、95%信頼区間:0.44~0.90)し、脳卒中リスクが29%低下した(同:0.71、0.52~0.98)。しかし、心不全の抑制効果はみられなかった(相対リスク:0.95、95%信頼区間:0.61~1.48)。3. チョコレートを多く食べる男性で脳卒中リスクが17%低下3) スウェーデンのコホート研究によると、チョコレートの消費量が多い男性では脳卒中のリスクが17%低かったという(2012年Neurology誌掲載)。この研究では男性のチョコレート消費量と脳卒中リスクについて49~75歳のスウェーデン人男性3万7,103人を約10年間追跡した。その結果、チョコレートの消費量が最も多いグループ(中央値62.9g/週)は、最も少ないグループ(中央値0g/週)と比べて脳卒中のリスクが17%低下していた。 脳卒中既往例では再発率が19%低下 上記のスウェーデンのコホート研究を含む、5件の研究より脳卒中既往例に絞り込んだメタ解析を実施したところ、チョコレートの摂取量が最も多い被験者の脳卒中リスクはまったく食べない被験者より19%低かった。この解析結果より、著者はチョコレート摂取量50g/週につき脳卒中リスクが約14%低下したと試算している。4. チョコレート摂取頻度高いほどBMI低い4) チョコレートを頻繁に摂取する人ほどBMIが低い傾向にあることが2012年のArch Intern Med誌に発表されている。研究者らは心血管疾患、糖尿病、高LDL-C血症の既往のない男女(20-85歳)を対象に、チョコレートの摂取頻度とBMIとの関連を検討。週当たりのチョコレート摂取回数とBMIなどのデータが得られた972例を解析対象とした。その結果、年齢・性調整後、チョコレート摂取頻度が高い者ほどBMIが低い傾向にあった。5. チョコレートを多く食べる男性で糖尿病リスクが35%低下5) 岐阜県高山市におけるコホート研究によると、チョコレートの摂取頻度が1週間に1回以上の男性は糖尿病発症リスクが35%低下していた(ハザード比0.65、95%信頼区間0.43~0.97)。女性では糖尿病発症リスクの有意な低下は認められなかった(同0.73、0.48~1.13)。この結果は2010年のBritish Journal of Nutrition誌に発表されている。[番外編] チョコレートをたくさん食べる国ほどノーベル賞の受賞者も多い? 米国コロンビア大学のMesserli氏は、日本を含む世界22ヵ国の国民1人当たりのチョコレート消費量と、人口1,000万人当たりのノーベル賞受賞者数の相関関係を解析し、その結果が2012年のNEJM誌に発表されている。この解析結果によると、チョコレートの消費量とノーベル賞受賞者の数の間には、有意で強力な線形相関が認められた(相関係数r=0.791、p<0.0001)。チョコレート摂取量とノーベル賞受賞者の数がいずれも最高だったのはスイス。日本はチョコレートの消費量、ノーベル賞の受賞者数のいずれも22ヵ国中、中国に続いて低かった。(Messerli FH. N Engl J Med. 2012; 367: 1562-1564.)関連記事毎日少量のチョコレート摂取で血圧が低下(ジャーナル四天王)チョコレート高摂取による心血管代謝障害の抑制効果が明らかに(ジャーナル四天王)脳卒中予防でチョコレート好きに朗報

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(50)〕 降圧薬併用にNSAIDsで、急性腎障害が増加する!-多剤併用にご用心

薬剤による腎障害は、腎臓が多くの薬物の排泄臓器であることから、急性腎不全の重要な原因であり、臨床家は薬剤の使用にあたって、常に薬剤に起因する腎障害のリスクに配慮することが望まれている。数ある薬剤の中でも、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、その汎用性から、多くの使用機会があり、注意が必要とされる薬剤の一つである。とくに高齢者は複数の疾病を併存することが一般的であり、個々の疾病に沿ったガイドラン治療は、多くの場合、併用薬物によるリスクまでは十分に言及されていないのが現状である。 本論文は、およそ50万人のコホートを対象に、降圧薬、中でも降圧利尿薬、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬と、NSAIDsの併用による腎障害の発症リスクを解析した論文である。急性腎障害の判定は、ICD-10の診断コードに基づいている。 CKD診療は、腎保護と心血管保護とを両立させることが大きな目標である。降圧薬は高血圧合併のCKD診療において重要な地位を占めているが、これまでの臨床研究からは、その期待に反する結果をもたらす実態が明らかになっている。とくにRA系阻害薬では、併用による有害作用が報告されている。たとえば、RA系阻害薬同士の併用は、ALTITUDE試験やONTARGET試験において、腎機能障害を増加させることが示唆されている。また、RA系阻害薬と降圧利尿薬との併用は、GUARD試験およびACCOMPLISH試験で、尿蛋白改善とeGFR低下という腎保護効果に乖離が認められ、腎イベントの増加をもたらした。本研究では、RA系阻害薬、降圧利尿薬およびNSAIDsの、三剤併用により30%の急性腎障害の増加が認められ、その発症の多くは30日以内であり、改めて降圧薬の腎障害リスクに警鐘を鳴らすものとなった。 多くの臨床研究は、結果をもたらすメカニズムを証明することはできない。この研究も例外ではないが、著者らは本論文中に、“Biological Mechanism”の一節を設けて、降圧利尿薬とNSAIDsの併用下では、腎血流の低下(体液量の減少)と輸入細動脈の収縮(プロスタサイクリンの合成抑制)が起り、angiotensin IIを介する輸出細動脈の収縮と、ナトリウム貯留によって糸球体濾過量が保たれていること、RA系阻害薬がこのようなangiotensin IIの生理的な機能を抑制することにより、有害作用をもたらすことに言及している。局所性RA系が、さまざまな臓器障害をもたらすとする仮説が提示され、これまでにしばしば、RA系抑制薬の “降圧を超えた臓器保護効果”が訴求されている。しかし、これまでの大規模臨床研究の結果は、必ずしもこのような作用の存在を支持している訳ではない。 今一度、生体の恒常性を維持する生理的システムとしてのRA系の役割に対する認識を新たにすることが、必要ではないか。

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降圧薬2剤併用にNSAIDsを追加併用、30日間は急性腎不全に注意が必要/BMJ

 利尿薬、ACE阻害薬あるいはARB、NSAIDsの組み合わせによる3剤併用制法は、急性腎不全リスクを増大することが、カナダ・Jewish General HospitalのFrancesco Lapi氏らによるコホート内症例対照研究の結果、報告された。リスクは、治療開始から30日間が最も強かったという。著者は、「降圧薬は心血管系にベネフィットをもたらすが、NSAIDsを同時併用する場合は十分に注意をしなければならない」と結論している。BMJ誌2013年1月12日号(オンライン版2012年12月18日号)掲載報告より。2剤併用とNSAIDsを追加した3剤併用療法の、急性腎不全リスク増大との関連を調査 研究グループは、降圧薬の利尿薬、ACE阻害薬あるいはARBの2剤併用療法に、NSAIDsを追加し3剤併用療法とした場合の、急性腎不全リスク増大との関連について調べた。 コホート内症例対照研究の手法を用いた後ろ向きコホート研究で、UK Clinical Practice Research DatalinkとHospital Episodes Statisticsデータベースから一般診療関連のデータを抽出して行われた。 主要評価項目は、直近の2剤または3剤併用療法との関連でみた急性腎不全の発生率[95%信頼区間(CI)]だった。3剤併用療法、開始後30日間の急性腎不全の補正後発生率比1.82 対象は、降圧薬を服用する48万7,372人であった。 平均追跡期間5.9年(SD 3.4)の間に、急性腎不全の発生が特定されたのは2,215件であった(発生率:7/1万人・年)。 全体として、利尿薬、ACE阻害薬、ARBのいずれかと、NSAIDsとの組み合わせによる2剤併用療法の利用者では、急性腎不全発生の増大はみられなかった。補正後発生率比は、利尿薬+NSAIDsは1.02(95%CI:0.81~1.28)、ACE阻害薬またはARB+NSAIDsは0.89(同:0.69~1.15)だった。 一方で、3剤併用療法の利用者では急性腎不全発生の増大がみられた。補正後発生率比は1.31(95%CI:1.12~1.53)だった。 また2次解析の結果、3剤併用療法で最も高率のリスクがみられたのは、使用開始後30日間だった。同期間の補正後発生率比は1.82(95%CI:1.35~2.46)だった(31~60日:1.63、61~90日:1.56、≧90日:1.01。またNSAIDs半減期別では、<12時間:1.29、≧12時間:1.77)。

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