サイト内検索|page:2

検索結果 合計:76件 表示位置:21 - 40

21.

夜間の不十分な睡眠はワクチンの効果を低下させる?

 夜間の不十分な睡眠は、ワクチン接種後の抗体反応を低下させる可能性のあることが、「Current Biology」に3月13日掲載されたメタアナリシスで明らかにされた。ワクチン接種前後の睡眠時間が6時間未満の人では、7時間以上の人に比べてワクチン接種後に産生される抗体の量が少なく、その損失は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種後2カ月間の抗体減少に相当するものであったという。研究論文の上席著者で米シカゴ大学名誉教授のEve Van Cauter氏は、「十分な睡眠はワクチンの効果を増強するだけでなく、持続期間も延ばすと考えられる」と述べている。 Van Cauter氏は2002年に、論文の筆頭著者であるフランス国立衛生医学研究所のKarine Spiegel氏とともに、睡眠のインフルエンザワクチンへの影響に関する画期的な研究を発表している。この研究では、睡眠時間が制限された人では、ワクチン接種後10日目の抗体レベルが対照群の約半分になることが示されていた。この知見をアップデートするべく、同氏らはウイルス感染症(インフルエンザ、A型・B型肝炎)のワクチンに関する7件の研究結果を統合して、睡眠時間と抗体反応との関連を検討した。 18~85歳の504人を対象に、自己報告による不十分な睡眠(6時間未満と定義)とワクチン接種後の抗体反応の低下との関連を検討したところ、事前に設定した統計学的有意水準に到達しなかった。しかし、全般的に睡眠時間が短い傾向がある65歳以上の高齢者のみを対象にした研究を除外し、18〜60歳の299人を対象に解析すると、関連は有意であった。 さらに、ウェアラブルデバイスなどで睡眠時間を客観的に評価した研究を対象に解析すると(解析対象者304人)、6時間未満の睡眠時間とワクチン接種後の免疫反応の低下との間に強い関連が認められた。しかし男女別に解析すると、関連が有意だったのは男性のみで、女性では有意ではなかった。研究グループはこの理由を、女性ではホルモン値の変動が大きいためではないかとしている。Spiegel氏は、「免疫に関する研究から、性ホルモンが免疫系に影響を及ぼすことが明らかにされている。女性の場合、月経周期、避妊薬の使用、閉経期や閉経後などの状態により免疫が影響を受けるが、今回、解析対象とした研究の中に、性ホルモン値に関するデータを扱っているものはなかった」と説明している。 なお、研究グループはこのメタアナリシスの結果と、ファイザー社製のCOVID-19ワクチン接種後の抗体反応に関する既存のデータを照らし合わせた上で、6時間未満の不十分な睡眠が抗体反応の低下にもたらす影響は、ワクチン接種後2カ月間での抗体減少に相当すると見積もっている。 Van Cauter氏は、「COVID-19ワクチン接種により得られる防御効果は、既存の疾患のある人、男性、肥満の人では低下しやすい。これらはいずれも個人では変えられない因子だが、睡眠時間は自分で改善することができる」と指摘する。 一方Spiegel氏は、「今後は、特に女性での性ホルモンの状態を考慮した、より大規模な研究を実施する必要がある。また、不十分な睡眠の日が何日続くと抗体反応に影響が出るのかや、十分な睡眠が重要になるのはワクチン接種前だけなのか、それともワクチンを接種した日やその後も重要なのかなどについても解明する必要がある」と述べている。

22.

男性用経口避妊薬の実現に向けて、マウスで有効性確認

 1人の男性が彼女とベッドインする前に、小さな錠剤を口にする。ただしそれはバイアグラではない。セックスの直前に服用するだけで妊娠を防ぐことができる避妊薬だ――。このような男性によるオンデマンドの避妊法が、いつの日か実際に可能になるかもしれない。米ワイルコーネル医科大学のLonny Levin氏らは、精子の泳ぐ力の鍵となる酵素を阻害するという手法を、男性用避妊薬の開発へつなげる研究を行っている。 「Nature Communications」に2月14日掲載された研究によると、実験用マウスにある化合物を投与してその酵素の作用を阻害すると、妊娠が成立しないことが確認された。Levin氏は、「化合物の効果は投与後30分以内に発現し、その後2時間は効果が維持され、翌日には投与前と同じ状態に戻っていた。マウスに何ら悪影響は見られず、性的行動と射精は全く正常だった」と話している。 発表された論文に研究背景として述べられているところによると、全ての妊娠の約半数は意図しないものであり、その割合は米国の10代の若者ではさらに高いとのことだ。この研究に資金を提供した米国立小児保健・人間発達研究所のChristopher Lindsey氏は、「このようなアプローチは、避妊法に関する長足の進歩をもたらすのではないか。避妊を目的とした女性のホルモン療法のように連日服用する必要がなく、バイアグラがそうであるように、性行為を行う少し前に飲むだけでよいのだから」と期待を表している。 この研究で標的としている酵素は、可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)と呼ばれるもので、精子が女性の卵子に向かって泳いでいくのを助けるように働き、妊娠の成立をサポートする。「受精のために、精子は卵子まで泳いで行かなければならない。精子の運動する力を奪えば、精子はそこにとどまったままで妊娠は成立しない。われわれが研究している化合物はそのように作用して、精子の移動と妊娠を妨げる」とLindsey氏は解説する。 Levin氏らの研究では、sACを特異的に阻害する化合物を投与したオスのマウスを、メスのマウスと同じケージ内で飼育した。予測されていた通り、マウスの活発な性行動が認められたが、妊娠したメスはいなかった。その後、メスのマウスから精子を採取して観察したところ、受精に至る能力を失ったままの状態であることが分かった。一方、化合物は3時間後に失活し、オスマウスは生殖能力を回復した。 なお、Levin氏によると、一部の男性ではsACの働きが低下しているために男性不妊になることがあり、そのような男性では腎結石のリスクが高くなるという。ただし、「腎結石のリスクはsACの働きが長期間阻害されている場合に発生するものであって、この化合物のsAC阻害作用は一時的なものであり、腎結石が形成されるほどの時間はない」としている。 とはいえ、マウスに用いられた薬物はまだ「ツール化合物」と呼ばれる基礎的な実験レベルのものであり、ヒトでも実際に機能するsAC阻害薬を見つけるには、さらなる研究が必要な段階だとLevin氏は述べている。「現時点でヒトを対象とする研究を行うほど研究が進んでいるとは考えていない。今後2〜3年で臨床試験を開始できることを目指している」とのことだ。ただ、sACの働きを阻害するというアプローチが成立し得ることが本研究によって明らかになり、男性のオンデマンド経口避妊薬の可能性が示された意義は大きい。「いつの日か、家族計画において男性と女性が対等なパートナーになり、女性が毎日避妊薬を服用する必要がなくなることを願っている」とLevin氏は期待を語っている。

23.

第134回 全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府

<先週の動き>1.全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府2.かかりつけ医機能を制度化へ、かかりつけ医機能報告制度創設/厚労省3.新型コロナワクチン、無料接種は4月以降も継続、次回は今年の秋から/厚労省4.健康保険証廃止で「マイナ保険証」ない人には資格確認書を提供/政府5.臓器移植を無許可あっせんでNPO法人理事を逮捕、法外な料金も問題に/警視庁6.未承認薬の緊急避妊薬やイベルメクチンのアフィリエイト広告で逮捕/兵庫県警1.全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府政府は、2月10日に一定の収入(年収153万円以上)を超えるの75歳以上の高齢者の健康保険料の引き上げを含む、「全世代社会保障法案」(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)を閣議決定した。少子高齢化で財政が厳しい中、子ども・子育て支援の拡充、高齢者医療を全世代で公平に支えあうための高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の基盤強化、医療・介護の連携機能および提供体制などの基盤強化を柱としている。具体的には「出産育児一時金」が今年の4月から50万円に引き上げられる財源について、75歳以上の高齢者にも財源の一部を負担してもらうほか、一定の年収を超える75歳以上の高齢者の保険料を現在の66万円を2024年度に73万円、2025年度に80万円と段階的に引き上げる。さらに74歳までの前期高齢者の医療費を現役世代が支援する仕組みでも、大企業の健康保険組合の負担を増やす一方で、中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ」の負担を軽くする。この他、都道府県に対して、医療費適正化計画の立案の段階から、保険者と協議を行うことで、医療費適正化に向けた都道府県の役割、責務を明確化する。現在開会中の通常国会に提出し、成立を目指す。施行期日は、一部を除いて2024年4月1日となる。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(厚労省)75歳以上医療保険料引き上げ、法案閣議決定 年収153万円超から(毎日新聞)75歳以上の医療保険料、引き上げへ 政府 全世代型法案を閣議決定(JOINT)2.「かかりつけ医機能報告」を創設、かかりつけ医機能が制度化へ/厚労省政府は2月10日、かかりつけ医機能の制度整備などを盛り込んだ「全世代社会保障法案」(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)を閣議決定した。現行の医療機能情報提供制度を変更して、新たに「かかりつけ医機能報告制度」が創設される。厚生労働省によれば、慢性疾患を有する高齢者や継続的に医療を必要とする患者を地域で支えるために定められた機能([1]日常的な診療の総合的、継続的実施、[2]時間外診療、[3]急変時や入院時に患者を支援、[4]在宅医療の提供、[5]介護サービスなどとの連携など)について、医療機関から都道府県に報告を求める。都道府県知事はそのデータを確認し、地域の関係者との協議の場に報告するとともに公表する。厚生労働省は、かかりつけ医機能の報告が医療機関を縛るものではないとしており、必ずしもかかりつけ医制度を義務化するものではないとの立場。厚生労働省は医療法を改正して、2025年4月1日の施行を目指す。(参考)かかりつけ医機能が発揮される制度整備について(厚労省)「かかりつけ医機能」発揮へ制度整備、法案閣議決定 厚労相「地域で機能提供できる体制構築」(CB news)自民党厚労部会 全世代社会保障法案を部会長一任で了承 かかりつけ医機能の「確認」は行政行為にあらず(ミクスオンライン)「かかりつけ医」制度化、何が論点? 武藤正樹医師に聞く(上) 政府は患者登録制は見送り(東京新聞)「かかりつけ医」制度化、何が論点? 武藤正樹医師に聞く(下) 総合診療医の育成支援を(同)3. 新型コロナワクチン、無料接種は4月以降も継続、追加接種は今年の秋に実施/厚労省厚生労働省は2月8日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、今年3月末に無料接種の期限を迎える新型コロナウイルスワクチン接種について、4月以降もすべての接種対象者の無料接種を継続する方針を固め、さらに2023年度の追加接種の方針について、以下の通りとりまとめた。追加接種の対象者は高齢者などの重症化リスクがある人を優先するが、重症化リスクが高くない人であっても重症化が発生するため、引き続き無料接種を継続する。接種時期は、前回から1年が経過する今年秋から冬に実施予定だが、重症化リスクのある人については秋を前に接種を行う。また、子ども(5~11歳)や乳幼児(6ヵ月~4歳)は、接種開始から時間が短いため、接種期間を延長する。(参考)2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針についての議論のとりまとめについて(厚労省)2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針について(同)新型コロナワクチン、4月以降も無料接種継続へ 次回は今秋冬に(毎日新聞)新型コロナワクチン 秋から冬に次の接種 基本方針まとまる(NHK)コロナワクチン接種スケジュール「毎年秋冬が妥当」厚労省が厚科審部会に方針案提示(CB news)4.健康保険証廃止で「マイナ保険証」ない人には資格確認書を提供/政府政府は、2024年秋に行う健康保険証の廃止と、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への切り替えを前に、「マイナ保険証」の普及に向けて、取得を呼びかける広報を行っているが、2月5日時点マイナンバーカードの保有率は68.1%だが、健康保険証としての利用登録率は59.3%とまだ低い(2023年2月5日時点)。このため政府は、2024年の健康保険証の廃止後もマイナンバーカードを紛失した人や未取得の人が保険診療を受けられるように、保険証の情報を記載した「資格確認書」を提供する方向で検討を開始した。また、新生児についても、出生届の提出時に申請を受け付け、1歳未満の乳児には顔写真がないカードを交付する方針。政府は、具体化に向けてさらに検討を行い、法案を今国会に提出する見込み。(参考)“マイナ保険証”ない人には「資格確認書」提供で調整 政府(NHK)健康保険証廃止後の保険診療で具体案取りまとめ 政府(同)マイナ保険証未取得者に資格確認書 24年保険証廃止で政府調整(毎日新聞)マイナンバーカード交付状況について(総務省)政策データダッシュボード(ベータ版)(デジタル庁)5.臓器移植を無許可あっせんでNPO法人理事を逮捕、法外な料金も問題に/警視庁ベラルーシの病院での臓器移植を無許可であっせんしたとして、警視庁生活環境課は2月9日までに、NPO法人「難病患者支援の会」(横浜市)の理事を臓器移植法違反の疑いで逮捕した。同法人も同じ容疑で書類送検となる見込み。報道によると逮捕された菊池仁達容疑者らは、厚生労働省の許可を得ずに、臓器移植を希望する患者に対して海外渡航での臓器移植を斡旋し、手術後に合併症などで死亡するなど被害が出ているほか、費用を払い込んだにもかかわらず移植が行われず、死亡した患者の遺族へ返金がなされていないなど被害が発生していた。加藤厚労大臣は、記者会見でこの事件について「事実だとすれば大変遺憾」だとして、国内でも他に同様の事案が無いか、調査していく考えを示した。さらに「同様の事案が生じないよう、臓器提供に関する正確な情報を発信していく」と強調した。日本臓器移植ネットワークによれば、日本国内のドナー数は100万人当たり0.62とアメリカの41.88やドイツの11.22など世界各国に比べて、提供件数が低いままであり、今回のように待機患者が海外を目指すケースが後を絶たない。2008年の国際移植学会で「移植が必要な患者の命は自国で救う努力をすること」という主旨のイスタンブール宣言が出されたことで、わが国でも2009年に改正臓器移植法が成立し、2010年7月に全面施行となっている。(参考)臓器あっせん、患者は徹底捜査求める「移植費用の行方解明して」(読売新聞)臓器あっせん、別の日本人患者も死亡…ベラルーシで肝臓・腎臓を同時移植(同)相場の2倍要求か 臓器移植、無許可あっせん容疑の理事(日経新聞)「不透明」な海外移植あっせん 増えぬドナー、減らぬ希望者が背景に(朝日新聞)6.未承認薬の緊急避妊薬やイベルメクチンのアフィリエイト広告で逮捕/兵庫県警兵庫県警生活経済課は2月9日、緊急避妊薬やうつ病の治療薬など未承認の医薬品のアフィリエイト広告をインターネット上に掲載したとして、医薬品医療機器法(未承認医薬品の広告禁止)違反の疑いで、群馬県高崎市の男性(39)を逮捕した。調べによると、男性は副業でアフィリエイト(ネット広告)用のウェブサイトを複数開設し、アフィリエイト仲介業者を通して、毎月10万円前後の報酬を得ていた。Webサイトには、未承認の緊急避妊薬、抗うつ薬に加え、新型コロナウイルス感染症治療薬として未承認の「イベルメクチン」も掲載されていた。厚生労働省は2021年8月に医薬品医療機器等法を改正しており、医薬品等の誇大広告の規制の強化を打ち出している。第66条の条文には「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」とされている。規制対象は、広告主だけではなく、広告代理店・アフィリエイターなどの個人も対象となる。また、健康食品・サプリメント、健康・美容器具であっても、医療品のような効果を訴求して、薬機法に抵触する表現をすると医薬品であるとみなされ、課徴金の対象となる可能性があり、課徴金として「売上額」の4.5%を支払う必要がある。(参考)未承認の緊急避妊薬などをネット広告に 県警が群馬の男逮捕「本当に悪いのは輸入代行者」(神戸新聞)医薬品等の広告規制について(厚労省)アフィリエイト広告のしくみと法規制(国民生活センター)薬機法改正のポイントを分かりやすく解説!企業は何を対策すべき?(Letro)

24.

血液型が脳梗塞リスクに影響?

 血液型によって虚血性脳卒中(脳梗塞)のリスクに差がある可能性を示唆する研究結果が報告された。米メリーランド大学のBraxton Mitchell氏らの研究によるもので、論文が「Neurology」に8月31日掲載された。特に非高齢期での脳梗塞リスクへの影響が大きいという。 Mitchell氏らの研究は、非高齢者の脳梗塞リスクに関する遺伝子変異の影響を、これまでの研究を統合して分析するメタ解析という方法で検討したもの。その研究から、血液型と脳梗塞リスクとの関連性が浮かび上がった。具体的には、O型の人はA型やB型、AB型の人よりも脳梗塞のリスクがやや低いことが示された。反対にA型の人は脳梗塞が多く、特に60歳未満での発症との強い関連が見られ、他の血液型の人よりも16%リスクが高かった。ただしMitchell氏は、「自分がA型だからといって心配することはない。血液型は変更できないが、脳梗塞のリスクの中には変更可能なさまざまな因子が含まれている。例えばタバコを吸わないこと、習慣的に運動すること、健康的な食事を取ること、高血圧や糖尿病などの脳梗塞のリスクを高める疾患があればそれをコントロールすることで、リスクを抑えられる」と話している。 血液型によって脳梗塞のリスクが異なるのはなぜだろうか? 大半の脳梗塞は、血栓が脳への血流を遮断したときに発生する。O型以外の血液型は、血栓形成に寄与するフォンウィルブランド因子(VWF)や第VIII因子のレベルが高いことが知られており、そのことが関係している可能性がある。Mitchell氏によると、高齢期に入る前に発症する脳梗塞は高齢期に入ってから発症する脳梗塞に比べて、血液凝固傾向の強さがより大きな影響を及ぼしていると考えられるという。今回の研究から得られた他のデータも、そのような考え方を支持している。例えば、血液型がA型であることは、脳梗塞以外に静脈血栓塞栓症のリスクの高さとも関連しているとのことだ。 Mitchell氏らが行ったメタ解析の対象は、世界各地で実施された48件の研究報告で、60歳になる前に脳梗塞を発症した1万6,730人と、非発症の比較対照群59万9,237人が含まれていた。脳梗塞発症と遺伝子プロファイルとの関連の解析の結果、血液型を決定するABO遺伝子を含む染色体領域との関連が見つかった。O型の人の60歳未満での脳梗塞リスクは他の血液型の人より12%低く、60歳以上での脳梗塞リスクは4%低かった。A型の人の60歳未満での脳梗塞リスクは前述のように16%高かったが、60歳以上での脳梗塞のリスク差は5%と小さかった。 この研究報告について、米マクガバン医科大学の脳血管神経内科医で、米国心臓協会(AHA)のボランティアでもあるBharti Manwani氏は、「非常に興味深い研究」と評している。また、若年期の脳梗塞に対しては血液凝固傾向の強さがより重要な役割を果たす可能性があるとの考え方に同意。その上で、「この知見は、A型という血液型がA型の人の人生を運命づけていることを示すものではない。人々は自分の血液型に関係なく、自分で変更可能な脳梗塞のリスク因子をコントロールすべきだ」と強調する。 とは言え、Manwani氏、Mitchell氏ともに、A型の人は喫煙や経口避妊薬などの血栓形成を促すことのある他の要因の影響を受けやすい可能性があると述べている。Mitchell氏らは昨年3月の米国脳卒中協会(ASA)の学術集会にて、O型以外の血液型の女性は、喫煙や経口避妊薬の服用によって50歳以前に脳梗塞を発症するリスクが有意に高くなるという研究結果を報告している。 脳梗塞や脳出血などの脳卒中は、基本的には高齢者に多い病気だが、高齢期に入るまでは心配ないというものでもない。AHAによると、米国で毎年新たに約80万人が脳卒中を発症し、そのうち10~15%は45歳以下だという。また、過去数十年の間に50歳未満の米国成人の脳卒中発症率は上昇してきており、その原因として、若年期に高血圧や糖尿病などを発症する人が増えたことの影響が考えられるとのことだ。

25.

朝食時刻と乳がんリスクが関連

 1日の食事のサイクルと乳がんの関連が指摘されている。スペイン・Barcelona Institute for Global HealthのAnna Palomar-Cros氏らが朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について検討したところ、閉経前女性では朝食時刻が遅いほど乳がんリスクが高いことが示唆された。Frontiers in Nutrition誌2022年8月11日号に掲載。 本研究では、2008~13年に実施されたスペインのマルチケースコントロール研究(MCC-Spain)における乳がん症例1,181例と対照1,326例のデータを解析した。中年期の毎日の食事のサイクルは電話インタビューで聴取した。朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について、ロジスティック回帰を用いてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。年齢、センター、教育、乳がん家族歴、初経年齢、子供の数、母乳育児、初産年齢、BMI、避妊薬使用、ホルモン補充療法で調整し、閉経状態で層別した。 主な結果は以下のとおり。・朝食時刻が遅くなるほど乳がんリスクが増加したが、有意ではなかった(1時間当たりのOR:1.05、95% CI:0.95~1.16)。・この関連は閉経前女性で強く、朝食時刻が1時間遅くなるごとに乳がんリスクが18%増加した(OR:1.18、95%CI:1.01~1.40)。閉経後女性ではこの関連はみられなかった。・朝食時刻を調整しても、夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連はみられなかった。

26.

第113回 規制改革推進会議答申で気になったこと(後編)PPIもやっとスイッチOTC化?処方薬の市販化促進に向け厚労省に調査指示

処方薬の市販化促進を進めるため厚労省に調査を指示こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、「今年はMLBの話題が少ないね」と言われてしまいました。確かに少ないです。理由の一つはご存じのようにロサンゼルス・エンジェルスの絶不調です。約1ヵ月前は今年こそポストシーズンに行けるかもと思い、秋の“米国取材”の準備を始めていました。しかし5月後半から負けが続き、ジョー・マドン監督解任、14連敗とバッド・ニュースが続きました。6月9日(現地時間)は大谷 翔平選手の久しぶり“2刀流”の活躍で、なんとか連敗は止まったものの、その後も勝ったり負けたりとチームの調子は今ひとつです。観戦していると、野手陣の守備や走塁が日本の高校野球以下の時があって気になります(特にジョー・アデル外野手!)。この守りでは、甲子園でも1回戦止まりでしょう・・・。救いは、まだ残り100試合近くあることです。ポストシーズン進出を願って、エンジェルスとダルビッシュ有投手のいるサンディエゴ・パドレスの応援を続けたいと思います。さて、今回も前回に引き続き、規制改革推進会議答申で気になったことについて書いてみたいと思います。今回は、薬関連(処方薬の市販化、SaMD)についてです。欧米と比べ、まったく進んでいない医療用医薬品のOTC化規制改革推進会議は今年の答申、「規制改革推進 に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~」1)において、「患者のための医薬品アクセスの円滑化」の項目で、処方薬の市販化促進を進めるため、厚生労働省に次のように調査を指示しました。「厚生労働省は、医療用医薬品から一般用医薬品への転用に関する申請品目(要指導[一般用]新有効成分含有医薬品)について、申請を受理したもののいまだ「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で検討されていないものの有無を確認するとともに、令和2年度以前の申請に対していまだ結論が出されていないものについて、(ア)その件数、(イ)申請ごとに、その理由、(ウ)(イ)のうち厚生労働省及びPMDAの事業者に対する指摘に対して事業者によって適切な対応が行われていないために審査が進まないとするものについては当該指摘の内容、(エ)申請ごとに、当該申請品目の成分に関して、海外主要国における一般用医薬品としての販売・承認状況及び承認年度を調査する。」国はかねてからセルフメディケーションを推進すると言っているのに、緊急避妊薬や抗潰瘍薬など、欧米と比べ医療用医薬品のOTC化がまったく進んでいないことに業を煮やした上での対応と言えます。実際、米国などに旅行に行くと、日本では市販されていない医薬品がOTCとして普通に売られていることに驚くことがあります。だからといって大きな薬害が起こった、という報道は聞いたことがありません。日本の医療用から要指導・一般用への転用が、他国と比べて慎重過ぎて大きく遅れているのは確かなようです。日本OTC医薬品協会が“塩漬け品目”を調査実は、同様の指示は昨年の答申の中の「重点的に取り組んだ事項」で、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大」として掲げられていましたが、検討はその後も進んでいませんでした。今回の規制改革推進会議の議論の過程では、2022年4月27日に開かれた「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で スイッチOTCの選択肢拡大について議論されています。この場では、日本OTC医薬品協会が、新規性を有する品目における審査状況の調査結果(いわゆる“塩漬け品目”の実態)を報告。それを受け、厚労省による実態調査の早急な実施を22年度の答申に盛り込むことが提案され、今回の答申に至ったのです。同調査は、「スイッチOTC等新規性を有する品目について承認申請を行ったものの審査が開始されていないまたは審査中のまま停止している品目(塩漬け品目)」の実態を明らかにする目的で、同協会加盟者に実施されました。回答した16社から得られた結果によると、スイッチOTC(これまでにない医療用成分を配合する医薬品で厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の審議対象)では10~15年経過が1品目、5~10年経過が4品目、5年以内が1品目あったとのことです。さらに報告では、これまでに評価検討会議でスイッチOTC化を拒否された項目と論点が示され、「いわゆる『塩漬け品目』では、これまでに拒否された理由と共通するような照会事項が多いと推測される」と、通り一遍の否決理由を批判しました2)。4年前にはプロトンポンプ阻害薬を巡り学会と内科医会で意見分かれる塩漬け品目の存在は、厚労省の「意図的な無為」によって生じていると考えられます。理由の一つとして言われるのは、スイッチOTCが増えることで医療機関の患者数が減ることを嫌う、日本医師会や診療所開業医からの反対です。かつてこんなことがありました。2018年3月に開かれた厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」において、スイッチOTCの候補として要望があった成分のうち、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどプロトンポンプ阻害薬(PPI)3成分について、日本消化器病学会と日本臨床内科医会で意見が大きく分かれたのです。日本消化器病学会は3成分のOTC化を「可」とし、「14日以内の短期使用であれば特段注意すべき点はなく、OTCとすることに問題はない」としました。一方、日本臨床内科医会は「不可」とし、理由としてPPIの有害事象や重大疾患のマスク作用、薬物相互作用の懸念などを挙げ、「これらの問題点を薬剤師がきちんと理解し販売できるか、購入数の制限がきちんと担保されるか、という第1類医薬品の販売体制も問題」と反対しました。ちなみにこの時、日本医師会常任理事の鈴木 邦彦氏(当時)も、「PPIはあまりに強力な薬。安易にOTC化するべきでない」と強く反対しています。結局、PPIはその後もOTC化されず、先述の日本OTC医薬品協会の塩漬け品目に掲載されるに至ったわけです。開業医や日本医師会の反対は「リフィル処方」に似た構造専門学会等がOKを出しているのに、開業医や日本医師会が「危ない。薬剤師に任せられない」と反論する状況、似たような話を最近どこかで聞きませんでしたか? そうです、2022年診療報酬改定で導入されたリフィル処方を巡る動きです。リフィル処方については、「第105回 進まないリフィル処方に首相も『使用促進』を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?」でも書いたように、現場の開業医たちの反対がことのほか強いようです。そこから透けて見えるのは、患者の再診回数減少に対する危機感です。スイッチOTCはリフィル処方よりも深刻かもしれません。再診どころか初診すら減る可能性があるからです。仮にPPIがスイッチOTC化されれば、消化性潰瘍や逆流性食道炎の初診患者が激減するでしょう。ただ、患者にとっては薬局で薬を買うだけで治るならば、そうしたいのが山々でしょう。国にとってもセルフメディケーションで十分対応できる病気ならば、保険診療の頻度を減らし、医療費を抑えたいというのが本音でしょう。今回の規制改革推進会議の調査指示をきっかけに、厚労省の日本医師会などに対する“忖度”が解消され、医療用医薬品から一般用医薬品への転用が加速するかもしれません。厚労省の調査結果を待ちたいと思います。SaMDは緩く迅速に承認しようという流れ規制改革推進会議の答申で気になった薬関連のもう一つは、SaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)についてです。答申では「質の高い医療を支える先端的な医薬品・医療機器の開発の促進」の項で、SaMDの承認審査制度の見直しや、審査手続きの簡素化、SaMDに関する医療機器製造業規制などの見直しを求めています。例えば、機械学習を用いるものは、SaMDアップデート時の審査を省略または簡略できるよう提言、2022年度中の結論を求めています。全体として、「緩く迅速に承認しよう」という方針に見えます。しかし、本連載の「高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、『デジタル薬』が効く人・効かない人の微妙な線引き」でも書いたように、こと「治療用」のSaMDについては、拙速で承認を急ぐよりもその効果や有用性の検証をもっと厳密に行い、効く人と効かない人の線引きをきちんとすることのほうが重要ではないでしょうか。ところで、治療用のSaMDは、処方しても通常の薬剤と異なり、薬剤師や薬局の介入は基本的にはありません。患者がアプリをスマートフォンなどにインストールして、プログラムをスタートさせるだけです。ゆえに、リフィル処方やスイッチOTCのような「診察回数が減る」「薬剤師に任せられない」といった問題は起こらないでしょう。その意味では、開業医や日本医師会にとってSaMDはそれほどやっかいな存在ではないはずです。しかし、よくよく考えると、SaMDがどんどん進化していけば「医師もいらない」ということになりかねません。もし、国がそんな未来までを見据えてSaMDに前のめりになっているとしたら、それはそれで恐ろしいことです。参考1)規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~/規制改革推進会議2)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進/日本OTC医薬品協会

27.

女性のHIV感染予防にcabotegravirが有益/Lancet

 女性のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染予防において、長時間作用型注射剤cabotegravirは、1日1回経口投与のテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩+エムトリシタビン(TDF-FTC)と安全性・忍容性・有効性は同等であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォーターズランド大学のSinead Delany-Moretlwe氏らによる「HPTN 084試験」の結果、示された。サハラ以南のアフリカ諸国を含む70ヵ国以上で経口避妊薬は導入されているが、スティグマや批判の声、暴力を振るわれる恐れといった日々の服用に対する高い障壁が存在することから、長時間作用型製剤が求められていた。結果を踏まえて著者は、「女性のHIV予防のための効果的な選択肢の拡充が、とくに必要性が最も高い状況にある女性にとって喫緊に求められていることから、今回のデータは、cabotegravirを選択肢に加えることを支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年4月1日号掲載の報告。8週ごと注射投与のcabotegravirと1日1回経口投与のTDF-FTCを比較 HPTN 084試験は、第III相の無作為化二重盲検ダブルダミー活性対照の優越性検証試験で、サハラ以南アフリカの7ヵ国20地点で行われた。参加者は18~45歳の生誕時女性で、過去30日間で2回以上の膣性交エピソードを報告し、HIVリスクスコアに基づくHIV感染リスクがあり、長時間作用型の可逆的避妊法の使用に同意した者を適格とした。 参加者は無作為に1対1の割合で、cabotegravirとプラセボTDF-FTCの投与を受ける群(cabotegravir群)またはTDF-FTCとプラセボcabotegravirの投与を受ける群(TDF-FTC群)に割り付けられた。試験薬を準備した試験地の薬剤師を除く試験スタッフおよび参加者は割り付けをマスキングされた。 参加者は、最初の経口薬導入フェーズ(ステップ1:1~4週)で、経口薬による連日投与を受けた(cabotegravir群には経口薬のcabotegravir(30mg)とプラセボTDF-FTCが、TDF-FTC群には経口薬のTDF(300mg)-FTC(200mg)とプラセボcabotegravirを投与)。続いてステップ2(5~185週)で、cabotegravir群には長期作用型注射剤cabotegravir(600mg)の8週ごと投与+プラセボ経口TDF-FTCの連日投与が、TDF-FTC群には経口TDF(300mg)-FTC(200mg)の連日投与+プラセボ注射剤cabotegravirの8週ごと投与が処方された。また、注射剤投与が中断となった参加者は、48週間にわたる非盲検下での経口TDF-FTCの連日投与が処方された。 試験の主要エンドポイントは、intention-to-treat集団におけるHIV感染の発生と、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての女性におけるGrade2以上の臨床的および検査で確認されたイベントとした。cabotegravir群のHIV感染リスクが88%低下 2017年11月27日~2020年11月4日に、参加者3,224例(cabotegravir群1,614例、TDF-FTC群1,610例)が登録された。年齢中央値は25歳(IQR:22~30)、前月に2人以上のパートナーがいた参加者は1,755/3,209例(54.7%)であった。 感染発生は3,898人年で40例観察された(HIV発生率1.0%[95%信頼区間[CI]:0.73~1.40])。cabotegravir群は4例(HIV発生率は100人年当たり0.2例[0.06~0.52])、TDF-FTC群は36例(100人年当たり1.85例[1.3~2.57])で、cabotegravir群のHIV感染リスクはTDF-FTC群より88%低かった(ハザード比:0.12[95%C:0.05~0.31]、p<0.0001)。また、両群間の絶対リスク差は-2%(-1.3~-2.7)であった。 無作為抽出のTDF-FTC群405例のサブグループ解析において、毎日の使用を示すテノホビル濃度を有する血漿サンプル例は、812/1,929例(42.1%)であった。 注射の適用者は、全被験者(人年総計)の93%にわたっていた。 有害事象の発現頻度は、注射部位反応を除いて両群で同程度あった。注射部位反応は、cabotegravir群がTDF-FTC群に比べて頻度が高かったが(577/1,519例[38.0%]vs.162/1,516例[10.7%])、注射剤投与中断には至っていなかった。妊娠が確認されたのは100人年当たり1.3例(95%CI:0.9~1.7)、先天異常の出生児は報告されなかった。

28.

ホルモン薬避妊は子供の中枢神経系腫瘍リスクと関連?/JAMA

 ホルモン薬による避妊を行った母親の子供における中枢神経系の腫瘍のリスクは、ホルモン薬避妊法の経験のない母親の子供と比較して増加せず、ホルモン薬の種類ごとのリスクにも差はないことが、デンマーク・Cancer Society Research CenterのMarie Hargreave氏らの調査で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年1月4日号に掲載された。デンマークの全国的なコホート研究 研究グループは、デンマークにおける母親のホルモン薬避妊法の使用と子供の中枢神経系腫瘍の関連を評価する目的で、全国的なコホート研究を行った(Danish Cancer Research Foundationなどの助成を受けた)。 解析には、デンマークの人口ベースの登録データが用いられた。1996年1月1日~2014年12月31日の期間にデンマークで出生した子供が、中枢神経系腫瘍の診断に関して追跡された(最終追跡日2018年12月31日)。 ホルモン薬避妊は、レジメン(エストロゲン・プロゲスチン混合型、プロゲスチン単独型)と投与経路(経口、非経口)で分けられ、最近の使用(妊娠の過去3ヵ月以内または妊娠中)、以前の使用(妊娠の3ヵ月以上前)、非使用に分類された。注射薬、インプラント、子宮内避妊具は、使用時期に応じて分類が適切に変更された。 主要アウトカムは、20歳までに診断された中枢神経系腫瘍のハザード比(HR)および罹患率差(IRD)とされた。10万人年当たりの罹患率:最近使用5.0人、以前使用4.5人、非使用5.3人 118万5,063人の子供が解析に含まれた。1,533万5,990人年の追跡期間(平均12.9年)に725人が中枢神経系腫瘍と診断された。内訳は、ホルモン薬避妊法を最近使用した母親の子供が84人、以前に使用した母親の子供が421人、非使用の母親の子供は220人であった。診断時の子供の平均年齢は7歳で、342人(47.2%)が女児だった。 中枢神経系腫瘍の10万人年当たりの補正後罹患率は、ホルモン薬避妊法を最近使用した母親(13万6,022人)の子供が5.0人、以前使用した母親(77万8,843人)の子供が4.5人、非使用の母親(27万198人)の子供は5.3人であった。 非使用の母親の子供と比較した中枢神経系腫瘍の発生のHRは、最近使用した母親の子供が0.95(95%信頼区間[CI]:0.74~1.23、IRD:-0.3[95%CI:-1.6~1.0])、以前使用した母親の子供は0.86(0.72~1.02、-0.8[-1.7~0.0])であり、いずれも有意な差は認められなかった。 また、経口混合型、非経口混合型、経口プロゲスチン単独型、非経口薬に分けて解析しても、非使用の母親に比べ最近使用および以前使用の母親で、子供の中枢神経系腫瘍の発生に統計学的に有意な差はなかった。 著者は、「ホルモン薬避妊と子供の中枢神経系腫瘍の関連には相反する報告があるが、経口避妊薬のホルモン含有量は時とともに変動しており(たとえば、高用量から低用量へ)、本研究は以前の研究よりも最近のデータに基づくため、今回の結果も別のものとなる可能性がある」としている。

29.

妊婦、子供は?各学会のワクチン接種に対する声明まとめ

 新型コロナワクチンの接種が進む中、疾患等を理由として接種に対して不安を持つ人を対象に、各学会が声明を出している。主だったものを下記にまとめた。■日本感染症学会「COVID-19ワクチンに関する提言(第3版)」対象:全般要旨:ワクチンの開発状況、作用機序、有効性、安全性等の基本情報■日本小児科学会「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」対象:子供(12歳以上)要旨:まずは子どもの周囲への成人の接種を進める。そのうえで、12歳以上の子供へのワクチン接種は本人と養育者が十分に理解したうえで進めることが望ましく、個別接種を推奨する。■日本産科婦人科学会「―新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて―」対象:妊婦要旨:妊娠初期を含めワクチンは妊婦・胎児双方を守る。希望する妊婦はワクチンを接種できる。持病のある妊婦はとくに接種を検討すべきである。■日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会「女性のみなさまへ 新型コロナウイルスワクチン(mRNA ワクチン)Q & A」対象:女性全般要旨:ワクチン接種で不妊になったり、流産したりといった情報に科学的根拠は全くない。生理中や経口避妊薬服用中でもワクチン接種に対する問題はない(7/26情報追加)。■日本血液学会「新型コロナウィルス感染症蔓延下における血液疾患診療について」対象:血液疾患患者要旨:基本的にワクチン接種は推奨されるものの、治療の状況に応じてワクチン接種の効果が減じる可能性があるため、主治医と適切なタイミングを相談する。■日本神経学会「COVID-19 ワクチンに関する日本神経学会の見解」対象:神経疾患患者要旨:現時点では神経疾患(脳卒中、認知症、神経難病)を対象としたエビデンスはないが、海外のデータから副反応は一過性のものに限られ、アナフィラキシー以外には重篤な健康被害はみられていないことから、リスクは小さいものと考えられる。■日本骨髄腫学会「骨髄腫患者に対する新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について」対象:骨髄腫患者要旨:骨髄腫患者は重篤化と死亡のリスクが高いと推測され、ワクチン接種による罹患率と重篤化防止が期待できるが、接種タイミングは患者ごとの免疫不全状態をみながらの判断となる。■日本リウマチ学会「COVID-19ワクチンについて」対象:リウマチ性疾患患者要旨:ステロイドをプレドニゾロン換算で5mg/日以上または免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害剤のいずれかを使用中の患者は他の人たちよりも優先して接種したほうがよい。通常のワクチン接種の場合、免疫抑制剤やステロイドを中止・減量することはない。■日本麻酔科学会「mRNA COVID-19 ワクチン接種と手術時期について(5月18日修正版)」対象:手術予定患者要旨:待機手術もワクチン接種後すぐに行うことができるが、数日間(最大1週間)空けることで、術後の発熱などの症状が副反応か手術によるものかが区別できる。■日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について Q&A-患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版-」対象:がん患者要旨:がん患者における重症化の可能性を考慮すると、ワクチン接種はベネフィットがリスクを上回ると思われ、接種が推奨される。

30.

J&J新型コロナワクチンによる脳静脈洞血栓症例、初期症状に頭痛/JAMA

 米国で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「Ad26.COV2.S COVID-19」(Janssen/Johnson & Johnson製)を接種後、血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)という深刻なイベントを呈した当初の12例について、その臨床経過や検査結果、臨床アウトカムが報告された。米国疾病予防管理センター(CDC)のIsaac See氏らが、ワクチン有害事象報告制度(Vaccine Adverse Event Reporting System:VAERS)の報告書などを基にケースシリーズを行い明らかにしたもので、12例は年齢18~60歳未満で、全員が白人女性、接種から発症までの期間は6~15日で、11例の初期症状が頭痛だった。調査時点で、3例が死亡している。Ad26.COV2.Sワクチンは、2021年2月、米国食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得て、4月12日までに約700万回が接種された。そのうち6例で、血小板減少症を伴うCVSTが確認されたことを受け、4月13日に接種が一時的に中止されている。JAMA誌オンライン版2021年4月30日号掲載の報告。VAERS報告書や診療録、医師への聞き取りを基に調査 血小板減少症を伴うCVSTの発生は、欧州において、チンパンジーのアデノウイルスベクターを用いたChAdOx1 nCoV-19ワクチン(Oxford/AstraZeneca製)接種後の、まれで重篤な症状として報告されており、そのメカニズムは自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症と類するものが提唱されている。 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンを接種後、血小板減少症を伴うCVSTを呈し、2021年3月2日~4月21日にVAERSに報告のあった12例について、その臨床経過や画像・臨床検査結果、アウトカムについて、VAERS報告書や診療録を入手し、また医師への聞き取りを行い調査した。12例中7例に1つ以上のCVSTリスク因子あり 12例は米国内11州から報告され、年齢は18~60歳未満で、全員が白人女性だった。うち7例に、肥満(6例)、甲状腺機能低下症(1例)、経口避妊薬服用(1例)といった1つ以上のCVSTリスク因子があった。全例で、ヘパリン投与歴はなかった。 Ad26.COV2.Sワクチン接種から症状が現れるまでの期間は6~15日で、11例の初発症状が頭痛であった。残る1例は当初は腰痛を、その後に頭痛症状を認めた。 12例中7例に脳内出血が、また8例に非CVST血栓症が認められた。 CVSTの診断後、6例が初回ヘパリン治療を受けた。血小板最小値は9×103/μL~127×1033/μLだった。また、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)スクリーニングを受けた11例全例で、ヘパリン血小板第4因子HIT抗体が陽性だった。 12例全例が入院し、うち10例は集中治療室(ICU)で治療を受け、4月21日時点で3例が死亡、3例がICUで治療継続中、2例が非ICUで入院治療を継続、4例が退院した。 研究グループは、「このケースシリーズは、米国におけるAd26.COV2.Sワクチンの接種再開時の臨床ガイダンスに役立つと同時に、Ad26.COV2.Sワクチンと血小板減少症を伴うCVSTとの潜在的な関連性の調査に役立つだろう」と述べている。

31.

AZ製ワクチン後の血栓症、発症者の臨床的特徴/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチン(アストラゼネカ製)の接種により、因果関係は確定されていないものの、血液凝固異常(主に脳静脈血栓症と血小板減少症)に関連する、まれだが重篤な有害事象が引き起こされる可能性が示唆されている。英国・University College London Hospitals NHS Foundation TrustのMarie Scully氏らは、同ワクチン接種後に、ヘパリン療法の有無とは無関係に、血小板第4因子(PF4)依存性症候群が発現する可能性を示し、このまれな症候群の迅速な同定は、治療との関連で重要であることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年4月16日号に掲載された。23例の1回接種後の臨床的特徴、検査値を評価 研究グループは、ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種後6~24日の期間に血栓症と血小板減少症(ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症[VITT])を発症した患者の臨床的特徴と検査値に基づき、これらの病態の新たな基本的発症機序を検討し、その治療上の意義について評価した。 23例が登録された。平均年齢は46歳(範囲:21~77歳)、16例(70%)が50歳未満であり、14例(61%)が女性であった。深部静脈血栓症の既往歴のある1例と、配合経口避妊薬を服用している1例を除き、血栓症を引き起こす可能性のある病態や薬剤の使用歴のある患者はいなかった。 全例が、血栓症と血小板減少症の発症前6~24日(中央値12日)に、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの1回目の接種を受けていた。23例中22例が、急性血小板減少症を伴う血栓症(主に脳静脈血栓症)で、残りの1例では孤立性の血小板減少症を伴う出血性症状が認められた。23例中22例で抗PF4抗体陽性 全例が、発症時のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による検査でSARS-CoV-2陰性であった。また、血清学的検査用の検体が得られた10例は、いずれもヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体が陰性であったことから、最近、SARS-CoV-2に曝露された可能性は低いと考えられた。 全例で、発症時のフィブリノゲンは低~正常値で、Dダイマー値は急性血栓塞栓症患者で予測される値に比べ大きく上昇していた。また、血栓性素因やその原因となる前駆的要因の証拠はなかった。 全例で、ヘパリンベースの治療の施行前に採取された検体を用いてELISA法によるPF4に対する抗体検査が実施され、23例中22例が陽性(1例は不確定)、1例は陰性であった。また、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の検査を受けた9例は、全例が陰性だった。 著者は、「これらの患者で観察された病態生理学的特徴に基づき、血栓性症状の進行のリスクがあるため、血小板輸血治療は回避し、血栓性症状の初回発現時には、非ヘパリン系抗凝固薬と、免疫グロブリンの静注を検討することが推奨される」としている。

32.

第33回 今一つ広がらないオンライン診療、課題はどこに?

コロナ禍で注目されるオンライン診療。関連サービスを提供している企業とオンライン診療を行っている医療機関が11月7日、都内で開かれた「現場からの医療改革推進協議会」シンポジウムのセッションで、現状と課題を報告した。そこから診療報酬点数、医療機関の体制づくりや医師の意識、システム上の課題などが明らかになった。最初に登壇した北村 直幸氏(霞クリニック院長)は、遠隔画像診断システム「LOOKREC」を今年4月から無償提供しているエムネス(広島市)の副会長を務める。北村氏は、開業医が新型コロナの疑いがある患者の診断に迷った時、LOOKRECがあれば遠隔地の専門医と画像を共有し相談できるが、医師の反応は乏しかったという。なぜだろうか。オンライン診療に関する調査によると、「常勤で自施設の遠隔読影・治療計画が不可能」との回答が約7割に上った。その理由として、「遠隔読影の体制を整えたいが、病院上層部や医療情報部の理解・協力が得られない」「遠隔診断環境構築を診療報酬で評価してほしい」「遠隔診断を導入すれば、平時でも24時間読影対応を要求されそうで踏み出せない」といった意見が挙げられた。それでも北村氏は、オンライン診療により、高度診断技術をへき地にも提供できたり、産休育休中の医師が在宅で読影できれば医師不足の緩和に繋がったりすると指摘。コロナ禍でリモートワークが一気に広がったように、遠隔画像診断もスタンダードになることを信じて模索を続けているという。次に登壇した多田 絵梨香氏は、オンライン診療サービス「クロン」を提供しているMICIN(東京都千代田区)のパブリックアフェアーズ部プロデューサー。クロンは、予約から問診・受診、決済、処方箋の受け取りまでスマホを使ってオンラインで完結できるサービスである。多田氏によれば、オンライン診療自体は2018年度の診療報酬改定で保険適用されたものの、利活用は進まなかったという。その原因として、(1)診療報酬上の対象疾患の制約(2)点数の低さ(3)厳格な実施要件(4)服薬指導の対面原則―を挙げた。しかし今年2月以降、順次、疾患制限が撤廃されたり、初診でのオンライン診療が可能になったりしたことで受診者は増加傾向にあり、これまで利用できなかった小児科、皮膚科、婦人科、精神科の受診者が増えているという。調査によれば、医師側は、患者の不要不急の外出を防ぎ、医師やスタッフの感染リスクを抑えられたことに新たな価値を見出し、患者側の9割超が診療に安心感を持ち、8割が対面診療以上に相談がしやすかったと回答したという。多田氏は「さらなる技術革新により、診療の質を高める部分にもアプローチが可能になる」と述べた。コロナ禍による引きこもりの影響で、中高生の妊娠が増えていると言われる中、医療法人社団鉄医会(東京都立川市)の久住 英二理事長は、首都圏に展開するナビタスクリニックで行っている緊急避妊薬(アフターピル)のオンライン診療について紹介した。まず、ベンダーごとに一長一短がある点を指摘。月額固定料金の有無、スマホやタブレットに特化/パソコンでも利用可能か、電子カルテとのパッケージなどによる差異を挙げた。また、クレジットカード決済がメインなので、未成年者や低所得者のオンライン診療はクレジットカード登録がハードルだと指摘。「たとえば、LINE Payで支払うことができれば、中高生でも利用できる」と述べた。今回のシンポジウムで上がった診療現場の声の多くは、山積するオンライン診療の課題の指摘だったが、解決できれば急拡大に転じるヒントでもある。国はこうした声に真摯に耳を傾け、体制整備を急いでほしい。コロナや来年の五輪開催など、先延ばしできる猶予はどれほどもない。

33.

スイッチOTC化の議論と広がる薬局の役割【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第19回

2020年(令和2年)5月18日、規制改革推進会議において、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大に向けた意見(案)」が示されました。序文では、「医療用医薬品から一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の実績は低調であることから、より一層のスイッチOTC医薬品の提供と国民の選択肢拡大を図るべく以下のとおり提言を行う」と示され、なかなか進まないスイッチOTC化についての提言がまとめられています。この中で、スイッチOTC化の促進に向けた推進体制について、「一般用医薬品の安全性・有効性の視点に加えて、セルフメディケーションの促進、医薬品産業の活性化なども含む広範な視点からスイッチOTC化の取組を推進するため、厚生労働省における部局横断的な体制を整備すべきである」などとしたうえで、PPIや緊急避妊薬、血液検体を用いた検査薬のOTC化などについても言及されています。この意見(案)の是非はおいても、今後、OTC医薬品は今まで以上に重要視されることが想定されます。新型コロナウイルス感染症の流行によって、セルフメディケーションの重要性がより認識されたということもあるでしょう。改正薬機法で、OTC医薬品販売は薬局の当然の業務にところで、調剤業務を多く扱う薬局は「調剤薬局」と呼ばれることがよくありますが、法律上では「調剤薬局」という概念はありません。現行の薬機法で、薬局は以下のように定義されています。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条12項この法律で「薬局」とは、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務を行う場所(その開設者が医薬品の販売業を併せ行う場合には、その販売業に必要な場所を含む。)をいう。ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設の調剤所を除く。これによると、薬局とは「調剤の業務を行う場所」とされており、本来調剤を行う場所を表す「薬局」に、さらに「調剤」薬局と修飾するのは二重表現だという指摘もあります。また、「(その開設者が医薬品の販売業を併せ行う場合には、その販売業に必要な場所を含む)」とありますが、これは薬局の許可を取っていれば、医薬品販売業の許可がなくてもOTC医薬品の販売を行えるという意味です。「医薬品の販売業を併せ行う場合」とあるように、薬局は調剤のみを行う場所であることを原則として、例外的にOTC医薬品の販売を行えるという形態でした。しかし、上記のとおり、現在はセルフメディケーションの観点などからOTC医薬品がより重要となってきており、薬局における医薬品の一元管理や健康サポート機能などから、薬局でOTC医薬品を扱い、管理することも求められています。このような背景から、2019年の薬機法改正では、カッコ書きの部分が「(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所を含む)」と改正になり、9月以降に施行されます。これによって、薬局ではOTC医薬品の販売を行うことが当然と法的にも解釈できることとなります。OTC医薬品の必要性が高まるなか、薬機法の改正においても、薬局の役割として、OTC医薬品の取り扱いと管理がより明確になりました。現在の状況に、薬局への期待も踏まえて、薬局、薬剤師においては調剤と併せてOTC医薬品への積極的な関わりを今まで以上に意識する必要があるのではないでしょうか。参考資料1)一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大に向けた意見(案)

34.

非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

35.

妊娠による子宮内膜がんリスク低下、中絶でも/BMJ

 妊娠が受胎後早期で終了しても40週(正期産)で終了しても、子宮内膜がんのリスクは顕著に減少することが明らかにされた。人工妊娠中絶で妊娠終了に至った場合と出産で妊娠が終了した場合とで、リスク低下との関連性は類似しており、妊娠による子宮内膜がんのリスク低下は妊娠初期に生じる生物学的なプロセスによって説明できる可能性も示唆されたという。デンマーク・Statens Serum InstitutのAnders Husby氏らが、デンマークの女性を対象とした全国コホート研究の結果を報告した。生涯の出産数は子宮内膜がんのリスク低下と関連があり、妊娠により抑制された月経周期数が保護的に作用することが示唆されていたが、妊孕性や妊娠累積期間、妊娠中のある特定時期に生じる過程がこの保護作用を強めるかどうかは不明であった。BMJ誌2019年8月14日号掲載の報告。デンマーク女性約231万例、妊娠約395万件について解析 研究グループは、1935~2002年の期間に生まれたすべてのデンマークの女性を対象に、Danish National Registry of Induced Abortions(人工妊娠中絶登録)、Medical Birth Registry(出生登録)、Danish Cancer Registry(がん登録)のデータを用いて全国コホート研究を実施した。 主要評価項目は、妊娠回数、種類(人工妊娠中絶または出産)、妊娠期間別の子宮内膜がん相対リスク(発生率比)で、対数線形ポアソン回帰モデルを用いて推定した。 解析対象は、デンマーク女性231万1,332例で、妊娠は計394万7,650件であった。人工妊娠中絶、出産にかかわらず、子宮内膜がんのリスクは低下 追跡期間5,734万7,622人年において、子宮内膜がんが6,743例に認められた。年齢、期間、社会経済的要因について補正した後、初回妊娠の終了が人工妊娠中絶(補正後相対リスク[aRR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.45~0.64)であるか、出産(aRR:0.66、95%CI:0.61~0.72)であるかにかかわらず、子宮内膜がんリスクの顕著な低下が示された。2回目以降の妊娠でも、人工妊娠中絶(aRR:0.81、95%CI:0.77~0.86)、出産(aRR:0.86、95%CI:0.84~0.89)を問わず、さらなるリスクの低下が認められた。 妊娠期間、妊娠時の年齢、自然流産、肥満、出生コホート、妊孕力、社会経済的要因により結果が変わることはなかった。 なお本研究について著者は、子宮内膜がんのリスク低下と関連が示唆されている経口避妊薬の使用歴に関するデータがないことなどを挙げて、結果は限定的だと述べている。

36.

HIV感染リスク、避妊法間で異なるのか?/Lancet

 安全で避妊効果が高い3種類の避妊法(メドロキシプロゲステロン酢酸筋注デポ剤[DMPA-IM]、銅付加子宮内避妊器具[銅付加IUD]、レボノルゲストレル[LNG]インプラント)について、HIV感染リスクの差は実質的には認められないことが、米国・ワシントン大学のJared M. Baeten氏らEvidence for Contraceptive Options and HIV Outcomes(ECHO)試験コンソーシアムによる、アフリカ4ヵ国12地点で行われた無作為化多施設共同非盲検試験の結果、明らかにされた。これまでの観察研究や実験研究で、一部のホルモン避妊薬、とくにDMPA-IMは女性のHIV感染性を増す可能性が示唆されていたが、今回の試験において、対象集団のHIV感染率は3群ともに高かった。著者は、「アフリカの女性への避妊サービス提供では、併せてHIV予防を行うことが必須であることが明示された」と述べ、「今回の結果は、3種類の避妊法へのアクセス継続および増大を支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2019年6月13日号掲載の報告。DMPA-IM vs.銅付加IUD vs.LNGインプラントの3つの方法を比較 研究グループは、アフリカ大陸サハラ以南のHIV感染率の高い地域に居住し効果的な避妊を希望する女性における、DMPA-IM、銅付加IUD、LNGインプラントの3つの方法を比較する検討を行った。 試験は、エスワティニ(1地点)、ケニア(1)、南アフリカ共和国(9)、ザンビア(1)の4ヵ国12地点で行われた。包含対象は、効果的な避妊を希望する16~35歳のHIV血清陰性の女性で、試験避妊法(DMPA-IM、銅付加IUD、LNGインプラント)に対する医学的な禁忌がなく、過去6ヵ月間にいずれの試験避妊法も行っていないと申告し、いずれかの試験避妊法を18ヵ月間受けることに同意した者とした。 被験者は、DMPA-IM群(150mg/mLを3ヵ月ごと)、銅付加IUD群、LNGインプラント群に無作為に1対1対1の割合で割り付けられた(無作為化ブロックは15~30、試験地点で層別化)。割り付けにはオンライン無作為化システムが用いられ、各地点で試験スタッフによって無作為化が行われた。 主要評価項目は、修正intention-to-treat(ITT)集団(登録時にHIV陰性であり少なくとも1回のHIV検査を受けている、無作為化された全被験者)におけるHIV感染症の発生であった。安全性の主要評価項目は、18ヵ月時点の試験終了受診までに報告されたあらゆる重篤な有害事象、または結果として試験避妊法が中断となったあらゆる有害事象で、登録・無作為化された全被験者について評価した。各避妊法の100人年当たり感染率、4.19 vs.3.94 vs.3.31 2015年12月14日~2017年9月12日に、7,830例が登録され、7,829例が無作為化を受けた(DMPA-IM群2,609例、銅付加IUD群2,607例、LNGインプラント群2,613例)。7,715例(99%)が修正ITT集団に包含された(DMPA-IM群2,556例、銅付加IUD群2,571例、LNGインプラント群2,588例)。 フォローアップ期間1万409人年中に9,567例(92%)が試験避妊法を受け、HIV感染症は397例で発生した(100人年当たり3.81[95%信頼区間[CI]:3.45~4.21])。それぞれDMPA-IM群は143例(36%、100人年当たり4.19[95%CI:3.54~4.94])、銅付加IUD群138例(35%、3.94[3.31~4.66])、LNGインプラント群116例(29%、3.31[2.74~3.98])であった。 修正ITT解析におけるDMPA-IM群のHIV感染のハザード比(HR)は、銅付加IUD群との比較において1.04(96%CI:0.82~1.33、p=0.72)、LNGインプラント群との比較においては1.23(0.95~1.59、p=0.097)であった。また、銅付加IUD群の同HRは、LNGインプラント群との比較において1.18(0.91~1.53、p=0.19)であった。 試験期間中に12例が死亡した。6例がDMPA-IM群、5例が銅付加IUD群、1例がLNGインプラント群であった。 重篤な有害事象の発現は、DMPA-IM群49/2,609例(2%)、銅付加IUD群92/2,607例(4%)、LNGインプラント群78/2,613例(3%)であった。結果として試験避妊法が中断となった有害事象の発現は、DMPA-IM群109例(4%)、銅付加IUD群218例(8%)、LNGインプラント群226例(9%)であった(DMPA-IM群vs.銅付加IUD群のp<0.001、DMPA-IM群vs.LNGインプラント群のp<0.001)。 懐妊は255例で報告され、内訳はDMPA-IM群61例(24%)、銅付加IUD群116例(45%)、LNGインプラント群78例(31%)であった。なお、そのうち181例(71%)が試験避妊法中断後の懐妊であった。

37.

第21回 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾【患者コミュニケーション塾】

 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が新設されました。これに先立ち、厚生労働省では検討会を設置し、2018年3月にオンライン診療に関するガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を作成しました。私も構成員の一人としてガイドライン作成の議論に参加しました。ただ、オンライン診療を巡っては、どのような問題が発生するか始めてみないとわからない部分も多かったことと、オンラインにまつわる情報や機器の変遷もめまぐるしいということもあり、ガイドラインは1年後から見直しをすることが決まっていました。早速、ガイドライン見直しの検討会が2019年1月に始まり、再び私も構成員としてさまざまな議論に加わりました。オンライン診療は、「初診は対面で診療を行うこと」が原則とされています。ところが、2月に開催された第2回目の検討会では、早くも「初診対面診療の原則の例外」が議題に挙がってきました。オンライン診療をおこなっている医師や関係者から、例外として検討してほしいと提案・要望があったものとして、「男性型脱毛症(AGA)」「勃起不全症(ED)」「季節性アレルギー性鼻炎」「性感染症」「緊急避妊薬」が紹介されました。私は前の4つの症状については、やはり初診時は直接症状を確認したり、持病がないかの確認をしたりする必要があるので、原則を外してはいけないと考えました。しかし、最後の「緊急避妊薬」に関しては、ほかとは分けて考える必要があると思ったのです。性的被害やデートレイプでも「受診前提」はきつい緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、望まない妊娠を避けるために、性交渉から72時間以内に服用することで妊娠を防ぐことができます。もちろん、100パーセントの効果が望めるわけではありませんが、約80パーセントというかなり高い割合で防ぐことができると言われています。ひと口に「望まない妊娠」と言っても、単に避妊に失敗した、軽い気持ちで性交渉したという人もいるでしょう。また、このような緊急避妊薬が手に入ることで、適切に避妊しなくなるという懸念もあります。しかし中には、性的被害に遭った少女や女性もいれば、デートレイプと呼ばれる、拒否できなかった性交渉によって妊娠の可能性が生じた人もいるわけです。そのような“負”の精神状態に置かれている人が、「まずは婦人科を受診して対面診療を」と言われてしまうと、緊急避妊薬を手に入れるハードルはかなり高くなります。それならば、まずはオンライン診療でアプローチできたほうが救われる女性が増えるのではないかと考えました。というのも、私は小学4年生のときに性的被害を受けています。レイプには至りませんでしたが、路地裏に連れて行かれ、「声を出したら殺す」と胸倉をつかまれて脅されながら、陰部に指を入れられました。それはそれは恐ろしい体験で、心臓から冷や汗が流れるような恐怖を味わいました。そのことが親にバレてしまったあと、私が被害を受けた以上に屈辱だったのは、父親が警察に通報したことで自宅に刑事たちがやって来て、現場検証に連れて行かれたことでした。自分が殺されかけた場所に舞い戻り、何をされたのかを話すということがどれだけ心に傷を負うことか、痛いほど経験しています。それだけに、もし婦人科に連れて行かれて、事情を聞かれ、診察をされるとなると、とくに少女にとっては受け入れられる状況とはとても思えませんでした。専門家の反対でかなり限定的になる気配この検討会の構成員は、女性が私一人だけです。私は本来、女性を武器にすることは好きではなく、「男性にはわからないと思いますが」という発言もまずしません。しかし、この問題だけは多くの女性のために私が頑張って発言する必要性を強く感じ、いつも以上に熱を込めた発言を繰り返してきました。この議題が出た当初は、積極的に賛成する構成員がおらず孤軍奮闘でしたが、次第にほかの構成員の賛同が得られるようになってきました。ところが、参考人として検討会に出てきてた産婦人科医が「非常に専門性の高い診断が必要なので、オンラインで診療するとしても処方できるのは産婦人科専門医に限るべきだ」と発言しました。しかし、全国津々浦々にオンライン診療ができる産婦人科専門医がいるわけではなく、性的被害等は全国どこでも起きているわけです。そこで、緊急避妊薬をオンライン診療で処方するのは、産婦人科専門医あるいは事前に厚労省が指定する研修を受講した医師、という方向で話し合いが進んでいきました。また、緊急避妊薬を服用したあとに性器出血があったとしても、必ずしも生理とは限らず妊娠している可能性があることや異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性もあることを考慮して、オンライン診療から3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。緊急避妊薬の処方は1錠のみとし、ウェブで見える状態下などで内服の確認をする。処方する医師は、医療機関のウェブサイトなどで、緊急避妊薬に関する効能(成功率)、その後の対応のあり方、オンライン診療から薬が手に入るまでの時間、転売や譲渡は禁止されていることなどを明記する、という方向で議論が進みました。一方、緊急避妊薬のオンライン診療を要望している団体の方々は、緊急避妊薬を処方する医師は、産婦人科専門医に限定する必要はない。処方する対象は性暴力被害者に限定せず、必要とするすべての女性にしてほしい。3週間後の受診は必須ではなく、推奨にしてほしい。緊急避妊薬の処方に際して、必ずしも後日の受診を要するわけではない、と主張されています。その主張は私も同感ですが、正論を前面に押し出すと反対勢力は必ず態度を硬化させるので、まずは一歩を踏み出すためのある程度の妥協は必要と考えています。こうしてまとまったガイドラインの改定案は、6月10日に以下の内容で承認されました。例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る。ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする。その際、医師と薬剤師はより確実な避妊法について適切に説明を行うこと。加えて、内服した女性が避妊の成否等を確認できるよう、産婦人科医による直接の対面診療を約三週間後に受診することを確実に担保することにより、初診からオンライン診療を行う医師は確実なフォローアップを行うこととする。厚労省は今回の議論を受けて、緊急避妊薬を処方できる医療機関のリストを作成すると打ち出しています。これにより、産婦人科以外の医療機関もリストにあれば、診察を恐れる少女や女性のハードルを下げることができるとかすかな期待を抱いています。そもそも、緊急避妊薬の存在や効能自体を知っている人は少ないだけに、情報の周知が必要だと私は考えます。というのも、望まない妊娠の可能性がある少女や女性がインターネットやSNSを介して、緊急避妊薬と称する“薬”を手に入れている現状があるからです。そのような手段で手に入れた“薬”が、偽薬である可能性もあります。それだけに、きちんとした医療機関で処方されることがやはり必要なのです。世界に目を向けてみれば、各国の医療事情は異なるとはいえ、76ヵ国で医師の処方せんなしで薬局の薬剤師によって販売され、19ヵ国では直接薬局で入手することが可能なのです。国際産婦人科連合(FIGO)などでは「医師によるスクリーニングや評価は不要」「薬局カウンターでの販売が可能」と声明を出しているそうです。そんな中、先進国であるはずの日本では、世界的な動きに逆行して、必要とする女性が緊急避妊薬を手に入れるハードルを高くしようとしているとの批判もあるようです。実際に検討会を傍聴している現役の産婦人科医からも、同様の意見を数多く聞きました。いずれにせよ、本来、女性の健康やからだを守るべき産婦人科医の間で意見が割れているのは残念なことだと思います。もっと多くの方にこの問題に関心を持っていただき、声を出せずにいる女性を守る機運を高めていくことができればと思っています。

38.

国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」【下平博士のDIノート】第25回

国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」今回は、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アンタゴニスト製剤「レルゴリクス錠(商品名:レルミナ錠40mg)」を紹介します。本剤は、フレアアップ現象を生じることなく子宮筋腫に基づく諸症状を改善する国内初の経口薬です。<効能・効果>本剤は、子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月1日より発売されています。また、2021年12月に「子宮内膜症に基づく疼痛の改善」の適応が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはレルゴリクスとして40mgを1日1回食前に経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。本剤の投与によって、エストロゲン低下作用に基づく骨塩量の低下がみられることがあるので、6ヵ月を超える投与は原則として行われません。<副作用>国内第III相試験で認められた主な副作用は、不正子宮出血(46.8%)、ほてり(43.0%)、月経異常(15.5%)、頭痛、多汗、骨吸収試験異常(各5%以上)などでした。なお、重大な副作用としてうつ状態(1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、狭心症(1%未満)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、下垂体に作用して卵巣からの女性ホルモンの分泌を低下させることで、子宮筋腫に基づく過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの症状を改善します。2.初回は、月経が始まった日から5日目までの間に服用を開始してください。3.食後の服用では薬の効き目が低下するため、食事の30分以上前に服用してください。4.この薬を服用している間はホルモン性避妊薬以外の方法で避妊をしてください。5.長期に使用すると骨塩量が低下することがあるため、日ごろから適度な運動を心がけ、カルシウムやビタミンD、ビタミンKを含む食材を積極的に取りましょう。6.気分が憂鬱になる、悲観的になる、思考力が低下する、眠れないなど、うつ様の症状が現れた場合にはご連絡ください。7.女性ホルモンの低下によって、ほてり、頭痛、多汗などの症状が現れることがあります。症状がつらいときはご相談ください。<Shimo's eyes>従来、子宮筋腫の薬物療法としてGnRHアゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリン注)やブセレリン酢酸塩(同:スプレキュア皮下注/点鼻液)などが用いられています。GnRHアゴニストは、下垂体前葉にあるGnRH受容体を継続的に刺激することで本受容体を減少させ、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制させます。投与開始初期にはFSHやLH分泌が一過性に増加するため、不正性器出血や月経症状の増悪などのフレアアップ現象が生じやすいことが知られています。これに対しGnRHアンタゴニスト製剤である本剤は、GnRH受容体を選択的に阻害することでFSHとLHの分泌を抑制します。このため、投与開始初期であってもフレアアップ現象を生じることなく女性ホルモンであるエストラジオールおよびプロゲステロンの産生を低下させます。本剤は1日1回服用の経口薬であり、子宮筋腫に伴う諸症状に悩んでいる患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待できます。投与に当たっては、妊娠中や授乳中でないかを確認するとともに、服用タイミングなどの指導をしっかり行ってこまめに経過を観察するようにしましょう。※2021年12月の添付文書改訂に伴い、一部内容の修正を行いました。

39.

第15回 低用量ピルのよくある質問に答えるエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 低用量ピルは、避妊目的だけでなく、月経の周期、痛みや倦怠感などの月経困難症をコントロールすることで女性のさまざまな悩みを改善し、かつ安全性も高いという有用な薬剤です。しかし、副作用の懸念から抵抗を示される方も少なからずいらっしゃいます。副作用リスクを正しく認識していただいたうえでメリットを享受していただけるように、服薬指導でのよくある質問と参考となる研究を紹介します。低用量ピルは避妊のためのものではないのか低用量ピルには、避妊を目的とする経口避妊薬(Oral Contraceptive:OC)と月経困難症などの治療を目的とする低用量エストロゲン-プロゲスチン(Low dose estrogen-progestin:LEP)があり、どちらも服用すると、実際は妊娠していなくても下垂体は妊娠したと認識をするので排卵が起こらないようになります。低用量ピルの中止後は通常の月経に戻るのか月経をコントロールするという性質からか、低用量ピルの中止時に通常の月経に戻るのか、再び妊娠できる状態になるのか心配される方もいらっしゃいます。そういう場合には可逆性があることを説明できると安心材料になります。たとえば、レボノルゲストレル90μg/エチニルエストラジオール20μgを約1年服用した18〜49歳(平均年齢30.4歳)の女性で、通常の月経または妊娠に至るまでの期間を検討した観察研究では、最後の服用から90日以内に187例中185例(98.9%)で自然月経が再開または妊娠したという結果が出ています(自発月経181例、妊娠4例)。月経が再開するまでの期間の中央値は32日でした。これを踏まえると、中止後、妊娠していない状態で90日以上月経が再開しない場合は無月経の可能性が高いため、受診を勧める目安になります1)。低用量ピルを服用すると体重は増加するのかこれも比較的よくある質問ですが、服薬拒否にもつながりやすい事由なので丁寧な説明が求められます。体重増加について検討したコクランのシステマティックレビューがあり2)、試験の背景として体重増加がピル服用に関連していると考える女性が多く、服用の開始が遅れたり中止になったりすることが多いという問題が提示されています。しかしながら、実際にはプラセボ投与群または介入なし群を含む4試験では、低用量ピル(または避妊薬パッチ)の使用と体重増加の因果関係を支持する結果は見いだされませんでした。また、さまざまな種類のピルと投与量(エチニルエストラジオール20〜50μg)を比較した試験の大多数でも、グループ間で体重に関して有意差がないことが示されています。少なくとも大きな体重増加との関連はほぼないと説明してよさそうです。低用量ピルによる血栓症リスクはどれくらいあるのか血栓症ひいては静脈血栓塞栓症(VTE)は、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(商品目:ヤーズ配合錠)でブルーレターが発出されています。頻度としては低いのですが、低用量ピルに共通の副作用ですので、どの製剤であっても早期に兆候を察知して対処できるよう説明が必要です。VTEリスクの上昇は、エストロゲン含有ピルの摂取により、凝固因子II、VII、X、XII、VIIIおよびフィブリノゲンの血漿濃度が上がることが機序として考えられています3,4)。このリスクの感覚値をお伝えするうえで、参考になる症例対照研究があります5)。2015年にBMJ誌に掲載された研究で、2001~13年の間に英国においてVTEと診断された15~49歳の女性を対象としています。年齢、慣習、時期などをマッチさせた対照群を設定し、前年度の経口避妊薬摂取によってVTEの発生率が上がるかを検討したものです。オッズ比は、喫煙の有無、アルコール摂取、人種、BMI、合併疾患、他の経口避妊薬摂取などの因子で調整し、解析しています。その結果、年間10,000人当たりでVTEを発症する追加人数は、プロゲスチンの世代分類の観点からみると、第1世代(オーソ、シンフェーズ、ルナベルLD)と第2世代(トリキュラー、アンジュ)は6~7例の発生に対して、第3世代(マーベロン)は14例、第4世代(ヤーズ)は13例です。新しい世代のものほど、やや血栓症が出やすいという結果が出ています。一方で、エチニルエストラジオール含有量が高いほど脳卒中や心筋梗塞のイベントリスクが高い傾向にあり、表にあるようなプロゲスチンの種類による差は微々たるものであることを示唆するNEJM誌の論文もありますから6)、それも参考としてしっておくとよいかもしれません。VTEは早期の診断・治療が重要ですので、VTEの特徴的な兆候(英語の頭文字をとってACHES)を覚えておくと有用です。A:abdominal pain(激しい腹痛)C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)H:headache(激しい頭痛)E:eye/speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、痙攣、意識障害)S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)これらの兆候に気付いたら、重症化を防ぐため、すぐに中止のうえ受診を促す必要があるので、服薬指導時にお伝えしましょう。1)Davis AR, et al. Fertil Steril. 2008;89:1059-1063.2)Gallo MF, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 29:CD003987.3)Middeldorp S, et al. Thromb Haemost. 2000;84:4-8.4)Kemmeren JM, et al. Thromb Haemost. 2002;87:199-205.5)Vinogradova Y, et al. BMJ. 2015;350:h2135.6)Lidegaard O, et al. N Engl J Med. 2012;366:2257-2266.

40.

第14回 内科からのST合剤の処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・11名全員Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・8名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・3名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。大腸菌か腐性ブドウ球菌 清水直明さん(病院)若い女性の再発性の膀胱炎であることから、E.coli、S.saprophyticusなどの可能性が高いと思います。中でも、S.saprophyticusによる膀胱炎は再発を繰り返しやすいようです1)。単純性か複雑性か 奥村雪男さん(薬局)再発性の膀胱炎と思われますが、単純性膀胱炎なのか複雑性膀胱炎※3 なのか考えなくてはいけません。また、性的活動が活発な場合、外尿道から膀胱への逆行で感染を繰り返す場合があります。今回のケースでは、若年女性であり単純性膀胱炎を繰り返しているのではないかと想像します。単純性の場合、原因菌は大腸菌が多いですが、若年では腐性ブドウ球菌の割合も高いとされます。※3 前立腺肥大症、尿路の先天異常などの基礎疾患を有する場合は複雑性膀胱炎といい、再発・再燃を繰り返しやすい。明らかな基礎疾患が認められない場合は単純性膀胱炎といQ2 患者さんに確認することは?妊娠の可能性と経口避妊薬の使用 荒川隆之さん(病院)妊娠の可能性について必ず確認します。もし妊娠の可能性がある場合には、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合剤)の中止、変更を提案します。妊婦の場合、抗菌薬の使用についても再度検討する必要がありますが、セフェム系薬の5~7 日間投与が推奨されています2)。ST合剤は相互作用の多い薬剤ですので、他に服用している薬剤がないか必ず確認します。特に若い女性の場合、経口避妊薬を服用していないかは確認すると思います。経口避妊薬の効果を減弱させることがあるからです。副作用歴と再受診予定 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬の副作用歴と再受診予定の有無を確認し、医師からの指示がなければ、飲み切り後に再受診を推奨します。また、可能であれば間質性膀胱炎の可能性について医師から言われていないか確認したいところです。中高年女性だと過活動膀胱(OAB)が背景にあることが多いですが、私の経験では、若い女性では間質性膀胱炎の可能性が比較的あります。ストレス性やトイレを我慢してしまうことによる軽度の水腎症※4のようなケースを知っています。※4 尿路に何らかの通過障害が生じ、排泄されずに停滞した尿のために腎盂や腎杯が拡張し、腎実質に委縮を来す。軽症の場合は自然に軽快することが多いが、重症の場合は手術も考慮される。相互作用のチェック 奥村雪男さん(薬局)併用薬を確認します。若年なので、薬の服用は少ないかも知れませんが、ST合剤は蛋白結合率が高く、ワルファリンの作用を増強させるなどの相互作用が報告されています。併用薬のほか、初発日や頻度 ふな3さん(薬局)SU薬やワルファリンなどとの相互作用があるため、併用薬を必ず確認します。また、単純性か複雑性かを確認するため合併症があるか確認します。可能であれば、初発日と頻度、7日分飲みきるように言われているか(「3日で止めて、残りは取っておいて再発したら飲んで」という医師がいました)、次回受診予定日、尿検査結果も聞きたいですね。治療歴と自覚症状 わらび餅さん(病院)可能であれば、これまでの治療歴を確認します。ST合剤は安価ですし、長く使用されていますが、ガイドラインでは第一選択薬ではありません。処方医が20歳代の女性にもきちんと問診をして、これまでの治療歴を確認し、過去にレボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬を使ってそれでも再発し、耐性化や地域のアンチバイオグラムを考慮して、ST合剤を選択したのではないでしょうか。発熱がないとのことですが、自覚症状についても聞きます。メトトレキサートとの併用 児玉暁人さん(病院)ST合剤は妊婦に投与禁忌です。「女性を見たら妊娠を疑え」という格言(?)があるように、妊娠の有無を必ず確認します。あとは併用注意薬についてです。メトトレキサートの作用を増強する可能性があるので、若年性リウマチなどで服用していないか確認します。また、膀胱炎を繰り返しているとのことなので、過去の治療歴がお薬手帳などで確認できればしたいところです。Q3 疑義照会する?する・・・5人複雑性でない場合は適応外使用 中西剛明さん(薬局)疑義照会します。ただ、抗菌薬の使用歴を確認し、前治療があれば薬剤の変更については尋ねません。添付文書上、ST合剤の適応症は「複雑性膀胱炎、腎盂腎炎」で、「他剤耐性菌による上記適応症において、他剤が無効又は使用できない場合に投与すること」とあり、前治療歴を確認の上、セファレキシンなどへの変更を求めます。処方日数について 荒川隆之さん(病院)膀胱炎に対するST合剤の投与期間は、3日程度で良いものと考えます(『サンフォード感染症ガイド2016』においても3日)。再発時服用のために多く処方されている可能性はあるのですが、日数について確認のため疑義照会します。また、妊娠の可能性がある場合には、ガイドラインで推奨されているセフェム系抗菌薬の5~7日間投与2)への変更のため疑義照会します。具体的には、セフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルです。授乳中の場合、ST合剤でよいと思うのですが、個人的にはセフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルなど小児用製剤のある薬品のほうがちょっと安心して投薬できますね。あくまで個人的な意見ですが・・・妊娠している場合の代替薬 清水直明さん(病院)もしも妊娠の可能性が少しでもあれば、抗菌薬の変更を打診します。その場合の代替案は、セフジニル、セフカペンピボキシル、アモキシシリン/クラブラン酸などでしょうか。投与期間は7 日間と長め(ST合剤の場合、通常3 日間)ですが、再発を繰り返しているようですので、しっかり治療しておくという意味であえて疑義照会はしません。そもそも、初期治療ではまず選択しないであろうST合剤が選択されている段階で、これまで治療に難渋してきた背景を垣間見ることができます。ですので、妊娠の可能性がなかった場合、抗菌薬の選択についてはあえて疑義照会はしません。予防投与を考慮? JITHURYOUさん(病院)ST合剤は3日間の投与が基本になると思いますが、7日間処方されている理由を聞きます。予防投与の分を考慮しているかも確認します。しない・・・6人再発しているので疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)ST合剤は緑膿菌に活性のあるニューキノロン系抗菌薬を温存する目的での選択でしょうか。単純性膀胱炎であれば、ガイドラインではST合剤の投与期間は3日間とされていますが、再発を繰り返す場合、除菌を目的に7日間服用することもある3)ので、疑義照会はしません。残りは取っておく!? ふな3さん(薬局)ST合剤の投与期間が標準治療と比較して長めですが、再発でもあり、こんなものかなぁと思って疑義照会はしません。好ましくないことではありますが、先にも述べたように「3日で止めて、残りは取っておいて、再発したら飲み始めて~」などと、患者にだけ言っておくドクターがいます...。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?服用中止するケース 清水直明さん(病院)「この薬は比較的副作用が出やすい薬です。鼻血、皮下出血、歯茎から出血するなどの症状や、貧血、発疹などが見られたら、服用を止めて早めに連絡してください。」薬の保管方法とクランベリージュース 柏木紀久さん(薬局)「お薬は光に当たると変色するので、日の当たらない場所で保管してください」と説明します。余談ができるようなら、クランベリージュースが膀胱炎にはいいらしいですよ、とも伝えます。発疹に注意 キャンプ人さん(病院)発疹などが出現したら、すぐに病院受診するように説明します。処方薬を飲みきること 中堅薬剤師さん(薬局)副作用は比較的少ないこと、処方分は飲み切ることなどを説明します。患者さんが心配性な場合、副作用をマイルドな表現で伝えます。例えば、下痢というと過敏になる方もいますので「お腹が少し緩くなるかも」という感じです。自己中断と生活習慣について JITHURYOUさん(病院)治療を失敗させないために自己判断で薬剤を中止しないよう伝えます。一般的に抗菌薬は副作用よりも有益性が上なので、治療をしっかり続けるよう付け加えます。その他、便秘を解消すること、水分をしっかりとり、トイレ我慢せず排尿する(ウォッシュアウト)こと、睡眠を十分にして免疫を上げること、性行為(できるだけ避ける)後にはなるべく早く排尿することや生理用品をこまめに取り替えることも説明します。水分補給 中西剛明さん(薬局)尿量を確保するために、水分を多く取ってもらうよう1日1.5Lを目標に、と説明します。次に、お薬を飲み始めたときに皮膚の状態を観察するように説明します。皮膚障害、特に蕁麻疹の発生に気をつけてもらいます。Q5 その他、気付いたことは?地域の感受性を把握 荒川隆之さん(病院)ST合剤は『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015』などにおいて、急性膀胱炎の第一選択薬ではありません。『サンフォード感染症ガイド2016』でも、耐性E.coli の頻度が20%以上なら避ける、との記載があります。当院においてもST合剤の感受性は80%を切っており、あまりお勧めしておりません。ただ、E.coli の感受性は地域によってかなり異なっているので、その地域におけるアンチバイオグラムを把握することも重要であると考えます。治療失敗時には受診を JITHURYOUさん(病院)予防投与については、説明があったのでしょうか。また、間質性膀胱炎の可能性も気になります。治療が失敗した場合は、耐性菌によるものもあるのかもしれませんが、膀胱がんなどの可能性も考え受診を勧めます。短期間のST合剤なので貧血や腎障害などの懸念は不要だと思いますが、繰り返すことを考えて、生理のときは貧血に注意することも必要だと思います。間質性膀胱炎の可能性 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎の種類が気になるところです。間質性膀胱炎ならば、「効果があるかもしれない」程度のエビデンスですが、スプラタストやシメチジンなどを適応外使用していた泌尿器科医師がいました。予防投与について 奥村雪男さん(薬局)性的活動による単純性膀胱炎で、あまり繰り返す場合は予防投与も考えられます。性行為後にST合剤1錠を服用する4)ようです。性行為後に排尿することも推奨ですが、カウンターで男性薬剤師から話せる内容でないので、繰り返すようであれば処方医によく相談するようにと言うに留めると思います。後日談(担当した薬剤師から)次週も「違和感が残っているので」、ということで来局。再度スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠1回2錠 1日2回で7日分が継続処方として出されていた。その後、薬疹が出た、ということで再来局。処方内容は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2mg錠1回1錠 1日3回 毎食後5日分。スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠は中止となった。1)Raz R et al. Clin Infect Dis 2005: 40(6): 896-898.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015.一般社団法人日本感染症学会、2016.3)青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第2版.東京、医学書院.4)細川直登.再発を繰り返す膀胱炎.ドクターサロン.58巻6月号、 2014.[PharmaTribune 2017年5月号掲載]

検索結果 合計:76件 表示位置:21 - 40